明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第97回

参考原資料

備考

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第九十七回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
阿部泰藏君
田部芳君
富谷鉎太郞君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第四百二十二條ニ於ケル前回ノ議事ヲ繼續ス
土方君曰ク本條ニ付キ外國ノ立法例ヲ案スルニ引受ヲ爲スモノト又爲ササルモノトアリ英米ノ立法例ハ引受ヲ爲スコトハ別個ノモノト認メタルカ故ニ本案ト異レリ而シテ之カ引受ヲ爲スハ小切手ノ性質ニ反スルモノト謂フヘシ加之本案ノ趣旨ヨリ推考スルニ一覽拂ノ場合ヲ本則トスカ故ニ前後衝突スルノ嫌アリ英米ノ立法例ハ手形法ニ定メサルモ銀行者間ノ營業上ノ慣習トシテ手形法以外ニ讓ルコトトセリ鄙之ヲ手形交換所ノ慣例一ニ任スルコトトセリ、凡ソ小切手支拂ノ方法ハ流通セシムルヲ以テ目的ト爲サス小切手ノ所有者カ個々別々ニ支拂ヲ請求スルカ最モ便宜ナリト信ス決シテ爲替手形ニ於ケルカ如キ效力ヲ有スヘキモノニアラス要スルニ以上ノ理由ヲ以テ本條削除ノ案ヲ提出スヘシ
岡野君曰ク土方君ノ如クナストキハ支拂ノ保證ハ何等ノ效力ナシトセサレハ理論ヲ貫徹スルヲ得ス銀行カ保證ヲ爲スハ制限外ニ小切手ヲ發行スルト同一ナリ此場合ニ一週間內ナレハ義務ヲ負フモ可ナリ要スルニ慣習上支拂保證ノ制度行ハレ銀行カ支拂ヲ爲スノ義務ヲ負擔スルハ慣習ニ反セサルコトトナルヘシト述ヘ以上土方君ノ說ヲ採決セシニ少數ナリ
第四百二十三條 小切手ノ所持人ハ其日附ヨリ一週間內ニ小切手ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ要ス
所持人カ前項ニ定メタル呈示ヲ爲スコトヲ怠リタルトキハ振出人其他ノ前者ニ對シ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)三七五、舊八一九、佛千八百六十五年六月十四日法五、蘭二二二、二二三、二二七、二二八、獨千八百八十二年帝國銀行小切手法案八、一〇、一五、同千八百九十二年小切手法案八、一四、一九、澳千八百八十年小切手法案四、瑞八三四、八三五、伊三四二、三四三、西五三七、五三八、羅三六七、三六八、葡三四一、三四二、白千八百七十三年六月二十日法四、英千八百八十二年八月十八日法七四、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案五七
岡野君曰ク小切手ニ付キ支拂ヲ求ムル呈示期間ハ短期ナラサルヘカラス而シテ本條ハ小切手ニ付キ支拂ヲ爲ス其性質ヲ揭ケタリ現行法ハ本條ト異リテ振出ノ場所ト支拂地ト同一ナレハ呈示期間ヲ短縮シ若シ異レハ呈示期間ヲ延長セシメタリ外國ノ立法例ハ種々ニ別シ一定セサルカ如シ英國法ハ相當ノ期間ニ支拂ヲ爲サシムル爲メ呈示セシムルコトトセリ此期間ハ獨逸ノらいひすばんく其他歐洲大陸モ之ト反對ニシテ相當ノ期間ハ種類ニ因リテ定マルカ故ニ法律上一定セシメサルコトトセリ而シテ本案ハ呈示期間內ニ所持人カ呈示ノ爲ササルトキハ之ニ制裁ヲ付スルノ必要アルカ故ニ明文上之ヲ明ラカニセリ次ニ現行法ニ於ケル同地內ト振出地ト支拂地ノ異ナル場合トニ請求期間ヲ區別セサルハ大ニ理由アリ振出人カ小切手ヲ振出シタルトキハ幾分力流通セシムルコトヲ認メサルヘカラス例ヘハ東京ニテ支拂ヲ爲スタメ大阪ニ向ヒテ小切手ヲ發行セシトキハ振出地モ東京ニシテ支拂地モ東京ナレハ一週間內ニ之ヲ送リ返ヘスコトヲ得ヘシ振出地カ異ナルト同一ナルヤ否トヲ區別スルヲ要セサルヘシ凡ソ法律ナルモノハ外形ニ依ラスシテ實質上ヨリ區別スルヲ最モ穩當トス故ニ現行法ノ主義ヲ改メ一週間トアリ次ニ第二項ニ於テ呈示期間ヲ定メ其期間內ニ呈示ヲ爲ササルトキハ裏書人カ償還ノ義務ヲ免ルルハ當然言フヲ俟タサルヘシ然ルニ振出人ニ付キ外國ノ立法例ハ區別ヲ設ケ振出人カ資金ヲ投シタルニ支拂人ノ行爲ヲ以テ減少セシカ又ハ正當ノ期間內ニ呈示ヲ爲シタルモ支拂人ノ爲メニ振出人カ損失ヲ被ルトキハ其被リシ價額ニ付キ其義務ヲ免ルルヲ得ストセリ佛蘭西、瑞西、葡萄牙ハ其主義ナリ然レトモ余輩ハ振出人及ヒ裏書人カ均シク償還ノ義務ヲ免ルルヲ得ストノコトハ總則第三百四十二條ニ於テ所持人カ支拂ヲ求メン爲メニ償還請求ノ權利ヲ失ヒシトキト雖モ所持人ニ其受クヘキ利得ノ限度ニ於テ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルトノコトハ小切手ニ準用スルトキハ實際上ノ結果ハ殆ント同一ナリ又不當利得ニ付キ獨逸ハ千八百八十ニ年商業銀行小切手法案十ニ條同千八百九十ニ年小切手法案十四條ノ主義モ本條ト同シニシテ爲替手形ノ規定ヲ其儘準用スルコトトセリ是最モ理論ニ適シタルモノト云フヘキナリ
第四百二十四條 小切手ノ所持人カ振出人其他ノ前者ニ對シ償還ノ請求ヲ爲スニハ支拂拒絕證書ヲ作成セシムルニ代ヘ支拂人ヲシテ前條第一項ニ定メタル期間內ニ支拂拒絕ノ旨及ヒ其年月日ヲ小切手ニ記載セシメ且之ニ署名セシムルヲ以テ足ル
(參照)三八〇、舊八一九、佛千八百六十五年六月十四日法四、蘭二二五、二二七、獨千八百八十二年帝國銀行小切手法案一二、同千八百九十二年小切手法案一四、澳千八百八十年小切手法案四、九、瑞八三六、伊三四一、西五四二、羅三六六、葡三四三、白千八百七十三年六月二十日法三、英千八百八十二年八月十八日法七三
岡野君曰ク現行商法八百十九條ハ小切手ニ付キ拒絕證書ヲ要セサルコトヲ規定セリ而シテ銀行ハ支拂ヲ爲スニ拒絕證書ヲ作成セスシテ受拂ヲ爲スノ趣旨ナリ爲替手形及ヒ約束手形モ例ヘハ引受ノ爲メ呈示ヲ爲セシニ支拂ヲ拒ミシトキハ拒絕證書ニヨリ事實ノ差支ヘサル範圍內ニ於テ成立ツヘシ小切手ハ約束手形及ヒ爲替手形ト異ナリテ支拂人カ支拂ハサル場合ハ極メテ稀ナリ外國ノ法律ハ多クハ爲替手形ニ關スル拒絕證書ノ規定ヲ準用スルトノ明文ヲ置ケリ而シテ佛蘭西、伊太利及ヒ葡萄牙等ハ皆此規定ヲ設ケ爲替手形及ヒ約束手形ノ規定ニ從フコトトセリ而シテ此場合ハ他ノ手形ニ於ケルト同シク償還請求ヲ爲サシメタリ何トナレハ此場合ニ爲替手形ト形式ヲ異ニスルハ權衡ヲ得サレハナリ其故ニ小切手ニ付テモ拒絕證書ヲ作成セシメテ可ナルコトトセリ第四百二十七條ニ於テ拒絕證書ヲ作成スルモ差支ヘサルコトトセリ乍併此場合ニ支拂拒絕證書ヲ作成スルハ手數ヲ要スルカ故ニ小切手ニ付テハ簡便ニ爲スノ方法ヲ採レリ獨逸ニ於テハ必スシモ拒絕證書ヲ作成スヘキカ如キ繁雜ナル手續ヲ要スヘキモノニアラストシ單ニ署名セハ足ルモノトセリ若シ署名スヘキコトヲ嫌惡スルトキハ拒絕證書ヲ作成スヘキモノトセリ現行法ハ銀行ニ於テ資金ナキトキハ拒ムコトトナルヘシ所持人カ前者ニ對シ償還請求ヲ行フハ現行法第八百二十條ニ於テ短期ノ期間ヲ設ケタルモ余ノ調査セシ所ニ因レハ外國ノ立法例ハ償還義務ハ爲替手形約束手形ト同一ニシテ八百ニ十條ニ於ケルカ如ク特別ノ規定ヲ要セスシテ手形上ノ償還義務ハ消滅スルコトトセリ而シテ爲替手形ニ付テハ修正原案ヲ以テ引請人ニ對スル債權ハ三年トシ其他ノ者ハ五ケ月ト改ムルコトトセシヲ以テ是亦準用セラルルコトトナルヘシ
第四百二十五條 小切手ノ振出人又ハ所持人カ其表面ニ二條ノ平行線ヲ畫キ其線內ニ銀行ナル文字ヲ記載シタルトキハ支拂人ハ銀行ニ對シテノミ支拂ヲ爲スコトヲ得
振出人又ハ所持人カ平行線內ニ特定セル銀行ノ商號ヲ記載シタルトキハ支拂人ハ其銀行ニ對シテノミ支拂ヲ爲スコトヲ得
(參照)舊八二一、獨千八百八十二年帝國銀行小切手法案一六、同千八百九十二年小切手法案一一、一二、西五四一、英千八百八十二年八月十八日法七六乃至八二
岡野君曰ク本條ハ現行商法八百ニ十一條ニ對スル修正ナリ是英國ニ行ハルル所ノモノニシテ第一項ニじゑねらるニシテ第二項ハすぺしあるノモノナリ獨逸法ハ唯計算ヲ爲ストノ文字ヲ用ヒタリ卽現金拂ヲ以テセサルモ其金亠咼ヲ預金ニ爲スモノナリ卽英國モ獨逸モ詐欺若クハ正當ノ義務者ニアラサルモノヲ防ク爲メノ趣旨ハ同一ナリ第一項ハ現ニ行ハレツツアルモノニシテ小切手中ニ線ヲ引クモノニシテ第二項ハ第一銀行第百銀行ト言トルカ如ク書クコトハ實際上ナシ他日一項ノ如キ規定モニ項ノ如キ規定モナキコトトナラン英國ニ於テモ流通禁止ト認ムルコトアリ本案ニ於テハ第三百五十一條ニ於テ所持人ニ於テ裏書禁止ト爲スコトヲ得ヘシ民法上指名償劵ニ依リ裏書人カ流通スヘカラスト爲スコトヲ得又本條ト三百五十一條ニ於テモ同一ノ趣旨ニ歸スヘシ終ニ臨ミ一言スヘキハ小切手ニ付キ默シテ他ノ人カ線ヲ引クコトヲ得サルモ振出人カ單ニ銀行ト認メ振出スコトヲ得ヘシ是本條第一項第二項ニ於テ振出人又ハ所持人ナル文字ヲ用ヒタル所以ナリ
土方君曰ク小切手ニ付テハ支拂銀行ト特別橫線銀行トノニ種類アリ然レトモ此場合ニ例ヘハ大阪ノ鴻ノ池銀行マテ行キテ引受ノ請求ヲ爲スコトヲ嫌ヒシトキハ之ヲ三菱銀行ニ其請求ヲ爲サシムルコトトセハ極メテ便宜ナルヘシ何トナレハ此場合ニ鴻ノ池銀行ハ大阪ニノミ住所ヲ有シ他ニ支店ナキモノト假定シ三菱銀行ハ之ニ反シ東京大阪京都孰レニモ支店ヲ有スルモノトセハ相互ノ間ニ極メテ便宜ヲ與フヘキモノナリ之ヲ原案ノ儘ニナストキハ單ニ大阪ニ於テノミ交換スルコトトナリ極メテ窮窟ノ感アリ卽特定ノ銀行ニ獨立スルコトトナリ要スルニ特定セル銀行ト他ノ銀行ト孰レニ於テモ取立ルコトヲ得ルモノト爲シ以テ以上ノ趣旨ヲ本條ニ加ヘラレンコトヲ望ム
岡野君曰ク英國ニハ土方君ノ主張セラルルカ如キ規定アルモ其必要ハ何レニアリヤ支拂ヲ爲ス銀行ノ異ル所ハ場所ノ定ナキトキハ不都合ナリ若シ此趣旨ヲ加フルトキハ如何ナル利益アルカハ余輩ノ知ルニ苦シム所ナリト述ヘ土方君ノ修正說ヲ採決セシニ少數ナリ
第四百二十六條 左ノ場合ニ於テハ振出人ハ五圓以上五百圓以下ノ過料ニ處セラル
一 資金ナク又ハ信用ヲ得スシテ小切手ヲ振出シタルトキ
二 小切手ニ虛僞ノ日附ヲ記載シタルトキ
(參照)舊八二三、佛千八百七十四年二月十九日法六、七、獨千八百八十二年帝國銀行小切手法案一八、同千八百九十二年小切手法案二八、澳千八百八十年小切手法案一、一二、瑞八三七、伊三四四、羅三六九、白千八百七十三年六月二十日法五
岡野君曰ク本條ハ現行商法八百ニ十三條ノ一部ヲ採用セリ而シテ本案ハ現行法ニ於ケル制裁ニ比スレハ其場合ヲ少シク減少セリ外國法モ多クハ科料ニ處スルモノトセリ就中佛國法ノ如キ多クノ場合ハ揭ケタルハ收稅ノ爲メ設ケタルナリ現行商法八百十三條ハ收稅ノ目的ニアラサルヲ以テ本案ハ之ニ類スル規定ヲ現行商法中ヨリ削除シ單ニニケノ場合トセリ次ニ小切手ヲ振出スニ當リテハ資金ヲ要シ若クハ之ニ信用ナカルヘカラス反之資金ナク信用ナキ小切手ヲ振出スモ其效力ヲ奏セサルヘシ此場合ニハ支拂人カ之ヲ受拂ハサルハ勿論斯カル場合ハ信用ヲ害スルコト多キヲ以テ本條ニ揭クルコトトセリ又償還ノ呈示期間ニ付テハ小切手ノ性質上ヨリ重要視スルヲ以テ虛僞ノ日附ハ罰スルコトトセリ而シテ現行商法ハ小切手ノ金額ニ付キ百分ノ十百圓ノ過料ニ處ストセシモ多量ノ金額ヲ振出シタルトキハ狹隘ナル範圍ヲ以テ小切手ノ金額ヲ標準トスルハ穩カナラス其場合ハ理論ニ協ハサルヲ以テ五圓以上五百圓以下ト改メタリ
第四百二十七條 第三百三十八條乃至第三百四十二條、第三百四十四條、第三百五十一條、第三百五十二條、第三百五十四條乃至第三百五十七條、第三百六十二條、第三百七十六條乃至第三百七十八條、第三百八十條、第三百八十一條、第三百八十三條、第三百八十四條、第三百八十七條乃至第三百九十一條、第四百四條、第四百五條及ヒ第四百七條ノ規定ハ小切手ニ之ヲ準用ス
(參照)舊八一八乃至八二〇、佛千八百六十五年六月十四日法四、獨千八百八十二年帝國銀行小切手法案三七、一一乃至一五、一七、同千八百九十二年小切手法案三、六、一三乃至二二、澳千八百八十年小切手法案二、三、八、九、瑞八三六、伊三四一、三四三、西五四二、羅三六六、三六八、葡三四二、三四三、白千八百七十三年六月二十日法三、英千八百八十二年八月十八日法七三、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案五七
訂正第三百四十四條ノ下(第三百四十九條)ノ七字ヲ加フ
岡野君曰ク本條ヲ準用セル規定ハ當然必要ナル規定ナルヲ以テ別段說明ヲ要セス