明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第95回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第九十五回商法委員會議事要錄
出席員
鶴原定吉君
土方寧君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第十一節 爲替手形ノ複本及ヒ謄本
第四百八條 爲替手形ノ所持人ハ振出人ニ對シテ其手形ノ複本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得但受取人以外ノ所持人ハ其前者ヲ經由シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス
振出人カ爲替手形ノ複本ヲ作成シタルトキハ各裏書人ハ各通ニ其裏書ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)舊七〇四、佛一一〇、蘭一〇三、一〇四、獨手形法六六、匈手形法七〇、瑞七八三、伊二七七、二七八、西四四八、羅二九九、三〇〇、葡二八六、白千八百七十二年五月二十日法一、英千八百八十二年八月十八日法七一、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案六、五三
田部君說明ヲ爲シテ曰ク本案ニ於テ爲替手形ノ複本トハ同一ノ爲替手形ヲ普通ニ作成シタル其各通ヲ指スモノニシテ複本ナル文字ハ新規ナリト雖モ他ニ適當ノ文字ヲ發見セサルヲ以テ斯クハ各付タリ現行法ニ於テ玆ニ所謂複本ニ封スル規定ハ第七百四條及ヒ其他支拂中第七百六十二條等ニシテ規定ノ場所モ散在セリ蓋シ複本及ヒ謄本ニ付テハ規定ノ必要アルヲ以テ寧ロ之ヲ一括シテ同一ノ場所ニ規定スル方體裁上其宜シキヲ得タルモノトシ卽チ之ヲ一節中ニ纏括シタリ而シテ本條ハ現行法第七百四條ニ對スル修正ナリト雖モ大體ノ主意ニ至リテハ彼我異ナル所ナシ卽チ始メノ受取人ハ直チニ振出人ニ請求シ其後ノモノハ裏書人ニ對シテ請求スルナリ唯現行法ト異ナル所ハ現行法第七百四條ニハ「番號ヲ記シタル同文ノ手形數通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得」トアリト雖モ本案ハ之ヲ削除シタルコト是ナリ其理由ハ振出人カ手形ヲ振出スニ當リ若シ第一號ノ手形ニ付テ支拂ヲ爲サハ第二號以下ノ手形ハ無效タルコトヲ記載セサリシトキハ其過失トシテ之カ責任ヲ負擔シニ重拂ヲ爲ササルヘカラス是手形ノ性質上當然ノ結果ナルヲ以テ敢テ法文ヲ明記スルヲ要セサレハナリ又現行法第七百四條中「前者ヲ經由シテ」云々トアルカ故ニ裏書セシムルノ主意ナルヘシト雖モ尙ホ不充分ナリトシ本案ニ於テハ本條第二項ヲ以テ之ヲ明カニシタリト
長谷川君曰ク本條ニハ單ニ「複本ヲ請求スルコトヲ得」トアルヲ以テ此複本トハ悉ク同一ノモノナラサルヘカラス然ルニ本案ニ於テハ現行法ニ所謂「番號ヲ記シタル」ノ文字ヲ使用セサルヲ以テ其果シテ複本ナルヤ否ヤヲ知ルノ標準ナシ然ルニ次條ニ於テ複本ノ一通ニ對シ支拂ヲ爲ストキハ他ノ各通ハ其效力ヲ失フコトヲ規定セルハ不可ナリト
次ニ土方君ハ手形ハ遠隔セル地方ニ送金ヲ爲スノ便法ナリト雖モ途中往々間違ヲ生スルヲ恐レテ複本ナルモノヲ作成スルニ在リ故ニ其複本タルコトヲ明示スルノ方法ナカルヘカラス故一ニ考スヘシト云ヒ梅君ハ單ニ番號ヲ記載スルハ不可ナリ銀行等ニ在リテハ多クハ然ルモ番號ヲ附シタルモノハ皆組手形ナリト云フコトヲ得ス唯「第一號」トアルモ其以下幾何通アルヤヲ知ルコト能ハス故ニ余輩ハ此方法便利ナルニモ抅ハラス法律上ノ條件トシテハ何等ノ效力モ有セサルモノナリト信スト云ヒ岡野君ハ複本ニ番號ヲ記載セリトテ是等通チ合シテ一ツノ手形ヲ組成スヘシト說明スルコトヲ得ス各自獨立セルモノナリト信ス手形ヲ振出スニハ必スシモニ通或ハ三通ヲ以テスヘシト云フコトト爲シ唯タ時トシテハ一通ノ外ニ尙ホ一通ヲ請求シ得ヘシト云フニアリト云ヒ次ニ鶴原君ハ長谷川君ニ贊成シ且ツ外國トノ取引ニハ一層番號ヲ記載スルノ必要アリト云ヒ高木君ハ複本ヲ
請求スルニ當リ實際六通或ハ七通若クハ十通ト無限ニ之ヲ請求シ得ルハ頗ル不都合ナルヲ以テ之ヲ制限シ先ツ三通ト爲スヘシト云ヒ土方君モ數ヲ限ルヘシト云ヒ且曰ク其數ヲ限ラサルハ却テ流通ヲ害スヘシ又實際必要ナキニ數通ヲ作ル所謂ナシ其數通ニ作ルハ例外ナリト
岸本君曰ク梅君ハ番號ヲ記スルモ效ナシト云ヘリト雖モ現行法ニ番號ヲ記スヘシトハ例之ハ三通ノ手形ヲ振出シタルモノトセハ「二通ノ中第一號或ハ第二號」等ノ番號ヲ謂フモノニシテ此手形ハ果シテ幾通アリヤハ直チニ之ヲ知ルコトヲ得ルヲ以テ毫モ不可ナル理由ナシト曁
高木君ハ右岸本君ニ贊成シ且ツ速カニ討論終結アランコトヲ請求シ次ニ尾崎君ハ本條ニ「但受取人以外ノ所持人ハ其前者ヲ經由シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス」トアリト雖モ之ハ經由スルコトヲ要スト云フノ意ニシテ請求スルコトヲ要スニアラサルヲ以テ宜シク文章ヲ改ムヘシト云ヒ起草委員ハ之ヲ容レテ一考スヘシト約シ終ニ議長ハ長谷川君ノ說ニ付キ採決セルニ多數ニテ可決シ本條ハ起草者ニ於テ改ムルコトトシ次條ニ移レリ
第四百九條 爲替手形ノ複本ヲ作成シタル場合ニ於テ其一通ノ支拂アリタルトキハ他ノ各通ハ其效力ヲ失フ
複本ニ依リテ二人以上ニ數通ノ爲替手形ノ讓渡ヲ爲シタル者又ハ數通ノ爲替手形ニ引受ヲ爲シタル者ハ支拂ノ時ニ於テ返還アラサリシ各通ニ付キ手形上ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス
(參照)舊七六二、七六三、佛一四七、一四八、蘭一〇四、一六〇乃至一六二、獨手形法六七、匈手形法七一、瑞七八四、伊二七九、西四九七、羅三〇一、葡二八六、三二〇、白千八百七十二年五月二十日法三七、三八、英千八百八十二年八月十八日法七一、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案三三
田部君說明ヲ爲シテ曰ク本條ハ現行法第七百六十二條及ヒ第七百六十三條ニ該當スルモノニシテ爲替手形ノ複本ノ各通ハ爲替手形ヲ代表スルモノナリト雖モ各通相集合シテ一個ノ爲替手形ノ權利ヲ有ス故ニ其一通ニ付テ支拂ヲ爲シタルトキハ他ノ一通ハ當然無效トナラサルヘカラス此主義ハ書方ヲ異ニスト雖モ現行法第七百六十一條前段ト同一ナリ右ノ如ク其一通ニ對シテ支拂ヲ爲ストキハ他ハ其效力ヲ失フヲ以テ原則トスト雖モ之ニハ例外ナキ能ハサルヲ以テ本條第二項ノ規定アリ第一、ニ人以上カ各別ニ裏書ヲ爲シ普通ノ爲替手形ニ其支拂人カ引受ヲ爲シタルトキハ之ヲ支拂人ニ引上タレハ可ナルモ若シ其等カ散在スルトキハ一時ニ引上ナルヲ得サルカ故ニ斯ノ如ク其返還ナキ分ニ對シテ責任アリト規定セリ現行法第七百六十三條ニハ擔保ノ規定アリト雖モ支拂人カ其數通ニ對シ引受ヲ爲シタルトキハ其各別ニ付テ擔保ヲ供スヘキコトヲ規定セサルモ可ナラン或ハ之ハ自然支拂ヲ拒、ミ若クハ擔保ヲ供スルコトニ立至ルヘシト
土方君ハ本條ヲ批難シテ曰ク第一項ニハ原則ヲ揭ケ第二項ニハ其例外ヲ規定セリ而シテ第一項ノ場合ハ一通ニ付テ支拂アリタル場合ニシテ第二項ハ數通ノ場合ナリ然ルニ第一項ノ法文上ヨリ見ルニ引受ナキ一通ニ付テ支拂アリタルトキト雖モ他ノ數通ハ其效力ヲ失フカ如ク頗ル妥譽田ヲ缺ケリト
玆ニ於テ起草者ハ文章ニ付キ一考スヘシト云ヒ次ニ長谷川君モ批難ヲ爲シテ曰ク起草者ハ舊法第七百六十三條ノ如キ規定ハ本案ニ於ヲ更ニ規定ヲ爲サストモ自然支拂ヲ拒絕シ若クハ擔保ヲ供スルニ立至ルヘシト言フト雖モ右第七百六十三條ニ在リテハ引受ヲ記シタル爲替手形數通アル場合ニ在テハ之ヲ合シテ引渡ヲ爲ササルトキト雖モ支拂ノ義務ナシト云ヘルヲ以テ本案ニ於テハ更ニ其數通ヲ返還セサレハ支拂ヲ爲ス義務ナキ旨ヲ規定スルノ必要アリト
右ニ付キ梅君之ヲ辯シテ曰ク元來引受ナルモノハ數通ニ付テ爲スヘキモノニアラス數通ニ引受ヲ爲スハ固ヨリニ重拂ヲ覺悟セルモノト言ハサルコトヲ得ス故ニ此㸃ヲ改メテ第二項ノ如クセリト
右ニ付キ更ニ異議ヲ唱フル者ナリ本條ハ玆ニ可決セリ
第四百十條 爲替手形ノ複本ノ所持人カ引受ヲ求ムル爲メ其一通ヲ送付セシトキハ他ノ各通ニ其送付先ヲ記載スルコトヲ要ス
前項ノ記載アル爲替手形ノ所持人ハ拒絕證書ニ依リ左ノ事實ヲ證明スルニ非サレハ振出人其他ノ前者ニ對シ擔保又ハ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
一 引受ヲ求ムル爲メニ送付シタル一通ノ爲替手形ヲ受取リタル者カ之ヲ返還セサルコト
二 他ノ一通又ハ數通ノ爲替手形ニ依リ引受又ハ支拂ヲ受クルコト能ハサリシコト
(參照)獨手形法六八、六九、匈手形法七二、七三、瑞七八五、七八六、伊二八〇、羅三〇二
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊法ニ規定之レ無シト雖モ爲替手形ノ複本ノ規定ヲ置ク以上ハ本條ノ如キ事項モ必要ナリ抑モ爲替手形ノ複本ヲ作ル場合ニアリ一ハ紛失等ノ場合ノ豫備ト爲スト一ハ其一通ヲ引受ノ爲メ之ヲ送附シ他ノ一通ハ之ヲ裏書シテ輾轉セシムルニ在リ然リ而シテ右裏書ヲ爲シテ之ヲ他ニ讓渡スニ當リテハ他ノ一通ハ果シテ如何ナル者ヘ引受ノ爲メ送附シ在ルヤヲ明記スルノ要アリ此場合ニ於テ右裏書ヲ爲シタル複本ノ所持人ハ引受ノ爲メニ送附トアル他ノ手形ノ返還ヲ請求スルコトヲ得ヘシ若シ其者カ之ヲ返還セサルトキハ拒絕證書ニ依リ其事實及ヒ他ノ手形ヲ以テ引受又ハ支拂ヲ受クルコト能ハサリシコトヲ證明シテ振出人其他ノ前者ニ對シ擔保又ハ償還ノ請求ヲ爲シ得ヘシ第二項ハ卽チ之ヲ明言シタルモノナリト右工付富谷君及ヒ長谷川君ハ文章不明ニシテ論旨ヲ得スト批難シ起草者ハ後日文章ヲ修正スヘキコトヲ約シ次條ニ移レリ
第四百十一條 爲替手形ノ所持人ハ其謄本ヲ作成スルコトヲ得
所持人カ爲替手形ノ引受ヲ求ムル爲メ其原本ヲ送付セシ場合ニ於テ其謄本ヲ作成シタルトキハ之ニ其原本ノ送付先ヲ記載スルコトヲ要ス
爲替手形ノ謄本ニ或事項ヲ記載シタルトキハ其事項ト原本ニ記載シタル事項トヲ區別スルコトヲ要ス
(參照)舊七〇四、獨手形法七〇、匈手形法七四、瑞七八七、伊二八一、西四四九、羅三〇三
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊法第七百四條ニ對スル修正ニシテ同條第二項ユハ「手形ノ各所持人ハ需用ニ應シテ自ラ手形ノ謄本ヲ作ルコトヲ得」トイミ規定セルモ其他ノコトヲ缺ケリ故ニ本案ハ本條ニ於テ一般ノ謄本ニ付キ規定シ第一項ニ於テ手形ノ所持人ハ謄本ヲ作成スヘキコトヲ規定シ第二項及ヒ第三項ハ舊法ニ之レ無キ所ニシテ裏書ハ謄本ニ爲スモ可ナルコトハ本案第三百五十二條ニ於テモ故ニ認メタル所ニシテ本條ハ引受ノ爲メ本紙ヲ逡付シ其間ニ必要アリテ他ノモノヲ讓渡ストキハ謄本ヲ以テスルモ可ナリ而シテ之ヲ讓受ケタル人ハ引受ノ爲メ必要アルヲ以テ原本ノ送附先ヲ知ルコトヲ要ス是レ第二項アル所以ナリ又第三項ノ主意ハ謄本ヲ作成シ原本ノ儘ヲ書キ又後ニ新タニ謄本ニ書ク可キコトアリ故ニ原本ノ事柄及ヒ「是ヨリハ謄本ナリ」ト云フコトヲ明カニスヘキモノナリト
本條ハ異議ナク通過シ散會ヲ吿ケタリ