明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第90回

参考原資料

備考

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第九十回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
岸本辰雄君
田部芳君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕雄君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第三百六十九條 前三條ノ規定ニ依リ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ遲滯ナク引受拒絕證書ト引換ニテ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要ス但擔保ニ代ヘテ相當ノ金額ヲ供託スルコトヲ得
(參照)舊七四〇、獨手形法二五、二項、匈手形法二五、二項、瑞七四四、二項、西四八一
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三十九條及ヒ第七百四十條ニ該當ス而シテ擔保ノ請求ヲ爲スニハ拒絕證書ヲ以テスヘク從テ擔保ヲ供スル者ハ其拒絕證書ト引換ニ供スヘキモノナリトノ主義ニ至テハ本按モ亦現行法ノ主意ニ從ヒアリト雖モ唯現行法ヲ修正シタルハ同法第七百四十條ノ規定是ナリ此規定タルヤ佛法ニ倣ヒタルモノナルヘシ然レトモ畢竟滿期日前ナルニ抅ハラス一切ノ金額ヲ卽時ニ支拂ハシムルカ如キ主義ノ規定タルヤハ佛法ノ如ク擔保ヲ以テ單ニ保證人ニ限レル國ニ於テハ或ハ其必要アルヘシト雖モ本按ノ如ク苟モ擔保ハ保證人ニ限ラサルノ主義ヲ採用シタル以上ハ斯カル主義ヲ採用スルノ必要ナケレハナリト
富谷君ハ第三百八十一條ノ規定ヲ對照シ以テ起草者ニ質問シテ曰ク同條ノ規定ニ因レハ支拂拒絕證書ノ作成ヲ免除スルコトヲ得ヘキモノナルニ本條ノ規定ニ因レハ敢テ然ラサルカ如シ斯カル區別ヲ設ケタルハ償還ノ請求ニ於ケル場合ト此擔保ノ請求ニ於ケル場合トニ付キ如何ナル理由アルニ基因スルモノナルヤト
右ニ付キ田部君答辯シテ曰ク敢テ深キ理由アリト云フニアラス故ニ今一應此㸃ニ關シテハ再考セント
本條ハ右ノ外原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百七十條 振出人其他ノ前者カ擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲シタルトキハ其後者全員ノ爲メニシタルモノト看做ス
(參照)舊七三九、三項、獨手形法二七、匈手形法二七、瑞七四六
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ規定ハ現行商法第七百三十九條三項ニ該當ス而シテ其第三項ニハ擔保ノ外別ニ通知ニ關スルコトヲ包含セシメタルニ抅ハラス本條ニ於テハ右ノ如キ文字之レナシト雖モ此通知ニ關シテハ後ニ本條ヲ修正スル考ナルヲ以テ豫メ諸君ノ了承セラレンコトヲ希望ス次ニ現行法ニハ單ニ「擔保」トアリ是或ハ廣義ニ解スヘキモノナルヤヲ知ラスト雖モ明確ヲ缺クノ批難ヲ免カレサルヲ以テ本條ニ於テハ「擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲シタルトキハ」ト改メ其批難ヲ避ケタリ之ヲ要スルニ振出人其他ノ前者カ擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲シタルトキハ其後ノ全員ハ擔保又ハ供託ノ請求ニ應セサルモ可ナリ何トナレハ苟モ一人ノ者カ擔保又ハ供託ヲ爲シタルトキハ法律上ニ於テハ其後其全員ノ爲メニ爲セシモノト看做スヘケレハナリト
本條ノ文章ニ付テハニ三ノ批難アリト雖モ原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百七十一條 左ノ場合ニ於テハ第三百六十九條ノ規定ニ依リテ供シタル擔保ハ其效力ヲ失ヒ又供託シタル金額ハ之ヲ取戾スコトヲ得
一 後日ニ至リ爲替手形ノ單純ナル引受アリタルトキ
二 爲替手形ノ支拂アリタルトキ
三 所持人カ時效又ハ手續ノ懈怠ニ因リテ手形上ノ權利ヲ失ヒタルトキ
四 擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲シタル者カ滿期日ヨリ一年內ニ償還ノ請求ヲ受ケサリシトキ
(參照)舊七四一、獨手形法二八、匈手形法二八、瑞七四七
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百四十一條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ而シテ此第一號ノ場合ハ既ニ單純ナル引受ヲ爲サンカ最早擔保又ハ供託ヲ爲サシムルノ原因ナケレハナリ又第二號ノ場合ハ爲替手形ノ支拂アリタルトキナルヲ以テ固ヨリ當然擔保又ハ供託ノ必要ヲ見サルモノナリ尤モ現行商法ニハ「爲替金額若クハ償還金額ノ支拂アリタルトキ」トアリシヲ本案ニ於テハ單ニ「爲替手形支拂アリタルトキ」トシ以テ右ニ樣ノ場合ヲ包含セシメタリ次ニ第三號ノ場合モ亦擔保又ハ供託ノ必要ナキヤ言ヲ待タス唯「懈怠」ナル文字ハ聊力不穩當ナルヲ以テ他日再考スヘキコトヲ豫期ス終リニ第四號ノ規定ハ現行法中ニ類似ノ規定ナシト雖モ其必要ナルコト言ヲ待タサルヘシ何トナレハ假令擔保ヲ供シ又ハ供託ヲ爲サシメタリトモ滿期日後數年聞其儘ニ經過セシムルカ如キハ酷ニ失スルモノト云ハサル可ラサレハナリ故ニ獨逸爲替法ニ從ヒ滿期日ヨリ一年內ニ償還ノ請求ヲ受ケタルトキハ其擔保又ハ供託ハ效力ヲ失フモノトセリト磯部君ハ本條第一號ノ規定ヲ不必要ナリト論難シテ曰ク畢竟擔保ヲ供シ又ハ供託セシムルニ至レルハ支拂人カ引受ヲ爲ササルカ爲メナルヘシ果シテ然レハ假令其後ニ至リ引受ヲ爲シタレハトテ爲メニ擔保又ハ供託ヲ無效ニ屬セシムルノ理ナカルヘシ何トナレハ斯カル場合ハ引受人ニ於テ幾分ノ惡意アリシモノト看做スコトヲ得可ケレハナリト次ニ岸本君ハ第一號ノ「單純」ナル文字ニ付キ難シテ曰ク右ノ文字ハ第三百六十三條第二項ノ規定之レアルカ爲メ全ク不必要ナルヘシト
穗積陳重君モ亦第二號ノ文章ニ付キ難シテ曰ク若シ原按ノ如クセン
力恰モ爲替手形ニ關スル費用ハ之ヲ除外シタルモノ如シ何トナレハ普通ノ解釋トシテ單ニ爲替手形ノ支拂トアランカ其費用ニ至ツテハ之ヲ包含セサルモノト見ルヘケレハナリ尤モ本案ニ於テ「爲替手形ノ支拂」ナル用語ト「爲替手形金額ノ支拂」ナル用語トヲ明確ニシ苟モ單ニ「爲替手形ノ支拂」ナル用語ヲ使用シタル場合ハ必ス費用等ハ之ヲ包含セシムルモノナリトノ主義脚ニ定センカ敢テ批難スルニアラスト
田部君ハ穗積君ニ答ヘテ曰ク此第二號ノ文字上ヨリ自ラ費用ヲ包含セシメタルコトハ明カナルヘシト梅君モ亦辯シテ曰ク本條第二號ノ解釋ニ付テハ余モ亦田部君ト同一ノ所見ヲ有ス然レトモ文字ニ付テハ一應再考セント
本條ハ右ノ外原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百七十二條 引受人カ破產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ所持人ハ破產管財人ニ對シ手形金額及ヒ費用ニ付キ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊七七九、佛一六三、蘭一七八、獨手形法二九、匈手形法二九、瑞七四八、伊三一五、羅三四〇、白千八百七十二年五月二十日法五四、二項、英千八百八十二年八月十八日法五一
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百七十九條ニ該當ス唯同條ノ規定ト異ナルトコロハ同條ニ於テハ十分ナル擔保ヲ供セサルトキハ滿期日前ト雖モ支拂拒絕證書ヲ作リ償還請求ヲ爲スコトヲ得ヘキモノトセリト雖モ本按ニ於テハ斯ク滿期日前ニ償還請求ヲ爲スコトヲ許サス何トナレハ斯クセサルモ擔保ヲ供セシムルトキハ其目的ヲ達スルコトヲ得ヘキモノト信スレハナリ次ニ又本條ニ於テ破產管財人ニ對シ擔保請求ヲ爲スヘキモノト規定シアル所以ハ引受人カ破產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ爲メニ能力ヲ喪失スルニ至ルヲ以テ固ヨリ破產管財人カ當然爲スヘキモノト考ヘタレハナリト
本條ノ破產管財人ナル文字ニ付テハ長谷川君及岸本君ヨリ批難アリテ起草者之ニ對シ詳細ノ答辯ヲ試ミタリト雖モ右ニ關聯シテ他ノ難問ヲ惹起スルニ至リ途ニ再考スルコトニ決シ其他ハ原按ニ可決シテ次條ニ移リタリ
第三百七十三條 前條ノ場合ニ於テ破產管財人カ擔保ヲ保セス且爲替手形ニ記載シタル豫備支拂人カ單純ナル引受ヲ爲ササリシトキハ所持人ハ振出人其他ノ前者ニ對シ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ第三百六十六條乃至第三百七十條ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テ豫備支拂人ノ引受ヲ求ムルニハ拒絕證書ヲ作成セシメ且遲滯ナク其通知ヲ發スルコトヲ要ス
(參照)獨手形法二九、匈手形法二九、瑞七四八
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ前條ヲ設ケタルカ爲メ必要ヲ感スルニ至リタルモノニシテ現行法ニハ之ニ類似ノ規定ヲ見ス蓋シ法文ノ精神ハ一讀其文字ノ如キヲ以テ詳細ノ說明ヲ爲サスト
本條ハ前條ト牽聯スル規定ナリ然ルニ前條再考ニ決シタルヲ以テ從テ本條ハ未定トスルコトニ多數ノ意見一致シ途ニ之ニ決定シテ次條ニ移リタリ
第三百七十四條 左ノ場合ニ於テハ前條ノ規定ニ依リテ供シタル擔保ハ其效力ヲ失ヒ又供託シタル金額ハ之ヲ取戾スコトヲ得
一 豫備支拂人カ後日ニ至リ單純ナル引受ヲ爲シタルトキ
二 破產管財人カ後日ニ至リ相當ノ擔保ヲ供シタルトキ
三 第三百七十一條第二號乃至第四號ノ場合
(參照)匈手形法二九
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ前ニ條ノ規定ニ依リテ供シタル擔保ノ效力ヲ失ヒ又供託シタル金額ヲ取戾スコトヲ得ヘキ場合ニ關スル規定ナリ而シテ先ツ第一號ノ規定ハ說明ヲ要セサルヘク第二號ノ規定ハ破產管財人カ後日ニ至リ擔保ヲ供シタル場合ナルヲ以テ是亦說明ノ必要ナク終リニ第三號ノ規定ハ第三百七十一條第二號乃至第四號ノ場合ヲ引用シタルモノニシテ本條ノ場合モ亦右第三百七十一條ノ場合ト同一ナレハナリト終リニ又本條ノ「前條」ナル文字ヲ「前ニ條」ト訂正スル旨ヲ述ヘラレタリ
本條ハ原案ニ可決シ第六節ニ移リタリ
第六節 支拂
第三百七十五條 一覽拂ノ爲替手形ノ所持人ハ其日附ヨリ一年內ニ手形ヲ呈示シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ要ス但振出人ハ手形二一年ヨリ短キ呈示期間ヲ定ムルコトヲ得
所持人カ前項ニ定メタル呈示ヲ爲スコトヲ怠リタルトキハ手形上ノ權利ヲ失フ
(參照)舊七五七、佛一六〇、一六一、蘭一一六、一八〇、獨手形法三一、匈手形法三一、瑞七五〇、伊二六一、二八八、二八九、西四六九乃至四七三、羅二八二、三一〇、三一一、葡二八七、三一四、四項、白千八百七十二年五月二十日法五一、英千八百八十二年八月十八日法四五、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案二八
岡野君ノ說明ニ曰ク本節中ニ規定シタル各條項ハ現行商法第七百五十四條乃至第七百六十七條ニ該當ス尤モ右各條ノ中ニ於テ或ハ不必要ナリト認メ削除シタルモノアリ或ハ又他ニ讓リタルモノ之レアルヲ以テ今簡單ニ說明スヘシ先ツ現行法第七百五十四條ハ民法第四百二條及ヒ第四百三條ノ規定ニ讓リテ可ナルヲ以テ之ヲ削除シ同第七百五十五條第一項ハ本按引受ノ規定アルヲ以テ是亦削除シ同條第二項ノ規定中其前半ハ之ヲ採用シタリト雖モ別ニ規定ヲ設ケス是蓋シ支拂恩惠期限ナルモノハ何等ノ規定ヲ設ケサルトキハ當然之ヲ認メサルモノナルコトヲ毫モ疑ナケレハナリ而シテ又其後半ノ規定ハ之ヲ削除シタリ何トナレハ我國ニ於テ慣習ノ支拂日ハ之レナキモノト信スレハナリ次ニ同第七百五十六條ハ民法第百四十二條ノ規定ヲ以テ足レリト信シ之ヲ削除シ同第七百五十七條ハ卽チ本按第三百七十五條ニ該當シ同第七百五十八條ハ同ク本按第三百七十九條ニ該當シ同第七百五十九條及ヒ同第七百六十條ハ合セテ之ヲ削除シ而シテ同第七百六十一條第一項ハ本按第三百七十七條ニ該當シ其第二項ハ同ク本案第三百七十八條ニ該當ス又同第七百六十二條及ヒ同第七百六十三條ノ規定ハ其精神ニ付テハ多少ノ疑アリト雖モ要スルニ他ニ類似ノ規定ヲ設クヘク同第七百六十四條及ヒ同第七百六十五條ハ合セテ之ヲ削除シ同第七百六十六條ハ考按中ニ屬ス次忙同第七百六十七條ハ本按ニ於テモ類似ノ規定ヲ償還請求ニ關スル規定中ニ設クル豫定ナリ之ヲ要スルニ以上ハ現行法第六款支拂ニ關スル各條項ニ加ヘタル修正及ヒ削除ノ大體ニシテ本條卽チ此第三百七十五條ノ規定ハ既ニ述ヘタル如ク現行法第七百五十七條ニ該當スルモノニシテ同條中「呈示ノ日ニ滿期ト爲ル」云云ノ文字ハ之ヲ削除シタリ而シテ同條中「若シ正當ノ時期」以下ノ規定ハ解釋ノ如何ニ依リ或ハ本按ト同一ノ精神ニ歸着スヘキ手順ニ本條ニ於テ一年內トシ以テ現行法ノ期間ヲ短縮シタルハ是全ク本按ニ於テ從來採用セル主義ニ從ヒタルナリト
本條ハ質問爲ニ之ニ對スル起草者ノ答辯アリタルニ止リ原案ニ可決シテ次條ニ移リタリ
第三百七十六條 裏書アル爲替手形ノ所持人ハ其裏書カ自己ニ至ルマテ連續スルニ非サレハ其權利ヲ行フコトヲ得ス但署名ノミヲ以テ爲シタル裏書アルトキハ次ノ裏書人ハ其裏書ニ因リテ手形ヲ取得シタルモノト看做ス
(參照)舊七三二、獨手形法三六、匈手形法三六、瑞七五五、伊二八七、西四九二、羅三〇九、英千八百八十二年八月十八日法二九、三二、四五
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三十二條ニ該當ス然ルニ曾テ裏書ニ關スル條項ヲ議スルニ當リ此裏書ノ連續ナル意義ニ付テハ頗ル議論アリテ岸本君ノ如キハ或中途以後ヨリ連績スレハ可ナリトノ說ヲ固守セラレタリキ然レトモ余輩ハ其當時ニ述ヘタル如ク若シ爲替手形カ裏書ヲ以テ各人ノ手ニ渡リタルトキハ第一ノ裏書人ヨリ最終ノ裏書人ニ至ルマテ連續セサレハ效力ナキモノト信スルヲ以テ本條ハ卽チ此意義ヲ明示シタルモノナリ故ニ此㸃ニ付テハ重テ詳細ノ說明ヲ爲ササルヘシ次ニ本條但書ノ規定ハ現行商法中之ニ類スル規定ヲ見スト雖モ元來裏書ニハニ方法アリテ此ニ方法ハ既ニ本按第三百五十二條ニ於テ之ヲ認メタリ卽チ其一方法ハ同條第一項ニ於テ規定スルトコロニシテ他ノ一方法ハ同條第二項ニ於テ規定スルモノ是ナリ然シテ本條ノ但書ハ右ニ述ヘタル第二項ノ方法アルカ爲メニ必要アルモノナリ何トナレハ右第二項ニ依レハ裏書ハ裏書人ノ署名捺印ノミヲ以テ裏書ヲ爲スコトヲ得而シテ此場合ニ於テハ爾後爲替手形ハ引渡ノミニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得ルモノナルヲ以テ此場合ニ若シ第三百五十六條ノ規定ニ因リ所持人カ自己ヲ被裏書人ト爲ストキハ爲メニ裏書ノ連績アルヲ以テ可ナリト雖モ不然トキハ裏書ノ連續ナキモノト看做サルルニ至ルヲ以テ特ニ此但書ノ如キ規定ノ必要アレハナリト終リニ本條ノ位置ニ付キ述ヘテ日又本條ノ事項ハ所持人ノ權利ナルヲ以テ本節中ニ規定シタリト
長谷川君及ヒ岸本君ハ第五百五十六條ノ規定アルヲ以テ本條ノ但書ハ不必要ナリト主張シ岡野君ハ辯シテ曰ク第三百五十六條ハ所持人ヲ保護スルノ目的ヲ以テ設ケタルモノナリ然ルニ若シ同條ノ規定アルカ爲メ本條ノ但書ヲ削除センカ恰モ右三百五十六條ハ所持人ニ自己ヲ被裏書人トシテ書込ムヘキコトヲ命シタルモノノ如ク解セサレハ不可ナルニ至ルヲ以テ敢テ反對スト
梅君モ亦答ヘテ曰ク余ハ最初岡野君ト聊力解釋ヲ異ニシタリキ然レトモ再考スルニ岡野君ノ說ヲ以テ便利ナリト信ス故ヲ以テ若シ本條ノ但書ニシテ岡野君ノ意義ヲ表示スルニ困難ナランカ文章ニ至テハ意義ヲ考スルモ可ナリト
右ニ付キ河村君ハ但書ノ「次ノ裏書人」ナル文字不穩當ナルヲ以テ起草者ノ再考ヲ煩ハシタキ旨ヲ述ヘ起草者之ヲ承諾シ次ニ長谷川君ハ但書削除ノ說ヲ主張シ且ツ本條ノ位置ニ付キ論シテ曰ク本條ハ支
拂ノ性質ニ屬スル事項ナルヲ以テ宜シク本節中ニ規定スヘシトノコトハ既ニ裏書ニ關スル議事ノ際ニ於テ起草者ノ意向ヲ推知セリト雖モ手形上ノ權利ニシテ支拂ノミニ關セサル以上ハ余輩ハ此連續ナルモノハ主トシテ裏書ニ關スルモノナリト信スルヲ以テ此㸃ニ重キヲ置キ寧口裏書ニ關スル規定中ニ移スヲ以テ穩當ナリト考フ次ニ又本條ニハ單ニ署名トアリ然レトモ余輩ノ持論ニ從ヒ捺印ノ文字ヲ加フルヲ以テ其當ヲ得タリト信スルヲ以テ以上ノ修正說ヲ提出スト
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク本條ノ位置ニ付テハ原案ヲ維持スルモノニシテ捺印ニ付テハ絕對的ニ反對スト右長谷川君ノ本條位置變更ノ修正說ニハ贊成者アリテ採決シタルニ其結果可決ニ至リ次匠同君ノ但書削除讀及ヒ捺印ノ文字ヲ加フルノ讀ニモ亦贊成者アリテ採決スルニ至リタリト雖モ其數少數ニテ消滅ニ歸シ定刻ヲ以テ散會ヲ吿ケタリ