明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第89回

参考原資料

備考

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第八十九回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
土方寧君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
菊池武夫君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
穗積陳重君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
金子堅太郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第三百六十三條 支拂人ハ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ヲ除ク外支拂人カ爲替手形ノ單純ナル引受ヲ爲ササリシトキハ其引受ヲ拒絕シタルモノト看做ス但引受人ハ其引受ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ
(參照)舊七三八、佛一二四、一二五、蘭一二〇、獨手形法二二、匈手形法二二、瑞七四一、伊二六六、西四七九、羅二八八、葡二八八、二項、四項乃至六項、二九一、白千八百七十二年五月二十日法一五、一六、英千八百八十二年八月十八日法一九、四二乃至四四、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案一五
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三十八條ニ該當スルモノニシテ唯同條ニ少シク修正ヲ加ヘタルニ過キス然リ而シテ本條第一項ノ規定ハ支拂人カ引受ヲ爲スニ當リ手形金額ニ付キ制限ヲ加ヘ得ルコトヲ許シタルモノニシテ此㸃ニ付テハ全ク現行法ト同一ナリ尤モ右ノ制限タルヤ單ニ金額ニ止マルモノニシテ其他ニ於テハ之ヲ許ササルモノナリ又現行商法ニハ「其他ノ制限ヲ以テ之ヲ爲シタルトキハ其引受ノ爲メ當然覊束セラルルモ所持人ハ之ヲ拒ミタリト看做スコトヲ得」トアリテ不確定ナルヲ以テ本按ニ於テハ此㸃ニ關シ修正ヲ加ヘ卽チ單純ナル引受ヲ爲ササルトキハ其引受ヲ拒絕シタルモノト看做ストシ以テ之ヲ明確ニシタリ次ニ又現行法ニハ「卽日引受ヲ爲サス」トノ文字之レアリシヲ削除シタル所以ハ縱令ヒ右ノ如キ文字ヲ附加セサルモ法律上直ニ引受ケサル可ラサルモノナル以上ハ若シ卽日ニ引受ヲ爲ササリシナランカ固ヨリ當然拒絕シタルモノト看做スコトヲ得ヘケレハナリト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百六十四條 支拂人ハ爲替手形ノ引受ニ因リ滿期日ニ於テ其引受ケタル金額ヲ支拂フ義務ヲ負フ
(參照)舊七三六、佛一二一、蘭一一九、獨手形法二三、匈手形法二三、瑞七四二、伊二六八、西四八〇、羅二九〇、葡二九〇、白千八百七十二年五月二十日法一一、英千八百八十二年八月十八日法五四
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三十六條ニ該當ス而シテ現行商法同條ニハ「爲替手形ノ所持人ニ對シ」云云ト之レアリト雖モ斯クスルトキハ或ハ恰モ引受ヲ爲シタル當時ノ所持人ナリト云ヘルカ如ク解セラルルノ嫌アルヲ以テ本按ニ於テハ之ヲ削除シ以テ廣キ精神ナルコトヲ示シタリ又現行商法ノ同條中ニハ爲替資金ニ關スル規定之レアリト雖モ本按ニ於テハ右ニ關スル規定ハ之ヲ設ケサルノ主義ナルヲ以テ之ヲ削除シタリ終リニ同條末段ナル「又所持人ニ引受ノ旨ヲ記シタル爲替手形ヲ還付シタル後ハ强暴又ハ詐欺ノ場合ヲ除ク外之ヲ取消スコトヲ得ス」ノ規定ハ之ヲ削除シタリ是他ナシ解釋一ニ任シテ可ナリト信スレハナリト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百六十五條 支拂地カ支拂人ノ住所地ト異ナル場合ニ於テ振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セサリシトキハ支拂人ハ其引受ヲ爲スニ當タリテ之ヲ記載スルコトヲ得若シ支拂人カ之ヲ記載セサルトキハ支拂地ニ於テ自ラ支拂ヲ爲ス責ニ任ス
振出人ハ手形ニ其引受ヲ求ムル爲メ之ヲ呈示スヘキ旨ヲ記載スルコトヲ得此場合ニ於テ所持人カ其呈示ヲ爲ササリシトキハ其前者ニ對スル手形上ノ權利ヲ失フ
(參照)舊七二一、七三四、二項、佛一二三、蘭一一七、獨手形法二四、匈手形法二四、瑞七四三、伊二六四、西四七八、羅二八六、葡二八九、白千八百七十二年五月二十日法一三、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案一六
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百二十一條及ヒ實施前ノ商法第七百三十四條第二項ニ該當スルモノナリ而シテ本條ノ爲替手形ニ關スル規定ハ現行商法ノ所謂他所拂手形ニ關スルモノニシテ此場合ニ於テハ其他所拂手形ノ一種ニ關シテ規定シタルモノナリ何+ナレハ他ノ一種ハ既ニ第三百五十條ニ於テ規定シタレハナリ尙ホ詳言スレハ所謂他所拂手形ニハニ種アリテ其一種ハ振出人カ支拂擔當者ヲ手形ニ記載シタル場合ニシテ他ノ一種ハ振出人カ手形ニ支拂擔當者ヲ記載セサル場合是ナリ此ニ種ノ中ニ於テ前者ハ之ヲ第三百五十條ニ於テ規定シ後者ハ卽チ本條ノ規定是ナリ而シテ右ニ種ノ中最モ適用ノ多キ場合ハ本條ノ場合ナルヘシ何トナレハ實際支拂人ト支拂擔當者ノ間ニハ恰モ振出人ト引受人トノ間ニ於ケルカ如キ資金ノ關係ヲ生スルモノナルヲ以テ振出人ニシテ右ノ關係ヲ知レルトキハ第三百五十條ニ因リ支拂擔當者ヲ其手形ニ記載スヘキハ勿論ナルヘシト雖モ實際多クノ場合ニ於テハ之ヲ知ラサルヘケレハナリ然レハトテ振出人カ右ノ記載ヲ爲ササリシ場合ニ支拂人其引受ヲ爲スニ當リ支拂擔當者ヲ記載センカ其支拂人ハ或ハ第三百六十三條第二項ノ適用上支拂ヲ拒絕シタルモノト云ハサル可カラサルヘシ故ニ本條第一項ノ規定ヲ設ケ右ノ場合ハ當然有效ナルヘキコトヲ定メタリ是蓋シ本條ノ適用多シト云ヘル所以ナリ次ニ本條第二項ノ規定ハ振出人カ手形ヲ振出スニ當リ其手形ニ引受ヲ求ムル爲メ之ヲ呈示スヘキ旨ヲ記載スルコトヲ許シタルモノニシテ要スルニ支拂人ノ引受ヲ爲スニ付キ便宜ヲ得セシメンカ爲メナリ從テ所持人カ右ノ呈示ヲ爲サルトキハ手形上ノ權利ヲ失フヘキコトヲモ明定シタリト
阿部君ハ本條第二項ハ他所拂手形ニ關スル場合ナルコトヲ明示スル爲メ「前項ノ場合ニ於テハ」ノ數文字ヲ附加スヘシト述ヘ又穗積陳重君ハ寧冒第二項ヲ別條トシ而シテ其精神ヲ法文ニ明示セハ可ナラント主張シ起草者ハ文章上ノコトナルヲ以テ整理マテ再考スヘシト答ヘ本條ハ可決ノ上第五節ニ移リタリ
第五節 擔保ノ請求
第三百六十六條 支拂人カ爲替手形ノ引受ヲ拒ミタルトキハ所持人ハ振出人其他ノ前者ニ對シ手形金額及ヒ費用ニ付キ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得
支拂人カ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲シタルトキハ所持人ハ其殘額及ヒ費用ニ付キ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊七三九、佛一二〇、蘭一七七、獨手形法二五、二六、匈手形法二五、瑞七四四、伊三一四、西四八一、羅三三九、葡二九二、白千八百七十三年五月二十日法一〇、英千八百八十二年八月十八日、法四三、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案一八
田部君ノ說明ニ曰ク現行法ハ第三款引受ト題シ同款中ニ擔保ノ請求ニ關スル事項ヲ規定シタリト雖モ苟モ償還請求ヲ別節トシテ規定スル以上ハ此擔保ノ請求ニ付テモ亦獨立ノ一節ト爲スヲ穩當ナリト信スルヲ以テ特ニ本節ヲ設ケタリ今極メテ簡短ニ本節ノ大體ニ付キ述ヘンニ現行法ハ其第八款償還請求ニ關スル規定中ニ引受人ノ破產ニ關スル規定ヲ設ケタリト雖モ本按ニ於テハ右ニ關スル規定ヲ本節中ニ規定スルヲ至當ナリト考ヘ此㸃ニ付テハ現行法ヲ改メタリ次ニ本條ハ現行商法第七百三十九條ニ該當スルモノニシテ同條ニ於テハ極テ錯雜ナル規定ヲ設ケタリシヲ以テ本案ニ於テハ之ヲ分別シタリ故ニ本條ハ寧ロ右第七百三十九條ノ一部ニ該當スルモノト云ツテ可ナルヘキナリ畢竟擔保ノ請求ニ關スル規定ノ必要ナル所以ハ支拂人カ其當時ニ引受ケヲ爲ササルモ或ハ滿期日ニ至リテ支拂ヲ爲スカ如キ場合之レアルヲ以テ若シ此規定ナカランカ爲替手形ノ流通ニ關シ大ナル妨害ヲ爲スコト之レアレハナリ次ニ現行商法ハ支拂人カ手形金額ノ一部ニ付キ引受ヲ爲シタルトキハ所持人ハ其殘額及ヒ費用ニ付キ果シテ相當ノ擔保ヲ請求スルコトヲ得ヘキヤ否ヤニ付キ不分明ニシテ却テ實施前ノ法文ハ此㸃ニ關シテハ分明ナルカ如シ要スルニ本按ハ之ヲ明示スルカ爲メ本條第二項ノ規定ヲ設ケタリト
土方君ハ原按ヲ批難シ且ツ修正ノ說ヲ提出シテ曰ク若シ本案ノ如ク引受ノ拒絕アリタル場合ニ單ニ擔保ノ請求ノミヲ許ストセンカ抑モ其主義タルヤ最モ迂回ノモノナリト云ハサル可ラス現行商法及ヒ歐洲大陸ノ諸法典ハ槪ネ本案ト同一ノ主義ナルカ如シト雖モ英米法ニ於テハ然ラスシテ苟モ引受ノ拒絕アランカ直ニ償還請求ヲ許スモノナリ是頗ル爲替手形ノ性質上適當ノ主義ナリト云ハサル可ラス故ニ余ハ此主義ニ本案ヲ改正セラレンコトヲ切望ス困難ナルノ恐ナキニアラサルヲ以テ寧ロ引受ヲ拒絕セラレタルトキハ擔保ヲ請求スルコト又拒絕證書ヲ作リ償還請求ヲ爲スコトトノニ者ヲ併セテ規定スルノ主義ニ修正スルノ說ヲ提出スト
尾崎君ハ土方君ノ說ヲ贊成シテ曰ク同君ノ說ハ苟モ引受ヲ拒絕セラレタルトキハ期日ノ如何ニ抅ハラス直ニ償還請求ヲ許スノ主義ナルカ如シ果テ然レハ最モ爲替手形ノ性質ニ適合スルヲ以テ贊成ヲ表スト
岡野君ハ辯シテ曰ク土方君ノ讀ハ一度支拂人カ引受ヲ拒絕センカ滿期日ナラサルモ直ニ償還請求ヲ許スノ主意ナルカ如シ是果シテ其當ヲ得タルモノナルヤニ付テハ疑ナキ能ハス元來手形ハ單ニ引受ノミニ重キヲ置ケルモノニアラスシテ振出人ノ信ト不信トニ因リ大ニ流通上ニ關係スルモノナリ然ルニ何ンヤ引受ノ拒絕アリタルヲ一事ヲ以テ直ニ償還請求ヲ許スカ如キハ贊同スル能ハサルトコロナリト以上ノ土方君ノ修正說ニ付キ贊成者アリタルヲ以テ採決スルニ至リタルモ少數ニテ消滅シ逐ニ原按ニ可決シ次條ニ移リタリ
第三百六十七條 爲替手形ノ所持人カ前條ノ請求ヲ爲サント欲スルトキハ引受拒絕證書ヲ作成セシメ且擔保ヲ供セシメント欲スル者ニ對シ遲滯ナク其通知ヲ發スルコトヲ要ス
(參照)舊七三九、佛一二〇、蘭一八四、一八五、葡二九二、三三七、白千八百七十二年五月二十日法一〇、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案一八
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第七百三十九條ノ一部ニ該當スルモノナリ而シテ支拂人カ引受ヲ拒絕スルトキハ拒絕證書ヲ作成セシメ以テ他日之カ證明ヲ爲スヘキモノナリト雖モ一旦拒絕證書ヲ作成セシメタル以上ハ先ツ其旨ヲ擔保ノ請求ヲ爲サント欲スル者ニ通知シ而シテ豫メ其者カ準備ヲ爲スノ餘地ヲ與ヘサル可ラス是蓋シ本條ノ精神ニシテ或國ニ於テハ此場合ハ直接ニ所持人ノ前者ニ通知シ其前者ハ更ニ又自己ノ前者ニ通知スルカ如キ主義ヲ採レルモノアリト雖モ此主義タルヤ極テ面倒ナリト信スルヲ以テ寧ロ現行法ノ主義ヲ改メスシテ所持人ハ總テノ者ニ對シテ自己カ欲スル者ヲ選ヒ其者ニ通知シ且擔保ヲ供セシムルコトヲ得ヘキモノト定メタ屮ト
富谷君ハ本條ノ「其」ナル文字ハ果シテ何レヲ指ヤルモノナルヤ不分明ナリト難シ田部君ハ「其」ナル文字ハ引受拒絕證書ヲ作成セシメタルコトヲ指セルモノナル恐ナキニアラス故ニ右ノ文字ハ再考セント答ヘ他ハ原案ニ可決シテ次條ニ移リタリ
第三百六十八條 所持人ノ前裏書人ハ振出人其他ノ前者ニ對シ第三百六十六條ニ定メタル權利ヲ有ス
(參照)舊七三九、佛一二〇、蘭一七七、獨手形法二五、二六、匈手形法二六、瑞七四五、千八百八十五年アンヴェール萬國商法會議決議法案一八、四七
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第七百三十九條第二項末段ノ規定ニ該當スルモノニシテ卽チ爲替手形所持人ノ前裏書人ハ自身ニ擔保ノ請求ヲ受クルヤモ知ル可ラサルヲ以テ自身モ亦其前ノ裏書人及ヒ振出人ニ向テ擔保ノ請求權ヲ有セサル可ラサル弘以テ之ヲ法文ニ明示シタリ次ニ現行法ニハ「擔保ヲ爲シタルト否トヲ問ハス」トアリ然ルニ本案ニ於テ之ヲ削除シタルハ敢テ其精神ヲ改メタルニアラスシテ右ノ如キ文字之レナクトモ實際同一ト爲ルヘキモノト考ヘタレハナリ又次條ニ於テ擔保ノ請求ヲ受ケタル者ハ遲滯ナク引受拒絕證者ト引換ニシテ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要スト之レアルヲ以テ本條ノ場合ト雖モ拒絕證書ヲ要スルコト勿論ナリト
本條ハ原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ