明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第82回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第八十二回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
村田保君
阿部泰藏君
田部芳君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
元田肇君
長谷川喬君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第三百三十六條ニ付キ前回末定ノ議事ヲ繼續ス
穗積八束君ヨリ本條ニ付キ質問アリシモ岡野君ノ答辯アリテ直チニ原案ニ可決セリ
第三百三十七條 第三百十二條、第三百十四條乃至第三百十八條、第三百十九條、第三百二十一條、第三百二十二條、第三百二十三條第一項、第三百二十四條及ヒ第三百二十五條ノ規定ハ生命保險ニ之ヲ準用ス
第三百十二條及ヒ第三百二十二條ノ場合ニ於テ保險者カ保險金額ヲ支拂フコトヲ要セサルトキハ既ニ受取リタル保險料ノ三分ノ一ヲ下ラサル金額ヲ拂戾スコトヲ要ス
訂正第三百十九條ノ次ニ「第一項」ノ三字ヲ加フ
商法修正原案(但明治三十年五月十四日配付)
第三百三十七條第二項ヲ左ノ如ク改ム
第三百十二條及ヒ第三百二十二條ノ場合ニ於テ保險者カ保險金額ヲ支拂フコトヲ要セサルトキ又ハ第三百二十一條ノ場合ニ於テ當事者ノ一方カ契約ヲ解除シタルトキハ保險者ハ被保險者ノ爲メニ積立テタル金額ヲ拂戻スコトヲ要ス
岡野君曰ク本條ハ損害保險ニ付キ設ケシモノノ中生命保險ニ準用サルルモノアリテ其條項ヲ揭ケタイ既ニ損害保險ノ節ニ於テ述ヘタルカ如ク生命保險ハ總則ノ規定ヲ適用シ得サルカ故ニ特ニ本條ヲ設クルノ必要ヲ生セリ先ツ本條ニ付キ其槪要ヲ說明セシニ第三百十二條ハ戰爭其他ノ變亂ニ付キ生シタル損害ハ特約ナキ場合ハ保險者ハ壙補ノ責ニ任セストアリ生命保險モ又戰爭其他ノ變亂アリテ死亡シタル場合ハ之ヲ準用スルノ必要アルカ故ニ損害保險ト同一ニセリ第三百十九條第二項ハ第三百三十五條ニ於テ其適用アリシ爲メ自然不用ニ歸セリ、第三百ニ十二條ハ危險變更ノ規定ナリ該條ニ於テハ討論ノ際論議百出シ終ニ修正案ヲ提出スルニ至レリ然レトモ本條ニハ別段影響ヲ及ホササリシナリ第三百二十一條モ修正ヲ加ヘタレトモ是又第三百ニ十二條ト均シク影響ヲ及ホサス他ハ說明ヲ要セスト述ヘ原案ニ可決セリ
商乙第八號
爲替資金ニ關スル規定ハ之ヲ揭ケサルコト
岡野君ノ說明ニ曰ク爲替資金ニ關スル問題ハ爲替手形ニ關スル舊商法ノ如ク決シテ一款一節ニ限ルモノニアラスシテ其他ニモ關係多キモノナルカ故ニ疑ヲ懷キシモ要スルニ爲替資金ハ手形法ニ揭ケサルコトトセリ而シテ爲替手形ハ振出人カ手形ヲ振出シ之ヲ受取人ニ讓渡シ其受取人ハ之ニ裏書ヲ爲シ再ヒ讓渡シタル場合ハ振出人ハ總テノ者ニ對シ償還スル義務ヲ負フヘシ故ニ振出人ハ所持人、裏書讓渡人ニ對シ債務ヲ負フコトトナルヘシ其理由ハ手形上ノ大問題ナルカ冤ニ角手形上ノ債權債務ノ關係ハ手形ノ授受手形上ノ引受ナクシテ如何ナル理由ヲ以テ授受、引受ノ基礎ヲ爲ス歟此關係ハ明カニ區別スルコトヲ要ス手形ノ沿革上ヨリ手形ノ讓受人並ニ振出人カ支拂人ニ與フル報酬ハ手形ノ債權債務カ常ニ離レサルコトハ明カナリ乍併手形ニ因リテ生スル關係ハ端緖ヲ交換ニ生シ日ヲ逐ツテ發達スルニ隨ヒ書面契約トナリ終ニ手形上ノ債務及ヒ債權ハ單ニ爲替手形ニ依ルコトニ發達セリ今日ノ立法例ハ手形ノ授受ノ豫約ヲ以テ手形關係ニアラストセリ讓受人カ振出人ニ與フル報酬ハ手形關係ニ在ラス是未タ昔時ノ慣習カ嬋脫セサルカ爲メ感○ 這心、ヘレー ト記載セサレハ效力ナシト稱道スルカ如シ文字上ノ形式ニシテ實質ニ至リテハ報酬ヲ與フルト否トニ在ルモノナリ然レトモ以上ノ㸃ニ付テハ手形ニ支障ヲ生スルカ爲メ之ヲ以テ關係ト看做ササルト等シク報酬ノ關係ヲ以テ手形上ノ關係ト認メサルカ今日一般ノ與論ナリ要スルニ手形ニ關シ生スル權利義務ノ關係ヲニ個ニ區別シ一ハ純然タル手形ノ關係ト一ハ民法商法ニ散在セル手形關係ト區別スヘキコトトナレリ而シテ受取人カ振出人ニ與フル報酬ハ此關係ニ在ラス故ニ此㸃ハ區別スヘキコトヲ要スヘシ、現行商法第八百三條乃至第八百十條ニ設ケタル規定ハ佛國流ノ規定ニシテ佛蘭西商法ハ引受ヲ爲ストキハ資金ヲ與ヘタルモノト推定ストノ原則アリ而シテ此規定ハ實ニ意義ヲ有セサル條項ト云フヘシ然ルニ我商法カ此方針ヲ採用セシハ何等ノ理由ヲ以テセシカ余輩ノ疑フ所ナリ而シテ右等ノ關係ハ各條項ニ付キ理由ヲ附スルハ錯雜ニ涉ルノ虞アルヲ以テ別段說明ハ爲ササルヘシ唯資金ノ關係ハ手形關係ニ在ラサルコトヲ記臆セハ可ナリ
次ニ手形關係ニ付キ資金ノ規定ヲ設ルヤ否ヤニ付キ此手形資金ヲ認メサル立法例ハ獨逸伊太利るーめにや、葡萄牙、らんがるん英吉利(土臺ニ付キ)等皆皆然リ爲替資金ヲ認メタルハ蘇格蘭、佛蘭西、和蘭ノ如キ孰レモ綿密ナル規定アリ然リ而シテ手形法ナルモノハ萬國ニ影響ヲ及ホスヲ以テ萬國ヲ通シテ一定ニ爲サレトノ希望ヲ以テ之ニ付テノ會議ヲ開ケリ既紀元千八百八十五年ニばんぐるぐニ開キ序テ千八百八十八年ニぶるつせるニ開設シタリ右萬國會議ノ狀況ヲ書物上ニ於テ觀ルニ此會議ノ結果ハ資金ニ付キニ個ノ案ヲ提出セリ而シテ此投票ハ國ニ依ラスシテ頭數ヲ以テ決セリ其爲替資金ヲ廢止スル方針ヲ採用シタルハ英吉利、白耳義ナリ而シテ白耳義ノ之ニ贊成ヲ表セシハ實ニ著シキ現象ト謂フヘシ、千八百八十八年ニ於テ白耳義ノ代表者ハ資金ヲ盡ク廢止ストノコトヲ主張セリ卽チ八十五年ヨリ八十八年ノ期間內ニ白國ハ之ヲ十分ニ硏究ヲ爲シ其結果ヲ顯ハシタルモノナリ而シテ又英國ハ資金ヲ廢止スルコトニ贊成ヲ表セリ
之ニ反對セシハ佛國ニシテ卽八十五年以來ノ資金保存ノ素論ヲ把持セリ結局ハ資金ニ關スルコトハ手續法ニ措カスシテ各國ニ於テハ所持人カ送リシトキハ削除權ヲ有スルモ妨ケストノコトニ歸セリ兔ニ角手續法ニハ爲替資金ヲ規定セサルコトハ萬國會議ニ於テ確定セリ是本案ニ於テ爲替資金ノ規定ヲ揭ケサル理由ナリ而シテ爲替證書ニ規定スルコトハ手續法ニ割當シテ決スル考ナリト
穗積君ハ希望ヲ述ヘテ曰ク本案ニハ素ヨリ贊成ナルカ信用證劵ハ流通ノ性質ヨリ觀ルモ亦本案ニハ贊成ナリ乍併爲替債權ノ關係ハ是亦資金ニモ關係ヲ有スルヲ以テ縱令本案ニハ揭ケサルモ余ハ此場合ニ付キ斯カル希望ヲ有ス、爲替ハ信用證劵ナレハ爲替資金ノ爲替義務ノ成立ニ關係ナキコトハ或條ヲ顯然ト設ケサレハ後日ノ疑問トナリ學者間ニ主義ノ分ルルコトト爲ルヘシ故ニ本案決議ノ結果ヲ總則編ニ設ケラレシコトヲ望ムト述ヘ岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク素ヨリ總則編ニ揭ケサルモ了解シ得ヘキ考ヘナリ菟ニ角大體ノ趣旨ヲ定メ各條ノ成案後提出セラレシコトヲ謂フト述ヘ富谷君ハ爲替資金ニ付キ必要ナル㸃アルトキハ法文ニ設ケラルルモノナリヤト質問シ起草者ハ兎モ角考フルコトヲ約セラレ本案ハ確定セリ
阿部君ハ議長(淸浦副總裁)ノ許可ヲ經テ本案第三百三十三條第三百三十四條ニ關シ一ノ希望ヲ述ヘテ曰ク舊商法ハ生命保險ト損害保險トヲ混同センヲ本案ハ明瞭ニセラレタリ其結果トシテ生命保險ニハ被保險利益ヲ認メス之カ爲メ保險金ヲ受取ル人ハ親族ニ限ルトセシハ舊法ニ比スレハ穩カナラサルヘシ而シテ他人ノ生命ハ保存スルコトヲ得ス保險金フ受取ルヘキ人ハ親族ニ限ルトセリ然レトモ生命保險ト雖モ必シモ金錢ニ見積リ難キモノニ在ラス例ヘハ一年千圓ノ收入アル人ニシテ十年間=禺圓ノ保險ニ附スルトキハ被保險利益ナシト云フコトヲ得ス又他人ヨリ借財ヲ爲シタルニ之ニ返金セサルハ不德義ナリト信スル人或ハ困難ヲ救濟セラレシ人ニシテ金錢ノ貯ヘナキ者ハ他人ニ損害ヲ賠償セシカ爲メ自身ヲ保險ニ付シタルカ如キハ米百石ヲ火災保險ニ附シタルトキ千百圓ノ被保險利益アリト何等ノ差異歟アル生命保險ニ付キ被保險利益ヲ認メサルハ極メテ不都合ナリト信ス實際上親族ト稱スルモ遠キ親類ニ被保險利益ヲ與フルトノコトハ何等ノ效能ヲモ爲ササルカ如シ外國ニ於テハ學校病院ニ寄附スルトノ例ハ實例枚擧ニ隙ナキモ本案ニ於テハ寄附スルヲ得スト云フカ如キハ好マシカラス我邦ノ如キハ死後擧校ニ寄附入ルト云フカ如キハ極メテ稀ナリ加之我邦ニ於テハ公共ノ事業ニ出金スルモノハ皆無トモ云フヘキ有樣ニシテ遠キ親類ニ金ヲ附與スルカ如キハ意ニ介セサルモノノ如シ然ルニ此規定ニ依レハ親族ニ在ラサルハ保險金ヲ受取ルコトヲ得ストノコトニ歸スヘシ要スルニ第三百三十三條及第三百三十四條ヲ舊商法第六百七十八條ノ如クシ金錢上其他財產上ノ利益ヲ有スレハ他人ヲ保險スルモ可ナルコトトシ兄弟姉妹其他ノ親戚ニ至リテハ財產上ノ利益ニ付キ擧證ヲ要セサルコトトシ舊商法ノ如ク修正アランコトヲ請フト述ヘシモ贊成者ナキヲ以テ消滅セリ
商法修正原案
第二百八十一條ヲ第二百七十八條甲トシ第二百七十八條ノ次ニ繰上ク
同條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百七十八條乙 數人相次テ運送ヲ爲ス場合ニ於テハ各運送人ハ運送品ノ滅失、毀損又ハ延着ニ付キ連帶シテ其責ニ任ス
梅君ノ說明ニ曰ク場所ニ付テハ說明ヲ要セス而シテ繰上ケシ理由ハ次ノ第二百八十二條ノ場合カ不明ニシテ繰上ケサレハ疑ヲ生スレハナリ第二百八十二條ニ於テ故意又ハ過失ニテ損害ヲ生シタルトキノ關係ハ之ヲ惡意又ハ重大ノ過失ニテ爲セシトキノ第二百八十條ノ規定ノ後ニアル爲メ穩カナラサル結果ヲ生スヘシ本條ハ以上ノ場合ヲ明瞭ニ爲サンカ爲メ繰上ケタリ
次ニ第二百七十八條乙ハ運送人間ニ連帶ノ責任ヲ負シムルヤ否ヤハ疑アル爲メ再考セヨト決議セラレシ故之ヲ再考セリ而シテ協議ノ末運送人ノ爲メニハ頗ル酷ナルモ斯カル責任ヲ負擔セシメサルトキハ所有者其他ノ者ハ何某ノ運送人管理中延着シタルヤ否ヤヲ證明スルハ不能ノコトナルヲ以テ已ムヲ得ス原案ノ如クセリト述ヘ本條ハ原案ニ可決セリ
第二百八十二條ヲ左ノ如ク改ム
第二百七十八條丙 運送人ハ運送取扱人、使用人其他運送ノ爲メ使用シタル者ノ故意又ハ過失ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ連帶ノ場合ヲ除キニ個ノ疑ヲ生セリ一ハ第二百七十八條ニ據レハ薄送人ハ注意ヲ怠ラサリシコトヲ證明スルニ在ラサレハ損害賠償ノ請求ヲ免ルルコトヲ得スト在リ然ルニ本條ニハ故意又ハ過失ニ因リトアリ故ニ過失ノナキコトハ證明セサルヘカラス使用人ノ過失ノ如キモ亦證明セサレハ責任ヲ負フコトトナルヘシ此㸃モ亦協議ノ末運送人間ニ連帶ヲ負ハシムレハ之ニ關係セルコトハ狹義トナルカ故ニ第二百七十八條ノ責任ノミナラス或運送人ノコトハ不用ト爲ルヘシ又他ノ運送人ノ故意又ハ過失ナキコトハ之ヲ
證明スヘキモノナルヲ以テ之ヲ證明スルトキハ荷主ハ之ニ對シテ反證ノ責任ヲ負フニ至ルヘシ此場合ハ要スルニ以上ノ如クセサレハ偏頗ノ嫌アルヲ以テ原案ノ如クセリ第二ハ場所ノコトナルカ位置ヲ變更セサレハニ百八十條ノ關係ハ適用ナキニ至ルヲ以テ繰上クルコトトセリト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百八十四條第二項中「及ヒ立替金」ヲ「其他ノ費用」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此文字ハ問題トナリシヤ否ヤハ記臆セサレトモ其他ノ費用ト改メサレハ文字カ揃ハヌヲ以テナリト
第二百八十五條ヲ改メテ左ノ三條トス
第二百八十五條 荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキハ運送人ハ運送品ヲ供託シ又ハ之ヲ競賣スルコトヲ得此場合ニ於テハ遲滯ナク其旨ヲ荷送人ニ通知スルコトヲ要ス
運送人ハ荷送人ニ對シ相當ノ期間ヲ定メ運送品ノ處分ニ付キ指圖ヲ爲スヘキ旨ヲ催告シタル後ニ非サレハ前項ノ規定ニ從ヒテ競賣ヲ爲スコトヲ得ス
第二百八十五條甲 前條ノ規定ハ運送品ノ引渡ニ關シ爭アル場合ニ之ヲ準用ス但運送人ハ遲滯ナク運送品ノ供託又ハ競賣ヲ爲シタルコトヲ荷受人ニモ通知スルコトヲ要ス
運送人カ競賣ヲ爲スニハ豫メ荷受人ニ對シ相當ノ期間ヲ定メテ運送品ノ受取ヲ催告シ其期間經過ノ後更ニ荷送人ニ對スル催告ヲ爲スコトヲ要ス
第二百八十五條乙 第二百三十四條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前二條ノ場合ニ之ヲ準用ス
梅君ノ說明ニ曰ク大體ハ嘗テ可決セリ唯荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ運送品ノ引渡ニ關シ爭アルトキハ運送人ハ運送品ヲ供託シ又ハ之ヲ競賣スルコトヲ得此場合ニ於テハ云々其旨ヲ荷受人及ヒ荷送人ニ通知スルコトヲ要ストアリテ第二項ニ運送人ハ荷受人ニ對シ相當ノ期ヲ定メテ云々トアルハ穩當ナラス解釋上ハ荷受人ノ文字ノ適用ハナキモ法文トシテハ不完全ナルヲ以テ畢竟荷受人ノ知レサルトキハ直チニ荷送人ニ通知スレハ宜シキ故之ヲ三個條ニ分チタルニ過キス他ハ別段說明ヲ要セスト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百八十六條ヲ左ノ如ク改ム
第二百八十六條 運送人ノ責任ハ荷受人カ留保ヲ爲サスシテ運送品ヲ受取リ且運送賃其他ノ費用ヲ支拂ヒタルトキハ消滅ス但運送品ニ直チニ發見スルコト能ハサル毀損又ハ一部滅失アリタル場合ニ於テ荷受人カ引渡ノ日ヨリ二週間内ニ其旨ヲ運送人ニ通知シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ運送人ニ惡意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
梅君ノ說明ニ曰ク本條モ亦大體ハ可決セリ唯一週間ヲ二週間ト改メタリ次ニ本條第一項ハ運送人ノ責任ハ運送品ヲ沈默シテ受取ルトキハ其責任ハ消滅ス若シ直チニ發見スルコトヲ得サル毀損滅失アルトキハ二週間ニ通知ヲ爲ササレハ又消滅ストアリテ第一項ハ汎ク規定シ但書以下ハ之ニ對スル例外ナリ其故ニ此場合ハ故ラニ第二項ヲ設ケシヨリ寧ロ例外タルヲ示スニハ但書ヲ以テ顯ハスコト極メテ必要ナリト信シ改メタルニ過キスト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百八十七條冒頭ニ「第二百六十九條」ノ七字ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク修正ハ極メテ簡單ナルモ實質ノ㸃ニ至リテハ前條ヨリモ重シト謂フヘシ此㸃ハ河村君ノ發議ニテ比較上運送取扱營業ノ所ニハ留置權ノ規定アリテ本章ニナシ然リ而シテ此場合ニハ特別ノ規定ナキトキハ民法ニ因リ債權ト物トノ間ニ牽聯シタルトキ商人ト非商人トノ間ニハ留置權カ行ハレ運送人ト運送取扱人間ニハ留置權ノ行ハレサルハ極メテ穩カナラサルカ故ニ第二百六十九條ヲ準用セサルヘカラスト余輩ハ其說ヲ至當ナリト信シ修正案ノ如クセリト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百八十九條第二項ヲ左ノ如ク改ム
手荷物カ到逹地ニ逹シタル日ヨリ五日内ニ旅客カ其引渡ヲ請求セサル場合ニ於テハ第二百三十四條ノ規定ヲ準用ス但住所又ハ居所ノ知レサル旅客ニハ催告及ヒ通知ヲ爲スコトヲ要セス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ非常ニ議論アリ其結果再考ニ歸セリ其際或ハ二週間或ハ一ケ月又ハ旅客カ到着シタルトキヨリト云フカ如キ說モアリシカ此期間ヲ長クスルトキハ運送人ノ責任ハ重キニ失シ他ノ規定ト權衡ヲ得サルニ至ルヘシ、旅客カ先方ニ到着シタルトキハ之ヲ證明スルコトトナリ要スルニ原案ノ大體ノ趣旨ニ至リテハ棄ツルコトヲ得ス依テ阿部、磯部兩君ノ說ヲ採用シ五日トセリ而シテ但書ヲ以テ住所若クハ居所ノ知レサル旅客ニハ催吿及ヒ通知ヲ要セサルコトトシ住所ノ知レサルトキハ居所トシ單ニ氏名ノミヲ知ルカ如キハ何等ノ通知ヲ爲ササルコトトシ以テ之カ趣旨ヲ明カニセリト
土方君ハ修正案ヲ梶出シテ曰ク長途ノ旅行ヲ爲スニ當リテハ本案ノ趣旨ニテハ極メテ不便ナルコトアラシ例ヘハ九洲ヨリ北海道マテト云フカ如キ旅行ニ五日ニテハ穩カナラサル故此期間ヲ改メテ一週間トナスノ案ヲ提出スヘシト述ヘ之ヲ採決セシニ多數ニテ一週間トナレリ
第二百九十四條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百九十四條甲 前二條ニ定メタル責任ハ場屋ノ主人カ寄託物ヲ返還シ又ハ客カ携帶品ヲ持去リタル後一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
前項ノ期間ハ物ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ客カ場屋ヲ去リタル時ヨリ之ヲ起算ス
前二項ノ規定ハ場屋ノ主人ニ惡意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
梅君ノ說明ニ曰ク原案ニハ時效ニ關スル規定ナカリシカ河村君ヨリ注意アリテ玆ニ第二百七十三條ト同一ノ規定ヲ設ケタリ先ツ多少性質ハ異ナルモ運送取扱營業ト同シク旅店飮食店浴場等ニテハ客ノ荷物ヲ取扱フ關係ニ付テハ殆ント類似シタルモノナリ然レトモ之ヲ準用スルコトヲ得サルハ場合ヲ異ニスレハナリ是レ已ムヲ得ス本案ノ如ク修正セル所以ナリト述ヘ異議ナク可決セリ
第二百九十五條己ヲ左ノ如ク改ム
第二百九十五條己 預證券及ヒ質入證券ハ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡シ又ハ質入スルコトヲ得
預證券ノ所持人カ未タ質入ヲ爲ササル間ハ預證券及ヒ質入證券ハ各別ニ之ヲ讓渡スコトヲ得ス
梅君ノ說明ニ曰ク此預證劵並ニ質入證劵ハ前ニ議論アリテニ通同時ニ發行スルハ極メテ必要ナルカ寄託者カニ通ヲ請受リテ一通個々ニ處分スルヲ得ルカ如シ、原文ノ解釋ニテハ必シモニ通ヲ要セス一通宛請求シ得ヘシ要スルニ以上ノ如クナストキハ弊害ヲ生シ易キヲ以テ孰レモ是ヲ改メニ通ヲ要スルトキハ之ヲ同時ニナスコトニ改メテ如何ントノ要求アリテ余輩ハ其說ニ從ヘリ而シテ文章上第二百九十五條甲ノ規定ハ孰レニモ讀ミ得ルノ嫌アリ畢竟「又ハ」ノ文字ナレハ一通ニテモ可ナリトノ說アリテ反對ノ解釋ヲ下スコトヲ得ヘシト雖モ「及ヒ」トアルカ故ニニ通併セテトノ趣旨トナリ疑ヲ招クノ虞ナカルヘシ隨テニ百九十五條己ニ至リ之ヲ知ルコトヲ得ヘシ、寄託物ノ預證劵及ヒ質入證劵ノ交付ヲ請求スルコトヲ得トアリテ要スルニ文章上預證劵質入證劵ノ孰レニテモ交付ヲ請求シ得ヘキカ如シ元來前述ノ趣旨ナレハニ通ト讀ムコトヲ得ヘシ加之第二百九十五條己ノ規定ニテ趣旨ヲ改メシモノ故ニ通ト讀ムコトヲ得ヘシ是本案ニ於テ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡シ又ハ質入スルコトヲ得ト改メタル所以ナリ而シテ第二項ヲ設ケタルハ各別ニ讓渡スコトヲ得サル故ニ同時ニ爲スヘキ旨ヲ明カニセリ要スルニ本條ヲ改メシ結果前ノニ百九十五條甲ト自ラ解釋ヲ變スルヲ得ルモノトシ以上ノ如ク修正ヲ加ヘタリ
第二百九十五條辛第二項ヲ左ノ如ク改ム
第一ノ質權者カ前項ニ掲ケタル事項ヲ預證券ニ記載シテ之ニ署名スルニ非サレハ質權ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ大體ノ趣旨ニ就テハ議論ナカリシモ文章ノ不完全ナルカ爲メ疑㸃ヲ生セリ要スルニ本條ニ付キニ說アリテ第一ハ預證劵ノ所持人カ第一ノ質入裏書ヲ爲シタルトキトアルハ要當ナラストノ高木君ノ說ニシテ一ハ富井君ハ要ストアリテ若シ之ニ違背セシトキハ如何ナル制裁アリヤト要スルニ以上ノニ㸃ヲ明瞭ニセンカ爲メニ其ニ㸃ニ修正ヲ加ヘタリ
偖テ本條第二項ヲニ百九十五條己ト對照スルトキハ第一ノ質入裏書ヲ爲シタルトキトアルハ穩カナラス何トナレハ預證劵ノ所持人ノ行爲トナルカ如クナレハナリ故ニ修正原案ハ第一ノ債權者ノ行爲ニテ債權者カ署名セサルトキハ債權ヲ以テ對抗スルコトヲ得サルコトトシ以テ債權ノ效用ヲ明カニセシニ過キスト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百九十五條癸二ヲ左ノ如ク改ム
第二百九十五條癸二 競賣代金ヲ以テ質入證券ニ記載シタル債權ノ全部ヲ支拂フコト能ハサリシトキハ倉庫營業者ハ其支拂ヒタル金額ヲ質入證券ニ記入シテ其證券ヲ返還シ且其旨ヲ帳簿ニ記載スルコトヲ要ス
(訂正)第一ノ支拂ヲ辨濟トナシ第二ノ支拂ハ其儘トス
梅君ノ說明ニ曰ク本案モ亦議場ニテ趣旨ハ確定セリ唯文章ヲ考ヘヨトノコトニテ如斯セリ本修正案ハ前條ト比較シテ其殘額ヲ引換ニテ支拂フコト極メテ必要ニシテ此場合ニハ質入人ニ預ケルコトトナリ第二百九十五條癸ニハ其證劵ヲ返還シテ質入證劵ニ記入シテ其旨ヲ帳簿ニ記入スルコトヲ要ストアルモ其證劵ヲ如何ニ爲スヘキカ之ヲ取上ルトキハ證劵ノ證據マテモ消滅スルコトトナリ前條第一項ト比較スルトキハ質入證劵ノ返還ヲ爲サシムルコトトシ以上ノ趣旨ヲ咀嚼シテ修正ヲ加ヘタリ
第二百九十五條癸四中「倉庫營業者ニ對シ」ノ八字ヲ削ル
梅君ノ說明ニ曰ク本文ハ箕作君ヨリ注意アリテ倉庫營業者トアルハ穩カナラス他ト權衡ヲ得セシムルノ必要アラント實ハ此場合ハ手續上ノコトニシテ必シモ倉庫營業者ノ文字ヲ置クノ必要アルニ在ラス沈默シ居ルモニ百九十五條癸第二項ニ質入證劵ノ所持人ハ拒絕證書作成ノ日ヨリ一週間ヲ經過シタル後ニアラサレハ物品ノ競賣ヲ請求スルコトヲ得スト、特別ノ人ニ對シ爲スコトヲ得サルカ故ニ削除スルコトトセリト述ヘ本案ハ異議ナク可決セラレタリ
第二百九十五條癸五中「債務者」ノ下「其他ノ裏書人」ノ六字ヲ加フ
第三百條中「拒ミ」ヲ「怠リ」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此場合ハ而シテ說明ヲ要ス債務者ノ下裏書人ノ六字ヲ加ヘタルハ河村君ヨリノ注意アリテ第二百九十五條癸三ニ於テ質入證劵ノ所持人カ寄託物ニ付キ辨濟ヲ受ケ尙ホ殘リタルニアラサレハ債務者其他ノ裏書人ニ對シ請求ヲ爲スコトヲ得スト然ルトキハ此請求ハ何時迄モ爲スコトヲ得ヘシ而シテ普通ノ時效ヲ以テ請求ヲ爲スコトヲ得ヘシ要スルニ以上ノ如クナルトキハ裏書人ノ請求ハ穩カナラスト其說ハ至當ナリト信セリ何トナレハ第二百九十五條癸四ニ於テ繼續セサルトキハ請求權ハ消滅スヘシ然ルトキハ比較上物品ヲ受取リシ場合ニハ其場合ハ缺㸃ナリト信ス又第二百九十五條癸五ニ於ケル債務者ニ對スル請求權ハ第二百九十五條癸四ノ場合ヨリ觀察ヲ下ストキハ裏書人ニ對シ請求權ヲ失フカ如ク見ヘ要スルニ癸五ノ適用アルコトトナルヘシ果シテ然ラハ裏書人ニ對シテハ是ヨリモ尙ホ長クナルト云フカ如キハ穩カナラハ其故ニ以上ノ場合ヲ纏括シテ一條トセリ要スルニ此㸃ノ大體ハ債務者ニ比スレハ多量ニ保護ヲ受クルコトトナレハナリ
次ニ拒ミヲ怠リト改メタルハ穗積、富井君ノ說ヲ採用セシモノニシテ拒ミ得ルトナルトキハ受クルコトヲ拒ミサルモ受取リニ行カサルトキハ如何ニスヘキカ、實際ハ拒ムモ營業者ヨリ催吿ヲ爲ササルモ預證劵ノ所持人ハ知ラサルコトアリテ寄託者ハ他ニ在リシトキハ受取ルニ付キ始末ヲ付クルコトヲ得ス故ニ拒ミヲ改メテ怠リトセリ結果ハ同一ニシテ此文字ヲ以テ批難ヲ受ケシ㸃ハ包含スル考ナリ是修正ヲ加ヘタル理由ノ槪略ナリト
第三百一條第二項ヲ左ノ如ク改ム
前項ノ期間ハ寄託物ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ倉庫營業者カ預證券ノ所持人、若シ其所持人カ知レサルトキハ寄託者ニ對シ其滅失ノ通知ヲ發シタル日ヨリ之ヲ起算ス
梅君ノ說明ニ曰ク此㸃ハ穗積君ヨリノ注意ニ依リ心付キシモノニテ第三百一條第二項ノ場合ニ其滅失ノ通知ヲ發シタル日ヨリ之ヲ起算ストアリ然ル三遇知ハ誰ニ對シテ爲スヘキモノナリヤ明文ナキトキハ預證劵ノ所持人トナラスシテ何時ニテモ寄託者トナルハ極メテ不都合ナリ何トナレハ此場合ハ其品物ヲ受取ルヘキ人ニ通知ノ必要アレハナリ或ハ預證劵ノ所持人ニハ帳簿ニ記入セシムル主義ヲ採ルトキハ宜シキモ然ルトキハ却テ預證劵ノ流通ヲ妨クルニ至ルヘシ其故ニ余輩ハ以上ノ方法ヲ採ルコトニ躊躇セリ畢竟預證劵ノ所持人ニ通知ヲ爲シ若シ其人ヲ知ルコトヲ得サレハ寄託者ニ對シテ之ヲ爲シ而シテ寄託者ハ讓渡人トシテ之ヲ所持人ニ通知スヘキモノトセリ尙ホ此規定アルトキハ必ス注意深キ人ハ所持人ニ通知ヲ爲スナラン、帳簿ニ所持人ノ氏名ヲ記載シテナキトキ若クハ注意セサレハ知ルコトヲ得サルトキ通知スルノ必要アルモノト認メ第三百一條第二項ノ修正案ヲ提出セリト述ヘ異議ナク確定セリ
第三百四條中「部分ハ」ヲ「部分ニ付テハ保險契約ハ」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク是モ亦穗積君ヨリ注意アリテ保險金額カ保險契約ノ目的ノ價額ヲ超過シタルトキハ保險金額ヲ無效トスルカ如シ果シテ然ラハ此場合ハ保險金額ノ一部カ無效トナルモノナラント其所說ハ至當ナルヲ以テ修正スルコトトセリ
第三百六條ヲ左ノ如ク改ム
第三百六條 相次テ數個ノ保險契約ヲ爲シタルトキハ先ニ保險ヲ爲シタル者先ツ損害ヲ負擔シ若シ其負擔額カ損害ノ全部ヲ填補スルニ足ラサルトキハ次ノ保險者之ヲ負擔ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ原案ノ書方ノ宜シカラサル爲メ强制執行マテモナシ不足アルトキ次ノ保險者ニマテ請求ヲ爲スト讀メ得ルノ嫌アリ其故ニ文章ヲ改メ負擔シタル割合ニテ嗔補シ實際上填補スヘキヤ否ヤハ負擔シタル額ニ依リテ定ムルコトトセリ又富井君ヨリ本條ノ主義ヲ保險證劵ノ日附ニ據ラシテハ如何トノ說ヲ提出サレシモ外國ニモ亦是ト同一ノ立法例アリテ保險證劵ノ日附ヲ保險契約ノ日附ト爲スト然レトモ疑ヒヲ起ストキハ日附ニ相違アルモ是亦間違ヒナリシト云フヲ得ヘシト云フモ反對ノ證據ノ出ルマテハ先ツ之ヲ以テ證據トセサルヘカラス要スルニ最初ニ證據ニ代ルヘキモノ出テ初メテ證據トナルニ過キス以上ノ理由ナルヲ以テ富井君ノ說ニハ應スルコトヲ得サリシナリト述ヘ異議ナク可決セリ
第三百七條第三號ヲ左ノ如ク改ム
三 前ノ保險者カ損害ノ填補ヲ爲ササルコトヲ條件トシタルトキ
梅君ノ說明ニ曰ク第三號ノ問題ハ土方君ヨリ再考ヲ促サレ如斯ニテハ文章上穩カナラス、前ノ保險者ヨリ損害ノ填補ヲ得サルコトヲ條件トシタルト原案ニハアルモ前ノ保險者カ損害ヲ支拂ハサルトキハ直チニ後ノ保險者ヨリ請求シ得ヘキ趣旨ナルヲ以テ文字上穩カナラスト余輩其說ヲ採リテ如斯改メタリト述ヘ異議ナク確定セリ
第三百十三條中「被保險者」ヲ「保險金額ヲ受取ルヘキ者」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク此㸃ハ心付カサリシカ此保險契約者又ハ被保險者ハ云云トセシモ被保險者ノミナラス他ヨリ保險金ヲ受取ルモノモアルカ故ニ其者ノ故意若クハ重大ノ過失アル場合カ漏ルルコトト爲レリ是修正ヲ加ヘタル所以ナリト
穗積君ハ起草者ニ協議シテ曰ク被保險者ハ或ハ除キシ方穩當ニハアラサルカト梅君曰ク前ニハ保險契約者保險金額ヲ受取ル人トシ後ハ被保險者トセシハ通常保險者ニ對スル者ハ被保險者ナルヲ以テナリ乍併尙ホ一應考フルコトト爲サント
穗積君ハ修正說ヲ提出シテ曰ク本條修正案ヲ熟考スルニ後ノ「被保險者」ナル文字ハ削除スルヲ爰當ナリト信ス例ヘハ保險ノ關係人カ四人アリシトキ三人ニテモ爲シ得ルカ如キ結果ヲ生スレハナリ何トナレハ第三百三十四條ノ修正トナリシ結果保險金額ヲ受取ルヘキ者ハ被保險者ノ親族トナルカ故ニ存スルカ爲メ却テ疑ヲ生スヘシト述ヘ起草者ハ尙ホ再考スヘシト述ヘ他ハ原案ニ可決セリ
第三百十四條中「損害ノ既ニ生シタル」ヲ「事故ノ既ニ發生シタル」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク損害トアリシ爲メ前ノ事故ト後ノ發生シタル場合ト區別セラルルコトトナリ此燼ニテハ無效トナラサルモノアリヤトノ疑ヒヲ生スルカ故ニ「損害」云云ノ文字ヲ修正案ノ如ク改メタリ序ニ;ロシ置カンニ或ハ本條ヲ裏面ヨリ書キ下スカ都合上宜シカラントノ說アリシカ文章上極メテ困難ナリ無效ナリトノコトハ當然ナリト雖モ例外ヲ設クルノ關係ヨリ本文ノ如クセリト述ヘ引續キ起草者ハ文章上ノ都合ヨリ事故ノ文字ヲ削除セラレタリ
第三百十六條中「善意ナル」ヲ「善意ニシテ且重大ナル過失ナキ」ト改ム
梅君ノ說明ニ曰ク舊法ハ惡意トアリシヲ故意又ハ重大ノ過失ト改メシ故其結果トシテ土方君ヨリ注意アリテ善意ノ次ニ本文ノ如ク修正ヲ加ヘシニ過キスト
土方君曰ク商品ノ如キ保險ノ目的物ノ價額ニ變動ヲ生スルコト多シ此場合ハ如何ト起草者ハ其㸃ニ付キ考フルコトヲ約セラレタリ
第三百十九條第二項第八號ヲ左ノ如ク改ム
八 保險契約者ニ非サル者カ保險金額ヲ受取ルヘキトキハ其者ノ氏名、住所
梅君ノ說明ニ曰ク此㸃ハ既ニ議場ニテ確定セシモノナルカ原文ニハ保險金額入支拂ヲ受クヘキ者カ保險契約者ニ云フトアリテ支拂ヲ受クヘキ者ヲ特ニ定メタル場合カ極メテ解釋スルニ困難ナリ故ニ本文ノ如ク改メ特ニ受クヘキ者ヲ一層明瞭ニセリ修正セシム文章ノミニシテ趣旨ハ原案ト同一ナリト述ヘ異議ナク可決セリ
第三百二十一條ヲ左ノ如ク改ム
第三百二十一條 保險者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ保險契約者ハ相當ノ擔保ヲ供セシメ又ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ保險契約者カ破産ノ宣告ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス但保險契約者カ既ニ保險料ノ全部ヲ支拂ヒタルトキハ此限ニ在ラス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ニ付テハ種々ノ議論アリテ保險契約者カ保險料ノ金額ヲ支拂ヒタルトキ保險者カ破產シタルトキハ保險者ハ契約ノ解除ト爲ルカ故ニ保險者ハ何等ノ報酬ナシニ右保險料ヲ取得スルカ如キ不都合ノ結果ヲ生スルカ故ニ以上ノ㸃ヲ明瞭ニセリ第一項ハ其保險者カ破產シタルトキニ適用アリ卽チ危險未定ノトキハ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトトセリ然ラサルトキハ保險ニ附シタル效カナキニ至レハナリ反之保險料ヲ未タ支拂ハサルトキハ契約ヲ解除シテ之ヲ免ルルコトトナルヘシ第二項ハ保險契約者カ破產シタルトキ保險料ノ全部ヲ既ニ支拂ヒタルトキハ之カ適用ナキモ然ラサルトキハ將來ノ保險料支拂ニ付キ擔保ヲ供スルカ或ハ契約ノ解除ヲ爲スヘキコトトセリト述ヘ異議ナク確定セリ