明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第74回

参考原資料

備考

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第七十四回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
鶴原定吉君
村田保君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
梅謙次郞君
田部芳君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
富井政章君
南部甕男君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第二百九十五條壬 預證券ノ所持人ハ質入證券ニ記載シタル債權ノ辨濟期前ト雖モ其債權ノ全額及ヒ辨濟期マテノ利息ヲ倉庫營業者ニ供託シテ寄託物ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ從ヒテ供託シタル金額ハ質入證券ト引換ニテ之ヲ其所持人ニ支拂フコトヲ要ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法六、澳千八百八十九年四月二十八日法三〇、匈四四五、伊四七〇、葡四一五、白千八百六十二年十一月十八日法一〇、一一
田部君ノ說明ニ曰ク質入證劵ヲ質入スルニ當テハ其質入證劵ニ裏書ヲ爲シタル事項ヲ預證劵ニ裏書セサル可ラス如斯スルトキハ預證劵ヲ單純ニ賣却スルコトヲ得ヘキモノナリ然レトモ畢竟預證劵ニ質入證劵ノ附屬スルコトハ預證劵所持者ト雖モ希望セサル場合多ク殊ニ不便ナル場合多キヲ以テ法律ハ此場合一ニノ便宜ヲ得セシムル爲メ縱令質入證書ニ記載シタル債權ノ辨濟期前ト雖モ預證劵ノ所持人カ其債權ノ全額及ヒ辨濟期迄ノ利息ヲ倉庫營業者ニ供託スルトキハ寄託物ノ返還ヲ講求スルコトヲ得ヘキモノトシ本條第一項ヲ設ケタリ尤モ如斯便宜法ヲ採用スルトキハ債權者ニ於テ利不利如何ト云フニ債權者ト雖モ債權ノ全額及ヒ利息ヲ得ル以上ハ毫モ不利益ナルコトナケレハナリ然ラハ則チ其當ヲ得タルモノト云ハサル可ラサルナリ次ニ本條ニ所謂「供託」ニ付テハ或國ニ於テハ之ヲ一般ノ供託所ニ供託シテ可ナリトシ又或國ニ於テハ大藏大臣ノ指定シタル供託所ニ限レルモノトセリ然ルニ本案ニ於テ何故ニ倉庫營業者ニ供託スヘキモノト定メタルヤト云フニ若シ右ニ述ヘタル如ク大藏大臣ノ指定シタルトコロニ從フヘキモノトセンカ其不便大ナルヘク然レハトテ一般普通ノ供託所ニ供託スヘキモノトセンカ漠然タル譏ヲ免カレス之ニ反シテ本案ノ如クセンカ元來倉庫營業者ハ信用ニ基キ其營業ヲ爲セルモノナレハ此者ニ供託スルヲ以テ其當ヲ得タルモノト信シタレハナリ是等ノ場合ヲ除ク外槪シテ本條以下ノ規定ニ於テハ倉庫營業者ヲ中心㸃トシ每事其所ニ集マルヘキ主義ヲ探リタリ終リニ本條第二項ハ第一項ノ規定ニ從ヒ供託シタル金額ハ質入證劵ト引換ニ其質入證劵所持人ニ支拂フヘキ旨ヲ規定シタルモノニ過キスシテ詳細ノ說明ヲ要セスト
本條ハ河村君ヨリニ三ノ質問アリテ起草者之ニ答ヘタルノミニテ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移リタリ
第二百九十五條癸 質入證券ノ所持人カ辨濟期ニ至リ支拂ヲ受ケサルトキハ爲替手形ニ關スル規定ニ從ヒ拒絕證書ヲ作成セシムルコトヲ要ス
質入證券ノ所持人ハ拒絕證書作成ノ日ヨリ一週間ヲ經過シタル後ニ非サレハ物品ノ競賣ヲ請求スルコトヲ得ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法七、澳千八百八十九年四月二十八日法三一、三二、三四、匈四四六、四四七、伊四七一、西一九六、一九七、葡四一七、白千八百六十二年十一月十八日法一三
田部君ノ說明ニ曰ク辨濟期前ニ於テ寄託者若クハ預證劵ノ所持人カ質入證劵ノ所持人ニ向テ直接ニ支拂ヲ爲ストキ又ハ前條ノ規定ニ從ヒ預證劵ノ所持人カ供託ヲ爲シタル場合ニ當テハ固ヨリ本條ノ如キ規定ノ必要ヲ見サルモノナリト雖モ不然場合ニ當テハ特ニ必要ナリト信スルヲ以テ之ヲ設ケタリ然リ而シテ如何ナル方法ヲ以テ規定スヘキヤニ付キ外國ノ立法例ヲ取調ヘタルニ外國ニ於テハ爲替手形ニ於ケル拒絕證書ニ倣ヒ此場合ニ拒絕證書ヲ作成セシムルモノアリ是最モ其當ヲ得タルモノト信シ本案ニ於テモ亦爲替手形ニ關スル規定ニ從ヒ拒絕證書ヲ作成スヘキモノトセリ尤モ右ノ外此場合ニ通知ノ必要アルカ如シト雖モ想フニ多クノ場合ハ物品ノ代價ヲ以テ足レリトスルヲ以テ特ニ通知ノ必要ナキモノト考ヘ之ヲ不必要トシタリ佛國ニ於テハ爲替手形ニ關スル規定ヲ此場合ニ適要スルヲ以テ其結果通知ヲ認ムルニ至ルト雖モ是等ハ余輩ノ探ラサルトコロナリ次ニ拒絕證書作成ノ日ヨリ一週間ヲ經過シタル後ハ其物品ヲ競賣スルコトヲ得セシムル爲メ第二項ノ規定ヲ設ケタリ而シテ此競賣ニ關スル詳細ハ別ニ競賣法ナルモノヲ設ケ之ニアル可ケレハ同法ノ中ニ規定シタル事項ヲ適用スル爲メ玆ニ省略シタリ又此第二項ニ所謂競賣ハ何人ニ向テ之ヲ請求スヘキヤト云フニ倉庫營業者タルコト勿論ナリト富谷君ハ一ノ動議ヲ提出シテ曰ク本條ノ如ク拒絕證書作成ノ日ヨリ一週間ヲ經過シタル後ハ直チニ物品ヲ競賣セシムルモノトセンカ甚酷ニ失スルモノト言ハサル可ラス何トナレハ是等ノ場合ニ於テハ實際支拂人ハ支拂ニ付キ失念スルコトナキヲ保ス可ラサレハナリ然ルニ何ンヤ一回ノ通知タモ爲サスシテ單ニ拒絕證書ヲ作成シ而シテ其後=週間ヲ經過シタリトテ直チニ競賣セシムルモノナレハナリ故ヲ以テ義務者ノ利益ノミナラス亦權利者ノ爲メニモ便利ナル場合多キモノト信スレハ特ニ通知スヘキモノト修正スルノ說ヲ提出スト
岸本君ハ本條ヲ批難シテ曰ク本條ノ場合ハ若シ辨濟期ニ至リ支拂ヲ爲ササルトキハ預證劵所有者ニ向テ支拂ヲ請求シ而シテ支拂ヲ爲ササルトキハ初メテ拒絕證書ヲ作成シ且競賣ヲモ許スモノトセハ穩當ナルヘシ然レトモ假リニ右ノ如クセンカ實際預證劵ノ所持者ハ輾轉スル爲メ最後ノ所持者タル者ハ果シテ何人ナルヤ判然セサル場合之レアルヘキヲ以テ不可ナルヘシ然レハトテ原案ノ儘ニセンカ酷ニ失スルノミナラス第一何人ヨリ質入證劵所持人ハ支拂ヲ受クヘキヤ判然セス故ヲ以テ今少シク文章上此㸃ヲ明確ニセラレタシト
右ニ對シ田部君辯シテ曰ク最初ノ借主ハ勿論分カリ居レリト雖モ其後ニ於ケル預證劵所持人ハ實際判然セサル場合多カルヘシ故ニ最初ノ借主卽チ債務者ニ向テ請求シ且其處ニ於テ拒絕證書ヲ作成スルコトニナルヘシト信ス何トナレハ前回ニ於テ預證劵所持人ノ輾轉スル場合ニ於テハ一々通知スヘキモノト爲スヤ否ヤニ付キ議論アリタリト雖モ逐ニ通知ノ必要ヲ認メサルコトニ決定シタルヲ以テ右ニ述ヘタル如ク爲ルム外ナキモノト考フレハナリ想フニ第二百九十五條辛ノ規定之レアルヲ以テ實際上ハ義務者ニ於テ注意ヲ爲ストキハ自己ノ物品ヲ賣却セラルルコトハ之ヲ知ルコトヲ得ヘキヲ以テ多クノ場合ハ自ラ進テ支拂ヲ爲スニ至ルヘシト信ス故ヲ以テ原案ノ儘ニテ可ナリト信スト
岸本君ハ修正說ヲ提出スルニ先タチ起草者ニ質問シテ曰ク若シ直接ニ支拂ヒノ請求ヲ受ケ而シテ爾支拂ハサルトキハ拒絕證書ヲ作成シ且競賣スルコトヲ得ヘキモノト爲スハ可ナリト雖モ不然シテ本條ノ如キ主義ヲ以テ競賣ヲ許スハ何レニシテモ極メテ酷ナリト信ス止ムナクンハ原案ノ一週間ナル期限ヲ延長スルノ外ナカルヘキ乎付テハ之ニ關スル外國ノ立法例ハ果シテ如何ナルヤト
右ニ付キ田部君答ヘテ曰ク外國ニ於テハ通知ノ規定ヲ認メサルモノ却テ多數ナリ唯佛國ニ於テハ既ニ述ヘタル如ク其必要ヲ認メタルノミ付テハ原案ニ於ケル一週間ナル期限ヲ延長スルニ付テハ强テ反對スルニ非ラスト雖モ若シ一々通知スヘキモノトセンカ實際困難冖ノ場合多カルヘシト信スルヲ以テ贊成スル能ハス又縱令原案ノ如クスルモ質入證劵所持者ハ自ラ注意ヲ爲スコトヲ得ヘク且第一ノ債務者ニ於テモ拒絕證書ヲ作成セラルヘキコトハ之ヲ覺悟セルモノト看做シテ可ナリト信スレハ實際上差支ナカルヘシ殊ニ況ンヤ凡ソ質入ヲ爲スニ當リテハ他日辨濟期ヲ經過シ尙ホ支拂ヲ爲ササルトキハ其目的物ヲ賣却セラルルコトハ固ヨリ豫想シタリシモノト看做スヘケレハナリト
岸本君ハ修正說ヲ提出シテ曰ク預證劵所持人ハ實際輾轉スルモノナレハ縱令本條ノ場合ニ通知セシメント欲スルモ困難ナルヘシ然レハトテ本條ノ如ク拒絕證書ヲ作成シ而シテ一週間經過ノ後競費ヲ許スヘキモノトセンカ其拒絕證書ヲ作リタルノ利益果シテ之レアルヤヲ疑フ何トナレハ預證劵所持人ハ却テ拒絕證書ヲ作成シタルコトヲ知ラサル場合多ケレハナリ故ヲ以テ余ハ寧ロ拒絕證書作成ノ主義ヲ改メ辨濟期ニ至リ支拂ヲ爲サスシテ其期限ヨリ二週間ヲ經過スルトキハ物品ノ競賣ヲ請求スルコトヲ得ヘキモノトスルノ主意ニ修正スルノ說ヲ提出スト
右ニ付キ田部君駁シテ曰ク只今ノ修正說ニハ根本ヨリ反對ナリト河村君ハ富谷君ニ質問シテ曰ク同君カ本條ニ通知ヲ要スル旨ノ主意ヲ附加ストノ修正說ヲ提出セラレタルハ果シテ何人ニ向テ通知セシムルトノ精神ナルヤト
富谷君答ヘテ曰ク實際預證劵所持人ノ何人タルヤハ判然セサル場合多カルヘシト信スルヲ以テ卽チ第一ノ質入裏書人ト預證劵所持人トノ兩者ニ向テ通知セシムル考ヘナリト
岸本君ハ更ニ修正ノ希望ヲ述ヘテ曰ク本條ノ規定ハ或ハ法律トシテハ可ナルヘシ然レトモ實際上ニ於テ少シク酷ナリト信スルヲ以テ寧ロ第一ノ質入裏書人ニ通知シ而シテ支拂ハサルトキハ拒絕證書ヲ作リ其後二週間ヲ經過シタル後ニ於テ競賣セシムルノ主義ニ修正セラレタシト
右ニ付キ岡野君反問シテ曰ク若シ通知セサルトキハ如何ナル結果ヲ生スヘキ考ヘナルヤト
岸本君答ヘテ曰ク然ル場合ハ償還請求權ヲ失フヘシト
以上要スルニ富谷君ノ修正說ニハ贊成者アリテ採決ニ至リタレトモ少數ニテ消滅シ他ハ採決ニ至ラスシテ原案ニ可決シタリ
第二百九十五條癸一 倉庫營業者ハ競賣代金ノ中ヨリ競賣ニ關スル費用、受寄物ニ課スヘキ租稅、保管料其他保管ニ關スル費用及ヒ立替金ヲ扣除シタル後其殘額ヲ質入證券ト引換ニテ其所持人ニ拂渡スコトヲ要ス
競賣代金ノ中ヨリ前項ニ揭ケタル費用、租稅、保管料、立替金及ヒ質入證券所持人ノ債權額、利息、拒絕證書作成ノ費用ヲ扣除シタル後餘剰アルトキハ倉庫營業者ハ之ヲ預證券ト引換ニテ其所持人ニ拂渡スコトヲ要ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法八、澳千八百八十九年四月二十八日法一六、三五、伊四七三、葡四二〇、四二一、白千八百六十二年十一月十八日法一七、一八
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ前條ノ規定ニ從ヒ物品ヲ競賣シテ得タル代金ノ處分方法ニ關スル規定ナリ而シテ第一項ニ因リ倉庫營業者ハ競賣代金ノ中ヨリ競賣ニ關スル費用、受寄物ニ課スヘキ租稅、保管料其他保管ニ關スル費用及ヒ立替金ヲ扣除シ而シテ其殘額ヲ質入證劵ト引換ニテ其所持人ニ拂渡スヘキモノニシテ此結果倉庫營業者ハ先取特權ヲ生スルモノナリ尤モ先取特權ニ付テハ帳令本條ノ規定之レナクトモ民法ノ規定ヲ適用スルコトヲ得ヘシト雖モ然レトモ本條ノ設ケアル爲メ適用ヲ擴張シタリ次ニ第二項ハ畢竟質權實行ノ爲メ競賣シタルモノナルヲ以テ倉庫營業者カ扣除シタル殘額ハ先ツ之ヲ質入證劵所持人ニ拂渡スヘキモノトシ而シテ尙ホ餘剩アルトキハ之ヲ預證劵所持人ニ支拂フヘキカ爲メニ設ケタルモノナリト
井上君ハ本條第二項ノ末段ニ「拂渡スコトヲ要ス」トアルヲ「支拂フコトヲ要ス」ト修正スルノ案ヲ提出シテ曰ク之レ固ヨリ文章上ノコトナルヲ以テ强テ重要視スルニアラスト雖モ他ノ文例ニ等シカラシメンカ爲メナリト
田部君答ヘテ曰ク固ヨリ文章上ノコトナレハ井上君ノ修正案ニ贊成セント
右ニ付キ本條第二項ノ末文ハ「支拂フコトヲ要ス」ト改メタリ
右ノ外本條ニ付テハ質問及ヒ答辯ニ止リ原案ニ可決シ次條ニ移リタリ
第二百九十五條癸二 競賣代金ヲ以テ質入證券ニ記載シタル債權ノ全部ヲ支拂フコト能ハサリシトキハ倉庫營業者ハ其支拂ヒタル金額ヲ質入證券及ヒ其帳簿ニ記入スルコトヲ要ス
(參照)澳千八百八十九年四月二十八日法三五
田部君ノ說明ニ曰ク要スルニ物品ヲ競賣スルトキハ其代金ヲ以テ債權ノ全部ヲ支拂フコトヲ得ヘキ場合多カルヘシト雖モ或場合ニ於テハ其物品ノ價下落スルカ若クハ其物品ノ毀損セル爲メ實際競賣代金ヲ以テ支拂上不足ヲ吿クルコト之レアルヘシ本條ハ蓋シ是等ノ場合ニ適用セシメンカ爲メニ設ケタルモノナリ故ニ條文ニ明示スルカ如ク卽チ競賣代金ヲ以テ質入證劵ニ記載シタル債權ノ全部ヲ支拂フコト能ハサル場合ニ於テハ倉庫營業者ハ支拂ヒタル金額ヲ質入證劵ニ記入シ且ツ自己ノ帳簿ニモ等シク記入スヘキモノト定メタリ如斯記入スルトキハ其結果債權殘額ノ幾何ナルヤヲ一見シテ知ルコトヲ得ヘキ便宜アレハナリト
磯部君ハ前條ト本條トヲ對照シ文章ノ不完全ナルヲ論シテ曰ク前條第一項末段ニハ倉庫營業者ハ殘額ヲ質入證劵ト引換ニテ其所持人ニ拂渡スコトヲ要ストアリ而シテ本條ニハ債權ノ全部ヲ支拂フコト能ハサルトキハ倉庫營業者ハ其支拂ヒタル金額ヲ質入證劵及ヒ其帳簿ニ記入スルコトヲ要ストアリ右兩條ノ規定ヲ對照推考スル債權全部ノ支拂ヲ爲スコト能ハサルトキハ果シテ質入證劵ハ如何ニスルヤノ㸃ニ付キ規定ナキカ如シ是等ハ缺㸃タルヲ免カレスト信ス
右ニ付キ田部君辯シテ曰ク固ヨリ文章完全ナリト斷言スル能ハスト雖モ然レトモ起草ノ精神ニ於テハ債權全部ヲ支拂ヒタルトキハ前條ノ規定ニ依リ質入證劵ト引換ユヘク之ニ反シテ一部ヲ支拂ヒタルトキハ其質入證劵タルヤ尙ホ其所持人ニ於テ必要ノモノナルヲ以テ依然繼續シテ之ヲ所持セシムルノ主意ヲ本條ニ包含セシメタルモノナリト雖モ文章ニ付テハ今一應再考セント
富谷君ハ修正說ヲ提出シテ曰ク原案ノ如ク倉庫營業者ヲシテ其支拂ヒタル金額ヲ質入證劵ニ記入セシムヘキモノトセンヨリカ寧ロ他日ノ證據ト爲スノ便宜ヲ考ヘ質入證劵所持人ヲシテ署名セシメ其受取リタルコトヲ明確ニスル方優レリト信スルヲ以テ此主義ニ修正スルノ讀ヲ提出スト
磯部君モ亦修正說ヲ提出シテ曰ク倉庫營業者ノ責任ヲ明確ニセント欲スルニハ原案ノ如ク單ニ「倉庫營業者ハ其支拂ヒタル金額」トセンヨリカ寧ロ「倉庫營業者ハ質入證劵所持人ノ債權額、利息及ヒ拒絕證書作成ノ費用ニ付キ支拂ヒタル金額」ト改メ以テ質入證劵ニ詳細ノ記入ヲ爲サシムルヲ可ナリト信ス次一一原案ニハ倉庫營業者ヲシテ自己ノ帳簿ニ支拂ヒタル金額ヲ記入セシムル旨ノ規定アリト雖モ是等ハ殆ント無用ナリト信スト
右磯部君ノ修正說ニハ贊成者アリタリシヲ以テ梅君辯シテ曰ク若シ磯部君ヨリ主張セラレタルカ如ク質入證劵ニ細密ノ事項ヲ記入スヘキモノトセンカ第一質入證劵面ヲシテ汚穢ナラシムルト又一ツハ元來倉庫營業者タル者ハ信用ヲ負ヘル者ナシハ漫ニ不信用ヲ置クヘキ者ニ非ラス故ヲ以テ强テ修正スルニ及ハサルヘシト
右磯部君ノ修正說ニ付キ採決シタリト雖モ贊成者少數ニテ消滅シ其他ハ採決ニ至ラスシテ本條ハ可決シタリ尤モ本條ハ文章ハ起草者ニ於テ再考ノ旨ヲ留保セラレタリ
第二百九十五條癸三 質入證券ノ所持人ハ先ツ寄託物ニ付キ辨濟ヲ受ケ尙ホ不足アルニ非サレハ債務者其他ノ裏書人ニ對シテ請求ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法九、澳千八百八十九年四月二十八日法三六、伊四七四、葡四二二
田部君ノ說明ニ曰ク質入證劵ヲ目的トシテ貸金ヲ爲ス場合ニ於テハ實際品物ヲ主要視シ之ニ信用ヲ置クモノナレハ實際其品物ノ代金ヲ以テ債權ノ辨濟ヲ爲シ得ヘキ場合多カルヘシト雖モ或ハ又然ラサル場合ナキニアラス付テハ質入證劵ヲシテ圓滑ニ流通セシムルニハ爲替手形ト等シク裏書人ニ向テモ亦請求ヲ爲スコトヲ得ヘキモノト規定スルヲ以テ可ナリト信シ卽チ本條ノ如キ規定ヲ設ケタル所以ナリト
磯部君ハ本條ノ「其他」以下ノ文字ヲ不必要ナリト難シテ曰ク此場合ニ於ケル裏書人ハ恰モ副保證人ノ如キ責任ヲ負フヘキモノナレハ特ニ規定セサルモ當然ノコトナレハナリト
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク若シ夫レ「其他」以下ノ文字ヲ削除センカ裏書人ハ資力擔保ノ責ヲ負ハストノ解釋ヲ爲ササル可ラサルニ至ルヘシ何トナレハ此裏書人ハ單純ノ讓渡人ニシテ明文ナキ以上ハ資力擔保ヲ爲スモノト解スルコト能ハサレハナリ故ニ磯部君ノ如キ單純ノ理由ヲ以テ削除スルニハ反對ナリト
本條ハ右ノ外質問及ヒ之ニ封スル答辯ニ止リ途ニ原案ニ可決シテ次條ニ移リタリ
第二百九十五條癸四 質入證券ノ所持人カ辨濟期ニ至リ支拂ヲ受ケサリシ場合ニ於テ拒絕證書ヲ作成セシメサリシトキ又ハ拒絕證書作成ノ日ヨリ二週間內ニ倉庫營業者ニ對シ物品ノ競賣ヲ請求セサリシトキハ裏書人ニ對スル請求權ヲ失フ
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法九、伊四七五、葡四二四、白千八百六十二年十一月十八日法一九
田部君ノ說明ニ曰ク辨濟期ニ至リ支拂ヲ受ケサル爲メ質入證劵所持人カ拒絕證書ヲ作リタル場合ニ於テハ最初ノ債務者タル者支拂ヲ爲スヘキモノナリト雖モ若シ其者カ他ニ讓渡シタリシトキハ自身ニ於テ其讓受人ニ通知ヲ爲スニ至ルヘシ要スルニ支拂ノ義務ヲ有スル者カ支拂ヲ爲ササルトキハ爲メニ物品ヲ競賣セラルルヲ以テ多クノ場合ハ自ラ進ンテ之ヲ爲スヘシ然ルトキハ裏書人ハ何等ノ請求ヲモ受ケサルモノナリ又拒絕證書ヲ作成シ長キ期間競賣ノ請求ヲ爲ササルトキハ其結果裏書人ニ對スル請求權ヲ失フヘキモノト爲スヲ以テ正當ノ方法ト信シ右ノ如クシテ其期間ヲ二週間ト定メタリ尤モ一般債務者ニ對シテハ此限ニ在ラスシテ他ノ規定ヲ適用スルニ至ルヘキナリト
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移リタリ
第二百九十五條癸五 債務者ニ對スル質入證券所持人ノ請求權ハ辨濟期ヨリ一年間之ヲ行ハサルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
(參照)伊四七五、葡四二三
田部君ノ說明ニ曰ク前條ハ債務者卽チ最初ニ質入證劵ヲ質入ト爲シタル者ニ非ラサル裏書人ニ對スル規定ニツテ本條ハ之ト異ナリ最初ニ質入證劵ヲ質入ト爲シタル債務者ニ對スル時效ノ期限ヲ定メタルモノナリ而シテ此場合ニ於テハ法文ニ明示スルカ如ク質入證劵所持人カ辨濟期ヨリ一年間內ニ辨濟ノ請求ヲ爲ササルトキハ其請求權ハ時效ニ因リテ消滅スヘキモノトシタリト
磯部君ハ原案ノコ年間」ナル「期限」ヲ以テ短期ニ失スルモノト難シ田部君ハ辯シテ曰ク若シ最初ニ金ヲ借リタル者カ每ニ預證劵ノ所持者ナランカ或ハ本條ニ揭ケタル期限ヲ延長スルノ理由アルヘシ然レトモ實際預證劵ハ輾轉シ其所有者從テ異ナルニ至ルヲ以テ若シ永ク最初ノ借主卽チ預證劵所持人ヲシテ請求ニ應スヘキモノトセン力實際其者ノ迷惑過度ナリト謂ハサル可カラス故ニ外國ニ於テモ本案ト同一ノモノ多シ故ニ修正スルノ必要ヲ見スト
河村君ハ本條ト第二百九十五條癸三トヲ對照スルトキハ釣合上少シク時效ノ期間ニ差等ヲ詳クル方可ナルヘシト注意シ梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク第二百九十五條癸三ノ場合ハ不足ヲ生シタル場合ナルヲ以テ本條ニ比スレハ或ハ時效ノ期間ヲ延長スルヲ以テ優レリトスルヤヲ知ル可ラス故ニ此㸃ニ付テハ再考セント
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ