第七十三回商法委員會議事要錄
明治三十年四月十二日午後四時開議
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
鶴原定吉君
土方寧君
田部芳君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
富井政章君
梅謙次郞君
元田肇君
尾崎三良君
三浦安君
高木豐三君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第二百九十五條ノ次ニ左ノ十五條ヲ加フ
第二百九十五條甲 寄託者ハ倉庫營業者ニ對シ寄託物ノ預證券及ヒ質入證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
(參照)澳千八百八十九年四月二十八日法一七、匈四三九、西一九四
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ預證劵及ヒ質入證劵ノニ箇ヲ發行スル主義ヲ取リ今日迄行ハレシ一枚主義ヲニ枚トセリ外國ノ立法例ニ於テ一枚ヲ原則トセルハ英吉利、和蘭、すてるらつき、西班牙、はんぶるぐナリニ枚ヲ原則トスルモノハうんがるん、伊太利ナリ元來我國ハ一枚ナリシモニ枚ヲ便宜ニ認メ之ヲ改メタリ次ニ本條ハ寄託者ノ權利ヲ定メタルヲ以テ寄託者ヨリ請求スルトキハ交付スヘキコトヲ認メタリ本條ハ預證劵及ヒ質入證劵ノ雙方孰レヲモ併セテ請求スルハ差支ナキハ勿論ナルモ外國ノ立法例ニ雙方附與スヘキモノト爲スモ本案ハ之ニ反シテ預證劵若クハ質入證劵ノ一方ヲモ請求シ得ルコトトセリト
高木君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク預證劵ト質入證劵トヲ同時ニ發行セサル場合ニハ此證劵ヲ質入シタルトキ雙方ニ其事由ヲ記載スルコトヲ得ス而シテ此場合ニ雙方ヲ個々ニ使用サレシトキハ他人ハ其事情ヲ知ラサルカ爲メ不慮ノ損害ヲ被ルニ至ル故ニニ枚共同時ニ發行セシメサルヘカラス其故ニ本條ハ之ヲニ枚主義トナシ預證劵ト質入證劵トヲニ通同時ニ發行スルトノ主義ヲ爲ス修正案ヲ提出スヘシト梅看ノ答辯ニ曰ク高木君ノ說ハ便宜ナルカ如シト雖モ本案ニ必要ナシ何トナレハ預證劵丈ケ發行シタル後ニ質入證劵ヲ發行スル事ヲ得ス故ニ預證劵及ヒ質入證劵ノニ通ナキトキハ質入證劵ノ效用ヲ爲サス何レノ時力第二百九十五條壬ノ規定ニ依リテニ枚ヲ提出スレハ其預證劵ヲ觀タル上ニテ安心シテ爲シ質入證劵ノ方ノミ提出スルトキハ預證劵ヲ出シタルコトトナルヘシ若シ不明ナレハ修正アランコトヲ請フト述ヘ右修正案ハ引績キ數回ノ辯論アリテ最後ニ採決セシニ多數ニテ高木君ノ如ク改ムルコトニ決セリ
引續キ富井君ハ希望ヲ述ヘテ曰ク本條カ高木君ノ讀ニ定リシ故若シ讓渡ヲ爲ストキ質入證劵カ其者ノ手ニ存スルトキハ同時ニ之ヲ引渡スコトヲ望ムト述ヘ起草者ハ本條ヲ改メテ提出スルコトヲ約束セラレタリ
第二百九十五條乙 預證券及ヒ質入證券ニハ左ノ事項ヲ記載シ且之ニ番號ヲ附記シ倉庫營業者署名スルコトヲ要ス
一 受寄物ノ種類、品質、數量、荷造ノ種類、個數及ヒ記號
二 寄託者ノ氏名、營業所若クハ住所
三 保管ノ場所
四 保管料
五 保管ノ期間ヲ定メタルトキハ其期間
六 受寄物ヲ保險ニ付シタルトキハ保險金額、保險期間及ヒ保險者ノ氏名、營業所
七 此他寄託契約ノ要領
八 預證券及ヒ質入證券ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
九 倉庫營業者ノ營業所
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法一、二、澳千八百八十九年四月二十八日法一八、匈四四〇、伊四六一、四六二、西一九四、二項、葡四〇八、白千八百六十二年十一月十八日法三
訂正第七號中「作成地及ヒ」ハ「作成地竝ニ」ノ誤
田部君ノ說明ニ曰ク本案ノ預證劵ハ記名附記ナル考ニテ起草セリ卽舊商法六百ニ十一條ニ於ケル受取證書ハろいすれる氏ノ起草セル草案ノ「わーれんと」ナル文字ノコトヲ云フモノニシテ此受取證書ハ預證劵ヲ指シタルナリ最其他ノ場所ニ於テハ舊商法質權ノ第三百六十九條ニ於テ倉荷證書トアリ部舊商法ニ於テモ倉庫營業者カ作製スル證劵ヲ認メタリ右無記名式ハ現在ノ慣習ニハ之ヲ認ムル必要ナシ然レトモ先ツ本案ニ於テハ無記名式ノ主義ヲ採ラスシテ記名主義ヲ採リ且後ノ規定ニテモ記名差圖式ニテモ性質上裏書ヲ爲サシムルコトトセリ又第六號ノ保險ハ寄託者ヨリ依賴アルトキハ其物ヲ保險ニ附シ必スシモ保險ニ附スヘキ義務ヲ倉庫營業者ニ負ハシメス又或國ノ如キモ倉庫營業者ニ請求アルトキハ保險ニ附スルコトトセリ然リ而シテ本案規定ノ外保險金額ノコトハ保險者カ權利ヲ有スルコトハ民法ノ規定ヲ以テ足レリ卽チ質權竝ニ先取特權ノ規定ニテ第三百四條第三百五十條ノ如キ是ナリ此等ノ規定ヲ準用セハ足ルヘシ畢竟保險金ハ本案ニモ之ヲ包含スヘシ如斯趣旨ナレハ右規定ヲ特ニ設ケサルモ可ナリ次ニ第七號ノ契約ノ要領ヲ記載スルハ如何ナル理由ナリヤト云フニ例ヘハ倉庫營業者ハ時トシテ受寄物ノ滅失毀損スルコトアリ或ハ其約束ハ違フコトアリ此等ノ場合ニ付キ後日契約ニ違背スル虞アルヲ以テ其要領ヲ記載セシムルコトトセリト述ヘ本條ハ原案ニ可決セリ
第二百九十五條丙 預證券及ヒ質入證券ヲ寄託者ニ交付シタルトキハ倉庫營業者ハ其帳簿ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 預證券及ヒ質入證券ノ番號及ヒ其作成ノ年月日
二 前條第一號、第二號及ヒ第四號乃至第七號ニ揭ケタル事項
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法二、澳千八百八十九年四月二十八日法一七、匈四三九、伊四六二、葡四〇八、白千八百六十二年十一月十八日法二二
田部君ノ說明ニ曰ク倉庫營業者カ預證劵竝ニ質入證劵ヲ發行シタルトキハ其事項ヲ帳簿ニ揭ケ且其原簿ヲ保存シ置クコトヲ要ス是證劵ノ滅失シ若クハ原簿三記入スルノ必要アレハナリト
本條ハ原案ニ可決セリ
第二百九十五條丁 預證券及ヒ質入證券ノ所持人ハ倉庫營業者ニ對シ寄託物ヲ分割シ且其各部分ニ對スル預證券及ヒ質入證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ所持人ハ前ノ預證券及ヒ質入證券ヲ倉庫營業者ニ還付スルコトヲ要ス
前項ニ定メタル寄託物ノ分割及ヒ證券ノ交付ニ關スル費用ハ所持人ノ負擔トス
(參照)澳千八百八十九年四月二十八日法二六、伊四六四、葡四一〇、白千八百六十二年十一月十八日法二三
訂正參照中「佛千八百五十五年三月十ニ日勅一五」ノ十六字ヲ加フ
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ趣意ハ或數量ノ物ヲ寄託シ其後ニ至リ之ヲ數箇ニ分割スル證劵ヲ發行スルコトヲ許スカ便宜故本條ニ於テ其權利ヲ認メタリ右ノ事柄ニ付テハ我國ニモ其慣習アリテ實際上便宜ナルカ故ニ設クルコトトセリ或國ノ如キハ預リシ物品ヲ併合シ特定物ト爲サス米ハ何ノ米力分ラサルカ如ク爲シ例ヘハ石炭油幾何ト云フカ如キ證劵ノ發行ヲ認メタルモノアレトモ我邦ニ於テハ是迄ノ必要ヲ認メサルカ故ニ設ケサルコトトセリト
本條ハ原案ニ可決セリ
第二百九十五條戊 倉庫營業者カ預證券及ヒ質入證券ヲ發行シタルトキハ寄託者又ハ其承繼人ハ其證券ヲ以テスルニ非サレハ寄託物ニ付キ一切ノ處分ヲ爲スコトヲ得ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法四、澳千八百八十九年四月二十八日法二三、二五、三七、三八、匈四五〇、瑞二一二、伊四六九、葡四一四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ證劵ヲ發行スルニニ種類アリテ其證劵ヲ以テ處分セサレハ寄託物ハ處分シ能ハサルコトトナルヘシ而シテ證劵ヲ發行スレハ寄託者カ寄託物ヲ賣ルニ裏書ヲ爲シ若又質入ヲ爲スニハ質入證劵ノ裏書ヲ爲スモノトス畢竟如斯セサレハ一枚ニシテニ枚ノ働キヲ爲スカ故ナリ此規定ニシテ若シ賣買質入ト爲サンカ穩ナラサル結果ヲ惹起スルカ故一ニ切ノ處分トセリ、寄託者ノ債權者ニシテ差押ヲ爲サントスルトキハ寄託物ヲ差押ヘスシテ發行證劵ヲ押ヘルコトニ歸スヘシ若シ然ラスト爲サンカ不都合ノ結果ヲ生シ精神上一枚カニ枚トナルニ至ルヘシト
本條ハ原案ニ可決セリ
第二百九十五條己 預證券及ヒ質入證券ハ其記名式ナルトキト雖モ同時又ハ各別ニ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡シ又ハ質入スルコトヲ得
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法三、澳千八百八十九年四月二十八日法一九、匈四四〇、四四一、伊四六五、西一九四、葡四一一、白千八百六十二年十一月十八日法五
田部君ノ說明ニ曰ク本案ニ依リテ預證劵及ヒ質入證劵ハ成立上裏書スヘキコトヲ顯ハセリ以上ノ證劵ハ同時ニ行使スルコトアリト雖モ質入證劵ノミヲ質權ノ目的物ト爲スコトアルカ故ニ預證劵ノミ裏書ヲ爲シ質入證劵ノミヲ單ニ差入ルコトハ能ハサルコトニ修正ノ結果トシテ定マリシカ故ニ此㸃ハ明瞭ニ爲スコトヲ留保セシヲ以テ後回ニ修正案ヲ提出スルヤモ知レスト
本條ハ起草者ヨリ留保セシ外原案ニ可決セリ
第二百九十五條庚 預證券又ハ質入證券カ滅失シタルトキハ其所持人ハ相當ノ擔保ヲ供シテ更ニ其證券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法一二、澳千八百八十九年四月二十八日法三九、匈四五二、瑞八四四、伊四七六、白千八百六十二年十一月十八日法二四、二五
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ預證劵及ヒ質入證劵ノ滅失毀損セシ場合ナリ此場合ニハ權利保護ノ方法ヲ定メ相當ノ擔保ヲ供スレハ證劵ヲ請求スルコトヲ許セリ此場合ニ公示催吿手續ニ依ルヤ否ヤハ問題ニシテ民法ニ規定セシナレハ本條ニモ加フヘキナレトモ民法ニ其規定ナキ故此㸃ハ諸君ノ考慮ヲ煩ハス乍併此他ニ加フルコトニ付テハ別段妨ケハナカラント
本條ハ原案ニ可決セリ
第二百九十五條辛 質入證券ニ第一ノ質入裏書ヲ爲スニハ債權額、其利息及ヒ辨濟期ヲ記載スルコトヲ要ス
預證券ノ所持人カ第一ノ質入裏書ヲ爲シタルトキハ前項ニ揭ケタル事項ヲ預證券ニ記載シ質權者ヲシテ之ニ署名セシムルコトヲ要ス
(參照)佛千八百五十八年五月二十八日法五、澳千八百八十九年四月二十八日法二〇、匈四四二、伊四六六、葡四一二、白千八百六十二年十一月十八日法六
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ前條ニ於テ既ニ問題トナリシ規定ナリ而シテ質入證劵ニ第一ノ質入裏書ヲ爲スニハ債權額其利息及ヒ辨濟期ヲ書入ルコトヲ要ストセリ、若シ此場合ニ右ノ事項ノ記入ナカランカ此證劵ニ幾何ノ負擔アルヤヲ知ルコトヲ得サルヘシ央ニ本條ニ於テ第一ノ質入裏書ニ限リ以上ノ記載ヲ爲シ其他ノ場合ニ於テ質入裏書ヲ爲ササルハ何ンヤ他ナシ第一ノ質入裏書ヲ爲スニハ債權額其利息及ヒ辨濟期ヲ書入ルコトヲ要ストセリ、若シ此場合ニ右ノ事項ノ記入ナカランカ此證劵ニ幾何ノ負擔アルヤヲ知ルコトヲ得サルヘシ次ニ本條ニ於テ第一ノ質入裏書ニ限リ以上ノ記載ヲ爲シ其他ノ場合ニ於テ質入裏書ヲ爲ササルハ何ンヤ他ナシ第一ノ質入以外ノ質入ハ第一ノ金額ニ超過スルコトナキカ爲メナリ是第一ノ質入ニ裏書ヲ限リシ所以ナリ第二項ハ預證劵ヲ有セル者ニハ前項ノ質入ヲ爲シタルコトヲ其證書ニ記入セシムルコトトセリ他ナシ若シ預證劵ノ所持人ニシテ質入裏書ナキモノヲ所有センカ所持人ハ之ヲ奇貨トシ質入ヲ爲シタル後モ尙ホ質權ノ設定ナキカ如ク裝ヒ之ヲ輾轉スルコトヲ得ルニ至ルヘシ本案ハ以上ノ弊ヲ矯正セシカ爲メ第二項ノ規定ヲ設ケタルナリト
富井君ハ本條第二項ヲ批難シテ曰ク第一ノ質入裏書ヲ爲シタルトキハ云々ノ文字ヲ以テ質權設定ノ要件ト爲スハ穩カナラス(田部君ハニ百九十五條戊ノ規定カ其中ニ含ムヘシト答ヘタリ)第二百九十五條戊ハ證劵ヲ以テセル裏書トナルヘシ其迄モ尙ホ質權ハ成立スルヤ余ハ質權ノ成立要素ナリト信スルモ然レトモ文章上成立要件トナラサルヘシト
右批難ノ結果富井君ノ說ハ起草者ニ於テ再考スルコトヲ約セラレ他ハ原案ニ可決セリ
午後六時四十分閉會