第七十二回商法委員會議事要錄
明治三十年四月九日午後三時三十分開議
出席員
淸浦奎吾君
鶴原定吉君
村田保君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
梅謙次郞君
菊池武夫君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
南部甕男君
三浦安君
岡野敬次郞君
第九章 寄託
第一節 總則
第二百九十二條 商人カ其營業ノ範圍內ニ於テ寄託ヲ受ケタルトキハ報酬ヲ受ケサルトキト雖モ善良ナル管理者ノ注意ヲ爲スコトヲ要ス
（參照）舊二八九、六〇七、六〇八、獨二八二、同草三一九、匈二七一、西三〇六乃至三〇八、葡四〇五
田部君說明シテ曰ク舊商法ニ在リテハ寄託ニ付キ多クノ規定アリト雖モ其大分部ハ民法三談ルコトヲ得ルモノナリ本案ハ只其必要ナル部分ノミヲ探リテ之ヲ總則トシテ揭ケタリ而シテ責任ノ程度如何ト云フニ無報酬ノ場合ハ民法寄託ノ部ニ於テ規定アルヲ以テ之ニ依ルヘク又報酬アル場合モ民法債權總則第四百條ニ於テ特定物ノ引渡ノ義務ノ事ヲ定メアルヲ以テ是又特ニ本案ニ規定スルノ要ナキカ如シト雖モ元來商法ニ在リテハ報酬問題ニ付悉ク民法ヲ適用スルハ頗ル其當ヲ得タルモノニ非スト信シ總テ報酬ノ有無ヲ問ハス營業ノ範圍內ニ於テハ善良ナル管理者ノ注意ヲ要スルコトトセリト、本條ニ付テハ別段異議ヲ唱フル者ナク從テ修正案ノ提出モナク直チニ次條ニ移レリ
第二百九十三條 旅店、飮食店、浴場其他公衆ノ來集スヘキ場屋ノ主人ハ公衆ヨリ寄託ヲ受ケタル物ノ滅失又ハ毁損ニ付キ其不可抗力ニ因レルコトヲ證明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
公衆カ特ニ寄託セサル物ト雖モ場屋中ニ携帶シタル物カ場屋ノ主人又ハ其使用人ノ不注意ニ因リテ滅失又ハ毁損シタルトキハ場屋ノ主人ハ損害賠償ノ責ニ任ス
公衆ノ携帶品ニ付キ責任ヲ負ハサル旨ヲ吿示シタルトキト雖モ場屋ノ主人ハ前二項ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス
（參照）舊六〇九
田部君說明シテ曰ク本條ハ舊商法第六百九條ニ修正ヲ加ヘタルモノニシテ此第六百九條ハ近來ノ一問題ト爲リ居レリ而シテ日本ニ在リテハ彼歐洲ノ如ク場屋ノ主人ニ對シ重大ナル責任ヲ負ハシメス又其責任ヲ重大ニスルノ必要モナシ本條ハ公衆カ主人ニ物品ヲ預ケタル場合ト之ヲ預ケサル場合トヲ規定シ其第一項ハ預ケタル場合ニシテ第二項ハ預ケサル場合ナリ而シテ其預ケタル場合ニ於テハ主人ノ義務ヲ重大ニシ不可抗力ヲ證明スルニ非サレハ責任ヲ免カレサルモノトシ之ニ反シテ第二項ノ場合乃チ公衆カ主人ニ預ケスシテ自ラ携帶セルモノニ付テハ其責任ヲ輕クシ主人又ハ使用人ノ不注意アリタル場合ニ限リ義務ヲ負擔スヘキモノトシ此場合ハ公衆ニ擧證ノ責任アルモノトセリ第三項ハ則チ宿屋ノ吿示ノ效力如何ヲ定メタルモノニシテ外國ニ於テハ此㸃ニ付キ爭アリ從テ判決例モ尠カラス而シテ此 マこ喜三關シテハ特ニ規定ノ必要アリト認メタリ且吿示ナルモノハ確固タル契約ニアラサルカ故ニ本條ノ如クセリト
河村君ハ本條第一項ニ因リ損害賠償ノ請求ハ何年間之ヲ行ヒ得ルヤ之ニ關シテハ特別ノ時效アルヤヲ質問シタルニ田部君ハ之ニ關シ商法一般ノ時效ニ付キ規定ヲ設ケテ之ニ依ルヘキ旨ヲ答ヘ尙ホ河村君ハ反問シテ曰ク然ラハ倉庫營業ニ付テハ何故ニ第三百一條ニ特別ノ時效ヲ設ケテ之ヲ一个年ト限リシヤト
次ニ梅君ハ時效ノ事ニ付テハ或ハ規定ノ必要アルヘキヲ以テ一考スヘキ旨ヲ述ヘ次ニ岸本君ハ本條第二項ハ不必要ナリト主張シテ曰ク殊ニ「又ハ」以下ハ不用ナリ是等ハ民法ニ於テ明白ナル事實ニシテ敢テ本條ニ規定スルノ要ナシ故ニ本條第二項ニ規定シタル所ノモノハ則チ公衆カ特ニ寄託ヲ爲ササル場合ト雖モ使用人等ノ不注意ニ因リ滅失又ハ毀損シタルトキハ主人カ其賠償ノ責任ニ當ルヘキコトヲ規定シタルモノナラサルヘカラスト
梅君之ニ答ヘテ曰ク然ラス本條ニ「不注意」トハ敢テ使用人等ニ限ラス其主人タルト使用人タルトヲ問ハス苟モ不注意ニヨリ毀損等ノ結果ヲ生シタルトキハ主人カ賠償ヲ爲スヘキコトヲ規定セルモノニのシテ此規定ハ決シテ不用ナラス明文ヲ置カサレハ疑問ヲ生スヘシ或ハ又荷物ヲ運搬スルニ當リ不注意ヨリ破損ヲ生スル場合ノ如キハ不法行爲モ之レ有ルヘシト雖モ之ハ契約上ノ責任ト異ナリ本條ノ場合ハ契約ノ責任ニシテ民法ニ於テハ此等ニ關スル規定ナシ又不注意ト過失トハ異ナリ過失トハ普通人ノ注意ヲ缺クカ爲メニ損害ヲ生シタル場合ニシテ不注意トハ之ヨリモ一曆輕キコトヲモ含有シ乃チ間接ニ加ヘタル損害ヲモ含マシムルモノナリ故ニ「不注意」ナル文字ヲ使用セリト
次ニ穗積陳重君ハ本條第一項中最初ノ「公衆」トハ一般ニ指シタルモノナルカ故ニ不可ナシト雖モ第二ノ「公衆」トハ既ニ何レカ定マリタルモノ「コンクレート」ニシテ最初ノ「公衆」ヨリモ其意味狹隘ナリ故ニ文字ヲ改ムヘシト主張シ梅君ハ舊商法ニハ「客」トアリタルモ不體裁ナリトテ「公衆」ト改メタル旨述ヘ且「公衆」トハ一般ニ指シタルモノナリト雖モ其內ノ各自ノ意味ニモ使用シ得ヘク警察上「公衆」ノ文字ヲ用ユルハ專ラ此意味ナルカ如ク信シテ斯クセリト雖モ疑ヲ生スヘキヲ以テ之ヲ「客」ト改ムヘシトテ本條ハ玆ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百九十四條 貨幣、有價證券其他ノ高價品ニ付テハ公衆カ其種類及ヒ價額ヲ明吿シテ之ヲ前條ノ場屋ノ主人二寄託シタルニ非サレハ其場屋ノ主人ハ其物ノ滅失又ハ毁損ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス
（參照）舊六〇九
田部君ハ前條ノ決議ニ依リ本條ノ「公衆」ヲ「客」ト改ムヘキ旨ヲ述ヘ且本條ノ說明ヲ爲シテ曰ク高價品ニ付テハ運送ノ場合ト同一ニシテ宀咼價品ハ危險多キモノナルカ故ニ之カ種類、價額等ヲ明吿シ且主人ニ寄託ヲ爲スニ非サレハ主人ニ其責任ナシトセルモノナリト而シテ本條ニ付テハ別段ニ修正案ノ提出者ナク原案ニ可決シ直ニ次條ニ移レリ
第二節 倉庫營業
第二百九十五條 倉庫營業者トハ他人ノ爲メニ物品ヲ倉庫ニ保管スルヲ業トスル者ヲ謂フ
（參照）佛千八百五十八年三月二十八日法一、千八百七十年八月三十一日法一、獨草三九〇、匈四三四、四三五、西一九三
田部君說明シテ曰ク本節ノ表題ハ最初之ヲ「共同倉庫」ト爲シタリト雖モ之ハ佛語ヲ譯シタルモノニシテ寧ロ現今ノ「倉庫營業」ト云ヘル方適當ナリト信シテ斯クセリ而シテ舊商法ニ在リテハ右ニ關スル規定無シト雖モ本案ニ於テハ既ニ豫決問題ニ於テ之カ規定ヲ設クルコトニ決シタルヲ以テ玆ニ之ヲ設ケタリ抑モ倉庫營業ナルモノハ我邦ニ於テハ頗ル僅少ナリト雖モ漸々之カ發達ヲ見ルニ至ルヘシ外國ノ立法例ヲ見ルニ或ハ政府ノ許可ヲ要シ例ヘハ保證金ヲ要ストシ或ハ法律ヲ以テ之ヲ制限シ或ハ全ク之ヲ自由ニ任スルアリ我日本ニ在リテハ株式會社ヲ除ク外倉庫營業ハ自由ナルカ如ク又之ニ關シ特別ノ規定ヲ設クルノ要ナシトテ規定ナシ外國ノ商法ニ於テハ專ラ證劵ニ關スル規定ヲ設ケ其以外ニ付テハ何等ノ規定ヲモ見スト雖モ獨逸國ニ於テハ之カ規定アリ本案モ之ヲ認メタルモノナリト
本條ニ付テハ異議ナク直チニ次條ニ移レリ
第二百九十六條 寄託者ハ營業時間內ニ限リ何時ニテモ倉庫營業者ニ對シ物品ノ點檢若クハ其見本ノ摘出ヲ求メ又ハ其保存ニ必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
（參照）獨草三九二、匈四四三
田部君ハ說明前ニ訂正ヲ爲シタリ乃チ本條「寄託者」ノ下ニ又ハ「預證劵ノ所持人」ヲ加ヘ尙ホ第二項トシテ左ノ規定ヲ置クコト質入證劵ノ所持人ハ營業時間內ニ限リ何時ニテモ倉庫營業者ニ對門シ物品ノ一㸃檢ヲ求ムルコトヲ得說明ニ曰ク民法寄託ノ條項中ニ規定無キトキハ本條ノ物品㸃檢等ノ權利カ寄託者ニ在ルコトハ明白ナラスト雖モ何ツレ倉庫ニ物品ノ保管ヲ託スルハ普通商品ナルヘシ依テ其見本ヲ取出シ又ハ荷造ヲ改ムル等ノ必要アルヘク是等ニ付テハ先ツ寄託者ヨリ依賴スルコト多カルヘシ又此權利ヲ他人ニ讓渡ストキハ寄託者ノ外ニ證劵ノ所持人ナルモノナカルヘカラス次ニ第二項ノ主意ハ質入證劵ノ所持人ハ全ク前項ノ權利ヲ得ルコトヲ得ス唯タ物品㸃檢ノ權利ヨリ外ニハ認ムルノ必要ナシト信シテ斯クセルナリト
岸本君曰ク第二項ノ質入證劵ノ所持人ニモ保管ニ必要ナル處分ヲ許スノ要アリ其腐敗ノ患アル物ニ關シテハ處分ノ請求權ヲ與フル必要アルカ如シ果シテ然リトセハ第二項ヲ置カストモ第一項中ニ包含セセシメハ足レリト
田部君之ヲ辯シテ曰ク其場合ニ於テハ質入證劵ノ所持人ハ自身ニ請求セストモ寄託者ノ手ヲ經テ爲サハ可ナリト
岸本君曰ク果シテ寄託者ノ手ヲ經ルヲ以テ可ナリトセハ物品ノ㸃檢ト雖モ亦寄託者ノ手ヲ經過セハ可ナルヘシ何ヲ憂ヒテカ第二項ヲ設クルノ理由アランヤ又見本ノ如キハ實際質入證劵ノ所持人ハ適用ナキカ如キモ倉庫ニ預ケルカ如キ物品中ニハ或ハ互大ナルモノモアルヘシ而シテ之ヲ質入セル場合ニハ見本ノ摘出ヲ要スル場合アルヘシト
田部君曰ク倉庫ニ預ケテ倉庫營業者ヨリ質入證劵ヲ取ル場合ハ決シテ見本ヲ一見スルコト稀ナリ恰モ證劵カ物品ノ代理ヲ爲スヘク證劵ヲノミ賴ミテ取引ヲ爲スヘキモノナリト
岡野君ハ尙ホ之ニ附加シテ曰ク質入證劵ノ所持人ニモ保管ニ關スル處分ノ必要ナシ又見本ニ付キ岸本君ハ互大ナル物品ヲ一例トセルモ實際上倉庫會社ニ於テハ營業規則ニ依リテ預ルヘキ物品ヲ一定セルカ故ニ亙大ノ物品ヲ預ル場合ナシ故ニ此場合ニ保管ノ行爲ニ付テ質取主ニ處分權ヲ認ムルノ必要ナシト
村田君モ酒類等ノ例ヲ引キ岸本君ニ贊成シ高木君ハ特別ノ場合ニハ質取主ニモ保管ニ關スル行爲ニ必要ナル處分ノ請求權ヲ質取主ニモ與フルコトニ付キ一考アリ度キ旨ヲ述ヘ起草委員之ヲ諾シ次ニ岸本君ハ第二項削除ヲ主張シテ曰ク權利上ハ質取主モ寄託者モ皆物權ヲ有スルカ故ニ同一ノ權利アルナリ然ルニ獨リ質取主ニ限リ其權利ヲ認ムルノ必要ナシトノ理由ヨリセハ第二項ハ刪除スヘシト
梅君ハ之ニ反對シテ曰ク「處分」トハ常ニ利益ナル事ト誤解スヘカラス處分ノ方法ニ由リテハ或ハ不結果ヲ來スヘシ所有者ノ處分スル場合ハ可ナリト雖モ質取主ハ唯ニ債權ノミヲ有スル者ナルカ故ニ敢テ倉庫中ノ物品ニ限ラス他ノ財產ニ就テモ債權ヲ充タシ得ルナリ然ルニ此者カ勝手ニ處分ヲ爲シ反テ不都合ヲ生スルカ如キハ頗ル不權衡ト謂ハサルコトヲ得ス唯㸃檢ノミハ證劵ト物品トノ關係ヲ知ルカ爲メ必要アルナリト
終ニ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百九十七條 物品ノ滅失又ハ毁損ノ場合ニ於テ倉庫營業者ハ其保管ニ關スル注意ヲ怠ラサリシコトヲ證明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
（參照）獨草三六二、三九一、匈四三七
田部君說明シテ曰ク本條ハ物品ノ滅失毀損ノ場合ノ擧證ノ責任ヲ定メ定且倉庫營業者ノ保管ニ關スル注意ハ運送ノ場合ト同一ナリト本條ハ異論ナク直チニ次條ニ移レリ
第二百九十八條 倉庫營業者ハ物品出庫ノ時ニ非サレハ報酬及ヒ立替金其他物品ニ關スル費用ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得ス但物品ノ一部ノ出庫ノ場合ニ於テハ割合ニ應シテ其支拂ヲ請求スルコトヲ得
（參照）獨草三九四
田部君說明シテ曰ク民法第六百六十五條ニ於テ同第六百四十八條ヲ準用シアルヲ以テ報酬ノミニ付テハ寄託ヲ終リタル後ニ非サレハ請求シ得サルコトハ明カナリト雖モ本條ハ右報酬ノ外兩ホ他ノ費用ノ請求ニ關スルコトヲ規定セント欲スルモノナリ又但書ノ場合ハ一層不明ナルヲ以テ玆ニ規定セリト
本條ニ於テハ別段修正案ノ提出者無ク原案ニ可決シ直チニ次條ニ移レリ
第二百九十九條 當事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ倉庫營業者ハ物品入庫ノ日ヨリ六个月ヲ經過シタル後ニ非サレハ其返還ヲ爲スコトヲ得ス但已ムコトヲ得サル事由アルトキハ此限ニ在ラス
（參照）獨草三九六、匈四四九
田部君說明ヲ爲シテ曰ク民法寄託ノ規定乃チ第六百六十三條ニ依レハ若シ寄託物返還ノ時期ヲ定メサルトキハ受託者ハ何時ニテモ返還シ得ヘシトアリ而シテ今之ヲ倉庫營業者ニ適用シ何時ニテモ返還シ得ヘシト爲スハ頗ル當ヲ得サルヲ以テ之ヲ六个月ノ後トセリ去リ乍ラ已ムコトヲ得サル場合乃チ意外ノ場合ハ別段トス又此六个月ニ付テハ現在日本ニ於ケル倉庫營業ニ在リテモ先ツ六个月ヲ以テ一區域トシ獨逸草案ニ於テモ六个月トアリト
本條ニ付テモ修正說出テス原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第三百條 寄託者カ物品ヲ受取ルコトヲ拒ミタル場合ニ於テハ第二百三十四條ノ規定ヲ準用ス
（參照）獨草三六一、三九一、匈四四九
田部君ハ說明前ニ當リ訂正ヲ爲セリ乃チ本條「寄託者」ノ次ニ「又ハ預證劵ノ所持人」ヲ加ヘタリ
說明ニ曰ク物品ノ受取ヲ拒ミタル場合ヲ規定シタルモノニシテ之ハ
倉庫營業者ノ迷惑ヲ慮リタリ總テ第二百三十四條ノ如シト
穗積陳重君曰ク本條ノ「拒ム」ト云フ行爲ハ必要ナルヤ普通ハ期限到來スルモ受取ニ來ラサル場合多ク從テ此場合ニハ相當ノ手續ヲ以テ競賣シ得ルノ規定カ實際上行ハルルカ如シ故ニ契約書ニハ多クハ受取ニ來ラサル場合ヲ記載スルナリ然ルニ本條ニハ此場合ヲ見サルカ如シ宜シク相當ノ處分規定ヲ置クヘシト
田部君之ヲ辯シテ曰ク其場合ハ第二百三十四條ニ依リ催吿ヲ爲スヲ以テ足ラント
梅君之ニ附加シテ曰ク期間ノ定アル場合ニ於テ受取ニ來ラサルトキハ民法ニ依リ債權者ハ遲滯ニ付セラルヘシ故ニ倉庫營業者ニ對シ損害ヲ生セハ之ヲ賠償スヘキナリ又倉庫營業者ハ留置權、物品保存ノ先取特權ヲ以テ物品ヲ競賣シテ倉敷代ヲ其中ヨリ取ルコトヲ得ヘシト次ニ橫田君ハ穗積君ニ贊成シ富井君モ亦穗積君ノ所謂受取リニ來ラサル場合ヲモ含有セシムヘシト主張シ阿部君モ穗積君ニ贊成セリ玆ニ於テ穗積君ハ前讀ヲ以テ主意丈ケノ修正案トシテ提出セリ
次ニ田部君ハ本條ノ次一ニ條ヲ加フル旨ヲ述ヘタリ乃チ左ノ如シ第三百條甲第二百八十六條ノ規定ハ倉庫營業者ニ之ヲ準用ス次ニ議長淸浦君ハ右穗積君ノ修正ニ付キ採決セルニ多數ノ贊成者アリ文章ハ起草者一ニ任シ修正案ノ主意ハ通過シ次條ニ移レリ
第三百條甲 第二百八十六條ノ規定ハ倉庫營業者ニ之ヲ準用ス
田部君說明ヲ爲シテ曰ク運送ノ第二百八十六條ノ規定ハ之ヲ倉庫營業者ニモ準用スヘキ必要アリト信シテ本條ヲ置ケリト本條ハ異議ナク直チニ次條ニ移ル
第三百一條 寄託物ノ滅失又ハ毁損ニ因リテ生シタル倉庫營業者ノ責任ハ其出庫ノ日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
前項ノ期間ハ寄託物ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ倉庫營業者カ其滅失ノ通知ヲ發シタル日ヨリ之ヲ起算ス
前二項ノ規定ハ倉庫營業者ニ惡意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
（參照）獨草三九七
田部君說明シテ曰ク倉庫營業者ニ物品ヲ寄託セル場合ニ於テ滅失、毀損ニテ生シタル損害ニ對スル義務ノ時效ハ之ヲ普通ヨリモ短縮スヘキ要アリ又通知ヲ要スルコトハ何時滅失セルヤヲ知ルニ由ナケレハナリ又此規定ハ惡意ノ場合ニハ適用ナキナリ
穗積陳重書曰ク通知ヲ發スルトハ寄託者ニ對シテ發スルヤ將タ證劵所持人ニ對シテ發スルヤ若シ所持人トセハ屢々其所在不明ナルコトアリト
田部君ハ右ニ對シ自己ノ考ヲ述ヘテ曰ク預證劵ノ裏書後ハ證劵所持人カ通知ヲ受ケサレハ不可ナラムト信スト
梅君曰ク之ニ付テハ尙ホ一考スヘシト雖モ裏書シ之ヲ他ニ移轉セシムル每ニ之ヲ倉庫營業者ニ通知スルハ極メテ煩雜ナリ故ニ預劵證ノ所持人ノ所在明カナルトキハ之ニ通知シ若シ其所在不明ナルトキハ寄託者ニ通知スヘシ斯クセハ寄託者ニ於テモ其義務トシテ之ヲ其讓受人ニ通知スヘシ去リ乍ラ之ニ付テハ再考スヘシト終ニ本條ハ可決シ散會ヲ吿ケタリ
于時午後六時