第七十回商法委員會議事要錄
明治三十年四月二日午後三時三十五分開議
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
村田保君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
井上正一君
菊池武夫君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
南部甕男君
長谷川喬君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
第二百八十四條 運送品カ到達地ニ達シタル後ハ荷受人ハ運送人ニ對シ運送契約ニ因リテ荷送人ノ爲メニ生シタル權利ヲ行使スルコトヲ得
荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ運送人ニ對シ運送賃及ヒ立替金ヲ支拂フ義務ヲ負フ
(參照)舊五一三、獨四〇五、四〇六、同草四〇九、四一〇、匈四〇七、四〇八、瑞四五三、伊四〇七、四一〇、西三六八、三七四、羅四三二、四三五、葡三八七、三八九
岡野君ノ說明ニ曰ク本條第一項ハ舊商法第五百十三條ト其趣旨ヲ同フセリ而シテ第二項モ之カ精神ハ直接ニハ現ハレサルモ是亦殆ント其趣旨ナリ運送契約ノ當事者荷送人竝ニ運送人ニシテ其間ニ契約ノ成立スルカ故ニ之ヲ行使スルノ權利ハ荷途人ニ在ルカ當然ナリ然レトモ運送契約ヨリ生スルモノニシテ法律ヲ以テ右契約ヨリ生セシ權利ヲ荷送人ニ移ストセリ畢竟荷物カ到達地ニ移リシトキハ荷受人ヲシテ之カ權利ヲ行使スルコトヲ認メタリ通例荷送人カ荷受人ニ運送品ヲ引渡スコトヲ運送人ニ對シ契約セルトキハ荷受人トノ關係ヲ生スルハ運送品ノ到達後ニ在ルカ故ニ荷受人ヲシテ之ヲ行使セシムルカ便利ナルカ故ニ本案ノ如ク定メタリ、次ニ第二項ハ第一項ニ於ケル理由ト等シク最初契約ヲ爲シタル者ハ荷送人ト運送取扱人ナルヲ以テ運送人ハ荷送人ニ對シ運送賃ノ請求ヲ爲シ得ヘキモ荷送人ハ其義務ナキモノトセハ極メテ不便ナル場合ヲ生スルカ故ニ荷受人カ運邊品ヲ受取リタルトキハ之ニ對シテ運賃ヲ支拂フ義務ヲ法律ヲ以テ認メタリト
穗積君ハ協議シテ曰ク本條ニ於ケル權利ノ範圍ハ運送契約ニ因リテ生セシ權利ト認メテ可ナリト「荷送人ノ爲メニ生シタル權利ヲ行使スルコトヲ得」トアルハ自己ノ資格ナルカ又ハ賠償ハ何レノ㸃モ他人ノ資格ニテ爲スモノナルカ畢竟荷送人ノ權利行使トナルトキハ他人ノ爲メニ爲ストノ疑ヲ生スルニ至ルヘシト
梅君ノ答辯ニ曰ク穗積君ノ解釋ハ至當ナリ現ニ第二百七十條及ヒ第二百七十一條ニ於テモ運送人ノ權利トアリ本條ニ於テ「因リテ生シタル」トアルモ其趣旨ハ同一ナリ自己ノ權利ヲ以テ代ハルトアルトキハ運送人ニ對シテ權利者ト爲リ運送人ト荷受人ノ權利ハ他日荷送人ト荷受人ノ間ニ於テ計算ヲ爲スコトアリ其故ニ此場合ハ荷送人ト荷途人トノ關係トヲ認ムルナリ以上ノ理由アルヲ以テ穗積君ノ說ニ從ヒテ第一項中「運送契約ニ因リテ荷送人ノ爲メニ生シタル權利」云々トアルヲ「運送契約ニ因リテ生シタル荷送人ノ權利ヲ行使」云々ト改メント述ヘ
本條ハ以上ノ如ク改ムルコトニ決シ他ハ原案ノ儘可決セリ
第二百八十五條 荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ運送品ノ引渡ニ關シ爭アルトキハ運送人ハ運送品ヲ供託シ又ハ之ヲ競賣スルコトヲ得此場合ニ於テハ遲滯ナク其旨ヲ荷受人及ヒ荷送人ニ通知スルコトヲ要ス
運送人ハ荷受人ニ對シ相當ノ期間ヲ定メテ運送品ノ受取ヲ催吿シ其期間經過ノ後更ニ荷送人ニ對シ相當ノ期間ヲ定メ運送品ノ處分ニ付キ指圖ヲ爲スヘキ旨ヲ催吿シタル後ニ非サレハ前項ノ規定ニ從ヒテ競賣ヲ爲スコトヲ得ス
第二百三十四條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)舊五一四、佛一〇六、蘭九四、獨四〇七、同草四一一、匈四〇九、瑞四五四乃至四五六、四六一、伊四一三、羅四三八、葡三八八、三九〇、白千八百九十一年八月二十五日法八
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ運途品引渡ニ付キ荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ之カ引渡ニ爭ヒアルトキノ處分方法ヲ定メタリ而シテ何故ニ競費ヲ爲スヤト云フニ運送人ハ何時迄モ荷物ヲ預リ置クハ迷惑ナルカ故ニ其競賣ヲ認メタルニ過キス競費其他ノ供託ニ付キテハ遲滯ナク其旨ヲ荷送人ニ通知スルコトトセリ就中競賣ノ如キハ直チニナストキハ弊害極メテ多キ故荷途人ニ對シ催吿ヲ爲シ尙ホ其物品ヲ受取ラサルトキハ荷送人ニ再ヒ催吿ヲ爲スモノトス而シテ此際腐敗シ易キ物アルトキハ一層之カ迷惑ヲ增スカ故ニ第二百三十四條第二項ヲ適用シ之ヲ競賚ニ附スルモノトス次ニ此競頁代金ニ付テハ如何ニ處分スヘキヤノ必要アルカ故ニ第三百三十四條第三項ヲ準用シテ其競賣ニ因リテ得タル代價ヲ供託スルモノトセリ若シ運送人ニ於テ運送賃ノ全部若クハ一部ヲ受取ラサルトキハ其競賣代價中ヨリ差引計算ヲ爲スコトヲ得ヘシ畢竟競賣ヲ爲ス所以ハ一ハ運送人カ運送品ヲ取扱フニ付キ便利ナルカ爲メ一ハ賃金ヲ取立テルニ容易ナラシメンカ爲メナリト
穗積君ハ起草者ニ協議シテ曰ク本條第二項ハ左ノ如ク改メテハ如何運送人カ第一項ニ依リテ荷受人ヲ確知スルコトヲ得サルトキハ之ヲ競賣ニ付スルニ付キ法律ハ之ニ强要セサルカ故ニニ項ハ決シテ之ニ疑ハサルヲ得サルニ非ス畢竟競賣ヲ爲ササルモ不都合ナキ故第一項ノ末文トシテ「ノ豫定條件ヲ設ケ其條件ヲ滿ササルトキハ競爭ハ爲シ得サルコトトシテハ如何ト
岡野君ノ答辯ニ曰ク其說ニ付テハ既ニ穗積君ヨリ申出ノナキ前ヨリ既ニ考ヘシ所ニシテ催吿ノミヲ必要トスル場合ニ通知ヲ爲スコトヲ得サル場合ト雙方共ニ此法文カ命令スルカ如ク適用ナキトキハ不可ナリ趣意ハ此儘ニテモ通スルカ故ニ文章ニ付キ考ヘ置クコトトナサント
本條ハ文章再考ノ外原案ニ可決セリ
第二百八十六條 運送人ノ責任ハ荷受人カ留保ヲ爲サスシテ運送品ヲ受取リ且運送賃其他ノ費用ヲ支拂ヒタルトキハ消滅ス
運送品ニ直チニ發見スルコト能ハサル毁損又ハ一部滅失アリタル場合ニ於テ荷受人カ引渡ノ日ヨリ一週間內ニ其旨ヲ運送人ニ通知セサルトキ亦同シ
前二項ノ規定ハ運送人ニ惡意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊五一五、佛一〇五、蘭九三、獨四〇八、同草四一二、匈四一〇、瑞四六二、四六三、伊四一五、西三六六、三六七、三六九、三七四、羅四四〇、白千八百九十一年八月二十五日法七
田部君ノ說明ニ曰ク荷受人カ沈默シテ運送品ヲ受取ルトキハ此事實ニ因リテ運途契約ノ履行ハ承認シタルモノト認メ此事實アルトキハ運送人ノ責任ハ消滅スルモノトス然レトモ運送人カ直チニ發見スルコトヲ得サル毀損ニハ本條第一項ノ適用ナキモ其他ノ場合ハ運送品ヲ受取リ且運送賃ヲ支拂フタルトキハ荷受人ハ承認シタルモノト認ムルトハ第二項ニ於ケル場合ハ運送人必責任ヲ直チニ消滅セシムルハ極メテ不都合故第一項ノ例外トシテ發見スルコトヲ得サル毀損滅失ノ場合ハ引渡ヨリ一週間ノ猶豫ヲ與ヘタリ、第三項ハ[項ニ項ノ場合ハ惡意アル場合ニハ本條ノ適用ナキコトヲ定メタリト
富谷君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク本條第二項ニ於テ荷受人カ引渡ノ日ヨリ一週間內ニ其旨ヲ運送人ニ通知セサルトキハ又同シク「部滅失毀損ノ責任ハ消滅スト此規定ニハ運送人ニハ便利ナルモ荷受人カ採リテハ極メテ酷ナル規定ト謂ハサルヲ得ス運送品ノ毀損又ハ一部ノ滅失ハ何レカ破壤セラレシ場合ナリ斯カル場合ニハ未タ運送品ノ瑕疵ヲ發見シ得サルナリ然ルニ荷主ハ運送人ニ對シ請求ヲ爲サントスルモ既ニ其期間ヲ經過シ如何トモスルコトヲ得サルニ至ル畢竟運送人ニ對シ其責任ヲ輕ク爲スハ可ナルモ荷送人ノ一方ニ對シテハ不利益ナル結果ヲ生スヘシ其故ニ荷途人ノ責任ニ付キ少シク廣クセラレンコトヲ望ム若シ荷主ニシテ損害ノ生シタル原因ヲ證明スルトキハ何時ニテモ運送人ニ對シ請求スルコトヲ得トノ修正案ヲ提出スヘシト
長谷川君ハ起草者ニ協議シテ曰ク富谷君ヨリ修正案ヲ提出セラレシカ運送人ノ過失ニテ毀損アリタルコトヲ證明スルトキハ之ニ對シテ請求ヲ爲シ得ルコトハ寧ロ本條ヲ削除スルモ此一項丈ケハ存スルカ穩當ナリト信ス乍併如斯改ムルトキハ何カ差支ヲ生スルト第二ハ嘗テ富井君ノ言ハレシ如ク此義務ハ單ニ荷受人ニ對シテ免ルルハ至當ナルモ荷受人ニ對シ免ルルトノコトハ極メテ不安心ナリ何予ナレハ荷送人モ荷受人モ均シク獨立セサルモノナルカ故ニ時トシテハ荷送人ハ其邇知ナキカ爲ヌ何等ノ賠償ヲ夢爲シ得サルコトナシトセス然ラハ現在受取リシコトヲ證明スルコトナク其荷受人カ其通知ナキ爲メ賠償ノ途ナク荷送人ニ對シテ責任ヲ免ルルトスルハ穩カナラスト橫田君ハ富谷君ニ贊成ヲ表シ且自己ノ希望ヲ述ヘテ曰ク余ハ富谷君ノ說ヲ少シク補ヒタシ卽チ第一ニ運途賃ヲ支拂ヒ物品ヲ受取レハ其責任ハ消滅トナルモ如斯ニテハ未タ其趣旨ヲ明瞭ニ爲シタノト云フコトヲ得ス畢竟之カ爲メ第二項ノ規定アル所以ナリト雖モ然レトモ引渡ノ日ヨリ一週間ニテハ期限短キニ失スヘシ以之寧ロ獨乙法ニ於ケルカ如ク證明ヲ爲ストキハ之カ詫爾求ヲ爲シ得ルコトトナシ一年間ノ期間ヲ設ケラレンコトヲ望ムト述ヘ終ニ富谷君ト橫田君トノ間ニ協議整ヒ橫田君ノ如クナシテ修正案ヲ提出セリ
田部君ハ答ヘテ曰ク引渡ヨリ一週間ニテハ短キニ失スカ故一ニ年ニ爲スト言ハルルモ十日間若クハ二週間ナレハ差迄反對ハ爲ササルモ一年ニテハ是亦長キニ失スルモノト謂フヘシト右富谷君ノ修正案ヲ採決セシニ少數ニテ消滅セリ引續キ三浦君ハ二週間トノ修正案ヲ提出シ起草者モ之ニ同意ヲ表シ二週間ニ改ムルコトニ決セリ
高木君ハ起草者ニ協議シテ曰ク本條ノ趣旨ニ付テハ運送人ノ責任ハ僅少ノ貨物ニ付テハ二週間ニテ消滅スルモ可ナリ然レトモ亙大ノ物品ニ付テハ實際上之ヲ取扱フニ檢査ヲ爲サスシテ運賃ヲ支拂フカ通常ナリ夫故ニ斯カル物品ニ付テハ六个月ノ猶豫ヲ與ヘテハ如何トノ梅君ノ答辯ニ曰ク其㸃ニ付テハ既ニ民法起草ノ際熟考セシ所ニシテ同民法債權擔保編先取特權ノ規定中第百六十條第二項ニ於テ運送營業人カ運送物ノ引渡ヨリ四十八時間以內ニ債務者又ハ其名ヲ以テ其物ヲ受取リタル者ニ對シ其物ヲ返還スルカ又ハ運送賃其他ノ費用ヲ辨濟スルカノ催吿ヲ爲シ且其效果ヲ生セシムル爲メ成ルヘク短キ時間ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルトキハ其先取特權ハ物ノ引渡後ト雖モ存續ストアリテ此規定ハ先取特權ノ方ヨリ其設ケアルモ此理由タル荷物ヲ受取ラントスルモ不明ナルコトアリ斯カル場合ニハ荷物ヲ調査セスシテ引渡シ又一方ニ於テモ之ヲ受取ルコトアリ既ニ引渡アリタルトキハ先取特權カ消減スル故㸃査スルコトヲ得ス然レトモ此場合ハ或他ノ㸃ヨ臥弊害ヲ生スルナリ外國ノ立法例ニ於テハ佛蘭西系統ノ國ハ慣習トシテ行ハルルモノ多シ畢竟本條第二項ハ第一項ノ例外ナルヲ以テ二週間內ニ消滅シタルトキハ此限ニ在ラスト云フカ如クナシ文章ハ整理迄ニ考フルコトト爲サント述ヘ右ノ如ク再考ニ確定シ他ハ原案ニ可決セリ
第二百八十七條 第二百七十一條及ヒ第二百七十三條ノ規定ハ運送人ニ之ヲ準用ス
(參照)舊四九〇、五〇七、五一六、佛一〇八、蘭九五、獨四〇八、三項、四一〇、同草四一三、四一五、匈四一〇、三項、四一二、瑞四六四、伊四一〇、四一二、二項、九二六、西三七五、羅四三五、四三七、二項、九四八、葡三九一、三項、白千八百九十一年八月二十五日法九
訂正第二百七十條及ヒ第二百七十一條カ嘗テ議場ニ於テ轉置スルコトニ確定セシ結果トシテニ百七十一條ヲ第二百七十條ト起草者ヨリ訂正セラレタリ
田部君ノ說明ニ曰ク運送人カ運途品ヲ取扱フニ當リ後ノ運送人カ前ノ運送人ノ營業ヲ繼承シ若シ前者カ後者ニ運送品ノ費用ニ付辨濟ラ爲ササルトキハ第二百七十條第一項ノ適用ヲ以テ前者ハ後者ニ代ハレテ其權利ヲ行使スル義務ヲ負ヒ以テ最後ノ者カ運賃ヲ受取ルコトトナルヘシ次ニ時效ノ期間ニ於テハ短期ニ爲スノ必要アルカ爲メ第二百七十三條ヲ準用シテ一年ノ時效トセリト
富井君ハ起草者ニ協議シテ曰ク本條ニ於ケル準用ハ運送人カ運送契約ヨリ生シタル權利ノ如ク見ヘ、虛心ニ讀ミ下ストキハ自己ノ名ニテ爲スカ疑ハシ故ニ自己ノ名ニ於テ文字ヲ本條中孰レニカ加ヘテハ如何ト梅君ハ右協議說ニ付キ整理迄ニ考フルコトヲ約シ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百四十八條ヲ左ノ如ク改ム
出資カ損失ニ因リテ減シタルトキハ之ヲ填補シタル後ニ非サレハ匿名組合員ハ利益ノ配當ヲ請求スルコトヲ得ス
梅君ノ說明ニ曰ク本案ハ原文ト其意義ヲ同フシ唯文章ノ修正ヲ爲シタルニ過キス原文ニテハ匿名組合員ハ損失ニ因リテ減シタル出資ヲ云々ニアリテ匿名組合員カ損失ニ因リテ減シタルモノヲ填補スルト讃、ミ得ルノ嫌ヒアリ之ヲ本案ノ如ク改ムルトキハ其額ヲ避ク得ルヲ以テナリト
本案ハ異議ナク可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百四十九條第二項ヲ左ノ如ク改ム
組合ノ存續期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各當事者ハ何時ニテモ契約ヲ解除スルコトヲ得
梅君ノ說明ニ曰ク此規定ハ既ニ議場ニテ確定シタル趣意ニ付キ尙ホ文章ノ㸃ヲ考ヘルカ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各當事者ハ何時ニテモ云々ト云フトキハ趣意ハ變ハラサルモ他ノ文例ニ比スレハ疑ヲ招クノ虞アリ其故ニ寧ロ本案ニ於ケルカ如ク改ムルヲ穩當ナリト信セリト
穗積君ハ起草者ニ協議シテ曰ク契約ヲ解除スルコトヲ得ハ解除ヲ爲スコトヲ得ト改メテハ如何ト梅君ハ其㸃ニ付キ整理迄ニ考フルコトヲ約セラレタリ
商修正原案起草委員提出
第二百四十九條甲第三號トシテ左ノ一號ヲ加フ
三 組合ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
梅君ノ說明ニ曰ク此三號ハ議場ノ決議ハナカリシモ事柄ハ如斯ナラサルヘカラス何トナレハ民法/明文上放任シ置クモ本條第一項ニ於テ前條ニ揭ケタル場合ノ外組合契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ストアルヲ以テ民法ニ設ケタル規定ヲ加フルヲ穩當ナリト信シ此處ニ加フルコトトセリト
原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百四十九條乙ヲ左ノ如ク改ム
組合契約カ終了シタルトキハ營業者ハ匿名組合員ニ其出資ノ價額ヲ返還スルコトヲ要ス但出資カ損失ニ因リテ減シタルトキハ其殘額ヲ返還スルヲ以テ足ル
梅君ノ說明ニ曰ク本條ニハ大ニ變更ヲ加ヘタリ趣旨ハ既ニ議決セラレタレトモ畢竟本文ノ如ク改正セサレハ舊案ニ於ケルカ如ク營業者ハ其淸算人ト爲ルトアルカ爲メ此淸算人ノ文字カ不明瞭トナルヘシ且又右營業者ハ出資返還ノ義務ナキニ至ルヘシ本案ハ以上ニ個ノ㸃ヲ明ラカニセリ而シテ返邃ノ義務及ヒ舊案ノ淸算人トナルコトハ殘額返還ヲ以テ足ルモノト信セリ是本條ヲ修正セル理由ノ大略ナリト述ヘ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百五十條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百五十條甲 商行爲ノ受任者ハ委任者カ承諾スヘキモノト認ムヘキ場合ニ限リ委任外ノ行爲ヲ爲スコトヲ得
梅君ノ說明ニ曰ク本條ヲ設クルコトニ付テハ既ニ諸君ニ約束セシモノナリ乍併書キ方ニ付テハ判然豫吿セサリシモ余輩ノ間ニテ協議ノ末先ツ斯ノ如キ意義カ至當ナリト述ヘ置ケリ而シテ舊商法第四百五十九條ハ明ラカニ損失ヲ防ク爲メ委任外ノ行爲ヲ爲スモ可ナリトアルモ如斯ニテハ狹キニ失スルノ虞アリ何トナレハ例ヘハ百圓ニテ買入レヨト委任セラレシニ其場合ノ事情ヨリ百十圓ニテ買入レルモ可ナリ然レトモ三百代言的ノ解釋ヨリ或ハ如何ナリヤトノ疑モ出ル故明文ニ顯ハスノ必要アリ此事柄ノ商事ニ限ラス民事ニモ必要ナルカ故ニ既ニ民法ニテ起草ノ際之ト同一ノ案ヲ提出セシモ措ムヘシ否決セラレタリ而シテ商事上ニ於テハ一層不便ヲ感スルコト多キヲ以テ故ラ一ニ條トシテ加フルコトトセリト
橫田君ハ希望ヲ述ヘテ曰ク本條ハ漠然タル制限ヲ附セシカ如シ余輩ノ希望ハ寧ロ明ラカニ「承諾スヘキ」云々トノ上ニ明ラカニ委任者ノ利益トナルヘキコト竝ニ不利益ト爲ルヘキコトヲ加ヘタシ例ヘハ委任行爲ヲ以テ百圓ニ賣レトノ場合ニ百五十圓ニ賣ルハ宜シキモ百圓ヲ八十圓ニ賣ル場合ハ害トナルカ故ニ不可ナルカ如シ然レトモ百圓ノモノヲ百五十圓ニ賣ラント爲スモ如何セン八十圓ニ相場ノ下落セシトキハ如何トモ爲スコトヲ得ス委任者ニ於テ如何ニセラルルカ到然セサルニ單ニ承諾スルナラントノ考ヲ以テ受任者カ爲スハ却テ委任者ハ害ヲ被ルヘシ故ニ明カニ利益トナルコト及ヒ害ト爲ルヘキコトヲ明カニ設ケラレンコトヲ請フト
菊池君ハ本條削除說ヲ提出シテ曰ク若シ起草者ノ趣意ニ於ケルカ如キ希望ヲ達スレハ贊成ヲ表スルモ實際上之ヲ明文ニ顯ハストキハ極メテ困難ニシテ其苦辛セラレシ效果ヲ達スルヲ得ス而シテ之カ趣意ニ至リテハ宜シキモ然レトモ之カ便宜ヲ爲スコト少ナクシテ却テ害トナルコト多シ加之斯ノ如クナストキハ代理人間ニ爭ノ種ヲ增シ總テ起草者ノ抱カシム希望ハ水泡ニ屬スヘシ兔ニ角斯カル規定ハ削除スルヲ可トス舊商法第四百五十九條ノ如キ狹義ニスルカ爲メ其弊害アルコトハ起草者ノ既ニ述ヘラレシカ如シ本條ノ如キモ其轍ヲ同フスルカ故ニ本條削除ノ案ヲ提出スヘシト
梅君ノ答辯ニ曰ク此明文ナクシテ實際如斯行ハレツツアルナレハ却テ是カ明文ノ必要ヲ生スヘシ何トナレハ今日商法上ノ關係ヲ案スルニ無法典ナルカ故ニ差支生セサルモ一旦商法上ニ明文ノ顯ハルルトキハ委任行爲ノ範圍外ニ於テハ法律上其場合ヲ認メサルコトトナリ普通委任者カ爭フコトナキモ利害關係ノ著シキ場合ハ法廷ヲ煩ハスコトトナリ明文ヲ要スルノ感ヲ生スヘシ一般ノ慣習ニ於テハ委任者ノ利益トナルコト明ラカナル場合ニ限リ委任行爲ヲ認ムルカ今日ノ慣例ナリ故ニ明文ナキトキハ反對ノ結果ヲ生スルニ至ルヘシ例ヘハ百圓ノモノヲ八十圓ニテ買フト云フカ如キモ委任ノ原則上ヨリ範圍外ノ行爲ヲ爲シタルコトトナルヘシ是明文ヲ要スル所以ナリ次ニ橫田君ノ說ハ至當ナルカ故ニ委任ノ趣旨ニ反セサル範圍內ト改メント右菊池君ノ削除讀ヲ採決セシニ少數ナリ
河村君ハ起草者ニ協議シテ曰ク「承諾スヘキモノト認ム」云々ハ之ヲ證明スルニ困難ナリ然ルニ裁酬刋官ノ勝手ニ認定スル場合ヲ制限スル故不都合トシト言ハルルモ受任者ハ已ムヲ得スシテ爲シタルトキハ其行爲ハ有效ナリトセハ其證明ハ困難ヲ生セス例ヘハ百圓ニナルヘキ物ヲ九十圓ニ賣却セシモ其時ノ相場ニテ費リシモノナレハ損害ヲ避ケシモノニシテ畢竟委託者ニ生スヘキ損害ヲ避クル爲メ已ムヲ得スシテ爲スコトトナルヘシ斯カル趣旨ニ爲シテハ如何
梅君ノ答辯ニ曰ク承諾スヘキ場合カ委任者ノ利益トナルトキト云フカ如ク設ケントセシモ此等ノ㸃ニ付テハ孰レニセヨ趣旨丈ケハ定マリシ故再考スヘシト他ハ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百五十五條第二項ヲ左ノ如ク改ム
當事者カ直チニ行爲ヲ履行スヘキ場合ヲ除ク外仲立人ハ各當事者ヲシテ前項ノ書面ニ署名ヲ爲サシメタル後之ヲ其相手方ニ交付スルコトヲ要ス
梅君ノ說明ニ曰ク右規定ハ大體ノ趣旨ハ既ニ議定セリ而シテ河村長谷川兩君ノ說ニテ當事者ハ直チニ行爲ヲ履行セサル場合ニ限ラス其他ノ場合ヲモ含ムトノコトヨリ本文ヲ改ムルコトニセリ御行爲ヲ履行スヘキ場合ヲ除ク外云々トシ直チニ履行スヘキ場合ニ在ラサレハ含吋、サルコトトセリ第二ハ各當事者ノ署名ヲ求メタル後トアルトキハ求ムルト同時ニ交付スルトナル故各當事者ヲシテ前項ノ書面ニ署名ヲ爲サシメタル後トセリト述ヘ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百五十六條第三項トシテ左ノ一項ヲ加フ
當事者カ其氏名ヲ相手方ニ示ササルヘキ旨ヲ仲立人ニ命シタルトキハ前項ノ謄本ニ其氏名ヲ記載スルコトヲ得ス
梅君ノ說明ニ曰ク單ニ此規定ヲ一見スルトキハ當然ノモノナツト雖モ乍併ニ百五十六條ノ議事ノ際帳簿ヲ預リシ仲立人ニ當事者ハ何時ニテモ謄本ノ請求ヲ爲シ得ルカ爲メ、岸本、長谷川兩君ヨリ契約上ノ匿名者ヲ相手方ニ謄本ヲ交付スルニ至ルカ爲メ其名ヲ顯ハスコトトナリ本條ノ精「胛ニ違背スルハ穩カナラス故ニ」第三項トシ其竡趣旨ヲ加ヘタリ次ニ其場合ト牽連シテ考ヘヨトノ第二百五十五條ノ匿名組合員ノコトハ名前丈ケ揭ケストノコトハ考ヘシカ名ヲ顋ハサスシテ前條ノ適用アルトキハ權衡ヲ失スルカ故ニ其適用ヲ爲サシメサルコトニセリ卽其手續ハ爲サシメスシテ舊案ノ儘ニセリ然レトモ第二百五十六條三項ハ極メテ必要トシテ揭ケタリ
商修正原案起草委員提出
第二百五十八條ヲ左ノ如ク改ム
仲立人ハ第二百五十五條ノ手續ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
仲立人ノ報酬ハ當事者双方平分シテ之ヲ負擔ス
梅君ノ說明ニ曰ク本案モ亦趣意ハ議決セラレタリ本案ノニ項カ原文ノ條項ナリシカ之ニ第一項ヲ加ヘタリ畢竟右議決セシ趣旨ヲ顯ハシタルニ過キスト
本案ハ異議ナク原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百五十九條ヲ左ノ如ク改ム
問屋トハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ物品ノ販賣又ハ買入ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ
梅君ノ說明ニ曰ク本案ニハ大ニ修正ヲ加ヘタリ舊案ハ「問屋トハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ商行爲ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ」トアリシヲ右規定中ノ商行爲ニ付キニ樣ノ攻擊アリテ穗積君ハ商行爲ハ他人ノ爲メノ商行爲トナリ隨テ百姓カ靑物ヲ問屋ニ賣リ又ハ漁師カ魚問屋ニ賣ルカ如キハ問屋ノ中ニ含マサルヲ穗積君ハ含ムヘシト稱ヘ畢竟商行爲ノ文字ハ不明ナリト一ハ之一ニ步ヲ進メ商行爲ハ余ノ解釋セルカ如クナルモ靑物問屋魚問屋カ入ラサレハ困難セルカ故ニ其意義ヲ入レタシト以上ニ個ノ㸃ヲ再考セシカ商行爲カ解釋トシテ他人ノ爲メノ商行爲トナラヌ靑物問屋魚問屋ノ如キカ除カレテハ穩カナラス府下ノ問屋ヲ調査セシニ物品ハ孰レモ販賣竝ニ買入レニ限リ其他ノモノハナシ又外國ノ規定モ亦物品ノ販賣若クハ買入レニ限レリ畢竟穗積君ノ希望ヲ容レ本條ノ如ク改ムルコトトセリ序テニ一言シ置カヌニ本條カ如斯改メラレシ結果次條以下ノ文字ニ多少ノ修正ヲ要スルモ其必要ノ場合ハ整理ノ際迄讓ルコトト爲サント述ヘ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百六十三條ヲ左ノ如ク改ム
問屋カ物品ノ販賣又ハ買入ノ委託ヲ受ケタル場合ニ於テ其物品カ取引所ノ相場アルモノナルトキハ問屋ハ自ラ買主又ハ賣主ト爲ルコトヲ得此場合ニ於テハ賣買ノ代價ハ問屋カ買主又ハ賣主ト爲リタルコトノ通知ヲ發シタル時ニ於ケル取引所ノ相場ニ依リテ之ヲ定ム
梅君ノ說明ニ曰ク舊案ニテハ問屋カ取引所ノ相場アルモノナルトキ取引所ノ相場ニテ賣主又ハ買主トナル其相場カ不明ナリトノコトニテ余輩ノ間ニ於テモ其解釋一定セス而シテ議場ノ意嚮モ原文ノ儘ニテハ缺㸃アリトノコトニテ是亦再考セリ其當時河村富谷兩君ノ說ク如ク其通知ヲ爲シタル時ノ相場ニテ妨ケナシ獨乙法ノ規定モ亦是ト同一ナリ其故ニ通知ノ時トセリ果シテ然ラハ通知ノ義務ヲ認メサルヘカラス本條ニシテ確定セシカ第三十三條乙ニ規定セル通知ノ義務ヲ爲スニ際シ三十三條己ヲ準用スルノ必要アルヲ以テ次條ニ其修正案ヲ提出セリト
穗積君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク本條ノ通知ヲ發シタルトキヲ日ト改ムルコトトナサン若シ本案ノ儘ナランカ其日ノ平均相場若クハ通知ヲ發シタルトキノ相場トニ樣ノ解釋トナリ穩當ナラス然ルニ舊案ニ復活セント欲スル意向ノ者アルトモ何時ノ相場ノ餘地ハアルモ之ニハ同意シ難キ㸃アリ發シタルトキノ相場ハ最モ宜シキモ孰レモ種々ノ弊害アリ却テ細密ニ失スヘシ元來問屋ナルモノハ素ハ信用事業ナル故便宜ノ爲メ其日ノ平均相場ト爲シ簡單ニナリ詐欺ノ弊害アリ故ニ通知ヲ發シタル日ニ於ケル取引所ノ平均相場トシ以テ時ヲ日ニ改メ平均ノ二字ヲ加フルコトニ爲サント
尾崎君モ亦修正案ヲ提出シテ曰ク單ニ發シタル日トナルトキハ何レノ相場ナルカ不明ニナルヘシ舊案ニ復活ストノ修正ヲ提出スルコトトナサント以上ノ說ヲ採決セシニ孰レモ少數ナリ
長谷川君ハ修正說ヲ提出シテ目ク若シ余ノ說ニシテ成立セサレハ穗積君ノ案ニ贊成スヘシ而シテ余ノ設ハ相場ニ依リタルモノト推定ストスヘシ畢竟相場カ定マリシトキハ其ニ依ルトナリ現ニ賣買アリシ日ニ當ル相場トシ推定法ト爲サント述ヘシモ贊成者ナシ
議長ハ以上ノ穗積君ノ讀ヲ採決セシニ少數ナリ而シテ本案ハ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百六十五條ヲ左ノ如ク改ム
第三十三條乙及ヒ第三十三條己ノ規定ハ問屋ニ之ヲ準用ス
梅君ノ說明ニ曰ク本案ハ前條ニ於テ既ニ說明セリ實ハ富谷君ヨリ兩度迄此說ヲ提出セラレ問屋ニ通知ヲ爲サシムルヲ可トスト述ヘラレシカ乍併必要ナシト信シ同意セサリシカ其後此通知ハ極メテ必要ナリト信シ終ニ準用スルコトトセリト述ヘ原案ニ可決セリ
商修正原案起草委員提出
第二百六十五條甲 前六條ノ規定ハ販賣及ヒ買入ニ非サル行爲ヲ爲スヲ業トスル者ニ之ヲ準用ス
追加第二百六十五條甲ノ前ニ「同條ノ次一ニ條ヲ加フ」ノ十字ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク第二百九十九條ト牽連シテ物品ノ販賣及ヒ買入ニ非サル行爲ヲ爲スヲ業トスル者ニ前六條ノ規定ヲ準用スルノ必要アルヲ以テニ百六十五條甲ヲ加ヘタリト
橫田君ハ本條削除詭ヲ提出セシモ採決ノ結果少數ニテ消滅セリ
午後六時五十七分閉會