明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第68回

参考原資料

備考

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第六十八回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
村田保君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第二百六十九條 運送取扱人ハ運送品ニ關シ受取ルヘキ報酬、運送賃其他荷送人ノ爲メニ爲シタル立替又ハ前貸ニ付テノミ其運送品ヲ留置スルコトヲ得
(參照)舊四八九、佛九五、獨三八一、三八二、同草三八四、匈三八七、三八八、伊四一二、西三七五、羅四三七、葡三九一、白千八百七十二年五月五日法一四
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第四百八十九條ニ引用シタル第三百八十七條及ヒ第三百八十八條ニ於ケル留置權ニ關スル規定ト其主義ヲ同フス舊商法ハ留置權ノ總則トシテ右ニ述ヘタル第三百八十七條ニ於テ留置權ニハ留置スヘキ物ト其債權トニ關係ヲ必要ナリトシ卽チ他人ノ物ヲ占有シ其物ニ付キ云々ト規定セリ本條ニ於テハ既ニ右ノ主義ヲ改メ一般商人間ニ適用スヘキ留置權ニハ物ト其債權トノ關係ヲ必要トセサル主義ヲ採用シ第二百三十三條ノ規定ヲ設ケタルニ抅ハラス玆ニ再ヒ舊商法ノ主義ニ元ヒ本條ノ如キ留置權ヲ認メタル所以ハ他ナシ本條ノ場合ハ物必スシモ其荷主ノ所有ナリト看做ス可カラサル場合多キヲ以テ若シ物ト債權トノ關係ヲ不必要ナリトセンカ頗ル穩當ヲ得サレハナリ次ニ又本條ノ留置權ハ其主義民法第二百九十五條ニ規定シタル留置權ト同一ナルヲ以テ或ハ特ニ本條ヲ設ケサルモ民法ノ規定ヲ以テ足ルヘシト難スル者アラン乎然リト雖モ既ニ第二百六十六條ニ於テ此運送取扱人ニハ問屋ニ關スル規定ヲ適用シスルヲ以テ若シ假リニ本條ヲ設ケタリシトセンカ卽チ問屋ニ關スル留置權ヲ適用セサル可ラス然ルトキハ其結果第二百三十三條ニ於テ採用シタル留置權ヲ適用セサル可ラサルヲ以テ其留置權ノ範圍廣汎ナル嫌アルコト既ニ述ヘタル如クナレハナリ之ヲ要スルニ本條ハ殊更範圍ノ狹隘ナル留置權ヲ認メ且ツ如何ナル物ニ關シテ留置權ヲ行便スルコトヲ得ヘキカヲ明示センカ爲メ必要ノ箇條ナリト
本條ハ異議ナク可決シ次條ニ移リタリ
第二百七十條 運送取扱人カ運送人ニ辨濟ヲ爲シタルトキハ運送人ノ權利ヲ取得ス
(參照)獨三八二、四項、同草三八五、二項、匈三八八、三項、伊四一二、二項、西三七五、羅四三七、二項、葡三九一、三項、白千八百七十二年五月五日法一四
岡野君ハ本條ノ說明ヲ爲スニ先チ本條ト次條ト密接ノ關係ヲ有スルトノ理由ヲ以テ兩條ヲ併合シテ議事ニ付セラレンコトヲ議長ニ請求シ直チニ其許可ヲ得タリ
第二百七十一條 數人相次テ運送ノ取次ヲ爲ス場合ニ於テハ其後者ハ前者ニ代ハリテ其權利ヲ行使スル義務ヲ負フ
前項ノ場合ニ於テ後者カ前者ニ辨濟ヲ爲シタルトキハ前者ノ權利ヲ取得ス
(參照)舊四九〇、獨三八二、三項、四項、同草三八五、匈三八八、二項、三項、伊四一二、二項、西三七五、羅四三七、二項、葡三九一、三項、白千八百七十二年五月五日法一四
岡野君ノ說明ニ曰ク右ノ兩條ハ殆ト讃テ字ノ如シト雖モ之ヲ簡單ニ說明スレハ連送取扱人カ引受ケタル運送品ニ付キ數人ノ運送取扱人カ加ハル場合ト數人ノ運送人カ加ハル場合トアリ而シテ數人ノ運送取扱人カ加ハル場合ニ於テハ或ハ後ノ運送取扱人カ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲ス場合ト又後ノ運送取扱人カ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲ササル場合トアリ是等ノ場合ニ於テ若シ後ノ運退取扱人カ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲シタルトキハ前ノ運送取扱人ノ權利ヲ取得スト雖モ若シ之ニ反シテ辨濟ヲ爲ササル場合ハ多クハ兩君ノ間ニ契約ヲ爲シ相互ノ債權債務ヲ以テ交互計算ト爲スモノナルヘシ然ルニ斯カル場合ニ後ノ運送取扱人カ前ノ運送取扱人ニ辨濟ヲ爲ササルトテ其前ノ運送取扱人カ運送品ヲ渡ササルカ如キコトアリテハ不都合ナルヲ以テ之ヲ渡スヘキモノトシタリ然ルトキハ後ノ運送取扱人ハ荷受人ヨリ自己ノ報酬ト前ノ運送取扱人ノ報酬トヲ合セテ荷受人ニ請求スルコトヲ得ヘキモノナリ而シテ前後ノ運送取扱人間ニ於テハ後ニ計算ヲ爲スヘシト雖モ是等ハ別問題ナリ想フニ多クハ交互計算ヲ爲スヘシ又運送取扱人カ運送人ニ運送賃ヲ拂ヒタルトキハ運送人カ受クヘキ其運送賃ハ運送取扱人カ取得ヘキモノナリ以上述ヘタル理由ト又本章ハ運送取扱營業ニ關スルコトヲ主トシテ規定シタルモノナリトノ理由ヲ以テ此第二百七十條ト第二百七十冖條トノ位置ハ前後顚倒スルヲ穩當ナリト信スルヲ以テ斯ク改メタルモノヲ原案トシテ議決セラレタシト
河村君ハ文章ノ修正案ヲ提出シテ曰ク本條第一項末段ニハ「其權利ヲ行使スル義務ヲ負フ」トアレトモ本條ノ精神ヲ表白スルニハ寧ロ「其權利ヲ行使スルコトヲ要ス」ト修正スル方可ナリト
右ニ對シ岡野君辯シテ曰ク固ヨリ文章上ノコト故强テ原案ヲ主持スルコトナラスト雖モ敢テ修正スルニモ及ハサルヘシト
右兩條ハ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百七十二條 運送取扱人ハ別段ノ契約ナキトキハ自ラ運送ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ運送取扱人ハ運送人ト同一ノ權利義務ヲ有ス
(參照)二六三、獨三八五、同草三八六、匈三八九
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ運送取扱人ノ法律上ノ性質ヲ舊商法ニ於テハ運送取扱人ノ法律上ノ性質ト異ナルコトヲ明示セシカ爲メニ設ケタルモノナリ蓋シ本章ノ初メニ於テ既ニ說明シタル如ク舊商法ハ運送取扱人ト運送人トヲ以テ普通同一ノ人之ヲ兼業スヘキモノト看做シ佛法ノ如ク兩者ニ負ハシムルニ同一ノ責任ヲ以テシタリト雖モ本案ニ於テハ之ヲ改メ運送取扱人ノ責任ヲ比較的ニ輕クシ既ニ第二百六十六條ニ於テ此運送取扱人ニハ問屋ニ關スル規定ヲ適用シタルヲ以テ推知スヘシ次ニ本條ハ右ニ述ヘタル如キ主意ニ基キ設ケタルモノナリト雖モ亦一ツハ本條ノ規定ハ第二百六十三條ノ規定ニ於ケル一部ノ精神ト相同シキモノニシテ實際ノ便宜ヲ考ヘタルモノナリ何トナレハ第二百六十六條ノ議事ニ際シ既ニ述ヘタル如ク我國今日ノ實際ニ於テハ運送取扱人ニシテ運送ヲモ爲シ居ルモノ之レアリトノコトナレハナリ要スルニ本條ノ場合ハ運送取扱人ハ別段ノ契約ナキ以上ハ自ラ運送ヲ爲スコトヲ得ヘキモノニシテ若シ之ヲ兼業ト爲ストキハ其運送取扱人ハ運送人ト同一ナル權利及ヒ義務ヲ有スルモノナリト云フニ在リト
穗積八束君ハ本條ノ文章ヲ改メテ簡單ニ之ヲ「運送諏扱人ハ自ラ運送ヲ僵脚スコトヲ得」トセハ可ナリト述ヘ
岡野君ハ反對シテ曰ク固ヨリ文章ヲ簡單スルハ希望スルトコロナリト雖モ假リニ右ノ如クセンカ本條ノ主タル精神ヲ脫漏スルヲ如何セン何トナレハ本條ハ此場合ニ於テハ運送取扱人ニ運送人ト同唱ノ權利及ヒ義務ヲ有スヘキ者ヲ主トシテ規定セラレタルモノナレハナリト
長谷川君ハ本條ニ「別段ノ契約ナキトキハ」トナルヲ批難シテ曰ク斯カル文例ハ是迄用例尠ク且ツ此場合ハ單ニ「別段ノ定ナキトキハ」トセハ可ナリト信スルヲ以テ「契約」ノ文字ヲ削除セラレタシト
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク假令單ニ別段ノ定云々ト修正スルモ爲メニ命令法ト誤解スルノ恐レハ之レアラサルヘシ然レトモ本條ノ文章上ハ寧ロ原文ヲ以テ優レリト信スト
長谷川君ハ更ニ本條ノ文章ヲ修正シ第二百六十三條ノ文例ニ倣ヒ「運送取扱人ハ自ラ運送ヲ爲ストキハ運送人ト同噸ノ權利義務ヲ有ス但別段云々」トスルノ案ヲ提出セラレタリ
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク既ニ第二百六十三條ノ明文アルニ抅ハラス特ニ本條ヲ設ケタル所以ハ要スルニ此場合ニ於テハ運送取扱人ハ運送取扱人トシテ報酬ヲ請求スルコトヲ得セシメサル爲メニシテ却テ之ヲ以テ慣習ニ適合スルモノト信スレハナリト
富谷君ハ更ニ一箇條ヲ追加スヘキ必要アリトテ其理由ヲ述ヘテ曰ク此運送取扱人ト荷物委託者トノ關係ニ於ケル規定ハ本條ヲ以テ全ク終局ヲ吿クルト雖モ余ハ更一ニ箇條ヲ設クヘキ必要ナル場合アリト信ス是他ナシ實際運送取扱ヲ營業ト爲ササル者ニシテ運送取扱ヲ爲スノ場合アレハナリ是等ノ場合ニ於テハ普通委任ノ規定ニ因ラスシテ此運送取扱ニ關スル規定ヲ準用スヘキモノト爲スヲ優レリト信スルヲ以テ玆ニ之ニ關スル一箇條ヲ追加スヘキコトヲ主張スル所以ナリ現ニ一例ヲ示セハ例ヘハ日本鐵道會社ト水戶鐵道會社トハ別箇ノ會社ナルニ余カ日本鐵道會社ニ荷物ヲ小山ニ運送スヘキコトヲ最初ニ委託シ其後更ニ小山ヨリ水戶マテ運送スルコトヲ委託シタト假定セシニ是等ノ場合ニ於テハ日本鐵道會社ハ小山ヨリ水戶マテノ運送ヲ爲スコト能ハサルヲ以テ更ニ右ノ運送ヲ水戶鐵道ニ委託スヘシ果シテ然ルトキハ日本鐵道會社ハ實際運送取扱ヲ一面ニ於テ爲シタルモノナリト雖モ此運送取扱ニ關スル規定ヲ適用スルコト能ハサル爲メ不都合ナレハナリト
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク只今富谷君ヨリ例示セラレタル問題ニ付テハ余ハニ箇ノ場合ヲ想像ス其一ハ運送人カ自己ノ受持ノ一部分ヲ終リ他ノ部分ヲ以テ運送人ニ引渡ス場合ニシテ此場合ハ全ク最初ノ運送人ヲ以テ運送取扱人ト看做スヘキモノト信ス又他ノ一ハ主タル營業カ運送取扱ナルトキハ主トシテ運送取扱ヲ爲スヘキモノナリト雖モ若シ此者カ營業トシテ共ニ運送業ヲ爲ストキハ固ヨリ本條ノ規定ヲ適用スヘキモノナリト信スルコト是ナリ尤モ富谷君ハ想フニ獨逸商法第三百八十八條ノ如キ規定ヲ設クヘキ必要アリト主張セラルルモノノ如シト雖モ右ハ余輩ニ於テモ一應考案シタルニ抅ハラス殊更採用セサリシ所以ハ今日我國ニ於ケル實際上運送取扱ヲ通常ノ營業ト爲ササル者カ運送取扱ヲ爲スカ如キ場合之レナキモノト信シタレハナリト
本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百七十三條 運送品ノ滅失、毀損又ハ延著ニ因リテ生シタル運送取扱人ノ責任ハ其引渡アリタル日ヨリ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
前項ノ期間ハ運送品ノ全部滅失ノ場合ニ於テハ其引渡アルヘカリシ日ヨリ之ヲ起算ス
前二項ノ規定ハ運送取扱人ニ惡意アリタル場合ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊四八二、五一六、獨三八六、同草三八八、匈三九〇
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第五百十六條ノ規定ニ該當ス右第五百十六條ノ規定ニ同法第四百八十九條ノ規定及ヒ其他ノ規定ヨリ推考スルトキハ運送取扱人ニモ其規定ヲ適用スルモノノ如ク果シテ然ルヤ否ヤハ一ノ問題トシ理論上ハ右ノ如ク解スヘキモノト考フ然ルトキハ本條ハ唯舊商法ニ修正ヲ加ヘタルハ第三項ニ設ケタルノ㸃ニ過キス次ニ本條第一項ハ運送者ノ滅失ニハ噸部ノ滅失ニ全部ノ滅ノ場合トヲ包含スト雖モ全部滅失ノ場合ハ第二項ノ規定ヲ設ケ其起算㸃ヲ異ニシタリ之ヲ要スルニ本條ノ精神及ヒ文字ハ舊商法第五百十六條ノ規定ト相同シキヲ以テ別ニ詳細ノ說明ヲ必要トセサルモノナレハ之ヲ省略スト
穗積陳重君ハ本條第一項ノ「其引渡」トアル「其」ノ字不穩當ナリトテ難シテ曰ク若シ右ノ如キ用語ヲ採用スルトキハ爲メニ「其」ナル文字ハ或ハ屆ケ先キヲ意味スルカノ如ク解セラレ必スシモ運送品ヲ意吐邪スルモノト解セサル爲メ其當ヲ得サルモノト信スト
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク「其」ナル文字ハ固ヨリ運送品ヲ意味スルモノニシテ此場合ハ運送品ヲ荷受人ニ引渡ストノ主意ナリ次キニ一言ス本案第三項ニハ時效ニ關スル規定ナシト雖モ右ハ他日修正原案トシテ提出スル考ナリト
磯部君カ本條第三項ノ「之ヲ」ナル文字ヲ批難シテ曰ク右ハ時效ヲ指示スルモノナルヘシト雖モ文章上宜敷キヲ得サルモノト信スルヲ以テ起草者ノ再考セラレンコトヲ希望スト
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク固ヨリ右ノ「之ヲ」ナル文字ハ時效ヲ指示スルモノニシテ稍文章上ニ於テハ迂回ナルカ如シト雖モ從來斯カル文例ハ之レアルヲ以テ强テ修正スルニ及ハサルヘシト
村田君本條第一項ノ規定ヲ批難シテ曰ク此一項ニハ運送品ノ滅失毀損云々ト之レナシトモ實際滅失ト毀損トハ其區別困難ニシテ且ツ原文ノ如ク其引渡云々トアルトキハ縱令滅失シタルモ全部滅失ニアラサル以上ハ殆ト全部滅失ノ場合ニ於テモ引渡スコトヲ得ヘキモノト解セラレ頗ル不都合ナリト
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク此滅失ト毀損トノ區別ニ關スル問題ハ既ニ民法ノ議事ニ於テモ屢々起リタリシコトナリ然ルニ只今村田君ハ殆ト全部滅失シタルモ尙ホ引渡スコトヲ得ヘキハ不都合ナリト批難セラレタリト雖モ全ク考ヘニ因リテハ例ヘハ船カ難風ニ遭遇シ實際積載ノ器物ヲ破損シタル場合ニ於テモ其原形ヲ存スル以上ハ毀損ト看做シ而シテ運送取扱人カ毀損ニ對スル損害賠償ノ責任ヲ負フヘキモノト考フト
本條ハ原案ニ可決シタリ
第八章 運送營業
第二百七十四條 運送人トハ陸上又ハ湖川、港灣ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ
(參照)舊四九三、一項、施三〇、三一、獨三九〇、同草三九九、匈三九三、瑞四四九、伊三八八、西三四九、羅四一三、葡三六六
田部君ノ說明ニ曰ク舊商法第四百九十三條ニハ商品其他ノ物ノ運送ヲ營業トストアリ然ルニ本案ニ於テ特ニ物品又ハ旗客云々ト修正シタル所以ハ他ナシ舊商法ハ運送人ト旅客運途トヲ區別シ之ヲ規定シタリト雖モ本案ニ於テハ之ヲ併合シタレハナリ又舊商法ニハ國內水上ニアリシト雖モ其規定ノ範圍漠然タル爲メ解釋上困難ヲ感スルヲ以テ商法施行條例第三十條ニハ其範圍ヲ明示シタリ之ニ依テ本案ハ寧ロ其施行條例ノ規定ニ倣ヒタリ尤モ右ニハ「川湖」トアリタシトモ「湖川」ト改ムル方却テロ調宜敷キヲ以テ之ヲ改メタリ終ニ一言スヘキ必要ハ此第八章ノ規定ハ固ヨリ海上運送ノ規定ニ非ラスト雖モ頗ル海上法ト關係スルヲ以テ他日海上法ニ關スル規定ヲ設ケルニ當リ或ハ本案中ノ或一部ノ規定ニ右ノ海上法中ニ割讓ス一ルヤモ知ル可ラスト
村田君ハ本條ニ湖川及ヒ港灣トノミアリテ沼ヲ除外セシハ不可ナリト述ヘ橫田君ハ假令湖川及ヒ港灣ト規定スルモ例ヘハ東京灣ノ如キ大ナルモノハ果シテ本條ノ灣ト看做スヘキカ或ハ海上法ノ範圍ニ屬スヘキカ疑アルヘシ故ニ斯ク列記スルハ不可ナリト述ヘラレタリ右ニ對シ田部君辯シテ曰ク沼ハ果シテ本條ノ適用ヲ受クヘキ場合アルヤハ頗ル疑㸃ナルヘシ又東京灣ノ果シテ本條ニ所謂灣ナルヤ否ヤハ玆ニ斷言スルヲ得スト
穗積陳重君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク本條ノ陸上ニハ湖川港灣トアルハ想フニ海上法ヲ取除キタル以外ノ水路ヲ謂ヘルモノナルヘシ故ニ寧ロ「陸ノ一部ヲ爲ス水上」ト修正セハ可ナルヘシト
右ハ修正案ニ對シ田部君辯シテ曰ク假令右ノ如ク修正スルモ灣ノ如キハ實際陸ノ一部ヲ爲ス水上トハ見ヘサルヲ以テ寧ロ原案ノ方優レリト信スト
梅君モ亦辯シテ曰ク此湖川港灣ナル文字ハ全ク施行條例ノ用語ヲ採用シタルコト既ニ田部君ヨリ說明セラレタルカ如シ然ルニ畢竟海上運送ト區別ヲ設ケンカ爲メニ設ケタルモノニ外ナラス付テハ海上運送ニ關シテハ別ニ一種ノ規定ヲ設クルコトトナルヘシト雖モ兩君ノ關係上ニ者其一ニ於テ定義的規定ヲ設ケサル可ラスト信スルヲ似テ寧ロ此原案ノ如ク規定セハ他日海上運送ノ範圍ヲ規定スルニ付キ頗ル便利トモナルヘシト
高木君ハ本條ヲ運送人トハ水上又ハ陸上ニ云々トシ而シテ但書ニ於テ海上運送ハ此限ニ在ラスト云ヘル主義ニ修正スルノ讀ヲ提出セラレタリ
以上ノ如ク穗積陳重君及ヒ高木君ヨリ修正案ヲ提出シ之ニ封スル贊成者アリタルヲ以テ採決ニ至リタルモ何レトモ贊成者少數ニテ消滅ニ歸シ原案ニ可決シタリ
第一節 物品運送
第二百七十五條 運送人ハ荷送人ニ對シ運送狀ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
運送狀ニハ左ノ事項ヲ記載シ荷送人署名スルコトヲ要ス
一 運送品ノ種類、重量若クハ容積、荷造ノ種類、個數及ヒ記號
二 到達地及ヒ荷受人ノ氏名、住所
三 運送狀ノ作成地及ヒ年月日
(參照)舊四八四、五〇七、佛一〇二、蘭九〇、獨三九一、二項、同草四〇〇、匈三九五、伊三八九、三九〇、西三五〇、羅四一四、四一五、葡三六九乃至三七一、白千八百九十一年八月二十五日法一
田部君ノ說明ニ曰ク此第一節ハ物品運送ニ關スル規定ニシテ後ノ第二節ハ旅客運送ニ關スル規定タリ舊商法第五百七條ニ於テハ送狀ハ運送人カ之ヲ發行スヘキモノトノ同條ニ於テ第四百八十三條以下數條ノ規定ヲ準用シタリ然レトモ本案ハ之ヲ改メ運送狀ヲ現在ノ送狀ト同性質ノモノトシ而シテ荷送人ノ發行スヘキモノト定メタリ之ヲ要スルニ本條ノ如ク運送人ニ運送狀ノ請求ヲ爲スノ權利ヲ與ヘタルト共ニ次條ニ於テハ荷送人ニ貨物引換證ノ交付請求權ヲ與ヘ相待ツヘキモノトシタリト
長谷川君ハ本條ノ規定ヲ不必要ナリトシ論シテ曰ク若シ本條ノ如ク規定センカ却テ慣習ニ相反スルモノト考フ何トナレハ實際荷送人カ運送人ニ荷物ヲ渡シ爲メニ本條ノ如キ義務ヲ負フヘキコトヲ聞知セサレハナリ尤モ極テ必要ナル理由アラハ冤モ角不然ハ寧ロ斯カル規定ハ削除スル方可ナリト信ス若シ原文ノ如ク荷送人ニ運送狀ヲ交付スヘキ義務ヲ負ハセンカ恰モ金ヲ貸セシ者却テ證書ヲ作ルヘキ義務ヲ負フヘシト云ヘルト等シク頗ル奇異ノコトト考フト
右ニ對シ田部君辯シテ曰ク長谷川君ニ本條ノ規定ヲ批難シ今日ノ慣例ハ相反スルモノノ如ク述ヘラレタリト雖モ今日ノ實際行ハレ居ル慣例ハ此外ニ出テヌト信ス唯一ニ理論上ヨリ論スルトキハ或ハ多少ノ批難ヲ免カレサルハ止ムヲ得サルモノナリ要スルニ此送狀ニ因リ貨物ノ到着地又ハ運送品ノ種類等モ到然シ且ツ運送人ハ此送狀ニ因リテ總テノ取計ラ爲スノ便宜ナルモノアレハ削除スルニハ反對ナリト
梅君モ亦辯シテ曰ク本條ニ付テハ長谷川君ノ批難アリタルト雖モ余ハ此規定ヲ以テ今日ノ實際ニ行ハルル慣例ニ適合スルモノト信ス唯鐵道會社ノ如キハ例外タルノミ其以外ノ運送ニ付テハ必ス送狀ヲ必要トシ而シテ此送狀ヲ發行スルニ付テハ實際多クハ荷送人カ直接ニ之ヲ作製セルニ非ストテ其者ノ代理トシテ問屋之ヲ作製セリ故ニ荷送人ニ自ラ送狀ヲ發行スルコトヲ知ラサル者多シト雖モ或大ナル商店ノ如キハ自ラ送狀ヲ發行スルコトヲ聞知セリ故ニ實際ノ慣例ニ相反スルトノ批難ニハ同意ヲ表スル能ハスト
磯部君ハ本條ノ削除說ヲ提出シテ曰ク此送狀ハ荷送人ノ荷物カ到着セシトキ間違ノ生セサル爲メニ必要ノモノナルヘシ付テハ本條ノ如ク事項カ列記シ若シ其內ノ一事項ヲ誤ルトキハ其爲メ送リ狀ノ全部ヲ無效ト爲スカ如キハ嚴酷ニ失シ且ツ格段ノ利益モ之レナキモノト信スルハ寧ロ全條ヲ削除シ慣習一ニ任スルノ修正說ヲ提出スト
穗積陳重君本條ノ「運送狀」トアル「運」ノ字ヲ削除スルノ說ヲ提出シテ曰ク起草者ノ說明及ヒ答辯ニ因レハ本條ノ規定ハ主トシテ慣例ニ據リタルモノトノコトナレハ寧ロ「送狀」ト改メ其稱呼モ亦等シク慣例ニ適合セシムル方可ナリト信スレハナリト
橫田君ハ本條第二項ノ「署名」ナル文字ヲ削除シ而シテ「荷送人」ナル文字ハ之ヲ第二號ノ「及ヒ」ナル文字ノ下ニ加入スルノ案ヲ提出シテ曰ク實際送狀一ニ々荷送人ノ署名ヲ必要ト爲スカ如キハ頗ル不便ヲ感スルモノト信スレハナリト
阿部君ハ本條第一項ヲ「運送人ニ荷送人又ハ運送取扱人ニ對シ]云云ト修正スルノ案ヲ提出シテ曰ク本條ノ原文ニハ運送取扱人ヲ除外シタリト雖モ畢竟運送取扱人ハ荷送人ト運送人トノ間ニ分立スルモノナレハ或場合ニ於テハ荷送人ニ代リ送狀ヲ交付スヘキ必要ノ場合アレハナリト
田部君答辯シテ曰ク穗積陳重君カ「運」ナル文字ヲ削除スト云ハンニハ敢テ反對スルニアラス又阿部君ハ特ニ運送取扱人ナル文字ヲ加入スルノ修正案ヲ提出セラレタリト雖モ既ニ第二百六十三條ニ於テ此運送取扱人ハ自己ノ名ヲ以テ運送ノ取次ニ爲スモノト規定シタルヲ以テ强テ修正スルニ及ハサルヘシト
箕作君ハ本條第二項第二號ノ「住所」ノ下ニ「居所」ナル文字ヲ加フルノ修正說ヲ提出シ起草者ノ贊成アリテ直チニ成立確定シタリ以上ノ如ク論難及ヒ之ニ封スル答辯アリタル結果要スルニ磯部君ノ全條削除說ニハ贊成者アリタレトモ採決ニ至リ消滅シ又橫田君ノ修正讀テハ多數ノ贊成者アリテ之ニ採決シ而シテ又穗積陳重君ノ單ニ「送狀」トシ「運」ナル文字ヲ削除スルノ說モ亦多數ノ贊成者アリテ可決スルニ至リ本條ハ之ヲ以テ全ク議了シタリ
第二百七十六條 荷送人ハ運送人ニ對シ貨物引換證ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
貨物引換證ニハ左ノ事項ヲ記載シ運送人署名スルコトヲ要ス
一 前條第二項ニ揭ケタル事項
二 運送賃
三 此他運送契約ノ要領
(參照)舊四八六、五〇七、伊三九二、羅四一七、葡三六九
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ一種斬新ナル規定ニシテ卽チ荷物引換證ニ關スルモノナリ尤モ今日現在ニ實行スルモノモ亦本條ノ規定ト等シキモノト信ス之ヲ要スルニ此荷物引換證ヲ持テ行クニ非サレハ荷物ヲ受取ルコトヲ得サルモノトシテ荷送人ノ希望ニ從ヒ運送人之ヲ發行スルモノナリト
磯部君ハ本條第一項ノ主義ヲ批難シ且ツ荷送人ハ運送取扱人ヨリ荷物引換證ヲ請求スヘキ主義ノ改ムル方ナリト主張シテ曰ク實際原案ノ如クスルトキハ荷送人ハ運送人ヲ識ラサルカ如キ場合ニ於ケル頗ル不都合ナレハナリト
右ニ付キ田部君辯シテ曰ク假令荷途人ハ運送人ヲ識ラサルカ如キ場合アリト假定スルモ敢テ差支ナキモノト信ス何トナレハ實際上ハ運送取扱人カ荷送人ニ代ハリテ運送人ヨリ請求スルコトニナルヘケレハナリト
本條ニ付テハ以上ノ外磯部君ノ質問及ヒ之ニ對スル岡野君ノ答辯アリテ未タ議了ニ至ラスト雖モ既ニ定刻ニ迫リタルヲ以テ未決ノ儘散會ヲ吿ケタリ