明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第66回

参考原資料

備考

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第六十六回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
村田保君
阿部泰藏君
田部芳君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
穗積陳重君
都筑馨六君
富井政章君
梅謙次郞君
長谷川喬君
三浦安君
岡野敬次郞君
第二百六十三條 問屋カ物品ノ販賣又ハ買入ノ委託ヲ受ケタル場合ニ於テ其物品カ取引所ノ相場アルモノナルトキハ問屋ハ取引所ノ相場ヲ以テ自ラ買主又ハ賣主ト爲ルコトヲ得但委託者カ反對ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ場合ニ於テモ問屋ハ委託者ニ對シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊四七〇、四七一、獨三七六、同草三七四、匈三八一、瑞四四四、伊三八六、西二六七、羅四一一、葡二七四
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ舊商法第四百七十條ニ該當スルモノニシテ其彼我異ナル㸃ハ舊法ニ在リテハ賣買ニ限ラスト雖モ之ヲ賣買ニ限ルヲ以テ可トスルノミナラス既ニ問屋ノ定義ヲ狹隘ニシ之ヲ販賣ト買入ニ限定セルヲ以テ自ラ本條モ斯ク規定セルナリ而シテ此規定ハ諸國ノ法律ニ於テモ認ムル所ニシテ實際上便利ナリ且現在ノ慣習ニモ適應スルヲ以テ之カ必要ヲ感セリ其理由ハ通常販賣又ハ買入ヲ爲ストキハ其相手方ニハ重キヲ置カス加之場合ニ因リテハ反テ委任者ノ利益ト爲ルコトアリ又問屋ノ爲メ頗ル便利ナルコトアリ乃チ問屋ナルモノハ數多ノ人ヨリ委任ヲ受クルモノナルカ故ニ其中ノモノヲ以テ他ニ運用シ得ルノ便アル爾其他代價ニ付テモ便利ナルハ卽チ問屋カ他ヨリ買入ヲ委任セラレタル場合ニ當リ他ヨリ販賣ヲ委任セラレタルモノヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得ヘシ玆ヲ以テ問屋カ自ラ賣主ト爲リ又ハ買主ト爲ルコトヲ認メタルナリ然レトモ場合ニ因リ別段ノ意思表示アルトキハ勿論之ヲ許ササルヘカラス是本條第一項ヲ設ケタル所以ナリ以上ノ如ク問屋カ自ラ賣主若クハ買主ト爲ルトキハ全ク問屋ノ關係ヲ脫シテ單ニ賣買關係ノミト爲リ問屋トシテノ手數料ヲ得ルコト能ハサルニ至リ頗ル不結果ヲ來スヲ以テ第二項ヲ設ケテ報酬ヲ請求スルコトヲ得セシメタリト
穗積陳重君曰ク本條ハ相場ノコトニ付規定セリト雖モ若シ委任者ニ於テ指シ價ヲ以テ委任ヲ爲シタル場合ニ於テ其指シ價カ相場ニ比シ高價若クハ低價ナル場合アリ此場合ニ於テハ相場アルニモ抅ハス其指シ價ヲ守ルヘキヤ將タ指シ價アルニモ抅ラス相場ヲ守ルヘキヤ若シ委任者ノ利益ト爲ル場合ニハ指シ價ニ依ラサルトモ當然委任ノ一部ト看做スヤト
右ニ對シ田部君ハ答辯ヲ爲シテ曰ク絕對的ニ指シ價ヲ守ルヘシト云フニアラス指シ價ハ場合ニ因リテ見解ヲ異ニスヘシ或ハ絕對ニ之ヲ守ルヘキ場合モアルヘク或ハ普通ノ場合ニ指シ價ハ大體ノ標準ニシテ相場カ指シ價ヨリモ利益アル場合ハ勿論委任者ノ利益ト爲ルヲ以テ此場合ハ嚴格ニ解スルヲ得スト
河村君モ穗積君ト同一ノ趣旨ヲ以テ本條ヲ難シ乃チ委任者ヨリ指シ價ヲ以テシタル場合ハ是亦委任者ノ利益ト爲ルモノナルヲ以テ此場合ニハ指シ價ニ使フモ差支ナキト規定ノ必要アリ敢テ取引ノ相場ヲ限ルノ要ナシト
田部君曰ク夫レハ指シ賃ノ見方ニ在リテ指シ價カナキトキノ場合ハ勿論之ニ依ルヘキモ變動スル場合ハ指シ價アルニモ抅ラス本條ノ適用アルヘシ去リ乍ラ販賣ヲ委任セラレタル場合ニ於テ指シ價ヨリモ低價ニ賣ルトモ反テ之カ委任者ノ利益ナル場合ハ敢テ相場ニ依ルヲ要セスト
岡野君ハ之ニ附加シテ曰ク元來指シ價トハ是ヨリ低價ニ質ルヘカラス又是ヨリ高價ニ買フヘカラス乃チ所謂(マキシムーム、ミニムーム)ヲ示スモノナリ故ニ此場合ハ委任者ノ利益ヲ計ルヘキモノナリト
次ニ穗積八束君ヨリ「取引所ノ相場」トハ公定相場ヲ指スモノナリヤ或ハ月々ノ前場後場ヲ謂フモノナルヤ若シ公定相場冷セハ委任者ニ於テ日ヲ定メスシテ委任シタル場合ハ問屋ハ其何レノ日ノ相場ニ依ルヘキヤ若シ又日ヲ定メタル場合ニ於テモ相場ハ一日中數回ノ變動アルモノナルカ故ニ其何レニ依ルヤ否ヤ等ノ質問ヲ起シ之ニ對シ田部君ハ或ハ個々ノ相場モアリ或ハ又其日ノ平均相場モアルヘク要スルニ平均相場ナルヘシト答ヘ河村君ハ獨逸ノ例ヲ引キ曰ク獨逸ニ於テ取引所ノ相場トハ通知書ヲ發スルトキノ相場ヲ謂フナリ故ニ此意味ニ爲スヘシト
梅謙次郞君曰ク本條ニ取引所ノ相場トハ所謂公定相場ノ謂ニシテ多分其日ノ中價ナラント信ス現ニ取引所法第二十六條ニ「取引所ニ於テ賣買取引シタル物件ノ相場ハ公定相場トス」トアリト
穗積八束君曰ク果シテ公定相場ナリトセハ本條ニ之ヲ明示スヘシ然ラサレハ若シ問屋カ委任者ヨリ日ヲ指定セスシテ委任セラレタル場合ハ其何レノ日ノ相場ヲ以テスヘキヤ不明ナリト
村田保君ハ本條ノ「相場」トハ公定相場ヲ謂フニアラスト主張シ其理由トスル所ヲ聞クニ相場ナルモノハ一日中數回ノ變動ヲ來スモノナルカ故ニ若シ之ヲ平均相場トスルトキハ問屋ノ利益ト爲ルカ故ニ時々ノ相場ヲ謂フモノナラサルヘカラス本條ノ精神ハ委任者カ單ニ其日ノ相場ヲ以テ賣買ヲ委任スル場合ナラサルヘカラス彼ノ腐敗シ易キ魚類ノ如キモノハ決シテ指シ價ヲ以テセス必ス其日ノ相場ヲ以テ賣買ノ委任ヲ爲スモノナリ何トナレハ若シ指シ價ニ相當スルノ時期ヲ俟タハ腐敗ヲ「免カレサルヲ以テナリト
玆ニ於テ穗積陳重君ハ本條ハ敢テ他條ニ大ナル影響ヲ及ホササルヲ以テ一ニ回延期スヘキコトヲ發議シ長谷川君ハ敢テ延期ノ必要ナク要スルニ問題トスル所ハ相場ハ何ナルヤト謂フニ歸着スルヲ以テ河
村君ノ說ノ如ク通知ヲ發シタル時ノ相場ト云フノ意ヲ顯ハシ本案第三十三條乙ノ如キモノヲ本條ニ置カハ指シ價ノ場合ニ付テ疑ヲ生セサルヘシト
梅謙次郞君辯シテ曰ク「通知」云々ニ付テハ敢テ不可ナシト雖モ之ヲ以テ未タ間然スル所ナシト謂フヲ得ス乃チ實際上ハ問屋カ利益ヲ占ムルノ㸃ニ至リテハ同一ナルヘシ必シモ午前午後ノ時ヲ限リテ賣買ノ委託ヲ爲ス者ハ僅少ナラン委任者カ直チニ賣ルヘキコトヲ委任シタリトテ其物件ニ付キ相場上見込アルモノハ先ツ問屋カ之ヲ買ヒ置キ後日高價ノ時期ヲ俟テ賣却スル場合モ之レアルヘシ然ルトキハ詰リ問屋ノ利益ト爲ルモノナリ故ニ通知ニ付テノ規定ヲ置クハ不可ナシト雖モ之ヲ以テ弊害ヲ除去スルニ足ラサルナリト
以上ノ如ク本條ノ「取引所ノ相場」ニ付テハ質問百出シ終ニ起草者ハ之ニ付テハ再考スヘキ旨ヲ吿ケ本條ハ可決シ議長ハ直チニ次條ニ移レリ
第二百六十四條 問屋カ物品買入ノ委託ヲ受ケタル場合ニ於テ委託者カ買入レタル物品ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ第二百三十四條ノ規定ヲ準用ス
(參照)獨三六六、二項、同草三六一、瑞四四三
田部芳君說明ヲ爲シテ曰ク本條ハ舊商法ニハ規定之レ無シト雖モ問屋ハ委任者カ受取ルコトヲ拒ミタルニモ抅ラス何時マテモ之ヲ保存スルハ頗ル不便ナルカ故ニ第二百三十四條ノ如ク之ヲ供託シ若クハ競賣ヲ爲サシムルヲ以テ可トス又ハ夫ニ付テハ請求シ得ルモノハ之ヲモ許ス方便利ナルヲ以テ斯クハ規定セルナリト
本條ニ付テハ別段異議ヲ生セサリシヲ以テ議長ハ直チニ次條ニ移ルヘキコトヲ宣言セリ
第二百六十五條 第三十三條己ノ規定ハ問屋ニ之ヲ準用ス
(參照)舊四七六、佛九五、蘭八〇乃至八五、獨三七四、三七五、同草三七〇乃至三七三、匈三七九、三八〇、瑞四四二、西二七六、白千八百七十二年五月五日法一四、一五
田部君說明シテ曰ク本條ハ留置權ニ關スル規定ナリト雖モ問屋カ委任者ノ爲メニ受取リタル物件上ニ留置權アリトスルニハ總則第二百三十三條ノ規定ヲ以テハ單ニ債務者間ニ在リテ問屋カ第三者トノ契約ニ因リテ得タル物件ノ上ニ留置權ヲ有スルコトヲ含マサルカ故ニ此物件上ニモ留置權ヲ認ムルノ必要アリト信シテ本條ヲ規定セルナリト
富谷君曰ク本章ニハ此他ニ尙ホ特別ノ規定ヲ置クノ必要アリ第一問屋營業ハ第二百六十條ニ因リ代理委任ノ規定ヲ準用シ得ルカ故ニ問屋カ委任ヲ執行スルトキハ之カ報吿ヲ爲スヘキコトハ民法第六百四十五條ニ因リテ明カナリト雖モ主意上本案ニモ此規定ヲ置クノ必要アリ尙ホ第二百六十三條ノ規定ハ後日修正アルヘキモ假リニ此儘ト看做ストキハ問屋ハ自ラ賣主買主ト爲ルヲ以テ民法第六百四十五條ヲ準用シ得ルニアラスヤ故ニ本案第二百六十五條中第三十三條己ノ外尙ホ第三十三條乙ヲ加フレハ可ナラン又第二百六十四條ニ於テ第二百三十四條ヲモ準用セリト雖モ第二百三十六條モ此場合ニハ必要アルカ如シト
田部君辯シテ曰ク通知ノ件ヲ加フルコトハ民法第六百四十五條ノ末段ニ因リ同一ト爲ルヘシト信スルモ不充分ナレハ一考スヘシ次ニ第二百三十六條ノ賣買ノ規定ヲ加フルノ㸃ハ余輩ハ第二百六十二條及ヒ第二百六十三條ニ依リ問屋カ自ラ賣買主ト爲ル場合ハ當然適用アルヘク敢テ玆ニ明示スルノ要ナシト信スト
尙ホ富谷君ト梅委員間ニ數回ノ討論アリタル末富谷君ハ終ニ右ヲ修正案トシテ提出シ議長ハ之ニ付キ採決シタルモ少數ニテ消滅シ本條ハ原案ニ可決シ直チニ次ニ移レリ
第七章 運送取扱營業
岡野君說明シテ曰ク本條ハ舊商法第四百八十條以下「取扱人」ト云フニ該當スルモノニシテ此「取扱人」ヲ改メテ本案ニハ「營業」ト爲シタルハ他ノ「營業」ノ理由ト同一ナリ而シテ此規定ヲ玆ニ設クルコトハ既ニ豫決問題ニ於テ決シタル所ナリ故ニ唯タ文字ニ付テ說明ヲ爲セハ卽チ「取扱人」ト云フ商人ハ種々其名稱ヲ異ニシ或ハ取扱店ト云ヒ或ハ單ニ取扱ト云ヒ運送店ト云ヒ均シク之ヲ營業トシナカラ各其名稱ヲ異ニセリト雖モ運送取扱トハ實際ニ適シ又此名稱ヲ付スル者多數ナルヲ以テ斯クハ名ツケシナリト而シテ本表題ニ付テハ異議無キヲ以テ議長ハ直チニ次條ニ移レリ
第二百六十六條 運送取扱人トハ自己ノ名ヲ以テ物品運送ノ取次ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ
運送取扱人ニハ本章ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外問屋ニ關スル規定ヲ適用ス
(參照)舊四八一、四八二、佛九六、蘭八六、一項、獨三七九、三八七、同草三八一、匈三八四、三九一、伊三八八、二項、西二七五、羅四一三、二項、葡三六七、白千八百九十一年八月二十五日法一
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ「取扱人」トハ如何ナル商人ナルヤヲ定メタルモノニシテ第二項ハ取扱人ハ法律上如何ナル性質ヲ有スルヤヲ定メタルモノナリ而シテ第一項ニ付テハ舊商法第四百八十一條第一項ト精神ヲ同シクセルヲ以テ特ニ說明ノ要ナシト雖モ本條第一項ニ「運送取扱人トハ物品運送ノ取次ヲ爲スヲ業トスル者」ト云ヒ舊商法ノ「取扱」ト云フ文字ノ代リニ「取次」ノ文字ヲ使用セルハ本案ニ運送人ノ定義ヲ上ケル以上ハ「運送取扱人ハ取扱ヲ爲ス者ヲ謂フ」トハ形式上奇ナルヲ以テ「取次」ト爲セリ其理由ハ本案第三條ニ於テ商行爲ノ一トシテ第十一號ニ仲立、取次、問屋取引ノ號ヲ設ケ取次トハ自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ商行爲ヲ爲ス者トシ之ヲ仲立ト區別セリ故ニ運送取扱ノ如キハ仲立ニアラス自己ノ名ヲ以テ運送人ト運迭ノ契約ヲ爲ス者ナルヲ以テ取次ノ文字ヲ使用セリ次ニ本條第二項ハ舊商法ト大ニ精神ヲ異ニセリ舊商法ニアリテハ運送取扱人ハ運送取扱ヲ營業トスル商人ナリト雖モ其責任ニ至リテハ第四百八十二條ニ定ムルカ如ク仲買人ノ責任ト同一ノモノアリ又同時ニ運送營業人ノ責任ヲモ有セルナリ而シテ運送營業人ノ責任ハ第四百九十三條ニ定メアルカ如ク頗ル重キ責任ニシテ名稱ハ運送取扱人ナリト雖モ其實重大ナル責任ヲ有スルモノナリ然ルニ本條ハ之ヲ修正シ運送取扱人ノ責任ハ運送人ニ比シ之ヲ輕減セリ固ヨリ之ハ大ナル問題ナリト雖モ先ツ此義ニ付テハ運送取扱人ニ運迭人ト同一ノ重キ責任ヲ負ハシムルノ立法例モアリ又雙方全ク之ヲ異ニシ一方ハ重ク一方ハ輕キアリ佛派ノ法與ニアリテハ多クハ運送取扱人ハ運送人ト等シク重任ヲ有シ獨逸ノ商法ニ在リテハ本案ト等シク運送取扱人ノ責任ハ運送人ニ比シ輕微ナリ而シテ此區別アル理由ハ則チ取扱營業トハ獨立ノ營業ナルヤ否ヤノ問題ニ歸着スヘシ其之ヲ獨立ノ營業ニアラスト見ルノ理由ハ取扱人ハ同時ニ運送ヲモ業ト爲スモノニシテ決シテ獨立シテ取扱業ノミヲ營業ト爲ス者ナシトスルニ在ツ是取扱人ヲシテ運送人ヨリモ重大ナル責任ヲ負擔セシメタル唯一ノ理由ナルヘシ然ルニ取扱人ハ獨立ノ營業ニシテ運送人トハ別個ノ營業ナリト云ヘル方ノ側ニ在リテハ取扱人ノ責任ヲ運送人ヨリモ輕減セリ我邦ノ實際ヲ取調フルニ取扱者ハ普通ハ仲買人、仲立人ト同一ナリトノ回答ヲ得タリ又其實際ノ有樣ヲ見ルモ單ニ取次ヲ爲スニ止マリテ自ラ運送ヲ爲ササルモノ多シ尙ホ現行ノ取扱營業者ハ全ク自身ニ運送ヲ爲ササル者ノミナラス稀ニ自ラ運送ヲ爲ス者アリト雖モ此取扱人ハ漸々交通ノ便開クルニ從ヒ自ラ運送ヲ爲スコトハ其跡ヲ脫スルノ傾向アリトナリ既ニ取扱營業ハ獨立ノ營業ナルコトカ確定セハ運送人ト取扱人ニ負擔セシムル義務モ一定シ從テ取扱人ノ性質モ明瞭ト爲ルヘキヲ以テ取扱人ハ獨立ノ營業ヲ爲スモノトノ精神ヲ以テ本條ヲ起草セリト
穗積八束君曰ク本條第二項ニ於テ「問屋ノ規定ヲ適用ス」トセルモ問屋ハ賣買ニ限ルモノナルヲ以テ此ノ如キ狹隘ナルモノヲ運迭取扱ニ適用スルハ穩當ナラスト
梅君曰ク取扱營業ハ賣買ニアラス故ニ問屋ノ規定ヲ適用スルハ不可ナルヲ以テ「準用」ト爲スヘシト
次ニ富谷君ハ「取次」ノ意味ヲ質問セシニ岡野君ハ「取次」トハ本案第三條第十一號ノ「取次」ト同一ニシテ乃チ運送人ト運送契約ヲ爲スヲ業トスルヲ謂フトノ答辯アリタルニ富谷君ハ本條ノ「取次」トハ起草者ノ答辯ノ如キ意味ヲ有スルモノト見ルコトヲ得ス單ニ物ヲ手渡スカ如クニ見ユルヲ以テ明カニ運送ノ契約ヲ爲ル旨ヲ示スヘシト
岡野君之ヲ辯シテ曰ク運送人ト契約ヲ爲シ運送ノ世話ヲ爲スト云フノ意ニシテ尙ホ或取扱人ヲ以テ他ノ取扱人ニ委任ヲ爲ス場合モアル故ニ「取次匚トセリト
次ニ阿部君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク舊商法ノ「取扱」ヲ改メテ「取次」トセルヲ以テ議論ヲ生スルヲ以テ本案ヲ修正シ「自己ノ名ヲ以テ他人ノ爲メニ運送ノ取扱ヲ爲スヲ業トスル者」トシ「他人ノ爲メニ」ト云フヲ加フルトキハ「取扱」ト爲スモ毫モ不可ナシト
右ニ付キ河村君ハ贊成シ次ニ岡野君ハ辯シテ曰ク「取次」ヲ「取扱」トスルハ定義トシテハ不可ナリ何者取扱人ハ如何ナルコトヲ爲スヤト云ヘハ則チ運送ノ取次ヲ爲スト云フニアルヲ以テ「何人ノ爲」トハ不可ナリト
富谷君ハ第二項ニ付意見ヲ述ヘテ曰ク運送取扱人ハ取扱ニ付テノミ義務ヲ有シ運送人ノ行爲ニ付テハ荷主ニ對シ損害賠償ヲ除クノ外ハ何等ノ義務ナシトハ從來我國ノ慣習ナルヤ余輩ハ佛法ヲ可トス何者運送取扱人ハ行爲ノ性質上運送人ト明カナル區別アリト雖モ依賴者ヨリ考フルトキハ依賴者ヨリ損害ニ對シ賠償ノ爭ヲ起スニ當リ果シテ何所ニ於テ其貨物ヲ失ヒシヤヲ證明スルコトヲ得ス第二百六十七條ニ於テハ荷物ノ滅失セシトキハ取扱人ノ不注意ト爲ルト雖モ單ニ取扱人カ運送人ニ荷物ヲ交付セシノ證アレハ取扱人ハ其義務ヲ免カルルナリ然レトモ唯タ運送人ニ之ヲ交付シ且此運送人ハ相當ナリシト云フ丈ケノ證明ヲ以テ足ルトセハ取扱人ノ義務ハ頗ル輕微ニ失シ我國ノ慣習ニモ適セサルモノト信ス且斯ノ如クンハ運送取扱人ノ亂出ヲ生シ其弊ヤ恐ルヘシ故ニ取扱人ノ責任一層重大ニスヘシト
富井君モ富谷君ニ贊成シ其理由ヲ述ヘテ曰ク此規定ニ依ルトキハ差出人ニ大ナル危險アリ乃チ運送契約ハ運送取扱人ト運送人トノ間ニ成立スルモノニシテ荷主ト運送人トノ間ニハ何等ノ關係モナシ故ニ運送人ノ過失ニ因リテ荷物ヲ毀損シタルトキハ荷主ハ直接ニ運送人ニ對スルコトヲ得サルヲ以テ取扱人ノ權利者トシテ間接訴權ヲ行フノ他途ナシ然ルニ間接訴權ナルモノハ頗ル薄弱ナルモノニシテ之ハ他ノ債權者ト分配スヘキ性質ノモノナリ此㸃ニ於テハ損害賠償ノ請求權カ取扱人ニ代位ストスルモ之ヲ全フスルコト難シ故ニ寧ロ取扱人ニ責任ヲ負擔セシムルノ優レルニ如カスト
右ニ對シ岡野君ハ辯明ヲ爲シテ曰ク本條第二項ニ於テ問屋ノ規定ヲ準用スヘキカ故ニ荷主ト取扱人間ニハ委任關係ヲ生スルヲ以テ富谷君ノ患ヲ生スルコトナシ又第二百六十七條ニ於テ取扱人ノ義務ヲ定メタルカ故ニ該條ノ事項ヲ證明セハ他ニ義務ナシト速斷スルハ大早計ニシテ彼ノ運送人ノ過失ニ因リテ荷物ニ損害ヲ生シタル場合ハ運送人ハ運送人トシテ賠償ノ責任アリ而シテ此責任ハ取扱人ニ對スル責任ニシテ且此取扱人ノ有スル權利ハ同時ニ荷主ノ權利ナリ然ラハ取扱人カ荷主ニ對シテハ如何ナル責任アリヤト云ハンニ卽チ第二百六十七條ノ他尙ホ本條第二項ニ因リ受任者タル義務乃チ善良ノ管理者ノ注意ヲ要スヘシ故ニ取扱人カ運送契約ニ依リ運送人ニ對シ賠償ヲ請求スルノ權利アラハ亦之ヲ運送人ニ請求スルノ義務ヲ有スルモノナリ故ニ第二百六十七條ノ證明ノミヲ以テ充分ナリト謂フコトヲ得サルヤ明白ナリト
玆ニ於テ富谷君ハ修正說ヲ提出シ本條第二項ヲ改メテ「運送取扱人ニハ本章ニ別段ノ定アル場合ノ外總テ運送人ニ關スル規定ヲ適用ス」トスヘキモノトセリ
次ニ議長ハ阿部君ノ修正案ニ付キ採決シタルモ少數ニシテ消滅シ尙ホ富谷君ノ修正案ニ付テモ同シク小數ニテ消滅シ終ニ原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ