第六十三回商法委員會議事要錄
明治三十年三月八日午後三時四十分開議
出席員
議長箕作麟祥君
土方寧君
村田保君
岸本辰雄君
阿部泰藏君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
梅謙次郞君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
長谷川喬君
金子堅太郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第五章 仲立營業
(參照)舊四一九乃至四五五、二十六年三月三日法五號取引所法、同年七月二十一日勅七四號、同月二十二日農商務省取引所法施行規則、佛七四乃至九〇、同千八百十六年四月二十八日法、千八百六十二年七月二日法、千八百六十六年七月十八日法、千八百六十七年一月五日令、千八百八十年二月七日令、千八百八十五年三月二十八日法、千八百九十年十月七日令、蘭六二乃至七三、六八一乃至六八五、獨六六乃至八四、同草八二乃至九三、同民六五六、六五七、澳千八百七十五年四月四日法、匈五三四乃至五四八、伊二九乃至三五、同千八百八十二年十二月二十七日施二六乃至三九、西八八乃至一一五、同千八百八十五年十二月三十一日令、葡六四乃至九二、白千八百六十七年十二月三十日法六四乃至六八
岡野委員說明シテ曰ク舊商法ニ在リテハ仲立人、代辨人、運送取扱人、運送人等ノ如ク總テ人ヲ表題トセリト雖モ既ニ第三編ノ「契約」ト云フヲ「商行爲」ト改メタルヲ以テ爾後仲立、運送取扱及ヒ運送等ハ右商行爲ノ種類ニ外ナラス玆ヲ以テ仲立人、運送取扱人ト云ハストモ商行爲ノ一種タルコトヲ示スニハ之ヲ營業トスルノ意ヲ示スヲ以テ穩當ナリトシ「仲立營業、運送取扱營業」等ノ如ク「營業」ナル文字ヲ以テ「人」ニ代ヘタリ次ニ本章ハ第五章ニシテ既ニ議了セル「代理」モ亦第五章ナリ一見奇異ノ感アリト雖モ元來豫決ノ目錄上ハ第三編中第四章委任、第一節總則第二節代理商、第三節仲立人、第四節問屋ト爲リ居レリ然ルニ右「第二節代理商」ハ既ニ第一編中一ニ章ヲ占ムルコトト爲リ卽チ本案第三編中ニハ規定セサルコトニ定マレリ故ニ殘ルハ仲立ト問屋ナリ既ニ第五章ヲ「代理」トシタル以上ハ今夫レニ付テノ總則次ニ仲立、次ニ問屋ト爲ストキハ此仲立人モ問屋モ共ニ代理權ヲ有スルモノト解釋セサル事ヲ得サルナリ然ルニ仲立人ハ毫モ代理權ヲ有セス乃チ本案第二百五十二條ニ定義ヲ下シタルカ如ク單ニ商行爲ノ媒介ヲ營業ト爲スモノニシテ契約ノ當事者ハ例ヘハ賣主ト買主ノミニシテ仲立人ハ單ニ其仲間ニ立ツモノニシテ決シテ代理ノ規定ノ適用ヲ受クヘキモノニアラス又問屋ト雖モ第二百六十條第一項ニ定メタルカ如ク他人ノ爲メニセル行爲ニヨリ權利ヲ得義務ヲ負フモノニシテ例ヘハ契約ノ一方ノ相手方ト問屋トノ間ニ契約カ成立シ委任者ハ相手方ニ對シ直接ニ權利ヲ得義務ヲ負ハス故ニ今問屋ニ代理ノ規定ヲ適用スル時ハ之厦々間接代理ト謂フヘキモノニシテ本來ハ代理ニアラス以上ノ如ク仲立人モ問屋モ共ニ代理中ニ規定スヘキモノニアラサル以上ハ既ニ議定トナリタル代理ノ規定乃チ第二百五十條及ヒ第二百五十一條ハ之ヲ商行爲ノ總則中ニ編入シ「第五章代理」ヲ消滅シテ其代リトシテ本章ヲ第五章トシテ入ルルノ考ナリト
次ニ梅謙次郞君ハ參照文ニ付キ訂正ヲ爲セリ乃チ第八行目ニ「同民六五六、六五七」ハ「同民六五ニ乃至六五六」ノ誤ニシテ又第二百五十八條ノ參照文モ右ト同一三訂正スヘシト云フニ在リ
尾崎三良君ハ舊商法ニ所謂「仲買」ヲ廢シテ問屋トセルヤヲ質問セシニ岡野君ヨリ然リトノ答アリタリ玆ニ於テ三良君ハ今日ノ通稱トシテハ「仲買」ト云フモ「仲立」トハ普通ノ名稱ニアラサルヲ以テ之ヲ「仲買」ト爲サンコトヲ主張セルニ岡野君ハ答ヘテ曰ク仲買ト云ヘハ自己カ一旦物品ヲ買取シテ之ヲ再ヒ買主ニ賣却スルノ意ニ採リ易シ然レトモ玆ニ仲立トハ假令之ヲ「仲買」ト改ムルトモ其意ハ單ニ媒介ヲ爲スニ止マルナリト
以上ノ如ク本表題ニ付テハ別段修正設モ出テス議長ハ直チニ次條ニ移ルコトヲ宣言セリ
第二百五十二條 仲立人トハ他人間ノ商行爲ノ媒介ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ
(參照)舊一一九、佛七四、同千八百六十二年七月二日法、千八百六十六年七月十八日法一、蘭六二、六四、獨六六、六七同草八二、匈五三四、伊施二六、西八八、八九、葡六四、六六、白千八百六十七年十二月三十日法六四
岡野君ハ說明前ニ訂正ヲ爲セリ乃チ本條參照文中「舊一一九」ハ「舊四一九」ノ誤ナリト
次ニ說明ヲ爲セリ今其槪要ヲ揭クレハ本條ハ舊商法第四百十九條ノ一部ヲ修正セルモノニシテ元來日本ノ商人ニシテ本案ノ所謂仲立營業ヲ爲ス者ノ例尠ナク外國ノ例ヲ見ルモ其重ナルモノハ保險仲立、船舶ノ仲立、運送ノ仲立、公債證書、有價證劵、手形、差圖債權、船舶ノ貸借等ノ如キ仲立ナリ故ニ此第二百五十二條ノ適用ヲ受クル者ハ日本ニ在リテハ彼歐洲ニ比シ極メテ小ナリト謂フヘシ抑モ本案ニ於テハ仲立營業ヲ以テ自由ノ營業ト爲セリ其結果トシテ舊第四百十九條ノ一部ヨリ第四百二十八條迄及ヒ第四百三十條、第四百三十一條、第四百四十一條、第四百四十三條等ノ規定ハ削除セリ其理由ハ實際ヲ取調フルモ仲立營業ヲ爲ス者ハ少ナク又之レアルトモ特別ノ規定ナキ以上ハ之カ弊害アルコトヲ聞カス又一ツニハ取引所ノ仲買人乃チ仲立人ニ付テハ嚴法ヲ設ケタル例アリト雖モ普通ノ仲立人ハ日本ニ在リテハ現今在迄發セス從テ之カ弊害アルコトモ聞カス外國ノ法律ヲ見ルニ取引所ノ仲買人ニ付テハ頗ル細密ノ規定アリト雖モ一般ノ仲立營業ハ漸々自由ヲ主張スルノ證アリ又仲立人ハ政府ニ於テ之ヲ撰ミ或ハ商業會議場ノ意見ヲ聞キテ撰定シ又ハ仲立人ハ商事裁判所ニ於テ宣誓ヲ爲スヲ要シ又一定ノ媒介ヲ爲ス專權ヲ有シ他人ハ猥リニ之ヲ爲スコトヲ得スト云ヘル時代ノ法律ヲ見ルニ第一仲立人ハ一定ノ身分ヲ要シ又保證金ヲ納ムヘク又ハ媒介スル商行爲ニ付テハ利害ノ關係ヲ有セサルコトヲ要スト云フカ如ク舊商法第四百三十條ノ如キ規定ヲ設ケ又仲立人多キトキハ組合ノ組織ヲ變スヘカラス乃チ舊商法第四百二十七條、第四百二十八條ノ如ク取締役ヲ撰定シ其他仲立人ノ數ノ制限仲立人ノ有スル商業帳簿ノ證據等ノ規定ハ皆前陳セル政府ノ認許ヲ要シ或ハ商事裁判所ニ宣誓ヲ爲スコトヲ要ス等ヨリ生スル結果ニシテ今仲立營業ヲ自由ノ營業ト見ルノ主義ヲ採リタル以上ハ是等ニ關スル規定ハ一切不用ナルヲ以テ之ヲ削除セリト云フニ在リ
土方寧君曰ク本條ニ仲立人トハ文字上周旋人ナルカ如シ余輩ハ考フルニ本條ノモノハ英米ノ所謂「フローカー」ニ該當スヘキモノニシテ獨リ媒介ノミナラス當事者雙方ニ代ハリテ行爲ヲ爲スモノナリ乃チ其法律行爲ハ自己カ代理人トシテ爲スモノナリ是等ノモノハ本條ニ該當セサルコトト爲リ頗ル狹隘ニ失ス故ニ單ニ「仲立人」ノ文字ヲ以テハ唯タ當事者雙方ヲ引合スルノミノ場合ヲ云フカ如シト
岡野君答辯ヲ爲シテ曰ク英米ノ「フローカー」ナルモノカ果シテ土方君ノ言フカ如キモノトセハ之ハ固ヨリ本條ニ該當セセルナリト穗積八束君曰ク本條ヲ見ルニ他人間ニ於ケル商行爲外ノコトヲ媒介スルトキハ仲立人ニアラスト云フカ如クシテ頗ル狹隘ニ過クヘシ例ヘハ他人間ニ於テ土地家屋等ノ賣買ヲ爲サント欲スル場合ノ如キハ其行爲ハ商行爲ニアラサルモ之ヲ媒介スルモノハ之ヲ營業トスルトキハ商行爲タルヲ以テ仲立人ナラサルヘカラス然ルニ本條ニ依レハ此種ノモノハ仲立人ニアラスト云フカ如シ故ニ本條ノ「商行爲」ノ「商」ヲ除クヘシト
梅謙次郞君ハ之ニ答ヘテ曰ク夫等ハ本案第三條十一號ノ適用アリト信ス卽チ玆ニ仲立トハ其中ノ一種ニ過キス而シテ第三條十一號ノ適用ハ玆ニ「仲立」ト云フヨリモ一層廣キ意義ヲ有スト雖モ性質上ハ仲立ノ中ニ入ルヘシ又何故ニ第三條十一號ノモノハ本條ノモノヨリ廣キヤト云フニ此仲立ノ外ニ貸借ノ周旋取次等ヲ含ムヲ以テナリト土方寧君曰ク英米ノ「フローカー」ハ本條ニ入ラスト云フト雖モ本來ハ本條ノモノト雖モ獨リ媒介ノミニ止マス代理ヲモ爲スト云フノ意ニ爲スヘシ次條ヲ見ルニ曰ク「仲立人ハ其媒介シタル商行爲ニ付キ當事者ノ爲メニ支拂又ハ給付ヲ受クル權限ヲ有セス」云々トアリ依之觀是若シ仲立人カ單ニ媒介行爲ノミニ止マルモノトセハ代理關係無キヲ以テ「權限ヲ有セス」ト云フカ如キ規定ノ要ナシ然ルニ特ニ此文字ヲ用ヰタル所以ノモノハ暗ニ其代理權ヲモ有スルコトヲ認メタルモノト謂ハサルコトヲ得ス尙ホ又第二百五十五條第一項末文ヲ見ルニ曰ク「書面ヲ作リ署名ノ後之ヲ各當事者ニ交付スルコトヲ要ス」トアリ若シ媒介ノミニ止マルモノトセハ當事者ニ書面ヲ交付スルノ必要ナキナリ玆ヲ以テ仲立人ハ媒介行爲ノミヲ爲スモノト謂フヲ得サルナリト
岡野君答ヘテ曰ク第二百五十三條ノ「權限ヲ有セス」トハ理論上或ハ不用ナラント雖モ實際上此場合ハ槪シテ一方ヨリ依賴ヲ受ケルモノナルカ故ニ斯クハ規定セルナリ第二百五十五條ノ「書面ノ交付」云々ニ至リテハ土方君ノ說大ニ誤レリト云フヘシ乃チ第二百五十五條ニ所謂書面トハ獨逸ニ所謂「シユルースチエツテル」(締結書)ノ如キ意味ニ解スルトキハ土方君ノ說ノ誤レルコトヲ知ルヘキナリ抑モ仲立人ハ當事者雙方間ニアルモノナルカ故ニ從テ契約ノ要領モ後日ノ爭ノ種トナルコトアリ故ニ之ヲ確實ナラシメンカ爲メニセルモノニシテ決シテ代理ヲ爲スト云フ㸃ヨリ觀察ヲ下シテ「書面」云々ノ文字ヲ使用セルニアラスト
玆ニ於テ土方君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク第二百五十三條及ヒ第二百五十五條トノ比較上理論ニ合セス故ニ仲立人ハ獨リ他人ノ名ヲ以テスルノミナラス又自己ノ名義ヲ以テモ媒介ヲ爲スモノトスヘク故ニ本條ヲ修正シ「他人ノ名ヲ以テ又ハ自己ノ名ヲ以テ商行爲ノ媒介ヲ爲スヲ營業ト爲スモノヲ謂フ」トノ意ニ爲スヘシト
梅謙次郞君辯シテ曰ク第二百五十三條ヲ置キタル所以ハ此仲立人ハ決シテ窮屈ナルモノニアラスシテ依賴ヲ受クレハ代理ヲモ爲スコトヲ得ルモノナリ意味ノ疑ハシキ場合ニハ代理ヲ爲スコトヲ得サル旨ヲ第二百五十三條ニ於テ規定セリ故ニ若シ代理ヲモ爲スヘキモノトセハ第二百五十三條ハ牴觸スヘシ然レトモ第二百五十三條但書ニ於テハ代理ヲモ爲ス場合ヲ規定セルナリト
井上正一君ハ穗積八束君ノ「商」ノ字ヲ除クトノ修正說ニ贊成シ且ツ「行爲」ヲ「取引」ト爲スヘシト云ヒ八束君モ之ニ贊成セリ
玆ニ於テ議長箕作君ハ右井上君ノ修正案ニ對シ之ヲ起立ニ間ヒタルモ少數ニテ消滅シ直チニ原案可決シ次條ニ移レリ
第二百五十三條 仲立人ハ其媒介シタル商行爲ニ付キ當事者ノ爲メニ支拂又ハ給付ヲ受クル權限ヲ有セス但別段ノ意思表示又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊四一九、四二九、四三五、獨六七、二項、同草八六、匈五三四、二項、伊三〇、西一〇六、葡六八
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ノ主意ハ既ニ前條ニ於テ說明セルヲ以テ此ニ贅セス唯タ本條ハ仲立營業總テニ該當スト云フコトヲ得ス其最重ナルモノハ商品ノ賣買ヲ媒介スル場合ニアリト
穗積陳重君曰ク本條ニ「支拂又ハ給付ヲ受クル權限ヲ有セス」トアリト雖モ元來支拂トハ給付ノ一部ナリト信ス故ニ「支拂其他ノ給付」トスヘシト
右ニ對シ岡野君ハ果シテ給付中ニ支拂ヲモ含ムモノトセハ穗積君ノ意見ノ如クスルトモ差支ナキ由ヲ述ヘ且ツ本條ヲ訂正シ「商行爲」ヲ單ニ「行爲」トスヘキ旨ヲ陳ヘタリ
次ニ富井君モ民法ニ於テハ「給付」ハ頗ル廣キ意義ニ使用セルコト及ヒ本條ニ「權限」ト書クトキハ恰モ代理ノ如シトテ之ヲ批難セリ次ニ河村富谷兩君ハ起草委員ノ說明中本條但書ニ依リ仲立人ハ代理ヲ爲スコトモ得ヘキ旨ヲ述ヘタリト雖モ本條ノ但書ハ「支拂又ハ給付ヲ受クル權限ヲ有セス」ト云フニ關係セルモノニシテ此但書ノミヲ以テハ未タ一般ニ代理ヲ爲スコトヲ得ヘシト云フコトヲ得ス故ニ
仲立人ニシテ代理ヲ爲スコトヲ必要トセハ他ニ之カ規定ヲ要スヘク獨逸ニ於テモ特ニ之カ規定アル旨ヲ述ヘタリ
玆ニ於テ起草者ハ穗積陳重君ノ說ニ從ヒ「支拂其他ノ給付」トスヘク且「權限」ニ付テモ一考スヘキ旨ヲ陳述セリ
議長箕作君ハ本條但書ニ「別段ノ」トハ奇ナルヲ以テ一考スヘシト云ヒ起草者之ヲ諾シ穗積陳重君ハ「權限ヲ有セス」トハ頗ル穩カナラサルヲ以テ「支拂其他ノ給付ヲ受クルコトヲ得ス」ト爲スヘキ旨ヲ述ヘ議長ハ右ニ決定セント述ヘ次條ニ移レリ
第二百五十四條 仲立人カ其媒介スル行爲ニ付キ見本ヲ受取リタルトキハ其行爲カ完了スルマテ之ヲ保管スルコトヲ要ス
(參照)舊四三三、蘭六九、獨八〇、同草八五、匈五四四、葡七七
岡野君說明ヲ爲シテ曰ク本條ハ舊商法第四百三十三條ト同シク本案第二百五十五條ト同一ノ精神ニ出テタルモノニシテ何ツレモ當事者間ニ爭ノ生シタル場合ノ爲メニ規定シタルモノナリ而シテ「其行爲力完了スルマテ」トハ例ヘハ賣買等ノ場合ニアラサレハ殆ント適用ナシト
穗積陳重君曰ク「完了」トハ悉ク其行爲ヲ終ハル迄ト見ルヘシ故ニ先ツ媒介ニ付テ言ヘハ媒介行爲丈ケヲ悉ク終リタルコトヲ示スヘキ文字ヲ用フヘシト
次ニ富井政章君曰ク仲立人ナルモノハ賣買ノ成立ノミヲ媒介スルモノナルヤ將タ之カ履行迄ヲモ媒介スルモノナルヤハ問題ナリト雖モ例ヘハ甲カ仲立人ニ買方ヲ依賴シタルニ都金ヲ要スヘシト云フヲ以テ代金ヲ渡シ或ハ履行迄モ依賴シテ其物品ヲ引渡シ置クコトハ爲シ得ヘキモノナリト信ス果シテ然ラハ金錢品物等ハ此場合ニモ保管ヲ要スヘキモノナリト信スト
岡野君曰ク默セハ成立ニ付テノミ媒介ヲ爲スヘク然レトモ若シ特ニ委任ヲ爲サハ民法ノ委任ノ規定ニ依ルヘシ去リ乍ラ本條ノ場合ハ見本ニ異ナリタル等ノ場合ニ於テ爭ノアリタル場合ヲ規定セルモノナ囗ント
富谷君曰ク見本ヲ保管スルコトニ付テハ小物ニ付テハ敢テ不都合ヲ生セサルモ彼ノ器械ノ如キ大ナル物品等ニ至リテハ頗ル不便ナリ故ニ「保管スルコトヲ要ス」トハ嚴ニ失スヘシ故ニ之ヲ緩ニシ將來反對ノ慣習ヲ生シタル場合ニハ之ヲ許スコトト爲スヘシ故ニ本條ニ「反對ノ慣習アルトキハ此限ニ在ラス」ト云フヲ加フルノ修正ヲ提出スヘシト而シテ其理由ニ曰ク我國ニ所謂仲立營業ナルモノカ盛ニ行ハレ實際上慣習ノ如何ヲ問フノ必要ナキニ至ラハ敢テ不可ナシト雖モ現今ノ有樣ニ於テ後日慣習ヲ組成スルニ當リ之ヲ許ササルトキハ法律カ頗ル嚴格ニ失スルコトヲ思フヘシ故ニ之ヲ綏ニスヘシ而シテ之ヲ緩ニ爲シタリトテ實際上仲立人ニ依賴セサル場合モアルヘキヲ以テ敢テ不都合ヲ生スルコトナシト
梅謙次郞君ハ之ヲ辯シテ曰ク本條ノ場合ハ實際其頻繁ナルコトヲ期スルコトヲ得ス又慣習カ明カニ生シ居ラハ民法第九十二條ノ適用アルヘシト
富谷君曰ク慣習カ或ハ意思表示ノ解釋ト爲リ居ル場合ハ民法ノ適用ヲ以テ足ルト雖モ若シ然ラストセハ本法第一條ニ依リ慣習ヲ適用シ得サルヘシト
土方寧君曰ク從來「見本」ナル文字ヲ使用セス故ニ「雛形」ト云フ文字ハ通常使用スルヲ以テ「雛形」ト改ムヘシ又「行爲力完了スル迄」トハ不明ナリ賣買ノ場合ナレハ目的物ヲ受取ルヲ以テ足ルヘシ然ルニ本條ノ場合ハ代價ヲ拂ヒタルノミニテハ未タ以テ完了ト云フコトヲ得サルカ如シ故ニ「引渡ヲ終ル迄」トスヘシ尙ホ又完了セシ後ハ其物ヲ假令ヒ破毀スルトモ差支ナシト云フコトヲ得ルカ如シ故ニコ留保」トスヘシト
岡野君曰ク「雛形」トハ場合ニヨリテハ適用ナラス又「保管」トハ他人ノ爲メニ物ヲ領カルノ意ニシテ本條モ亦同一ノ意味ナリ而シテ「留保」トハ權利ニ限ルモノナルヲ以テ不可ナリ唯タ「完了」ノ文字ニ付テハ疑ヲ存スルヲ以テ一考スヘシト
此ニ於テ議長箕作君ハ「完了」ニ付テハ起草者ニ於テ再考スル旨ヲ述ヘ本條ハ原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ
于時午後六時四十五分