第五十七回商法委員會議事要錄
明治三十年二月十五日午後第三時四十分開會
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
鶴原定吉君
土方寧君
村田保君
岸本辰雄君
澁澤榮一君
阿部泰藏君
田部芳君
梅謙次郞君
穗積八束君
穗積陳重君
都筑馨六君
井上正一君
河村讓三郞君
富谷鉎太郞君
長谷川喬君
南部甕男君
三浦安君
中村元嘉君
西源四郞君
岡野敬次郞君
商乙第七號
起草委員提出
一 保險會社ニ關スル特別法ハ商法中保險ニ關スル規程議決ノ後之ヲ起草スルコト
二 前項ノ特別法制定ニ至ルマテ保險會社ハ相互保險ヲ目的トスルモノヲ除ク外株式會社タルコトヲ要スルモノトスルコト
三 相互保險ヲ目的トスル會社ト雖モ政府ノ免許ヲ要スルモノトスルコト
岡野敬次郞君說明ヲ爲シテ曰ク商乙第六號案及ヒ舊商法ニ於テハ保險營業ニ關スル取締規則カ法典中ニ在リシナリ然レトモコハ頗ル不完全ニシテ且私法中ニ行政上ノ規程ヲ混スルハ商法ノ體裁ヲ失スルノミナラス實際今日生命保險會社ハ弊害多キヲ以テ終ニ保險會社ニ關スル規定ハ之ヲ特別法ト爲サントハ既ニ昨明治ニ十九年十一月十八日ニ於テ可決シ「保險會社法」若クハ「保險營業取締法」ナル名稱ヲ附シテ之ヲ特別法ト爲サンコト」セリ然ルニ實際今日ノ有樣ヲ見ルニ彼生命保險會社ナルモノノ弊害ヤ日々增進スルヲ以テ右特別法ノ制定ヲ俟ツコトヲ得ス故一ニ時之カ取締法ヲ設クルノ必要生セリ是今日該案ヲ提出セル所以ナリトス農商務省ニ於テモ現今生命保險會社等ニ注目シ或ハ之ニ解散ヲ命シ又ハ停止ヲ行ヒ以テ一時ノ彌縫策ヲ行フト雖モ是以テ末タ充分ナリト云フヲ得ス此ニ於テ先ツ是等ニ關スル取締規則ノ必要ヲ感ス是余輩等カ玆ニ本案ヲ提出セシ第二ノ理由トス而シテ前陳特別法ノ制定ハ元來本會ノ權限ニ屬スル所ナリト雖トモ此法ノ未タ定マラサルニ行政命令ヲ以テ取締ヲ爲スハ不可ニシテ且此特別法ヲ議スルニ當リテモ或ハ之ヲ商法上ニ規定セントスル論者モアルヘク今直チニ私法上ノ規定ヲ差措クコトヲ得ス故ニ本案第一ノ如クセント欲ス果シテ斯ク定ムルトキハ是非共今日生命保險會社ノ弊害ヲ除去スルノ策ヲ讓セサルヘカラス此ニ於テ本案第二、第三ノ如ク爲サントス現行會社法ニ依レハ保險ヲ目的トスル會社ハ必スシモ株式會社タルコトヲ要セス合名、合資會社ヲ以テスルモ可ナリ然ルニ株式會社ノ設立ニ付テハ政府ノ免許ヲ要シ合名、合資ニアリテハ之ヲ要セサルカ故ニ若シ合名合資會社ニ保險營業ヲ許ストセハ政府ハ之ヲ監督スルコトヲ得サルヲ以テ之カ設立ヲ否認スルコトヲ得ス故ニ今若シ之ヲ株式會社ニ限ルトキハ政府ハ一定ノ方針ヲ以テ此會社ノ設立ヲ否認シ得ルナリ保險會社ニ關スル特別法ハ如何ナル規定ト爲ルヘキヤ之ヲ豫想シ得スト雖モ余輩一個ノ考ハ保險營業ハ相互保險ヲ目的トスル外ハ株式會社ニ限ルトセントス其理由ハ明カナリト雖モ合名、合資會社ノ如キ其資本小ニシテ且其組織上社員ノ人ニ重キヲ置キ社員ノ變動カ會社存否ニ關スルカ如キモノハ彼多數人ヲ相手トシ永久繼績ノ目的ヲ有スル保險會社タルニ適セス故ニ資本大ニシテ社員ノ變動カ會社ノ存否ニ關セサルモノヲ撰マサルヘカラス故ニ株式會秕タラサルヲ得ス歐西諸國ニ於テモ生命保險會社ハ株式會社タラサルヘカラストノ說多シ斯ノ如ク理論上ハ株式會社ヲ以テ最モ適當ナルヲ以テ今日本條第二ノ如キコトヲ定ムルモ敢テ不可ナラス次ニ本案第三ハ相互保險ヲ目的トスル會社乃チ獨逸ニ所謂「フエルシツヘルニク、アウフ、ケーケンサイチヒカイト」ハ株式會社ト異ニシテ營利的ニ非サルモノヲ云フト雖モ保險ノ基本計算トモ謂フヘキ彼ノ死亡精算書等カ不完全ニシテ且變動アルヲ機會トシテ株式會社ノ如ク營利ヲ得ントスルモノ無キニアラス實際今日ノ有樣ヲ見ルニ名ヲ相互保險三籍リ幾分力割戾ヲ表面ニ見ハシ其實射利的會社ナルモノアルヲ以テ現行法ニ於テハ是等ニモ政府ノ免許ヲ必要トセサルモ是一方ヲ防カサルモノナルヲ以テ今日ハ相互保險ヲ目的トスル會社ト雖モ等シク政府ノ免許ヲ必要トスルモノトシ本案ヲ提出セリト
長谷川君曰ク本案第二ニ關スル件ハ元來玆ニ吾々ノ議スヘキモノニアラス何者保險ヲ目的トスル會社ヲ株式會社トスルハ一時ノ便法ニシテ成程政府ヨリ之ヲ見レハ商法民法實施迄ニハ時日アリト雖モ之ハ政略問題ニ屬シ本回ニ於テ職分トシテ議定スヘキモノニ非ス本回ハ民法商法及附屬法ヲ制定スルモノナリ然ルニ此附屬法ヲ制スル迄ニ尙ホ一個ノ法ヲ議定スルハ問題外ナリト
梅謙次郞君之ヲ辯シテ曰ク苟モ保險ノ取締ニ關スル法ハ商法ノ附屬法ナレハ假令一時ノモノタリトモ取締ニ關スル永久ノモノヽ制定ニ至ル迄ハ止ムヲ得サルニ出テタルモノニシテ性質上本回ノ職分外ニアラスト
井上正一君モ亦長谷川君ト同意見ニシテ乃チ一時限リノモノヲ議スルハ是既定法律ノ不充分ヲ防クカ爲メナルカ如ク所謂政略的ノ觀念ヲ生スルヲ以テ寧ロ詳カニ調査ヲ爲シ保險ニ關スル規定ノ出來後之ヲ充分ニ修正スルコトヽシ一時ノ法律ヲ制定スルハ不可ナリト述ヘ岡野君ハ之ニ對シテ辯明シテ曰ク本案ハ舊商法第六百八十九條ヲ基礎トシテ之ヲ修正セントスルニアリ而シテ民法、商法、及ヒ法令第八號ニ依ルニ假令ヒ一時ノ法律タリトモ決シテ不都合ナシト
梅君之ニ附加シテ曰ク本回ニ屬スル法律ハ必スシモ永遠ト云フヲ得ス假令一時ニモセヨ商法中ニ規定セルモノト同一ノ事項タル以上ハ決シテ不可ナシ之ヲ永遠ニ行フヤ否ヤハ政治問題ナリト雖モ法典以外ノ問題ニアラスシテ法典ノ政治問題ナリト
岸本君曰ク既ニ永遠ノモノヲ制定スヘキ筈ナルヲ以テ急キ一時ノモノヲ作ルノ要ナシ況シテヤ保險ニ關スル現行法アルニ於テヲヤ
梅君答テ曰ク現今詐僞的會社大ニ起リ其弊害限前ニ差迫リ居ルニ當リ永遠ノ法律制定ノ期ヲ俟タハ何ニ依リテカ此弊ヲ防止シ得ヘキヤ是レ一時法律ヲ以テ取締ヲ爲スノ止ムヲ得サルニヨルト
土方君ハ注意ヲ爲シテ曰ク特別法ニ於テハ本案第二、第三ト主義ヲ異ニセサルコトヲ要ス若シ之ヲ變更スルトセハ長谷川君ノ所讀ト同一ノ非難ヲ免レスト
岡野君曰ク主義ヲ變更スルヤ否ヤハ專ラ議事ノ結果ニ屬スルモノニシテ修正ヲ以テ變更スルハ止ムヲ得サルナリ然リト雖モ生命保險會社ニ付テハ政府ノ免許ヲ要スヘシ外國ニ於テモ多クハ然ルナリ尙ホ株式會社トスヘキヤ否ヤハ斷言スルヲ得ス若シ他ニ取締法ノ完全ナルアレハ敢テ株式會社タルヲ要セサルヘシト
梅君ハ尙ホ之ニ附加シテ曰ク普通ノ會社ニアリテハ其事業繁雜ナラス自ラ監督スルヲ以テ足レリト雖モ彼ノ保險事業ニ至リテハ專門家之カ調査ヲ爲スニ非サレハ明白ナラサル性質ヲ有スルモノニシテ之ヲ忽ニセハ其弊害果シテ如何ンヤ且保險業ハ他ノ事業ニ比シ重大ナル關係ヲ有スルモノニシテ今之ヲ經濟家ノロ調ヲ藉リテ云ヘハ國民ノ貯蓄心ノ墸減ニ影響ヲ及ホスヤ大ナリト
阿部泰藏君曰ク保險ニ關スル會社ハ之ヲ株式會社タラシムルハ現今ニ於テハ一時其要アルカ如シト雖モ之ヲ永遠株式會社タラシムルノ主義ヲ採ルノ要アリヤ否ヤハ大ニ疑ヲ存スト
此ニ於テ議長箕作君ハ長谷川君ノ說ニ付キ決ヲ探リタルモ少數ニテ消滅セリ次ニ商甲第二十七號ニ移レリ
第三章 交互計算
岡野君說明シテ曰ク之ハ豫決問題ノ決議ニ基キテ立案セルモノニシテ敢テ說明ノ必要ナシ唯タ「交互計算」ノ文字ノ適當ナラサルカ如キヲ以テ各員ニ於テ適當ノ文字ヲ撰フヘシト而シテ之ニ付キ別段異議ナキヲ以テ直チニ本文ニ移レリ
第二百三十九條 交互計算ハ平常互ニ取引ヲ爲ス商人ト他人トノ間ニ於テ一定ノ期間內ノ取引ヨリ生スル債權債務ノ總額ヲ相殺シ其殘額ノ支拂ヲ爲スヘキコトヲ約スルニ因リテ其效力ヲ生ス
(參照)舊三五三、三五四、三五八、三五九、民五〇五乃至五一二、獨三九一、一項、同草三二六、一項、匈二八五、一項、伊三四五、羅三七〇、葡三四四、三四六、三五〇
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第三百五十三條、第三百五十四條、第三百五十八條及ヒ第三百五十九條ノ精神ヲ採リテ之ヲ一條ト爲シタルモノニシテ「交互計算」トハ民法ノ文例ニ倣ヘリ然レトモ其主意ハ第一、本條ノ交互計算ハ唯々計算上ノ關係ノミナラス法律上特別ノ效力アル契約タルヲ顯ハセルモノナリ而シテ交互計算ナル法律關係ハ當事者ノ意思ニ基キテ始メテ成立スルモノニシテ其當事者ノ意思ヨリ生スルモ之ハ一般ノ原則ニ因リ明示ヲ要セス唯タ其事實上ヨリ交互計算ヲ爲スノ意思アリト見ル場合ヲ認ムルナリ然ルニ舊商法第三百五十三條ユ在リテハ唯タ交互計算ヲ爲シ得ルト云フニ過キス然レトモ之ハ法律ノ明文ヲ俟タスシテ明白ナル義ナリ第二、舊商法ノ精神ヲ變シタルコト是ナリ乃チ當事者ノ雙方ハ商人タルヲ要セサルモ其一方ハ必スシモ商人タラサルヘカラスト云フニアリ商人間ニ於テハ廣ク交互計算ノ行ハルルハ疑ヲ存セスト雖モ一方力非商人タル場合ニ此問題ヲ發生スヘシ非商人間ニ在リテハ交互計算ヲ爲スコト頗ル稀ニシテ實際上殆ント之レ無シ故ニ本條ニ「平常互ニ取引ヲ爲ス商人ト他人トノ間ニ於テ」云云トセルナリ第三、差引計算ヲ爲スヘキモノハ如何ナルモノナリヤト云フニ在リ之ハ交互計算ノ法律上ノ性質ヨリ生スルモノニシテ一方ノ個々ノ債權ト他ノ一方ノモノト差引スルハ交互計算ノ性質ニ反ス抑モ交互計算ノ性質ハ債權債務ノ總額ヲ差引ニアリ然ルニ舊商法ニ於テハ之ヲ明言セスシテ暗ニ第三百五十九條ニ於テ之ヲ認ムルカ如シ而シテ第三百五十三條ヲ見ルニ「債權債務ヲ消却シ得」トアリテ全體ノ債權ノ額ト全體ノ債務ノ額ト相殺スルコトヲ見ハスカ故ニ本條ノ如クセルナリ第四、殘額是ナリ而シテ之ハ或ハ交互計算ノ主意ヲ見ハスニハ不完全ナランモ「差引殘」等ノ文字ヲ用ヰストモ先ツ之ヲ以テ明カナルヘシ交互計算ノ繼續中ハ其債權者、債務者ハ何ツレノ者ナルヤハ明カナラス唯タ計算上ハ明カナリト雖モ法律上ハ期限後、差引計算後ナラサレハ明カナラス「殘額」ナルコトカ交互計算ノ眞味ナリトテ之ヲ條文ニ表示セルナリト
穗積陳重君曰ク「債權債務ノ總額ヲ相殺シ」云云トアルモ若シ「相殺」ナル文字カ「差引」等ノ如キ數學上ノ語タラハ適當ナルモ相殺トハ法律上ノ働ヲ見ハセルモノニシテ乃チ債務ヲ消却セシムルコトナルヘシ果シテ然ラハ「總額ヲ相殺シ」ト云フトキハ殘額ナルモノハ無キコトヽ爲ルヘシ故ニ其對當額ニ付テ置務ヲ消却セシムルノ意ニ規定スヘシ民法ニ於テモ亦然ルナリ此ヲ以テ本條ニモ「債權債務ヲ相殺シ其殘額」云云トシ或ハ「總額ニ付テ相殺シ」云云トスヘシト
河村君質問ヲ發シテ曰ク「債權債務ノ總額」トハ金錢外ノ有體物ヲモ含有スルヤ又外國ノ例ハ如何ト
岡野君答ヘテ曰ク舊商法第三百六十一條ニハ「相互ノ債權債務ハ種類ノ何タルヲ問ハス」云云トアリ之ハ如何ナル主意ナルヤ結局金錢ニ變形スヘキモノナラサルヘカラス外國ニ於テハ無論「金錢」ノ文字ヲ付セス單ニ「債權」トアルニ過キスト雖モ明カニ金錢ノ文字ヲ記スルモ不可ナラス交互計算ノ書式モ全ク金錢ニ代ヘテ記載スルナリト
河村君再ヒ問フテ曰ク然ラハ物體ヲ引渡スノ權利、義務ヲモ含有スルニヤト
岡野君答ヘテ曰ク然ラス唯タ文字上ハ總テノ物體ニ付テ爲シ得ルカ如キモ實際交互計算ノ有樣ヲ見ルニ決シテ之レ無シト信ス獨逸國ノ如キハ法律ニハ「債權」トセルモ著書ニ在リテハ「ケルト」(金錢)ノ文字ヲ使用セリト
梅君之ニ附加シテ曰ク金錢ト物體トヲ相殺スルカ如キハ民法ニ於テ之ヲ許サス民法ニ於テハ同種ノ目的タルコトヲ要スルナリ然レトモ米ト米トノ如キ同種ノ物體ノ割合ニ付テ疑ヲ生スルノ恐アルカ故ニ或ハ「金錢」ト明言シ置クノ要アラント
岡野君曰ク獨逸現行商法ニ於テハ交互計算昻付ニ個條程ノ規定アリ又同草案第三百二十六條ニハ「ライスツレク」(給付)ナル文字アリ而シテ此文字ハ必シモ物ト物トノ意ナラスト信ス然レトモ交互計算ニ付キ獨逸商法第二讃會草案ノ理由書ヲ見ルニ「ケルトライスツンク」(金錢給付)ニ限ルカ如シト
此ニ於テ議長箕作君ハ本條ニ「金錢ノ」ヲ入ルルコトハ起草者ニ於テ一考スヘキ旨ヲ宣言シ次條ニ移レリ
第二百四十條 手形其他ノ有價證券ヨリ生スル債權債務ハ之ヲ交互計算ニ組入レサルモノト推定ス
當事者カ前項ノ推定ニ反スル意思ヲ表示シタルトキト雖モ證券ノ債務者カ辨濟ヲ爲ササリシトキハ其債務ヲ交互計算ヨリ除去スルコトヲ得
(參照)舊三六一、伊三四五、一號、羅三七〇、一號、葡三四五、三四六、二項
岡野君說明シテ曰ク本條第一項ノ主意ハ例ヘハ商人ト非商入カ交互計算ヲ爲スモ手形其他ノ有價證劵ハ交互計算中ニ入レサルノ意思ナリト推定スルモノニシテ之ハ主トシテ便利ニ出テタル規定ナリ其理由ハ既ニ前條ニ依リ當事者カ交互計算ノ契約ヲ爲サハ其交互計算ヲ爲スヘキ期間內ニ於テ當事者ノ一方ニ對シテ得タル債權ハ交互計算ノ項目ナルヲ以テ此權利ヲ他人三議渡シ又ハ之ヲ以テ相殺ノ材料ニ供シ或ハ一方ニ對シテ之ヲ請求シ得サルモノナリ然ルニ彼ノ手形等ノ如キハ斯ノ如ク權利ヲ保存スルコトヲ得ス裏書ヲ以テ讓渡シ或ハ引渡ノミヲ以テ他人ニ權利ヲ移轉シ得ルモノナルカ故ニ彼我其性質ヲ異ニス故ニ手形ニ付テ言ヘハ償還請求ト云ヒ擔保請求ト云ヒ法律上特別ノ行爲ヲ要シ從テ其履行ニ付テモ亦特別ノ行爲ヲ要スルモノヲ交互計算ニ組入ルルコトハ手形ノ性質ニ反ス尤モ當事者カ反對ノ
契約ヲ以テ交互計算中ニ組入ルルコトヲ得ルモ法律ハ寧ロ反對ノ推定ヲ下スヲ以テ當事者ノ意思ニ適當スヘキモノニシテ是本條第一項ヲ設ケシ所以ナリ第二項ニ「除去スルコトヲ得」トハ則チ今假リニ無記名債權、差圖債權等ヲ交互計算中ニ組入ルトスルモ先ツ當事者ノ一方カ他ノ一方ヨリ受ケタル右債權ハ之ヲ義務ノ儘ニテ交互計算ノ帳簿ニ起入シ若シ其義務カ支拂ハレスシテ其儘ト爲ルトキハ頗ル不公平ノ結果ヲ生スルコトアリ玆ヲ以テ今手形ヲ義務中ニ書キ込ミ若シ期日ニ至リテ支拂ヲ拒ムトキハ其手形所持人ハ交互計算ノ帳簿ヲ取淸シテ之ヲ返却スルナリ此場合ニ於テハ受取リタルトキノ記入ト反對ノ書入ヲ以テ之ヲ取消スナリ是本條ニ「除去ス」ナル文字ヲ用ヰタル所以ナリト
次ニ富谷君ハ證劵ノ義務者ト云フトキハ償還請求ノ義務ヲ負擔スル者ヲモ含ムヤノ疑アリト云ヒ岡野君ハ事實問題三屬スヘシト云ヒ本條ハ途ニ未決ニテ散會ヲ吿ケタリ
于時午後第七時