明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第56回

参考原資料

備考

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第五十六回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
鶴原定吉君
土方寧君
村田保君
阿部泰藏君
田部芳君
穗積八束君
梅謙次郞君
富井政章君
穗積陳重君
都筑馨六君
井上正一君
河村讓三郞君
富谷鉎太郞君
橫田國臣君
長谷川喬君
尾崎三良君
三浦安君
岡野敬次郞君
第二百三十三條 商人間ニ於テ其雙方ノ爲メニ商行爲タル契約ニ因リテ生シタル債權ノ辨濟期カ到來シタルトキハ債權者ハ其債務者トノ間ニ於ケル商行爲ニ因リテ自己ノ占有ニ歸シタル債務者ノ所有物ヲ留置スルコトヲ得但別段ノ意思表示アルトキ又ハ債權者ノ義務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊三八七、三八八、民二九五、獨三一三、同草三四〇、匈三〇九
岡野君ハ本章ノ說明ニ先チ訂正シテ曰ク本條末段ノ「又ハ債權者ノ義務ノ性質力之ヲ許ササルトキ」ノ數文字ヲ削除シ但書以下ヲ「但別段ノ意思表示アルトキハ此限ニ在ラス」ト改ムト次ニ本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ民法第二百九十五條ト舊商法第三百八士七條トノ該當スルモノニシテ右ノ兩法典ニ認メタル留置權ト本條ニ規定シタル留置權トハ其權利ノ範圍ニ付キ廣狹ノ別アリ何トナレハ右ノ兩法典ニ於テハ留置權ヲ行フニハ其物ニ付キ生シタル債權アル場合ニ限リ所謂其物ヲ以テ留置權ノ必要條件ト爲シタリト雖モ本案ニ於テハ其主義ヲ改メ留置權ノ範圍ヲ擴張シタレハナリ是蓋シ商人ノ間ニ於テハ其物ヲ以テ留置權ノ必要條件ト爲スカ如キハ實際狹義ニ失スルモノナレハナリ外國ニ於テモ本條中ニ參照トシテ引照シタル國ノ商法ニ於テハ本按ト同一ノ主義ヲ採用スルモノアリ殊ニ英國ノ如キハ余カ記憶スル所ニ因レハ本案ト等シキ主義ヲ認メ居レリト思フ如斯外國ニモ其例アリ且ツ頗ル商事ニ關シ便利ナル以上ハ本案ニ於テ修正スルノ理由蓋シ至當タルヘキナリ尤モ縱令ヒ本案ノ如ク範圍ヲ擴張シタレリト雖モ全ク以テ制限ナキニ非ラサルナリ何トナレハ本條ノ法文ニ現ハレタル如ク第一ニハ債權者及ヒ債務者ハ何レモ商人タルヲ要シ第二ニハ其雙方ノ爲メニ商行爲タルヲ要シ第三ニハ商行爲ヨリ生シタル債權ノ辨濟期ノ到來ヲ必要ナリトシ第四ニハ債權者ト其債務者トノ間ニ於ケル商行爲ニ基因スルヲ要シ第五ニハ自己ノ占有ニ屬スルヲ要シ又第六ニハ債務者ノ所有物ヲ留置スルコトヲ要スレハナリ斯ノ如ク第一乃至第六ノ各條件ヲ必要ナリトスト雖モ其條件中ニ於テ舊商法ト同一ノ條件ナキニアラサルナリ之ヲ要スルニ本案ニ於テハ債權者及ヒ債務者ノ間ニ於テ商行爲タルコトヲ要スルノ一條件ニ至テハ最モ重要視スルモノナリ次ニ本條但書ニ付テハ特ニ規定スルノ必要ナキカ如キト雖モ商人間ニ於テ當事者カ別段ノ意思表示ヲ爲ス場合アルヲ以テ例外ト爲スタメ特ニ設ケタリ終リニ一言スヘキ必要アルハ舊商法第三百八十八條ノ規定是ナリ同條ニハ交互計算ヨリ生スル差引殘額ニ付テハ一般ニ留置權ヲ行使スル旨ヲ規定シタリト雖モ交互計算ヨリ生スル差引殘額ニ對シ留置權ヲ行使スルニ付キ何故特ニ規定スルノ必要アリヤ固ヨリ交互計算ノ間ハ法律上何レカ債務者ニシテ何レカ債權者ナルヤ明ラカナラスト雖モ交互計算ノ性質上其計算ノ終了スルトキハ其關係モ亦等シク明カナルモノナレハナリ勿論舊商法ノ主義ト雖モ交互計算ニ付キ差引殘額ノ生スルトキハ辨濟期カ到來シタルモノトシテ債權者ニ請求權ヲ與フルモノナルヘシ故ニ此㸃ヨリ觀ルトキハ交互計算ノ場合モ亦他ノ場合ト其殘額ニ付キ區別ヲ設クルニ及ハサルナリ故ニ當然本條中ニ包含スルモノトシタリ之ヲ以テ舊商法第三百八十八條ノ精神ハ敢テ改メタルニ非ラサルナリト
穗積陳重君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク本條ニハ債權ト擔保トニ關スル規定ナキヲ以テ辨濟期カ到來シタルトキハ何時マテ留置スルモ可ナル如ク見ヘ穩ヤカナラサルヲ以テ不履行ノ間留置スルヲ以テ要素トシ卽チ履行又ハ擔保ヲ供スルマテ留置權ヲ行使スルノ主意ニ改メラレタシト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク穗積君ノ讀ハ尤モナルヲ以テ民法第二百九エ十五條ノ「其債權ノ辨濟ヲ受クルマテ」云云ノ文例ニ從ヒ本條ヲ修正スル爲メ更ニ再考セント
箕作君ハ本條ノ「契約」ナル文字ニ付キ質問シタルニ梅君ハ他日本章ノ標題ヲ改ムルトキニ當リ等シク之ヲ改ムル考ナリト答ヘタリ川村君ハ民法第三百五十一條ノ規定ハ本條ノ場合ニハ適用ナキヤト質問シ梅君ハ他ニ規定ナキ以上ハ固ヨリ準用セラルヘシト答ヘタリ穗積八束君ハ本條ニ債權者ノ所有物ヲ留置スルコトヲ得トアルヲ評シテ曰ク單ニ右ノ如ク規定スルトキハ苟モ無制限ノ如ク見ヘ穩ヤカナラサルヲ以テ債權者ハ相當ノ物ヲ留置スルコトヲ得ヘキノ主意ニ修正セハ可ナラント
梅君答ヘテ曰ク實際債權者ハ多キヲ望ンテ或場合ハ不足ナリトスルモ債務者ハ之ニ對シテ充分ナリト主張スルモノアルヘク到底穗積八束君ノ如キ主意ニハ起草土困難ナリト
富谷君ハ本條ノ「所有物」ナル文字ニ關聯シテ修正ノ意見ヲ述ヘテ曰ク本條ノ如ク單ニ所有物トアルトキハ有體物ニ限ルモノト見サルヘカラス然ルニ商人間ニハ流通證劵ノ如キモ留置セシムル方便利ナリト考フ付テハ民法第八十六條第三項ヲ見ルニ「無記名債權ハ之ヲ動產ト看做一ス」トアリテ有體物ナルヤ否ヤノ規定ナキヲ以テ疑アリ然ルニ民法第二編權利質ニ關スル規定ヲ對照推考スルトキハ無記名債劵ハ有體物ニアラスト考フルコトヲ得ルカ故ニ所有物ノ中ニ包含セサルモノト見サルヘカラサルヲ以テ本條ニ於テハ特ニ無記名債馨ヲモ留置スルコトヲ得ル旨ヲ明示セラレタシト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク民法第八十六條第三項ニ無記名債權ハ動產ト看做ストアルハ其有體物ナル意味ヲモ包含スルモノト解スヘキナリ且又留置スルモノハ其證劵ニシテ其上ニ行ハルル權利ニアラス何トナレハ權利ハ有體物ニアラサレハナリ例ヘハ指圖債劵ノ如キ其債劵ノ原質タル紙ヲ留置スルコトヲ得ヘキヲ以テ從テ留置スルノ目的ヲ達スルモノナレハ本條ノ所有物中ニハ無記名債劵ヲ包含スト見ルヘキモノナリ
富谷君ハ亦更ニ修正說ヲ提出シテ曰ク本條ノ留置權ハ其性質ヲ民法ノ留置權ニ比シ擴張シタル以上ハ從テ其主義ヲ貫徹スル爲メ債權者カ債務者ニ督促スルモ返濟セサルトキハ裁判所ノ許可ヲ得タル上ニ於テ其留置物ヲ賣却シ以テ其代價ヲ辨濟ニ充當スルコトヲ許スヘキ主意ニ基キ更一ニ個條ヲ設ケラレタシト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク若シ如斯センカ留置權ナルモノハ却テ質權ヨリ强クナルヲ以テ不可ナリト
富谷君ハ更ニ自說ヲ主張シテ曰ク本法ニ於テ苟モ留置權ノ性質ニ付キ特種ノ主義ヲ採用シタル以上ハ余カ主張スル如クセサレハ其精神ヲ貫徹セサルヘシト信ス現ニ獨逸商法草案ニ於テハ留置權ヲ商人間ニ認ムル以上ハ其留置物ヲ賣ラシムルヲ以テ重要ナリトセリ其理由ハ斯クセサレハ目的ヲ貫徹セサルカ爲メナルヘシ故ニ余ハ修正說ノ成立ヲ望ムト
右ニ對シ梅君ハ民法ノ留置權ニ關スル起草上ノ理由ト當時議事ノ成行キトヲ引證シ且ツ又獨逸ハ差押ニ關シ我國ト主義ヲ異ニスルヲ以テ此㸃ニ付テハ彼ヲ以テ是ヲ推論スヘカラスト辯シ以テ反對セラレタリ
右富谷君ノ修正說ニハ贊成者アリテ採決セシモ其數少數ニテ消滅ニ歸シタリ
本條ノ辨濟期ナル文字ハ單ニ如斯アルトキハ凡ソ辨濟ハ何期ノモノナルヤ其主意判然セサル嫌アリトノ批難出テ起草者ニ於テ再考スルコトニ決定シタリ
第二章 賣買
田部君ノ說明ニ曰ク本章ノ賣買ニ關スル起草ノ方針ニ付テハ契約ニ關スル起草ノ方針ト同ク既ニ民法ニ規定アリテ其規定ヲ本法ニ適用スヘキモノハ特ニ規定ヲ設ケサルヲ以テ從テ舊商法第九章賣買ニ關スル條項ニ比スレハ其數大ニ減少シタリ而シテ舊商法第九章第四節取戾權ニ關スル規定ハ實際破產ニ關シテ起ルヘキモノナルヲ以テ玆ニ之ヲ除外シテ破產法ニ讓リタリ又第二節供給契約第三節競賣ニ付テハ特別ノ一節トシテ之ヲ規定スルニ及ハサルヲ以テ之ヲ削除シタリ以上要スルニ本章中ニ規定シタル事項ハ民法ノ賣買ニ關スル規定ノ外特ニ商法ニ必要ナルモノヲ規定シタルニ外ナラスト
第二百三十四條 商人間ノ賣買ニ於テ買主カ其目的物ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ賣主ハ其物ヲ供託シ又ハ相當ノ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲シタル後之ヲ競賣スルコトヲ得此場合ニ於テハ遲滯ナク其旨ヲ買主ニ通知スルコトヲ要ス
前項ノ規定ニ依リ賣主カ賣買ノ目的物ヲ競賣シタルトキハ其代價ヲ供託スルコトヲ要ス但之ニ付テ先取特權ヲ行使スルコトヲ妨ケス
(參照)舊三九二、五五〇、民四九四、四九七、獨三四三、同草三四四、匈三五一、伊六八、羅六八、葡四七四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ民法ノ辨濟ニ關スル第四百九十四條及ヒ第四百九十七條ニ該當スル規定ニシテ右兩條ニ於テハ供託ヲ以テ本則トシ競賣ヲ以テ變則トシタリト雖モ此商法ニ於テハ供託ヲ爲スヨリ寧ロ或場合ハ競賣スルノ便利ナルコトアルヲ想像シ供託又ハ競費トシ以テ何レヲモ爲スコトヲ得ヘキモノトシ民法ト區別ヲ設ケタリ尤モ商法ノ供託ニ付テハ民法ノ供託トハ異ナルノ規定ヲ設クル必要アルヤ知ル可ラス又供託ヲ爲サスシテ而シテ競賣ヲ爲ストキハ豫メ相當ノ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲シタル後ニ於テ之ヲ爲スヘキモノトシ而シテ一且右ノ如ク競費ヲ爲シタル以上ハ其代價ヲ供託スヘキモノトシ其供託シタル代價ニ付テハ先取特權ヲ與ヘタリト
川村君ハ本條第一項ノ規定ニ付キ批難シテ曰ク本條第一項ニハ其前文ニ「買主力其目的物ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキ」云云トアリテ其末文ニハ「相當ノ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲シタル後」云云トアリ此前後ノ文章上ヨリ考フルトキハ催吿ハ競爭スルコトヲ催吿スルカ如ク見ヘ却テ目的物ノ受取ヲ催吿スルニ非ラサルカ如シ且ツ又右ノ催吿ヲ爲ス間ニハ多少ノ時間ヲ要スルカ爲メ或場合ニ付テハ其催吿ヲ爲スニハ損敗ノ恐アル場合アルヘシ然ルニ尙ホ催吿セシムルハ果シテ其當ヲ得タルモノナルヤト右ニ付キ田部君辯シテ曰ク此催吿ハ固ヨリ目的物ノ受取ヲ催吿スルノ主意ナリ決シテ競賣スル旨ノ催吿ニアラス尤モ競賣ノ通知ト改ムル方可ナルヤモ知ルヘカラス次ニ又損敗シ易キ物ニ付テハ河村君ノ述ヘラレタル如ク特ニ規定ヲ設クル方却テ至當ナリト考フルヲ以テ此㸃ハ再考セント
富井君ハ本條第二項ニ付キ修正ノ意見ヲ述ヘテ曰ク此ニ項ヲ一見スルトキハ競賣シタル代價ヲ直チニ供託スルカ如ク解セラレ文章上穩ヤカナラサルヲ以テ寧ロ「競賣シタルトキハ辨濟ニ充當スル外ハ供託スルコトヲ要ス」ト云フカ如キ意味ニ修正セハ可ナラン
右ニ對シ梅君答ヘテ曰ク富井君ノ說ハ尤モテレトモ辨濟ノ文字ハ穩ヤカナラスト
富井君ハ更ニ自說ヲ主張シテ曰ク縱令辨濟ノ文字宜シカラサルモ斯カル意味ニ修正スルノ讀ト第二項但書削除ノ說トヲ提出スト
右富井君ノ說ニハ起草委員ノ同意アリテ再考ニ決シ次ニ川村君ノ損敗シヤスキ物ニ關スル說モ是亦起草委員ノ再考ニ決シタリ
第二百三十五條 契約ノ性質又ハ當事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間內ニ履行ヲ爲スニ非サレハ契約ヲ爲シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ當事者ノ一方カ履行ヲ爲サスシテ其時期ヲ經過シタルトキハ相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ヲ解除シタルモノト看做ス
(參照)民五四二、獨三五七、同草三四七、匈三五五、瑞二三四、伊六九、羅六九
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ民法第五百四十二條ニ該當ス而シテ同條ニハ「相手方ハ前條ノ催吿ヲ爲サスシテ直チニ其契約ヲ解除スルコトヲ得」トアルヲ本條ニハ「相手方ハ直チニ其履行ヲ請求スルニ非サレハ契約ヲ解除シタルモノト看做ス」ト改メタリ是蓋シ商事ハ迅速ヲ貴フモノナレハ苟モ履行ノ時期ヲ經過シタル場合ニ相手方カ直チニ其履行ノ請求ヲ爲サヽルトキハ最早契約ノ成立セサルモノト看做スヲ以テ至當ナリトスレハナリ不然相手方ハ實際相場ノ高低ニ因リテ勝手ノ時ニ請求シ他ノ一方ニ對シ酷ナレハナリト
富井君ハ本條ノ末文ニ「契約ヲ解除」云云トアルヲ以テ本條ノ初メニ「賣買」ナル文字ヲ加フヘシトノ注意ヲ爲シ曰ク若シ如斯セサレハ本條ハ贇買ニ限リタルニ抅ハラス恰モ賣買以外ノ場合ヲモ指稱セル如ク見工穩ヤカナラスト又別ニ本條ノ規定ヲ推定ト改メ反對ノ意思表示ヲ許ス方可ナリト述ヘラレタリ
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク本條末文ニ「契約ヲ解除」トアル故ニ或ハ富井君ノ如キ非難アルヘシト雖モ本章ノ標題ヨリ推及スルモ其否ラサルコトヲ知リ得ヘケレハ原案ニテ可ナルヘシト又本條ヲ推定ト改ムルトキハ特ニ民法ト區別ヲ設ケタルノ精神ヲ失フヲ以テ贊成スル能ハスト
第二百三十六條 商人間ノ賣買ニ於テ買主カ其目的物ヲ受取リタルトキハ遲滯ナク之ヲ檢查シ若シ其瑕疵アルコト又ハ數量ニ不足アルコトヲ發見シタルトキハ直チニ其旨ヲ賣主ニ通知スルニ非サレハ其瑕疵又ハ不足ニ付キ異議ヲ述フルコトヲ得ス賣買ノ目的物ニ直チニ發見スルコト能ハサル瑕疵アリタル場合ニ於テ買主カ後日之ヲ發見シタルトキ亦同シ
(參照)舊五三四、五四四、民五六五、五七〇、獨三四七、同草三四八、匈三四六、瑞二四六、伊七〇、羅七〇
富谷君ハ本條ニ「商人間ノ賣買」トアルヲ批難シテ曰ク斯クテハ漠然ニ失シテ不可ナリ何トナレハ商人間ノ賣買アル以上ハ如何ナルコトモ皆本條ノ適用ヲ受ケサルヘカラサルモノトナレハナリト
右ニ付キ起草委員ハ再考スル旨ヲ答ヘタリ
第二百三十七條 前條ノ場合ニ於テ買主ハ異議ヲ述ヘタルトキト雖モ賣主ノ費用ヲ以テ賣買ノ目的物ヲ保管スルコトヲ要ス但其物ニ付キ滅失又ハ毁損ノ虞アルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競賣シ其代價ヲ保管スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ買主カ競賣ヲ爲シタルトキハ遲滯ナク其旨ヲ賣主ニ通知スルコトヲ要ス
前二項ノ規定ハ賣主及ヒ買主ノ營業所、若シ營業所ナキトキハ其住所カ同一市町村內ニ在ル場合ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊五四九、五五〇、獨三四八、同草三四九、匈三四七、瑞二四八、伊七一、羅七一、七二
田部君ノ說明ニ臼ク本條ハ舊商法第五百四十九條ト第五百五十條トヲ併合シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ尤モ右ト異ナルトコロハ本條末項ノ規定ニシテ卽チ同一市町村內ニ在ル場合ヲ例外トセシモノ之レナリト
土方君ハ第一項但書ノ末段ニ「得」トアルヲ「要ス」ト修正スルノ讀ヲ提出シ梅君ノ同意アリテ之ニ決定シタリ
第二百三十八條 前條ノ規定ハ賣主ヨリ買主ニ引渡シタル物品カ注文セシ物ト異ナリタル場合ニ之ヲ準用ス其物品カ契約ノ數量ヲ超過シタル場合ニ於テ其超過額ニ付キ亦同シ
(參照)獨草三五〇
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ規定ハ舊商法中ニ類似ノモノナシト雖モ實際注文セシ物品ト異ナリタル物品ヲ賣主ヨリ買主ヘ引キ渡シタル場合及ヒ物品カ契約ノ數量ヲ超過シタル場合ニ其超過額ニ對スル場合等ハ何レモ買主ニ保管セシムル方可ナリト考ヘ特ニ本條ヲ設ケタルモノナリト
土方君ハ修正ノ意見ヲ述ヘテ曰ク固ヨリ注文シタル物ト異ナリタル物ヲ送リタルハ賣主ノ責ニ歸スヘキモノナリト雖モ或場合ノ如キハ實際異ナリタル物ヲ送リタルヤ否ニ付キ賣主ノ氣付カサリシコトアルヘケレハ買主ニ通知ノ責ヲ負ハシムルコト」シ前々條ノ規定ヲ適用セハ可ナラント
井上君モ亦前々條ノ規定ヲ適用セシムル方可ナリト述ヘタリ
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク前々條ハ買主一ニノ大ナル責任ヲ負ハセタルモノニシテ全ク商事ノ駿速ヲ貴フトノ主意ヨリ出テタルモノナリ然ルニ本條ノ如キ場合ニ若シ適用センカ買主ハ實ニ迷惑ヲ被ルモノト云ハサル可ラス何トナレハ全ク注文セシ物ト異ナリタル物ヲ引渡サレタルニ抅ハラス其旨ノ通知ヲ爲ササル爲メ總テノ物品ヲ引受ケシメ且ツ其代價ヲ拂ハシムルカ如キハ實際酷ニ失スルモノナレハナリ故ニ原案ニテ可ナルヘシト
穗積陳重君ハ本條ニ「物品」ト「物」トノニ用語ヲ用ヒタルニ付キ他ニ深キ理由アルニ非ラサル以上ハ等トシク「物品」トセハ可ナルヘシト注意シ起草者ノ贊成アリテ右ニ決定シタリ
穗積陳重君ハ更ニ又起草者ニ注意シテ曰ク本條ニハ前條ノ規定云云トアリ然ルニ前條ニハ亦前條云云トアルヲ以テ本條ニハ恰モ前々條ノ規定ヲ適用スルカ如ク見ユルノ嫌ナキヤト
右ニ付キ梅君答ヘテ曰ク從來ノ用語ニ於テハ前々條ト云フカ如キ場合ハ前ニ條トセシコトユヘ實際穗積君カ述ヘタル如キ恐レハ之レアラサルヘシト
本條ハ文字ノ修正ニ止リテ原案ニ可決シ定刻ヲ以テ散會ヲ吿ケタリ