第五十四回商法委員會議事要錄
明治三十年二月一日午後第三時四十五分開會
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
鶴原定吉君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
穗積八束君
梅謙次郞君
富井政章君
河村讓三郞君
穗積陳重君
都筑馨六君
長谷川喬君
南部甕男君
三浦安君
岡野敬次郞君
本回ハ第二百二十五條ヲ引續キテ議スルモノナリ
富井政章君ハ前回ニ於テ橫田君ノ修正說乃チ本條ノ「通知ヲ發セサルトキハ」ヲ「通知ヲ受ケタルトキハ」ト爲サントノ說ニ贊成アリタルモ本回ニ於テ改メテ贊成ヲ取消サレタリ其理由ニ曰ク通知ヲ受ケタル以上ハ其效力通知ヲ發シタル時ニ遡ルノ主義ヲ採ルヲ可ナリト信シテ贊成シタリト雖トモ此主義ハ既ニ民法ニ於テ敗北シタリ然ルニ今商法ニ於テ此主義ヲ採ルトキハ假令實質ハ此主義可ナリト信スルモ民法トノ權衡上止ムヲ得サルヲ以テナリト
土方君ハ本條第二項削除ヲ主張シテ曰ク前回ニ於テハ此ニ項中民法第五百二十二條ハ取消サレタルモ當時余ハニ項全體ヲ割ルヘシト信シタルナリ民法第五百二十一條乃至第五百二十六條ハ商法ニ適用少ナシ殊ニ商法第二百二十五條第一項ノ如ク定マル以上ハ民法第五百二十三條ヲ準用スルハ頗ル當ヲ得ス商法第二百二十五條第一項ニ依ルトキハ假令申込者ニ於テ遲延シタル承諾ノ通知ヲ承認シタリトテ其申込ハ效力ヲ有セサルナリ然ルニ元來承諾ノ通知ハ遲延スルモセサルモ契約ノ效力ニ影況ヲ及ホササルカ故ニ若シ民法第五百二十三條ヲ準用スルトキハ必ス相當ノ時期ニ到着スルコトヲ要スコトヽ爲リテ精神ニ反スルヲ以テ民法第五百二十三條ト商法第二百二十五條トハ到底併行スルコト難シ若シ遲延シタル承諾ヲ新ナル申込ト見ルコトヲ得ルトセハ始メノ申込者ハ之ヲ承認シテ新ナル申込ト見ルト否トハ其任意ナルヘシ然ルニ第一項ニ依レハ通知ヲ發シサイスレハ效力ヲ有スルモノナルヲ以テ之ヲ新ナル申込アリタルモノト見ルコトヲ得ス又相當ノ期間後ニ承諾ノ通知ヲ發スルトキハ效力ナシト雖モ之ヲ新ナル承諾ト見ルコトヲ得ルコトハ敢テ玆ニ民法第五百二十三條ヲ準用セストモ當然民法上適用ヲ見ルナリ唯タ相當ノ期間內ニ通知ヲ發シタルモ他ノ原因ニテ遲着セル場合ニ之ヲ新ナルモノトスルトキハ第一項ノ主義卽チ相當ノ時期ニ發シタルトキハ直チニ其效力ヲ有スルノ意味ト合セスト而シテ富井君之ニ贊成ス
梅謙次郞君曰ク土方君ハ民法第五百二十三條ハ當然適用アリト言フト雖モ余輩ハ之ニ反對ナリ民法第五百二十三條ハ期限ヲ過キテ發シタル場合ニシテ商法第二百二十五條第一項ハ期限內ノ場合ナリ抑モ民法ニ於テスラ迅速ヲ貴フノ主義ヲ採ルニ商業上ノ事ニ關シテハ尙更迅速ノ主義ヲ採ラサルヘカラス然ルニ特ニ商法ニ於テノミ遲延セルモノカ絕對的效力ナシトスルハ不權衡モ亦甚シト謂フヘシト
議長淸浦君ハ玆ニ於テ採決ノ旨ヲ通シ土方君ノ第二項削除ニ付テ決ヲ採ラントセシモ土方君ハ之ヲ取消サレタリ
又橫田君ノ說モ前回ニハ富井君ノ贊成アリタリト雖トモ本回ニ於テ富井君ハ改メテ贊成ヲ取消シタルヲ以テ自然消滅ト爲レリ
之ヲ要スルニ本條ハ第二項中「民法」以下「第五百二十二條及ヒ」ヲ削除スルコトトナレリ
第二百二十六條 商人カ平常取引ヲ爲ス他人ヨリ其營業ノ部類ニ屬スル契約ノ申込ヲ受ケタルトキハ遲滯ナク諾否ノ通知ヲ發スルコトヲ要ス若シ之ヲ發スルコトヲ怠リタルトキハ申込ヲ承諾シタルモノト看做ス
前項ノ場合ニ於テ申込ヲ拒絕シタルトキト雖モ申込ト共ニ受取リタル物品アルトキハ申込者ノ費用ヲ以テ之ヲ保管スルコトヲ要ス但其物品ノ價額カ其費用ヲ償フニ足ラサルトキ又ハ商人カ保管ノ爲メニ損害ヲ受クヘキトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊二八一、二八二、三〇〇、民五二六、獨三二三、同草三三三、匈三二〇、伊三六、二項、羅三六
岡野君ハ說明前ニ訂正アリタリ乃チ第二項ノ「前項ノ場合ニ於テ」ノ下ニ「商人力」ヲ入レ參照文中「舊ニ八一、ニ八ニ」ノ下ニ「ニ九四」ヲ入ルト而シテ又說明ニ曰ク本條ハ默シタル場合ニ於テ承諾アリタルモノト見ルヘキ規定ニシテ第一項ハ舊商法第二百八十一條、第二百八十二條、第二百九十四條及ヒ第三百條ニ該當スルナリ而シテ此四ケ條中既ニ本條第二項ニ採用セルモノモアリ舊商法第二百八十二條ノ「被提供者ハ特別ノ業體」ノ解釋ハ困難ナリト雖トモ其理由書ニ依ルトキハ民法第五百二十六條第二項ノ「取引上ノ慣習ニ依リ承諾ノ通知ヲ必要トセサル場合」云云ニ該當スト信ス例ヘハ運送人カ世人ニ對シ先ツ默シテ申込ヲ受ケタルトキハ其申込通リニ爲スヘシト同一ナラント信ス又舊商法第二百八十一條ノ默示ノ契約ノ出來ルハ暗默ノ承諾アル場合ナリ又其以下ニ「又事ヲ爲シ又ハ爲ササルニ因リテ法律上若クハ商慣習上」云云トアルハ余輩ノ解シ得サル處ナリ草案理由書ヲ見ルニ例ヘハ返却スヘキ金員ヲ返サス他人ノ金錢ヲ借用シタル場合ハ之ヲ返濟シ利息モ拂フヘキナリ此場合ニハ默示ノ契約カ生スト解スヘキナリト若シ此場合ナリトセハ敢テ規定ノ必要ナク又此場合ニ暗默ノ契約アリト云フコトヲモ得サルナリ玆ヲ以テ舊商法ノ如キハ頗ル不明ニシテ疑ヲ起スヘシト信ス次ニ舊商法第二百八十二條ノ一般ノ原則トシテハ既ニ民法ニ於テ定マレリ乃チ暗默ハ承諾トナラサルコトハ確定セリ又舊第二百八十二條中ニ「商慣習若クハ誠實信用ニヨリ」トハ商慣習ヲ作ル基ナル故ニ之ハ商慣習ト見ルヘク從テ民法ノ總則ヲ適用スヘク商法ニ規定ノ要ナシ又同條ノ「雙方間ノ平常ノ取引關係ニ因リテ承諾シタルモノト通例推定スヘキ場合」ト舊商法第二百九十四條トヲ合セタルモノカ本案第二百二十六條第一項ニ該當スルモノニシテ乃チ元來ハ默シタル場合ニハ申込ハ實際上取消サレタルモノト見ルヘキカ原則ナルモ之ニ例外ヲ設ケタルモノナリ而シテ此第一項ハ明カニ隔地者間トハ定メサルモ其「諾否ノ通知」ト云フコトヨリ隔地者タルヲ知ルニ足リ對話者間ノモノニ付テハ本案第二百二十四條カ當然適用サルルナリ尙ホ「取引關係」ノ文字ヲ改メ「平常取引ヲ爲ス」トシ舊商法ノ主意ヲ探リシハ單ニ商人ニ對シ申込ヲ爲シ此商人ニ逐一之カ返答ノ義務ヲ負ハシムルハ甚タ酷ナルヲ以テ「平常取引ヲ爲ス」ノ條件及ヒ「營業ノ部類ニ屬スル」ノ文字ヲ加ヘタリ又本條第二項ノ場合ハ事實上常ニ發生スル問題ニシテ乃チ申込者カ物品ヲ送ルニ當リテハ先ツ承諾スヘシト信シテ送ル場合多カルヘシ故ニ之ハ必ス保管スヘキ必要アリ去リ乍ラ之カ爲メ保管者ニ迷惑ヲ生スルコトヲ顧ミテ但書以下ノ如クセリト
富井政章君曰ク本條第一項ハ便宜ノ規定ナリト雖モ此儘ニテハ申込ヲ受ケタル者ニ迷惑ヲ來タスノ患アリ成程「平常取引」及ヒ「營業ノ部類」ノ條件アリト雖モ若シ無理ナル申込ヲ爲シタル場合ニモ回答ノ義務ヲ負ハシメ通知ヲ爲ササルトキハ直チニ承諾アリタリト看做スハ少シク酷ニ似タリ故ニ尙ホ少シク制限ヲ設クルノ要アリ又第二項中送品ノ價カ保管費用ヲ償フニ足ラサル場合ハ申込ヲ受ケタル者ハ自己ノ費用ヲ以テ之ヲ保管スルニアラサルカ故ニ他ノ方法ヲ以テ此場合ヲ規定セハ如何ト
岡野君答ヘテ曰ク第一㸃ニ付テハ余輩ハ「平常取引」ト云ヒ「營業ノ部類ニ屬スル」ト云ヒ之ヲ以テ足レリト信スルナリ第二㸃ニ付テハ之カ單純ノモノナラハ契約モ成立セサル場合ナルヲ以テ或ハ然ラン而シテ之ハ理論ニ非スシテ實際問題ナラン故ニ必ス斯クアルヘシト云フニハアラサルモ便利ヲ慮リテナリ乃チ保管費用ノ額ハ不明ナリト雖トモ送品カ保管費用ニモ足ラサルトキハ殆ント其物品ハ價ナシ又保管ハ申込者ノ費用ヲ以テスルモノナルカ故他ノ方法ヲ以テ規定セヨト云フト雖モ是等ハ保管費用トシテ取立ツルコトヲ得ル場合ニ生スル問題ナルヲ以テ此場合ニ於テ此費用ヲモ取立ツルコトヲ得サルハ頗ル當ヲ得サルヲ以テ斯クハ規定セルナリト
尙ホ梅君ハ之ニ附加シテ曰ク申込者保護ノ㸃ヨリ見ルモ非商人間ニ於テモ先ツ物品ノ價ヲ定メ而シテ其價カ保管費用ニモ足ラサルトキハ反テ申込者ノ方ニモ迷惑ヲ來スヘキカ故ニ詰リ斯ノ如キ場合ハ殆ント稀ナリト云フヘシト
長谷川君ハ本條第一項ニ「他人ヨリ」トアルハ非商人ノ意ナランモ「其營業ノ部類ニ屬スル契約ノ申込」トアルヲ以テ斯クテハ他ハ契約ノ申込ナラスト誤解スル患アルヲ以テ「平常取引ヲ爲ス他人」ヲ改メテ「平常取引ヲ爲ス者ヨリ」ト爲サント云ヒ且本條第二項ニ付テ說ヲ爲シテ曰ク第二項ニハ「前項ノ場合」トアルヲ以テ平常取引ヲ爲ス者ヨリ送品ノアリタル場合ナリ然レトモ假令平常取引ナキ者ト雖モ公然營業ヲ爲ス者ヨリ物品ヲ送リ來リタル場合ニモ亦之カ保管ノ義務ヲ負ハシムルモ敢テ不可ナシ苟モ其營業ニ關シタルモノナルトキハ送品者ノ如何ヲ問フノ要ナシト
右ニ對シ岡野君ハ一個人トシテ贊成ノ意ヲ表セリ
此ニ於テ長谷川君ハ本條第二項ヲ別條ト爲サント主張セリ
土方君ハ富井君ト同シク本條ノ規定ハ嚴ニ過クルトシテ曰ク本條ハ默セハ有效ト爲ルヲ以テ民法ニ封スル例外ナリ是雙方ニ有益ナリト雖トモ多クハ申込者ニ利益アリテ申込ヲ受ケタル者ニハ迷惑ヲ來スヘシ且「遲滯ナク」トハ「直チニ」ト云フト區別ナシ故ニ或ハ之ヲ「相當ノ期間內」トセハ幾分力緩ト爲ルヘシ兔ニ角富井君ノ如ク或ハ申込者カ無理ノ申込ヲ爲ス場合無キニシモアラス又申込ヲ受ケタル者ニ於テモ正當ノ事由ナキ以上ハ必ス之カ通知ヲ怠ラサルヘシ然レトモ止ムヲ得サル場合ニ於テ通知ヲ發スルコト能ハサリシトキ例ヘハ父母ノ大病ノ如キ場合ニ於テ直チニ之ヲ承諾アリタリト看做スハ頗ル酷ナリ故ニ受申込者ヲ保護シ第一項ヲ緩ニシ「若シ正當ノ事由ナクシテ」等ヲ加ヘント
富井君ハ土方君ノ「正當ノ事由」ヲ加フルコトニ付テ贊成アリタリ次ニ穗積陳重君ハ長谷川君ニ贊成アリタルモ長谷川君ノ儘ニテハ少シク廣キニ失スルノ患アリト云フニアリ
次ニ土方君ノ說ニ付キ梅君ヨリ辯駁アリタリ曰ク若シ第一項ニ「正當ノ事由」云云ヲ加フルトキハ規定中「遲滯ナク」トアル場合ハ悉ク之ニモ「正當ノ事由」云云ヲ加ヘサルヘカラス是甚タ煩ナリ且「遲滯ナク」中ニハ「極正當ノ事由」ヲモ含ムモノナリト
長谷川喬君曰ク本條ハ前條ノ例外ナリト雖モ前條ニハ「相當ノ期間內」ト云ヒ本條ニ於テ「遲滯ナク」トスルハ不體裁ナルヲ以テ本條モ「相當ノ期間內」トスヘシト
岸本辰雄君曰ク本條第一項ノ規定ハ頗ル狹シ乃チ平常取引ヲ爲ス者ヨリ申込ヲ受ケタル場合ニ限ルト雖モ平常取引ヲ爲ササル者ヨリ自己ノ業務ニ屬スル契約ノ申込アリタル場合ヲモ含ムヘキモノナリ尤モ此場合ハ民法ニ讓ルヘシト云ハンカ果シテ然ラハ余ハ之ヲ商法中ニモ規定セント欲ス何トナレハ本條ハ申込ヲ受ケタル商人ニ關スル規定ナルヲ以テ乃チ此商人カ自己ノ業務ニ屬スル申込ヲ受ケタル場合ナルカ故ニ其申込人ノ如何ヲ問ハス此者ハ常ニ業務ヲ公吿シ居ル者ナルカ故ニ其人ノ如何ヲ問ハスト云フカ慣習ナラント又長谷川君ノ第二項修正說ニ贊成シ且第二項但書ヲ削除セントシ曰ク送品ニ付テハ若シ其物カ保管費用ニモ足ラサル場合ニ依リテハ之ヲ保管セスシテ抛棄シ置キ又ハ先拂ヲ以テ之ヲ送リ戾シ或ハ安價ニ之ヲ頁却スルモ差支ナキヤ「保監スルコトヲ要ス」トアルヲ以テ但書以下ハ斯ノ如ク解シ得ルカ如シ果シテ送戾シ、抛棄シ或ハ安價ニ賣却シ得ルモノトセハ是申込人ニ取リテ頗ル酷ト謂ハサルヲ得ス又「保管ノ爲メ損害ヲ受クヘキトキ」トハ一ノ認定ニ過キサルヲ以テ之カ爲メ申込ヲ受ケタル者カ亂用スルノ恐アリ元ヨリ商人ハ此㸃ニ付キ充分ニ注意スヘシト雖モ或ハ多忙ニ取紛レ如何ナル不始末ヲ爲スヤモ計リ難シ故ニ寧ロ「但」以下ヲ削除セハ商業上圓滑ナルヘシト
岡野君辯シテ曰ク岸本君ノ第一㸃ハ民法第五百二十六條ノ適用アリト信ス而シテ取引上ノ慣習トハ一般ノ慣習ニシテ其何時承諾ノ意思表示アリシヤハ事實問題ニ屬スヘシ又第二項但書以下削除ハ不可ナリ第一項ノ適用上岸本君ハ患フルカ如キ場合ヲ生セサルヘシ何者商人ト申込者トノ間ニ平常取引アリテ其商人ハ申込者ノ爲メ自己ノ業務ニ屬スル事ヲ爲スモノナルカ故ニ迷惑ヲ生スル場合之レ無シト信ス又「保管スルコトヲ要ス」トハ保管者トシテノ義務ナシト余輩ハ解釋セントス物品ノ價カ保管費用ヲ償フニ足ラサルトハ申込ヲ受ケタル者ノ認定ナリト云フト雖トモ假令商人ニ於テ損害ヲ受クヘシト認定スルモ裁判官ノ認メサル所ハ不正ナリト謂ハサルコトヲ得サルナリト
玆ニ於テ土方君ハ「正當ノ事由」ト云フヲ止メ更ニ「相當ノ期間內」トセント主張シ富井君ハ修正案ヲ提出シ「正當ノ事由アル場合ヲ除ノ外遲滯ナク諾否ノ通知ヲ發スルコトヲ要ス」トセリ
議長淸浦奎吾君ハ本條第一項ノ「他人」ヲ「者」ト改メ第二項ヲ別條トスル長谷川君ノ說ニ付キ起草者ニ異議ナキコトヲ確メ之ヲ宣言シ次テ富井君ノ修正案乃チ「正當ノ事由アル場合ヲ除ク外遲滯ナク」云云ニ付テ決ヲ採リシテ少數ニテ消滅シ又土方君ノ「遲滯ナク」ヲ「相當ノ期間內」ト改ムルノ修正案ニ付テ採決セルモ是又少數ニテ消滅セリ
然ルニ岸本君ヨリ又々協議的修正案ノ提出アリ乃チ本條第一項ノ「平常取引ヲ爲ス者ヨリ」ヲ削除シ單ニ「商人力平常取引ヲ爲ス者ヨリ」ヲ削除シ單ニ「商人力平常其營業ノ部類ニ屬スル」云云トスヘク申込者ハ唯彼ヲセスト云フカ普通ナルヘシト云フニアリ
梅謙次郞君辯シテ曰ク其場合ハ假令物品ヲ運迭シ來ルモ第二百二十四條ノ對話者間ニ於ケル規定ト爲ルヘク之ニ對シ必ス返答ノ義務ヲ負ハシムルコトヲ得ス商人ニ於テ甚タ迷惑スヘク又申込者ノ爲メニモ頗ル不便ナリト
議長淸浦君ハ終ニ本條ヲ可決シ次條ニ移ルヘキコトヲ宣言セリ
第二百二十七條 數人カ其一人又ハ全員ノ爲メニ商行爲タル契約ニ因リ債務ヲ負擔シタル場合ニ於テ當事者カ別段ノ意思ヲ表示セサリシトキハ其債務ハ各自連帶ニテ之ヲ負擔ス其一人カ保證人ナルトキ及ヒ數人ノ保證人アル場合ニ於テ債務カ主タル債務者ノ商行爲ニ因リテ生シタルトキ又ハ保證カ商行爲ナルトキ亦同シ
(參照)舊二八七、二八八、民四二七、四三二乃至四四五、四五二乃至四五四、四五六、獨二八〇、二八一、同草三二一、匈二六八乃至二七〇、伊四〇、羅四二、葡一〇〇、一〇一
岡野君說明シテ曰ク本條ハ舊商法第二百八十七條及ヒ第二百八十八條ニ代ハルモノニシテ民法ノ多數當事者ノ債務ニ對シ例外下爲ルモノナリ舊商法ニ於テハ債權者ノ場合ヲモ認メテ數人ノ債權者カ一人ノ債權者ニ對シ債權ヲ有スルトキハ此債權者ハ各自請求權ヲ有スルモノトセリ然レトモ本條ハ之ヲ修正シ唯タ債務ノミヲ認メタリ其理由ハ舊商法併ニ其草案理由書ヲ見ルモ債權者ヲ認メタルハ其債權ヲ實行スルノ便宜上ニ出テタルモノニシテ之ハ債權者ヨリ云ヘハ自己ノ債權額ニ付テハ其全額ヲ請求スルノ要ナシ故ニ余輩ノ考フル處ハ舊商法カ債權ニモ此原則ヲ適用セルハ不可ナリ而シテ本條規定ノ主意ハ說明ヲ俟タスシテ明カナリト雖モ外國ノ例ヲ言ヘハ參照文中ニアルモノハ皆同一ノ主意ヲ探レリ獨逸商法ノ規定ハ少シク異ニスル所アリト雖モコハ民法トノ關係上削除セラレタル旨ヲ理由書ニ記載セリ詰リ數人カ商行爲ヲ爲ストキハ連帶ト爲リ一人ノ債務者一ニ人ノ保證人アルトキハ此義務者ト保證人トハ連帶ニシテ數人ノ保證人アル場合ト雖トモ各自連帶ナリ且又其數人ノ保證人ト主タル債務者トノ關係ニ付テモ同一ナリ而シテ本條ニ「債務者力主タル債務者ノ商行爲ニ因リテ生シタルトキ又ハ保證力商行爲ナルトキ」ノニ條件ヲ付シタル則チ主タル債務者カ本案第二條乃至第四條ノ規定ニ因リテ商行爲ヲ爲シタルトキハ其行爲ヲ非商人カ保證シタル場合ト雖モ連帶ナリ次ニ「保證力商行爲タルトキ亦同シ」ト云フモ之ハ主トシテ商人ニノミ適用アリ乃チ本案第四條ノ規定ヨリ多ク適用ヲ見ルナルヘシ苟モ商行爲ニ關係アルトキハ保證人モ亦連帶ナリ然レトモ主タル債務者ヲ保證スル其行爲カ商行爲ナラサルトキ若クハ商行爲ニ原因セサルトキハ無論民法ニ因ルナリ
長谷川君曰ク「其一人力保證人ナルトキ」トアルヲ以テ見レハ「全員」ト云フ中ユハ保證人モ含ムヘシ果シテ然ラハ「及ヒ」以下「商行爲」ハ不用ニ似タリ乃チ保證人タルト主タル債務者タルトヲ問ハス全員中ニ含有セラル」モノナリト
梅謙次郞君之ヲ辯シテ曰ク本條上段ノ場合ハ主タル債務カ商行爲ニ原因スルモノナルトキハ假令保證人間ニ於テハ商行爲ナラストモ連帶ナル旨ヲ規定シタルモノニシテ後段ノ場合ハ保證人ニ取リテ商行爲ノ場合ヲ規定セルナリト
長谷川君曰ク本條ヲ一讀スルトキハ一人カ保證人ナルトキハ主タル債務者ノ行爲カ商行爲ニ原因セストモ連帶ノ義務ヲ負擔シ數人ノ保證人アルトキハ主タル債務者ノ行爲カ商行爲ニ因リテ生シタルトキ連帶ノ義務ヲ負擔スルカノ如ク見ユト
梅君曰ク本條ノ上段ノ規定ハ一人カ主タル債務者ニシテ一人カ其保證人ナル場合ニ其何レカカ商行爲ナラサルヘカラス而シテ主タル債務者ノ行爲カ商行爲ニ原因セル場合ナリ後段ノ方ハ保證契約ノミヲ別ニスル場合アリ得ルカ故ニ斯クセルノミト河村君曰ク本條ニ「數人力其一人又ハ商行爲タル契約ニ因リ」云云トアリ故ニニ人中其一人ハ非商人タル場合ニモ連帶ニテ義務ヲ負擔スヘク乃チ一個ノ債務ヲ見タル場合ナリ然ルニ其次ニ「其一人力保證人タルトキ亦同シ」トアルハ是保證人ノ義務ト主タル債務トノニ個ノ義務アルカ如シ前ニハ「連帶ニテ之ヲ負擔ス」トシ亦「保證人亦同シ」トセハニ樣ニ規定スルカ如シ尙ホ「及ヒ數人ノ保證人アル場合ニ於テ」云云トアリテ之ハ數人ノ保證人アル場合ヲ限ルカ如シ故ニ其次ニ「保證力商行爲ナルトキ」トハ保證人カ一人主タル義務者噌人アリテ其保證ノミカ商行爲タル如キ場合ニハ適應セス此場合ハ前段ノ適用ト爲ルヘシ故ニ「及ヒ數人ノ保證人アル場合ニ於テ」以下ヲ別項トスヘシト梅謙次郞君曰ク例ヘハ數人カ同時ニ米ヲ買フカ如キ場合ハ一個ノ契約ナリト雖モ其義務ハ此場合ニモ數個ナリ而シテ之カ一個ノ法律行爲ナルヲ以テ本文ノ適用アルナリ故一ニ人カ保證人ニシテ一人ハ主タル義務者ノ場合ハ本文中ニ入ラサルヘシ「亦同シ」トアルカ故ニ疑ヲ生スヘキカ故ニ文章ヲ別項ニ別ツコトハ異議ナシ又「其一入」トハ上段ノ「數人」中ノ一人ナリ而シテ其一人ノ爲メニ商行爲タル契約ヲ云フナリ保證人ノ爲メニ商行爲タル以上ハ主タル債務者一人ニンテ保證人モ一人ナル場合ハ本文後段ノ適用アルナツ
富井政章君ハ本條ヲ難シテ曰ク本條ハニ人中其一人カ保證人タル場合ニモ適用アルヘシ而シテ本條ニ依ルトキハ此場合ニ保證人ハ權利者ニ對シテハ主タル義務者ト連帶ナルヲ以テ彼主タル債務者ニ對シ催吿ヲ爲スノ規定ハ適用ヲ見サルコトヽ爲ルナリ抑モ連帶ノ規定ハ固ト公益規定ニシテ命令的規定ニアラス意思解釋ヨリ生セシ規定タルヤ明カナリ今保證人カ權利者ニ對シ余ハ保證人ナリト明言スルハ決シテ默シテモ主タル義務者ト連帶ナリトノ意ヲ有スルニアラス寧ロ潼仙帶ヲ免カルルノ意思ナリト解釋スルヲ以テ穩當トス果シテ然ラハ本條ハ保證人カ故ラニ其保證人タル旨ヲ明言シタル場合ト雖モ尙ホ主タル義務者ト連帶ノ責ヲ負擔セシムルハ是理ニ於テ有ルマシキ事ナラスヤ其保證人ヲモ蓮帶セシムルノ必要ハ果シテ何所ニ存スルヤト
梅君ハ之ヲ辯シテ曰ク本條ノ規定ハ便利ニシテ又多クノ場合ニ於テ
當事者ノ意思ニ適合スヘシト信ス而シテ此規定ハ命令規定ニアラスト雖モ亦純然タル意思解釋ニモアラス寧ロ法律ハ連帶ヲ希フト雖モ當事者ニ於テ連帶ヲ望マサレハ之ヲモ許スノ規定ナリ保證人カ民法上ノ地位ヲ得ント欲セハ宜シク別段ノ意思表示ヲ爲スヘシ富井書ハ保證人タルコトヲ明言スルハ民法上ノ保證人タルコトヲ欲スルニアリト云フト雖モ反對ノ意思ヲ表示スルハ容易ナル業ナリ元來民法上保證人ハ義務者ニ催吿ヲ爲シ又ハ檢索ノ利益等アリ然ルニ商法ニ於テ保證人ニ連帶ノ責任アルヲ本則トスルノ理由ハ抑モ商業上强制執行ハ頗ル不便ナリ今日ノ有樣ヲ見ルモ商人カ强制執行ヲ爲ス場合ハ稀ニシテ可及的保證人ヨリ履行セシムルヲ以テ最モ便利トス又實際上商人間ニ於テ保證人ト爲ル場合果シテ民法上ノ檢索ノ利益等マテヲモ希フヤ否ヤ甚タ岬疑シト
土方寧君ハ本條末文ノ「又ハ保證力商行爲ナルトキ」トハ場合ヲ發見シ得サルヲ以テ之ヲ削ラント主張シ岡野君ハ商人カ本案第四條ノ行爲ヲ爲ストキハ商行爲トナルヘク默シテ此行爲ヲ保證セハ則商行爲ナリト答ヘ梅君ハ尙ホ之ニ附加シテ曰ク保證ノミカ商行爲ト爲ル場合ハ敢テ保證ノミカ商行爲ト云フニ限ラス後日保證人ト爲リ別ノ保證契約ヲ締結スルコトモアルヘシ例ヲ擧クレハ手形ニ付テ見ルヘシ若シ手形法ニ特別ノ規定ナキトキハ本條ノ適用アリト
長谷川君曰ク本條ハ前段ニ「全員ノ爲メニ商行爲タル契約」云云トアリ次ニ「其一人力保證人タルトキ亦同シ」トアリ然レトモ其一人カ保證人タル場合ハ「金員ノ爲メニ商行爲タル契約」云云中ニ含畜スヘシ故ニ重複スヘシ又一人カ保證人ニシテ其行爲カ商行爲ナル場合ハ債務者ノ爲メニハ商行爲ニアラスシテ數人ノ保證人アル場合ニ於テハ之ニ反シテ其保證行爲ハ商行爲ナラスシテ債務者ノ行爲カ商行爲ナリト解シ得ルヲ以テ修正ノ必要アリト
梅謙次郞君曰ク本條ハ「及ヒ」ナル文字ヲ以テ上下ヲ繫ケリ而シテ「及ヒ」以下ノ場合ハ保證行爲ノミヲ單獨ニ爲シタル場合コシテ上段ノ「其一人力保證人ナルトキ」ト云フト區別アリ後段ノ方ハ既ニ義務カ發生シ居ルモノヲ保證スル場合ニシテ之ハ別異ノ契約ナリ然レトモ上段ノ「其一人力保證人ナルトキ」トハ連終ノ場合ナリト玆ニ到リテ富井君ハ修正案ヲ提出シ本條「其一人」以下ヲ削除セントセリ
穗積陳重君ハ右富井君ノ修正案ニ贊成シテ曰ク本條ノ如クハ債權者ニハ便利ナリト雖トモ保證人タル性質ニ反スヘシ又斯ク迄重大ナル義務ヲ保證人ニ負擔セシムルトキハ各自保證人タルコトヲ避ケ結局權利者ノ利益ト爲ラサルヘシト
梅君曰ク商業上ハ主タル債務者ニ對シ强制執行ヲ爲シ而シテ後保證人ニ對スルト云フハ頗ル不便ニシテ直チニ保證人ニ請求スルヲ以テ便利トスト
次ニ河村君ハ長谷川君ニ贊成ノ意ヲ表シタリ
岡野君ハ富井君ノ「其 人」以下削除ノ說ニ反醬シテ曰ク本條ニ依レハ一人ノ主タル債務者アリテ後ニ數人ノ保證人加ハリタルトキハ此數人ノ保證人ハ連帶ナリ而シテ今「其一人」以下ヲ削ルトキハ主タル義務者ト數人ノ保證人トノ間ニ付キ民法規定ノ適用ハ明白トナルト雖モ此數人ノ保證人カ一ノ行爲ニテ保證ヲ爲シタルトキハ連帶ナラスト謂ハサルコトヲ得サルニ至リ前後矛盾スヘシト
富井君ハ決シテ不都合ナキ旨ヲ述ヘテ曰ク保證人ト云フ以上ハ當事者ノ意思ハ非常ニ輕キ義務ヲ負擔スルト云フニアラスシテ先ツ一應主タル義務者ニ催吿ヲ爲シ而シテ後保證人ニ對スルノ意思アル場合ナリ且後ヨリ保證人ト爲ル場合ニハ連帶ナリト言ハヽ連帶ハ一行爲タルコトヲ要セサルナリ今日ハ連帶ハ通則ナラス梅君ハ慣習ヲ重ンスト云フト雖モ之ハ程度論ニシテ特ニ保證ト明言シタル場合ニモ連帶若責アルハ不可ナリ當事者ハ決シテ此意味ノ保證ヲ思考セサルヘシト
岸本辰雄君曰ク本條末文ハ前後矛盾スヘシ例ヘハ甲乙ニ人カ連帶義務ヲ負擔スル場合ニ於テ甲ニハ商行爲ナルモ乙ニハ商行爲ナラス此場合ニ乙ニ付テ一人カ保證人ト爲ルトキハ別段ノ規定ニ依リ主タル義務者ノ義務ハ商事ナラサルモ連帶ノ責アリ然ルニ若今乙ノ義務ニ對シニ人以上カ保證人ト爲リタルトキハ「及ヒ」以下後段ノ規定ニ依ラサルヘカラス然ルニ之ニ依ルトキハ「債務者力主タル債務者ノ商行爲ニ因リテ生シタルトキ」トアルカ故ニ右ノ場合ハ乙ノ義務ハ商事ナラサルヲ以テ保證人ハ連帶ナラスト謂ハサルヘカラス是前後矛盾スルナリ故ニ長谷川君ノ如クスヘシ又「保證力商行爲ナルトキ亦同シ」トハ思フニ恐クハ梅君ノ所謂手形保證位ノ場合ナルヘシ果シテ然ラハ之ヲ削ルヘシト
次ニ梅君ハ長谷川君ノ本條第一項ヲ書キ分クルコトニスヘキ旨ヲ述ヘ次ニ議長ハ富井君ノ「其一人」以下削除說ニ付キ決ヲ採リタルモ少數ニテ消滅セリ要スルニ本條ハ第一項ヲニ樣ニ書キ分ツコトヽ爲リ次冖條ニ移レリ
第二百二十八條 商人カ其營業ノ範圍內ニ於テ他人ノ爲メニ法律行爲ヲ爲シ又ハ勞務ニ服シタルトキハ特約ナキモ相當ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊三三三、獨二九〇、同草三二五、匈二八四
岡野君曰ク本條ハ殆ント說明ヲ要セス要スルニ法律行爲ト勞務トノ區別困難ナルヲ以テ之ヲ廣ク規定シタルニ過キスト
富井政章君曰ク「勞務」トハ雇傭ノ場合ノ用語ナリ故ニ本條ニハ「法律行爲又ハ其他ノ行爲」トスヘシト
長谷川君曰ク法律行爲ト云ヒ勞務ト云ヒ民法ノ語例ニテハ一ハ委任ニシテ一ハ雇傭ト見ユルナリ民法ニ於テハ「法律行爲ニアラサル」トアルカ故ニ玆ニハ「其他ノ行爲」トセハ宜シカラント
富井君ハ再ヒ之ヲ修正シテ曰ク單ニ「或行爲」ト爲スヘシト
玆ニ於テ土方寧君ハ之ニ贊成シ議長ハ之ニ付キ採決シタルニ多數ニテ可決シ次テ本回ハ散會ヲ吿ケタリ
于時午後第六時四十五分