明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第52回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第五十二回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
土方寧君
村田保君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
井上正一君
都筑馨六君
菊池武夫君
橫田國臣君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
金子堅太郞君
尾崎三良君
岡野敬次郞君
商修正原案
第百五十三條ヲ左ノ如ク改ム
 株主總會ニ於テ取締役ニ對シテ訴ヲ提起スルコトヲ決議シ又ハ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主カ之ヲ監查役ニ請求シタルトキハ會社ハ決議又ハ請求ノ日ヨリ一个月內ニ訴ヲ提起スルコトヲ要ス
 前項ノ請求ヲ爲シタル株主ハ監查役ノ請求ニ因リ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要ス
 會社カ敗訴シタルトキハ右ノ株主ハ會社ニ對シテノミ損害賠償ノ責ニ任ス
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ活版ニ附セシ後紫版ヲ以テ提出シタルモノヲ可決シタルモノナリ卽舊案ハ株主カ株主總會ニ於テ取締役ニ對シテ損害賠償請求ノ訴ヲ提起スルコトヲ決議シ又ハ資本ノ十分ノ一以上ニ當ル株主カ其訴ヲ提起スルコトヲ監査役ニ請求シタルトキハ會社ハ決議又ハ請求ノ日ヨリ一ケ月內ニ訴ヲ提起スルコトヲ要ストアリ、訴ノ種類ハ損害賠償ノ訴トシ之ニ制裁ヲ附シタリ然ルニ議場ノ意向ニ於テ損害賠償ノ訴ハ狹義ニ失セス哉トノ論モアリ旁々以テ現行訴訟法ト等シク其訴ニ付キ制限ヲ設ケサルヲ可トストノ設アリテ取締役ニ對シ損害賠償云云ヲ再考シ取締役ニ對シ訴ヲ提起シ又ニ資本ノ十分ノ一ニ當ル株主カ之ヲ監査役ニ對シ請求シタル場合ト爲シ其種類ハ右修正原案ニ於ケルカ如キ制限ハ之ヲ廢シタリ次ニ第二項ハ前項ノ請求ヲ爲シタル株主ハ監査役ノ請求ニ因リ相當ノ擔保ヲ供スルコトヲ要スト爲シ此場合ニハ手續上取締役ニ訴ヲ提起シ然ル後監査役之ニ代リテ訴訟ヲ爲スカ故ニ監査役ト爲スヲ穩當ナリト信シ其說ヲ採用シ會社トアリシヲ改メテ監査役ノ請求トセリ而シテ議場ノ意向ニ依リ第二項ノ株劵ノ供託ノ文字ハ削レリ重モニ變更ヲ加ヘタルハ以上ノニ㸃ニ過キスト述ヘラレタリ
穗積君ハ起草者ニ協議シテ曰ク舊案ニ依レハ株主カ其訴ヲ提起スルコトヲ云云トアリシカ其事柄ハ變ラサルカ如シ文章上其第一段ニ於テ訴ヲ提起スルコトヲ決議シトアルカ爲メ資本ノ十分ノ一以上ニ當ル株主カ監査役ニ請求シタル云云ト謂ハンヨリハ舊案ノ如ク爲スヲ可トス起草者ハ如何ニ考フルカト述ヘラレタリ
田部君ハ之ニ答ヘテ曰ク素ヨリ文章論ナルカ穗積君ノ如ク或ハ其訴ヲ提起シト爲スハ或ハ穩當ナリヤモ知レス然レトモ訴ヲ受クルト讀ミ得ルノ嫌アリ文章上ノコトナルヲ以テ强ヒテ反對ヲ爲サスト述ヘラレタリ
富井君ハ起草者ニ協議シテ曰ク余ハ全體ノコトヲ知ラサルモ玆ニ舊案ヲ所持セサリシ爲メ缺ケタル所アリテ到然セサルモ現行商法第二百二十八條帥本案ノ百五十三條ニハ會社カ取締役ニ對シ訴ヲ提起スル云云トアルカ此場合モ監査役ニ對シ訴ヲ起ス場合モ同一ナリヤ或ハ又監査役ノ場合ハ他ニ規定アリヤ否ヤト述フ
田部君ハ之ニ答ヘテ曰ク此㸃ハ余輩モ考ヘシカ墨字ノ百五十ニ條中ニ準用セル規定アリテ本條ニ入ルルヲ可トストノ讀モアリテ追加セシ程ナリ其㸃ハ何レ後ニ追加スル考ナリト述ヘタリ
穗積君ハ議長ニ請求シテ前協議案ハ撤回セラレタリ他ハ原案ノ儘ニ可決セリ
商修正原案
第百五十六條ヲ左ノ如ク改ム
 監查役ハ何時ニテモ取締役ニ對シテ事業ノ報吿ヲ求メ又ハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査スルコトヲ得
 監查役ハ株主總會ヲ招集スル必要アリト認メタルトキハ其招集ヲ爲スコトヲ得此總會ニ於テハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調查セシムル爲メ特ニ檢查役ヲ選任スルコトヲ得
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ活版ノ第百四十六條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ是舊案ノ第一項ニ又ハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得トアリシヲ調査スルコトヲ得ト改メタリ此㸃ハ監査役ヲシテ檢査スルコトヲ得トスルハ文字上穩カナラサル尤故ニ調査ト改メシニ過キス第二項ハ同案ニハ監査役ハ株主總會ヲ招集スル必要アリト認メタルトキハ其招集ヲ爲スコトヲ得トアリシヲ其後段ニ此總會ニ於テハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査セシムル爲メ特ニ檢査役ヲ選任スルコトヲ得トノコトヲ加ヘタリ此場合ニハ檢査役ヲシテ調査ヲ爲シ得ルコトヲ明瞭ニ爲シタルニ過キスト述ヘ本條ハ原案ニ可決セリ
商修正原案
第百五十九條ヲ左ノ如ク改ム
 會社カ取締役ニ對シ又ハ取締役カ會社ニ對シ訴ヲ提起スル場合ニ於テハ會社ハ監査役之ヲ代表ス但株主總會ハ他人ヲシテ之ヲ代表セシムルコトヲ得
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ活版ノ第百四十九條ヲ修正セリ舊案ハ會社カ取締役ニ對シ訴ヲ提起スル場合ニ於テハ會社ハ監査役之ヲ代表ストアリシヲ本案ハ取締カ會社ニ對シ訴ヲ提起スル場合ノ缺ケタルヲ以テ其㸃ヲ補ヘリ第二ニ修正ヲ加ヘタルハ原案ニ但書ヲ加ヘタルコト是ナリ其理由ハ或場合ハ監査役以外ノモノヲ以テ代表セシムル必要アリト認メタルトキハ他人ヲシテ之ヲ代表セシムルコトユセリト述ヘラレタリ
橫田君ハ原案ヲ批難シテ曰ク第百五十九條ヲ修正セシ所ニテハ株主總會ハ總會タルノ性質ヲ變セス卽前條ノ規定カ穩ナラサルカ爲メ第百五十三條ノ資本十分ノ「以上ニ當ル株主カ請求ヲ爲ストキハ會社ハ訴ヲ提起セサルヲ得ス而シテ會社ヲシテ其㸃ノミヲ許容セシメタリ然ラハ第百五十九條ノ但書ハ株主總會ナル十分ノ一以上ニ當ル株主ハ他人ヲシテ之ヲ代表セシメサル可ラス既ニ會社ヲ代表セシムルコトヽナラハ百五十三條ノ十分ノ一以上ニ當ル株主ヲシテ既ニ會社ヲ代表セシムルコトヽナレリ而シテ會社ハ多數決ニ依リテ成立スル主義ヲ採用セハ兔モ角第百五十三條ニ於ケル資本ノ十分ノ一トノコトヲ附加ヘタリ然ラハ其時ハ株主總會ハ資本十分ノ一以上ニ當ルモノト謂ハサルヲ得ス而シテ其株主ヲシテ請求ヲ爲サシムルトキハ取締役ト株主トハ其主義ノ反對ナルトキハ百五十三條ト百五十九條ハ如何ニスルモ一致セス而シテ第百五十三條ノ主義ヲ貫クトキハ總會ハ十分ノ一以上ノ總會ト認メサレハ定ラスト述ヘラレタリ
富井君ハ自己ノ意ヲ述ヘ或ハ橫田君ノ設ト同一ナルヤモ計ラレストテ本條ニ於ケル條項ヲ批難シ最後ニ起草者ニ說明ヲ請フテ曰ク本條ノ場合ニ於テハ監査役カ之ヲ代表スルカ或ハ十分ノ一以上ノ株主カ會社ヲ代表スルカ或ハ裁判所カ之ヲ爲スモノナリヤ既ニ株主總會ヲ開キ十分一以上ノ株主カ其決議ニ服セサル場合ヲ第百五十三條ハ保護スルナリ然ルニ如斯ナルトキハ其目的ハ消滅スルコトヽナラン其㸃カ極メテ不都合ナリト信ス或ハ余ノ解スル所ハ誤リナリヤ否ヤ說明ヲ請フト述ヘラレタリ
田部君ハ答辯シテ曰ク本條但書ハ第百五十四條カ適用セラレ資本ノ十分ノ一以上ノ少數者カ訴ヲ提起スル場合ナリ然ルニ富井君ノ如クナランカ第百五十四條第一項前段ノ適用アリ若シ修正ヲ要スルナレハ之ヲ補缺セサルヘカラス次ニ橫田君ノ詭ニ付キ==ロシ置カンニ右少數株主カ訴ヲ提起スルハ總テノ㸃ニ於テ不便ヲ生スヘシ而シテ裁判所ニテ爲ストキハ便宜ナルカ爲メ之ヲ選任セシムルコトヽセリト橫田君ハ修正說ヲ提出シテ曰ク如何ニナスモ十分ノ一以上ト云フ所ノ代言者ヲ選ハサルヘカラス然ラサレハ十分ノ一タル少數株主タルニ抅ハラス百五十三條ニ於ケル會社カ訴ヲ提起スルコトトナラン此㸃ニ付テハ既ニ種々ノ討議アリシ末、十分一以上ノモノニ限ルト爲シ他ノ者ヲシテ容喙スルコトヲ得セシメストセリ而シテ正式ヨリ云フトキハ穩ナラサルモ是等ノ者ヲシテ會社訴訟トシテ訴ヲ提起セシメ勝訴セルトキモ敗訴セルトキモ訴訟提起者ハ責任ヲ負擔スヘキモノ故孰レニセヨ右少數者ヲシテ代理人ヲ選任セシメサルヘカラス以上ノ理由ナルヲ以テ但書ノ「株主總會」ナル文字ヲ削除ストノ修正案ヲ提出スヘシ而シテ文章ハ起草者一ニ任スヘシト述ヘラレタリ高木君モ亦修正案ヲ提出シテ曰ク裁判所ノ選任シタル者ヲシテ代理人タラシムルコトヲ得ト爲シタル本條ハ曾テ疑ヲ懷ケルモノナルカ第百五十三條ノ場合ニ十分ノ一以上ノ少數者カ訴ヲナスハ會社ニテ訴訟ヲナストノコトハ不明ナリ然レトモ既ニ少數者モ尙ホ會社ノ訴訟ト認ムル以上ハ此修正案ハ至當ナラント信ス既ニ十分ノ一以上ノ株主カ請求スルハ理論上ハ會社ヲ代表シタルモノニシテ株主總會ハ其機關ナリ資本十分ノ一以上ノ者カ訴ヲ提起センニハ總會ヲ開クコト能ハサルカ故ニ縱令總會ヲ開クニモセヨ何人ヲ選ムヘキカ十分ノ一ノ株主中ヨリ之ヲ選、ハサルハ勿論他人ヲシテ訴ヲ爲サシムルハ是亦欲セサル所ナルヲ以テ裁判所ノ選定ト爲スヲ可トス然ラサレハ本條ハ裁判所ニ於テ正當ナル者ヲ得ハ其中ヨリ選定セシムルモ可ナリ監査役カ代人ヲ選フニ付テハ少數株主ヲ代人トシテ選ヒシコトニ歸セサルヘシト述ヘラレタリ
梅君ハ高木君ノ案ニ同意ヲ表シ且其說ヲ補フテ曰ク余輩ハ高木君ノ趣旨ハ贊成ナルモ如斯案ニ爲シテハ如何卽本條第一項ハ原案ノ儘トシ之ニニ項ヲ加ヘ卽資本十分ノ一以上ニ當ル株主カ取締役一(對シ訴ヲ提起スルコトヲ請求シタルトキハ特ニ監査役ヲ選任シタルトキト雖トモ株主ノ講求ニ因リ裁判所ハ特ニ代人ヲ選任スルコトヲ得トナシ高木書ハ此趣旨ニテ可ナリトセハ余ハ贊成スヘシト
橫田君ハ少數者カ一團體トナリテ責任ヲ負ヒ且總テノコトヲ爲サヽルヘカラス余ノ考ハ其程差異アルニアラス若シ然ラスシテ資本十分ノ一ニ當ル株主ヲ認メスシテ會社カ總テノコトヲ爲スハ不都合ナリ故ニ此場合ニ資本十分ノ一以上ニ當ル株主カ訴ヲ提起シタトキ會社カ代人ヲ選ムハ不可ナリト信スト述ヘラレタリ
橫田君ノ修正案ヲ採決セシニ少數ニテ消滅シ次三局木君ノ修正案ハ多數ニテ第二項トシテ加フルコトム決セリ
商修正原案
第百七十二條第一項ヲ左ノ如ク改ム
 株主總會ニ於テ資本減少ノ決議ヲ爲ストキハ同時ニ其減少ノ方法ヲ決議スルコトヲ要ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊案ノ趣旨ヲ改メス唯文章ニ修正ヲ加ヘタルノミ始メハ決議ヲ爲シタルトキハ其減少云々トアリシヲ改メテ決議ヲ爲ストキハ同時ニ云云セリ他ナシ舊案ノ如クナルトキハ減少ノ方法ト決議ト別個ノモノヽ如ク見ユルノ弊アリテ不穩當ナリトノコトニテ文章ヲ改メ同時トセリ其始メ決議ヲ爲シ然ル後爲ストアリシヲ橫田君ハ決議セサルモノノ如ク見ユトノコトニテ斯クノ如ク改メタリト述ヘ本條ハ原案ニ可決セリ
商修正原案
第百七十七條ヲ左ノ如ク改ム
 會社ハ損失ノ塡補ニ備フル爲メ其資本ノ四分ノ一ニ達スルマテ準備金ヲ積立ツルコトヲ要ス
 會社ハ利益ヲ配當スル每ニ其利益ノ二十分ノ一以上ヲ準備金中ニ組入ルルコトヲ要ス
 額面以上ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行シタルトキハ其額面ヲ超ユル金額ハ之ヲ準備金中ニ組入ルルコトヲ要ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ニ於ケル主義ハ既ニ決議ニナレリ而シテ原案ハ其始メ現行法ノ如ク規定シ準備金ヲ積立ルコトヲ要ストシ年々利益ノニ十分ノ=一當ルモノヲ積立テ額面ヲ超ユル金額ハ準備金ニ組入ルルコトヲ要ストアリテ額面以上ハ幾何ニテモ皆準備金ニ組入ルルコトヽナレリ然ルニ井上君ヨリ質問アリテ額面以上ノモノナルトキハ準備ニ總テ積立ルカ如ク見ユルヲ以テ文章上不明ナル㸃アリトノコトニテ之ヲ本案ノ如ク改メタリ而シテ又其始ノ案ニハ損失ノ嗔補ニ備フル云云ノ文字ナカリシカ本案ハ之ヲ加ヘタリ何トナレハ實際上會社カ損失ニ因リ資本減少ノ不幸ニ陷リシトキハ年々其損失ヲ填補シ其後ニ至リ利益ノ配當ヲ爲シ能ハサルカ如ク見ユルヲ以テ獨逸商法ノ標準ニ倣ヒ損失ノ填補トナシ其㸃ヲ明ラカニセリト
土方君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク此紫版ノニ項ハ新株ヲ發行シタル場合ヲ避ケンカ爲メナリ、其故ニ本案ハ之ヲ改メニ項トナシ第三項中前項ノ文字ニテモ可ナルカ先ツ前項ノ準備金ト改ムルヲ可トス寧ロ原案ニ復シ額面以上ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行シタルトキハ其額面ヲ超ユル金額ハ前項ノ額面額ニ達スルマテ之ヲ準備金ニ組入ルヽコトヲ要スト改メタシト述ヘ
岡野君ハ之ニ反對シテ曰ク土方君ノ如ク一項ヲ存スレハ幾何ノ額ニ達スルカ判然セス準備金ハ幾何ノ幾何ノ額ヲ設クヘキカトノコトハ一項及ヒ三項ニテ判然スヘシ其カ爲メニ項三項ヲ設ケタルナリ前項トナストキハ準備金ヲ積立ルニ付キ如何ナル額ニ達セシムヘキカ判然セス準備金ハ四分ノ一ナル以上ハ此一項ニテ準備金トナスカ明ラカナリト信ス畢竟原案ノ儘存セラレンコトヲ望ムト述ヘラレタリ菊池君ハ土方君ノ案ニ贊成シ且之ヲ補フテ曰ク本案ノ如クナレハ疑ヲ生シ易シ諸君ノ間ニ起ル問題ハ組入ルルトアルヲ以テナリ此文字ニ疾病アリ故ニ土方君ノ如クナシ且組入ルルヲ「充ツル」ト改ムルコトニセハ其額面ニ達スルトキハ始メテ原案ノ趣旨ヲ達スルコトヲ得ヘシト述ヘラレタリ
梅君ハ菊池君ノ「充ツル」ノ用例ハ從來ノ文例ニナキコトヲ述ヘ且土方君ノ修正案ヲ補フテ曰ク原案第二項中額面ヲ超ユル金額ハ準備金ニ組入ルルコトヲ要ストアルヲ改ムルトノコトナルカ之ヲ「前項ノ額ニ達スルマテ」トノコトヲ加フルコトニセハ可ナリ而シテ損失ノ嗔補ニ備フルコトニセラレテハ如何ト述ヘ土方君モ之ニ合意セラレタリ
右土方君ノ案ヲ採決セシニ多數ニテ可決セリ他ハ原案ノ靂ナリ
商修正原案
第百七十八條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
 第百七十九條 裁判所ハ資本ノ十分ノ一以上ニ當タル株主ノ請求ニ因リ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ調査セシムル爲メ檢查役ヲ選任スルコトヲ得
 檢查役ハ其調查ノ結果ヲ裁判所ニ報吿スルコトヲ要ス此場合ニ於テ裁判所ハ必要アリト認ムルトキハ監查役ヲシテ株主總會ヲ招集セシムルコトヲ得
 (參照)舊二二四乃至二二七、獨二二二a、二三九a、同草二四二、二四三、伊一五三、羅一五五
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法第二百二十四條以下ニ其規定アリ現行商法ハ第二百二十四條ニ行政官廳ヨリ檢査スルノ權利ヲ附與セシモ本案ハ會社設立ノ當時行政官廰ノ設立ノ免許ヲ削リシヲ以テ此㸃ニ於テモ行政官廳ノ關係ハ不用トセリ乍併檢査ノ規定ヲ置カサレハ不完全ナルカ故ニ株主ノ請求アルトキハ檢査役ヲシテ檢査ヲ爲サシムルモ可ナリトノコトニテ本條ノ規定ヲ設ケタリ檢査役ハ裁判所カ之ヲ選任シテ調査セシムルモノトス而シテ裁判所ニ訴フルコトハ多クハ人民ハ困難トスルカ故ニ檢査役ヲシテ檢査ヲ爲サシメス專任ノ監査役ノミテハ不充分ナリ加之此監査役ノミニテハ十分ノ處置ヲ爲スヲ得サルモノト信スルヲ以テ先ツ檢査役ハ調査ノ結果ヲ裁判所ニ報吿スルコトトセリ若シ裁判所カ右報吿ニ依リ不都合ノ亷アリトスルトキハ監査役ニ株主總會ヲ招集セシムルコトヲ得ルコトヲ規定シタリ
長谷川君ハ本條ニ付キ意見ヲ述ヘテ曰ク資本十分ノ一以上ノ株主カ訴ヲ提起スルコトニ付テハ本條ノ設ケアルヲ可トス然ルニ之ヲ本條ニ籠ムルトキハ裁判所ニ請求スルニ當リ斯カル場合ハ一回限リニシテ屢々ナキヲ望ムヲ以テ訴訟ニ付キ斯々ノ書類ハ必要ナリト云フカ如キハ其便宜ヲ與フルヲ可トス此㸃ニ付テハ起草者ノ熟考ヲ煩ハスト協議シ
岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク長谷川君ノ意見ハ此條ニ籠ムルヲ得ス余ノ考ハ資本十分ノ一以上ニ當ル株主カ訴訟ヲ起スコトハ希望セサルモ乍併法律上ニ於テ資本ノ上ニ於テモ斯カル少數ノ株主ヲ保護スルモノトナサハ始終株主ヨリ帳簿閱覽ノ爲メ會社ハ煩雜ノ勞ヲ增スカ故ニ斯カル帳簿提出ノ義務ハ負ハシメサルヲ可トス前例ノ訴ヲ起ス場合ニハ槪ネ其事柄ヲ知リ居ルモノト信ス且商業帳簿ヲ相手方ニ提出セシムレハ可ナリト述ヘ議長ハ長谷川君ノ說ヲ採決セシニ起立者ハ半數ナリシモ議長ハ原案ニ贊成シタルカ爲メ長谷川君ノ說ハ消滅セリ