明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第51回

参考原資料

備考

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第五十一回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
鶴原定吉君
土方寧君
村田保君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
富谷鉎太郞君
河村讓三郞君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
三浦安君
西源四郞君
岡野敬次郞君
商修正原案起草委員提出
第二十一條第三項ヲ左ノ如ク改ム
讓渡人ハ前二項ニ定メタル地域外雖モ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ同一ノ營業ヲ爲スコトヲ得ス
梅謙次郞君說明シテ曰ク前回ノ決議ニ因リ文章ヲ變更セリ前回ニ於テハ地域ノ外ニ年數ヲモ含ムハ不可ナリトノ說アリタルヲ以テ玆ニ修正案ヲ提出シタル所以ナリ
穗積陳重君曰ク本修正案ニハ地域ニ付テノミノ規定ニシテ年限ニ付テハ適用ナシ故嚇ニニ十年ノ以外ニ於テハ不正ノ競爭ヲ爲シ得ルコトト爲ルヘキヲ以テ不可ナリ元來不正ノ競爭ハ不法行爲ナルヲ以テ本條ノ如キ規定ナクトモ不正ノ競爭ハ爲シ得サルナリ故ニ寧ロ黑字修正原案ノ方宜シト
右ニ對シ梅君辨明シテ曰ク不正ノ競爭ハ之ヲ絕對ニ言フコトヲ得ス既繍ニニ十年間モ經過シテ尙ホ不正ノ競爭アルハ極メテ稀ナルヲ以テ問題ト爲ラス唯タ地域ニ付テハ適用アルノミト
磯部君曰ク元來原案第二十一條ハ既ニ不正ノ競爭ノ爲メニセル規定ナリ果シテ然ラハ第三項ヲ置クノ必要ナシ若シ第三項ヲ必要トスルトキハ是レ乃チ第二十一條第一項第二項以外ニ於ケルモノフ禁スルモノナラサルヘカラス果シテ然ラハ獨リ地域ノミナラス年限ニ付テモ亦同一ノ規定ナカルヘカラスト
梅君辯シテ曰ク第二十一條第一項及ヒ第二項ハ不正ノ競爭ノ爲メニセル規定ニアラス是ハ契約ノ效力ヲ定メタルニ過キス第三項ニ於テ始メテ不正ノ競爭ニ關スル規定ト爲ルナリト
穗積陳重君ハ再ヒ前說ヲ主張シテ曰ク起草者ハ年限ニ付テハ疑問ヲ生セスト云フト雖モ果シテ年限ニ付テ疑問ヲ生セサレハ地域ニ付テモ亦疑問ヲ生セサルヘシ故ニ黑字修正原案ヲ採用スヘシト
高木君ハ右ニ付キ一部分贊成シ寧ロ黑字修正原案モ不用ナリト主張シテ曰ク原案第二十一條第一項及ヒ第二項ハ梅君ノ說明ノ如ク契約ノ義務ニ因リテ此制限アルナリ乃チ第一項ハニ十年第二項ハ三十年ノ義務ヲ生シ此範圍內ニ於テハ結約者ナルモ其範圍外ニ在ツテハ普通人ナリ普通人ニ付テハ不正ノ行爲ナルヲ以テ之ハ不法行爲ノ規定ヲ適用セハ可ナリ故ニ紫字及ヒ黑字修正案共ニ之ヲ割ルヘシト
穗積八束君ハ第二十一條全體ニ付キ不服ヲ唱ヘテ曰ク元來三十年ノ制限ト云ヒ又地域ニ關スル第三項ト云ヒ極メテ嚴重ニ失シ結局日本國中其何ツレニ於テモ同一營業ヲ爲スコトヲ得サルコトト爲ルヲ以テ不可ナリト要スルニ同氏ハ第二十一條削除ノ意ヲ含メリ
磯部君ハ右ニ贊成シ梅君ハ之ニ對シ意見ヲ述ヘテ曰ク理論上ハ年限ニ付テモ規定ノ必要アリト雖モ實際ニ於テハ不必要ナリ而シテ嚴格三言ヘハ生涯世界中ニテ同一ノ營業ヲ爲スコトヲ得スト云フコトト爲ルヘキモ實際上穗積八束君ノ如キ患ヲ來スコトナシ第三項ヲ置カサルトキハ反テ其疑ヲ生スルノ恐アリ故ニ第三項ヲ削除スルコトヲ得スト此ニ於テ議長淸浦法相ハ穗積八束君ノ全條削除ノ說ニ付キ決ヲ採リタルモ少數ニテ消滅シ原案乃チ紫字修正案ニ決シ直チニ次ヘ移レリ
第二百二十條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百二十一條 日本ニ本店ヲ設ケ又ハ日本ニ於テ商業ヲ營ムヲ以テ主タル目的トスル會社ハ外國ニ於テ設立スルモノト雖モ日本ニ於テ設立スル會社ト同一ノ規定ニ從フコトヲ要ス
重岡薰五郞君ヨリ本條「又ハ」以下ニ付キ例ヲ擧ケテ質問ヲ爲シ梅君之ニ答辨アリタリ其他本條ニ付テハ別段修正案モ出テス原案可決セリ
舊第二百二十一條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第二百二十二條 外國會社カ日本ニ支店ヲ設ケタル場合ニ於テ其代表者カ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキハ裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ其支店ノ閉鎖ヲ命スルコトヲ得
梅謙次郞君說明シテ曰ク本條ハ前回ニ於テ第二百二十一條ノ議事中議論アリテ斯ク修正セルモノナリ乃チ日本ノ會社ハ此ニ揭ケタル場合ニ之カ解散ヲ命スルコトヲ得ルモ外國會社ハ之ヲ解散スルヲ得ス故ニ其支店ヲ閉鎖スルコトヲ得ルコトトセルナリ
重岡君ハ本條ヲ不要ナリト主張シ其理由ヲ述ヘテ曰ク公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行爲等ハ國ノ行政權ヲ以テ之ヲ禁スルコトヲ得ヘシ故ニ會トシテ外國人カ行爲ヲ爲ス場合ニモ行政權ヲ適用シ得ヘシト
梅君之ニ答ヘテ曰ク或ル一ノ不法行爲等ニ付テハ或ハ行政權ヲ以テ禁止スルコトヲ得ヘシト雖モ會社ノ營業ヲ禁止スルコトハ出來サルヘシ
磯部君削除說ヲ提出シテ曰ク元來此ノ如キ條文ナクテハ外國會社ノ支店ヲ制スルコト能ハストセハ日本ノ會社ノ支店ニ付テモ亦同一ノ規定ヲ要ス然ルニ日本ノ會社ノ支店ニ付テハ既ニ第四十二條アルヲ以テ外國會社ニモ之ヲ適用スルコトヲ得ヘシ故ニ本條ハ不要ナリト穗積八束君モ本條ノ不要用ナルコトヲ述ヘテ曰ク凡ソ外國人ノ營業タルト將タ日本人ノ營業タルトヲ問ハス警察權ノ其上ニ行ハルル㸃ハ同一ナリト信ス起草者ハ支店ヲ閉鎖シ得ルモ營業ヲ停止スルコトヲ得スト言フト雖モ斯クテハ餘リ內國會社ト外國會社ノ働ニ付キ外國人ヲ重ンスルコトト爲リテ不可ナリ例ヲ擧ケテ之ヲ言ヘハ、外國人カ日本ニ料理店ヲ出シ善良ノ風俗ニ反スル行爲アリタル場合ニ於テ單ニ店ノ閉鎖ノミヲ命シタリトテ同時ニ其營業ヲモ禁止セサル以上ハ實際何等ノ效力モナカルヘシ抑モ會社ノ解散トハ會社カ法人タル人格其モノヲ消滅セシムルモノナルヲ以テ之ヲ換言スレハ法律ヲ以テ與ヘタル人格ヲ消滅セシムルモノナルヲ以テ之ハ當然ナルモ本條ハ然ラス其營業ヲ差止ムルコトナルヲ以テ之ハ反テ行政權ヲ以テセハ足レリ本條ノ必要ナシト
梅謙次郞君曰ク固ヨリ營業ノ種類ニ因リテ異ナルモノニシテ料理店ノ如キハ或ハ一般ニ行政權ノ範圍內ニ於テスルコトヲ得ヘケン去リナカラ外國人ニ付テノミ特令ヲ出ストテ敢テ不可ナシト
都筑馨六君ハ穗積八束君ニ贊成シテ曰ク元來本條ノ目的ハ會社存廢ニ關スル規定ナリト雖モ日本ノ公ノ秩序等ヲ害スル行爲ヲ防止スルニアルヲ以テ其手段ノ何タルヲ問フノ要ナシ果シテ然ラハ獨リ會社ノミナラス一個人ニ付テモ規定ノ必要アリ又會社ヲ閉鎭セスシテ營業ヲ禁止スルモ不可ナシ從來ノ例ヲ言ヘハ行政命令ヲ以テ爲シ得ルナリ總テ營業禁停處分ニ付テハ行政裁判所ヲ煩ハスコトナリ尙ホ本條ニ「公ノ秩序、善良ノ風俗」トアルモ此他ニ「安寧ヲ害スル」ノ一事アリ例ヘハ虐待ヲ受クルコトヲ知リツツ種々甘言ヲ構ヘテ勞働者ヲ渡航セシムルカ如キハ本條ノ適用ナキナリト
梅君曰ク本條ノ「公ノ秩序、善良ノ風俗」ハ固ヨリ不完全タルヲ免カレスト雖モ民法制定ノ際ニモ適當ノ文字ナキヲ以テ民法第九十條ニモ本條ノ如ク「公ノ秩序、善良ノ風俗」トセリ故ニ安寧ヲ害スルコトヲモ其內ニ含有スヘキモノト解釋セサレハ不可ナリト
重岡君モ亦穗積八束君ニ贊成シ行政權ノ範圍ヲ廣クシ會社ノ目的カ風俗ヲ害スル行爲ニ在ルトキハ之ヲ禁止スルノ必要アルコトヲ述ヘ長谷川君ハ本條ノ必要ナルヲ主張シ其理由トシテ本案第四十二條ヲ引キテ曰ク日本ノ會社ナラハ此場合ニ於テ解散ヲ命シ得ルモ外國ノ會社ニ付テハ解散ヲ命スルコトヲ得ス既ニ第二百二十條ノ規定ヲ見ルモ外國會社ヲ保護スルコトアルヲ知ルニ足レリ果シテ然ラハ此外國會社ニ付テモ亦第四十二條カ日本ノ會社ニ封スルカ如キ制裁ヲ設ケサレハ兩々權衡ヲ得サルヘシト
此ニ於テ議長淸浦君ハ穗積八束君ノ削除設ニ付キ決ヲ採リタルモ少數ニテ消滅シ原案可決シ直チニ黑字修正原案ニ移レリ
第百六條(舊第百五條)ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
 第百七條 前條第五號乃至第七號ニ揭ケタル事項ヲ定款ニ記載セサリシトキハ創立總會又ハ株主總會ニ於テ之ヲ補足スルコトヲ得
 前項ノ株主總會ノ決議ハ第百六十四條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ爲スコトヲ要ス
右括孤中舊第百五條トハ紫字決議案ノ第百五條ヲ云フ
岡野敬次郞君說明シテ曰ク此第百七條ハ未タ議事ニ至ラサル黑字修正原案第百九十二條第二項ト懸聯シ而シテ此第百九十二條第一項ハ合名會社ノ淸算ノ場合ト相懸聯スルモノナリ而シテ舊第百五條ニ列擧セル第一號乃至第八號中其一ヲモ缺クトキハ定款ハ無效ナルヲ以テ無論此定款ヲ以テ如何ナル手續ヲ爲スモ亦無效ナリ且舊第百五條ニ所謂「要ス」ノ意味ハ若シ之ニ反セハ無效ナリト解スヘシ然ルニ第百五條ヲ議スルニ際シ此條ニ列擧セル事項中第七號ノ如キハ他ノ事項ニ比シ差迄重大ナラサルヲ以テ必ス之ヲ定款三記載セシムルノ要ナシトノ讀出テタリ成程第百五條ノ列擧中ニハ比較的重大ナルアリ又ハ輕微ナルアリ故ニ是等ヲ區別スルトキハ第五號至乃第七號ノ事項ハ他ノ號ニ比シテハ重大ナラス然ルニ萬一之ヲ定款ニ記載セサルトキハ直チニ之ヲ無效トスルカ如キハ頗ル嚴重ナリトテ本條ヲ追加セルナリ尤モ是等ト雖モ定款ニ記載スヘキカ原則ナルヲ以テ假リニ之ヲ補足スルコトヲ得ルト雖モ右ハ定款變更ト同シク重キ議決ヲ採用セサルヘカラサルハ自然ノ結果ニシテ是レ本條第二項アル所以トス而シテ此第二項ニ創立總會ヲ除キシハ則チ紫字決議案第百十二條ニ創立總會ノ規定アルヲ以テ絕對的之ヲ適用セハ足レルカ故ニシテ唯タ株主總會ノ決議ノミハ定款變更ノ規定乃チ紫字決議案第百六十四條ノ規定ニ依ラシメサルトキハ創立總會ノ規定ト權衡ヲ得サルヲ以テ玆ニ特ニ規定セル所以ナリト
土方寧君曰ク起草者ハ第百五條第五號乃至第七號ハ重大ナラスト云フト雖モ彼ノ營業地ノ如キハ重大ナルモノト信ス好シ之ヲ輕微トスルモ之ヲ補足スルニ付キ何ン株主總會ノ決議ヲ要センヤ創立總會ノミヲ以テ足ルヘシト
岡野君之ニ答ヘテ曰ク營業地ヲ本店所在地ト解スルトキハ或ハ土方君ノ如ク言フコトヲ得ヘキモ元來營業地トハ本店ノ在ル所支店ヲ作ル所又ハ本店ヲ作ル所ト云フ意味ナリト
本條ニ付テハ別段修正說モ出テサリシヲ以テ議長淸浦君ハ原案ニ可決シ次條ニ移ルヘキ旨ヲ宣言セリ
第百四十九條第一項トシテ左ノ一項ヲ加フ
 會社財產ヲ以テ會社ノ債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ取締役ハ直チニ破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ要ス
岡野敬次郞君ノ說明ニ曰ク決議案第百四十九條ヲ議スルニ當リ既ニ說明シタリシカ如ク會社ノ財產カ非常ニ減却シタルトキハ破產ノ問題ヲ生スヘシ而シテ之ハ須ラク破產法ニ於テ規定スヘキモノナリト信ス然ルニ斯ノ如クスルトキハ株式會社ノ淸算ニ關スル規定ト權衡ヲ失スト云フ說アリタルニ依リ途ニ本條ヲ追加スルコトトハ爲レリ民法第八十一條ノ主意ハ商法中ニハ明カニ顯ハレスト雖モ黑字原案第百八十九條ニハ株式會社ノ淸算ニ付民法第七十九條乃至第八十一條ヲ準用ストセリ故ニ株式會社ノ淸算中ニ會社財產ノ不足ヲ發見シタル場合ニ淸算人カ破產宣吿ノ請求ヲ爲ス場合ハ商法ニモ規定シアルモノト謂ハサルコトヲ得ス而シテ第百四十九條第二項ハ固ヨリ取締役カ破產宣吿ノ請求ヲ爲ス場合ナリ之ニ反シテ會社カ業務執行中ニ其財產ノ不足ヲ發見シタル場合ハ之ヲ商法ニ規定セスシテ破產法ニ讓ルヘキモノナリト信ス抑モ株式會社ノ如キ重大ナル責任ト信用トヲ以テスル會社カ其世人ニ對スル關係タル實ニ複雜ニシテ彼ノ小資本ト其社員ノ全部若クハ一部カ無限責任タルニ因リテ成立スル合名會社ノ比ニアラス是固ヨリ其事業ノ性質ノ然ラシムル所ナリ故ニ世人ヲ保護スルノ主義ヲ採ルコトヲ要スト
磯部四郞君曰ク會社ノ債務中ニハ第三者ニ封スルモノト株劵ニ對スルモノトアルヘシ又本條ニ「完濟スルコト能ハサルニ至リタルトキハ」トアリト雖モ或ハ一時ノ出來事ヨリ完濟スル能ハサル場合ニモ破產ノ請求ヲ爲スヘキヤ斯クテハ會社ノ存立ハ恰モ風前ノ燈タルヲ免カレス故ニ此規定ハ甚タ嚴ニ過クト
岡野君答ヘテ曰ク會社ノ債務ハ或ハ株劵ニ對スルモノモアルヘシ又一時ノ出來事ニ依リテ忽然完濟シ得サル場合モアラン去リ乍ラ右ハ回復ノ望アルモノナレハ或ハ磯部君ノ說ノ如キモ之ヲ亂用スルトキハ世人ノ迷惑ヲ蒙ムルヤ頗ル大ナリ「破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ要ス」トハ主トシテ第三者ヲ保護スルニ出テタル規定ナリ而シテ此第三者ノ迷惑ヲ蒙ル場合ト會社ニ迷惑ヲ來ス場合トヲ比較セサルヘカラス余輩ハ第三者ノ迷惑ヲ蒙ムル場合ヲ重大ナリト信スルヲ以テ本條ノ如クセルナリ且又本條ノ主意定マルトキハ無論亂用ノ事モ生セサルヘシト
磯部四郞君曰ク余輩ハ破產宣吿ノ請求ハ第三者保護トナラスト信ス是等ハ當事者ノ意思問題ナルヘシ回復ノ望アル場合ニ於テ破產宣吿ノ請求ハ反テ小商人ノ資產ヲ減少スルノ恐アラン故ニ余輩ハ將來見込ノ無キ場合ノミヲ限リテ破產宣吿ノ請求ヲ爲スヘキ主義ヲ採ラハ反テ第三者ヲ保護スルノミナラス從テ會社ノ爲メニモ好カラント信スト
梅謙次郞君曰ク磯部君ノ如ク回復スルナラント云フ場合ハ「能ハサルニ至リタルトキ」ト云フヲ得ス又株劵ニ對スル義務ノ如キハ或㸃ヨリ見レハ會社ノ債務ナリト雖モ之ハ條件付ニシテ乃チ會社ノ債務ヲ辨濟シテ尙ホ餘リアラハト云フ條件アルモノナリ故ニ殘餘ナキトキハ敢テ義務トナラスト
富井政章君曰ク本條ノ規定ハ頗ル嚴重ニ失ス元來商業上ハ其事業ノ模樣ニヨリ■フルス」ト「ミヌス」トヲ比シ「ミヌス」カ多キ場合アルヘシ然ル一ニ時借方カ僅カニ貸方ニ超過スルカ爲メ直チニ本條ヲ適用スルハ不便ナリ以上ノ場合ハ事業ノ性質等ニヨリ屢々生スルコトアルヘシ故ニ磯部君ノ如ク少シク緩ニスヘシト
梅謙次郞君曰ク本條ノ規定ハ余ハ現行法ニ比シ緩ナリト信ス現行法ニ於テハ支拂ヲ停止スルトキハ好シ其財產ニ餘リアルトモ信用等ヲ失フノ故ヲ以テ破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ得ルナリ是本條ニ比シ嚴ナリト謂ハサルコトヲ得ス又會社ノ資本ハ其事業相應ニ存在スルモノナリ殊ニ株式會社ノ如キ法人ニ至リテハ其財產ハ一定セルヲ以テ其財產カ債務ヨリモ少ナルカ如キ甚シキ場合ニモ尙ホ事業ヲ繼續セシムヘキモノニアラサルヤ疑ヲ容レサル所ナリ一個人ニ於ケル場合ト雖モ此場合ニハ破產宣吿ノ請求ヲ妨ケス況ンヤ堂々タル會社ニ於テヲヤ此ニ於テ磯部四郞君ハ本條削除說ヲ提出シテ曰ク菟ニ角破產法ハ之ヲ特別法ト爲スモ余輩ノ考フル所ハ本條ノ場合ハ斯ク迄嚴重ニセストモ或ハ株主總會ヲ起シテ辨濟ノ方法ヲ講スル場合モ生スヘキヲ以テ兔ニ角此條ノミヲ以テハ滿足スルコトヲ得ス後日破產法制定ノ際是等ニ關シ規定アルヘキヲ以テ本條ハ宜シク削除スヘシト土方君ハ本條ヲ維持セントシテ曰ク本條ノ嚴格ナルヲ患フル者アリト雖モ實際破產宣吿ヲ請求スル迄ニ至ルノ程度ハ不明ナルヲ以テ差程迄ニ患フルニ足ラスト信ス乃チ會社カ貸借對照表ニ比シ債務カ多キ場合ニ於テ回復ノ見込アルトキハ本條ノ明文アルニモ抅ラス取締役ニ於テハ實際破產ノ請求ヲ爲ササルヘシ彌々見込ナキ時ニ至リテ始メテ右ノ請求ヲ爲スニ至ルヘシト
此ニ於テ議長淸浦法相ハ磯部君ノ削除說ニ付キ決ヲ採リシモ少數ニテ消滅シテ本回ハ散會ヲ吿ケタリ