第四十九回商法委員會議事要錄
明治三十年一月十五日午後三時四十五分開議
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
菊池武夫君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
西源四郞君
岡野敬次郞君
第二百二十條 第百二十四條、第百二十六條、第百二十七條、第百三十二條第一項、第百七十條第二項、第三項及ヒ第百八十五條ノ規定ハ日本ニ於ケル外國會社ノ株式ノ發行及ヒ其株式若クハ社債ノ讓渡ニ之ヲ準用ス
(參照)佛千八百八十四年十一月二十九日草九二、九三、千八百九十一年國際法協會決議四
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ニ準用セシ條項ハ種々ノ異ナリタル規定アリテ解釋ニ苦ムヘシ故一ニ應之カ說明ヲ爲サン偖第百二十四條ハ決議案ノ第百二十三條ニシテ印株劵ハ株式會社カ第百二十條ニ於ケル紫字ノ百十八條ニ定メタル設立ノ登記ヲナシタルトキニアラサレハ發行スルコトヲ得ストノ規定ナリ而シテ第二百二十條ニ於ケル主要ナルモノハ日本ノ株式會社ハ紫字ノ百ニ十ニ條ノ登記ヲナスニハ種々ノ手續ヲ要ス例ヘハ總テノ株式ノ引受ヲ必要トスルカ如キ是ナリ而シテ總テノ株式ニ付キ第一回ノ拂込ノ終リシトキナラサルヘカラス外國會社カ株劵ヲ發行スル場合ハ右ノ場合ニ於ケル取締ノ基礎ヲ要スルカ故ニ第百二十條ヲ準用セリ都チ株式會社ノ定款ニ別段ノ定ナキトキハ株式ヲ讓渡スニハ會社ノ承諾ヲ要スヘシ勿論設立ノ登記ヲ爲ス前株式ノ讓渡ハ爲スコトヲ得サルハ當然ナリ第百二十七條ハ紫版ノ百ニ十五條ニ記名株式ノ讓渡ハ讓受人ノ氏名住所ヲ株主名簿ニ記入スルニ非サレハ之ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ醬抗スルコトヲ得ストノ規定ナリ第百三十二條第一項ハ決議案ノ第百三十條ニシテ卽株劵ヲ無記名式ニナスニハ株金ノ全額ノ拂込ヲ了リタル後ニ非サレハ能ハストノ規定ナリ第百七十條第二項(決議案)ハ會社カ資本壇加ヲ爲シ及ヒ新株ヲ發行スル場合ハ卽チ資本ノ增加及ヒ新株ノ拂込ノ登記ヲ爲スニ至ルマテ新株ノ發行ヲ許サストノ規定ナリ第三項ハ前述ノ第百二十四條第二項ニ於ケル規定ニシテ新株ノ場合ニ準用スル條項ナリ第百八十五條ハ黑字ノ第百七十六條ノ規定ナリ記名社債ノ讓渡ハ記名株劵ノ讓渡ト等シク讓受人ノ氏名住所ヲ社債原簿ニ記入スルニ非サレハ之ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ストノ規定ナリ社債ニ付テハ唯此第百七十六條ノミヲ適用スルトアル故本條ニ於テハ社債ノ讓渡ノ場合ヲ揭ケ社債ノ發行ハ故ラニ省ケリト述ラレタリ
穗積八束君ハ本條削除讀ヲ提出シテ曰ク本條ノ意義ハ了解セシモ如何ニスルモ本條ノ規定ハ不用ナリ前回ニ於テ述ヘシ如ク名義ヲ外國會社ニ借リテ實際ノ設立ハ日本ニ於テ爲シ且又其事業ヲ爲シ加之主タル事務所モ日本ニ在リシトキハ名ハ外國會社ナルモ其實ハ日本ノ會社タルヘシ此場合ハ本條ノ規定ナキトキハ我邦ノ法律ニ從ハシムルコトヲ得ヘシ然ルニ本條ノアルトキハ日本ニ設立シ主タル事務所アルニ抅ハラス本條ノ適用アルニ至ラン以上ノ場合ニ付テハ前回ニ於テ既ニ決定セシ如ク外國ノ商事會社ヲ認メ可成外國貿易ヲ爲サンカ爲メ是カ取締ニ付キ設立ヲ緩慢ニシ且其動作ハ檢束スルコトヲ得サルニ至ルヘシ又本條ニ依ルトキハ其會社ハ果シテ其條件ヲ充タスヤ否ヤ又社債ノ如キ之ヲ發行スルニ付キ或ハ其取引ニ付キ頗ル困難ヲ生スヘシ而シテ本條アルカ爲メ外國會社ノ株式ヲ有シ又ハ社債ヲ有スルモノハ安心セサルヘシ以上ノ理由アルヲ以テ本條削除ノ動議ヲ提出スヘシト述ヘラレタリ而シテ右削除說ヲ起立ニ間ヒシニ少數ニテ消滅セリ
長谷川君ハ本條修正說ヲ提出シテ曰ク此規定ニシテ存セラルルナレハ本條ヲ改メ「日本ニ於ケル外國會社ノ株式ノ發行及ヒ其株式若クハ社債ノ讓渡ハ」ト之ヲ第一段ニ置キ第百二十四條第百二十六條云々ヲ準用ストセハ可ナリト述ヘ梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク株式會社ハ其株式ヲ發行スルハ會社カ讓渡スニアラス故ニ此規定ハ起草上頗ル困難ヲ極メタリ而シテ長谷川君ノ說ハ或ハ正當ナリヤモ知レス孰レ整理迄ニ考ヘ置カント約シ他ハ原案ニ可決セリ
第七章 罰則
田部君ノ說明ニ曰ク表題ニ付テハ說明ヲ要セス故ニ唯大體上變更セシ㸃ヲ述ヘン現行商法ハ過料ニ付昆事上ノ制裁ノミナラス刑事上ノ制裁ヲモ加フルコトトセリ然ルニ本案ハ刑法上ノ制裁ハ之ヲ削リ民事上ノ制裁ノミヲ置クコトトセリ是他ノ㸃ハ刑法上ニ讓リタレハナリ而シテ本章ハ現行法ニ比シテ其制裁ヲ重クセリ他ナシ金額ノ多キハ不可ナキヲ以テ嚴ニセリ又現行商法ニ百六十一條ハ之ヲ特別法ニ讓レリ(現行法ハ特別法ニ於テ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科スコトヲ定メタリ)次ニ現行商法第二百六十二條ノ規定ハ設クルノ必要ナシト信ス此儘ナレハ各自ニ於テ出ササルコトトナリテ可ナリト信ス故ニ之ヲ削除セリト述ヘ表題ハ原案ノ儘ニテ可決セラレタリ
第二百二十一條 發起人、會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、外國會社ノ代表者又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上二百圓以下ノ過料ニ處セラル
一 本編ニ定メタル登記ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
二 本編ニ定メタル公吿若クハ通知ヲ怠リ又ハ不正ノ公吿若クハ通知ヲ爲シタルトキ
三 第三十九條ノ規定ニ違反シテ事業ニ著手シタルトキ
四 第百十一條第二項及ヒ第二百三條第二項ノ規定ニ反シ株式申込證ヲ作ラス、之ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
五 第百二十四條又ハ第百七十條第二項ノ規定ニ違反シテ株券ヲ發行シタルトキ
六 株券又ハ債券ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
七 定款、株主名簿、社債原簿、株主總會ノ決議錄、財產目錄、貸借對照表、事業報吿書、損益計算書及ヒ準備金幷ニ利益配當ニ關スル議案ヲ本店若クハ支店ニ備ヘ置カス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
八 第百四十九條ノ規定ニ反シテ株主總會ヲ召集セサルトキ
(參照)舊二五六乃至二五九、二六二、一項二號、二六三、佛千八百六十七年七月二十四日法一三、一五、四五、獨二四九a、二四九b、二四九d、二四九g、同草二八五、二八六、二九一、匈二一八、二一九、二二一、伊二四六乃至二四八、二五〇、羅二六四乃至二六六、二六八、白千八百七十三年五月十八日法一三二
訂正第八號第百四十九條ノ次ニ「第一項」ノ三字ヲ加フ同號末文ノ「召集」ハ「招集」ノ誤ナリ
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ別段說明ヲ要セス元來會社法ノ規定ハ現行法ト異ナル結果トシテ本條ニ其異ル事項ヲ記入スルコトトセリ乍併右制裁ノ輕重ニ關シテハ十分ノ考慮ヲ煩サンコトヲ請フ而シテ一ニノ異ナル㸃ヲ述ヘンニ外國會社ハ現行法ニハ其規定ナキモ前章ニ於テ外國會社ノ規定ヲ設ケタルカ故ニ隨テ罰則ノ規定ニ於テモ其必要ヲ生シ外國人ヲ罰スル規定ヲ設ケタリ他ハ說明ヲ要セスト述ヘ原案ニ可決セリ
第二百二十二條 會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、外國會社ノ代表者監查役又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ十圓以上五百圓以下ノ過料ニ處セラル
一 官廳又ハ株主總會ニ對シ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ
二 第六十七條乃至第六十九條ノ規定ニ違反シテ合併、資本ノ減少又ハ組織ノ變更ヲ爲シタルトキ
三 第百二十八條第一項ノ規定ニ反シ株式ヲ取得シ若クハ質權ノ目的トシテ之ヲ受ケ又ハ同條第二項ノ規定ニ違反シテ之ヲ消却シタルトキ
四 第百三十二條第一項ノ規定ニ違反シテ株券ヲ無記名式ト爲シタルトキ
五 第百七十七條ノ規定ニ反シ準備金ヲ積立テス又ハ第百七十八條ノ規定ニ違反シテ配當ヲ爲シタルトキ
六 第 條ノ場合ニ於テ檢査ヲ妨ケタルトキ
七 第百八十條ノ規定ニ違反シテ社債ヲ募集シタルトキ
八 民法第七十九條ノ期間內ニ或債權者ニ辨濟ヲ爲シ又ハ第 條ノ規定ニ違反シテ會社財產ヲ株主ニ分配シタルトキ
九 第百四十九條第二項又ハ民法第八十一條ノ規定ニ反シ破產宣吿ノ請求ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
(參照)舊二五八、一項一號乃至三號、二六〇、二六二、一項、佛千八百六十七年七月二十四日法一五、四五、獨二四九b、同草二八五、二八六、匈二一八、二一九、伊二四六、二四七、二五〇、羅二六四、二六五、二六八、白千八百七十三年五月十八日法一三三、一三四、同千八百八十六年五月二十二日法
訂正第一項中外國會社ノ代表者ノ下ニ「、」ヲ脫ス第六號末文妨ケタルトキノ下ニ「」」ヲ脫ス
田部君ノ說明ニ曰ク檢査ノ規定ハ現行商法ニナシ然ルニ本案ハ協議上加フルコトトセリ次ニ商修正原案第百七十九條ニ於ケル調査ノ規定ハ財產分配ノ規定中ニ總テナカリシヲ設クルコトトセリ是第百九條ニ該當セル規定ハ前條ニナカリシモ之ヲ設クルコトトセリ第百四十九條第二項ハ其制裁ニ付キ本條第九號ニ該當セリ卽チ淸算人ノ行爲ニ當ルヘシト述ヘラレタリ
穗積八束君ハ本條ニ付キ質問シテ曰ク第一號中株式總會ニ對シ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキハ制裁ニ付キ權衡上前條ハ財產目錄貸借對照表等ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキト比較スルトキハ輕重ナキカ如シ如何且又外國會社ノ代表者タルモノカ不實ノ申立ヲナシ事實ヲ隱蔽シトアルモ外國ノ法律ニ於ケル官廳トナシ或ハ我邦ノ裁判所トナスモノナルカ、如何ナルモノニヤト述ヘ
梅君ノ答辨ニ曰ク其場合ハ町村役場ノ如キモ官廳ト認メタリ乍併重ナル適用ハ裁判所及ヒ農商務省ナラント述ヘタリ
穗積陳重君ハ起草者ニ協議シテ曰ク前條ノ不正ノ記載ヲ爲シタル事項ハ本條ニ列記シテハ如何部ニ號、四號、六號及ヒ七號ニ於ケル不正ノ記載ハ情狀極メテ重キ故ナリト述ヘ梅君ハ直チニ答辨シテ曰ク是レ解釋上監査役カニ百ニ十ニ條ニ付キ其責任アルモ一條ニ纏括スルトキハ其責任ニ輕重ヲ失ヒ却テ不明瞭タルヲ免レスト述ヘラレタリ
富井君ハ質問シテ曰ク前條ト本條トヲ合シテ之ニ五圓以上五百圓以下ノ過料ト改メテハ不可ナリヤト述ヘ梅君ハ之ニ答ヘテ解釋上監査役ハ第二百ニ十二條ニ付キ其責任アルモ一條ニ纏括スルトキハ其責任輕キニ失シ不明瞭ノ㸃ヲ生スヘシト答ヘラレタリ
富井君ハ引續キ修正案ヲ提出シテ曰ク輕重ノ差別判然セサルニモセヨ前條ニ於テモ本條ニ於テモ其制裁ノ範圍極メテ廣キヲ以テ最高額ト最低額ニ付キ裁判官ヲシテ差等ヲ斟酌セシムルヲ至當トス而シテ時トシテハ前條ハ却テ重ク後條ハ輕キコト情狀ヨリ生スルコトアリ故ニ是カ伸縮ヲ自由ニナシ最高額ト最低額ヲ設ケ其不體裁ノ㸃ハ起草者ノ起草一ニ任ストノ修正案ヲ提出スヘシト述ヘ田部君ハ之ヲ駁シテ曰ク本條及ヒ前條ヲ合併ストノ說ハ一應ハ道理アルカ如シ乍併又事情ヨリ推ストキハ其區別ナキニ苦ムヘシ本條ハ重大ノ事項ヲ揭ケ前條ハ稍々輕キ事項ヲ揭ケタリ然ルニ之ヲ一條トナストキハ裁判官ニ依リテ同一ノ條項ニ付キ適用ヲ異ニスルヲ免レス外國ノ立法例ハ本條ニ比スレハ一曆細別シタルモノアリ故ニ同意ヲ表スルヲ得スト述ヘラレタリ
議長ハ以上ノ修正案ヲ採決シテ曰ク富井君ノニ百ニ十一條ニ百ニ十ニ條ヲ合シ一條トナシ五圓以上五百圓以下ノ過料ニ改ムルトノ案ニ贊成者ハ起立アレ
起立者少數
穗積君ノ不正ノ記載ノ事項ヲ本條ニ合設ストノ說ニ贊成者ハ起立アレ
起立者少數
他ハ原案ニ可決セリ
商修正原案
舊第二十條及ヒ第二十一條ヲ改メテ左ノ一條トス
第十九條 商號ノ登記ヲ爲シタル者ハ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ其商號ヲ使用スル者ニ對シテ其使用ヲ止ムルコトヲ得但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
同一ノ市町村內ニ於テ同種ノ營業ノ爲メニ他人カ登記シタル商號ヲ使用スル者ハ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ之ヲ使用スルモノト推定ス但一市ヲ數區ニ分割シタル場合ニ於テハ其各區ニ付キ本條ノ規定ヲ準用ス
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ實ハ此一ケ條ノ說明ヲ以テ之ト牽聯セル條項ハ完了スルコトト信ス嘗テ商法第一編第四章ヲ議スルトキ一旦商號ヲ揭クルコトハ決議セラレシカ印刷ノ第二十條ニ至リテ議論噴出シ實ニ商號ノ存廢ニ關係ヲ及ホス程ニシテ終右修正原案ノ如ク確定セリ畢竟舊案ノ精神カ變ハリシ故原案トシテ議スルコトヲ得サルニ至レリ其爲メ暫ク議論ヲ中止セシモ是一ハ他ノ部分ノ取調ニ多忙ナリシ爲メ此案ヲ提出シ得スシテ今日漸ク議事ニ附スルコトヲ得シナリ畢竟此案ノニ十一條卽舊案ノニ十四條カ可決セラレスシテ議事ニ上ラサリシナリ而シテ本條第一項ハ舊案第二十條ニ修正ヲ加ヘタルノミニ過キサルナリ次ニ本條第二項ハ修正案トシテ加ヘシ規定ナリ若シ此前ニ議決セラレシ第一項ノミニテハ商號ノ存廢ニモ關係シテ既ニ全章ヲ削ルトノ詭モアリシ程ナリ何トナレハ商號ハ他ノ者ヲシテ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ使用スルヲ止ムルトノコトニ過キス斯ノ如クナル以上ハ普通ノ不法行爲ヲ以テモ使用ヲ止ムルコトヲ得ヘシ而シテ既ニ商號ニシテ權利トシテ認メラルル以上ハ明文ヲ要セスト云フモ可ナリ乍併此規定ナキトキハ從來ノ儘トナリ其當時モ說ノ別ルル程ナリシ故議決ヲ重スル㸃ヨリ第一項ヲ置キタリ次ニ第二項ハ此第十九條第一項ニテ解釋セラレシ如ク同一ノ市町村內ニ於テ同種ノ營業ノ爲メニ他人カ登記シタル商號ヲ使用スル者ハ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ之ヲ使用スル者ト推定ストセリ斯ノ如クナレハ商號ニ關スル必要ハ自ラ生スヘシ而シテ商號ノ登記ヲ爲ササルハ可ナルモ同一ノ市町內ニ於テ若シ登記セル商號ノアルトキハ唯不正ノ競爭ノ意思ト推定セラレ單ニ第一項ノミナレハ之カ意思ニ付キ其證明ニ困難ナリ縱令意思ナキモノニモセヨ意思アルモノト推定セラルルコトアルヘシ又反之他ノ小賣商人ニテモ其商號ヲ登記スルトキハ意外ノコトヨリ不正ノ競爭ニアラサルコトハ證明シ得ラルヘシ又戶籍上ノ姓名ヲ用ヰシカ爲メ登記シタル商號ト牴觸スルモ其㸃ハ不正ノ競爭ノ目的ニアラサルコトハ證明シ得ラルヘシ次ニ此範圍ニ付キ尙ホ此一市町村ハ廣キニ失シ此區域ハ實際ニ當ラサルヤトノ譏アルモ其㸃ハ取締上組合ヲ設ケテ本條ノ規定ヲ準用スルコトトナラン而シテ此規定ヲ置クモ東京商業會議所ノ批難ハ免レサルカ如シ如何トナレハ高輪ニテ商號ノ登記ヲ爲シタモノモ不正商號ノ目的ニテ東京ニテ爲セシモノ故此推定ニ入ラサルカ如シ然レトモ第一項ニ包含スルコトトナリ商號上ノ批難ハ免ルルヘシ而シテ如斯鄭重ナレハ一切諸君ノ希望ヲ滿タスコトヲ得ヘシ之ニテ商號ノ保護トナルヘシト信ス以上ノ如クナストキハ自ラ商人カ登記スルコトヽナラン從テ商業上各商人ノ保護ヲ得ルコトトナラン是ニテ缺㸃ナキ規定トナルヘシト述ヘラレタリ
都筑君ハ同一市町村區域ノコトニ付キ質問ヲナシ梅君ハ之ニ答ヘ引續キ都筑君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク此市町村ノコトニ付テハ商號ト共ニ議事ニ付サレンコトヲ請フ元來商號ニ付テハ混雜セル議論ハ十九條ヨリ起レリ而シテ此第十九條ナキトキハ最初ヨリ何等ノ意義ナキ規定トナラン余輩ノ憂フル所ハ、本條第一項ノ議決ニナルトキハ第二項ニ推定ノ加ハルコトトナラン然ルトキハ舊第二十條カ再ヒ復活サレシモノト見ルノ外ナシ
其理由ハ少シク異ルモ第二項削除說ハ提出スヘシ我國ノ町村ノコトハ極メテ硏究スルニ困難ナルモ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ推定ヲ下スト、、、、、、、ノ㸃ニ至リテハ其推定ハ絕鉗的ニ之ヲ禁スルノ必要ナシ元來不正ノ競爭ナルモノハ事實問題ニシテ歸スル所ハ法律上ノ推定トナルヘシ例ヘハ日本橋區ニ於テ大丸ナル商號ニ付キ之ト同一商號ヲ有スルトキハ意地惡シク不正ノ競爭カ成立スヘシ不正ノコトハ競爭ニハ相違ナキモ商賣上ノ懸引ニ付キ商號ヲ有スルハ困難トナルヘシ然ルトキハ舊案ノニ十條ト同一ノ結果ヲ生スルコトヽナラン故ニ右一項ハ不完全ナリトノコトヨリニ項ヲ加フルコトハ同意ヲ表スルヲ得ス、商號ヲ保護スルハ不正ノ競爭ノ外ニ出テス商號ヲ專用スルハ不正ノ競爭ノ外ニ出テス商號ヲ專用スルハ不正ノ競爭以外ニ出テス商業ノ利益ヲ專ラトスル東京ノ如キ得意先キヲ多ク有スヘシ加之町村ト町村トノ關係ノ如キ人ロノ少ナキニモ抅ラス町村內ノ商號ノ使用者ハ爲メニ不正ノ競爭トナルヘシ故ニ利益ヲ害セラルル不正ノ競爭トナシ市町村ニ本條ノ適用ナキ樣修正セラレンコトヲ望ム若シ又不幸ニシテニ項ノ成立セハ舊案第二十條ニ復活スルコトヲ請フト述ヘラレタリ
梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク同一ノ商號ニテ有スルモ不正ノ競爭ノ目的ニアラサレハ差支ナシ區域ニ付テハ一市町村內ハ同題ナリトノコトナルモ他ニ適當ノ標準ナキ故此㸃ハ舊商法ヲ改メサリシナリ東京ヲ以テ同一區域ナリトノコトハ都筑君ノ說ニテハ不可ナリトノコトナルモ一區域內ニ於テハ其適用アルヲ可トス多少ノ修正アル妨ナシト雖モ前決議ヲ覆ストノコトハ不可ナリ何トナレハ商號ノ存否ニ付テハ既ニ豫決問題ヲ以テ定レリ本條第一項ヲ議スルニ當リ前三條ヲ議スルトキモ同論ノ出テシ故舊案ニ復スルノ必要ナシト述ヘ次ニ長谷川君ハ本條但書ヲ批難シテ曰ク舊商法ニテ商號ハ從前ノ營業ヲ變セサルモノニ限リ一地域內ニ於テ同一ナルモ妨ケナシトアリテ不正ノ競爭ノ目的ニアラストナルヲ以テ斯カル場合ハ不正ノ競爭ノ目的ニアラストナリ若シ本條ヲ存スレハ但書ノ文字ハ不明トナルヘシト述ヘ梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク從來ノ稱號ニ付テハ原案提出ノ際施行條例ニ書カントノ計劃ナリシカ終ニ此處ニ置クコトトセリ而シテ若シ本條ノ但書カ不穩當ナリトセハ宜シク御敬示ヲ請フト述ヘラレタリ
都筑君ハ再ヒ前說ヲ主張シ且曰ク本條ハ町村ノ區ニ適用シタルモ土地ノ境界ハ昔時ノ大字ヲ以テ適當ナリト信ス合併セル町村ヲ區域ト爲スハ不可ナリ若シ其ニ付キ區域ヲ要スルナレハ從來ノ習慣上大字ヲ標準トセサルヘカラスト述ヘ其例證ヲ擧ケラレタリ梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク市町村ハ公ケ一ニ區域トシテ認メラレタリ而モ其他ニ標準ナキ爲メ如斯セリト述ヘラレタリ
穗積八束君ハ曰ク商號ハ商名ヲ附スルコト極メテ多シ然ル不正ノ競爭ナリトノ推定ヲ以テ其使用ヲ差止ルハ甚タ不都合ナリ例ヘハ穗積某トノ姓アリシトキ同姓名ヲ使用シタリトノコトニテ其商號ヲ差留ルハ甚タ不都合ナリト批難セラレタリ梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク苟モ商號ヲ使用スルハ商號トシテ使用セシ場合ナリ民法上ニ氏名ノ權利ニ特別ノ規定ナシ乍併其權利ハ民法ニナキモ若シ此㸃ニ關シ權利ヲ犯スモノアルトキハ損害賠償ハ請求スルコトヲ得ヘシ而シテ氏名ニ付テハ特別ノ規定ヲ設ケラルルコトヲ望ムモノナリト述ヘラレタリ其他穗積陳重君三浦君等ノ討論アリシモ孰レモ修正案ノ贊否ニ付キ討議ヲ盡セシニ外ナラス而シテ本條ニ付議長ハ未タ討論ノ盡キサルモノト認メ本條ハ未決トシテ吹冖回マテ延期セラレタリ
午後七時閉會