第四十五回商法委員會議事要錄
明治二十九年十二月十八日午後四時開議
出席員
淸浦奎吾君
田部芳君
穗積八束君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
長谷川喬君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第百八十五條 淸算人ハ何時ニテモ株主總會ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得
重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ監查役又ハ資本ノ十分ノ一ニ當タル株主ノ請求ニ因リ淸算人ヲ解任スルコトヲ得
(參照)八四、舊二四〇、民七六、獨二四四、四項、同草二六八、三項、匈二〇三、二項、瑞六六六、三項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ニ付テハ別段深ク說明スルノ必要ナキヲ以テ唯簡單ニ述ンニ此第一項ノ規定ヲ設ケタル理由ハ元來取締役ハ株式會社ノ最高機關タル株主總會ニ於テ選任又ハ解任スルノ權ヲ有スルヲ以テ夫レト等シク此淸算人ヲ解任スルノ權ヲ株主總會ニ與ヘタルニ外ナラス是蓋シ取締役カ株式會社解散前ニ有セシ權利ト淸算人のカ其會社ノ解散後ニ有スル權利ト其廣狹ノ差ナキヲ以テ取締役ヲ解任スルノ權ヲ株主總會ニ與ヘタル以上ハ淸算人ヲ解任スルノ權ヲモ等トシク株主總會ニ與フルコト理ニ於テ不可ナルコトナケレハナリ次ニ第二項ノ規定ハ現行法第二百四十條ニ適用シタル第百三十一條ノ規定中「且」以下ヲ採用シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行法ニハ「裁判所ノ命令ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ解任スルユトヲ得ス」トアリ然トモ此株式會社ナル淸算人ハ監査役ヲシテ監督セシムルトキハ頗ル便利ナルト又一ツハ少數株主卽チ資本ノ十分ノ一ニ當タル株主ニ請求權ヲ與フルコトハ至當ナルヲ以テ是等ノ者ニ請求權ヲ與ヘ其請求ニ因リ裁判所カ解任ヲ爲スノ主義ニ改メタリト
穗積陳重君ハ本條第一項ノ規定ト前ノ第百八十一條及ヒ第百八十二條トノ關係ヨリ右第一項ノ規定シテ曰ク前ノ第百八十一條ノ規定ニ因レハ普通ノ場合ハ取締役カ當然淸算人ト爲リ定款ニ別段ノ定アルトキハ株主總會ニ於テ他人ヲ選任シタルトキトヲ以テ例外トセリ而シ次ノ第百八十二條ノ規定ニ因ルトキハ前條ノ規定ニ依リ淸算人タル者ナキトキハ裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任ストアリテ以上ノニ箇條ニ因リ考フルトキハ淸算人ノ選人ヲ爲スハ株主總會ヲ除キ他ニ種々ノ場合アリ然ルニ本條ノ一項ニテハ右等ノ如キ場合アルニ抅ハラス總テ株主總會ノ決議ヲ以テ淸算人ノ解任ヲ爲スコトヲ許スヲ以テ或場合ハ裁判所カ選任シタル淸算人ヲ株主總會ニ於テ解任スル結果ヲ生シ不都合ナルヘシト
右ニ對シ岡野君辯シテ曰ク外國ニハ株主總會ニ於テ選任シタル淸算人ハ其株主總會ニ於テ解任シ又裁判所カ選任シタル淸算人ハ其裁判所カ解任ヲ爲ストノ主義ヲ綵レルモノアレトモ本案ハ其選任シタルモノノ何タルヲ問ハス株主總會ニ於テ解任スルコトヲ得ヘキモノトセリ、尤モ第二項ノ場合ハ重要ナル事由トノ條件アル場合故一項トハ區別アリト
梅君又辯シテ曰ク余輩ハ此案ノ主意ヲ以テ至當ナリト考フ若シ他ニ最良ノ案アラハ提出セラレタシト
穗積八束君ハ第二項ニ付キ文字ノ修正ヲ提出シテ曰ク玆ニ「資本ノ十分ノ一ニ當ル」云々トアルハ資本ノ十分ノ一以上ノ意ナリト考フ若シ然ラハ「以上」ノ二字ヲ加ヘサレハ必ス十分ノ一ニ限ル樣見ヘ穩カナラスト
岡野君答ヘテ曰ク固ヨリ十分ノ一以上トノ主意ナルヲ以テ「以上」ノ二字ヲ加フルコトニ贊成セント
本條ハ第二項ニ「資本ノ十分ノ一ニ當ル」トアルヲ「資本ノ十分ノ一以上ニ當ル」ト修正スルコトニ可決シ他ハ原案ニ確定シテ次條ニ移レリ
第百八十六條 殘餘財產ハ各株主カ拂込ミタル株金額ニ應シテ之ヲ分配スルコトヲ要ス但會社カ優先株ヲ發行シタル場合ニ於テ之ニ異ナリタル定アリタルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊二四九、一項、民六八八、二項、獨二四五、一項、同草二七三、匈二〇四、瑞六六七、一項、葡一三八、白千八百七十三年五月十八日法一一八
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百四十九條ノ精神ト同一ナリ併シ規定ノ上ニ於テ現行法ニハ「殘餘ノ財產ヲ各株主ニ其所有株數ニ應シ金錢ヲ以テ平等ニ分配ス」トアレトモ本案ハ少シク之ヲ改メタリ何トナレハ各株カ全額ノ拂込ヲ爲シタルトキハ通常其株數ニ應シテ現行法ノ如ク平等ニ分配スルハ敢テ差支ナシト雖モ凡ソ會社カ解散ヲ爲ス場合ノ如キハ實際各株主カ未拂額ノ拂込ヲ爲サステハ淸算ノ出來サルコト往々之レアリ是等ノ場合ニ於テハ甲株主ヨリカ乙株主カ割合ニ多クノ拂込ヲ爲スカ如キ場合ナキニアラス故ニ本案ノ如ク「各株主力拂込タル株金額ニ應シテ之ヲ分配スルコトヲ要ス」トスルノ優レルニ如カサレハナリ斯カル理由アルニ抅ハラス尙ホ現行法ノ如クセンカ其公平ヲ缺クノ譏アルヤ言ヲ俟タサルヘシ次ニ本條但書ニ於テ優先株ヲ發行シ且ツ本文ノ規定ニ異ナリタル定メアル場合ヲ例外トセシ所以ハ此優先株主ナルモノハ場合ニヨリテハ利益ノ配當ヲ他ノ株主ヨリ先キニ取ルトカ又ハ利益ノ割合ヲ多ク取ルトカ或ハ又優先株ノ種類ニ因リテハ利益ハ他ノ株主ト同樣ナルモ殘餘財產ノ分配ヲ多ク取ルトカ若クハ利益及ヒ殘餘財產ノ分配ノ何レヲモ他ノ株主ヨリ多ク取ルトカノ如キ定メアルヲ以テ是等別段ノ條件ヲ附シアルトキヲ以テ例外トセシモノナリト
長谷川君曰ク現行法ニハ金錢ヲ以テ平等ニ分配ストアリ然ルニ本條ニハ是等ノ文字ナキカ物ノ分配ヲモ許スカ不然現行法ノ如ク法文ニ明示スル方可ナルヘシト
岡野君答ヘテ曰ク本案ニ於テ殊更金錢ノ分配ト記載セサリシ所以ハ金錢ナラテハ分配ノ出來サルコトハ法文ニ明示セサルモ疑ナシト信シタレハナリト
富井君曰ク余ハ此場合ニハ物アルトモ金錢ニ換算シテ分配スルノ精神ト解シ居レリ果シテ如何ト
岡野君答ヘテ曰ク全ク然リト
本條ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第百八十七條 淸算人ノ任務カ終了シタルトキハ淸算人ハ遲滯ナク決算報吿書ヲ作リ監查役ノ意見書ト共ニ之ヲ株主總會ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要ス
第百二十九條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)八六、舊二四八、二五〇、伊二一五、二一六、羅二一七、二一八、葡一四〇、一四一、白千八百七十三年五月十八日法一二一、一項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百四十八條ト第二百五十條トノ內ニ於テ主トシテ第二百五十條ニ該當スル規定ナリ而シテ本案ノ主意ハ合名會社ニ關スル本案第八十六條ノ規定ト略ホ同一ナリ唯異ナルトコロハ右第八十六條ニハ「淸算人ノ任務力終了シタルトキハ淸算人ハ遲滯ナク決算報吿書ヲ作リ各社員ノ承認ヲ求ムルコトヲ要ス」トアリ是蓋シ合名會社ナルモノハ社員互ニ信用ヲ置キ且ツ連滯ノモノ故淸算人カ各社員ノ承認ヲ求ムルコトヲ要スルハ勿論ナリト雖モ株式會社ナルモノハ株主總會カ最高機關ナルヲ以テ總テ其議決權ヲ以テ定ムルモノナレハ本條ノ如キ場合ニ於テモ亦株主總會ノ承認ヲ必要事項トスルハ固ヨリ株式會社ノ性質上至當ノコトナレハナリ次ニ本條第二項ニ於テ第百二十九條第二項ノ規定ヲ前項ノ場合ニ準用ストシタル所以ハ右第百二十九條第二項ハ檢査役ヲ選任スル規定ナルヲ以テ玆ニ其規定ヲ準用スルトキハ卽チ株主總會ニ於テ淸算ノ提出シタル報吿書ニ付キ檢スヘキ必要アルトキニ當リ頗ル便利ナレハナリト
本條ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第百八十八條 會社ノ帳簿及ヒ淸算ニ關スル一切ノ書類ハ淸算結了ノ登記後十年間之ヲ保存スルコトヲ要ス但其保存者ハ淸算人其他ノ利害關係人ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ選任ス
(參照)八七、舊二五四、獨二四六、匈二〇七、瑞六六八、伊二一八、羅二二〇、葡一四二、一四三
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百五十四條ニ該當スル規定ナリ而シテ此主義ハ既ニ議決シタル第八十七條卽チ合名會社ニ關スル規定ト全ク同一ナリ唯右ノ第八十七條ニハ本條ノ如ク「淸算結了ノ登記後」ナル文字之レナキモ是全ク同條ヲ議スル際ニハ淸算結了ニ關スル登記ノ規定ナカリシニ其後新一ニ箇條ヲ設ケタル結果ニ外ナラス故ニ右ノ第八十七條ハ他日本條ノ如ク淸算結了ノ登記後ナル文字ヲ加フルノ修正案ヲ提出スル考ヘナリ又本條ノ但書ハ裁判所ヨリ選任スル主義ニシテ現行法ヲ改メタルハ現行法ノ主義ヨリ寧ロ本案ノ如クスル方可ナリト信シタレハナリト
長谷川君ハ但書ヲ修正シ現行法ノ如クスルノ至當ナルヲ論シテ曰ク本案ニハ只今起草委員ヨリ述ヘラレタルカ如ク淸算人其他ノ利害關係人ノ請求ニ依リ裁判所カ保存者ヲ選任スルノ主義ナレトモ從來斯カル事ヲ裁判ニ於テ爲スコトハ避ケ居ルコトナレハ寧ロ現行法ノ如ク總會ノ決議ヲ以テ委任スルノ主義ニ改メラレタシ殊ニ保存者ニハ報酬ヲ爲スヘキモノト考フルヲ以テ尙更現行法ノ主義ヲ可ナリト信スト
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク余輩カ現行法ヲ改メ本案ノ如キ主義ヲ採リタル所以ハ凡ソ此會社ノ帳簿及ヒ淸算ニ關スル一切ノ書類ノ如キハ株主ノ爲メニノミ保存スルノ必要アルニアラスシテ其他一般ノ者ノ爲メニモ保存スルノ必要アリト思フ然ルニ現行法ノ如ク株主總會ノ決議ヲ以テ委任スルカ如キハ聊力穩カナラサルヲ以テ寧ロ本案ノ如ク利害關係人ニ請求ヲ爲スヲ得セシメ而シテ其請求ニ因リ裁判所ヨリ選任スルノ至當タルヲ信スレハナリト
岡野君モ亦辯シテ曰ク余ハ此事ニ關シテハ極メテ重キヲ置クニ非サレトモ尙ホ現行法ニ比スレハ本案ノ主義ヲ以テ優レリト信ス固ヨリ此等ノ帳簿及ヒ書類等ハ淸算人ニ於テ保存スルノ責任アリト云ヘトモ既ニ悉皆ノ淸算ヲ決了シタル以上ハ其結了ト共ニ株主總會ヲモ開クコトヲ得ス何トナレハ會社モ共ニ終了スレハナリ故ニ此論理ヨリ考フルモ裁判所ノ選任トスル方至當ナリト
長谷川君ハ岡野君ノ答辯ニ付キ更ニ反駁シテ曰ク若シ淸算決了シタル上ハ株主總會ヲ開クコト能ハサルモノトセハ何故合名會社ニ付テハ第八十七條ニ於テ淸算決了後ト雖モ社員ノ決議ヲ許スカ余ハ兎モ角裁判所ノ立入ルコトヲ避ケタキ希望ヲ有スルヲ以テ此主義ニ改ムルノ修正說ヲ提出スト蓋シ井上君ハ長谷川君ニ贊成セラレタリ
梅君亦辯シテ曰ク長谷川君ハ合名會社ノ規定第八十七條ヲ引證シテ論難セラレタリト雖モ合名會社ノ社員ハ畢竟社員ト云フ位置ヨリシテ淸算結了後ニ決議スルモ差支ナシト雖モ株式會社ニ於ケル株主總會ナルモノハ固ト株式會社ノ機關ナルヲ以テ其會社ノ終了スルト共ニ終了セサル可ラサルモノナレハナリ要スルニ株式會社ハ淸算ノ終了迄ハ存在スルモノナレトモ其終了ト同時ニ其會社モ亦終了スルモノナレハ株主總會ヲ開クコト能ハサルハ勿論ナリ此理ニ因リ長谷川君ノ攻擊ニハ服スル能ハスト
岡野君又辯シテ曰ク假リニ長谷川君カ主張セラレタルカ如クスルモ若シ株主總會ニ於テ保存者ヲ選任セサルトキハ如何トモ爲ス能ハサルヘシト
長谷川君答ヘテ曰ク冤モ角合名會社ノ規定ト同一ニスル考ヘナリト右長谷川君ノ修正說ニ付キ
採決 贊成者少數
本案ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第百八十九條 第七十三條、第七十七條、第七十九條乃至第八十二條、第八十五條、第八十七條(新)、第百三十條、第百三十一條、第百四十四條(新)及ヒ民法第七十九條乃至第八十一條ノ規定ハ株式會社ノ淸算ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)舊二三一、二三四、二四〇、二四一、二四三乃至二四七、二五一乃至二五三、獨二二三、二四三、二四四、三項、二四四a一項、二項、二四五、同草二六六、二六九乃至二七一、二七四、二七五、一項、匈二〇四乃至二〇六、瑞六六五、六六七、伊一九八、三項、二〇一、二〇三乃至二〇七、西二二八、二三一、二三三、二三八、羅二〇〇、三項、二〇三、二〇五乃至二〇九、葡一三四、一三七、一四四、白千八百七十三年五月十八日法一一一、一一四乃至一一七、一一九、一二一、二項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ殆ト各條ニ付キ本節ノ初メノ標題ヲ說明シタル際ニ述ヘタルコト故玆ニハ說明ヲ省略スト
本條ハ原案ニ可決シ第五章ニ移レリ
第五章 株式合資會社
田部君ノ說明ニ曰ク此株式合資會社ヲ本法中ニ認ムヘキヤ否ヤニ付テハ既ニ豫決問題ニ於テ確定セシコト故此規定ヲ玆ニ提出セシ所以ナリ然ルニ其當時述ヘタル如ク此種ノ會社ヲ認ムヘキヤ否ヤハ各地ノ商業會議所ニモ諮問シタルニ何レモ認ムルノ必要アリト答ヘタリ次ニ此會社ニ關スル規定ヲ設クルニ當リ何レノ場所ヲ以テ適當ナリトスルカハ余輩ノ頗ル考案シタルトコロナルカ要スルニ是非共株式會社ノ規定ヲ準用セサルヘカラサルモノ故第五章トシテ株式會社ノ次ニ排置スルコトニ決定セリト
本章ノ標題ニ付テハ富井君ノ質問ニ對シ起草委員ノ答辨アリタルニ止リ原案ノ儘可決シ次條ニ移レリ
第百九十九條 株式合資會社ハ無限責任社員ト株主トヲ以テ之ヲ組織ス
(參照)獨一七三、同草二九二、一項、瑞六七六、一號、二號、伊一一五、一一七、羅一一五、一一七、葡一九九、白千八百七十三年五月十八日法七四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ合資會社ノ初ノ條ニ相當スル規定ニシテ此株式合資會社ノ性質ハ此條ニ於テ確定セルモノナリ通常ノ合資會社ハ有限責任社員ト無限責任社員トヲ以テ組織スルモノナレトモ此株式合資會社ハ有限責任社員タル者ハ必ス株主タルコトヲ要スルヲ以テ此㸃カ合資會社ト異ナル性質ナリト
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百條 左ノ事項ニ付テハ合資會社ニ關スル規定ヲ準用ス
一 無限責任社員相互間ノ關係
二 無限責任社員ト株主及ヒ第三者トノ關係
三 無限責任社員ノ退社
右ノ外株式合資會社ニハ本章ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外株式會社ニ關スル規定ヲ準用ス
(參照)獨草二九二、二項、三項、瑞六七六、葡二〇一、白千八百七十三年五月十八日法七六
田部君ノ說明ニ曰ク本條ニ於テハ合資會社ノ規定中ニ於テ株式合資會社ニ準用スヘキ大體ヲ定メタリ卽チ本條第一號乃至第三號ニ揭ケタル事項ノ如キハ合資會社ノ規定ト區別ヲ設クヘキ必要ナケレハナリ尤モ合資會社ノ規定ヲ其儘適用スルコトハ出來サル故準用トシタリ畢竟別ニ重復シテ規定スルノ必要ナケレハナリト
長谷川君曰ク本條第一號ニ「無限責任社員相互間ノ關係」トアルカ是ハ合資會社ノ何條ヲ準用スルヤ余ノ考ヘニテハ合資會社ノ規定ヲ準用スルニアラスシテ其實ハ合名會社ノ規定ヲ準用スルモノト考フ果シテ然レハ寧ロ合名會社ノ規定ヲ準用スト修正セラレタシト
右ニ付キ田部君辯シテ曰ク實ハ玆ニ合資會社ノ規定ヲ準用スト之レアレトモ一ツ跨リテ合名會社ノ規定ヲ準用スルコトトナル然リト雖モ畢竟此株式合資會社ハ其性質カ合資會社ニ近キモノ故原案ノ燼ニテ可ナルヘシト
梅君モ亦辨シテ曰ク本條第一號ハ無限責任社員相互ノ關係ナルカ合資會社ノ規定ナル第九十四條及ヒ第九十九條カ當テ嵌マル考ヘナリ加之ナラス是迄民法ト商法トノ主義ニ於テ一部ノ規定ハ當リ一部ノ規定ハ當ラサルトキハ準用スルトセシ例多シ本條モ亦其主義ニ依リタルモノナリ而シテ斯ノ如ク合資會社ノ規定ヲ準用スルトキハ其結果合名會社及ヒ民法組合ノ規定ヲモ當テ嵌ルコトニナルヘシ次ニ第二號ノ規定ハ合名會社ノ規定ニハ當ラサレトモ合資會社ノ規定ニハ當ル考ヘナリ是等ノ理由ヨリ本條ヲ設ケタリト
本條ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第二百一條 無限責任社員ハ發起人タルコトヲ要ス
(參照)獨草二九三
田部君ノ說明ニ曰ク此株式合資會社設立ノ方法ニ付テハ其主義ニツアリ一ツハ發起人カ總テ株式ヲ引受ケ之ニ因リテ會社カ直チニ成立シ他ニ株金ノ募集ヲ爲ササルコトヲ許スモノト又他ノ一ツハ發起人カ株金ヲ他ニ募集セサルヘカラサルモノト是ナリ然ルニ本案ハ後ノ主義ヲ採用シタリ何トナレハ無限責任社員カ此株式合資會社ノ基礎トナルヘキ者ニシテ此者ハ法律上發起人ト爲ラサルヘカラサル者ナレハナリ故ニ本條ハ無限責任社員ハ發起タル者ヲ明定セリト
富井君ハ修正ノ意見ヲ述ヘテ曰ク余ハ無限責任社員ノ發起人トナルニハ同意ナルカ併シ發起人ニハ有限責任社員モ亦爲リ得ルコトヲ許シタシ故ニ原文ヲ無限責任社員ハ發起人ト爲ルコトヲ要ストノ意味ニセラレンコトヲ希望スト
岡野君辨シテ曰ク株式會社ノ規定中ニ發起人ハ七人以上タルコトヲ要ストノ法文アリ其法文カ玆ニ當テ嵌マルト思フ然ルトキハ此發起人ノ中ニハ少クトモ無限責任社員ハ一人以上アルコトヲ要ストノ意ナリ
梅君亦答ヘテ曰ク本條ノ法文ハ官田井君ヨリノ批難モアリタルコ誤故法文ヲ改メ「發起人ト爲ルコトヲ要ス」トセハ可ナラント
長谷川君ハ起草者ニ本條ノ意味ヲ確メテ曰ク本條ハ法文ノ簡單ナルカ爲メ解釋上困難アリ付テハ之ハ無限責任社員ハ發起人タラサルヘカラス發起人以外ニハ無限責任社員ナシトノ意ナルカト
梅君曰ク然リ
長谷川君曰ク然ラハ後ニ株主ヲ募集スルトキニ無限責任社員ノ募集ハ出來サルヘシト
梅君答ヘテ曰ク定款變更ニアラサレハ固ヨリ出來スト
長谷川君曰ク然ラハ本條ハ無限責任社員ハ發起人タルコトヲ要ス又發起人ニハ他ノ者モ爲レルトノ意味ナルヤト
梅君答ヘテ曰ク然リト
富井君曰ク「發起人ト爲ルコトヲ要ス」ト修正スルトキハ前ニ人カアリテ後ニ發起人カ出テルカ如ク見ヘ文章上何分穩カナラス他ニ明文ナキカト
梅君答ヘテ曰ク文章上ハ其外ニハ致方ナカルヘシト
本條ハ文章ヲ「發起人ト爲ルコトヲ要ス」ト修正シ他ハ原案ノ儘可決シテ次條ニ移レリ
第二百二條 發起人ハ定款ヲ作リ之ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 第百六條第一號乃至第四號及ヒ第六號乃至第八號ニ揭ケタル事項
二 無限責任社員ノ氏名
三 無限責任社員ノ株金以外ノ出資ノ種類及ヒ價格又ハ評價ノ標準
(參照)獨一七五乃至一七五b、同草二九四、伊八九、羅九〇
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ株式合資會社ノ定款ニ記載スヘキ事項ヲ定メタルモノナリ而シテ第一號ニ第百六條トアルハ株式會社ノ定款ニ記載スヘキ事項ヲ規定シタル印刷ノ第百四條ノ謂ナリ該條第一號ニハ目的第二號ニハ商號第三號ニハ資本ノ總額第四號ニハ株式ノ總數及ヒ一株ノ金額第六號ニハ營業地第七號ニハ會社カ公吿ヲ爲ス方法第八號ニハ發起人ノ氏名、住所トアリテ是等ノ各事項ハ本條第一號ニ於テ適用ヲ認メタリ唯第五號ニ取締役カ爲スヘキ株式ノ數トアルハ玆ニ適用セス何トナレハ此株式合資會社ニハ取締役ヲ設ケサレハナリ次ニ本條第二號及ヒ第三號ハ合資會社ノ規定ト同一ノ精神ニテ唯第三號ニ揭ケタル株金以外以下ノ規定ハ合名會社ノトコロニ規定セシ文例ニ倣ヒタリト
本條ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第二百三條 發起人ハ株主ヲ募集スルコトヲ要ス
株式申込證ニハ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 第百七條、第百十一條第二項第一號、第三號乃至第五號及ヒ前條ニ揭ケタル事項
二 無限責任社員カ株式ヲ引受ケタルトキハ其各自カ引受ケタル株式ノ數
(參照)獨一七五c、同草二九五、一項、伊一二九、一三〇、羅一三〇、一三一
田部君ノ說明ニ曰ク本條第一項ハ前ニ說明シタル如ク本條ニ於テハ發起人カ總テノ株式ヲ引受ルト云フ主義ヲ採ラサル故之ヲ設ケタリ又第二項ハ株式會社ノ規定ト同ク株主ヲ募集スル爲メ株式申込書ヲ作ルニ付キ必要事項ナルヲ以テ設ケタリト
穗積陳重君曰ク本條第一號ニ於テ引用シタル第百十一條第三號ニハ「各發起人力引受ケタル株式ノ數」トアリ然レハ本條第二號ノ規定ハ不用ナルヘシト
長谷川君モ亦曰ク第一號ニ引用シタル第百十一條第三號ノ文章ヲ詳細ニ規定セハ本條ノ第二號ハ不用ナルヘシト
右ニ對シ岡野君辨シテ曰ク第百十一條第三號ニハ「各發起人ノ引受ケタル株式ノ數」トアリテ之ハ發起人タル者ハ是非株式ヲ引受ケサル可ラサルコトトナリテ不都合ナリ然レトモ兎モ角整理迄ニ考ヘ置カント
第二百四條 創立總會ニ於テハ監査役ヲ選任スルコトヲ要ス
無限責任社員ハ監查役ト爲ルコトヲ得ス
(參照)佛千八百六十七年七月二十四日法五、二項、獨一七五e二項、同草二九九、四項、瑞六七六、五號、伊一三四、二項五號、羅一三五、二項五號
田部君ノ說明ニ曰ク株式會社ニ關スル第百十三條ニハ創立總會ハ取締役ト監査役トヲ選スルコトヲ要ストアリ然ルニ此株式合資會社ハ取締役ノ必要ナキヲ以テ監査役ノミヲ選任スヘキモノトセリ斯ノ如クスルトキハ取締役ノ爲スヘキ事ハ無限責任社員カ爲スヲ以テ差支ナケレハナリ次ニ第二項ハ說明ヲ要セスト
本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百五條 無限責任社員ハ創立總會ニ出席シテ其意見ヲ述フルコトヲ得但株式ヲ引受ケタルトキト雖モ議決ノ數ニ加ハルコトヲ得ス
無限責任社員カ引受ケタル株式其他ノ出資ハ議決權ニ關シテハ之ヲ算入セス
前二項ノ規定ハ株主總會ニ之ヲ準用ス
(參照)獨一九〇、四項、同草二九五、三項、二九八、一項
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ別ニ詳細ノ說明ヲ要セス唯要スルニ無限責任社員ハ實際株主ト利害ノ㸃ニ於テ反對スルヲ以テ創立總會及ヒ株主總會ニ於テハ議決ノ數ニ加フルコトヲ得サルモノトシテ株主ト區別ヲ設ケタリト
穗積陳重君曰ク本條ニ付テハ起草者ノ說明極メテ簡短ニシテ唯無限責任社員ハ株主ト利害相反スル故云々トノ事ナルカ乍併出資ニ於テハ利害相反スルトモ定款ニ於テ少シク議決權ヲ與フルコトヲ許ス方穩當ナルヘシト
右ニ對シ田部君辨シテ曰ク今此株式合資會社ノ創立ノ場合ニ付キ考フルニ株式會社ナレハ解任ノ出來ル場合ニテモ此場合ハ解任カ出來得サルヲ以テ無限責任社員ニ付テハ少シク嚴ナル規定ヲ設ル方可ナリト
本條ハ原案ニ可決シテ次條ニ移レリ
第二百六條 監查役ハ第百十六條第一項ニ揭ケタル事項ヲ調査シ之ヲ創立總會ニ報吿スルコトヲ要ス
(參照)佛千八百六十七年七月二十四日法六、獨一七五e三項、四項
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ株式會社ノ第百十四條ニ該當ス而シテ大體ハ右ノ場合ト同ク唯異ナルトコロハ此株式合資會社ハ取締役ノ設ケナキヲ以テ單ニ監査役トセシニ過キス尤モ如斯規定シタル結果トシテ此ニハ無限責任社員ヲ除キタルハ勿論ナリト
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第二百七條 會社ハ創立總會終結ノ日ヨリ二週間內ニ其本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ左ノ事項ヲ登記スルコトヲ要ス
一 第百二十條第一項第一號乃至第五號ニ揭ケタル事項
二 無限責任社員ノ氏名、住所
三 無限責任社員ノ出資ノ種類及ヒ金錢其他ノ財產ヲ目的トスル出資ノ價格
四 會社ヲ代表スヘキ無限責任社員ヲ定メタルトキハ其氏名
五 監查役ノ氏名、住所
(參照)佛千八百六十七年七月二十四日法五五乃至六一、獨一七六、一七九、一八〇b、同草二九五、二項乃至四項、伊九一、九二、羅九二、九三、葡四九、一項五號
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ株式會社ニ關スル規定卽チ印刷ノ第百十六條ニ該當スル規定ナリ唯右ノ規定ト聊力異ナル所ハ株式會社ニ於テハ發起人カ株式ノ總數ヲ引受クルコトヲ得ルヲ以テ是ニ關スル規定アレトモ此株式合資會社ニハ之ヲ認メサル故從テ其規定ヲ設ケサリシニ過キス而シテ本條第一號ハ右第百十六條ノ第一號及ヒ五號ニ該當ス尤モ株式會社ニハ無限責任社員ヲ認メサルモ此會社ニハ之ヲ認メタル故第二號ト第三號ノ規定ヲ設ケタリ又第四號ノ規定ヲ設ケタル理由ハ默スルトキハ無限責任社員全體カ會社ヲ代用スルコトトナル故特ニ定メアル場合ヲ認メタリ第五號ハ株式會社ノ規定ト比シテ唯取締役ヲ除キタル迄ナリト
本條ハ原案ニ可決シ定刻ノ來レル爲メ散會ヲ吿ケタリ
于時午後七時