第四十四回商法委員會議事要錄
明治二十九年十二月十一日午後四時開議
出席員
淸浦奎吾君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
奧田義人君
橫田國臣君
井上正一君
都筑馨六君
梅謙次郞君
穗積陳重君
富井政章君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第百八十一條 會社カ解散シタルトキハ合併及ヒ破產ノ場合ヲ除ク外取締役其淸算人ト爲ル但定款ニ別段ノ定アルトキ又ハ株主總會ニ於テ他人ヲ選任シタルトキハ此限ニ在ラス
(參照)七四、七五、舊二三二、二項、民七四、蘭五六、一項、獨二四四、一項、同草二六八、一項、匈二〇三、一項、瑞六六六、一項、伊二一〇、羅二一二、葡一三一、一項、二項、白千八百七十三年五月十八日法一一二、一一三
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百三十二條第二項ニ該當スル規定ナリ現行法ノ採レル主義ハ淸算人ハ必ス株主總會ニ於テ之ヲ選定スヘキモノトシ而シテ其淸算人ノ數ハ一人又ハ數人ヲ選定スヘキモノトセリ然ルニ本案ハ右ノ主義ヲ改メテ普通ノ場合ハ當然取締役カ淸算人ト爲ルヘキモノトシ唯定款ニ別段ノ定アルトキ又ハ株主總 會ニ於テ他人ヲ選任シタルトキヲ以テ例外トセリ蓋シ此主義タルヤ全ク民法第七十四條ノ規定ニ倣ヒタルモノニシテ余輩ハ此㸃ニ付キ民法及ヒ商法ノ間ニ區別ヲ設クヘキ理由ヲ發見セス殊ニ又余輩カ本案ノ如キ主義ヲ採リタルハ他ニ聊力理由ナキニアラス是他ナシ若シ現行法ノ如ク淸算人ハ必ス株主總會ニ於テ選定スヘキモノトセンカ理論上穩當ナラサレハナリ何トナレハ畢竟株式會社ニ於テ取締役ヲ選定シタル所以ハ株主カ其取締役ニ信用ヲ置キタルカ爲メナルニ抅ハラス其取締役ニ對シ淸算人ト爲ルニハ不可ナリト云フカ如キコトハ普通ノ場合ニ於テハ之レアルヘキ謂ハレナケレハナリ殊ニ況ンヤ其取締役ハ會社ノ業務ニ曉通スル者ナルニ於テヲヤ然レトモ又一方ヨリ觀察スルトキハ或ハ取締役ト爲ルニハ適當ノ人物ニシテ淸算人ト爲ルニハ不適當ナリト云フカ如キコトナキニアラサルヘシト雖モ是等ハ最モ稀有ノ場合タルヘケレハ斯カル場合ハ特ニ株主總會ニ於テ他人ヲ選任スルコトヲ得ヘキ例外ノ規定ヲ設クルヲ以テ可ナリトス是蓋シ本案ニ於テ便宜主義ヲ採リ現行法ヲ修正シタル所以ナリト
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第百八十二條 前條ノ規定ニ依リテ淸算人タル者ナキトキハ裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任ス
(參照)七六、舊二三三、民七五、獨二四四、同草二六八、伊二一〇、二項、羅二一二、二項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百三十三條ニ該當スル規定ナリ然ルニ現行法右第二百三十三條ニ修正ヲ加ヘタル所以ハ全ク前條ヲ修正シタルノ結果ニ外ナラス次ニ本條ノ大體ハ民法第七十五條ノ規定ニ倣ヒタルモノニシテ唯右ノ規定ト異ナル所ハ民法ニ於テハ檢事ノ請求又ハ裁判所ノ職權云々ノ規定アルヲ本案ニハ採用セサリシ㸃ニ過キスト
橫田君ハ本條ノ規定ヲ批難シテ曰ク本條ニハ檢事ノ請求及ヒ裁判所ノ職權ニ關スル規定ヲ除外シタリト雖モ余ハ民法第七十五條ノ如ク本條中ニ右ノ規定ヲ設ケラレンコトヲ希望スト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク本案ニハ後ノ第百八十九條ニ於テ本法第七十七條ノ規定ヲ準用シタルヲ以テ可ナリト信スレトモ一應橫田君ノ說ハ考ヘント
岡野君亦辯シテ曰ク只今梅君カ答辯セシ如ク本案ハ後ノ第百八十九條ニ於テ合名會社ノ解散ニ關スル第七十七條ノ規定ヲ準用シタルヲ以テ余モ亦可ナリト信スレトモ右第七十七條ハ「會社力裁判所ノ命令ニ因リテ解散シタルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求コ因リ淸算人ヲ選任ス」トアリテ本條ノ場合トハ異ナルヲ以テ若シ橫田君ノ讀ヲ本條ニ採用センカ合名會社ノ規定中ニモ等シク右ノ如キ主義ノ規定ヲ設ケサレハ不釣合ナルヘキヲ以テ兔モ角一應再考セント
本條ハ右ノ外原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第百八十三條 淸算人ハ就職ノ後遲滯ナク會社財產ノ現況ヲ調查シ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作リ監査役ノ意見書ト共ニ之ヲ株主總會ニ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要ス
第百二十九條第二項及ヒ第百六十六條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)八三、舊二四三、二四八、獨二四四a三項、同草二七二、匈二〇六、伊二〇〇、二一二乃至二一四、西二三〇、羅二〇二、二一四乃至二一六、葡一三二、一三三、一三九、白千八百七十三年五月十八日法一二〇
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百四十三條ノ規定ニ於ケル一部分ヲ採用シタルモノナリ現行法右第二百四十三條ニ付テハ標題ヲ說明シタル際ニ略ホ說明シタル如ク本案ニハ後ノ第百八十九條ニ於テ民法第七十九條ノ規定ヲ準用シタルヲ以テ不用ニ屬シタレハナリ何トナレハ民法第七十九條ノ規定ハ現行法第二百四十三條ノ規定ト同一ノ精神ナレハナリ要スルニ本條ハ合名會社ノ淸算ニ關シ第八十三條ノ規定ヲ設ケタルト同一ノ精神ニテ之ヲ設ケタルモノニ外ナラス尤モ合名會社ノ淸算ニ因ル右第八十三條ニハ合名會社ノ性質上ヨリ「財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作リ之ヲ社員ニ交付スルコトヲ要ス」トアレトモ株式會社ハ合名會社ト異ナリテ實際株主ノ數多數ナレハ交付ヲ爲スカ如キコトハ困難ノコトナルヲ以テ本條ニハ株主總會ニ書類ヲ提出シテ其承認ヲ求ムルコトヲ要ストセリ是一ハ株主總會ナルモノハ株式會社ノ最高機關ナルヲ以テ其承認ヲ得タルトキハ之ヲ以テ足レリト信スレハナリ次ニ本條第二項ノ規定ニ於テ準用シタル第百二十九條第二項ノ規定ハ書類ノ當否ヲ調査セシムル爲メ總會ニ於テ特ニ檢査役ヲ選任スルコトヲ得ヘキ規定ナルヲ以テ此規定ヲ玆ニ準用スルトキハ淸算人ノ提出シタル書類ノ當否ヲ調査スル爲メ株主總會ニ於テ檢査役ヲ選任スルコトヲ得ヘキヲ以テ最モ其當ヲ得タルモノト信スレハナリ又第百六十六條第二項ヲ準用シタル所以ハ右第百六十六條第二項ノ規定ハ取締役カ株主總會ノ承認ヲ得タル後貸借對照表ヲ公吿スルコトヲ要スル規定ナルヲ以テ此規定ヲ玆ニ準用スルトキハ淸算人ハ株主總會ノ承認ヲ得タル後貸借對照表ヲ公吿スルコトトナリテ是亦最モ其當ヲ得タルモノト信スレハナリト
本條ハ異議ナク原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第百八十四條 會社財產カ會社ノ債務ヲ完濟スルニ足ラサルトキハ淸算人ハ拂込時期ニ拘ハラス未タ拂込アラサル株金ノ拂込ヲ爲サシムルコトヲ得
(參照)舊二四六、伊二〇二、羅二〇四、葡一三六、白千八百七十三年五月十八日法一一六
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第二百四十六條ニ該當スルモノニシテ主意ニ至テハ現行法ト全ク同一ニシテ唯文字ヲ少シク修正シタルニ過キス尤モ余一人ノ考ニテハ假令本條ノ規定ヲ設ケサルトモ實際本條ノ如クナルヘキモノトハ考フレトモ世間間々反對ノ說ヲ主張スル者アリテ農商務省ノ如キ亦然リトノコトナルヲ以テ他日ノ誤解ヲ避ケシメンカ爲メ之ヲ設ケタルモノナリト
穗積八束君曰ク本條ニハ「完濟」云々トアレトモ此「完濟」ノ文字ハ不必要ナリト考フ又本條ノ會社財產トハ如何ナル意味ナルヤ實際會社ニ拂込タル株金丈ケノ意味ナルカ若クハ未拂ノ株金ヲモ包含スルヤ單ニ會社財產トノミアリテハ此㸃ニ付キ疑アリト
長谷川君ハ本條ニ「得」トアルヲ批難シテ曰ク若シ原文ノ如ク何々スルコトヲ得トアルトキハ必スシモ此規定ノ如クスルニ及ハストノ意昧ニ解セラルルヲ以テ或ハ本條ノ精神貫徹セサル恐アルヘシ故ニ「得」ノ文字ハ修正セラレタシト
右ニ對シ梅君ハ第一ニ穗積八束君ニ答ヘテ曰ク若シ同君ノ如ク「完濟」ノ文字ヲ削除センカ從テ「スルニ足ラサルトキハ」マテノ文字ヲモ削除セサル可ラス斯クノ如クスルトキハ本條ノ主意ヲ變更スルニ至ルヲ以テ贊成スル能ハス畢竟本條ニ於テ斯カル文字ヲ用ヰタル所以ハ一旦未拂ノ株金ヲ取立テタル上ニテ債務ヲ完濟シ其殘餘ノ分ヲ拂戾スカ如キコトアランヨリカ寧ロ實際會社ノ債務ヲ完濟スルニ足ラサルトキニ當リテ其拂込ヲ爲サシムル方當ヲ得タルモノト信スレハナリ次ニ會社財產ノ文字ナルカ此文字ハ既ニ會社ニ向テ拂込ヲ爲シタル株金タケノ意味ニ用ヰタルモノニシテ後ニ拂込ムヘキモノハ包含セシメサル考ヘナリト又長谷川君ニ對シ辯シテ曰ク長谷川君ノ說ハ一應尤モナリト雖モ余輩カ「得」トセシハ「拂込時期ニ抅ハラス」トノ文字ヲ承ケタル考ヘナレハ文章ノ勢ヨリ長谷川君カ述ヘラレタルカ如キ解釋ヲ爲ス恐ハアラサルヘシト
岡野君亦辯シテ曰ク縱令本條ニ「得」トアリトモ淸算ノ性質ヨリ考フルトキハ實際打捨テ置クヘキモノニアラサルヲ以テ長谷川君カ述ヘラレタル如キ解釋ヲ爲ス者ハアラサル可ケレハ原文ノ儘ニテ存セラレタシト
穗積陳重君曰ク本條ノ「會社財產」ナル文字ハ梅君ノ答辯ニ因レハ現在會社ニ存スル財產ナリトノ意味ナルカ如シ若シ然リトスレハ余ハ疑ナキ能ハス何トナレハ他ノ場合ニ於テモ等トシク斯カル解釋ヲ爲シテ差支ヘナキヤヲ知ラサレハナリ殊ニ又普通ニ財產ト云フトキハ債權ヲモ含ミ居ルモノト考ヘ居レハ民法上トノ釣合モアルコト故一應起草者ニ於テ再考セラレタシト
土方君曰ク余ハ財產ナル文字ハ有體物ノ場合ヲ指稱シタルモノニシテ民法ノ用例モ蓋シ此意義ナリト信ス何トナレハ權利ヲ指ストキニ特ニ財產權ナル文字ヲ用ヰ居レハナリト
梅君亦辯シテ曰ク此會社財產ナル文字中ニハ漬權ハ勿論含ミ居ルモノト考ヘ居レリ然レトモ會社カ債務ヲ完濟スルコト能ハサルカ爲メ未拂株金ヲ取立ツルモノマテ含ミ居ルトハ考ヘサルナリ故ニ右ニ述ヘタル廣權トハ此場合ニ限リタル一種異ナルモノト見ハ可ナラン尤モ此財產ナル文字ニ付テハ從來本會ニ於テ議論ノアリタルコトナレハ一應考フヘシト雖モ只今土方君カ述ヘラレタルカ如キ用例ハ余ノ曾テ知ラサルトコロナリ余一己ハ是迄財產ト財產權トノ文字ハ同一ノ意義ニ使用シ唯場合ニ依リテ區別ヲ爲セルモノト考ヘ居レリ例ヘハ或權利ト云フカ如キ場合ニハ財產權トシ會社抔ノ場合ハ財產ト云フ如キ是ナリ故ニ財產ト云フ場合モ權利ヲ包含スト考フト
橫田君曰ク余ハ本條ノ會社財產トハ實際會社ニ拂込タルモノタケヲ云ヘルモノト信ス若シ然ラストセハ合名會社ノ財產ト云フカ如キ場合ニ於テハ其會社ノ社員カ各自固有ニ所持スル財產ヲモ含ミ頗ル不都合ナレハナリ故ニ本條ノ會社財產トハ實際會社ニ拂込タルモノニシテ會社カ現ニ有スルモノヲ法律上假リニ稱シタルモノト解セハ可ナルヘシト
梅君曰ク余ハ橫田君ノ說ニハ贊成スル能ハスト雖モ併シナカラ是迄本法ニ於テ會社財產ナル文字ヲ使用シタル意義ハ拂込ナキ株金ハ含ミ居ラサル考ヘナリ只今田部君ヨリ注意セラレタルトコロニ因レハ此財產トハ最モニ會社ノ帳簿ニ因レルモノニシテ未拂ノ分ハ包含セスシテ實際會社ノ帳簿ニ記載シタルモノニ止マルトノコトナルカ余モ尤モナリト信ス併シ兔モ角再考セント
本條ハ「會社財產」ノ文字ヲ起草委員ニ於テ再考スルコトニ決シ他ハ原案ノ儘可決シテ散會ヲ吿ケタリ
于時午後六時