明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第39回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第三十九回商法委員會議事要錄
出席員
淸浦奎吾君
箕作麟祥君
岸本辰雄君
田部芳君
穗積八束君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
元田肇君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
尾崎三良君
西源四郞君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
商修正原案起草委員提出
第百五十三條ニ左ノ但書ヲ加ヘ第百五十六條ヲ削ル
但會社ノ目的タル事業ノ種類ヲ變更スルコトヲ得ス
岡野君ハ本修正案ヲ說明シテ曰ク本案ハ第百五十六條ニ於ケル諸君ノ議論ノ結果ヲ法文ニ顯ハシタルニ過キス而シテ玆ニ少シク說明スヘキハ第百五十六條ニ於テ定款ノ變更ハ特別決議ヲ以テ爲スコトヲ得ヘシ故ニ此場合ニハ會社ノ目的トセル事業ノ變更又ハ會社カ目的ナリトスル範圍ヲ擴張シ又ハ縮少スルカ如キ場合ヲモ包含スヘシ例ヘハ鐵道會社ニ於テ其範圍ハ甲區ナリシモノヲ乙區劃又ハ丙區劃ニ延長セシハ目的ヲ擴張スルコトニ當ルヘシ業務ノ範圍ヲ縮少スル場合ハ會社ノ目的タル事業ノ變更ト看ルコト極メテ稀ナリ例ヘハ族店カ鐵道會社トナルカ如キ場合ハ少ナキモ會社ノ目的ノ變更トナラス何トナレハ法人ハ目的以外ニ是カ成立ヲ認メス是當然言フヲ俟サルヘシ乍併斯カル場合ヲ目的ノ變更ナリトセハ差支ハ生セサルカ如ク實際上竝ニ理論上ニ於テモ許ササルヲ正當トス郞旅店ニシテ鐵道會社トナルハ前ノ目的タル事業ヲ許スコトニ當ルヲ以テ之ヲ許ササルカ尤モ穩當ナリ事業ノ範圍ヲ擴張スルモ縮少スルモ孰レモ定款變更ニシテ第百五十四條ニ定メタル規定ヲ以テ十分ナリ是第百五十六條ヲ削除セル所以ナリト述ヘ
富井君ハ起草委員ニ協議シテ曰ク實質ニ就テハ反對ハナキモ百五十四條ノ但書トスルハ如何ナルモノニヤ「ノミ」之ヲ變更スルコトヲ得ト在リテ此處ニ「ノミ」ノ文字ヲ入レシハ頗ル意味ノアリシコトニテ取締役ニハ變更ヲ爲スコトヲ許サヽル考ニテ此制限ヲ設ケシナリ卽絕對的ニ許サヽル考ナリ然ラハ此條ニ入ルルハ穩ナラス起草者ニ於テ工夫ハナキモノニヤト述ヘ岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク場所ニ付テハ種々考ヘシモ定款ノ變更ハ株主總會ノ決議ニ依ルモノ故此規定ノ但書ニ加フルモ別段差支ナシ印百五十三條ノ規定中ニ其儘ナレハ包含スル故但書ヲ加ヘシナリ故ニ別段差支ナキモノト信スルナリト述ヘ引續キ質問アリテ起草委員ハ交々其答辯ヲ爲シ終ニ原案ニ決セリ
修正原案起草委員提出
第百五十四條第二項ヲ左ノ二項ニ改ム
前項ニ定メタル員數ノ株主カ出席セサルトキハ出席シタル株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ假決議ヲ爲スルコトヲ得此場合ニ於テハ其假決議ノ旨趣ヲ各株主ニ通知シテ更ニ一个月ヲ下ラサル期間内ニ第二回ノ株主總會ヲ招集スルコトヲ要ス
前項ノ總會ニ於テハ出席シタル株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ假決議ノ認否ヲ決ス
岡野君ノ說明ニ曰ク本修正案ハ第百五十四條第二項ヲ少シク變更セリ是前回第百五十四條ヲ討議セル際長谷川君ハ必シモ假議決ヲ爲ササルモ可ナリ第百五十四條第二項ヲ一見スルニ株主ノ議決權ノ過半數ヲ以テ假議決ヲ爲シ云々第二回ノ株主總會ヲ招集スルコトヲ要ストアリ故ニ假議決ヲ爲スヲ可トス玆ニ假議決ヲ要スルトセシハ此場合ニ於テハ後ノ釣合ノ惡シキ爲メ本條ヲ三項ト爲シ文章ノ修正ヲ如斯セリト述ヘ本條ハ原修正案ニ決セリ
修正原案起草委員提出
第百五十七條第二項ヲ左ノ如ク改ム
會社ハ其資本ヲ増加スル場合ニ限リ優先株ヲ發行スルコトヲ得
岡野君ノ說明ニ曰ク此規定ハ豫決問題トシテ既ニ決定セリ乍併本條討議ノ際趣旨ニ付テハ修正ハナカリシモ大ニ議論アリテ單ニ優先株ノ文字ハ第百五十七條一項ト其權衡宜シカラストノコトニテ優先株ナル文字ヲ其頭ニ置クハ其當ヲ得ストノ批難モアリ旁々以テ本修正案ノ如クセリト述ヘ原案ニ可決セリ
第百五十九條 監査役ハ左ニ揭ケタル事項ヲ調查シ之ヲ株主總會ニ報吿スルコトヲ要ス
一 株式總數ノ引受アリタルヤ否ヤ
二 各株ニ付キ四分ノ一以上ノ拂込アリタルヤ否ヤ
三 金錢以外ノ財產ヲ以テ出資ノ目的ト爲シタル者アルトキハ其財產ニ對シテ與フル株式ノ數ノ正當ナルヤ否ヤ
前項ノ調查及ヒ報吿ヲ爲サシムル爲メ株主總會ハ特ニ檢查役ヲ選任スルコトヲ得
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ第百五十八條說明ノ際第百五十八條以下數條ノ規定ハ株式會社設立ノ規定ト同一ノ規定ヲ設ケサルヲ得スト說ケリ卽本條ハ株式會社設立ノ第百十三條ニ當レリ大體ノ趣旨ニ至リテハ既ニ述ヘタリ株式會社ヲ設立スル際ニ十分ニ取締ノ規定ヲ設ケ以テ會社ヲシテ株式ヲ增加セシムルモノト爲ササレハ不權衡ノ規定トナルヘシ外國ノ商法ハ別段ノ明文ハナキモ資本增加ハ半、ハ會社一部ノ新設立ナリトシテ此案ト同樣ニナレリ例ヘハ資本增加ハ一部ノ新設立ナリトノ理由ハ當ルヤ否ヤハ一ノ疑問ナリト雖モ幾何ノ規定カ適用サルルヤハ其規定ナキトキハ疑ハ起リ易シ故ニ寧ロ明カニ適用サルルモノト爲シ百五十八條以下ヲ規定セリ一部設立ノ際ニ於テハ畢竟發起人カ不明ノコトヲ爲ササルヤ、株式ノ總數ノ未タ引受ナキニ引受アリト稱シ或ハ四分ノ一ノ拂込ナキニ拂込アリト稱フルカ如キ是カ取締ニ付キ總會ヨリ監査役ヲシテ調査ヲ爲サシメ其等ノ事項ヲ調査シ創立總會ニ報吿シテ之ヲ取締レリ反之資本ハ增加ノ場合ハ以上ノ發起人竝ニ監査役ハ唯會社ニ常設セラレタル取締役ト監査役ハ既ニ選任セラレ働ク故第百十三條ニ照應シテ監査役カ之ヲ調査シ報吿スルコトトセリ其他大體ノ㸃ニ付テハ別段說明ノ必要ナシ唯第百十三條第一項第三號ニ規定セル第百五條第三號乃至第五號ハ新ニ設立セラレタル會社ノ外ハ適用サレス又第百五條四號ノ文字ヲ換ヘテ本條ノ三號トセリ他ハ別段說明ヲ要セスト述ヘ本條ハ原案ニ決定セリ
第百六十條 株主總會ニ於テ金錢以外ノ財產ニ對シテ與フル株式ノ數ヲ不當ト認メタルトキハ之ヲ減少スルコトヲ得
株主總會ニ於テ引受ナキ株式又ハ四分ノ一以上ノ拂込ノ未濟ナル株式アルコトヲ發見シタルトキハ取締役ハ其株式ヲ引受ケ又ハ其拂込ヲ爲スコトヲ要ス
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ第百十四條ノ規定ト大體其趣意ヲ同ウセリ會社設立ノ際ニ於テハ發起人カ其責任ヲ以テ總テノ事項ヲ定ムルモノナリ師前條ニ列擧セル事項ニ付キ發起人ハ其責ニ當ルモノナリ然ルニ本條ノ場合ニ於テハ既ニ株式會社ハ設立セラレシ故發起人ニ相當スル取締役ハ前條ニ列擧セル各事項ニ付キ其責ニ任セサルヘカラス其故ニ會社設立ニ際シ發起人ニ負擔セシムル事項ト本條ニ於テ取締役ニ負擔セシムル事項ト同一ニセリト述ヘ本條ハ原案ニ決セリ
第百六十一條 資本增加及ヒ新株ニ對スル拂込ノ登記ハ前三條ニ定メタル株主總會結了ノ日ヨリ一週間內ニ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
前項ノ登記ヲ爲スマテハ新株券ノ發行及ヒ新株ノ讓渡ヲ爲スコトヲ得ス
第百二十條第二項ノ規定ハ新株發行ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)匈一六二、二項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ノ精神ハ株式會社設立ノ際竝ニ最初發行スル所ノ株式ノ規定ト異ラス而シテ資本增加ノ規定ニ新株發行ノ規定ヲ適用スルハ會社設立ノ際新株發行ノ規定ト同一ニ爲ス考ナリト述ヘ橫田看ハ一週間ノ期間ニ付キ本店ハ差支ハ生セサルモ支店ハ差支ヲ生スヘシト批難シ岡野君ハ之ニ答ヘ本條ノミナラス大抵皆一週間ノ期間ナリ若シ不可ナリトセハ全體ヲ改メサルヘカラス加之此效力ニモ何等ノ關係ヲ生セスト述ヘシモ其後協議ノ上此問題ニ付テハ整理迄ニ考フルトノコトトナレリ
第百六十二條 額面以上ノ價額ヲ以テ新株ヲ發行シタルトキハ其額面ヲ超ユル金額ハ資本增加ノ決議後一年內ニ之ヲ拂込マシムルコトヲ要ス
岡野君ノ說明ニ曰ク株式會社設立ノ際ニ於テハ第百十條第二項ノ規定ニ依リ額面以上ノ株式ヲ發行シタルトキハ第一回ノ拂込ト同時ニ拂込シムルコトヲ要ストノコトヲ規定セリ然ルニ株式會社カ資本ヲ增加シ新株ヲ發行シタルトキハ往々ニシテ百圓ノ株劵額カニ百圓トナルコトアリ部場合ニ依リ劵面額ニ比スレハ賣買價額ノ多キコトアリ既ニ第百十條ノ議事ノ際尾崎君ヨリ新株發行ノ場合ニ第百十條ヲ適用セスシテ追時拂込シムルヲ可トスト論セラレシカ余ハ其說ヲ以テ大ニ理由アルコトト信シ第一回ノ拂込ニテモ宜シキモ又此際拂込サルモ宜シキコトトセリ唯此場合ニハ資本檜加ノ決議後一年ノ期間內ニ拂込シムルコトトシ以テ會社設立ノ場合ト其規定ヲ異ニセリト述ヘラレタリ
尾崎君ハ質問シテ曰ク本條ノ如ク額面ヲ超ユル金額ヲ決議後一年內ニ限リシハ如何ナル理由ナルカ現ニ橫濱正金銀行ニテハ新株發行ニ付キ之ヲ賣額トシテ募集シ單ニ半額ヲ拂込セタリ卽百圓株ヲニ百圓ニテ發行シ而シテ先ツ百圓ヲニ分シ五十圓ヲ超過額トシ殘リ五十圓ヲ壻株ト爲シ拂込セタリ今日ノ有樣ニテハ何等ノ故障ナク以上ノ如ク實行シ來レリ然ルニ本條ニ於テハ例ヘハ百圓ノ株劵ナレハ百圓株ハ四分ノ一印ニ十五圓ヲ拂込シメ增加額ハ必ス一年內ニ拂込シムルコトニセシ理由ハ何故ナリヤ
岡野君ハ之ニ答ヘ曰ク既ニ先刻說明セルカ如ク第百十條ノ議事ノ際尾崎君ノ述ヘラレシ趣旨ニヨリ本條ハ設ケタリ會社設立ノ際ハ額面ヲ超ユルトキハ第一回ノ拂込ト同時ニ拂込シムルコトトセリ然ルニ其際モ亦正金銀行ノ引例アリ而シテ新株發行ハ困難ナリトノコトニテ此處ハ百六十ニ條ヲ一年ノ期間ヲ設ケ設立ノ際ト異ラシメタリ資本增加ノ場合ハ實際上一問題ナルカ凡ソ新株ヲ發行スル場合ハ增加スヘキ資本ノ高ニ付キ額面ヲ定メテ發行スルカ或ハ凡ソ百圓ノ株ヲ百五十圓又ハニ百圓ニテ賣却シ得ルトノコトニテ、素ヨリ余輩ノ考ハ株劵額カ百圓故百圓ヲ以テ標準ト爲ストノコトナラスシテ百五十圓ニ賣却シ得タルナレハ百五十圓ヲ標準トナシ會社ニ拂込モノトス「決議後一年內」ハ期間ノコト故別段重キハ置カス既ニ議長ヨリモ一年ハ長カラスヤトノ協議モアリシ程ナリ而シテ此拂込ノ場合ハ現行法ト異リテ後ノ新株ニ封スルコトハ第一回ハ一定ノ期間內ニ拂込シムルモ第二回ハ其期間ヲ定メスシテ取締役ニ於テ必要ト認ルトキ拂込シム資本增加ノ新株ヲ發行スル場合ニ付キ第一回ニ限リ一个年內ニ拂込トキハ以後ハ取締役カ一年後若クハニ年後ニテモ孰レモ適宜ニテ可ナリト述ヘ
岸本君モ亦質問シテ曰ク第一ハ額面ヲ越エタル金額ハ會社ノ純益ト認メ配當ヲ爲シ得ルヤ否ヤ第二ハ第百九條第五號ニ於テ會社ヲ新ニ設立シテ株劵ヲ發行シタルトキハ額面ヲ超ユルコトヲ得ストアルモ反之本條ノ場合ハ額面以下ニ發行スルコトヲ得ルヤ而シテ場合ニヨリ余ノ考フル所ニテハ額面以下ニ發行スル必要アリト信ス之ヲ第百九條ヨリ推ストキハ株式ノ㸃ヨリ額面以下ニ發行シ能ハサルカ故ニ百六十條以下ハ出來サルカ如ク見ユルモ本條ノ場合ノ如キハ如何ト岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク第一ノ質問ハ第百六十八條第二項ニ額面以上ノ價額ヲ以テ株式ヲ發行シタルトキハ其額面ヲ超ユル金額ハ之ヲ準備金ニ組入ルルコトヲ要ストアリ純益トシテ配當ヲ爲スコトヲ得ス故ニ此準備金ニ法律上ノ制限ハナキモ乍併原則トシテハ百六十八條ニ項ニ據リ準備金ニ組入レサルヘカラス第二ノ問題ハ余輩ノ考ニテハ新株發行ノ場合ニハ額面以下ノ發行ヲ許サス是假ニ明文ナシトスルモ凡テノ學者ハ額面以下ノ發行ハ爲シ能ハスト說ケリ然ルニ百九條第二項ハ株式發行ノ價額ハ劵面額ヲ下ルコトヲ得ストセリ新株發行ノ場合モ亦其理由ハ同一ナリ反之資本ノ金額カ實際上ノ金額ニ比シテ少ナキトキハ世人ヲ欺クコトニ歸スル故不可ナリ若シ明文ナキトキハ疑ヲ生スルナレハ補フモ可ナリト答ヘラレタリ
岸本君ハ本條ヲ批難シテ曰ク額面以下ノ發行ハ爲サシメスト此前ノ條文ニハアリ而シテ此法文上ニ於テハ一方ハ禁シテ一方ハ禁セス株式發行ノ場合ハ百十條第四號ニ於テ之ヲ許シ增株ノ時ハ禁セス、法文ノ裏面ヨリハ墸株ヲ爲スコトヲ得ヘシ道理上起草者ノ考ニテハ不可ナルカ如シ增スハ可ナルモ減スルハ不可ナルカ如シ而シテ岡野君ノ如キハ世人ヲ欺クモノナリト現ニ額面以上トシテ發行スル類例ハ多クアリ例ヘハ政府ニ於テ軍事公債ヲ發行スルカ如キ百圓ノモノヲ五十圓ニテ賣ルトキハ百萬圓ノモノハ五十萬圓ニ賣却スト公吿スルトキハ別段差支ヲ生セス又資本額ヲ記載シ置カサルモ世人ヲ欺クトノコトハ論理上發見スルコトヲ得ス實際上株主ニ於テ利益アリトキハ劵面額以上ニテ引受クルモ可ナリ反之會社ノ非運ニ際シテハ之ヲ引受クルニ當リ幾分力底價ニ賣却スルカ妥當ニハアラサル歟然ルニ此場合ニハ額面以下ノ發行カ爲シ得ルト明文ナキ以上ハ解釋シ得ラルヘシ果シテ然ラハ第百十條ノ但書ハ削除シテ可ナリ寧ロ整理ノ際再考アランコトヲ請フト述ヘ
梅君ハ之ニ答ヘテ曰ク岸本君ノ說ハ商法專門家トシテハ實ニ感服スルヲ得ス額面以下ノ發行ヲ爲シ得サルハ解釋上第百十條第二項ノ規定アルトキハ略ホ明カナリ初メハ額面以下ハ發行ヲ爲スコトヲ得ストノ規定ヲ置カントモ考ヘシカ畢竟斯カル法文ハ無用ニ歸スヘシ債務者ニ於テ債務ヲ負フ場合ニ百圓ノ金額ニ對シ九十圓ヲ引受ケ百圓ト爲スモ可ナリ是所謂高利貸社會ニテ此方法ヲ採ルカ如シ、會社ノ資本ニ付テハ債務者ハ自己ノ全財產ヲ以テ負擔スルカ當然ナルカ株式會社ニ於テハ如何ナル資產アルモノハ株金額ニ付キ責任アリヤ若シ岸本君ノ如クセハ株金額ニアラサルモ可ナルカ如シ額面ハ百圓トアルモ實際ハ九十圓支拂ヘハ可ナリト然レトモ斯カルコトヲ爲シ得ヘキモノトスルハ實ニ想像ニモ及サルヘシ且亦第百九條第四號ハ何故ニ但書ヲ設ケシカ他ナシ本文ニ於テ株式申込證ニ記載ストアルモ是株式發行ハ劵面額ナルモ時トシテハ劵面額ニ比スレハ多クノ拂込ヲモ爲シ得ヘシ乍併劵面額ヲ超ユル額ヲ定メ置クトキハ右百九條カアリテ初メテ但書ノ必要ヲ生スルモノナリ先刻岡野君ノ說明セラレシ如ク增株ノ如キハ其規定ハ揭ケサルモ可ナリ既ニ理論上ノコトハ解釋論中ニ自ラ陳述シタリ而シテ岸本君ノ說ハ理論上ニ於テハ劵面額未滿ノモノハ發行シ得サルト同一ナリ何トナレハ株金ヲ維持セントナレハ何時ニテモ會社ニ拂渡ヲ爲シ又ハ會社ニ四分ノ一ノ準備金ヲ置クハ何ノ爲ナルカ若シ會社カ拂込ナキトキハ會社自身ニ於テ不虞ノ損害ヲ被ルヲ以テナリ果シテ然ラハ岸本君ノ如キハ其必要ナシト云ハルルモ會社以外ノ他人ハ其會社ヲ以テニ百萬圓ノ資本アリト信セシニ豈計ランヤ其實百五十萬圓若クハ百萬圓トナスノ方法ヲ計嗇スルモノアルニ至ルヘシ而シテ會社ハ法律上不穩當ナル方法ヲ以テ成立スルカ爲メ一朝非運ニ嚮ハンカ不測ノ損害ヲ被ルヲ以テ尙ホ以テ斯カルモノヲ許可スルコトヲ得ス且亦劵面額以上ヲ以テ株劵ノ發行ヲ許可スルコトハ會社カ利益ヲ得テ之ヲ積立置クモ爲メニ損害ヲ被ルカ如キコトハナカルヘシ而シテ之ヲ買受クルモノニ於テモ割合ノ宜シキ爲メ決シテ不可ナル㸃ナカルヘシ反之株金ヲ減スルハ以上ノ理由ニ因リ許ササルヲ可トス終リニ臨ミ一言セン劵面額發行論ニ付テハ此場合ニ際シ舊株主ニ割當ルヲ可トストノ論者アルモ若シ此場合ニ斯カル利益ノ株劵ノ引受人ナキコトアラハ如何之ヲ公賣シテ一時ニ株金ノ額ヲ拂込セ若クハ劵面額ニ下ルモ可ナルヲ以テ一年ノ期間ヲ本條ヨリ削除シ或ハ劵面額以下ニテ發行ヲ許スカ如キハ到底爲シ能ハサルコトト信スト述ヘラレタリ
橫田君ハ一ノ意見ヲ發表シテ曰ク余ハ元來左ノ如キ考ヲ持テリ師第百十條第二項ノ主義ノ如クセハ理論ハ貫轍スルナラン反之例ヘハ百圓ノ株劵ニ付キ塘加額ハ一年內ニ拂込ミ第一回ニ拂込ヲ爲シ部百圓株ニ付キニ十五圓ノ拂込ヲ爲シ再ヒ增加額ニ付キ拂込ヲ爲スカ如キハ不都合ニハアラサルカ第百十條第二項ハ一時ニ拂込ヲ爲サシムルヲ以テ斯カル不便ノ㸃ナシ然ルニ百六十ニ條ハ一年內ト云フノ制限アル故穩當ヲ缺クコト尠カラス此㸃ハ可成自由ニ致タシ或ハ謂ハン增株ヲ買受クル場合ハ其事ヲ豫想セサルヘカラスト然レトモ可成斯カル一年內ト云フカ如キ規定ハ設ケサルヲ可トス何トナレハ商事上非常ニ會社ノ便利ヲ害スヘシ若シ又一年內ノ期限ヲ要スルナレニ層長キ期限ニ改ムルヲ可トス例ヘハ劵面額百圓ノ株ヲニ百圓ノ檜加額ニテ發行シタルトキハ之ニ對シ幾分ノ符號ヲ附セサルヘカラス然ラサレハ一年內ノ期限ヲ延長セラレンコトヲ望ムト述ヘ引續キ穗積陳重君ハ本條ト他ノ條項ノ關係ニ付キ起草者ニ質問シテ曰ク是ハ橫田君ノ說ト關係ヲ有スルモノナルカ此場合ニ株式ノ金額株金又ハ株金全額トアルハ劵面ノ金額ヲ斥セルモノナリト思惟セリ然ルニ本案ニ於ケルカ如ク株金全額ヲ拂込サレハ無記名トナスコトヲ得ス且資本檜加ハ爲スヲ得ス然ルニ本條ノ如ク額面額ニ超ユルトキハ前述ノ劵面ノ全額ト解スルトキハ百圓ハ新株ニシテ其百圓ヲ以テ無記名ト看ルコトヲ得ヘシ又ニ百圓ノ額ヲ以テ發行スルト看ルコトヲ得ヘシ而シテ資本墸加ヲ爲スコトヲ得ヘシ然ルトキハ第百十條第二項ノ場合ハ拂込全額ヲ斥シ本條ノ場合ハ期間ヲ一年トナスカ故ニ例ヘハ發行額ヲ引受ケシ株式ヲ他人ニ讓渡シタルトキハ如何ニセラルカ或ハ單ニ讓受人ハ額面ノミノ拂込未滿ヲ繼續スヘキ歟或ハ之ニ額面以上ノモノモ附着シテ行クヘキ額若クハ全部資本ト看ルコトヲ得ヘキカ或ハ殘額ハ無記名トナルカ或ハ新株ニ附着ノ義務モ入ルヘキモノナリヤ否ヤ伺置カント述ヘ岡野君ハ之ニ答ヘテ曰ク穗積君ノ意見ハ本條ニ付キ必ス生スヘキ問題ナリ元來余輩ノ趣旨ハ前ニ引用セラレシ趣旨ニ適用アリトセハ例ヘハ新株發行ノ場合ニ百圓ノ株ニ對シテ增加額ヲ併セニ百圓ノ全額ニアラサレハ新株ヲ發行スルコトヲ得スト信ス又株式塘加ノ場合ニ於テ百圓株ニ付キニ百圓拂込ヘキトキ百五十圓ヲ拂ヒ尙ホ五十圓未拂ナレハ其五十圓ハ讓受人ニ於テ負擔セシムルモノトス無記名ノ場合モ當然包含スヘシ縱令幾分力疑㸃ハアルニモセヨ趣旨ニ至リテハ以上述フルカ如シ故ニ別段明文ニ揭クルノ必要ハナカルヘシト述ヘラレタリ
引續キ尾崎君ハ斯カルコトハ實業者ノ便宜一ニ任シテ可ナリト述ヘ且今日迄實行セシ會社ニ於テ一モ弊害ナキニ法文ヲ設クルハ不可ナリ故ニ此制限ヲ要セスト主張シ併セテ其趣旨ヲ說明シ長谷川君ハ一年內ノ期限ハ必要ナシト批難シ斯カル曖昧ノ期限ヲ置クナレハ寧ロ橫田君ノ意見ノ如クセラレンコトヲ望ムト述ヘ富井君ハ質問的ニ本條ヲ批難シテ曰ク劵面額百圓ノ株ヲニ百圓ニテ發行シ劵面額ノ四分ノ一卽ニ十五圓ヲ第一回ニ拂込セ殘リ七十五圓ハ何年經過スルモ拂込スシテ宜シキコトトナリ超加額ニ付テハ何等ノ必要ナキニ抅ラス全部拂込ノ義務ヲ負ハシムルカ如シ此場合ハ如何ト質問セラレタリ而シテ以上ノ質問、批難、意見ニ付キ梅君竝ニ岡野君ハ交々答辯セラレタリ
最後ニ至リ議長ハ本條ニ付キ未タ討議ノ盡キサルモノト認メ次回迄延期スルコトヲ宣吿セラレタリ