第三十四回商法委員會議事要錄
明治二十九年十月二十三日午後三時五十五分開議
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
梅謙次郞君
富井政章君
三浦安君
岡野敬次郞君
第三款 監査役
田部君ハ本款ヲ說明シテ曰ク本案ハ會社機關ノ配列ニ付キ三個ノ程度ヲ設ケ第一株主總會第二取締役第三監査役トセリ而シテ監査役ナルモノハ株主總會取締役ト同等ノ機關ナルコトヲ顯ハシタルナリト述ヘ表題ハ原案ノ儘可決セリ
第百四十五條 監查役ハ株主總會ニ於テ之ヲ選任ス
(參照)舊一九一、佛千八百六十七年七月二十四日法三二、蘭四四、五二、獨一九一、二二四、匈一七九、一項一號、瑞六五九、伊一五四、二項三號、一八三、羅一五六、二項三號、一八五、葡一七一、一七五、白千八百七十三年五月十八日法五四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百九十一條ニ修正ヲ加ヘタリ第一ハ監査役ハ必シモ株主タルコトヲ要セストノ㸃ナリ抑モ會社ノ事業ヲ調査スル人ハ特別ノ技量ヲ要スルカ故ニ必シモ株主タルコトヲ要セス第二ハ現行商法ハ員數ハ三人ヨリ少カラサル云々トアルヲ後ニ改メテニ人以上トセリ本案ニ於テハ玆ニ顯ハレサルモ第百十二條竝ニ百三十五條ハ本款ニ之ヲ準用スルヲ以テ取締役ハ三人タルヲ要ストアル故隨テ監査役モ三人以上タルコトハ顯ハルヘシ而シテ修正ノ結果第百三十五條ハ三个條ニ別ルルカ故ニ百四十五條モ或ハ分ルルヤモ知レス員數モ一人三人五人七人ト端數ニナスカ用例故三人以上ヲ以テ適當ト信セリニ人ハ合議體ニ適合セサレハナリ又任期ノ㸃ハ同シク百三十五條三項ヲ準用スル故取締役ト同シク三年ヲ越ユルコトヲ得ストセリト述ヘ序テ井上君ハ本條ノ關係ヲ第百四十六條トシテ監査役ハニ人以上ヲ要ストノ案ヲ提出シ、贊成アリ採決セシニ少數ナリ本條ハ原案ニ決セリ
第百四十六條 監查役ハ何時ニテモ取締役ヨリ事業ノ報吿ヲ求メ又ハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得
監查役ハ株主總會ヲ招集スル必要アリト認メタルトキハ其招集ヲ爲スコトヲ得
(參照)舊一九二、三號、一九三、一九八、佛千八百六十七年七月二十四日法三三、三四、獨二二五、匈一九五、瑞六四三、六四四、六六〇、伊一八四、羅一八六、葡一七六、一八〇、白千八百七十三年五月十八日法五五
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法百九十ニ條ノ一部ト百九十三條トヲ併セタル規定ナリ百九十ニ條第一號ハ別段規定ヲ要セス第二號ハ次條ニ規定セリ畢竟本條ノニ項ハ百九十ニ條三號ヲ採用シタリ而シテ現行法百九十三條ハ本案第一項ニ當レリ其趣旨ハ別段百九十三條ト變ラス「監査役ハ何時ニテモ會社ノ業務ノ實況ヲ尋問シ會社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閱シ」云々トアルヲ本案ハ取締役ニ對シ事業ノ報吿ヲ求メ又ハ會社ノ業務及ヒ會社財產ノ狀況ヲ檢査スルコトヲ得トシ其目的ヲ達スルコトヲ得ヘシ
次ニ本條第一項中「何時ニテモ取締役ヨリ」云々ハ妥當ナラストノ高木君ノ說ニヨリ「ヨリ」ヲ「ニ對シ」ト改メタリ
第百四十七條 監查役ハ取締役カ株主總會ニ提出スヘキ書類ヲ調查シ株主總會ニ其意見ヲ報吿スルコトヲ要ス
(參照)舊一九二、二〇〇、二項、二一八、佛千八百六十七年七月二十四日法三二、三四、蘭五二、獨二二五、匈一九五、瑞六五九、伊一七六、一七八、一八四、羅一七八、一八〇、一八六、葡一七六、一八八、一八九、白千八百七十三年五月十八日法五五、二項、六二、四項、六四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法百九十ニ條第二號ニ相當セリ而シテ現行法ハ計算書、財產目錄、貸借對照表云々ト一々書面ノ名稱ヲ擧ケシモ後ノ規定ニテ如何ナル書類ナルヤハ知ルコトヲ得ルカ故ニ玆ニ揭ケスト述ヘ原案ニ決セリ
第百四十八條 監查役ハ取締役又ハ支配人ヲ兼ヌルコトヲ得ス但取締役中缺員又ハ差支アル者アルトキハ取締役及ヒ監查役ノ協議ヲ以テ一時監查役中ヨリ其代理ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ取締役ノ代理ヲ爲ス監查役ハ第 條ノ規定ニ從ヒ株主總會ノ承認ヲ得ルマテハ監査役ノ職務ヲ行フコトヲ得ス
(參照)獨二二五a、匈一九五、四項、瑞六六二、伊一五一、羅一五三、葡一七二、三項、白千八百七十三年五月十八日法五七
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ規定ハ現行法ニナシ乍併斯カル規定ハ必要トシテ設ケタリ但書ハ取締役中ニ缺員又ハ差支ノモノアルトキハ監査役ニ於テ兼ヌル所ノ外國ノ立法例ナキニアラス取締役ハ法律ニ認メタルモノノ外會社ノ行政事務ニ關與スルコトヲ得ストシ又取締役ニ缺員ヲ生シタルカ爲メ若クハ取締役ノ歐洲各國ヘ或事業ノ爲メ漫遊スルコトアリ此場合ニハ監査役ヲシテ代理スルコトヲ得セシメタリ是本案ニ於テ此規定ヲ要スル所以ナリ而シ乞監査役ナルモノハ此代理關係中ハ全ク取締役トシテ働クモノ故其代理ヲ解カルルモ直チニ監査役トシテ舊地位ニ復スルコトヲ得ス株主總會ノ承認ヲ經テ其代理セシ事項ニ付キ責任ヲ免カルルコトヲ要ス監査役ノ取締役ニひこ代リシトキハ以上ノ責任アルモノトス次ニ本條第二項ニ於テ第條トアルハ承認ニ關スル規定ナリ
穗積君ハ本條中第一項但書竝ニ第二項ノ削除說ヲ提出シテ曰ク若シ本條ノ儘ナレハ解釋ニ付キ種々ノ疑義ヲ生スヘシ監査役ハ取締役ヲ監督スヘキ地位ニ立チナカラ被監督者ノ業務ヲ爲シ頗ル爰當ヲ缺クノ虞アリ例ヘハ大藏省ノ官吏ニシテ檢査官ヲ兼ヌルト等シキ結果ヲ生スヘシ是株主全體ヨリ觀察シテ頗ル不得策ナリ若シ取締役ニ於テ業務ノ執行上缺員ヲ生シ又ハ病氣其他ノコトニ付キ實際上業務施行ニ差支ヲ生スルナレハ其㸃ヲ豫想シテ定款中ニ設クルコトヲ得ヘシ加之監査役ハ三人タルコトヲ要ストノ百五十ニ條ノ規定ハ取締役ニ代リテ業務ヲ行フ爲メ一人或ハニ人ニテ可ナリトノ不當ノ結果ヲ生スヘシ以上ノ理由ニ依リ但書及ヒ之ニ關聯セル第二項ハ削除スヘシトノ案ヲ提出セリ贊成者アリ
田部君ハ修正案ニ反對シテ曰ク取締役ニ代ハリシ監査役ハ總會ノ承認ヲ經ルトキハ法律上取締役タリシ責任ヲ免レ再ヒ監査役トナルヲ以テ自身ニテ自身ヲ監督スル結果ヲ生セス次ニ梅君ハ田部君ノ說ヲ補フテ曰ク會社ニ於テハ實際上不都合ノ起ルコトアリ取締役ノ關係ハ合議體ナル故例ヘハ三人中一人ノ取締役ノ不在ノ爲メニ人間ニ意見ヲ異ニシ如何トモスルコトヲ得ス斯カル場合ニ臨時總會ヲ開キ若クハ一人ノ取締役ノ旅行先キヘ電報ヲ以テ問合スルト云フカ如キハ會社業務ノ進行ニ大ニ澁滯ヲ來スニ至ラン本條但書竝ニ第二項ハ斯カル場合ニ適用アリ故ニ削除說ノ通過セサランコトヲ望ム右修正案ヲ起立ニ間ヒシニ多數ニテ但書以下ハ削除セラレタリ
第百四十九條 會社カ取締役ニ對シ訴ヲ提起スル場合ニ於テハ會社ハ監查役之ヲ代表ス
(參照)舊二二八、獨一九四、二二三、三項、匈一九七、伊一五二、羅一五四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第二百二十八條ノ一部ヲ採用セリ修正ヲ加ヘシ㸃ハ單ニ文章故別段說明セスト述ヘ原案ニ可決ス
第百五十條 監査役カ其任務ヲ盡ササルトキハ之ニ因リテ生シタル損害ニ付キ會社及ヒ第三者ニ對シ賠償ノ責ニ任ス
(參照)舊一九五、佛千八百六十七年七月二十四日法四三、獨二二六、匈一九六、瑞六七三、六七四、伊一八五、羅一八七、白千八百七十三年五月十八日法五五、三項、同千八百八十六年五月二十二日法
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法百九十五條ト趣旨ヲ同ウス唯第三者ヲ加ヘタリ現行商法ハ會社ニ對シトアルモ第三者ニ對シ責任ヲ負フコトハ勿論ナリト述ヘタリ
次ニ穗積君ハ起草者ニ協議シテ曰ク任務ヲ盡サストセハ其範圍廣キ故任務ヲ怠リトシ病氣等ノ事由ニ依リ盡サヌ場合ヲ除キテハ如何ト述ヘ起草者ニ別段異議ナクシテ改ムルコトニ決セリ
第百五十一條 監查役ハ左ノ事由ニ因テ退任ス
一 破產
二 禁治產
(參照)伊一五一、一八三、三項、四項、羅一五三、一八五、四項、五項
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行商法ニナシ實ハ本條ノ如キ規定ヲ取締役ノ條ニモ置カント考ヘシカ取締役ハ民法第百十一條ノ適用ニ因リ消滅スル故揭ケサリシナリ監査役ハ反之時トシテハ代表者トナルモ通常ノ代表者ト異ル故特ニ此規定ヲ設ケタリト述ヘ原案ニ決セリ
第百五十二條 第百三十五條第二項、第三項、第百三十六條及ヒ第百四十四條ノ規定ハ監查役ニ之ヲ準用ス
(參照)舊一九一、一九六、一九七、佛千八百六十七年七月二十四日法三二、獨一九一、二二四、匈一九四、瑞六四七、六六三、伊一五四、二項四號、一八三、一項、羅一五六、二項四號、一八五、一項、葡一七二、一七五、一七七、白千八百七十三年五月十八日法五四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ監査役ノ員數、監査役ノ年限、任期竝ニ百三十六條ノ解任百四十四條ノ報酬ノコトヲ定メタリ以上ノ規定ハ取締役ノ條項中ニ在ルヲ以テ別段ニ揭ケスシテ其規定ヲ準用スルトセリ以上ノ㸃ハ銑成商法ト大體上異ラス故ニ取締役竝ニ監査役ニ共通スルコトトセリト述ヘタリ
次ニ土方君ハ第百三十五條ニ項ノ三人以上タルコトヲ要ストノ規定ハ必要ナシトシ本條ヨリ削除スルトノ案ヲ提出シテ曰ク此場合ハ一人若クハ數人ノ監査役ヲ選任スルコトトナサン何トナレハ監査役ナルモノハ多數ヲ要セサレハナリ以前ニハ會社ノ資本ハ五萬圓以上タルコトヲ要セシカ故ニ員數ノ多キハ必要ナルモ既ニ其制限ヲ削リシ故自然百三十五條ニ項ノ規定ハ不用ナリト述ヘシニ此案ニ贊成者アリ
田部君ハ監査役ノ員數ニ制限ヲ置カサルトキハ往々會社ノ目的ヲ達セヌ弊害アリト之ヲ批難シタリ序テ起立ニ間ヒシニ多數ニテ「第二項」ノ三字ヲ削除スルコトニ決セリ
午後六時三十分散會