明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第33回

参考原資料

備考

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第三十三回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
田部芳君
穗積八束君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
穗積陳重君
富井政章君
梅謙次郞君
長谷川喬君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
商修正原案起草委員提出
第六十三條(舊第六十四條) 第一項ヲ左ノ如ク改ム
退社員ハ退社ノ登記前ニ生シタル會社ノ債務ニ付キ責任ヲ負フ此責任ハ退社ノ登記後五年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正按ヲ提出シタル理由ハ曾テ第百二十五條ヲ議スルニ當リ同條中ニ現行法ノ如ク株式讓渡人ハ何年間其讓渡ニ付キ責任ヲ負フトノ規定ヲ設クルコトニ決定セリ然ルニ其當時磯部君ヨリノ注意ニ依リ右ノ期間ハ時效ニ因リテ消滅スルモノト爲スノ必要ヲ認メ右第百二十五條ニ封スル修正按中ニ於テハ時效ノ文字ヲ加ヘタルヲ以テ退社ノ所ニ於テモ亦同一ニ規定スルノ必要ヲ認メ玆ニ之ヲ提出セリ尤モ文章ノ體裁ハ民法ニ倣ヒタルモノナリト
右ハ修正原按ニ可決シ次ノ修正原按ニ移レリ
商修正原按起草委員提出
第八十八條第一項「經過シタルトキハ」ノ下「時效ニ因リテ」ノ六字ヲ加フ
梅君ノ說明ニ曰ク此修正ヲ提出シタル理由ハ特ニ說明スルノ必要サキヲ以テ之ヲ省略ス大體ハ前ノ修正ト同一ノ精神ナリト
右修正原按ハ其儘ニ可決シ次ノ修正原按ニ移レリ
第百四條第三號ニ左ノ但書ヲ加フ
但其額ハ五萬圓ヲ下ルコトヲ得ス
同條第五號トシテ左ノ一號ヲ加ヘ舊第五號ヲ第六號トシ以下順次繰下ク
五 取締役カ有スヘキ株式ノ數
梅君ノ說明ニ曰ク右第一ノ修正原按ハ本回ノ議決ニ因リ玆ニ提出シタルモノナリ蓋シ其當時ハ場所ニ付キ何等ノ議決ナカリシヲ以テ其後吾々起草者ニ於テモ頗ル考按ヲ盡シタル後第百四條第三號ノ但書トシテ加フルニ決定セリ尤モ獨立ノ一箇條ト爲スノ希望ナキニ非ラスト雖モ如何セン適當ノ場所ナキヲ故ニ充分諸君ノ考按ヲ盡サレ適當ノ修正アランコトヲ希望ス次ニ資本額ヲ五萬圓以上ニ限リタルハ既ニ本會議決ノ結果ナリト雖モ今日實際既設會社ノ統計上ヨリ考フルトキハ資本金五萬圓以上ノ會社ヨリ寧ロ以下ノ會社多キヲ占ムルルカ如シ故ニ若シ法律ヲ以テ五萬圓以下ニテ」ハ之ヲ設立スルコトヲ得スト規定センカ實際非常ノ影響ヲ實業界ニ及ホスニ至ルヘシ殊ニ況ンヤ必スシモ五萬圓以上ニ限ルノ標準ナキニ於テヲヤ故ニ余ハ是等ノ理由ニ因リ玆一ニ萬圓以上ト修正スルノ按ヲ提出ス次ニ第二ノ修正按ヲ提出シタル所以ハ取締役ニ關スル規定ト照應シテ必要ヲ感シタレハナリ卽チ取締役ニ關スル第百三十七條ニ「取締役ハ就任ノ際定款ニ定メタル員數ノ株劵ヲ監査役ニ供託スルコトヲ要ス」トアリ而テ翻テ定款ヲ見ルトキハ之ニ關スル何等ノ規定ナキハ彼我不揃ノ譏リヲ免カレサルヲ以テ玆ニ本修正按ヲ提出スルノ必要起リシ所以ナリト
穗積陳重君ハ梅君ノ修正按卽チ資本額ヲ一萬圓ト爲スノ說ヲ贊成シテ曰ク元來株式會社ナリトテ必スシモ大資本ニ限ラサル可ラサル理由非ラサルヘシ殊ニ是等ノ問題ニ付テハ我國貧富ノ程度ヲモ充分ニ考ヘサル可ラサルニ於テヲヤ然ルニ只今梅君ノ說明ニ因レハ實際既設會社ハ五萬圓以下ノ方却テ多數ナリトノコトナレハ余ハ一萬圓ヲ以テ原按ニ比スレハ優レリト信ス次ニ場所ノコトナルカ余ハ獨立ノ一箇條ト爲シタキ考アリ何トナレハ資本ノ定額ニ關シテハ最モ重大ナルコトト考フレハナリト
議長(箕作君)曰ク資本ヲ五萬圓ニ限定スルハ既ニ一旦議決シタルヲ以テ今日更ニ議セント欲セハ再議ニ付セサル可ラス故ニ兎モ角次回迄延ハスコトニシ第二ノ修正按ノミヲ今日議決セント
右第二ノ修正按ハ異議ナク可決シ次ノ修正案ニ移レリ
商修正原案起草委員提出
第百九條第二項第三號「株」ノ下「式ノ」ノ二字ヲ加フ
梅君說明シテ曰ク是迄「株數」ト「株式ノ數」トノ用語アリテ一定セス故ニ本修正案ハ其一定ヲ爲サンカ爲メナリ次手ニ第百九條第一項ニ於テモ「株數」トアルヲ「株式ノ數」ト改メラレタシト
右修正ハ異議ナク可決シ次ノ修正原按ニ移レリ
商修正原案起草委員提出
第百十一條第三項トシテ左ノ一項ヲ加フ
第百二十七條第一項、第百三十二條乃至第百三十四條ノ規定ハ創立總會ニ之ヲ準用ス
右ニ付キ梅君辯シテ曰ク本修正案ヲ提出シタル所以ハ創立總會ニ付テハ議事等ニ付キ形式上何等ノ規定ナカリシ然ルニ株主總會ニ付イテハ前回ニ於テ形式上ノ規定ヲ議決シタルヲ以テ之ヲ創立總會ニ準用スルコトトセリ蓋シ現行法ニ於テモ第百九十九條第二項ニ於テ株主總會ノ規定ヲ創業總會ニ適用スル旨ノ規定アリテ其精神ハ固ヨリ同一ナリ唯現行法ハ此規定ヲ右ノ如ク株主總會ニ關スル規定中ニ設ケタルト本案ハ之ヲ創立總會ノ規定中ニ設クルトノ區別アルノミナリ
右修正原案ハ異議ナク可決シ次ノ修正原案ニ移レリ
商修正原案起草委員提出
第百二十三條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第百二十四條 會社ハ自己ノ株式ヲ取得シ又ハ質權ノ目的トシテ之ヲ受クルコトヲ得ス
株式ハ資本減少ノ規定ニ從フニ非サレハ之ヲ消却スルコトヲ得ス但定款ノ定ムル所ニ從ヒ株主ニ分配スヘキ利益ヲ以テスルハ此限ニ在ラス
(參照) 舊二一七、日本銀行條例一二、横濱正金銀行條例一二、一三、佛千八百八十四年十一月二十九日草案二三、獨二一五d、匈一六一、瑞六二八、伊一四四、二四七、一項三號、西一六六、一六七、羅一四六、二六五、一項三號、葡一六九、三項、白千八百七十三年五月十八日法一三四、同千八百八十六年五月二十二日法
右ニ付キ岡野君辯シテ曰ク本條ノ位置ニ付テハ曾テ第二節株式ノ按ヲ起草スルニ當リ一應考ヘタリ然ルニ其當時ノ考ヘニテハ取締役ハ株式會社ヲ代表スルモノナルヲ以テ取締役ニ關スル規定ノ一部ニ於テ「取締役ハ會社ノ株式ヲ取得シ又ハ質權ノ目的トシテ之ヲ受クルコトヲ得ス」ト云フカ如キ規定ヲ設クルノ豫定ナリシト雖モ其後更ニ考ヘタル結果トシテ本修正案ノ如ク之ヲ株式ニ關スル規定中ニ設クルコトトシタリ次ニ本條第一項ノ規定ハ現行法第二百十七條前段ノ規定ナル「會社ハ自己ノ株劵ヲ取得シ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス」ト云ヘルト同一ノ精神ナリ蓋シ現行法ハ右ノ同條中ニ於テ「但債務ノ辨償ノ爲メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ會社ニ交付セラレ若クハ移屬シタル株劵ハ三个月內ニ於テ公ニ之ヲ賣リ其代金ヲ會社ニ收ム可シ」トノ規定ヲ設ケタリト雖モ此規定ハ削除セリ何トナレハ右ニ所謂「債務ノ辨償ノ爲メ」トハ代物辨償ノ主意ニ非ラスシテ株主カ會社ニ債務ヲ負ヘル場合ニ會社カ其株主ニ對シ强制執行ヲ爲シタル場合ナルヘシ果シテ然リトスレハ董ニ規定スルノ必要ナキナリ又法文ニ「其他ノ事由ニ因リテ」トアルハ如何ナル場合ニ適用スヘキヤト云フニ株式會社カ其業務ヲ離レ例ヘハ膾與ニ因リテ株式ヲ取得シタル場合ナル可シ果シテ然リトスレハ株式會社カ其株主ヨリ株式ノ贈與ヲ受ケタルモノナルヘシト雖モ是等ハ重キヲ置クニ足ラサレハナリ尤モ本條第一項ノ規定アル以上ハ贈與ハ無效ナリト雖モ畢竟膾與ノ如キハ稀有ノコトナルヲ以テ特ニ規定ヲ設クルノ必要ナケレハナリ次ニ本條第二項ノ規定ハ後ニ定規變更ノ所ニ於テ資本減少ノ規定ヲ設クルヲ以テ其規定ト相待ツノ精神ナリ法文中ニ所謂「消却」トハ會社カ自分ノ發行シタルトコロノ株式ヲ減スル一ノ方法ナリ而シテ現行法ニ因リ考フルトキハ株式會社カ資本減少ヲ爲スニハ第一ニ株式ノ金額ヲ減少シ第二ニ株數ヲ減少スル場合ノミノ如シ故ニ株式ノ金額ト株數トヲ同時ニ減少スルコトハ許ササルモノノ如シ是等ハ一ノ缺㸃ナルヲ以テ本按ハ之ヲ爲シ得ヘキモノトセリ而シテ又本按ノ「消却」トハ右ノ第二ニ所謂株數ノ減少ニ該當スルモノナリ要スルニ第二項ノ意味ハ一ノ株式會社カ世ノ中ニ對シ是々ノ資本ヲ有スト稱シ其資本ノ中ヨリ或數ノ株式ヲ買フトキハ卽チ資本ノ減少ナリ尤モ此場合ニ於テハ資本減少ノ規定ニ從フヘキモノトス然レトモ若シ會社カ法律ノ規定ニ因リ例ヘハ株主總會ノ議決ニ於テ配當スヘキ利益ヲ減シ而シテ損失ニ因リテ減少シタル資本ヲ填補シ且ツ法律ノ命スル準備金ヲ積立テ尙ホ殘餘アル場合ニ其殘餘ノ金ヲ積置キ之ヲ以テ株式ノ減少ニアツル基金トナシ之ヲ以テ株式ヲ消却スルトキハ敢テ資本減少ノ規定ニ從フノ必要ナキナリ是蓋シ第二項但書以下ノ規定アル所以ナリ尤モ株式ノ數ヲ減スル方法ニ至ツテハ或ハ定款ニ定ムル方法ニ從ヒ鬮引ニスルトカ若クハ會社カ積立テル特別ノ基金ヲ以テ市場ノ價格ニ從ヒ株式ヲ買戾シ之ヲ消却スルコトトナルヘシ大體如斯方法ニナルト思フ菟ニ角極テ事業ノ盛大ナル會社ニシテ充分ニ準備金ヲ積置キ其上ニ利益ノ配當ヲ爲シ尙ホ其上ニ以上述ヘタル如キ方法ヲ採ルカ如キ會社ハ充分餘裕ノアル會社ニシテ極テ堅固ノ會社タレハ此等ノ會社ニシテ株數ヲ減スルトキハ從テ他ノ株主ノ利益非常ニ多クナルヘシ回トナレハ配當スヘキ利益ノ金高ヲ少數ノ株主ニ分配スルヲ以テナリ又會社カ淸算ヲ爲シ其財產ヲ分配スルニ當リテモ株式カ減シタル爲メ多額ノ分配ヲ爲スコトヲ得ルモノナリ又買ハレタル株主卽チ中途株式ヲ失ヒタル株主ハ初ヨリ其株式會社ノ株式ヲ所有スルノ目的ヲ以テ申込ヲ爲シ株式ヲ所有シタルモノナレハ中途ニ於テ其株式ヲ失フカ如キハ其株主ノ爲メ實ニ不利益ナリト云ハサル可ラス故ニ定款ニ於テ其旨ヲ豫メ定メ置カサル可ラサルナリ若シ果シテ定款ニ於テ右ノ定アランカ抑モ其株式會社ノ株主トナリタル者ハ將來會社カ此方法ヲ採ルコトアルヲ覺悟シタルモノト看做ス可ケレハ此際萬一鬮ニ當リ自己ノ株式ヲ失フカ如キコトアルモ實際止ムヲ得サルモノナレハナリ是蓋シ第二項但書ニ「定款」ノ文字アル所以ナリ此外細キ規定ハ法律上ノ明文ヲ要セサルヲ以テ省略セリ尤モ外國ノ商事會社ノ主意ヨリ謂ヘハ中途ニシテ會社ヨリ償却ヲ受ケ株式ヲ失ヒタル株主ニ對シテハ將來或權利ヲ與ヘタルノ例ナキニ非ラス例ヘハ其株主ハ株主總會ニ出テ議決スルノ權利ハ之ヲ許ササルモ株式會社カ通常書付ノ如キモノヲ發行シ之ヲ其者ニ與ヘ之ヲ證トシテ其者ニ會社カ利益ノ分配ヲ議決シ殘餘アルトキハ其利益ニ與カルノ權利ヲ與フルトカ又ハ會社カ解散ノトキニ特ニ利益ヲ與フルトカノ方法是ナリ要スルニ本條ノ如キ消却ノ方法ヲ法文中ニ規定シ置カサルトキハ如何ト云フニ現行法ノ解釋トシテハ一ノ問題ナリ併シ會社カ自分ノ資本ヲ減シ株式ヲ買入ルヽトカ或ハ自分ノ資本ヲ減シテ其內ヨリ利益ヲ分配スルカ如キハ法律上之ヲ禁セサル可ラスト雖モ特別償却基金ナルモノヲ設ケテ株式ヲ買入ルルカ如キハ余輩ハ現行法ノ會社規定タリトモ敢テ差支ナキモノト考フ蓋シ現行法ノ實質ハ可ナリトスルモ特ニ法文上之ヲ揭クルノ至當タルヲ信シ此修正案ヲ提出シタリト
右ノ修正原案ハ可決シ次ノ修正原案ニ移レリ
修正原案起草委員提出
第百二十五條第一項及ヒ第二項ヲ左ノ如ク改ム
會社カ前條ニ定メタル手續ヲ踐ミタルモ株主カ佛込ヲ爲ササルトキハ會社ハ株主名簿ニ記入シタル株式ノ各讓渡人ニ對シ二週間ヲ下ラサル期間内ニ拂込ヲ爲スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ最モ先ニ滯納金額ノ拂込ヲ爲シタル讓渡人株式ヲ取得ス
讓渡人カ拂込ヲ爲ササルトキハ會社ハ株式ヲ公賣スルコトヲ要ス若シ公賣ニ依リテ得タル金額カ滯納金額ニ滿タサルトキハ從前ノ株主ハ其不足額ヲ辨濟スル責ニ任ス但從前ノ株主カ二週間内ニ之ヲ辨濟セサルトキハ會社ハ各讓渡人ニ對シテ其辨濟ヲ請求スルコトヲ得
梅君ノ說明ニ曰ク右ノ修正案ハ決議ノ精神ニ從ヒ提出シタルモノニシテ唯文章トコ週間」ヲ「二週間」ト改メタルニ過キス蓋シ何故「二週間」ニ改メタルヤト云フニ初メハ順次各讓渡人ニ催吿スルノ主義ナルヲ以テ一週間ト爲シタリト雖モ決議ノ精神ハ一時ニ各讓渡人ニ催吿ストノコト故前條ト同ク二週間ヲ以テ至當ト信シタレハナリ尙ホ併セテ一言スヘキハ「催吿」ノ文字是ナリ單ニ「催吿」ノミニテハ强制執行ヲ爲スヘキモノナルヤ否ヤ漠然タル嫌アリト雖モ前回ニ於テ「得」ヲ「要ス」ト改メ解釋上强制執行ハセサルモノナリト決定シタルヲ以テ本修正按ニ於テモ「要ス」トシ强制執行ハセサル精脚ナリ尤モ玆ニ「强制執行ヲ要セス」ト書クトキハ頗ル明瞭タルカ如キモ文章上頗ル惡シキヲ以テ此方法ヲ採ラサリキ前條ニモ「要ス」トアリテ實ハ强制執行ヲ爲スノ主意ナリト雖モ多數ノ解釋トシテ强制執行ハセサル意味ナリトノ事故若シ然ラハ本修正按ニ「要ス」トスルモ敢テ解釋ノ誤リヲ來タスノ恐モナカルヘシ是本按ノ如ク規定シタル所以ナリ
右修正按案ハ其儘ニ可決シ次ノ修正原按ニ移レリ
修正原案起草委員提出
第百二十五條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第百二十六條 前條ニ定メタル讓渡人ノ責任ハ讓渡ノ記入後五年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
梅君ノ說明ニ曰ク此修正按ハ全ク議場ノ決議ニ因リ提出シタルモノナリ蓋シ其當時期限ハ余輩ニ於テ適當ト信スルトコロニ定メヨトノコトナリシ故本案第六十四條合名會社ノ退社員ニ關スル責任ノ規定ト釣合フ爲メ「五年」トシタリ此㸃ハ諸君ノ熟考ヲ請フト
穗積八束君ハ修正按ヲ提出シテ曰ク元來株劵ハ流通ヲ主トスルヲ以テ日常ノ賣買頻繁ナルモノナルニ此修正原案ノ如ク讓渡人ノ責任ヲ讓渡後五年ト爲スカ如キハ穩當ナラス殊ニ本案ハ現行法ニ比スレハ讓渡人ノ責任重大ニ失スルモノ故此期限ハ一年ニ短縮セハ可ナルヘシト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク凡ソ株劵ノ讓渡ハ其權利ヲ讓渡スコトヲ得ヘシト雖モ其義務ニ付テハ會社ノ承諾ナクテハ讓渡スコトヲ得サルモノナリ然ルニ讓渡後一年ニテ全ク責任ヲ免カレシムル如キハ余輩ノ贊成スル能ハサルトコロナレハ止ムナクンハ三年位ニ致シタシ兎モ角重要ノコト故次回迄延期シ多數出席者ノ時ヲ待テ確定致シタシト
梅君ノ建議說ニ贊成者アリテ此條ハ延期トナリ次ノ第二款ニ移レリ
第二款 取締役
岡野君ノ說明ニ曰ク第三節株式會社ノ機關ナル標題ニ付キ說明シタル如ク凡ソ株式會社ノ機關ニハ第一株主總會第二取締役第三監査役アリ此三機關ノ順序ハ何レニ基キ定メタルヤト云フニ株主總會ハ會社ノ意思ヲ發表スルモノ故之ヲ以テ第一款ニ規定シ取締役ハ會社ノ業務ヲ擔任スル重大ノ關係ヲ有スルモノ故之ヲ第二款ニ規定シ而シテ監査役ハ會社ノ監督ヲ爲スモノナルヲ以テ之ヲ第三款ニ規定セリ本款ハ卽チ右ノ第二ニ位スルモノナリト
右ノ表題ハ異議ナク可決シ次條ニ移レリ
第百三十五條 取締役ハ株主總會ニ於テ株主中ヨリ之ヲ選任ス
取締役ハ三人以上タルコトヲ要ス
取締役ノ任期ハ三年ヲ超ユルコトヲ得ス但其任期滿了ノ後之ヲ再選スルコトヲ妨ケス
(參照)一一二、舊一八五、佛千八百六十七年七月二十四日法二二、二五、蘭四四、一項、獨二〇九、一項五號、二二七、二項、匈一七九、一項一號、一八二、瑞六四四、三項一號、六四九、伊八九、八號、一二一、一二四、西一五五、羅九〇、一項八號、葡一七一、一項、一七二、一項、一七九、二項二號、白千八百七十三年五月十八日法四五、四七、四八、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, Nos. 52-61
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百八十五條第一項ニ該當スルモノニシテ唯聊力文字ノ修正ヲ爲シタルニ過キス而シテ第一項ハ取締役ハ必ス株主總會ニ於テ選任スルモノナルコト及ヒ取締役ハ必ス株主中ヨリ選任スヘキモノナルコトヲ示シタルモノナリ然ルニ此取締役ヲ選任スルニ付テハニ樣アリテ其第一期ハ本按第百十二條ニ於テ規定シ第二期ハ本條卽チ是ナリ此第二期ノ取締役ヲ選任スルニ付テハ必ス株主中ニ限ルヤ否ヤハ諸國ノ法律同シカラスシテ其多數ハ株主中ニ限ラサルモノトシタリ然レトモ元來取締役ハ會社ノ利害關係ニ付キ重要ノ責任ヲ有スル者ナルヲ以テ其信用ヲ保持スル爲メ株主中ニ限ルヲ以テ至當ナリト信スルヲ以テ現行法ノ主義ヲ本按ニ其儘採用シタリ次ニ第二項ハ全ク現行法ニ倣ヒタルモノナリ外國ニ於テハ白耳義國ノ外ハ法律上最少額ヲ定メタル立法例無キカ如シ然レトモ通常取締役ハ會社ヲ代表シテ其會社ノ資本ヲ運轉スルモノナレハ現行法ノ如ク三人以上シテ最少額ヲ限定スルヲ以テ至當ナリト信ス又第三項ハ取締役ノ任期ヲ定メタルモノニシテ此規定ハ既ニ述ヘタル本案第百十二條ナル第一期ノ取締役ト本條ノ第二期取締役トニ併セテ適用スル精神ナリ而シテ又現行法第百八十五條第二項ノ規定ハ之ヲ削除シタリ是他ナシ必竟此規定タルヤ敢テ不可ナリト云フニ非ラサレトモ法律上特ニ規定スルノ必要ナケレハナリ何トナレハ取締役カ三人アリテ此內ノ一人カ他ノ者ニ責任ヲ負フモ他ノ取締役ハ其責任ヲ負ハサルモノナランニハ玆ニ規定ノ必要アリト雖モ元來取締役ハ會社ノ機關ナルヲ以テ其機關ナル三人ノ內一人カ爲シタルコトハ當然他ノニ人モ亦其責任ヲ負フヘキモノニシテ第三者ヨリ見ルトキハ恰モ同一ノモノト看做スヘキモノナレハナリト
長谷川君ハ起草者ニ注意ヲ加ヘテ曰ク本條ニハ取締役ヲ株主中ヨリ選任スヘキモノトシ第百十二條ニハ何等ノ制限ナキハ釣合上不可ナルヲ以テ何レカ一方ヲ改メテハ如何ト
右ニ對シ岡野君答ヘテ曰ク然ラハ第百十二條ヲ「創立總會ニ於テハ株主引受人ノ中ヨリ取締役及ヒ監査役ヲ選任スルコトヲ要ス」トセハ可ナラント
本條ハ各項ヲ各條ニ改ムルニ決定シ而シテ第百十二條ハ岡野君ノ述ヘラレタル如ク修正スルコトニ決定シ他ハ原按ノ儘可決シテ次條ニ移レリ
第百三十六條 取締役ハ株主總會ノ決議ヲ以テ何時ニテモ之ヲ解任スルコトヲ得但任期ノ定アル場合ニ於テ其任期前ニ之ヲ解任シタルトキハ其取締役ハ會社ニ對シ解任ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
(參照)舊一九七、佛千八百六十七年七月二十四日法二二、蘭四四、二項、獨二二七、三項、匈一八三、二項、瑞六五〇、二項、伊一二一、羅一二二、一項、葡一七一、二項、一七二、一項、白千八百七十三年五月十八日法四五、四七、四八、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, No. 65
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百九十七條ノ中取締役ニ關スル規定ト略ホ同一ナリ此取締役ナルモノハ株主總會ノ信任ヲ得テ其會社ヲ代表シ事務ヲ執行スル機關ナルヲ以テ其信任缺亡センカ其任務ヲ解任セサル可ラス故ニ現行法ニ於テモ株主總會ノ決議ヲ以テ解任ヲ爲スコトヲ得トアリテ此㸃ハ本按モ亦同一ナリ然ルニ唯異ナルトコロハ現行法ニ於テハ右ノ如ク取締役ヲ解任スルモ其取締役ニ於テハ其解任セラレタル爲メ何等ノ請求權ヲモ會社ニ對シテ有セスト雖モ本案ハ損害賠償ノ請求權ヲ與ヘタルコト是ナリ尤モ現行法ニ於テ何等ノ請求權ヲモ與ヘサルハ想フニ若シ損害賠償ノ請求權ヲ與ヘンカ其賠償ヲ爲スノ難キヨリ會社ハ其取締役ヲ信任セサルニ抅ハラス解任ヲ爲スコトヲ得サル場合アランコトヲ恐レタルモノナルヘシ若シ然リトスレハ其理由ノ果シテ正當ナルヤ疑ナキ能ハス何トナレハ假令賠償ノ難キニモセヨ實際信任セサル者ニ對シ業務ヲ任カセ置クノ理由ナケレハナリ殊ニ況ンヤ一般損害賠償ノ規則ヨリ考フルモ此場合ニ限リ適用セサルノ理由ナキニ於テヲヤ故ニ本條但書ノ法文ニ示ス如ク任期ノ定アル場合ニ於テ其任期前ニ解任ヲ爲シタルトキハ其取締役ニ對シテ其解任セラレタルニ因リ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルノ權利ヲ與ヘタリ蓋シ其任期ハ第百三十五條第三項卽チ改正ノ第百三十七條ニ因リ三年以下タルコト固ヨリ言ヲ待タス從テ損害賠償モ自ラ其任期ノ短キ爲メ多額タラサルヘシト
穗積陳重君曰ク本條ノ解任トアルハ廣キ意味ニテ取締役カ自ラ職ヲ辭スル場合又ハ取締役ノ不信任ノ爲メ會社ヨリ解任スル場合ヲモ包含スルモノナルヤ法文ヲ一讀スルトキハ正當ノ理由ニ因リ解任スル場合ト正當ノ理由ナクシテ解任スル場合トヲ區別セサルモノノ如ク見工少シク其書キ方廣キニ失スルモノノ如シ要スルニ法文ノ意味ハ
株主總會ニ於テ正當ノ理由アルト否ナトニ抅ハラス苟モ解任ヲ爲ストキハ取締役ハ損害ノ賠償ヲ請求シ得ルノ意味ナルヤ法文上是等ノ㸃ニ付キ明瞭ナラスト
富井君曰ク余モ穗積陳重君ト同一ノ疑問ヲ有セリ尤モ民法ニ於テハ解任ノ內ニハ辭任ハ包含セサルヲ以テ此㸃ハ穗積君ノ如キ疑ハ之レナキモ此條ノ但書以下ノ規定ニ因ルトキハ取締役ハ如何ナル場合タルヲ問ハス苟モ任期內ニ解任セラレタルトキハ損害ノ賠償ヲ請求シ得ルカ如シ果シテ然リトスレハ其規定少シク廣キニ失スルヲ以テ取締役カ過失アルニ因リテ解任スル場合ハ此限ニ在ラスト云フカ如キ制限ヲ設クル方至當ナリト
右ニ對シ梅君辯シテ曰ク辭任ハ富井君ノ述ヘラレタル如ク解任ノ中ニハ包含セサルナリ衣ニ富井君カ最後ニ述ヘラレタルトコロハ理由アリ故ニ「取締役ノ責任ニ因リテ解任スルトキハ此限ニ在ラス」ト云フカ如ク修正シ其責ノ有無ハ取締役ヨリ證明セシムルコトニセハ可ナラン兔モ角此㸃ハ一應考ヘント
穗積陳重君曰ク只今梅君カ述ヘラレタル如ク修正セハ余モ滿足スルモノナリ尤モ辭任ノコトナルカ此辭任カ解任ノ內ニ入ラヌトスレハ自ラ辭シタルトキハ如何ニスルヤ
右ニ對シ梅君答ヘテ曰ク穗積陳重君カ最初ニ述ヘラレタル事ハ兎モ角本條ノ文章不完全ナレハ再考セン次ニ辭任ノコトナルカ辭任ハ自ラ辭スルモノニシテ解任ハ株主總會ノ決議ニ因リ會社カ爲スモノナレハ其間區別アリ而シテ辭任ハ一方行爲ニテ行ケルヲ以テ玆ニ何等ノ規定ナキトキハ民法委任ノ規定ヲ適用スルコトトナルヘシト
本條ハ文立早ヲ再考スルニナリ次條ニ移レリ
第百三十七條 取締役ハ就任ノ際定款ニ定メタル員數ノ株券ヲ監查役ニ供託スルコトヲ要ス
(參照)舊一八七、佛千八百六十七年七月二十四日法二六、瑞六一六、七號、六五八、伊八九、八號、一二三、羅九〇、一項八號、一二四、葡一七四、白千八百七十三年五月十八日法四七乃至四九
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百八十七條ニ該當スル規定ナリ舊商法ニハ取締役ノ在任中其株劵ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シ之ヲ會社ニ預ケ置クトアリ此主意タルヤ取締役ノ有セル株劵カ世間ニ出テンコトヲ恐レ佛國商法ノ規定ニ倣ヒシモノナラン然ルニ右ノ如ク融通ヲ禁スル印ヲ捺シテハ其取締役カ他日其任務ヲ辭シタルトキハ更ニ新タナル株劵ヲ造ラサル可ラサル爲メ不都合ナリトテ實業家ノ反對アリテ現行法ハ封印シテ之ヲ會社ニ預カルコトニ改マレリ然レトモ斯ノ如ク封印スルトモ矢張リ會社ニ預カル以上ハ取締役カ實際預カルヲ以テ取締役ハ自己ノ封印シタル株劵ヲ預カルコトトナルヘシ是等ハ穩當ナラサルヲ以テ寧ロ供託ヲ確實ニスル爲メ監査役ニ預クルヲ以テ優レリト信ス故ニ本案ハ此主義ヲ採用セリト
本條ハ異議ナク可決シ次條ニ移レリ
第百三十八條 會社ノ業務執行ハ取締役ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス支配人ノ選任及ヒ解任亦同シ
(參照)舊一四三、一八六、佛千八百六十七年七月二十四日法二二、蘭四四、一項、獨二三四、二三五、匈一八二、一九三、瑞六四九、一項、六五〇、伊一二一、一二二、一四一、一四三、羅一二二、一項、一二三、一四三、一四五、葡一七一、一七三、白千八百七十三年五月十八日法四三、四四、五三、五六、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, Nos. 55,56,66-71
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ別ニ說明スルノ必要ナシ唯會社ノ業務執行ハ取締役ノ過半數ヲ以テ決スルコトヲ示シタルモノニシテ合名會社及ヒ合資會社ノ規定中ニ於テモ「過半數」トノ主義ヲ採リシ故本條モ其主義ヲ一貫シタルニ過キスト
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百三十九條 第五十五條ノ規定ハ取締役ニ之ニ準用ス
(參照)舊一四三、一四四、一八六、佛千八百六十七年七月二十四日法二二、蘭四四、一項、四五、一項、獨二二七、一項、二二九乃至二三一、匈一八五、一八六、一八八、一九〇、瑞六五一、六五二、六五四、伊一二二、羅一二三、葡一七一、一項、白千八百七十三年五月十八日法四三、四四、五一、五二、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, Nos. 55,66-71
岡野君曰ク本條ノ規定中「之ニ」トアルハ「之ヲ」ト訂正セラレタシ偖本條ニ於テ本案第五十條ノ規定ヲ取締役ニ準用セシ所以ハ右第五十五條ニハ合名會社ヲ代表スヘキ社員ハ會社ノ營業ニ關シ一切ノ代表權ヲ有シ其代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ストアリテ取締役カ株式會社ヲ代表スル場合ニ適用シテ不可ナルコトナケレハナリ
穗積陳重君曰ク本案第五十五條ハ第一項及ヒ第二項ニ付テハ細ク法文ヲ規定シ其第三項ノミ民法ノ規定ヲ準用シタルハ如何ナル理由ナルヤ體裁上宜敷キヲ得サルカ如シト
右ニ對シ梅君答ヘテ曰ク右第五十五條ノ文章ニ付キ穗積君ノ批難ハ尤モナルヲ以テ整理迄ニ考ヘ置カント
本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第百四十條 取締役ハ株主名簿及ヒ株主總會ノ決議錄ヲ本店及ヒ支店ニ備フルコトヲ要ス
株主名簿ニハ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 各株主ノ氏名、住所
二 各株主ノ株式ノ數及ヒ株券ノ番號
三 各株式ニ付キ拂込ミタル金額及ヒ拂込ノ年月日
四 各株式ノ取得ノ年月日
五 無記名式ノ株券ヲ發行シタルトキハ其數、番號及ヒ發行ノ年月日
株主ハ何時ニテモ株主名簿及ヒ株主總會ノ決議錄ノ閲覽ヲ求ムルコトヲ得
(參照)舊一七四、二二二、佛三六、蘭四二、獨一八二、二二〇、匈一七三、瑞六三七、伊一四〇、一項、一四二、一六九、西一六二、羅一四二、一項、一四四、一七一、葡一六八、英千八百六十二年八月七日法二五、二六
岡野君ノ說明ニ曰ク本條大體ノ規定ハ現行法第百七十四條ノ規定ニ「株主總會ノ決議錄」ナル一事項ヲ加ヘタルニ過キス而シテ細目ニ至テハ株主名簿ニ記載スヘキ事項ニ付キ現行法第百七十四條ノ第四號中「及ヒ讓渡ノ年月日」ヲ削除シタリ是他ナシ「取得」ト「讓渡」トニ付キ區別ヲ設クヘキ必要ヲ見サルヲ以テ同一ト看做シタレハナリ又本條ノ第五號ハ現行法ニハ之レナキカ是全ク現行法ハ無記名式ノ株劵ヲ認メサル結果ニシテ本案ハ之ヲ認メタル以上ハ對照ニ便ナラシメンカ爲メ規定ノ必要アレハナリ終リニ一言スヘキ株主總會ノ決議錄ヲ何故本店及ヒ支店ニ備ヘ置クノ必要アリヤノ㸃是ナリ是他ナシ取締役ハ果シテ株主總會ノ決議方法ニ據ルヤ否ヤヲ知ルカ爲メ必要ナレハナリ
穗積陳重君曰ク本條第一項ニ「備フル」トアルハ「備ヘ置ク」トシテハ如何ト
梅君答ヘテ固ヨリ文字ノコトナレハ敢テ異議ナシト一
本條ハ「備ヘ置ク」ト文章ヲ修正シ而シテ第三項ノ規定ハ起草者ニ於テ再考スルコトニ決定シ次條ニ移レリ
第百四十一條 取締役ハ株主總會ノ認許アルニ非サレハ自己又ハ第三者ノ爲メニ會社ノ營業ノ部類ニ屬スル商行爲ヲ爲シ又ハ同種ノ營業ヲ目的トスル他ノ會社ノ無限責任社員ト爲ルコトヲ得ス
第三十二條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
(參照)五三、佛千八百六十七年七月二十四日法四〇、獨九六、九七、一九六a、二三三、伊一五〇、羅一五二、葡一七三、五項、白千八百七十三年五月十八日法五〇、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, No. 57
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ合名會社ニ關スル第五十三條ノ規定ト同一ノ精神ナリ要スルニ取締役カ自己ノ利益ト會社ヲ代表シテ會社ノ利益ト衝突ノ場合故ニ本條ノ如キ規定ハ必要ナリト信スレハナリト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百四十二條 取締役カ會社ト取引ヲ爲スニハ監査役ノ承認ヲ得ルコトヲ要ス
(參照)伊一五〇、羅一五二、葡一七三、四項、白千八百七十三年五月十八日法五〇、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, No. 57
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法ニ同一ノ規定ヲ見ス然レトモ取締役ノ一人カ其會社ト契約ヲ爲スニ當リ同一ノ人ニシテ一方ニハ自己ノ利益ヲ以テシ又一方ニハ會社ヲ代表シテ其會社ノ利益ヲ以テスルカ如キハ實際弊害ナキニ非ラサルヲ以テ是等ノ弊害ヲ防ク爲メ卽チ監査役ノ承認ヲ得ルコトヲ要ストセリ若シ他ノ主義ニ依リテ絕對的ニ禁示センカ是又取締役ニ對シ嚴格ニ失スルモノト謂ハサル可ラス是蓋シ本條ノ規定ヲ以テ其當ヲ得タルモノトシ玆ニ之ヲ提出スル所以ナリト
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百四十三條 取締役カ株主總會ノ決議ニ依リ法律又ハ定款ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキト雖モ第三者ニ對シ其責任ヲ免ルルコトヲ得ス
前項ノ規定ハ其行爲ニ對シ株主總會ニ於テ異議ヲ述ヘ且監査役ニ其旨ヲ通知シタル取締役ニハ之ヲ適用セス
(參照)舊一八八、佛千八百六十七年七月二十四日法一七、四四、蘭四五、獨二三一、二四一、匈一八九、一九一、瑞六七三、六七四、伊一二二、一四七、一四九、西一五六、羅一二三、一四九、一五一、葡一七三、一項乃至三項、白千八百七十三年五月十八日法五二
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百八十八條ノ外部ニ付キ規定ヲ設ケタルモノナリ凡ソ取締役カ法律ノ規定又ハ定款ニ從フヘキコトハ特ニ明文ヲ待タサルトコロニシテ而シテ株主總會ト云ヘトモ亦法律ニ反スル決議ヲ爲スコト能ハサルハ固ヨリ言ヲ待タス然レトモ若シ株主總會ニ於テ法律違背ノ決議ヲ爲シタル場合アルニ當リ取締役カ默シテ其決議ニ從ハン乎其取締役モ亦其決議ニ從ヒタルモノト看做ササル可ラス然ラハ卽チ責任ヲ免ルルコトヲ得サルヤ當然ナリ次ニ本條第二項ノ規定ハ取締役カ三人アルニ當リ其內ノ一人カ株主總會ニ出テ反對ノ意見ヲ述ヘ置キ且ツ監査役ニ其旨ヲ通知シテ置ケハ其者ハ前項ノ責ヲ免カルヘキカ爲メニ設ケタルモノナリ若シ此規定ナキトキハ例ヘハ取締役三人ノ中ニ於テ其ニ人ハ株主總會ノ決議ニ同意シ他ノ一人ハ其不法ノ決議シタル旨ヲ主張シタルニ抅ハラス等トシク其會社ノ機關ナリトノ理由ニ因リ共ニ其責ヲ負フニ至リ反對ヲ主張シタル取締役ニ對シ公平ヲ缺クノ嫌アレハナリト
議長(箕作君)ハ本條第一項ノ「法律」ナル文字ヲ「法令」ト改ムルノ修正讀ヲ提出シ起草委員ノ同意アリテ可決スルニ至リタリ
本條第一項ハ富井君ノ修正說可決シ原文ヲ「取締役力法令又ハ定款ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキハ株主總會ノ決議ニ依リタル場合ト雖モ第三者ニ對シテ損害賠償ノ責任ヲ免ルルコトヲ得ス」ト修正セリ以上ノ外本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百四十四條 取締役カ受クヘキ報酬ハ定款ニ其額ヲ定メサルトキハ株主總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
(參照)舊一九六、佛千八百六十七年七月二十四日法二二、蘭四四、一項、獨二二七、二項、匈一八二、伊八九、八號、羅九〇、一項八號、葡一七七、白千八百七十三年五月十八日法四三、英千八百六十二年八月七日法 Schedule I, Table A, No. 54
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百九十六條ノ規定中取締役ニ關スル部分ノ規定ト同=一シテ唯文章上少ク差異アルニ過キサルヲ以テ別ニ說明セスト
穗積陳重君ヨリ本條ノ文章ニ付キ批難アリタレトモ修正說ヲ提出スルニ至ラス故ニ原案ノ儘可決シテ散會ヲ吿ケタリ