第廿九回商法委員會議事要錄
明治廿九年十月五日午後三時五十五分開議
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
田部芳君
穗積八束君
奧田義人君
井上正一君
都筑馨六君
富井政章君
梅謙次郞君
三浦安君
菊池武夫君
重岡薰五郞君
磯部四郞君
岡野敬次郞君
第百二十一條 株券ニハ左ノ事項ヲ記載シ且之ニ番號ヲ附記スルコトヲ要ス
一 會社ノ商號
二 第百十六條第一項ニ定メタル登記ノ年月日
三 資本ノ總額
四 株式ノ總數及ヒ一株ノ金額
五 取締役ノ氏名
設立ノ際株金ノ全額ヲ拂込マシメサル場合ニ於テハ拂込アル每ニ其金額ヲ株券ニ記載スルコトヲ要ス
(參照)舊一七六、一七八、佛千八百六十七年七月二十四日法六四、蘭四一、獨二一五c三項、二二六、二項四號、匈一六四、二項、瑞六三八、伊一六五、一六七、西一六三、一六四、一項、羅一六七、一六九、葡一六七、白千八百七十三年五月十八日法三五、三項、三八
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法第百七十六條後段ノ規定ト同第百七十八條ノ規定トヲ併合シ之ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ現行法右第百七十六條後段ノ規定ニ因レハ株劵ニハ株式ノ金額、發行ノ年月日、番號、社名、社印、取締役ノ氏名、印及ヒ株主ノ氏名ヲ記載ストアリ然ルニ本按モ亦大體上ハ右ト同一ナリト雖モ本按第二號及ヒ第三號ニ至テハ新ニ之ヲ設ケタルモノナルヲ以テ此㸃ニ付キ聊力說明スヘシ右第二號ヲ設ケタル所以ハ前條ノ第一項ト相待ツノ精神ナリ何トナレハ右第一項ノ規定ニ因レハ株劵ハ第百十六條第一項ニ定メタル登記ヲ爲シタル後ニ非ラサレハ發行スルコトヲ得スト之レアルヲ以テ發行シタル株劵ノ果シテ登記シタル後ナルヤ否ヲ其劵面ニ現ハサシメンニハ第百十六條第一項ニ定メタル登記ノ年月日ヲ株劵ニ記載スルノ必要アレハナリ又第三號ヲ設ケタル所以ハ資本ノ總額ヲ株劵面ニ現ハストキハ其會社ノ大體ヲ知ルコトヲ得殊ニ株劵ノ賣買ヲ爲サントスルニ當リ其會社組織ノ大體ヲ知ルカ如キハ最モ便利ナレハナリ次ニ第二項ヲ設ケタル所以ハ既ニ第百二十條ニ於テ說明シタル如ク本按ハ現行法ト異ナリ株劵ノ發行ヲ一種ニ限リタレハナリ現行法ハ先ツ假株劵ヲ發行シ而シテ株金全額拂込ノ後ニ於テ更ニ本株劵ヲ發行シ以テ假株劵ト引キ換ユルノ主義ナリト雖モ此主義タルヤ極メテ不便ナルノミナラス頗ル手數ト費用トヲ要スルノ弊アリ是本按ニ於テ右ニ述ヘタル如ク改メタル所以ナリ蓋シ本案ノ如クセンカ拂込每ニ記載スルヲ以テ假株劵ト本株劵トヲ交換スルノ煩ナク且ツ世人ハ株劵ヲ一見センカ其幾何ノ拂込アリタルヤヲ知ルコトヲ得爲メニ詐僞ヲ兒カルルカ如キ利益アレハナリ
井上君ハ第三號ノ規定ヲ不必要ナリトシ其理由ヲ陳ヘテ曰ク本按ノ如ク株劵面ニ資本ノ總額ヲ記載スヘキモノトセンカ若シ他日資本ヲ增加スルカ如キ場合アランカ一々株劵面ヲ書キ變ヘサル可ラス是等ハ最モ手數ヲ要スルノミナラス特ニ記載スヘキ必要ヲ見スト
磯部君ハ井上君ノ意見ヲ贊成シ且ツ修正案ヲ提出シテ曰ク若シ株劵面ニ資本ノ總額ヲ記載センカ爲メニ世人ヲシテ誤謬ニ陷ラシムル恐レナシトセス何トナレハ會社ノ資本ト實際ノ財產トハ符合セサル場合多ケレハナリ殊ニ資本ノ總額ハ年度ノ計算書ニテ自ラ知ルコトヲ得ヘキヲ以テ株劵面ニハ成ルヘク確定ノモノ丈ヲ書クコトニ爲ス方可ナリ故ニ井上君カ陳ヘラレタル如ク第三號不必要ナルヲ以テ削除ノ說ヲ提出スト
右ニ對シ岡野君辯シテ曰ク若シ第三號ノミヲ削除センカ以テ磯部君ノ主意ヲ貫徹スル能ハサルヘシ何トナレハ假令ヒ資本ノ總數ヲ削除スルトモ第四號ニ株式ノ總數ナル規定アレハナリ故ニ第四號ニシテ記載スルノ必要アル以上ハ第三號ヲモ存スル方可ナリ不便ノ㸃ニ至テハニ者區別ナケレハナリト
井上君ハ第三號及ヒ第四號前半ノ規定ヲ併セテ削除スルノ說ヲ提出シテ曰ク一株ノ金額ハ特ニ記載スルノ必要アリト雖モ株式ノ總數及ヒ第三號ナル資本ノ總數ノ如キハ全ク記載スルノ必要ナシト
岡野君辯シテ曰ク若シ井上君ノ修正意見ノ如クセハ第三號及ヒ第四號全體ノ規定ヲ削除セサレハ其主意ヲ貫徹セサルヘシ何トナレハ何レモ關係ヲ有スルモノナレハナリ又井上君ハ資本增加ノ場合每ニ書キ替ユルハ頗ル不便ナリトノ事ヲ述ヘラレタリト雖モ本按ノ主意ニヨレハ株金拂込每ニ書キ加フル事故ニ縱令ヒ資本ノ增加セシ場合ニ書キ變ユルトテ左程ノ不便ハナカルヘシト
梅君ハ磯部君ノ第三號削除說ニ對シ辯シテ曰ク磯部君ハ第三號ヲ存スルトキハ有害ナルカ如ク論セラレタリト雖モ余ハ其理由ヲ了解セス既ニ岡野君カ辯セラレタル如ク資本增減ノ場合ハ其每ニ劵面ヲ書キ變ユレハ可ナルヘシ殊ニ資本ヲ墸減スレハ會社財產ノ增減アルカ如ク屢アルモノニアラス故ニ何人ニテモ知リ易キ爲メ劵面ニ記載スルヲ以テ至當ノ方法ナリト信スト
磯部君ノ第三號削除說ニ付キ
採決起立者少數
磯部君ノ修正說ハ成立セス次ニ井上君ノ修正說ニ重岡君ノ贊成アリテ
採決起立者少數
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百二十二條 株式ハ定款ニ別段ノ定ナキトキハ會社ノ承諾ナクシテ之ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得但第百十六條第一項ノ登記ヲ爲スマテハ之ヲ讓渡スコトヲ得ス
(參照)舊一八〇、佛千八百六十七年七月二十四日法二、二四、蘭四二、獨一八二、二二〇、瑞六三七、二項、三項、白千八百七十三年五月十八日法四〇、一項
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ現行法ニ類似ノ規定ナシ尤モ但書ノ意味ハ現行法第百八十條ニ文字カ違ヘルモ包含スルモノナリ蓋シ本條ノ主意ハ第一ニ株式ハ自由ニ他人ニ讓渡ス事ヲ得ヘキモノナルコトヲ示シ第二ハ定款ニ別段ノ定メカ出來得ルコトヲ示シタルモノナリ尤モ定款ニ別段ノ定メヲ爲ストハ例ヘハ此株式ハ讓渡ヲ禁スルトカ又ハ此株式ハ或地方ヲ限リ讓渡ヲ許サストカ若クハ外國人ニハ讓渡ヲ禁スルトカノ如キモノヲ云フ次ニ但書ノ規定ハ一見スルトキ恰モ不用ナルカ如シ何トナレハ第百二十條ノ規定ニ因ルトキハ株劵ハ登記ヲ爲シタル後ニ非ラサレハ發行スルコト能ハサルモノナレハ從テ登記ヲ爲ス迄讓渡スコトヲ得サルハ自ラ明ラカナレハナリ然ルニ抅ハラス特ニ設ケタル所以ハ第百二十條ハ株劵ナル書面ヲ主トシタル規定ナルモ本條但書ハ權利ノ方ヨリ言葉ヲ立テタルモノニテ自ラ觀察ノ㸃ヲ異ニスレハナリ要スルニ此但書ハ權利株ノ讓渡ヲ原則トシテハ禁スルノ主意ニテ設ケタルモノナリ
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第百二十三條 記名株式ノ讓渡ハ讓受人ノ氏名、住所ヲ株主名簿ニ記入スルニ非サレハ之ヲ以テ會社其他ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)舊一八一、佛三六、蘭四二、獨一八二、二二〇、匈一七三、一項乃至三項、瑞六三七、一項乃至六項、伊一六九、一項乃至三項、西一六二、羅一七一、一項乃至三項、葡一六八、二項、白千八百七十三年五月十八日法三七
岡野君ノ說明ニ曰ク本條大體ノ精神ハ現行法第百八十一條ノ規定ト同一ニシテ唯聊力修正ヲ加ヘタルハ現行法ニハ「住所」ノ文字之レナシト雖モ畢竟株金ノ拂込ヲ通知スルニ當リテハ最モ必要ナルモノナルヲ以テ新タニ之ヲ加ヘタリ蓋シ現行法右第百八十一條ニハ既ニ述ヘタル如ク住所ノ文字之レナシト雖モ第百七十四條ニ於テ株主名簿ニ各株主ノ氏名及ヒ住所ヲ記載スヘキコトヲ必要事項トシタル以上ハ當然第百八十一條ニモ包含スルモノナルヘシ果シテ然レハ唯文字上ニ現ハレサルヲ以テ本按ニ於テハ之ヲ文字ニ現ハシタルニ過キサルナリ衣ニ現行法第百八十一條ニハ取得者ノ氏名ヲ株劵ニ記載スヘキモノトセリ然レトモ本按ニ於テハ之ヲ削除シタリ何トナレハ株劵ハ有價證劵ナルヲ以テ株劵ト共ニ讓渡スヘキモノナレハ假令ヒ其讓渡シアリタル場合ト雖モ實際株劵ヲ共三議渡人ニ渡ササル迄ハ完全ノ權利ヲ讓渡シタルモノニ非ラサル故ニ株劵ヲ讓受ケタル者カ完全ノ權利ヲ得ント欲スルトキハ必ス會社ニ持チ行クヘキモノナレハ會社ハ其時ニ於テ讓受人ノ氏名ヲ株劵ニ書キ加フルモノト信スレハ特ニ記載スヘキ必要ナケレハナリ次ニ又現行法第百八十一條ニハ第三者ノ文字之レナキヲ以テ新ニ之ヲ加ヘタリ是他ナシ株劵ハ元來有價證劵ナルヲ以テ特ニ明文ヲ要セサルカ如シト雖モ畢竟株主名簿ニ讓受人ノ氏名住所ヲ記載スルハ恰モ不動產ノ移轉ニ付キ登記ヲ爲スト同シ理由ナルヲ以テ若シ株主名簿ニ記入セサランカ假令讓渡アリタルトモ其讓渡ハ第三者ニ對シ無效ナルコトヲ明文ニ揭クルヲ以テ當ヲ得タルモノト信シタレハナリ
磯部君曰ク本條ニハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ストアルカ此規定タルヤ今日實際ノ情況ト相反スルヲ以テ若シ此規定ノ如クセンカ爲メニ多少ノ變動ヲ來スヘシ然ルモ尙ホ不動產讓渡ノ如クスル必要アリヤ元來株劵ハ融通物ナルヲ以テ殆ト米ノ賣買ニ於ケルト同ク甲ヨリ乙ニ讓渡シ又乙ヨリ丙ニ讓渡シ一日ニシテ數度ノ讓渡シアルカ如キモノナルニモ抅ハラス本按ノ如クスルハ頗ル實際上ノ不便ヲ來スヘシト
右ニ對シ岡野君辯シテ曰ク余ハ磯部君ノ如ク解セス元來株劵ハ有價證劵ナルヲ以テ例ヘハ甲カ株式ヲ持チ居リ之ヲ乙ニ讓リ渡セハ必ス其際ニ株劵ヲ渡スヘキモノト信ス何トナレハ株式ノ讓渡ニハ株劵ハ必ス附隨シ居レハナリト
磯部君又自己ノ說ヲ主張シテ曰ク例ヘハ甲カ株劵ニ委任狀ヲ附ケテ乙ニ讓渡ス然ルニ乙ハ未タ株主名簿ニ其記入ヲ請求セス此際若シ甲ノ債權者カ乙ノ持居ル株劵ヲ差押ユル如キコトアランカ最モ不都合ナルヘシ加之ナラス定期賣買ノ如キハ如何ニスルカ是等ノ實例ニ照ストキハ種々ノ疑問ヲ生スルヲ以テ菟ニ角各商業會議所一ニ應諮問スル方可ナリト
右ニ對シ田部君辯シテ曰ク若シ磯部君ノ如ク便利上ヨリ言ヘハ本按ニ於テモ無記名株劵ヲ許シタルヲ以テ何レモ無記名株ヲ持ツ可ケレハ左程實際ノ不便ナカルヘシ又磯部君カ例證シタル差押ノ事ナルカ余ノ考ニヨレハ民事訴訟法第五百六十七條ニ因レハ第三者カ差押ヲ拒絕スルコトヲ得ルヲ以テ此㸃ハ本案ノ儘タリトモ敢テ差支ナカルヘシト
井上君修正ノ意見ヲ述ヘテ曰ク株主名簿ハ固ヨリ本社ニ備ヘ置クモノナルヘシ然レトモ若シ支店ヲ各地ニ設ケタルカ如キ場合ニ當リテハ其支店ニ於テモ亦本店ト同ク本條ノ手續ヲ爲ササレハ不便ナルヘシ故ニ此精神ヲ法文ニ明示セラレタシト
右ニ對シ岡野君辯シテ曰ク只今井上君カ述ヘラレタル㸃ハ本條ノ法文ニハ現ハレ居ラス然ルニ右ニ付キ余ノ考ヘハ一體株主名簿ハ必ス之ヲ本店ニ備ヘ置クヘキモノナレハ若シ各地ニ支店ヲ置カンカ此場合ニ於テハ其支店ヨリ本店ニ通知スヘク又本店ヨリモ支店ニ通知スヘキ實際ノ手績ニナルト考フ尤モ株主ノ請求ニ應シ株主名簿ヲ示スヘキモノトセハ各支店ニモ亦株主名簿ヲ備ヘ置クノ必要アルヘシト一
梅君亦辯シテ曰ク本條ノ手績ハ支店ニ於テモ出來得ヘキモノト解ス然レトモ其支店ハ本店ニ其手數ヲ爲セシ旨ヲ通知スルノ必要アルヘシ尤モ支店ト雖モ各株主名簿ハ備付アルヘシト思フ
井上君ノ株主名簿ニ於ケル修正意見ハ起草者ニ於テ再考スルコトニ決定セリ
菊池君曰ク今日實際ニ於テハ株劵ヲ讓受ケ株主トナリタルトキハ裏書ニ因リ正當ノ者ト認定シ訴訟上ニ於テモ有效トナリ來タレリ然ルニ本按ノ如ク株主名簿ニ記入スルノミトセハ若シ訴訟上證明ノ必要アルトキハ會社ハ證據トナルヘキモノヲ渡スコトニナルヤ此㸃ニ付テハ聊力疑アリト
右ニ對シ梅君答ヘテ曰ク本按ニ於テ裏書記入ノ時ヲ以テ權利移轉トセスシテ株主名簿記入ノ時ヲ以テ權利移轉ト爲シタル所以ハ裏書記入ニ比スレハ株主名簿記入ノ方實際手續上便利ナレハナリト
本條ハ裏書記入ニ關スル事ハ起草委員ニ於テ再考スルヲ留保シ原按確定シテ次條ニ移レリ
第百二十四條 株金ノ拂込ハ少クトモ二週間前ニ之ヲ各株主ニ催吿スルコトヲ要ス
株主カ期日ニ拂込ヲ爲ササルトキハ會社ハ更ニ一定ノ期間內ニ之ヲ爲スヘキ旨及ヒ其期間內ニ拂込ヲ爲ササルトキハ株主タル權利ヲ失フヘキ旨ヲ通知スルコトヲ要ス但其期間ハ二週間ヲ下ルコトヲ得ス
(參照)舊二一二、二一四、獨一八四、三項、一八四a、二一九、匈一七〇
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ第一ニ株金拂込ノ當時株主タル者卽チ主タル債務者ニ關スルコトヲ規定シ第二ハ會社ノ設立シタル際ニ株ヲ引キ受ケタル者卽チ從タル債務者ニ關スルコトヲ規定シタルモノナリ然リ而シテ本條第一項ノ規定ハ現行法第二百十二條ノ規定ト略ホ同一ナリ然レトモ稍異ナル所ハ現行法ニハ「株金ノ拂込ノ期節」トアルヲ本按ニ於テハ削除セリ蓋シ拂込ニ付キ每年何月ト云フカ如ク一定ノ期節ヲ定款ニ定ムヘキ旨ヲ法文上ニ規定スル必要ナキノミナラス斯ノ如ク規定スルトキハ却テ經濟上不利益ナレハナリ何トナレハ會社ハ實際其拂込ヲ希望セサルトキト雖モ其期節ノ定アルタメ拂込ヲ受ケサル可ラサル決果トナレハナリ以上ノ理由ニヨリ本按ハ單ニ催吿ニ關スル期間ヲ設ケタルノミナリ次ニ本條第二項ハ現行法第二百十二條乃至第二百十五條ト同第百八十二條トニ牽聯スルモノニシテ右第百八十二條ノ法文ニハ「株金半額拂込前ノ株式ノ讓渡人ハ讓渡後ニケ年間會社ニ對シテ其株金未納額ノ擔保義務ヲ負フ」トアルカ此擔保義務ナルモノハ株劵ヲ公賣シタル後ニ於ケルモノナルヤ將又公賣前ト雖モ其義務之レアルモノナルヤニ付キ疑ナキ能ハス余輩ハ現行法ノ解釋トシテハ右ノ擔保義務ハ公賣前ト雖モ之レアルモノト考フ故ニ公費手續ニ因ラスシテ會社ハ請求ヲ爲シ得ルモノト信スルナリ然レトモ是等ハ一ノ問題ナルヲ以テ本案ハ此㸃ヲ明カニスル爲メ本條ニ於テ先ツ主タル債務者ノ責任ヲ定メ次條ニ於テ從タル債務者ノ責任ヲ定メタリ尤モ現行法第二百十四條ノ規定ハ其實施前ニハ「其株主ニ對シテ株劵ノ所有權ヲ失ヒタリト宣言スルコトヲ得然ルトキハ其株劵ハ會社ノ所有ト爲ル」トアリタルヲ實施ノ際「會社ハ其株主ニ通知シテ其株劵ヲ公賣スルコトヲ得」ト修正セリ畢竟此修正ノ主意タルヤ法律上ノ規定トシテハ其當ヲ得タルモノト言ヒ難シ元來株主カ拂込ヲ爲ササルハ假令ヒ株劵ヲ公賚シ其得タル代金ヲ以テ拂込ヲ爲サント欲スルモ當時會社ニ信用ナク株劵ノ下落スル爲メ其賣却代償カ實際拂込ムヘキ金額ニ充タサル爲メ其拂込ヲ放任スルモノナルヲ以テ現行法ノ如ク會社カ直ニ公賣スヘキモノト爲ストモ右ノ理由ニ因リ其得タル代金ハ拂込金額ニ充タサルヘシ果シテ然レハトテ擔保義務者タル讓渡人ニ其擔保ノ義務ヲ負ハシメンカ其讓渡人ハ唯以前ニ株主タリシトノ理由ヲ以テ亠貢任ヲ負ヒ別ニ何ノ得ルトコロナキハ少シク嚴ニ失スルノ嫌アリ故ニ本案ニ於テハ擔保ヲ以テ第一トシ公賣ヲ以テ第二ノ手段トセリ而シテ擔保義務者ハ擔保ノ義務ヲ負フト雖モ又一方ニ於テハ其株式ヲ取得スルノ方法ヲ次條ニ於テ設ケタリ是蓋シ本條第二項ニ於テ豫メ株主タル者カ如何ナル場合ニ其權利ヲ失フモノナルヤニ付規定ヲ設ケタル所以ナリ
磯部君曰ク本條ハ次條ト關聯スルヲ以テ合セテ議事ニ付セラレンコトヲ建議スト
右ニ對シ岡野君贊成ノ意ヲ表セリ
議長ハ次條ト合セテ議事ニ付スル旨ヲ宣言シ定刻ナルヲ以テ本日ノ散會ヲ命シタリ
午後七時散會