明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第23回

参考原資料

備考

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第二十三回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
奧田義人君
橫田國臣君
都筑馨六君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
三浦安君
岡野敬次郞君
議長ノ宣吿ニ因リ起草委員提出修正按ヲ以テ先ツ本日ノ議事ニ付スルコトトナレリ
修正案起草委員提出
第五十九條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第六十條 會社ハ損失ヲ填補シタル後ニ非サレハ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ得ス
前項ノ規定ニ反シテ爲シタル配當ハ會社ノ債權者之ヲ返還セシムルコトヲ得
田部君ノ說明ニ曰ク舊商法ニ於テハ合資會社ニ於ケル第百五十三條ニ於テ本條ニ類スル規定アリト雖モ合名會社ニ至テハ更ニ右ノ規定ヲ見ス然レトモ本按ニ於テハ合名會社ニ於テモ亦必要アリト信スルヲ以テ玆ニ本修正案ヲ提出シタリ何トナレハ合名會社ヲ設立スルニ當テハ其當時設立ノ登記ヲ爲シ其會社ノ有スル財產ヲ第三者ニ示スヲ以テ第三者ハ其登記ニ因リ實際會社財產ノ幾許ナルヤヲ知リ居ルモノナルヲ以テ若シ本條ノ如キ規定ナカランカ以上ノ目的ト相反スルニ至ルヘケレハナリ畢竟本條ノ如キ規定ハ合名會社ニ必要ナル而已ナラス合資會社ト雖モ亦必要ナリ尤モ外國ニ於テハ合名會社ニ付キ本條ノ如キ規定ヲ設ケタルモノ之レナシト雖モ是全ク外國ノ合名會社ハ兄弟會社ト云フカ如キ性質ノモノニシテ實際利益ノ配當ヲ爲スコト之レナキヨリ其必要ヲ見サルモノナルヘシ然レトモ我國ニ於テハ之ニ反シ合名會社ト雖モ利益ノ配當ヲ爲ス以上ハ本條ノ如キ禁止的ノ法文ナキトキハ年々猥リニ配當ヲ爲スノ恐レアルヘシ例ヘハ會社設立ノ登記ヲ爲ス當時ニハ其財產ヲ百萬圓ト登記シアルモ其後其會社ノ事業振ハサル爲メ損失ヲ嵩メタルニ抅ハラス其損失ヲ嗔補セスシテ而シテ利益ノ配當ハ之ヲ爲スカ如キ場合アランカ實際其會社ノ財產ハ曾テ設立ノ際登記シタル財產ノ半額タモ及ハサルコトアルヘシ果シテ然ランカ是設立ノ際登記ヲ爲シ以テ其財產ヲ第三者ニ示シタル精神ヲ達スルモノナランヤ斯カル理由アルヲ以テ幸ニ本條ノ如キ規定ヲ設ケナハ猥リニ配當ヲ爲スノ弊ヲ防キ且ツ最初會社財產ヲ登記シ以テ公示シタル主意ヲ完フスルニ至ルヘケレハナリト橫田君曰ク要スルニ會社財產ノ增減ハ實際年々ノ計算書ヲ見サレハ其如何ナル狀體ニ在ルヤヲ知ルコト能ハサルヘシ故ニ本條ノ如キ害ナク亦利ナキ條文ヲ設ケ合名會社社員ヲシテ迷惑ヲ感セシムルヨリ寧ロ之ヲ削除スル方可ナラン殊ニ合名會社社員ハ無限責任ナルヲ以テ其責任會社財產ニ限ラサルニ於テヲヤト
右ニ對シ田部君辯シテ曰ク若シ合名會社ヲ以テ法人ニ非ラストシ而シテ會社ノ財產ハ其社員ノ財產ニシテ其社員ノ財產ハ亦會社ノ財產ナリト看做スカ如キ或國ノ法律主義ヨリ論スルトキハ橫田君ノ說其理ナキニ非ラスト雖モ本按ハ既ニ合名會社ヲ以テ法人ト看做シ而シテ其會社ハ別一ニノ會社財產ヲ有スルヲ以テ其會社ニ向テ債權ヲ有スル者ハ卽チ其會社財產ノ上ニ優先權ヲ有スルモノナリ故ニ本條ノ如キ規定ナカランカ其社員ノ無限責任タルニ抅ハラス右ノ債權者ヲ害スルノ結果ヲ生スレハナリト
長谷川君ハ第二項ノ規定ヲ批難シテ曰ク右第二項ノ規定ニ因レハ利益ノ配當ヲ爲シ既ニ社員ノ財產トナリタル場合ト雖モ尙ホ且ツ曾テ魯社ノ債權者タリシ者ハ其社員ノ廣權者ヨリカ優先ノ權利ヲ有スルカ如ク解セラレ穩當ナラスト
田部君辯シテ曰ク本條第一項ノ規定ニ從ハスシテ利益ノ配當ヲ爲シタルモノハ固ヨリ違法ノ行爲ト看做ササル可ラス故ニ假令ヒ配當ヲ爲シタリトモ其配當金ハ會社ノ所有財產ナリ然ルニ長谷川君ハ有效タリシモノヲ返還セシム、ル如ク解スルハ無理ナラスヤ本案ノ主意ハ固ヨリ所有權ノ移リタルモノヲ云フニ非ラスシテ元來其行爲無效ニシテ社員ニ所有權ノ移ラサルモノト見テ第二項ノ規定ヲ設ケタルモノナリト
梅君亦辯シテ曰ク本條第二項ヲ設ケタル所以ハ要スルニ若シ右ニ項ノ設ケナカランカ適用上會社カ一旦配當セシモノヲ自ラ取戾スコトトナリ而シテ其會社ノ債權者ハ直接社員ヨリ取戾スコト能ハサルコトトナルヘシ斯クテハニ重ノ手數ヲ要スルヲ以テ特ニ之ヲ設ケタルモノナリト
本條ハ橫田君ノ全條削除說及ヒ長谷川君ノ第二項ニ於サル批難アリタリト雖モ何レモ贊成者ナキヲ以テ成立セス原案ニ可決シテ次ノ修正案ニ移レリ
修正案起草委員提出
第六十五條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第六十六條 會社ノ解散ハ破產ノ場合ヲ除ク外一週間內ニ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ其登記ヲ爲スコトヲ要ス
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第百二十九條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ同條ノ規定ニ依レハ淸算ノ登記ト解散ノ登記トヲ同一ニ規定スト雖モ此主義タルヤ理論上穩當ナラス何トナレハ解散ハ畢竟淸算ヲ呼ヒ起スモノニシテ又或場合ニ於テハ淸算セサルモ解散スヘキコトアレハナリ故ニ本按ハ淸算ノ登記ト解散ノ登記トニ付キ別ニ規定ヲ設ケタリト
本條ハ種々ノ質問ニ止リ修正原按ニ可決セリ尤モ後ノ第七十四條ノ決議如何ニ依リ或ハ遡テ本條ノ決議ヲ動スコトアルヘシトノコトヲ多數者ノ意見ニ因リ留保スル旨議長ヨリ宣吿セラレタリ
第六節 淸算
(參照)舊一二九乃至一三五、民七三乃至八三、六八五乃至六八八、佛六四、蘭三二乃至三五、獨一三三乃至一四五、匈一〇八乃至一二〇、瑞五八〇乃至五八四、伊一九七乃至二〇九、西二二七乃至二三七、羅一九九乃至二一一、葡一三〇乃至一四四、白千八百七十三年五月十八日法一一一乃至一二一、英千八百九十年八月十四日法三八、三九、四四
田部君ノ說明ニ曰ク舊商法ハ解散ト淸算トヲ同一ニセリト雖モ本案ニ於テハ前條ニ於テ述ヘタル如ク區別ヲ設クヘキモノト信スルヲ以テ前節ノ規定アルニ抅ハラス特ニ本節ヲ設ケタリト
本節ノ標題ニ付テハ異議ナク原按ニ可決シテ次條ニ移レリ
第七十三條 會社ハ解散ノ後ト雖モ淸算ノ目的ノ範圍內ニ於テハ尙ホ存續スルモノト看做ス
(參照)民七三、獨一四四、匈一一九、伊一九八、三項、羅二〇〇、三項、葡一四四、白千八百七十三年五月十八日法一一一、一項
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法ノ規定中亦同一ノ意味ヲ包含スヘキモノナリト信ス卽チ其第百三十條ノ如キ是ナリ然レトモ法文ニ明示セサルヲ以テ本案ハ特ニ之ヲ明示シタル三過キス然リ而シテ本條ノ規定ニ付テハ民法第一編總則法人ノ規定ニ倣ヒ起草セシモノニシテ其第七十三條ニ於テハ「解散シタル法人ハ淸算目的ノ範圍內ニ於テハ其淸算ノ結了ニ至ルマテ尙ホ存續スルモノト看做ス」トノ規定アリト雖モ右ノ條文中「解散シタル法人」トノ文字ハ稍反譯的ノ嫌アルノミナラス又「其淸算ノ結了」云々ノ如キ文字モ穩當ナラスト信スルヲ以テ本按ハ本條ノ如ク文章ヲ改メタルニ過キスシテ其主意ニ至テハ固ヨリ全ク同一ナリ然ラハ則チ何カ故ニ民法ノ規定ヲ準用セサリシヤト云フニ是畢竟民法ニ於テハ公益法人ノ規定ナルヲ以テ準用スルコト能ハサレハナリト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第七十四條 定款又ハ總社員ノ一致ヲ以テ會社財產處分ノ方法ヲ定メサルトキハ後十三條ノ規定ニ從ヒ淸算ヲ爲スコトヲ要ス
會社財產ハ債權者ニ辨濟ヲ爲シ又ハ相當ノ擔保ヲ供シタル後ニ非サレハ之ヲ處分スルコトヲ得ス但債權者ノ承諾ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
(參照)舊一三二、一三三、蘭三二、一項、獨一三三、一項、一四一、匈一〇八、一項、一一六、瑞五八三、伊一九七、一項、二〇一、二項、西二二七、二三五、羅一九九、一項、二〇三、二項、葡一三〇、一三八、一項、白千八百七十三年五月十八日法一一二、一一八、一項
田部君ノ說明ニ曰ク元來會社財產ヲ處分シ其悉皆ノ財產ヲ以テ社員又ハ第三者ニ辨濟シ而シテ殘餘財產ヲ分配スルハ會社內部ノ事柄ナルヲ以テ社員內ニ於テ爲スコトヲ得ルハ當然ナルヲ以テ若シ定款又分總社員ノ一致ヲ以テ右ノ如キ處分方法ヲ定メアルトキハ其定メニ從フヘキハ勿論ナリト雖モ右ノ如キ定メナキトキハ如何是本條ノ規定ヲ要ス所以ニシテ此場合ニ於テハ後十三條ノ規定ニ從ヒ淸算ヲ爲スコトヲ要スヘキモノナリ次ニ第二項ニ於テハ債權者ニ辨濟ヲ爲シ又ハ相當ノ擔保ヲ供シタル後ニ於テハ其處分ヲ爲スコトヲ許ス爲メノ規定ニシテ此場合ニ但書ノ例外アルハ當然ナリ尤モ此第二項ノ場合ト雖モ第一項ト同ク會社解散シタル後ノ規定ニシテ而シテ定款又ハ總社員ノ一致ヲ以テ會社財產處分ノ方法ヲ定メサリシ場合タルコトハ勿論ナリト
本條ハ原按ニ可決セリ尤モ第二項ノ初メニ「解散後」ノ文字ヲ加フルト又第六十八條第二項ニハ「其辨濟ノ目的物ヲ供託シ」ノ規定アリト雖モ本條第二項ニハ其規定ナキヲ以テ釣合上穩當ナラストノ說トニ付テハ起草委員整理會マテニ考ヘ置クコトヲ留保セラレ次條ニ移レリ
第七十五條 會社カ解散シタルトキハ第六十五條第四號及ヒ第六號ノ場合ヲ除ク外淸算ハ總社員共同ニテ又ハ其選任シタル者ニ於テ之ヲ爲ス
淸算人ノ選任ハ社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
(參照)舊一二九、民七四、六八五、蘭三二、獨一三三、匈一〇八、瑞五八〇、一項、二項、伊一九七、二項、西二二九、羅一九八、二項、葡一三一、二項、白千八百七十三年五月十八日法一一二
田部君ノ說明ニ曰ク本條以下ハ淸算ノ狹キ純粹ノ規定ナリ而シテ會社解散シタルトキハ第六十五條ノ第四號及ヒ第六號ヲ玆ニ除外シタル所以ハ右第四號ニ於ケル會社合併ノ場合ハ一方ノ會社カ他ノ一方ノ會社ヲ引キ受クルヲ以テ淸算ノ必要ナク而シテ又第六號ニ於ケル破產ノ場合ハ別ニ破產ニ關スル規定ヲ要スレハナリ然リ而シテ以上ノ場合ヲ除ク外ハ何レモ淸算ノ必要アルヲ以テ玆ニ其淸算ヲ爲スヘキ者ヲ定メタリ就テハ淸算ハ固ヨリ社員共同ニテ爲スヲ原則ト爲スト雖モ又其社員ノ選任シタル社員ニ於テモ亦之ヲ爲シ得ヘキモノトセリ蓋シ或場合ニ於テハ社員自ラ淸算ヲ爲スコト能ハサル場合ナキニ非ラス故ニ其場合ハ社員ニ於テ選任シタル他ノ者ヲ以テ淸算ヲ爲スコトヲ得ヘキモノトセリ或國ニ於テハ會社ノ存立中業務ノ執行者タリシ者ヲシテ淸算ヲ爲サシムルノ主義ヲ採レルモノアリト雖モ畢竟淸算ハ會社ノ解散シタル後ニ於テ爲スヘキモノナレハ社員ノ間ニ右ノ如キ區別ヲ設クヘキ理由ナキナリ次ニ第二項ノ規定ハ淸算人ヲ選任スルノ方法ヲ定メタルモノニシテ民法第六百八十五條ノ規定アルニ抅ハラス玆ニ本項ヲ設ケタルハ特ニ必要ヲ感シタシハナリト本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第七十六條 淸算ニ關シ社員ノ協議調ハサル場合及ヒ第六十五條第五號ノ場合ニ於テハ裁判所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任ス
(參照)蘭三二、二項、獨一三三、二項、匈一〇八、二項、伊一九七、二項、羅一九九、二項、葡一三一、三項、白千八百七十三年五月十八日法一一二、一項、一一三
田部君ノ說明ニ曰ク本條及ヒ次條ハ淸算人ヲ選任スル變例ヲ規定シタルモノニシテ其本則ハ卽チ前條ノ規定是ナリ然ラハ則チ何故ニ右ノ如ク變例ヲ規定スルノ必要アリヤト云フニ單ニ本則ノミニテハ不便ヲ感スレハナリ然リ而シテ本項前段ノ規定ハ協議ノ調ハサル場合ニ其儘ニ打捨テ置カンカ頗ル不都合ナルヲ以テ斯カル場合ハ利害關係人ノ請求ニヨリ裁判所ヨリ淸算人ヲ選任スヘキモノトセリ又本項末段ノ規定ハ社員一人ト爲リテ其監督者ナク其社員カ勝手ニスルノ恐レアル場合又ハ其一人ト爲リタル社員死亡シ繼續者其會社ノ事ニ不案內ナルカ如キ場合ヲ想像シ斯カル場合ハ前段ノ場合ト同ク裁判所ヨリ選任スヘキモノトセリ終ニ一言ヲ要スルハ本條ト次條トヲ對照スルトキハ次條ノミ「檢事」云々ノ文字アリテ本條ニハ其文字ナキヲ發見スヘシ斯カル區別ヲ設ケタルハ畢竟次條ハ公益規定ナリト云ヘトモ本條ハ然ラサレハナリ
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第七十七條 會社カ裁判所ノ命令ニ因リテ解散シタルトキハ裁判所ハ利害關係人又ハ檢事ノ請求ニ因リ淸算人ヲ選任ス
田部君ノ說明ニ曰ク會社カ公ノ秩序ニ反シ又ハ善良ノ風俗ヲ害スル恐アルトキハ裁判所ハ公ノカヲ以テ其會社ノ解散ヲ命スルコトヲ得ルヲ以テ此場合ニ解散ヲ命シタル儘淸算ヲ爲ササルトキハ不都合ナルヲ以テ本條ノ規定ヲ設クルノ必要アリ玆ニ檢事云云トセシハ既ニ述ヘタル如ク本條ハ公益關係ノ規定ナレハナリト
本條ハ原案ニ可決シ次條ニ移レリ
第七十八條 會社カ事業ニ著手シタル後其設立カ取消サレタルトキハ解散ノ場合ニ準シ淸算ヲ爲スコトヲ要ス
此場合ニ於テハ第七十六條ノ規定ヲ準用ス
(參照)葡一三一、白千八百七十三年五月十八日法一一二、二項
田部君ノ說明ニ曰ク會社カ未タ事業ニ着手セサル間ハ其會社ノ設立ヲ取消ストモ淸算ノ必要ナシト雖モ既ニ事業ニ着手シタルトキハ幾分ノ事業既ニ出來居ルモノナレハ淸算ヲ爲スノ必要アリト信スルナリ蓋シ會社契約ノ取消サレタル場合ニ於テハ本按第七十五條ヲ適用スル一コト能ハサルヲ以テ解散ノ場合ニ準シ淸算ヲ爲スヘキモノトシ而シテ第七十六條ノ規定ヲ準用スヘキモノト爲シタリ尤モ舊商法ニ於テハ本條ニ類スル法文ヲ見スト
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第七十九條 淸算人ヲ選任シタルトキハ其淸算人ハ一週間內ニ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ自己ノ氏名、住所ヲ登記スルコトヲ要ス
(參照)舊一二九、民七七、獨一三五、匈一一〇、瑞五八〇、三項、伊一九七、四項、西二一、一項六號、羅一九九、四項
田部君ノ說明ニ曰ク會社カ解散ヲ爲ストキハ從來會社ヲ代表セシ社員ハ其資格ヲ失ヒ淸算人其資格ヲ得ルニ至ルヲ以テ會社ト取引スル者ハ其代表者ノ何人ナルヤヲ知ルノ必要アリ然ルニ淸算人ハ每ニ之アリト云フニ非サレハ本條ノ法文ニ於テハ特ニ「選任シタルトキハ」云云トセリ尤モ本條ハ舊商法第百二十九條ノ一部ヲ採用セシモノナレハ其部分ニ對シテハ同一ノ主意ナリト
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第八十條 淸算人ノ職務左ノ如シ
一 現務ノ結了
二 債權ノ取立及ヒ債務ノ辨濟
三 殘餘財產ノ分配
淸算人ハ前項ノ職務ヲ行フ爲メニ必要ナル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス
(參照)舊一三〇、民七八、六八八、一項、蘭三三、獨一三七、匈一一二、瑞五八二、伊二〇一、一項、二〇二、二〇三、西二二八、羅二〇三、一項、二〇四、二〇五、葡一三四、一三六、白千八百七十三年五月十八日法一一四乃至一一六
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ淸算人ノ職務權限ヲ定メタルモノニシテ民法第七十八條ノ規定ニ倣ヘルモノナリ尤モ民法第七十八條ニ於テハ其第三號ニ「殘餘財產ノ引渡」トアルヲ本按ハ改メテ「殘餘財產ノ分配」トセリト雖モ是他ナシ民法ニ於テハ歸屬權利者ニ悉皆引渡スコト之レアルヘケレハ「引渡」ノ文字適當タルヘシト雖モ會社ニ於テハ實際斯カルコト之レナキヲ以テナリ次ニ本條第二項ノ規定ハ民法第七十八條第二項ノ規定ト殆ト同一ナリト雖モ唯異ナル所ハ右ニ於テハ「必要ナル一切ノ行爲」云云トアルヲ本案ニ於テハ「一切ノ裁判上又ハ裁判外」云云ト改メタルニ過キス是レ他ナシ商法ニ於テハ從來斯カル場合ニハ本條ノ如キ用例アルヲ以テ之ニ倣ヒタルモノナリト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シテ次條ニ移レリ
第八十一條 淸算人數人アルトキハ淸算ニ關スル一切ノ行爲ハ其過半數ヲ以テ之ヲ決ス但第三者ニ對シテハ各自會社ヲ代表ス
(參照)民六八六、獨一三六、匈一一一、西二二九、葡一三一
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法ニ全ク類似ノ規定ナシト雖モ特ニ必要ナリト信シテ之ヲ設ケタリ何トナレハ淸算人數人アル場合ハ如何ニシテ淸算ニ關スル行爲ヲ決スヘキヤノ問題生スレハナリ然レトモ右ノ如ク規定シタルニ抅ハラス元來淸算人ハ內部ノコトナレハ外部ニ向テ對抗スヘカラサルヲ以テ但書ヲ設ケ第三者ニ對シテハ各社員會社ヲ代表スヘキモノトセリト
本條ハ原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第八十二條 淸算人ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)舊一三一、獨一三八、匈一一三、葡一三四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第百三十一條ノ一部分ヲ採用セシモノニシテ其異ナルトコロハ舊商法ニ於テハ善意惡意ノ區別ナシト雖モ本按ハ其區別ヲ設ケタルニ過キスト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第八十三條 淸算人ハ就職ノ後遲滯ナク會社財產ノ現況ヲ調査シ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作リ之ヲ社員ニ交付スルコトヲ要ス
淸算人ハ社員ノ請求ニ因リ每月淸算ノ狀況ヲ報吿スルコトヲ要ス
(參照)伊二〇〇、西二三〇、羅二〇二、葡一三二、一三三、一三九
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ規定ハ舊商法ニ同一ノ規定之レナキノミナラス外國ニ於テモ斯カル規定ヲ設ケタルノ例稀少ナリ然レトモ本案ニ於テ特ニ之ヲ設ケタル所以ハ淸算人カ就職スルトキハ社員ハ其財產ノ貸借如何ナル狀體ニ在ルヤヲ知ルノ必要アレハナリ又第二項ノ必要ナル所以ハ淸算ニ付キ數月ヲ要スル場合ノ如キトキハ社員ハ其間ニ於テ右ノ狀況ヲ知ルノ必要アレハナリ故ニ社員ノ請求アルトキハ總テノ社員ニ向テ每月淸算ノ狀況ヲ報吿スヘキモノトセリト本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第八十四條 重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ本人又ハ社員ノ請求ニ因リ淸算人ヲ解任スルコトヲ得
(參照)舊一三一、民七六、六八七、獨一三四
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第百三十四條ノ一部ヲ採用シタルモノナリ舊商法ニ於テハ「社員ノ申立」トノミアリテ「本人」ト云フコト之レナシト雖モ本按ニ於テハ特ニ之ヲ加ヘタリ是他ナシ本人ト雖モ疾病其他ノ事情ニ因リ自ラ請求スルノ止ムヲ得サル場合アレハナリ其他ニ至テハ舊商法ノ一部ト更ニ差異ナシト
本條ハ異議ナク原按ニ可決シ次條ニ移レリ
第八十五條 淸算人ノ解任又ハ變更ハ一週間內ニ本店及ヒ支店ノ所在地ニ於テ之ヲ登記スルコトヲ要ス
(參照)獨一三五、匈一一〇、瑞五八〇、三項、伊一九七、西二一、一項六號
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法ニ類似ノ規定之レナシト雖モ現ニ本案ニ於テ淸算人ノ登記ヲ爲スヘキモノト爲シタル以上ハ特ニ必要ナルヲ以テ之ヲ設ケタルモノナリ而シテ「變更」ノ必要ナル所以ハ全ク登記手續ノ簡便ヲ主トスルト今一ツハ死亡ノ如キ全ク解任ニアラスシテ變更ナレハナリト
本條ハ次回迄ニ起草委員再考スルコトニ決定シ次條ニ移レリ
第八十六條 淸算人ノ任務カ終了シタルトキハ淸算人ハ遲滯ナク計算ヲ爲シテ各社員ノ承認ヲ求ムルコトヲ要ス
前項ノ計算ニ對シ社員カ一个月內ニ異議ヲ述ヘサリシトキハ之ヲ承認シタルモノト看做ス但淸算人ニ不正ノ行爲アリタルトキハ此限ニ在ラス
(參照)獨一四二、匈一一七、伊二〇八、西二三三、羅二一〇、葡一四〇、一四一、白千八百七十三年五月十八日法一二一
田部君ノ說明ニ曰ク本條ノ一部分ハ舊商法第百三十一條ニ包含スルモノノ如シト雖モ舊商法ノ規定ハ簡單ニシテ明瞭ナラサルヲ以テ本按ハ本條ノ如ク頗ル明瞭ニ規定シタリ故ニ第一項ニ於テハ各社員ノ承認トシ而シテ其承認ニ付キ第二項ニ於テハ期間ヲ設ケ一ケ月トセリ尤モ淸算人カ不正ノ行爲アル場合ノ如キハ但書ヲ以テ例外ヲ設ケタリト
本條ハ第一項及ヒ第二項ノ「計算」ナル文字ヲ「決算報吿」ト修正スルコトニ決定シ他ハ原按ノ儘可決シ次條ニ移レリ
第八十七條 會社ノ帳簿及ヒ淸算ニ關スル一切ノ書類ハ十年間之ヲ保存スルコトヲ要ス但其保存者ハ社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
(參照)二八、舊一三四、獨一四五、匈一二〇、伊二〇九、羅二一一、葡一四二、一四三
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第百三十四條ニ修正ヲ加ヘタルモノナリ舊商法ノ期限ニ付テハ本案ト同一ナリト雖モ其異ナルトコロハ舊商法ニ於テハ本條但書ノ如キ規定ヲ見スト雖モ既ニ本文ニ於テ保存ノ規定ヲ設ケタル以上ハ其保存者ヲ定ムルノ方法ヲ定メ置クノ必要アリト信スルヲ以テ特ニ之ヲ設ケタルモノナリト
本條ハ「一切ノ書類ハ」ノ下ニ「淸算ノ決了後」ノ六字ヲ加フルコトニ決シ他ハ異議ナク原按ニ可決シテ次條ニ移レリ
第八十八條 第五十六條ニ定メタル社員ノ責任ハ會社解散ノ登記後五年ヲ經過シタルトキハ消滅ス
分配セサル殘餘財產尙ホ存スル場合ニ於テ會社ノ債權者カ之ニ對シテ辨濟ヲ請求シタルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ以テ其債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)舊一三五、佛六四、獨一四六、一四七、匈一二一、一二二、瑞五八五、五八七、伊九一九、西九四九、羅九四一、葡一五〇、白千八百七十三年五月十八日法一二七
田部君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第百三十五條ノ規定ト全ク同一ニシテ唯文章ヲ改メタルニ過キスト
本條ハ第二項ノ「尙ホ」ノ文字ヲ起草委員整理會迄ニ再考スルコトニ決定シ他ハ原按ノ儘ニ可決シテ散會セリ