第二十一回商法委員會議事要錄
明治二十九年九月四日午後三時三十七分開議
出席員
箕作麟祥君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
西源四郞君
岸本辰雄君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
三浦安君
岡野敬次郞君
第六十七條 會社カ合併ノ決議ヲ爲シタルトキハ決議ノ日ヨリ一週間內ニ其債權者ニ對シ異議アラハ一定ノ期間內ニ之ヲ述フヘキ旨ヲ公吿シ且知レタル債權者ニハ各別ニ之ヲ催吿スルコトヲ要ス
前項ノ期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス
(參照)伊一九四、葡一二六
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク會社カ合併ヲ爲スハ實際上必要ト認メ此條ヲ規定セリ而シテ合併ヲ認メタル以上ハ債權者ヲ保護スル規定ヲ置カサルヘカラス而シテ合併ニ付テハ既ニ前條ニ於テ述ヘタルカ如ク總社員ノ一致ヲ以テ合併ノ決議ヲ爲シタルトキハ債權者ニ其日ヨリ一週間內ニ於テ一定ノ期間內ニ異議ヲ述フヘキ旨ヲ公吿シ且知レタル債權者ニ催吿ヲ爲スモノトス、其期間ニ付テハ或ハ長キニ失スルトノ說アリ又短キニ失スルトノ說アリト雖モ此條ニ付テハ民法コニ於テモ既ニ之カ類例アリ故ニ先ツ之ニ倣ヒ「ニ个月ヲ下ルコトヲ得ス」トノ案ヲ提出セリ依テ期間長短ノ可否ニ付テハ十分ニ討議セラレンコトヲ望ム然リト雖モ之カ期間ヲ全廢セント云フカ如キハ不可ナリ孰レニセヨ債權者ヲ保護センニハ期間ナクシテ行ハントスルカ如キ不能ノコトト信ス
第六十八條 債權者カ期間內ニ會社ノ合併ニ對シ異議ヲ述ヘサルトキハ之ヲ承認シタルモノト看做ス
債權者カ異議ヲ述ヘタルトキハ會社ハ之ニ辨濟ヲ爲シ、其辨濟ノ目的物ヲ供託シ又ハ之ニ相當ノ擔保ヲ供スルニ非サレハ合併ヲ以テ之ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)伊一九五、葡一二五
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ債權者保護ノ方法ナリ債權者カ公吿ヲ爲シタル一定ノ期間內ニ異議ヲ述ヘサルトキハ債權者ハ之ヲ承認シタルモノト看テ其以後ハ異議ヲ申立ルコトヲ得ス若シ其期間內ニ異議ヲ述ヘタルトキハ會社ハ此債權者ニ辨濟ヲ爲スカ、或ハ其弊濟ノ目的物ヲ供スルカ相當ノ擔保ヲ供スルトキハ合併ヲ爲スコトヲ得ヘシ然ラサレハ異議ヲ述ヘタル債權者ニ對シ對抗スルコトヲ得サルヘシ若シ亦債權者ニシテ其期間內ニ異議ヲ申立テサルトキハ之ヲ認メタルモノト看做ス故必ス一定ノ期間內ニ異議ヲ申立サルヘカラス
長谷川君ハ本條ニ付キ修正說ヲ提出シテ曰ク本條第二項末文ヲ「目的物ヲ供託シ又ハ之ニ相等ノ擔保ヲ供スルニ非サレハ合併ヲ爲スコトヲ得ス」ト致タシ何トナレハ會社ノ合併ハ變例故可成之ヲ狹クナシ會社カ債權者ニ對シテノミ對抗セシムルモノト爲サスシテ債權者以外ノ他ノ者ニ對シテモ對抗シ能ハサルモノトシタシ又第二ノ理由ハ甲會社ハ乙會社ヲ多クノ財產ヲ有セシモノト信シ合併セシニ乙會社ハ債權債務ノ差引計算ヲ爲ストキハ負債ノ多キ爲メ甲會社ノ債權者カ右合併ニ付キ異議ヲ述ヘシ場合ニハ是ニ對シ辨濟若クハ供託ヲ爲ストキハ兎モ角然ラサレハ一旦拂渡シタル貭權者數人アルニ係ラス一人ノ債權者ノ異議アリシ爲メ取戾サルルハ殘酷ナリト云フヘシ故ニ此場合ハ合併シタル後債權者ノ請求アリシトキ擔保ヲ供ササレハ合併ヲ爲スコトヲ得サルコトニ爲スヲ望ムト此說ニハ贊成者アリ田部君ハ右修正說ヲ駁シテ曰ク本條第二項ニ規定セル如ク會社ハ債權者ニ辨濟ノ目的物ヲ供託スルカ或ハ辨濟ヲ爲スカ或ハ之ニ相等ノ擔保ヲ供託セサレハ合併ハ爲スコトヲ得ス若シ此規定ニ反セシトキハ其行爲ハ無效トナルヘシ若シ此會社ニシテ債權者ニ辨濟ヲ爲サス或ハ辨濟ノ目的物等ヲ供セスシテ甲會社カ乙會社ト合併スレハ負債ヲ有スル所ノ甲會社ノ財產ヲ乙會社ハ差押フレハ可ナリ是等ニ付テハ乙會社カ人ハ些少ノ勞ヲ採ルニ於テハ他人ニ些少ノ損失ヲモ被ラシムルコトナシ斯カル些少ノ手數ヲ採ルハ乙會社ハ致方ナカルヘシ又會社ノ合併スルトキハ債權者ノ異議ヲ述ヘシニモ抅ラス猶ホ抛棄シ置クカ如キ會社ハ實際上在ラサルヘシ故ニ本條ハ原案ノ儘ニセラレンコトヲ望ムト述ヘ右長谷川君ノ案ヲ起立ニ間ヒシニ少數ニテ消減セリ
次ニ橫田君ハ起草者ニ協議シテ曰クニ項ハ債權者カ異議ヲ述フルモ債務者カ承知シツツ辨濟ノ目的物ヲ供セサルモ宜シキコトトナリ法文上辨濟若クハ擔保ヲ强ユルコトヲ得サル結果ヲ生スヘシ故ニ此場合ハ債務者ヨリ擔保ヲ供セサレハ對抗シ得ルコトト致タシト述ヘシニ梅君ハ橫田君ニ答ヘテ曰ク本條ノ趣旨ハ長谷川君ト同一ニシテ辨濟ヲ爲サシムルカ或ハ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトトシタシ畢竟債權者ヲシテ辨濟ヲ爲シ又ハ供託ヲ爲サシムル權利アラシムルモノト爲シタシト述ヘ長谷川君ハ本條ノ文章上擔保ヲ供セシムルトハ表面ヨリ解スルヲ得ス修正ノ必要アリト本文ノ宜シカラサルコトヲ述ヘ其等協議ノ結果修正案ヲ提出シテ第二項ノ末文ヲ「之ニ相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得」ト爲シ別ニ第三項ヲ設ケ「前項ノ規定ニ反シテ爲シタル合併ハ之ヲ以テ異議ヲ述ヘタル債權者ニ對抗スルコトヲ得ス」トノ案ニ改メタリ此案ニ贊成者アリテ起立ニ間ヒシニ多數ニテ改ムルコトトナレリ
第六十九條 會社カ第六十七條ニ定メタル公吿ヲ爲サスシテ合併ヲ爲シタルトキハ之ヲ以テ其債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
會社カ知レタル債權者ニ催吿ヲ爲サスシテ合併ヲ爲シタルトキハ之ヲ以テ其催吿ヲ受ケサリシ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)伊一九五、葡一二五
田部君ハ說明シテ曰ク本條ハ第六十七條ニ定メタル公吿若クハ催吿ヲセサル效果ヲ規定セリ而シテ第六十七條ニ定メタル公吿ヲ爲ササルトキハ總テ會社ノ債權者ニ對抗スルコトヲ得サルヘシ又第二項ハ知レタル債權者ニ催吿セヌト實際上合併ヲ以テ對抗スルコトヲ得サルコトトナルヘシ
磯部君ハ起草者ニ協議シテ曰ク第六十九條第二項ノ場合ニハ知レタル債權者ニ催吿ヲ爲サスシテ合併スレハ其知レタル一㸃ヲ以テ法文上合併ハ債權者ニ對抗シ得サルコトトナルヘシ乍併知レタル債權者ニハ常ニ會社トモ往復ヲ爲シ其情況ヲモ知ル故對抗シ得スト爲サンヨリハ寧ロ此者ニハ公吿ヲ爲セハ十分ナリ知レヌ債權者ハ會社ト往復モ爲サス加之會社トハ關係ハ薄キカ爲メ催吿ノ規定ナキ爲メ極メテ不幸ノ地位ニ立ツモノト云フヘシ反之知レタル債權者ハ何十年モ異議ヲ述フルコトヲ得テ知レサル債權者ト權衡上穩カナラス故ニ第二項ニ於テハ會社ノ合併ハ事實上知レハ異議ヲ述フルヲ得ストノ規定ハ必要ナリ又不注意ニテ通知漏レニナリ其者カ十年モニ十年モ對抗シ得ルコトトナリテハ隨分困ルヘシト述ヘシニ田部君ハ之ニ答ヘテ知レタル債權者ハ會社ト或部分ノ債權者ハ知ルモノアルモ一槪ニハ云フコトヲ得ス故ニ催吿ヲ爲スノ必要ヲ生スヘシ次ニ催吿ヲ受ケサルコトカ事實上合併シタルコトカ會社ニ對シ證明シ得ラルレハ債權者ニ對シテモ會社ノ合併ヲ對抗シ得ル故强ヒテ善意惡意ヲ區別スルノ必要ナシト述ヘ最後ニ梅君ノ發議ニテ磯部君ノ協議ハ考フルコトニ決セリ
富井君モ又起草者ニ協議シテ曰ク本條中第一項ノ末文ヲ「其合併ハ之ヲ以テ其債權者」云々ト爲シ第二項ノ末文モ「其合併ハ之ヲ以テ其催吿ヲ受ケサリシ債權者ニ」云々トシ亦第二項モ末文ヲ「合併ヲ爲シタルトキハ其合併ハ」云々ト改メテハ如何會社ノミナラス誰ニモトナル考ナリ一部ノ債權者ハ辨濟ヲ受ケシ故責メテハ惡意者丈ケニモ制裁ヲ加ヘタシトノ趣旨ナリ此協議案ニ贊成者アリテ採決セシニ多數ニテ改ムルコトトナレリ
第七十條 會社カ合併ヲ爲シタルトキハ合併後存留スル會社ニ付テハ變更ノ登記ヲ爲シ、合併ニ因リテ消滅シタル會社ニ付テハ解散ノ登記ヲ爲シ、合併ニ因リテ設立シタル會社ニ付テハ第四十五條第一項ニ定メタル登記ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)伊一九四、葡一二四、二項
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ合併ニ付テノ登記ノコトヲ規定セリ而シテ合併ノ場合ハニ種類アリテ第一ハ甲ノ會社カ乙會社ニ合併セシトキハ其結果トシテ乙會社ハ定款ヲ變更セサルヘカラス故ニ此場合ハ變更ノ登記ヲ爲シ甲會社ハ合併シタル爲メ消滅スルヲ以テ解散ノ登記ヲ爲スコトトナルヘシ第二ノ場合ハ甲會社ト乙會社ト合併シテ丙會社ナルモノヲ設立シタルトキハ甲乙兩會社ハ消滅スルヲ以テ解散ノ登記ヲ爲シ丙會社ハ設定ノ登記ヲ爲ササルヘカラス帥第四十五條第一項ノ登記ヲ爲スコトトナルヘシ
第七十一條 合併後存留スル會社及ヒ合併ニ因リテ設立シタル會社ハ合併ニ因リテ消滅シタル會社ノ權利義務ヲ承繼ス
(參照)伊一九六、葡一二七
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク說明前訂正スル所アリ「會社及ヒ」ハ「又ハ」ノ誤ナリ偖本條ハ合併ノ結果ヲ認メタル規定ナリ既ニ合併シテ存留スル會社又ハ合併ニ因リ設立シタル會社ハ合併ニ因リ舊會社ノ權利義務ヲ承繼スルモノナリ恰モ合併ニ因リテ死亡者ノ相續人トナルト同一ニ其會社ノ權利義務ヲ引受クルカ會社ノ目的ナリ合併ニ因リテ解散セシ會社ノ權利義務ヲ承繼シ會社ノ相續人ノ如クナリ承繼スルモノトス
第七十二條 已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各社員ハ會社ノ解散ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但裁判所ハ會社ノ解散ニ代ヘテ或社員ヲ除名スルコトヲ得
(參照)舊一二七、民六八三、佛民一八七一、獨一二五、匈一〇〇、瑞五四七、伊一八九、五號、西二二一、二號、葡一二〇、一項五號
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ舊商法第百二十七條ノ一部ヲ改正シタルニ過キス會社解散ノ原因中裁判所ノ命令ヲ以テ爲スコトアリ如何ナル場合ニ裁判所カ爲スカ先ニ列擧シタル規定ノミニテハ不足故既成商法百ニ十七條ニ相當スル本條ヲ置クコトトセリ本條ノ實用ハ如何ナル場合ニ在リヤ各社員互ニ軋轣シテ事業ヲ爲スコトヲ得ス又ハ是カ爲メニ各社員ハ解散ニ一致セルトキハ社員ハ其一致ニテ解散スルコトヲ得ヘシ次ニ但書ハ一人ノ社員ノ爲メ解散ノ申請アリシモノト裁判所カ認ムレハ其人ヲ退社セシメ後トハ其儘ニ繼續セシムルコトトセリ
橫田君ハ本條ニ付キ起草者ニ協議シテ曰ク本條ハ裁判所ノ職權ヲ以テ解散ニ代ヘ或社員ヲ除名スルコトヲ得ルトノコトナルカ裁判所ノ職權ヲ商事、民事ニ行フハ濫用ノ弊アリテ宜シカラス故ニ此場合ヲ改メ「會社ノ解散又ハ或社員ノ除名ヲ請求スルコトヲ得」トシテハ如何ト述ヘ梅君ハ其設ニ付テハ相談ニ應シ難キコトヲ述ヘ數回ノ辯論アリテ其結果トシテ本條但書ニ「請求ニ因リ」ノ五字ヲ加フルコトトナレリ
午後七時十分散會