明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第18回

参考原資料

備考

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第十八回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
本野一郞君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
西源四郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
金子堅太郞君
磯部四郞君
三浦安君
岡野敬次郞君
商乙第四號
株式合資會社ニ關スル規定ヲ設クルコト
岡野君ハ右豫決問題ニ付キ說明シテ曰ク株式合資會社ニ關スル規定ハ既成法典ニナシ余輩ハ今回法典中ニ設クル考ナリ其理由ハ如何ナル性質ノ會社ナルカハ諸君ハ承知ノコトト信ス乍併名稱ノ新シキ故玆ニ說明シ置カン株式合資會社ハ無限責任社員カ醵出シタル所ノモノト有限責任社員ノ出資ヲ株式ニ分チタル合資會社ニシテ其會社ヲ組織センモノハ通常ニ種アリ一人若クハ數人カ會社ノ業務ニ付キ無限責任社員ナルコト並ニ會社所有ノ財產卽設立ニ付キ申込或ハ引受ノ株式ニ付テノミ責任ヲ負擔スル有限責任社員ナルコト是ナリ法律上ノ性質ニ付テハ詳細ニ說明スルヲ要セサルモ經濟上ノ性質ヨリ論ロスルトキハ通常ノ合資會社ト異ラス卽本質ハ合資會社ニシテ各國ノ立法例モ株式合資會社ハ株式會社ニ類似スルヲ以テ之カ性質ニ付キ種々ノ論アリテ或ハ株式會社ニ一人若クハ數人ノ無限責任社員ノ加ハルモノナリト或ハ株式會社ト合名會社ト混和スルモノナリト或ハ一人又ハ數人カ無限責任社員ニシテ之ニ有限責任社員ノ結合シタルモノナリト或ハ株式合資會社ハ株式會社自身ヲ含ミシモノナリト要スルニ其學說種々アリト雖モ余ハ株式合資會社ナルモノハ特有ノ性質ヲ有スルモノナリトノコトヲ信シテ疑ハス又之ヲ法律ニ規定シ設立ヲ認ムルハ法律上ノ性質ヨリモ寧ロ經濟上必要アルヲ以テ法律カ之ヲ認メ並ニ之ニ關スル規定ヲ設ケシモノナリト信ス諸君モ知ラルル如ク株式合資會社ハ通常ノ合資會社ト等シク業務ヲ執行スルモノニハ會社資本ノ自由處分ヲ許シ株式會社ニ比スレハ其資本ヲ利用スル㸃ニ付キ大ニ自由ナリ無限責任社員ハ會社ノ債務ニ付キ自己ノ全財產ヲ以テ責任ヲ負擔スルヲ以テ從テ其者ハ會社ノ事業ニ付キ非常ニ深キ利害關係ヲ有ス自己ノ財產ニ深キ責任ヲ有シ特別ノ技量ヲ有セシモノヲシテ指揮監督セシムルノ利益アリ又有限責任社員カ醵出スル資本ヲ株式ニ分ツニ當リ通常ノ合資會社ト其場合ヲ異ニシテ容易ニ資本ヲ集ムルコトヲ得、資本家ノ有スル株式ヲシテ流通ヲ圓滑ナラシムルコトヲ得ヘキニ个ノ理由アリ而シテ資本ヲ醵出スルモノハ始ヨリ特定セル無限責任社員ノ技量、信用、勉勵ヲ信シテ會社事業ノ指揮ヲ一任シテ內部ニモ外部ニモ事業ノ當局者トシテ其衝ニ當ラシム右ノ理由ヨリ會社ヲ設クルニハ株式合資會社ハ最適當ナルモノト信ス殊ニ有限責任社員アルヲ以テ其人ヲシテ會社事業ニ關與シ自己ノ責任ヲ制限スル便宜アル爲メ尙ホ更ラ株式合資會社ハ適當ナリ又一方ニハ事業ニ特別ノ能力ヲ有シ且亙萬ノ富ヲ有シ進ンテ自己ノ得意ノ事業ニ自己ノ財產並一ニ身ヲ投シテ自己ト會社事業トノ浮沈ヲ共ニスルカ如キハ株式會社ヲ設立シテ之ニ從事スルハ其者ノ欲セサルハ云フヲ俟タス何トナレハ通常ノ取締役ハ株主ノ選擧ニ出テ又事業ノ性質ヨリ改選セラルルノ虞アレハナリ自己ノ一身ト會社財產ヲ投スルモノハ株式會社ヲ望マサルハ以上述ルカ如シ反之自己ノ事業ノ中心タラシムルノ決心ナキモノニ對シテ株式合資會社ナルモノハ實ニ不適當ナルモノト云フヘシ此場合ニハ通常ノ株式會社ヲ選ハサルヲ得ス而シテ獨逸商法ニ於テモ以上ノ株式合資會社ヲ認メ千八百八十四年ノ法律ヲ以テニ個ノ會社ニ關スル法律ヲ設ケタリ其理由書ヲ見ル一ニ個ノ株式會社ハ共和制度ノ性質ヲ有シ株式合資會社ハ君主政治的ノモノト云ハレシカ右ノ理由ハ以上ノ性質ヲ明瞭ナラシメシモノト言フヘシ株式會社ハ社會ニ對シ會社ノ權利義務ヲ負擔シ株主ヲ集メ資本ト爲シ株式總會カ總テ會社ノ統治權ヲ有シ右ノ機關カ會社ノ事務ヲ採ルコトトナルヘシ畢竟株式合資會社ナルモノハ株式會社ノ取締役ニ比スレハ無限責任ヲ負擔セル社員カ大ニ地位ヲ高ムルコトトナルヘシ從テ其權原モ廣シ其事業ヲ指揮シ其事業ノ施行ノ上ニ付キテモ全權ヲ有スルモノハ無限責任社員ナリ又會社ノ債權者ニ對シテハ啻ニ有限責任社員ノ集メシ資本ノミナラス業務施行ニ當ル人カ全財產ヲ以テ責任ヲ負擔スルコトトナルヘシ故ニ其任タル大ニ重モシ要スルニ株式合資會社ハ邇常ノ株式會社ニ於ケルカ如ク大ナル資本ヲ利用スル事業ニシテ實際事業ノ衝ニ當ルモノヲシテ事業ニ着手セシムルモノトス而シテ株式會社ノ設立ヲ許シタル以上ハ株式合資會社ヲ認ムルヲ得スト云フヲ得ス何トナレハ株式會社ハ經濟上長所アレハ從テ又短所ナシト云フコトヲ得ス株式會社ノ長所ナルモノハ如何ナル㸃ニ在リヤ社員ハ自ラ事業ノ施行ニ關與セス唯資本ノ幾分ヲ醵出スルノミナリ從テ之カ地位ヨリ觀察スルモ權衡上ノ㸃ヨリ云フモ自ラ事業ニ當ルヲ得ス出資ヲ爲シ利益ヲ受クルコトヲ得又危險ヲ多勢ニ分配シテ其事業ニ預ルコトヲ得ヘシ又株式會社ノ短所トスル所ハ業務ノ施行ニ當ル所ノ人ハ權原上株主總會ナルモノアリテ其事業ヲ制限セラル又其事業ヲ爲スニ付キ處分ヲ爲スノ權能ハ會社ノ機關ノ爲メ相折衷セラルルノ弊アリ而シテ事業ノ迅速ヲ望ムモ之ヲ敏活ニ爲スコトラ得ス株式合資會社ノ取締役ハ權能上斯カル短所ナシ株式會社ノ取締役ナルモノハ他人ノ醵集シタル資本ヲ以テ事業ヲ爲スカ故ニ會社事業ノ衰ヘタル爲メ自己ニ損害ヲ被ルコト極メテ少シ會社事業ニ付キ利害ノ關係極メテ少ナキカ爲メ通常人カ自己ノ財產ヲ管理スルカ如ク親密ニナスコトヲ得ス是株式會社ノ業務施行上ノ弊ニシテ往々ニシテ詐欺ノ媒介トナルニ至ル余ノ考ヲ以テセハ株式合資會社ナルモノハ無限責任社員カ己レノ財產ヲ以テ會社事業ヲ引受ケ詳細ハ云フコトヲ得サルモ會社ニ對シ利害關係アルトキハ益其人ヲシテ其關係ヲ深カラシム次ニ外國ノ立法例ナルカ多クハ株式會社ト株式合資會社ナルモノノ設立ヲ許セリ佛蘭西、獨逸、伊太利、葡萄牙、西班牙、白耳義、ルーマニヤ等ノ法文ヲ參照シテ之ヲ調査ノ材料トシ是ヲ他ノ會社ト並ヘテ規定セントス右株式會社ヲ設クルヤ否ヤニ付キ余輩ノ間ニ於テモ討議セシコトニテ又各地ノ商業會議所ニ實際ノ便否ニ付キ照會セシニ返答ハ各地全體ヨリ來ラサルモ今日迄ノ所ニテハ十五六アリ孰レモ異口同音ニ置キタシトノ意見ナリ是レ余輩ヲシテ一層決心ヲ堅カラシメタリ次ニ現行商法ハ株式合資會社ナルモノヲ認メス「ろいすれる」氏ノ草案ニ於テモ之カ設立ヲ認ムルノ必要ナシト稱セリ而シテ英國ノ會社法ハ最モ適當ナルヲ以テ之ニ倣ヘリト乍併此規定モ尙ホ實施ノ際變更ヲ加ヘ邉ニ今日ノ有樣ノ如ク歸セリ今日ノ有樣ヨリ云フトキハ合資會社ハ如何ナルモノヲ以テ最モ穩當ト爲スカ其性質ヲ知ルニ苦ムモ只草案理由書ハ我國ノ商法ヲ編纂スル基礎トナリシモノ故是ニ重キヲ置カサルヘカラス其說ニ株式合資會社ハ置カサル方可ナリト余ノ考ハ其ト反對ニシテ贊成スルコトヲ得ス而シテ其理由ヲ述ルモ恐ラクハ徒勞ニ屬スヘシ只株主カ會社事業ノ業務施行ニ預ラサルモノ多シ乍併歐羅巴ノ會社ハ無限責任社員ヲ除ク外資本家ハ會社事業ノ施行ニ預ラストノコトカ大ナル理由ナリ若シ其理由ヨリ云フトキハ株式會社ノ設立ヲ認メサルモノトシテ論セサルヲ得ス株式會社ハ沼革上株主カ會社事業一ニ切預ラサル方可ナリトノ理由ヨリ設ケラレシモノナリ會社事業ハ卽經濟上ヨリ會社員ヲシテ事業ノ施行ニ預ルハ一應理由アリト雖モ無限責任社員ニ信用ヲ置キシモノナレハ其他ノ者ヲシテ自ラ進ンテ事業ニ預ルノ必要ナシ一應ハ理由アルカ如キモ乍併經濟上ヨリ「ろいすれる」氏ノ說ハ理由ナシト信ス又大體上近來ノ株式合資會社ニハ其弊害ナシ最近ノ商法ヲ舊起草者ハ參考セサリシナリ何トナレハ理由書ヲ起草セルトキ未タ最近ノ商法ハ出來サリシ法律モ多クアリタレハナリ且舊商法起草者ハ株式合資會社固有ノ弊トシテ擧ケラレシ缺㸃モ各國ノ商法ハ之ヲ弊トシテ認メス其規定ハ法律ニ於テ設ケシ故今日ノ歐洲ノ法律ハ「ろいすれる」氏ノ言ハルル弊アルヲ聽カス殊ニ株式會社ノ弊ハ千八百六十七年ノ法律ニテ佛國ハ之ニ勝リシ法律アリシナリ故ニ若シ「ろいすれる」氏ニシテ近來ノ法律ヲ見シナレハ却テ株式合資會社ノ設立ヲ贊成セラレシヤモ知レス以上ノ理由ニ依リ玆ニ諸君モ株式合資會社ノ規定ヲ設ケラルルコトニ贊成セラレンコトヲ望ム
金子君ハ本案ニ付キ假議決ニセントノ說ヲ提出シテ曰ク起草者ハ商業會議所ノ答申ニ重キヲ置カルルモ其答辯ヲ爲セシ會議所タル余輩ノ最モ重キヲ置カサルモノニ過キス加之斯カル大問題ニ付キ纔力三日間ノ考案ノ餘地ヲ與ヘシニ過キサルハ實ニ大早計ト謂フヘシ就中東京西京大阪橫濱等ノ地ヨリ此問題ニ付キ未タ回答ナキヲ以テ今日直チニ之カ贊否ヲ決スルヲ得ス故ニ此案ハ一ト先ツ假議決トセラレンコトヲ望ムトノ說ヲ述ラレ之ニ贊成者アリテ起立ニ間ヒシニ少數ナリ、次ニ元案ヲ可トスルコトヲ起立ニ間ヒシニ多數トナレリ
第四節 社員ノ退社
田部君ハ本節ニ付キ說明シテ曰ク本節ハ舊商法ト同一ナリ而シテ其中ニ付キ削除セシ條文ヲ說明スヘシ舊商法第百ニ十二條ハ社員退社ニ關シ登記ノ方法ヲ規定セリ乍併本案四十五條ニハ定款ヲ作リタル日ヨリ左ノ事項ヲ登記スルコトヲ要ストアリテ其第一號ニ社員ノ氏名住所トアリ又其次條ニ變更ニ關スル規定アリ登記スルコトトナルヘシ其他ノ百ニ十ニ條ノ細カキ規定ニ至リテハ特別法三議レリ故ニ百ニ十ニ條ハ全然之ヲ削除セリ次ニ百ニ十三條百ニ十四條ヲ削除セリ此規定ノ性質ハ社員間ノ相互ノ關係ヲ定メ退社員ト會社ノ計算ヲ爲シ畢竟內部ノ關係タルヲ以テ四十七條ニ依リテ民法六百八十一條ヲ準用スルコトトセリ次ニ舊商法百ニ十四條一項ハ是又民法六百八十一條ニ在リニ項ノ規定ハ本案ノ六十三條ニ反對ノ規定アリテ變ユルコトトナルヲ以テ其所ニ至リテ說明スヘシ
第六十條 定款ヲ以テ會社ノ存立時期ヲ定メサリシトキ又ハ或社員ノ終身間會社ノ存續スヘキコトヲ定メタルトキハ各社員ハ事業年度ノ終ニ於テ退社ヲ爲スコトヲ得但六个月前ニ其豫吿ヲ爲スコトヲ要ス
會社ノ存立時期ヲ定メタルト否トヲ問ハス已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各社員ハ何時ニテモ退社ヲ爲スコトヲ得
(參照)舊一二〇、民六七八、佛民一八六九乃至一八七一、獨一二四、一二五、匈九九、一〇〇、瑞五四六、五四七、西二二四、葡一二〇、二項
田部君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ舊商法百ニ十條ニ修正ヲ加ヘタリ而シテ民法ノ規定ノ儘ニテハ商法トハ不權衡ト信シ旁々加フルコトトセリ民法ニ相當スル六百七十八條ハ「組合契約」云々トアリシカ玆ニハ定款トセリ退社ノ時期ハ事業年度ノ終トセサレハ不可ナルヲ以テ此㸃ハ舊商法ノ儘ニセリ會社員カ有期ナルトキハ總社員ノ承諾アルトキハ退社ヲ爲スコトヲ得ルハ言フヲ待タサルコトニシテ商法ニ置クノ必要ナシ故ニ舊商法ノ「有期ナルトキハ總社員ノ承諾ヲ要シ」ノ文字ヲ削レリ次ニ會社ノ存立時期ヲ定メタルト否トヲ問ハス已ムコトヲ得サル場合ハ脫退ヲ爲スコトヲ得ルトノコトハ舊商法ニハ規定ナキモ本案ハ之ヲ必要ト信シ入ルルコトトセリ畢竟舊商法ヲ變更シタル㸃ハ民法ニ倣ヒ且之ヲ商法的ニ改メタルニ過キス
第六十一條 前條ニ揭ケタル場合ノ外社員ハ左ノ事由ニ因リテ退社ス
一 死亡
二 破產
三 禁治產
四 除名
(參照)舊一二一、民六七九、佛民一八六五、一八六八、獨一二三、一二七、匈九八、一〇二、瑞五四五、五七二、五七五乃至五七八、伊一八六、一八七、一九一、一項、西二二二、葡一二〇、二項
田部君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ舊商法第百二十一條ニ當レリ唯變リタル㸃ハニ號及ヒ四號ニ但書アリシカ極論スレハ置カサルモ同一ノ結果ヲ來スヘシ故ニ之カ但書ヲ削レリ次ニ本條ニテ舊商法ノ順序ヲ變更セシハ全ク民法六百七十九條ニ倣ヒタルニ過キス
第六十二條 社員ノ除名ハ左ノ場合ニ限リ他ノ社員ノ一致ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得但除名シタル社員ニ其旨ヲ通知スルニ非サレハ之ヲ以テ其社員ニ對抗スルコトヲ得ス
一 出資ヲ爲スコト能ハサルトキ又ハ催吿ヲ受ケタル後相當ノ期間內ニ出資ヲ爲ササルトキ
二 第五十三條ノ規定ニ違反シタルトキ
三 會社ノ業務ヲ執行シ又ハ會社ヲ代表スルニ當リ會社ニ對シ不正ノ行爲ヲ爲シタルトキ
四 會社ノ業務ヲ執行スル權利ヲ有セサル場合ニ於テ其業務ノ執行ニ干與シタルトキ
五 此他社員ノ重要ナル義務ヲ盡ササルトキ
(參照)舊九四、九五、一〇四、一〇六、一二一、一二七、二項、民六八〇、佛民一八七一、獨一二五、一二八、匈一〇〇、一〇三、瑞五七六、五七八、伊一八六、一八七、西二一八
田部君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ形ハ變ハリシカ如クナルモ舊商法ト違ハス畢竟除名ノコトカ各所ニ散在シアルヲ本條ニ集メタルニ過キス是民法第六百八十條ト同意義ニシテ且其文例ニ倣ヘリ本案第一號乃至五號ハ舊商法ノ文例ニ倣ヒ之ヲ列擧シタルニ過キス部第一號ハ舊商法九十四條九十五條ノ一部ヲ合セタリ卽右ノニ條共ニ除名ノコトアリ是前ニハ會社ノ內部ノ關係ヲ極メ其殘部ノ除名ノ規定ヲ玆ニ集メタリ民法六百八十條ノ規定ハ本案ニ設ケサルモ同一ノ結果トナリ總社員ノ一致ノ承諾アレハ除名ヲ爲スコトヲ得ヘキハ當然ナレハナリ舊商法九十四條ニハ催吿ノ規定ナカリシカ之カ爲メ相當ノ期限ニ出資ヲ爲ササレハ直チニ除名サルルコトトナルヘシ斯カル場合ニ嫌ハルル人ハ直チニ退社セシメラルルハ酷ナリ故ニ本案ハ此催吿スヘキコトヲ入ルルコトトセリ第二號ハ舊商法第百四條ニ當レリ之制裁トシテ除名ノ規定中ニ入ルルヲ可トス然レトモ畢竟本案五十三條ニ其規定アルヲ以テ除名ノ一事由トセリ第三號ハ舊商法百六條ノ一部ヲ採レリ舊商法ハ「業務擔當ノ任ナク」云々トアレトモ本案ハ既ニ業務執行ト會社代表トハ之ヲ區別シ代表ハ外部ニ對シ執行ハ內部ニ用ヒ各其事柄ヲ異ニセリ舊商法ハ會社ニ對シ詐欺ヲ行ヒ云々トアルモ狹キ嫌アルノミナラス當ラサルコトアリ故ニ用語ヲ變更シ不正ノ行爲ト改メタリ第四號ハ舊商法第百六條ニ當レリ卻業務執行ノ權利ナキ場合ニ其業務ヲ執行シタルトキハ以之除名ノ一事由トセリ第五號ハ舊商法百六條ノ主要ノ責務ヲ甚シク缺キタルトキヲ改メ重要ナル義務ヲ盡サスト改メタルニ過キス
磯部君ハ起草者ニ對シ協議シテ曰ク玆ニハ短カキ時效ヲ設クルノ必要ハナキ歟三年モ七年モ前ニ除名セラレタルモノニシテ他ノ社員ニ對シ苦情ヲ起スコトヲ得ルカ如キハ困ルコトナラン此所ニハ特一ニ條ヲ設ケテハ如何
田部君ハ之ニ答ヘテ曰ク其㸃ニ付テハ未タ硏究セサリシ故一應考フルコトト爲サン