第十四回商法委員會議事要錄
明治廿九年七月十三日午後三時四十五分開議
出席員
箕作麟祥君
本野一郞君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
橫田國臣君
井上正一君
磯部四郞君
富井政章君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
三浦安君
岡野敬次郞君
前回ヨリ繼績セシ第三十九條ヨリ議事ヲ開ケリ而シテ前回ニ於テ磯部君ハ本條前段ヲ「會社ノ設立ハ其本店所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ第三者ニ對シテ效ナシ」ト改ムルトノ說ヲ提出セシナリ
土方君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク會社ハ登記ヲ爲ス迄成立セストノ意味ニ爲サン登記ヲ以テ成立要件トナシ登記ノナキトキハ之ヲ通常ノ契約ト認メ登記シテ始メテ成立スルモノト爲サン、此案ニ贊成者アリ
岸本君ハ三十九條ノ後段「登記シタル事項ニ變更ヲ生シタルトキ亦同シ」トノ規定ノ削除說ヲ提出シテ曰ク梅君ハ以前富井君ノ質問ニ對シ答辯シテ曰ク會社モ亦本案第十三條ノ原則ノ適用ヲ受クト次ニ長谷川君ノ質問ニ答辯セシトキハ三十九條ハ第十三條ノ例外ナリトニ者中孰レカ眞ナルヤ、舊商法ニ就キ考フルニ余ハ十三條ノ例外ナリト信セリ畢竟會社ノ設立ハ契約ノ締結アルトキハ法人タル團體ハ成立スヘシ然レトモ會社ヲ發表スルニ當リテハ登記セサレハ第三者ニ對抗スルヲ得ストノ趣旨ニ歸スヘシ然ルニ鎖末ノ事項ニ至ル迄善意惡意ヲ問ハス例外トシテ設クルハ毫モ其要ヲ看ス是舊商法ノ主義ヲ擴張ニ失シタルモノト云フ所以ナリ故ニ本條後段ヲ削除セラレンコトヲ望ムト述ヘ贊成者アリ
梅君ハ以上諸氏ノ提出案ニ不同意ヲ表シテ曰ク岸本君ハ本條ヲ以テ第十三條ノ例外ト認メラレ會社ハ或條件ヲ以テ設立シ而シテ登記ノ有無ニ抅ラス設立セシモノヲ解散スルトキハ一ノ變更トナリ縱令登記スルモ此事實ヲ知ラサルモノニハ對抗スルコトヲ得ス故ニ合名社員ノ死亡セル場合モ登記スルモ尙ホ公吿セサレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得サルヘシ果シテ如斯ナランカ實三安當ヲ缺クモノト云フヘシ次ニ土方君ハ登記ヲ以テ成立條件ト爲サント云ハルルモ余ノ考ヲ以テセハ民法ト商法ハ公示方法ノ異ルヲ可トス然ルニ土方君ノ如クナレハ民法ト商法ト井セテ適用アルコトトナルヘシ第二ハ土方君ノ如クナレハ契約ノ效力ハ如何ニ歸スルヤ而シテ第三者ハ登記ノナキ會社ト取引ヲ爲ストキハ社員ヲ以テ一己人ト認メ、登記ノナキトキハ會社ノ責任ハナキニ至ルヘシ定款ニ依リ第三者ヲ代表スル場合ハ土方君ノ如クナレハ大ニ不都合ヲ感スヘシ右兩氏ノ讀ヲ起立ニ間ヒシニ皆少數ニテ消滅セリ
土方君ハ再ヒ修正案ヲ提出シテ曰ク會社ノ成立ハ定款作製ノ時ナリ而シテ株式會社ニ於テモ亦定款作製ノコトアリ故ニ第四十三條ノ合名ノ文字ヲ削リ而シテ三十九條ノ前ニ本條ヲ移シテハ如何、贊成者アリ
磯部君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク若シ總則ニ置クナレハ如斯爲シテハ如何會社ニ付テハ定款ヲ作ルコトハ必要ナリ卻會社ハ定款ノ作製ニ因リテ成立ストノ文字アルヲ可トス故ニ會社ハ定款ノ作製ニ依リテ成立ストノ案ヲ提出スヘシ、贊成者ナシ
土方君ノ案ヲ起立ニ間ヒシニ多數ナリ次ニ登記シタル事項ニ變更消滅カ入ルヤ否ヤハ起草者ニテ尙ホ考フルトノコトトナレリ
第四十條 會社ハ其本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ開業ノ準備ニ著手スルコトヲ得ス
(參照)舊八一
岡野君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ舊商法八十一條ト大同小異ナリ舊商法ハ合名會社ノ節ニ規定シ在ルモ是合名會社ニ限ラス第百七十條ニ於テモ株式會社ニモ適用ストノコトアリテ各種ノ會社三通スルモノ故總則ニ置ケリ而シテ八十一條ノ規定中會社カ此規定ニ反シテ開業ノ準備ニ着手シタルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其事業ヲ差止ムルトノコトヲ削レリ他ナシ裁判所ノ干涉ハ爰當ヲ缺クコト多シ又裁判所ニテ之ヲ知ルコトハ困難ナリ且裁判所ノ職權ヲ以テ差留ムル效力ハ薄弱ナリ裁判所カ知リテ差留ムルモ再ヒ着手スルニ至ルヘシ故ニ何等ノ甲斐ナカルヘシ之ニ付テハ過料ノ制裁アルモ之ヲ科スルモ效驗ナカルヘシ次ニ本案ハ本店所在地ニ於テ登記ヲ爲スコトトセリ然ラサレハ各地ノ支店モ登記ヲ爲ササレハ着手スルコトヲ得サルコトニ歸スレハナリ
土方君ハ修正說ヲ提出シテ曰ク「開業ノ準備」ノ準備ノ範圍ヲ定ムルハ實ニ困難ナリ故ニ準備ノ二字ヲ削除スル案ヲ提出スヘシ、贊成者アリ
梅君ハ土方君ノ說ヲ駁シテ曰ク是等ハ感情問題タルニ過キス最初ノ商法ニハ「開業」トアリシカ修正ニ際シ「事業ノ着手」ト改メタリ商法一部施行ノトキハ議論アリテ東京商業會議所ノ意見カ通過セリ然レトモ事業ナル文字ハ宜シカラス例ヘハ鐵道會社ナレハ車ノ動ク場合ハ事業ト云フコトヲ得ヘシ師會社ノ爲ス事柄ハ總テ包含スルモノノ如シ故ニ此間ニ區別ヲ設クルコトヲ要ス部一ハ準備トナリ一ハ準備タラサルモノアリ鐵道ノ測量ノ如キ事業ノ準備ナラス單ニ發起ノ準備タルニ過キス機械ノ買入ノ如キ準備ニ入ルコトトナルヘシ是レ土方君ノ說ニ贊成セサル所以ナリ
土方君ハ再ヒ本條削除說ヲ提出シテ曰ク會社ノ登記シテ後六ケ月經過シテ成立セサルモノハ不都合ナリ斯カル會社ハ自然廢滅ニ歸スヘシ四十一條ノ但書ハ本條ト比較スルトキハ目的トスル事業ノ性質ニ付キ多クノ年月ヲ要シ自然此規定ハ不用ニ歸スヘシ寧ロ本條ハ削除スルヲ可トス、贊成者アリ
梅君ハ土方君ノ說ヲ駁シテ曰ク六个月間ニ開業ノ出來サル會社ハ幾種類アリヤ就中鐵道會社ノ如キ特ニ準備ノ期間ヲ要スルモ但書ノ適用ヲ以テ足レリ縱令外國ニ機械ヲ註文スルモ六ケ月ヲ要スルコトハ稀ナリ普通ノ會社ハ六ケ月ヲ以テ十分ナリトス本條ノ在ル爲メ四十一條ノ適用ハ十分在ルヘシ
以上土方君ノ準備削除ノ說ニ岸本君ハ尙ホ是ヲ敷衍シテ「開業ノ準備」ヲ「事業」ト爲シタリ土方君ノ全部削除設ハ少數一=ア消滅シ「事業」ト改ムルトノ說ハ多數ニテ改ムルコトニ決セリ
第四十一條 會社カ本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲シタル後六个月內ニ開業ヲ爲ササルトキハ裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ解散ヲ命スルコトヲ得但正當ノ事由アルトキハ裁判所ハ其會社ノ請求ニ因リ此期間ヲ伸長スルコトヲ得
(參照)舊八二
梅君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ舊商法八十ニ條ヲ少シク改メタリ第一ハ本條ニ於テ制裁ヲ變ヘタリ舊商法ナレハ登記ト公吿ノミ無效トナルヘシ然レトモ如斯ナレハ後ニ登記スルモ、セサルモ、遲クナルモ宜シキコトトナルヘシ舊商法ハ曖味ナルモノヲ嫌ヒテ如斯爲セシモノナラン然レトモ是レ曖昧ヲ嫌ヒテ益々曖昧ナラシムルモノナリ本案ハ之ニ對シ制裁ヲ重クシ解散迄モ爲サシムルコトトセリ此命令ハ裁判所ヲシテ爲サシムルヲ可トス要スルニ登記ヲ爲セシニモ關セス數月ヲ經過スルモ設立セサルハ內部ニ事情アリテ然ルナリ我國ニハ此㸃ニ付キ大ニ弊害アリ現ニ政府ノ保護ヲ受ケントスル會社アリ其保護ヲ目的トシ實際ハ開業セサルモノニテ詐リテ登記セルモノアリ寧ロ是等ノモノニ對シテハ解散迄モ命スル方可ナリ既ニ開業ノ準備ヲ爲シテ登記スルトキハ多クハ開業スルモノナリト信ス十四日內ニ登記ヲ爲シ六个月以內ニ開業セハ可ナリ故ニ唯登記公吿ノミニテハ不可ナリ第二ニ舊商法ハ單ニ六个月ニ限リシカ本條ハ但書ヲ設ケタリ是他ナシ實際上期間ノ短シトノ非難ヲ避ケンカ爲メナリ例ヘハ鐵道會社ノ如キ製銕所ノ如キ特別ニ長キ準備ヲ要スルモノハ但書ヲ適用スルコトトセリ第三ハ既成法典ハ事業着手トアルモ本案ハ但書ノアル爲メ開業トセリ若シ事業ト爲サンカ着手ノ名義ヲ以テ木ヲ一本伐ルモ事業ノ着手トナルニ至ルヘシ故ニ本案ハ開業ト改メタリ最後ニ一言スヘキハ本店ノ所在地ニ於テ登記スルコトトセシハ 支店ニ於テ登記セスシテ本店ヨリモ後レテ登記スルコトアルヲ以テ本店ヲ基礎トシ六个月トセリ
長谷川君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク梅君ノ說ニ依レハ登記公吿ノミニテハ制裁ニナラサルカ如ク日ハルルモ已ニ法律カ登記セサレハ第三者ニ對シテ效力ナシト認ムル故其ニテ十分ナリ原案ニテハ穿チ過クルカ如シ故ニ舊商法ノ主義ノ如クナス案ヲ提出スヘシ、贊成者アリ田部君ハ長谷川君ノ說ヲ駁シテ曰ク制裁トシテハ登記、公吿ヲ無效トセンヨリハ裁判所カ解散迄モ命スル方可ナリ斯ノ如クセハ却テ世間ニ目立ツコトトナリ山會社ニ制裁ヲ附スルニ適當ナル制裁トナルヘシ、孰レニセヨ感覺問題ニ過キス、此修正案ヲ起立ニ間ヒシニ少數ニテ消滅セリ
次ニ岸本君ハ六个月ノ期間ヲ一年ト改メントノ說ヲ提出シテ曰ク斯ノ如クセサレハ實際行ハレスト此案ニ贊成者アリ
田部君ハ右修正案ヲ駁シテ曰ク普通ハ六个月ニテ十分ナレトモ若シ實際上長キ期間ヲ要スルナレハ但書ニテ補フ故差支ナシト
右修正說ヲ起立ニ間ヒシニ少數ナリ
第四十二條 會社カ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキハ裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ其解散ヲ命スルコトヲ得
(參照)舊六七、民七一
梅君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ舊商法六十七條ニ項ト同一ナリ但書ヲ削リシハ郞時抗吿ノコトハ手續法ニ讓ルコトトシタレハナリ
修正案
第二十五條中「營業ニ關スル」ヲ「財產ニ影響ヲ及ホスヘキ」ニ改ム
梅君ハ右修正案ニ付キ說明シテ曰ク此前高木君ノ說ニテ「營業ニ關スル一切ノ事項」トアルトキハ人ノ訪問セルカ如キハ含ムコトトナルヘシ而シテ民事上ノ取引ハ入ラサルコトトナルヘシ依テニ个ノ方面ヨリ觀察シテ設ケヨトノコトニテ文章ヲ改メタリ「財產ニ影響ヲ及ホス」トスルトキハ諸君ノ希望ハ皆入ルコトトナルヘシ
修正案
第三十三條商人ハ手代ヲ選任シ其營業ニ關スル或種類又ハ特定ノ事項ヲ處理セシムルコトヲ得
手代ハ其委任ヲ受タル事項ニ關シ一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有スルモノト推定ス
梅君ハ修正案ヲ說明シテ曰ク諸君ノ議決セラレシ趣旨ハ右修正案ノ如キ趣旨ナリト信ス或一部ノ人ハ一項ハ不用ナリト言ハレシモ第二十九條ニ於テ商人ハ番頭ヲ選任シトアル故此處ニ設クルハ必要ナリト信シ「自己ニ代リ」ノ文字ヲ省キ規定スルコトトセリ、「其委任ヲ受タル」ノ「受」ノ下ニ「ケ」ノ一字ヲ脫セリニ項ハ舊商法ノ通リ故別段說明ヲ要セス
第二章 合名會社
(參照)舊七四乃至一三五、民六六七乃至六八八、佛二〇乃至二二、千八百六十七年七月二十四日法五五乃至六二、蘭一六乃至三五、獨八五乃至一四九、匈六四乃至一二四、瑞五五二乃至五八九、伊八七、一項、八八、九〇、九二、一項、九三、九六乃至一一三、一八六乃至二〇九、西一二五乃至一四四、羅八八、一項、八九、九一、九三、一項、九四、九六乃至一一三、葡一一三乃至一六一、白千八百七十三年五月十八日法四、六乃至八、一〇乃至一三、一五乃至一七、一一一乃至一二七、英千八百九十年八月十四日組合法
岡野君ハ本章ニ付キ說明シテ曰ク本章ニ合名會社ト題セシハ三十七條ノ精神ヨリ見ルモ明カナリ而シテ既成法與ノ儘ナレハ別段ニ說明ヲ要スヘキコトナシ
第一節 設立
岡野君ハ本節ニ付キ說明シテ曰ク本節ハ既成商法第一款ニ當レリ而シテ會社ノ設立ト故ラニ書カサルモ單ニ設立トシテ其意義通スレハナリ次ニ本節中翫成商法第一款中ノ削除セル條文ヲ說明センニ削除セシモノハ第七十四條、第七十五條及ヒ七十六條ナリ第八十條、八十一條八十ニ條ノ三條ハ總則中ニ設ケタルヲ以テ設立ノ部ニ設クルノ要ナシ第七十四條ヲ削除セシハ該條ハ合名會社ノ定義トシテ揭ケタリ然レトモ定義ヲ設クルハ法典ノ好マサル所ニシテ且民法ノ方針ニ從ヘリ況ンヤ舊法ノ如ク不完全ノ定義ヲ置カンヨリハ寧ロ學者ニ一託スルヲ最モ適當トスレハナリ而シテ七十四條ヲ嚴正ニ解センカ「ニ人以上」トアルハ會社ト社團法人ノ性質ヨリ不用ナリ次ニ共有資本ノコトアリ之ハ如何ナル趣旨ナル歟合名會社ハ法人ナルカ故ニ此㸃ヨリ觀察スレハ會社財產ハ共有ニ在ラス既成商法ハ合名會社ハ法人ナリヤ否ヤ不明瞭ナリシ故ニ如斯爲セシモノナラン、本案ハ第三十八條一項ニ於テ「會社ハ之ヲ法人トス」ト爲セシ故舊法ハ本案ノ性質ト相容レサルナリ第七十五條一項ハ本案第十八條ノ規定ヨリ不用ナリ十八條ニ依レハ會社ハ其種類ニ依リ合名會社、合資會社、株式會社ノ文字ヲ用ヒ社員ノ氏名ヲ用ヒスシテ可ナリ故ニ此規定ヲ採用スルノ要ナシ次ニニ項ノ意義ニ付テハ疑ヲ懷ケリ余ノ解スル所ニテハ合名會社カ或一己人ノ營業ヲ引受ケシトキハ一己人ノ商號ヲ用フルコトヲ得ス如何ニ信用アルモ之ニ商號ヲ揭ケ且會社ノ文字ハ用ヒサルヘカラス既ニ合名會社ナル以上ハ是亦合名會社トセサルヘカラス其故ニ七十五條ハ設クルノ要ナシ第七十六條ハ退社シタル社員アリテ其社員ノ氏名ヲ會社ノ商號中ニ用ヒ置キシトキハ或場合ハ他ノ社員ト同シク連帶ニテ責任ヲ負フトシテ十分ナリ以上ノ理由ハ商號ニ關係セル所以ニアラスシテ社員カ會社ニ對シテ如何ナル責任アルカ社員外ノ規定ヲ適用スヘキモノトス次ニ七十四條ヨリ七十六條迄ヲ削除セリ是レ四十三條ノ規定ニ依ルモ會社ヲ設立スルニハ定款ノ作製ヲ必要トスルヲ以テ七十七條ノ規定ハ設立ノ部ニハ必要ナシ他ハ別段說明ヲ要セス
午後六時四十五分閉會