明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第13回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第拾三回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
岸本辰雄君
田部芳君
高木豐三君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
尾崎三良君
岡野敬次郞君
前回ニ於テハ第三十五條未決ノ有樣ナリシヲ以テ本日ハ間ホ之ニ引續クモノナリ
土方寧君第三十五條ヲ存スルトキハ適用上理由ヲ損スルノ恐アリ第六章ノ番頭、手代等ノ代理權ノ規定ノ外ニ其洩レタルモノハ此代理ノ規定ヲ適用スヘキ場合モアルヘシ然レトモ是ハ玆ニ規定セストモ
商法第一條ニ明カニ規定アルヲ以テ本條ニ於テ「民法雇傭ノ規定ヲ適用ス」トスルハニ重ト爲リ斯クテハ商法第一條ノ精神ニ反スルヲ以テ本條ヲ變更スヘシト主張セリ
岡野君其非ナルヲ辯シテ曰ク元來民法ハ土臺ノ法ナリ商法ハ之ニ封スル特別法タルヲ以テ民法ノ規定カ商法ノ一部分トハ爲ラサルヘシ且本條ノ書方ハ會社ノ內部ノ關係ノ規定ニモ同樣ノ規定アリ其主意ハ商慣習カ民法ニ先立テ適用セラルルコトハ無論ナリ本條ト第一條トヲ比較スルモ慣習ヨリモ民法カ先立ツコト能ハスト此ニ於テ磯部君ハ土方君ニ贊成シ議長箕作君ハ舊第三十七條卽チ修正案第三十七駒條ニ移ランコトヲ宣言ス
(書記朗讀)
修正案第三十七條商行爲ヲ業トスル會社ハ合名會社、合資會社及ヒ株式會社ノ三種ニ限リ之ヲ設立スルコトヲ得
梅君說明シテ曰ク本條ノ規定ハ舊商法ニハ之レ無カリシモ無キハ缺㸃ナリ勿論明文ナクトモ解釋上合名、合資、株式ノ外ニ之ヲ認ムルコトナシト雖モ是ハ立法上ノ理由ニ止マリ法文ノ體裁上規定ナキハ缺㸃ナリ而シテ抑モ會社ヲ限定スルノ理由タルヤ取締上ノ便宜ニ出テタルモノニシテ之ハ外國ニ於テモ等シク認ムル所ナリ又種類ニ付テハ前述ノ如ク之ヲ三個ニ確定スヘキヤ否ヤハ明カナラス其他ニ慣習等ヲ問合セ中ナリ又文章ヲ改メタル理由ハ前文ニ於テハ一々之ヲ詳記シ頗ル見惡クカリシ故ナリ又會社ハ商事會社ノ外ニハ之レ無シト云フ理由ヲ以テ第三十六條ヲ削除セラレタリト雖モ本修正案ノ如クセハ右ノ疑ヲ生スルコトナク商法ニ於テハ此種ノ會社ノ規定外ニハ何等ノ規定モナシ
土方君曰ク法人トシテ之ヲ置ク以上ハ勝手ニ法人ト爲スコトヲ得サルヲ以テ本條ニ於テ之ヲ三種ト限ラサルモ當然其他ノ法人ハ勝手ニ之ヲ設立スルコトヲ得サルヲ以テ本條ハ不用ナリ
梅君辯シテ曰ク會社ハ之ヲ法人トスルハ敢テ三種ニ限ルトイフニアラス故ニ此外ニ法人タル他ノ會社ヲ設定シ得ヘシ現ニ民法ニ於テモ「營利ヲ目的タル社團法人」云々トアリ
磯部君ハ本條ヲ更ニ修正ウ「設立スルコトヲ得」ヲ改メ「三種トス」ト爲サントセリ富井君之ニ贊成アリタレトモ採決ノ際少數ニテ消滅セリ修正案ニ可決ス
(書記朗讀)
第三十八條 會社ハ之ヲ法人トス
會社ノ住所ハ其本店ノ所在地ニ在ルモノトス
(參照)舊七〇、七三、民三五、五〇、獨一一一、一六四、二一三、瑞五五九、五九七、六二五、伊七七、三項、西一一六、二項、羅七八、三項、葡一〇八、白千八百七十三年五月十八日法二、七項
梅委員ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第七十三條ト同一ナリト雖モ右第七十三條ハ其書方惡キヲ以テ從來議論多シ乃チ「會社ハ特立ノ財產ヲ所有シ又獨立シテ權利ヲ得義務ヲ負フ又訴訟ニ付キ原吿又ハ被吿ト爲ルコトヲ得」トアリ是ニ樣ニ解シ得ルヲ以テ不可ナリ或ハ會社ヲ法人トセリト云フアリ或ハ又非法人ナリト云フアリ「ロエスレル」氏原案ニ於テハ法人ト見ストアリ(草案ニ其他トアルハ故意ニ入レタルモノナラン)固ヨリ法人ノ觀念ハ人々之ヲ異ニスト雖モ民法ニ於テハ法人ヲ廣義ニ採リ總テ財產ノ主體ト爲リ訴訟ノ主體ト爲ルモノハ皆法人トセリ併シ之ハ程度論ニシテ常ニ之ヲ自然人ト同樣ニハ見ス自然人外ノモノハ皆法人トセリ本條モ斯クセルナリ又本條第二項ハ民法第五十條ト同一ナリ民法第五十條アル以上ハ元ト權衡ヲ得ル爲メニハ商事會社ニモ入用ナリ
橫田君ハ本條第二項ニ但書ヲ加ヘ「支店ニ關スル住所ハ其所在地云々」ト爲サントセリ其理由トスル所ハ元來會社ハ自然人ト異ナル故只タ本店、支店トハ其建物ノ場所ヲ住所ト見ルヘキモノナリト云フニ在リ
右ニ付テハ整理迄一考スルコトト爲レリ
(書記朗讀)
第三十九條 會社ノ設立ハ其本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
登記シタル事項ニ變更ヲ生シタルトキ亦同シ
(參照)舊六九、七八、一三八、一六八、二一〇、民四五、四六、二項、佛千八百六十七年七月二十四日法五五乃至五七、六一、蘭二三乃至二六、二九、三一、三八、獨二五、八六、八七、二項、一五一、一七六、一七八、二一〇乃至二一二、匈九、一九、六五、六六、二項、瑞五五三、五五四、五九二、六二一、六二三、伊九〇乃至一〇四、一二九、西一七、一一九、一二五、一四五、一五一、羅九一乃至一〇四、葡四九、五號、五七、白千八百七十三年五月十八日法六乃至一二、同千八百八十六年五月二十二日法三、英千八百六十二年八月七日法一七、一八
梅委員說明シテ曰ク本條ハ舊商法第六十九條ニ同シト雖モ六十九條ニ於テハ登記、公吿ト雙方ヲ書ケリ成程商業登記簿ノ一般ノ規定ニ於テハ公吿ヲ必要トスルモ總則ニ於テハ一旦登記セハ第三者ニ於テ過失ナクモ效力アリトセルカ故ニ商事會社ニ於テモ亦公吿ト言ハスシテ登記トスル方宜シ然ラサレハ民法ニ適合セス民法ニ於テモ登記シテ後ニ非サレハ第三者ニ對抗スルヲ得スト云ヒテ公吿ニハ重キヲ置カス故ニ單ニ「登記」トノミセハ便利ナリ公吿セサルモ第三者ハ之ヲ知ラスト云フヲロ實トスルコトヲ得ス本條ハ會社ノ設立ハ第三者之ヲ知ラサルニアラスシテ全ク設立ナキコトナル故一步重キ效力ナルヲ以テ之ハ登記セサレハ不可ナリ登記サヘモ煩ハシキニ公吿ヲモ條件トスルハ不可ナリ唯タ善意惡意ノ問題ト爲ラハ第三者ハ公吿ヲ知ラサリシコトヲ主張スルヲ得ス又第二ニ追加シタルハ「登記事項ニ變更ヲ生シタルトキ亦同シ」之ハ舊商法第二百十條ニ稍類似ノ事アリ又株式會社ノ定款ノ變更モ登記前ニアリテハ絕對的ニ無效トセリ然ルニ總則ニ在リテハ單ニ第三者ニ對抗スルヲ得ストアリ今回ニ於テハ設立、變更共ニ登記セサレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ストアリ外國ノ立法例モ多クハ然リ
土方君ハ會社ハ登記セサレハ絕對的ニ成立セストスルカ若クハ前以テ其時期ヲ定メ置カンコトヲ主張シ且曰ク合名會社ノ始メニ定款ノ必要ヲ述ヘアリト雖モ其他ノ會社ニモ一切定款ノ必要アルヲ以テ之ヲ總則ニ規定スヘシト
梅君辯シテ曰ク合名會社ハ登記ノ必要ヲ明言セストモ設立スルコトヲ得スト云フヲ得ス單ニ當事者間ノミニ於テ設立シ居ルカ如キ漠然タルモノニテハ不可ナリ故ニ定款ヲ作リテ之ヲ登記スヘシ定款ヲ要スルトハ大體合名會社ニ限ルナリ然レトモ株式會社ハ定款ヲ作ルノミナラス尙ホ創業總會ノ必要アリ故ニ株式會社ニ付テ重複ノ規定ヲ作ランヨリモ或條件ヲ以テ定款ヲ作ル方宜シ
磯部君ハ登記セストモ會社ハ成立シ得トノ趣旨ニテ本條ヲ修正シ「會社ハ其本店ノ所在地ニ於テ登記ヲ爲スニ非サレハ第三者ニ對シテ其效ヲ生セス」トシ第二項ハ原案ノ如クセントス其理由ニ曰ク若シ右ノ如クセハ登記ヲ怠ルトキハ單[ニ個人トノ契約ト爲ルニ止マルヲ以テ單簡ナリ又登記セサル間ハ會社ナルモノハ成立セス一個人ト同一ナリ故ニ會社ハ利益ヲ思ハハ必スシモ登記ヲ怠ラサルヘシ故ニ登記ノ期間ノ規定モ不用ナリ彼ノ出產ニヨリテ自然人ヲ生スルカ如ク會社モ亦自然人ノ如ク登記ヲ出產ト看做シ胎兒カ腹中ニ在ル間ニ定款カ出來出產乃チ登記ニヨリテ會社ナル法人ヲ生スルモノト見ルナリ以上ノ如クセハ罰則モ入用ナラス頗ル簡便ナリ故ニ登記ノ效力ハ絕封ニ認メサルコトトシ登記セストモ會社ハ成立シ得ルコトトスヘシト言フニアリ
此ニ於テ土方君ハ三種ノ會社共ニ登記ノ時ヨリ成立スルコトトセント主張シ岸本君ハ本條末段ヲ削除セントシ其理由トシテ說明シテ曰ク此末段アルカ故ニ善意惡意ヲ問ハスト云フコトハ設立ノミニ付テハ宜シキモ登記事項ノ變更カ亦タ善意惡意ヲ問ハストスルトキハ第十三條ト衝突スルナリ卽チ登記事項ノ變更ハ通常ノ登記事項ト同一ナルヲ以テ總則ト同一ニスヘキモノナリ設立ノ場合トハ大ニ異ナリ既成商法ニハ之ヲ別ニセルカ故ニ少シモ不都合ナシ因リテ本案ニモ之ヲ削ラハ敢テ不都合モナク又正當ニ解釋シ得ヘシト
是ヨリ高木君ノ請求ニ因リ本條ハ未決トシ次回迄延期スルコトト爲リ本日ハ之ニテ散會セリ