明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第10回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第拾回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
末松謙澄君
富井政章君
梅謙次郞君
元田肇君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
第二十九條 商人ハ番頭ヲ選任シ其本店又ハ支店ニ於テ其商業ヲ營マシムルコトヲ得
(參照)舊四二、獨四一、瑞四二二、一項、伊三六七、西二八一、二八三、羅三九二、葡二四八
本條ニ付テハ岡野君ハ別段ニ說明ノ要ナシト云ヒ次ニ土方君ハ全章削除ノ案ヲ提出セリ其理由ニ曰ク從來ハ番頭手代ノ權限噌定セス然ルニ本案ノ如ク强制的ニ之ヲ一定スルトキハ商人ノ受クル不便尠ナシトセス且登記ヲ爲ササルトキノ制裁モナキカ故ニ登記ヲ爲ササルカ如キ結果ヲ生シ本案ノ規定ハ詰リ有名無實ト爲ルヘク又番頭ヲ手代ト云ヒ手代ヲ番頭ト名乘ルモ敢テ法律上ノ制裁ナク從テ法文通リニ行ハレ難キヲ以テ寧ロ本章ヲ削リ其權限ニ付テ爭ノ生シタルトキハ民法ノ雇傭ト代理ヲ以テ論スレハ足レリト此ニ於テ長谷川君之ニ贊成シ磯部君ハ又本章ヲ削リ且商業代理ハ民法ト一種異ナルヲ以テ別ニ之カ章ヲ設ケント主張シ梅君ハ今後商業ノ發達スルニ從ヒ番頭、手代等ノ權限ヲ定ムルノ必要アルコトヲ述ヘ次ニ既成商法ノ削リタル箇條ヲ擧ケ之ヲ說明シテ曰ク舊第四十八條及四十九條等ハ必要ナル規定ナリト雖モ民法ト重複スヘキヲ以テ之ヲ削リ舊第五十一條ハ本案ノ第三十三條ニ該當スルモ少シク主義ヲ異ニシ且舊第五十一條第二項ノ「訴訟」ハ本案第三十三條ノ解釋上當然ニ含有シ第三項ハ全ク不用ニシテ慣習ニ反シ其他舊第五十二條、五十三條、五十四條及五十五條等殊ニ第五十二條ノ如キハ便利ノ規定ナルモ當然ノ規定ニシテ不必要ナルヘク第五十三條ハ第三者ニ對シテハ便利ナルモ本人ニハ危險ニシテ正ニ今日ノ慣習ニ反スヘク又第五十五條ノ如キモ第五十二條ト同性質ニシテ不用且慣習ニモ反スルヲ以テ殘ルハ唯タ雇傭關係ナルモ之ハ民法ト重複スヘク而シテ本條ハ唯タ一片ノ注吿ニ過キス法律ヲ以テ注意ヲ與フルハ實際ニ必用ナリト又曰ク假令登記セストモ番頭ノ權限ハ當然存在スヘク唯タ善意ノ第三者ニ對スルノ要件卽チ第三者ニ其權限カ一目瞭然ト爲ルノ便アルヲ以テ登記シ且公吿スルニ非サレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得スト云フニアリト次ニ橫田君井上君ハ原案維持說ナルモ原案ノ蠱ニテハ不可ナルヲ以テ更ニ之ヲ改正セント主張シ富井君ハ實質上本章全體ニ付テハ必要アルモ各條ニ付テハ大ニ異論アルコトヲ述ヘ且本條ハ暫ク議事ヲ中止シ先ツ第三十條ヨリ議事ヲ進行シ後ニ至リ其結果ヲ見テ本章削除ノ可否ヲ決センコトヲ主張シ之ヲ起立ニ間ヒタルニ贊成者多數ニテ之ニ決セリ
第三十條 番頭ハ主人ニ代ハリテ其營業ニ關スル一切ノ行爲ヲ爲ス權限ヲ有ス
番頭ハ手代其他ノ使用人ヲ選任又ハ解任スルコトヲ得
主人ハ前二項ニ定メタル代理權ニ制限ヲ加フルコトヲ得
(參照)舊四五、四七、獨四二乃至四四、瑞四二三、伊三七〇、三七一、三七五、西二八四、羅三九五、三九六、四〇〇、葡二四九、二五〇、二五四
岡野君曰ク既ニ本章全體ニ付テ削除說出テタル位ナルカ故ニ別段ニ詳細ノ說明ヲ要セサルモ本條ハ舊第四十五條及第四十七條ヲ合併シタルカ如キ規定ニシテ元來獨逸ニ於テモ共同ノ委任ヲ認ムルモ此委任ハ制限ナルヤ否ヤニ付テハ學者間ニ議論アリ而シテ之ハ制限ナラスト云フ者アレトモ誤レリト次ニ第一項ノ說明ニ番頭トシテ選ハレタル者ハ此ニ揭クル權限ヲ有スヘキモノニシテ共同スヘシト云フハ不可ナルコトヲ述ヘ第二項ハ民法ニ於テ代理人ハ止ムヲ得サル事項ナキトキハ複代理人ヲ選定スルコトヲ得サルカ故ニ後日ノ疑問ヲ避ケンカ爲メニ規定セルコト又第三項ハ代理權ニ制限ヲ立ツルコトヲ得ルト規定セルモ其制限ハ實際登記ノ手續ヲ經ルニ非サレハ第三者ニ對シテ有效タルヲ得サルコトヲ說明セリ
磯部君ハ本條削除ノ案ヲ提出シ理由ヲ述ヘテ曰ク元來番頭カ主人ニ代ハリテ營業ニ關スル一切ノ權利ヲ有スルコトハ斷シテ日本從來ノ慣習ナラス又第二項ハ無論慣習ト異ニシテ實際小僭タリトモ主人ニ於テ選定スルコトハ極メテ多ク各商家慣習ヲ異ニス又第三項ハ頗ル便利ノ如キモ此制限ハ果シテ第三者ニ對シテ有效ナルヤ否ヤ次條ヲ見ルモ未タ明カナラス之ヲ要スルニ制限ノ範圍ハ悉ク之ヲ各慣習ニ讓ラント高木君ハ又番頭、手代ノ名稱ヲ變シ且制限ハ法律上一定ノモノヲ明定セント主張シ本日ハ散會ノ時間到來セルヲ以テ本條ハ未決ノ儘ニテ散會ヲ吿ケタリ