明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第8回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第八回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
村田保君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
橫田國臣君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
磯部四郞君
三浦安君
西源四郞君
岡野敬次郞君
第二十五條 商人ハ帳簿ヲ備ヘ之ニ日日ノ取引其他營業二關スル一切ノ事項ヲ整然且明瞭ニ記載スルコトヲ要ス但家事費用ハ一个月每ニ其總額ヲ記載スルヲ以テ足ル
小賣ノ取引ハ現金賣ト掛賣トヲ分チ日日ノ賣上總額ノミヲ記載スルコトヲ得
(參照)舊三一、佛八、一項、一〇、蘭六、獨二八、一項、三二、瑞八七七、伊二一、一項、二五、西三八、四三、葡二九、三四、三九、白千八百七十二年十二月十五日法一六、一項、一九
田部君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク商業帳簿ニ付テハ大ナル修正ヲ加ヘス唯舊商法ノ或條項ヲ削レリ是レ或部分ハ民事訴訟法ノ規定ニ讓リ或部分ハ特別法ニ讓リタルヲ以テナリ偖本案ハ舊商法第三十一條ニ修正ヲ加ヘタリ大體ニ付テハ本案ハ變ラサルモ單ニ文字ノ㸃ニ付キ修正ヲ施セリ玆三說明スヘキハ歐羅巴ノ或國ニ比スレハ自由主義ヲ採リ究屈ノ主義ヲ採ラサリシナリ舊商法ハ「營業部類込慣例ニ從ヒ完全ナル商業帳簿ヲ備フルノ責アリ」トアルモ本案ハ之ヲ省ケリ他ナシ大ナル商業ヲ營ムモノニ付テハ慣例ハ一定シ居レルナルヘシト雖モ唯小商人ニハ不適用ナレハナリ若シ適用スルト爲スモ或ハ確タル慣習ハナキヤモ知レス帳簿ノ作製ニ付テハ他ノ帳簿ヲ備ヘ置クノ必要ナシ、法律上ノ慣例ニテ極ルモノ故自由一ニ任シテ「慣例」云々ハ規定セス、日々ノ取引其他一切ノ事項ハ規定スルコトトセリ晶售商法ハ其他ニ爪同ホ錯雜セル事項ノ設ケアルモ斯カルコトハ骨田然本條中ニ包含スルモノト信シ是ヲ改メタリ、ニ項モ少シク修正ヲ加ヘタリ舊法ハ「現金費ト掛賣トヲ問ハス」ト在リテ現金賣ト掛留買トハ區別スルノ必要ナキカ如シ本案ハ現金賣ト掛賣ヲ區別スルノ必要アルモノト信シ帳簿ヲ分チ記載セシムルコトトセリト
磯部君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク本條ハ我國從來ノ慣習ニ適セス我國ニ於テハ店向キニ於テハ多クハ日記帳ナルモノヲ作リ現金賣ト掛賣トヲ區別セスシテ皆此帳簿ニ記載シテ其後日記帳ヨリ通帳ニ轉寫シテ債務者ニ渡スモノトス此通帳ニ轉寫センカ爲メ四五日ハ預ケ置クモ間違ノ生スルカ如キコトナシ而シテ商業上ニ付キ以上述タルカ如キ慣習アリテ行ハレ來リシモ法律上ノ制裁ヨリ云フトキハ書キ分ル必要生シ今日迄ノ慣習ハ確實ノ證據カナキコトトナルヘシ銀行會社ノ如キハ西洋風ニテ今日實際ニ適合シ居ルモ大店向キノ如キハ慣習ヲ墨守シ甚タシキニ至リテハ法律上ノ罪人トナルニ至ルヘシ故ニ余ノ考ヲ以テセハ第二十五條ニ項ヲ削除シ之ヲシテニ十五條一項ノミヲ存シ「其他營業」ノ四字竝ニ「整然且」ノ三字ヲ削ルコトト爲サン整然ト云フカ如キハ單ニ形容詞ニ過キス詩ナレハ極メテ宜シキモ法律語トシテハ宜シカラス單ニ「明瞭」ト云フトキハ分リサヘスレハ宜シキコトトナルヘシ先ツ以上ノ如キ修正案ヲ提出スヘシト論セラレタリ此修正案ニハ贊成者ナシ
高木君モ亦修正案ヲ提出シテ曰ク「商人ハ帳簿ヲ備ヘ之ニ營業上日日ノ取引其他一切ノ出入計算ヲ記載スルコトヲ要ス」ト如斯爲シテハ如何ト論シタリ、贊成者アリシモ之ヲ起立ニ間ヒシニ少數ニテ滄滅セリ
土方君ハ修正案ヲ提出シテ曰ク但書ノ「家事費用」ヲ改メ「家事費用其他ノ臨時費用」ト改メタシ畢竟營業ニ關セサル意義ヲ有セシムル考ナリト此案ニハ贊成者アリ之ヲ起立ニ間ヒシニ少數ニテ消滅セリ序イテニ土方君ハニ項ノ「掛賣」ノ文字ヲ除クトノ說ヲ提出セシカ是亦少數ニテ消滅セリ
本條第一項ノ「營業ニ關スル」ノ文字ニ付テハ其解釋ヲ明瞭ニ爲サンカ爲メ、多數ノ希望ニ依リ起草者ニテ再考スルコトニ決定シ次條ニ移リタリ
第二十六條 商人ハ開業ノ時及ヒ每年一囘一定ノ時期ニ於テ動產、不動產、債權、債務其他ノ財產ノ總目錄及ヒ貸方借方ノ對照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス
財產目錄ニハ動產、不動產、債權其他ノ財產ニ其時ノ價格ヲ附スルコトヲ要ス
(參照)舊三二、佛九、蘭八、獨二九乃至三一、瑞八七七、伊二二、西三七、葡三三、六二、白千八百七十二年十二月十五日法一七
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ノ大體ハ舊商法ニ依レリ唯細目ニ修正ヲ加ヘタルニ過キス舊商法ハ本條ニ於テ會社及ヒ商人ノコトヲ規定セルモ本條ハ單ニ商人ノコトノミヲ設ケ會社ニ付テハ特ニ次條ヲ置クコトトセリ舊法ニ於テハ每年始メノ三ケ月內ニ財產目錄貸借對照表ヲ作ルノ義務アリトノコトナルカ每年始メノ三个月ハ實際上事實ニ相當セサルコトアリ畢竟一回一定ノ時期ヲ以テセハ可ナリ何トナレハ慣習上、益或ハ師走ト云フカ如ク一定ノ時期ニ確定セハ宜シケレハナリ故ニ三个月ヲ改メ一回一定ノ時期トセリ次ニ舊法ハ動產不動產ニ限ルモ財產上ノミナラスあくちーぶノモノモしちーぶノモノモ含マサルヘカラス印財產以外ノモノニシテ債權債務モアル故動產不動產、債權債務其他ノ財產トセリ次ニ署名ヲ削レリ他ナシ歐洲各國ニ於テハ署名ノコトアルモ是責任ヲ明カニスルニ過キス乍併商人自身ニテ責任ヲ負フニハ舊ヨリ署名スルノ必要ナシ署名セサルモ自ラ責任ヲ負フモノナレハナリ次ニ第二項ニ付キ說明センニ財產目錄ニ付キ其時ノ價格ヲ附スルコトヲ要ストセリ舊法ハ當時ノ相場又ハ市場價値ヲ附ストアリ畢竟當時ノ價格ヲ明瞭ニ記載セハ可ナルヲ以テ本條ノ如ク改メタリ次ニ舊法ハ貸借對照表竝ニ財產目錄ニ價格ヲ記載スルモ余ハ貸借對照表ニハ之ヲ記載スルノ必要ナシト信ス何トナレハ貸借對照表ハ性質上貸借ヲ一括シテ記載シアルヲ以テ例ヘハ財產目錄ニハ債權百圓ト記載シアルモ其實半額ノ辨濟ヲ爲シ得ルモノナレハ五十圓ト記載スルコトトナルヘシ又家ヲ建築セル場合ニ於テ事實上一萬圓ノ金額ヲ消費セシモ時日ヲ經過セシ爲メ千圓ノ價格ニ過キサレハ財產目錄ニハ雙方ノ價格ヲ記載スルモ貸借對照表ニハ一方ノミヲ記載スルコトトナルヘシ財產目錄ニハ雙方ノ價格ヲ記載スルモ貸借對照表ニハ現在ノ價格ノミヲ記載セハ可ナリ舊法ノ如ク雙方ノ價格ヲ記載スルハ誤謬ナリ歐洲各國ノ雛形ヲ見ルニ決シテ舊法ノ如キ雛形アルヲ見ス是本條ヲ修正セル所以ナリ
磯部君ハ本條全部ノ削除說ヲ提出シテ曰ク會社ノ如キハ是迄ノ關係上ヨリ必要アルモ元來貸借對照表作製ノ如キハ日本ノ一己人タル商人ヲシテ此責任ヲ負ハシメンカ殆ト罪人タラシムルニ至ルヘシ如何ニモ斯カルコトハ成立ヲ望ムモ一己人トシテハ懸値ヲ爲スコト多カラン大抵日本ノ商人トシテハ普通詐欺類似ノコトモアリ然ルニ對照表ニ詐欺ノコトアランカ破產ニ際シ詐欺破產トナルヘシ斯カルコトハ商人ニ採リテハ常ニ有リ勝ノコトナリ而シテ又此貸借對照表ハ新聞ニ公吿スルモノニモアラス債權者ハ財產目錄ヲ反古紙ト同視シ信ヲ措カサルコト多シ又虛欺ノコトモアリ或ハ一時ノ信用ヲ買ヒ其家ヲ維持スルコトモアリ故ニ右帳簿ノ如キハ實際ノ有樣ニ付キ效力アルモノニ非ス是レ削除讀ヲ提出スル所以ナリト、此案ニハ贊成者アリ
梅君ハ本條全部削除說ヲ駁シテ曰ク日本ノ商人ハ法律上帳簿ヲ備フルコトヲ命スルモ誤解スルモノ多クアリテ帳簿ノ附方ノ惡シキ爲メ過怠破產トナルモノ多クアリト此等ハ一應ハ最モナル理由モアラン然レトモ畢竟今日ノ商人ハ自己ノ資本ニ應シテ爲スモノ故財產目錄貸借對照表ハ商法ノ規定ナキモ作製スルノ必要アリ然ルニ此帳簿ヲ作製セサル者ハ商業ニ不熟練ノ者ナリ不熟練ノ商人ノ爲メ本條ノ規定ヲ犧牲ニ供シテ削除スルハ酷ナルモノト謂フヘシ若シ又其結果トシテ甚シキ制裁アルモノナレハ兎モ角單ニ間接ノ制裁ニ過キス然ルニ全然削除スルト云フカ如キハ商法ヲ無視スルモノト云フヘシト序イテ磯部君ノ說ヲ採決セシニ少數ニテ消滅セリ
富井君ハ第二項ニ付キ起草者ニ談合シテ曰ク本條第二項ノ「其時」ハ目錄調製ノ時ヲ指スモノナランカ「當時」ト爲シテハ如何ト梅君ハ之ニ答ヘテ貴說ノ如ク「其」ノ下ニ當ヲ入ル意義ニテ解セサルヘカラス孰レ整理迄ニ考フルコトトセント
第二十七條 年二囘以上利益ノ配當ヲ爲ス會社ニ在リテハ其配當ヲ爲ス每ニ前條ノ規定ニ從ヒ財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルコトヲ要ス
(參照)舊三三、佛九、蘭八、獨二九、三項、伊二二、西三七、葡三三、六二、白千八百七十二年十二月十五日法一七
梅君ハ本條ニ付キ說明シテ曰ク本條ハ畢竟舊商法三十三條ト同一ナリ唯少シク文字ヲ改メタルニ過キス而シテ別段說明スルノ要ナシト
第二十八條 商人ハ十年間其商業帳簿及ヒ其營業ニ關スル信書ヲ保存スルコトヲ要ス
前項ノ期間ハ商業帳簿ニ付テハ其帳簿閉鎖ノ時ヨリ之ヲ起算ス
(參照)舊三四、佛八、二項、一一、蘭七、九、獨二九、二項、三三、瑞八七八、伊二一、二項、二六、西四一、四二、四九、葡三六、四〇、白千八百七十二年十二月十五日法一六、二項、一九、二項
田部君ハ本條ヲ說明シテ曰ク本條ニ付テハ別段說明ヲ要セス唯第一項ニ「信書」ノ文字ヲ入レタリ他ナシ手紙電報ノ如キヲ含マシムルコトトセリ然ラサレハ營業上不明ノ㸃ヲ生スルヲ以テナリト
高木君ハ本條中營業ニ關スル信書保存ノ規定ヲ削除セントノ說ヲ提出シテ曰ク例ヘハ信書電報ノ如キ取引上ノ承諾ヲ求メシモノノ如キハ法律上ノ命令ヲ待タス各商人ハ保存シ來レリ然ルニ既ニ申込モ引渡モ終了シテ何等ノ效用ナキモノヲシテ十年間保存スルカ如キハ何等ノ必要モナシ故ニ削除說ヲ提出スヘシト此說ニハ贊成者アリ
梅君ハ右ノ說ヲ駁シテ曰ク日本人ハ書狀ヲ麁末ニ取扱フノ慣習アリ故ニ後ニ至リテ如何ナルコトアルモ不明トナルニ至ル然ルニ之ヲ慮リテ一々證書ヲ作ルカ如キハ到底爲スヲ得ス西洋各國ノ如キハ數年經過スルモ猶存在シテ證據ト爲シ居レリ我國ノ慣習トシテハ保存スルノ必要アリト信スト右削除讀ヲ起立ニ間ヒシニ多數ニテ削除スルコトトナレリ
商乙第三號
商事組合ノ規定ハ之ヲ第三編中二揭クルコト
岡野君ハ右豫決問題ヲ說明シテ曰ク本案ハ會社ノ規定ヲ起草スルニ先チ諸君ノ意見ヲ伺ハン爲メ提出セリ本案ハ一个ノ商人ト會社トヲ竝稱スルヲ以テ會社卽法人タル團結ノ下ニ組合ヲ置クハ不可ナリ何トナレハ既ニ民法ニ於テモ六百六十七條ニ組合ノ規定ヲ置キ組合ヲ以テ一ノ契約ト看タリ故ニ民法モ契約ノ一種トシテ第三編ニ章中ニ設ケタリ組合ハ舊商法ニ於テモ三種ノ組合ノ規定アリ會社ハ第三者ニ對シ法人タル資格ヲ有スルモ組合ハ第三者ニ對シ權利ヲ有シ義務ヲ負フモノニ在ラスシテ組合契約ヨリ生スル權利義務ヲ當事者相互間ニ締結セシニ外ナラス故ニ會社ト組合トハ其性質相異ナルモノニシテ之ヲ會社中ニ竝記スルノ理由ナシ而シ當座組合、共分組合、匿 名組合ナルモノヲ設ケシハ歐洲各國ノ歷史上ヨリ基因セルモノニシテ此㸃ヨリ云フトキハ幾分力理由アルモ、我國ノ如キハ是等ノ關係ナキヲ以テ商法中法人タル資格ヲ有スル會社ト同=一規定スルノ理由ナシト信ス商事契約ヲ以テセルモノヲ法人タル團體中ニ組合ノ權利義務ヲ定ムルハ理由ナシト信ス固ヨリ民法ニ於テモ組合ヲ契約ト爲シタルニ過キス故ニ商法ニ於テモ第三編契約ノ規定中ニ設ケンコトヲ欲シタルナリ而シテ外國ニ於テハ沿革上ノ理由ヨリシテ生セシヲ以テ本案ニ於テハ會社ヲ以テ法人ト爲シ組合ハ契約ノ一種トシテ會社中ヨリ除キタキ精神ナリト