第七回商法委員會議事要錄
明治二十九年六月十九日午後三時四十五分開議
出席員
箕作麟祥君
土方寧君
村田保君
田部芳君
高木豐三君
穗積八束君
淸浦奎吾君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
菊池武夫君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
金子堅太郞君
磯部四郞君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
前回ニ於テハ第二十條未決ナリシヲ以テ本回ハ是ニ引績ク
磯部四郞君ハ第二十條ト第二十一條ヲ削リ之ニ代フルニ唯タ一個條ヲ以テシ之ヲ第二十條ト爲シ「商號ノ登記ヲ爲シタル者ハ不正ノ競爭ノ目的ヲ以テ其商號ヲ使用スル者ニ對シ其使用ヲ停ムルコトヲ得但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス」トセントノ修正案ヲ提出セリ其理由ニ曰ク原案ニハ「其營業ニ付」トアルモ營業ノ種類ハ極メテ混雜シテ容易ニ區別シ得サルモノアリ又ハ一人ニテ數個ノ營業ヲ兼ヌルモノアリ故ニ是等ノ區別ヲ立ツルハ頗ル困難ナルヲ以テ一旦商號ヲ登記シタル者ハ他ニ不正ノ目的ヲ以テ同一ノ商號ヲ使用スル者アレハ之ヲ停ムルコトヲ得トシ別ニ「一市町村內」ト云フカ如キ制限ヲ設ケス其代ハリ自己ニ於テ立證スヘキコトト爲ルヘク斯ノ如クセハ實際不便少ナカルヘシト
金子委員ハ農商務省ノ意見ヲ代表シ其今日採レル主義ヲ述ヘテ曰ク日本ノ商業ニアリテハ從來商號ヲ保護セス却テ商標ヲ重ンスルナリ故ニ商標條例發布セラレ商標ヲ保護セハ一般ノ慣習ニ於テモ商號ハ之ヲ保護セストモ不都合ナキナリ故ニ特種ノ事情アリテ商號ヲ保護スヘキコトヲ發見セサル以上ハ舊來ノ如ク商號ハ保護スルヲ要セス英米國ニ於テモ然リ又今日商業社會ノ有樣ハ商標ノ必要ハ稍ヤ之ヲ感スルモ商名ハ未タ其要ヲ感セス且商標トテモ殆ント必要ヲ感セサルノ證ハ商標條例發布以來玆ニ拾有餘年ニシテ商標ノ登錄ヲ得タルモノ極メテ少數ナリ故ニ其多數ハ外國輸出物ナルカ故ニ商標ノ登錄ヲ許サハ以テ商名ニ保護ヲ與フルノ要ナシ又不正ノ目的ヲ以テ同一商號ヲ使用スル者アルモ是ニ相當ノ救濟ノ方法ヲ與フルハ決シテ難カラスト
右ニ對シ岡野君ハ本案ノ採リタル主義ハ各商人ヲシテ必ス商號ヲ有スヘシト强制シタルニアラスシテ商號ノ保護ヲ得ント欲スル者ハ登記ヲ爲シテ始メテ專用權ヲ得ルニ在ルコト又商號ノ保護ヲ規定スルハ商慣習ニ戾ルコトナク却テ慣習ニ適スルコトヲ述ヘ土方君ハ原案ヲ難シテ原案ノ儘ニテハ是レ人ノ自由ヲ束縛スルモノナリト云ヒ且曰ク商號ハ之ヲ保護スルノ必要決シテ大ナリト謂フヲ得スト雖モ苟モ之ヲ認ムル以上ハ專用權ヲモ認メ唯タ其效力ハ之ヲ薄弱ナラシムヘシト
次ニ尾崎君重岡君ハ磯部君ニ贊成アリタリ此ニ於テ梅君ハ磯部君ノ說ニ對シ論シテ曰ク若シ他人ノ利益ヲ害スルノ目的ヲ以テ同一ノ商名ヲ付スル者アル場合ニ於テハ被害者ニ於テ之ヲ證明スルノ方法ハ頗ル困難ニシテ其疑ハシキハ寧ロ之ヲ問ハスト云フニ至リ殆ント之カ保護無キモ同一ト爲ルヘシト又本案ハ實際商業會議所ヘ諮問シタルニ多數ノ意見ハ其必要ヲ主張シ且各相當ノ理由アリト認メタルヲ以テ之ヲ採リタルモノニシテ決シテ空論ニアラサルコトヲ辯シタリ終リニ土方君ハ磯部君ニ贊成アリタルヲ以テ起立ニ問ヒシニ磯部君ニ贊成スル者半數ニシテ議長ハ途ニ磯部君ノ修正案ニ決シタリ
第十八條及第十九條ハ前回ニ於テ第二十條、第二十一條ヲ決スル迄議事ヲ中止セシモノナルカ故ニ玆ニ再ヒ本條ニ歸リテ議事ヲ始メタリ
土方君ハ第十八條ノ「合名會社」ヲ削除セントノ案ヲ提出セリ其理由トスル所ハ以來家族ノ特有財產ヲ生スルニ至ラハ合名會社ノ如キモノヲ設立セントスル者アルヘシ然ルニ單ニ「合名會社」ト云フヲ許サス「何々合名會社」ト爲スヘキモノトセハ頗ル不便ナリト謂フニアリ又殊更ニ「合名」ナル文字ヲ用フルノ必要ナク又「會社」ト云ハストモ其會社タルコトヲ知ルニ足ラハ或ハ「商社」トスルモ不可ナシトテ先ツ「商社」ト云ハンヨリ單ニ「會社」ノ文字ハ之ヲ附スルコトノ案ト爲シ合名會社ニ付テハニ項ト爲シ單ニ「會社」ナル文字ヲ附スルコトト爲サント主張シ菊池君之ニ贊成アリタルヲ以テ之ヲ起立ニ間ヒタルニ少數ニテ本條ハ原案ニ決セリ
第十九條 會社ニ非スシテ商名ニ會社タルコトヲ示スヘキ文字ヲ用ユルコトヲ得ス會社ノ營業ヲ取得シタルトキト雖モ亦同シ
(參照)施二、獨一六、二項、瑞八六七、二項、葡二〇
梅君本條ヲ說明シテ曰ク本條ハ商法施行條例第二條ト同シク而シテ是ヲ施行條例ニ置クハ性質上不適當ト認メテ玆ニ規定セルモノナリ蓋シ之ハ從來ノミナラス將來ニ於テモ生スルコトナルヲ以テ獨逸商法等ニ倣ヒテ玆ニ規定セリト且施行條例ヲ改メタル㸃ヲ述ヘテ曰ク施行條例ニハ「會社」ト明言セルモ本條ニ於テハ敢テ會社ト限ルヘキモノニアラストノ主義ヲ採リ現ニ獨逸ニ於テモ「會社ヲ意味スル文字ヲ附スルコトヲ得ス」トアリト尙ホ施行條例ノ趣旨ヲ解シテ曰ク今後ハ皆「會社」ト名ツクヘキカ故ニ假令之ニ類似ノ名ヲ付スルモ他人ハ決シテ信セサルヘシトノ意ニテ條例ニハ單ニ「會社」トセルナランモ本條ニ於テハ總テ箇樣ナルモノハ悉ク之ヲ禁スルノ主義ヲ探リタリト終リニ尙修正ノ㸃ヲ說明シテ曰ク舊法ニハ貳拾圓以下ノ制裁アリテ是ハ少シク道理アルカ如キモ其制裁タルヤ頗ル微弱ナリ若シ「會社」ト云フニ類似ノ文字ヲ使用スル者アレハ之ニ付テノ制裁ハ行政官ニ於テ充分ニ爲スノ餘地アルナリ且此事柄タルヤ裁判官ニ於テハ甚タ知リ難キコトニシテ又本條ニ違反シテ其商號ヲ登記セントスルモ登記官吏ハ決シテ之ヲ許ササルヘシト
土方君ハ舊法ノ如クセント主張セリ其理由トスル所ハ會社ハ總テ「會社」ナル文字ヲ附スルコトト爲リタルヲ以テ決シテ本條ノ如キ恐レナシト云フニアリ而シテ長谷川君之ニ贊成アリタルヲ以テ之ヲ起立ニ間ヒタルモ少數ニテ本條ハ途ニ原案ニ可決ス
第二十二條 商名ノ登記ヲ爲シタル者カ其商名ヲ廢止シ又ハ之ヲ變更シタル場合ニ於テ其廢止又ハ變更ノ登記ヲ請求セサルトキハ利害關係人ハ其登記ノ抹消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ裁判所ハ登記ヲ爲シタル者ニ對シ相當ノ期間ヲ定メ異議アラハ其期間內ニ之ヲ申立ツヘキ旨ヲ催吿シ若シ其期間內ニ異議ノ申立ナキトキハ直チニ其登記ヲ抹消スルコトヲ要ス
(參照)舊二五、二項、獨千八百八十八年三月三十日法、瑞八六六
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ既成商法ト異ナリテ卽チ既成商法第二十五條ニハ單ニ本人カ變更等ノ登記ヲ爲スヘシトセルモ是不充分ニシテ本人カ商ヲ止メタルトキハ自己ノ商號ハ假令登記シアルモ直チニ之ヲ取消ササルヘシ如何トナレハ最早自己ニ利害ノ關係之無キヲ以テナリ斯クテハ他人ニシテ同號ヲ用ヰントスル者ヲ害スルコト甚敷卽チ登記ノ取消ナキカ爲メ他人ニ不幸ヲ生スヘシ是レ他ノ者ヨリ登記取消ノ請求ヲ爲シ得ルコトトセル所以ニシテ「利害關係人」トハ則チ此他人ヲ謂フナリ草案及ヒ獨逸商法ニテハ之ニ罰金ノ制裁ヲ附シ或ハ裁判官ハ職權ヲ以テ取消スコトヲ得ルモアリ又第二項ハ其誤アルヲ恐レタルニ過キスト
此ニ於テ橫田君ハ第二十條ナキ以上ハ殊更ニ登記ノ必要ナキヲ以テ全ク之ヲ削除セント主張シ磯部君之ニ贊成シ之ヲ起立ニ間ヒシニ多數ニテ削除セラレタリ然ルニ梅君ハ第二十三條以下ハ熟考ヲ要スルヲ以テ延期セント云ヒ直チニ第五章ニ移レリ
第五章 商業帳簿
(參照)舊三一乃至四一、佛八乃至一七、蘭六乃至一三、獨二八乃至四〇、瑞八七七乃至八八〇、伊二一乃至二八、西三三乃至四九、葡二九乃至四四、白千八百七十二年十二月十五日法一六乃至二四
田部君曰ク本章ニハ大ナル修正ナク大體ハ舊法ヲ採用シ唯タ不必要ト見タルモノハ多ク之ヲ削除シタルニ過キス其第三十五條以下ハ全ク不必要ナルアリ或ハ場所其當ヲ得サルモノアリテ之ヲ除ケリト本章標題ハ原案ニ可決シ散會ヲ吿ケタリ
午時午後六時四十五分