明治商法(明治32年)

法典調査会 商法委員会議事要録 第4回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
第四回商法委員會議事要錄
出席員
箕作麟祥君
本野一郞君
土方寧君
村田保君
田部芳君
穗積八束君
淸浦奎吾君
橫田國臣君
奧田義人君
井上正一君
富井政章君
梅謙次郞君
重岡薰五郞君
長谷川喬君
南部甕男君
尾崎三良君
三浦安君
中村元嘉君
岡野敬次郞君
西源四郞君
前回ニ於テハ「公法人」ト云フニ付テ議論アリ爲メニ第六條ハ未決ナリシヲ以テ本日ハ之ニ引續キ開會シタリ
富井君ハ「公法人」ヲ尙ホ少シク平易ニ書換ヘント主張セリ其理由トスル所ハ詰リ公法人ト私法人トノ間ニハ明了ナル區別ノ標準ナク公法人トハ先ツ公法上ノ職務ヲ盡スカ爲メ公法上ノ團體ニ附シタル名稱ニ過キスシテ其財產上ノ權利義務ヲ有スル㸃ヨリ見レハ公法人ト雖モ私法上ノ人格ヲ有スル私法人ナルカ故ニ民法商法ノ上ヨリ見ルトキハ公法人ト私法人トノ區別ナシ故ニ本條ニ「公法人」ト記スルハ果シテ如何ナルモノヲ謂フニヤ不明了ナリト云フニアリ
梅君右ニ對シ辯シテ曰ク公法上ノ目的ヲ有スル法人ハ此目的ニ間接タルト直接タルヲ論セス悉ク公法人ナリ然ルニ同一ノ法人カ其爲スコトニ因リテ或ハ公法人ト爲リ或ハ私法人ト爲ルコトナシ故ニ苟モ公法上ノ目的ヲ有スル者ハ公法人ナリト云フコトヲ得ヘク之カ所有權ヲ取得シ債權債務ヲ有スル場合ト雖モ公法上ノ目的ノ爲メニ權利者ト爲リ又義務者ト爲ルモノナルカ故ニ公法人タルノ資格ヲ失ハス本案モ其趣旨ナリト
穗積八束君ハ「公法人」ノ語極メテ漠然タルヲ以テ之ニ定義ヲ與ヘ「公法上ノ目的ヲ有スル團體ノ商行爲」トカ或ハ定義ヲ與フルコト難ケレハ他ノ語ヲ以テ言ヒ現ハシ例ヘハ「國府縣市町村」ト云フカ如ク之ヲ列擧スヘシト主張セリ然レトモ富井君ハ列擧主義ヲ採ルハ脫漏ノ危險アルヲ以テ宜シク他ノ詞ヲ以テ書キ現ハサントノ希望ヲ述ヘタリ
岡野君ハ曰ク「公法人」ノ語ハ漠然トシテ普通人ニ了解シ難シト論スル者アルモ既ニ民事訴訟法第十四條、第百三十八條及ヒ既成商法第十七條等ニモ「公ノ法人」ナル文字ヲ使用セリ而シテ是等モ亦本案ニ於ケルト同一ノ意義ヲ有スルモノナルヘキカ故ニ普通人ニ解シ難キコトハ恐ク有ヘカラスト
採決
穗積八束君ノ修正案ニ付キ贊成者 少數
此ニ於テ村田君ハ本條ヲ假議決トセンコトヲ發議シ長谷川君、土方君之ニ贊成アリタルモ採決ノ結果起立者少數ニテ消滅シ本條ハ途ニ原案ニ決セリ
第七條 本法ニ於テ商人トハ自己ノ名ヲ以テ商行爲ヲ爲スヲ業トスル者ヲ謂フ
商事會社ノ無限責任社員ハ之ヲ商人トス
(參照)舊九、佛一、蘭二、獨四、伊八、西一、羅七、九、葡一三、白千八百七十二年十二月十五日法一
岡野君說明シテ曰ク本條ハ臨成商法第九條ト精神、實質共ニ同一ニシテ「自己ノ名ヲ以テ」ヲ加ヘタルハ聊力修正ノ意アルカ如シト雖モ舊第九條ハ其文字コン用ヰサルトモ精神ハ同一ナリ而シテ今此文字ヲ特ニ用ヰタルハ蓋シニ個ノ理由存スルニ因ル卽チ一ハ自己ノ名ヲ以テ商行爲ヲ爲スヲ業トセハ其業務ニハ實際從事セストモ商事ヨリ生スル損益ハ假令他人ニ歸スルトモ商人タルナリ第二假令自己ハ商事ニ與ラス且其損益自己ニ來ルモ自己ノ商人タルコトヲ世ニ發表セサルトキハ商人ナラス又商家ノ番頭手代等ハ契約上商業ヨリ生スル利益ノ幾分ヲ以テ報酬トシテ取得スルモ自己ノ名ヲ以テセサルカ故ニ商人ニ非スト又第二項ヲ說明シテ曰ク舊商法ニハ之ニ相當ノ條文之レ無シ舊商法ニ認メタル商事會社中合名會社ノ社員ハ皆無限責任ナリ而シテ合資會社ハ明文ナキモ其性質上ニ個ノ社員ヲ必要トス其無限責任社員ハ自己ノ全財產ヲ會社事業ニ供スルモノナルカ故ニ株式會社トハ其規定ヲ異ニスヘキモノナリ本條ハ元來外國ニ之レ無シト雖モ無限責任社員ノ商人タルコトハ之ヲ認メリ以上ハ實質上ノ理由ナルモ合名會社ハ法人ナルヤ否ヤハ別問題トシ會社ノ社名ハ法人ナラストノ方ヨリ言ヘハ社名ハ社員全體ヲ顯ハス名ナルカ故ニ社員各自ヨリ見レハ社名ハ自己ノ名ナリト云フヘシ
穗積八束君ハ本條ニ「本法ニ於テ」トアルヲ削除セント主張シ理由ヲ述ヘテ曰ク「本法ニ於テ」トハ特ニ本條ニ於テノミ在リ故ニ本條ニ之ヲ置カハ彼ノ商行爲ノ所ニモ「本法ニ於テ」ト記スヘシ且「本法ニ於テ」トハ特ニ記載セストモ皆其意味ニ解スヘシト次ニ「自己ノ名ヲ以テ」トハ不用ナリトセリ其理由トスル所ハ第四條ノ如キモ別段記載ナクトモ「自己ノ名ヲ以テ」ト云フ意味ニ解スヘキモノナルヲ以テ特ニ本條ニ之ヲ明記スルノ要ナシト言フニアリ
右ニ對シ岡野君說明シテ曰ク特ニ「本法ニ於テ」トセルハ彼ノ商人ニ付テハ商法外ノ法令ヲ以テ異ナリタル定義ヲ與フル場合モ之レ有ルヘシ故ニ商法ニ於ケル商人ノ定義ハ之ヲ明定シ置ノ必要アリ然ラハ商行爲ノ所ニモ亦「本法ニ於テ」ト明記スヘシト云フ者アリ上雖モ元來本條ハ商人ノ定義ヲ與ヘタルナリ之ニ反シテ商行爲ハ定義ヲ與ヘス唯タ之ヲ列擧シタルノミ且「自己ノ名ヲ以テ」ヲ加ヘタルハ固ヨリ舊第九條ト同意味ナリト雖モ之ヲ加フルトキハ商人トシテノ身分ヲ一層明確ニスヘク自己ノ爲ニスルト自己ノ名ヲ以テスルトハ大ニ異ナリ故ニ自己ノ爲ナルモ其名ヲ以テセサルハ商人ト見サルコトヲ表示センカ爲メ「自己ノ名ヲ以テ」ヲ加ヘタルナリト
此ニ於テ穗積君ノ說ニハ贊成者ヲ得ス本條ハ途ニ原案ニ可決セラレタリ
第八條 商業ヲ營ム許可ヲ得タル未成年者ハ登記ヲ爲スコトヲ要ス
(參照)舊一一、民六、八八九、九二六、佛二、三、伊九乃至一二、西四、五、葡七乃至九、白千八百七十二年十二月十五日法四乃至八
岡野君ハ本條ハ別段詳細ノ說明ヲ要セサルコトヲ述ヘ次ニ本條ハ既成商法第十一條ニ該當シ且之カ細則ハ民法第六條、第八百九十五條、第八百九十六條ニ規定アルコトヲ述ヘ終リニ本條ハ唯タ商業登記簿ニ登記スヘキコトヲ定メタルノミニシテ其實質ハ民法ノ規定ニ依ルヘク又之カ手續ニ付テハ手續法ニ讓リタルコトヲ述ヘ別段修正案ノ提出者モナク本條ハ直チニ原案ニ決セリ
第九條 後見人カ親族會ノ認許ヲ得テ被後見人ノ爲メニ商業ヲ營ムトキハ登記ヲ爲スコトヲ要ス
後見人ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
(參照)舊一〇、二項、伊一二、西五、白千八百七十二年十二月十五日法八
梅君ノ說明ニ曰ク本條ハ前條ト同性質ニシテ後見人カ被後見人ノ爲メニ商業ヲ營ミ得ルヤ否ヤハ民法ニ從フヘキナリ唯タ其場合ニ登記ヲ要スルヤ否ヤハ民法ニ規定ヲ設ケス而シテ後見ノ規定ニ依レハ後見人ハ重大ナル法律行爲ヲ爲スニハ親族會議ノ認許ヲ要スルナリ然ルニ商業ヲ爲スコトニ付テハ詰リ右重大ナル法律行爲ヲ爲スニ外ナラスシテ例ヘハ元本ヲ利用スル等總テ親族會ノ認許ヲ要スルナリ民法ニ於テハ外國ノ如ク親族會ノ許可ハ必シモ特許ナラス卽チ總括的ノ認許ヲモ與ヘ得ルナリ後見人カ被後見人ノ爲メニ商業ヲ營ムニ當リテ親族會ノ認許ヲ要スルコトニ付テ之ヲ民法ニ揭ケサリシハ親權ト權衡ヲ得サルノ恐アルヲ以テナリ卽チ父母カ子ノ爲メニ商ヲ爲スニ付キ親族會ノ認許ヲ要スルニモ及ハサルヘシ然ラハ後見人ハ被後見人ノ爲メニ商ヲ營ムコトナキヤトノ疑ヲ生スヘキモ未成年者カ商ヲ營ムハ身分又ハ身體上ノ關係ヲ有スルトシテ認許ヲ要スルナリ然ルニ後見人ノ爲ストキハ利益上財產上ノ關係ノミニシテ身體上ノ關係ナシ故ニ之ヲ揭ケサリシナリト次ニ第二項ノ說明トシテ曰ク之ハ第三者保護ノ規定ニシテ後見人ハ親族會ノ認許ヲ得テ之ヲ爲スナリ而シテ其會議ハ或事項ハ認許シ或ハ之ヲ認許セス又ハ條件ヲ付シテ認許スルコトアリテ大體ノ主義ハ三種アリ第一ノ主義ハ制限ヲ廣クシテ第三者ニ對抗スルモノニシテ此主義ヲ採ル以上ハ登記ヲ要スルナリ登記アレハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルモノナルモ繁雜ヲ避ケンカ爲メ之ヲ除ケリ第二ノ主義ハ制限ヲ與ヘタル場合ニ於テ第三者其認許ナキコトヲ知ルノ場合ハ此第三者ヲ保護セサルナリ而シテ第三ノ主義ハ善意ノ第三者ヲ保護スルニアリト本條ニ付テハ別段修正案モ出テス途ニ原案ニ可決シタリ
第十條 戶戶ニ就キ又ハ道路ニ於テ物ヲ賣買スル者、專ラ賃金ヲ得ル目的ヲ以テ物ヲ製造シ又ハ勞務ニ服スル者其他小商人ニハ商人ニ關スル規定ヲ適用セス
(參照)舊七、獨一〇
岡野君ノ說明ニ曰ク本條ハ舊商法第七條ニ該當シ其精神ハ全ク文字ノ示スカ如ク小商人ニ商人ニ關スル規定ヲ適用スルハ今日實際上ノ狀況ト相反スルヲ以テ之ヲ適用セサルナリ而シテ本條ニ付テハ商人ノ身分ニ關スル規定ニシテ之ニ適用スルモノト適用セサルモノトヲ區別スルノ標準ヲ尋ネタリト雖モ之レ無シ左リトテ小賣、卸賣トシ營業稅、資本等ヲ以テ區別ヲ立テントシタルモ不都合ナルヲ以テ是等ハ宜シク裁判例一ニ任スルニ如カサルナリト
穗積八束君ハ「小商人」トハ漠然トシテ判明ナラス且小商人トテモ一方ヨリ見レハ大ナル商人ト見ルコトヲ得ルモノアルヲ以テ小商人ノ種類等ハ警察ノ取締行政權ニ讓リ大臣、知事等ニ於テ行政命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトト爲サント主張シ橫田君之ニ贊成アリタルモ採決ノ結果少數ニテ滄滅シ又土方君ハ此小商人ニ付テノ場合ハ極メテ稀ニシテ本條ヲ置クノ必要ハ唯タ帳簿ニ付テノミナレハ本條ハ削除シ帳簿ノ所ニ於テ規定スヘシト云ヒ長谷川君ハ之ト同理ナルモ本條ハ之ヲ存シ其帳簿ヲ所有スル者ノ範圍ハ所得稅ヲ標準トスヘシト主張シタレトモ何ツレモ贊成者ヲ得ス本條ハ途ニ原案ニ可決セラレテ散會ヲ吿ケタリ