商法(~1951年)

第二次法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録 第13回

参考原資料

備考

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法律取調委員會(商法中改正法律案)第十三回議事速記録
出席缺席
○議長(子爵岡部長職君)
開會致シマス、第二百六十一條ノ六
書記朗讀
○四番(齋藤十一郞君)
本條ハ斯樣ナ規定ニ設ケテ呉レルヤウニト云フ意見ガゴザイマシテ、ソレヲ採用致シテ新ニ設ケマシタ規定デアリマス、ツマリ株主ガ議決權ヲ行ヒ又ハソレヲ行ハザルコトニ關シマシテ、不正ノ利益ヲ收受要求約束スル場合ヲ罰スル規定デアリマシテ、株主ノ所謂濱職ヲ罰スル」趣意ニ相成ルノデアリマス、御承知ノ通リ刑法ノ百九十七條、百九十八條ノ規定ニ相成リマス次第デアリマス、第二項ニ付キマシテチヨツト申上ゲマスガ、前條ノ場合モ取締役ト云フ文字ヲ發起人ノ下ニ置替ヘマシタノデゴザイマスカラ、是モ正誤トシテ置替ヘテアルモノトシテ御覽ヲ願ヒタイノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
唯今ノ御說明ノ言葉ノ中ニ刑法ノ百九十七條百九十八條等ノ文例ニ則ッタト云フ御說明ガアリマシタガ、百九十八條ノ規定ニヨリマスルト云フト自首シタル場合ニ於テ刑ノ減輕又ハ免除ヲスルノ規定ガアルノデアリマスガ、是ハ特ニ規定セラレタ理由ハイヅレノ邊ニ在ツテ存スルノデアルカ伺ヒタイノデアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
唯今御質問ノ刑法百九十八條ノ第二項ニ當ルベキ條項ノ設ノナイノハ如何ナル理由カト云フ御尋ネデゴザイマスルガ、是ニ付キマシテハ特ニ重大ナ理由モナイノデゴザイマシテ、全ク公務員仲裁人ニ對スルモノト、ソレカラ株主ニ對スルモノトノ關係ニ依リマシテ必ズシモ同一タルコトヲ要シナイト、斯ウ云フ位ノ趣意ナノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ヨリ本條ニ關スル修正案ヲ提出致シテ居リマス、第一項ノ懲役ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加ヘルノガ一ツデアリマス、理由ハ」既ニ前回以來述ベ盡シテゴザイマスカラシテ繰返スコトヲ致シマセヌ、次ニ第一項ノ次ニ更構二項ヲ加ヘマシテ、左ノ如キ意義ニ於ケル規定ヲ設ケタイノデアリマス、文字ハ起草委員ニ一任致シマス、前項後段ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得ト致スノデアリマス、案ニ前項ノ罪トアルノヲ前項後段ノ罪ト致スノデアリマス、理由ハ極メテ明白ナルコトデアリマシテ、矢張リ刑法ニ根據ヲ取ルノデアリマス、第一ニハ刑法ハ百九十八條ノ場合ニ於テハ自首ヲ獎勵スルト云フ趣旨ニ於テ自首ノ結果證明材料ノ多キヲ得ラレルト云フ趣意ニ於テ特ニ自首減輕ノ規定ヲ設ケテ居ルノデアリマス、本條ノ由來スル所ガ刑法ニ在ルト致シマシタナラバ、其趣旨ニ改メラレルノガ至當デアラウト云フ意味デアリマス、第二ニハ刑法ハ公務員ニ關スル所ノ收賄規定デアルノデアリマス、公務員ガ公務ヲ取扱フ上ニ於テ賄賂ヲ受ケ若クハソレニ賄賂ヲ贈クル場合ノ規定デアリマスカラシテ、コトハ公ナル事項ニ關スルノデ重大ナル事柄デアリマス、ソレサヘモ獪ホ且ツ自首減輕免除ノ規定ヲ設ケテ居リマスル以上ハ公務員ニ比シテ輕重ノ差アル商事會社ノ株主ト云フ者ニ此利益ヲ授ケヌト云フコトハ穩當デナイト信ズルノデアリマス、第三ニハ原案ガ罪ニ對スル觀察ト云フモノガ刑法ノ公務員ニ對スルヨリハ寧ロ輕ルク見テ居ルノデアル、事態ヲ輕ルク見テ居ルノデアリマス、卽チ刑法ノ規定スル所ニ依レバ三年以下ノ懲役ニナツテ居ルノデアリマス、原案ハ一年以下ノ懲役ニ又ハ千圓以下ノ罰金デ滿足シテ居ルノデアリマス、重キ者ニハ自首ニ付イテ減輕又ハ免除ノ特典ヲ授ケ、輕ルキ者ニ付イテハ減輕又ハ免除ノ特典ヲ殺グト云フノハ巓倒ノ甚シキモノト信ジマス、以上ノ理由ニ依リマシテ修正案ヲ提出致シタ次第デアリマス
○六番(平沼騏一郞君)
唯今ノ花井君ノ御提案ニハ贊成ヲ表シマス、卽チ理由ハ詳シク花井君カラ御述ベニナリマシタ通リデアリマシテ、刑法ニ於テ自首減輕ノ恩典ヲ認メテ居リマスル以上ハ本案ニ付イテモ同樣ニ恩典ガナケレパナラヌト云フコトハ是ハ言ヲ俟タヌ話ダラウト思ヒマス、是ハ全會一致デ此點ハ御贊成ニナルコトヲ希望致シマス
(「贊成」ト言フ者アリ)
○十三番(原嘉道君)
チョット花井君ニ御相談ヲスルノデスガ、今ノ二百六十一條ノ一項ノ後段ノ方ハ二項ノ發起人ヤ何カヤツタトキニハ矢張リ自首減輕ガ及ハナクチヤイカヌノデアリマスカ
○二十二番(花井卓藏君)
私ハソレハ考ヘテ見タノデスケレドモ及ボス勿論趣意デアリマス、而シテ是ハ私自ラ考ヘタノデアリマスガ、成程其後段ノ、、、ニ限レバ刑法ニハ合ウノデアリマスケレドモ、罰ノ輕ルイト云フ點トソレカラ性質ノ行使ノ別ノアル點カラ考ヘテ見ルト、二百六十一條ノ六ノ前段後段共ニ此特典ヲ與フルト云フ事柄ガ私ハ宜イト思フノデスケレドモ、刑法ト揃ヘル趣意ニ於テ後段ノミニ致シテ置タノデアリマス、前段モ併セテト云フ御論ガ出マスルナラバ私ハ大贊成デアリマス
○十三番(原嘉道君)
私ハ其取締役ガ議決權ノ行使ニ關シテ不正ノ利益ヲ提供シタ場合、是ハ能クアルコトデ壯士ナドガ議場ヲ騒シテ困ルカラソレヲ宥メル爲メニ已ムヲ得ズ送ツタヤウナ場合、サウ云フ場合ニハ後段ダケヲ適用シテ二項ヲ適用スル爲メニ自首シテモ、免除モ減輕モナイコトニナルト云フコトニナリハシナイカ、刑法ノ方ハ廣ク誰デモ送ツタ人ハ自首サヘスレバ免除減輕スル、然ルニ株式會社ノ方ハ取締役、監査役ニ送ツタ場合ニハ、ドンナ已ムヲ得ナイコトデ送ツタ場合デモ自首減輕モナイト云フコトニナル、此點ハドウデアリマスカ
○二十二番(花井卓藏君)
唯今御尋ネニナツタ自首ノ如キ事例ハ私ハ已ムヲ得ザルト云フ下ニ救フテヤラナケレバナラヌコトデハナイト思ヒマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ花井君ノ初メニ述ベラレマシタ中デ自首減免ニ關スル修正案ニ同意致シマシタノデアリマスルガ、唯今原君カラ質問ノ形デ第二項ノ場合ニモ同樣ノ規定ガ要リハセヌカト云フコトヲ言ハレ、ソレカラ花井君ハ一旦ハ印刷シテ御配リニナツタ案ヲ棄テ此二百六十一條ノ六ノ一項ノ後段ダケニ付イテ自首減免ノ規定ヲ適用スルト云フコトニ改ラレタニモ拘ハラズ、或ハ矢張リ前ニ提出セラレタ案ノ方ガ宜クハナイカト思フト云フコトヲ附加ヘラレマシタガ、私ハ甚ダ刑法ニ暗イノデアルカラ或ハ一般ノ刑法學老ノ見ル所カラ致シマスレバ間達ッテ居ルト認メラルルカ遷知レヌケレドモ、私ハ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアル、此賄賂ヲ贍ツタ者ガ自首シタ場合ニハ刑ヲ減輕又ハ免除スルト云フ規定ノ特ニ在ルノハ必ズシモ此罪ガ情ニ於テ輕ルイカラト云フ譯デモナク、愍ムベキ譯デアルカラト云フ譯デモナイト信ジテ居ル、之ヲ認メテ置キマセヌト云フト賄賂ヲ使ツタ者ガ後悔一欽シマシテモソレヲ自首シタナラバ自分モ重ク罰セラル丶ソレダカラ言ハナイ、受取ツタ者ハ固ヨリ言ハナイ、サウスルト云フトトウトウ是等ノ罪ト云フモノガ制裁ヲ受ケズニ終ハルト云フ恐ガアルカラ、ソレデ賄賂ヲ使ツタ方ハ自首スレバ減輕又ハ「免除スル、ダカラ成ルベク自首セヨト云フ是ハ奬勵デアラウト思フ、私ハサウ解シテ居ル、若シサウ解スルトスレバ第一項ノ後段ダケニ於テ之ヲ認メレバ宜シイ、受取ツタ方ハ後悔シテ自首スルト云フ者ハ少ナイダラウト思フ、賄賂ヲ與ベタ方ガ後悔シテ自首スル方ガナゼ多イカト云フ手折角賄賂ヲ贈ツテ見タ所ガ一向效能ガナカツタロ惜シイカラ訴ヘテヤレト云フコトガアル、ソレハ心事ハ固ヨリ餘リ喜ブベキ心事デハアリマセヌケレドモ、其御蔭デ犯罪ガ發覺スルノデスカラ、ソレデ場合ニ依ツテハ減輕又ハ免除スルト云フコト謝勘ウ云フコトニナツテ居ルデハナイカ、サウ致シマス干第一項ノ後段ダケニ此規定ヲ附加ヘタ方ガ宜カラウ、刑法小モ權衡ヲ得ルシ其方ガ宜カラウト斯ウ私ハ思フ、ソレカラ第二項ノ場合ニハナゼ賄賂ヲ使ツタ者ヲ除カヌカト云フト是ハ普通人デハナイ法律ガ特別ノ義務ヲ負ハシメテ且又特別ニ信任シテ居ル所ノ者ドモガ、ソレガ斯樣ナコトヲ爲シタノテアル、ソレデ旦丸ハ冖特ニ重クロ副スル必亜外ガアルノミナラズ、是等ノ地ニ在ル人間、是等ノ地位ニ在ル人間ガヲメヲメト賄賂ヲ使ツタケレドモ效能ガナカツタカラト言ツテ自首シテ出ルト云フコトハ滅多ニナカラウカラ自首減輕ノ規定ヲ附加ヘテ置タ所ガ格別效能ガナカラウト斯ウ私ハ思ヒマスノデ、ソレデ花井君ノ先刻述ベラレタ修正案ニ同意ヲ致シタノデアリマス、若シ私ノ考ヘガ間違ツテ居ルナラバ此案ハ惡イカモ知レヌガ、サウ云フ音塞我デ私ハ贊成シタノデ
○六番(平沼騏一郞君)
私ハ唯今梅サンノ御議論ニハ全然贊成デアリマスルガ、一ツ此花井君ノ御提案ノ趣意ニナリマスルト、前項後段ト云フ風ニ變ヘネバナラヌカト思ヒマスガ、ソレモ少シ變デアリマスカラ寧ロ二百六十一條ノ六ヲ二項ニ置キマシタ方ガ宜クハナカラウカト思ヒマス、千圓以下ノ罰金ニ處スト云フ所デ繰替ヘマシテ項ヲ別ニシマシテ不正ノ利益云々ト云フコトヲ第二項ニ書キマシテ、サウシテ花井君ノ御提案ヲ其後ヘ書キマスレバ條文モ大卿樊宜クナラウト思ヒマス、ソレカラ序ナガラ、、、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
意義ニ於テ御決議ヲ願ッテ、文ハ起草委員ニ任スト云フコトヲ願ツテ置キマシタ、ソレハ會議ニ附セラルル必要ハナイソレデ宜イ
○六番(平沼騏一郞君)
ソレカラ序ニ申上ゲテ置キタイノデアリマスガ、私ノ提案ハ此條ノ次ニ這入ルノデアリマスガ、此條ニ關係ガアリマス、二百六十一條ノ今ノ條文ノ三項ヲ所謂私ノ提案ガ通リマスルト議セラル丶コトニナル、ソレハ私ノ提案ガ幸ニシテ通過致シマスレバサウ云フ結果ニナラウト思ヒマス、若シ通リマセヌケレバ此儘ニナルノデアリマスカラ此末項ダケハ私ノ提案ノ討議ノ終リマスルマデ留保セラレヌコトヲ希望致シマス
○四番(齋藤十一郞君)
起草委員ニ於キマシテハ花井君御提出ノ修正案ニ贊成致シマス、ソコデ條文ノ形ハ唯今平沼委員御提出ニナリマシタ修正ガ宜カラウト思ヒマスカラソレモ併セテ同意致シマスカラ御異議一ナク御通、過ヲ×布望宀致シマス
○議長(子爵岡部長職君)
二十二番ニチヨソト御尋ネシマスガ、六番ノ其一項ヲ二ツニ割ツテサウシテ第二ニ唯今ノ自首ノ但書ヲ入レルト云フコトニナル
○二十二番(花井卓藏君)
異議ハアリマセヌ
○一番(富井政章君)
ソレデ今ノ第二項ハ前二項ノ行爲トナルノデスカ
○十番(梅謙次郞君)
ソレハ前二項カニナル
○一番(富井政章君)
ソレトモ別條ニスルガ宜シイカ此第二項
○十番(梅謙次郞君)
ソレダカラ前項ノ行爲トアルノヲ前二項トナル
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト原案ノ第一項ニ付イテ之ヲ極メマセウ、卽チ二十二番ノ修正ソレニ六番ノ條文ノ形ヲ敷衍シタモノニ贊成、ソレニ御異議アリマセヌカ
○一番(富井政章君)
ソレハ別問題デ
○議長(子爵岡部長職君)
チヨツト待ツテ下サイ、今ノ花井君ノ修正ノ中ニハ「若クハ禁錮」ト云フコトガアリマスガ、此コトハ別トシテ唯今申シタ通リノコトデ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト是ハ一項ダケハ決シマシタ、卽チ二ツニ分レマス、此際ニドウデスカ禁錮ノコトヲ後ニシマスカ
○十番(梅謙次郞君)
是ハ起草委員ニ於テ御記憶ニナツテ居ルコトデアリマスケレドモ、本條第一項ノ議決權ノ行使ニ關シテハ他ノ文面ニ依ルト取ラヌヤウニナッテ居ル
○四番(齋藤十一郞君)
異議アリマセヌ
○議長(子爵岡部長職君)
二十二番ドウデス、禁錮ノコトニ付イテ修正說ヲ御述ベニナリマスカ
○二十二番(花井卓藏君)
述ベマシタ
○議長(子爵岡部長職君)
禁錮ヲ入レルト云フ修正ニ付イテハ贊成ガナカツタト思ヒマスガ、ソレデ間違ピアリマセヌカ
○二十二番(花井卓藏君)
禁錮ヲ入ルルノ至當ナル所以ハ前回以來屡々述ベテ居ルノデアリマスカラ繰返シバ致シマセヌガ、商法ノ罰則ノ中デ禁錮ヲ入レルコトヲ認メラレタ規定ト、ソレカラ禁錮ヲ入ルルコトヲ認メラレザル規定トヲ比較シテ、法文ハ極メテ刑罰規定ニ付イテ不權衡デアリマス、何ノ據所ガアツテ斯ノ如キ區別ヲナシタカト云フコトヲ立法者冖トシテ說明スルニ苦ムデアラウト云フコトヲ私ハ茲ニ斷言致シテ置キマス、ソレデ或所ハ都合ニ依ツテ御入レニナルガ宜シイ、又或所ハ都合ニ依ッテ御取リニナルガ宜シイ、サウシテ商法典中ニ於ケル刑罰規定ノ不順序ト不立派ナルコトヲ世間ニ表白スルノモ亦妙デアラウト云フコトヲ一言シテ皿陞キマス
○十七番(阿部泰藏君)
十七番ハ禁錮ヲ入レルト云フコトニ贊成ヲ致シマス
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト唯今十七番カラ「若クハ禁錮」ト云フ字ヲ此條ニ挾ムト云フコトニ付イテ贊成ガアリマスカラ此コトニ付イテ採決シマス、禁錮ヲ入ルルト云フ方ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ下サイ
擧手者少數
○議長(子爵岡部長職君)
少數デアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
第一項ヲニ二分ケマシテ、第二項自首ノ場合ノ花井君ノ御修正案ヲ入レマシタ結果トシテ、唯今此案ノ第二項ジニ行目支配人ガ前項ノト云フ此文字ガ第一項第二項ニト改マルダラウト思ヒマス
○十番(梅謙次郞君)
前二項デ宜イデハナイカ
○四番(齋藤十一郞君)
一項挾マリマスカラ
○十番(梅謙次郞君)
挾ツテモ宜シイ
○議長(子爵岡部長職君)
サウ云フ方ノ自然ノ結果ハ御調ベ下ツテ起草委員ニ於テ差支ヘナイヤウニ整理スルト云フコトニ、、、、
(「異議ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト末項ニ付イテ六番ドウデス
○六番(平沼騏一郞君)
先刻申シマシタ通リ此末項ハ私ノ二百六十一條ノ七ハ第十三號ノ提出致シマシタ修正案ノ可決セラル丶ト如何トニ依リマシテ末項ハ後ヘ讓ラル丶カ此處ニ存スルカト云フコトガ極マルノデアリマスカラ、サウナルト私ノ提案ヲ直グニ述ベマシテ宜シウゴザイマスカ
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト六番ノ修正說卽チ第二百六十一條ノ七ト云フノヲ共ニ議スルコトニ
○二十二番(花井卓藏君)
私ノ修正案ハ議場ニ御容レニナラヌノデスカ、御容レニナラヌノナラバソレデモ宜シウゴザイマス
○議長(子爵岡部長職君)
順序ヲ誤リマシタ、二十二番ノ修正讀ノ原案ノ第二項修正說ニ付イテ採決致シマス、是ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ下サイ
擧手者少數
○議長(子爵岡部長職君)
少數デアリマス、次ニ六番ノ唯今申シタ通リ
○六番(平沼騏一郞君)
私ノ提案ハ二百六十一條ノ六ノ次ニ二百六十一條ノ七ヲ加ヘタイト云フ提案デアリマス、是ハ此處ニ書イテアリマスル通リデ株式會社ノ取締役、ソレカラ株式合資會社ノ業務執行社員監査役等ニ付イテ矢張リ收賄ノ罪ヲ罰シタイト云フノガ趣意デアリマス、二百六十一條ノ六ニ於キマシテ既ニ議決權ノ行使ニ關シマシテ、株主ガ賄賂ヲ取リマシタ場合ハ罰セラル丶コトニ相成リマシタノデアリマス、既ニ此議決機關ノ一人デアリマスル所ノ者ガ賄賂ヲ取リマシタ場合ニ罰セラレテアリマスル以上ハ、此執行機關ノ一人ガ賄賂ヲ取ッタ場合ニ付イテモ之ヲ罰スルノハ相當デアラウト思フノデアリマス、刑法ニ於キマシテモ最初宮吏公吏此收賄ヲ罰セラレテ、ソレカラ此吏員等ノ者ガ後ニ罰セラル丶ニ至ツタノデアリマス、刑法ノ表ニ於キマシテハ寧ロ此議決ニ與リマスル者ヨリカ行政官其他行政ニ從事致シマスル者ノ賄賂ノ方ガ餘程弊害ノ多イモノト見テ居ルコトハ明瞭デアラウト思フノデアリマス、國家ノ官吏又市町村ノ官吏其他自治體ノ役人ガ收賄ヲ致シマシタトキニハ其弊害ハ單純ニ議決權ニ加ハリマスル者ノ收賄ヨリカ其害ハ多イト云フコトハ明瞭ノ話デ言ヲ俟タヌト思フノデアリマス、此會社ニ於キマシテモ矢張リ同樣デアリマシテ隨分此會社ノ役員ト云フ者ハ廣イ權限ヲ有ツテ居ルモノデアル、定款或ハ又總會ノ決議ノ範圍内ニ於キマシテハ業務ノ執行ニ付イテハ餘程重大ナ權限ヲ有ツテ居ルノデアリマス、此二ツノ行爲ニ依リマシテ會社ノ利害關係ニ大ニ影響ヲ及ボスト云フコトハ勿論ノ話デアリマス、此者ガ賄賂ヲ取リマシタ爲メニ、本人ノ爲メニ不當ノ業務ヲ執行スルト云フ恐レハ十分ニ在ルノデアリマスカラシテ、此收賄ト云フ犯罪ヲ御認メニナリマスル以上ハ是等ノ者ノ收賄ニ付イテモ矢張リ之ヲ罰スルノ規定ヲ設クト云フコトハ最モ必要ナコトデアルト信ジテ居ルノデアリマス、此點ニ付イテハ外國ニ於テモ事例ハアルノデ英吉利ノ千九百○六年ノフローレヘマこソシヨソノロロロロト云フモノガ出テ居リマシテ、廣ク代理人ガ本人ノ爲メニ業務ヲ執行スルニ當ツテ他人カラ賄賂ヲ取ツタト云フ場合ニ刑罰ニ處スルト云フ規定ヲ設ケラレテ居ルノデアリマス、此法案ノ出マスル際ニ於キマシテモ、英國ニ於テ經濟社會ノ此代理人ガ本人ノ爲メニ業務ヲ執行スルニ當リマシテ、此秘密ニ手數料ヲ取ルト云フコトノ弊害ハ非常ニ多イト云フコトヲ認メテ居ルノデアリマス、是ハ最初ニルツセルト云フ人ガ最初ニ出シタ案デアル、ソレカラロードアーバストン此人ガ提出ヲ致シマシタ案デアルノデアリマス、是ハ倫敦ノ商業會議所ニ於キマシテモ登記ヲセラレマシテ終ニ議會ニ出マシテ遞過スルコトニ至ツタ案デアリワ、ス、其登記ノ際ニ於キマシテモ唯今私ノ申シマシタ弊害ガ十分ニ在ルト云フコトヲ認メマシテ、ドウシテモ此弊ハ之ヲ救濟スルコトハ必要デアルト云フコトヲ提出者ハ勿論其他是ニ贊成スル者ハ熱心ニ唱ヘテ居ツタノデアリマス、デ我國ニ於キマシテモ此弊害ト云フモノハ決シテナイト云フコトハ申サレマイト思ヒマス、實例モ蓋シ立派ナ會社ニ付イテハゴザイマセヌカモ知レマセヌガ、中等以下ノ會社ニ付テハ其事例モアラウト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、兎ニ角既ニ議決權ノ行使ニ關シテ收賄ヲ認メラレタ今日デアリ呷、スカラ、此點ニ付イテノ收賄ノ罰則ヲ商法中ニ規定セラルヽコトハ最モ必要ナコト丶信ジテ此提案ヲ致シタノデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
チョット平沼君ニ質問ガアリマスルガ、事柄ハ大體宜ササウナコトデハアリマスケレドモ、此改正案ノ第二百六十一條ニ依リマスルト、此處ニ列擧セラレテアルヤウナ此任務ニ背キタル行爲ヲ爲シ會社ノ財產上ニ損害ヲ加ヘタルトキハ五年以下ノ懲役、又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處スルト云フコトニナツテ、獪ホ未遂罪ヲ罰スルト云フコトガ附加ヘテアル、所デ其唯今ノ平沼君ノ御述ベニナツタヤウナ憂フベキ事例ハ私ノ聞キ及ブ所ニ於テモ日本ニ於テハ或ハ英吉利ナドヨリ多イ共少ナクハナササウデアル、幾クラモ承知シテ居ル事實モアリマスルガ、ソレハ宜クナイコトデアリマスケレドモ、ツマリソレニ依ツテ會社ノ財產上ニ損害ヲ加フベキ場合デアリハセヌカ殆ド總テ此場合デアルヤウニ私ハ承知シテ居ル、早イ話ガ銀行家ガ賄賂ヲ取ツテ銀行重役ガ賄賂ヲ取ツテ如何ハシイ貸借主ニ金ヲ貸シ、又ハ工事ヲ請負ハシムル或ハ材料ノ惡イモノヲ恰モ好キ材料ヲ用ヒタ如クニ認メテヤルト云フヤウナサウ云フヤウナコトガ最モ吾々洛槪數加スル所一ノ弊害ジヤナイカト思フ、若シサウ云フ場合デアルナラバ總テ二百六十一條ニハマル、假リニ賄賂ヲ受ケテモサウ云フコトヲシナカツタニ致シテモ未遂罪ヲ罰スルト云フコトニナツテ居レパ約束ダケ致シマシテモ、ソレヲ罰スルノデアル、デアリマスカラ大抵其是レデ制裁ハ附キセヌカト私ハ思フテ居ツタンデアリマス、果シテ此二百六十一條ニ嵌ラナイ場合デ而モ實際特ニ斯ノ如キ規則ヲ以テ罰セヌケレバナラヌト云フヤウナ事例ガ澤山アルデアリマセウカ、其コトニ付イテ伺イタイノデ、獪ホ附加ヘテ伺ヒタイ是ハドウデモ宜イヤウナコトデスガ英國ニハ唯今御話ニナツタヤウナ例ガアリマスカ、併ナガラ英國ニハ二百六十一條ノ如キ廣イ規定ガアルカドウカ、若シサウ云フ廣イ規定ガアツテ而モ獪ホ特別ニ規定ガアルト云フナラバ英國ニ於テハ其必要ヲ認メラレタ上言ハレマセウケレドモ、若シ英國ニ二百六十一條ノ如キ規定ガナクシテ、唯今御引用ニナッタヤウナ規定ガアルト致シマスレバ、或ハ二百六十一條ノ如キモノガナイ爲メニ之ヲ必要トシタノデハナイカト云フコトヲ伺ヒマス
○六番(平沼騏一郞君)
唯今梅サンノ御質問ニ御答ヘヲ致シマスルガ、ソレハ多クハ賄賂ヲ取リマスルト、ソレニ依リマシテ不正ノ行爲ヲスルト云フ場合ガ多カラウト思フ、併ナガラ既ニ刑法ノ百九十七條ニアリマスル通リ賄賂ヲ取ツタ場合ハ三年以下ノ懲役ニ處スル、依ツテ不正ノ行爲ヲシタトキハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處スルト云フ規定ニナッテ居ルノデアリマシテ、既ニ刑法ニ於キマシテモ單純ニ賄賂ヲ取ツタ場合、賄賂ノ結果不正ノ行爲ヲ爲シマシタ場合トハ別ニ規定サレテ居リマスノデ、必ズ不正ノ行爲ヲスルモノデアルカラ收賄ダケ特ニ罰スル必要ハナイト云フコトニハ刑法ハナツテ居ラナイ、是ハ又事實ニ於テ相當ノコトデアラウト思フ、未遂罪ヲ罰スルカラ宜イジヤナイカト云フ御話デアリマスガ、併ナガラ賄賂ハ虹助ニ取リマシテモ未ダ苴ハ賄賂ニ基キテ或ハ約束デモ致シマシタダケデ目的ヲ仙達セヌ場合ガアル、ソレカラ又必ズシモ賄賂ヲ取ツテ不正ノ行爲ヲスルト云フ場合ニ限ラレタモノデハナカラウ、多クノ場合ハサウデアリマスガ、例ヘバ工事ノ請負ヲサセル甲ノ請負師ニサセマシテモ乙ノ請負師ニサセマシテモ、ソレハドチラデモ宜シイ、ドチラニシタ所ガ會社ノ嚴リニ利害ニ關係ハナイトマア若シサウ云フ場合ニ於テ自由ニ契約ノ出來ル場合デアリマスレバ、甲ノ者カラ賄賂ヲ取リマシテ其者ニ請負ヒサセルト云フヤウナ場合モ隨分アル、所謂此梅サンノ仰シヤル二百六十一條ノ一デアリマシタカニデスカ、其任務ニ背イテ會社ノ財產上ニ損害ヲ生ズルト云フ場合ニ當ラヌ場合モ隨分出テ參ラウト思ヒマス、此收賄ト云フコトハ必ズ其結果ノ生ジマシタ場合ダケ罰スルト云フノジヤナイ此條文私ノ申シマシタ趣意ヲ貫徹スル爲メニハ全ク必要ダラウト思ヒマス、ソレカラ英吉利ノ御問ガアリマシタガ、是ハ此前ニ幹事ノ方カラ取調ベテ提出ヲ申上ゲテ置タヤウニ思ヒマスガ、二百六十一條ニ該當スルヤウナ法律ガアツタト記憶シテ居リマス、ソレ程廣クハナツテ居リマセヌガ兎ニ角是ニ類似ノ規定ガアルト思ヒマス
○三番(富谷鉎太郞君)
チョット唯今平沼委員ヨリ御提出ニナッタコトニ付イテ起草會デ此起リマシタ問題ニナツタコトニ付イテチョット御質問申上ゲテ置キマス、此起草會ニ於テ幹事諸君ノ御取調ベニナリマシタ原案共言フベキモノニハ、唯今平沼君ノ御提出ニナツタ通リノ案ガアリマシタノデアリマス、丁度其通リデアツタノデゴザイマシタガ、是ハ此起草會デ協議ノ結果ハ斯ウ云フコトデ、ツマリ削ツタヤウニ私ハ記憶ヲ致シテ居リマス、ソレハ一ツハ唯今梅君ノ御質問ニナリマシタ同ジ理由デツマリ此規定ハ殆ド總テノ場合トハ言ヒマスマイガ、先ヅ大槪ハ二百六十一條ノ適用ノ場合トナルデアラウ、或ハ二百六十一條ノ適用ノ場合トナサザルコトモアルカモ知レマセヌガ、稀レニハアルカモ知レマセヌガ、元來此株ノ如キ規定ヲ置クト隨分此適用ガムヅカシクハナイカ、實行ガ困難デハナカラウカ、ッマリ無暗ニ刑事ノ訴訟ガ起ルヤウナ嫌イガアリハセマイカト云フコト殊ニ此刑法ノ百九十七條ト關連シタ場合ハアツタノデアリマス、此百九十七條ノ公務員又ハ仲裁人ト云フヤウナ者トハ、其會社ノ取締役或ハ業務執行社員トカ言フ者ノ事務ヲ取扱フトキニハ利益ノ問題、始終取扱ツテ居ルノデアリマスカラ、少シ複雜ノコトガ起ツテ來テ却テ濫訴ノ弊ガアルト云フヤウナコトガアリハセナイカ、刑法ノ權衡ハ或ハ得ヌカモ知レヌガ、併シドウモ餘リ不人望ア規定トナリハシナイカト云フヤウナ理由モ確カアツタヤウニ心得テ居リマス、先ヅ二百六十一條デ滿足シテ置テ宜カラウト斯ウ云フコトデ削除シタヤウニ心得テ居ルノデアリマス、二百六十一條ハ當議場ニ提出ニナリマシタ案デハ此ツマリ財產上ノ損害ヲ生ジタル結果ヲ見ル必要ガナイコトニナツタノデアリマス、害トナルベキ行爲ヲ爲シタル時ト云フコトニナツテ居ッタノデアリマス、今度ハ害ヲ生ジタル時トナツテ未遂罪ヲ罰スルコトニナツタノデアリマスガ、殆ド同ジヤウニハナラウト思ヒマスケレドモ、モトノ提出シタ案ノ方ガ廣カッタノデゴザイマシテ、其時分ニ之ヲ削ツタ理由ハ十分ニ在ツタラウト思フ、唯今ニ於テハ或ハ其削ツタ理由ハ翡クナルカモ知レマセヌケレドモ、矢張リ此原案通リニナリマシテモ實際ニハ是マデニ不都合ハナカラウト云フ考ヘヲ有ツテ其儘ニシテ置タノデアリマス、此コトニ付イテチョット
○六番(平沼騏一郞君)
チョット辯明ヲ致シテ置キマスガ、此點ハ獪ホ起草委員ニ御再考ヲ煩シタイト思ヒマス、二百六十一條ガアレバソレデ澤山デハナイカト云フ御論デアリマスケレドモ、是ハ先刻私ノ申シマスル通リ決シテ此二百六十一條ノ任務ニ背イテ財產上ノ損害ヲ生ジタトカ生ゼヌトカ言フ場合ダケニハドウモ限ルマイト思フ、賄賂ヲ取ッタト云フコトハ直ニ財產上ノ損害ヲ生ジタ行爲ニナラヌコトハ勿論、生ゼヌトシタト云フコトニナラヌコトハ私ハ言ヲ俟タヌト思フ、先刻富谷君ノ言ハレマシタ通リ是ハ修正ニナリマシタ結果ハ獪更ドウモ二百六十一條デハ足ラヌト云フコトニ相成ウト思ヒマス、前ノデモ足ラヌノデ獪更ノコトデアラウト考ヘマス、ソレカラ獪ホ起草委員ノ一人カラシテ非常ニ此濫訴ノ弊ガ起リハセヌカト云フ御話デアツタ、是ハドウモ此收賄ニハ之ヲ此滿足ノ規定ニ於テモ罰スルト云フコトニ議決ニナツテ居ルノデアリマスガ、彼ト是トノ間ニ如何ナル其點ニ於テ區別ガアルデアラウカ、私ハ了解ニ苦ムノデアリマス、ソレカラ又此收賄ノ如キ犯罪ニ付キマシテ濫訴ノ弊ガアルト云フコトハ考ヘラレナイ、二百六十一條ノ如キモノハ色々此實業者諸君ノ中カラシテ御懸念ガアツタ、任務ニ背クトカ財產上ノ損由舌ヲ生ズルトカ、要領ニ付イテハ隨分範圍ガ不明確デアルカラシテ、會社ノ重役支配人ナル者ハ甚ダ懸念ニ堪ヘヌト云フ御心配ガアリマシタ、收賄ノ弊ニ付キマシテハ其御懸念ハ少ナカラウト思フ、ツマリ人カラ金ヲ貰ハナケレバ宜イノデ、是ハドウモ何人ガ考ヘマシテモ、法律ヲ知ラナクテモ會社ノ業務ヲ執行スル其業務ニ關係シテ、人カラ金ヲ貰フ行爲デアルカ、其以外ノ行爲デアルカト云フ區別ハ誰デモ取ル話デアル、此方ハ重役支配人ナル者ガ少シモ懸念スルニ及バナイ、サウ云フコトヲ致シマセヌケレバ決シテ訴ヲ受ケル弊ハナイノデ、デ此會社ノ取締役等ノ收賄ニ付キマシテ特ニ濫訴ガ起ルト云フ危險ハ私ハ下ウシテモ發見ガ出來ナイ、獪ホ起草委員ニ對シマシテ此點ハ十分ニ御考慮ヲ煩シマシテ、ドウカ此點ニ御贊成ヲ願ヒタイノデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
先刻御質問致シマシタケレドモ、マダ聊カ滿足シ兼ル點ガアリマスカラ、モウ一遍質問致シマス、唯今平沼君ノ御答辯ニ依リマスト、二百六十一條ノ中ニ含マルベキ場合モアルケレドモ、含マレザル場合モアルト云フコトデ、含マレザル場合ノアルコトハ實ハ御伺ヒヲ致シマセヌデモ承知シテ居ツタンデスガ、其含マレザル場合ガ特ニ明文ヲ以テ重キ刑ニ處セヌケレバナラヌ程ノ危險ナ場合デアラウカト云フコトヲ伺ッタノデアリマスガ、御引例ニナリマシタ場合ハ無論穩カナラザル取引上カラ言ヘバ惡イコトヲシタニ相違アリマスマイケレドモ、社會上カラ見テ、國家上カラ見テ危險ナ行爲デアルト云フコトガ果シテ出來ルカドウカ、多少疑フノデ此點ニ於キマシテハ平沼君ハ頻リニ公務員ト比較サレマシタガ、成程大會社ノ重役ト云フ者ハ責任ノ重イモノデアツテ、其點カラ言ヘバ官吏ト何ゾ擇ハヌト云フノモ一應ハ御尤ニ聞ヘマスケレドモ、兎ニ角之ハ私ノ機關デアル、官吏公吏卽チ公務員以外ニ於テ、人カラモノヲ頼マレテ而モソレハ重要ナルコトヲ頼マレテ、サウシテ其頼マレタコトニ付イテ茲ニ言フ所ノ不正ノ利益ヲ受ケルト云フコトハ實際ニ於テ左マデ珍シイコトジヤナイ、ソレヲ總テ罰スルト云フノモ一ツノ意見デハアリマセウケレドモ、ドウセ此刑法ガ廣イ意味ニ於ケル人ノ總テ惡事ヲ皆罰スルト云フコトハ出來モセズ又必要モナイコトデアルト思フ、社會ニ害ノアルコトハ罰スル、害ノ餘リ目立ツテナイコトハ必ズシモホジクツテ罰セヌケレバナラヌト云フモノデハナイト私ハ思フ、ソレ故ニドウモ其公務員ト同ジニ見ルト云フコトハドウデアルカ、是ハ公務員ハ公ノ職務ヲ行フ者デアッテ、其公ノ職務ヲ行フ者ガ不正ノ利益ヲ受クルト云フコトハ、假リニ是ニ依ツテ法ヲ狂ゲナクテモ其コトカラ自身ガ公務員タル威信ヲ損シ、又公務員ガ其公務ヲ行フニ付イテ他人カラ堪ヘズ嫌疑ヲ受クルヤウナコトニナル恐レガアルカラ特ニ之ヲ罰スルノデアル、會社ノ重役ガサウ云フコトヲ致シマシタ場合ニ、若シ株主總會ニ其コトガ知レタナラバ何時デモ罷メレバ宜シ、又サウ云フ重役ヲ甘ジテ株主總會ガ重役トシテ置キマシテ或ハ會社ノ業務ガ更ニ多少ノ損害ヲ受クルコトニナルカモ知レマセヌガ、サウ云フコトニマデ干渉スル必要ガアルダラウカト云フコトヲ少シ疑フノデ、ツマリ私共ノ申シマスルノハ此二百六十一條ヲ所謂罰スルコトノ出來ルダケヲ罰シテ置タナラバ吾々ガ日々ノ如ク承ハルイカガハシイ習[慣ト云ツテモ宜不デセウ、習慣ガ餘程減ズルデアラウ、少ダトモ其甚シイモノダケハ之ヲ以テ防壓スルコトガ出來ルト思ヒマスカラ、先ヅ其位ノコトニ滿足シテ置テ宜カラウト思ツテ居ツタ、唯今英國ノ御話モ出マシタガ私ガ此前ニ起草委員カラ承ハツタ所ニ依ルト、英國ニハ此二百六十一條ニ相當スル規定ハナイ、唯此規定ニ依ツテ罰セラルヽ行爲ノ主ナルモノガ列擧シテ、サウシテソレガ罰シテアルト云フコトデ其中ニハ無論唯今新ニ御引用ニナツタ所ノ千九百六年トカノ法律ヲ以テ罰シテアル斯樣ナ行爲ガ列擧シテナイト思ヒマス、ダカラ英國ニ於テハ重複シマセヌ、日本ニ於テハ二百六十一條ト重複スル、ソレデモ細大漏サズ網羅シテ罰シタ方ガ宜イト云フノハ平沼君ノ御說デアリマスケレドモ、果シテソレダケノ必要ガアラウカト云フコトヲ疑フノデアリマス、大變御趣意ハ結構ナヤウデ頻リニ贊成シタクハ思ヒマスケレドモ、聊カ躊躇スル所以デアリマス
○三十六番(横田國臣君)
私ハ此平沼案ニ付イテ此中又變ヘルヤウナコトモ幾ラモゴザイマセウガ、大體ニ於テハ私ハ贊成ヲ致シマス、大變贊成ヲ致シマス、此二百六十一條ノト云フモノハ是ハ皆籠ッテ居ルヤウナコトハ決シテゴザイマセヌ、今ノ其任務ニ背キトカ色々ナ條件モアルシ、ソレカラ是ヘ持ツテ行ツテ未途犯ヲ罰スルコトハ宜クナイト言ツタンデスガ、ソレハ今更喋々スルニモ及ビマセヌ、私ハ成程此公務員ノ賄賂ヲ取ルト云フコトヲ罰シタ、アレハ公ノ法デアルカラ是ハ一應御尤デアリマスルガ、併ナガラソレハ法律家ガ所謂定義ヲ拵ヘテ公ト云フコトヲ極メタソデアリマスガ、此商事會社ニ於テ株式會社ノ如キモノハ是ハ衆人ノ爲メニヤルノデ、矢張リ私ハ公務負ト餘リ性質ハ違フノジヤナイ、今日ハサウハナツテ居ラヌカラ學者ノ說トシテハサウハ言ヘヌケレドモ是ガ成立テバ私ハ時代ノ官尊民卑ノ弊モナクナツテ誠ニ紳士トシテ實ハ官吏ト同ジヤウノ身持モスルト云フ位ニナル、ソレデ之ヲ私ハ罰スルト云フコトハ非常ニ宜カラウト考ヘル、唯併ナガテ實際ノ人ハ餘リ窮屈ナ、御前方ハ此商業上ノコトナドハ知ラヌ變屈ナト言ハルルデアリマセウ、併ナガラ私ハサウデナイト思フ、或ハ菓子箱ヲ一ツヤツテモ苟モ金デ買フモノトシタナラバ、矢張リドサモ賄賂デアルトカ或ハ一文取ツテモ盜賊デアルトカ言フヤウナコトハ隨分此唯定義ト云フコトヲ以テ書生上リニハサウモ考ヘル者モアル、併ナガラ此弊ハ追々ト私ハ矯ツテ來ルト思フ、ドウゾ此二百六十一條ガアルカラ是ガナクテモ宜イト云フコトハ決シテ号薗ハレヌ、又例ヲ擧ゲロト謂フナラバ幾ラデモ例ハアルダラウト思フノデアリマス、唯刑法ト較ベテ刑法ニハ權衡ガ取レヌト云フ說モ出ルデアリマセウ、ソレハ私ハ先日モ申上ゲタ通リニ國事犯トカ或ハ官憲濫用ト云フ罪ノ如キハ幾分カ國事犯デハナイケレドモ國事犯見タヤウナ性質ヲ有ツテ居ル、從ツテ賄賂ノ如キモ丁度行動ガ國事犯ニナルヤウナ理窟デ、アレモ異例デハアルケレドモ其實アレハ除ケル方ガ宜クハナイカト言ヘバ言ヘナイデモナイ、ソレデ矢張リ私ハ是カラ公ノ事業ヲシ大勢ノ人ニ拘カルコトヲスルニハ矢張リ官吏ノ通リニシテ、誠二日本ノ品性ト云フモノハ斯ノ如キモノデアル、貴イモノデアルト云フ風ニナルコトヲ、私ハ希望スルノデアリマス
○二十六番(長谷川喬君)
梅サンノ御意見ヲ聽クト云フト御尤ノ言つこ葉ガ餘程アルノデアリマスガ、併シロロバ二百六十一修皿ニ籠メルノデアツテ拔ケタコトガアル鳳荻ケタ場合ニモ多クノ場合ニハ罰シタ方ガ現今ノ狀態ニ於テ私ハ最モ必要ジヤナイカ知ラヌト思ヒマス、ソレカラ又此二百六十一條ト本條ト竝立ツタ場合ニハ二百六十一條カラ此分ガ拔ケテ卽ち斯ウ云フ場合ニ於テハ三年以下ノ懲役三千圓以下ノ罰金、二百六十一條トハ異ツタコトニナツテ、サウシテ此場合ニハ餘リ刑法ニ定メタ賄賂ヲ收受シタト同ジコトニナルノデ、サウシテ權衡モ餘リ失スル恐レハナイト云フ所カラ見テ宜クハナイカト思フ、モウ一ツ最モ此案ガ宜カラウト思フノハ第二項デ不正ノ利益ヲバ提供若クハ交付スルコトヲ約束シタル者、斯ウ云フ者ハ二百六十一條デハ罰スルコトハ出來マセヌカラシテ、ソレデ今斯ウ云フ時弊ガアツテ、ソレヲ矯正スルノガ必要デアツタナラバ此第二號ニ言フ所ノモノガ又必要デアラウト思ヒマスカラ、ヨシ大部分ガ二百六十一條ノ第一項ト牴觸シタ所ガ、今言フガ如キ解釋ヲ以テシタナラバ不都合ハアルマイ、サウシテ茲ニ明カニ職務ノ執行ニ關シテ不正ノ利益ヲ收受若クハ要求ト云フガ如キコトヲバ定メテ置イタナラバ、現今ノ時弊ヲ矯正スルガ爲メニハ最モ能キ效能ガアリハシナイカト思ヒマス、ソレデ多少重複ト云フコトハ認メマス、又此不正ノ利益ト云フコトヲ能ク相當ニ解釋シタナラバ、今横田君ガ言ハレタ如キサウ免罪ヲ被ルヤウナコトハアルマイト思ヒマスカラ、大體ニ於テ私ハ此案ヲ贊成致シマス
○議長(子爵岡部長職君)
採決致シマス、平沼君ノ修正說ハ卽チ此二百六十一條ノ二、七ヲ入レテソレト同時ニ原案ノ二百六十一條ノ六ノ第三項ヲ削ルト云フ案デアリマス、是ニ同意ノ諸君ハ手ヲ擧ゲテ下サイ
擧手者多數
○議長(子爵岡部長職君)
多數デアリマス
○六番(平沼騏一郞君)
是ガ通過致シマスルト、花井君ノ御提案ニナリマシタト同樣ニ趣意ガ茲ニ這入ラナケレバナリマセヌ、是ハ當然ノコトダラウト思ヒマスカラ、起草委員ノ整理ニ=言致シタイト思ヒマス、ソレカラ此二百六十一條ノ六ノ末項ガ削ラレマシテ二百六十一條ノ八ト云フモノガ這入リマス、卸チ兩方引纏メテ前ニ條ノ場合ニ於テ收受シタル利益ハ之ヲ沒收シ若シ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハザル時ハ其價額ヲ追徵スト此條文ガ次ヘ這入リマシタ方ガ宜カラウト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
チヨツト其前ニ唯今平沼委員カラ御述ベニナリマシタ通リニ、先程花井君ノ御提出ニナリマシタ趣意ノ場合ヲ二百六十一條ノ七ニ加ヘマスルコトヲ起草委員ニ御委託ニナリマスト云フコトデアリマスガ、ソレト同時ニ此二百六十一條ノ七ノ字ヲバ或ハ既ニ御採決ニナリマシタ部分、又ハ刑法ノ條文ニ合セマスル必要ガアラウト思ヒマス、例ヘバ「檢査役ガ其職務ノ執行」「其」ト云フ字ヲ入レマストカ、「關シテ」ノ「テ」ヲ削ルトカ、ソレカラ前項ニ揭ゲタルモノニ對シテ其職務ノ執行ニ關シト云フヤウナ字ハ或ハ刑法ノ文例ニ依リマシテ要ラナイカモ知レマセヌ、是モ御任セ下サイマスカ其點モ、、、、、
○議長(子爵岡部長職君)
唯今四番カラ相談ニナリマシタモノハ、其通リ致シテ異議ハアリマセヌカ
(「異讓ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
其通リ起草委員ニ託スルコトニ致シマス、ソコデ二百六十一條ノ八是ハ可決ト認メテ御異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
御異議ガナイト認メテ是ハ可決ト致シマシタ、二百六十二條
○三十七番(松波仁一郞君)
其前ニチヨツト質問シタイト思ヒマス、起草委員ニ御質問致シマス馬議決權ノ行使ニ關シテ不正ノ利益ヲ收受スルト云フ適用ニ付イテデアリマスガ、專ラ其金錢又ハ物品ヲ授受スルコトデアラウト思ヒマスガ、矢張リソレデハセマイトシテ無形ノ利益ノ含ム積リデ廣イ文字ヲ御用ヒニナツタト思ヒマスガ、其適用デ例ヘパ取締役ノ報酬ヲ上ゲルト云フヤウナ議題ガアッタトシテ、若シ取締役ノ株主トシテ色々議決權ヲ持テ居ル際ニ、自分ノ此議決ヲ通過スルコトニ贊成シテ呉レレバ監査役ノ月給報酬モ上ゲルコトニ贊成スルト云フヤウナコトハ矢張リ此處デ這入ツテ居ルコトデアラウカ、ソレカラモウ一歩進ムデ今度ハ唯空ニ自分ヲ取締役ニ專任シテ呉レルコトニ贊成スレバ自分モ貴公ヲ監査役ニ專任スルコトニ贊成スルト云フヤウナコトハ這入ツテ居ルノデアラウカ、ソレカラサウ云フコト丶關連シテ居リマスガ、其結果トシテ此利益ヲ沒收スルト云フコトガアリマスガ、金錢若クハ物品ナレバ甚ダサウ云フ適用ハ明カデアリマスガ、今ノヤウナ金錢デナイコトニ付イテハドンナコトデアラウカ、ソレニ關連シテ疑ノ起ルノハサウ云フコトニ依ツテ此議決ハ當然無效デアルガ或ハ無效宣吿ニ依ルカ、宣言ニ依ツテ無效ニナルノデアルカ、固ヨリ今ノ商法デモ問題ニナリマセウケレドモ、亦今度ハ懲役ト云フヤウナコトガ這入ツテ斯ウ云フ議決權ノ行使ノコトヲ刑罰ニシタデアリマスカラ幾分解釋モ變ツテ來ナケレバナラヌト思ヒマス、デ或侯補者ニナツテ居ラナイ株主ハ取締役ノ侯補者ニナツテ居ラナイ株主同志ガ所謂第三者トシテヤツタ場合ニハ或ハ無效宣吿ニ依ルコトデ、議決ヲ無效ニシテモ宜イカモ知レヌガ自分ガ侯補者トナツテ、サウシテ議決權ノ行使ニ關シテ刑罰ヲ受ケルヤウナ擧動ヲ行ツタナラバ當然其議決ヲ無效トシ、其取締役ヲシテ取締役タラシメズ當然無效トスル、或ハ報酬ヲ高メルト云フヤウナ時ニハ當然議決ヲ無效トシタナラバ宜カラウト思フノデアリマスガ、矢張リサウ云フコトニナルノデセウカ、或ハ無效宣吿ニ依ルト云フ現在ノ法律ノ儘ニナルコトヲ決議ノ方法ガ法令又ハ定款ニ違反スルト云フコトデ無效宣吿ヲ請求セシムルト云フコトニナルデアリマセウカ、其御意見ヲ承ハツタ上デ又意見ヲ出シタイト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
此不正ノ利益ト云フ文字ノ解釋トシテ此御述ベニナリマシタ種々ノ事柄ガ含ムカドウカト云フノデアリマスガ、是ハ刑法ノ賄賂ト云フ字ノ解釋ト同ジヤウニ解釋シテ一向差支ヘナイ、唯刑法ハ公務員又ハ仲裁人デアルカラ賄賂ト云フ字ヲ使ツタノデアリマスガ、是ハ公務員デアリマセヌカラ不正ト云フ字ヲ用ヒタニ過ギマセヌ、賄賂ト云フ中ニ有形ノ利益ノ外ニ無形ノ利益ガ這入ルカドウカト云フコトハ、是ハ法律家ノ間ニ大ニ議論ノアル點デアラウト思フ、其議論ハ此法案デハ決シテ居ラナイ、ソレト同ジ意味デアリマスカラ獨逸ナドハ餘程廣クナツテ居ルヤウデアリマスガ日本ノ到例ハ獨逸程廣クナカツタカノヤウニ記憶シテ居リマス、刑法ノ賄賂ノ解釋デ自カラ極マルト思ヒマス
○三十七番(松波仁一郞君)
今ノ二ツノ例デ起草委員ノ御意見ハ如何デ
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ確カ獨逸ノ公務員タルコトニ確カアリマス、甚ダ恐縮デスガソレヲ御覽下サイ
○三十七番(松波仁一郞君)
同ジ御意見デアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
矢張リ議論トナル點ハ議論トシテ擧者ノ研究ニ任ス方ガ宜カラウト思ヒマス、第二ノ問題モ矢張リ其通リダラウト思ヒマス
○三十七番(松波仁一郞君)
議決權ノコトニ付イテ議決ノ結果、、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
十六條總會召集ノ時期又ハ決議ノ方法等ガ制限シテアリマスカラ、ドウモ内容ノ無效ハ如何デアリマスカ此中ニ這入ラウヤウニ考ヘラレマスガ、是モ亦議論ガアレバ學者ノ解釋ニ任ス方ガ宜カラウト思ヒマス
○三十七番(松波仁一郞君)
私ノ質問ハ其不正ノ利益ヲ受ケテ議決ヲシタ者ガ其議決ニ依ツテ取締役ニナツタヤウナ場合ニハ當然無效トスルノデアルカト云フ加趣意デ
○四番(齋藤十一郞君)
其決議ノ内容ヲナスコトハ不正ノ利益ニ相成ヌト思ヒマスカ、外ノ利益ヲ受クルト云フノガ條件デアラウト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
利益ト云フ文字ハ頗ル奇異ニ感ゼラレル文字デアリマスルガ、御說明ノ趣旨ニ依リマシテ賄賂ノ文字ニ當ルノデアルト云フコトヲ了解致シマシタ、御說明ニ依ラズトモ其趣意デアラウト信ジテ居リマシタガ、何ガ故ニ此賄賂ト云フ文字ヲ用ヒズニ利益ト云フ文字ヲ用ヒラレタノデアルカ、賄賂ト云フモノガ公務員ニ限ルモカデアルカト云フコトハ何カ根據ノアルノデアリマセウカ、刑法ヲ御引用ニナリマシタケレドモ、刑法ハ公務員ニ限ツテ賄賂ト云フ文字ヲ用ヒテ居ルノデアリマセヌ、仲裁人ニ對シテモ用ヒテ居リマス、仲裁人ハ公務員ト云フ御解釋デアリマスカ、參考ノ爲メニ伺ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
成程仲數人ハ公務員デハゴザイマスマイ、ソレ故ニ仲裁人ト云フモノヲ別ニ書イタノデアラウト思ヒマスガ、併ナガラ此賄賂ト云フ文字ノ用例ハ公務員又ハ是ニ類シテ居ルヤウナ者ニ使ツタ場合ニ用ヒル文字ノヤウナノデアリマスカラ、ドウモ會社ノ重役又ハ株主ニ賄賂ヲ贈ルト云フコトハ餘程異樣ニ感ズルノデ、マア普通ノ文例ニ依リマシタ次第ナノデ
○二十二番(花井卓藏君)
ソレデハ何デスカ司法省ノ解釋デハ仲裁人ガ公務員ニ準ジテ居ルカラ賄賂ト云フ文字ヲ使ツタト云フ御趣意デアリマスカ、ドコガ公務員ニ準ゼラル丶所デス
○四番(齋藤十一郞君)
仲裁人ト云フノハ私刑法ノコトハ能ク存ジマセヌガ、是ハ訴訟中ニ規定シテアル仲裁人デアラウト思ヒマス、成程公務員公務署ニ於テ公務ヲ行ツテ居ルモノデハアリマスマイガ、其行ヒマスル職務ノ性質ガ是ニ類シテ居ル、ソレ故ニ此字ヲ使ツテモソレ程ヲカシクハ響クマイト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
畢竟利益ノ字ヲ用ヒラレタト云フノハ、賄賂ノ文字デハ當ラヌト云フ趣意カラ御用ヒニナッタノデアリマセウカ、實質論ニハ非ズシテ文字論カラ起ツタモノデアリマセウ、然ルニ此賄賂ト云フ文字ハ私ハ能ク存ジマセヌケレドモ公務員ニ限ツテ用ウベキ文字デアルト云フコトハ何カ擧問上ノ根據デモアルノデセウカ、ソレカラ又公務員ト並ベテ規定スベキ場合ニハ私人デモ賄賂ト云フ取扱ヲ受クルト云フ何カ學問上ノ根據ガアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
御答ヘ致シマスガ、學問上ノ根據ガアリマシテ態ト賄賂ノ字ヲ捨テニト云フ意味デハアリマセヌ、唯普通ニ此文字ニ對スル普通ノ觀念ガ賄賂ト云フ文字ヲ使フト何ダカ變ニ響クト云フノデソレヨリハ不正ノ利益ノ方ガ宜イト斯ウ認メタ次第ナノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
少シモ變ニ聞ヘハシナイガ、私ハ通過ニ付イテノ結果ヲ豫想ハ致シテ居リマスケレドモ、不正ノ利益ト云フ文字ハ悉ク賄賂ト云フ文字ニ改ムルト云フノ修正說ヲ出シマス、私ハ賄賂ト云フ文字ハ公務員ノミニ限ラレタ文字ニ非ズト信ズルノデアリマス、刑法モ亦公務員ニ限ラレテ賄賂ナル文字ヲ用ヒテハ居ナイノデアリマス、而シテ利益ノ沒收以外ノ奇異ノ感ヲ起スノデ、齋藤君ノ私ノ問ニ對シテ妙ナ感ジヲスルト仰シヤリマシタケレドモ利益ノ沒收餘程變ナ感ガアリハシナイカ、御採否ハ御隨意デ宜シイノデアリマス
○三十六番(横田國臣君)
賄賂ト云フ字ハ以前ハ或ハ用ヒタ言葉カト思ヒマスガ、今目デハ賄賂ト用ヒテ通常文章上ノミナラズ、アノ人ニ賄賂ヲ用ヒタト云フヤウナコトハ言フコトデスカラ、私ハ却テ其方ガ分リ易イカト思ヒマス、別ニナニモナイナラ二十二番ニ贊成デアリマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ今調ベテ居ルノデハナイカラ、確ナコトハ申シマセヌケレドモ、ドウモ賄賂ト云フコトハ兎ニ角上ニ位シテ居ル者ニ下ニ位シテ居ル者ガ持ツテ行クモノデ、對等ノ者竝ニ自分ノ下ニ位シテ居ル者ニ贈物ヲスルモノヲ賄賂ト云フコトハ言ハヌコト丶考ヘマス、所ガ二百六十一條ノ六ノ場合ノ如キハ對等若クハ自分ヨリ下ノ地位ト言ツテ言ハレヌコトハナイ、普通ノ株主トソレカラ重役ト較ベルト私ハ重役ノ方ガ上ノ方ニ居ルカ知ラヌガ、ソレガ或株主ニ贈ルノモ這入リ、株主同志ガ膾ルノモ這入ル、二百六十一條ノ方ハ是ハ重役デアリマスガ、是ニ對シテ膾物ヲスルノハ矢張リ會社ノ重役カモ知レナイ、ドウモサウ云フコトヲ賄賂ト言ツタ例ハ敢テ差支ヘハナイケレドモ、先ヅ從來用例ヲ餘リ崩サヌ方ガ宜イカト思ヒマスノデ、不正ノ利益ト云フ文字ハ成程餘リ明瞭ナ文字デハナイカモ知レマセヌケレドモ、併ナガラ近頃學者ノ賄賂ト云フ字ノ定義ニハイッモ不正ノ利益ト云フ字ヲ入レテ定義スルヤウデスカラ、大抵意味ハ分ルト思ヒマス、不幸ニシテ花井君ノ案ニ贊成スルコトハ出來マセヌ
○三十六番(横田國臣君)
私モドウデモ宜イノデスガ唯賄賂ト云フ方ガ人ガ耳馴レテ居ツテ宜カラウト思フ、梅委員ハ上ノ者カラセヌト云フノハ是ハモウ丸切當ラヌコト丶思ヒマス、私ガ罪人ニナツタラ下ノ裁剣所ニ賄賂ヲ使ヘパソレハ賄賂ジヤナイカラ――誰デモ同ジ此司法大臣ガ今日今ノ受付カ何カニ賄賂ヲスルヤウナコトガアラウシ、甚ダ失禮デスケレドモ、何ハ惡ウゴザイマスケレドモ併ナガラ拂下ノ時ナドハ誰デモ下級官吏ニ賄賂ヲシテモソレハ私ハチツトモ今ノ梅委員ノ言ハレタ上カラ下ニ使フコトヲ賄賂ト云フコトニハ當ラヌト云フコトハナイト思ヒマス、ドウデモ宜シウゴザイマスカ
○議長(子爵岡部長職君)
採決致シマス
○十二番(志村源太郞君)
チヨツト質問致シマス、唯今花井サンノ御發一議カラ疑惑ヲ懷冖キマシタノデチョット此原案ノ趣意ヲ御質問申上ゲタイト思ヒマス、不正ノ利益ヲ收受ト云フコトハドウ云フ譯デゴザイマスカ、必ズ相手ノアル場合ヲ想像スル場合ニ限ルノデアリマスカ、ト申シマスル理由ハ賄賂ト云フ事柄モ矢張リ相手ガアル事柄ニ限リマス私ガ這入リマシタトキニハ唯漠然ト例ヘバ自分ノ地位ヲ利用シテ或事柄ノ爲メニ先キニ出ルトカ何トカ自分ノ地位ヲ利用スル手段ヲスルト云フヤウナ事柄モ此中ニ這入ルノカト思ツテ居リマシタガ、併ナガラ獪ホ今ノ花井サンノ御修正カラ翻ツテ能ク讀テ見マスルト收受トアルカラ何ダカ相手ガアツテ是カラ取ルト云フコトニ見ヘル、其極ク狹イ場合デアリマセウカドウデアリマセウカ、原案者ハ居ナイノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ唯今御問ノ狹イ意味デ必ズ相手ノアル場合ヲ豫期シテ居ルノデアリマス
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ賄賂ガ上カラ下カ、下カラ上カ存ジマセヌガ、是ニ依ツテ例ガ衆議院ノ選擧法ニアルノデアリマス、ソレハ第八十七條ニ選擧ニ關シ直接又ハ間接ニ金錢物品ヲ使フ其トキニ利益ト云フ文字ガアルノデアリマス、サウシテ其二項ニ前項ノ場合ニ於テ收受シタル物件ハ之ヲ沒收スト云フコトガアル、ソレデ不正ノ利益ト云フノハ矢張リ此衆議院選擧法ノ八十七條ノ一項ニ在ル所ノ矢張リ利益ト云フコトト大體同ジ意味ニ解釋シテ然ルベキモノト思フ、所謂其形ノ見ヘナイ利益ハ是ハドウモ沒收スルト云フ譯ニハ無論イカヌノデアリマスカラ、沒收ニ付イテハ或ハ物件トスルガ宜シイカ知レマセヌガ、本條ノ方ハ不正ノ利益ト致シテ置イタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス、マア是ハ今チヨツト衆議院議員選擧法ニ付イテ御參考ノ爲メニ、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
衆議院選擧法ノ八十七條ノ一號ニゴザイマスル、其他ノ利益ト云フノハ唯今御說明ニ相成リマシタルガ如キ趣意デハ私ハアルマイト思フ、是ハ寧ロ無形ノ利益ヲ指シタモノデハアルマイカト思フ、有形ノ利益トシテハ金錢物品手形ト斯ウ數ヘ來ッテ他ニ無形ノ利益ニシテ金錢物品手形ト同ジク若クハソレ以上ノモノニ在ルコトヲ豫想シタ規定ナリト自分ハ解シテ居ル、恐ラクハ間違ナイ積丿デアリマス、而シテ同第八十七條ノ末項ノ規定ニ依リマスルト云フト前項ノ場合ニ於テ收受シタル物件ハ之ヲ沒收スト書イテアル、商法案ノ原案ノ如ク利益ノ沒收ト云フコトニハ書イテゴザイマセヌガ、衆議院選擧法ナドノ類例シタヤウナ所デ今不正ノ利益トシテ御引用ニナツタ御研究モ熱シテ居ルノデアリマスカラシテ、何カ利益ノ沒收ナドト云フ例ガ他ノ特別法ニアリマスレバ教ヘテ戴キタイ
○二番(岡野敬次郞君)
私ガ御答ヘヲスル資格ハナイノデアリマセウガ、此衆議院選擧法ノ八十七條ノ一號ニ言フ所ノ利益ハ必ズシモ無形ノ利益ノミヲ指スノデハアルマイト思フ、此處ニハ金錢物品ヲ使ツタトアリマスケレドモ、株劵デモ社債デモ國債デモ皆矢張リ同ジコトデアルト思ヒマス、デアリマスカラ必ズシモ此利益ト云フ文字ハ無形ノモノノミヲ指スデハナイ、有形ノモノモ私ハ含ムデ居ルト思フ、兩方指シテ居ルト思フ、併ナガラ沒收ノ場合ニ於テハ有形ノモノデナケレバ沒收ガ出來ヌカラ、ソレデ二項デハ物件何ト云フコトヲ書イタコトデアラウト思ヒマス、若シサウ云フモノデアリマスレバ或ハ此處ノ宋項ハ利益ト云フ文字ヲ改メテ物件ガ宜イカドウカ存ジマセヌケレドモ、形ノアルモノト云フ意味ニ改メタラバ宜クハナイカト云フ感ヲ懐イタノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
利益ト云フ文字ノ中ニハ無形ノ利益ハ固ヨリ含マレテ居ルノデアル、併ナガラ有形ノ利益モアルノデアルト云フ御說明ハ其當ヲ得テ居ルト私ハ思フノデアリマス、有形無形共ニ含マレテ居ルコトデアルト云フコトニ解スルノガ、選擧法ノ正解ナリト信ジマス、而シテ此商法案ニ申シマスル利益ト云フノハ無形ノ利益ハ含マヌモノデアルト云フ御說明ガアツタヤウニ承リマシタガ、卽チ松波君ノ質問ニ對シテ齋藤君ノ答ヘガ其趣意ノヤウニ聽取リマシタガ、同ジク罰則ノ規定デ甲ノ罰則ニハ利益ノ中ニ有形無形ノ利益ヲ共ニ含マシメ、乙ノ罰則ニハ無形ノ利益ヲ含マシメズシテ有形ノ利益ノミヲ見テ居ルト云フガ如キコトニ相成リマシテハ、解釋ノ上ニ於キマシテ原則トシテ選擧法ノ所謂利益トハ有形無形ノ利益ヲ含ムモノナリト云フ事柄ガ定ツテ居ル譯デモナク商法罰則ノ所謂利益トハ有形ノ利益ニ限ラレルモノナリト云フ原則ノアルモノデモナイデスカラ、ドウモ是ガ見込デ解釋スル外ハナイノデアリマスガ、私ノ見ル所ガ誤ツテ居ルノデアリマセウカ、チョット伺イマス
○四番(齋藤十一郞君)
先程私ノ御答ヘ致シマシタコトニ付イテ御述ベニナリマシタノデゴザイマスカラ、獪ホ申上ゲテ置ク必要ガアルノデアリマスガ、私ノ刑法ノ解釋ガ間違ツテ居レパ訂正ヲ致シマス、私ノ此刑法ノ賄賂ト云フ文字ノ解釋ハ矢張リ無形ノ利益ガ這入ルト云フ解釋デアリマス、ソレ故ニ此不正ノ利益ト云フ商法ノ文字ハ刑法ノ賄賂ト云フ文字ト範圜ガ同ジ意味デアルト斯ウ云フ趣意カラシテ御答ヘヲ致シタノデ、唯賄賂ト云フ言葉ヲ迚遣フノハヲカシク響クカラ不正ノ利益ト云フ字ヲ遣ツタノデアルト、斯ウ云フ趣意ニ於テ御答ヘヲシタ積リデアッタノデ、ソレガ間違ッテ居レバ訂正ヲ致シマス、無形ノ利益ハ無論這入ルノデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
唯今ノ岡野君ノ其類例トシテ出サレタ衆議院選擧法ナドモ大ニ參考ニナリマスガ、アノ法ニハ收受シタル物件トアリマスガ果シテ物件ト言ツテ收受ノ場合ヲ含ムカドウカ、咄嗟ノコトデアルカラ判斷シ兼ネル、イヅレマア御考ヘヲ願ツテモ宜イノデスケレドモ、併シ此刑法ノ方ノ例カラ言ヒマスト、賄賂ヲ收受シ又ハ云々、サウシテ二項ニハ收受シタル賄賂トアル是ハ其唯今齋藤君モ言ハレタ通リ其點ハ刑法學者ガ疑ヒノナイコトデアルト思ヒマスガ、賄賂ト云フノハ有形無形ノ利益ガ含ム、唯ドレダケノ利益ヲ含ムカト云フコトハ學者ノ間ニ異論ガアリマスガ、サウスルト二項ノ賄賂モ文字カラ言ヘバ無形ノ利益モ含ムノデスケレドモ、是ハ沒收スルニハ形ガナケレバ沒收ガ出來ヌカラ、ソレデ賄賂ハ之ヲ沒收スルト書イテアル、格別ヲカシクハナイデナイカ、若シ然リトスレバ矢張リ收受シタル利益ト書イテアツテモ、無形ノモノヲ沒收スルトシテモ沒收シヤウガナイカラ沒收スルコトガ出來ナイカラソレデ宜イカト思ヒマスガ
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ梅君ト全ク御同說デアルガ故ニ、無形ノモノハ沒收ガ出來ヌカラ廣ク書イテ置テモ宜イト云フ論ト、ソレカラ到底無形ノ物ハ這入ラヌカラ物ト云フモノニシタ方ガ宜カラウト云フノト、ツマリ分ル丶ノデ實際ノ結果ニ於テハ少シモ違イガナイノデアリマス
○三十七番(松波仁一郞君)
私ハ不正ノ利益ト云フコトガ若シ刑法デ賄賂ト云フコト丶同ジコトナラバ、刑法ト商法ト同ジ文字ヲ使フ方ガ宜イト思ヒマスカラ花井君ノ賄賂トスルコトニ贊成致シマス、第二項ノ收受シタルト云フ利益ト云フコトニ付イテハ梅、岡野兩委員カラ考ヘハ同ジコトデアルガ如何ニ書クカ此通リニ書イテ置クガ明白ニ適用ノアルキノダケヲ書クカト云フコトニ付イテ幾分カ御意見ノ違ツテ居ルヤウデアリマスガ、私ハ寧ロ明白ニ書イテ貰フ方ガハツキリシテ居ル、コトニ依ルト利益ガ無形ノ利益モ沒收出來ルノデアルダラウカ、少ナクトモ或人ノ疑ヒガ起ルカモ知レヌ、餘程其コトニ餘計ナ議論ガ起ッテモ惡イノデスカラ、殊ニ衆議院議員法ニ物件トアル以上ハ此處ニモ明カニシテ物件ハ之ヲ沒收スルト云フコトニシタイト思フノデス、デ若シモウ一層明白ヲ欲スレバ金錢有價證劵其他ノ物件ハトシテモ宜イノデ、若シ何誰カサウ云フ風ニスルト云フ御案ヲ御出シニナレバ贊成シタイノデアリマス、若シ誰モ御出シニナラナケレバ已ムヲ得ズ自分ガ出サウト思ヒマス
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ松波君ニ御再考ヲ願ヒタイト思フ、ソレハ此修正ノ利益ト云フ文字ハイカヌカラ殊ニ刑法デ賄賂ト云フ文字ヲ用ヒテ居ルガ故ニ花井君ノ賄賂ト云フニ改ムルニ同意スル、其理由ハ卽チ刑法ニ在ルカラ、而シテ其解釋ニ於テ必ズシモ有形ノモノニ限ラナイ、無形ノモノモ含ムカラト云フ理由デアルナラバ矢張リ此沒收ノ場合ニ於テモ刑法ノヤウニ書イテ置タ方ガ御趣意ニ適フノデアルガ、何ガ故ニ此刑法ノ百九十七條ノ一項ニ這入ツテ賄賂ト云フ文字ヲ用ヒテ、二項ニ付イテハ是ニ倣ハナイ方ガ宜イト云フ論ハナイト思ヒマス、ソレデアルカラ若シ一項ノ方面ノ方ヲ賄賂ニスルナラバ、沒收ニ關スル規定ニ於テモ矢張リ刑法ノヤウニ收受シタル賄賂ト云フコトニシテ置カナケレバ甚ダ前後釣合ハナイモノガ出來ルト思ヒマス、花井君ハ蓋シ能ク私ハ承知シマセヌガ沒收ニ付イテモ矢張リ賄賂ト云フヤウニシヤウト云フ御意見ダラウト思ヒマス、是ハ趣意ガ一貫シテ居ル、併ナガラ前後違ベタ文字ヲ用ヰルト云フコトニ付イテハ私ハ松波君ニ御再考ヲ乞イタイ
○三十七番(松波仁一郞君)
成程サウ致シマスト私ノ先キニ申上ゲタコトハ二ツ關連シテ居ルヤウデアリマスガ、別々ニヤツタ積リデアリマシタガ、サウ云フコトニナレバ成程兩方同ジ文字ヲ使ハナクチヤナラヌヤウニ思ヒマスガ、併シ私ハ話タイ積リデアツタノデス、甚ダサウスルト文字ガ矛盾スルヤウニ見ヘマスケレドモ、少ナクトモ此第二項ニ付イテハ明カニシテ置キタイト云フ考ヘデアリマス、卽チ第二項ノ收受シタル利益トアルノヲ收受シタル物件ハトスル案ニ致シマス
○議長(子爵岡部長職君)
別ニ贊成モナイヤウデスカラ採決シマス、卽チ二十二番ノ不正ノ利益ト云フ字ヲ賄賂ト云フニ變ヘタイト云三說ニ依ツテソレニ同意ノ諸君ハ手ヲ擧ゲテ下サイ
擧手者七名
○議長(子爵岡部長職君)
少數デゴザイマス、第二百六十二條
書記朗讀
○四番(齋藤十一郞君)
簡單ニ說明致シマス、本條ハ前數條ニ於キ犯罪トシテ罰シマスル行爲以外ノ行爲デアツテ、犯罪トハ認メナイ併シ從來ノ規定ノ趣意ニ依リマシテ科料ニ處スベキ行爲ト認ムルノガ相當デアルト云フモノヲ本條ニ網羅致シマシタ、大體此中ニハ現行法ノ二百六十一條二百六十二條ニ列記シテコザイマスル行爲デアツテ犯罪トシテ規定シテナイモノヽ總テヲ含マセタ積リデアリマスルガ或ハ脆ケテ居ルモノガアルカモ知レマセヌガ、兎ニ角サウ云フ趣意デアリマス
○二十六番(長谷川喬君)
此二百六十二條ノ現行法中ニハ此第八ニ於テ第二百條ノ規定ニ違反シテ社債ヲ募集シタルトキト云フコトガ罰ノ一ツニナツテ居リマスガ、今度ハ二百條ノ二ト云フモノガ出來マシテ社債募集ノ規定ガアリマスガ、其規定ニ違反シタル者ハ之ヲ罰スル必要ガナイト云フノデアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其點ハ二百六十一條ノ三第一項ノ第五號ノ中ニ含ム積リデアリマス
○二十六番(長谷川喬君)
第五號ハ債劵ヲ發行シタルトキデ社債ト云フモノガ成立ツタ後ニ債劵ヲ發行スル規定ガアル、其規定ニ背イタトキデアリマセウ、社篋ヲ募集スル卽チ二百條、二百條ノ二ノ如ク社置ノ總額ハ拂込ミタル株劵額ニ超ユルコトヲ得ズトカ、最終ノ貸借對照表ニ依リ會社ニ現存スル財產ガ前項ノ金額ニ充タザルトキハ社債ノ總額ハ其財產ノ額ニ超ユルコトヲ得ズトカ、又會社ハ前ニ募集シタル社債總額ノ拂込ヲナサシメタル後ニ非ザレバ更ニ社債ヲ募集スルコトヲ得ズ、是ハ今御引用ニナツタ所ノ債劵發行ト云フモノニハ見ラレナイヤウニ思フノデアリマスガ、如何デアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
文字ノ上カラ申シマスト違ツテ居リマスルシ又罰スベキ時期モ違ツテ居ルコトハ認メマスケレドモ、實際ハ此二百六十一條ノ三ノ第五號ノ法令ノ規定ニ反シテ債劵ヲ發行シタルトキト此トキニアツテスレパ目的ハ逹セラル丶ダラウト思ヒマス、ソレ故ニ其中ニ含ムモノトシテ是ハ特ニ規定致シマセヌ
○十番(梅謙次郞君)
私ノハ極ク小サナコトデスガ、例ニ依ツテ本條中ノ第六號、ソレカラ第九號ニ於キマシテ此違反シテトアリマス是ハ其外ニハ「テ」ノナイ方ノ例デ、例ヘバ本條中ニモ第八項ニハ違反シトアリマス、ナゼ茲ニ「テ」ハナイカト云フト是ハ違反シテ收受シト云フノデナク違反シ收受セザル或ハ違反シ準備金ヲ積立テザルノデ、ソレデ直グ下ノ動詞ニ喰付ヌモノデスカラ、ソレデ「テ」ガ取ツテアル、ソレデ現行法ノナニヲ申シマスルト餘程ソコハ嚴重ニナツテ居ルヤウニ思ハレマス、例ヘバ現行法ノ第二百六十一條ノ第五號ニハ第四十六條ノ規定ニ違反シテ開業ノ準備ニ着手シタルトキトアル、是ハ着手ノ方ニ掛ツテ居ルカラ「テ」着手シタルトキ、是ニ反シテ次ノ六號ニハ規定ニ反シ株式申込書ヲ作ラズ云々、ソレカラ七號ノ方ハ違反シテ株劵ヲ發行シタル、ソレカラ第二百六十二條ニモ要リマスマイガサウ云フ風ニナツテ居ルノデドウカ、、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
チョット取ルベキ箇所ハドコトドコデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
六號ト九號ト
○四番(齋藤十一郞君)
七號ハ要リマセヌカ
○十番(梅謙次郞君)
七號ハ着手シタルダカラ宜シイ、六號ト九號直グ下ニ同時ニ附着ク場合ニハ「テ」ガ付ク
○二十六番(長谷川喬君)
私ハ今質問ヲ致シマシタ所デ齋藤君ノ御答ヘヲ得マシタガ、其御答ヘニ依ツテ見マスルト云フト、ドウモ此二百六十一條ノ三ノ法例ノ規定ニ違反シテ株劵ヲ發行シタルトキト云フノデ、所謂法令ノ規定ニ違反シテ債劵ヲ發行シタルトキト云フ文字デ社債ヲ募集スル規定ニ背イテト云フコトヲ包含スルト云フコトハ餘程無理ナ解釋ダラウト思ヒマス、現行法ニ於テモ此債劵ニ付イテ規定ニ背イタ場合ニハ又之ヲ罰スルト云フ別ナ條ガアルニモ拘ハラズ、單ニ此債劵發行ダケノコトヲ見テ置テ、サウシテ社債募集ノコトニ付イテハ明文ヲ置カナイト云フコトハ齋藤君ガ希望セラル山ガ如ク、解釋ニハ甚ダムヅカシカラウト思ヒマス、ドウモ私ハ現行法ノ如ク社債ヲ募集スルニ付イテ其規定ニ背イタ場合ニハ餘程制裁ヲ加ヘルト云フ案ヲ提出致シマス
○十二番(志村源太郞君)
二十六番ヲ贊成致シマス
○二十二番(花井卓藏君)
唯今ノ長谷川君ノ修正說ニ贊成致シマス、私ハ一ツ起草委員ニ御伺ヒ致シタイノデアリマスガ、本條ノ罰ハ二十圓以上千圓以下ノ過料トナツテ居リマス、卽チ之ヲ刑法罰ヲ科セズシテ商事罰トシテ罰ヲ科スルト云フ御趣意デアラウト思フノデス、然ルニ名ハ美ナリ實ハ同ジコトナノデス、刑法ノ規定ニ依レバ丁度其二十圓ガ罰金ノ最低限デアツテ二十圓以下ノ罰金ト云フモノハナイノデスガ其刑法ノ罰金ト言ヘバ二十圓以上ト云フ事柄ガ直グ連想セラルル、二十圓以上低イ所ニ見テサウシテ刑法ノ上ニ於テモ滅多ニナキ千圓ト云フ所ニマデ至ルヤウニ是ハ規定セラレテアルノデアル、科料ニ處セラルル刑事罰ハ科セラレナカツタノデアルト云フ所ハ宜イノデスケレドモ制裁ヲ受ケタル者ガ懷カラ出シテ實益ヲ國憲ニ奪ハルル所ノ點ニ至ツテハ同ジコトデアル、過料ノ金デモ罰金ノ金デモ矢張リ通用貨幤デナクチヤイカヌノデアリマセウカラシテ同ジコトダラウト私ハ考ヘマスガ、特ニ此文字ヲ用ヰラレマシタ理由ト實益ヲ承ハリタイ、ソレカラ次ニハ第一項ノ規定ニゴザイマスルノト二百六十一條ノ三ノ一號トノ區別ハ思フニ一ハ會社財產ノ狀況ニ對シテ不實ノ陳述ヲナシ、若クハ之ヲ隱蔽スルト云フコトニ重キヲ置カレタノデアラウト存ジマスケレドモ、私ノ見ル所ヲ以テスレバ、會社財產ノ狀況以外ニ於テモ官廳又ハ總會ニ對シテ不實ノ陳述ヲナシ事實ノ隱蔽ヲナシタ場合ニハ憂フベキ恐ルベキ結果ヲ生ズベキ場合ハ必然アルダラウト思フ、成程輕重ノ差ハアルカ存ジマセヌケレドモ一ハ重キ刑法罰ヲ科セラレ、一ハ刑法罰ヲ科セヌト云フガ如キ程懸隔甚シキモノナリトハ私ハ信ジナイノデアリマス、斯ノ如キ多クノ懸隔ヲ立テラレタ理由ハイヅレノ邊ニ在ツテ存スルカ、之ヲ承ハリタイ、ソレハ第五號ノ規定ニゴザイマスル本編ノ規定ニ依リ檢査又ハ調査ヲ妨ゲタルトキト云フノト、二百六十一條ノ四ノ三號ニゴザイマスル檢査役ノ調査ヲ妨ゲタルトキト云フノトハドウ云フ區別ガアルカト云フコトヲ伺ヒタイ、而シテ是ニ俘ノウ罰ノ一ヲ刑法罰トナシ、一ヲ商事罰トナスト云フダケニ甚シキ其距離ノアルコトノ差別ニナリマシタ趣意ヲ承ハリタイ
○四番(齋藤十一郞君)
第一ノ御尋ネハ前數條ニ於キマシテ刑法ニ規定ヲ設ケテアル行爲ハ犯罪行爲トシテ罰スルト云フ趣意ニシテ居ル、其上ニ獪ホ二十圓以上ト云フガ如キ重キ刑事罰ノ科料ニ處スルト云フ趣立忌ヲ抓休用シテ居ル、甘六科料ニ處スルト云フ趣意ヲ燃休用シタニ付イテハ何等ノ理由、何等ノ實益アルカト斯ウ云フ御趣意ノヤウデ
○二十二番(花井卓藏君)
サウ云フ趣意デハアリマセヌ、私ノ御尋ひごネヲ致シマシタノハ名ロバ過料トセラレテアルケレドモ、實ハ刑法ノ上カラ見タナラバ罰金デアル、刑法ノ規定ニ依レバ二十圓以上ガ罰金デアル、二十圓以上ト言ヘバ罰金デアル、罰金ト言ヘバ二十圓以上デアルト云フコトニ言ヒ得ラル丶程明確ニ定ツテ居ルノデアル、是ハ刑事罰ヲ科スル程ノモノデハナイト云フ觀念ノ下ニ過料ヲ科セラル丶ノデアラウケレドモ、實ハ卽チ刑法ニ認メテ居ル罰金ヲ科スルニ非ズヤ何ガ故ニ好ムデ過料ノ文字ヲ用ヰシヤト云フコトヲ問ヒマシタ、刑事罰ヲ科スル程ノ者デナイト言ヘバ刑事罰以外ノ實質ヲ以テ居ルモノヲ罰トスルノガ相當デハナイノデアルマイカト云フコトヲ問ヒマシタ、御分リニナリマシタカ
○四番(齋藤十一郞君)
分リマシタ、結局モウ少シ具體的ニ御問ヒノ意味ヲ言表ハセバ、現行法デハ十圓トナツテ居ル之ヲ二十圓トシタト云フ點ニ付イテ御質問ト思ヒマスガ、是ハ少シ重役等ノ行爲ヲ民事罰ヲ科スベキモノカラシテ刑事罰ヲ科スルト云フコトマデニ重ク罰スルト云フレ趣意ヲ採リマシタノデアリマスカラシテ、民事罰ノ點ニ付キマシテモ現行法デ最低額ガ十圓トナツテ居ル、十圓デハ輕ルイソレデアルカラシテ二十圓トスル方ガ適當デアラウ、斯ウ云フ考ヘダケニ過ギナイノデアリマス、デ若シ此點ガイカヌト云フ御考ヘデゴザイマスレバ、御修正案ヲ御出シニナレバ獪ホ再考致シマセウー
○二十二番(花井卓藏君)
サウ云フコトヲ問フノヂヤナイノデス、サウ云フコトヲ言ハナイノデ私ノ問ヒノ趣意ハ二十圓以上千圓以下ノ過料ニ處スト規定セラレテアルケレドモ、實ハ罰金ノ刑デハナイカ、名ニ於テ刑事罰ヲ科セヌト云フト雖モ、實質ニ於テハ刑事罰ノ刑ヲ、名ヲ美ニシテ制裁スルニ過ギヌノデハナイカ、何故ニ男ラシク罰金トシナイノデアルカ、若シ又輕キガ故ニ刑事罰ヲ科スルニ忍ビザルガ故ニ過料ノ文字ヲ用ヰタト云フナラバ何ガ故ニ新刑法以外ノ刑ヲ科セナイノデアルカ、斯ウ云フコトガ問ノ趣意デアルノデアリマシテ、此問ヲ起シマスル所以ハ罰則規定ノ全體ニ亙ッテ御注意ヲ御拂ニナラヌコトヲ望ムノデアリマス、二百六十一條以下本條ニ至ルマデ吾々ノ見ル所ヲ以テスレパ大多數ハ民事罰トシテ滿足シテ宜シイ個所ガアルノデアル、而シテ其足ラザル所ヲ刑法ヲ以テ補助スレバ足リルト信ジテ居ルノデアル、然ルニモ拘ハラズ懲役而カモ五年以下、罰金而カモ五千圓以下、サウシテドウセ入レナケレバナラヌ禁錮ハドウシテモ入レナイナドト云フヤウニ御主張ヲナサル程、此商法規定ニ刑罰ヲ御入レニナツテ居ルニモ拘ハラズ、實ニ於テ全ク異ラザルニモ拘ハラズ此處ノ所三過料ノ過料ヲ御制定ニナルノハ餘丿妙デハナイカト斯ウ通俗的三申上ゲマシタナラバ分ルデセウ
○四番(齋藤十一郞君)
分リマシタ、結局ヤダ分ラヌ點ガアルカモ知レマセヌケレドモ、結局ハ私ガ御答ヘシタノデ宜シイ積ナンデ獪ホ申上ゲレパ斯ウ云フコトニナル現行法ノ科料ニ處スベキ行爲ノ中デ犯罪行爲トシテ罰スベキ必要アリト認メタ者ニ前數條ノ規定ヲ設ケタノデアル、其外ノ行爲ハ刑罰トシテ罰スル必要ナシト認メタカラシテ現行法ノ趣意ニ依リマシテ民事罰ヲ科スル行爲ト斯ウ云フコトニシタノデアル、ソレカラ此金額ニ付イテハ先程申上ゲタヤウ二十圓以上千圓以下ト云フコトニナツテ居ル、ソレトモ是ハ一般ヲ重クシタ結果トシテ二十圓ニ一咼メタノデアルト斯ウ云フノデ御答ヘヲ得テ居ルダラウト思ヒマス、ソレカラ第二ノ御尋ネハ獪ホ二百六十一條ノ三ノ一項ニモ裁剣所又ハ總會ニ對シ不實ノ陳述ヲナシ云々ト云フ規定ガアリマスガ、此裁判所又ハ總會ニ對シテ虛僞ノ陳述ヲスル中ニ會社ノ業務又ハ財產ノ狀況ニ付イテ虛僞ソ陳述ヲスルノガ最モ不都合ナコトデアル斯ウ認メマシタカラシテ此方法ハ犯罪トシテ之ヲ罰スル必要ガアル、其外ノモノハ唯今申上ゲタヤウナ場合ト異ツテソレ程害ヲ惹起ス行爲デナイト認メマシテ是ハ現行法ノ趣意ニ依ツタ次第デアル、ソレカラ第五號ノ御尋ネデアリマスガ、此檢査役ノ調査ト云フモノハ餘程重大事項デアツテ、此調査ヲ妨ル者ハ重ク罰スル必要ガアルノデゴザイマス、其外ノ調査監査役ノ調査サウ云フモノハ、ソレ程重ク罰スル必要ガナイト認メタ次第
○二十二番(花井卓藏君)
御說明ノ趣意ハ第一ノ點ニ付イテハ獪ホ不明、第二以下ニ付イテハ略ボ分リマシタ、私ハ質問ヲ繰返ヘス必要ハゴザイマセヌカラ、此場合ニ於テ修正說ヲ出スノデアリマス、二十圓以上千圓以下ノ罰金ト、修正トハツキリ極メルノデス、其根據モ亦アルノデス第一ハ罰則規定ノ主義ガ刑法罰ヲ採用スルト云フコトニ本會ニ於テハ確定シテ居ル、民事罰ヲ科セズシテ刑事罰ヲ科スルモノデアルト云フ事柄ガ確定シテ居ルコトガ一ノ理由デス、第二ニハ唯今一ニノ例ヲ取テ御質問ヲシタニ過ギナイノデアリマスガ、官廳又ハ總會ニ對シテ不實!陳述ヲナシ又ハ事實ヲ隱蔽シタルハ一ナリ、然レドモ或者ハ重ク或者ハ輕戶シト、檢査調査ノ妨害ヲナシタルハ一ナリ愉然レドモ或者ハ事態重ク或者ハ事態輕ロシト、斯ウ云フ趣意ノ御說明ニ過ギナイノデアル、例ヘバ傷害罪ノ例ヲ申シマスレバ、最モ重大ナル傷ヲ負ハシメタ又ハ輕微ナル傷ヲ負ハシメタ、然レドモ身體ニ傷害ヲ加ヘタルハ帥ト一ナリ、官廳ニ不實ノ陳述ヲナシタルハ卽チ一ナリ、唯目的並日通ニ輕重ノ差アルニ渦邸ギズ、掵阻査ノ妨宝ロヲナシタルハ帥卽チ一ナリ事態ニ輕重ノ差アルニ過ギズト斯ウ云フ趣意ナリト致シマスレバ一ハ刑事罰ニ屬クシテ一ハ民事罰ニ屬クスルト云フ理由ガ全ク根據ヲ失フノデアル、此理論ノ下ニ私ハ罰金說ヲ主張スルノデアリマス、尤モ二百六十二條ノ列記中ニ唯今引キマシタ二ツノ例ノ如クニ見ラレズシテ全クノ過失懈怠罪トシテ民事罰トシテ宜シイ性質ノモノガ此中ニハ五ツ六ッアリマス、アリマスガ是ハ起草委員諸君ニ敬意ヲ表シマシテ、私ハ是ト同ジ罰ヲ科シテ相當ナルモノト御認メニナツタ理由ノ趣キヲ受ケマシテ區別ハ立テナイ積リナノデアリマス、御贊成ヲ願ヒマスガ、御贊成下スッテモ下サラナクテモ一向構ヒマセヌ
○十番(梅謙次郞君)
私ハ長谷川君ノ先刻ノ修正意見ニ付イテチヨツト伺ヒタイコトガアル、成程私モ此コトハ多少調ベタノデスケレドモ大抵宜カラウト思ヒマスガ、併シ明カニ長谷川君ノ案ノヤウニ規定スレバ獪ホ明瞭デスカラ無論私ハ贊成致シマスケレドモ、長谷川君ノ御趣意ハ此科料ノ中ニソレヲ入レルト云フ御趣意ノヤウデアッタガ、或ハ間違ヘタカモ知レマセヌ馬若シ入レルナラバ矢張二百六十一條ノ三ノ中ニ入レヌケレバ債劵ノ發行ニ關スル規定ニ背イタ場合ヨリモ或ハ重イカモ知レヌ、例ヘバ株式ニ付イテハ規定ガモツト細カニナツテ居ツテサウシテ其規定ニ背イテ株式ヲ發行スルト云フコトニナレバ矢張リ重ク罰シテアル、科料位デハ濟ムデ居ラヌ、今一々箇條ヲ擧ゲヌデモ長谷川君ハ御調ベニナツタノデアルカラ無論分ル、ドウモ權衡上二百六十一條ノ三ノ場合ト五號ノ場合ト同ジク罰シナケレバイカヌト思ヒマス、若シサウ云フ御趣意デアレバ贊成スル、單三過料ヲ以テスルコトニナルトヒドク輕ルクナルカラ贊戒シナイ、ソレカラ序ニ唯今花井君ノ御案ハマダ贊成者ガアリマセブケレドモ、度々立ツコトノ勞ヲ省ク爲メニ唯一言デアルカラ言ヒマスガ、花井君ノ御論モ一應御尤モデアリマス、ソレモ一ノ主義ニ相違ナイ、併ナガラ一體花井君ハ成ルベク輕ロク罰シタイト云フ方ニハ今マデハ始終御論ガ背イテ居ルノニ此處デハ却テ重クシヤウト云フノデ、花井君ハ過料モ罰金モ何モ示シテ殆ド同ジダト云フコトデアルガ、財產上ノ點デハ同ジデアルカモ知レマセヌケレドモ、併ナガラ過料ト云フインデスカラ、私ガ若シ不幸ニシテ斯ウ云フ場合ニ遭遇スルナラバ金ハ餘計出シテモ過料ニスル金ガ、金ガ同ジダカラ過料モ罰金モ同ジダト云フコトハ私ハ思ハヌカラ此方ガ矢張リ輕ロクナツテ居ルト思フ、私ハ惡イ重役ヲ罰シタイト云フ嚴重ナル考ヘヲ持ツテ居ルト同時ニチヨイトシタ過失ニマデ重イ刑ヲ科スルト云フコトハ其當ヲ得ナイト思ヒマスカラ、.成程大體茲ニ揭ゲテアルモノハ一前條ニ揭ゲテアルモノヨリハ幾分趣意ハ輕ルイノデサウ云フ輕ルイ事柄デアツテ而モ本條ノ場合ハ有意デナイ場合モ含ム斯ウ云フ場合ニハマア過料位デ宜カラウ、金ヲ出スニハ同ジコトデモ名譽上ニ於テ大變ニ違イガアルノミナラズ刑事ニハ無暗ニ引張リ出サレルコトガアツテ間接ニハ財產上其他ノ損害ヲ受クルコトガアルト思ヒマス
○六番(平沼騏一郞君)
私ハ此條ニ一ツ修正ヲ致シタイノデアリマス、是ハ是マデ氣ガ付キマセヌデ居リマシタガ今日氣ガ付イタノデソレハ二十圓以上千圓以下トナツテ居リマシタガ是ハ十圓ト訂正シタイノデアリマス、是ハ極ク些細ナコトデアリマスケレドモ、是マデノガ千圓以下トカ三千圓以下トカ言ツテ罰金ノ一番下額マデイケルコトニナツテ居ル、サウシマストソンナ事例ハアリ々スマイケレド壬刑法ノ事例カラ言ヒマスレバ是ハ十圓マデハ酌量減刑デ行ケルノデスカラ、シマリ最下額ガ十圓ニナラウト思ヒマス、サウシマスト過料ノ方ガ成程罰金ヨリカ輕ルイノデアリマセウ、又梅サンノ仰シヤル通リ罰金ヲ少ナク取ラレルヨリカ、過料ヲ餘計取ラレタ方ガ宜イ名譽ノ上カラ申シテハ宜イカモ知レマラ致シマスレバ矢張リ十圓ト致シマシテ罰金ト同樣ニ致シタ方ガ權衡ガ宜カラウト思ヒマスカラ、甚ダ些細ナ修正デ御妨ヲ致シマスケレドモ十圓ト云フコトニ訂ス修正案ヲ提出致シマス
○三十六番(横田國臣君)
最低ヲ除イテハドウデス
○六番(平沼騏一郞君)
ソレデハ除ケルコトニ致シマス
(「贊成」ト言フ者アリ)
○二十六番(長谷川喬君)
唯今梅君カラ御尋ネニナリマシタカラソレニ御答ヘ致シマス、ソレデ此二百六十二條ノ說明ガアツタ後ニ意見ヲ述ベマシタ爲メニ、二百六十二條ヘ入レルカト云フ疑ヲ懷カレタノデアリマスガ、現行ノ二百六十二條ヲ削除セラレタニ付イテ、ソレデ其削除セラレタ所以ハドウデアルカト云フコトヲ二百六十二條ノ說明前ニ併セテ伺ツテ置キタイト思ツテ居ツタ譯デアリマスガ發言ノ機會ヲ得ナカッタカラ二百六十二條ノ說明後ニ至ツタノデアリマス、ソレデ私ノ趣意ハ丁度起草委員ノ御說明ニナッタ所ノ法令ノ規定ニ違反シテ、債劵ヲ發行シタル時、此トキノ罰ト同樣デ宜カラウト申シマスカラシテ、二百六十二條ノ三ニ其趣意ヲ加ヘルト云フコトニ致シタイト思フノデアリマス、併シソレハ私ハ強イテ此處デナクテハナラヌト云フ譯デハアリマセヌガ、マア權衡カラ論ジタナラバ宜カラウト思ヒマス、獪ホ序ニ申シテ置キマスガ起草委員モ御答アツテ宜カラウ添思フ位デアリマスガ、マダ御答ベガアリマセヌガ、ドウモ此起草委員ノ言バレル所ノ法令ノ規定ニ違反シテ債劵ヲ發行シタルトキト是ガ丁度其改正ノ二百五條ノ債劵全額ノ拂込ミアリタル後ニ非ザレバ之ヲ發行スルコトヲ得ズ債劵ニハ第百七十三條第二號乃至六號ニ揭ゲタル事項及ビ會社ノ商號ヲ記載シ取締役是ニ署名シ又ハ記名捺印ヲスルコトヲ要スト、斯ウ云フ一ノ規定ガアルノデアリマスカラ丁度此規定ニ違反シテ債劵ヲ發行シタルトキニ當ルノデ、私ノ言フ二百條ノ二ハ債劵募集ノ場合ガ是ニ包含スルト云フノハ困難ト思ヒマスカラ、ソレデ修正說トシテ申シタ譯デアリマス
○二十五番(松室致君)
私ハ花井君ノ御說ニ御同意スルノデアリマスガ少シ其見ル所ガ違フカラ簡單ニ述ベテ置キマスガ私ノ考ヘデハ之ヲ此條ノ制裁ヲ過料デナクテ矢張リ罰金ニシテ一ノ犯罪ニシタ方ガ宜イト思フ、デ罰ハ私ハ高クテモ宜イ五百圓以下ノ過料デモ矢張一ノ犯罪トシテ罰金ヲ科スル方ガ所謂取締ノ目的ヲ逹スル方ニ便利ダラウト思ヒマス、是マデ商法デ過料ノ規定ハ澤山アリマシタケレドモ、私共ノ目カラ見ルト殆ド行ハレテ居ナイ、ナゼカト申シマスルノニ此過料ニ致シマスルト犯罪デナイモノデスカラ、唯裁判所ガ職權デ動ク場合ノ外ニ檢事ガ訴ヲ提起スルト云フヤウナコトハアリマセヌ、サウシテ裁判所ト云フモノハ平生受身デバカリ居ルモノデスカラ、兎角何カノ刺戟ガナイトマア動ク方ニ向カナイ、從ツテ其私共ノ目カラ見マスルト、此過料ヲ以テ制裁スベキ場合ガ非常ニ澤山アルノニ殆ド千分ノ一モ行ハレテ居ラナイト云フヤウナ風デアリマスカラ、之ヲ其千圓以下ノ過料ト云フコトニ致シマシテ立派晒ナ法律ヲ設ケテ置テ實際獵一モ取締ニナラヌ、一モト云フコトハ過言デスガ殆ド取締〃ニナリマセヌカラ、寧ロ罰ハズツト輕ロクナツテモ犯罪トシテ裁判所ヲ刺戟スル方ノ手段ヲ取ツタ方ガ適當デアラウト思ヒマス、ソレデ一應私ハ花井君ノ御說ニ同意ヲ致シマス
○十七番(阿部泰藏君)
十七番ハ六番ノ十圓以下ト云フ說ニ御贊成申上ゲタイト思ツテ居リマシタガ、ソレヲ御引込メニナリマシタ段デ甚ダ其遺憾ニ存ジマス、ソレガ遺憾デト云フノハツマリ六番ノ御說デハ此過料ト云フモノハ十圓位其少額卽チ罰金ヨリモ高ノ少ナイモノニスルノガ相當デアラウト云フヤウナ御考ヘノヤウニ承知シマシタ、此一號カラ段々其號ガアル中ニ隨分其裁判官ナドカラ御覽ニナツタナラバ重ク罰シテモ宜イト御覽ニナルカモ知レマセヌガ、私共ノ考カラ見マスト、此登記ヲ怠タルナドト云フヤウナコトハ實ハ甚ダ實際困ツテ居ル、登記ガ例ヘバ本店ダケ登記ヲスルト云フコトデアレバ二週間ト云フ期間ニ登記ヲスルコトハ敢テムヅカシイ期間デハアリマセヌガ、會社ニ依テハ支店ヲ十モ十五モ持ツテ居ル會社ガアル、其登記ノ手續ニ至ツテ登記裁判所ガ皆一樣デアレバ、二週間ノ内ニ登記ヲスルト云フコトハ難キコトモナイノデアリマス、遠方ニ在ル支店其支店ノ數ガ澤山アル、サウシテ登記裁判所ノ手續ハ一樣デナイ、一方デハ通用スル手續モ他ノ裁判所デハ通用シナイ、他ノ裁判所デハ通用シナイ去年通用シナカッタカラ今年ハ去年ノ例ニ依ツテ他ノ裁判所ト仕方ガドコドコノ裁判所ハ斯ウ云フ手續ニシナケレバ去年モ通ラナカッタカラ其通リニシテ見ルト豈ニ計ランヤ今度ハ裁判官ガ變ツテ居ツテ去年ノ手續デハイカヌト斯ウ云フヤウナコトデ二週間ノ期間ニ登記ヲスルト云フコトノ出來ナイト云フヤウナコトハ往々アルノデアリマス、ソレハ怠ツタノデハナイト云フコトヲ證スレバ宜イト云フ御說ガアルカモ知レヌガ、ソレヲ爭フト云フコトニナツテ一々抗吿スルトカ云フヤウナコトハ中々費用モ掛カリ又法律ヲ知ラナイ商賣人ナドハ費用モ掛カリ手數モ掛カルカラ寧ロ過料ヲ收メテソレデ濟マシテ仕舞フト云フヤウナコトモ隨分無キニシモ非ラズデアリマス、サウ云フコトデ此箇條ノ中ニハ是ニ違反スルモ敢テ其情ニ於テ咎ムベキコトデナイコトモ這入ツテ居ルノデアリマス、ソレデ私ハ成ルベク是ハ輕ロクシテ十圓以上千圓ト云フコトニ致シタイ、千圓以下ト言ヘバ、ソレハ十圓モアレバモツト少ナイ五圓モアルカラ宜イジヤナイカト云フ御考ヘモアルカモ知レヌガ、千圓ト云フ高イ極點ノ方ダケヲ示シテ置キマスレバ或ハ其極ク輕ルイノデモ五十圓ニモ百圓ニモナルカモ知レヌ、現在ノ此二十圓ソレ程ニナラズトモ其二十圓ヨリモ高クナルカモ知レヌカラ、六番ノ最初御述ベニナツタ最低ノ十圓ト云フモノヲ茲ニ揭ゲテ置ケバ極ク輕ルイモノハ十圓ニ處スルト云フコトニナリマスルガ、ソレガナイト多クハ二十圓三十圓ト云フヤウナ極ク情ノ輕ルイモノデモ重キ過料ニナリハシナイカト云フ私ハ懸念ガアリマスノデ、最低ノ方モ示シテ置キタイト云フ考ヘデアリマス、二十圓ヲ十圓ニ改ムル修正說ヲ提出致シマス
○十五番(石渡敏一君)
私ハ極メテ幼稚ナ質問デスガ一ツ勞ヲ厭ハズ說明ヲ願ヒタイト思ヒマス、二百六十二條ノ一デアリマス、一ト二百六十一條ノ三デアリマス、三ト一ト冖較ベテ見マスルト殆ンド文字ニ於テハ變リハナイ、會社ノ業務又ハ會社財產ノ狀況ト云フ文字ガ二百六十一條ノ三ノ中ニハ加ッテ居ルダケデ、其他ニ變リハナイ、總會ノ席デ以テ此會社取締役トカ其他ノ人ガ會社ノ業務カ財產ノ狀況以外ニ何カヤレル場合ガアルノデアリマセウカ其點ヲ一ツ伺ツテ置キタイト思フ、デ或ハ刑ニ非常ナ變リガ生ジタノハ卽チ一方ハ過料デ一方ハ禁錮ノ刑マデ付イテ居ル、懲役刑マデ付イテ居ル、此二ツノ違イノ起ツタ所ハ過失ト過失デナイト云フコトニ期スルカモ知レヌト、マア想像シテ見タノデス、併ナガラ文字ニ於テハイヅレモ不實ノ陳述ヲナシ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキト斯ウアリマスノデ、ドウモ其間ニ區別ガアラウト云フコトガチョット不明ナノデアリマス、餘リ刑ガ違イ過ギマスルガ、ドウ云フ譯デアラウカ、總會ニ於テ官廳ニ對シテ取締役ガ會社ノ業務又ハ財產ノ狀況以外ニ何ガ饒舌ルコトガアルノデアルカ、若シアルトスルナラバソレハ罰スル價値ガアルカナイカト云フコトヲ實ハ私ハ先ヅ承ハリタイト思フ、ソレカラニハ此二百六十二條ノ此ニトソレカラ七トノ瀾係デ此ニノ方デハ本法ノ定メタル登記ヲナスコトヲ怠タリタル時トアル、ソレカラ七ノトキニハ四十六條ノ規定ニ違反シテ開業ノ準備ヲナシタルトキ、四十六條ハ矢張リ登記ヲナスニ開業ヲシテハ惡イト云フコトガ書イテアル、其トキハ罰スルト云フコトニナルソヂヤナイカ、所ガ此ニトソレカラ七デゴザイマスガ此登記ヲシナイデ開業ノ準備シタ場合ヲ私ハ想像シタモノデアラウト實ハ考ヘテ居ル、サウシマスルト前ノ登記ヲ怠タリタルトキノ間デ處分シテモ宜カリサウナモノデアルガ、或ハ場合ニ依ツテハ重ネテ過料ヲ科スルト云フ意味デ二ツヲ書キ分ケラレタカトモ思フガ、ソコハドウ云フモノデコザイマセウカ、ソレカラ九デアリマス、百九十四條ノ規定ニ違反シテ準備金ヲ積立テザルトキ、是モ是ト二百六十一條トノ比較デゴザイマス、二百六十一條ハ此間カラヤカマシクナツテ五年ノ懲役マデ行クト云フコトニナリマシタ、私ハ此準備金ヲ積立テナイト云フ所ノ所爲ハ明カニ取締役ガ其任務ニ背イテ會社ノ財產上ニ損害ヲ生ズベキ行爲ヲナシタノヂヤナカラウカト思フ、併シ其以外ノ場合ガ考ヘラレルト云フナラバ其場合ヲ承ハリタイト思フ、今一ツ此場合ニ生ジテ來ルニハ前ニバ過失ヲ包含シナイト云フヤウナ御說ガ出ルカモ知レマセヌガ、ドウモ生ズベキ行爲、ドコノ所マデ過失ト云フコトニナル譯デアラウカ、ソコノ過失ノ度合ノ所其所爲ノドコラノ點マデ有意ト云フコトノ區別ガ此處デ付クノデアリマセウカ、一ツ御說明ヲ願ヒタイト思フ
○四番(齋藤十一郞君)
第一ノ御尋ネハ二百六十二條ノ第一號ノ官廳又ハ總會三對シ不實ノ陳述ヲナシ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキトゴザイマスルガ、此不實ノ陳述事實ノ隱蔽ニシテ會社ノ業務及ビ會社財產ノ狀況ニ關セザルモノナルヤ否ヤト斯ウ云フ御尋ネノヤウデアリリ、スルガ、是ハ幾ラモアラウト思ヒマス、例ヘバ取締役ノ任期ガ經過シテ居ラヌノニ任期ガ盡キタトシテ召集シテ、サウシテ任期經過シタト云フコトヲ報吿スレバ、矢張リ會社ノ業務及ピ會社財產ノ狀況ト云フコトニ關係ハナイノデアリマス、マア一例デアリマスガ他ニ澤山アラウト思ヒマス、ソレカラ第二ノ御尋ネハ本法ニ定メタル登記ヲナスコトヲ怠タリタルトキト云フ第二號ノ場合トソレカラ第二號ノ場合ト重複シテ居ルデハナイカト云フコトデアリマスガ、此第二號ノ場合ハ必ズシモ設立登記ノ場合バカリデハナイノデ、外ノ登記モ無論這入ルノデアリマスカラ、四十六條ノ規定ニ反シテ開業ノ準備ニ着手シタルトキトナリマシテモ一向重複シナイ是ハ現行法モ斯ウナツテ居リマス
○十五番(石渡敏一君)
此七ハニノ中ニ這入リマセヌカ
○四番(齋藤十一郞君)
現行法デモサウナッテ居ル、這入リマセヌ、ソレカラ第九號デスガ、第九號ハ是ハ百九十四條ヲ御覽下サレマスト、第一項ノ方ニ於テ會社ハ云々其利益ノ二十分ノ一以上ヲ積立テルコトヲ要ストアルノデアリマス、此積立ト云フコトトソレカラ其金ヲ差引イテ配當ヲスルト云フコトトハ丸デ別ナコトデアツテ、差引イテ配當致シマシテモ積立ナイコトガアラウト思フ、積立テルト云フ行爲ハ矢張リ帳簿ノ上ニ於テ積立タト云フコトノ記載ガアツテ、始メテ積立テルノデアツテソレヲシナイ、差引イテハ配當ヲスルカモ知レナイケレドモ、サウ云フ場合ガアラウト思フ、ソレデ其場合ヲ罰スル必要ガアラウト思フ、ソレカラ最後ノ御尋ネハ是ハ二百六十一條ノ場合ハ修正ニナツテ居リマスル、デスガ其任務ニ背キタル行爲ヲナシ會社ノ財產上ニ損害ヲ加ヘタルトキハト改メテ居リマス
○二十一番(田部芳君)
先程平沼君カラ修正案ヲ提出ニナリマシテ、初メノ案ニハ十圓以上千圓以下ノ過料ニ處シト斯ウ云フコトニ改メルト云フ御案デゴザイマシタガ、後ニ其案ヲ御改メニナリマシテ最下限ヲ附ケズニ單二千圓以下ノ過料ニ處スト云フ斯ウ云フコトニスルト云フコトニナリマシタ、其案ニ贊成ノ方モアルヤウデアリマスカラ、其點ハ極ク些細ナコトデフリマスガ私ハ此商法ノ大體ノ上カラシテ少シク異議ガアリマスカラ其コトヲ述ベヤウト思フ、デ此商法中ニハ他ニモ餘リ此過料ノ規定ハアリマセヌガ、其一例ヲ申シマスト云フト此商法ノ十八條ノ第三項ニ矢張リ過料ノ規定ガアリマシテ、是ハ五圓以上五十圓以下ノ過料ニ處セラルトアル、デ或所デハ最下限ヲ置クシ或所ハ最下限ヲ取ルト云フノ理由ハナイデハナイカ、矢張リ若シ此二十圓ガ高ケレバ之ヲ十圓トスルト云フコトニ私ハ別段異議ハアリマセヌガ、ドウモ一ノ法典ノ中デ或所ハ最下限ヲ置キ或所デハ取ツテ仕舞フト云フコトハ、立法ノ體裁上ドウモ宜クナイデハナイカ、私ハ其點ニ付イテ異議ヲ述ベテ置キタイ手思ヒマス
○二十四番(豐島直通君)
私ハ極ク幼稚ナ御尋ネカモ知レヌガ御尋ヲ致シタイト思ヒマス、此過料ト云フコトノ性質ハ唯規則ニ背ク半云フ行ヲ改メサセルト云フダケノ目的デアルカラ、格別ニ行爲ニ付イテ過料ヲ科スルノデナクテ、此一カラ十一マデノ行爲ヲスツカリ行ツタトキニハ矢張リ千圓ノ過料デ濟ムノデアルカ、或ハ一萬一千圓ノ過料ヲ取ルノデアルカ、ドウ云フ性質ニナルノデアルカ、又今日實際デハドウ云フヤリ方ヲヤツテ居ルノデアリマスカ、其邊ヲ伺ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
解釋トシテハ一萬一千圓ノ過料モ取ルモノト思ヒマス、實際ノ取扱振リハ私ハ記憶致シマセヌガ、大分サウヤツテ居ルト思ヒマス、ツマリ斯ノ如キ行爲ニ付イテ過料ノ生ジテ居ルト思ヒマス、ソレカラ此際ニ申上ゲマスガ、此長谷川委員ノ御發議ガ若シ法令ノ規定ニ違反シテ社債ヲ募集シタルトキヲ罰スルト云フ規定ヲ二百六十一條ノ三ニ加ヘルト云フ御趣意デアツテ、而シテ其文體等ハ起草委員ニ御任セ下サルト云フコトデアレバ起草委員ハ御同意致シマス
○十番(梅謙次郞君)
二百條及ビ二百條ノ二
○四番(齋藤十一郞君)
左樣デコザイマス、而シテ其二百六十二條ノ二十圓ヲ十圓以上千圓以下ト云フコトニ御修正ニナルト云フ御發議ニ對シテモ敢テ異存ハアリマセヌ
○三十番(岡松參太郞君)
私モチヨツト質問シタイノデスガ此罰ノ中ニ監査役ガ任務ヲ怠ツタ場合ニハ監査役ガ任務ニ背イテ財產上ニ損害ヲ加ヘタ場合ハ規定ガアリマスガ、監査役ガ任務ヲ怠ツテ會社ノ業務、財產上ノ監査ヲシナイトキト云フ場合ニ付イテノ罰ガ全クナイヤウデアリマスガ是ハ如何ナモノデアリマセウカ、ドコカニ這入ツテ居ルノデゴザイマセウカ、或ハ其場合ハ別ニ加ヘル必要ハナイト御認メニナツテ居ルノデアリマセウカ、一應伺ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
チヨツト失禮デスガ具體的ノ事實ヲ御分リナレバ、、、、
○三十番(岡松參太郞君)
ツマリ盲判ヲ押シタ其爲メニ非常ナ損害ガ起ツタ、此頃ノ會社ガ失敗ハ主ニソコニ在ル、其點ヲ罰シナイトイカヌ、獨逸ノ商法ニハ少クトモ過料ニ加ヘテアル
○十五番(石渡敏一君)
序ニ此私ハ矢張リ同ジヤウナ質問デゴザイマスケレドモ、此二百六十二條監査役ガ罰セラルベキモノハドレトドレガ當ルノデアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
岡松委員ノ御尋ノ點ハ二百六十一條ノ規定ハ成程當リマセヌヤウデス、財產上ノ損害ヲ加ヘルト云フコトニ付イテノ行爲ガゴザイマセヌカラ當ラヌヤウデアリマス、ソレカラ或ハ其多クノ場合ハ二百六十二條ニ書イテアルヤウナ事柄ガ俘ナフ場合デアレバ、是ハ是ニ當リマスケレドモ其外ノ場合ハ成程規定ハゴザイマセヌノデスガ、ソレハ如何デアリマセウカ、民法ノ此實體法ノ規定カラシテ損害賠償ハ遁ルルコトハ出來ナイト思ヒマスガ
○三十番(岡松參太郞君)
過料ノ中ニデモ御加ヘニナツテハドウデゴザイマセウカ、加ヘテ餘リ效能ハゴザイマスマイケレドモ驚カシニハナルダラウト思ヒマス、取リ除シテ置クノモ――監査役ガ監査ヲ{忌ツタノガ破產ノ起ル原因ト思ヒマス
○三十六番(横田國臣君)
何カ罰シタイケレドモ唯ヌルケタトキハト云フ意味ハ甚ダ弱ハル、ドウトカセネバナラヌ、併ナガラ全ク監査ヲセヌノヂヤカラメクラ判ヲ御前見ヌデアツタ、イヤ見タ、斯ウ云フコトハムヅカシイ、ドウカ罰セラレルヤウナ風ニシタイノデスナ
○三十番(岡松參太郞君)
ソレヂヤ唯今ノ私ハ修正案トシテ提起致シマシテ獪ホ文字ハドウデモ宜シウゴザイマスガ、假リニ斯ウ云フ文字ニシタラバドウカト思ヒマス、本款ノ規定ニ違反シ監査役ガ會社ノ業務ノ監督又ハ財產ノ調査ヲ怠タリタルトキトカ云フコトニ、、、、
○十番(梅謙次郞君)
獨逸ニハ何條ニ在リマス
○三十番(岡松參太郞君)
一番シマイニアリマス、三百十九條ノ中ニ
○二十五番(松室致君)
私ハ先刻述ベマシタ理由デ茲ニ此二百六十二條ノ此制裁ニ付イテ一ノ修正案ヲ提出シタウゴザイマスガ、ソレハ先刻申シマシタ通リニ此二十圓以上千圓以下ノ過料トアルノヲ五百圓以下ノ罰金ニ處スト改メタイノデ、ソレデ先刻申シマシタ理由ノ外ニモウ少シ附加ヘテ申述ベテ置キタイト思セマスノハ、羸貫際{過料ト云フモノハ隨分不都合デス、先刻豐島君カラ質問ニナリマシタヤウニ是ハ御承知ノ如ク併科スルト云フ譯ニナルノデスカラ、或會社ノ如キハ創立以來丁度十年バカリ經ツテ居ル會社ガアリマシタガ、是ガ不都合ナコトガチヨツト見ヘマシタノデ、裁判所デ調ベテ見マスト其創立以來今日ニ至ルマデ非常ニ蓮法ナコトガ多クテ過料ヲ十一科スルト殆ド一萬圓ニモ過料ガ上ルヤウナ譯デ、サウ云フ過料ヲ申渡スト云フト却テ此會社ヲシテ信用ヲ損ジサセテ、ツマリ會社ガ壞ハレルヤウナ場合ニ陷ルカモ知レヌト云フノデ已ムヲ得ズ極ク新シイ行爲ヲ=一充テルヤウニ取ツタト云フ例ガアルノデ、然ルニ罰金ト云フコトニ致シマスルト、サウ云フ併科ヲセヌデ濟ムノデアリマスカラ、アルタケノ行爲ヲ皆罰シマシテ、サウシテ徵心戒ノ途ヲ立テルト云フコトモ出來ル譯デアリマス、結局此會社ノ役員ノ方カラ申シマシテモ、過料ト云フ方ヨリカ罰金ノ方ガ餘程輕ロクテ、サウシテ其便利デアラウト思ヒマスカラ、又一方ノ方カラ見マシテハ十分懲戒ノ途ヲ立テルコトガ出來テ、所謂其取締ノ目的ヲ逹スル途ニ便デアラウト思ヒマス、ソレデ此案ヲ提出致シマス
○二十二番(花井卓藏君)
贊成致シマス
○十番(梅謙次郞君)
チョット松室君ニ伺ヒタイノデスガ、松室君ハロ割金ナラバ檢事ガ求刑スルカラ罰スル、過料ハ裁判所ノ職權一ヲ以テヤルンダカラ實際滅多ニ科スルコトハナイト云フ斯ウ云フコトデアリマシタガ、成程規定ノ表面デハサウ云フコトニナルカモ知レマセヌケレドモ、私ノ考ヘマシタ所デハサウ云フ過料ニ處セラルベキ行爲ノアツタ場合ニハ其檢事カラシテ若シ聞及ダ事實デモアレバ求刑スルカラト言ツテモ、矢張リ聞及ダ事實ガナケレバ出來ヌノデアリマスカラ、求刑スルヤウナ場合デアルナラバ、判事ニ、卽チ裁剣所ニ注意スルト云フコトハ矢張リ檢事ノ職務上當然ノコトデハアルマイカト思フノデアリマスガ、ソレハ現行法ノ上ニ於テハ出來ヌノデアリマセウカ、若シ出來ルコトナラバ檢事ハソレゾレ注意ヲ與ヘルコトモ出來ルノデスカラ、檢事總長邊リカラシテ全國ノ檢事ニ訓令ヲ下ダシテサウ云フコトヲ見當ッタナラバ裁判所ニ注意シロト言ヘバ、裁判所ガ注意ヲ受ケテモ過料ノ處分ヲスル必要ガナイト思ヘバシナイデアラウシ、又重大デアルト見レバスルデアラウ、勿論過料ニ處スベキ場合ハドンナ小サイコトデモ取ツテ以テ罰セヌケレバナラヌト云フノデナクテ、稍稍主ナルモノヲ致シマスレバ宜イト云フコトデ、先刻ノ登記期間ニ遲レタル者ヲ罰スルト云フノハ是ハ誤ツタ解釋デ、サウ云フ誤ツタ解釋ハナクナルダラウト思ヒマスカラ、サウスルト自カラ適度ニ於テ過料ノ制裁ヲ加ヘルコトガ出來ヤウト思ヒマスガ、其邊ハ如何デアリマスカ、チョット伺ツテ置キタイ
○二十五番(松室致君)
現行法デハ私モ細カイコトハ能ク知リマセヌケレドモ、ドウモ其檢事ガ其違法ノコトガアツタ時分ニ裁判所ニ注意ヲ與ヘナケレバナラヌト云フ義務ハナイノデ、ソレハ與ヘルコトハ出來ルケレドモ、裁判所ガ聞カナケレバマルデドウスルコトモ出來ヌ、ソコデ私ノ考ヘデハ檢事ニ矢張リサウ云フコトヲ一ノ義務ヲ負ハシテ、義務ガアルト自カラソチラノ方ニ意ガ向クモノデスガ、發見スル場合ガ多イ、發見シタ所デ檢事ガヤルト云フコトニナルト大ニ其取捨ヲ考ヘテヤリマスカラ妄リニナラヌ、其コトヲ適當ニ能ク取締リガ出來ルト思ヒマス、義務ガアリマセヌト主客責任ノナイ所ニハ注意ガ行渡ラヌノデ、從ツテ發見スル場合ガ少ナイカラ、ツマリ不取締リニ陷ルト斯ウ云フ主義ナソデ
○六番(平沼騏一郞君)
長イコトハ申シマセヌガ、先刻此過料ノ最下低ノコトニ付イテ色々御話ガアリ町、シタガ私ハ最下低ヲ採ルト云フ案ニ致シマシタ、是ニ對シテ田部サンカラドウモ十八條邊リ總テ最下限ガ書イテアルカラ是モナイト體裁上ヲカシカラウト云フ御話デアリマシタ、是ハ御尤モデアリマスルガ、併シ一箇條ニ付イテ罰則ヲ設ケマスル場合ハ、ソレハ最下限書クガ宜カラウト思ヒマスルガ總テ此二百六十二條ハ一カラ十一マデ澤山アリマスノデ此中ニハ極メテ輕微ナモノモアルノデアリマスカラ、斯ウ云フ風ニ澤山行爲ノ列記シテアル場合ニハ寧ロ最下限ヲ採ツタ方ガ宜カラウト思フ、併ナガラ阿部サンカラ矢張リ十圓ト云フ最下限ヲ附ケタ方ガ裁判所ノ取扱上餘リ重イ過料ヲ科セヌコトニナルカラ宜カラウト云フ御提案ガアリマシタ私ノ提案ガ潰レマシタラバ阿部サンノ提出ニ贊成致シマスケレドモ、前ノ提案ハ矢張リ維持シテ置キマス積リデアリマス、ソレカラチヨツト=三口附加ヘテ甲シマスルガ、松室サンカラモ罰金ニシタ方ガ宜カラウト云フ御提案ガアリマシタ、ソレハドウモ裁剣所ガヤツタソジヤ手鈍ルイ、檢事ガ一々訴ヘル其義務ニ基キテ訴ヘナケレバ取締ガ付クマイト云フヤウナ御話デアツタ是ハ一應ハ御尤モデアリマスケレドモ、檢事ハ斯ノ如キコトニ付キマシテハ矢張リ裁判所ニ注意ヲ與ヘル職務ガアラウト思ヒマス、現ニ過料ノ裁判ニ對シテハ檢事カラ抗吿モ出來ル決シテ裁判所ノヤルコトデアルカラ檢亠事ハ打棄ツテ置テ宜シイト云フモノジヤナイ、既ニ裁判ヲ致シマシタ場合ニ抗吿モ出來ルヤウナコトニナツテ居ル、是ハ檢事ガ認知致シマスレバ裁剣所ヘ注意ヲ與ヘレバソレデ宜カラウト思ヒマス、殊ニ又此中ニモ裁判所ハ職權デ發見スル場合ガ多イノデアリマスカラ、サウ云フ場合ニハ何モ檢事ガ干與シナクテモ目的ハ逹セラル丶ノデアリマス、其理由デ之ヲ罰金ニスルト云フコトニ付イテハ私ハ贊成ハ出來ナイノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
罰金ニ付イテノ意見ハ述ベテ置キマシタガ二ツパカリ理由ヲ加ヘテ置キタイノデアリマス、其一ハ豐島君ト齋藤君トノ間ニ應酬セラレテ問答ニ依ツテ得タノデアリマス、卽チ二百六十二條ノ一項乃至十ニマデヲ犯シマシタル場合ニハ格別、一千圓併セテ一萬二千圓ヲ取ルト云フコトニ解釋セザルヲ得ヌト、マア其通リデアラウト思フノデス、然ルヲ之ヲ罰金ニ致シマスルト云フト刑法第四十八條ノ二項ニ規定セラレテゴザイマスル通リ、ニ個以上ノ罰金ハ各罪ニ付イテ定メタル罰金ノ合算額以外ニ於テ處斷スト斯ウ云フコトガアリマス、此點ニ於テ認メテアリマス、ソレカラ第二ニハ罰金ニハ時效ノ利益ガアリマスガ、過料ニハ時效ノ利益ガナイノデアリマス、此ニ點ヨリ立論致シテ見マスルト云フト梅委員ハマア渦偏料ニ處セラレタト言ヘバ結構デアルケレドモ罰金ト云フト不快ニ感ズルト申サレマシタケレドモ、實質ニ於テハ是ダケニ大イナル利益ガアルノデアリマスカラシテ、名ノ美ナル而シテ利益ノ何モノヨリカ名ガ酷デアツテモ實益ノアル方ガ宜イダラウト私ハ感ジマス、ソレカラ今一言加ヘテ置キマス、是ハ田部君ノ御意見是ニ對シテ平沼君ノ辯駁ニ依ツテ得タノデアリマスガ、商法ノ立法ノ形式ヨリ致シマスレバ田部君ノ申サル丶方ガ正シイノデアラウト私ハ考ヘラレル、然ルニ之ヲ罰金ト云フコトニナリマスト云フト、刑法ノ令ヲ追フノデアリマシテ、サウシテ二百六十條以下ノ令ヲ追フノデアリマシテ、短期下額ト云フモノハ總テ運用ニ起案セラレテアル、自由刑デアルナラバ懲役ノミヲ揭ゲテ短期ヲ拐ゲナイ、財產刑デアルナラバ多額ノミヲ見テ下額ヲ揭ゲナイト云フノモ通論デアラウト思ヒマス、斯ノ如キ多クノ實益ガアル上ニ獪ホ且ツ松室委員ノ申サレマシタル懲戒取締ニ於キマシテモ少ナカラザル便益ガアルノデアリマスカラシテ、罰金ト云フコトニ御改メニナル方ガ宜ロシカラウト思ヒマス、殊ニ嚴罰ヲ以テ商法ニ臨ト云フ御趣意デアツテ撰擇ノ場合ニ於テハ成ルベク範圍ヲ廣フスルト云フノガ一貫シタルニモ拘ハラズ禁錮マデモ吝嗇セラル丶ト云フ商法典ニ於キマシテハドコマデモ此主義ヲ罰則ノ中ニ御貫キニナル方ガ宜シイデアラウト考ヘル或點ニ於テハ極メテ嚴ニナリ、或點ニ於テハ極メテ寛ニ而シテ事柄ニ付テ輕重大小ノ差アルニ過ギズシテ一ハ刑法管轄ニ屬シ、一ハ民法管轄三屬スルト云フコトハ決シテ立法ノ體裁宜シキヲ得タルモノト私ハ信ジナイ、私ノ質問シタル通リ石渡君ノ質問セラレタル通リ例ヘバ二百六十二條ノ第一項ノ如キ或ハ第五項ノ如キ之ヲ二百六十一條ノ三ノ一號ニ比シ二百六十一條ノ四ノ三號ニ比シテイヅレモ故意ヲ認メタル事柄デアツテ過失ニ非ズシテ故意ヲ認メタ事柄デアツテ目的物ト云フモノ丶重サガ、或事柄ニ重味ガアルト云フコトヲ制裁ノ性質ト云フモノガ全ク管轄ヲ異ニシテ刑法管轄ニ入レテ置ク大ナルガ故ニ刑法管轄ニ入ル、小ナルガ故ニ民喜管轄ニ入ル、併ナガラ事柄ハ同ジデアルト云フコトニ御注意ヲ下サリマスレバ罰金主義ノ方ガ穩當デハアルマイカト私ハ考ヘル
○議長(子爵岡部長職君)
二十二番三チヨツト御尋ネシマスガ、ソレカラ二十五番ハ初メ二十二番ガ單純ニ過料ヲ罰金ニスルト云フ修正說ニ二十五番ハ贊成セラレタ又後カラ二十五番ハ矢張リ罰金トシテ五百圓以下ノ罰金ト云フコトニシタイト云フコトデ又二十二番ガ贊成セラレタヤウデアリマス、是ハ共ニ修正案トシテ出テ屠ルモノト見テ宜イカ
○二十二番(花井卓藏君)
共ニノ方ガ實益ガ多イヤウニ思フ、卽チ松室サンノ五百圓罰金說ヲ御採リ下サレマシテ、ソレニハ無論手ヲ擧ゲマス、ソレカラソレガ必ズ成立スルデゴザイマセウケレドモ、萬々一不成立ノ場合ニハ千圓ノ罰金說ヲ御採ヲ下サレマシテ
○議長(子爵岡部長職君)
便宜ノ爲メ兩方トモ採リマス
○十三番(原嘉道君)
私モ修正說デスガ二十圓ヲ五圓ニ改メル其理由ハ現行ノ商法通リデ宜イト云フ理由デソレデ二百六十二條ハ二百六十一條ト二ツノ事柄ヲ集メテ現行法ニ依レバ五圓以上デアルノニ今度二十圓ニ墸スダケノ必要ハナイ、極メテ輕微ナコトモ含ムデ居ルカラ
○三十六番(横田國臣君)
此算條ハ大變項モ分ツテ居リマスシ、ソレデドウモ犬變ナ箇條ヲ又々論ズルヤウナ風デトント其彼方カラ斯ウ云フ讀ガ出、此方カラ此所ヲ出スト云フヤウナ譯デ丸デ是デ決ヲ採ラレテハ甚ダ困ル、兎モ角モ今一ツ一ツ分ケテサウシテソレヲ論ジテ決ヲ御採リ下サルヤウニ願ヒタイ、付イテハ此過料ヲ罰金ニシタイト云フ御讀モアルシ、ソレカラ二十圓ヲ五圓ニスルトカ十圓ニスルトカ云フ說モアル、之ヲ一ツ問題トシテ御論ジヲ願ヒタイ、ソレニ付イテハ私ハ意見ヲ申シマスガ、此過料ト云フコトハ私ハ決シテ惡イコトニハ思ヒマセヌガ、過料ニ付イテノ始末ヲ是マデ等閑ニシテ居ソタト思ヒマスカラ、ドウゾ過料ノ如キハドコノ裁判所デヤツテソレニ付イテハ誰ガ故障ガ出來ルトカ出來ナイトカ、出來ルナラバ其相手モナクテハナラヌトカ云フヤウナ規則ハ欲シイノデゴザイマス、ソレデ之ヲ罰金トスレバ、罰金ナラバマア約メハ能ク付キマス、併ナガラ此罰金ノ二十圓ト限ツタナラバモウ極ク私ハ好カヌノデスガ、是モ仕方ガナシニサウ云フコトニナリマシタ、之ヲ今ノ十七番委員ノ如キハ十圓ニ殊更ニシテ置カネバナラヌ、是ハマアドウモ私ハ十七番委員ニシテ妙ナコトデアルト思フノデゴザイマス、サウデス低フシテハイケナイ、ソレト云フモノハ大槪十圓ノ所ニ持ツテ往クダラウカラト云フ思召カ知ラナイガ、ソレデ大變ヲカシイ場合ガ幾ラモ出テ來ルノデアリマス、罰金ナレバ又刑法ニ於テドウナルトカ云フヤウナコトガアル、ソレデアリマスカラ十圓トスルト二ツモ三ツモ犯シテ居ル者ハ三十圓宛デナケレバナラヌ五十圓宛デナケレバナラヌト云フ風ニナル、ソレニシタ所ガモウ以下トナレバドウデモ出來ルノデアリマス、之ヲ今ノ刑法流儀ニヤルト云フナラバ又約メハ付カヌコトバゴザイマセヌ、ソレカラ以前此中ニモアルカバ存ジマセヌガ罰金ノ最下限ヲ附ケルハ私ハ極ク嫌イノコトデ、懲役デモアツタケレドモ、アレガナクチヤ刑法ハ通ラヌト云フコトデアルカラ仕方ナシニアソナモノヲ拵ベタ又ヲカシイジヤアリマセヌカ、輕ロイコトニナルノニ是非二十圓以上デナケレバナラヌ、五圓以上デナケレバナラヌト云フノハ、是ハ當リ前ノ買物デアツタナラバ買人ハアリハシナイ、私ハ千圓以下ト云フコトニシテソレニ付イテ過料ノ方ハドウ云フ風ニ訴訟手續ハナルト云フコトハ極メナケレバナラヌト思ヒマス
○三十番(岡松參太郞君)
先程監査役ヲ罰スル規定ガ獨逸ノ商法ニ在ルト云フコトヲ申上ゲマシタノハ見誤リデアリマス、是ガ爲メニ私ノ伽趣意ニ變リハアリマセヌ
○議長(子爵岡部長職君)
唯今採決デスガ、採決ノ順ヲ御相談シマス
○十二番(志村源太郞君)
十三番ノ五圓讀ヲ贊成シテ置キマス
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト十三番ハ千圓以下五圓ト云フ
(「贊成々々」ト言フ者アリ)
○二十二番(花井卓藏君)
修正說ヲ出スノデス、唯今五圓說ガ出マシタカラ、罰金說ヲドウシテモ維持スル爲メニ茲ニ修正說ヲ出サナケレバナラヌ、五百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス、サウスルト今ノ五圓ノ人モ贊成ガ出來ヤウト思ヒマス
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト五圓以上千圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
○二十二番(花井卓藏君)
ソレハ松室案デ私ノハ千圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處スト斯ウ云フノデ
○二十五番(松室致君)
私モ五百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處スト致シマス
○十五番(石渡敏一君)
罰金ダケノ方ニシテ贊成スルノデスガ、科料ガ付イテハ、、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
刑法ノ科料ダ
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルトチョット皆サン御聽下サイ、是ハ大分修正說ガ混雜シテ居マスカラ採決ノ順序ヲ今御相談致シマス、初メニ此原案ハ罰金又ハ過料トアルノヲ罰金又ハ科料ト云フ方ニシヤウト云フ說ニ付イテ採決ヲシテソレガ極マリマシテカラ低度ニ於テ採決致シマス、ソレガ濟デカラ長谷川君ノ卽チ現行法ニ在ル所ノ二百六十二條ノ八ニ在ル此分ヲ二百六十一條ノ三ノ中ニ入レタイ此說ニ付イテ採決シマス、ソレカラシテ梅君ノ偃名遣ヒノコトハ起草委員ノ方ニ任シタラ宜カラウ
○二十六番(長谷川喬君)
起草委員カラ入レルベキ分ハ起草委員ニ任シテ呉レロト云フコトデアリマスカラソレデ宜シウゴザイマス
○三十番(岡松參太郞君)
私ノ監査役ニハ贊成者ガアリマシタヤウデスガ
○一番(富井政章君)
私ハ贊成シテ置キマス
○議長(子爵岡部長職君)
チヨツト三十番ニ御尋ネシマスガ、是ハドコニ入レルト云フ御考ヘデ
○三十番(岡松參太郞君)
過料ノ中ニ入レル其意味ニ於テ一號ヲ加ヘル
○議長(子爵岡部長職君)
其場所ハ起草委員ニ任シテ宜イノデスナ
○三十番(岡松參太郞君)
サウデス
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト長谷川着ノ修正說ノ次ニ採決致シマス、原案ノ卽チ過料トアルノヲ罰金又ハ科料ト云フコトニ性質ヲ變ヘル、是ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ
擧手者
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト一ハ性質ガ原案ノ通リ過料ニナリマス、六番ノ千圓以下ノ過料ト云フ方ニナリマス、ソレデ宜カラウト思ヒマス、千圓以下ノ過料ニ處スト云フ方ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ
擧手者八名
○議長(子爵岡部長職君)
少數デアリマス、今度ハ採決前ニモウ一遍言ツテ置キマス、十圓以上千圓ト云フノデ、其次ハ五圓以上千圓ト云フノモアル、十圓以上カラ先キヘ採リマス
(「五圓ヲ先キニ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
ソンナラ五圓ヲ先キニ採リマス、五圓以上千圓ト云フ方ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ
擧手者多數
○議長(子爵岡部長職君)
次ハ二十六番ノ修正說、此號ノ中ヘ適當ナ所ヘ入レテ貰ヒタイト言フ卽チ第二百條ノ二、卽チ二十六番長谷川君ノ說ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ
擧手者十七名
○議長(子爵岡部長職君)
多數デアリマス、次ニ岡松君ノ案是モ宜ウゴザイマスカ、號デスガ是ニ同意ノ諸君手ヲ擧ゲテ
擧手者多數
○議長(子爵岡部長職君)
サウスルト、ドウデスモウ一箇條殘ッテ居リマスカラ少シ時間ガ遲レマスケレドモ續ケマス、第二百六十二條ノ二
書記朗讀
(「異議ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
別ニ御異議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト言フ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
御異議ナイト認メテ可決ト致シマス、本日ハ是デ散會