第二次法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録 第12回
参考原資料
- 第二次法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録 , 第七卷 [国立国会図書館デジタルコレクシヨン]
備考
- 未校正のテキストデータです.
法律取調委員會第十ニ回總會議事速記録
明治四十三年二月二十三日午後三時十五分開會
○議長(岡部長職君)
是ヨリ會議ヲ始メマス、二百六十一條ノ四
書記朗讀
○四番(齋藤十一郞君)
前回ニモ大體申上ザテ置キマシタ筈デアリマスガ、本條ハ現行法ノ二百六十一條及ピ二百六十二條ニ過料ニ處スベキ行爲トシテ規定ノゴザイマスル行爲中デ犯罪トシテ刑ヲ科スベキモノ卞認メマシタモノノ中デ最モ輕イモノヲ一ツニ纏メマシタ條デゴザイマス、一號カラ八號マデハ大體ハ現行法ノ二百六十二條ノ中ニゴザイマスル事柄デアリマスガ、唯新タニ加ヘマシタノハ第四號ト第五號トデゴザイマス、是レハ實際上ニ必要アリト認メマシテ加ヘマシタ事柄デゴザイマス、申上ルマデモナク第八號ハ現行法ノ二百六十二條ノ第九號ニ當ルノデゴザイマシテ、外國會社ガ支店ノ閉鎖ヲ命ゼラレマシタ場合ニ其命令ニ違反ツテ支店ヲ閉鎖致シマセヌ時ニ制裁ヲ受ケル規定デアルノデアリマス噛然ルニ現行法ノ四十八條ニ依リマシテ會社ガ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行爲ヲナシタル時ハ解散ヲ命ゼラレルノデアリマスルガ、此解散命令ノアリマシタニモ拘ラズ營業ヲ致シマスル場合ノ制裁ガ缺ケテ居ルノデアリマス、實際ニ於テ命令ヲ受ケタニモ拘ラズ而シテ其命令ガ確定シタニモ拘ラズ營業ヲナシマシタ實際ノ事例モアルノデゴザイマス、夫故ニ本條ノ第四號ト云フモノヲ此處ニ加ヘル必要ヲ認メマシタ次第デアリマス、書キ方ガ淸算人ニ事務ノ引渡ヲ爲サザルトキトゴザイマシテ解散ヲ命ゼラレタニモ拘ラズ會社トシテ營業ヲ爲シタル時トハ書キマセナソダノハ却テ斯樣ニ此案ノ通リニ書キマスレパ適切ニ實際ノ事實ニ當ルノデアツテ、結局ハ一ツ事ニナルト云フ次第カラシテ此文字ヲ用ヰマシタ次第デアリマス、ソレカラ第五號ノ方モ之レモ實際上會社ガ何時マデモ淸算事務ヲ結了致サナイト云フコトデ世間ニ往々困ツテ居ル事例ガゴザイマスルノデ、淸算ノ結了ヲ遲延セシムル目的デ期間ヲ不當ニ長クシタト云フサウ云フ行爲ヲ罰スル必要ガアル次第デアリマシテ此四號及ビ五號ヲ新タニ加ヘタノデアリマス、尙ホ此第二號ニ就キマシテモチョット申上ゲテ置キマスルノハ、是レハ現行法ノ二百六十二條六號ニ當リマスノデ其一部分ヲ此處ニハ割キマシタ次第デアリマス、其他ノ部分ハ二百六十二條ノ第八號ニゴザイマスル、現行法ハ此案ノ二百六十二條ノ八項ノ形ニナツテハ居リマスルノデアリマスルガ、破產宣吿ノ請求ヲ怠リタルトキト云フ場合ニ於キマシテモ故意ニ會社財產ヲ處分スルト云フ行爲ガ加ハリマスレバ其犯狀ガ非常ニ重クナル、其場合ヲ單ニ怠ルト云フ場合ト區別スル必要ガアルト認メマシテ財產處分ノ場合ハ之レヲ犯罪ト認メ、單ニ請求ヲ怠リマシタ場合ハ過料ニ處スベキモノト認メマシタ次第デアリマス尙ホモウ一言致シテ置キマスルノハ、是レハ申上グルマデモゴザイマセヌガ、會社ノ組織變更ノ問題ガ宿題トナツテ居リマスルノデ如何樣ニ規定サルルカ分ラヌノデゴザイマスルカラシテ此本條ノ第一號ノ末段ニゴザイマス組織ノ變更ヲナシタルトキト云フ、是レガ此案デハ七十八條乃至八十條ノ規定ニ違反シテト云フコトガ書イテアルノデゴザイマスガ或ハ組織變更規定ノ如何ニ依リマシテハ自然ノ結果トシテ修正ヲ加ヘルベキ事柄デアリマスルガ御決議ニナリマスルナラ先ヅ以テ此形ニ於テ假決議ト云フコトデ御決議アランコトヲ希望致シマスル次第デアリマス
○十番(梅謙次郞君)
本條ニ就キマシテハ此二年ノ懲役ヲ一年ニシヤウト云フ花井君ノ案モアリマスルケレドモ私ハ二年以下デモ此處ハ宜カラウト思ヒマス、第二項ノコ年以下ノ禁錮又ハ」ト云フノハ前條ノ修正ノ結果、削除セラルルノガ至當デアラウカト考ヘマス、若シ案トシテ出スノガ宜イナラ案トシテ出シマス、ソレカラ私ガ一ツ伺ヒタイノハ第二項ノ規定ニ依リマスルト過失ヲ罰スルト云フノデアリマス、ソレハ宜イヤウデアリマスガ此第五號乃至第七號五、六、七、ノ此三ッノ方ニ揭ゲテアリマスモノハ何レモ淸算ノ結了ヲ遲延セシムル目的トカ一部ノ債權者ヲ利スル目的トカ債權者ヲ害スル目的トカ云フノデアリマスカラ之レニハ過失罪ト云フコトハナササウニ思ヒマスガ如何デゴザイマスカ念ノ爲メ伺ヒマス、ソレカラモウ一ツ是レハ例ノ起草委員ノ御參考ニシテ戴キタイト思フノハ第四號ノ「會社カ裁判所ノ命令ニ因リ解散シタル」ト云フノハ他ノ文例デハ「テ」ガ出マス筈デアリマス、ドウゾ夫レハ御參考ノ爲メニ申上ゲテ置キマス、
○四番(齋藤十一郞君)
第一ノ御尋ネハ御尤モナ御尋ネデゴザイマシテ此第二項ノ過失ノ事ハ第五號乃至第七號ニハ關係ノナイコトニ相成ラウト思フノデアリマス、而シテ此形ガソレデハオカシクナイカト云フ御非難モアリマセウガ過失ト認メラレル行爲ニ就テノミ適用スレバ差支ナイノデアルト云フ斯ウ云フ文例モ他ニアラウト思ヒマスカラ之レデ差支ナイト思ヒマス、
○二十二番(花井卓藏君)
私モ一ツ御尋ネヲシタイノデアリマスガ「左ノ場合ニ於テハ」ト斯ウ云フ文字ガ書イテアリマス、是レハ二百六十一條ノ四バカリデハゴザイマセヌ、其他ニモ矢張左ノ場合ニ於テハト云フ文字ノ使ハレテアルノガアリマス、場合ト云フコトハ行爲ト云フコトヲ含ムノデアリマセウガ本條ハ行爲ヲ罰スベキ刑罰規定デアルノデアッテ場合ト云フ文字ガ果シテ穩當デアルヤ否ヤト云フ事柄ニ私ハ第一ニ疑ヲ有ツテ居ル、成程現行商法ニハ本條ノ如キ文例ノ下ニハ場合ニト云フ文字ヲ使ツテアルニハ相違ゴザイマセヌケレドモ其現行法ノ使ツテアル、夫レガ私ニハ抑モ迷ヒマス種ニナルノデアリマス殊ニ第二項ヲ見ルト云フト前項ノ行爲ガト云フ文字ガ使ツテアル、場合ト云フ字ガ夫程文例ヲ重ソズル上ニ必要ガアルナラバ二項ノ所モ前項ノ場合ガト云フ風ニナラナケレバ穩當デアルマイト思ヒマス、所ガ二項ノ所ヲ前項ノ場合ガト書イテ置イタナラバ薩張意味ガ分リマセヌヤウニナラウト考ヘマスガ場合ノ文字ヲ矢張刑罰法ニ通常用ユル行爲トカ事項トカ云フ風ニ改メルト云フコトニ相成リマシテハ如何デゴザイマセウカ說ガアレバ承リタイノデス、分レバ宜イ趣旨デアリマスカラシテドウデモ宜イノデス、何ンダカ左ノ場合ニ於テハ云々ノ刑ニ處スト云フノガ商法ノ規定トシテ差支ハナイカ知レマセヌケレドモ刑事法ノ規定トシテハ穩カデナイト私ハ思フノデス、
○四番(齋藤十一郞君)
御尤モナ御尋ネデ實ハ起草會デゴザイマシタカ主査會デゴザイマシタカ場合ト云フ字ガドウデアルカ或ハ左ニ揭ゲル行爲トカ、左ノ行爲ト云フコトニ改メテハドウデアラウカト云フ說モ出マシテサウヤツテ見ヤウナドト試ミタコトモアルノデス是レハ起草會ノ案ニハ私ノ記憶デハタシカ左ニ揭ゲタル行爲ヲナシタルトキト云フコ下ニ書イテアッタト記憶シテ居リ一、スガ、ツレガ其左ノ行爲ト言セマスルト、各號ノ書キ方ヲ御覽ニナリマスルト例ヘバ「資本ノ減少又ハ組織ノ變更ヲ爲シタルトキ」トアルノデス、「トキ」ガ誠ニ噌馴掛カル、之ヲ一々「爲シタルコト」、「財產ヲ處分シタルコト」、「檢査役ノ調査ヲ妨ケタルコト」、斯ウ書直シテ見マシテモ何ンダカ變ニ響クノデス、然ラバ之ヲ何何ノ行爲豫カ何ニ々々ノ處爲トカ、サウ云フ其名詞的ニ直ス方ガ宜イデハナイカト云フ考モ淨ビマシタノデアリマスガ、サウ致シマスルニハ餘程書キ方ガ困難デソシデマア止ムヲ得ズ斯樣ナ形ニナツタ次第デアルノデ強テ是非斯ウセネパナラヌト云フ理由モアルノデハゴザイマセヌ
○二十二番(花井卓藏君)
第二項ニゴザイマスル「前項ノ行爲ハ」ト云フノハ矢張「トキ」ヲ受ケタ文字タルコトハ疑ヒナイト思ヒマスガ是レハ別段ノ意味ガアルノデスカ、
○四番(齋藤十一郞君)
左樣ニ御質疑ニナリマスレバ、成程其點ガ慨ニ述ベタ事柄ト牴觸スルヤウニ見エマスガマア斯樣ニ書イテ置ケパ、此本文ト事柄等ヲ通ジマシテ合セマシテ見テ矢張其行爲ヲ爲ス、或行爲ヲ爲ス、爲シタル行爲ヲ罰スルノダト斯ウ云フコトニナルノデス、ソコデ其行爲ヲ見テ來テ居ルト云フ解釋ハムヅカシイセトハナカラウカト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
サウスルト一項ノ場合ハ「トキ」デ二項ノ場合ハ唯今ノ御說明ニ依レバ「爲シタル行爲」デスカ、
○四番(齋藤十一郞君)
鱈昂一項ノ本文ト各號酬トヲ合セマシテ見レバ或行爲ヲ罰スルト云フコトガ明カデアル、其行爲ヲ第二項ガ受ケテ來タト、斯ウ少シ無理カ知レマセヌケレドモ解釋ガ付カウト思ヒマス、
○一番(富井政章君)
私ハ露骨的ニ有リノ儘主査會ノ經過ヲ御報吿致シマス、前ニハ「左ニ揭ゲタル行爲ヲ爲シタルトキハ」ト何處ニモ壷百イテアツタ、サウシタ所ガ今齋藤君ノ言ハレマシタ通リ「コト」ト書カズニ「トキ」ト書イテアル、故ニドウモ行爲ト云フ言葉デハ面白クナ功ラウ、場合モ餘リ立派デハナイケレドモ現行法ニモアルカラ其位ニシテ置カウカト云フ位ノ趣意デサウナツタノデアリマス、第二項ノハ全ク氣ガ付カナソダ、私ノ解スル所"アハ、、、、、
○十番(梅謙次郞君)
此「行爲」ノ文字ガ場合ニ改マツタコトニ就テハ、私工、與ツテ大イニカガアルノデスガ從ツテ責任ガアリマスカラ=言辯ジテ置キマスガ、第一項ハ私ハ格別批難ヲ受クベキ缺點ハナイト思ヒマス、詰リ第二項ガ前項ノ行爲ト斯ウ出テ居リマスカラ、其前項ニハ行爲ガ表面ニ出ズシテ本文ニハ場合ト出テ居ルト云フ所カラノ御批難ハ多少根據ガアルカノ如クデアリマスガ、尤モ是レハ本條ダケデハアリマセヌ、既ニ決議ニナツタ前條ニモ矢張アル例デアリマス、私ハ是レデモ差支ナイシ、若シ之レデ多少惡イト云フノナラバ、改メルニ致シマシテモ格別面倒ハナカラウト思ヒマスガ、何故之レデモ差支ナイカト言ヒマスルト、兎ニ角本文ハ「左ノ場合ト」ハアルケレドモ其場合ヲ通覽致シマスルト皆行爲デアル、或行爲ヲ爲シタルトキニデアリマス、ソレデスカラ前項ノ行爲ト云フコトハ餘リ不當デハナイト思ヒマス、併シ若シ前項ト云フノガ餘リ直接過ギルト云フノデアリマスレバ前項ニ揭ゲタル行爲ト云フテモ宜カラウト思ヒマス、サウスレバ正ニ行爲ガ揭ゲテアル、卽ち何々又ハ組織ノ變更ヲ爲シタルトキ、其爲シタルト云フ行爲ガ揭ゲテアル、處分シタリ引渡ヲ爲シタリ分配シタリ違反シタリト云フ行爲ガチヤント揭ゲテアリマスカラ「ノ」ガ餘リ直接過ギテ當ラヌト云フ御說ガ多イナラバ「ニ」揭ゲタルトシタナラバ比較的穩カデハナイカト思ヒマス、行爲ト云フ文字ヲ使ツテモ餘リ無理デハナイト私ハ思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
「ニ」揭ゲタルト云フコトヲ御出シニナリマスカ
○十番(梅謙次郞君)
其方ガ宜イト云フ御考ガアルナラバ出シテモ宜イデス、必要ヲ感ズルト云フ程デモナイノデス
○議長(岡部長職君)
二十二番ハ豫テ修正案ガ出テ居リマスガ如何デス
○二十二番(花井卓藏君)
唯今ノ二百六十一條ノ三ノ第二項ノ文字ダケノコトデゴザイ弓、シテ實質ニ變化ハゴザイマセヌガ試ミニ斯ウ云フ修正案ヲ拙シマス、「前項ノ場合ニ於テ其行爲カ過失ニ出テタルトキハ」ト云フノヲ出シテ置キマス
○一番(富井政章君)
ソレヨリモ本文モ左ニ揭ゲタル行爲トヤツテシマツテハドウデス
○二十二番(花井卓藏君)
ソレハ正シイデス
○十番(梅謙次郞君)
何々シタルトキ、何々シタルトキト云フ場合ヲ書イテ置キナガラ、サウシテ行爲ヲ書クノハ夫レハ私ハ穩カデナイト思ヒマス、ソレデアリマスカラ若シ行爲ト書カレルナラバ、爲シタルトキデハイカナイ、組織ノ變更トカ會社財產ノ處分トカ云フヤウナ風ニ書イテアレバ夫レハ宜シイケレドモ「トキ」ト書イテ置イテソレデ行爲ト云フノハ私ハ無理ダラウト思ヒマス、ソレデ「前項ノ場合ニ於テハ」ハ結構デスガ行爲ト云フノハ餘リ無理ダラウト思ヒマス、況ソヤ、、、、、
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ強テ改メル程ノ必要ヲ感ジマセヌガ、若シモ改メルノデアルナラバ本文ノ「左ノ場合ニ於テハ」ハ「左ニ揭ゲタル行爲ハ」ト改ムルノガ宜シカラウト私ハ思フノデアリマス、ソレハ第二項ニ前項ノ行爲ト云フコトハ本文ニ行爲ガナクツテサウシテ餘リ直接ニ言顯ハシ過ギルカラ前項ニ揭ゲタル行爲トシタナラバ第二番位ノトコロデ梅サソバ宜シカラウト云フコトデアリマスカラ其理由トスル所ハ一カラ八號マデ悉ク行爲ヲ擧ゲテアルカラ之レヲ置クナラバ本文ノ方モ矢張左ニ揭ゲテアル行爲デモ差支ナイト思ヒマス、併シ格別エライ大キナ問題デモアリマセヌカラ敢テ私ハ修正ノ意見ヲ提出スル譯デハアリマセヌケレドモ併シ若シ改メルナラパ二項ノ方ヲ前項ニ揭ゲタルトスルヨリハ同ジ理由ニ依テ本文ノ方ヲ左ニ揭ゲタル行爲トスル方ガ收マリガ宜イヤウニ私ハ思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
ソレハ尙ホ贊成デス
○二番(岡野敬次郞君)
或ハ主査會ニ提出シマシタ吾々ノ案ニ立返ヘル憂ガアリマスガ文例カラ申シマスルト斯ウ云フコトニナルダラウト思ヒマス、第二百六十一條ノ四ニ「淸算人ハ」ノ「ハ」カラ改マツテ來テ「淸算人ガ左ニ揭ゲタル行爲ヲナシタルトキハ」ト斯ウ云フコトニナラウカト思ヒマス、サウ云フコトニナレバ宜カラウカト思ヒマス
○議長(岡部長職君)
是レハ修正案トシテ出サレタノデスカ
○二番(岡野敬次郞君)
修正案ハ出シマセヌガ花井君カラ出タラ贊成致シマス
○二十二番(花井卓藏君)
唯今ノ岡野委員ノ說ニ贊成デス
○議長(岡部長職君)
發案者ガナクシテ贊成者バカリ、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
ソレデハ私カラ出シテ置キマス
○議長(岡部長職君)
ソレデハ二十二番ノ發議トシテ贊成ガアリマス、二十二番ノ此禁錮云々ハドウデス
○二十二番(花井卓藏君)
夫レハ無論出ルノデス、チヨツト氣ガ付イタ分ダケ先キヘ出シテ置キマス
○七番(平沼騏一郞君)
私ハチヨツト御參考ニ申シテ置キマスガ私ハ此原案ガ一番宜カラウカト思ツテ居リマス、第一項ノ方ハ梅サンノ仰ッタ通リ到底行爲ト云フ字ハ立テナイヤウナ文章ノ續キニナツテ居ルシ、前項ノ行爲ト書キマシテモ「トキ」ヲ受ケルノデハナイ、中ニ書イテアル行爲ヲ受ケルコトハ意味ニ於テ明瞭デアリマスルシ又斯ウ云フ文例ハ刑法ニモアリマス、例ヘバ前ニ條ノ犯罪ト云フ風ニ書イテアリマス、前項ノ行爲ト書イタノモ前ニ條ノ犯罪ト書イタノモ同ジ事デアリマス、是レハ惡イト仰ツシヤレパ惡イカ知レマセヌケレドモ、斯ウ云フ用例ガアリマスカラ強テ原案ヲ御改メニナル必要ハナカラウト思ヒマス
(「原案贊成」ト呼ブ者アリ)
○議長(岡部長職君)
サウスルトドウデスカ、二十二番ノ修正說ニ付テ何カ說明ガアリマスカ豫テ出テ居ルモノ、、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
豫テ出テ居ルモノヨリハ今ノヲ御採決ヲ願ヒマス
○議長(岡部長職君)
是レダケ先キヘヤリマスカ
○二十二番(花井卓藏君)
夫レヲ先キヘヤツテ下サイ
○議長(岡部長職君)
ソレデハ本文ダケ採決シマス、是ニハ「又ハ淸算人」ト云フ所ヲ「淸算人カ左ニ揭ケタル行爲ヲ爲シタルトキハ」ト云フコトニナル、是ニハ贊成ガゴザイマスカラ採決致シマス、此說ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○議長(岡部長職君)
少數、ソレデハ本文ハ原案ノ通リデ御異議ガアリマセヌカ
(「異議ナシ々々々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(岡部長職君)
ソレナラ原案ノ通リ決定致シマシタ、ソレカラ此罰則ニ付イテ二十二番ハドウデス
○二十二番(花井卓藏君)
二百六十一條ノ四ノ第一項中「二年以下ノ懲役」ヲコ年以下ノ懲役」ニ改ムルト云フノハ重キニ失スルト云フ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、懲役ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フルト云フノハ選擇ノ範圍ヲ擴クスルト云フ趣旨ニ過ギヌノデアリマス、第二項ノコ年以下ノ禁錮」ノ如キ自由刑マデ科スル必要ハナカラウト云フ理由ニ過ギナイノデアリマス、此場合ニ於テ一言禁錮ノ五字ヲ加フルト云フコトニ付イテ意見ヲ更ニ述ベテ置キタイノデアリマス、禁錮ノ說ハ甚ダ迎ヘラレナイノデアリマスガ、私ハ現行刑法ノ上ニ於テモ選擇刑ニ懲役カラ飛ンデ罰金ニ至ルト云フ理由ガ分ラナイ、懲役禁錮ヲ選擇セシムルト云フノハ立忌仙沐ヲ爲ス、趣示錮罰金ヲ囎選擇セシムルト云フノハ尙ホ意味ヲ爲ス、又徵心役林示錮罰金ノ撰一攫爿ト云フコトデアツタナラバ甫入ニ多クノ意味ヲ爲ス譯デアル、中間ノ禁錮ヲ飛バシテ一番上ト一番下トノ寛嚴ノ甚シキモノヲ選擇セシムル事柄ハ本來刑法ノ規定ガ私ハ惡イト思ヒマス、本案ハ商事罰ノ方デモゴザイマスルシ、刑法ノ惡例ヲ追フ必要モゴザイマセヌシ、且一種商事罰ハ刑事罰ヨリモ寛嚴ノ範圍ヲ廣クシテ居ルコトヲ示ス必要モアルデアラウト云フ斯ウ云フ趣旨ニ於キマシテ禁錮ノ選擇刑ヲ一ツ殖ヤシタイ趣旨ニ外ナラヌノデアリマス、或ハ前各條ニ於キマシテ禁錮ノ說ガ破レテ居リマスカラシテ例ニ依テ例ノ通リト云フ御趣旨ニ相成ルカ存ジマセヌケレドモ、既ニ破レタル所ノ場合ト本條ノ場合トハ性質ノ上ニ異ル所ガゴザイマシテ輕ク見ル趣旨ニ於キマシテハ前各條ノ比較デゴザイマセヌカラシテ此邊ノ所カラ禁錮ヲ生ミ出スト云フコトニ致シタイト云フ趣旨デ禁錮ノ說ヲ維持スル積リデアリマス、
○議長(岡部長職君)
今ノハ第一項ダケデスカ
○二十二番(花井卓藏君)
一項ト二項ト兩方言ヒマシタ
○十五番(石渡敏一君)
二項ノ方ハ皆削ッテシマウノデスカ
○二十二番(花井卓藏君)
其說ガ出ルダラウト思ヒマスソレガ出レバ夫レニ贊成致シマス
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ花井君ノ修正說中第二百六十一條ノ四ノ第一項ニ於テ懲役ノ下ニ禁錮ヲ加ヘルト云フコトハ贊成シタイノデアリマス、第二項ノ一年以下ノ魅笊錮ガ削ラレルト云フコトハ、蓋シ二百六十一條ノ三ノ二項ニ於テ矢張二年以下ノ禁鯛ガ削ラレタノト同一ノ趣旨デアラウト思ヒマス、是レハ申シマセヌガ第一項ニ禁錮ヲ加ヘルト云フコトニハ贊成ヲスルト同時ニ私ハ二百六十一條ノ三ノ一項モ同樣ニナリタイト思フノデアリマス、二百六十一條、二百六十一條ノ二ト云フモノハ此行爲ハ二百六十一條ノ三、四ニ揭ゲテアルノトハ大分其輕重ノ差ガアルノデアリマシテ又私共ハ能ク分リマセヌケレドモ自分等ノ考デハ是レハ懲役デモ私ハ適當ニナイト思ハヌノデアリマス、デアリマスカラ二百六十一條ノ四ノ一項ノミナラズ二百六十一條ノ三ノ一項モ同樣ノ趣旨ニ願ヘレパ宜シイノデアリマス、是レハ前回ニ矢張花井君カラ二百六十一條ノ三ノ一項ニ對スル禁錮ノ說ガ出テ居ツタノヲ若シ花井君ガ提出セラレタナラバ私ハ贊成ヲ表シタイト思ツテ居ツタノデアリマス、所ガ花井君ガ之レヲ撤回スル、禁錮ハ此議場ニ於テ甚ダ評剣ガ好クナイノデアル、デ此二百六十一條、二百六十一條ノ二ニハモウ容レラレナカッタノデアルカラ二百六十一條ノ三ニ於テモ之レヲ撤回スルト云フコトヲ御申出ニナッタノデアル、卽チ贊成ノ根據ガナクナツタ譯デアリマス、從ツテ私共モ沈默致シテ居ッタノデアリマス、若シ二百六十一條ノ四ニ禁錮ヲ加ヘラレルナラバ二百六十一條ノ三モ矢張同樣ニ加ヘラレテ然ルベキモノデハナイカ(「贊成々々」ト呼ブ者アリ)併シ唯今ハ二百六十一條ノ四ダケガ問題ニナツテ居リマスカラ二百六十一條ノ三ノコトハ全ク別ノ事トシテ兔モ角本條ノ第一項ニ就テハ私ハ贊成致シタイノデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ此懲役禁錮又ハ罰金ト云フ風ニ選擇ノ多クナッテ居ル方ガ或ハ宜イカ知ラヌト云フコトハ考ヘマスケレドモ無論本條ダケノ問題デハナイ岡野君ハ本條ト前條ダケニ入レバ宜イト言ハレマシタケレドモソレダト私共ハドウシテモ贊成ガ出來ナイ、二百六十一條ノ場合デモ二百六十一條ノ二ノ場合デモ若シ懲役ダケデアルナラバ理由ガアルカ知レヌケレドモ懲役又ハ罰金トナツテ居リマスカラ若シ本條ノ場合ニ於テハ懲役デハ重モスギル罰金デハ輕スギル故ニ禁錮ニ處スルガ至當デアルト云フ場合ガアルト花井君竝ニ岡野君ガ思バレルナラバ夫レハ矢張二百六十一條及ビ二百六十一條ノ二ニ於テモ同樣デナケレバナラヌ、所ガ二百六十一條ノ規定ト略ボ同ジ規定ハ此前三回ニ亙ツテ議事ノアリマシタ通リ刑法ニアル其刑法ニ之レニ稍ヤ相當スベキ箇條ガアルガ懲役又ハ罰金ト云フコトニナツテ居ル、又類似ノ罪ガ皆其刑ヲ以テ罰シテアル、懲役又ハ罰金ト云フコトデアルト云フ理由デ原案モ斯ノ如クナツテ居リマスルシ、詰リ禁錮ト云フモノガナケレバ禁錮位ニシテ置カウカト云フ場合ニハ多クハ罰金トナルデセウガ、實際ノ運用ノ上ニ於テハ大シテ困リハシマイト云フノデ私ハ原案ニ贊成シテ居ルノデアリマス、殊ニ本條及ビ前條ダケニ禁錮ヲ加ヘルト云フコトデアレバ尙更同意ガ出來兼ネマス
○二十二番(花井卓藏君)
二百六十一條ノ三ニ就テ禁錮ヲ撤回スルノ發言ヲ前回ニ出シテ置キマシタガ速記ニ就イテ御覽ヲ願ヘバ直チニ分ルノデアリマスガ、形勢ノ非ナルヲ知ツテ今暫ラク止メテ置クト云フ、斯ウ云フノデアツタノデアリマス、若シ二百六十一條ノ四ガ旨ク參リマシタナラバ更ニ再議ヲ請フ積リデアリマス、ソレカラ唯今岡野委員ノ御說明ヲ承リマシテ二百六十條、二百六十一條及ビ二百六十一條ノ二一禁錮ヲ加フルト云フコトハ二百六十一條ノ三、四ニ比シテ當ヲ得テ居ナイト云フコトニ暫ラク服スル積リデアリマス、ソレデアリマスカラシテ二百六十一條ノ四ニ就テ禁錮說ヲ御探用ニナツテ、次イデ二百六十一條ノ三ニモ再議ヲセラレマシテ、禁錮ヲ御加ヘ下サリマスルナラバ私ハ滿足致シマス、唯今梅委員ヨリ刑法ヲ御引用ニナツテ懲役禁錮ノ選擇ニナツテ居ルコトヲ申サレタノデアリマスガ、刑法ノ規定モ必シモ懲役禁錮ト云フ二ツニ此選擇ヲ限ツテハ居ナイノデアリマシテ或ハ徵心役林不錮又ハ匝割金ト云フノモアリマズルシ謎不錮又ハ悶割金ト云フノモアリマス、私ノ持論トシテハ選擇刑ヲ認メタル場合ニ範圍ヲ狹クスルコトハ理論ニ副ハヌト云フコトヲ前ニ申上ゲタ次第デ、刑法ノ條規ニノミ拘泥シタ譯デハアリマセヌ、假リニ刑法ノ條規ニ依リマシテモ選擇ノ範圍ヲ廣フシテ居ル條文ハ澤山アリマセヌ、ケレドモニ、三アルノデアリマス
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ刑法ノコトハ存ジマセヌガ二百六十一條又二百六十一條ノ二ニモ禁錮ヲ加ヘナケレバ前後甚ダ不釣合デアルト云フ梅君ノ御話デアリマシタ、ソレハ根本的ノ御議論トシテハ或ハ正シイノカ知ラヌト私ハ思フノデアリマス、ケレドモ夫レニナリマスルト刑法ノ二百四十七條カラ改メテ來ナイト云フト工合ガ悪イヤウニナリマス、或ハ刑法二百四十七條ヲ改ムルノ理由ガアルカ分リマセヌ、併ナガラ兎モ角二百四十七條ハ其儘ニナツテ居リマスカラ而カモ每度御論ノ出ル通リニ刑法ノ二百四十七條ヲ適用スベキ場合中、此本案ノ二百六十一條ノ如キハ重クスルトモ輕クスル理由ハナイト云フコトハ每度此議場ニ於テ御議論ノアツタ點デアリヤスガラ内ソレデ此二百四十七條ニ當ルヤウナ場合ノ規定ヨリモ尙ホ輕クスルト云フコトガアルナラバ兎ニ角禁錮ヲ科スルコトヲ開クノハ是レハ權衡ヲ得ナイト思ヒマス、ソレデアリマスカラ刑法ノ二百四十七條ノ當否ハ別問題トシテモ之レヲ議スル場合デアリマセヌカラ二百四十七條ノ權衡ヲ取ツテ私ハ二百六十一條、二百六十一條ノ二ニ更ニ權衡ヲ取ツテ是レハ懲役罰金ニ致方ガナイカラ置イテ置キタイト思ヒ一ス、二百六十一條ノ趣意ハ違ウカラソレデ禁錮ヲ加ヘルガ宜シカラウト云フ意味ニ於テ贊成シテ置キマス
○十五番(石渡敏一君)
私モ禁錮ヲ入レルコトニ贊成致シマス、前ノハ實ハドウナツタカ知リマセヌカラ前ノ所デハ別段申上ゲマセヌガ、二百六十一條ノ四アタリカラハ禁錮ヲ加ヘテ宜カラウト思ヒマス、唯今刑法ヲ開ケテ見マシタトコロデ刑法ノ例ニ依テ見レバ禮拜所及ビ墳墓ニ關スル罪ニ禁錮ヲ認メテ居リマス、官吏公吏ノ漬職ノ罪ニ禁錮懲役ト云フ、選擇刑トシテ認メテアル、其他國事ニ關スル罪ニハ特別トシテ認メテアルダラウト思ヒマス、此方ハ別ニシテ普通ノ罪トシテ禮拜所墳墓ニ關スル罪、漬職ノ罪ニ認メテアル、扨會社員ノ犯罪ニ就テ禁錮刑ヲドコラアタリニ加ヘタラ適當カト云フタナラバ是等カラ以下ニ或ハ其必要ガアリハシナイカ、刑法ノ例カラ言ツテモ決シテ不當デハナカラウカト思ヒマス、輕クシテ殊更ニ惡意ノナイト云フ場合ニハ惡ムベキ意ガナ不ト云フ方ノ場合ニハドウモ禁錮ヲ加ヘルコトガ刑法ノ例カラシテ至當デハナイカ知ラヌト思ヒマス、其點デ私モ贊成致シマス
○三十六番(横田國臣君)
今懲役禁錮罰金ノ論ガ出マシタ、是レハ私ハ恐ラク諸君ノ說トハ大變違フデゴザリマセウ、元來私ハ此禁錮懲役ト分ツニハ及ハヌト云フ說ガ餘程アツタ、何故カト云フニ懲役ト云フテモ今後ノ執行法ト云フモノハ其人々ニ從ツテヤルノデゴザイマスカラ却テ經濟上カラ言フテモ又本人ノ健康カラ言フテモ禁錮ト云フモノハ今日ハ要ラヌモノデアルト云フ論ハ今日デハ隨分強イ論デアリマス、唯之レヲ國事犯ニ用ヰマシタ、是レハ少シバ道理ノアルコトデアリマス、其道理ノアルコトハ懲役ニ處シテ役ニ服スル是モ其者ヲヒドイ目ニ遇ハス、サウシテ懲役サセル、此國事犯ト云フモノハ元來餘リ僭クムベキ者ト、僭ムベキコトカバ知リマセヌケレドモ、本人ノ思想ヲ變ゼサセ得ルモノデハナイ、自分ガ國事犯ヲヤツタノハ斯ウ云フ場合ダカラコソヤツタノデ其實己レノ方ガ宜イノデアル、自分ニ良イト云フ、心ノ中ニ良イト云フモノガ改俊ノ出來ルモノデハナイ、表面ハ改悛スルカ知レマセヌガ、ソレデゴザイマスルカラシテ先ヅ禁錮モ取ツテ置クガ宜カラウ、ソレナラバ他ノ罪ニ就テナゼ禁錮ヲ置イタカト云フ御說ガア叺マセウケレドモ是レハ故人ノ勢ヒ見タヤウナコトデ唯私ノ說デハ禁錮ト云フモノヲ別ニ置ク必要ハナイト斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス、唯幾分カアノ人ハ奪イ人デアッタカラナソトカ云フコトハアルカ知レマセヌケレドモ、ソレハ私ハ決シテ良クハナイ、又禁錮ト云フコトハ必シモ夫レヲ宜イトハ罪人モ思ツテ居ラナイ、ソレデ斯ソナ事ヲ長タラシク辯ズルコトハ諸君ニ對シテ憚リマスルガ私ハ禁錮ト云フモノヲ是レハ輕イモノダト云フテ置ク必要ハナイ、諸君ガ夫レヲ御辯ジ下サレバ格別、禁錮ト云フモノハ懲役ヨリ或ハドウ云フモンヲ禁錮ニ處スベキモノデアルカ、餘リ私ハ}說モアルマイト思フノデアリマス、ナゼカト云フト刑罰ハ其人ニ應ジタ通リニ此人ハ是ダケノ仕事ヲスルガ弱イ者ハ弱イモノ、強イ者ハ強イ者ト云フヤウニ加ヘルノデアリマスカラ夫レガ不適當ナ譯デハナイ、他ニハ今ノサウ云フマア紳士ノヤウナ人ダトカナントカ云フ者ガゴザイマスガソレハ今日デハ私ハ何ニモナラヌト思ヒマス、ソレナラバ今ノ罰金、此罰金ヲ納ムルコトガ出來ヌデサヘモ矢張此懲役ト其實質ハ同ジ事ト云フテハイカヌカ知ラヌガ似テ居ル所ノ役ニ服スルコトニサヘ今日ナツテ居リマスカラ私ハ餘リニ此禁錮ト云フモノヲ何處ニモ此處ニモ置クコトハ元來好マヌノデアリマス、又私ハサウ云フ道理モ無イト思ヒマス
○十五番(石渡敏一君)
餘計ナ話デゴザイマスガ成程横田君ノ言バレル如ク刑法ノ懲役ノミニシテ刑法ガ其理論ヲ貫イテ居ルナラバ決シテ此處デ禁錮ヲ入レルト云フコトニ贊成ハシナイ、併ナガラ先程モ申ス通リ國事犯ト號スル罪ノ方デハ格別ナ理由ガアツテ存シテ居ルガ其以外ニモ此ノ如ク刑法デ置イテアル理由ハ何處ニアルカ、唯多數一デ以テヤツタカラト云フダケデハナカラウト思ヒマス、相當ナル理由ガソコニアツテヤツタノデアルナラバ、其比例ヲ以テ往ツタナラバ此場合ハコ丶ラノ場合カラ刑ノ中ニ禁錮ヲ加ヘルノガ至當デアラウト云フ議論デアリマス、此根本的ニ懲役ダケニシテ禁錮ノ刑ヲナクナシテシマウト云フ議論ナラバ夫レハ別ダケレドモ今日ハソレハイケマイト思ヒマス、サウスレバ此處ラカラ矢張置クノガ至當カト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
横田サンノ御議論ハ私モ度々刑法ノ會議デ承ツタノデ今日初メテデハゴザイマセヌガ此場合ニ格別重キヲ爲ス議論デハアルマイト思ヒマス、唯此處ニ一ツノ例ヲ引イテ置キタイト思ヒマスノハ刑法ノ九十五條デス、刑法ノ九十五條ノ規定ハ公務員ノ職務執行妨害ノ罪デス、是レガ懲役ト禁錮ノ選擇ニナツテ居ル二百六十一條ノ四ノ一ニタッタ一ツ、他ニハ適切デハアリマセヌガ似タ例ガアリマス、第三號ノ檢査役ノ調査ヲ妨ゲタ罪ノ如キハ檢査役ガ公務員デアルヤ否ヤハ別トシテ矢張職務執行妨害ニ類シテ居ルト思ヒマス、果シテ然リトスレパ刑法ノ見ル所デハ此種ノモノニハ禁錮ヲ選擇刑ニ認メテ居ルト云フ所ノ證據ニナラウト思ヒマス
○二十三番(磯部四郞君)
御採決ヲ願ヒマス、大抵議論ガ分リマシタ
○議長(岡部長職君)
採決致シマス、サウシマスルト大分議論ガ混ジテ居リマスカラ、、、、、
○十二番(志村源太郞君)
私ハ一年ニ贊成致シマス
○二十三番(磯部四郞君)
私モ贊成
○議長(岡部長職君)
サウスルト第二項ハ別ニ採ルコトニ致シマス、一項ノ罰則デ採ルコトニシテ此禁錮ヲ加ヘルヤ否ヤト云フコトヲ一ツ決ヲ採リ、ソレカラ此刑期ニ就テノ花井君ノ修正說ニ就テ採決スル、斯ウ云フコトニシタラ宜カラウト思ヒマス、此第一項ニ禁錮ヲ加ヘルト云フ說ニ御同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者多數
○議長(岡部長職君)
多數デゴザイマス、禁錮ヲ加ヘルコトニナリマシタ、ソレカラ此刑期ニ就テ花井君ノ卽チ「二年以下ノ懲役」ヲ「一年以下」トナス、之レニモ贊成ガアリマスカラ採決致シマス、之レニ同意ノ諸窟ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○議長(岡部長職君)
少數デゴザイマス、一項ハ極マリマシタ
○十番(梅謙次郞君)
此場合ニ私ハ動議ヲ提出致シタイデスガ唯今ノ箇條ガ禁錮ヲ入レルコトニ極マリマシタナラバ勢ヒ權衡上、前ノ箇條ニモ一ケ條ガ數箇條ニ禁錮ヲ入レナケレバナラヌト云フ議論ガ出テ居リマス、願クハ此際再議ヲ許サレマシテ前三箇條ニ禁錮ヲ加フルヤ否ヤト云フ問題ヲ決シテ戴イタラ便利カト思ヒマス
○議長(岡部長職君)
宜シウゴザイマス、其前ニ御相談致シマスルガ、第二項ニ就テ禁錮ヲ削ルト云フ、之レノ採決ヲ致シマス
(「異議ナシ々々々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(岡部長職君)
別ニ御異議ハナイト認メマス、前條ノ釣合ニナリマスカラ是レハ御異議ガナイト認メマス、サウシマスト唯今十番カラ發議ニナリマシタ通リ本條ニ於テ禁錮ヲ加フルト云フコトニナリマスルト、前條ノ方ニモ權衡上影響ヲ及ボスモノト思ヒマス、ソレデアルカラ之レニ就テハ前條卽チ二百六十一條カラシテ此禁錮云々ノコトニ就テ再議ヲ致スコトニ致シマス
(「異議ナシ々々々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(岡部長職君)
ソレナラ是レハ再議ニ附シマス
○二番(岡野敬次郞君)
御宣吿ニナレバ據ロアリマセヌガ私ハ二百六十一條ノ三ハ權衡上禁錮ヲ加ヘルト云フノガ宜シイト思ヒマス、他ノ諸君中ニ二百六十一條ノ四カラ以下ガ宜シイ、少ナクモ四ガ宜シイト云フダケデ前ノ方ニ就テハドウ云フ御意見ヲ有ツテ居ルコトカ分リマセヌガ若シ二百六十一條ノ四ダケデ宜シイト云フナラバ再議ニ附スル必要ハナイト思ヒマス、デアリマスカラ再議ニ附スルヤ否ヤヲ決セラルルノハ、、、、、
○議長(岡部長職君)
今再議ニ附スベシト云フコトデ御相談シタラ皆異議ガナイト云フコトデアリマスカラ、再議ニ附シタノデアリマス
○十番(梅謙次郞君)
再議ガ許サレマシタナラバ此場合ニ於テ私ハ意見ヲ提出シタイ、岡野君ハ先刻此二百六十一條ノ三ハ權衡上矢張禁錮ヲ加ヘタ方ガ宜シイト云フコトデアリマシタ、ソレカラ他ノ諸君ノ中ニ先ヅ本條アタリカラト云フコトデアリマシタケレドモ、例ヘバ其一人タル石渡君ハタシカ前ニ二百六十一條ニ就テモ禁錮說ヲ贊シテ居ラレタカノヤウニ記憶致シマス、左樣致シマスレバ矢張再議ニハ御同意ノ御方デアラウト考ヘマスガ、ソレハ採決ノ結果ドウナルカ分リマセヌケレドモ既ニ岡野君ガ二百六十一條ノ三ニ就テ禁錮ヲ加ヘヤウト云フ意見ガアツテ夫レニ私ハ贊成デアリマス、私ハ尙ホ進ンデ二百六十一條及ビ二百六十一條ノ二ニモ之レヲ加ヘタイノデ其理由ヲ極メテ簡單ニ申上ゲマスルト、實ハ私ハ選擇ヲ許ス以上ハ廣ク許スガ宜イト云フ意見ニ於テハ花井君ト同論デアリマス、唯刑法デ丁度二百六十一條ニ相當スル箇條ハ勿論其他之レニ類スル犯罪ニ就テハ皆懲役又ハ罰金トナツテ居リマス、今チヨツト見マスト云フト懲役禁錮又ハ罰金ト云フノハ稀レニアル極メテ稀レニアル、丁度コ丶イラノ犯罪ニ類スルモノハ大抵懲役又ハ罰金トナツテ居リマスカラドウモ夫レヲ商法ダケデ改メルト云フコトハ如何デアラウカト思ツテ私ハ原案ニ贊成シテ居ツタノデアリマスケレドモ、一度此處デ其例ヲ破ラレマシタ以上ハ寧戶私ハ二百六十一條以下ニ於テ皆禁錮ヲ加ヘルガ宜イト思フ、成程刑法ノ二百四十七條トハ變ッテ來マス、ソレハ其本條バカリデハナイ、凡ソ斯ウ云フ財產ニ關スル事柄デサウシテ其罪ヲ犯シタ場合ハ大抵ノ場合ニ懲役又ハ罰金トナツテ居リマスカラ、ソレデスカラシテ假リニ二百六十一條ヲ此儘ニシテ置イタ所デ刑法トハ餘リ權衡ヲ得ナイ權衡ヲ得ナクテモ宜イ、實質ガ良クナリサヘスレパ宜イト云フコトデアレバ夫レモ一論デアツテ、必シモ間違ッテ居ラヌ、刑法ノ規定ニ不備ナ點ガアルナラバ其不備ナル點ヲ他ノ特別法又ハ法典ニ於テ是非共襲ハナケレバナラヌト云フ道理ハナイノデアリマス、ソレデ一層ノコト此點ニ於テハ刑法ト違フテモ宜イト云フ主義ヲ諸君ノ多數ハ採ラレタモノト思ヒマスノデ一度ビ其主義ヲ採ラレタ以上ハ二百六十一條モ二百六十一條ノ二モ同ジク禁錮ヲ加ヘルガ宜シイ、先ヅ二百六十一條ニ就テ言ツテ見マスルト、此懲役ニ處セズソバ罰金ト斯ウ云フコトニナル、所デ先ヅ此惡意惡意ト云フコトハ刑法上ノ所謂故意ト云フモノガ勿論ナケレバ罪ヲ構成致シマセヌケレドモ、其中デ情況ノ輕イノガアル殆ド過失ニ近イ故意ガアル、サウ云フ分ハ原案デハ罰金ニ處スベキコトニナツテ居リマスルガ、併シ夫レト極ク重イモノトノ間ニ中間ノ程度ノモノハ何レニ入レラレルカト云フト、此案デハ輕イ懲役ニスルカ然ラズソバ重イ罰金ニシナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニナル、他ノ二百六十一條ノ三以下ニ於テ禁錮ト云フコトガ加ハルト致シマスルト其場合ニ於テハ中間ノモノハ禁錮ヲ以テ罰スルト云フコトニナツテ居ル、サウシテ二百六十一條ノ場合ニハ禁錮ヲ以テ罰スルコトガ出來ヌカラ懲役ハ少シ可哀想ダト思ツテモ懲役ニ處セナケレパナラヌ場合モアラウシ、罰金デハ物足ラヌト思ツテモ罰金ニ處セナケレバナラヌト云フコトガ出テ來ヤウト思ヒマス、二百六十一條ノ二モ同ジ事デアル、之レモ矢張二百六十一條ノ三及ビ二百六十一條ノ四ナドト犯罪ノ種類ハ澤山違ヒバ致サヌ、唯情況ガ少シ重イト云フダケデアリマス、サウスルト矢張此處ニ禁錮ガ加ハリマセヌト却テ重イ罪ガドウモ懲役ニ處スルノハ餘リ酷ダカラト言ツテ罰金ニナツテシモウ、輕イ罪ニハ幸ヒ禁錮ト云フモノガアルカラ禁錮ニ處セヤウト云フ斯ウ云フコトニナツテエライ不權衡ニナリマスルカラ一度ビ本條ニ於テ禁錮ヲ加ヘルコトニナッタ以上ハ願クハ前三條モ之レヲ加ヘルコトニ改メラレムコトヲ希望致シマス
○二十二番(花井卓藏君)
唯今梅サンノ御說ヲ前回ニ御述ベ下サイマシタナラバ一名ノ數ヲ得テ確ニ二百六十一條ハ私ノ修正案ガ通過致シテ居ツタノデアリマスガ時既ニ遲シデ仕方ガゴザイマセヌ、私ハ其說ガ出レバ贊成セザルヲ得ヌノデアリマスガ、先刻ノ岡野委員ノ御說ヲ承ツテ見マスルト、二百六十一條ニ付イテハ頗ル考慮ヲ要スベキ點ガアラウ、全ク二百六十一條ハ刑法二百四十七條ノ一部ノ改正ト名付ケテモ宜シイ位ノ性質ノモノデアリマスカラシテ同ジヤウニ之レヲ揃ヘムト欲スルナラバ禁錮ヲ加ヘザル方ガ刑法トノ折合ノ上ニ於テ相當デアラウト云フコトニハ議論トシテハ私ハ一應服セザルヲ得ヌト思フノデアリマス、此處ニ言明ヲ致シテ置キマスガ私ノ修正案ノ通リノ說ヲ梅委員ヨリ出サレタノデアリマスカラ、夫レハ勿論贊成致シマス、而シテ刑法ト照合セテノ調和ヲ保タムトスル岡野委員ノ說ニモ無論贊成ヲ致シマス、二度手ヲ擧ゲマスカラ記録ニ夫レダケノ事ヲ書イテ置イテ戴キタイト思ヒリ、ス、ソレカラ岡野委員ヨリ提出ニナリマシタル二百六十一條ノ三ニ禁錮ヲ加フル說、卽チ私ノ修正案ノ撤回前ノ讀デアリマス、之レ一一ハ全然贊成ヲ致シマス
○七番(平沼騏一郞君)
私ハ別ニ長イ議論ヲスルノデハアリマセヌガ、唯今梅委員カラシテ既ニ二百六十一條ノ四ニ禁錮ガ入ツタラ皆入レテシマウガ宜イト云フ御論デアリマシタガ二百六十一條ノ四又ハ三、是抔ハ刑法ト引合シテ見マシテ必シモ此刑法ニ之レト同樣ナ罪ガ懲役バカリデ禁錮ノ選擇刑ガナイト云フコトハナイヤウニ私ハ考ヘルノデアリマス、之レニ禁錮ノ入リマシタコトハ唯今ハ議決ニナツテ居リマスルカラ、何ニモ申上ゲル必要モナイノデアリマス、唯此二百六十一條ダケハ餘程御考ヲ願ヒタイノデ此刑法ノ二百四十七條アタリトノ權衡ノ上カラ申シテモ之レニ禁錮ガ入リマスルト矢張不釣合ノモノガ出來ヤウト思ヒマス、二百六十一條ノ二ニ就キマシテモ矢張刑法ノ百五十七條アタリト照合シテ見マシテ之レニ禁錮ガ加ハリマスルト云フト餘程不權衡ナ事ニ相成ラウカト思ヒマス、是レハ商法ノ刑罰デアリマスルケレドモ實ハ矢張之レヲ刑法ノ中ニ編込ミマシテモ差支ノナイ條文デアラウト思ヒマス、本來ノ議訟硼トシテ花井君ノ言ハレマスヤウニ瑟ホ錮ヲ一體選擇刑ノ中ニ加ヘルノガ宜イト云フ斯ウ云フ大キナ御論ニナレパ是レハ別デアリマス、併ナガラ商法ダケニ就キマシテ斯ノ如キ特例ヲ設ケラルルト云フコトハ大イニ考ヘナケレバナラヌコトデアラウト思ヒマス、ドウモ此二百六十一條ノ四アタリノ規定ニ禁錮ガ入ツタカラトテ直グニ皆入レナケレバナラヌト云フ結論ハ到底生ジマイカト考ヘルノデアリマスカラ私ハ矢張此刑法ノ條文トノ權衡上前會議デ議決通リニナラムコトヲ希望スルノデアリマス
○一番(富井政章君)
私モ二百六十一條ノ三カラハ禁錮ガ入ツテモ宜カラウト思フノデアリマスケレドモ二百六十一條ニ加ヘルト云フコトニハ絕對的反對デゴザイマス、ソレハ卽チ刑法第二百四十七條トノ權衡カラシテ來ルコトデアツテ此條ニ於テハ刑法第二百四十七條ヨリモ重クスルト云フ理由ハアルケレドモ輕クスルト云フ理由ハナイト思ヒマス、ソレカラ次ギノニ百六十一條ノ二モ是レハ二百六十一條ト略ボ同丁一見ルベキ場合デアツテ不正ノ目的ヲ以テ重大ナル犯罪行爲ヲ爲シタ場合デアリマスルカラ之レモ二百六十一條ト區別スベキ理由ハナイト思ヒマス、二百六十一條ノ三ニ至ツテハ各號ヲ見マスルト禁錮ヲ入レナイ方ガ至當デアル場合モアル、唯一號ノ如キハ禁錮ヲ入レタ方ガ權衡上宜シイト思フ位ノモノモアルノデアリマスカラ之レニハ贊成シテモ宜シイノデアリマス、始メノニ箇條ニ禁錮ヲ入レルト云フコトニハドコマデモ反對デアリマス
○十番(梅謙次郞君)
唯今平沼君及ビ富井君カラ此二百六十一條、二百六十一條ノ二ナドニ禁錮ヲ加フルコトニ反對デアル、平沼君ハ二百六十一條ノ三ニモ之レヲ加ヘルコトハ反對デアルト言ハレマシタガ二百六十一條ノ三ノ行爲ト二百六十一條ノ四ノ行爲ハ輕重ハアリマスルケレドモ似タモノガ大分多イノデアリマス、ソレデ唯今富井君及ビ平沼君カラ頻リト刑法トノ權衡ニ言ハレマスルケレドモ二百六十一條ノ四ノ場合ノ中ニハイロ々々ナルモノガ入ツテ居リマスカラ今チヨツト咄嗟ニ適例ヲ刑法中カラ見出シマセヌガ探ガシテ見レバ分リマスルケレドモソレデハ時ガ經チマスルカラ申シマセヌガ二百六十一條ノ三ノ場合ハ先刻平沼君ノ引カレタ二百四十七條ニ似テ居ル、其二百四十七條ニハドウアルカト云フト懲役又ハ罰金トアル、ソレデ二百六十一條ノ三ノ場合ト刑法ノ規定トヲ調和シヤウ成ルベク同ジヤウニシヤウト云フノナラバ成ルベク原案ノ方ガ宜イノデス、併ナガラ之レニ持ツテ往ツテ懲役又ハ罰金トスルト二百六十一條ノ四ニ懲役又ハ禁錮又ハ罰金トスルコトハドウモ權衡ヲ得ナイ嫌ヒガアリマスカラソコデ岡野君富井君ノ御論モ出ルノダラウト思ヒマス、而シテ二百六十一條ノ二ノ場合ハ是レハ二百六十一條ノ三ノ場合ノ情ノ重イモノデアリマス、平沼君ハ刑法ノ二百四十七條ヲ二百六十一條ノ二ノ場合ニ類シタモノト言ハレマスケレドモ、私ニ言ハセルト二百六十一條ノ二及ビ二百六十一條ノ三ニ稍ヤ相當スルモノデアル、ダカラ二百六十一條ノ三ニ禁錮ヲ加ヘルナラバ亦二百六十一條ノ二ニ加ヘナケレバ權衡ヲ得ヌコトニナル、サウスルト殘ル所ハ二百六十一條一ケ條ニナルガ之レモ富井君ノ言バレル通リ二百六十一條ノ二ト似テ居ル所カラ之レニ禁錮ヲ加ヘナイト不權衡ニナルト云フコトニナル、元來刑法ノ立テ方ハ財產上ノ犯罪、利慾ノ爲メニスル犯罪ハ懲役ニ非ンバ罰金ト云フコトガ原則ニナツテ居ルヤウニ見エマス、偶々例外ガアルカ知ラヌガ、夫レハ横田君ノ言ハレタ通リ其時ノ出席者ノ頭ノ模樣デサウ云フコトニナツタ、ソレハ多數デ議スルトキハ何時デモサウデス、現ニ今日其例ヲ見テ居ル、デアリマスカラサウ云フコトガアルダラウ、ケレドモ、刑法ノ立テ方ハ槪シテ利慾ノ爲メニスル犯罪ハ懲役又ハ罰金ト云フコトガ本則ニナツテ居ルコトハ私ハ一片ノ疑ヒモナイト思ヒマス、サウスルト刑法ノ主義カラ言ヘバコニラノモノハ皆禁錮ノナイ方ガ權衡ヲ得ルケレドモ實質ハドウカト云フト私ハ入ツタガ宜カラウ、禁錮ガ入ルト刑法ヨリ輕クナルカライケナイ、茲ニ擧ゲテアル犯罪ハ通常人ガ犯罪ヲ行フヨリ嚴重ニ罰シナケレバナラヌノニ輕クナルカライカヌト云フ論ガ出テ居リマスガ、私ハサウハ思エヌ、禁錮ガ入ツテ輕クナルカ重クナルカバ疑問デス、禁錮ガ入レバ必ズ原案ノ罰金ノモノガ一部分入ル、是レハ重クナル、或ハ懲役ノ一部分ガ禁錮ニ來タルカ知ラヌガ夫レヲ差引勘定シタナラバ重クナルカ輕クナルカ知ラヌ、禁錮ガ入ルカラ重クナルト云フコトハ據所ガナイト思ヒマス、況ヤ刑法トハ全ク同ジデハナイ、二百六十一條ニハ目的ヲ取リマシタカラ場合ガ廣クナツテ居ル、隨ツテ情狀ニ因ルト刑法ノ二百四十七條ト較ベルト稍々輕イモノガ入リマス、其結果禁錮ガ加ハツテモ宜イト云フ說ガ出ルカ知ラヌト思ヒマス、私モ輕クナツタト云フコトハ言ヒハシナイ、目的ガナクテモ罰スルノダカラ其設ハ確ニ重クナッテ居ル、サウシテ禁錮ノ中ニハ原案ニ依レバ罰金トナルベキモノモ入ル、ソレガ重クナレバ懲役トナルモノガ入ルカ知ラヌ、ソレガ輕クナルカ差引計算スルト輕クナリハセヌ、故ニ苟モ禁錮ヲ入ル以上ハ二百六十一條以下皆入レルコトニ贊成デアリマス
○十五番(石渡敏一君)
唯今梅君カラ二百六十一條、二百六十一條ノ二、三此三ケ條ニ就テ此禁錮ノ刑ヲ入レルト云フコトノ動議ガアリマシタガ私ハ全部ニ對シテノ採決デナク、採決ヲセラルル場合ニハ二百六十一條、二百六十一條ノ二、二百六十一條ノ三ト云フ風ニ三ツニ區別シテ願ヒタイ
○議長(岡部長職君)
無論サウデス
○十五番(石渡敏一君)
其理由ハ私ハ梅君カラ反對ガアリマシタケレドモ私ノ腹ノ中ヲ露骨ニ言ヒマスナラバ二百六十一條ノ三ノ中ノ一、二位ノ所ハ、殊一ニノ方ハ懲役デ至當ト忠ヒマス、二百六十一條ノ三ニ禁錮ヲ入レルノガ他ノ趣意ニ就テモ宜カラウト思ヒマス、二百六十一條ノ二ニ就テハ實ハ私ハ懲役ダケデ宜イト云フ考ヲ有テ居リマス、併シ二百六十一條ニ就テハ前回ニモ述ベタ如ブ極メテ些細ナル處爲ガ入ツテ居ル、却テ二百六十一條ノ三トカ四トカ云フモノハ輕イ處爲ヲ此中ニ包含サレテ居ルカラ禁錮ノ刑ヲ入レルガ相當ダト思ヒマス、サウスルト二百六十一條ノ一ニハ入レタイ、第二ニハ入レタクナイ、三ニハ入レタイト云フ、斯ウ云フ私ノハ我儘ナル一ツノ意見ヲ有テ居リマスカラ別々ニ決ヲ採テ戴カナイト困リマス
○一番(富井政章君)
私ハ石渡君ト全ク同一意見デアリマス、唯今御述ニナツタコトハ至極御尤モト思ヒマス、二百六十一條ノ三ノ中ニハイロ々々ノモノガ混ツテ居ル、第一號ナドハ寧ロ禁錮ヲ入レヌ方ガ宜イ性質ノモノト思ヒマス、併シ第四號ヲ始メトシテ禁錮ヲ入レテ居ルモノガ又澤山混ツテ居ル、ソレデアリマスカラ入レル方ニハ贊成ト云フタノデナク、贊成シテモ宜イト云フタノデ寧ロ入レタ方ガ宜シイ、第二百六十一條ノ二ハ梅君ハ第二百六十一條ノ三ノ條ガ重イノダト云フ風ニ見ラレマシタガソレハ大イニで違ウト思ヒマス、是レハ目的ニ重キヲ置イテ居ル、此條ハ唯情ガ重イト云フノデハナイ、其點ハ二百六十一條ノ三、殊ニ第四號ナドトハ全ク性質ガ違ツテ居ルト思ヒマス、是レハドウシテモ二百六十一條ノ方ヘ往クモノト思ヒマス、私モ二百六十一條ノ三ダケニハ贊成シテモ宜シイト思ヒマス
○三十六番(横田國臣君)
私ハ唯今禁錮ヲ入レルコトニ贊成シタ御方ガイロ々々ナ撰食ヲ爲サルノガ怪シクテタマラヌ、ナゼカト云フノニ唯何年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ト罰金ガ附テ居ル以上ハ間ヲ拔カヌデモ宜イデハナイカト云フ御說デアル、サウスレバモウ罰金ヲ御附ケニナラヌケレバ宜イノデアル、唯何年以下ノ懲役ナラバ、所ガ其間ガアラウト斯ウ云フ所デ入ツタ、之レニ就テハ梅委員ノ仰ツシヤル所ハ唯其筋ニ付テノ理論トシテ誠ニ結構デス、實ニ一言モナイノデアリマス、是カラ先キ撰擇刑ヲスルノモ禁錮ヲ拔クベカラズ、何時モ何デアラウガ、彼デアラウガ、夫レヲ原則ニスル以上ハ、懲役、禁錮、罰金アルダケノモノヲ入レルガ宜イ、ソレハ誠ニ唯元ニ何モナクシテ仰ツシヤレバ誠ニ私ハ其御說ガ正シイト見レバ、若シ禁錮ト云フモノモ是レハ是非ナケレバナラヌト見レバ結構ナル設ト私ハ思ヒマス、併ナガラ御承知ノ通リ今日禁錮ト云フ刑ハ餘リ良イ刑デハナイノデアリマスカラ或ハ決鬪トカ何トカ云フコトニハ私ハ嵌マル刑ダトハ思ヒマスガ此外國デノ取扱ヒ方ト云フノハ實ニ自由ナモノデアリマスカラ、ソレデサウ云フモノヲ通常ノ犯罪ニ入レルト云フコトハ私ハ決シテ好イ結果トハ思ハヌ、ソレデゴザイマスルカラ私ハ特ニ益爪錮ヲ入レルト云フコトカラシテハ皆入レルガ宜イト云フコトニ贊成シナケレバナラヌ筈デハゴザイマスケレドモ、併ナガラ自分ハ左樣考ヘマセヌカラ矢張ドレニモ入レルト云フコトハ贊成ハ無論致シマセヌ、唯梅委員ノ御說ハ誠ニ「ロジック的」ニ正シイト云フコトダケヲ申上ゲテ置キ々ス
○二十二番(花井卓藏君)
採決ヲ願ヒマス
○議長(岡部長職君)
採決致シマス、二百六十一條、二百六十一條ノ二ト二百六十一條ノ三ト別々ニ採決ヲ致シマス、卽チ禁錮ヲ入レルヤ否ヤト云フダケノ問題デアリマス、二百六十一條ニ禁錮ヲ加ヘルベキヤト云フ之レニ加フベシト云フ說ニ贊成ノ御方ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○議長(岡部長職君)
少數デゴザイマス
○十番(梅謙次郞君)
第二百六十一條ノ二ニ就テハ撤回ヲ致シマス
○議長(岡部長職君)
二百六十一條ノ二ニ禁錮ヲ加ヘルト云フ說ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
○二十三番(磯部四郞君)
原案者ガ撤回サレタ以上ハ問題ニナラヌ
○二十二番(花井卓藏君)
私ハ無論敗レテ居ル、再議デ梅君カラ出テ居ル
○議長(岡部長職君)
ソレナラ撤回ト見テ採決シマセヌデ宜シウゴザイマスカ
(「異議ナシ々々々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(岡部長職君)
ソレナラ是レハ採決致シマセヌ、二百六十一條ノ三、之レニ禁錮ヲ加ヘルト云フ說ニ贊成ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ、
擧手者多數
○議長(岡部長職君)
是レハ多數デゴザイマスカラ可決致シマシタ、次ギニ第二百六十一條ノ五
書記朗讀
○四番(齋藤十一郞君)
極ク簡單ニ申上ゲマスガ本條ハ實ハ次ギノ第二百六十一條ノ六ニ規定シテゴザイマスル此趣意ノ箇條ヲ設ケテ欲イト云フ希望ガ數ケ所カラ出テ居リマス、申上ゲルマデモナク株主ノ漬職ノ行爲デアリマス、是レハ誠ニ相當ノ希望デアツテ殊ニ其時弊ヲ救フニ通切ナル規定デアルト考ヘマシテ之レヲ設クルコトニ極メマシタノデアリマスルガ、之レヲ設ケマスルト同時ニ一部ハ之レヲ免レマスル趣意カラシテ假リニ他人ノ委任狀ヲ取リマシデ其實ハ自分デ株主ノ議決權ヲ賣收シテサウシテ自己ノ權利デナク他人ノ權利ヲ買ツテ行フト云フ場合モアルノデアリマス、ソレカラ又極クムキ出シノ行爲デアツテ全ク權利ノナイノヲ他人ノ株劵ヲ自己ノ物トシテ詐ツテ行使スル場合モアル、是等ノ場合ヲ罰スルコトニシナケレバ漕冖職ノ規定ヲ設ケマシテモ實際ノ功ヲ奏スルコトガ困難 デアラウ、又權一衡カラ申シテモ其方ヲ罰スル必要ガアルカラ二百六十一條ノ五ノ規定ヲ設ケマシタ次第デアリマス、チョット第二項ニ就テ申上ゲタイノハ是レハ實ハ主査會ノ諸君ノ御同意ヲ得マシテ整理トシテ直シタコトニシテ戴キタイノデアリマスガ、「發起人、株式合資會社ノ業務ヲ執行スル社員、取締役、監査役又ハ株式會社」斯ウ云フ順ニナツテ居リマスガ、二百六十一條ノ二ニハ取締役ノ方ガ前ニナツテ居リマス、發起入、取締役、株式合資會社ノ業務ヲ執行スル云々、此文體ニ合ハセマス方ガ體裁ガ宜シウゴザイマスカラ是レハ修正ト云フコトデナシニ整理ヲシタト云フコトヲ御認メニナツテ原案ガ左樣ニナツテ居ルト云フ形デ御承諾ヲ願ヒマス
(「異議ナシ々々々々」ト呼ブ者アリ)
○二十三番(磯部四郞君)
一寸質問致シタイ、第一ニ御說明ヲ仰ギタイノハ株劵ヲ使用スルト云フコトガアルソレカラ「使用シ其他詐欺ノ處爲ニ因リテ議決權ヲ行ヒ」ト云フ斯ウ云フコトガゴザイマス、此議決權ト云フコトハ總會ニデモ出テ所謂是ガ否ト云フコトヲ議決スルコトデゴザイマセウガ詰リ此趣意ハ眞ノ株主デナケレバイケナイト斯ウ云フコトニナルノダラウトマア思ヒマスルノデス、ソコデ伺ヒタイノハ何處ノ會社デモ大抵總會前一週間トカ或ハ總會前二週間トカ云フ其間ハモウ其株劵名義ノ書換ト云フコトハ禁ズル場合ガアルケレドモ、株主ト株主トノ間デ賣買スルコ距ハ}向差支ナイ、ソコデ實際ニドウ云フコトガ生ズルカト云フト株劵ノ名義人デアツテ其實ハ他人ニ權利ヲ讓ツテシマツテ居ル者モアル、其他人ト云フ者ハ會社ノ總會前ニ自分ノ名義ヲ書換ルコトガ出來ナイ、隨ツテ名義人デナイノデアルカラ總會ニ出席スルコトガ出來ナイ、從來ノ株主名義ヲ空ナ名義ヲ有ツテ居ル者ダケガ其會ニ出テ議決權ヲ行フト矢張此法ニ依テ罰セラルルノデアリマスカ、夫等ノ御說明ヲ得タイノデアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
株劵ヲ使用シテ議決權ヲ行ヒ使用スルト云フ言葉ハドウスルノカト云フ御尋ネガ第一ノ御尋ネデアリマスガ、是レハモウ御答ヘ致スマデモナク議決權ヲ行フノハ株式ノ數ニ依テ行フノデゴザイマスカラシテ一ツノ議決權ヲ行フノハ一ツノ、、、、、
○二十三番(磯部四郞君)
株劵ヲ持テ行クデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
左樣ナ次第デハナイノデス、記名株デゴザイマスレバ會社ノ方デ自カラ分ツテ居ルノデコザイマス、ソレカラ無記名ノ場合ハ恐クハ其會社カラ預リ證ヲ出スノデアラウト思ヒマス、其預リ證ヲ持參シテ是レダケノ株式ヲ有ツテ居ル者デアルト云フコトヲ證明シテサウシテ株主ノ權利ヲ行フモノデアラウト思ヒマス、第二ノ御尋ネハ株主ガ自己ノ株ヲ他人ニ讓渡シタ場合ニ其他人ガ員正ノ株主トシテ議決權ガ行バレルカト云フ御尋ネデアリマスガ、是レハ商法ニ明文ガゴザイマシテ名義ノ書換ヲシナケレバ行フコトガ出來マセヌ
○二十三番(磯部四郞君)
サウデハナイ、名義ヲ書換セヌケレドモ私ニ權利ヲ讓ツテアリマスカラ事實ニ於テハ株主デナイ人デアリマス、ケレドモ會社ノ帳簿ノ上デハ株主ノ名義ニナツテ居ル其人ガ暇一一議場ニ出テ議決權ヲ行ツタ時ハ其制裁ヲ受ケマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ受ケマセヌ
○二十二番(花井卓藏君)
全ク此法文ニナイコトヲ御尋ネスルノデアリマスガ惡意ニ依リテ議決權ヲ行ハザル場合デス、ソレハ二百六十一條ノ五ニ規定セラレテ居リマセヌガ罪ナシトセラルル御趣旨デアリマセウカ或ハ二百六十一條ノ六ノ方デ折合ガ付クト云フ御考デアルノデアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
惡意ニ依リマスル原因ガ不正ノ利益ヲ收受シタカラデアルトイフコトデアリマスルト、二百六十一條ノ六ニ該當シヤウト思フノデアリマスケレドモ、唯其人デハ其自分ノ自由ノ意思デ極メマシタ場合ハ罪トナルコトト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
惡意ニ依リテ議決權ヲ行ハザルモノハ如何ニ處分セラルベキカ二百六十一條ノ五ニ含マルベキカ、二百六十一條ノ六ニ含マルベキモノナルヤト云フ問ヒデアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
チョット惡意ノ意味ガ分ラヌノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
或ハ賄賂ヲ取ルトカ或ハ特別ノ利益ヲ得ルトカ云フガ爲メニ缺席ヲシテ議決權ヲ行ハナイ、斯カル場合ガアルノデス、ソレハ二百六十一條ノ五ノ方ニハ當ラヌヤウニ思フノデアリマス、二百六十一條ノ六ノ方ニ當ルノデアルカト研究シテ見マスルト云フト當ルト云フガ如キ意味ニ無理ニ解釋ヲスレバ當ラヌコトハアルマイト思ヒマス又當ラヌト云フ解釋モ或ハ言ヘルデアラウト思ヒマス、獨逸ノ商法ノ三百十七條ナドニ於テハ議決權ヲ行フ場合、行ハザル場合ヲ同一ノ規定ノ下ニ書イテアルヤウニ思バレルノデアリマス、ソコデ疑ヒヲ起シタノデアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
能ク御問ヒノ趣意ガ分リマシテゴザイマス、賄賂ヲ取リマシテ議決權ヲ行ハナイ場合ハ二百六十一條ノ六ニ當ル趣意デアリマス、議決權ノ行使ニ關シト云フ中ニハ行使セヌ場合モ含マセル趣意デ是レハ出來テ居ルノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
私モ一應サウ考ベタ、議決權ノ行使ニ關シト云フコトハ廣イ意味ナリト解釋スレバ說明ノ付カヌコトハナイヤウニ思ツタノデアリマスケレドモ行使ハ行使デ如何ナル法令ニ於テモ行使ヲ不行使ニ含マシテ解釋スルト云フヤウナ實例ニ私ハ接シテ居ラヌノデアルカラシテドウモ行使ノ中ニ不行使ガ含マシテアルト云フコトハ正シキ解釋デアルマイ、議決權ノ行使ガ不行使ニ關シテト書イテアレバ夫レハ當ルノデアルケレドモ、サウデナクシテ行使ト書イテアルケレドモ不行使モ之レニ含ムト云フコトニ解釋スルヤ否ヤニ就テハ大イニ疑ヒヲ懷イタノデアリマス、立案者ノ趣旨ハ甚ダ到レリ盡クセリデ冖缺席ノ場合、議決權ヲ行ハザル場合ハ二百六十一條ノ六ノ方デ行使ニ關シテト云フ所デ始末ガ着ク、二百六十一條ノ五ノ方ハ行使ノ場合ノミ規定シテアルト云フ趣旨ニ考ヘテ讀ムデ見タケレドモ行使ト云フ字ガ書イテアルカラ不行使ト云フ事柄ガ之レニ入ルト云フコトハ何ニカ原則ガアレバ格別デスケレドモ、行使ノ場合ニハ常ニ不行使ト云フコトヲ受ケテ居ラヌカラ質問ヲシタ譯デアリマス
○十番(梅謙次郞君)
唯今ノハ御質問デアツタカナニカ存ジマセヌガ、丁度問題ガ出マシタカラ私モ起ツタ序デ駅ニ言致シマスガ私ハ此行使ニ關シト書イテアル場合ニ於テハ行使ヲ爲スタメ、行使ヲナサザル爲メ或ハ或意味ノ行使ヲナス爲メ、皆此中ニ含ムト考ヘテ居リマスルノデ私ハ疑ヲ懷イテ居リマセヌ、萬一疑ハシイナラバ次ギノ條ニ於テ修正ヲ致シタイト考ヘマス、本條ニ就キマシテハ此處ニ花井君ノ修正案ガ出テ居リマスガ前條マデノ決議ノ結果ト致シマシテ大抵花井君ノ修正說ニ私ハ贊成ヲセンナラヌト思フ、卽チ第一項ニ於キマシテ「懲役」ノ下ニ「若クハ禁錮」ヲ加フルト云フコトハ是レハ殆ド當然ト思ヒマス、ソレカラ第二項ニ於キマシテモ固ヨリ「徵心役」ノ下ニ「謎爪錮」ガ加ハル、而川シテ「五年」ハ「三年」ト改ムル方ガ至當ト思ヒマス、ドウモ前ノ、例ヘバ二百六十一條ノ二ノ場合ト較ベルト餘程輕重ガアルト思ヒマス、成程二百六十一條ノ三ノ場合トハドツチガ重イカ輕イカ多少疑ハシイデスケレドモマア々々似寄ツタ場合ト言ツテモ宜カラウト思ヒマス、五年ハ三年ト改ムルガ至當ト思ヒマス、ソレカラ五千圓以下ノ罰金ニ就キマシテハ實ハ主査會ニ於テ刑ノ切盛リハ起草委員ハ餘程研究ノ上デ定メラレタモノデアルカラト云フノデ=言モ私ハ豫ヲ容レナカツタケレドモ、他ニハ五年以下ノ懲役ニ對シテ三千圓以下ノ罰金ニナツテ居ツタノガ本條ニ限ツテハ罰金ノ方ガ五千圓以下ニナツテ居ル、是レハ多分理由ノアルコトデアラウト思ヒマス、併ナガラ大シタ理由デナケレバ願クハ二百六十一條ノ三ト同ジヤウニ矢張花井君ノ修正意見ヲ贊成シテ綵用シテ三千圓ニナラムコトヲ希望致シマス、此點ハ一應起草委員ノ御說明ヲ承ツタ上デ意見ヲ定メタイト考ヘマス、ソレカラ詐欺ノ處爲ニ因ツテノ「テ」ノ字ニ就テハドウゾ起草委員ノ方デ、、、、
○一番(富井政章君)
花井君カラ御質問ノコトハ私モ次ギノヤウニ思ツテ居ツタ、行使ノ爲メト書イテナイ、行使ニ關シテト書イテアリマスカラ無論不行使モ入ルト解シテ居ツタノデアリマス、不明瞭デアルトスレバ行使又ハ不行使ノ爲メト書ケバ明瞭ニナラウト思ヒマス、ソレカラ今梅君ハ此條ニ於テ禁錮ヲ加ヘルガ當然ダト言ハレマシタガ私ハ甚ダ疑フノデアリマス、此條ハ利慾ノ目的ヲ以テスルニハ限ラナイカモ知レマセヌケレドモ通常ハ其目的ヲ有ツテスル場合ヲ見タノデアラウト思ヒマス、前ニ議決ニナツタ二百六十一條ノ四ノ場合ナドトハ餘程趣キガ違ツテ居ルノデアリマス、寧ロ此條ハ次ノ條ニ近イ方デハナカラウカ、性質ニ於テハ寧ロ次ギノ條ニ似テ居ルコトデハナカラウカト思ヒマスカラ是レハ禁錮ヲ入レルノガ少クモ當然ノ結果トハドウシテモ思ハレナイノデアリマス、唯五年ヲ三年ニスルガ宜イカドウカト云フコトハ是レハチヨツト惑フノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ノ提出致シテ置キマシタ二百六十一條ノ五ノ修正ノ理由ハ私ノ起立以前ニ於キマシテ梅委員ヨリ代言ヲシテ呉レマシタカラシテ重ネテ申ス必要ハゴザイマセヌカラシテ御抓休決ヲ願ヒマス
○議長(岡部長職君)
最早採決致シマス
○十番(梅謙次郞君)
此五千圓ノ御說明ヲ願ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
是レハ別ニ深イ理由デモナカッタカモ知レマセヌ、能ク記憶ニ殘ツテ居リマセヌガ成程五千圓ト云フノハ體刑七年ノ時ニ五千圓ノ罰金ト云フコトハ書イテアリマスケレドモ七年デハ餘リ重過ギルノデ五年ガ相當デアラウ、併シ罰金ハ隨分是レハ行使セラルル株劵ノ數ニ依テハ籐程重大ナル結果ヲ生ズルダラウト思ヒマスカラ金刑ノ方ハ重クシテモ宜カラウト云フ理由デアツタカト記憶シテ居リマス
○三十四番(穗積陳重君)
不正ノ手段ヲ以テ議決權ノ行使ヲ妨ゲルモノニ對スル罰則ハドコニアリマシタノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其點ハ此案ニハゴザイマセヌ
○三十四番(穗積陳重君)
是レハ罰スルニハ罰スル必要ハナイト御考ニナツテナイノデアリマスルナラバ此議決ヲ行フ場合ノ違ヒヲ御說明ヲ願ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
大槪刑法ノ規定デ間ニ合ヒバセヌカト云フ考デアルノデアリマスガ刑法ノ暴行ニナリマセウ、脅逍ニモナリマセウト思ヒマス
○三十四番(穗積陳重君)
總會ノ通知ヲ隱クシタリ或ハ今日ハ總會ガ無イト云フテ欺シタリ威嚇シタリ、ツソナ事ガイロ々々アリマセウト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
詐欺ノ處爲ニ因リテ議決權ヲ行ハシメナイ場合デアリマス
○三十四番(穗積陳重君)
詐欺ノ處爲モ一ツノ手段デ廣ク言ヘバ不正ノ手段デス
○四番(齋藤十一郞君)
暴行ノ場合ハ刑法ノ規定デドウカト思ヒマス、ソレカラ脅迫モ如何デアリマセウカ刑法ノ規定デ宜カラウト思ヒマス、其點ガ缺點ト申セバ缺點デアルデス、懿酢欺ニ因ツテ 欺サレテ會場ニ出ルコトガ出來ナカツタト云フ場合ハ漏レテ居ルヤヴデゴザイマス
○三十七番(松波仁一郞君)
チヨツト御尋ネシマスガ、是レハ發起人取締役ガ前項ノ行爲ヲナシタル時ハ五年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處スルト云フテ重クヤツテアリヤスガ、是レハ取締役ガ斯ウ云フコトヲヤルノハ責ムベキコトデアルト云フノデ重クナツテ居ルノデアリマセウガ、過失ニ依テヤルコトモアリサウニ思ヒマスガ詰リ株劵ノ委任狀ヲ集メル時ニ遣損ナウトカ或ハ他人ノ株劵ヲ何カノ理由ニ依テ會社ニ保管シテアルトキニ間違ウトカ云フヤウナ時モ罰シタラ如何デアラウカ、罰スルコトガドコカニアリマスカ、或ハ罰シナイノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其過失ニ依テノ場合ハ之レニ含マツテ居リマセヌ、詐欺ノ處爲ニ因ルト云フノデスカラ其條件ガ必要デアラウ↑思ヒマス
○三十七番(松波仁一郞君)
他人ノ株劵ヲ使用スルト云フ場合ハ、、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
他人ノ株劵ヲ使用スルト云フコトヲ知テヤツタ場合ハ結局詐欺ニナラウト思ヒマス
○三十七番(松波仁一郞君)
必ズ他人ノ株劵ヲ使用シト云フ中ニハ矢張詐欺ノ處爲ニ因テト云フノデナシニ誤ツテ他人ソ株劵ヲ使用シ得ルコトガアルダラウト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
左樣ナモノハ罰スル必要ハアルマイト思ヒマス
○三十四番(穗積陳重君)
先刻御尋ネヲ致シマシタノデ私ハ修正案ラ出サウトマデニマダ腹ハナイノデアリマスガ誰方カラデモ宜シウゴザイ"、スガ、特ニ實業ニ關係ノアリマス御方ニ依テ御說明ヲ得マスレ閃ハ大變幸福デアリマスガ唯今ノヤウナ場合ニハ――唯今ト申シマスノハ不正手段ヲ以テ議決ヲナスコトヲ妨ゲル又ハ左右セシメル(而シテ夫レハ二百六十一條ノ六ニハ入ラヌ其場合ハ自分デ不正ノ利益ヲ收受スルトカ、要求スルトカ約束スルトカ、斯ウ云フ場合デハナクシテ詰リ自己ノ爲メニスルト云フ極ク廣イ意味ニハ不正ト云フコトニナルカ知レマセヌガ、サウ云フヤウナ場合ガ隨分アルモノデアリマスルカ、而シテアルトスレバ之レニ關スル規定ヲ置クベキモノデアリマセウカ、又ハ實際上其詐欺ノ場合ハ拔ケテ居ツテモ差支ナイモノデアリマセウカ、ソコラノ實際ノ必要、不必要等ノコトヲ御敏ヲ請ヒタイト思フノデアリマス、
○二十三番(磯部四郞君)
今穗積委員ヨリ御話ニナツタ案ハ全ク遺睨シテ居ルト云フコトニ起草委員カラ御答デアッタガ、起草委員ノ方デサウ云フ案ヲ御拵ヘニナル御考デアリマセウカ或ハ夫レハ不必要デアルト云フノデアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
此不正ノ手段デ議決權ヲ行ハシメナイコトヲスル場合ニデス、不正ノ利益ヲ受ケテ行ハシメナイ場合ハ此二百六十一條ノ六ニ當ルト思ヒマスカラ、サウスルト殘リマスル場合ハ或ハ其惡戲ヲシテヤラウト云フ位ノコトデハナカラウカト思ヒマス、暴行脅迫ノ方ハ刑法ノ規定デ制裁ガ付ク、ソレカラ不正ノ利益ヲ受ケタ場合ハ之レニ當ルトシマスルト後ト殘ル所ハ人ヲ欺シテヤラウ唯欺ス爲メニ欺シテヤラウト云フ位ノ場合ガ殘ルノミデハナイカト思ヒマス、其場合ハ如何デアリマセウカ、左程規定スル必要モナカリサウニ思ヒマス
○二十三番(磯部四郞君)
是レハ大變御考ニナラヌト隨分斯ウ云フ議決權ヲ行フ人間ヲ選擧ノ時ナドニ往々アリマスガ生ケ洲ヘ入レテ置クト云フ奴ガ往々アリマス、俘レテ行テ宴會カナニカデ酒浸シニシテサウシテ出サヌナドト云フノモアリマス、其酒ヲ飮ムダノモ利益ノ中ニ入ルナラバ別問題デアリマセウケレドモ、唯惡戲パカリデナク隨分ヒドイ事ヲ致シマス、單純ニ出テ呉レテハ困ルト云フテ出サナカッタリ或ハイロ々々ナ關係上カラ無理ニ出サナイヤウニシテシマウト云フヤウナコトガ往々アルヤウニ考ヘマスカラ、是程嚴重ニ法ガ出來マシタ以上ハ夫等ノ場合モ何ントカ御規定ニナル方ガ宜クハナイカト思ヒマス、今穗積委員カラシテ何カ案デモ出テ居リマスレパ直グ贊成シタイト思ヒマスガ全ク脆漏シテ居リマス事實ヲ御認メニナツテ居ルナラバ何カサウ云フ規定ヲ起草委員ノ方デ御拵ヘヲ願ヒタイト斯ウ云フ考デアリマス、
○四番(齋藤十一郞君)
唯今例ニ御出シニナリマシタ鑵詰ト仰シヤツタ(笑聲起ル)鑵妻如ノ場合モ二ツアラウト思ヒマス、其眞ニ自由ヲ拘束サルルコトナラバ是レハ刑法ノ暴行ト云フコトデ往クダラウト思ヒマス、ソレカラ酒ヲ飮ム爲メニ其方ガ宜クツテ其處ニ止マッテ居ルナラバ不正ノ利益ニ入ルダラウト思ヒマス、其外ノ場合ハ物好ニヤルモノハナカラウカト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ノ引ク例ハ磯部君ノト全ク違ヒマスガ、總會ノ時ニ議長ガ職權ヲ亂用シテ一部ノ者ト結托ヲシテサウシテ會議ノ開カレツツアル際ニ議場ヲ見渡シテ見ルト己レノ派ノ者ガ少ナイ、是ニ於テ採決スベキ事ヲ採決セズ、若クハ又徒ラニ自分ノ派ノ者ヲシテ發言ヲセシメテ時間ノ迫ルコトヲ促シテサウシテ己レノ職權ナリトシテ解散ヲ命ズルト云フヤウナコトヲスル場合ハイクラモアルダラウト思ヒマス、斯ノ如キハ暴行ニモナラズ脅逍ニモナラズ、刑法上罪ニナラナイノデアツテ而シテ恐ルベキコトデアル、其目的トスル所ハ自派ニ利セムトスルコトハ論ヲ俟タズト雖モ二百六十一條ノ六ノ規定ハ現實ニ不正ノ利益ノ要求、現實ニ不正ノ利益ノ收受トナルノデアリマスカラ形ノ上ニ現ハレナイ、結局己レノ爲メニ利セムトスル、己レノ爲メニ議決權ヲ行使スル、斯クノ如キハ非常ニ憂フベキコトデアツテ此弊ヲ防ガムガ爲メニ第一ニ暴行ニモ因ラズ脅迫ニモ因ラズシテ權利ノ妨害ヲナシタモノノ處分規定ヲ立テテ居ルノデアリマス、卽チ百九十三條デアリマス、此樣ナモノニ類シタル規定ハ必要デハナイノデアリマセウカ、意味ニ於テ穗積先生ノ說ガ出マシタナラバ私ハ贊成ヲシテ案ハ起草委員ニ托スルコトニ相成ツタラ宜シクハアルマイカト考ヘマス
○三十四番(穗積陳重君)
私ハ本席ニ御列席ニナツテ居リマスカラ實業家側ノ御教ヘヲ請ヒタイト思ツテ輕々シク意見ヲ出スコトハ控ヘテ居リマシタガ、未ダ其激ニ接スルコトガ出來ナイノデアリマス、兎ニ角以上ニ言ヘル不正ノ利益ト云フノハ總テ自分ノ利益ノ爲メ或ハ間接ニ自分ノ利益アルト云フコトヲ目的トスルマデハ含ムマイカト思フノデアリマス、ソレデ若シ齋藤君ノ言バレル如クニ第一、二百六十一條ノ六以外ニハ他人ノ議決權ノ行使ヲ妨ゲルモノハ惡戲デアルト云フコトデアツテ、マア惡戲ナラバ結果ハ隨分重大ダケレドモ構ハヌト云フコトデアルナラバ構ハヌ、他人ノ家ノ窓ヲ壞ス惡戲ダカラ面白イ、惡戲ト云フコトダケデハ未ダ私ハ滿足ナル說明ハ得テ居ラヌノデアリマス、兎ニ角此議決權ノ行使ヲ妨ゲルト云フコトハ他人ノ權利ヲ害スルコトデアルト思フノデアリマス、ソレカラ又若シ此第二百六十一條ノ六ニ於ケルガ如ク不正ノ利益收受云々トノコトガナケラネバ手段ハ不正デアツテモ之レヲ罰スルニ友ハヌト云フコトデアルナラバ、今議題ニナツテ居リマスル所ノ詐欺ノ處爲ニ因リテ議決權ヲ行ヒ之レヲ罰スル理由ガドウモ分ラナイノデアリマス、是レハ自分ノ權利デナイコトヲ行フ、是レハ利益トカナントカ云フコトハナニモイラナイ、サウスルト其他人ノ議決權ヲ行フノヲ留メルノハ卽チ詐欺ノ處爲ニ因テ之レヲ妨害スルノハ之レト輕重ハアルマイト私ハ思フノデアリマス、無用ナル所ノ規定、別シテ罰則ハ無用デアルナラバ成ルベク少ナイ方ガ宜イト思ヒマスガ釣合上カラ考ヘテ見、ソレカラ議決權ヲ重ソズベキモノデアルト云フコトカラ考ヘテ見マスルト惡戲デアルト云フバカリデ之レヲ不問ニ置クト云フコトハ宜クハアルマイ、此二百六十一條ノ六ノ場合以外ハ惡戲デアルコトナラバ徒ニ議決權ヲ行フト云フコトモ有リ得ルカモ分ラヌケレドモ、是レハ罰スベキ點デナイト思ヒマス、唯悪戲デ詐欺ニ依テ他人ノ議決權ヲ妨ゲルコトモ之レモ重イコトデアルカラ釣合上、是レハ矢張御入レニナツタ方ガ宜カラウト思ヒマス、是レハ十分斯道ノ人ノ意見ヲ聞イテカラ動議ヲ提出シタイト思ヒマシタガ未ダ夫レニ接シマセヌカラ先ヅ豫メ此事ヲ提出シテ置キマス
○十二番(志村源太郞君)
穗積君ニ御答ヘ致シマスガ、實ハ先刻ノ御促シニ對シテハ私ハ何ンノ材料モ持チマセヌ、サウ云フ場合ニ自ラ接シタコトガゴザイマセヌカラ想像ヲ以テ漫リニ申上ゲルコトハ此議場デハ避ケナケレバナラヌト考ヘマスルデ自分ガ現ニ接觸シ若クハ認メタト云フ場合ノ外ハ申サヌ積リデ居リマスノデ、不幸ニシテマダサウ云フ材料ニ接シマセヌ、隨分當業者ノ申出ノ中ニハチョット出會マシテ不便ヲ感ジタ爲メニ申出ルノモアリマスルケレドモ、ソレハ他ノ法律ノ關係ヤ其他ノ事ヲ權衡ヲ取リマシタ上ノ判斷デナイモノモ隨分アリマセウト思ヒマス、御採用ニナル場合ニ於キマシテ餘程御選擇ガ要ルコトト心得マスルデ、私共ガ自分自ラ痛切ニ感ジマシタコトデナケレバ極メテ控ヘマス積リデアリマス、夫故ニ甚ダ御返答ニ躊躇致シマシタノハ全ク材料ガナイ譯デアリマス、全體二百六十一條ノ五ト云フモノハ目下ノ必要ト云フコトデ御定メニナリマスヤウデアリマスケレドモ特ニ當業者カラ申出ガアルト云フコトデアリマスカラ私共別段異存ハ申シマセヌガ唯自分ノ内心ヲ申上ゲマス、成程詐欺ノ行爲トカイロイロナル惡イ條件ガゴザイマス、他人ノ株劵ヲ所有スルト云フコトガアリマスガ、抑々國家ノカヲ以テ斯ウ云フ刑罰ヲ加フベキ性質ノモノデアルカドウカト云フコトニ就キマシテハ法律家デナイ私共ハ多少疑ヲ存シテ居リマス、成程夫レハ財界ヲ多少攪亂スル行爲デアリマセウケレドモ夫レガ果シテ社會ニ非常ナ影響ヲ及ボスベキモノデアルカドウカト云フコトハ少シ疑ガゴザイマス、就テハ自分自ラ極メテ痛切ニ感ジナイ弊害ハ此罰則ノ場合ニ申上キレマセヌデ御答ヲ躊躇致シマシタ次第デアリマスカラ惡カラズ御諒承ヲ願ヒマス
○七番(平沼騏一郞君)
私ハ御參考ノタメニ申上ゲテ置キタイノデアリマスガ、先刻穗積委員ヨリ詐欺ノ處爲ヲ以テ議決權ノ行使ヲ妨害シタト云フ場合ニ就テ御述ニナリマシタノデアリマスルガ、是レハ成程此案ノ中ニゴザイマセヌデ齋藤君ノ御說明ニ依リマスルト大抵刑法ノ暴行脅迫ニ當ル又詐欺ノ場合卽チ欺シテ議決權ノ行使ヲ妨害シタ場合ハ多クハ惡戲ニナラウト云フコトデゴザイマシタガ、是レハマア多クハサウデアルカ知レマセヌガ時ニハサウデナイ場合モ隨分アリマセウ、例ヘバ磯部サンノ仰有ツタ生洲ノヤウナ場合ハサウデナイノデアリマセウ、然ラバ之レニ就テ非常ナ害ガアルト云フコトデアルナラバ餘程是レハ考ヘナケレバナラヌコトデアラウト思フノデアリマス、單純ナ惡戲デナイ場合モ隨分アルノデアリマスケレドモ此刑法ナドニハサウ云フ場合ハ罰シテ居リマセヌノデ公務員ノ職務ノ執行ノ妨害ノ場合モ矢張暴行脅迫ト云フコトニ限ラレテ居リマスルシ、ソレカラ又脅迫ノ場合ニ他人ノ權利ノ行使ヲ妨害シタトカ或ハ義務ノナイコトヲ行ハシメタト云フコトモ矢張暴行脅迫ニ限ラレテ居ルヤウデアリマス、是等ハ一體二日本ノ刑罰法規ノ上デ先ヅサウ云フ場合ハ刑罰ヲ科スル必要ノナイコトニマア見テ居ルノデアラウト私ハ信ジテ居リマス、唯特ニ商法ニ就キマシテノミ其規定ヲ設ケマスルト云フコトニナリマスルト餘程其必要ヲ認メタ場合デナイト非常ニ此法律ハチソバニナルト云フ結果ヲ生ズルデアラウト思ヒマス、私ハ是レハ必シモ不必要デアルト云フコトハ申サナイノデアリマスガ若シ實業界三御在デニナリマスル御方デ現今其敝押宝ロハアル、又將來ニ於テモ斯クノ如キ弊害ニ堪ヘナイ狀態ノ生ズル恐ガアルト云フコトデアレバ豫メ條文ヲ設ケテ置ク必要モアラウカト考ヘマス、其邊ハ如何ナモノデアリマセウカ、先ヅ私共ノ考ヲ以テ申スレバ今日其必要ヲ認メラレルト云フ適切ナルコトハアリマセヌケレバ商法ノ中ニハ規定ヲ設ケナイ方ガ至當デハナカラウカト思ヒマス
○十五番(石渡敏一君)
私ハ間接ニ穗積君ノ說ニ同意スルノデアリマスガ、其目的ヲ以テ一ツ承ツテ置キタイノハ二百六十一條ノ五ノ二項ノ方デアリマスガ「支配人カ」ト云フ上ノ方ニ文字ガアリマスガ、ソレハ拔イテ「支配人カ前項ノ行爲ヲ爲シ又ハ之ニ加功シタルトキハ」ト云フ、此加功シタルト云フ意味ハドウ云フコトニナリマスカ、從犯トカ教唆罪ノコトヲ云フノデアリマセウカ、或ハ其他ノコトヲ云フノデゴザイマセウカ、一ツ說明ヲ願ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
是ハ刑法ノ共犯ノ所ノ文字ヲ用ヰタノデアリマス
○十五番(石渡敏一君)
サウスルト支配人ガ前項ノ行爲ヲ爲スト云フ言葉ハ何ニ當リマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
前項ノ行爲ヲ爲スト云フノハ、支配人ガ一人デ以テ是等ノ職務ヲ有ッテ居ラナイ者ト共ニデナク支配人ダケデヤルト云フ場合ヲ規定シタノデアリマス
○十五番(石渡敏一君)
若シ支配人モ入リ、ソレカラ監査役モ入リ、取締役モ入ツタトキハドウナリマスカ、加功ノ方ニナリマスカ、行爲ヲ爲スト云フ方ニナリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ一緒ニナリマスト前項ノ行爲ヲ爲スト云フ共犯ニナリマス
○十五番(石渡敏一君)
サウシマスト加功ハ共犯中ノ何ダケニナリハシマセヌカ
○四番(齋藤十一郞君)
加功ト云フノハ是等ノ職務ノナイ者ト一緒ニヤツタト云フコトニナリマス
○十五番(石渡敏一君)
サウシマスト此中ニハ教唆工、從犯モ入ルト見テ宜シウゴザイマスネ
○四番(齋藤十一郞君)
左樣デゴザイマス
○十五番(石渡敏一君)
是ヲバ五年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處スルコトハ刑法ノ例外ト見テ宜シウゴザイマスカ、從犯ハ刑ヲ輕クスルモノデハアリマセヌカ、然ルニ此場合ハ從犯ト雖モ刑ハ輕ルクセヌ、正犯ト同ジ刑ニ處スルト云フ御趣意ト見テ宜シウゴザイマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
第一項ノ正犯ヨリハ重クナルデス
○十五番(石渡敏一君)
五年以下ノ懲役トアリマスガ、從犯ハ正犯ヨリハ刑法ノ方デハ罪ハ輕ルクナリマセウ
○四番(齋藤十一郞君)
サウシマスト、例ヘバ其職務ノアル者ガ正犯ヲ爲シ、其職務ノアル者ガ從犯トシテソレガ加功シタトキハ一緒ニナルデハナイカト云フコトデゴザイマスカ、左樣ナリマセウ
○十五番(石渡敏一君)
刑法ノ例外ニナリマセウ、刑法デアリマスルト從犯ハ輕ルクナリマス
○四番(齋藤十一郞君)
左樣デゴザイマセウ、例外ニナリマセウ
○十五番(石渡敏一君)
サウ致シマスト少シ問題ガ大キクナルノデ、コザイマスガ、穗積君ハ先程カラ二百六十一條ノ五ニ付イテ議決權ヲ行ハセナイ者、然ルニ其議決權ヲ行ハセナイ原因ハドコニ在ルカト云フト、暴行脅迫ヲ有タナイト云フ御話デアリマシタガ、私ハ暴行脅迫ヲ以テ議決權ヲ行ハセシメナイ者ガアツタナラバドウスルカト云フ問題ヲ一ツ承ハリタイト思ヒマス、ソレハ刑法ノ方デ罰スルコトガ出來ルデハナイカト云フ御話デアリマシタガ、刑法ノ方デ脅迫罪ノ所ヲ見マスルト刑ガ三年ニナツテ居ル、サウスルト詐欺ノ所爲ヲ以テ議決權ヲ行ツタ者ノ方ハ五年マデ往クノニ、此發起人トカ或ハ取締役トカ監査役トカガ詐欺ノ所爲デ以テ讓決權ヲ行ハシメタ場合ノ方ハ三年デアルニ拘ハラズ暴行脅迫ヲ用ヰサシタトキニハ普通ニ三年ト云フコトニナルダラウト思ヒマス、少シ權衡ガ合ハヌノデハナイカト思ヒマス、矢張加ヘルナラバ茲ニ於テ五年マデ行カナクテハソレコソ辻褄ガ合ハヌト云フ方ノ議論ガ正當デハナイカト思ヒマス、先程平沼君カラ刑法ノ方デ罰シナイ、刑法ノ方デハ暴行脅迫ダケヲ罰スルカラソレデ差支ヘナイ其他ハ刑法デ罰シナイガ宜イデハナイカト云フ御話デアリマシタケレドモ、ドウモ權衡上サウデハナイト思ヒマス、是ハ矢張是ニ入レルガ至當ト思ヒマス、暴行脅迫ヲ罰スルナラバ詐欺ノ處爲モ寧ロ高クスルガ至當デアルト思ヒマス、ドウモ是ハ少シ缺陷ガアリハシナイカト思ヒマス、若シ二百六十一條ノ五ヲバ志村君ト同ジヤウニマルデ削ツテ仕舞ヘバ宜イト云フノモソレモ一論ダト思ヒマス、確カノ御說ハ承ハリマセヌガ其御說モ一說ト認メマス、ソレナラバ此詐欺ニ付イテ或事ヲ行ハシメタ者ヲバ此處デ罰スル、而モ五年マデ行クト云フナラバ行ハシメナイ方モ罰スル、三年デハ輕ルイ五年ガ當然カト思ヒマス、此刑ノコトニ付イテハ後カラ御說ガ變ルカ知レマセヌケレドモ、確ニ言ヘマセヌガ、少クトモ起草委員ノ間ニ於テハ此處ニ缺陷ガアリハセヌカト思ヒマス、寧ロ私ハ穗積君ノ說ヲ今一歩進メラレテ暴行脅迫デ權利ヲ行ハシメナイ場合モ亦權利アルコトヲ行ハシメナカッタト云フコトヲ入レルト說ガ大體宜クハナイカト思ツテ=言述ベテ置キマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ハ短カイ質問デス、唯今齋藤君ノ御說ノ中ニ加功ト云フ文字ノ中ニハ從犯ガ含マレテ居ルト云フ御說明ガアリマシタガ、確ニ間違ガナイデセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
其趣意デアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
サウスルト刑法ニ書イテアル幇助ト云フ文字ニ加功ト云フ文字ガ當ルノデスナ
○四番(齋藤十一郞君)
繋助ノ場合ガ含ムノデアリマス、其範圍ハ一緒デハアリマセヌ
○二十二番(花井卓藏君)
六十五條ノ加功ノ文例ハ從犯ハ含デ居リマセヌ、ソレデ私ハ此疑ヒガ起ルノデス、私ハ矢張リ御說明ガ違ツテ居ルノデハアルマイカト思フノハ揭ゲラレテアル支配人等ノ者共ガ前項ノ行爲ヲ爲シ、ソレカラ是等ノ人ガ他ノ者ノ是等ノ行爲ヲ爲ス者ニ加功シタル其卽チ實行的ニ加擔ヲシタルトキニハト讀ムノガ正シイノカト思ヒマスガ、サウデハナイノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
私ハ間違ツテ居ルカ知レマセヌカラ若シ間違ツテ居レバ他ノ起草委員カラ訂正ガアルデアラウト思ヒマスガ、私ノ考ハ矢張リ從犯ヲ含ム趣意デアッタノデス
○二十二番(花井卓藏君)
加功ノ二字ハ實行正犯モアル、從犯モアルト云フ意味デスカ
○四番(齋藤十一郞君)
教唆、、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
教唆モ無論含ムノデアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其意味デアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ハ少シ讀秉ネタカラ質問ヲシタノデアリマス
○二十三番(磯部四郞君)
是ハ誠ニ諄イヤウデスケレドモ、先程穗積委員カラノ說ニ付イテ敢テ規定スル必要モナイト云フコトデゴザイマシタガ、又平沼君カラシテモサウ云フ場合ハ規定シナクテモ宜イト云フヤウナ御說モアツタヤウニ考ヘマスガ、私ハ御參考マデニ申上ゲテ置キマスガ、選擧法ニハソレハ明カニ規定シテアリマス、選擧法ノ八十八條ノ二ト云フ所デアリマス、「選擧人ニ對シテ往來ノ便ヲ妨ケ又ハ詐欺ノ手段ヲ以テ選擧權ノ行使ヲ妨害シ、若ハ投票ヲナサシメタル者ハ二月以上二年以下ノ輕瑟不錮ニ處シ、五圓以上百圓以下ノ罰金ヲ附加ス」ト云フ斯ウ云フ規定ニナツテ居ル、選擧人ニ對シ往來ノ便ヲ妨ゲルト云フノハ田舍ニ參リマスルト人カ車ガ五六挺モアルト云フ場合ニソレヲ一方ノ者ガ買占メテ仕舞ツテ、人カニ乘ラナケレバ行ケヌ所ヲ行カレヌヤウニシテ仕舞ッタリ其他詐欺ゾ手段ヲ以テ云々ト云フコトハ、是ハ先程カラ色々議論ガアリマシタガ、詰リ商業會社ノ所謂議決權ヲ行フト云フ範圍ガ狹イダケ矢張リ斯ウ云フ手段ガ往々行ハレテ來ルダラウト考ヘマスガ、唯徒ニト云フ譯デハナイ、私ハ屡々落選致シマシタガ此手段デヤラレタノデ、實業ノ方トハ大ニ趣キハ異ニシテ居リマスガ餘程御注意ヲ願ヒタイト考ヘマス
○三十四番(穗積陳重君)
私ハ能ク會社荒シナドト云フ話ヲ聞キマシテ隨分此會社ノ議決權ヤ何カヲ左右スルニハ色々ノ原因モアリ、色々ナ方法モアルト云フコトヲ聞及デ居リマス、ソレデ隨分會社ニ取ツテ重大ナ問題ニ付キマシテハ或ハ右ニ決セラルル方ヲ大變ニ欲スル人モアリマセウ、或ハ左ト決セラルル方ヲ大變ニ欲スル人モアリマセウ、是ハ社員中ニモアリマセウ社員外ニモアリ得ルコトデアラウト思フノデアリマス、其場合ニ於テ可否ノ數ニ於テ一方ノ議ヲ通過セシメムト圖リマス爲メニ、社員ナル者又ハ第三者ニシテ他ノ方ニ贊成スル者ノ議決權ヲ暴行脅迫若クハ詐欺等ノ目的ヲ以テ妨ゲルコトハ是ハアリ得ルコトデアルト思ヒマス、暴行脅迫ニ依ツテ妨ゲタ者ダケハ罰シテ其他ノコトニ依ツテ妨ゲタ者ハ二百六十一條ノ六一ニ這入ラザル以上ハ罰シナイ、斯ウ云フコトデアリマスルト二百六十一條ノ六ノ議決權ノ方ニ關シテ行使モ這入ツテ居ルカラ、此處ハ其本人ガ利益ヲ得タト云フ心實ヲ大ニ憎ムト云フダケデアツテ、會社ノ事務ニ付イテハ最モ最高權カヲ有ツテ居リマスル所ノ總會デ其決定ヲ左右スルコトニ重キヲ置カヌヤウニ見ヘルノデアリマス、此議決權ヲ有セザル者ガ議決權ヲ行フコトヲ罰シテ、議決權ヲ有スル者ガ行ヘヌヤウニスルノハ罰セナイ、此權衡ハ何處ニ在ルノカ私ハ了解ニ苦シムノデアリマス、是ハ唯其權衡バカリデナイ隨分實際上會社ニ大問題ノアルトキハ出テ來得ベキコトデアルト私登想像 スルノデアツテ、ソレ故ニサウ云フコトハ成程志村君ナドハ是マデ別シテアニ云フ會社ナドニ關係シテ御居デニナツテ、サウ云フコトニ經驗モナイデアリマセウ、又志村君ノ如キハ全體此議決權ヲ詐欺ニ依ツテ行ヒ、之ヲ法律ニ於テ罰スルト云フコトノ根底ニ於テ御異議ガアルノデアリマスカラ、又行ハシメヌト云フノモ罰スルト云フ理由ガナイト云フ御考モアルノデアリマセウ、私ハ實際上隨分弊害ヲ生ジ得ベキコトデアラウカト素人考ヲ有ツテ居リマスカラ、ソレ故ニ特ニ御實驗バカリデナク御見込モ聞イテカラ自分ノ說ヲ吐カブト思フタダケノコトデアリマシテ、今ハ自分ノ考ダケヲ申シテ置キマス、ソレモ無益ノ條文ヲ加ヘルノダト云フコトガ確カニナリマスレバ直グ引込メマス、又是ハ不權衡デハナイ自分ガ利益ヲ取ツタラ罰シテ宜イ、利益ヲ取ラナイ場合ハ罰スルニ及ハナイ、斯ウ云フコトヲ私ガ信ジマスレバ直グ又引込ソデ宜シイノデアリマス、唯今ダケノ考ニ於キマシテハ私ハドウモ其議決權ナキ者ガ議決權ヲ行フ者トスレバ、議決權アル者ヲシテ行ハシメザルモ同樣ニ罰シナケレバイカヌト云フ權衡論ト一ツハ私ノ想像デアリマスガ、會社荒シデアルトカ或ハ會社荒シデナクトモ會社ニ重大ナ問題ガアツテ利害關係ノ多イコトハ議會デモ隨分アルコトデアリマスガ、或人ノ投票ヲ議會デハドウカ知レマセヌガ――或人ノ投亜不ヲ妨ゲルト云フコトハアリ得ベキコトデアル法律ハ之ヲ制裁シテ宜シイト考ヘマスカラ、唯今ノ所デ私ハソレヲ加ヘル條文ハ起草委員ニ御願ヒ申スト斯ウ云フ動議ヲ出シテ置キマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ唯今御討論ニナツテ居リマスル問題ニ付イテハ、實際ノコトモ知ラズ又刑法ノ理論ナドモ研究シテ居リマセヌカラ、謹ンデ諸君ノ御論ヲ拜聽シテ居リマシタガ、是ニ依ツテ私ノ得タル所ノ考ヘハ詰リ本條ハ起草委員ガ此議場ニ於テモ言ハレタカト存ジマスケレドモ、獨逸ノ商法ナドガ主ナル參考物トナツテ起草セラレテ居ルヤウニ見ヘマス、此獨逸ノ商法ニハ私モ深ク研究シタノデナイカラ見誤リガアルカ知レマセヌケレドモ、先ヅ茲ニ列擧シテアルモノハ罰シテ居リマスガ、併ナガラ穗積君ノ心配シテ居ラルル場合ハ罰シテ居ラヌヤウニ思フ、ソレデ原案ニモサウ云フモノガ出テ居ラヌノデアルダラウト思ヒマス、先ヅ獨逸ニ於キマシテ罰シテ居ラヌノハ獨逸ニ於テハ穗積君ノ御心配ニナルヤウナ場合ハ實際ニナイノダラウト思ヒマス、日本ニ於テハ果シテ獨逸ナドト違ツテ穗積君ノ御心配ノ場合ガ頻繁デアルカ否ヤ、是ハ實際ノ御方デナケレバ分リマセヌガ、唯想像スルニ中々澤山場合ガアラウト思ヒマスケレドモ、偶ニ生ズルコトデ實際格別其弊害ヲ見ナイト云フコトナラバ態々特別規定ヲ設ケテ刑罰ヲ科スル必要ハナカラウ、刑法ノ罰則行爲ハ別トシテ其他ノ者ハ格別罰スル必要ハナカラウト思ヒマス、所デ先ヅ想像デ考ヘテ見マシテモ成程磯部君ノ言バレル通リ、イケストカ何トカ言フサウデスガ、サウ云フ專門語ハ私ハ存ジマセヌケレドモ、或選擧等ノ場合ニ或株主ヲ料理屋ヘ俘レテ行ツテ酒ヲ飮マシテトウ々々投票セシメナイト云フコトモアルヤウデスガ、是ハ總テノ場合ニ不正手段ヲ以テ投票ヲ妨ゲルト云フコトガ言ヘルカドウカ疑問デスケレドモ、若シサウ云フコトガ言ヘル場合ガアリトスレバサウ云フコトモアリマセウガ、併ナガラサウ云フコトモ頻繁デアルヤ否ヤ一人ヤ二人ノ株主ハイケスニ出來ルカ知レマセヌケレドモ、多數ノ株主ヲイケスニスルコトハ困難ダト思ヒマスカラ、ソレガ議決ニ影響スル場合ハ澤山ハナカラウト思ヒマス、花井君ノ御說モ成程想像スレバサウ云フコトガアリ得マセウケレドモ、株主ノ中ニシツカリシタ者ガアレバソンナ所作ハ實際行バレル氣遣ハナイト思ヒマス、大シタ心配ハナイト思ヒマス、ソレデ獨逸デモ罰セヌノカト思ヒマス、斯ウ云フ罰則ハ唯理論上斯ウ云フ場合モアルデハナイカ、ア」云フ場合モアルデハナイカト云フコトデナクシテ實際ノ必要上罰スル趣意デアリマスカラ、私ハ原案ノ通リデ宜カラウト思ヒマスカラ速ニ御採決ヲ願ヒマス
○三十四番(穗積陳重君)
私モ徹頭徹尾梅君ト御同感デアリマス、成ル可ク實際デナイコトナラバ別シテ罰則ハ置カヌ、外ノコトデモ同樣デアリマスガ、殊ニ罰則ハ設ケタクナイ、梅君ハ二百六十一條ハ獨逸ニ在ルカラ置クガ宜イト云フ御意見デアリマスガ、ソコハドウモ能ク分ラナイ、志村委員ノ御說明ニ依レバ原案ノ目的ニハマダ出逢ツタコトガナイト云フ御話モアリマス、私ハ削ラレルナラバ二百六十一條ノ此五ガ削レレバ獪結構ダト思フノデアリマス、一方ダケハ澤山アルト云フ何カ實際ノコトヲ聞イテサウシテ私ガ是ニ權衡上カラ是ハ入レナクテハナラヌト云フコトハ言ハヌノデアリマス、私ノアリサウナト云フノハ想像ダト云フコトハ前ニモ申上ゲテ置イタノデアリマス、權衡上入レルト云フコトハ想像デハナイ說デアリマス
○十七番(阿部泰藏君)
唯今穗積委員ノ先刻カラ御述ベニナリマシタ此議決權ヲ妨ゲルト云フコトニ付イテ此原案ハ少シ不十分デハナイカト云フ御說デアリマシタガ、議決權ヲ妨ゲルト云フコトニ付イテハ利益ヲ以テ之ヲ誘フカ、或ハ暴行脅迫カ其外ニハ先ヅ餘リアルマイト思ヒマス、磯部君モ例ヲ御引キニナリマシタガ、イケストカ何トカ云フコトハ重大ノ問題デハナク、餘程馬鹿ナ株主デナケレバサウ云フコトニ欺マサレヤシマイカト思ヒマス、又花井君ノ御說ノ會長ガ自分ノ味方ガ少ナイカラ其日ノ議決ヲ延パスト云フヤウナコトモ、是モ餘程ドウモ株主ガ馬鹿デナケレバ行ハレナイコトデアリ且ツ其位ノコトヲ一々擧ゲテ罰スルコトニナリマスルト、ドウモ會長ノ今日ノ議事ノ整理ガ惡イ、アレハ自分ノ說ガ行ハレルヤウニア丶云フ讓事ノ整理ヲシタトカ云フヤウナ無理ナ苦情ヲ生ズルコトモアリマシテ、決シテサウ云フコトヲ以テ制裁スル必要ハナ不ト思ヒマス、何カ利益ヲ以テ誘モセズ、暴行脅迫ヲモ加ハヘズシテ手紙ヲ先ヘ屆カヌヤウニスルトカ云フヤウナコトモ、ドウモ事實總會ノアルノニ株主ガソレヲ知ラヌデ居ルト云フヤウナコトモナカラウト思ヒマス、又或會社ノ重役ガ其手紙ヲヤラヌト云フコトガ、例ヘバアルト云フコトガアッテ見レバ其總會ガ無效ダト云フコトガ起リ旁々暴行脅迫トカ若クハ賄賂ヲ遣フト云フ他ニ株主ノ議決權ヲ妨ゲルト云フコトガ屡々アルトカ云フコトハ一向聞キマセヌ一度モ聞イタコトガナイノデアリマス、今日餘リ澤山弊害ノナイコトデアリマスレバ、別ニ罰則ヲ設ケテ豫メ之ヲ防グト云フコトハ不必要ナコトデナイカト思ヒマスカラ、此原案ノ通リデ私ハ澤山ダト思フテ居リマス
○二番(岡野敬次郞君)
全ク私ハアナタニ對シテ伺ヒタイ位デアリマス
○三十四番(穗積陳重君)
志村君カラモ御說明ヲ得マシタ、志村君阿部君カラモサウ云フ心配ハナイト云フ御話デアリマシタ、然ラバ私ハ罰則ハ成ル可ク設ケタクナイノデアリマスカラ、私ノ動議ハ若シ贊成者ガアッタナラバ其許可ヲ得テ撤回致シマス、獪ホ志村君カラ二百六十一條ノ五ノ削除案ガ出マシタナラバ贊成シタイト思フテ居リマス
○二十二番(花井卓藏君)
志村君ノ二百六十一條ノ五ノ全部ノ削除說而シテ理由ハ斯ノ如キノ類例ナシト云フコトデアツタノデアリマスガ、御配付ニナツテ居リマスル商法修正意見適要類纂、卽チ當業者ヨリシテ差出シテ居リマスル所ノ書面ニ依リマスルト云フト、原案ガ規定致シテ居リマスルガ如キ弊ニ堪ヘザルガ故ニ之ヲ嚴罰セラレンコトヲ望ムト云フ趣旨ノモノガゴザイマスカラシテ、實際ハアルモノト見ヘマス、ソレデゴザイマスカラ二百六十一條ノ五ノ全部ノ削除ト云フコトハ、當業者ノ意見ニ尠ナクトモ添ハヌト云フコトハ言ヘルデアラウト思ヒマス、ソレカラ穗積委員ヨリ御撤回ニナリマシタケレドモ、私ハ甚ダ之ヲ遺憾ニ思フノデアリマスガ、本條ハ元來此議決權ヲ擁護スルト云フ此事柄ガ主タル規定デ、會社ノ機關ノ内ニ於テ最モ重要ナル議決權ノ神聖ヲ擁護スルモノガナケレバナラヌト云フ趣旨ヨリ出來テ居ル法文デアル千解シテ居ルノデアリマス、而シテ實例ハ磯部君モ述ベラレマシタシ、私モ申上ゲタノデゴザイマスガ、私ハ實業家デハナイノデアリマスケレドモ、實際アリ得ルノデアリマス、唯今阿部委員ヨリ暴行脅迫ヲ以テ威壓ヲ加フル場合ニ於テデアルカ、或ハ利益ヲ以テ誘導シタルニ依リテ存スルカノ以外ニナイト申サレタ、成程サウデアリマス、然ルニ私ハ此利益ト云フ文字ガ法文ニ書イテアル所ニ於テハ其範圍甚ダ狹キモノト思フノデアル、此議決權ヲ妨ゲルニ依ツテ一般ノ者ガ劃策シテ事成リシナラバ、他日大ニ利スル所アルナラムト云フコトヲ見越シテ無形的ニ計畫ヲ致シタル等ノ場合ハ本文ニ含マレテ居ル利益ノ文字ニ不滿足ナノデアリマス、斯ノ如キ事柄ガ僅カナ錢ヲ目ノ前デ與ヘテ議決權ノ行使ヲ妨ゲシムルヨリモ害ノ生ズル所ハ頗ル多イノデアリマス、他日大ニ利セムトスル希望ノ下ニ議決權ヲ妨ゲルト云フコトハ其弊ハ些カナル金卽チ利益ヲ與ヘテ妨ゲルヨリモモツト大ナルモノデアラウト思ヒマス、巧ナル會社ノ惡重役又ハ惡株主若クハ會社荒シナドト云フ者ニハ此弊ノ實際存在致シテ居ルト云フコトハ、今ハ私ハ認メテ宜シイコトデアラウト思ヒマスカラ、ドウゾ御撒回ナサラズ一三息味ニ於テ議場ニ容レラルルヤウニ更ニ前說ヲ維持セラレムコトヲ私ハ望ムノデアリマス、獪ホ茲ニ附加ヘテ置キタイコトハ議決權ト云フコトノ一番重イト云フコトハ改メテ申上ゲル必要モナイノデアリマスガ、二百六十一條ノ四ノ三號ナドヲ見マスルト、檢査役ノ調査ヲ妨ゲタル者ヲ罰スル規定ガアルノデアリマス、檢査役ノ調査ヲ妨ゲルト云フコトハ會社總會ノ生命トモ云フベキ議決權ヲ妨ゲル者ト如何ニ輕重ノ差ガアルカト云フコトニ付イテ私ハ惑ヲ生ズルノデアル、會社ノ議決權ヲ妨ゲルコトハ檢査ノ帳簿ヲ妨ゲタ者ヨリモ輕ルイモノデアルト云フ說明ガナケレバ、穗積委員ノ前說ハ本案ニ於テハ保タムケレバナラヌト考ヘマス、此邊ニ對スル起草委員ノ御考慮ヲ伺ヒタイト思ヒマス
○十四番(岸本辰雄君)
此次ギノ問題ニシテハ如何デス、起草委員ノ方ニ於テモ御考ヘヲ願ツテソレカラ御答ニナツタ方ガ宜カラウト思ヒマスガ、、、、
○十番(梅謙次郞君)
此檢査役ノ調査ヲ妨ゲルノトソレカラ議決權ヲ行フノヲ妨ゲルノト輕重如何ト云フ起草委員ニ對スル御質問ガアリマシタガ、起草委員ハ御答ガアリマセヌカラ私ノ信ズル所ダケヲ申上ゲテ花井君ニ教ヘヲ乞フト思ヒマス、私ノ考デハ槪シテ言ヘバ餘程輕重ガアルト思ヒマス、檢査役ノ檢査ヲ妨ゲル、檢査役ノ帳簿ハ是ハ餘程重大ナモノデアル、或場合ニ於テハ會社ノ成立ニ於テ其要素ガ具ツテ居ルカ否ヤヲ調ベル、或場合ニ於テハ會社ニ不都合ガアルノデ特ニ檢査役ニ財產ノ狀況、業務ノ實際ノ有樣ヲ調ベサセル、此場合ニ於テハ餘程大ニ調ベサセヌト大イナル穴ガアリハセヌカト云フ疑ノアル場合、ソレデ法律ハ此場合ニ調査ヲサセテ居ル、之ヲ妨ゲルコトガアルト大抵ハ何カ臭イコトガアルカラ妨ゲル、恰カモ法律ハ檢査役ニ依ツテ會社ノ實狀ヲ明カニシテ相當ナルコトノ出來ルヤウニシヤウト云フコトヲ之ヲ妨ゲルノデアリマスカラ是ハ重イコトト思ヒマス、ダカラ原案ニ於テモ是ハ本條ノ罪ヨリハ重クナル場合工、アルダラウト思ヒマス、ソレカラ唯今ノ議決權ノ行使ヲ妨ゲルコトハ成程大多數ノ株主ノ議決權ノ行使ヲ妨ゲルコトニナッタナラバ、是亦非常三璽大ナコトデアラウト思ヒマスケレドモ、ソレハ私ノ考デハ實際不能ト思ヒマス、或一部ノ株主ノ議決權ノ行使ヲ妨ゲタ所デ會社ノ柱石ニ大ナル關係ヲ持ツコトハ少ナイダラウト思ヒマス、ソレニ較ベマスルト檢査役ノ檢査ヲ妨ゲルコトハ重イト思フ、ソレデ私ハ檢査役ノ檢査ヲ妨ゲル者ヲ重ク罰スル爲メニ、未ダ特ニ議決權ノ方ニ付イテハ疑ヲ有ツテ居ル所以デアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
起草委員ニ對スル花井君カラノ御尋ネニ對シマシテ御答ヲ致サウト思フテ居リマスル間ニ梅委員カラ御答ヘニナツタ次第デアリマス、御問ガゴザイマスカラ御答ダケ致シテ置キマス、先程カラ段々申述ベマシタ通リニ、暴行脅迫以外ノ場合卽チ詐欺ニ依ツテ議決權ノ行使ヲ妨ゲル場合ハ殆ド想像スレバ極ク此ニ細ナ事實デアツテ惡戲ト申シテハ甚ダ言葉ガ惡カツタカ存ジマセヌケレドモ、恐クハソレ等ガ主ナル場合デアラウト思ヒマス、株主總會ノ招集ト云フモノハ御承知ノ通リニ隨分嚴格ナ法式デ行ハルルノデアリマシテ、ソレガ今日ハ總會ガ延ビタト言フコトニ欺スト云フ是ハ如何デアリマセウカ、實際ニ於テ極メテ嚴格ナル法式ヲ利用シテ招集ヲシテアル會ニ出席シヤウト思フ者ガ唯是ニ相當スル形式ナキニ拘ハラズ實際欺サルルト云フコトガ想像デハアリマスケレドモ、實際ニ於テハ殆ドアリ得ナイコトデハナカラウカト思ヒマス、花井君ガ先程例ニ御引キニナリリ、シタ事柄ハ、ソレハ目的ハ成程サウ云フ目的デ種々ノ妨害モ致シマセウガ、併ナガラ詐欺ノ所爲ト云フコトガ此規定ニ在ルノデアリマス、暴行脅迫ノ外詐欺ノ所爲、此詐欺ノ所爲ニ依ツテ欺サレテサウシテ議決權ヲ行ハナイト云フ斯ウ云フ場合デアルノデ、其目的ハ成程自分ノ黨派ノ意見ヲ通サウト斯ウ云フノデアリマセウガ、左樣ナ場合ニ如何ナル手段方法デ欺スト云フコトニナルノデスカ、實際總會ヲ開イテ居ル場合ニ殆ド餘地ガナイノデハアルマイカト思ヒマス、ソレカラ議員ノ選擧ニ比較シテ御論ジニナリマスルケレドモ、是ハ如何デアリマセウカ、私ノ見解デハ議員ノ選擧程激烈ナル競爭ト云フモノハ實際此株式會社ナドニ行ハルルモノデアルカ否ヤ、ソレ等ノ點ヲ御考ヘ下サレマスルナラバ、此案デ必要ナシト認メテ規定セナカツタコトモ強チ無理デナイコトト存ジマスカラ御答ヘ致シテ置キマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ハ實業家デモナシ株ナドハ一枚モ持ツテ居リマセヌカラ知リマセヌケレドモ、丁度私ノ前ニ青年會館ガアリマスガ、ソレハ盛ンナモノデス、其議決權ノ行使ヲ妨ゲル若クハ強イテ行使シヤウト云フ場合ニ其騷動ト云フモノハ大變ナモノデス、電車値上問題ノ際ニ私ハ見テ驚イタ位デアリマスカラ、實例ハ幾ラモアルノデ珍シクナイト云フコトヲ申上ゲテ置キマスガ、更ニ齋藤君ニ一應伺ヒシタイ、頻リニ詐欺ノ所爲ト云フコトヲ楯ニ取ツテ御論ジニナリマシタガ、詐欺ノ所爲ニ例ヲ取ツテ別ニ御問ヲシマス、明日株主總會ガ開カレル筈デアツタケレドモ都合ニ依ツテ延期スルト云フコトヲ書面ニ認メテ送ツタナラバ、ソレハ文書僞造デ刑法デ宜シイデセウ、ロデ言フタラドウナリマスカ、ロデ言ッタラ刑法デハ何ニ當リマス
○四番(齋藤十一郞君)
ロデ言フタ場合ニハ當リマセヌ當リマセヌガ併ナガラ實際ハ書面デ送ツタモノト、ロデ明日ニ延ビタト言フテ人ノ信用ヲ起サシムル程度ハ如何デアリマスカ
○二十二番(花井卓藏君)
ソレハロデ言フタ方ガ尤モト存ジマス
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ見込ハサウ云フ風ニナリマス
(「抓休決ヲ願ヒマス」ト呼ブ者アリ)
○三十九番(河村讓三郞君)
モウ時刻デゴザイマスガ、延期スルト云フ御說ト直ニ採決スルト云フ御讀ト兩說出テ居リマスカラ、是ニ付イテ採決ヲ願ヒマス
○議長(岡部長職君)
唯今最後ノ問題ニ付イテ延期スルト云フ說ト直ニ採決セヨト云フ御說トアリマスカラ採決ヲシヤウト思ヒマス、延期ヲスルト云フ方ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
○三十四番(穗積陳重君)
何ヲ延期スルノデスカ、、、、
○議長(岡部長職君)
此問題ヲ、、、、、
○十五番(石渡敏一君)
今日ハ此儘ニシテ會ヲ閉ジテ戴キタイ
○議長(子爵岡部長職君)
ソレガ延期デス
○三十四番(穗積陳重君)
私ノ動議撤回ハ容レラレナカッタ、、
○議長(子爵岡部長職君)
併シ三十四番ト同ジ考ノ諸君ガ殘ツテ居リマス其方デ主張サレテ居マス、サウスルト延期ト云フ方ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者
(「採決々々」ト呼ブ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
ソレナラ採決致シマス
○三十六番(横田國臣君)
私ハ延期說デスガ、、、、、
○議長(岡部長職君)
併シ延期讀ハ採決シマシタラ手ヲ御擧ゲ下スツタ方ガナイノデスカラ、之ニ付イテ採決致シマス、是ニハ花井君ノ修正說ガアル、一應讀ミマセウ、第一項「懲役」ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フ、第二項「五年以下ノ懲役」ヲコ二年以下ノ懲役」ニ改メル、「五千圓以下ノ罰金」ヲ「三千圓以下ノ罰金」ニ改メル、「懲役」ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フ、之ヲ一括シテ採決シテ宜シウゴザイマスカ
(「一ツヅツ願ヒマス」ト呼ブ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
ソレナラ第一項ノ「懲役」ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フト云フ、之ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○議長(子爵岡部長職君)
少數デゴザイマス、次ニ「五年以下ノ懲役」ヲ「三年以下ノ懲役」ニ改メ、「五千圓以下ノ罰金」ヲ「三千圓以下」ニ改ムル
(「ソレモ二ツニ願ヒタイ」ト呼プ者アリ)
○議長(子爵岡部長職君)
「五年以下ノ懲役」ヲ「三年以下ノ懲役」ニ改ムル、之ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者多數
○議長(子爵岡部長職君)
是ハ多數デゴザイマス、次ニ「五千圓以下ノ罰金」ヲ「三千圓以下ノ罰金」ニ改ム、之ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者多數
○議長(子爵岡部長職君)
多數デゴザイリ、ス、次ニ「懲役」ノ下ニ「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フ、是ニ同意ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○議長(子爵岡部長職君)
少數デス
○二十二番(花井卓藏君)
今日ノ會ニ御定メヲ願フコトハ御迷惑デゴザイマセウガ、二百六十一條ノ五ノ第一項竝ニ第二項中「若クハ禁錮」ノ五字ヲ加フト云ラ修正ニ付イテ再議ヲ求メマス、ソレハ理由ハ二百六十一條ノ四ニ於テモ申上ゲテ置キマシタケレドモ更ニ別段ナル大ナル理由ガアルノデアリマス、ソレハ刑法上ノ理由デアリマス、刑法ハ撰擇刑ニ付イテハ甚ダ不詮索デアリマスルケレドモ漬職ノ罪ニ關シテハ必ズ懲役禁錮ノ撰擇ニナツテ居リマス、必ズ漬職ノ罪ニハ禁錮ノ事柄ヲ逸シテ居ラヌノデアリマス、前ノ方ガ御採用ニナツタニ付テハ凡ソ濱職ノ罪ニ付イテハ必ズ刑法テ加ヘテ居ルト云フ加趣旨ヲ御酌取リヲ願ツテソレダケハ揃ヘテ戴キタイト思ヒマス、二百六十一條ノ三ヤ四ヨリモ最モ重キ理由ヲ私ハ二百六十一條ノ五ニハ有ツテ居リマス、此點ニ付イテ再議ヲ付スル杢云フ動讓ヲ出シテ置キマス、丁度二百四十七條ヲ以テ二百六十一條ヲ維持セラレタト同ジ趣意デ極メナケレバ往カヌ
○十五番(石渡敏一君)
私ハモウ一ツ擴クシテ勤議ヲ出シテ置キタイト思ヒマス、今日迄成程決議ニハナツテ居リマスケレドモ、刑ノコトハ其時々ニ極ツテ殊更ニ不權衡ヲ生ジテハ面白クナイト思ヒマス、是ニ付イテハ起草委員ニ於テ之ヲ一ツ比較シテ下スッテ此點ト此點トハオカシイ、是ニ付イテハ再議ヲ求メルト云フヤウナ風ニ願ツテ置キマス、刑ノ所ヲ全部終ッテデ宜シウコザイマスガ全部ニ付イテ求メテ置キマス
○議長(子爵岡部長職君)
是ハ起草委員ニドウカ考ヘテ御調ヲ願フヤウ――ニ、本日ハ最早時刻モ移リマシタカラ是デ散會致シマス
午後六時散會