商法(~1951年)

第二次法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録 第9回

参考原資料

備考

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法律取調委員會第九回議事速記録
出席委員
一番  富井政章君
二番  岡野敬次郞君
三番  富谷鉎太郞君
四番  齋藤十一郞君
七番  豐島直通君
九番  古賀廉造君
十番  梅謙次郞君
十二番  志村源太郞君
十三番  原嘉道君
十五番  穗積八束君
十六番  河村善益君
十七番  阿部泰藏君
十八番  鵜澤總明君
十九番  石渡敏一君
二十番  江木衷君
二十一番  田部芳君
二十二番  花井卓藏君
二十四番  松室致君
二十五番  磯部四郞君
二十六番  岸本辰雄君
二十七番  小山溫君
二十八番  長谷川喬君
三十番  内田嘉一君
三十一番  河村讓三郞君
三十二番  村田保君
三十四番  穗積陳重君
三十五番  横田國臣君
三十七番  松波仁一郞君
三十九番  平沼騏一郞君
○會長代理(村田保君)
是カラ開會致シマス、只今會長ガ議會ニ差支ガアルサウデゴザイマスカラ、私ガ此處デ代理ヲ致シマス
○一番(富井政章君)
今日ハ二百六十一條卽チ罰則ニ掛カルノデアリマスガ、前ニ組一織變更ノ問題ガ御預リニナツテ居リマス、ソレカラ前ニヤリマスカ、或ハ罰則ヲヤリマスカ、吾々ノ方ハドレデモ宜シイ、ドウゾ多數ノ御考ヘ次第デドツチカ御極メヲ願ヒマス
○會長代理(村田保君)
只今主査委員長カラ意見ガ出マシタガ如何デゴザイマセウカ諸君ノ御考ヘヲ、、、、
○二十九番()
此組織中ノ最モムヅカシイ問題ハ確カ前回ニ若槻委員ガ大分發言サレタヤウデアリマスカラ、又組織變更ニ付テハ松波委員モ意見ガ出シテアリマスガ、是等ノ兩君ハ見ヘマセヌ、是ニ反シテ罰則ニ付イテ意見ノ出タル花井君ハ今日出席シテ居ラレマスカラ、寧ロ續イテ罰則ノ方ニ進メタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス
(「贊成」ト呼ブ者アリ)
○會長代理(村田保君)
ソレデハ罰則ノ方カラヤルコトニ致シテ別ニ御異存ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○會長代理(村田保君)
ソレナラ二百六十一條カラ、、、、
書記朗讀
取締役、株式合資會社ノ業務ヲ執行スル社員、監査役又ハ株式會社若クハ株式合資會社ノ淸算人若クハ支配入カ其任務ニ背キ會社ニ財產上ノ損害ヲ生スヘキ行爲ヲ爲シタルトキハ七年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
○四番(齋藤十一郞君)
此二百六十一條ニ付キマシテ大體說明ヲ致シマス、二百六十一條ノ規定ハ大體ノ趣旨ニ付キマシテハ現行法ノ罰則中ニゴザイマスル事柄以外ノコトデアリマシテ、最モ現行法ノ罰則中ニアリマスル事柄デ、中デ解釋上是ニ含ムベキモノトシテ特ニ規定致サナケレバナラヌ事柄モアリマス、ソレハ後ニ申上ゲマスガ兎ニ角現行法ニハゴザイマセヌ趣意ノ規定デアリマス、會社ト申シマシテモ株式會社ト株式合資會社デアリマスガ、其二ツノ會社ノ取締役、業務執行社員、監査役、淸算人、支配人等ノ行爲ヲ罰則ニ規定スルノデゴザイマス、此規定ハ申上ゲルマデモゴザイマセヌデ、刑法ノ二百四十七條ニ對シマシテ特別規定ヲナス所ノ一箇條デアリマス、刑法二百四十七條ハ申上ゲルマデモナク所謂背信罪背任ト申ス犯罪ノ規定デアリマスガ、其中カラシテ會社ノ機關ヲ除外致シマシテ、是等ノモノハ特ニ重ク罰スル必要ガアリト認メマシテ、茲ニ特別規定ヲ設ケマシタ次第デゴザイマス、刑法ノ二百四十七條ト御對照ニ相成リマスレバ如何ナル點ニ於テ重イカト云フコトハ自ラ明カデアルトハ存ジマスルガ、念ノ爲メニ申上ゲテ見レバ刑法ノ二百四十七條ニ於キマシテハ自己若クハ第三者ノ利益ヲ圖ル目的デアルカ、又ハ此會社ノ場合ニ當嵌メテ見マスレバ會社ニ損害ヲ加フルノ目的ト云フノガ必要ニナツテ居ルノデアリマス、併ナガラ此刑法ニ於キマシテハ其目的ハ要シナイ利益ヲ圖リ或ハ損害ヲ加フルト云フ目的ヲ要シナイト云フ主義ニ致シマシタノデアリマス、只其任務ニ背イテ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲デアルト云フコトヲ豫見ヲ必要トスル譯デアツテ其目的ト云フモノハ必要デナイ、是ガ一ノ點デアリマス、モウ一ツノ點ハ刑法ノ規定ニ依リマスレバ本人ニ財產上ノ損害ヲ加ヘタルトキト申シマスカラシテ、損害ノ結果ノアリマスルコトガ要素トナツテ居ルト思フノデアリマス、然ルニ此案ニ於キマシテハ加害ノ結果ヲ要素ト致シテ居リマセヌ、只財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ヲナシ終ツタナラバソレデ犯罪ガ成立スル、斯ウ云フ趣意ニナツテ居リマスカラシテ、此目的ヲ要セヌト結果ヲ要セヌト此二ツノ點ニ於キマシテ、犯罪行爲ニ屬シマスル行爲ノ範圍ガ擴ツタノデアリマス、此點ニ於キマシテ實際ニ於テハ重ク罰スルト云フコトニナルノデアリマス、ソレカラ第二ノ點ハ是ハ最モ明カナ點デアリマスカラ御覽ニナレバ分ルノデアリマスガ、刑法ノ懲役刑ガ五年以下トナツテ居リマスノヲ七年以下トシテ二年ダケ重ク致シマシタ、ソレカラ罰金ノ方ハ千圓以下ト云フノヲ五千圓以下ソレダケ重ク致シタノデゴザイマス、株式會社、株式合資會社ハ申上ゲルマデモナク財產團體デアリマスルノデ會社ノ財產ヲバ減ラスト云フコトハ會社自己ニ取リマシテモ一般社會ニ取リマシテモ甚ダ重大ノ結果ヲ惹起スノデアリマシテ、其會社ノ財產ガ大ナレバ大ナル程社會ニ危害ヲ及ボス度ガ多イノデゴザイマスカラ普通ノ刑法ノ罰ヨリ重ク致ス必要ガアラウト思フノデアリマス、殊ニ目下ノ日本ノ株式會社ノ狀態ニ付キマシテハ殊ニ其必要アルカノ如ク認メラレマシタノデアリマス、何レ此條ニ付キマシテハ花井委員カラシテ修正案ヲ御提出ニナッテアリマスコトデアリマスカラシテ、色々御議論モアラウト思ヒマスガ、大體ハ右ノ通リニ說明致シマス、只御注意ノ爲メニ申シテ置キマスノハ現行法ノ二百六十二條ノ四號デゴザイマス、此二ツノ規定ガ此案ニハ形ニ於テ漏レテ居ルヤウデアリマスノハ、解釋ト致シマシテモ二百六十一條ノ中ニ含マルデアラウト云フ意見カラシテ、之ヲ形ニ於テ除キマシタ次第デアリマス、其點ダケ特ニ申上ゲテ置キマス
○二十二番(花井卓藏君)
此案ヲ信用スル爲メニ伺ツテ置クノデスガ二百六十一條以下ノ罰則ニ於テ商法ノ規定ニ背キタル者ヲ制裁スル條規ト云フモノハ殘ラズ網羅セラレテアルト云フ御答ヘガ得ラル丶デアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
此案ハ大體ニ於キマシテ現行法ノ罰則ニ規定サレテゴザイマスル行爲ニ付テ、ソレヲ土臺ト致シテ規定ヲ致シタノデアリマスガ、大體ニ於テ網羅シテ居ル積リデハゴザイマスルガ、只念ノ爲メニ申上ゲテ置クノハ刑法ノ犯罪ト競合スルモノモゴザイマセウ或ハ刑法ノ犯罪トシテ刑法デ罰スベキモノデ是ニ規定ノナイモノモアルカモ知レマセヌ、先ヅ大體ニ於テハ網羅スル稽 リデゴザイマス
○二十二番(花井卓藏君)
後ノ方ノ御答デアルナラバ大ニ爭ハナケレバナラヌ點ガアリマスガ、私ノ問ノ主旨ガ前ノ答ヘヲ得ルニ在ツテ存スルノデアリマスカラ、起案者ハ商事罰トシテ刑ヲ科スベキモノトシテハ、先ヅ是デ遺漏ノナイモノト見ルト云フコト」シテ私ハ滿足シテ置クノデアリマス、ソレカラ次ニ御答ヘヲ乞ヒタイ點ハ商法ガ此刑ヲ科スベキモノト認メタル條項ハ悉ク商法罰則ヲ以テ支配ヲシテ、刑法管轄ト云フモノハ全然離レルト云フ主旨ニ於テ案ハ立テラレタモノデアリマセウカ、此點ハ後ノ方ノ御答ヘニ幾分カ御趣旨ノアル所ヲ網羅サレタヤウニ考ヘラレルノデアリマスガ前間ハ前間トシテ只今ノ問ニ對シテハ御答ヘヲハツキリ願ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
此商法ノ罰則ハ商法ニ規定シテアリマスル商事關係ニ於テ罰則トシテ罰スベキモノガ全體ヲ網羅スル趣意デ規定シテ居ルノデハアリマセヌ、無論原則トシテハ刑法罰ニ當ルモノハ刑法デ罰スル是ハ當リ前ノコトデアリマス、只刑法ノ罰則ニ例外ヲ設クル必要ノアルモノ、或ハ刑法ノ罰例ニ當ラナイモノ特ニ商法ノ規定中ニ規定スル必要ノアルモノヲ主トシテ茲ニ規定シタノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
サウ致シマスルト云フト刑法ノ管轄ハ放レナイモノデアルト云フ御主旨ナリト解釋ヲセヌケレバナラナイノデアリマスカラシテ、刑法規定ニ商事罰トシテ規定セラレテアルモノト見ラレ得ベキ條文ガアツタナラバソレニ讓ラレテ居ルノデアル、ソレカラ又刑法ト同ジヤウナ法文デアツテ實質ノ幾部分カニ變化ノアリ或ハ刑ニ幾分カノ變化ノアツタ分ハ商法ノ罰則ニ依ル主旨デアル、斯ウ云フ趣旨ノ御答ヘナノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
左樣デゴザイマス
○二十二番(花井卓藏君)
サウ致シテ見ルト云フト商事罰トシテ嚴格ナル意義ニ於テ獨立シタル商事刑法ト云フ意味ニ罰則ハ見ズシテ可ナルモノデアリマセウト存ジマスガ、其通リノ見解デ宜シウゴザイマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其通リデ宜シカラウト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
第二百六十一條ニ付テ御尋ネヲ致スノデアリマスガ、是ハ御說明ノ中ニモアツタヤウデアリマスガ刑法ノ二百四十七條ノ規定ト云フモノニ依ツテハ滿足ガ出來ナイノデアル、ソレ故斯ノ如ク之ヲ刑法ニ比スレバ事體輕クシテ、之ヲ刑法ニ比スレバ制裁ハ重クシナケレバナラヌ必要ヲ認メテ本文ヲ立テタノデアル、斯ウ云フ御說明デアツタノデアリマスガ、斯ノ如キハ勿論時ノ弊ヲ看破セラレタ規定デアリマスカラ、實例ハ直ニ時ノ弊ノ上ヨリ示サルベキ責任ガアルデアラウト思ヒマス、試ニ間ハヌ豫見ノミヲ以テ罰シナケレバナラナイ必要、結果ナクシテ尙ホ且ツ罰シナケレバナラヌ必要、而モ之ヲ刑法ニ比スレバ自由刑ニシテ二年ヲ加ヘ、財產刑ニシテ四千圓ヲ增スト云フ程時ノ弊ヲ認メタル實例ガアレバニ三示シテ戴キタイト思フ
○四番(齋藤十一郞君)
實例ヲ示セト云フ御要求デアリマスガ、色々實例モゴザイマセウガ最モ世ノ中デヤカマシイ實際問題トシマシテ會社ノ弊害トシテ擧ゲラレテアリマスルコトハ、會社ノ役員ナドガ自己ノ株劵ヲ取得スル、詰リ自己ノ株劵ヲ殊ニ取引所等ニ於テ取得スルノデアリマス、サウシテ一方會社ノ信用ヲ高メテ會社ガ如何ニモ餘裕ノアル會社ノ如ク見セシメル、其目的ハ會社ニ損害ヲ加フル目的デハナイデアラウト思フ、會社ヲ善クシヤウト云フ目的デアリマセウト思ヒマスガ、其爲ス所ノ行爲ト云フモノハ投機デアリマス、此投機ト云フモノハ利益ヲ俘ノフ場合ニハ宜シウゴザイマスガ、結果トシテ不利益ヲ俘ノフコトガ中々多イノデアリマシテ、是ガ爲メニ會社ノ財產上ノ破綻ト云フモノガ屡々起ルノデアリマス、是等ガ最モ主ナ例デアラウト思フノデアリマス、ソレデアルカラシテ會社ガ自己ノ株ヲ取得スル、自己ノ株ヲ質ニ取ル、サウ云フ最モ主ナル弊害ハドウシテモ刑法ノ規定デハ制裁ガ付カヌプデアリマス、ソレ故損害ヲ加ヘル目的ヲ要素ト致シマセヌデ只豫見デ宜シイ、斯ウ云フ趣意デ此案ガ出來タ次第デゴザイマス
○二十二番(花井卓藏君)
只今ノ例ハ齋藤君ノ解釋トシテハ二百六十一條ニ當ルカモ存ジマセヌケレドモ、私共ノ見ル所デハ矢張會社ニ財產上ノ損害ヲ加ヘタト云フ事柄ニ刑法ノ解釋トシテハ言ヘルデアラウト思フノデアル、併シソレハ解釋上ノ爭デアリマスカラ、後ニ爭コトニシテ私ノ方カラ一例ヲ以テ御尋ネヲシタイノデアリマスガ、是ハ裁判上實例ニナツタ問題デアル、所謂日本製糖株冖式會社ノ重役ノ室丁件ニ關シテ預ケ合ト云フ問題デアル、是ハ背任ノ罪トシテ二百六十一條ノ罪ト御認メニナルノデアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
左樣デゴザイマス、ソレハ一ノ例トシテ矢張リ考ヘルトキニ話ガ出マシタト記憶シテ居リマス
○二十二番(花井卓藏君)
日本ノ裁判所ノ甚ダ誤リタルコトデハゴザイマスルケレドモ、卽チ東京地方裁判所ニ於テ横領ノ罪ナリトシテ訴ヲ起シテ居ルト云フコトハ全ク刑法ノ規定ニ添ハナイト云フコトニ立案者モ見タモノトシテ解シテ宜シウゴザイマセウカ、アナタノ解釋上ノ意見トシテ卽チ起案者トシテノ齋藤君ノ意見ハドウデス亭
○四番(齋藤十一郞君)
私ノ一個ノ意見トシテ申シマスガ、刑法ノ横領罪デ宜クハナイカト思フ
○二十二番(花井卓藏君)
其御答ヘデ滿足シマス、是ハ商事刑法トシテ獨立ノモノデナイノデアッテ或場合ニハ普通刑法ト競合スベキモノデアルト云フ御論ガアリマシタカラ囲疑ヒガ起ルノデアリマスガ、二百六十一條ノ罪卽チ任務ニ背イテ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ヲ爲シタル者ガアル、ソレハ豫見ノミデ十分デアル、必ズシモ目的アルヲ要セヌ、必ズシモ損害ノ結果バカリヲ要セヌ、斯ウ云フ御說明デアリマシタガ、若シ進ンデ損害ヲ加フルノ目的ヲ以テ背任務ノ行爲ヲ働イテ且ツ財產上ノ損害ヲ加ヘタト云フ場合、之ヲ換言スレバ二百六十一條ノ行爲ヨリ一歩進ンダル場合アリシナラバ何ヲ以テ制裁セラル丶ノデアルカ、思フニ刑法二百四十七條ニ依ラル丶ニ相違ナイト思フノデアル
○四番(齋藤十一郞君)
矢張リソレハ二百六十一條デ宜クハアリマセヌカ
○二十二番(花井卓藏君)
ドウシテ宜イノデス刑法五十五條、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
イエサウデハアリマセヌ、目的ヲ生ズト云フコトハ定ロヲ生ジタト云フコトデ、、、、
○二十二番(花井卓藏君)
商事刑法獨立ト云フ主義ナラ其處マデ行ツテモ宜イノデアリマスガ、刑法ニソレマデ進ンダル場合ヲ規定シテアルカラ、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
此案ハ刑法中ノ他人ノ爲メニ業務ヲ取扱フト云フ者ノ中カラシテ是ダケノ人ヲ除外シテ居ルノデアリマスカラ、卽チ取締役等ヲ除外シテ居ルノデアリマスカラ、アノ中ニハ此案ガ成立チマスレパ取締役等ハ這入ラナイコトニナルデアラウト思ヒマス
○二十二番(花井卓藏君)
サウスルト二百六十一條ノ規定ニ含マレテ居ル身分ヲ有スル犯人ハ、刑法二百六十一條ノ中ニ含マレナイト云フ趣旨ニナルノデアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其通リデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
ソレカラモウ一ツ御尋ネヲシタイノデスガ、是ハ甚ダ不案内デ分ラナイノデアリマスガ、少シハ調ベテ見タ積リデアリマスガ、諸國ノ法制ノ上ニ於キマシテ本案ノ如キ場合ニハ七年以下ノ懲役ヲ科スルト云フ立法例ガアルデアリマセウ、アレバ敏ヘテ戴キタイト思フ
○四番(齋藤十一郞君)
是ハ御參考ニ申上ゲマスガ、實ハ此規定ハ獨乙商法ノ三百十二條ニ依リマシタ規定デゴザイマス
○二十二番(花井卓藏君)
分リマシタ矢張リナイノデス
○四番(齋藤十一郞君)
獨乙商法ハ五年デアリマシテ矢張リ普通刑法ノ程度マデニ當ルベキ行爲ニ付テ五年ト同ジデアリマス、併ナガラ獨乙刑法ノ五年ト云フノト只今日本刑法ノ五年ト云フノデハ餘程違ヒバセヌカト思フ、獨乙刑法ノ五年トナツテ居ルモノハ日本ノ新刑法デハモツト重クナツテ居ルマイカト思フノデゴザイマスソレカラモウ一ツ實例ノゴザイマスノハ丁度是ニ當ルベキ英吉利法ニ七年トナツテ居ル
○二十二番(花井卓藏君)
私ノ見ル獨乙商法デハ懲役及ビ丁抹デハ罰則トアルノデ、獨乙刑法ノ十六條ノ規定ニ依ツテ單ニ懲役トアづレパ五年以下一日以上デアツタト思ツテ居リマスガ、ソレヨリ上ツテ居ルト云フノハ何カ變ツタノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
丁度比例ガ獨乙刑法デ五年トシテアルヤウナ行爲ハ日本ノ新刑法デハ此例ガモツト高クナツテ居ルト思フノデアリマス、英吉利ニモ例ガアリマスカラ七年ハ必ズシモ酷デハナカラウト思フ
○二十二番(花井卓藏君)
英吉利ニドウ云フ例ガアリマス、法律ト條文ヲ示シテ貰ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ尙ホ調ベマシテ御答ヘシマス
○十九番(石渡敏一君)
二百六十一條ヲ見マスルト財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ヲ爲シタルトキハ云々ト刑ヲ揭ゲテアルノデゴザイマス、此場合ハ刑法ノ所謂犯意ノアル場合デアリマセウカ、過失ニ出デタトキモ矢張リ此中ニ含マレルノデゴザイマセウカ、ソレヲ一ツ伺ヒタイ
○四番(齋藤十一郞君)
過失ニ出マシタ行爲ハ二百六十一條ニハ含マナイ趣意デゴザイマス
○二十二番(花井卓藏君)
是ハ文字ノコトデスガ私ハ分ラヌカラ御尋ネスルノデスガ、商法ノ各條文中罰則以外ノ規定ニ於テ任務ニ背キト云フ文字ヲ遣ッタ所ガアル、ソレカラ任務ヲ怠タリト云フコトヲ遣ツタ所モアル、ソレガ區別ガアルカト詮議ヲ致シテ見マスト、或場合ニハハツキリ區別ガアルカノ如クニ見ヘルノデアリマスガ、或場合ニハ同ジ意味ノ如ク見ヘルノデアリマスガ、用例トシテ立派ニ區別ガ立テラレテアルノデゴザイマセウカ如何デアリマスカ
○四番(齋藤十一郞君)
用例トシテ別ニナイノデアリマスガ、茲ニ背クト云フ文字ヲ遣ヒマシタノハ刑法ノ文字ヲ用ヒタノデアリマス、任務ニ背キタル行爲ヲ爲シ、アノ文字ヲ用ヒタノデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
怠タリモ矢張リ背キノ中ニ這入ルノデセウカ`
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ事實問題デ極マルノデハナイカト思フ
○二十二番(花井卓藏君)
商法ニ怠タリト書イテアル文字ハ背キノ中ニ包含セラル丶ベキデアラウカ、同ジ意味ノ文字デアラウカ、獨立シタル文字デアラウカト云フコトヲ伺ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
必ズシモ同ジト云フコトニハナリマスマイ、矢張リ場合ニ依ツテ、、、、或ハ怠リノ方ガ場合ニ依ツテハ少ナイカト思フ
○十番(梅謙次郞君)
チヨツト私ハ花井君ニ質問シタイ只今ノ點ハ立チマシタ序デスカ原案ヲ解シテ居ル所ヲ述ベテ教ヘヲ乞ヒタイ小思ヒマス、私ハ任務ヲ背キト云フ中ニ有意ノ怠リモ這入ルト思フ、只ウツカリシテ居ツタノハ怠リノ中ニ這入ラヌカトモ思フ、ソレカラ花井君ノ案ハ罰ヲ輕クスルト云フ點ハ一ノ要點デアラウト思ヒマス、ソレカラ犯罪ノ要素トシテ刑法ノ第二百四十七條ノ條件ト殆ンド同ジニシヤウト云フノガ此案ノ目的ノヤウデアリマス、ソコデ贊否ヲ決シマスル爲メニ此修正案ノ御注意ヲ承ハツテ置カナケレパナラヌ、私共ノ考ヘデハ刑法ノ二百四十七條ト云フモノハ最モ廣イノデアリマス、例ヘバ極ク個人間ノ關係ニ於テ普通ノ受任者ガ委任者!爲メニ或事ヲ處理スルト云フコトモ無論含ムノデアリマス、非常ニ廣イ中ニハ隨分輕イモノモアル、株式會社又ハ株式合資會社ノ重役ノ行爲ノ如キニ至リマシテハ、何分其會社ノ執ル所ノ事業ガ大キク、從ツテ株主トシテモ隨分多クノ人ニ利害ノアルコトデアリ、延イテ社會ニ大ナル利害ノ影響ヲ及ボスモノデアル、故ニ此株式會社若クハ株式合資會社ノ重役ガ惡事ヲナシタ場合ニハ同ジダケノ惡事ヲナシマシテモ、事情ハ餘程重ガルベキモノ丶ヤウニ私ハ考ヘル、ソレデ此改正案ガ此儘デ宜イカドウカト云フコトニ付テハ私モ聊カ剣斷ニ迷ヒマス、ドウモ是ハ數ノコトデスガナゼ五年デハナラヌカ七年デナクテハナラヌカト云フト大分疑ハシイノデアリマスケレドモ、大體ニ於テ刑法ノ一般ノ刑ニ較ブレバ重クテモ宜シイ、重クシナケレバナラヌカ、ドウカバ別問題トシテモ、重クテ宜イ罰デアルト斯ウ思フノデアリマス、所ガ花井君ノ御案ニハ五年以下ノ懲役若クハ禁錮トアル、罰金ノ方ハ成程重クナツテ居ルガ五年以下ノ懲役若クハ禁錮トアル、此禁錮ト云フモノハ刑法ノ二百四十七條ニハナイ、私ハ此刑法ノ趣意ガドウ云フ趣意デアルカト云フコトハ固ヨリ研究モシテ居リマセヌケレドモ、察スルニ茲ニ揭ゲタル隨分憎ムベキ行爲デアツテ重ク罰スベキ性質ノモノデアルカラ、定役ニ服セザル禁錮位デハ制裁ガ輕ルイ若シ罰金デ濟マナイ場合デアルナラバ寧ロ定役ニ服スベキ懲役ノ刑ヲ科スベキモノト見タノデアラウト想像致シマス、外ノ場合ヨリモ却テ重ク罰シテモ宜イヤウナ事情ノアル株式會社、株式合資會社ノ重役ノ犯罪ニ付テハ却テ刑法ノ一般ノ刑ヨリモ此點ニ於テハ却テ輕キ案ヲ御立テニナツタ御趣意ガ那邊ニ在ルカト云フコトヲ、贊否ヲ決スル爲メニ伺ヒタイノデス
○二十二番(花井卓藏君)
最後ノ修正案デアリマスケレドモ、修正案ノ說明ヲセヨト云フ御質問ノ御趣旨デアリマスカラ理由ヲ短ク申上ゲヤウト思フノデアリマス、修正案ノ趣旨ハ全ク刑法二百四十七條ノ通リノ行爲ノアリタル場合ノミヲ罪スベキモノトシテ立テタノデアリマス、其然ル所以ハ矢張リ基礎ヲ刑法ニ採ツタノデアリマス、而シテ刑法二百四十七條ニ立法ノ趣意ヲ酌ソダノデアリマス、二百四十七條ノ規定ノ必要ト云フモノハ固ヨリ會社ノ爲メニノミ設ケラレタ次第デハゴザイマセヌケレドモ、最モ憂フル時ノ弊ト致シマシテハ株式會社等ニ在リテ善良ニ事務ヲ處理スベキ責任アル者ガ自己ノ利益ヲ圖リ會社ニ損害ヲ加フルト云フ目的デ、有ユル罪惡ヲ犯シテ居ル斯ノ如キモノハモト民事上ノ罪ニ委ネテ置テ宜シイノデアル、ケレドモソレノミデハ弊ヲ救フノ途ガナイ、茲ニ於テ刑法管轄ニ移スノ必要アリト認メラレテ本條ノ如キモノガ設ケラレタルモノト私ハ信ジテ居ルノデアル、會社ノ爲メニ生ミ出サレタルノミデハコザイマセヌ、一私人ト雖モ事務處理ノ任ニ當ル者ガ任務ニ背キタル行爲ヲナシタルトキハ同樣デゴザイマスガ、法ノ見ル所ハ其會社タルト私人タルトヲ問ハズ苟モ他人ノ爲メニ働ク者ガ自己ノ爲メニ會社若クハ他人ニ損害ヲ加ヘル如キコトガアツタナラバ、之ヲ處罰シナケレバナラヌト云フ趣旨ニ於テ二百四十七條ハ設ケラレタノデアル是ニテ十分デアル、斯ウ云フ私ハ趣旨ニ於テ此法文ヲ立テタノデアリマス、而シテ或場合ニ於テハ二百六十一條ニ揭ゲラレテアル程度ダケデ救フベカラザル所ノ弊ノ生ズルコトモアリ得ルデアリマセウ、併ナガラ私ハ苟モ實際上ノ損害ノ結果ヲ見ザル場合ニ於テハ刑罰ノ責任ニ間ハズトモ、是レニ途ハアルデアラウ、モト利益ヲ目的ト爲ス所ノ會社デアリマスレバ其目的ナル利益ト云フモノヲ聖ロセラレザル狀態ニ於テ民事的商事的ニ救濟シ得ル途ガアツタナラバ罰セズシテ之ヲ救フコトガ得策デアラウト云フコトモ亦此修正案ノ中ニ含マレテアルノデアリマス、ソレカラ梅委員ヨリノ御尋ネニ相成リマシタル刑ノ問題デアリマスルガ、是モ刑法ガ本案ノ如キ場合ヲ慮リテ而シテ之ヲ量定スルニ五年以下ノ懲役ヲ以テスレバ足ル千圓以下ノ罰金ヲ以テスレバ足ル、斯ウ規定致シテ居リマスカラ、ソレヨリ以上ニ進ムベキ必要ハナイ、況ンヤ刑法ハ程度ノ進ミタル者ヲ罰スルニモ拘ハラズ、五年ニシテ滿足シテ居ル、二百六十一條ハ刑法ニ比スレバ程度ノ低キモノヲ罰スルニ二年ヲ加ヘテ居ルト云フ理由ヲ認メルコトガ出來ヌカラ避ケタ次第デアル、而シテ罰金三至リマシテハ刑法ノ千圓ヲ五千圓ニ、二百六十一條ガ改マツテ居ルノハソレニ滿足致シタ理由ハ齋藤君ノ述ベラレタ通リデアリマス、ソレハ此點ニ於テ滿足シヤウト思フノデアリマス、ソレカラ禁錮ヲ加ヘマシタ理由ハ是ハ學術問題トシテヨリハ實際問題トシテ私ノ意見ヲ御信用ヲ願ヒタイト思フ、幾多ノ會社ノ破綻事件ニ携ツテ經驗ヲ有シテ居リマスケレドモ、責任論トシテハドウシテモ否定スルコトノ出來ナイ位置ニ在ル人、身分ハ取締役重役デアル、事實事務ハ執ラズト雖モ每日會社ニ出勤ヲシテ居ル、併ナガラ問題ニ掛ツテ居ル行爲ハ外形的ニハタヅサハッテ居ルヤウナ形ヲ保ツテ居ルケレドモ、實際ハ何ニモシナイト云フヤウナ場合ガ幾ラモアルノデアル、斯ノ如キ場合ニ於キマシテ不問ニ附スルコトガ法律上出來ルカト言ヘバ勿論出來ナイノデアリマス、固ヨリ法ニ間ハナケレバナラヌ、問ハナケレパナラヌ場合ニ於テ責任上與型ヲ正シウセザルベカラザルモノニ相違ヒナイケレドモ、其人ノ當時ノ狀態カラ見タナラバ無爲ト云フコトノ推定ハ出來ヌケレドモ、強キ有意ノ推定ハ出來ナイノデアル、荷トカシテ輕キ途ヲ讓シテヤリタイモノデアルト云フヤウナ場合ハ厦々アルノデアル、是等ノ者ニ對シマシテハ禁錮刑ナリ財產刑ナリヲ科シテ宜シキニ添ウヤウニシタイト云フ主旨デアリマス、撰擇ヲ多クスル所以ハ情狀ニ誠ニ變化ノ多イト云フ關係ヲ以テ居ルト云フ趣旨精神ニ過ギヌノデアリマス、ソレカラ今一ツノ理由ハ只今齋藤君ヨリ御示シニナリマシタガ現行商法ノ二百六十二條ノ第四號ア如キ若クハ第七號ノ如キモノガ直ニ原案二百六十一條ノ罪ニ該當スベキモノデアルサウデアリマス、或ハサウデアラウト思ヒマス、二百六十二條ノ規定ニ依リマスルト云フト十圓以上千圓以下ノ科料ニ足リテ居ッタノデアル、然ルニ原案ハ之ニ滿足セズシテ七年以下ノ自由刑ヲ科シ、若クハ五千圓以下ノ罰金ニ處スルト云フガ如ク極メテ非常ナル刑ニ激變ヲ來シテ居ルノデアル、必要ノ上ニ於キマシテ刑ノ激變モ已ムヲ得マセヌ次第デアリマスケレドモ、餘リニ變動ガ過デルノデアル、過日ノ總會ニ於キマシテ私モ申上ゲテ置タコトガアッタヤウデアリマスガ、或場合ニ於テハ經過法ヲ以テ商法ノ要求セル所ノ規定ヲ斟酌スルト云フヤウナ御說モアツタヤウデアリマスカラ、ソレ等ノ點ヲ考ヘマシテモ餘リニ異常ナル激變ヲ生ゼシムル所ヲ罰セヌカラト言ツテ原案ノ主旨ヲ悉ク否定ヲ致サナケレパナラヌカラシテ矢張リ是等ノ間ノ調和ヲ圖ルガ爲メニ異議アナイ禁錮ナドト云フモノヲ入レテ置タラ宜クハナカラウカト云フヤウナ趣旨ニ過ギヌノデアリマス、是ガ修正案ニ對スル私ノ意見デアリマスガ、眞ノ目的ト云フモノハ私ハ矢張リ自由刑ト云フモノハ全部割リタイト云フノガ主タル私ノ目的デゴザイマスケレドモ、ソレハ迚モ行ハレサウモナイ小思ヒマスカラ、行ハレナカッタナラバ修正案ノ通リニシテ貰ヒタイ、修正案モ亦全體ノ法ガ行ハレズシテ刑ノ法ガ殘ルト云フコトデアルナラバ其刑ノ法ニ於テモ滿足シテ宜シイ、斯ウ云フ趣旨ナノデス是ハ最後ノ修正案ナノデ先ヅ第一ハ私ハ大問題トシテ茲ニ此商法罰則ヨリ自由刑ヲ削ルト云フ修正案ヲ出シタイト云フノデアリマスケレドモ贊成ガアルカナイカ分リマセヌカラ扣ヘテ置ク
○十番(梅謙次郞君)
チヨツト私ハ附加ヘマシテ伺ヒマス、只今花井サンノ御說明ニ依リマスルト、會社ノ實際ニ於テ此花井君ノ提出セラレタ修正案ニ相當スルヤウナ行爲ヲシタ者ト見ナケレバナラヌモノヽ中ニ、實際ハ左程重イ責任ハナイノダ惡意ガアルト云ヘバアルノダガ、ソレハ殆ンドモウナイ方ニ近イヤウナモノデ懲役ヲ以テ罰スル程ノ價値ノナイ者ガアルト云フ御話ガアリマシタ、是ニ付テ私ハ假リニサウ云フ者ガアルカモ知レマセヌケレドモ、先ヅ申スマデモナク此花井サンノ御案ニ致シマスレバ會社ニ損害ヲ加フルト云フ目的ガ證明セラレナケレバナラヌ、サウシテ任務ニ背キタル行爲ヲ爲シタルト云フコトヲ證明セラレズ、同ジク財產上ノ損害ヲ加ヘタト云フコトヲ、此三條ノ條件ガ證明セラレナケレバナラヌノデアル、ソレガ證明セラレタナラバ多少ボンヤリシタ人間モアルカモ知レマ七ヌガ、多クハ會社ノ重役ニナツテ年々多額ノ報酬ヲ受ケテ居ツタ者デ、サウシテ株主及ビ社會カラ信任ヲ受ケテ居ル人間ガ、ソレ丈ケノ行爲ヲシテソレデ懲役デハ重過ギルト云フヤウナコトハ私ハ滅多ニナカラウト思フ、若シ稀レニ在リトセバソレハ花井君ノ御案デアツテモ此改正案デアツテモ、ドチラデモ五千圓以下ノ罰金ト云フモノガアツテ、懲役ニ處セナイ場合モ見テ居ルカラ事情ニ依ツテハ罰金ニ處スルガ宜イノデアル、刑法モ刑ガ少ナイケレドモ亦ハ罰金ト云フコトニナツテ居ル、ソレハ右ノ三ツノ事實ガ皆證明セラレタニ拘ハラズ情ノ輕イ者ハ斯樣ニ輕キ刑ニ處スル、卽チ自由刑ハ科セヌト云フコトニナツテ居リマスカラ、其間ニ特ニ禁錮ヲ入レルコトハ如何ナル必要ニ依ツタノデアリマセウカ、或ハ花井君ノ理由デ刑法二百四十七條ノ中ニ禁錮ト云フモノヲ入レナカツタノガ惡ルイノデアルカラ、此場合ニ於テ其點ヲ改ムルト云フ御趣意デアルカモ知レヌト思ヒマスガ、其點ハ聊カ了解ニ苦ムノデアリマス、ソレカラ其禁錮ヲ入レルト云フコトガ非常ニ重イノデアレパ別段デアリマス、ソレカラ罰金ノ額ガ千圓デ少ナ過ギルト云フノデ五千圓ト云フコトニナレバ是ハ別段デアリマスガ、花井君ノ御案デアルト寧戶之ハ僅ノ違ヒノコトデアルカラ商法ノ規定ヲ設ケズシテ刑法ノ二百四十七條ニ滿足シテ置テモ宜クハナイカト云フヤウナ氣ガ致シマス、此原案ノ方デハドウモソレデハ實際制裁ガ輕イ、其輕イト云フ意味ハ罰ガ輕イト云フバカリデナクシテ、損害ヲ加フル目的ヲ證明シタ場合デナケレバ罰セラレヌ、財產上ノ損害ヲ現實ニ加ヘタル證據ガ出ナケレバ加ヘラレヌト云フノデ、此案ガ出來テ居ルヤウデアリマス、私ハ絕對ニ是ニ贊成シテ居ルト今申スノデハアリマセヌガ、ドチラカト云フト私ハ株式會社又ハ株式合資會社ノ重役ハ普通ノ委任關係ニ依ルモノ、其他ノ利害ノ小ナルモノニ較ベテハ槪シテ重ク罰スル方ガ宜イト思ヒマス、現行法ノ下デハ五年マデ往ケバ隨分重イカラソレデ宜イカモ知レマセヌガ、ドウモ只今ノ花井君ノ御說明デハ何ダカ足ラヌ、却テ大會社ノ重役ト云フモノハ責任ガ輕クテ寧口刑ノ輕ルキニ歸スル方ガ相當デアルド云フヤウニ聽ユル嫌ガアル、或ハ商法デハモウ自由刑ナドハナイ方ガ宜イカモ知レヌト言ハレマシタ所ハ其御趣意デナイカモ知レヌガ、ドウモ大會社ン重役ニ對シテ同情ヲ有タレタ御意見ノヤウデアリマスガ、私ハ善イ重役ニハ非常ニ同情ヲスルト同時ニ、惡ルイコトヲシタ重役ニハ成ルベク重ク罰スルト云フ考ヘヲ有ツテ居ルノデアリマスカラ輕クスルニハ及ハ鹽ヌト云フ考ヘデアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
禁錮ノ文字ヲ入レマシタ點ニ付テタッタ一ツノ理由デアリマスケレドモ缺ケテ居リマシタカラ補ツテ置キマス、矢張リ刑法罰ト商法罰ト云フモノハ多少ノ區別ガアルモノデアル、商法罰ハ之ヲ刑法罰ニ比スレバ幾分カ寛容ニ見テヤラナケレバナラヌモノデアルト云フ趣旨ヲ明カニスルト云フ理由モ含マレテ居ル、ソレカラ只今ノ御演說ノ中ニ大會社ノ重役ノ罪惡ニ同情ヲ有スル趣旨デハナイカト云フコトデアリマシタガ、サウデハナイノデ私ハ會社ナドト云フモノニハ何等ノ關係モナク、是等ノ者ノ罪悪ヲ庇フト云フ事柄ハ職務ノ上ニ於キマシテ尠ナカラザル利益アルノデアリマスカラ、成ルベク檢擧ノ激シカラソコトヲ望ムト同時ニ、又是等ノ罪惡ト云フモノヲ撲滅シテ財界ノ信用ヲ保ツト云フコトヲ熱心ニ希望スル者ニ相違ナイ、自由刑ヲ全部削ルト云フノハ刑法デ始末ガ付クカラ、任務ニ背キタル行爲ガアリシナラバ二百四十七條アリ、横領ノ行爲デアレバ横領ノ罪アリ、文書僞造ノ行爲アレバ文書僞造ノ罪ガアル必デアルカラ、格別之等ヲ割リマシデモ是等ノ罪惡ヲ社絕スル途ガナイト云フマデ申シタノデナイ、或ハ二百六十一條ノ二ニハ當リマセヌケレドモ、其幾分ト云フモノハ之ヲ刑法ニ比スレバ輕ルクナツテ居リハセヌカト云フ感覺モ起ルノデアリマス、是アルガ爲メニ刑法ノ適用ガ出來ヌナラバ輕ルクナツテ居リハセヌカト云フ感覺ガ起ルノデアリマスカラ、矢張リ嚴罰主義ハ嚴罰主義、自由主義デアリマスカラ、梅サンノ申サル」通リ斯ウ云フ修正案デアルナラバ全然刑法ニ讓ツテ宜イデハナイカ、無論進ンデ汝ノ修正案ハ刑法之ヲ規定スルト云フコトデ、ソレヲ換刑セラレヌガ爲メニ出シテ居ル修正案デゴザイマスカラ左樣ドウゾ、、、、
○一番(富井政章君)
花井君ノ修正案ハ幾ツモアルヤウデアリマスガ、只今御述ベニナッタ所ニ依レバ嘗テ配布ニナツテ居ル御修正案ハ最後ノ修正案デアツテ、先ヅ以テ自由刑ヲ除クト云フコトヲ得ズト云フコトデアッタヤウデアリマス、ソレデハ先ヅ自由刑ヲ除クト云フ修正案ガ出テ居ルト心得マシテ、サウシテ此書イタ修正案ハ最後ノ修正案トシテ、委員會デ述ベテモ宜シイノデゴザイマセウカ
(子爵岡部長職君會長席ニ着ク)
○二十二番(花井卓藏君)
ハイ
○一番(富井政章君)
簡單ニ私ノ疑ヒヲ述ベテ見タイト思フ、本條ト刑法二百四十七條トノ關係ハ最モ注意シナケレバナラヌコトデアルト考ヘルノデアリマ入、刑法二百四十七條ノ規定アルニ拘ハラズ、此本條ノ規定ノ置カレタト云フ趣意ハドウデアルカト言ヘパ、先刻梅君ガ述ベラレタ通リ取締役トカ株式合資會社ノ重役トカ云フモノニ付テハ=層嚴重ナ規定ヲ設ケナケレバナラヌト云フ考ヘカラ來テ居ルノデアラウト思フ、ソレデアルカラ犯罪ノ範圍ガ廣クナルトカ或ハ刑ガ重クナルトカト云フ點カニ於テ刑法二百四十七條デハ不十分デアル、一層重クナスト云フコトデナケレバ意義ヲナサヌト思フ、ソレデドウ云フ點ガ重クナツテ居ルカト言ヘバ、先刻齋藤サンノ述ベラレタ通リ此第一ハ加害ノ目的ト云フモノヲ要セナイト云フコト、刑法二百四十七條ニ依レパ損害ヲ加フルト云フ目的ガ必要デアル、此條ニハソレハ必要デナイ、第二ニハ是ハソレマデ重要ナコトデハナイノデスケレドモ、損害ノ結果ト云フモノヲ必要デナイ、損害ヲ生ズベキ行爲ヲナセバ宜シイト云フコトデアル、固ヨリ行爲ヲナスト云フ以上ハ故意ヲ有スルコトハ勿論デアル、卽チ會社ノ爲メニ危險デアルト云フコトト、ソレカラ危險ナルコトヲ知ツテナスト云フコトハ必要デアルケレードモ、其加害ノ目的ヲ以テスルト云フコトエ實外ノ發生ト云フコトハ必要デナイト云フコトガ違フ、ソレカラ又刑ガ違ウト云フ其三點デアリマス、是ハ先刻齋藤君モ言ハレマシタ通リ主トシテ獨乙商法第三百十四條ヲ參考トシテ出來タ規定デアリマスガ、獨乙商法三百十二條ノ詳シイ說明ハロハ今隣席カラ承ハツタノデアリマスガ、獨乙商法ノ趣意モ全ク原案ト同ジコトデアツテ加害ノ目的損害ノ結果ト云フモノハ必要トシテ居ラヌ、只危險ト云フコトエ其危險ヲ知ルト云フコトガ必要デアルト云フコトガ說明書ニ明記シテアルト云フコトデアリマス、サウスレバ原案ト同ジコト、ソレカラ其次ニ可笑シクナツテ居ル點ハ懲役ノ頭ガ上ツタ、是ハ五年デ宜イノカモ知レヌ、私ハ七年ニシナケレバナラヌカ五年ニシナケレバナラヌカト云フコトハ能ク分ラヌ、罰金ガ加ッタト云フコトガ是ガ主ナ點デソレモ一ツ重クナツタコトデアリマス、ソレデアリマスカラ現行刑法ノ規定デ十分デアルト云フ御說デアレバ、ソレハ一說トシテ私ハ分ルノデアリマスケレドモ、現行刑法ノ規定ト權衡ヲ得ナイヤウナ規定ガ出來ルナラバ、ソレハ寧ロ現行刑法ノ儒デ新タナ規定ヲ置カレナイ方ガマダ宜クハナイカト思フ、若シ此處等カラ自由刑ヲ除クト云フコトニナレバ、實ニ頓珍漢ノコトニナリハシナイカ、卽チ一暦處分シマセヌ、取締役トカ云フ人間ニ付テハ自由刑ト云フモノガナイト云フコトニナツテハ却テ合名會社ノ社員デアルトカ、合資會社ノ社員ト云フ者ハ刑法二百四十七條ニ依ツテ五年以下ノ懲役ニ處セラル丶ト云フコトニナル、ドウモソコ等ノ權衡ガ甚ダ取レナイヤウニ思フノデアリマスカラ、現行刑法ノ規定デ取締役等ニ對シテ十分デアルト云フコトナラバ、ソレハ一說トシテ又分カルノデアリマスケレドモ、茲ニ列擧シテアル人ノ行爲ニ付テハ現行法デ足リナイト云フコトデアル以上ハドコカ重クアラネバ理窟ガ立タヌ、斯ウ云フ新規ノ規定ヲ設クルト云フ趣意ガ立タヌト思フ、ソレデ今ノ懲役ノ頭ガ下ガルトカ云フヤウナコトハ私共格別重キヲ置カナイノデアリマスケレドモ、加害ノ目的ヲ以テスルト云フコトヲ要件トシナイト云フ點ナドハ甚ガ必要ナ改正デハナイカト思フ、會社ヲ利スル目的デアル損害ヲ加ヘル所デナイ、會社ヲ利スル目的デアルト云フ場合デアツテ十分ニ罰シナケレバナラヌ行爲ハ隨分アルデアラウト思フ、アノ日纏胴事件デアルガ是ニ類似シタ事件ガ是カラモ頻々起ルカモ知レヌ、アエ云ラ事件ニ付テ會社ヲ利スル爲メニヤツタノデハナイ、會社ヲ儲ケサスル爲メニヤツタノデアルト云フコトガ隨分言ヘナイコトハナイ、併ナガラ刑法二百四十七條ノ文字カラ言ヘバ現行刑法ノ規定デハ或ハ此規定ヲ適用スルコトガ出來ナイガモ知レヌト思フ、サウ云フ場合二十分ニ制裁ガナイトギケナイト云フ所カラ此規定ガ出來タ譯デアリマスカラ、一暦取締役、株式合資會社ノ重役ナドニ付テモ、特ニ重ク罰スルト云フヤウナ規定ハ必要デナイ、犯罪ノ成立ノ範圍ヲ廣クスルト云フヤウナ規定ハ必要デナイト云フ御意見デアレバ、又別問題トシテ考ヘルノデテリマスケレドモ、只今ノ此處ダケデ自由刑ヲ除クトカ言フ御說ハ原案ニ斯ウ云フ規定ヲ設ケヤウト云フ趣意ト一致シナイヤウニ私ハ思フノデアリマス、ソコデ一應御說明ヲ願ヒタイト思フ、今ノ禁錮ナドノコトハ比較的小サナ點デアルト思フノデスケレドモ、之ヲ以テ見テモ只今花井君ノ御述ベニナツタ禁錮ヲ加ヘルト云フ點ガ實ニ正當デアルトスレバ先ヅ刑法二百四十七條ニ這入ラナケレバナラヌコトデアラウカ、斯ウ云フ點ガ今一應詳シク御說明ヲ私ハ乞ヒタイト思フ
○二十二番(花井卓藏君)
只今ノ御質問デアリマスガ短ク御答ヘシテ置キタイト思フ、自由刑ヲ削ズルト云フノハ二百六十一條ノ問題トシテ出シタノデナイノデス、私ハ最後ノ修正案ガ是デアルト云フコトヲ申シマスレバ、ソンナラ最前ノ修正案ハ何デアルカト言ヘバ、商法罰則ヲ通ジテ自由刑ハ全部削リタイノデアル、併ナガラ未ダ修正案トシテ出シテ居ラヌノデアリマスカラ、ドナタカ御出シニナツタナラバソレニ贊成シヤウ、斯ウ云フ今程度ニ在ル、其場合ニ說明ヲスレバ足リルコトデアリマスケレドモ、前ニモ梅委員ノ御質疑ニ對シテ答ベタ積リデアリマスガ、自由刑ヲ削リマシテモ起案者ガ慮カラル丶所ノモノハ刑法規定デ補ヒガ付クト云フ單一ナル考ヲ有ツテ居ルニ過ギナイノデアル、是ダケヲ御答ヘ致シテ置キマス
○二十番(江木衷君)
先程起草委員カラノ御說明モアリマシテ是ハ刑法ヲ修正シヤウト云フ案デアラウト考ヘル、卽チ刑法二百四十七條是ニハ損害ヲ加フル目的デアルトカ、或ハ損害ヲ加ヘタト云フ場合ニ限ツテアリマスガ、併シ斯ウ云フ重イ狀況ニ付テハ會社ノ取締役ガヤツタ場合デモ、現行法ハ是デ罰スルト云フ精神デアツテ、今富井博士ヨリ申サレマシタガ、此刑法御說定ノ折リニハ矢張リ取締役ガ之ヲ爲シタ場合ニモ罰スル御精神デアツタノデアリマスカラ、ソレデ五年ヲ七年ニ重クスル理由ヲ發見スルコトガ出來ナイ、是ニ付テハ齋藤委員ヨリ日糖事件ノ預ケ合ト云フモノヲ罰シナケレバナラヌト云フコトデアリマシタガ、是ハ日本ニハドウ云フコトヲシテ居ルカ御存ジナイノデ、會社ハ尠クモ株劵ヲ取得シテ居ナイノデアリマス、ソレデ二百六十一條ノ修正案ニシテモ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ト云フコトガナイノデアリマス、ト云フノハ預ケ合ト云フモノハ會社ノ株劵ヲ大藏省ガ持ツテ居ル、大藏省ガ取得シテ居ルノデ、會社ガ株劵ヲ取得スルニハ一定ノ法則ガアル、尠ナクモ取得シテ居ラヌ、損ヲスルモノハ大藏省ガ縄祝金ノ抵當ニ取ツタモノガ損ヲスルノデアリマス、卽チ大藏省トノ關係デアリマスカラ、此商法ニ付テ御考ヘニナツテモ、アノ預ケ合ヲ罰スルト云フコトハ到底ムヅカシカラウト思フ、是ニ冷日糖事件ヲ御引キニナリマタシガ、日糖事件ハ確カニサウナツテ居ルノデアリマシテ是ハ國庫カラ帳簿ヲ御取寄セニナリマシタラ、國庫ノ帳簿ニモ大藏省ガ其株劵ヲ持ツテ居ルコトニナツテ居ル、シテ見マスルト云フト起草委員ヨリ御說明ニナリマシタ主ナル目的トシテ、預ケ合ノ如キモノヲ罰スルト云フコトハ到底是ニハ這入ツテ來ナイノデス、サウスルト云フト刑法ノ二百四十七條ハ是ハ以外ノ行爲デアルト云フコトニナルト二百四十七條ノ以外ノ條件ヲ備ヘルモノデアル、損害ヲ加ヘル目的ガナケレバ實際轟損害ヲ生ジタモノデモナイト云フナラバ、是ヨリ輕ルイモノデナケレバナラヌ干思フ、私ハ何ニモ必ズシモ罰金ノミニ限レト云フゾデハナイ、體刑デモ宜シイガソレヨリ輕ルイモノデ宜イ譯デアルハ會社ニ損害ヲ加ヘル目的デ現ニ損害ヲ加ヘタモノデモ、現行法デハ五年以下デ宜シイト云フコトニナツテ居ル、ソレ故是ハ此儘ニ置テ卽チ刑法ノ條件ニ嵌マラナイノヲ罰スベキモノガアル、尙ホ體刑ニ付テ罰スベキモノト云フコトヲ商法ニ定ムルノガ必要デアラウ、サウスレバ體刑ノ意義トシテ五年以下ヨリ輕ルイ刑ヲ以テシナケレバナラヌモノト思フノデアリマス、其精神ヲ以テ花井案ヲ贊成スルノデアリマス
○二番(岡野敬次郞君)
先ヅ以テ申上ゲタイノハ私ハ刑法ノコトハ誠ニ不案内デアル、又刑法上ノ原則ノコトモ甚ダ心得テ居リマセヌノデアリマス、從ツテ此刑法ノ關係ニ付テ私ガ意見ヲ述ベルト云フコトハ或ハ筋違ヒデアルカモ知レマセヌガ、併ナガラ私モ矢張リ此修正案ノ二百六十一條ナルモノニ贊成ヲシタ一人デアリマスカラ、不案内ナガラ贊成シタ私ノ趣意ヲ御參考マデニ述ベテ見タイト思フノデアリマス、現行刑法ノ二百四十七條ト云フモノノアルコトハ私モ承知致シテ居リマスシ、又此新刑法ガ定メラレタ以上其施行ノ時カラ僅ノコトデアツテ是ニ對スル變例等ヲ認ムルト云フコトモ必要ガアレバ格別デアリマスケレドモ馬餘リ必要ガナイナラバ固ヨリ現行刑法其モノニ修正ヲ加ヘルト云フコトハ、大ニ考ヘナケレバナラヌコトデアラウト思フノデアリマス、又刑法ソ規定竝ニ刑法上ノ原則等ニ付テ蓴門家ノ諸君カラ御意見ガ出タ以上、固ヨリ私共ハソレ等ノ御意見ニハ大ニ敬意ヲ表シテ贊成スル考ヘデハアルノデアリマス、併シ私ノ一ツ述ベタイト思フコトハ江木君ガ最初ニ述ベラレタコトデアリマスガ、此二百六十一條ハ商法ニ對スル修正案デアリマスケレドモ、其實體カラ言ヘバ卽チ刑法ニ對スル所ノ修正案デアルト申サナケレバナラヌノデアリマス、ソレデアリマスカラ現行商法ハ科料ノ制裁ヲ加ヘテ居ル杢云フ場合デモ、若シ現行刑法ノ二百四十七條ニ當ル場合デアルナラバ、無論二百四十七條ノ適用ヲ受ケ併セテ商法ノ科料ノ制裁ヲモ科スルコトガ出來ル今日デアルト私ハ思フノデアリマス、ソレデアリマスカラ郞「チ若シ二百四十七條ヲ適用スベキ場合デアツタナラバ、現在此二百六十一條ニ揭ゲテアル者共卽チ取締役ヤ其他ノ者モ矢張リ是ニ依ツテ罰セラル丶ソデアル、デ二百六十一條ハ現行商法ガ科料ノ制裁ヲ以テ滿足シテ居ル者ニ向ツテ此重刑ヲ科スルト云フ案ヲ立ッタ以上ハ、寧ロ現行刑法卽チ其役柄ニ適用セラルベキ二百四十七條ニ對シテ重クシタノダトドウシテモ見ナケレバナラヌノデアル、ソレデアリマスカラ二百六十一條ニ含マルベキ場合如何ト云フコトニ付テハ、ソレハ二百六十一條ノ解釋如何ニ關スルコトデアリマセウガ、併シ先刻花井君カラ例トシテ御引キニナツタヤウナ場合ハ決シテ二百四十七條ニ當ルベキ場合ナラバ、其二百四十七條ヲ適用スルノデ、無論科料ノ制裁ダケデハナイ、卽チ其場合ニ付テ申セバ詰リ此二百六十一條ガ行ハル丶コトニ至レパ二百四十七條ニ對シテ重キ刑ヲ科スルト云フ結果ニナルコトハ是ハ私ガ申上ゲルマデモナイコトデアラウト思ヒマス、ソレデアリマスカラ尠クモ二百六十一條ニ付テハ現行商法ノ科料ノ制裁ハ問題ノ外ニ致シ、二百六十一條ノ關係如何ト云フコトガ問題ニナル譯デアラウト私ハ思フ、ソレカラ私ノ申サソトスルコトハ先刻梅君カラモ述ベラレタコトデアリマシテ、卽チ今申上ゲタ所カラ考ヘレバ二百四十七條ハ現在個人ニモ合名會社ノ社員ニモ其他ノ者ニモ皆適用セラル丶ノデアル、株式會社ノ取締役ニモ適用セラレテ居ルノデアル、只株式會社ノ取締役株式合資會社ノ取締役等ニ相當スルモノハ先刻梅君カラ述ベラレタ理由ニ依ツテ、現在二百四十七條デ罰スルヨリハ重キ刑ヲ科スルコトガ適當デアラウト思ツテ是ニ贊成ヲ致シタ譯デアリマス、ソレカラ江木君ノ日糖事件ノ御話ガアリマシタガ、是ハ私ハ日糖事件ノ事實ハ承知致シマセヌカラ、事實ヲ以テ彼是レ私ハ申上ゲル譯デハナイ、又事實ヲ知ラヌノデアリマスカラ其事柄ガ二百六十一條ニ當ル場合デアルヤ否ヤト云フコトモ無論由上ゲ兼ルノデアリマス、併ナガラ只私ガ色々ノ事實カラ自分ノ頭ニ綜合シテ居ルモノ丈ケヲ申シテ見レバ、大藏省ガ預ッタンダト云フ御話ガアリマスガ、大藏省ガ果シテ日糖會社ノ納稅スベキ場合ニ株主ノ株ヲ株主ノ名義タルニ拘ハラズ之ヲ大藏省ノ擔保ニシタト云フコトデアルナラバ、ソレハ固ヨリ株主ノ或ハ知ラヌコトデアルカモ知レヌ、又其擔保ニ取ルコトヲ當不當ト云フコトハ卽チ大藏省ノ問題デアリマセウ、併ナガラチヨツト私ガ考ヘテ見ルト云フト日糖會社ニ私ガ株主デアル場合ニ私ノ名義ノ株ヲ持ツテ居ツテ大藏省ニ擔保ニ入レルト云フコトハアツタカモ知レマセヌガ、若シアツタトスレバ甚ダ不當ナノデ、正サカソレ程マデニ不當デハナイカト私ハ思フ、デアリマスカラ一旦會社ノ所有ニ歸スルカ兎ニ角會社ガ處分スベキコトヲ得ベキ條件ガ備ツテ然ル径ニ會社ガ擔保ニ入レタナラバ話ハ分リマスケレドモ、他人ノ名義ヲ其儘ニ持ツテ往クト云フコトハ私ノ想像デアリマスガ、サウ思バレルノデアリマス、併ナガラ其コトガ事實ヲ知ラヌノデアツテ果シテ二百六十一條ヲ適用スベキ條件ガ備ツテ居ルカドウカ分ラヌカラソレハ無論私ハ申上ゲナイノデアリマス、ソレカラ二百六十一條ト刑法二百四十七條ニ對スル所ノ關係ニ付キマシテハ、先刻富井君カラモ說明ヲセラレタコトデアリマスガ、私ノ自分ノ考ヘデ是ガ重要ナル點ト思フ所ハ、會社ニ實際ニ損害ヲ加ヘタト云フコト卽チ結果並ニ五年ニ對スル二年ヲ加ヘテ七年ニシタト云フ所ニ私ハ餘リ重キヲ置テ居ルノデハナクシテ、會社ニ損害ヲ加フル目的ト云フコトガ現行刑法ニ在ルノカ、ソレデハ現在ノ時弊ヲ救フニハ或ハ不適當デハアルマイカト云フコトヲ私ハ憂ヘテ居ルノデアリマス、ソレハ御承知ノ如クニ會社ノ重役トシテハ其會社ノ營業ノ成績ガ甚ダ面白クナイ、被ツタ所ノ損害ガ甚ダ大キイト云フ場合ニハ何トカシテ此會社ノ窮狀ヲ救ヒタイト云フ所カラ色々ノ策ヲ施スト云フコトハ隨分事實ニ在ルヤウデアル、例ヘパ會社ノ金デ投機ヲスルソレデ旨ク往ッタナラバソレハ會社ノモノニシテ、サウシテ會社ノ債務ノ整理ヲシヤウト云フヤウナ事實ハ確ニ在ルノデアル、又株ノ値段ガ非常皇下ツタヤウナ場合ニハ會社自ラガ自己ノ株ヲ買ヒ煽ル、サウシテ其株劵ノ値段ガ上ガルト云フコトガ卽チ會社ノ利益ニナルノダト云フコトモアルノデアル、サウ云フヤウナコトハ決シテ其局ニ當ル所ノ理事者ノ意志ガ會社ニ損害ヲ加フルノ意志デハナイ、寧ロ會社ヲ利スルノ意志デアルト私ハ思フノデアル、サウ云フコトガ頗ル危險ナコトデアツテ若シ相場ヲシタコトガ損失ニ終ツタ場合ニ於テハ、益々會社ノ債務ヲ大キクスル、損失ヲ大キクスル結果トナリ又會社ノ株ヲ買ツテ見タ所ガ其結果ガ思ハシクナイ時ニハ價値ノナイ所ノ株ヲ會社ガ握ッテ、其株ヲ賣ル場合ニハ會社ノ財產ヲ報酬トシテ與ヘルコトニナルノデアリマスカラ、又會甦ニ損害ヲ來タスト云フ少クモ憂ガアルノデアル、果シテ會社ニ損害ヲ加ヘルト云フ事實ガ茲ニ生ゼネバ罰スルニ及バヌカドウカト云フ問題ハ、是ハ私ガ先刻申上ゲル通リエライ重キヲ置テ居ルノデハナイノデアリマスカラ、ソレハ損害ヲ加ヘルト云フ事實ノ生ジタ場合ニ於テ始メテ之ヲ罰スルガ可ナリトシテモ、最初カラ其行爲ヲナスニ當ッケ損害ヲ爲シタ意志ガナケレバナラヌト云フコトデハ只今申上ゲルヤウナ弊害ヲ救フニハ或ハ足ラヌノデハアルマイカ、故ニソレ等ノ場合ヲ罰スルニ付テ、二百四十七條ハ或ハ適用ヲシガタイ場合デアルカラ、二百六十一條ヲ以テ此場合ニ處スル罰ヲ加ヘタ方ガ適當デアラウト云フコトニ私ハ考ヘタノデアリマス、獪ホ先刻花井君カラ七年ナドト云フヤウナ罰ヲ設ケテ居ル例ガアルカト云フコトニ付テ英吉利ニ例ガアルト云フコトヲ齋藤君カラ答ヘラレタノデアリマス、ソレハ私ノ申上ゲルマデモナク英吉利ノ法律ハ色々ノ場合ヲ要々ニ揭ゲテ居ル、其法律ノ揭ゲテアル所ノモノハ二百六十一條ノ定ムル所ト全ク其範圍ヲ同ジウシテ居ルト云フコトハ無論申上ゲ兼ネルノデアリマス、併シナガラ二百六十一條ニ當ルベキ場合ハアルノデアル、ソレハ今此書物ニ依ツテ私ハ代理人ノヤウナ譯デアリマスガ、二十四二十五ヴイクトリヤアクタ――九十六ト云フモノニ書イテアル、是ガドレ程マデ信頼スルカ分リマセヌガ兎ニ角其中ニ在ルノデアリマス、其コトダケヲ申上ゲタイ、尙ホモウ一ツ御參考マデニ申上ゲタイノハ獨乙ニハ商法三百十二條ノ規定デアリマシタガ、是ハデヘンニグスト云フノハ五年以下ト云フコトデアルノデアリマスガ、最高ガ五年デアル卽チ刑法ノ二百四十七條ノ場合デアリマス、只異ル所ハ罰金ハ又ハ罰金デハナイ及ビ罰金デアル、サウシテ其罰金ノ額ハニ萬マークニナツテ居ル、日本ノ稍々一萬圓デアリマス、是ハ金額ノコト及ビ罰金ト云フコトハ日本ノ刑法トソレカラ獨乙ノ刑法ト一般ノ例カラ見テ直ニ之ヲ二百六十一條ノ場合ニ採ツテ標準トスルコトハ出來ナイノデアリマセウケレドモ、兎ニ角モ商法ノ三百十二條ニ定メテ居ル所ハサウ云ワ風デアリマス、ソレカラ獨乙ノ三百十二條ニ付テノ解釋ノコトデアリマスガ、此解釋ハ私モ平生此商法ノ罰則ニ付テノ研究ヲ積ソデ居ル譯デハアリマセヌカラ、イヅレカ獨乙ノ學者ノ說明トシテ正シイモノデアルカ、尠クモ定說ト稱セラル丶モノデアルカト云フコトハ能ク承知致シマセヌ、從ツテ責任ヲ以テ申上ゲ秉ネルモノデアげリマスガ、今茲ニスラーヴノ註釋書ガアリマスガ是ニ依ッテ見マスレバ卽チ修正案ノ二百六十一條ト全ク其趣旨ヲ同ジウシテ居ルヤウデアリマス、卽チ損害ヲ加フルノ意志ハイラヌ、ソレカラ事實自損害ヲ生ズルト云フコトモイラヌコトニナツテ居ル、ソレハ此スラーヴニ揭ゲテアル所ノモノハ到例ヲ揭ゲテアルノデアリマスカラ、後其剣決ガ變ツタカ又其判決ガ果シテ適當ナモノデアルヤ否ヤ、又他ノ刑法上ノ專門家ノ見ル所スラーヴ必說明スル所ト、果シテ一致シテ居ルヤ否ヤト云フコトハ分リマセヌケレドモ、只一ノ例トシテ申上ゲテ置キタイト思フ
○四番(齋藤十一郞君)
先程花井サンカラノ御質問デ英吉利法ハドウ云フ法律カト云フ御尋ネデゴザイマスガ、只今岡野サンカラ御說明ハアツタノデアリマスガ、是ハ宙貝ハ私ハ調ベタノデハアリマセヌ、幹事諸君ノ中デ御調ベニナツタノデアリマスガ、折角捜シ出シマシタカラ只今岡野サンノ御說明ガアルニ拘ハラズ尙ホ申上ゲテ置キマセウ、千八百六十亠年ノダージユヤクト八十一條カラ八十四條マデニ在ルサウデアリマス、ソレカラヴイクトギス、オフ、コンパニーサウ云フモノニ關シテノ規定デアリマス、ソレカラ尙ホ序ニ案ノ二百六十一條ハ獨乙商法ヲ參考ニシタノデアルト云フコトヲ說明シマシテ其時ニ成程獨乙ノッフエンニグスハ五年デアル、併ナガラ日本ノ刑法ガ採リマシタ所ノ刑期ハ全體ニ之ヲ獨乙ノ刑法ニ比シテ見マスルト長期ガ長クナツテ居ルコトヲ私ハ申シタ、所ガ丁度花井サンカラ一笑ニ付セラレタヤウナ次第デアリマシタガ、只全ク寄リ所モナイノデハナイノデアリマシテ丁度日本ノ二百七十六條卽チ狹イ意味ノ詐欺取財デアリマス、是ニ當ル獨乙ノ二百六十三條ノ規定ハ矢張リ五年、最モ是ハ罰金ガ三マーク付テ居リマスガ、日本ノハ申上ゲルマデモナク十年以下ノ懲役ト云フコト三ナツテ居ル、ソレカラ日本ノ二百五十三條ニ當ルベキ獨乙ノ横領罪ノ規定デアリマスガ、二百四十六條是ハ矢張リ五年トナツテ居ル、日本ノハ是モ一年以上十年以下ノ懲役ニナツテ居ル、是ハ罰金ガアリマセヌデ偶々背信罪ハ日本ノト同ジニナツテ居ル、詐欺トカソレカラ横領トカ云フモノニ付テハ日本ノ方ガ確ニ長クナツテ居ルノデ、斯ウ云フヤウナ犯罪ニ付テノ刑ガ重クナツテ居ルモノデスカラ、ソレデ私ハ全體日本ノ新刑法ノ主義ガ獨乙ニ較ベルト重クナルト云フコトヲ申上ゲタノデ或ハ獨斷ノ氣味ガアッタカ知レマセヌガ、念ノ爲メニ申上ゲテ置キマス
○十番(梅謙次郞君)
先刻私ハ說明ヲ落シマシタノデ、科料ト刑法ノ關係ヲ先刻申落シマシタガ、ソレハ岡野君ガ言ツテ呉レマシタカラ言ヒマセヌガ、二百六十一條ハ廣クナツテ居ルカラ是ハ善イカ惡ルイカバ問題デスガ、花井サンノ修正案ニ付テ會社ハ損害ヲ加フル目的ト云フモノガアルノデ、刑法二百六十七條ノ自己若クハ會社ノ利益ヲ圖リト云フコ塾ハ睨ケタノデハナイト思ヒマスガ、此場合ニハ見樣ニ依ツテハ却テ一層重ク罰シテモ宜イコトガ其事情ニ依ツテハアリハセヌカト思フ、ソレガ睨ケテ居ルコトハ若シ罰セヌト云フ趣意ナラバ甚ダ可笑シイシ、罰スルト云フナラバ其場合ダケハ二百四十七條ニ依ルト云フ御趣意カト思ヒマス、サウスルト刑罰ノ權衡ガ甚ダ可笑シクナリハセヌカト云フ疑ヒガアリマスノデ、ソレヲ先刻ヌカシマシタ
○二十二番(花井卓藏君)
自己若クハ第三者ノ利益ヲ害スト云フ文字ハ故意ニヌカシタノデ故意ニ脫シマシタケレドモ、意味ハ矢張リ法文ノ中ニ存在セシムル積リデゴザイマス、是ハ刑法問題ノ際ニ於テモ削ルト云フ論ヲ維持シテ容レラレナカッタノデアリマス、梅委員ノ御尋ネノ如ク深キ趣意ガアツテ削ッタノデナイ、ソレカラ岡野委員ヨリ獨乙商法三百十二條ノ說明ガアリマシテ、有カナル起案者ノコトデアリマスカラシテ、議場ヲ動カスト宜シクゴザイマセヌカラ、私ハ申シテ置クノデアリマスガ、獨乙商法ノ三百十二條ノ一項ノミヲ御說明ニナツタノデアル、第三項ヲ見テ戴クト云フト矢張リ或意味ニ於テ撰擇主義ヲ採ツテ居ルト云フコトガ分ル、獨乙ノ商法デハ懲役ト云フモノガ自由刑バカリデハナイ、及ビニ萬マーク以下ノ罰金ヲ科スル程重クシテアルノデアルカラ、何モ二百六十一條ガ重イモノデハアルマイト云フ意味ニ御說明ニナツタ、第三項ハ忘レラレタ如ク聞ヘタノデアル、故ニ情狀ニ依ツテ罰金ノミヲ科スルコトガ出來ルノデアリマスカラ、或意味ニ於テハ撰擇主義ヲ採ッテ居ルノデアル、是ハ餘リ宜イ所バカリヲ御引用ニナリマシタカラ、私ノ議論ノ意志ノアルコトヲ茲ニ申上ゲテ置カナケレバナラヌ、ソレカラ今一ツ辯明ヲ要スベキ點ハ獨乙ニ於キマシテモ矢張三百十二條ニ似タル刑法ノ規定ハアル、ソレハ適切デハゴザイマセヌガ獨乙ノ刑法ノ二百六十六條デアリマス、此二百六十六條ハドウ云フコトニナツテ居ルカト言ヘバ、日本ノ法律デ言ヘバ五年以下ノ禁錮ニナツテ居ルノデアル、矢張リ五年ヲ最長期ノ刑ニ見テ居ルノデアリマス、卽チ獨乙ノ刑法モ商法モ背任務ノ行爲ニ關シテハ意義ニ於テ異タル所ガアリマスケレドモ、年限ノ上ニ於テハ同ジ律ヲ以テ居ルト云フコトモ此處デ申上ゲテ置クベキ必要ガアラウト思フ、獨乙ノ商法ノ規定ニハ倣フガ刑法ノ規定ニハ倣ハヌト云フ御說明ナレバ是ハ別問題デゴザイマス、ソレカラドナタカノ御議論ノ中ニ若シ修正案ノ如クシタナラバ刑期ガ同ジデハナイカ、刑期ガ同ジデアルナラバ一厨新刑法ニ讓ツテ仕舞ッタラ宜イジヤナイカ、ソレハ私ハ贊成ノ論ナノデ併ナガラ私ハ刑期ガ同一トハ見ナイ、矢張リ商法ノ方ガ重イ、刑法二百四十七條ニ規定セラレテ居ル所ハ只今御說明ニ相成リマシタ通リ加害ノ目的アル場合ニ於テ、而シテ任務ニ背キサウシテ損害ノ結果ヲ生ジタル場合ニ於テ、卽チ事態頗ル重キ場合ニ於テ五年ノ刑ヲ量定シテ居ルノデアル、商法ハ加害ノ目的アルヲ要セズ損害ノ結果アルヲ必要トセズ、卽チ事態ノ比シテ輕ルキ者ニ對シテ五年ノ刑ヲ量定シテ居ルノデアルカラ、五年ト書イテアツテモ事實ハ矢張リ重イ主義ニナルノデアル是モ矢張リ辯明シテ置ク必要ガアルト思ヒマス
○二十六番(岸本辰雄君)
是ハ刑法ノ二百四十七條ニ關係ノアリマスモノデアリマシテ、今御話ノアリマシタヤウナ場合ニ於テハ斯ウ云フ規定ハ止メテ二百四十七條ニシテモ宜イデハナイカト云フヤウナ御話モ出ルノデアリマス、是ニ付キマシテハ二百四十七條ノ條文ノ精神ヲ能ク吟味スル必要ガアリハセヌカト思フ、是ニ付テ私ハ別ニ間違ツテ居ラヌ積リデアリマスガ、ト云フノハ二百四十七條ニ依リマスト云フト兎ニ角一定ノ目的ノアルコトガ必要デアル、而シテ害ヲ生ジタルコトガ必要デアル、斯ウナツテ居リマス、所ガ私ガ本來二百四十七條ガイケヌト思ツテ居ル、是ガ既ニ實ハ少シ足ラヌノデアル、是事態既ニ宜クナイ斯ウ考ヘテ居ル、現ニ獨乙刑法ヲ見テモ斯ノ如キ場合ハ特三里イ場合ニ見テ居ル、通常ノ場合ハ旦ニ損害ヲ生ズベキ處分ヲシタト云フコトダケデ宜イコトニナツテ居ル、特別ニ重イ場合卽チ眞向ニ於キマシテ重イ場合ニ付テ斯ノ如キ規定ガ載ツテ居ル、私ハ此點ニ於キマシテ獨乙刑法ノ方ガ宜イト斯ウ思ツテ居ル、實際ノ問題ニ移シテ見テモ斯ノ如ク自己若クハ第三者ノ利益ヲ圖リ又ハ損害ヲ本人ニ加フル目的ト云フヤウニ書キマスト云フト隨分危イコトヲシテ居ツテモ本人ノ爲メニシタ積リデアルト云フト犯罪ニナラヌコトニナリマス、又目的カラ云々ト云フコトハ誠ニ證明ノムヅカシイコトデ、多クノ場合ニ於テ惡意ヲ證明スルト云フコトニ付キマシテハ、其事柄卽チ客觀的ノ事柄ニ付テ意志ヲ推測スル是ハ知ツテナシタノデアルカ知ラズニナシタノデアルカ、ソレハ多クノ場合ニ證明ガ出來マスガ、ドンナ目的ガアツタカト云フコトハ誠ニムヅカシイノデアリマス、デアリマスカラシテ私ハ元來二百四十七條ニ付テ廣ク書イテ置キタイト云フ考ヘヲ有ツテ居ル、斯ノ如クナツテ居リマスカラ今更刑法ヲ改正スルコトキ出來マセヌカラ、若シ似寄ツタ規定ヲ單ニ設クル必要ガアリトスルナラバ廣ク書イテ置ク方ガ法律トシテハ健全デアルト私ハ信ズル、ソコデ幸ニ原案ノ二百六十一條ハ廣キ或考ヘカラ言ヘパ廣クモ聞ヘマスヤウニ出來タ、詰リ是カラ二百六十一條ノ原案ニ付テ序ニ御話ヲ簡略ニ致シマスガ、此二百六十一條ノ原案ニ依ツテ是ハニ樣ニ解釋ガ出來ル、ニ樣ニ見ラル丶ト私ハ思ツテ居ル、ソコデ是ハ實際ニ刑罰ガ高マツテ或一方ニ解釋ガ傾クト云フコトニナルノデアラウト思フ、卽チ本來獨乙刑法ニハ是ガニ段ニ書イテアル場合、ソレカラ獨乙商法デハ一ツニ定メテ書イテアル、其刑罰ガ重モイ爲メニ或ハ一方ノ解釋ニ傾クト云フコトニナルノデアラウト思フ、卽チ二百六十一條ニ付キマシテハ目的ヲ削ツテ居ル、目的ノアル場合トナイ場合トハ勿論意志ノ解釋トシテ情狀ノ重イ場合、其目的ノナイ場合ハ自己又ハ他人ヲ利スル、或ハ本人ニ損害ヲ加ヘルト云フ目的デアリマスル場合ハ情狀ガ重イ場合、是ニ付キマシテ自己若クハ他人ヲ利シ又ハ本人ニ損害ヲ與ヘル目的デアツタナラバ、會社員ガ犯シタ場合デモ重イ場合デアツテモ、先程御述ベニナリマシタ如ク商法上ノ行爲ハ全然之ヲ自由ニ科スルト云フコトハ止メテ仕舞フト云フ御案ガ出ルノデナイカト思ハレマス、要スルニ重イ場合デアツテ二百六十一條ニハ斯ウ云フ目的ノナイ場合ガ書イテアリマセヌカラ、ソレデ或ハ目的ノアル場合ハソレハ刑法ノ二百四十七條ニ往クノデアツテ(ナイ場合ガ商法ノ二百六十一條ニ往クノデアルマイカ、是ガ第一ノ疑ヒ、第二ハ併ナガラサウデハアルマイ、是ハ二百四十七條ヲ修正シタモノデアル、卽チ會社員トカ云フ特別ノ身分ヲ持ツタ者ニ限ツテ重イ刑ヲ加ヘルト云フ考ヘデアツタノデアラウ、斯ウ云フ考ヘガ起ルノデアル、ドチラノ考ヘガ正シイカト云フコトニ付キマシテ詰リ刑罰ノ規定デアリマス、是ハ隨分刑罰ノ規定ハ本文ノ卽チ犯罪ノ行爲ノ解釋ニハ餘リ影響ノナイモノダト云フヤウナ議論モアリマスケレドモ、若シ此方ヲ見遁シテ仕舞マスト云フト刑ノ權衡ヲ失スルト云フ恐レガアル、惡意ノナイ者ハ重ク罰セラレテ、惡意ノアル者ガ輕ク罰セラル丶ト云フコトガアル、ソレハ殺人罪ノ自殺幇助罪ノ場合デアリマス、斯ウ云フ關係ニ於キマシテ、ドツチカ取除ケニナツテ居ルカ、ドウ云フヤウニ一方ニ傾イテ居ルカト云フヤウナ解釋ハ詰リ刑罰ノ量定ニ依テ分ルコトデ、刑罰ヲ見マスルト云フト刑法ノ二百四十七條ハ商法ノ二百六十一條ト大變ナ差異ヲ有ツテ居リマス、一面ニ於キマシテ七年若クハ五千圓ト云フコトニナツテ居ル、他ノ一面ニ於キマシテ刑法ニ於キマシテハ五年又ハ千圓ト云フコトニナツテ居リマスカラ、是ハ勿論餘程刑ガ重イノデアルカラ、此中ニ總テヲ含マセル、依ツテ二百六十一條ハ詰リ特別ノ目的ノアル場合ヲ書テナイノダ、二百六十一條ノ中ニ包括的ニ含マレテ居ルノデアル、斯ウ云フコトニ解釋スルノデアリマス、私ハ刑罰ノ量定カラ申シマスルトドウシテモ二百六十一條ハ二百四十七條ヲ或點ニ於テ修正シタモノト見ルノガ正當デアルト考ヘル、ソコデ私ハ又別ノ御話ト致シマシテ單純ナ刑罰論ト致シマシテ、成程會社ノ役員重大ナル任務ヲ有ツテ居ル卽チ澤山ノ人ノ信用ヲ得マシテ澤山ノ財產ヲ取扱フ者ガ不法ナ事ヲシテナラヌト云フノデ任務ガ餘程重イノデアリマスカラ、私ハ隨分嚴重ノ取締ヲ要スルト考ヘマスルガ、酷ク重ク罰シナケレバナラヌト云フ風ニハ私ハ考ヘテハ居ラヌ、言ババ私ハ二年位デモ澤山デアラウ斯ウ考ヘテ居ル、一年デモ宜シイト云フ位ニ考ヘテ居ルノデアリマスルガ、是ハ刑法トノ權衡論、刑法ハ既ニ五年ノ刑ヲ科シテ居ルカラ之ヲ特ニ輕クシナケレバナラヌト云フ理由ハ出テ來ナイ、會社職員タルガ爲ニ輕クシナケレバナラヌト云フコトハ出來ナイノデアツテ、私ハ先程梅博士ノ仰ホセラレタ通リ場合ニ依ツテハ重クシナケレバナラヌトモ思ツテ居ル、尠クモ刑法ノ範圍ヲ引込デハナラヌト云フコトハ仕方ガナイト思フ、二百四十七條ノ方ガ一年トカ六个月デアリマシタナラバ私ハ一年デモ贊成スルノデアリマスガ、兎ニ角五年トナツテ居リマスル以上ドウシテモ是ヨリ下ゲルト云フコトハムヅカシイ、詰リ是ガ標準トナツテ居ル是ト同ジコトガ或ハ是ヨリ幾ラカ上ルカ斯ウ云フコトニナル、ソコデ若シ是ト一緒ニ致シマスト云フト或ハ解釋ニ付テ議論ガ起ツテ來マシテ、是ハ會社員ダカラ特ニ目的ノナイ者デモ罰スルト云フコトニナツテ來ナケレバナラヌ、目的ノアル場合ハ普通法ニ依ルノダト云フヤウナ考ヘノ人ガ或ハ出ナイトモ限ラナイ、ソレデ私ハ幾ラカ刑罰ノ方デ此法律ハ刑法ノ二百四十七條ヲ修正シタモノダト云フコトヲ、ハツキリ申シタイト私ハ考ヘル、ソコデ私ハ必ズシモ原案ヲ贊成シテ居ルノデハアリマセヌガ、尠クモ五年ヨリ下ガツテハナラヌ斯ウ云フ考ヘヲ有ツテ居ルノデアリマス、デアリマスカラシテ花井サンノ第一案ト言ヒマスカ御取置ノ御讀ニハドウシテモ贊成ハ出來ヌ譯、ソコデ是ニ禁錮ヲ加ヘルト云フ花井サンノ御案デアリマスガ、チョット其前ニ尙ホ先程梅委員カラノ御尋ネニ對シテ花井サンノ御答ヘガアリマシタガ、目的云々ト云フコトニ付テ私自分ノ考ヘヲ附加ヘテ御話致シマス、花井委員ノ御讀デハ會社ニ損害ヲ加ヘル目的ト云フコトデ是デ刑法ノ二百四十七條所謂自己若クハ他人ニ利益ヲ與ヘ、又ハ本人ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テト云フ是ト同ジコトダト云フヤウニ仰セラレタノデアリマスガ、是ハ刑法改正ノ當時御意見ノ通リニ、、、、私ハソレハ違ウト思フ、目的ト申シマスルト云フト、 特ニソレニ付テ意士心ノ塘叭張ヲ要スル其點ニハ餘リ注意シナカツタケレドモ、知ツテ居ル場合ニハ會社ニ損害ヲ生ズルト云フヤウナコトハ眼中ニナイノデ、專ラ私腹ヲ肥ヤスト云フコトニナルノデアル、ソレガ花井サンノ通リデアリマスト私ハ脫ケルデアラウト思フ、是ハ梅委員ノ御尋ネガ至當デアラウト思ツテ居リマス、是ヲ要スルニ私ハ元來刑法ノ二百四十七條ハドウモイカヌ斯ウ云フヤウニシテ置テハドウモ都合ガ悪イ、ドウシテモ本人ニ損害ヲ生ズルヤウナ場合ニハ特ニ處分ヲ施スヤウニシテ置カヌトイカヌ、殊ニ實際ノ問題ニ至ツテ目的ノ證明ト云フコトハムヅカシイト思フ、私モ刑法ノ改正ニ付テ目的目的ト云アコ、トニ反對シタ、目的ノ證明ト云フコトハ隨分爲メニナルコトモアルカモ知レヌガ多クハサウデナイト言ハルト思フノデアリマス、幸ヒ此度此商法ニ付キマシテハ私ハ此點ハ修正シテ置ク方ガ宜イト思フノデアリマスカラシテ、商法ノ二百六十一條ノ刑罰ノ規定以前ハ全然私ハ贊成ヲ表スル、至極健全ナ規定デアル、是ハ通ジテ以テ二百四十七條ニ私ハ變ヘタイト思ツテ居ル、次ニ刑罰ニ付キマシテ申シマスレバ私ハ二百四十七條ト同ジコトニナツタリ、下ツタリ、若シ下ガルト云フトドウシテモ解釋ガ困難ニナリマスカラ、ドウシテモ二百四十七條ヲ此處デ修正シタモノト云フコトヲ見セタイノデアリマスカラ、ソレデ七年ト云フコトニシテ置ケバ明カニナルト思フ、若シ五年デアリマシテモ私ハ是デ五千圓ト云フ罰金ガ付テ居ルノデアリマスカラ、罰金ガ既ニ重イカラ是ダケデモ重イト云フコトガ見ヘルノデアル、依ツテ會社員ナドノ行爲ニ付テハ二百四十八條ノ適用ノナイモノダト云フヤウニ解釋ガ出來マスレバ誠ニ結構デゴザイマス、私ハサウ云フ解釋デ出來ル積リデアリマスケレドモ、若シ疑ヒガアリマスレバ假リニ出來ル積リニシマシテ五年以下ノ懲役ト云フコトモ花井サンノ案ニ贊成スル積リデアリマス、禁錮ヲ入レルト云フコトデアリマシタガ是モ私ハ贊成致シマス、ナゼカト云フト此點ニ付キマシテハ先程カラ會社員ハ特ニ罰シナケレバナラヌトカ、或ハ此法律ノ出來事ヲ引用シテ/御話デアリマシタガ、併ナガラソレハ二百四十七條トモウ一遍照シ合セル必要ガアル、二百四十七條デアリマスト斯ノ如ク人ガ限定シテアリマス、ソレデドウシテモ道德上ノ側カラ觀察スレバ善意ト云フコトハ出來ヌ、自己若クハ他人若クハ第三者ニ損害ヲ與ヘルト云フノデアリマスカラ、本人ニ氣ノ毒ト云フコトモ見出サナイノデアリマスガ、二百四十七條ノ如キ廣キ規定デアリマシテハ先程段々御引キニナリマシタヤウニ會社ノ爲メニナルト思ツテ隨分策ヲ廻ラシタ積リデヤツタ所ガ失態ガ起ツタ、旨ク往ケバ會社カラ褒美デモ一ツ貰フ積リデアツタガ、ヤリ損ナツタ爲メニ裁判所ニ引出サレタヤウナコトニナルノデ、又花井サンノ言ハレマシタヤウニ任務ノ重イ人デアツテモソコマデ注意シナクテ、原因結果ノ關係ヲ知リナガラ過失ト云フコトハ言ヘヌカラソレハ善クナイノデアリマスカラ、其衝ニ當ツテ惡事ヲスル者カラ見ルト情ノ輕ルイ所ガナキニシモ非ラズ、殊更ニ二百四十七條ノ如キ特別ノ目的ノアル場合デナイ、ソレヨリ情ノ低キ場合ヲ含ンデ居ルヤウニ考ヘル、現ニ罰金ヲ五千圓ト見マシテモ二十圓カラ始マル、卽チ二十圓位ヒデモ滿足スル場合ガアツテモ五千圓マデ書イテアルノデアリマスカラ、罰金ナドニ處セラル丶場合ハ禁錮ナドガ付テ宜イト思ツテ居ル、ソレデ花井案ノ禁錮ヲ付ケルト云フノハ商法ハ輕ルイ場合ノ規定デアツテ二百四十七條ノ場合デナイト言ハレマスト困リマスケレドモ、禁錮ガアツテモ差支ヘナイ重イ場合ト、輕ルイ場合ト、大キイ場合ト、書イテアルト私ハ解釋ガ出來ル積リデアリマスガ、サウスルト此禁錮ヲ入レテ置クガ至當デアルト考ヘル、ソレデ詰リ花井サンノ前ノ部分ニ付テハ卽チ犯罪ノ各要素ヲ上ゲマシタ點ニ付キマシテハ贊成シ蒹マスカラ、刑罰論ニ付キマシテハ全然同意ヲ表シタイ積リデアリマス
○十五番(穗積八束君)
甚ダ我靂ナコトデゴザイマスガ據所ナイ差支ヘガアッテ退席ヲ致シマスカラ、一言チョット意見ヲ述ベテ退席ヲ致シタイト思ヒマス、誠ニ大問題デゴザイマシテ只今皆樣ノ御述ベニナリマシタヤウナ刑法ノ議論デハゴザイマセヌ、只言ババ俗論デアリマスガ此規定ニ付テ躊躇スル所ノ大體ノ趣旨ヲ申述ベテ置キマシテドウカ是モ御參考ノ一ツニ供セラレ圏ヌコ下ヲ希望スルノデアリマス、ソレハ私ガ能ク此條ヲ解シテ居ラナイカラ自分デ誤ツテ居ルカモ知レマセヌガ、大體ニ付テ御話ヲ致シマスト此修正案ハ如何ニモ廣ク如何ニモ絕對デアル、斯ウ云フ案デアリマスルト中々會社ノ取締役トカ、支配人トカ其他業務ヲ擔當スルモノハ非常ニ危險ナ地位ニ在ル者ト見ナケレバナラヌ、固ヨリ今日時弊ガ甚ダシイカラ、之ヲ救フガ爲メニ之ヲ設ケタト云フ御話デアリマシテ、時弊ノ大ナルコトモ新聞紙其他世間ノ噂デモ能ク聞キ及ンデ居リマスケレドモ、併ナガラ數ニ致シマスレバマダ僅カナコトデアル、ソレデ元來刑法ノ二百四十七條トカ仰ツシヤイマシタガ、新刑法ニ他人ノ業務ニタヅサハル者ガ任務ニ背キ云々ト云フ、アノ條デアリマシテモ細カニ割ツテ見ルト稀レニハ目的ガアルトカ實意ガアルトカ云フ區別ガアリマスケレドモ、之ヲ又細カニ總テノ會社取引等ニ今適用シテ御居デニナレバ、隨分檢擧シテ取締ルベキコトハ澤山アリ得ルノデアツテ、今日ノ時弊ヲ救フニハアノ條文ガ餘リ簡ニ過ギルト云フ位ヒデハナカラウカト考ヘラル丶ノデアリマス、アノ條文デモ文字通リ嚴密ニ往ツタナラバ隨分弊ヲ救フニ足ルノデハナイカト思フ、デスカラ是ハ私モ實際ヲ知ラズシテ大體ノ話ヲスルノデアリマスカラ、茲ニハ實際家ノ方ガ御居デニナリマスカラ、誤ツタ點ヲ直シテ御貰ヒ申シタイト思ヒマスガ、元來會社ノ重役ナドト云フヤウニ悉ク惡人泥坊ノ如ク前提シテ見レバ尙ホ尤モラシク思ヒマスケレドモ、併ナガラ株式會社ノ取締役ナドト云フモノハ實際ヲ知ラナイカラ只法文ノ上デ見マスカラデアリマセウカ、只專務デ頭取ナドニハ別ニ報酬モアルカモ存ジマセヌガ、元來取締役ナドト云フ者ハソンナニ利益ノ地位デアルベキ筈ガナイノデアリマス、只表面キ見ユル所ノ給料ノミデ働ク者デアレヌ、アノヤウナ方々ガアノヤウナ澤山ノ會社ニ重役ヲヤツテ居ラル丶ト想像致ス位ヒノモノデ、或ハ間接ノ利益ト云フコトモアルカラ人ガ是ニタヅサハルカモ知レマセヌガ、若シ正面カラ見タナラバ格別利益ナ地位トモ思ハレヌ、ソレデ此會社ト云フモノハ自己ノ利益ノ爲メニ設クルモノデアルケレドモ、併ナガラ株式會社ノ如キ其他ノ會社ノ如キ幾分カ公益的ノ意味モ加ハッテ居ルモノデアルカラシテ、自カラ奮ツテ是ハ自己ノ爲メ、又ハ空シク資本ヲ出シテ居ル人ノ爲メニ幾分カ公ケ的ノ犠牲的ノ精神ガアツテ之ヲスルヤウナ役目ノモノデハナイカト思フ、サウシテ見一、スルト是ガ普通ニ他人ノ業務ヲ執行スルヨリモ非常三里イ制裁ヲ加ヘルト云フコトハドウモ餘リ酷ニ失シハシマイカ、甚シク言ヘバ若シ斯樣ナ酷ナモノデアリ、文字通リ嚴密ニ揚枝デ重箱ノ隅ヲセヽルヤウナモノデアッタナラバ、大槪ノ者ハ會社ノ重役ハ御斷リヲシナケレバナラヌヤウナ感ジモスルノデアリマス、法律ハ時弊ヲ救フ爲メニ拵ヘルト言ヒマスケレドモ、ソレハ期限付ノモノデモナイカラ持ヘル以上ハ永遠ノモノト見ナケレバナラヌガ、永遠ノコト丶考ヘルト云フト餘リ酷ニ失シハシナイカト思フ、元來會社ニ損害ヲ加ヘルト云フ目的デコトヲシタ、或ハ現實ニ何萬圓ト云フ損害ヲ掛ケタト云フ、斯ウ云フ事實ノアル者ヲ重ク罰スルト云フコトナラバ兎ニ角デアリマスケレドモ、任務ヲ怠タリ、財產上ノ損害ヲ生ジ得ベキ行爲ヲナシタル者デアリマスカラ頗ル絕對デアツテ危險ガアルト云フコトデアリマス、任務ヲ怠リト云フ文字ニ付テ私ハ商法ヲ全ク知リマセヌカラ解シ得マセヌケレドモ、若シ任務ト云フ文字ガ此商法ノ箇條々々ヲ拾ツテ、是々ノモノデアルト云フテ列擧スルコトノ出來ルヤウナ具體的ノモノデアツタナラバ稍々其危險ガ少ナイトモ思フノデアリマスガ、若シ私ガ只素人讀デ解スルヤウナ任務ヲ怠タルト云フコトハ、只何條々々ト云フ意味ノミナラズ、他人ノ爲メニ業務ヲ行フ者ハ誠實ニ之ヲ行ハナケレバナラヌト云フ誠實ノ義務ガアツテ而シテ眞實々々ト云フコトヲ必ズシモ列擧スベキ個條々々ノモノデナイト云フコトニナリマスレバ、尙更任務ヲ怠タリト云フコトハ曲解スレバ廣ク解シテアルト思フ、財產上ノ損宝ロヲ生ズベキト云フノモ、是ハ固ヨリ檜ムベキコトデアリマスケレドモ、ドウ云フモノニナリマスカ、ロハ曲解ヲシテ見ルト甚ダ酷ニナリハシナイカ、今日我々共例ヘバ國家ヲ經營シテ居ルト云フト、會社カラ學校ニ寄附ヲシテ貰ッタリ何カシテ大層喜ンデ居ルガ、元來營利會社ナドガ寄附ナドヲナサルガ宜イカドウカト思フ、兎ニ角學校デハ有難ク受ケテ居ル、兔ゴ角慈善ヲ行フ任務ガアルカドウカ知ラヌ、事極メテ窮屈ナコトニナッタモノデ、一株持ツテ居ル株主ガ投リ出シタナラバ面倒ニナリハセヌカト思フ、サウ云フヤウナ懸念ガアルノデ今内端話デアリマスケレドモ、御隣リノ志村サソヤ其他十七番等ニモチョット伺ヒマシタカラ吾々モ多少サウ云フ懸念ヲ有ツテ居ルト云フコトヲ言ハレマシタノデ、一言其懸念ノ點ヲ述ベテ此儘此案ニ贊成スルヲ躊躇スルト云フ意ヲ述ベテ置キマス
○十八番(鵜澤總明君)
私ノハ幼稚ナ質問デアリマスガ先程英吉利ノ商法ノ千八百六十一年ト云ヒマシタノハ、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
御答ヘヲ致シマスガ千八百六十一年ラージニアクトト云フハ是ハ色々ナモノガ含ツテ居ルヤウデス
○十八番(鵜澤總明君)
千八百六十二年商事會社法ガ出來テ居ツタヤウデス、ソレカラ後今日ニ至ルマデノ商事會社法ニ契約ノ規定ガアルヤウデスガ、ソレニハ改正ニナツテ居ル所ガアリハシマセヌカ、ソレデ之ヲ質問スル譯ハ私ノ考ヘデハ刑法ノ刑罰上ノ規定ハ出來ルナラバ成ルベグ刑法系統ノ上ニ置ク必要ガアルト思ヒマス、若シ刑法ノ上ニ御加ヘナイト云フコトデアツテ商法ノ範圍デ極メナケレバナラヌト云フコトデアルナラバ格別デアリマスケレドモ、英吉利ナドハサウ云フ所カラ出來テ來テ居ルノデハナイカト思ヒマス、ソレハ分ラヌケレバ仕方ハアリマセヌケレドモ、若シ御分リニナツテ居レバ其點ヲチヨツト伺ヒタイ、ソレカラモウ一ツハ獨乙ノ商法ノ規定モ、獨乙ノ刑法ノ規定ガ不完全デアツテ急ニ刑法ヲ改正スルト云フコトモムヅカシイ所カラシテ、商法ニ於テ先程御話ノ刑法改正見タヤウナ條文ガ這入ツタノデハナカラウカト思フ、サウ云フ點ニ付テハ註釋ハ何デアラウカ、ソレモチョット伺ツテ見タイノデアリマス、ソレカラモウ一ツハ段々先程來ノ御說明ニ依リマシテ、特ニ商法ニ於テ刑法ノ出張所ヲ設ケテ、刑法ノ出張所ガ商法ノ上ニ罰則トシテ現ハレテ來ルト云フヤウナ解釋ガ出來ルノデアリマスガ、若シサウ云フコトヲセヌデモ刑法ヲ改正スレバ此目的ハ逹セラレルノデアリマセウカドウデアリマセウカ、ソレモ伺ツテ見タイノデアリマス、モウ一ツハ商法ニ依リマシテ營利會社デナイ所ノ看做會社ト云フベキ、サウ云フ風ナ法人ハ此罰則ノ規定デ段々處罰サレルト云フノデアリマスガ、サウ云フヤウナ法人デアツテモ隨分多數ノ財產ヲ預ツテ居ツテ、殊ニ信用ノ上カラシテ重大ナル財產上ノ任務ヲ帶ビテ居ルコトガアルダラウト思ヒマス、所ガサウ云フ者ガ財產ヲ使ッタリ或ハ任務ニ背イテ法人ニ損害ヲ及ボスベキ行爲ヲヤルヤウナ場合ニ於キマシテハ、却テ營利上ノ會社ノ法定代理人ノヤウナ者ノ行爲ヨリモ=層重ク罰シナケレパナラヌト思フノデアリマスガ、左樣ナル場合ニ於テハ起草委員ニ於テハドウ云フ御考ヘヲ有ツテ居ラル丶コトデアリマセウカト云フ點モ一ツ伺ツテ見タイノデアリマス、ソレカラ若シモ起草委員ノ御考ヘニ於キマシテ左樣ナ非營利法人ノヤウナ者ニ於テモ矢張リ同ニ一罰シナケレバナラヌト云フ御考ヘデアレパ、商法ニ於テハ商法上ノ會社ノ取締役代表者ト云フ者ヲ罰スベキ規定ヲ設ケナケレパナラヌ必要ガ起ツテ、折角ノ法制上ノ統一ト云フモノガ打壞ハサレルヤウナ結果ニナリハシマイカト思フ、サウ云フコトデアルト寧ロ他ノ方法ヲ取ッテ刑法ガ不完全デアルナラバ刑法ノ修正ヲナスト云フコトガ却テ相當デハナカラウカ、斯ウ云フ考ヲ有ツテ居リマスカラ其點ヲ一ツ御伺致シタイ、ソレカラ先程十五番ノ御尋ネガアッタノデアリマスガ、此任務ト云フ事柄ガ私ハ法人ノコトニ致シマシテハ第一ニ民法ニ定メテ居ル所ノ目的、ソレカラ第二ニハ商法ニ定刃テ居ル所ノ目的、第三ニハ定款ニ定メテアル所ノ目的此三ツ寄ツテ主トシテ商法ノ任務ト云フモノガ出來テ來ルト思ヒマスガ、或場合ニハ定款ノ目的ニ違ツテモ商法デ定メテ居ル所ノ目的ト民法デ定メテ居ル所ノ目的ガ異ル場合ガアリ得ル、或場合ニハ定款ト商法ノ規定トハ違ツテ居ツテモ民法デ定メテ居ル所ノ營利ナラ營利ト云フ目的ニハ適ツテ居ルコトガアルト思フ、ソコデ法人ノ目的ト云フコトエ法人ノ生活範圍ト云フコトハ必ズシモ同一デナイ、法人ノ生活範圍ノ爲メニハ或場合ニハ例ヘバ國家ニ海防費ヲ法人ガ獻納スルトカ、或ハ慈善事業ノ爲メニ金ヲ出サナケレバナラヌヤウナ場合ガ起ツテ來ルト思ヒマスガ、左樣ナ場合ニ民法ノ目的、商法ノ目的、定款ノ目的モ三ツトモ適ハナイ場合ニハ任務ニ背イタ行爲デアル、斯ウ云フヤウナ趣旨デ任務ニ背クト云フコトヲ御規定ニナツタノデアリマセウカ、誠ニ幼稚ナコトデアリマスケレドモ御答ヘヲ願ヒタイト思フノデアリマス
○四番(齋藤十一郞君)
第一ノ御尋ネノ英吉利法ノコトハ私ハ誠ニ不案内デアリマシテ、先程モ申上ゲマシタ通リ幹事諸君ノ中デ取調ベラレタノデアリマスガ、チョット見マス所デハ千八百六十一年後ニ個條々々ニ亙ツテ修正シタヤウニナツテ居リマスガ、詳シ(マイコトガドウカト云フコトハ只今御答ヘ致シ兼ネマス、イヅレマ)ノスタチツス三番ニ載ツテ居リマスガ現行法ニ相違ナイデアリマセウト思ヒマス、尙ホ其詳シイコトハ或ハ後程デモ幹事諸君ノ中カラ御報吿致シマス、ソレカラ第二ニ御尋ネノ獨乙刑法ト獨乙商法トノ關係デアリマスガ、是ハ實ハ商法ノ理由書ナドヲ見マスレバ、或ハ何カ書イテアルカモ知レマセヌケレドモ、吾々ガ見テ居リマスコンモソタールダケデハ其關係ノコトガ詳シク書イテアリマセヌ、只刑法ノ除外規定デアツテ而シテ刑法ノ中ニ犯罪トシテ色々ナモノガ書並ベラレテアリマスガ、取締役ト云フヤウナ字ガナイ、只ボルメスチート云フヤウナ字、ソレニ類シタヤウナ字ガ遣ツテアル、商法ノ規定デ取締役其他ノ者ガソレデアルト云フコトガ明カニナイト云フコトガコンモソタールニ書イテアル位、關係ノコトハ詳シク書イテナイノデアリマス、ソレカラ第三番目ニ御尋ネノ民法上ノ營利法人ハ此案ニ依レバ會社ト看做サルルモノデアツテ、サウシテ株式又ハ株式合資會社ノ組織ヲ取ツタ者ノ重役、ソレニモ罰則ガ當嵌メラル丶カト云フ御尋ネデアリマシタガ、ソレハ無論デアリマス、ソレカラ最後ノ御尋ネニ付テハ如何デアリマセウカ、ソレコソ刑法ノ二百四十七條デ足リハシナイカト思フガ、サウ云フ問題ハ研究シテ居リマセヌ
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ先刻モ申上ゲタ通リ刑法ノコトハ存ジマセヌガ、此獨乙ノ會社法トノ關係ノコトデ申上ゲマスト云フト獨乙ノ株式會社ニ關スル法規ハ色々變遷ヲ經テ居ルノデアリマス、御承知ノ如クニ商法ノ外ニ株式會社ニ對スル改正ヲ必要トスルノデ、千八百七十年ニ一ノ株式會社法ト申シテモ宜イノデアリマスガ、卽チ株式會社ト株式合資會社ニ關スル特別法デアリマス、千八百七十年ニ一度ビ出シ更二千八百八十四年ニ又大修正ヲ加ヘマシテ、ソレガ舊商法ノ矢張リ商法ノ一部分トナツテ法典ノ中ニハ捜入セラレテ居ツタノデ、ソレカラ民法ノ施行ト共ニ商法ヲ修正シテソレデ株式會社ニ付テハ、趣旨ニ於テハ大イナル變更ヲ加ヘナカツタノデアリマスガ、形ニ於テハ大分加ヘタノデアリマス、ソレデ千八百七十年並二千八百八十四年ノジヤクチンノベレーニモ、刑法上ノ罰則ガ矢張リ設ケテアツタノデアリマス、其内容ニ付テ現行ノ商法ノ取ツテ居ル所ノ卽チ罰則ト全ク同ジデアルカドウカト云フコトハ今茲二千八百七十年並二千八百八十四年ノジヤクチンノベレーヲ持ツテ居リマセヌカラ申上ゲ兼マスケレドモ、ナゼ千八百七十年ノジヤクチソノベレ――ニ罰則ヲ入レ、ナゼ千八百八十四年ニ矢張リ罰則ヲ入レタノデアルカト云フト、其理由ハ當時行ハレテ居ツタ所ノ刑法上ノ規定デハ不滿足デアル、卽チ經驗上其當時ニ生ジタ所ノ弊害ヲ救フニ足ラヌト云フ所カラ、千八百七十年ニ加ヘタノデアリマス、尤モ千八百七十年ハ刑法ガ千八百七十一年デアリマスカラ其前デアルガ、併ナガラ其前ト雖ドモ矢張リ刑法ハライスケースツトシテハナイニ相違ナカッタノデアリマスガ、併シ總テ改正刑法ナルモノガアツタ、ソレカラ千八百八十四年ジヤクチンノベレーハ卽チ現行法ノ七十四年ヨリハ十幾年ノ後デアリマス、矢張リ刑法ノ定ムル所デハ其弊ヲ救フニ足ラヌト云フ所カラ全體加ヘラジタ、ソレハ必ズシモ二百六十一條ニ相當スル所ノ三百十二條バカリデハ無論アリマセヌ、全體ノ罰則デアリマスケレドモ、サウ云フ理由デアルト云フコトニ承知モ致シテ居ッタノデアリマス、此書物ニモサウ云フヤウニ書イテアリマス、デアリマスカラ寧ロ千八百八十四年以後ニ於テハ卽チ刑法ノ帝國法トシテ存在シテ居ルニ拘ハラズ、尙ホ是デハ不足デアルト云フ所カラ加ヘラレタモノト言ハナケレバナラヌ、尤モ千八百七十年以來ノ歴史モアリマスカラシテ或ハ刑法ニ加ヘズシテ、既ニ刑法前ニ株式會社法ノアツタモノデアリマシテ、尙ホ之ヲ株式會社法ニ加ヘルガ適當デアルト云フ沼革モアルカモ知レマセヌガ、兎ニ角刑法ニ定メタル罰則デハ弊ヲ救フニ足ラヌト云フ所カラ株式會社法ニ罰則ヲ設ケタノデアルト云フ事實丈ハ疑ヒナイノデアリマス、營利法人ノコトデアリマスガ營利法人ハ其目的ガ商法ニ非ザルモ矢張リ會社ト看做スト云フコトニナツテ、總テ商事會社ニ關スル商法ノ規定ニ從フコトニナリマスカラ、無論此罰則モ適用セラルベキ道理デアラウト思フ、ソレカラ營利ヲ目的トシタル法人ニ付テドウデアルカト言ヘバ、丁度二百六十一條ニ當ルヤウナ場合デアツタナラバ、刑法ノ二百四十七條ヲ當嵌メルコトニナラウト思フ、ソレデ私ガヒソカニ考ヘマスルニ所謂非法人ト申シテモ隨分廣イノデアツテ是ガ果シテ所謂公益法人ト云フ者ト其範圍ヲ同ジウスルモノデアルカ、ドウカバ問題デアラウト思ヒマスガ、例ヘバ一ノ例ヲ以テ申セバ此相互保險業法ニ定メテアル所ノ相互會社ノ如キ是ハ營利ヲ目的トスル所ノモノデアルトハ私ハ見ナイノデアリマス、併ナガラ此相互會社ニ付テ定メテアル所ノ罰例ハ矢張リ商法ノ株式會社ニ付テ定メテアル所ノ罰例ト大體ハ同ジコトデアル、矢張リ科料ト云フコトニナツテ居ルノデアリマス、固ヨリ其所謂理事者ト雖モ刑法ノ規定ニ該當スル場合デアルナラバ、無論現行刑法ニ依ツテ罰セラル丶ニハ相違ナイノデアリマスケレドモ、併ナガラ二百六十一條以下ニ在ル契約規定ガ無論分ケテハナイ、從ツテ所謂同一ノ各相互會社ノ如キハ矢張リ商法二百六十一條以下ニ類似スル尠クモ規定ノモノデアツテ矢張リ刑事上ノ制裁ヲ附スルノ必要ガアリハシナイカト云フ議論ガ必ズ起ルベキノデアツテ、私モソレヲ考ヘテ居ルノデアリマスガ、既ニ商法其モノガ二百六十一條以下ノ罰例ヲ加ヘテ刑事上ノ制裁ヲ加ヘルト云フ主義ガ確定シタナラバ相互會社ニ付テモ全ク是ト同一ノコトヲ要スルヤ否ヤハ問題デアリマセウガ、尠厚クモ其趣旨ヲ取ツテ矢張リ改正ヲスベキモノト私ハ思フノデアリマス、公益法人ニ付テモ大體矢張リ科料デアリマスガ、果シテ此商法ニ今度採ラヌトスル所ノ主義ト同一ノ主義ヲ採ルガ宜イカ、ドウカト云フコトハ是ハ私ハ大ニ熟慮ヲ要スベキ問題デアラウト思フ、株式會社株式合資會社ニ付テハ大ニ弊ガアルコトハ皆認メテ居ルコトデアリマスガ、所謂公益法人ナル者ニ付テ尠クモ同樣ノ弊ガアルト云フコトハ私ハ餘リ聞キマセヌ、若シ他日是ニ類スルノ弊ガアツタナラバ又改正スルモ宜シイノデアリマセウガ、併ナガラ商法ニ此主義ヲ採ツタカラ直チニ民法ノ言フ所ノ公益ニモ同一ノ刑罰ヲ加ヘルガ必要デアルト云フ結論ニハナルマイト思フ、ソレカラ任務ニ背クト云フコトハ是ハ定款ニ揭ゲテフル所ノモノト雖モ這入ラヌト云フコトハ申サレヌノデアリマス、必ズシモ法律ノミデハナイ、任務ニ背クト云フコトハ法律規定ニ反スルト云フ場合ノ、、、デハナイ、定款ノ規定ニ反スル場合モ亦任務ニ背ク場合ハ必ズアラウト思フ
○第十七番(阿部泰藏君)
只今二百六十一條ガ問題ニナツテ居リマスガ、私ノ申述ベタイコトハ罰則全體ニ渉リマスノデアリマスガ、此處デ申上ゲル外ハナイト思ヒマスカラ一應意見ヲ述ベマスデゴザイマス、此度ノ商法修正ニ付キマシテ此罰則ハ現行商法ニ比シテ非常ニ峻酷ナモノニナリマシタ、御說明ニ依リマスト刑法ノ制裁デハ株式會社ノ取締役トカ或ハ業務執行ノ社員トカ監査役トカ云フモノニハ輕ル過ギル、ソレデ此商法ニハ別段ニモツト重イ刑罰ヲ加ヘルヤウナ規定ヲ設ケタト云フヤウナ御說明ト存ジマスルガ、私共ハ此會社ノ取締役ト云フヤウナ者ニ對シテ別ニ普通ノ刑法以上ノ嚴酷ナ刑罰ヲ加ヘル必要ハナイカト思フ、刑罰ヲ嚴酷ニシタカラ會社ノ狀態ガ善クナルカト云フニ、別段ニソレガ爲メニ善クナルト云フ利益モナカラウト思フ、今日デモマダ日本デハ會社ノ重役ナドニナルコトハ餘程嫌フト云フ風ガアルノデアリマス、矢張リ商賣人ニナルノハ甚ダ踐ツイ仕事ダト云フヤウナ感覺ヲ有ツテ居ル、其例ヲ申シマスレバ近頃男爵ニナッタ人ガアル、是ガ或會社ノ業務擔當社員ヲシテ居ツテ卽チ無限責任ヲ帶ビテ居ル、華族トシテ無限責任ノ仕事ニ從事スルノハ甚ダ面白クナイカラ自分ハ止メル、併シ其事情ニ由ツテ全ク關係ヲ絕ツコトモ出來ヌカラ監督トカ顧問トカ云フ名デ實際ハヤツテ居ルガ、業務擔當社員ダケハ止メタト云フ實例ガアル、又或男爵ノ息子ハ高等商業學校ニ這入ッテ居ツタ所ガ、親爺ガ男爵ニナツタノデ商賣人ニナルノハ甚ダ不都合ダト云フノデ海軍ノ軍人ニナツタト云フ實例モアルノデアリマシテ、今日ハマダ此會社ノ役員ナドニナルコトヲ餘程恥トシテ居ルヤウナ風ガアル、ソコヘ以テ往ツテ又刑罰ヲ普通ノ刑罰以上ノ罰ヲ加ヘルト云フコトニナルト餘程取締役ニナルコトヲ躊躇スル人モアラウト思ヒマス、又會社ノ重役ハ非常ニ報酬ヲ澤山取ツテ居ルト云フ御說モアツタヤウデアリマス、是ハ成程專務取締役トカ社長トカ云フ人ニハ多額ノ報酬ヲ受ケテ居ル人モアリマスガ、普通ノ取締役トカ監査役トカ云フ者ニナリマスト多クハ報酬ナドハ甚ダ薄イモノデアル、只萬一事ガアル時ニハ其責任ハ同樣ニ負ハナケレバナラヌ、コンナ馬鹿々々シイコトハナイト云フノデ良イ人ハ會社ノ普通取締役或ハ監査役ニナルコトヲ避ケルヤウダト云フコトモアリマセウト思ヒマス、又御說明中ニ今日ノ狀態三麒ミテ或ハ現今ノ時弊ヲ救フ爲メニ斯ウ云フ法律ヲ設ケテ其取締ヲスルト云フヤウナ御說モゴザイマシタガ、私ハ法律ヲ孰成クルノニ今日ノ呱杁能心ダノ時敝#ダノニ依ツテ法律ヲ乱奴クルト云フコトハ間違ツテハ居ラヌカト思ヒマス、私ガ申上ゲルマデモナク戰爭デモアツタ後ニハイッデモ經濟界ハ非常ナ混雜ヲ生ジテ來ル、三十七八年ノ戰爭ノ如キハ實ニ未曾有ノ戰爭デアツテ、其戰爭ノ濟ンダ後トニ此經濟界ナドニモ非常ナ混雜ノ起ルノハ當リ前ノコトデアル、必ズ起ルニ極ツタコトダト私ハ思フ、其時分ニ當ツテ日糖事件トカ或ハ水產會社ノ事件トカ云フモノガ起ツテ來タノハ別ニ不思議デモ何デモナイ必ズアルベキコトダ、今マデノ例ヲ見テモアルノデアリマス、サウシテア丶云フ會社ノヤウナモ、ノハ非常ニサウ云フコトガアルト名高クナル、一箇人ノ商人デモ矢張リ色々不都合ナコトガアツタ、殊ニ別段ニ會社ノ取締役ト云フヤウナ者ヲ一暦深ク咎メルト云フ必要ハ格別ナカラウトモ思フノデアリマス、サウ云フ風ニ大戰爭後ノ經濟界ガ混雜ヲシタ有樣ヲ見テ世間ノ人モ會社ト云フモノハ良シクナイモノダ、取締役ト云フ者ハ不埒ナ者ダ、成ルタケ嚴重ニ取締ルガ宜イ、懲役ニモスルガ宜イ、罰金モ重クスルガ宜イト云フコトハ殆ンド世間ノ輿論デアツテ新聞紙ニモサウ云フコトガ書イテアルノガ見ヘマスガ、私ハ一時經濟界ノ秩序ノ紊レタ時ニ當ツテ其時ノ輿論ヲ聞テ將來ノ法律ヲ極メルト云フコトハ間違ツテ居ルコトデハナイカト思フノデアリマス、今後此世ノ中ノ秩序ガ定マルニ從ツテ會社ナドモ段々不都合ハ減ツテ來ルダラウト思フ、例ヘバ銀行ノ如キ今ヨリ三十年前ニハドウカト云フト、日本ニハ國立銀行ト云フモノハ百幾ツシカナイ、私立銀行モアツタケレドモ國立銀行ヨリ恐ラク少ナカッタ、其僅ノ銀行デ中々銀行ノ破產スル支拂停止ヲスルト云フ例ハ尠ナクナカツタ、今日ハドウカト云フト銀行ノ數ハ數千ヲ以テ數ヘルケレドモ、サウ云フ不都合ヲスル銀行ガ元ノヤウニ在ルカ声云フト決シテ其數ノ割合ニハナイ大ニ減ジテ居ル、銀行ナドハ三十年前ニ比シテ今日ハ餘程良クナツテ居ルト思フ、他ノ會社ニシマシテモ今日斯ノ如キ戰爭後ノ有樣ヲ見テ將來モ此通リデアラウト云フ考ヘデ嚴重ナ法律ヲ設クルコトハ私ハ宜シクナイノデアラウト思フ、私ノ考ヘデハ此刑罰ニ屬スルコトハ是ハ刑法ニ讓ツテ、商法ハ元ノ通リ科料ニ止メル、其科料ト云フノハ元ハ千圓以下トアリマシタガ、商賣ノコトデ金錢上利益ニ關スルコトデ、多クハ法律ニ違反スルノモ自分ノ利益ヲ計ルト云フコトカラ出ルノデアリマセウカラ、此科料ノ金額ヲモツト殖スト云フコトニ付テハ私ハ別ニ異論ハアリマセヌガ、刑法以外ニ嚴重ナ刑罰ヲ設クルト云フコトハ止メタイト思ヒマスカラ、第二百六十一條バカリデハナク此罰則全體ヲ通ジテ修正ヲ致シタイト存ジマスルガ、私ハ法律ニハ暗イ者デアリマスカラ其案ハ提出致シマセヌガ、大體ニ付テ願クハ諸君ノ御贊成ヲ乞ヒタイト思ヒマス、斯ノ如ク法律ヲ定メタラバ他日法律ヲ作ルノ弊ニ一茲ニ出ヅルト云フ後悔ヲスル時機ガ來ルダラウト思ヒマス、私ノ是ハ想像デアリマスガ現行商法ノ出來マス時分、卽チ先ノ法典調査會ノ頃ニ此保險金受取人ト云フモノヲ親族ニ限ルト云フ法律ガ出來マシタ、其時分ニ私ハ反對致シマシタ、其時分ハ類似保險ト云フモノガ非常ニの多クアッタ五百トカ千トカヲ數ユル程アッタ、死ニ掛ツタ御爺サソヤ、御婆サンヲ連レテ來テ其名前デ金儲ヲスルト云フコトガ全國ニ在ツタノデアリマス、其時分ニ出來タ現行商法ダカラ、受取人ハ親族ニ限ルト云フ說ガ行ハレタノデハナイカト自分單リデソレハ考テ居リマス、サウ云フ法律ガ出來タ後受取人ヲ親族ニ限ルコトハ不都合ダト云フ意見ガ出テ、今度ソレガ修正ニナツテ、必ズシモ親族デナクテモ宜イト云フコトニナリマシタ、此法律モ今日斯ノ如ク嚴重ニ御定メニナツタナラバ、法律發布以後必ズ輿論ハ是ニ反對スルデアラウト考テ居リマス、又是ガ爲メニ會社ノ整理ガ行屆クト云フヤウナコトモナカラウト思ヒマスカラ私ハ罰則全體ヲ通ジテ此體刑ヲ廢スルト云フ修正說ヲ出シマス
○二十五番(磯部四郞君)
私モ只今阿部君ノ說ニ全ク同意デアリマシテ、先程モ會社ニ時弊ガアルトカ色々裁判上ニ現ハレテ全體ノ會社ガ悉ク泥坊ヲ以テ埋ツテ居ルト云フ如キ頭ヲ有ッテ却テ千八百六十一年佛蘭西邊リデ株式會社ノ濫發ガアツテ、サウシテ法律胃ナイ爲メニ不平ガ到ル所ニ在ッタ、其當時ニ行ハレタ法律ヲ繙イテ見マスト斯ウ云フコトガアル、是モ會社ノ弊、アレモ會社ノ弊、去リナガラ今日ノ日本ノ有樣ヲ見マスルト云フト例令不完全ナ會社デアリマシタカ知レマセヌガ、此實業界ニ於テ最モ發展シテ最モ社會ニ公益ヲ奏シテ居ルノハ會社ノカデアル、然ルニ一ニノ會社ニ少シク不都合ガアツタト云フテ悉ク會社ハ乱暴狼藉極ツタモノデアルト云フ考ヲ有ツテ斯ノ如キ慘酷ナ法律ヲ設ケテ將來ノ會社ノ發展ヲ屏息シテ仕舞フト云フノハ學者ノ一方ニバカリ眼ヲ著ケテ全般ヲ觀察シナイ甚ダ不都合ナ議論デアラウト思フ、私ガ先程カラ承ハルト云フ下總會デ商法ノ調査會ヲ開イテ今日ノ法律案ノ是非曲直ノ御論ハナイカノヤウニ思フ、且ツ承ハル所ニ依レバ此商法修正案モ成ルベク急イデ議場ニ提出シタイト云フコトデアリマスガ、僅ニ二百六十一條ノ案ニ付テ世界中ノ案ヲ引キ來ツテ物知リ顔デ議論ヲシテ一條ノ議論ガ盡キナイト云フヤウナコトデハ如何デアリマスカ、ソレ故會社ノ弊害ヨリモ法律調査ノ弊宝ロハモツト酷クナイカト思フ、成ルタケ是等ニ付テハ喋々ノ議論ヲ御止メニナッテ今日ノ會社ハ御心配ハナイ、鐵道會社デモ電燈電氣等ノ會社ニ依ツテ見テモ皆成功シテ居ル!デアル、偶々=一ノ會社ニ犯罪人ガ出タト云フテ會社ハ泥坊デ埋ツテ居ルヤウニ考ヘテ、徒ニ法律ヲ改正シテ會社ノ發展ヲ全ク社絕シテ仕舞フヤウナ法律ノ改正セラル丶ト云フノハ遺憾千萬デアリマス、私ハモウ一歩進ムデ此案ノ廢案說ヲ主張致シマス
○三十五番(横田國臣君)
大變此刑罰ハ輕ルイト云フ說ガ餘程盛ンナヤウデゴザイマス、ソレデ殊ニ勝本君デサヘモ此刑ガ重イト言ハレルヤウデゴザイマス、其上十七番ノ實際家ガ――私ハ成ルベク實際家ノ要旨ニ從ヒタイ實地左樣デアラウト云フコトハ餘程自分ノ頭ニ有ツテ居ル積リデアリヤス、併ナガラ私ハ刑罰ノ重イト云フコトニハ餘リ重キヲ置テ居リマセヌ、併ナガラ此コトダケハ一ツ能ク御考ヘヲ願ヒタイノハ實際果シテサウカドウカト云フコトハ實際家ニ主ニ訴ヘテ見タイノデスガ、此個條ハ刑法ニ稀レニ似テ居ルケレドモ、是ハ非常ニ槪括ナ所ガアル、其槪括ト云フノハ刑法ノ方〈目的ヲ定メテアル、是ハ目的ガ定メテナイ善意惡意ト云フモンハ問ハヌト云フテモ宜イ、只其任務ニ背キト云フダケハ故意ガイルノデスカ其結果ガ宜カラウガ、惡ルカラウガ結果ハ見ヌノデス、ソレダカラ、チヨツト一面考ヘタナラバ大變乱暴ナ法律ノヤウニ在ル、殊ニライニソグ、セヲリー、アヴソルト、セヲリーナドハハ何更サウ云フコトハ嫌デアラウト思フ、併ナガラ茲ニ又能梺考ヘテ見ナケレバナラヌコトハ今或會社ノ長デイヅレ亂暴ナコトヲヤヅテ勝手次第ナコトヲヤル、併ナガラ私ノヤル趣意ハ會社ヲ利益スル爲メニヤルノデ善意ト云フテモ宜イカモ知レヌ、併ナガラサウ云フコトハスルナト云フノヲヤルノデアル、ソレデゴザイマスカラ矢張リ茲ニ罰セラル丶デアラウト思フ、併ナガラソレヲドウカ止メサセタイ此處ガ大變何デモカデモ罰セラルルヤウニ言ハルニケレドモサウデハナイ、只任務ニ背キト云ヒ任務ニ背キサヘシナケレバ宜イ、ソレデスカラ是ヲ餘リ恐レルニハ一向及ハヌ、十七番ハ實際家トシテ今大變刑ガ重クナツタトカ言バレルガ、刑ハドウデモ宜イ減スナラ減ラスガ宜イノデスガ、是ガ怖イ何デモカデモ罰セラル丶ト見テハイケナイ、此會社ハ斯ウ云フコトヲスルノダ、他ノコトヲヤツタリ相場ヲヤツテ見タリ、サウ云フコトヲスル善惡ノ分ル取締役ヲ置キタイノデアリマス、ソレデチヨツト見ルト甚ダ私モ一般ノ思想カラ考ヘレパ實ニ是ハ勝本君モ前ニサウシタイト言ハレタガ、前ヲ一般ニサウシテ置テ人ノ爲メニ善イコトヲシタノモヤツテ仕舞フト云フ、ソレダケハ民事ダケデ置キタイノデス、例令過チハアツテモ是デ十分デアラウト思フ、併ナガラ是ハ私ハドウモ必要デアルト思フ、ソレデ私ハ此先キ餘リ申シマセヌケレドモ、此先キモ現ニ止メタイカト云フトサウデハナイ、是ハ今マデ隨分人モ言ヒ私モサウ氣ガ付テ居ル、隨分會社ヲ倒スト云フコトハ幾ラモアルカモ知レヌカラ其取締役ノ仕方デ又倒サレル、是デ以テ取締役ガ若シ出來ルモノナラバ此點ダケハ置キタイト思フ、又是ヲ輕ルクシテモ宜シイガ、大體實業家タル十七番ノ如キガ恐レラレルケレドモ決シテ恐レル價値ハアリハシマセヌ、ドウゾ此點ダケハ原案者ニ同意シテ欲シイノデス、刑ナドハ私ハドウデモ宜シイ、此世ノ中ト云フテハ又笑バレルカ知レマセヌガ商事トカ金錢利得ノ法ノ弊ト云フモノハ自然々々ニ廻ツテ來ルト云フノガ實際デゴザイマス、ソレデ今ノ通リデ會社ガ成立ツテ行キ居ルトカ云フケレドモ或ハ會社ノ今日ノ通リニ往クノハ今ノ商法ト云フモノガ餘程助ヲシテ居ルカト思フ、決シテ法律論ガ惡ルイトカ何トカ言フコトデハナイ、此法律故ニ今ノ會社ハ半分成立ツテ居ルト言ツテ宜イト思フ、一番初メ商法ノ一部ヲ施行シタ時ハ私ガ政府委員デ出テ居リマシタガ、ソレマデノ會社ト云フモノハ實ニ會社ト云フコトハ出來ナイ位デアツテ、ソレデアルカラ法律ノ效能モ決シテ尠ナクナイ
○會長(子爵岡部長職君)
一時休憩致シマス
午後六時三十分休憩
午後七時開會
○會長(子爵岡部長職君)
是ヨリ開會ヲ續ケマス
○三十七番(松波仁一郞君)
私ガ二百六十一條ノ全體ノ主義ニ付テ御贊成ヲ致シテ居ルノデアリマス、自分ガ時ニフレテ常ニ本文ヲ訟覦ズル際蟹、日本ノ商法ノ規定ハロ割則ガ超階過ギルト思フト云フ感情ヲ起シテ居リマシタガ、幸ニ幾分カ重クナリマシタノデ贊成シテ居ルノデアリマス、其趣意ハ最早論ズルマデモナイトシテ阿部君ノ御話デ餘程實業者ハ是デハ困ル段々ト宜クナルカラ宜イジヤナイカト云フヤウナ御話ガアリマシタノト、先程英吉利ノコトデ餘程諸方面ニ色々ノ御話ガアリマシタノデ、ソレト關連シタコトヲ幾分カ自分ノ經驗上偶然ニモ調査シタコトヲ述ベテ本案ニ適當ナコトヲ述ベヤウト思フノデス、英吉利ノ法律ハ御存ジノ通リ千八百六十二年ニ會社法ガ出來マシタガ、其出來タモノガ餘リ放任的デ言ハヽ寛大過ギテ種旧々ノ弊宝ロガ生ジタト云フコトデ一槓リ借隅リテ千九百年ニ稍々是ヨリ嚴重ナ法律ヲ拵ヘタノデアリマス、千八百九十七年頃ニ私ガ英吉利ニ居リマシテ幾分カ是ヲ研究シマシタトキニ、戰爭モナニモ起ラナイノデアリマスガ、非常ニ會社ノコトハ亂雜ニナツテ殊ニ私ノ記憶シテ居リマスノバクルボーホテル事件ト云フノデ丁度日本ノ大使館ノ端ニクルボート云フ大キナホテルガアリマシテ、其會社ノ重役ガ物品賣込人ト共謀シテ高キ物ヲ買ツテサウシテホテルヲ經營シテ居ツタ、ホテルハ每年損ヲシ重役ハ高ク買ツタ商人カラ幾分カ利益ヲ受ケテ居ツタ事實ガ暴露シテ大戀ハニ會社ノコトデ、他ノ點マデモ調四ベテ亠央士口利ノ會社ガ腐敗シテ居ルト云フコトデ益々嚴重ニシナケレバナラヌト云フ論ヲ起シテ居リマシタガ、ソレナドガ重ツテ自由主義ヲ改メテ稍々干渉主義ノ法律ヲ千九百年ニ出シマシタ、マダソレデモ輕過ギルト云フノデ千九百七年ニ最近ニモウ一層嚴重ナ法律ヲ出シマシタノデス、最近ノコンソリテアソアツトハ千九百八年ニ出シマシタガ偶然ニ研究シテ居ツタノデアリマスガ段々重クナルヤウニ思ヒマス、ソレカラ懲役年數ノヤウナコトモ自分ガハツキリ年數ハ記憶シテ居リマセヌガ、七年ヨリ決シテ輕ルクナイヤウニ思ツテ居リマス、ズツト前ニ在ツタモノモ七年位ヒヨリ重クナツタノデ段々重クスル主義ニナツテ居リマスカラ、是ヨリ輕ルクナツテハ居リマセヌガ、英吉利デサヘモサウ云フ譯デアリマスカラ、是ヨリ遺憾ナガラ商業道德ノ劣ツテ居ル日本デハ矢張リソレ位ノコトニシテ置カネバナルマイカト思ヒマス、併ナガラ私ガ其理由デ以テ全體ノ主義ニ贊成致シマスガ、只是カラハ幾分カ質問ト意見ニナリマスガ、一ハ支配人ト云フ點デモウ一ハ財產上ノ損害ヲ及ボスベキ行爲ト云フ點デアリマスガ、起草委員ニ質問ヲスルト同時ニ修正案ヲ御出シニナツタ花井君ニモ御質問ヲ同時ニ致シマス、此支配人ト云フコトハドウモ獨乙ノ例ニ當ル三百十二條ハ矢張リ私ハ詒樌違ヒカ知レマセヌガ、ホルスタソト、アモスチユラートデ取締胛役ト監査役トヲ言ツテ居ツタノデアラウト思フ、此字ガドウモナカッタヤウニ記憶シテ居リマスガ、固ヨリ是ハ必要ガアツテ是ニ御入レニナツタノデアリマセウガ、私ガ平生此會社ノ罰則ニ付テ考ヘテ居ルコトハ發起人トカ或ハ取締役トカ先ヅ會社ノ主人的ノ者卽ち會社ノ機關ト云フ言葉ハ悪ルイカ知レマセヌガ、普通ニ機關ト言ツタリシマスカラサウ申シマスガ、會社ノ機關或ハ機關ト同視スベキ者、若クハ是ニ準ズベキ者ト云フ風ニ會社ソレ自身ニ主人的ノ位置ニ立ツテ居ル者ヲ罰シテ居ルノデアツテ、使用人マデハ罰シナイ趣意デアラウト思ツテ居ツタノデス、所ガ恐ラクハ起草委員ノ御意見デハ支配人ハ營業ニ關スル裁剣上裁剣外ノ一切ノ權限ヲ有スルカラ實權ニ於テ取締役ナドニ均シイカラ、凡ソ使用人デアツテモ同一ノ制裁ヲ加ヘテ宜カラウト云フ御意見カト思ヒマスケレドモ、ドウモ私ハ罰則ナドノ點ニ於テハ機關タル者ト使用人ニ過ギナイ者トヲ幾分カ區別スル必要ガアリハシマイカ、卽チ現行法ノ如ク機關ノヤウナ者ダケヲ罰シテ、使用人ノコトハ幾分カ輕ルクスルカ、全ク除外シテ仕舞フカスレパ宜カラウト思ヒマス、花井君ノ御修正案ニ矢張リ支配人ト御書キニナツテ居リマスガ、是ハ成ルベク修正案卽チ起草委員ノ原案ヲ改メルコトヲ欲シナイカラ矢張リ其儘支配人ト、起草委員ト原案ト同時ニ御加ヘニナツタ故カ或ハ御自身モ固ヨリ矢張リ取締役ナリ、支配人ハ同ニ一罰スベキ者ト云フ御自身ノ御意見デ御加ヘニナツタノデアラウカ、此點トソレカラモウ一ツハ原案ニ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲トアリマスルガ、懇々ノ御說明デ趣意ハ能ク分ツテ居リマス、損害ヲ生ジテモ又生ジナクテモ實際ニハ利益ヲ生ジタ行爲デアツテモ損害ヲ生入ベキ行爲ナラバ罰スル、斯ウ云フコトデアリマセウカ、ドウモソレデハ非常ニ曖昧ニナルデアラウ、損害ヲ生ジタル行爲ト言ツテモソレハ事實問題トシテ生ジタカ生ジナイカト云フ事實問題ハ起リマセウガ、生ジ得ベキ行爲ト云フト一層事實問題ガ起ツテ多ク取締役ノ利益ヲ計ツテ危害ガ多クナルダラウト思ヒマスノデ、餘程此點モ重クナッタ、コトト思ヒマス、全體ニ於テ私ガ重イノニ贊成デアリマスガ此點ハ矢張リ花井君ノ御案ノ如クニ加ヘタル時ト云フ風ニシテ一ハ幾分カ原案ヨリ輕ルクシ一ハ曖昧ノ生ズル恐レハ成ルベク防グト云フコトニシタイト思フ、ソコデ花井君ノ御案ニ付テ見マスト尠クモ原案ニ一ニ點ノ改正ハ加ヘラレテアル、四點モ五點モアリマセウガ尠クモ三點ハアル、一ハ損害ヲ加フル目的ヲ有ツテト云フコトヲ入レテ原案ヨリモ罰スル場合ヲ尠クシ、ソレカラ財產上ノ損害ヲ加ヘタルトキト過去ノ事實ニシテ輕ルクシ、サウシテ五年以下ノ懲役云々ト云フコトデ輕ルクシテアルヤウニ思ハレマス、若シ三段ノモノヲ此憎ハ不可分ニ御修正案トシテ御出シニナルコトニ限ルト云フコトナラ仕方ガアリマセヌケレドモ、若シ此三段ヲ解放シテモ構ハヌト云フコトナラバ私ハ眞中ノ財產上ノ損害ヲ加ヘタルトキト云フ修正ノ點ニ御同意シタイト思ヒマスノデ、是ハ只如何ニナルカト云フ御相談ヲ申スマデ丶アリマス
○二十二番(花井卓藏君)
私ヨリ先キニ答ヘ得ベキ必要ハゴザイマセヌガ御質問ノ主旨ガ言葉ハ誠ニ奇麗デゴザイマスケレドモ、一隨ニ起草委員ノ案ト云フモノヲ手本トシタノカト云フヤウナ御趣旨ガ甚ダ癪ニ障リマスカラチヨツト御答ヘヲ致シマス、獨逸ノ商法ノ三百十二條ノ規定ニハ會社取締役ト監査役淸算人ト云フノガアリマス、支配人ハ勿論アリマセヌ、支配人ガナイノハ御質問ノ如シデアル、而シテ原案ハ支配人ヲ加ヘタノデアル、私モ支配人ヲ加ヘタノデアル、斯ウ御答ヲスレバ宜シイ獨逸商法ヲ翻譯致シマスレバ支配人ノ加ッテ居ルノガ間違ツテ居リマスケレドモ、日本ノ商法ノ起案トシテハ是ガ時弊ヲ見タル如キ材料ト御覽ヲ願ヒタイ、是ハアナタ方ヨリ私共ノ申スコトヲ御信用下サルコトヲ乞ヒタイノデアル、日夕裁判所ニ出入スルカラ是等ノ犯罪人ニ接觸シテ居ルコトガ一番多イト誇リデハナイガ斷言スル、而シテ犯罪ノ源ヲ爲スベキ者ハ常ニ支配人デアル、取締役、監査役ガ處罰ヲ受クベキ場合ハ責任關係ニ於テ誠ニ法律ガ常ニ處置ガナイカラ罰スルノデアル、總テノ罪惡ハ支配人ガシテ居ルカラ是ハ大ニ救ハナケレバナラヌト云フノデ私ハ支配人ヲ獨立ニ加ヘタル趣旨ナリト御承知ヲ願ヒタイ、ソレカラ最後ニ御尋ネニナリマシタ修正ヲ含ム所ノ範圍ト云フモノハ不可分デハ困ルケレドモ、之ヲ可分トシタナラバ或部分ダケハ贊成シテモ宜シイ、勿論是ハ不可分ノ規定デハナイノデ勝本君ノ演說セラレタル通リ前半モ分カツベキ一ノ修正案デアツテ、後半ハ三ツニモ分タルベキ修正案デアルノデアリマスカラ、御採決ノ際ハ勿論可分的ニヤラレルコトデアラウト思ヒマス、情狀デモ御推察ヲ願フ方ガ宜シウゴザイマスカラ、其點ダケヲ御贊成ヲ願ヒタイ、質問ノ其點ニ付テ松波君ノ厚意ヲ深ク謝シテ置キマス、私ノ質問モ是カラ起ルデゴザイマセウソレカラ他ニ修正ノ意見モ起ルデゴザイマセウガ、法律問題ト云フコトヲ離レテ政治家トシテト言フテハ大變大キイ政治家ノヤウデアルケレドモ勿論陣笠デハアリマスガ、政治家トシテ此案ヲ一ツ觀察シテ見テ戴キタイ、諸君若シ此案ヲ法律トシテ議會ニ提出ヲシテ、サウシテ通過ヲ望マル」ト云フ御趣旨デアルナラバ私ノ意見ヲ少シク聞イテ戴カナケレバナラヌ、此場合ニ於テハ法律論ニ切致サヌノデアル、極ク政治的ニ俗論ヲ致スノデアル、而シテ法律的ノ理論ヨリハ政治的ノ俗論ガ上下兩院ニ迎ヘラル丶モノデアルト云フコトヲ能ク頭ノ上ニ返ス々々モ御刻ミアラムコトヲ望ムノデアル、先ヅ此法案ヲ讀デ第一ニ驚クノハ誰デアラウカ、實際家タル阿部君ノ御演說ノ如キ我レモ人モ望デ會社ノ經營者タラムコトヲ望ム人ハ避ケテ其實際ニ付カヌヤウニナルデアラウ、斯ウ云フコトヲ言ハレタ、甚ダ咲群フベキ言ナリト私ハ信ジテ居ル、會社ノ信用ト云フモノハ經營者ノ人格ト云フモノガ最モ主ナル要素ニナツテ居ルノデアル、其人ガ避ケテ經營ヲシナイ會社ニ在ツテ事業ヲ起サムトスルト云フコトハ當テニハナテナイ、先ヅ此法案ハ君子危キニ近カヅカヌト云フ筆鋒ヲ守リ此經營者ヲ好ムデ採ラザル案ナリト言ツテ宜イノデアリマス、誰カ此ヤウナル危ナイ橋ヲ渡ツテ取締役ナリ監査役ナリニナル者ガアルデアリマセウカ之ヲ先ヅ御觀〃察ヲ願ハナケレパナラヌ、是ハ内ニ對ス所ノ損害、ソレカラ外ニ對スル損害ト云フモノヲ御考ヘニナラナケレバナラヌト思フ、會社ノ弊救フ可カラザルニ到ル、故ニ世界無比ノ峻刑酷罰ヲ科シテ居ルノデアル、是ハ日本ノ商法ニ於テ始メテ之ヲ見ル、日本人以外ノ人ガ此規定ヲ見テ如何ナル感ジヲ起スデアラウカ、法律ハ時ノ反影デアル、日本ノ會社事業ニ從事スル所ノ者ハ世界無比ノ罪惡ヲナスノデアル、故ニ世界無比ノ刑罰ガ量定セラレテ居ルノデアル、刑法ヲ見、罰則ヲ見ルダケデ何等ノ考ヘヲモ懷カヌ者ナラバ格別デゴザイマスケレドモ、斯ノ如キ重キ刑ノ量定ヲ成立シタル以上ハ日本ノ會社ハ罪惡ヲ養フ所ナルガ故デアル斯ノ如キ危險ナル會社ニ向ツテ奉仕シテ以デ事業ヲ助ケルト云フコトハ一切今後ハ無用デアル、世界ニ向ツテ往々日本帝國ノ會社ハ斯ノ如ク不信用ナリト云フ看板ヲ法律ヲ以テ公布ヲシテ、サウシテ海外ニ於ケル所ノ信用ヲ博シテ資本ノ放下ヲ望ンデ會社ニ在ツテナサヌト欲スル所ノ事業ノ經營ヲナサヌトスル御旦里見デアルト致シマシタナラバ是ハ大イナル過リデアル、内ニ經營者其人ヲ失ヒ外ニ資本ノ運轉ヲ遮ラレ而モ何モ日本ニ於テ誇ルベキモノハナイガ、會社重役ガ罪惡ヲ犯スノガ一點デアルト云フ廣吿ヲシテ何ノ利益ガアルカト云フコトヲ御考ヘヲ願ヒタイ、或ハ俗論デアルカ知ラヌ、此現象ハ必然ニ生ズルモノト私ハ思フノデアル、獨逸ノ商法並ニ刑法ニ依レパ五年ヲ以テ最長期ノ刑トシテ居ルノデアル、其他ノ外國ノ法制ニ於テ獨逸ノ法制以外ハ刑ノ量定ヲバシテ居ル國ハ一國モナイ、私ハ一國モナイト云フ自信ノ調査ノ結果ヲ得タノデアル、ゴザイマ入ガ承ハル所ニ依レパ英吉利ニ在ルサウデアル齋藤君ノ言ガアル故ニ是ハ確實ナリトマデハ信用スルニ足ラヌガ、松波君ニ對シテモサウデアル、假リニ是アリトシテモ五十年前ノ法律デアリマス、五十年前ノ法律ガ五十年後ノ法律ヲ制定スル場合ニ於テ何ノ起因ヲナスモノデゴザイマセウ、英吉利ニ於テ斯ノ如キ立法ノ例ヲ逐フテ居ルモノガアレパ格別デアルケレドモ、英吉利ニ於テ五十年前ノ法律ガ齋藤君松波君ノ言ハレタル五十年前ノ法律ガ外國ニモ例ガアルト云フ證據ニハ私ハ斷ジテナラヌト思フ、私ハ茲ニ於テ斷言スル商法ヲ審査シテ磯部君ノ申サルヽ通リ調査シテ以テ事終ハレリトナスナラバ兔モ角苟モ此商法ヲ法律ニシテ施クト云フ御料見デアツタナラバ私ノ修正案マデモ潰シテ七年ノ刑ノ量定ヲ以テセラルニト云フコトニナリマシタナラバ、二ツノ斷三=ロガ出來ル、第二ハ海外ニ州對シテ日本ノ唐益禾界ノ不信任ノ投票ヲナスモノハ商法デアル、第二ニハ議會ニ於テ折角完全無缺ノ商法ヲ遮ッテ否決ノ悲運ニ再會セシムルモノハ一ノ罰則デ、二年バカリノ刑ヲ惜シミタルモノニ依ルモノナリト云フコトヲ斷言致シマス、私モ亦上院ニ於テハ吾々ノ關スル所デハゴザイマセヌケレドモ、下院ニ於テ若シ此案ガ出テ七年說ガ出テ來タナラバ私ハ一身ヲ賭シテ極カ妨害ヲスルト云フコトヲ茲ニ斷言ヲシテ置キマス
○三十九番(平沼騏一郞君)
私ハ花井サンニ伺ツテ置キマス、花井君ノ御提案ニ付キマシテハ私ハ疑フ所ガアリマスカラ其點ヲ正シテ置キタイ、私ハ此原案ニ實ハ贊成ヲ致シテ居ルノデアリマスケレドモ、併ナガラ必ズシモ此形デ之ヲ通サナケレバナラヌト云フコトハ主張シナイ、又是ニ付キマシテモ多數ノ御意見ガ酷スギルト云フナラバ之ヲ少シバカリ下ゲルト云フコトハ強イテ異議ハナイ、一年ヤ二年ノ刑ヲ縮メマシテモ商法全體ガ通過セヌト云フコトニナルトイカヌ、デアリマスカラ此邊ハ多少ハ折合ツテモ宜シイト云フ意見ヲ有ツテ居リマス、ソレニ付キマシテ花井君ノ御提案ニ疑ヒヲ正シテ置キマセヌト云フト贊否ヲ決スルノニ甚ダ惑ヒマスカラ伺ヒマスノデアリマスガ、第一ニ伺ヒタイノハ花井君ノ御提案ニハ刑法二百四十七條ト殆ド同ジ範圍デ出來テ居ルノデアリマス、刑法ハ一般ノ背信罪ヲ罰シテ居ルノデアリマスシ花井君ノ修正案ハ會社ノ取締役等ニ關スルノデ此點ガ違フダケデアリマスガ、其二百四十七條ニハ先刻梅サンカラモ御尋ネガアリマシタガ、第三者ノ利益ヲ計ルト云フ文句ガアリマシテ花井君ノ御修正案ニハナイノデアル、先刻花井君ノ梅サンニ對スル御答ヘデハ少シ分リ兼マシタカラ再應其點ヲ伺ヒタイ、花井君ハ二百四十七條ニ付、、アモ第三者ノ利益ヲ計リト云フ文字ハラナイト云フ御趣意デ此修正案モ御削リニナツタヤウデアリマスガ、花井君ノ仰ツシヤル意味ハ本人ニ損害ヲ加ヘル目的ガナケレバ罰シナイ自己又ハ第三者ノ利益ヲ計リト云フダケデハ罰スル必要ガナイト云フ御意見ナノデアリマスカ、或ハ本人ニ損害ヲ加ヘルト云フ目的ノ中ニ前ノ分ハ這入ルト云フ意味デ仰ツシヤルノカ或ハ先刻仰ツシヤッタノカ知レマセヌケレドモ、私ニハ能ク聽キ取レマセナンダカラモウ一遍御說明ヲ願ツテ置キタイ、ソレカラ今一ツハ此損害ヲ加ヘル目的卽チ目的デアリマス、此目的ノアリマセヌ場合ハ背信罪トシテ之ヲ罰スル必要ガナイト云フ御見込デアルカ其點モ伺ツテ置キタイ、或ハ斯ウ云フ御趣意ニナリハシナイカト云フ懸念モ有ツテ居ル、刑法ノ二百四十七條ノ行爲ノアル場合ハ確ニ罰スル必要ガアル、併ナガラ其目的ノ缺ケテ居ル場合ニモ矢張リ罰スル必要ガアルカ是ハモウ少シ輕ルクシタイト云フ御趣意デハナイカトモ考ヘル、其點ガ全ク罰スル必要ハナイト云フ御見込ナノカ、或ハモツト輕ルクシタイト云フ御見込ナノカ其處ヲ伺ツテ置キタイ、其御答ノ次第二依リマシテハ或ハ條文ヲ一個條加ヘルト云フ必要モ生ズルデアラウト思フ、ソレカラ是ハ或ハ些細ナコト丶云フ御考ヘニナルカ知レマセヌガ刑法ノ人民ニ關スル刑罰ハ懲役若クハ罰金ト云フコトニナツテ居ル、禁錮ト云フモノハ先ヅナイノデ刑法典ニ於テハ原則トシテハアルノデアリマス、二百六十一條ノ修正案ニハ禁錮ヲ御加ヘニナツテ居ル、是ハ議論ヲ致シマスレバ禁錮デ宜シイト云フ話モアルカモ知レナイ、併ナガラ刑法典ノ刑罰ト禁錮ガ合ハヌヤウナ嫌ハアリハシナイカト云フ懸念ヲ有ツテ居ル、是ハ善イカ悪ルイカト云フ論デハアリマセヌガ、若シ刑法ノ背信罪等ト權衡ヲ得セシムル爲メニ禁錮ト云フ字一事ハ削ツテモ構ハヌト云フ御考ヘニ御改メニナルコトハ出來ナイデアリマセウカ、此邊ヲ伺ッテ置キタイ、是非禁錮ト云フモノハ斯ウ云フ趣意ニ依ツテ刑法ニハナイケレドモ入レナケレバナラヌト云フ理由デモアルノデアリマセウカ、此三點ダケヲ御答ヘヲ願ヒタイ
○七番(豐島直通君)
牽連シテ矢張リ二百四十七條ト花井君ノ御提案ドノ關係ニ才ッテ居リマス、私ノハニ點バカリ御尋ネシタイ其一點ハ刑法ノ二百四十七條ノ次ニ未遂罪ヲ罰スルト云フ二百五十條デアリマス、必ズシモ損害ヲ本人ニ加ヘタト云フコトガナクテモ加ヘル行爲ヲシタダケデモ只其危險サヘアレバ罰スルコトニナツテ居リマス、然ル所殊ニ其任務ノ重イ所ノ會社ニ付キマシテ花井君ノ御提案デハサウ云フ損害ヲ加ヘルト云フ危險ナル場合ヲ處罰シナイト云フヤウニナツテ居ルノハ如何ナル趣意デアルノカ是ガ第一點デゴザイマス、一體背任務罪ト云フモノハ法律上ノ義務ニ背クト云フ點ヲ重ク見テソレヲ罰スルノデアツテ、手段ガ詐僞トカ横領トカサウ云フ手段ノ如何ヲ撰ハヌノデ、只法律上ノ義務ニ背ク所ノ者ヲ罰スル犯罪デアルト思ヒマスカラ、他ノ會社ノ事務ヲ處理スルト云フヤウナ者ノ中デ會社ノ重役トカ云フ者ハ一番任務ガ重イ者ト私ハ考ヘル、サウ云フ重イ任務ノアル者ニ付テ損害ヲ會社ニ生ズベキ危險ガアルノニ罰シナクテ宜イト云フ趣意ガ了解ガ出來ナイノデアリマス、又ソレニ附加シマシテ懲役禁錮ト云フヤウニシテ却テ刑法ノ罰則ヨリモ自由刑ニ於テ輕ルクナツテ居ルト云フノモ任務ノ重イ所ノ者ニ取ツテハ不釣合ノヤウニ思フ、ソレモ了解致シマセヌ所デゴザイマス、ソレカラ第二ノ點ハ此範圍ニ付キマシテ會社ニ損害ヲ加フル目的ト云フ文字ヲ御加ヘニナッテアリマス、所デ刑法ノ範圍デ疑ヲ差狹ム未定ノ犯意ト云フヤウナモノガアツテソレデモ尙ホ罰スルト云フヤウナコトニナリマス、獨逸ノトロースイベソセンルツト申シマス者ノヤウデ或會社ニ損害ヲ加フルカモ知レヌ又利益ニナルカモ知レヌケレドモ、ヤツテ見ロト云フ豫見デアルソレガ一番會社ナドニ付テハ矢張リ危險ナノデアリマシテ、相場ヲスルト云フヤウナコトガ矢張リ其範圍デアル、サウ云フ犯意ガアル場合ニ此目的ヲ以テト云フ文字デ罰セナイト云フ御趣意ニナルノデアルカドウカ、ソレハ矢張リ平沼委員ノ質問ト同ジ趣意ニナルコトト存ジマス、此原案ニ依リマストサウ云フ犯意ハ尙ホ罰スルト云フコトニナリテ居リマスカ、一方ニ於テ非常ニ制限ヲ加ヘテ居ル所ガアルト思フ、ソレハ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲トシテアリマシテ、此財產上ノ損害ト云フノハ普通ノ取引ニ含マレテ居ル危險カラ生ズル損害ト云フモ匹ハ此中ニ含ンデ居ラヌト云フ趣意ヲ有ツテ居ルト思ヒマス、商取引ト云フモノハ一體ドソナモノデモ危險ヲ含ンデ居ル、ソレ以上ノ財產上ノ危險ガアル其行爲カラ具體的ニ見ルコトノ制限ヲ客觀的ニ加ヘテ居ルノデアルカラ原案ノ方ガ餘程制限ニナツテ居ル、證據ノ能ク分ラヌ犯意ノ方《目的ノ方カラ制限ヲ加ヘルト云フコトハ餘程方法ガ誤ツテ居リハセヌカト思バレル、ソコラノ點ヲ御說明ヲ願ヒタイ
○二十二番(花井卓藏君)
平沼君ノ三點ノ御質問デアリマスガ、第一黯三於テ先ヅ御答ヘヲ致シマス、私ノ修正案ニ自己若クハ第三者ノ利益ヲ計リト言ヘル文字ヲ削ラレテアルノハ是ハ法律ノ上ニ罪トシテ問フベキ必要ナキガ故ニ削ラレタモノデアルカ斯ウ云フ趣旨ノ御尋ネデアリマス、私ハ然リト答ヘルノデアリマス、是ハ平沼君ガ御記憶ニナツテ居ルコトデアラウト存ジマスガ、私ハ刑法ノ場合ニ於テ斯ノ如クスル說ヲ採ツタノデアル、全體刑法二百四十七條ノ規定ト云フモノハ本來ノ刑法事項デハナイノデアル民法事項デアル、斯ノ如キモノヲ刑法ニ設クルト云フコトノ必要ヲ認メナイト云フノガ私ノ自說デアリマス、然ルニ本條ハ理論ヨリハ擧ロ實際ヲ主トセラレテ法理論トシテ民事上損害賠償ノ途ヲ開カレテアル以上ハ是ニテ足ルベキ筈デアルケレドモ其結果ト云フモノハ理ニ勝ツテ非ニ負ケルト云フヤウナ次第デ結局救濟ノ途ナキヤウニ期スルコトガアルカラ矢張リ刑法ニ於テ之ヲ救フ途ヲ立テ置イタラ宜イデアラウト云フ實際論ガ此二百四十七條ヲ產ソダノデアリマス、私ハ其樣ニ已ムヲ得ザル民法事項ヲ刑法規定ニ讓ル條文ナリトシタナラバ成ルベク犯意ト云フモノヲ狹クシテ最モ恐ルベキモノ二ミヲ茲ニ規定スルヲ必要ナリト論ジタモノデアリマス、ソレ故ニ只本人ニ損害ヲ加ヘル目的ヲ以テ背任務ノ行爲ヲシテ是ニ依ツテ財產上ノ損害ヲ生ジタル結果アリシナラバ之ヲ罰スルガ宜シイ、範圍ハソレニ止ムルガ宜シイ己レノ利益ヲ計リタル行爲ガアレバ第三者ノ利益ヲ計リタル行爲ガアル、行爲甚ダ信ムベシト雖モ損害賠償ノ途ニ訴テ犯人ノ懐ニ訴ヘテ之ヲ刑法ニ救ハヌヨリハ民法ニ救ヘ、之ヲ監獄ニ救ハヌヨリハ懷ニ救ヘ、犯罪ニ關スル觀念ト云フモノハ專ラ主觀觀念ノミヲ以テ見ルベキモノデハナイノデアル、一面ニ於テハ害ヲ發セザルニ救ヒ得ベキ途ヲ求メナケレバナラヌノデアルト云フ趣旨ヨリ刑法ノ規定スル事項若クハ第三者ノ利益ヲ計ルト云フ文字ガ常ニ嫌ナノデアリマス、ソコデ茲ニ修正案ニ於テハ之ヲ削ツタノデアル、是ガ削ラレマスルト云フト次第二依リマスト刑法ノ方カラ揃ハヌカラト云フノデ削ルト云フ戰サモシタイヤウニ考ヘテ居リマス、是ハサウ云フ趣旨ニ御了承ヲ願ヒタイ約メテ申セバ刑法二百四十七條ノ根本論カラ出テ居ル趣旨ナノデアリマス、ソレカラ第二ノ御質問ハ修正案ニ會社ニ損害ヲ加ヘルノ目的ヲ以テト云フ文字ヲ書イテ居ル、此文字ノ書イテアル趣旨ハドウ云フ次第デアルカ約メテ言ヘバ斯ウ云フ御質問デアル、、、、
○三十九番(平沼騏一郞君)
ソレハ少シ違ヒマスヤウデスカラチョット申シマス、私ノ言フノハ御加ヘニナツタノハ能ク分ツテ居リマス只目的ノナイ場合ハ罰スル必要ハナイカト云フ御趣意ニナルカト云フ問デアリマス
○二十二番(花井卓藏君)
ソレハ分ツテ居リマス、會社ニ損害ヲ加フルノ目的ナキ場合ハ罰シナイノデアルカ、斯ウ云フ御問ヒノ趣旨デアリマシテ是モ然リト答ヘテソコデ私ガ言フ大切ナル點ガアル、或ハ種々ナル事情ヲ想像シテ而シテ二百六十一條ノ二以下ノ場合アモ想像シテ、サウシテ輕重ヲ計ツテ見ルト云フト平沼君ノ御尋ネノ趣旨ノ如キモノヲ不問ニ附スルト云フ事柄ヲ甚ダ穩當ナラザルコトヲ發見スル場合ガアルカモ知レヌ、平沼君ノ眞ヲ置クノ理由ハ茲ニアルノデス間違ツテ居ルカ知レヌガ、、、、ソコヲ辯明シヤウト思ツテ申上ゲタノデスガ此修正案ニハソコマデ見テ居ナイ此修正案ハ損害ヲ加フル目的ヲ以テ財產上ノ實害ヲ與ヘタル場合ノミヲ見テ居ルノデアルカラシテ平沼君ガ發意セラルルガ如キ事實ニ對スル一條ヲ設ケラレタト云フコトデアレバ私ハ異議ノナイト云フコトヲ申上ゲテ置クノデアル、其案ノ成立ツヤ否ヤハ是ハ別問題デアツテ平沼君ハ此點ニ對シテ私ニ異議ガナイ以上ハ二百六十一條ノミノ修正案トシテハ本條ニ御贊成下ツテ宜カラウ、斯ウ云フコトヲ申シタカツタノデス、ソレカラ第三ノ質問ノ禁錮ヲ加ヘタル理由デアリマス、是ハ格段ナル理由ハナイガ先程モ說明シテ置キマシタガ私ハ固ヨリ刑罰デアル以上ハ刑法規定ノ刑罰モ商法規定ノ刑罰モ刑其モノニサウ言ハナイノデアルカラシテ、ドチラデモ宜シイト言ヘバ宜シイノデゴザイマスケレドモ一般刑法ノ支配スル刑法規定ト特ニ定メタル商事刑罰ノ規定トハ自ラ異ツテ居ル一般法規ニ觸ル丶所ノ背任務ノ罪ト云フモノハ大抵行爲ノ上ニ於テモ意志ノ上ニ於テモ人ノ上ニ於テモ一律一體ニ言バレルノデアルケレドモ、會社ノ如キニ至ルト云フト境遐ノ上カラ見テモ責任ノ上カラ見テモ事情ノ上カラ見テモ參酌ヲ加フルベキ事惰ト云フモノハ刑法ノソレニ比シテ千差萬別デアル大ニ僭ムベキアリ聊カ僭ムベキアリ頗ル怒スベキモノアリト云フ段階ニナルデアラウ、ソレ故刑法ヨリハ撰擇ヲ多クスルト云フコトガ必要デアルデアラウト云フノガ一ノ理由デアリマス、今一ツハ幾分カ一般刑法ト商事刑法トニハ多少ノ特色ノアルト云フ事柄モ示シタイト云フ趣旨モ含マレテ居ルノデアリマス、而シテ平沼君ハ一般刑法ヲ御引用ニナツテ財產ニ關スル刑法規定ハ懲役主義デアツテ禁錮ト云フモノハ總テ認メテ居ナイノデアル、ソレト揃ハヌデハナイカ、私曰ク其揃ハザル所ニ妙味ガ存スルノデアル、一般刑法ニ一般以下ノ罰金ヲ量定シテ居ルデハナイカ、商法ハ五千圓以下ノ罰金ヲ認メテ居ルデハナイカ等シク是財產ニ關スル罪ナルニ非ズヤ然レドモ茲ニ妙味ガ存シテ罰金刑ヲ重クセラレテアルノデアルト思ヒマスカラ其御趣旨ニ御解釋ヲ願ヒタイト思ヒマス、平沼君ノ御質問ヲ得リ、シテ得タル所ノ利益ハ特別一ニノ條文ヲ設クルト云フコトニ相成ルナラバ私ハ二百六十一條ノ修正ニ部分的贊成ヲ致スト云フコトヲ固ク申シテ置キマスカラ御熟考ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、ソレカラ豐島君ノ御質問モゴザイマシタガ、是ハ大體平沼君ノ御問ニ對スル第一ニ答ヘタ點ニ於テ盡キテ居リハシナイカト私ハ思フノデアル、刑法ノ二百四十七條ハ未遒ヲ罰スルノデアル、何ガ故ニ罰スルノデアルカト言ヘバ背任務ノ罪ト云フモノハ甚ダ恐ルベキ危險ヲ生ズルガ故ニ特ニ未遂罪ヲモ罰スルヤウナ規定ニナツテ居ルノデアル、手段ハ問フ所ニ非ズドウ云フコトマデ御論ニナツテ居ルノデアリマスカ背任務ノ犯罪ノ性質ハ實ニ豐島君ノ言ハル丶如クデアルヤ否ヤハ私ハ惑フノデアル、私ハ背任務ノ者ヲ刑法管内ニ移スコトハ刑法ガ民法ヲ蹂躪シタルモノト思フ、而シテ私ガ今說明シタ通リニナツテ居ルノデアリマスガ、是ハ確カニ司法省ニ於テ作成セラレタル刑法理由書ニ書テアルノデアリマスカラ、其御趣旨ニ御承知ヲ願ヘバ宜シイノデアル、是ハ質問ニ答ヘルヤウナ意味ニナラヌカ知レマセヌケレドモ自ラ質問ニ答ヘル趣旨ニナルノデアリマス、最後ニ一ツ申シテ置キタイノハ斯ウ云フコトデアリマス、御質問ノ如キ場合ニ在リテハ之ヲ刑法ニ救ハムヨリハ民法ニ救フノデアル、監獄ニ入レテ此害ヲ救ハムヨリハ損害賠償ニ求メテ之ヲ救ヒタイト云フ趣旨デアル、故ニ慮ルガ如キ事柄ニ付テノ理由ハ私ノ修正案ニ現ハレテ居ラヌノデアルト云フコトヲ第一ニ御答ヘシマス、ソレカラ第二ノ御問ハ未定ノ犯意ヲ有ツテ或行爲ヲ働ク者ガアル是ガ最モ恐ルベキモノデアル、斯ノ如キモノハ包含セシメナイ積リデアルカ斯ウ云フ御趣旨ト解シテ居リマス、而シテ自分ハ會社ニ利益ヲ與ヘル積リデアルカモ知レナイ、併ナガラ利益ハ出テ來ナカツタ或ハ會社ニ損害ヲ加ヘル目的ヲ有ツテヤルカモ知レナイ、所ガ偶然利益ガ出テ來ルト云フコトガアルカラ詰リ投機ナドニ手ヲ出シタガルノデアル、而シテ法律ノ憂フルノハ最モ此點ニ在ツテ存スルノデアル、斯ノ如キモノハ私ハ修正案ノ上ニ於テハドコニ移サレテ居ルノデアルカト云フコトガ豐島君ノ腹ヲエグリタル眞ノ問ヒデアル、私ハ日本ノ刑法ノ上ニ於キマシテハ未定ノ犯意說ヲ採ラヌ、豫見說モ採ラヌノデアル、而シテ豐島君ナドハ檢事時代ニ於テ法廷ニ言ハレタコトデアリマスガ、曾テ勝利ヲ得タコトモナイノデアル、卽チ國民大會ナドノ事件ニ於テモ見事ニ失敗シタノデアル、私ハ未定犯意ノ說ヲ採ラヌノデアツテ、御說ノ如キ說明ヲ以テ眞ニ會社ニ損害ヲ加ヘル目的ヲ以テ眞ニ損害ヲ加ヘタナラバ罰スルノハ宜シイケレドモ、損害ヲ加ヘルト云フコトノ意思ノ確定的ニ定マラザルモノニ向ヒマシテハ處罰スルト云フ處ノ說ヲ日本ノ刑法ノ上ニ於テハ認メヌ是ハ獨逸主義デ茲ニ迄學問ヲ進歩セシメテ刑法ノ上ニ現ハストカ云フコトガ善トカ惡イトカ云フコトハ別問題デ私モ其說ハ元來多數說デナイト思ツテ居リマスカラ、御問ノ如キ場合ニ於キマシテハ成程刑法ノ處罰ノ未定ニ屬シテ居ルモノハ私ハ犯意ノ中ニ入レナイモノダト云フコトヲ申シテ置キマス、ソレカラ是ハ御尋ネノ趣旨ヲ如何ニモ惡意ニ私ガ解シテ御答辯申シテ居ルヤウニ看做シテ居ルカ存ジマセヌガ、私ノ答ヘタル所ト問ハムト欲シテ居ラル丶コトハ私ノ眼ニハハツキリ映ジテソレヲ申シテ置キマス、最後ニ私ノ案ヲ維持スル爲メニ茲ニ申上ゲテ置キマスガ甚ダ恐レ入ツタ次第デアリマスガ御聽取ヲ願ヒタイノデアリマス、要スルニ此原案ト私ノ案ト相容レザル點ハ結局證明問題ト云フ事柄ガ双方ノ間ニ溝渠ヲナスモノデナイカト私ハ思フ、私ノ案ノ如クニスルト云フト先ヅ第一ニ加害ノ目的アルト云フコトヲ要スルノデアル、而モ加害ノ目的ト云フモノニ關スル證明ト云フモノハ甚ダ困難デアル、是デアリマス、此點ニ向ツテハ私ハ左程困難デハナイ實際上少シモ困難デハナイ、日本ノ刑事訴訟法ノ上ニ於キマシテハ證明ニ限度ト云フモノヲ定メテ居ナイノデアリマスカラ、苟モ會社ニ損害ヲ加フル目的ノアツタ狀況ダニ映ジタナラバ、サウシテ其狀況ヲ證明スベキ證據ニシテ間接ニテモアリシナラバ之ヲ處罰スルニ遠慮ノナイト云フコトハ今日ノ實例ガ證明シテ居ル、被吿人ノ供述トシテ斯ノ如キハ會社ノ利益ヲ計ル目的デアル、斯ウ云フ主張ハ申シマシタニシタ所デ會社ノミデ本位ニ見テ任務ニ背イテ居ル行爲ヲナシタナラバ、裁判上損害ヲ加フルノ目的ヲ以テナシタルモノト推定シテ差支ヘナイノミナラズ、又推定スルニ遠慮ナイ所ノ實例ガ滿々テ居ルト云フコトヲ申上ゲルノハ畢竟裁判ノ實用ノ上ニ奪敬スベキ上ツ方ノ多イト云フコトカラ申上ゲテ置キマス、斯ウ云フコトヲ書クト云フト何デモラシキ的ニ裁判上出來テ來ルデアラウト思フ、此位ノ制限ヲ加ヘテ置テモ少シモ困難ヲ生ジナイト云フコトヲ申シテ置キマス、ソレカラ加害ノ自的ト云フコトノ見方ハ色々アルノデアリマスカラ、私ヲシテ檢事タラシムレバ加害ノ目的ト云フモノ丶解釋ヲ必ズ原案ノ意味合デ犯ス所ニ迄行ヒ得ルニ難カラヌト思フ之ヲ申シテ置クノデアリマス、ソレカラ損害ノ結果ト云フコトハ是非見テ戴キタイト云フコトヲ私ハ申ス會社ダカラト申シタ所デ何モ裁判所ヤ司法省デハナイノデスカラ商賣ヲシテ金ヲ儲ケル所是ニ從事スル所ノ者ハ悉ク商人デアル刑罰ヨリハ利益ノ方ガ大切デアル、理論ヨリハ珠盤ノ方ガ大切デアル、人ノ利害ヨリハ己レノ懷ノ方ガ大切デアルト云フ連中デアリマス、ソレ等ノ者ガ未ダ損害ノ結果ヲモ生ゼザルニ早ク銑ニ損害ノ生ズベキ行動ニ着手シタト云フコトヲ看破セラレタル場合ニ於テハ之ヲ監獄ニ繋イデ苦シメルト云フノデアリマスケレドモ、彼等ノ理想ノ上カラ言ヘバ寧ロ苦マヌ、其苦方ヨリハ是ニ依ツテ會社ガ被リタル損害ヲ最モ惜ム所ノモノデ最モ大切ニスル所ハ懐ノ救濟法ヲ講ジテ置ク方ガ却テ弊ガ救ヒ得ラルムデアラウ、サウシテ今日マデノ實例ハ背任務ニ關スル所ノ訴ハ未ダ新法實施以後餘リ多クハナイノデアリマスガ、餘リ多クナイデハナイ私ハ接觸シタコトバゴザイマセヌケレドモ横領罪ト云フ犯罪ハ會社ノ重役ニ幾ラモアル、或ハ横領ヲ企テ費消ヲ企テントシタ所ノ行爲モ幾ラモアル、實際ノ取扱ハドウデアルカト言ヘバ之ヲ監獄ニ入レテ刑法上ノ問題トシテ刑ニ處シテ自暴自棄ノ念ヲ起サシテ損害保證ノ念慮ヲ絕タヌヨリハ多數ノ株主モ居ルコトデアルカラ、見込ノアル會社ノコトデモアルカラ其實害ト云フモノヲ發見シタナラバ彼ヲ刑セズシテ而シテ之ヲ損セズシテ存立ノ出來ルヤウナ方法ニ採ツテヤルノガ宜シイト云フ趣旨デ、或ハ檢事局ニ於テ或ハ豫審廷ニ於テ監獄救濟策ヨリハ民法救濟策ノ方ヲ探ツテ居ラル丶形跡ガ今尙ホ存シテ居ル、私ハ能ク存ジマセヌカラ當ラナカッタナラ人ノ信用ニ關スルコトハ直グ取消シマスガ仄ニ承ハル所ニ依レバ諸井某トカ言フ某會社ニ關スル事件、、、、ソレ以上ハ申シマセヌガ其事件ノ如キハ矢張リ救ヲ刑法ニ求メズシテ損害賠償ニ求メテ終ニ豫審免許ニナツタト云フコトヲ聞イテ居リマスガ、實際ドウデアツタカト云フコトハ私ハ茲ニ保證ノ限リデアリマセヌガ、其ヤウニ現在ノ裁判政策刑事流風ト云フモノモナッテ來テ居ルノデアリマスカラ、此法案ノ越旨ノ如クサウムゴタラシク取扱ハナイデモ宜イデハナイカ、恐シイノハ會社ニ損害ヲ加ヘル目的ヲ以テ損害ヲ加ヘタ者ハ憎ムベキ者デアルカラ罰シナケレバナラヌガ、其他ハ救ハナケレバナラヌ、其救ノ途ハ必ズシモ刑法ニ取ラヌデモ宜イデハナイカト云フ所カラ出タノデアリマス、會社ノ滅亡ナドト云フモノハ別ニ國家ニ大影響ヲ及ボスモノトハ思ヒマセヌケレドモ、餘リニ慘忍酷罰ナル刑罰デ時ノ弊ヲ救フヨリモ更ニ大ナル弊ヲ惹起シテ來ルト云フコトハ更ニ憂フベキコトデアラウト思フ、刑デ監獄デ救濟シ得ルト云フコトナラ結構デゴザイマスガ、古來峻刑酷罰ヲ以テ救ハレタル者ハナイ、刑ヲ以テ滅ビタル者ハ商デアル、商事罰ニ七年ト云フタラ人生ノ上カラ打算ヲシテ見マシタナラバ殆ソド書生ナラ學問ガナツテカラ、ソレカラ實業家ナラ產ガナツテカラ、是カラト云フ働キ盛リノ日月ヲ奪フノデアルカラ、或意味ニ於テハ生命刑ヲ科スルト同ジコトデアル、此ヤウナ酷罰ヲ必要トスルコトハ斷ジテ認メナイ、愈々止ムヲ得ナイ場合ニ於テ刑法ト律ヲ揃ヘテ五年ト云フコトモ不滿足デアリマスケレドモ其位ニハドウシテモセネバナラヌト云フコトヲ私ハ茲ニ斷言致シテ置キマス、質問ノ答辯ノ場合ニ於テ修正案ノ擁護ニ努メルノハ恐入タルコトデアルガ是ハ商法ノ精弘胛ノ擁一讓ニ出デタルモノト御認メヲ願ヒマス
○一番(富井政章君)
餘程長クナリマジタカラ極ク簡單ニ今一度意見ヲ述ベサセテ戴キタイ、此案ニ付テハ格別議論ハナカラウト思ツテ居ツタノデアリマスガ、案外有カナ反對論ガ生ジテ來タノデアリマス、私ハ始メヨリ原案ニ贊成シテ居ルノデアリマスガ、併シ總テノ點ニ於テ此通リデナクテハナラヌト考ヘテ居ルノデハナイ、骨子ト思フ所サヘ通レバ讓ルコトノ出來ル限リハ讓ツテ此案ガ可決セラレムコトヲ望ムノデアリマス、此マデ出マシタ反對ノ理由ノ中デ大體ニ亙ル御意見トシテハ先ヅ斯ウ云フ案ガ通過シテ天下ノ會社重役ト云フモノハ皆惡人デアルト云フヤウナ感ジヲ起スト云フコトヲ頻リニ磯 部君ナドカラ言バレルノデアリマスガ、サウ云フコトハ決シテナイト思フ、本條ニ罰スル如キ行爲ヲ爲ス者ハ五十年ニ獨リ百年ニ獨リデ決シテ原案ノ趣旨ハ重役ノ多數ガ惡人ト見タノデハナイコトハ勿論ノコト、世間一般ノ人ガ之ヲ見テモサウ云フ感ジヲ起スコトハナカラウト思フ、今一ツ一般ニ渉ル反對ノ理由ハ今花井君ノ言ハレタ通リ之ハ餘程考ヘナケレバナラヌコトデアルガ、ソレハ斯ウ云フ嚴罰ヲ科シタ法律ガ出タラバ今日デスラモ先刻阿部サンナドノ言ハレタ如ク餘リ會社ノ取締役ニナルコトヲ好マヌ者ガ澤山アルノニ、斯ウ云フ法律ガ出テハ立派ナ仕事ヲシヤウト思フテ居ル者モ君子ハ危キニ近カズカズデウツカリ取締役ニナルコトヲセヌト云アコトニナルト云フコトハ、是ガ果シテ事實デアリト入レバ實ニ容易ナラヌコトデアラウト思フ、今日會社ノ取締役トナルコトヲ好マナイト云フ者ハソレハ私ハ極ク少數デアツテ特別ノ場合ニ限ルコトデアラウト思フ、寧ロ多數ハ運動ヲシテモナリタイト云フ方デアツテ、サウ取締役ヲ嫌フト云フコトハナカラウト思フ、此法律ガ出レバ善イ者マデモ得ラレナイヤウニナルト云フ弊害ガアツテハ大變デアリマスケレドモ、サウ云フコトハナカラウト思フ、是ハ惡イコトヲスル者バカリヲ罰スルノデアツテ、サウシテ加害ノ目的ト云フモノハ必要トシナイケレドモ、故意ヲ以テスルト云フコトハ必要デアル、只怪我ヲ過失デヤツタト云フ場合ハ罰シナイノデアリマス、ドコマデモ故意ヲ要件トスルノデアリマスカラ、ドコマデモ良心ニ咎メラル丶惡イコトヲシナイト云フ人間デアレバ痛クモ痒クモナイノデアル、惡イコトヲシヤウト云フ者ガ痛痒ヲ感ズルノデアツテ、サウ云フ考ヘノナイ者ニハ少シモ影響ヲ及ボサナイノデアリマスカラ、私ハ今承ツタヤウナ心配ハ決シテナイデアラウト思ヒマス、只花井君ノ所謂政治家ト云フ資格デ考ヘテ見ナケレバナラヌコトハ兎ニ角此案ニ對シテハ有カナ反對ガアル、又ソレニハソレゾレ理由ガアルノデアリマスカラ無理ニ總テノ點ニ於テ原案ヲ通サウトセズシテ御互ニ讓歩ノ出來ルコトハ讓歩ヲシテ私ナドモ最モ大切ト思フ點サヘ通レバ宜イ他ノ點ハ讓歩致シテモ宜イノデアル、サウ云フコトデドウカ本案ノ骨子トナツテ居ル點ダケハ、ソレニモ反對論ハアルノデスカラドウセ採決ハ必要デアリマスケレドモ出來ル限リハ折合ツテ協議ヲシテ往クコトヲ希望スルノデアリマス、ソレデ私ハ花井君ガ今最モ重キヲ以テ言ハレタ、非常ナ感ジヲ人ガ起スデフラウ天下ニ殆ド例ガナイト言ハレタ如ク思ツテ居リマスガ、是ハ私ハ御尤キナ點モアルト思ヒマスカラ私一人ハ讓ツテ宜イト思フ、卽チ七年ヲ五年トスルコトニ自分カラ進ンデ御贊成シヤウト思フ、ソレカラ萬已ムヲ得ザレパ損害ヲ生ズルト云フコトヲ要件トスルコトモ宜カラウト思フ、ソレニハ甚ダ重キヲ置テ居ルコトデハナイデアリマスカラ原案ノ方ガ宜イトハ思フノデアリマスガ、ソレモ讓歩ノ一ツトシテ萬已ムヲ得ザル場合ニハ棄テ價クコトニナレバ最モ結構デアリマスガ、實害ヲ罰スルト云フコトノ要件ハ取ツテモ宜イ、只ソレニハ未遂罪ヲ罰スルト云フ規定ヲ置カナケレバ工合ガ惡イデアラウト思フ、今一ツハ禁錮ヲ加ヘルト云フコト其コトダケハ格別大キナコト」ハ思ハヌ禁錮ノ方ガ宜イ場合モアラウト思フ、只刑法トノ關係デアリマス殊ニ刑法二百四十七條トノ關係デアリマス、禁錮ヲ入レルナラバ如何ニモ理窟ガ立タヌ、獨逸法ナドデハ懲役ヨリハ寧ロ禁錮ト云フ方デアル、卽チ服役ハ無イガ科スルコトヲ得ルト云フ自由刑デアリマスカラ懲役ヨリモ寧ロ禁錮デアル、ソレデ禁錮ヲ入レルト云フコトハ或ハ宜イト思フノデアリマスケレドモ、コトガ小サイコトデアルカラソレモソレダケナラ御同意シタイノデアル、只刑法二百四十七條トノ關係ガ最工、工合ガ惡イト思フノデアリマスカラ、ソレニハ躊躇シテ居ルノデアリマス、最モ私ガ重キヲ置タノハ目的ヲ要件トスルコト是ガ反對論ガアルノハ刑法ニ讓ルニシテモ宜イト思フ、私ハ此目的ヲ要件トスルト云フ點ニ在ルノデゴザイマス、ドウカ此點ハ骨子ト思ツテ居リマスカラ、可決ニナラムコトヲ希望スルノデアリマス、私ハ讓歩ノ出來ルダケハ讓歩ヲシテサウシテ何時呵、デ爭ツテ居ツテモ矢張リドツチガ通ッテモ一方ニ大不滿足者ガ出來ルト云フコトニナル、ソレハ甚ダ面白クナイノデアリマスカラ、各々幾ラカノ讓歩ヲシテサウシテウマイ工合ニ妥岫励ヲスルコトヲ希診三シマス
(「討論終結」ト呼ブ者アリ)
(「採決ヲ願ヒマス」ト呼ブ者アリ)
○十番(梅謙次郞君)
私ハ先刻一兩度質問ヲ致シマシテソレダケデ刑法ノ專門家デモアリマセヌカラ默ツテ居ル積リデアリマシタケレボモ意見ハ未ダ言ハヌノデアリマス、然ルニ私ガドウシテモチョット簡單ナガラモ意見ヲ述ベナケレバナラヌト思ヒマシタコトハ先刻松波君ナリ其他ノ御方ナリノ御話ニヨルト現行商法ハ會社ノ重役等ノ行爲ヲ罰スルノニ單ニ民事罰タル所ノ科料ノミヲ採ツテ居ル、是ハ甚ダ輕コキニ失スル、ソレダカラ今度ノ案ノヤウナ刑法上ノ罰ガ必要デアル、詰リ現行商法ノ缺點ヲ補フノデアルト云フヤウニ言ハレタ方ガアル、又他方ニ於テ例ヘバ阿部君ノ如ク現行商法ノ儘ガ宜シイノデアル、會社ノ重役ナドノ非行ハドソナ重イコトデモ苟モ今日ノ刑法ニ觸レザル限リハ科料ダケデ澤山デアルト云フ御意見ガ出テ居ル、是ニ對シテハ私ガ=言呈思見ヲ言ハナケレバナラヌ責任ガアルト信ズル、商法ニ於テ科料ノミニ處スル規定ヲ設ケタノハソレダケデ足レリトシタ譯デハナイ、實ハ當時刑法上ノ罰ヲ置クカト云フコトモ考ヘマシタケレドモ、ソレハ刑法ノ正サニ改正セラレムトスルニ當ツテ居ツテ、當時ノ刑法ハ近キ將來ニ於テ改マル、商法民法ナドハ何時改メルカモ知レヌケレドモ思フニ現行ノ刑法ヨリハ重クスベキデアラウ、サウシマスト民法商法ガ施行サレマスト直グニ刑法ガ變ルコトニナツテ其特ニ刑罰ノ組方其他ノ規定ノ定方ガ甚ダイカヌノデアル、甑ニ生命ヲ失ツタ所ノ刑法ノ規定ヲ基礎トシテ設ケタ所ノ規定ト云フコトデハ不都合ニナルデアラウト云フノデ純然タル刑罰ニ關スル規定ハ民法商法ノ中ニハ先ヅ置クマイト云フ方針デアツタ、併シ刑法ニ於テ定メテ是等ノ場合ヲ罰スベキ適當ナル規定ガ出來ルデアラウト云フコトヲ信ジテ疑ハナカッタ、如何トナレバ會社ノ重役ノ弊害ハ今日新タニ始ッタノデハナイ、是ハ現行商法ノ施行セラル丶以前カラ苟モ會社ガ出來ル當時カラ生レテ居ル弊害デアリマス果セルカナ新刑法ノ二百四十七條ヲ以テ所謂其場合ノ、、、デハアリマセヌケレドモ矢張リ其場合ヲモ制裁シヤウト努メラレタ、私ハ刑法學者デハナシ一應ハ讀ソデモ見マシタケレドモ、一應位デハ中中分ルモノデハナイカラ大抵宜イカモ知レヌ漠然ト仕過ギテ居ルカト存ジマシタガ、種々ノ難關ヲ通ッテ法律トナツタモノデアリマスカラ、直チニ是ニ改正ヲ加ヘヤウト云フコトハ思ヒモヨラナカツタコトデアリマシタガ、然ルニ是デ働キヲシタラ宜カラウト思ツテ居ッタ所ガ一方ニ於テ商法ノ改正ト云フ事業ガ始マリマシテ其處デ他ノ會社其他ノ部分ニ改正ヲ加ヘヤウト云フコトダケハ極ツタ、扨テサウナツテ見ルト果シテ此刑法ノ規定ダケデ足リルヤ否ヤ若シ足リルナラバ此際商法ノ改正トシテ此會社ノ重役等ヲ罰スル規定ヲ條文ニ設ケタ方ガ宜カラウト思フ、斯ウ云フコトデ之ヲ設クルニ到ッタノデ私ハ始メニ商法ニ科料ダケノ規定ヲ置クト云フコトヲ或ハ主張シ、サウシテ又當時カ關係者ガ皆ソレニ同意セラレタニモ拘ハラズ今日ノヤウナル改正案ニハ大體ニ於テ同意シテ居ル、私モ能クハ研究シマセヌケレドモ二百四十七條ノ規定ハ第一非常ニ漠然トシテ居リマスカラ本條ノコトハ兎ニ角ト致シマシテ次ノ條ナドノコトハドウシテモ是ハ具體的ニ規定シナケレバナラヌ、或點ニ付テ先ヅ以テ刑法ダケデハ足ラヌト云フコトヲ私ハ考ベタ、ソレデ試ニ一一百六十一條ヲ創嗣除セラレザルモ私ハ二百六十一條ニ以下ノ規定ニハ一人モ反對者ハナカラウト思フ、大體斯ウ云フ規定ハ要ラヌト云フヤウナ者ハナカラウト思ツテ居ッタノニ、阿部君ノ如キ總テ之ヲ削ッテ科料ダケニシテ置キタイト云フコトデアリマスケレドモ、是ハ一驚ヲ喫シタノデアリマス、私共考ヘテ同ジダケノ犯罪ヲ行ツタナラバ大會社ノ重役ナドノ犯罪ト云フモノハ情ヲ重キコトハ詰リ反對ハナカラウト思ツテ居ッタノニ、會社重役ナドノ方ガ輕ルイト云フヤウナ論ガアルノハ省ホニ驚ヲ喫シタノデアリマス、會社重役ナドハ責任ノ重イモノデアルカラ他ノ者ヨリ幾分カ重ク罰シナケレバナラヌト云フコトヲ信ジテ疑ハヌノデアリマス、本條ハ暫ラク置テ本條以下ヲ削ルナドト云フコトノ御議論ニナラヌヤウニ希望致シマス、本條ニ付テ考ヘテ見マスト二百六十一條ダケデ宜クハナイカト考ヘテ只皆樣ノ御論ジニナル目的ト云フ點ガ狹イト考ヘマシタノデ原案ニ贊成致シテ居リマスガ、他ノ細カイ點ニ於テハ富井君ト同感デ此通リデナクテハナラヌト考ヘテ居リマセヌノデ大體富井君ノ言狐レタ通リニ贊成デ、ドウカ本案ノ大體ニ付テ可決ニナラムコトヲ希望致シマス
○二十六番(勝本勘三郞君)
私ハ花井君ノ御演說ヲ承ハリマシテ段々申上ゲタイコトガアリマスガ、サウ云フコトヲ申上ゲルト又譴責ヲ被ルヤウナ次第デアリマスカラ略シマス、ソレデ私ノ茲ニ花井君ノ必ズシモ分離スベカラザルモノデナイ、分ケテモ宜イト云フコトデアリマシタガソレデハ決ヲ御採リニナルニ御困リノコトモアラウト思ヒマスカラ私ハ進ンデ自分ノ修正案ヲ提出致シマス、先ヅ三ッバカリデゴザイマスガ、第一ニ原案ノ犯罪構成ニ關スル部分ハ其儘ニ置キタイ七年以下ニ付テ修正ヲ加ヘタイ卽チ之ヲ五年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス、斯ウ云フコトニ修正致シタイ、其次ハ兩樣ノ案ニ向ヒマシテ禁錮ヲ加ヘルノデアリマス、五年以下ノ懲役禁錮又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ストスルノデアリマス、ソレカラ第三案是ハ說明ヲ要シマスガ此刑罰ヲ除テ見マスト犯罪行爲ニ關シマス規定ノ分ハニ樣ニ解釋ガ出來ル、卽チ廣クモ見ヘマス、卽チ刑法モ含ンダヤウニモ考ヘラレマス、又刑法ハ是ハ含マヌノデアリマス、刑法ノ含マヌ部分ノミ規定セラレテ居ル共見ヘル、畢竟刑罰ノ七年以下ト云フヤウナ規定ガアレバ尠クトモ刑法ト同ジ刑罰ガ設ケラレテアリマスル故ニ或ハ是ハ刑法カラ除外サレマシタ特別ノ規定デアル卽チ刑法ノ例外ヲ作ルモノデアル、斯ウ云フ風ニ解釋ガ出來ルノデアリマス、ソコデ此刑罰目的ヲ變ヘマシタナラバ又別ノ解釋ガ出來ル卽チ第二ノ解釋ト云フノハ刑法ニ觸レテ居ルコトガ書イテアルト云フヤウニ見ヘル、ソレハ刑法デハ詰リ自己ノ利益ヲスル、他人ニ不利益ヲ與ヘル、ソレデ本人ノ目的デアル行爲ヲ必要トシマス、目的ノアル場合ハ刑法ニ目的ノナイ場合、先程度々時弊ニ投ズルト云フコトノ御話ガアリマシタガ、サウ云フ刑法ニナイノデソレハ成程弊害ノアルコトデアリマス、併ナガラ之ヲ區別シテ申シマスルト云フト自己若クハ他人ニ利益ヲ與ヘ若クハ本人ニ害ヲ加ヘルト云フ目的ノアル場合カラ見マスト云フト情ノ極メテ輕ルイ場合ト見テ宜イノデアラウト思フ、先程花井サンカラ刑法ハ客觀ノ要素ガ最モ主タル要素デアルト云フヤウニ仰シヤイマシタガ、私ハ兩方這入ル方ヲ考ヘテ居リマス、サウシテ刑法二百四十七條ニ規定致シマスル如キ場合ハ情ノ重イ場合デ、先程豐島君カラ仰セラレマシタ會社ノ得ニナルカモ知レヌガ或ハ損ニナルカモ知レヌ、先ヅ一ツ投機ヲヤツテ見ヤウ是ガ情ノ輕ルイ場合、本來申シマスルト是ハ情ガ輕イカラ斯ウ云フ者ニ對シテ酷イ重イ刑ヲ科スル必要ハナイト思フ、私ハ日糖事件ニ向ッテ實ハ同情ヲ表シテ居ル、各被吿人ハ會社ノ爲メニヤツタノデハイカヌノデアル、ソレハドウ云フ意志ノ發表カ知レマセヌガ形ダケ見マスト云フト何工、道德上カラ見テハ惡意ノナイヤウニ考ヘラレマス、私ガ裁判官デアリマスト同意ヲ寄セタイケレドモ、阿部サンノ仰シヤルヤウニ之ヲ不問ニ置クト云フコトハ甚ダ危險デアリマス、デアリマスカラ私ハ矢張リ是ハ罰スルト致シマシテ之ニ對シテ七年以下ノ懲役又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處スト云フ規定ヲ左ノ如ク改メマス、二年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス斯ウシテ置キマシタナラバ輕ルイ場合ガ此中ニ這入ツテ來マ入、斯ク致シマスト云フト會社ノ爲メニ計ツタノデアル、ウマク往ケバ會社カラ或ハ感謝狀モ貰ラヘナイコトノナイ事件デモ失敗シタ爲メニ終ニ罪人トナツタト云フ場合ニ付テ酷ク重ク處罰スルコトハナイコトニナリマス、而シテ是亦全ク不問ニ附スル蚤カ或ハ單ニ舊商法ノ規定ノ科料ノ制裁ニ委スルト云フヤウナコトモナイノデアリマス、サウ致シマシタナラバ實際家タル阿部サンナドノ御意見ニ全然副ヒマセヌデアリマセウケレドモ多少ハ從フノデアル、酷ク危險デアツテ五年モ七年モ置クト云フコトハナイコトニナル、而シテ是ハ梅先生ノ御意見ニモ多少適フノデハナイカト思フ、ソレハ二年位ノ懲役若クハ五百圓以下ノ罰金ト云フコトデアリマシタラ、倩ノ重イ者ハ懲役ニヤル、情ノ輕ルイ者ハ罰金ニスルト云フコトニ致シマシタラ多少御滿足ニナルコトガアリハセヌカト思ヒマス、ソレデ私ハ二年以下ノ懲役五百圓ノ罰金ニ處ス斯ウ云フコトニシタラドウカト思ヒマス、薗ヨリ是ニ附隨シテソレナラ禁錮モ入レタラドウカト云フコトモア圦マセウガソレハドウデモ宜イノデアリマス、第一案ハ七年以下ヲ五年ニ變ヘル、第二案ハ五年ト變ヘマシタ故ニ更ニ五年以下ノ禁錮ト云フ禁錮ヲ附加ヘル、第三案ハ二年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ト斯ウナリマス
○會長(子爵岡部長職君)
二十六番ニ御尋ネシマスガ三案ト云フノハドウ云フ意味デ御出シニナッテ居ルノデスカ第一案ガ少數デアツタナラバニ案ヲ出ス、、、、
○二十六番(勝本勘三郞君)
第一案ヲ先キニ出シマシテソレガ少數デアリマシタナラバ第二案ヲ出シマス、私ハ第三案カラ出シテモ宜イ
○會長(子爵岡部長職君)
二十六番ノ第一案第二案ハ實質ニ於テハ既ニ問題ニナツテ居ル、第三案ダケハ、、、、
○二十六番(勝本勘三郞君)
花井委員ノ御話ノ通リ分割シテト云フコトナラ、、、
○會長(子爵岡部長職君)
實體ニ於テ二十六番ノ第一ト第二ト云フノハ既ニ問題トナツテ居ル、併ナガラ第三ノ方ハロハ今新シク出タノデアリマス
○二十六番(勝本勘三郞君)
ソレナラ私ハ多數ノ御方ノ御意見ニ從ヒマシテ第三案ダケヲ私ノ案トシテ提出致シマス
(「贊成」ト呼ブ者アリ)
○九番(古賀廉造君)
起草委員ニ質問致シマスガ二百六十一條ニ其任務ニ背キトアリマス、ソレカラ二百六十一條ニ、三、四、五、六トアリマスガ、アトノニ以下ノ項ニモ總テ任務ニ背キタル部分ハ又特別ナモノデゴザイマセウナ
○四番(齋藤十一郞君)
必ズシモ任務ニ背ク者トサウデナイ者トアリマス、例ヘバ二百六十一條ノ二ノ如キハサウナリマス、ソレハ一項一項ノ場合ニ付テ申上ゲマセウ
○九番(古賀廉造君)
私ノ見タ所デハ任務ニ背イテト云フコトノヤウニ見ヘマス
○四番(齋藤十一郞君)
皆ト云フコトハ斷言致シ兼ネマスガ、、
○九番(古賀廉造君)
ソレデハ其質問ハソレデ置キマシテ此任務ニ背キト云フコトハドレ程ノ範圍ヲ以テ御覽ニナッタノデスカ
○四番(齋藤十一郞君)
其點ハ屡々先程カラ申上ゲマス通リ任務ニ背キト云フノハ法律命令ニ定メテアル任務モアリマセウシ定款ニ定メテアル任務モゴザイマセウ、ソレ等ノコトヲ含マセル積リデゴザイマス
○九番(古賀廉造君)
ソレデハ第二以下ノ行爲ガ任務ニナツテシマイマスノデ區別ガ付カヌ、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
ドウセ任務ニ背キト云フ以上ハ會社財產上ニト云フコト丶續ケテ御讀ミヲ願ヒタイ
○十二番(志村源太郞君)
齋藤君ニ續イテ伺ヒマスガ、會社ニ財產上ノ損害ノ生ズベキ行爲ト云フノハドウ云フ行爲ヲ指シマスカ、商賣ノ行爲デアリマスト一ノ行爲ト云フモノモ或ハ財產上ノ損害ヲ起スコトガアルカモ知レナイ、又利益ヲ起スコトガアルカモ知レナイ茲ニハ豐島サンカラ財產上ト云フコトニモ意味ガアツタヤウニ伺ヒマシタ、ソレカラ又生ズベキト云フ所ニ何カ意味デモアルカノ如クニ伺ッテ其御趣意ガ到然分リマセヌノデ今マデ磨躇致シテ居リマシタ、凡ソ今度ノ二百六十一條ハ私共素人カラ見マスルト實ニ獸脚々竝既々トシテ其職ニ就カナケレパナラヌカト思ヒマスヤウ三贋ク思ハレマス、刑法ノ二百四十七條ヲ見マスト目的ガアリマスカラシテ、私共ガ見マスト云フト兎ニ角モ自分ノ利益ヲ計リ若クハ第三者ノ利益ヲ計ルト云フ爲メニ其目的ノ爲メニ直接ニ會社ニ損害ヲ被ラセヌデモ自己ノ利益ヲ計ルトカ或ハ會社以外ノ人ノ利益ヲ計ルトカ云フ爲メニ會社ニ損害ヲ被ラシタ場合ニハ罰ニナルト云フノデアリマスカラ處爲ノ中ニ二百六十一條デアリマスト任務ニ背キト云フ範圍ガ能ク分ラナイ、加フルニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ト云フノデアリマスガ、其最後ニナッタナラバ會社ノ全體ノ株主カラ感謝狀ヲ貰フ事柄デアッテモ、當時ニ於テ財產上ノ損害ヲ被ラスベキコトデアルトシテ、株主ガ吿發シタナラバ罰セラルニト云フ心配ガアルノデアリマス、然ルニ二百六十一條ハ法律家ガ御覽ニナレバ宜イカモ知レマセヌガ、私不案内デ任務ト云フ範圍ト損害ノ狀況ト云フコトノ範圍ノ認定ガ今日ノ株主ノ程度ニ於キマシテ、裁判上ノ程度ニ於テ不安心ニ堪ヘマセヌ、此任務ト損害ヲ生ズベキト云フコトヲ二ツヲ續ケテ讀ミマシテモハツキリ分リマセヌカラソレヲ御說明ヲ願ヒタイト思ヒマス
○十九番(石渡敏一君)
只今ノ志村君ノ質問ト私ハ同一ノ考ヘヲ持ツテ居リマスノデ、殊ニ二百六十一條ノ四號ノ六デゴザイマス此中ニ色々アリマスガ、一ノ例ハ一部ノ債權者ヲ利スル目的ヲ以テ云々是ハ私ノ見マス所デハ二百六十一條ニスッカリ這入ルヤウニ思フ、任務ニ背イテ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズベキ行爲ヲナシタモノダラウト思バレル、ソレデ七モ或ハ同一デナイカト思フ、債權者ヲ害スル目的ヲ以テ九十五條ノ規定ニ反スル云々ト云フ殊ニ斯ウ云フモノダケヲ加ヘテ刑ヲ輕ルクシタル理由ハドコニ在ルカソレヲ一ツ伺ヒタイト思フ、私ノ考ヘマス所デハ二百六十一條ノ中ニハ事ニ由ルト會社ノ取締役ガ自分デハ是ダケハ賞與ハ社員ニヤルコトガ出來ル稽 リデ賞與ヲヤッタ所ガサウ云フ權限ハナカッタソレダケノ財產ガ委托サレナカッタト云フコトガ二百六十一條ニ這入ツテ來ヤウト思フ、サウ云フコトハ二百六十一條ノ四ノ方デハ重イモノガ輕ルクナツテ來ルト云フヤウナ場合ガ生ジテ來ル、詰リ刑ノ權衡ヲ得ナイコトガ起ツテ來ハシナイカト云フコトヲ疑フノデアリマス、サウ云フノハ何故刑ノ區別ヲシタモノデアラウカ、要スルニ私ノ考ヘデハ矢張リ古賀君ガ唱ヘラレタ如ク殆ンド二百六十一條ヲ置タナラバ其過牛ガ此中ニ含マレルヤウニナリハセヌカ獨逸ノ商法デハ殆ド一條ノヤウニナツテ居リハシナイカト思フ、此中[ニ這入ラナイモノガ大分アルト思ヒマスカラ數ハ尠クナラウト思フ、モウ一ツ伺ヒタイノハ過失罪デアリマス、先程伺ツタ時ニハ二百六十一條ノ中ニハ過失ノ場合ハ這入ツテ居ナイト云フコトデアリマス、ソレハ或ハサウカモ知レマセヌガ二百六十一條ノ三、二百六十一條ノ四ノ場合ニハ所謂眞向ニ於テ過失ハ罰シテ居ルノデアリマス、卽チ前項ノ處爲ガ過失ニ出デタルトキハ云々ト書テアル、是ハ同ジヤウナ過失ガ二百六十一條ノ場合ニモアリ得ベキデナイカト思フ、併ナガラ是ガ起草委員ノ御考ヘデナイト云フナラバ又其御說明ヲ承リタイ、若シアリ得ベキトスルナラバ二百六十一條ニモ其規定ヲ置カナケレバナラヌト思フ、置ガナイト斯ウ云フコトガ起ツテ來ハセヌカト思フ、輕ルイ方デハ過失罪ヲ罰スル、併ナガラ重イトキハ過失罪ヲ問ハヌト云フコトニナル、是ガドウ云フ御考ヘデアツタノデスカ一應伺ヒタイノデゴザイマス
○四番(齋藤十一郞君)
志村サンノ御質問カラ御答ヘヲ致シマスガ、任務ニ背ク行爲ヲナシテ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ズルコトヲシタ斯ウ云フ規定デアツテ刑法ノ二百四十七條ノ目的ノコトガ書テナイ、目的ガ書テアツテ其目的ノ爲メニ斯々ノ行爲ヲシテ會社ニ財產上ノ損害ヲ生ゼシメタト云フナラバ能ク分ルケレドモサウ云フ目的デナシニ任務ニ背イテ會社ニ財產上ノ損害ヲナシタト云フ場合ハドウ云フ場合デアルカ能ク分リマセヌ、斯ウ云フ御尋ネデアリマシタガチョット一例ヲ申上ゲマスレバ法律ノ定メテ居リマスル規定ヲ無視シテ配當ヲナス、卽チ先程例ニ引キマシタ現行法ノ二百六十二條デ罰シテアリマス、之ヲ入レテナイノハ卽チ斯ノ如キ規定ヲ設ケテナイノハ二百六十一條ノ規定ニ含マシムルレ趣意デアルト云フコトヲ先程申上ゲタガ丁度ソレガ宜イ例デアラウト思フノデアリマス、第三者ガ自己ノ利益ヲ計リ又第三者ハ利益ハ計ラヌトシテ任務ニ背イテ會社ニ財產上ノ損害ヲ加ヘル卽チ厦々例ニ出ル所ノ投機ヲ致シマス株ニ手ヲ出ス是ナドモ確一ニノ例デアラウト思フ、サウ云フ任務ハ會社ノ定款ナドデハ無論許シテアルマイト思フ、ソレハ會社ノ利益ヲ計ルノデアリマシテモ二百六十一條ノ規定ニ反スルコトニナル自己ノ利益ヲ計ルノデハナイ、第三者ノ利益ヲ計ルノデモナイ會社ノ利益ヲ計ツテモイケナイ、、、、
○十二番(志村源太郞君)
ソレガ今日ノ時弊デス
○四番(齋藤十一郞君)
ソレハ一ノ例デスガ繰返シテ申上ゲマス、ソレカラ石渡サンノ御尋ネデスガ是ハサウデハアルマイト思ヒマス、卽チ是ハ會社ニ財產上ノ損害ヲ加ヘルノデハナイ會社ガ返濟スベキ債權ヲ返濟スルノデアリマスカラ、是ハ當然ノコトデアリマス、大體獨リノ債權者ニ先キニ返濟スルト云フコトハ他ノ債權老ヲ損スル、ソレデアルカラ此中ニハ這入ラヌ、ソレカラ六號七號トモ同ジデスソレデ色々議論ハアリマセウガ私共ノ方ノ解釋デハサウデス、ソレカラ過失罪デスガ二百六十一條ノ四等ニ規定シテ居リマス事柄ハ過失ニ出デタル者ト故意デヤル者トノ間ニ區別ノ付カナイ行爲ガ多イ、併ナガラ二百六十一條ノ方ハ過失ニ出デタ行爲ハ罰シナイ積リデゴザイマス、ソレハ過失ニ出デタ行爲ヲ罰スルトカ罰セヌトカ云フコトハ此所ノ條デ御議論ヲ願ヒタイ
○二十五番(磯部四郞君)
私ハ今日ノ問題ニ付キマシテハ實ハ先程既ニ議論ヲ致シマシテ、無論アノ議論ハ私ノ議論デゴザイマスガ、段々伺ッテ見マスト色々錯雜ナコトモアリマシテ殊ニ此法文タルヤ是ガ行ハル丶コトニ至リマスト日々會社ノ事務ヲ執ル人ノ頭ヲ支配スルノデアリマスルシ、彼ノ普通ノ刑法ノ如ク或ハ泥坊デアルトカ人殺シデアルトカ云フヤウナコトデナシニ總テノ諸會社ノ重役ガ日々ノ行爲ニ在ッテ支配ヲ受ケル所ノ法律デアリマス、其法律タルヤ今御專門家ノ法律家ガ解釋ニ苦ンデ居ラル丶ノミナラズ起草委員ノ御答辯モ屡々窮セラレテ居ル所ノ法律デアル、之ヲ今一ニノ多數ノ投票ニ依ッテ御採決ニナツテ世ニ行ハル丶コトニナツタナラバ、解釋ノ困難ナルガ爲メニ實際ノ不都合ヲ來タスデアラウト思ヒマスノデ善イカ惡イカ分ラヌノデアルカラ判斷ヲ付ケルコトハ出來マセヌガ、善イニシロ惡ルイニシ巨其適用スベキ場合ヲ明カニ分リ易ク法律家ガ色々辯ヲ勞シテモ尙ホ分ラナイト云フヤウナ法律ハ所詮素人ヲ支配スル法律トシテハ甚ダ不都合ナモノト考ヘマスカラ、各案ニ付テ或ハ說明書デモ特ニ與ヘラルルカ又ハ今少シ場合ヲ明カニシテ更ニ案ヲ具シテ會議ヲ開カル丶コトヲ望ミタイノデアリマス、刑法ノ如キモノハ多クハ社會ノ例外物ヲ支配スルモノデアリマスカラ、普通ノ場合デハ議論的ニナツテモ差支ナイカモ知レマセヌケレドモ、是ハ諸會社ノ重役ノ日日ノ行爲ヲ支配シテ往ク法律デ何ガ何ダカ分ラナイト云フヤウナ法律デハ趣意ガ良クテモ實際ニ甚ダ不都合ナ法律デアルト云ハレヤウト思ヒマスカラ、今一應勘厚クトモ詣唄デ分ルダケノコトニ定メテ更ニ此會議ヲ開カル丶コトヲ希望致シマス、私モ已ムヲ得ヌ用モゴザイマシタガ御採決ニナルト云フコトデアリマシタカラ差控ヘテ居リマシタガ、此鹽梅デハ到底採決セラル丶ト云フコトハイヅレノ案ニ極ツテモ早計極ツタコトデアリマスカラ、今日ハ是デ閉會セラレテ更ニ次回ニ明瞭ナ案ヲ出サレムコトヲ希望致シマス
○二十番(江木衷君)
大分御議論モアルヤウデアリマスガ、議論ガ益々出デエ益々立法ノムヅカシイコトガ明カニナツタヤウニ考ヘマス、ソレデ今出テ居リマス二百六十一條ノ案デアリマスガ其コトハ皆言ツテ見マスト色々混ツテ居ル所ガ見ヘテ居ルヤウニ思ヒマス、只今起草委員カラノ御說明モアリマシタガ、起草委員ニハ能ク御分リニナツテ居ルカ知ラヌガ吾々ニハチヨツト分リ兼ネル點ガ見ヘル、サウシテ折々石渡委員カラ言ハレタヤウニ段々先キヲ讀デ見ルト二百六十一條デハ何ヲ罰スルカ分ラナイヤウニナル、ドウ云フ場合ニ必要デアルカ投機々々トバカリ言ツテ會社ガ投機ヲスルノガ惡イナラ投機ヲ罰スルト御書キニオツタ方ガ宜イア丶云フ場合ガアル斯ウ云フ場合ガアルト云フコトハ嘗テ委員カラ御出シニナツテ居ラヌノデゴザイマス、是ハ此法案ノミナラズ總テノ日本ノ刑法ニ於テ或一例ヲ見テソレヲ直グニ一般ノ規定ニ設クル、是ガ爲メニ思ヒモ寄ラザルモノガ中ニ這入ツテ來ルト云フノガ立法ノ弊害デハナイカ、是ハ刑法ノ時ニモ度々言ッタノデアリマシタガ案外行ハレナイ案デアリマシテ愈々此刑法ヲ實施シテ見テ人民ガ愈々弊ニ堪ヘ鹽ヌ時ニ氣ガ付テ來ルコトデアラウカラ、今言ツテモ駄目カ知レマセヌガ、如何ナル者ヲ罰スルカト云フコトノ例ヲ擧ゲテ戴キタイ、成程投機ヲスル場合ト云フ時ニハ自分ノ利益ノ爲メニスル/デハアリマスマイ、或ハ會社ノ爲メニ投機ヲスルカモ知レマセヌガ若シサウ云フコトガアルナラバ著シイ例ヲ擧ゲテ罰スルコトニシテ後ノ小サイコトハ、、、、今日ノ立法ト云フモノハ一例ヲ以テ此取締役ヲ七年モ罰スルト云フ案ガ出ルノハ私共一見シタ所デハ誠ニ慘忍酷薄ナ法律ト言ハナケレバナラヌ、頻リニ御辯解ガアリマスケレドモ、誰ガ此法律ヲ見マシタ所デ酷イコトガ書イテアル、是デハ會社ノ目的デナイカラ七年以下ニヤラルニノカト云フ考ヘヲ起サヌデハナイ並ノ人間カラ見テ慘忍酷薄ナ法律ト云フヲ免カレマセヌ、誰ガ見マシタ所デ慘忍酷薄、實業家ノ御連中カラ見テモ見ヘルシ私等ガ見テモ見ヘル、ソレヲ之ヲ願クハ投機ノ場合ガイカヌト云フナラ投機ガイカヌ、他ノ場合ヲ示スナラバ其他ノ場合ヲ示シテ、只或場合ノミヲ考ヘテソレヲ重ク罰スルガ爲メニ外ノ場合ガ這入ツテ來ルコトガ危險デアリマスカラ餘リ理窟ニ書キコナサズニ眼ニ見ヘルヤウニ書イテ戴キマスト刑ヲ重クサレタ所ガ別段實業家モ驚クコトハナイト思フ、斯ウ云フボンヤリシタモノヲ書イテ只一例ヲ以テ汎博ナ規定ヲ置イテ總テヲ規定シヤウト云フコトハ立法ノ大弊害デハナイカト思フ、只今磯部君カラモウ少シ御考ヘニナツテハドウカト云フ御議論モアリマシタケレドモ、サウ云フコトデアリマシタナラバ明カデアルナラバ刑ノ重イコトハ辭セヌケレドモ一例ヲ以テ外ノ者ヲ罰スルヤウニ書カレマシテハ危險千萬ナ法律ト言ハナケレバナラヌト思フ
○三十五番(横田國臣君)
先刻カラ今二十五番ノ御答辯ノ所カラ後トハナイト思ツテ二十五番ニ二十番ノ說ニ先ヅ贊成シマス、數案ヲ立テルトカ委員ヲ選ブト云フコトデハ大變デゴザイマス、今晩ハ延期シマシテ此次ニ願ヒタイ
(「贊成」ト呼ブ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
諸君ニ御諮リシマスガ只今三十五番カラ今晩ハ此儘置テ熟考サレタガ宜カラウト云フ御說デアルソレニ贊成モアリマス、是ハ重要ナ條目デアリマスカラ宿題ニ致スト云フコトデハ如何デゴザイマス
(「贊成」ト呼ブ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
然ラバ左樣ニ致シマス、、、、