商法(~1951年)

第二次法律取調委員会 商法中改正法律案 議事速記録 第1回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
法律取調委員會議事速記録
出席委員
第一番  富井政章君
第二番  岡野敬次郞君
第三番  富谷鉎太郞君
第四番  齋藤十一郞君
第八番  磯部四郞君
第九番  菊池武夫君
第十番  梅謙次郞君
第十二番  志村源太郞君
第十三番  原嘉道君
第十四番  岸本辰雄君
第十五番  穗積八束君
第十六番  河村善益君
第十七番  江木衷君
第十八番  一木喜德郞君
第十九番  豐島直通君
第二十番  小山溫君
第二十一番  長谷川喬君
第二十三番  高木豐三君
第二十四番  奧田義人君
第二十五番  松室致君
第二十六番  石渡敏一君
第二十七番  若槻禮次郞君
第二十八番  元田肇君
第二十九番  田部芳君
第三十番  内田嘉吉君
第三十一番  山根正次君
第三十二番  村田保君
第三十四番  穗積陳重君
第三十五番  横田國臣君
第三十六番  松波仁一郞君
第三十七番  安廣伴一郞君
第三十九番  平沼騏一郞君
○會長(子爵岡部長職君)
是ヨリ總會ヲ開キマス、豫テ主査會ニ審査ヲ委託シテアリマシタ所ノ商法ノ改正案ニ付イテ主査會カラノ御報吿ヲ得マシタカラ、本日開會ニ及ンダ次第デ御座イマス、是ヨリ主査委員長ヨリノ報吿ガゴザイマス
○一番(富井政章君)
簡單ニ此議案ガ出來マシタマデノ經過ヲ御報吿申上マス、一昨年五月會長ハ總會ノ決議ニ基キ商法主査委員ト云フモノヲ任命ニ相成リマシタ、ソレカラ六月五日ニ第一回ノ主査委員會ヲ開カレマシタ、先ヅ此調査ノ方針及ピ範圍等ヲ問題ニ供セラレマシタ、當時主査委員會ノ意見ハ成ル可ク調査ノ範圍ヲ餘リ廣クセズシテ、各種ノ實業團體等ヨリ提出サレマシタ所ノ意見書希望書等ヲ參考トシテ、目下實際ニ不便ヲ感ズル點ダケヲ修正スルコトニ止ムルガ宜カロウ、今法律ヲ制定スルナラバ斯ウ云フ風ニ定メタラ宜カラウト云フ點マデ拾ヒ擧ゲマスト、實ハ際限ガナイ幾ラアルカ知レヌノデアリマス、サウ云フ幅ノ廣イ修正ハ止メニシ洗十年間ノ經驗ニ依ツテ實業社會、裁判所辯護士社會等ヨリ現行法ノ規定中實際ニ最モ適合ヲシナイト云フ訴ノアル點ダケヲ取調ベテ、サウシテ適當ト認ムルダケノ意見ヲ採ツテ修正ヲスルガ宜カラウト云フコトデ、其方針ニ基イテ調査ヲ始メルコトニナツタノデアリマス、ソレ故ニ非訟事件手續法トカ云フ附屬ノ法律、殊ニ手續法ノ改正ヲスルコトガ必要ニナツテ居リマスケレドモ、民法ト云フヤウナ法律ニハ此際手ヲ着ケナイ方ガ宜カラウ、商法修正案ニ牽連シテ民法ヲ改メタラバ宜カラウト思フ點ハ幾ツモアルノデアリマス、併シサウ云フ風ニ手ヲ擴ゲテハ殆ンド際限ガナイ停止スル所ヲ知ラズデアルカラ、此際ハサウ云フ幅ノ廣イ修正ハ止メニシテ、實際ニ最モ不便ヲ感ズルト云フ點ヲ修正シヤウト云フコトニナッタ、ソレガ第一回ノ主査委員會ニ於テ極メツタ亠事ノ一ツデアリマス、今一ツ極マリマシタコトハ、當時商業會議所トカ、手形交換所トカ云フ幾ツカノ商業團體ヨリ修正ノ意見書ガ出テ居リマシタ、ソレニ付イテ採否ヲ極メル爲メニ特別委員若干名ヲ選定シテ、ソレニ審査ヲ委託スルガ宜カラウト云フコトデ、五名ノ特別委員ヲ選定セラル丶コトニナリマシタ、其特別委員ハ六月七月ノ二ケ月ニ亙ツテ數回會議ヲ開カレマシテ、審査事項ノ採否ヲ決定サレマシテ、七月ノ第二回ノ主査委員會ニ其結果ヲ報吿ニナリマシテ、大體特別委員會ノ決議通リ可決ニナリマシタ、ソレカラ七月ニ起草委員三名ト云フモノガ任命セラレマシテ、直ニ第一回ノ起草委員會ヲ開クコトニナリマシタ、起草ノ方法ニ付イテハ先ヅ司法省ニ於テ下調ヲシテ貰フト云フコトデ齋藤委員竝ニ鈴木、入江、横田ノ三幹事ニ下調ヲ託スルコトニナリマシタ、ソレ等ノ諸君ハ七月ヨリ十月マデノ間ニ凡ソ三十回モ會合ヲセラレマシテ、假草案トモ云フベキヤウナモノガ出來タノデアリマス、ソレヲバ起草委員竝ニ主査委員ノ議ニ掛ケル筈デアリマシタ所ガ、其頃ヨリ九月ノ末マデノ間諸所カラ意見書ガ澤山出テ來タノデアリマス、各地ノ商業會議所或ハ船主同盟會デアルトカ、保險同盟會デアルトカ種々ノ團體ヨリ、、、、、、是ハ司法省ヨリ其意見ヲ徵收シタ譯デハアリマセヌケレドモ澤山出テ來タ、ソレカラ各地ノ裁判所竝ニ辯護士會ヨリモ續々意見書ガ參リマシタ、殆ソド山ヲ成ス程ノ嵩ニナッタノデアリマス、ソコデドウ始末シタラ宜ガラウカト云フコトデ、十月ノ二日ニ第三回ノ主査委員會ヲ開クコトニナリマシテ、ソコデ是ニ付イテ直ニ調ヲスルト云フコトハ如何ニモ困難デアルカラ、先ヅ其意見ノ要旨ヲ採ツテ、サウシテ其目指ヲ附ケテ調ベ宜イヤウニシテ、斯ウ云フモノガ出來タ上デ一ツ採否ヲ議スルコトニ仕ヤウデハナイカト云フコトデ、ソレヲバ本省ニ於テ行ツテ貰フト云フコトデ散會ニナリマシタ、所ガ其後議會ノ開カレルトカ、サウ云フヤウナコトデ大分ニ暇ガ要リマシテ、到頭昨年ノ三月始メ商法修正意見摘要類纂ト云フモノガ出來マシタ、ソレニ諸所カラ貰ツテ來タ意見書、希望書ト云フヤウナモノヲ綴込デ、サウシテ目指ヲ附ケテ一々採否ヲ議シ易ヒヤウニシタ、ソレニ基イテ第四回以後ノ主査委員會ヲ開クコトニナツテ、每週水曜日ニ主査委員會ヲ開レタノデアリマス、其合阜議ガ大分ニ長ク續キマシタ、本年ノ二月始メマデ續キマシテ、凡ソ三十回程主査委員會ヲ開レタノデアリマス、サウシテ各方面カラ出テ來マシタ意見書ニ付イテ、一々採否ヲ決セラレタ、採擇スベシト決セラレタ事項ニ付イテ起草ヲ爲スト云フコトニナツタノデアリマス、ツコデ昨年ノ六月七月ノ二ケ月ニ跨ッテ、齋藤委員竝ニ入江、横田、山内ノ三幹事諸君ニ於テ下調會ヲ開カレ、第一章案ト云フヤウナモノガ其處デ出來タ、ソレニ依ツテ今度ハ起草委員會ヲ開クト云フコトニナリマシテ、五月ノ十九日ヨリ七月ノ十九日マデ起草委員會ヲ十何回開カレマシテ、サウシテ今日議ニ附セラレテ居リマスシ總則會社ノ部ガ決定セラレマシタ、サウシテソレガ十月十三日ヨリ十一月ノ末マデノ主査委員會ニ附セラレテ、第一編第二編ト云フ部分ハ卽チ昨月ノ終リニ於テ主査委員會デ議了ニナツタノデアリマス、後ノ部分ハ卽チ商行爲以下是ハ今主査委員會ニ於テ討議中デアリマシテ、丁度前ニ編ガ總會ニ於テ議了セラレ、續イテ此處デ議題ニ入ルコトガ出來ヤウト思ヒマス、起草委員會ノ方ハ一兩回會合セラレマシタラバ全部終リヲ吿ゲルコトニナリマセウト思ヒマス、大體ノ結果ハ唯今申上タヤウナ通リデアリマシテ、決シテ學理トカ云フヤウナコトカラシテ、斯ウモシタイ、アニモシタイト云フヤウナ改良ヲ企テラレタト云フコトデナクシテ、全ク法律ノ摘用ヲ掌ツテ居ル所ノ、裁判所辯護士會竝ニ各種ノ實業團體ヨリ出テ來マシタ意見ニ基テ、實際最モ不便ヲ感ジテ居ル點、最モ改良シテ欲シイト云フ訴ノアツタ點ニ付イテ、採擇スベシト認メラレタモノガ、今日此議案トナツタノデアリマス、獪ホ詳細ナル點ハ御質問ニ應ジテ、起草委員諸君カラ答ヘラレルコトデアラウト思ヒマス、
○會長(子爵岡部長職君)
議事ノ進行ニ付イテ一寸諸君ニ御相談致シマスガ、唯今委員長カラノ報吿ニ對シテ何カ大體ニ付イテ御質問ノ廉ガアリマスレバ、此際質問アランコトヲ希望シマス、
○十七番(江木衷君)
唯今ノ主査委員長カラノ御報吿ニ依リマシテ、私ハ大ニ安堵シタ點モアルノデアリマス、商法ノ改正ノ御方針ニ付イテハ全然同意ヲ表スルノデアリマス、刑法ハ全部悉ク反對シタ方針ガ間違ツテ居ツタノデ、丸デ空論ニ依テ拵ヘヤウトシタノデアリマスガ、此商法ノ改正ニ付キマシテハ、斯カル進歩シタ立法ノ方針デ調ベラレタコトヲ私ハ謝スルノデアリマス、ソレ故ニ全體ニ付イテノ反對ハ無論ナイノデアリマス、一寸申シマスルト是ハ一編ニ編ノ總則會社ノ邊ノミニ止マツテ居ル故ニ、之ヲ議スル中ニ後トガ出テ來ルノデアリマスカ、願クハ全部御知ラセニ預ル譯ニハ參ラヌノデアリマセウカ、ソレカラ又此改正ノ條ヲ見マスルト云フト、中々重要ナ點モアルヤウデアリマスガ、中ニハドウ云フ譯デ斯ウ云フ改正ニナルノデアラウカト云フ理由ノ分ラヌ點モアルノデアリマス、是ハ吾々ノ不明ノ致ス所カ知レマセヌガ、凡ソドウ云フ趣意デ斯ウ云フ改正ニナルトカ云フ理由書ヲ附ケテ置クトカ云フコトデアルナラバ、併セテ之ヲ御廻シニナルコトハ出來ヌノデアリマセウカ、サウスルト此議事ノ進歩モ早クナルト考ヘマス、或ハ又其時々主査委員ノ方カラ御講釋ヲシテ聽カスト云フ御趣意デアリマスカ、兎ニ角私ハ全體ニ於テ此商法ノ改正ニハ反對ハナイノデアリマスガ、願クハ今ノヤウニ吾々ニ此商法改正案ニ付イテ、成ル可ク早ク是ハ贊成デアルトカ不贊成デアルトカ云フコトモ決シタイ、詰リ全部ニ付イテ修正ノアツタ點ガ伺ヒタイト思ヒマス
○一番(富井政章君)
第三編商行爲ノ所ハ今主査委員會ノ議題トナルノデアリマシテ、マダ御手許ニ廻ハス譯ニハ參リマセヌガ、長クハ掛ルマイト思ヒマス、ニ回カ或ハ三回モ主査委員會ヲ開カレタラバ、此第三編ハ濟ムダラウト思ヒマス、サウ云フ風ニチヤソナ全部主査會デ議了セラレテアルノデアリマセヌ、第一編第二編ダケガ濟ダノデアリマスカラ、ソレヲ此處デ御評議ニナルト同時ニ後ノ部分ニ付イテハ、主査委員會モ續イテ開カレルヤウニナル次第デアリマス、ソレハ總則會社ノ部ト後ノ部分トハ關連シタ點ハアリマスガドウシテモ不可分デアツテ同時ニ全部ヲ出サナケレバ議スルコトガ出來ナイト云フ程ノ關係ハナイト、吾々ハ信ジタノデアリマシタカラ、ソレデ是ダケノモノヲ議シテ戴イテ、サウシテ其理由ニ付イテハ何レ各條ニ於テ、起草委員カラ始メニ簡單ニ改正ノ理由ヲ述ベラレテ、獪ホ御質問アレパ幾回デモ說明セラル丶コトデアラウト思ヒマス、ソレカラ理由書ガナイカト云フ御話デアリマシタガ、是ハモツト時ガアレパ理由書モ附ケタノデアリマセウケレドモ、如何ニモ時ガナイノデサウ云フモノハ附ケテナイノデアリマス
○十七番(江木衷君)
強ヒテ反對スル趣意デモアリマセヌガ、唯今ノ全般ノ修正ノ方針ニ付イテハ最モ結構デアリマシタガ、今三編四編モ併セテ御示シニナリマスト云フト、今委員長カラ仰セラレタ御方針ノコトモ一讀シテ大要成程ト云フコトガ、或ハ吾々ノ中ニ快ク了解サレハシナイカト云フ考ヘガアル、ソレカラ理由書ノ方ハ御示シニナラヌト言フコトナラ、ソレダケノ話デ是非御示シ下サイト云フ譯ニモ往キマスマイ、ソレカラ又間ニ合フト云フコトナラバ、出來ルナラバドウカ其理由書モ御拵ヘニナツテ同時ニ議ニ御掛ケニナツタラバ却テ進歩ガ早クナリハセヌカト思フ、前後關連シタ所モアリマスカラ、一條宛條ヲ分ケテ御遣リニナリマスト、違フ譯デアリマスガ、後ニモ御示シニナリマスト、委員ニハ自カラ明カニナルコトエ思ヒマス、是ハ私ノ希望デアリマシテ、全部御示シヲ願ヒマシテ、御急ギニナルナラ議事ヲ成ル可ク進行シタイト云フ考ヘデアリマス、ドウモロ頭ダト色々ニ議論ニ華ガ嗅クヤウナコトモアリマスシ、冖兼テ御示シニナリマスレバ贊成ト云フコトヲ述ベテソレデ役目ガ濟ムコトニナリハセヌカト思ヒマス
○一番(富井政章君)
吾々ハ唯命令ノ下ニ仕事ヲスルノデアリマシテ、幾ラ暇ガ要ツテモ構ハヌカラ先ヅ理由書ト云フモノヲ作ツテ、ソレヲ御配付シテ、ソレカラ議ヲ開クト云フコトニスルカラサウ云フ考ヘデ行レト云フコトデアレバ、御命ニ服シテ行ルノデアリマス、成ル可ク今回ノ議會ニ提出シタイト云フ、政府ノ考ヘデアルトカ云フコトヲ聞イテ居リマスカラ、其點ニハ吾々ドモハ喙ヲ容レルコトハ出來ナイノデアリマスガ、サウ云フコトデ急グノデアツテ唯命令ノ下ニ仕事ヲシタト云フダケデ、其事柄ニハ反對デナイソレハ會長カ或ハ内閣ニ向ツテ御述ベニナル可キコトデアラウト思ヒマス
○十七番(江木衷君)
サウシマスト何モ言葉ヲ爭フ次第デハナイガ、急グトナラバ成程其方針ハ宜シウ御座イマセウガ、私ハ急グ方針ナラ寧口切々デナイ方ガ決議ガ早ク出來ハ仕舞カト思ヒマス、ソレカラ又政府ノ命令ニ依ツテト云フコトデ御座イマシタガ、一編ニ編ダケヲ先キニ出シテ三編四編ハ後ニ廻ハスト云フ御命令デアツタノカ、私ハ唯御命令デ急グト云フコトナラバ承知シマスガ、其方法ニ付イテ一編ニ編ガ前ニ出テ居リマスレバ、其理由書ナドハ後デ宜イト云フ御命令デアツタカ總テノコトガ命令デモナカツタト思ヒマシタカラ、其事ヲ爭フノデハアリマセヌガ、御命令ノ範圍ガ凡ソドノ位ノモノデアツタカ、唯其處ラガ御命令ト云フコトニナリマスト、一寸迷フノデアリマス
○一番(富井政章君)
段々穿チ往ツタル御質問デアリマシタガ、サウ云フ所マデ御命令ハ降ツテ居ナイノデアリマス、全ク今日全部出來テ居レバ主査委員會デ議了セラレテ居レバ、御手許ニ廻ハルノデアリマスケレドモ、ソコマデニ主査委員會並ニ起草委員會ノ方ガ進行シテ居ナイト云フダケノコトデアリマシテ、先ヅ出來タダケノ部分ニ付イテ必ズシモ後ノ部分ト不可分ト云フ程ノ關係ハナイカラト云フコトデ今日ノ總會ハ先ヅ出來タモノニ付イテ、開カレタノデアラウト解シテ居ルダケノコトデアリマス、後ノ商行爲ノ部分ハ先刻申上タ通リ遠カラズ主査委員會ノ方カラ出ルコトデアラウト思ヒマス
○二番(岡野敬次郞君)
先刻來江木君ノ御要求ニナルコトハ誠ニ御最モノコトエ思フノデアリマス、主査委員長カラ述ベラレタ通リ又理窟カラ考ヘテ見マシテモ、修正案ノ全部成ツタ上ニ於テ總會ノ議ニ附セラル丶方ガ議事ノ便利ガ多イコトハ、勿論ノコトデアラウト思ヒマス、併ナガラ起草並ニ其主査ノ實況ハ先刻主査委員長ヨリ述ベラレタ通リノ次第デアリマシテ、全部議案トシテマダ分ラヌコトデアリマスカラ、從ツテ總會ヲ開クニ當ツテモ全部ヲ議案トシテ提出スルノ運ビニ至ラナカッタノデアリマス、併ナガラ茲ニ江木君ノ御了承ヲ乞ヒタイコトハ此商法中、私カラ申述ベルマデモナク色々ノ事ヲ規定シテアルモノデ互ニ總テガ民法ノ如クニ連絡ヲシテ居ルト云フ譯デハアリマセヌカラ、便宜上之ヲ分ツテ議ニ附セラレテモ格別ノ大シタ不便ハナカラウカト思フノデアリマス、今日ノ議案ニナツテ居リマスル所ノ第一編ト第二編三編以下ト共ニ連絡ノ全クナイト云フコトヲ申ス次第デハアリマセヌケレド董、又或箇條ニ依ツテハ距ル可カラザル關係ヲ有ツテ居ルモノモ一ニハアリマセウケレドモ、併シ不可分ニ是非全部ヲ見タ上デナケレバ可否ヲ決スルコトハ出來ナイト云フ程ノ連絡モナカラウト思フノデアリマス、且ツ其修正ヲ致シマスル所ノ主意ハ先刻主査委員長カラ述ベラレマシタ通リノ實際ノ要求ニ基クノデアリ、且ツ其實際ノ要求ニ基クト云フ點ニ於テハ江木君モエラク御贊成ノヤウデアリマシタノデ、サウ云フ主意カラ修正ヲ加ヘラレタ譯デアリマスカラ、從ツテ議論ノ一貫シテ居ルモノガアル譯デハナイ、又互ノ條文ノ關係上是非斯ウナケレバナラヌト云フ理窟ニ基テ修正ヲ施シタ譯デハナイノデ御座イマシテ、必要ニ應ジテ箇々ニ條文ヲ修正シタニ止マル譯デアリマスカラ、多クハ實ハ獨立ノ修正ノヤウナ意味ヲ有ツテ居ルヤウナ譯デアリマス、獪更ニ編三編以下ノ分ト左程ノ密接ノ關係モナイノデアリマス、而シテ修正ノ主意ニ付キマシテハ、第一編並ニ第二編ヲ御覽下サレマシタナラバ、如何ナル主意ニ依ツテ修正ヲ加ヘタノデアルカト云フ精神ハ無論御了解下サルコト丶思フノデアリマス、又其主意ガ矢張第三編以下ニ於テモ其修正ニ着手スルモノニ採ッタ所ノ方針デアリマスカラ、無論第一編第二編ノ修正ヲ御覽下スツテ第三編以下ノ修正ノ主意ハ何方ニ在ルカト云フコトノ御了察ヲ乞フタナラバ、大體ニ於テ誤ガナカラウカト信ズルノデアリマス、サウ云フ次第デアリマシタカラ、全部議案トシテ提出スル能ハザル今日ノ實況ニ於キマシテハ、第一編第二編ニ付イテ御決定ヲ願フモ強チ不當デハアルマイト思ヒマスカラ、左樣ニ御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス
○會長(子爵岡部長職君)
如何デス各條ニ付イテ又御質問ガアル方ガ審議ノ爲メニ便利カト思ヒマスカラ、サウ云フコトニシタラドウデス
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○一番(富井政章君)
議事ノ方法ハ唯今會長カラ御述ベニナリマシタ通リ、逐條ト云フコトヲ原則トスルト云フコトハ至極結構デアルト思ヒマス、唯必ズシモサウスルトセズシテ、ニ個條或ハ三個條關連シテ離シテ見ルコトノ不便ナ所ハ起草委員諸君カラ申上ラル丶コトモアリマセウガサウ云フ所ハニ一ニケ條束ネテ議題トスルコトモアルト云フ餘裕ヲ附ケテ戴イタラ一層宜シカラウト思ヒマス、如何デ御座イマス
○會長(子爵岡部長職君)
唯今一番カラノ注意モアリマシタガ、無論會長ニ於テハ其積リデ御相談シタノデアリマス、逐條ヲ議スルニ際シテドウカ主査委員長或ハ起草委員ノ方カラ牽連スル條モアレパ、其都度ニ注意ヲシテ御貰ヒ申シタイト思フ
○十七番(江木衷君)
一寸承ハツテ置キタイノデアリマスガ、先程申述ベタコトハ私ノ希望ヲ述ベタノデアリマス、諸公ガサウ仰シヤルカラソレニ意ガアルノデ唯御答辯ノ要領ヲ得ナカッタノデ牽連スルガ如ク、セザルガ如クデアリマシタカラ餘リ要領ヲ得ザル方ガ宜イト思フガ、一寸伺ツタノデアリマス、議事ノ順序ハ逐條ト云フコトニナツテ居リマスガ、今日唯今御配付ニナツタモノデ梅博士ノ御修正モアリマシタ通リ、商法一條ガ出ルカモ知レヌ、ニ條ガ出ルカモ知レヌ、ソレデ此委員ノ提出セラレマシタ、修正ノ個條ノミノ逐條デアリマスカ、或ハ第一條カラ始メル譯デモナイヤウデアリマスガ、シテ見マスト、第一條ガ修正シタイト云フヤウナ考ヘガアツタ場合ニハ如何ナル手續ニ致シテ宜イモノデアリマスカ、第七條ト云フモノガ改正ヲシテアルノデ小外ノ修改正ハイカヌト云フコトニナルト、本日梅委員ヨリ提出致シマシタヤウナ修正ト云フモノハ一寸ドウカト考ヘマス、ソコノ所ハ豫メ御定ヲ願ツテ置キマス、ト云フト吾々ガ意見ヲ申シマスニモ大ニ便利ダト考ヘマス
○會長(子爵岡部長職君)
サウスルト十七番ノ說デハ是カラ修正說ガ出タト云フ場合デ、、、、、、、、
○十七番(江木衷君)
逐條ト云フコトハ命令次第デソレヲ爭フ次第デハアリマセヌガ、今ノ如ク委員ノ修正サレタ第七條ト云フモノカラ逐條ニナツテ、第一條ニ修正ヲ加ヘタイト云フ者ガ出テ來ルカモ知レヌ、其場合ニ於キマシテハドウナル次第デアリマセウカ、ソレデ私ガ始メカラ前申シマシタノハ、全部ノ理窟ヲ示サレテ一通リノ理由ヲ御示シニナツテ此委員ニ於キマシテ、此條ハ別ニ新シイ修正案ヲ出ストカ、又ハ何時マデニ出シテ來イトカ、斯ウ云フ風ニナッタ方ガ却テ私ハ便利ニナリハシナイカト思フノデ御座イマス、第七條ヲ此處デ議シマスレバ、第一條ノ修正ハ既ニイカナイト云フコトニナルト困ル、梅委員ノ御提出ニナツタノハ三十四條、併ナガラ此議案ニ於テハ三十四條ト云フモノハ此中ニ出テ居ラヌヤウニ考ヘマス、ソコラノ所ハドウ云フ風ニ御極ニナルノデアリマスカ、私モ商法ノ今ノ修正案ノ以外ニ斯ウ云フモノヲ加ヘテ貰ヒタイ、斯ウ云フ修正ヲシテ貰ヒタイト云フ點ガナイトモ限リマセヌ、或ハ修正以外ニハ一言モ言ヘナイト云フコトニナルノデアリマスカ、ソコラノ工合ヲ議事ニ取掛ル前ニ御極ニナツタ方ガ宜クハナイカト思フ
(速記中止)
○會長(子爵岡部長職君)
十七番カラ各委員カラノ修正案ガ出タ場合ニ付イテハ、ドウスルカト云フ御尋ネガアリマシタガ、固ヨリ各委員ガ考ヘル所ヲ以テ修正案ヲ出サレルト云フコトハ、是ハ隨意ナコトエ思ヒマス、而シテ議事ハ固ヨリ相成ルベクナラバ、餘リ順ガ逆ニナラヌコトヲ望シイノデハアルケレドモ、併シソレモ必ズシモ遡ルコトハ出來ナイト云フ譯ノモノデハアルマイ、詰ル所ハ極ク便利ニ議事ノ進行スルコトガ至極望マシイコトニ思ツテ居ル、而シテ又各委員ニ於テ次回ニ斯ウ云フ修正說ヲ出シタイト云フコトガ、前回ニ於テ分ル場合ニ於テハソレヲ豫吿致スト云フコトモ、最工、他ノ委員ニ於テ便利ヲ與ヘルコトダラウト思フ、兎ニ角モ會議ハ成ル可ク各委員ガ案ヲ審査スルニ當ッテ、互ニ便宜ニナリ合フヤウニナルコトガ一番宜イノデアリマスカラ、例ヘバ本日梅委員カラ出サレタ案ノ如キハ、無論此場合ノ議案ト當然見テ此例ニ倣フ修正說ハ幾ツアツテモ同ジコトニ取扱ッテヤル、ソレデ別段御異議ハアリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
ソレデハ是ヨリ主査會ノ報吿ニ移リマス、
書記朗讀
第七條 法定代理人カ親族會ノ同意ヲ得テ無能力者ノ爲メニ商業ヲ營ムトキハ登記ヲ爲スコトヲ要ス、
法定代理人ノ代理人ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
○四番(齋藤十一郞君)
第七條ノ修正ハ案ヲ御覽ニナレバ直ニ御分リニナリマス通リデ御座イマシテ、別段說明ヲモ要シナイコトエ思ヒマスルガ、兎ニ角一應簡單ニ理由ヲ申上マセウト思ヒマス、此修正ハ現行法ノ後見人ヲ法定代理人ト直シタニ過ギナイノデアリマス、後見人ノ登記ハ後見人ダケノ登記デ御座イマシテ、被後見人ニ對スル後見人ノ關係ト殆ンド同ジ關係デアリマス親權ヲ行フ者ト成年ノ夫トガ是ニ這入リマセヌ爲メニ實際上誠ニ不都合デアル、取引ノ安全ヲ計ル爲メニ其缺點ヲ補ヒタイト云フ希望ガ方々カラ出テ居リマス、ソレデ修正案トナツタ次第デ御座イマス、唯茲ニ親族會ノ同意ヲ得テト御座イマスノハ、是ハ親權ヲ行フ父ガ子ノ爲メニ商業ヲ營ムコトヲ除外スル爲メニ加ヘマシタノデ御座イマシテ、其以外ニ親權ヲ行フ者等ハ今度ハ皆含マル丶趣意ニ相成ルノデ御座イマス
○十七番(江木衷君)
一寸明瞭ニナラヌ所ヲ御聞キ申シタイノデアリマスガ、唯後見人ニ限ラズ法定代理人トナリマシタト云フ御主意ハ明瞭致シマシテ御座イマスガ、是ハ今日實際ドウナツテ居リマスカト云フト、裁判所ノ取扱ヒ振リナドハ多ク親權者デアリマスト云フト、登記ハナサズシテ今日マデ親族會ノ同意ガアレバヤツテ居ル、是ハ日本ノ今日ノ慣習上デ、モウソコニ未丁年ノ子供ガ親ガアツテ從來商業ヲヤツテ居リマスト、登記ヲナサズシテ當然今日マデハ矢張親權者ガ商業ヲヤツテ往ク慣習ニナツテ居マシテ、今日マデハ登記ヲナサズシテソレデヤツテ居リマシテ、私ノ記億致シテ居リマスル裁剣所モ敢テ事實ヲ誤ラズニ御剣決ニナツテ居ルヤウデ御座イマスガ、是ハ何カ他ニ實際不便デアルトカ云フ實例トカ或ハ八釜シク世間カラ云フノデ、其方針ニ從ツテ修正シタト云ハルニ其方針ノ中ニ一體及ブヤウニナル譯デアリマスカ、俄ニ之ヲ登記シナケレバナラヌト云フト、今日ノ實際ノ有樣ヲ改メテ來ルコトニナリマスレバ、親族權ノ行爲ガ實際商賣ヲヤルヤウナ場合ガアルノデアリマス、實際商法デ登記シナケレバナラヌト云フヤウナ鹽梅ニナリマスト云フト、人民ガ法律ヲ知ラナイノハ惡イト言ヘバソレマデデ御座イマスガ、是ハ實際上ノ御調査ハ如何ヤウニナツテ居ル次第デアリマセウカ、先程修正ノ方針ヲ御示シニナリマシテ、謹デ聞イテ居リマシタガ、其御方針ノドウ云フ所ニ當ツテ居リマスカト云フコトヲ承ハツテ置キタイト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
本條ヲ修正致サネバナラヌト認メシムルニ足ル實際ノ事實ガアレバ、ソレヲ示セト云フ御間ト思ヒマス、具體的ニ事實ヲ、斯樣々々ナ事實ガ何時何所ニ在ツテ、ソレガ爲メニ實際ノ取引上斯樣ナ問題ヲ生ジタト云フコトヲ唯今述ベマスコトハ、困難デ御座イマスガ、併シ此問題ニ付キマシテハ東京商業會議所ノ建議ガ御座イマシテ、是ニ依リマスト取引ノ安全ヲ保護スルガ爲メニ、實際上必要デアルト云フコトヲ云テ、ソレヲ主張シテ居ルノデ御座イマス、ソレカラ大阪ノ辯護士會長カラモ、同樣ノ意見ヲ云フテ參ツテ居ル次第デアリマス、其他ニ、三裁判所等ヨリモ申シテ參ツテ居ル次第デアリマシテ、實業家、辯護士裁判所各方面カラ實際上困ルト云フ意見ガ出テ居リマスノデ、卽チ各方面ヲ代表シテ居ル所ノ意見ガ其通リデアレバ左樣ナ事實ガ必ズアツタモノト確信致シマシテ、此修正ヲ正シイモノト致シタ次第デ御座イマス
○八番(磯部四郞君)
一寸御尋ネシタイ、先程ノ御說明デ稍々了解致シマシタケレドモ、成程民法ノ規程ニヨリマスルト、法定代理人ハ父デアッタ場合ニハ親族會ト云フモノ丶組織ガ御座イマセヌ、ソレデ此第七條ノ法定代理人ト書カレタノハ、父ノ法定代理人タル場合ヲ除イタノデアル、所謂親權者ノ父デアル場合ヲ除イタノデアルト云フコトノ御說明デ御主意ハ分ツタヤウニ思ヒマスガ、實際後見ト被後見トノ關係ハ寧ロ財產ノ關係ヨリモ身上ノ教育トカ、監督トカ云フコトガ主ニ在ル場合デアリマセウケレドモ、既ニ業ニ其關係以外ニ商業ヲ營ムト云フ事柄ニ付イテハ、父トシテモ隨分是ガ爲メニハ多小ノ親族會ノ意見位聞クコトヲ要スル必要ガ實際上ニ在リハシナイカト云フ點ガ一ツ、然ルニ唯此處ノ條文ダケデハ父ヲ除外セラレタ理由ト云フモノガ一寸見ヘヌヤウデアリマスガ、民法ノ規定デ以テ父ガ親權者タル場合ニ親族會ガナイカラ、其時ハ父ガ親權デヤレルト云フノデアリマセウカ、一寸ソレヲ伺ヒタイ
○十番(梅謙次郞君)
便宜上私カラ御答ヘ致シマス、私ハ本條ノ修正ニハ同意ヲ致シマシタ一人デアリマス、實際ノ必要ガ江木君ガ今御問ニナツタ通リデ、ソレ程切迫シテ居ルカドウカバ私モ矢張リ疑問デアルカト思ヒマス、齋藤君カラ述ベラレタ通リ方々カラ意見モ出テ居ルコトデアリ理窟ハ最モデアルト云フノデ私ハ同意シタ、唯今ノ磯部君ノ御說明ニ對イシマシテハ、抑々本條ヲ置カレマシタル趣意ガ何方ニ在ルカト云フコトヲ申上タラバ宜カラウカト思フ、何故ニ現行法ニ於テ後見人ガ被後見人ニ代ツテ商業ヲ營ム場合ニ特ニ登記ヲサセルノデアルカト申シマスト云フト、畢竟ハ二ツノ必要カラ起ツテ居ルデアラウト思フ、第一ニ後見人ガ被後見人ノ爲メニ營業ヲナシマスル場合ニハ特ニ親族會ノ同意ヲ得ナケレバナラヌト云フコトガアルカラ、果シテ其同意ヲ得タカドウカト云フコトハ、第三者ニハ分リ惡イ、登記ニ依ツテ之ヲ明カニシテ置ケバ、第三者ガ安ンジテ取引ヲナスコトガ出來ルニ依ツテ便利デアルコトガ一ツ、今一ツハ民法ノ方デ親族會ガ決議ヲ致シマスルニ當リマシテ、後見人ノ權限ニ相當ノ制限ヲ與ヘテモ差支ナイノデアリマス、所ガソレヲ以テ第三者ニ對抗ガ出來ルト云フコトニナリマスト、二ツニ一ツデアル、登記ヲ致シテ置ケパ理論上ハ第三者ガ之ヲ知ルコトヲ得ルカラ宜シイデアラウト云フコトモアリマスケレドモ、實際登記簿ヲ詳シク見ルト云フコトハ取引ノ度ゴトニ之ヲ爲スト云フ譯ニハイカヌ、唯一遍アノ後見人ハ被後見人ニ代ツテ商業ヲ營ム權限ヲ以テ居ルカドウカト云フコトヲ見ルコトモ出來モ致シマスシ、公吿ヲスレバソレダケノコトデアレバ簡單デアリマスカラ、直グニ人ノ頭三【這入リマスガ、其營業ニ付イテ種々ノ制限ヲ加ヘルト云フコトガアツテ、ソレニ付イテ一々登記簿ヲ見ソデハ危險デアルト云フコトデハ不便ニ堪ヘヌ、ソレナラバ登記ヲセソデアツテハ獪更危險デアル、不便デアル、何レニシテモ制限ヲ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルト云フコトハ、實際上出來兼ネル、ソコデ商業ヲ許サレタル後見人ガ登記ヲナシマスト、其後見人ノ權限ハ商業ニ付イテハ總テノ權限ヲ有ツテ居ルモノデアルト云フコトニナツテ、愈々安全ナ取引ヲ爲スコトガ出來ル、親權者ノ中ノ父ハ我ガ民法ニ於テハ繦對無限ノ權カヲ有ツテ居ル、父ノ權限ニハ法律上如何ナル制限モナク、又如何ナル機關モ是ニ制限ヲ加ヘルコトヲ許サヌノデアリマス、故ニ此者ハ何時デモ未成年ノ子ニ代ツテ商業ヲ營ムコトガ出來ル、サウシテ其商業ニ付イテハ如何ナルコトヲデモ出來ルト云フコトニナツテ居マスカラ態々登記スル必要ガナイ、是ニ反シテ母ガ營業ヲ爲スニ付イテハ矢張親族會ノ同意ヲ得ナケレバナラヌ、サウシテ親族會ノ決議ヲ以テ制限ヲ加フルト云フコトハ矢張後見人ト同樣ニ出來マスカラ、多少危險ガアラウ不便ガアラウト云フノデ此意見ガ出タモノデアツテ、理窟ニ於テハ誠ニ最ナ修正デアリマスカラ、是工、加ヘタ方ガ宜カラウト云フノデ私ハ同意致シマシタノデアリマスカラ、民法トノ關係上私カラ說明致シマス
○八番(磯部四郞君)
私モ法文ノ實體ニ於テハ至極御同意ヲ表シマスノデ御座イマス、デ、商法ハ詰リ民法ニ對シマシテハ、特別法デアリマスカラシテ此處デ漠ト法定代理人ト書キ現ハレタダケデハ、所謂父ガ法定代理人タル場合ニ於テ親族會ノ同意ヲ要セズシテ、商業ヲ營ムコトガ出來ルト云フダケハ此條文デハ見惡クハアルマイカト云フノガ質問ノ主意デアリマス、今一ツノ質問ハ後見人トシテハ至極立派ナ人デアリマスケレドモ、場合ニ依ルト商業ヲ營マシムルニハ甚ダ不都合デアルト云フ人間ガ出テ來タ場合ニハ、親族會ノ同意ヲ要セヌト云フコトニナリマスト、其處ノ家ノ商業ハ丸デ潰シテ仕舞フ譯ニナルデアリマセウカ、或ハ其點ニ付キマシテハ私ノ勉強ノ足リナイ所カラ外ニ規定デモアリマシタラバ、御示シヲ下サレタラバ誠ニ有難イト云フ考ヘデ御座イマス、
○十番(梅謙次郞君)
牽連致シテ居リマスカラ私カラ御答ヘ致シマスガ、第一ノ御問ハ如何ニモ本條ノミヲ見テハ、磯部君ノ仰セラレルヤウナ疑モナイデハアリマスマイト思ヒマスケレドモ、畢竟本條ヲ解釋致シマスニハドウシテモ民法ノ規定ヲ俟タナケレバナラヌ、民法ヲ離レテ解釋スルコトハ出[來マセヌカラ、民法ヲ見マシタラ定メテ分ルデアラウト思ヒマシテ、起草委員ガ選バレタ文字デ至極結構ノヤウニ私モ思ヒマシテ同意致シタノデアリマス、第二ノ御問ニ鉗シマシテハ是ハ全ク民法上ノ問題アルダラウト思ヒマスガ、後見人ガ商業ヲ營ムコトガ出來マセヌ場合ニハ、商業ヲ營ムニ適スル者ヲ外ニ選ビマシテ、ソレニ商業ノコトヲ委任スレバ宜シイノデアリマス、必ズシモ商業ヲ廢メテ仕舞ハナケレバナラヌト云フハナイノデアラウト思ヒマス、詰リ名義上ハ後見人ガ商業ヲ營ムコトガアル、併ナガラ適當ナル支配人ヲ定メテソレニ任セレバ宜カラウト申シタノデアリマス
○八番(磯部四郞君)
サウスルト表面ハ何處マデモ後見人ガ自分ノ關係シナイ商業ニ責任ヲ有タナケレパナラヌ、ト云フコトニナル、後見人ヨリ代理ヲ置テ、代理人ニ一切ノ商業ヲ營マシムルケレドモ、其制限問題ハ第三者ニ對抗スルコトガ出來ナイナラ、後見人ガ萬般ノ責任ヲ有タナケレバナラヌ、其點ハ是非法律ニ規定シテ置カナケレバナラヌヤウニ考ヘラレマスガ、私一人ノ考ヘデ諸君ハソレヲ容レラレマセヌケレバ、修正案ハ提出致シマセヌケレドモ、御參考マデニ諸君ノ御意見ヲ煩ハシタイト云フ考ヘデアリマス
○十七番(江木衷君)
私ハ強ヒテ自分ノ說ヲ主張スルノデハアリマセヌガ、實際今日ノ有樣ガ登記ナクシテヤツテ居ル、私等ノ經驗ニ依リマスト何時デモ問題トナルノハ、親族會ノ同意ガアツタカ否ヤデアリマスガ、今日東京邊リノ裁判所ノヤリ方ヲ見マスト、何モ親族會ト云フモノヲサウ嚴重ニ開カヌデモ宜シイト云フヤウナ慣例デヤリ來ツタモノヲ、登記シナイトイカヌト云フコトニナルト餘リ極マリ過ギルト云フコトニナリハシナイカト思ヒマス、社會ノ今日ノ有樣ヲ以テハ前申シタ通リデアリマシテ、實際ニ今日マデノヤリ方ノモノヲ法律デキチント極メテ仕舞フト云フト、宀畏ニハ餘程弊窒ロヲ生ジテ來ルト云フ憂モアルノデアリマスカラ、委員ノ御考ヘデハ其憂ガナイト云フノデアリマスカ、其コトダケハ一言云フテ置キタイノデアリマス
○十四番(岸本辰雄君)
私モ此修正ノ理窟ニハ同意ヲ表シマスルガ、今江木君ガ申シマスルガ如クソレデ濟ムモノナラバ濟マシタイ、江木君ノ言バレルニハ隨分實例ガアルト云フコトデアリマスガ、ソレガ第一審第二審ノ裁判位ノ實例ガ出來テ居ルノカ、或ハ大審院マデ進ンデ例ヘバ實母若クハ繼父ガ此商業登記ヲセズシテ營ンデ居ル場合ニ相當デアルト本條ハサウ廣ク解釋シテ宜シイト云フヤウナ大審院ノ判例ニ閥ナツテ居ルナラバ、其判例ニ任シテ置テ宜カラウト思フ、無理ニ今之ヲ改正スル必要ハナイ、ソコデ主査委員ガ御調ベニナツテ居リマスガ、或ハ大審院ノ剣事モ大分御見エニナツテ居ル、或ハ大審院マデサウ云フ裁判ハ上ツテ來ナイカラ判例ハナイト云フ譯デアリマスカ、大審院ニ剣例アリヤ否ヤヲ承ハリマシテ、贊否ヲ決シヤウト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
私ノ記憶ニヨリマスレバ、大審院ノ判例ト致シテハ、第七條ノ後見人ノ中ニ親權ヲ行フ母ソレカラ繼父、繼母、嫡母等ヲ含ムモノデアルト云フコトニ付イテノ剣例ハ見當リマセヌ、其事ダケ一寸申上マス
○十七番(江木衷君)
是ハ御參考ノ爲メニ申上テ置キマスガ、私ノ憂フル所ハ今ノ狀態ヲ變ヘテノコトデ今後ハ宜イデアリマセウカ、今日ノ實際狀態ガ通常母ナドガ商業ヲ大槪ヤツテ居ル、ソレデ登記ガナクトモ濟デ居ル、ソレカラ今ノ裁判所モ矢張リ親族會ノ同意ガアツタカ否ヤト云フコトガ事實ノ問題ニ屬クシマスルガ、ソレハ私ノ經驗ニヨリマスルト、親族會ヲ開クニハ及バヌ、親族デアル者ガ皆認メテ居ルト云フコトデ大抵審到ニナツテ居ル、サウスルト今日實際狀態ヲ變ヘテ來ルト云フ憂ガアルノデアリマス、其憂ヘガ決シテナイト云フコトデアリマスレバ、大ニ安心シテ此案ニ贊成シタイ、理論ハ立派デアリマスガ、實際ハ甚ダ懸念スル所デアリマス
○二十六番(石渡敏一君)
先キノ方ヲ見タラバアルカ知レマセヌガ、母ガ親權ヲ行フ場合ニ親族會ノ同意ヲ得テ無能力者ノ爲メニ商業ヲ營ム、其場合ニハ登記ヲシナケレバナラヌトナツテ居テ、其登記ヲ怠タツタトキハドウ云フ制裁ガアルノデゴザイマセウカ、ソレヲ承ハツテ置キタイ
○二番(岡野敬次郞君)
民法ニモ今ノ御話ハ或ハ過料デモアルカト云フヤウナ御趣意デアルカト思ヒマスガ、過料ノ制裁ハアリマセヌ、唯商業ヲ營ムノ不便ヲ來スト云フヤウナ自然ノ結果ハアリマセウト思ヒマス
○會長(子爵岡部長職君)
諸君ニ御注意シマスガ、成ル可ク御一人宛御發言ニナッテ皆樣ニ均シク聞ヘルヤウニシタ方ガ宜カラウカト思ヒマス、七條ニ付イテ諸君カラ獪ホ御說ガアリマスカ、別ニ修正說ハアリマセヌカ
○十七番(江木衷君)
自分ニハ修正說ハアリマセヌ、兎ニ角反對ノ意見ハ述ベテ置キマス、諸君ガ多數デ原案通リニ御決シニナルダラウト思ヒマスガ、如何ニモ懸念ニ堪ヘヌ故ニ直チニ同意ハ出來ヌト云フダケデゴザイマス
○會長(子爵岡部長職君)
別ニ御發議モナイヤウデゴザイマスカラ、採決ヲシマス、第七條ヲ可トスル諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
(擧手者多數)
○會長(子爵岡部長職君)
多數デゴザイマス、可決シマシタ
書記朗讀
第二十六條第二項ヲ左ノ如ク改ム
動產、不動產、債權其他ノ財產ニ附スル價額ハ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ニ超ユルコトヲ得ス
○四番(齋藤十一郞君)
現行第二十六條第二項ヲ修正シマスル理由ハ、財產目録ニ附スベキ價額ハ現行法ノ解釋ニ依リマスレバ、時價以上タルコトヲ得ナイコトハ議論ハゴザイマセヌガ、必ズ時價タルコトヲ要スルカ、時價以下ニ記載シテモ差支ナイノデアルカ、斯ウ云フ點ニ付キマシテ說ガ二ツアリマスヤウニ思ヒマス、或ハ裁判所ノ實際ニ於キマシテモ、必ズ時價タルコトヲ要スルト云フ裁判モアッタノデアリマス、此點ニ付キマシテ、起草委員ノ中ニ於キマシテモ、吾々ハ現行法ノ解釋ト致シマシテ、必ズシモ時價タルコトヲ要セヌ、時價ガ制限デアツテ其以下ニ附ケテモ差支ヘナイト云フ解釋ヲ採ツテ居ルノデアリマスケレドモ、如何ンセソ實際ノ有樣ニ於キマシテ、解釋ガ區々ニナツテ居リマス結果、商人就中會社等ニ於キマシテ各配當期ニ財產目録ヲ作リマス其目録ガ、或ハ無效トナルト云フヤウナ晶廩レガアリマシテハ、甚ダ不安心ノ至リデアル、ソレ故ニ兎ニ角意味ヲ明カニスル、サウシテ不安ノ結果加ハラナイヤウニスルト云フ趣意デ、是モ各方面カラ建議等モゴザイマシテ、其點ヲ是認致シテ文字ヲ修正シタ次第デゴザイマス
○二十番(小山溫君)
實ハ此案ヲ受取リマシテ、マダ日ガゴザイマセヌカラ、能ク分リマセヌガ、質問ヲ致シタラ長延クニヨリマシテ、私ハ此修正案ニ反對ヲ致シタイト申シマスノハ、唯今起草委員ヨリ御說明モアリマシタ通リ、一向改正デモ何デモナイ、而モ原案卽チ現行商法ニハ價額ヲ附スルコトヲ要スルト云フ事ト、ソレカラ其價額ハ一ノ價額ト云フモノ丶規定ガアルヤウニ思ヒマス、修正案デ見ルト價額ヲ附スルト云フ規定ハナイコトニナルノデゴザイマス、是ハ理論カラ解釋シテ出テ來ナケレバナラヌケレドモ、兎ニ角明瞭デゴザイマセヌ、ソレデ修正案ノ方ガ惡イヤウニ心得ヘマス、此修正案ハ削除ニナリタイ
○十番(梅謙次郞君)
贊成
○四番(齋藤十一郞君)
成程原案ニハ價額ヲ附スルコトヲ要スト云フ言葉ハゴザイマセヌガ、是ハ財產目録ノ性質カラ當然左樣ニナラナケレバナラヌノデゴザイマシテ、價額ヲ附スルコトヲ要スト云フ現行法ノ文字ハ唯財產目録調製ノ時ニ於ケルト云フ時期ヲ示ス必要ガアルカラ、此文字ガアルノデアリマシテ、其外ニハ意味ヲナサヌ文字デアル、財產目録ト云フモノニハ當然價額ヲ附スルト云フノガ當リ前ノコトデアラウト存ジマス、ソレ故ニ今ノ反對、其點ノ反對ハ理由ガナカラウト存ジマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ理由ハ聊カ小山君ノ理由ト違ヒマシテ、唯案ト致シマシテハ小山君ノ案ニ贊成致シマスノデゴザイマス、唯今ノ小山君ノ言ハレタコト、ソレ自身ニ反對デアルト云フノデハ無論ナイ、如何ニモ現行法ハ價額ヲ附スルト云フコトモ此規定ニ依ッテ明カニシテ居ルノデアル、齋藤君ノ言ハレマスニハ財產目録ニ價額ヲ附スルノハ言ハズシテ明カデアルト言ハレマスケレドモ、是ハ必ズシモサウハ申サレヌデアラウト思フ、例ヘバ民法ナドニ財產目録ト云フコトガアリマスガ、其調製方法ハ極メテナイ、極メテナイカラシテ若シ價額ヲ附セヌコトガアツタ所ガ、ソレハ財產目録トシテ無效デアルトハ言ヘナイデアラウト思ヒマス、唯實際上價額ヲ附ケテ置カナケレパ不便デアルカラ大抵ハ附ケルコトニナラウト思ヒマス、殊ニ商業上ニ於キマシテハ特ニ此法律ガ財產目録ヲ作ルト申シマシタ趣意カラ、必ズ價額ヲ附セナケレバナラヌコトハ明カデアリマシタガ、苟モ斯ク明文ヲ以テ明カニスル以上ハ、ソレヲ明カニシテ置クコトガ宜カラウト思ヒマス、私ノ主ナル理由ハ獪ホ其外ニ在ル現行法ニ於テハ時價ヲ附スルコトヲ要ストアル、ソレデ時價ヨリ高クテモ、低クテモイカヌト云フコトダカラ、今例ヘバ會社ノ罰則ノ適用ニ付イテ或ハ會社ガ其財產ノ價額ヲ時價ヨリモ低ク見積ルト云フトキハ過料ヲ科シタル一ノ理由ニナツテ居ツタコトガアルヤウニ思ヒマス、思フニソレハ單獨ニソレダケノ事宀貫ガアツタナラバ裁判所デ過料ヲ科スルト云フコトハナカッタデアリマセウガ、其會社ハ帳簿ガ頗ル不整頓デアツテ、多クノ財產ハ寧ロ時價ヨリ高ク見積ツテアル、中ニハ時價ヨリ安ク見積テアルノモアル、ソレデ過料ヲ科スル中ニ是々ノ財產ハ時價ヨリ高ク見積テ不正ノ記載デアル、是ハ安ク見積テアルカラ不正ノ記載デアルト云フコトデ判決文下ニ書イテアツタヤウニ思ヒマス、サブ云フコトデアリマシテ世間デ八釜シクナツテ來タノデアリマス、ソレデ本文ハ宜シイノデアルガ、會社ガ確}實ナルコトヲ欲スレバ、寧ロ「円冖輪ニ價ヲ見{槓テ置ク方ガ宜シイ、斯ウ云フコトガ別シテ八釜シクナッタヤウニ記憶致シマスケレドモ、是ハ私ドモノ考ヘデハ商法ノ適用ガ惡イノデアル、商法ガ不正ノ記載ト申シマスノハ私ドモノ解釋ニヨレバ單ニ事實ト異ナル記載ト云フコトデハナイ、ソレトハ違フト思フ、價ヲ特ニ一咼クソレモ少シ許リノ高イノナラバ不正ノ記載トハ言ハヌガ、不當ニ一咼ク見積タ額ニハ大抵不正デス、是ニ依ツテ株主ヲ瞞着スルノデアリマス、世間ヲ瞞着スルノデス、用心ノ爲メニ低ク見積テ置クト云フノハ私ドモハ不正トハ見ナイ、サウ云フヤウニ解釋サヘシテユケパ少シモ差支ナイノデアル、殊ニ株式會社ニ付キマシテハ既ニ御覽ニナツテ居ルノデアリマセウガ、後ノ第百十九條ノ二ト致シマシテ特別ノ規定ガ設ケラレテ居リマス、其規定ハ私ハ贊成致シテ居リマス、株式會社ニ付イテハ斯ウ云フ制限ヲ設ケル方ガ危險ガ少クナリテ宜シイト思テ居リマス、株式會社ニ付イテソレダケノ規定ガ設ケテアルナラバ財產目録ノ一般ノ規定トシテ時價ニ超エルコトヲ得ナイ、時價ヨリ安ク見積ルナラバ特ニ安ク見積テモ宜シイト云フコトヲ法律ノ表テニ現ハスコトハ、私ハ甚ダ面白クナイ、財產目録ノ性質カラ考ヘテ見テ理窟ハ飽クマデ時價ニ相當スル價ヲ附スルコトガ正シイノデアル、唯併ナガラ時價ト云フモノハ始終動クモノデアルカラ、ソコデ確實ナル會社、確宀貫ナル事業ニ付イテハ、寧ロ内端ニ見積テ置クコトガ用心深キ仕方デアルト私ハ思フ、西洋デハ價ヲ安ク見積ルノハ差支ヘナイト云フコトヲ云フ者モ隨分アリマスガ、其意味ハ私ドモハ斯ウ云フ風ニ解釋シテ居ル、安ク見積ルト云フコトハ不正ナル所業デナイカラ法律ガソレヲ禁ジテ居ルノデナイ、斯ウ云フ意味ニ於テ安ク見積ルノハ差支ヘナイト云フ意味ト私共ハ解シテ居ル、ソレモ場合ニ依テハ餘リ安ク見積レバ其目録ヲ調製セシムルコトガ出來ル場合モアリマセウガ、ソレハ長クナリマスカラ、今申シマセヌ、法律ノ表ニ於テハ飽クマデモ時價ト云フコトニナツテ居ラナケレバナラヌ、サレバコソ私ノ記憶ノ許ス範團ニ於テハ外國ノ法典ニ時價ヲ附セヨトカ或ハ時價ニ超ユルコトヲ得ズト云フヤウナ規定ノアル場合ニ於テハ單ニ此修正案ノ如クニ唯時價ニ超ユルコトヲ得ズト書タ例ハナイヤウデアリマス、大抵時ノ價ヲ附スベシト書テアル、又學者ノ著書ヲ見テモ原則トシテハ時ノ價ヲ附スルト云フコトハ爭ガナイヤウニ私共ハ見テ居ル、ソレ故ニ今此二十六條ノ第二項ヲ斯ノ如ク改メテ財產目録ト云フモノハ高ク價ヲ見積リサヘシナケレバ宜イモノダ、幾ラ安ク見積テモ差支ヘナイト云フコトヲ表面カラ極メルノハ理由ガナイヤウニ思フ、況ンヤ財產目録ガ單ニ營業上ノ必要カラ作ルモノ計リデモナイ、或場合ニハ例ヘバ會社ノ財產ノ實況ヲ主トスル爲メニ作ラナケレバナラヌ所ノ財產目録ガアル、サウ云フモノハ高ク見積リ過ギテモイカナイト同時ニ安ク見積リ過ギテモ困ルノデアル、主査會ニ於テハ大ニ此事ハ論ジマシタガ、主査會デハ少數ニシテ不幸ニシテ潰レマシタガ、當時起草委員ノ辯解ニハ精算ノ場合其他財產ノ正確ナル價額ヲ知ラナケレパナラヌ場合ニハ、ソレハ無論安ク書テハイカヌノデアル、ソレハ規定ノ性質デ分ルト言ハレマシタケレドモ、私ハ一旦二十六條第二項ニ此規定ガ現ハレマシタナラバ、總テノ場合ニ財產目録ト云フモノハ高クサヘナケレパ宜イト云フコトニナルデアラウト思フノデアルデ、高ク見積ルト云フコトハ非常ニ弊害ノアルコトデアルカラ是ニ川對シテハ十分ノ制裁ヲ加ヘナケレバナラヌノハ勿論デアル、會社ノ重役ガ高ク見積リ過ギタ財產目録ヲ作ツタナラバ嚴重ナル制裁ヲ加ヘテ宜シイノデアル、又破產ノ場合等ニ於テモ相當ノ制裁ヲ加フルコトガ宜カラウト考ヘマス、而シテ安ク見積ルト云フコトハ通常ハ害ガナイコトデアルカラ實際其事實ガ知ラレルノデアルガ制裁ハ加ヘナイ、但シ時トシテハ制裁ヲ加ヘテモ宜シイコトガアルカモ知レヌ、是ハ全ク新聞紙上ニ依テ承知シタコトデアリマスカラ、ホンノ假設ノ例トシテ聞イテ御貰ヒ申シタイ、新聞紙ノ報ズル所ニ依ルト我東京市ニ唯今アル所ノ電車、アノ電車會社ニ於テハ市カラ買上ゲテ貰ヒタイト思フ時ニハ大變儲カル所ノ計算ヲ作ル、ソレカラ乘車賃ヲ上ゲルコトヲ許シテ貰ヒタイト云フトキニハ大變儲カラナイ計算ヲ作ル、飴細工同樣ニ伸シタリ縮メタリスルヤウニスル、ソレガ爲ニ實際ハドウカ知レマセヌケレドモ或ハ財產ノ價額ノ見積リヤウデ、サウ云フ計算ガ出來ル實際百萬圓ノ價ノアル財產ヲ百ニ拾萬ノ價デアルトスルト、ニ拾萬圓ノ金ガ淨イテ來ルカラソレガ利益ニナルカモ知レナイ、ソレヲ八拾萬圓ノ價ヘシカナイト計算致シマスト云フト、忽チニ拾萬圓ノ不足ガ生ジマスカラ儲カラヌト云フコトニナル、若シサウ云フ不正ノ目的ヲ以テ態々賣價ヨリモ甚シク低ク見積ルト云フコトガ、事實上證明セラレタナラバ隨分制裁ヲ加ヘテモ宜イト思フ、ソレハ暫ク置キマシテ、兎ニ角表面上財產目録ノ價ハドンナニ低クテモ宜シイト云フコトハドウシテモ財產目録ノ性質ニ合ハヌト思ヒマスカラ、ソレデ私ハ小山君ノ削除說ニ贊成致シマス
○三十五番(横田國臣君)
今ノ改正ノ文字ニ於テハサウ云フコトハ文サヘ直レバドウデモナル、唯私ハ此時價ヨリドレダケ低ク書テモソレハサウ云フ場合デ弊害ノ起ルコトハナイガ是サヘ確ムレパ宜イ、或場合ハ斯ウデアルカモ知レヌ、今起草委員ニモチョットソレヲ話マシタ所ガ、起草委員ハ決シテサウ云フコトハナイト云フ、ソレカラ又小山君ニソレハドウダ贊成モシヤウガ贊成スルニハサウ云フ場合ガアルカト問フタ所ガ、ソレハアラウト云フノデ今梅委員ガ少々ソレヲ漏シタ、或ハサウデアラウカト思フ、ソレカラ又小山委員モ其株式ノ表ヲ下ゲテ買占ムル場合ニハ、或ハアリ得ルカモ知レヌト云フノデシタガ、其害ガアルト云フコトサヘ分レバ私ハ直チニ小山君ニ贊成スル積リデゴザイマス
○二番(岡野敬ニ郞君)
本條ノ修正ニ付キマシテハ格別詳シク其理由ヲ述ベルニハ及ハナイト認メルノデアリマスガ、唯今諸君カラ削除ノ御意見ガアリマシタカラ、其削除ノ理由トスル所デハ私ノ伺ツタ所デハ例ヘバ小山君ノ御話ニナル所ト、梅君ノ御話ニナル所デハ全ク其趣意ヲ異ニシテ居ルト私ハ見ルノデアリマス、梅君ノ削除ニ贊成スル理由ハ時價ヨリモ低ク見積ルト云フコトハ法律明カニ許シテ、之ヲ明文ニ揭ゲルノハイカヌ、故ニ削除スベシト云フ御意見デアリマス、小山君ノハ明瞭ニハ私ハ伺ヒマセヌケレドモ、現行法ト比較シテ同ジコトデアル趣意ニ於テハ同ジコトデアツテ而シテ書キ方ガ宜シクナイト云フ、故ニ之ヲ削除スベシト云フ御意見ニ伺ヒマシタ、固ヨリ削除ノ御意見トシテハ同ジコトデアリマスケレドモ、一所ニ其理由ヲ私ハ一ツ明カニシテ戴キタイト思フノデアリマス此案ニ付キマシテハ先刻主査委員長カラ御報吿ニナリマシタ通リ、イヅレノ點ニ於テ修正意見ヲ採用スルカト云フコトヲ議スル際ニ當ッテモタシカ梅君カラ反對ノ御意見ガ出タノデアリマス、更ニ採擇スベシト云フ趣意ニ依ツテ起草致シマシテ、此案ニ付イテ主査會ヲ開イタ場合ニ於キマシテモ、梅君ハ是ハ明カニ記億致シマスケレドモ、反對ノ御意見デ大體唯今述ベラレタ理由デアリマス、、殊ニ總會ニ於テハ此條ニ付イテ反對意見ヲ述ベルト云フコトヲ申サレタコトデアリマスカラ、卽チ削除意見ノ出ルト云フコトハ是モ意トスルニ足ラヌノデアリマス、而シテ何ゼ斯ノ如キ條ヲ修正ヲ加ヘルカト云フコトニ付キマシテハ、先ヅ以テ現行法ノ解釋如何ト云フコトニ付イテ疑義ガアルノデアリマス、現行法ハ御承知ノ通リ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ヲ附スルコトヲ要スト云フコトヲ入レテ居ルノデ、其要旨ハ必ズ時價ニ見積ラナケレバナラヌト去フ意味デアルカ、或ハ相當ノ範圍ニ於テ時價ヨリモ安ク見積テ宜千ト云フノデ、明カニサウトハ言ハヌケレドモ、法文ヲ解糧シテサウ云フヤウニ認メルト云フコトガ卽チ問題ノアル所デアリマシテ、裁判例ノ善惡ハ私ハ申シマセヌケレドモ、現ニ取引處ニ於キマシテ公債ノ價格ヲ供提スルトキハ時價ヨリ安ク見積タガ爲メニ科料ニ處セラレタト云フ實例ガアルノデアリマス、今日同一ノ事例ガ起ツテ同一ノ裁判ヲナスカドウカバ知レマセヌガ、兎ニ角實際ノ適用ニ於テ疑ガアツタノデアリ、獪ホ且ツ今日疑ガ存シテ居ルト思フノデアリマス、ソレデ若シモ時價ヨリモ安ク見積テ差支ヘナイト云フコトニ現行法ヲ解釋シ得テ、而シテ其解釋ガ明カデアルナラバ、是ハ小山君ノ御意見ノ如ク此修正ハ削除シテ置テモ、實際ノ結果ニ於テハ少シモ變リナイノデアリマス、ケレドモ、若シモ現行法ノ解釋ガ時價ニ見積ルノデアル、見積ラナケレバナラヌノデアル、斯ウ云フコトデアルナラバ卽チ此條ハ現行法ノ趣意ヲ改正スルモノデアルト云フ結果ニナルノデアリマス、ソレデ私一人ト致シマシテハ、現行法ヲ解釋シテ時價ヨリモ安ク見積ルヲ妨ゲズト私ハ信ジテ居ル、併ナガラ是ハ私一人ノ私見デアリマシテ、現ニ時價ニ見積ラナケレバナラヌヤウニスルノガ當然ダト云フヤウニ解釋スル人モアリマスシ、且ツ裁判ノ實例ニ於テモ唯今申上ゲタヤウナコトモアルノデアリマスカラ、少ナクモ現行法ヲ私ノヤウニ解釋スル人モ修正ヲ加ヘテ以テ其趣意ノアル所ヲ明カニスル方ガ至當デアラウト思バレル、ソコデ實際ニ於キマシテハ私ヨリ御話スルマデモナク隨分時價ニ見積テ置イタナラバ、或ハ有價證劵ノ如キモノハ殊更デアリマシテ、價格ニ變動ノ著シイモノデアリマス、ト云フト營業年限ノ終リニ於テ其時價ニ見積テ置タモノガ、翌年ニ至ツテハ其時價ガ甚ダ下ルト云フコトモアルノデアル、サウスルト其時價ノ差ダケガ計算ノ項目ヲ他ニシテ考ヘテ見マシテモ、直チニ會社財產ノ減少ヲ來スト云フコトニナルノデアル、卽チ會社ノ事業ニ付イテ申セバ會社ノ基磯ノ鞏固ヲ圖ルト云フ上ニ於テ相當ノ時價ヨリモ安ク見積テアルコトハ安全デアルコトハ言フマデモナイ、ソレデ外國ノ法ノコトヲ私ハ申ス譯デハアリマセヌガ、獨乙ノ例ヘバ商法ニ於キマシテモ、先ヅ言ハ父財產目録調製ノトキニ於ケル價額ニ見積ル可キモノデアル、斯ウ云フコトヲ書テアリマスケレドモ、此規定ノ解釋ニ付イテハ私ノ見マシタ所デハ、時價ヨリモ高ク見積ルト云フ半面ニ於テハ、公益上ノ規定デアツテ、是ニ反スルコトヲ得ナイコトハ當然デアルケレドモ、併ナガラ時價ヨリモ安ク見積ルト云フコトハ半面ニ於テハ無論差支トナイト云フコトヲ云フテ、殆ンド私ノ知ツテ居ル範圍ニ於キマシテハ、是ニ反對ノ學說アルコトヲ聞カヌノデアリマス、ソレデ時價ヨリモ安ク見積ルト云フコトガ差支ヘナイコトデアルナラバ、少ナクモ現行法ノ意義ヲ明カニスル上ニ於テ修正ヲ施スコトガ相當デアリマセウ、獪ホ私ハ附加ヘテ申上タイコトハ財產目録貸借對照表ニ時價ヨリモ安ク見積テ宜シイト云フコトハ茲ニサウ云フコトニ修正ヲ致シマシタ所デ、其時價ヨリモ安ク見積ルト云フコトガ、イヅレノ方面ニ向ツテモ絕對ノ効力ヲ有ツト云フ意味デハナイ、例ヘバ株式會社ニ付イテ一ノ例ヲ申上タナラバ、會社財產ノ方ガ會社ノ債務ヨリモ少クナイ、債務ガ甚ダ多クシテ會社財產ガ少クナイトキニハ、破產ノ申請ヲシナケレバナラヌコトガアルノデアリマス、此破產ノ宣吿ヲナス場合ニ於テ時價ヨリモ安ク見積タ所ノ財產ノ狀能心ト、會社ノ債務トヲ比較シテ以テ帖倣產宣吿ヲナスベキカ、或ハ財產目録ニハ低ク見積テアルケレドモ、併ナガラ事實ヲ調ベテ見レバ其財產ノ額ガ甚ダ高イモノデアツテ、債務ノ額ヲ超ユルコトヲ遙ニ多イト云フ場合ニハ、私ノ考ヘデハ破產宣吿ヲナスベキモノデハアルマイト思フ、又合名會社ニ於テ社員ガ退社ヲシタナラバ、己レノ持分ノ拂戻シヲ請求スルコトガ出來ルト云フコトニ我商法ハ規定シテ居ルノデアリマス、此場合ニ於テモ若シモ會社財產ヲ低ク見積テ置タナラバ、其低イ所ノ財產ノ價額ニ依テ持分ノ拂戻シヲスルト云フコトデアツタナラバ、卽チ財產ノ實況ニヨラザル所ノ記載デアツテ、其會社員ニ對シテ甚ダ不公平ノモノデアルト云フコトハ言ヲ俟タヌコトデアラウト思フ、斯ウ云フ類ハ例ヘバ淸算ノ場合ニ於テモアリ得ルコトデアツテ、サウ云フヤウナ事柄ノ趣意カラ考ヘテ見テ會社ノ實際ノ財產ノ價額ヲ見テ以テ法律ノ規定ヲ適用シナケレパナラヌト云フ場合ニ於テハ、決シテ時價以下ニ見積タト云フ者ニ對シテ、絕對ノ効力ヲ與ヘルノデハナイ、又他ノ法律ノ關係ニ於テモ私ハ同樣デアツテ、商法ニ於テ斯ノ如ク定メタカラ、ドノ法律ノ適用ニ於テモ財產目録貸借對照表ニ揭ゲタ所ノ價額ヲ楯トシテ、會社財產ノ狀況ヲ判斷シナケレバナラヌト云フ意味デハ私ハ確カニナイト思フ、又多分此修正ノ意味モ決シテソレマデノ強イ意味ヲ有ツテ居ル修正デハナイノデアル、又例ヘバ會社ニ付イテ申シマツタ所デ、此二十六條ノ第二項ノ修正ノ趣意ト云フモノハ、其會社ノ業務ヲ執行スル所ノ社員ガ單獨ニ此法律規定ニ依ツテ時價ヨリモ安ク見積ル可キモノデアルトシテ、時價ヨリモ安ク見積ルト云フ場合ニ於テ他ノ社員ハ絕對ニ其業務執行社員ノ定メタ所ニ服從シナケレバナラヌカト言ヘバ、是ハ又服從スル必要ハナイノデアル、株式會社ニ於テハ第二十六條以外ニ梅君ノ言ハレタ所ノ百九十條ノ二ト云フモノモアルノデアリマスガ、百九十條ノ二ニシタ所ガ最後ノ制限ヲ定ムルニ止マルノデアツテ、ソレヨリ安ク見積ルコトハ許シテアル、併ナガラ取締役ガ是ハ會社ノ爲メニ都合ガ宜イカラ、或ハ會社ノ前途ヲ考ヘルト云フト非常ニ安ク見積テ置ク方ガ宜イト云フノデ、財產目録ニ極ク安イ價額ヲ揭ゲタト言フテ、其取締役ハソレニ服從シナケレバナラヌカト云フト、是亦服從ノ必要ハナイノデアル、財產目録貸借對照表ハ株主總會ニ於テ議決スルモノデアルカラ、若シ定款ニ何等ノ定メノナイ場合デアツタナラバ、ソレハ株主總會ニ於テ、株主ノ見ル所ニ依ツテ其價額ヲ評定シ、餘リニ少ナ過ギル、餘リニ小ニ過ギル、從ツテ其結果トシテ、利益トシテ出テ來ルモノガ餘リニ少ナイ、其利益トシテ出テ來ルモノガ餘リニ少ナイカラ、株主ニ配當スベキモノガ大變少ナクナル、是ハ宜シク修正ヲ加ヘテ以テ配當ノ幾分ヲ增加スベシト云フコトヲ、株主總會ニ於テ決議スルコトハ差支ヘナイノデアル、サウ云フ譯デアリマスカラ、決シテ安ク見積ルト云フコトヲ茲ニ揭ゲタカラ、合名會社デアッタナラバ、業務執行社員ガ斯ノ如ク定メタモノヲ他ノ社員ガ強制スルコトハ出來ヌ、或ハ取締役ガ定メタモノヲ、株主總會ハ是ニ對シテ異議ヲ述ベルコトガ出來ヌト云フヤウナ意味合デハ無論ナイノデアリマス、又時價ノ變動ノ著シイモノニ於テ、今日ノ實際ノ弊ハ會社事業ニ付イテ申シマシタナラバ、或ハ配當率ヲ高クスルガ爲メニ、財產ヲ時價ヨリモ非常三咼ク見積ルト云フコトハアリ得ル、又事實デアルコトヲ私ハ聞テ居リマスケレドモ、併ナガラ時價ヨリモ低ク見積テ、是ガ爲メニ弊害ヲ生ジタト云フコトハ聞カヌノデアル、又弊害ヲ生ズベキ理由ガ私ハナイト思フノデアリマス、又横田サンノ御話デ例ヘバ東京電車ノヤウナ場合モ或ハ想像シ得ラレナイデハナイカト云フヤウナ御話モアリマスカラ、私ハチヨツト考ヘマスルニ是ハ實例デアルカドウカ知レマセヌケレドモ、若シモ東京市ノ鐵道ヲ買收スルニ當ツテ、會社ノ作ツタ財產目録貸借對照表ヲ見テ、是ガ確ニ會社財產ノ實況ヲ示スモノデアルト考ヘテ、是ニ依ツテ買收額ヲ計算スルコトガアツタナラバ、私ヲ以テ見マシタナラバ、實ニ迂愚ノ策デアル、サウ云フコトハ出來ルモノデナイ、會社財產ヲ古同ク見積タナラバ、固ヨリ相當ノ所ニ引下ゲテ以テ買收價額ヲ定メナケレパナラヌ、又態々高ク買フ必要モアリマセヌケレドモ、併ナガラ若シモ會社ガ自己ノ都合ニ依ツテ安ク見積ルト云フコトデアツタナラバ、利害關係ノ下ニ在ル者ガ此價額ヲ重ク見ルベキ場合ニ於テハ、決シテ財產目録貸借對照表ニ揭ゲタ所ノ價額ヲ妄信シテ、ソレヲ以テ進退ヲ決スルト云フコトハアリ得ベキコトハナイノデアル、ソレ等ノ利害關係ヲ生ズル場合ニ於テハ、唯茲ニ時價ヨリモ安ク見積ルコトガ出來ルト云フコトヲシタラ誰モ彼モ亦何レノ場合ニ於テモ此計算ニ服從シナケレパナラヌト云フコトハ少シモナイノデアル、又所得稅デモ解キヤウニ依ツテ、、、、、、是ハ問題外トハ考ヘマスケレドモ、大藏省デドウ云フ解釋ヲ採ツテ居ルカ存ジマセヌケレドモ、若シ法律ガ財產目録ニ揭ゲタ所ノ價額ソミヲ標準トシテ、サウシテ所得稅ヲ課スベキモノトシテ、幾ラ低ク見積テモ、ソレデ稅ヲ課ス、、ヘキモノデアルトシタナラバ、ソレハ或ハ所得稅ニ付イテハ隨分腕稅ノ爲メニ、サウ云フ風ニ見積ラヌトモ限ラスト思フ、併ナガラ是ハ私ハ商法ノ適用ノ問題デハナイ、所得稅法ガ若シサウ云フ睨稅ノ途ヲ開ケテ置クナラバ(是ハ所得稅法ガ宜シク是ニ向ツテ改良ヲ加フベキモノデアル、何處マデモ會社ガ一旦時價以下ニ極メタナラバ、其極メタヨトガ總テ効力ヲ有ツト云フ意味デハアリマセヌカラ、私ハ此場合ニヨリ又法律ノ適用ニ依ツテ能ク其實際ノ計算ニ依ルベキ場合デアルナラバ、ソレハ實際ハ時價ニ依テ以テ定ムベキモノデアツテ、茲ニ此コトヲ揭ゲタカラ、ソレガ爲メニ唯今申上ゲタヤウナ絕對ノ効力ヲ與ヘベキ趣意デハナイノデアル、又サウ云フヤウニ解釋スベキモノデナイト信ソズルノデアリマス
○十七番(江木衷君)
私ハ此條ニハ反對シナケレパナラヌ、唯今マデ御贊成ノ御演說ヲ聞キマシタガ、毫モ服スルコトガ出來ナイ、出來ナイト云フノハ一槪ニ云フト、ドウモ御說ヲ聞キマスト矢張リ御役人樣ガ自分ノタソト持ツテイラツシヤル金ヲ、アムシヤウ、斯ウシヤウト云フ御考ヘカラ出ルヤウデアリマスガ、世ノ中ノ會社――民間ノコトニモ少シ御注意ニナリマスト、現行法ノ趣意ガ最モ必要ナノデ、是ハ餘計ニ見積ルノハイカヌケレドモ、低ク見積ルノハ宜シイト云フコトハ、大層修正ノ原因ニナツテ居ルヤウデアリマスケレドモ、是ハ裁判所ガ惡イ譯デナイ、又梅博士ノ御說デハ少シ計リノコトナラバ宜イ、澤山ニヤルカラ惡イト云フノデアリマシタガ、私ハ少シデモイケナイト思フ、卽チ澤山ニヤツタト云ヌ下ギニハ惡意ト云フ解釋ガ出來ル、小サクヤレバ誰モ是ハ眼違ヒト云フコトニナルガ、小サクテモ惡意ガアツタトキハ惡イト思フ、唯申シテ見マスト時價ニ超ユルコトヲ得ズトアリマスケレドモ、其時價ト云フノハ何ヲ以テ言フノデアルカ、會社ノ總財產ヲ見テ括リ上ゲタ上デ是ガ時價ト云フノデハアリマセヌ、會社ニハ種々樣々ノ中ニ財產ガアリマス、其財產ノ種類ニ依ツテ高ク見積ルノガ宜シイノモアレバ、低ク見積ルノガ宜シイノモアル、此一ツノ財產ニ付イテ見ル半少シノ差デアリマスケレドモ、括リ上ゲテ見ルト大キナモノニナル、此時價ニ積ルト云フコトガ、何デ時價ニ積ルカ、此會社ト云フモノヲ見テ會社ハ幾ラ幾ラト云フコトハナイノデアリマス、澤山ニ在ル財產ノ中デ是ハ斯ウ、彼ハア丶ト云フヤウニ一ツニシテ大層ナモノニナルノデアリマスカラ、惡意ノ場合ニハ少シデモヤツタナラバ罰シナケレバナラヌ、是ハ罰スルノガ當リ前デ、果シテ惡意ノナイ場合ニヤツタナラバ、裁剣所ガ惡出思ヲ以テヤツタトハ推測シナイデアラウト思フ、サウ云フヤウナ次第デ會社ノ財產ハ時價ノ儘デ評價シナケレバナラヌ上云フコトガ、今日最モ日本ノ社會ニ適當スルノデアル、梅博士ハ電車ノ話ヲ上ゲマシタガ、是ハ電車ノミナラズ、今日ノ配當率ト云フモノハ、幾ラ配當シヤウト云フ率ガ前ニ出ルノデアル、今年ハ株主ニ何割配當シヤウカト云フヤウナコトヲ極メテソレカラ財產ノ見積リガ出テ來ル、愈々ドレダケノ利益ガアッタカラ何割配當シヤウト云フノトハ大變違フ、重役ニ於テ細工ヲスルノハ財產ノ價額ノ外デアリマス、梅博士ノ御說ノ如ク、マルデ飴細工見タヤウナモノデ、昨年マデ一割配當シタノガ、今日ハ破產スルト云フヤウナノハ是ガ原因ヲナスノデゴザイマス、或ハ破產ノトキト云フ御論ガアリマシタガ、是ハ少シ縁ノ遠イ話デアリマシテ、破產ハ何モ此財產目録調製ニ依ツテ破產ガ起ル譯デハナイ、裁判所デハ左樣ナ迂潤ナコトニハ與ツテ居ラヌノデアリマスカラ、破產ナドト云フコトニハ關係ヲ有タヌノデアリマス、ソレカラ所得稅法ニモ大暦關係スルノデアリマス、稅率ガ少クナイト云フノデ此種類ノ財產ハ、是ダケニ見積ル、アレダケニ見積ルト云フノデ大層影響スルノデアリマス、今日ノ會社ガ配當ヲスルノハ配當率ヲ前ニ極メテ後トハ飴細工デ往クト云フ會社ノ實況デアルト云フコトヲ御承知ニナリマスレバ、此修正案ト云フモノハ今日ノ實際カラシテ私ハ贊成ガ出來ナイ、今日ノ現行法デサヘマダ其コトガアル、卽チ時價ヲ附スルコトヲ要スト書イテアツテマデモ之ヲヤルノデアリマスカラ、況ンヤ一方ノ制限ヲ採ツテ仕舞ヘバ時價以下ニ超ユルコトヲ得ズト云フコトダケデ、アトハ幾ラヤツテモ宜シイト云フコトデアレバ、益々飴細工ヲスルコトニナラウト思フ、私ハ法律ノ餘リ嚴格ナルノハ嫌ヒデアリマスケレドモ、今日ノ實際ノ經濟上ノ有樣ヲ御覽ニナリマスト、現行法デモマダ抑ヘ切レヌノデ、董ウ少シ嚴シクナツテモ宜イト思フ位、是ハ尠ナクモ現行法ノ儘ニ御存置ヲ願ヒタイ
○二十番(小山溫君)
私ハ前ニ言葉ヲ短クシテ或ハ誤解ヲ生ジタカト思ヒマスガ、私ハ前ニ短ク言フタ位デアリマスカラ、タイシタ理由ハゴザイマセヌガ、妙ナ同意者ト、妙ナ反對者ヲ得マシタカラ、ソレダケ辯明シテ置キタイト思フ、私ハ梅博士ニハ結論ハ同意デアリマスガ、道行ノ所ハ反對デゴザイマス、岡野博士ニハ道行ハ全然同意デ、結論ニハ反對デゴザイマス、抑々現行商法ノ此規定ノアリマスノハ何ノ爲メカト言ヘバ、岡野博士ヨリ縷々述ベラレマシタ通リデアリマスカラ、ドウ解釋シテ見タ所ガ、此財產目録ニ高イ値ヲ附ケテハイカナイゾト云フコトダケニシカ解釋ハ出來ナイト信ジテ居ルノデゴザイマス、却テ妙ナ同意者ヲ生ジテ疑ヲ生ジタノデゴザイマスガ、兎ニ角私ノ申シマスノハ、岡野博士ノ言バレル通リ超ユルコトヲ得ザルト云フ意味デアル、ソレヨリ外ニ解釋ハ出來ナイト思ヒマスカラシテ、更ニ此改正ト云フコトハ大事デゴザイマスカラ、斯ウ云フ改正ハ必要ハナイ、斯ウ云フ意味デゴザイマシテ、梅博士ノ道行ニ御同意ヲ致ス譯デハゴザイマセヌ
○十番(梅謙次郞君)
私ハ小山君ニ同意デアルト云フノハ自己ノ意見ガ小山君ノ理由ニ依ツテ贊成スルノデ道行ハ違ッテ居ル、私ノハ極メテ簡單ナノデアリマスガ、唯今岡野君ノ述ベラレタコトニ付イテ一言辯明シテ置カネバナラヌコトガアリマス、岡野君ガ終リニ望ンデ縷々述ベラレマシタノハ、要スルニ財產目録ト云フモノハ、他ノ利害關係人ヲ羈束スルモノデナイ、ソレダカラドソナニ安ク見積タ所ガ、他ノ利害關係人ヲ羈束サヘシナケレバ害ガナイト云フコトニ歸着スルコトエ思ヒマスガ、私ハ固ヨリ財產目録ガ他ノ利害關係人ヲ羈束スルト云フヤウナコトハ毛頭考ヘテ居ラヌ、思フニ滿場ノ諸君一人モサウ云フ間違タコトヲ考ヘテ御出ノ方ハナカラウト思フ、唯併ナガラ羈束ハ致シマセヌケレドモ、是ガ標準ニナルト云フコトハ爭フ可カラザル事實デアル、中々財產ノ實況ヲ調ベルト云フコトハ容易ナコトデハナイ、ダカラ會社ノ財產ヲドソナニ頭ノ宜イ人ガ調ベヤウト思ツテモ、一週間ヤ十日ノ時ヲ掛ケテ調ベテモ分ルモノデハナカラウト思フ、私ガ或大會社ノ監査役ヲシテ居ル人ニ聞キマシタガ、財產ノ實況ヲ調ベルニハ一ケ日蕉掛カルト云フコトデアル、ソレハ最モノコトダト思フ、其位ノモノデアリマスカラ、非常ナ必要ガアレバ財產ノ實況ヲ元ニ遡ツテ調ベマスガ、一々財產目冖録ヲ煙訟隼トスルコトハ是ハ事實デアル、例ヘバ、佛蘭西ナドニ於キマシテ破產宣吿ノ場合ニハ債務者カラ財產目録ヲ出サネバナラヌト云フ規定ガアリマスガ、債務者ガ財產目録ヲ出ス場合ニハ慣例トシテ、最後ノ決算期ニ於ケル財產目録ヲ其儘出スノデアルサウデス、新タニ作ル閑ガナイカラ實際作ラヌ、又裁判所デモソレデ宜イト認メテ居ル、法文ノ上デハ破產當時ノ財產ノ狀況ヲ調ベネバナラヌトアルガ、ソレハ實際出來ヌカラ最後ノ年度末ノ計算ヲ出スト云フコトニナル、サウ云フコトガ留ハ際私ハ多カラウト思フ、所ガ商法デハ岡野君ノ言ハル丶ヤウニ、高クサヘナケレバ宜イト云フノデナク、高クモ低クモイカヌ、正確ナル計算ヲ出サネバナラヌ場合ハ數多クアル、悉ク揭ゲルト云フコトハ固ヨリ出來マセヌケレドモ、チョット心付キマシタ一ニノ例ヲ上ゲマシテモ、例ヘバ會社合併ノ場合ニ於キマシテハ、財產目録ヲ作ラネパナラヌコトニナツテ居ル、此財產目録ヲ理論カラ言ヘバ、岡野君カラ言ハル丶ヤウニ別ノ財產目録デハイカナイ、新タニ作ラナケレバナラヌト言ハル丶ケレドモ、最後ニ財產目録ヲ標準トシテ其後何カ新タニナル增減ガアレバ、ソレハ固ヨリ差引キヲ致シマセウケレドモ、大體ハ元ノ儘ニシテ出スノガ多イデアラウト思フ、勿論其目録ニ非常ニ實價ト違フコトガアルト云フコトヲ會社ノ當局者ガ自覺シタラバ、ソレハ童目キ直スカ知ラヌケレドモ、多クノ場合ハサウデナカラウト思フ、ソレカラ淸算ノ場合ニ於キマシテモ矢張リ財產目録ヲ作リマスガ、是亦同樣デアラウト思フ、ソレカラ又合資會社ニ於キマシテハ、矢張リ財產目録ヲ作ルト云フコトモアリマスガ、ソレモ同ジコトデアリマス、ソレカラ匿名組合ノ場合ナドニ於キマシテ、營業者ガ匿名組合ニ對シテ矢張リ計算ノ狀況ヲ明カニシテ置カナケレバナラヌガ、サウ云フヤウナ場合ニモ岡野君ノ言ハル丶ヤウニ唯古同クサヘナケレバ宜シイト云フ譯ニハイカヌノデ、理論カラ言ヘバ其場合ニ別ニ財產目録ヲ作レバ宜シイト云フコトニナリマスガ、ソレハ出來ルモノデナイ、故ニ何時モ財產目録ガ標準トナルト云フコトハ、是ハ爭フベカラザルコトデアラウト思ヒマスカラ、餘リ安ク見積テハ困ルコトガ屡々アルデアラウト思フ、唯先刻申シマシタヤウニ、故意ニ安ク見積ルト云フコトハ、惡意ヲ以テスルト云フ場合ハ極メテ稀デアル、ソレデアルカラ例ヘバ獨乙ノ學者ガ高ク見積ルノハイカヌガ安ク見積テモ宜イト云フコトデアリマスガ、實ハ私ハ獨乙ノ本ヲニ三調ベテ見マシタガ、原則トシテサウ云フコトヲ言ツテ居ルノハ不幸ニシテ見ナイ、私ノ讀マナカツタ分ニアルノデセウガ、ソレハマダ見ナイノデスカラ、財產目録ノ原則トシテ、ドノ本ヲ見テモ佛蘭西ノ本ト大體變ラヌノデ、正確ナル價額ヲ書カナケレバナラヌ、少シノ相違ガアツテモソレハ仕方ガナイ、時價ト云フモノハ始終狂ウモノデアツテ、サウ几帳面ニハイカヌガ、併ナガラ大體正確ナルコトヲ書カナケレバナラヌト云フコトニナツテ居リマス、唯株式會社ニ付イテ論ジテ居ル所ヲ見マスト云フト、株式會社ニ付イテ特ニ又詳シイ規定ガアル、なこ其規定ハ例ヘバストロートナドノ言フ所ニヨルト、高ク見積ルト云フコトニ對シテハ、ソレハ命令規定デアル、普通ハ高ク見積テハナラヌト云フノデアル、安ク見積ルコトニ付イテハ是ハリスブスケセツトデ旦ニ規定シタダケデ命令シタノデハナイ、能ク學者ノ言フ所ノ許容法ニ屬スルモノデアル、或ハ隨意規定デアル、ソレ故ニ定款ヲ以テ一定ノ計算ノ方法ヲ定ムルコトハ差支ヘナイ、高ク見積サヘシナケレバ其中ニ於テ適當ト認ムル計算ヲ定ムルコトハ差支ヘナイガ、併ナガラ定款ニ定メガナク或ハ定款ノ規定ニ反シテ、サウシテ安ク見積ツタ場合ニ於テハ、株主ハ之ヲ爭フ權利ガアルト云フコトガ書イテアル、何等ノ規定ガナクテ一方ハ命令規定デアリ、一方ハ命令規定デナイト云フコトガ、言ヒ得ラル丶カドウカバ疑問デアリマスケレドモ、日本ノ商法ハ如何ナル程度ニ於テ命令規定ガアルカト云フコトハ、一般ノ規定トシテハ明カニナツテ居ラナイ、唯會社ニ付イテハ不正ノ記載ヲ爲セバ{過料ノ制卦幽ガアルト云フコトニナツテ居ルノデ、ソレハ破產法ニ規定ガアツタヤウニ記憶致シマスガ、ソレダケデアル、デスカラ其コトハ唯一應ノ規定ニ過ギヌノデアル(所謂命令規定ト云フモノデハナイト云フ方ガ或ハ正シイカモ知レヌ、假リニ違ツタ所ガアツテモ、サウ云フ場合ノ外ハ制裁ノ附シヤウモ殆ンドナイ、ソレヲ安ク見積ルト云フノハ槪シテ言ヘパ宜イ考デアル、用心深イ考デアル、サウシテ他人ニ害ヲ及ボスト云フコトガ、高ク見積ルト云フ方ニ較ベルト云フト、滅多ニナイ、ソレダカラ安ク見積テモ宜シイト云フコトニ歸着スルノデアラウト思ヒマス、サリナガラ財產目録ト云フモノハ讀デ字ノ如ク財產ノ實況ヲ目録ニ書カナケレバナラヌ、百萬圓ノ財產ハ百萬圓トシテ揭ゲナケレバナラヌト云フ本則ハ獨乙ト雖ドモ變ハラヌト思フ、其本則ヲ法文ニ揭ゲテ出シ其制裁ニ關スル規定ノ如キハ、現行法ニ不明ノ所ガアレバ改メテ宜シイト思フガ、財產目録ハ安ク見積テモ宜イ高ク見積テハナラヌト云フコトハ、理窟ノ合ハヌト思ヒマスカラ私ハ反對スル
○三十五番(横田國臣君)
私ハ自分ノ意見ヲ明カニスル時期ガ來マシタ、私ハ小山君ヨリモ却テ嚴重ナト云フ方ニ贊成スルノデアリマス、ソレハ起草委員ノ申シマスルニ、株式ガ大變騰タリ何カシタ小キニハ又其次ノ年ニナレバ下タリ何カスルト云フ御話モアツタ、ソレカラ又間違ツテ居レバ株主ハ無論異論ヲ言フコトハ出來ナイ、是ガチヤント極マツテ株主モ何モ知ツテ仕舞ツテ嘘デアル是ハ安ク買ヒタイノデアルト云フヤウニアルナラバソレハサウモ出來マセウケレドモ、實際誤魔化サレテ居ルヤラ何ヤラ分リハシナイ、ソレデ正當ニ書イタト云フコトガ惡イト云フコトハドウシテモ見出サヌ、今大變物ガ上ツテ居ルカラ來年ハ此通リニシテハ六ケシイト云フ場合ニシマシタ所ガ、眞ツ直ニ言フ方ガ宜イ、御前達ハ配當ヲ求メタガルケレドモ、是ハ斯ウ云フ譯デアル、又斯ウダト知ラシテ置クガ宜シイ、ソレデ又時價ト云フコトヲ基トシテアルト、此時贋ト云フコトハ何ソニヨルコトヤラ分ラナイ、各々ノ目利キニ依ツテ極マルトカ何トカ云フヨリ仕方ガナイ、ソレハ今ノ起草委員モ引カレタ通リ獨乙ガボウナツテ居ルトカ、斯ウナツテ居ルトカ、ソレハ一應參考トシテハ宜カラウガサウ云フ意味』從フコトヲ決シテ要セヌ、ソレデ私ハ修正委員ノ言ハレタ通リヲ信ジテモ、私ハ正シイト云フ方ガドウモ宜イト思フ、無論悪イコトヲシタトキハ科料モ宜カラウガ、私ハ決シテ惡イトハ思ハナイ、ドウゾ之ヲ以前ノ通リニシテ所謂要スルト云フ、、、、確カニ時價ニヨル、、、、、、無論少々時價ハ百圓デアルケレドモ隅マア其間ニ幾分カノ差異ガアツタ所ガ、ソレデ以テ科料ヲ科スルナド云フ、サウ云フコトハアルベキコト丶ハ思ヒマセヌ(ソレデ私ハ現行法通リト云フ堅イ所ノ說ニ贊成致シマス
○三十四番(穗積陳重君)
此商法修正案ノ利害得失ニ付イテハ細カニ御論ガアリマシテ、双方トモ主張ハ略ボ分ツテ居ルコト丶存ジマス、私ハソレ故此點ニ付イテハ申シマセヌガ、修正委員ノ御說明ヲ乞フテ置キタイコトガアル、ソレハ商法修正案ニ決シヤウカ、又ハ現行ノ儘ニナラウカ、ドチラニ致シマシテモ(チヨツト體裁ニ付イテ伺ツテ置キタイコトガアリマスヘ私ノ犀ル所ニ依レパ現行法ト修正案トハ三所バカリ違ツテ居ルヤウニ思フ、第二十六條ノ現行法ニヨレバ、財產目録ダケノヤウニ見ヘマス、所ガ此修正案ニ依テ見マスト云フト、貸借對照表マデモ含ンデ居リマスヤウニ見ヘマスノガ一點、第二點ニ違ヒマスル所公現行法ニハ財產目録ニハ固有價額ヲ附セヨト云フ意味デアラウト思フ、現行法ノ文章モ少シ足ラヌト思ヒマスガ、寧ロ目録ニ價額ヲ附セヨト云フコトデアルト思フ、所ガ修正案ノ方ノハ目録ニ贋額ヲ附セヨト云フコトデナクシテ、財尋產ニ附スル價額トアル、財產ニ價額ヲ附スルコトガ標準ニ上ゲテアル、是ガ第二點デアル、第三點ハ小山君ノ言ハレタ如ク之ヲ附スル命令ガナイ此點デアリマス、此三點ハ齋曲滕君ノ御說明ガアリマシタガ、是ハ殊更ニ斯ウ云フ工合ニナツテ居ルノデアリマセウカ、私ノ考ヘル所ニヨレバ、現行法デモ財產目録ニ動產不動產其他ノ財產ヲ、目録調製ニ於ケル所ノ價額ヲ附シテ之ヲ記載スルコトヲ要スト云フ意味デアラウト思フ、修正案ハ獪ホ簡略ニシテ是等ノ財產ニ斯ウ云フ價額ヲ附セト云フコトダケデ、價額ヲ附スルノハ目録調製ノ時ニ於ケル價額以下斯ウナツテ居ルヤウデアリマスガ、ソレ故私ハ現行法ノ儘デアツテモ、文章ハサウシタイヤウニ思ヒマスシ、ソレカラ此修正案ガ通ツテモ、文章ガ足ラナイノデハナイカト云フ疑ヒガアルノデアリマシタガ、ドツチニ決セラレテモ私ハ疑ガアルノデアリマスカラ、チヨツト此點ヲ御說明ヲ願ヒマス
○二番(岡野敬次郞君)
唯今ノ御質問ニ對シテ御答ヲ致シマスガ、精神ニ於キマシテハ此修正案ハ現行法第二十六條第二項ト變ラヌ積リデアリマス、ソレデ第一點ハ現行法ハ財產目録ニハドウ言フテ居ルカ、修正案ニハ「財產目録ニハ」トハ言フテ居ラヌ、成程文字ハサウデアリマスガ、價額ハ財產目録調製ノトキニ於ケル價額トナツテ居リ、且ツ申スマデモナク財產目録ト貸借對照表ト云フモノガ、其計算ノ結果ニ於テハ變ルベキ譯デハナイノデアリマス、簡單ニ申シマシタナラバ、貸借對照表ハ財產目録ノ極ハメテ簡單ナモノデアル、財產目録ニハ各財產ヲ一ツ一ツ、例ヘバ價額ヲ揭グルノヲ貸借對照表ニ付イテハ、或部分ハ之ヲ一括シテ其總額ヲ示スト云フコトニ依ツテ極メルノデアリマス、ソレデアリマスカラ、例ヘバ不動產ニ付イテハ何處々々所在ノ不動產ハ何程、何處々々所在ノ不動產ハ何程ト云フヤウニシテ、財產目録ヲ作リ、貸借對照表ハ會社所有ニ屬スル不動產ハ何程ト云フヤウニシテ、總括シテ貸借對照表ニ載セルト云フコトガ、實例ノヤウデアリマス、ソレデアリマスカラ財產目録ニ價額ヲ揭ゲルコトニナリマスレバ、自ラ貸借對照表ニモ現行法ノ元ニ於テ價額ヲ記載シナケレバナラヌト云フヤウニナルノデアリマス、故ニ文字ハ少々足ラヌカモ知レマセヌケレドモ、其點ニ於テ矢張リ現行法ハ其精神ヲ異ニスル趣意デハナイノデゴザイマス、ソレカラ第二點ニ付イテ現行法ハ財產目録ニハ價額ヲ附スルコトヲ要ストアツテ、修正案ニハ財產ニ價額ヲ附スルコトニナツテ居ル、サウ云フコトデアリマシタガ、是ハ却テ修正案ノ方ガ私ハ正シイト考ヘルノデアリマス、財產目録ニ價額ヲ附スルト云フハ卽ち揭グルト云フ意味デアラウト思ヒマス、卽チ財產ニ價額ヲ附シテ、、サウシテ財產目録ニ之ヲ揭カグルコトヲ要スト云フ意味ニ解釋スベキコトデアラウト思ヒマシタカラ、約メテ申セバ附スルハ揭グルト云フ意味デアラウト、斯ウ見テ宜カラウト思ヒマス、ソレデ修正案ニハ財產ニ價額ヲ附スルト云フコトヲ言フテ居リマスカラ、是モ趣意ニ於テハ變ラヌノデ、文字ハ却テ此方ガ正シイカト思ヒマス、ソレカラ第三點ニ於キマシテハ、是ハ實ハ吾々ドモ相談ノ際ニ色々ト此文章ヲ變ヘテ見タノデアリマスケレドモ、成程段々御話ニナル價額ヲ附スベシト云フコトヲ、明言シテ居ラナイカラ、ソレデ現行法ト其處ガ少シ違フヤウデアル、又附スベキコトヲ命ジテ居ラヌコトガ、少シク不備デアルマイカト云フ、是モ段々ニ相談ヲ途ゲタコトデアリマスケレドモ、ドウシテモ吾々ノ智識ニ於テハ動產、不動產、債權其他ノ財產ニハ、財產目録調製ノトキニ於ケル價額ヲ附スルコトヲ要ス、但シ其價額ハ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ヲ超ユルコトヲ得ズト、書イテ見マシタガ、サウスルト其價額ハドウ云フ價額ヲ書クノデアルカト云フコトガ、矢張リ問題ニナルノデスカラ、ソレデ種々幾度カ案ヲ改メタ末ニ先ヅ此邊ノ所ガ一番能ク意味ヲ言ヒ表ハシハシナイカ、多少文字ニ於テハ足リヌ所ガアルト同時ニ最良ノ案トシテ起草委員ガ認メタノデアリマス、立ツタ序デニ簡單ニ一言致シタイノハ、此修正ノ希望ト云フモノハ實ハ實業家ノ方カラ幾多ノ希望ガ出テ居ルノデアリマス、既ニ法典調査會ニ於テ商法ヲ起草スル際ニハ、阿部泰藏君ガ此意見ヲ提出セラレタノデアリマスガ、併シ此當時其意見ハ容レラレナカッタノデアリマス、ソレデ矢張リ主査委員會デハ阿部君ノ如キハ矢張リ此修正ノ方ノ趣意ヲ是ナリトシテ居ラレルノデアリマスシ、建議トシテ提出シタ者モ隨分澤山アル、ソレカラ實際ニ於テ堅イ會社ニ於キマシテ、是ハ私ハ親シク其會社ノ理事者、若クハ支配人ト云フ者ニ聞イテ見マスニ、ドウモ時價ヲ必ズ附セナケレバナラヌト云フコトニナツテ居ツテハ茸昌ダ困ルト云フ苦情ハ幾ラモ聞イタ、時價ヨリ低ク見積ルト云フコトニシテモ差支ヘナイト云フコトヲ法律ニ明カニシテ貰ライタイモノダト云フコトヲ、私ハ現行商法ノ實施以後ニ於テ屡々聞ク所デアツタノデアリマス、私ハ先刻モ申述ベマス通リノ意見デアリマスカラ、ソレハ差支ヘナイト云フコトヲ言フテ置キマスケレドモ、併ナガラ是非見積ラナケレバナラヌト云フ解釋ヲ現行法ノ元ニ於テ採ツテ居ル方モアリマスシ、又理窟ニ於テモサウナケレバナラヌモノダト云フコトカラ、現行法モ其意味ヲ現ハシテ居ルト云フコトヲ言ハレテ居ル方モアリ、實業家トシテハ或ハ何レノ解釋ヲ是ナルカト云フコトニ付イテ迷フト云フコトハ、自然ノ結果デアラウト思フ、殊ニ先刻申シマシタ、裁判例ニ公債ヲ安ク見積タ爲メニ科料ニ處セラレタ、ソレハ刑ヲ科セラレタノデアリマセヌガ、兎ニ角科料ノ制裁ヲ蒙ッタト云フ例モアルヤウデアリマスカラ、旁々之ヲ明カニシタ方ガ宜カラウト思フ、ソレカラ梅君ノ制裁ノコトニ付イテ、私ノ說明シタコトガ當ラヌデアラウト云フコトデアリマシタガ、先ヅ是ニ付イテハ規定ガアル、淸算人ハ遲滯ナク會社財產ノ現況ヲ調査シテ、財產目録貸借對照表ヲ作ルト云フコトニナツテ居ルノハ、前ノハ解散前カラアツタコトデアリマス、財產其モノヲ言フノデハ無カラウト思フ、是ハ會社ノ眞實ノ價額ヲ調ベテ、サウシテ合名會社ニ在ツテハ債權者ニ對シテ辨濟スベキモノガ幾ラ、其後ニ於テ社員ニ配當スベキモノガ何程、ト云フコトガ定マル趣意デアラウト思フ、併シ現況ノ調査ヲスルコトガナケレパサウナラヌカト言ヘバ、私ハサウナラウト思フ又是ハ第九十二條ニ「會社ニ現存スル財產カ其債務ヲ完濟スルニ不足ナル時ハ淸算人ハ辨濟期ニ拘バラス社員ヲシテ出資ヲ爲サシムル事ヲ得」トアル、是モ財產目録ニ揭ゲタモノト債務トヲ比較シタモノデハナイノデ、矢張リ實際ニ財產ガ足ラヌトキニハ、出資ヲナサシムルノデ、財產目柚録ニ低ク見積テアツテ其僑臥額ヲ標準トシタナラバ、社員ハ是ニ對シテ異議ヲ述ブルコトガ出來ルト思フノデアリマス、サウ云フ譯デ場合ニ依テ先刻モ申上ゲタ通リ虞實ノ財產ヲ標準トシテ往キマス場合ニハ、必ズ二十六條ノ拘束ヲ其方面ニ致サシムル譯デナイト私ハ解釋ヲスルノデアリマス、ソレカラ又江木君カラ、「カラクリ」ニナツテイカヌト云フ御話デアリマシタガ、成程實況ハ今年ノ配當率ヲ如何ニスベキカヲ考ヘテ、然ル後ニ會社財產ノ實況ヲ如何ニ記載スベキカト云フコトヲ立テルノデ本末ヲ誤テ居ルコトハ、是ハ私モ厦々耳ニスル所デアリマシタガ、ソレハ私ノ聞キ及ビマス所ヲ述ブレバ、此財產ノ眞實ノ價額以内ニ於テ遣リ繰リヲスルヨリカ、時價ヨリモドレダケ高ク見積ツテモ、ドウゾ配當ノ率ヲ殖シタイト云フ「カラクリ」ヲスルコトハ聞イテ居ル、併ナガラドレダケ低ク見積ツテモヤレト云フ「カラクリ」ハ私ハ聞キマセヌ、若シサウ云フ「カラクリ」ガアリト致シマシタ所デ、格別弊害ハ是ガ爲メニ生ズルト云フ譯デモナイノデアリマスカラ、私ハ旁々此修正案ニ贊成スルト云フヨリハ、修正ノ趣旨ハ私ハ是認シナケレバナラヌモノト信ズルノデアリマス
○二十七番(若槻禮次郞君)
段々御專門ノ方ガ御出ニナリマスカラ、私ハ沈默シテ居ル積リデアリマシタガ、今度ノ商法ノ修正ノ中デ宜イト思ヒマスノハ、此箇條ト是ニ關連シテ居ル百九十條ノ規定ガ一番宜イモノデアルト思ツテ居リマシタ、所ガ案外御反對ガ多イ、故ニ專門外ノ者マデ意見ヲ申上ゲナケレバナラヌコトニナッタノデアリマス、私ハ此二十六條ノ所ガ原則デアリマスカラ、ドウデモ宜シイガ、此處デ趣意ガ極マルト百九十條ニ往ッテ多分同ジヤウナ議論ガ出ヤウト思ヒマスカラ、此コトデナシニ意見ヲ申上ルノデ、此原則ノ所ハ創ヅラレテモ、百九十條ノ所ガ能ク生キテ參ルナラバ強ヒテ申上ゲマセヌガ、此處デ主義ガ極マルト後トノ方ガ怪シイカラ、ソレ故申上ゲナケレパナラヌ、反對ヲナサル御議論ノ中デ現行法デモ時價ヲ附スルコトヲ要スルト云フコトハ、必ズ時價ヲ附ケソデモ宜イ、時價以下デモ宜シイノデアル、斯ウ云フ意味ヲ含ンデ居ツテ、時價ヲ附クルコトヲ要スト書イテアルカラ改正スル必要ハナイト云フ御論ガアルヤウデアリマスガ、是ハ絕野ニ私ノ希望スル所ト一致シテ居ルノデ反對ナサルノデハナイ、商法ニ書クノガイヤダト云フダケデ實際ニ御反對デナイト思ツテ居リマス、是ニ反シテ是ハ實體ニ宜シクナイト云フ御論ガアル、故ニ其方ヲ少シク申上タイト思ヒマスガ、自分ノ解釋スル所デハ目録調製ノ時ニ於テ價額ヲ附スルコトヲ要スト云フタ以上ハ、ドウシテモ其時ノ時價デナケレバナラヌノハ當リ前デ、此中ニ時價ヨリモ以下ヲ附ケテ宜シイト云フコトガ含マレテ居ルト云フコトハ如何ニ解釋シテモ出テ來ヌ、時價以下ノモノヲ附ケタノヲ罰スルト云フコトハ、ソレハ惡意ニシタ意味ヲ含ンデ居ルカラ、時價以下ヲ附ケタ所ガ惡意ノナイ者ハ罰セヌト云フコトガ出來ルカモ知レヌ、ソレハ別問題デアリマスガ、罰スルヤ否ヤノ議論デナク目録ニ書クノハ時價ヲ附スルコトガ原則ニ極マツテ居ルト、會社ノ責任者ニナツテ見マスレパ、唯時價ヲ附セヨト書イテアルノニ、時價ヨリ以下ノモノヲ附スルノハ裁判所デ罰セラレヌトシタ所ガ、良心ニ訴ヘテ甚ダ困ル問題デアルノデアリマス、實際私共ノ承知シテ居ルコトハ、斯ウ云フ處分ガアルニモ拘ハラズ、確實ノ會社ナラバ有價證劵ノ如ク元價ダケ附ケテ置ク、實價ノ通リニシテ置キマスト、價額ノ變動ガ非常ニアルカラ、今ノガ非常ニ宜イ計算ニナツテ居ツテモ、或ハ非常ニ損ヲ來タシテ居ルヤウナ結果ニナル、其損ヲ來タシタト云フコトガ自分ノ營業上何カ失策ヲシタ爲メニ損ヲ來タシタト云フコトデナク、營業ニ關係ナク自然ニ物ノ價ガ下ツタ爲メニ利益ガ減ジタト云フコトニナル、サウ云フコトガアル爲メニ價ノ變動ガアツテモ餘リ大キナ變動ノナイヤウニシヤウト云フノガ、會社ノ當事者ニナツテ見ルト當然ナ考ヘデアラウト思フ、ソレニ向ツテ商法ニ時價ヲ書ケト言ツテアル、時價ノ通リニシナケレバナラヌ、サウスルト裁剣所デハ現ニ罰セラレタト云フ例ガアル、罰セラレルコトハ是ハ無論デアリマスガ、罰セラレヌニシタ所ガ規則ニ於テ時價ヲ附セ百ト云フコトニシテ於テ一方ニ注意深イ仕方トシテ現價ニスルガ宜イト云フコトガアレバ、責任者ニナツテ見レバ注意深クセヌト欲スレパ商法ニ違反シ、商法ノ人叩ズル所ニ從ヘバ會社ノ利一益ガ薄クシテ、會社ノ經營ガ不十分デアルカノ感ヲ呈スル、斯ウ云フ苦況ニナラシメテアルノハ現行法ノ缺點デアル、ソレデ時價以下ニシテハイカヌト云フ制限ヲ附ケテ居ルコトニナリマスレバ、是ハ最モ宜シキヲ得タモノデアラウト思フシ、殊ニ今日章魚配當ト云フノハ勿論價額以上ニ附ケルモノガアルカラデアリマセウガ、併ナガラ價額一杯ニ附ケテ置テ配當シテ配當ノ出來タトキハ宜イガ、利益ノ減ツタ爲メニ困ルト云フコトハ幾ラモアル、此目前ノ時弊カラ此改正案ノ如キハ最モ宜イト思フ、其モノニハ當時ノ價額ヲ附スルノガ宜イト云フノガ、理窟ニハ合ッテ居ルカ知ラヌガ、日本ノ實情カラ言ヘバ現行法ハ、責任者ヲシテ心ニモナキコトヲナサナケレパナラヌコトニナツテ居ル、ソレヲ直シテ往カウト云フ今回ノ修正デアリマスカラ、私ハ先程既ニ七條ニ付イテ現行法ノ規定文ヲ直サレルト云フコトハ、ドウシテモ改良ヲシナケレバナラヌト云フ議論デハナイノデアリマス、併ナガラ二十六條ノ殊二百九十條ノ改正ノ如キハ時弊ニ適中シタ改正デアルニ拘ハラズ、是ニ御反對デアルノハ奇怪ニ思ヒマスカラ、==口述ベテ御參考ニ供シタイト思ヒマス
○十四番(岸本辰雄君)
荷ハ矢張リ現行法ノ通リニシテ此案ハ廢案ニシタイ、必要デナキノミナラズ江木氏ノ言ハレタ如ク害ノアルコトデアル、元來財產目晒録ト云フモノハ其財產ノ實況ヲ明カニスルノデアリマスカラ、財產ノ種類ナリ、箇數ナリ其價額ナリ、ソレハ明白ニ書イテ事實ニ合フヤウニスルノガ、財產目録ハ不正確ナ財產目録ヲ作ツテモ宜シイト云フヤウナ法律ハ隨分ヒドイ法律デアラウト思フ、成程今御說ノアツタ如ク今日ノ實況デハ甚ダ困ルト云フコトデスケレドモソレハ何デモナイコトダラウト思フ、詰リ繰越サヘ多クシテ置ケバ、下ガツタトキハ其時ハ埋合ガ付イテドウデモナル、ソレハ畢竟ヤリヤウガ下手ナノデ何デモナイコトデアル、殊ニ之ヲ斯ウ云フ風ニシマスルト、先刻モ議論ガアツタヤウニ會社當事者ハ大變樂デアリマス、詰リ社撰ナ財產目録ヲ作ツテ宜シイ、多クサヘシテ置カナケレバ、苦シクナイト云フカラ、會社デハ或ハ斯ウ云フ案ヲ望ムデゴザイマセウガ、ソレハ不正確ナ財產目録ヲ作ッテ宜シイト云フ譯ニナリマスカラ、法律トシテハ不都合千萬ナモノデアラウト思フ、而シテ此問題ノ起リマシタノハ、畢竟現行法ヲニ途ニ解釋スル所カラ起ツテ居ル、此ニ途ニ解釋スルト云フノハ私ハ間違ダラウト思フ、成程岡野博士ノ如クサウ云フ解釋ヲ採ツテ居ルト言バレルカラ如何ニモ御最モニハ聞ヘマスルガ、ドウモ今若槻君ノ御說モアツタ如ク解釋ハ出來ナイト言バレル位デアル、實ニ無理ナ解釋デアル、隨分沿革ヲ御話シテサウ云フ解釋ガ出ヤウガナイト云フコトヲ御參考マデニ申スノデアリマス、此個條ト云フモノハ元ト會社法ト云フ單獨ノ法律ガ出來タ時ニモ、文字ハ此通リデアツタカドウカ知レマセヌガ、ソレハ矢張リ佛蘭西法カラ採ツテ拵ヘルノデスガ、其佛蘭西法ニ遡ツテ見ルト云フト一點ノ疑モナイ、佛蘭西法ノ解釋ガ決シテナイ、必ズ時價ヲ附セヨト云フ命令的ノ箇條デナイ、岡野着ノ言ハレルヤウニ獨乙デハニ設、其獨乙ノハ或ハ佛蘭西カラ往ツタノカモ知レマセヌ、或ハ文字ノ違フ所カラニ說出來タノカモ知レマセヌ、ソコデ日本ノ會社法ト云フモノニ付イテハ、ニ途ノ解釋ガナイカラ現行商法ノ前ノ商法、卽チ一時行ハレタ商法ニ付イテ、此箇條ニ於テニ途ノ問題ハナイ、ソレカラ來テ今度ノ現行商法ノ時デアリマスガ、其時ハ編纂ノコトハ覺ヘマセヌケレドモ、反對ノ解釋ハ多分無カッタラウト思フ、アツタコトヲ記憶シナイ、シテ見レパ沼革カラ言フテ此法律ニ付イテ、現行商法ニ付イテハ一點ノ疑モナイ、必ズ時價ヲ附セヨト云フ大審院ガ其意見ヲ採ツテ判例ヲ拵ヘタノガ、卽チ現行法ノ眞ノ意味ヲ現ハシテ居ルノデアリマス、ソレカラ現行商法ノ通リデ是ハ毫モ差支ヘナイノミナラズ、斯ウ云フ風ニスルト却テ害ガアルカラ、寧ロ私ハ之ヲ廢シテ現行商法ノ通リニシテ置キタイ、卽チニ說アルト云フ不正確ナ財產目録ヲ作ツテ宜イト云フ說ハ私ハ取ルニ足ラヌト斯フ思ウノデアリマス
○十二番(志村源太郞君)
私ハ此修正案ニ贊成スル者デゴザイマスガ、大體皆樣ノ御說モアリマス上ニ獪ホ最後輔ニ一十七番委員カラ私ノ述ベタイト云フ點ヲ述ベテ戴キマシタカラ、敢テ再ビ重ネテ申上ル必要ハナイト思ヒマスガ、獪ホソレニ補充シテ申上タイト思ヒマスノハ、段々伺フ御議論ノ中ニ時價ニ依ルト云フコトハ全ク正當デアルト云フ御論ノヤウニ伺ヒマス、是ハ御議論トシテハ如何ニモ感服致シマスガ、抑々時價ナルモノハ如何ナルモノデアルカト云フコトニ付イテ考ヘマスト、私ドモ實際ニ財產目録ヲ時々調製スル立場ノ者ハ大ニ時價ナルモノヲ得ルノニ困難致シマス、諸着ノ御考ヘノ如ク容易ク得ラル丶モノデナイ、場合ニ依ツタラバ不確實ノモノモアル、譬ヘテ見マスト之ヲ不動產ノ例デ申シマス、現ニ吾々ガ住ンデ居ル地所ガ若シ一會社ニ屬スルトスルト、此財產目録ヲ幾ラニ積ルカト云フ問題ハ中々容易デナイ、之ヲ百圓ニ積ルカ八十圓ニ積ルカ、商法ニ價額ヲ附スルコトヲ要ストアリマスト、吾々ガ財產目録ヲ調製スルニ當ッテ此時價ヲ得ルコトニ非常ニ努メナケレバナラヌ、所ガ時價ガ八十圓デアルカ百圓デアルカト云フコトハ、此近邊ノ賣買價額ヲ調ベ色々ヤリマスケレドモ、ソレハ正確ナ計數ニ當ラナイ餘程不確實ナモノデアル、是ハ確カナモノデアル、極メテ正確ナモノデアルト云フナラバ、時價ニヨルト云フコトモ宜シイケレドモ、是ガ百圓デアルカ八十圓デアルカト云フコトヲ確實ニ捉ヘルコトガ出來マセヌカラ、修正案ノ通リ時價ニ超ユルコトヲ得ズト云フ位ナ程度ニ止メテ置クコトガ適切ダト思ヒマス、是ハ時價ヲ得ルコトノ困難ナルコトヲ一應御記憶ニ存シテ戴キタイノデアリマス、ソレカラ例ヘバ動產ノ場合、有價證劵ノ場合ノ如ク取引所ニ在ツテ其價額ガゴザイマセヌカラ、其時ノ價額ニヨレバ宜シイガ六月三十日若クハ十二月三十一日ノ財產目録ノ調製ノ日ト、其前日若クハ前々日ノ時價トハ日本ノ今日ノ經濟狀態ニ於テハ變動ガゴザイマス、卽チ日本ノ有價證劵ニ依ツテ確實ナルモノヽ例ヲ申シマスト、公債證書ガ昨年ノ六月ニ於ケル値段ハ今年ノ六月三十日ニ於ケル公債證書ノ値段ト十圓以上ノ開キガアッタト記億致シマス、十圓以上ノ開キガアルトスルト、若シ公債證書ヲ千萬圓持ツテ居ル會社ガアリマシタナラバ、百萬圓ノ開キガ出ル是モ時價デヤツテ往クト云フコトガ其會社ノ財產目録ト云フコトノ正鵠ハ得ルカバ知レケセヌケレドモ、其會社ノ實務ニ當リマス者カラ言フト、徒ラニ自分ノ財產ヲ上タリ下ゲタリスル譯デアツテ唯上ゲ下ゲスルナラバ宜シウゴザイマスケレドモ、其結果會社二百萬圓ノ損益ガ出テ參リマス、是ハ自分ノ一日ヤリマス仕事ノ以外ノ損益ガ起ツテ來マスノデ、好マシカラヌコトデアリマス、ソレナラサウ云フコトヲ何ノ爲メニヤラナケレバナラヌカト言ヘバ、財產目録ハ其時價ニ依ツテ調製スベキガ穩當デアラウト云フ理払薦カラ來タノデアラウト思ヒマスガ、ソレモ確實ナル財產目録ト云フ趣意カラ往キマシタナラバ、此修正案ノ趣意デ十分其目的ヲ達スルダラウト思ヒマス、殊ニモウ一ツ申上タイノハ假リニ有價證劵ノ如キモノ則チ動產ヲ多分ニ持ツテ居ルト致シマスト、自分ガ一千萬圓ノ公債證書ヲ持ツテ居ル之ヲ時價デ積ツタナラバ大間違ヒデアル、若シ時價デ積ル以上ハソレヲ市場ニ賣リ出シタナラバソレダケノ價額デ賣レルト信ジナケレバナラヌト思フ、所ガ今日ノ日本ノ市場ニ於テ一千萬圓ノ公債證書ヲ賣出シテ時價ヲ下ラズニ居ルト云フコトハナイ、百萬圓デモ既ニサウデアル、或會社ノ株劵ノ如キニ到ツテハ、若シ或一ツノ銀行例ヘバ十五銀行ナルモノガアツテ、此銀行ガ日本鐵道ノ株ヲ澤山所持シテ居リマシテ、若シ此十五銀行ナルモノガ其日本鐵道ノ株ヲ時價デ計算致シマシタナラバ、假リ二日本鐵道ノ其所有ノ株劵ヲ總テ處分スル時ニハ、必ズ多少ノ開キヲ來タスコトニナルダラウト信ジマス、是ハ今日ノ經濟市場ガマダ狹イノデゴザイマスカラ、多數ノ動產若クハ不動產ト云フモノハ其時價ヲ以テ記億致シマスコトガ却テ不確實ニナルト云フ例ニ申上マシタ次第デアリマシテ、私ハ強チ絕對ニ時價ガ惡イトハ申シマセヌ、併ナガラ時價ヲ得ルコトガ甚ダ困難デ又假リニ時價ヲ得タ所デ、ソレヲ其儘採ルコトガ危險デアル、サウ云フ次第デゴザイマスカラ、時價ヲ超ユルコトヲ得ズト云フ事柄ガ、卽チ今日ノ實際ニ極ク適合シタ極ク確實ナル規定デハアルマイカト考ヘマス、其他ニ於キマシテハ、二十七番ノ御述ベニナリマシタ通リデゴザイマス
(「採決」ト呼ブ者アリ)
○十八番(一木喜德郞君)
私モ此問題ニ付イテハ素人デゴザイマスカラ、諸君ノ驥尾ニ附シテ意見ヲ述ベル積リデアツタ所ガ、私モ先刻若槻君ノ述ベラレタノト同ジ意見ヲ有ツテ居ツテ、其事ニ付イテ梅君ニ御相談致シタノデアル、卽チ二十六條ト百九十條ノ二ノ關係デゴザイマス、私ハ今日ノ實況ニ鑑、ミテ百九十條ノ二ノ但シ書キハ極メテ必要ナル規定ト考ヘル、若シ二十六條ヲ削除致シマスルガ爲メニ、百九十條ノ二ノ但シ書キニマデ影響ヲ及ボスト云フコトニナルト、餘程考ヘナケレバナラヌ問題デアルト考ヘテ居ツタノデゴザイマス、ソレデ今梅君ニ其事ヲ相談致シ"、シタコトデアリマス、併シ獪ホ其點ヲ考ヘテ見マスルト、是ハ全ク別問題ト見テ宜カラウト思フ、卽チ百九十條ノ二ノ書キ方ハ二十六條ノ決シ方如何ニ依ツテ變ヘナケレパナラヌト思ヒマスガ、必ズ時價ヲ揭ゲナケレバナラヌト云フニナレバ、從ツテ百九十條ノ二ニ於テモ同樣ノ書方ニシナケレバナラヌト思シマス、又但シ書キノ場合モ相當價額ニ超ユルコトヲ得ズト云フ書方ハ改メナケレバナラヌト思フケレドモ、但シ書キノ趣意ハ變更セヌデ宜シカカラウト考ヘル、若シ二十六條ノ削除ノ結果トシテ百九十條ノ二ノ但シ童目キモ削ラナケレパナラヌト云フコトニナリマスルナラバ、私ハ寧ロ二十六條ノ修正案ニ同意致サウト思フケレドモ、私ノ考ヘデハ其間ニハ必ズシモ必然ノ關係ハナイト思フ、サウシマスルト此價額ヲ高ク見積ルト云フコトモ安ク見積ルト云フコトモ、何方モ弊害ガアルト云フコトハ既ニ先刻來段々御話ノ出タコトデアリマス、又私ハ實際ノコトハ能ク存ジマセヌガ、亞米利加ノ領事ヲシテ居ツタ人カラ亞米利加ノ狀況ダト言ツテ聞イタコトガアリマス、ソレハ卽チ會社喰ヒト云フ一種ノ者ガアル、會社ノ株ヲ買占メルトカ何トカ云フコトノ爲メニ、重役ガ其地位ヲ利用シテ或場合ニハ配當ヲ非常ニ少ナクスル、サウシテ價額ヲズツト下ゲル、サウシテ自分逹ガ之ヲ買占メル、今度ハ配當ヲ多クシテ其株劵ヲ賣出スト云フヤウナコトヲ、亞米利加邊リデハ時々行フト云フ實例ガアルト云フ話ヲ聞キマシタガ、我國ニ於テハマダサウ云フコトガアルト云フコトハ伺ヒマセヌガ、ソレ等ノコトハ實際ニドウデアリマスカ分リマセヌガ、斯樣ナル極端ナル實例スラ外國ニ在ルト云フコトデアレバ、理論カラ申シマシテモ是ハ勿論財產ノ價ヲ書クノガ相當デアル、而シテ又サウ云フ弊ヲ生ズル虞レガアル以上ハ、時價ニ依ツテ財產目録ヲ調製スルト云フコトガ最モ正當ナコトデアラウト思ヒマス、百九十條ノ二ノ但シ書キノ場合ニ於キマシテ、チヤソト據所ノ標準ガアルノデアリマスカラ、ソレニヨリマスル以上ハサウ云フ心配ハナイ、必ズシモ二十六條ノ削除ノ結果トシテ百九十條ノ二ノ但シ書ヲ削ルニハ及ブマイト思フ其意味ヲ以テ贊成致シマス
○三十四番(穗積陳重君)
修正案ヲ提出致シタイト思ヒマス、私ハ實質論ニハ論ジ及ピマセヌ、要スルニ御議論ノ表向ヲ承ハツテ居ルト時價論ガ立派デアルガ、實際ハドウモソレデハ困ル双方トモ中々強イ議論デアルト思フノデアリマスガ、私ノ贊成致シマスルハ寧冒實際論ノ方ニ贊成スルノデアリマスガ、此處ニ提出致シマスル案ハ起草委員始メ箇々ノ修正案ニ御贊成ニナル御方ハ必ズ御綵用下サルデアラウト思ヒマスルシ、又時價論ヲ御主張ナサル御方モ幾分カ御採用下サル點ガアルヤウニ思ヒマス、私ノ提出スル修正案ハ先刻ノ質問カラ產ミ出シタノデアリマス、第一ニ此修正議案ハ小山君ノ氣付カレマシタ通リ、財產目録ニ記載スルコトヲ要スト云フ命令ハナイ、兎ニ角書イテナイ、ソレカラ動產不動產債權其他ノ財產ニ附スル價額ハアツテ、ナゼ財產ニ價額ヲ附スルノデアルカト云フコトハ文字上カラ現ハレテ居ラヌ、其財產ニ附スル價額ノ標準ダケガ茲ニ書イテアルノデ、事柄ハ分ツテ居リマスガ、文章トシテ改ムベキ點ガアリハシナイカト思ヒマス、動產不動產債權其他ノ財產ニ價額ヲ超ユルコトヲ得ズト云フノデ、何ノ爲メニ價額ヲ附スルカト云フコトヲ定メナケレバナラヌノデアル、此財產目録ト云フ字ガアツテ財產目録調製ノ時期ヲ與ヘル爲メニ其時ト云フコトガアル、ソレ故修正案ノ實質ニ於テハ少シモ變ハラナイノデアリマス、唯修正案ヲ斯ウ云フ文字ニシタイノデアリマス、「財產目録ニハ動產、不動產、債權其他ノ財產ニ價額ヲ附シテ之ヲ記載スルコトヲ要ス但其價額ハ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ニ超ユルコトヲ得ス」斯ウ書キタイノデアリマス、始メニ財產目録ニハ是々ノ財產ニ價額ヲ附シテ記載スルト云フノガ本文デアリマス、此點ニ於テ時價論者ニ幾分カ御贊成ヲ願ヒタイト思フ、單ニ價額ヲ附スルト云フコトガ原則ニナツテ居リマスレバ、ソレハ時價ト云フノガ、一體經濟論トシテハ劍呑カモ分リマセヌガ、價額ト言ヘバ時價ト云フノガ一番通常ノ言ヒ草デアリマセウカラ、是々ノ財產ニ價額ヲ附シテ記載スルコトヲ要スト云フト、全體時價ヲ記載スベキモノデアルノヲ、但シ其價額ハ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ニ超ユルコトヲ得ズト云フト、此上ニ出タラバ卽チ罰ガアルゾト言ツテ上ヲ止メテアル、何トモ言ツテナイ價額ト云フモノハ相當ナ價額ト解サナケレパナラヌカラ、反對論者カラ申マシテモ、原案ヨリハ幾ラカ宜カラウト思ヒマス、本ノ形ダケノコトデアリマスガ、此點ハ修正論者ニモ贊成ヲ願ヒタイシ、反對論者ニモ幾分カ御採用ヲ願ヒタイ
○二十六番(石渡敏一君)
私モ此問題ニ付イテハ極メテ素人デ贊否ニ甚ダ困テ居ル、岡野君ノ御說ヲ聞ケパ岡野君ニ御贊成ヲシタシ、梅君ノ御說ヲ聞ケバ梅君ノ御說モ御最ノヤウニ思フ、併シ大體ニ於テハ岡野君ノ言フ所ガ宜イヤウニアル、梅君ノ御說ノ中ニモ非常ニ御最ナコトガアル、ソレデドウカ調和ガ取レハセヌカト思フ、今穗積君カラ修正ガ出マシタガ非常ニ宜カラウト思フ、私ハ斯ウ云フヤウニ考ヘテ見ルガ宜イカ是ハ唯ホンノ妄想ヲサラケ出スト云フヤウナコトデ、近頃ノ言葉デ言フト自分ノ不明ヲ吿白シテ見タイト思フ、修正委員ノ方ノ御說ニ依ツテ見ルト財產目録ハ動產不動產債權其他ノ財產ノ價額ヲ附スルト云フコトニナル、ソレハ時價デアツテモ安クテモ構ハヌト云フ、時價ノ時ニハ差支ヘナイヤウニ思フガ、若シ安ク積ラレタ時ニハ其價額ハ何ト云フノデアラウカ、財產ハ幾ラ幾ラト會社ノ目録ニ付イテ、時ニハ其價額ハ時價ニ積ツタモノデアルカ、安ク稽 ツタモノデアルカ、貴君方ガ見テ丸切リ不明デハナイカ知ラヌト思フ、是ガ少シ明カニナツテ安クシタモノナラ安クシタモノトカ、時價ナラ時價トナツタモノナラバ、或ハ梅君ノ言ハレルヤウニ價額ヲ非常ニ下ゲテ、、、、、、、或ハソレヲ妨グコトガ出來ハシナイカト思バレル一ツ御相談ト云フコトニシテ御意見ヲ伺ヒタイト思ヒマス、ドウデゴザイマセウカ、財產ニ價額ヲ附スル場合ニ時價トモ何トモ言ハズシテ付イテ居ル時分ニハ、時價ト見ルノカ安ク見積テ見ルノカ、其御說明ヲ伺ヒタイト思フ
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ石渡君ノ御質問ノ趣意ニハ該當シナイカト思ヒマスガ、試ニ私ノ了解スル範圍ニ於テ御答ヘシテ見タイト思フ、財產目録ニ財產ノ價額ヲ兎ニ角記載スベシト云フコトハ、是ハ私ハ當然ノモノト思フ、ソレデ是ダケノ價額ニ記載シテ宜シイト云フコトガ、法律ヲ定メントスル所ノ趣意デアラウト思フ、ソレデアリマスカラ時價トシテ揭ゲルトカ或ハ時價以内ニ於テ揭ゲルト云フコトヲ、其計算ノ表ノ中ニ一々理由ヲ揭グベキモノデナイノデアリマス、詰リ時價以内ニ於テ書クト云フノデアリマスカラ、或ハ財產ニ依ツテハ時價ニ見積テアルノガアルカモ知レヌ、或ハ時價ヨリ安ク見積テアルノガアルカモ知レマセヌガ、併シソレガ卽チ修正ヲ明カニシヤウト云フ點デアツテ、財產目録其モノヲ見テ直チニ是ハ時價ニ積タモノ是ハ時價以下ニ積タモノト云フコトハソレハ何ン人ニモ分ラナイノデアリマス、又一箇人ニ付イテハ何カ營業ニ異變ヲ生ジテ來ナイ、或ハ何カ制裁ヲ受ケルト云フ問題ガ起ラヌ以上ハ、他人ノ財產目録貸借對照表ハ他人ガ見ルト云フコトハナイ、會社ニ付イテハ會社ニ利害關係ヲ有ツ者ハ社員デアル、ソレデ平生カラ財產目録貸借對照表ヲ他人ニ見セベキモノデハナイ、故ニ理由モ亦書クベキモノデナイ、唯時價以下ニ財產目録ガ見積ツテアルノヲサウ云フコトヲセヌヤウニ止ドムルニ過ギヌト思フ、ソレカラ穗積サンノ御修正ハ本問題ノ決定セラレタ後ニ決セラル丶コトエ思ヒマス、若シ本問題ノ決セラレタ後ニ穗積サンノ御修正ノ理由モ伺ツテ見テ其理由ニ依ツテハ反對意見ヲ述ベタイト思フ
○三十五番(横田國臣君)
大分逼マツテ來マシタガ、實際家ト稱スル御方ガ時價以下トセネバ時價ト云フモノハ分ラヌ、此實際家ノ言フコトデゴザイマスカラ、吾々ハ成ルベクナラバ其實際家ノコトヲ酌ミタイノデゴザイマス、併ナガラ此時價ト云フコトヲ實際家ノ御方ハ餘リニ窮窟ニ見テ御出ニナルノデハナイカト思フ、時價ト云フモノハ極マッタモノデ必ズ此地所ナラ地所ハ何程デ買手ガアルカト云フヤウニ御覽ニナツテ居リハセヌカト思フ、何モサウ云フ譯デハナイ此位ダラウト云フノガ時價デアリマス、ソレダカラ時價ト云フ中ニモ餘程餘裕ガアル、先刻モ申シマシタ通リ百圓ノモノヲ必ズ百圓ト云フコトハ買手ニ依ツテハ己レハ八十圓デナケレバ買ハヌト云フ者モアル、時價ト云フモノハ曖昧デアル、曖昧デアルケレドモ自カラ其處ニ極マツタモノガアラウト思フ、ソレデ嘘ヲ書クト云フコトハドノ點カラシテモ實際ニ必要ダト云フコトヲ見イ出スコトハ出來ナイ、ソレハ忙ハシイニハ相違ナイ、ソレダカラ或ハ實際家モ會社ノ御方モ其方カラ申スノデバアルマイカト思フ、株主ナドト云フ者ハ今年ハ此位デハ幾ラカ御員ケガアリマスカト問フ位ニナツテ居ルダラウト思フ、總會ヲ開イテモ中々分リハシナイ、今年ノ懸値ハ幾ラアルト云フコトハ、ドウシテ質シマス、一々調ベテ置イタナラバ吾々ハソレニ答ヘル義務ハナイト云フデアラウ、サウスルト本統ノコトヲ言ハヌデ居ツテハイカヌデハアリマセヌカ、又株主ニハ知ラセヌデ置テヤルノガ宜イト云フガ、會社ナラソレハ怪シカラヌ話デ、株主ニ何デモ打出シテ知ラセルガ宜シイ、惡イコトガアツタナラバ、是ハ御前逹ハサウ言フケレドモ茲ニ斯ウアルノニ、餘リ配當ヲ餘計ニ望ンデモ斯ウナルゾト云フ利害ヲ說イテ承諾サセテヤルコソ相當デハアリマセヌカ、ソレヲ無理ニ隱シテ置テ是ダケシカナイ、是ヲ御覽ナサイナドト云フコトハ怪シカラヌコトデアル、今年ハ幾ラ幾ラシカアリマセヌ、是ハ懸値ハゴザイマセヌト云フカ知レヌガ、ソレデハドウモ極クイカヌノデアル、或バ實際ハ私モ十分推察スルノハ忙ガシクテ、偶々幾ラニシテ置ケバ宜シイト云フコトハアリマセウガ、ソレハ御承知ノ通リ歐羅巴人ノ精密ノ頭カラハ、皆自分ノ財產カラ何カラ今日ハ是ダケ減ツタ、アレダケ減ツタト云フコトヲ書ク位デアルカラ、會社デモソンナコトニハ平生注意シテ置クベキコトト思フ、ソレハ日本流ノ譯ノ分ラヌ大槪ノ所デヤツテ置ケト云フコトハ宜クナイト思フ、又株主ニ知ラセヌト云フコトモ宜クナイ、ト思フ、株主ガ立テタ會社デハナイカ、ソレヲ財產ガ幾ラアルト云フコトヲ知ラセヌデ置クノハ宜クナイト思フ、一々取調ベニ懸ッタ後會議ヲ開キマセウト言ツテモソレデハ間ニ合ハヌ、ソレダカラ若シ實地ニ付イテ時價ヨリモ落サナケレバナラヌト云フコトナラバ、時價ハ千圓アルケレドモ是ハニ割引キニシテアルト、チヤソト書クガ宜イ、サウスルト皆ガドウ云フ理窟デスカ、イヤニ割引イテ置カナイト會社ノ都合ガ惡イコトガアルト言ッテ虞直グニ話スガ宜イデハアリマセヌカ、私ハ嘘ヲ書クト云フコトハ何故カ分ラヌ、株主ノ持ツテ居ル會社デハアリマセヌカ、ナゼソレヲ隱サナケレバナラヌカ、私ニハドウモ解シ兼ネル、ソレハ成程實際ハ御忙ガシイノデアリマセウガ、其時價ト云フコトガ分ラヌト云フヤウナコトハ一向私ニハ何ノ意味カ分ラヌノデアリマス、大槪ナ所ヲ仰シヤリサヘスレバ、裁判所デ決シテソレヲ罰シテ五錢違ツテ居ルナドト云フコトハ裁判所ガ分ルモノデナイ、ソレハ非常ナ違ヒデ、サウ云フ値ヲ附ケベキモノデナイノヲ附ケタト云フトキヨリ外ニ決シテアルベキデハナイト思フ
○一番(富井政章君)
採決ノ方法ニ付イテ一ツ希望ヲ述ベタイト思フ、先刻第七條ガ議決ニナリマシタトキニ申上ヤウト思ツタノデアリマシタガ、機會ヲ逸シテ仕舞タノデアリマス、此會ニ於ケル原案ハ現行法デナクシテ、主査委員會デ議決セラレタモノガ原案デアラウト思ヒマス、サウスルト是ニ付イテ採決スルノガ必要デアル、是ニ一番遠イ削除設カラ採決ヲセラレマシテ、`ソレカラ追々修正案ニ付イテ採決セラレテ、ソレガ皆潰レタ場合ニハ原案ガ可決セラレタコトニナルノデアリマス、原案ニ付イテ採決スル必要ハナイノデアラウト思フ、是マデ刑法其他ノ議事ニ付イテモ、サウ云フ風ニヤリ來タッテ居ルト私ハ思フ、ソレデ原案ニ付イテ採決スルト云フコトハ御止メニナリマシテ、是ニ對スル反對案修正案等ニ付イテ、原案ニ最モ遠イノカラ御採決下サレマシテ、若シソレガ皆潰レタ場合ニハ、當然原案ガ通ルコトニナルヤウニスルノガ正シイト思ヒマス
○十番(梅謙次郞君)
チョット其事ニ付イテ簡單ニ述ベテ見タイ、私ハ會長ノ採決ノ仕方ガ最モ當ヲ得テ居ルト思フ、ソレニハ會議規則デ富井君ノ申サレタヤウニ極メテ居ルナラバ仕方ガナイガ、若シ議事規則ニサウ云フコトガ何等モ極メテナイナラバ、ソレハ會長ノ御採決ノ方法ガ最モ當ヲ得テ居ルト思フ、富井君ハ刑法改正案ノコトヲ言ハレマスガ、是ハ刑法全體ノコトヲ議スル場合ニハ當然デアリマスガ、今ハサウデナイ、商法中如何ナル箇條ヲ改ムルヤ否ヤト云フコトガ議事ニ上ツテ居ル、先刻モ議論ガアッタヤウニ此案ダケガ議事ノ目的デハナイ、委員中ニ若シ他ノ部分ニモ改正ヲ加ヘタイト云フ意見ガアレバ、無論出シテ宜シイノデアリマス、其委員カラ出タ所ノ改正案ト此改正案トノ中ニ於テハ同ジモノデアル、之ヲ原案トシテ反對ト云フ者ハ削除說トシテ採決スルナラバ、私ノ修正案モ原案トシテソレニ對シテ先ヅ削除說ヲ採ラナケレバナラヌト云フコトニナリマス、ソレハ採決ノ方法トシテ會長ノ宣吿通リガ誠ニ御尤モデアラウト思フ
○會長(子爵岡部長職君)
チヨツト採決ノ方法ニ付イテ一番ト十番カラ御說ガ出マシタガ、本席ニ於テハ今日議題ニ上ツテ居ル所ノ案ト云フモノハ、之ヲ原案トスル外ニ原案トスベキモノハナイト思フ、是マデ色々ノ調書ハアッタケレドモ、ソレハ參考ニ止マツテ居ル、案トシテ出タモノハ是ガ議案デアル、先刻梅委員カラ出タ如キ案ガ卽チ原案ニ對スル修正案ト見テ宜カラウト思フ、原案ト云ヒ修正案ト云フノハ幾ラカ嫌ヒガアルカ知レマセヌガ、原案ニ伴フ所ノ商法修正案ト見テ宜カラウト思フ、ソレデ之ヲ原案ト見ル方ガ至當ト思フ
○二十八番(元田肇君)
私ハ是ハ留保シテ置キタイト思フ、先刻來ノ御議論ヲ伺ヒマスト、殆ンド評決ニ困ツテシマツタ、種々ノ議論モ起リマスシ、實際ノ質問モアリマスガ、財產目録ニ價額ヲ記載スルコトヲ要スト云フコトニナルナラバ、何ノ爲メニ要スルノデアラウカ、價額ヲ超エサヘシナケレバ石渡君ノ言ハル丶ヤルニ低クアレバ宜シイト云フモノナラ、寧ロ削除シテ財產目録ハ價額ヲ記載スルニ及ハヌト云フコトガ理論ニ適ツテ居ルモノト思フ、サウデナク財產ノ價額ヲ知リタイト云フ爲メニ記載スルコトヲ要スト云フコトデアルナラバ、正當ノ價額デナケレバナラヌ、超エサヘシナケレバドノヤウナモノデモ宜シイト云フ論ハ起ツテ來ナイト思フ、此點カラ言フト現行法ノ方ガ非常ニ宜イヤウニ思フ、最初ハ削除說ガ宜イト考ヘテ居リマシタガ、若槻君、志村君ノ贊成論ハ積極論トシテ御述ベニナル所ガ如何ニモ御尤モデアル、卽チ實際ニ適スルヤウニシタイト云フ感ジモ起シタノデアリマスケレドモ、其反對ニ一木君ノ御話ノヤウナ亞米利加ニ於テハアルガ日本ニナイト云フガ、日本ニモ澤山アル、保險會社ナドハ大阪、京都邊リデハ財產目録ヲ減少シテ之ヲ揭ゲタト云フコトデ、大審院ノ問題ニナリ刑事事件マデ惹キ起シタモノガアル、或場合ニハ農商務省ガ小サイ保險會社ヲ無クナサウト云フコトヲヤリダシタコトガアツテ、裁判所ハ酷ク此人間ヲ罰スルト云フ事件ガアツタコトヲ承知シテ居ル、又會社ノ内幕ニ居ル者ハ何處マデモ財產ハ餘計アルヤウニ見セテ置ク、卽チ實際家ノ御話デアリマスケレドモ、ソレハ志村サン或ハ若槻サソバ御承知ニナツテ居ル、確實ナル會社或ハ委員ニナツテ居ラル丶阿部泰亠減君ノ如キ確實ナル會社ハ兎ニ角、私ノ近來信ズル所デハ斯樣ナ確實ノ會社ハ少ナイ、却テ此會社ノ間ニ奇利ヲ博シヤウト云フコトガ横行シテ居ルト私ハ信ズル、此點カラ申シマスト云フト、實際家トシテ御述ベニナツタコトニモ一害アル、此處デ永遠ノ商法ヲ起草スル上ニ付イテ贊成スルノニ苦ム、若シ主義ノ上カラ大凡ノ何ノ爲メニ財產目録ヲ拵ヘルカト云フト、一向價額ノ知レナイモノヲ作ルナラバ、始メカラ作ラナイ方ガ宜シイ又會社喰ヒノ爲メニモ斯樣ナコトハ現行法ガ宜シイト云フ理窟ニナルガ、ソレハ例ガ甚ダ尠クナイノデアルカラ、無闇ニ誇大ナ財產目録ヲ作ツテヤル者ガアツテハ困ルト云フ、大藏省ノ御見込又志村君ノ御述ベニナツタノモ御尤モデアル、斯ウ云フコトハ評決ニ往ツテ宜イカ惡イカ分ラナイノデアリマス私ドモハ獪ホ此問題ニ付イテハ再考シタイト思ヒマスカラ、暫ラク修正案ニ今日ハ贊成致シテ置テ獪ホ後日マデニ調査シテ見タイト思ヒマス、チヨツト是ダケ述ベテ置キマス
○十番(梅謙次郞君)
私ハ採決法ニ付イテモウ一遍述ベテ置キマス、會長ハ原案ト云フモノニ付イテ決ヲ採ラレマシテ、ソレハ勿論贊成デアルノデスガ里ハ議ヲ言フナラバ其時一=言フノデスガ、併シナガラ同意シテ默ツテ居ツテ、唯今會長ガ原案トシテ茲ニ出テ居ル文字ガイラナイカラ、若シ是ガ不用デアルモノハ削除說トシテ決ヲ採ルヤウニ御定メニ爲ツタヤウデアリマスガ、ソレハ不當デアルト信ズル
○會長(子爵岡部長職君)
是ハ私ノ言ツタコト丶ハ違ヒマス、私ハニ册出テ居リマスガ、現行法卽チ主査會デ修正說ヲ加ヘタノハ參考書トシテ宜イト思フ、改正バカリ出シテアルモノハ原案ト見テ宜カラウト思フ、是ニ依ツテ決ヲ採ツテ往キタイト思フ
○十番(梅謙次郞君)
ソコデ此原案ガ如何ニシテ出來タカト考ヘマスノニ、是ハ純然タル原案デハナイ削除說ハ削除說トシテ決ヲ採ルモノデハナイト思フ、如何ナル改正ヲ施スベキカト云フト法律委員ガ全體ノ意嚮モアラウト思フ、併ナガラ多數ノ委員アツテ同時ニ調査スルコトデアツテ不便デアルカラ、主査委員ガ設ケラレテ居ル、其主査委員ノ調ベラレタモノガ是デアル、併ナガラ此主査委員ノ調ベラレマシタモノヨリ外ニ商法中改正ヲ加ヘナイト云フ意味デハナイ、サウシテ見ルト此改正案ノ中ノ改正案デアルシ、委員カラ他ノ改正案ヲ出セバソレモ一ノ改正案デアル、此個條ヲ改ムルガ宜イカ惡イカト云フ問題ハ、他ノ個條ニ付イテ修正ヲ加ヘルガ宜イカドウカト云フコトト値打ニ於テハ同樣デアルト思ヒマスカラ、願クバ此案ニ付イテ可否ヲ採ラル丶ヤウニシタイト思ヒマス
○四番(齋藤十一郞君)
私ハ申上ヌマデモ宜シイコトデアリマスガ、先刻梅サンカラモ御言葉ガアリマシタカラ、今日梅サンガ御提出ニナリマシタ修正案ノ事ニ付イテチョット一言申上テ置キタイノデアリマス、成程四十二條ヲ左ノ如ク改ムト書イテアル方ハ文字カラモ明カデアリマス通リ此主査會ノ案ノ四十二條二項ヲ修正案ニシテ居ルノデアリマスガ、三十四條ノ方ハ形ニ於テハ新ラシイ修正ノヤウニ見ヘマスガ、矢張四十二條ノ第二項ヲ斯樣ニ改ムト云フコト丶牽連シテ居ル案デアリマスカラ、私ノ見ル所デハ矢張リ原案ノ四十二條第二項ノ修正ニ拌フ修正デアルノデ、矢張リ原案ハ主査會案ト見タイノデアリマス、其事ヲチョット御參考マデニ申シテ置キマス
○十番(梅謙次郞君)
ソレハ形ノ上カラ言フト、私ハ斯ウ云フ印刷シタモノガ廻ツテ居ルカラ是ト較ベテ御覽ニナルヤウニ便利ノ爲メニ提出シタノデアル、若シ齋藤君ガ言ハル丶ヤウニスルト、四十二條第二項ヲ左ノ如ク改ムトセズシテ、四十二條ニ左ノ一項ヲ加フト云フコトニシタ方ガ宜イカモ知レヌガサウスルト其關係ガ不明ニナル虞レガアルカラ分リ宜ク書イタ積リデアリマス、
○二十六番(石渡敏一君)
私ハ十番ノ說ニ贊成スルノデゴザイマスガ、是ハ極メ方次第ノモノデアツテ十二番ガ御述ベニ爲ツタヤウニナツテモ構ハナイノデゴザイマス、何方ラニナツテモ宜シウゴザイマスガ、默ツテ居タナラバ原案ガズウト通ッテ仕舞フト云フコトハ、少シ急ギ過ギルヤウナ傾キガアリハシマセヌカ、殊ニ起草委員トカ或ハ委員長カラ其御說ノ出ルノハ面白クナイ感ジヲ委員ニ與ヘルト云フ虞レガアル、是ハ寧ロ御意見ヲ仰シヤラヌ方ガ宜イカト思ヒマスカラ、勸吿致シマス
○一番(富井政章君)
サウ云フ風ニ考ヘラレテハ困ル、感情ヲ害スルトカ害セヌトカ、サウ云フコトヲ眼中ニ措カズ議事ノ方法トシテ正則デアルト信ジタノデアリマス
○十七番(江木衷君)
チヨツト先程御質問シタコトデ分ラヌコトガアリマスカラ、御尋ネ致シマスガ、梅委員カラ御提出ニナリマシタノハ、主査委員ノ御改正說ト牽連シテ居ルト云フコトデアツタガ、先程ノ第一條モアラウ第二條モアラウ、ソレハ修正案ヲ提出シテ宜イト云フコトデアリマシタガ、ソレト少シ牴觸スルヤウデゴザイマスガ、、、、、、、
○四番(齋藤十一郞君)
私ノ申シマシタコトハ梅サンバ先刻新ラシイ議案ヲ提出セラレタト仰セラレタ勃ラ私ドモノ見込デハサウデナイト云フコトヲ申上タダケデアツテ、新ラシイ議案ヲ提出スルコトハナラヌト云フ趣意デ申上タノデハアリマセヌ
○會長(子爵岡部長職君)
大抵分ツテ居リマスガ、如何デゴザイマス
○十番(梅謙次郞君)
採決法ノ採決ヲ願ヒタイ
○會長(子爵岡部長職君)
會長ニ於テハ斯ウ考ヘマ教ソレデ御異議ガアルナラ又承ハリタイ、、、、、、、
○一番(富井政章君)
採決法ニ付イテ採決スルコトハ私モ贊成デゴザイマス
○會長(子爵岡部長職君)
私ノ考ヘデハ斯ウ思フ、唯今四番カラノ說ニ梅君ノ提議ノ三十四條ハ主査會ノ案ノ三十四條ト縁ガアル、是ハ主査會ニ附帶スル修正案デアル、四十二條ハ別ノモノデアルト云フヤウニ聞イテ居リマスガ、私ノ考ヘデハ詰リ採決ヲスル際ニ諸君ノ御考ヘガ北肥ク發表シ得ルコトニナレバ、後トハドウデモ宜カラウト思フ、ソコデ主査會カラ提出シタル所ノ案ガ、三十四條ガアルトシテ見レバ同ジ條ニ又新ラシイ說ガアレバ、矢張リ三十四條ニ對シテノ修正ト見テ宜カラウト思フ、イッモ帝國議會ノ如キハソレデヤツテ居ル、或條ノ案ガ出ルソレヲ同ジ條ノ中ニ一ツ附加ヘテ新ラシイコトヲ附加ヘルニシテモ、何條第二項、第三項ト云フ以上ニハ其條ノ修正案ニ相違ヒナイ、ソレ故案ガナカツタ時ニ出タモノハ別ノ提議トシテ見テ宜カラウト思フ、三十四條ニ牽連シテ居ル案デアルナラバ、修正ノ事柄ハ丸デ新ラシイコトヲ其處ニ篏メルト見テ、、、、、、、所ガ三十四條、茲ニ在ル所ノ修正案ト見テ宜カラウト云フ、何方ラニシタ所ガ採決ヲスル際ニ諸看ガ贊否ヲ表セラル丶ニ不都合ガナイダケノコトニスレバ、ソレデ宜カラウト思フガ如何デゴザイマス
○三十四番(穗積陳重君)
採決ノ方法ハ起草委員ノ富井君ノ議論ガ正シイト思ヒマスガ、實際ニ於テハ此後トニ現行商法ガ控ヘテアリマスカラ、丁寧ニヤツテ往カウト思フナラバ梅君ノ御論ノヤウニシテ往ク方ガ確カデゴザイマス、宜イカ惡イカ念ヲ推シテ往ク方ガ宜イト思フ、其方ニ私ハ贊成シマス
○會長(子爵岡部長職君)
三十四條ノ御希望ハ假リニ今議題ニ爲ツテ居ル、次ギノ二十六條ノ第二項サウスレバ現行法ノ二十六條ト云フモノヲ問題ニ供シテ置クガ宜カラウト云フノデゴザイマス
○三十四番(穗積陳重君)
形ニ現ハレテ見レバ小山君ノ削除說デ御採決ニナル、削除說ガ消ヘタラバ富井君ノ御發議ノヤウニ此原案ガ成立ツ、サウスルト其時ニ當ツテハ提出案デ宜イカト言ツテ、ソレニモ手ヲ擧ゲサシテ御覽ニナルコトダラウト思フ
○十番(梅謙次郞君)
會長ガ第七條ニ付イテ採決サレタヤウニ第七條ニ於テハ贊成ノ者ハ手ヲ擧ゲロト云フコトデ異議ノナイ場合ハ宜シウゴザイマスガ、先刻ハ江木君カラ異議ガアツタ、サウ云フ場合ニ會長ガ此案デ宜イカト言ツテ決ヲ採ラレマシタ、本條ノ如キハ削除說マデ出テ居ルカラ此個條ニ付イテ決ヲ採ツタガ宜カラウト思フ
○三十五番(横田國臣君)
チヨツト梅委員ニ正シマスガ、是ガ丸デ商法ヲ作リ變ヘルト云フ時分ノ議案ト云フモノハ作リ變ヘル法ニナル商法ヲ修正スルト云フノダカラ此原案デ宜イカト云フコトヲ此現行法ニ付イテ採ルノガ至當デアルト仰シヤル、、、、、、
○十番(梅謙次郞君)
現行法ヲ改ムルト云フ法ニ付イテ、、、、
○三十五番(横田國臣君)
理窟ハサウダト思フ皆變ハルト云フ時ニハドレヲドウスルト云フコトハ實際往キハシナイ、今度現行法ガアルノニソレヲ修正スルト云フコトデアルカラサウナルト思フ、ソレデ梅委員ノ御說ハ宜イト思フ
○一番(富井政章君)
梅君ノ御考ヘモ私ノ考ヘト正反對デアリマスガ、御自分ノ主義ハ貫徹シテ居ルト思フ、削除說ト云フモノハアル可カラザルモノデ、梅君ノ說ハ現行法ガ原案ノヤウナモノ、ソレデ吾々ガ提出シタモノガ潰レタナラバ現行法ノ通リニナルノデ、削除說ヲ出サナクテモ宜イノデアリマシタ、ソレダカラ削除說ノ方ガ原案ニ近イノデアリマスカラ、私トハ議事ノ形式方法トシテ正反對ノ御意見デアリマスケレドモ、御自分ノ考ヘハ能ク貫徹シテ居ルト思フ、ソレデアリマスカラ、採決ノ方法ニ付イテハ、議場ニ御圖リニ爲ツテ多數ノ意見ニ依ッテ御決シニナルト云フコトガ至極穩ヤカデアラウト思フ
○十五番(穗積八束君)
採決法ニ時間ヲ費スノハ困リマスガ、實質ニ付イテ質問モシタイ位デアリマス、採決法ガ問題ニ爲ツテ居リマスカラ一言申シマスガ、此採決法ハ此議場デ一致サヘスレバ元來ハ如何ヤウデモ宜イノデアリマスガ、別段ニ申合セモナク、規則ガナイ以上ハ會長ガ前ニ御述ベニナツタ通リガ普通ノ例デアラウカト思フ、何モ議院ヤ何カデヤルコトガ何處デモ通用スル譯デモアリマセヌガ、現ニ會長ガ議院デナサル通リノコトデ一ツモ差支ヘナイ、卽チ原案ニ付イテ積極的ニ委員多數ノ意志ヲ明カニ表示スル場合ヲ與ヘテ下サラナケレバイカヌ、ソレダカラ前ノ通リ此案ニ多數カドウカト云フコトヲ御聞キニナルガ當リ前ノコトデアラウト思フ、貴族院デモ衆議院デモ同ジコトデシヤウソレガ例ニナル譯デハナイノデスガ、此案ヲ否決スルト云フコトニ付イテハ決シテ否決ノ法ハ採ラヌ、サウ云フコトニ願ヒタイ
○一番(富井政章君)
私ハドウデモ宜イ、議場ニ御諮リニナツテ御決シニナルコトヲ望ムノデアリマス、唯今穗輔槓君カラ述ベラレタコトハ實際議院ノ委員會デヤツテ居ルト仰セラレタガ、ソレハ少シ違ツテ居ル、議院デハ提出案ガ原案デソレニ對シテ最モ遠イ違フ案ガ出タラ、最モ遠イ方カラ決ヲ採ツテ往ク、皆倒レタラ提出案卽チ原案ガ殘ルノデアラウト思フ、ソレガ形式上正シイト思フダケデアリマスガ、併シ兎ニ角現行法ヲ改正シヤウト云フノデアリマスカラ、實質上丁重ニスル爲メニ々此案ニ付イテモ決ヲ採ルコトニハ強ヒテ反對デハナイ
○二十八番(元田肇君)
私ハ一ツ動議ヲ起シマス此原案ニ付イテ穗積サンノ修正意見ガアリマス、此修正ヲ採ルヤ否ヤト云フコトニ付イテ決ヲ願ヒタイ
○會長(子爵岡部長職君)
三十四番ノ說ニハマダ贊成ハアリマセヌ
○八番(磯部四郞君)
私ハ穗積君カラ提出ニ成リマシタ案ニ贊成ノ意ヲ表シタウ思ヒマスガ、此原案ノ出マシタ時ニ岡野委員ヨリ此案ガ成立スレバ大ニ反對セザルヲ得ヌト云フ御話ガアリマシタガ、成ルベク此問題ハ隨分重要ナ問題ノヤウニ考ヘラレマスガ、更ニ岡野委員ノ反對御意見ヲ伺ツテ置キタイ、サウシテ贊成不贊成ヲ決シタイト思ヒマスカラ、ドウカ岡野君カラ穗積君ノ修正案ニ對スル反對ノ御意見ヲ御述ベヲ願ヒタイ
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ先刻穗積サンカラ御提出ニ爲ツタ案ニ付イテ直チニ反對ノ意見ヲ述ベルト云フコトハ申シマセヌ、文字ニ現ハレテ居ル所ト說明ニナッタ所ト私ノ聞キ誤リカ知レマセヌガ、私ノ解釋ト多少違フヤウデアリマスカラ、趣意ヲ確カメタ上デ若シ考ヘト違フヤウナラバ、反對ノ意見ヲ述ベタイト申シタノデアリマス
○三十四番(穗積陳重君)
成ル可ク實際上私ハ起草案、提出案ト實質ガ同ジダト申シマシタガ、文字ノ書キ方ハ說明ガ惡クテ其爲メニ起草委員ノ所ニモチョット御相談ニ行キマシタケレドモ、成立タナクテハ誠ニ殘念ト思ヒマスカラ、岡野君ニ能ク御尋ネヲ先ヅ願ツテ往ケルナラバ御贊成ラ願ヒタイト思ヒヤスケレドモ、ソレハ後トノコトデ宜シウゴザイマス
○二番(岡野敬次郞君)
私ハ極ク簡單ニ申上マス、先刻ノ提出ノ案ニ依リマスルト財產目録ニハ動產不動產債權其他ノ財產ニ價額ヲ附シテ之ヲ記載スルコトヲ要ス但シ價額ハ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ヲ超ユルコトヲ得ズト云フヤウニ伺ツタノデゴザイマス、御說明中ニ伺ヒマシタ所デ、本文ノ方ニ價額ヲ附スルコトヲ要スト云フ其價額ニ付イテ、或ハ梅君ノ言ハル丶所ノ時價ト云フヤウナ意味合ヲ以テ御說明ニ爲ツタヤウニ私ハ聞キ採ツタノデゴザイマス、卽チ時價ヲ附スルノガ原則ダト云フコトヲ表面ニ立テテ但シ書キヲ置テ財產目録調製ノ時ニ於ケル價額ヲ超ユルコトヲ得ズト云フ、稍々折衷ノ御意見ノヤウニ私ハ伺ツタノデアリマス、石渡君モ何カサウ云フヤウナコトニ聞カレタヤウニ承ハツタノデアリマス、若シサウ云フ御趣意デアリマスナラバ、本文ニ言フ所ノ價額ト云フノガ何ノ價額デアルカ分ラヌコトニナル、卽チ時價ト云フノハ財產目録調畑製ノ時ニ於ケル價額ガ時價デアリマスカラ、ソレデ若シ本文ノ方ノ價〃額ト云フモノガ、時價ト云フ意味冖デアルナラバ、財產目録ニハ動產不動產其他ノ財產云々、斯ウ云フコトデアルト思ヒマスカラ、ソレデハ私ハ意味ヲ爲サヌト思フノデアリマス、唯財產ヲ書イタ計リデハイカヌ、是ニ價ヲ附セヨト云フ意味デアルナラバ、原案ノ趣意ト私ハ變ハラヌト思フノデアリマス、若シ時價ト云フ意味デアリマスナラバ、私ハ修正ノ御意見ニ遺憾ナガラ贊成ヲ表スルコトハ出來ナイノデアリマス、又若シモ唯額ト云フコトノ價値ヲ附ケルト云フコトダケノ價額デアルナラバ、二十六條ノ二項ハ其趣意ニ於テハ變ハラヌノデアリマシテ、私ハソレハ何レニシテモ此議場ニ於テハ多數決ニ從フ積リデアリマス
○三十四番(穗積陳重君)
能ク分リマシタ、私モ先刻カラ其點ダラウト思ツテ居ッタノデアリマス、私ガ先刻申シタノハ斯ウ云フコトヲ言ツタノデアリマス、兎ニ角財產目録ニ價額ヲ附シテ記載シナケレバナラヌト云フコトハ、財產目録ト云フモノ丶性質ニ合ハヌカモ知レヌ、併ナガラ文字ニ現ハシテ置ク方ガ宜シイカ、價額ヲ附セナケレバナラヌト云フ價額ト云フ言葉ハ、自分ハ經濟家デナイカラソンナコトヲ言フニハ劍呑デアルガ、價額ト言ヘバ其時ノコトデアラウト云フコトヲ言ヒマシタ爲メニ、折衷說ト御覽ニナルカモ分リマセヌ、ソレハ自分ノ贊成ヲ一人デモ多ク得タイト思ツテ格別其點ニ付イテハ八釜シイコトハナイト思フタノデアリマスガ、要スルニ時價込跚トソレカラ必ズシモ時價ヲ童目カナケレバナラヌ、時價ヲ書カナイモノハ財產目録ニ非ズト云フ此二ツガ爭ヒノ點ナノデアリマス、ソレデ私ノ申シマシタノハ修正案ノ修正ニ贊成スルト云フコトヲ申シマシタ、但シ文字ニハモツト宜イ書方ガアリハシナイカ、卽チ一點ニ於テハ財產目録ニハ價額ヲ附セヨト云フコトガ文字ニ現ハレテナイソレデ現ハシタイ、第二點ニハ價額ヲ超エテハイカヌト云フコトヲ但シ書キニシタイ是ダケノコトデアリマシテ、ソレ故此方ハ修正案ト實質ハ同ジコトダト申シタ譯デアリマス
○二番(岡野敬次郞君)
御說明ニ依ツテ分リマシタガ、本文ノ方ノ價額ヲ附スルコトヲ要ス、其價額ト云フモノハ唯金錢的ニ價値ヲ定メヤウト云フ意味ニ爲ルノデアリマスカ
○三十四番(穗積陳重君)
左樣デゴザイマス
○二番(岡野敬次郞君)
ソレナラバ文字論ニナルノデアリマス、獪ホ財產目録調製ノ時ト云フノハ營業年度ノ末日ニ於ケル意味ニナルノデアル、ソレデ營業年度ノ末日ニ於テ財產目録貸借鸚照表ヲ作ルモノデアリマセヌカラ、記載方ノコトハ一ケ月半トカ二ケ月トカ甚シキハ支店ヤ出張所ノアリマス時ハ、六ケ月計リノ期間ヲ存スルコトニナルノデアリマス、サウ云フ場合ニ今ノ時價論ニ付イテハ餘程御考ヘヲ願ヒタイト思フ
○一番(富井政章君)
エライクドイヤウデアリマスガ、採決ノ方法ニ付イテ今一言述ベタイト思フ、採決ノ方法ハ今日計リデナイ、是ガ一旦極マレバ仕舞ヒマデ往キマスカラ、重大ナ問題デアツテ成ル可ク穩當ニ極マルコトヲ望ミマス、私ハ決シテ自分ノ言フタコトヲ固執スル譯デハナイ、唯形式上正シイカト思ツタダケデアリマス、斯ウ云フ風ニナツタナラバ實際上能クハナイデアリマセウカ
○四番(齋藤十一郞君)
此議案讐二番遠イ削除說カラ決ヲ採ツテ、梅君ノ趣意カラ言ヘバ不必要デアルガ、ソレハ一歩ヲ讓ツテ貰ッテソレカラ修正案ニ移ル、ソレガ皆潰ブレタラ當然是ニナルト云フコトハ止メニシテ、一番仕舞ヒニ又此案ニ付イテ決ヲ採リ、ソレガ潰ブレタラ現行法ニナルコトニシタイ
(「異議ナシ」ト呼プ者アリ)
○二十八番(元田肇君)
問題ハ改正中ノ重要ナモノデアラウト思フノデアリマシテ、私ドモ現ニ手ヲ擧ゲルコトニ迷フテ居ルノデアリマス、獨リ私ノミデナイカト思フノデアリマス、從ツテ採決ノコトニモ非常ニ八釜シイト思フノデアリマスカラ、次ギノ會議マデ御延シニナツテハ如何デアリマセウカ、一日ヲ爭フ必要ハナイト思フ
(「贊成」ト呼プ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
サウスルト諸君ノ御討議ハ終ツタコトト認メマス、ソレカラ採決ノコト」一付イテ唯今元田委員カラ此案ノ採決ハ次回ニ延ハシタイ本日ハ此儘デ散會ヲ望ムト云フコトデソレニ贊成モアリマシタカラ、決ヲ採リマス、元田君ノ本日ノ採決ヲ延期スルト云フコトニ贊成ノ諸君ハ手ヲ御擧ゲ下サイ
擧手者少數
○十番(梅謙次郞君)
ソレデハ一言致シマスガ、富井君ハ長イ間貴族院ノ議員ノ職ヲ奉ジテ居ラレマスカラ、御記憶ノ間違フコトハナイト思ヒマス、委員會ハ正式ニ決議シマスカドウカ知レマセヌガ、本會議ニ於テハ確ニ削除說ニ付イテ決ヲ綵リマセヌ、或ハ決ヲ採ツテ否トナツテ仕舞ヘバ、、、、、、、修正讀ガアレバ修正說モ採リ、削除說ハ決ヲ樔}ツタト云フコトハ聞カヌ
○三十四番(穗積陳重君)
私モサウ思ヒマス
○會長(子爵岡部長職君)
私ガ採決シマシタ方法ガ不明了デアレバ取替ヘテ宜シウゴザイマス、一遍ヤツテ見マス、唯今採決シマスノハ、一ツノ採決ダラウト思フ、此原案卽チ主査委員カラ出シタル所ノ二十六條第二項ヲ左ノ通リ改ムト云フ、是ガ原案デアツテ是ニ對スル修正案ハナイ、ソコデ此案ガ宜シイ主査ノ報吿ガ宜シイト云フ御方ハ此原案ニ付イテ手ヲ御擧ゲ下サレバ宜シイ、此案ニ不贊成デアルト云フナラバ矢張リ現行法ノ通リデ宜シイト云フコトニナル
○八番(磯部四郞君)
私ハ穗積君ニ贊成致シマシタガ、、、、、
○會長(子爵岡部長職君)
八番ハ既ニ二十四番ニ贊成ヲサレタト云フコトテアリマス
○二十六番(石渡敏一君)
私ハ穗積君ノ說ニ贊成モ反對モ能ク承ハラヌノデ是ハ次ギニ廻ハシテ戴キタイト思フ
○會長(子爵岡部長職君)
サウスルト總テ元田君ノ御說ノ如ク決ヲ見合ハシテ置カナケレバナラヌコトニナル、鹽今主査會ノ報吿ノ說ヲ此處デ決シテ仕舞ッタ以上ハ、穗積君ノ修正ヲ議スル餘地ガナクナツテ仕舞フ
○十八番(一木喜德郞君)
先刻既ニ今日ノ決議ヲ延バスト云フコトガ否決ニナリマシタカラ、御進行ニナツタガ宜カラウト思ヒマス、併シ穗積君ノ修正說ニ付イテ、マダ議論ヲ有ツテ居ラル丶方ガアルヤウデゴザイマス、併シ大體ノ趣意ニ付キマシテハ、卽チ超ユルコトヲ得ズト云フコトニスルト云フノト、或ハ時價ヲ書カナケレバナラヌコトニスルカ、其コトニ付イテハ議論ガ盡キテ居ルヤウニ思ヒマス、先刻ノコトヲ重ンゼラレテ趣意ダケニ付イテ決ヲ採ラレテ主査案ノ如趣意ニ決セラレタナラバ、ソレニ對シテ文字上ノ修正ヲ要スルカト云フコトヲ御探リニナツタガ宜カラウト思ヒマス、
○會長(子爵岡部長職君)
二十六番ハドウデス
○二十六番(石渡敏一君)
一木君カラ述ベラレタト全ク同一ノ趣意ナノデ、穗積君ノ修正ニ付イテハマダ審議ガアルダラウト思ヒマスカラ、次回ニ延ベラレタイト云フノデゴザイマス
○會長(子爵岡部長職君)
サウシマスルト此主査會ノ案ニ付イテハ今採決ヲシテ置テ、穩積君ノ讀ニ付イテハ次回ニ議サウト云フノデスカ
○二十六番(石渡敏一君)
サウデス
○十五番(穗積八束君)
ドウゾ唯今ノ會長ノ御宣吿ノ通リガ至極宜シイヤウデアリマスカラ、三十四番カラ修正ガ出テ居リマスカラ、同意ガアリマシタラ、一番遠イノダカラ、ソレヲ第一ニ御採リヲ願ツテ、ソレガ潰ブレタラ起草委員ノ案ヲ御採リニナルガ順序ダラウト思ヒマス
○會長(子爵岡部長職君)
ソレナラ能ク分ルガ三十四番ノ修正案ニ付イテ獪ホ考ヘタイコトガアルト云フコトデアルカラ、ソレハ諸君ノ御考ヘヲ待ツテ居ル
○二十四番(奧田義人君)
主査案ニ付イテ三十四番カラ修正說ガ出テ居ツテ、此修正說ニ付イテハ何等ノ評議ヲ經ナイノデアリマスカラ、直ニ決セラル丶ト云フコトハ輕卒ダト思ヒマスカラ、十分ニ審議ヲスルノガ當然ト思ヒマスノデ、獪ホ會長ノ御考デ今晩議事ヲ繼續ニナルナラバ、是ヨリ食事ヲ致シテ繼續ニ相成リタイ、左モナケレバ獪ホ修正案ニ付イテ決スベキ點ガアルト云フ御見込ナラバ、今日ハ是デ閉會ニナルヨリ仕方ガナイト思ヒマス
○會長(子爵岡部長職君)
ソレデハ御相談ヲ致シマスカラ、宜ク御聞キヲ願ヒマス、討論ハ既ニ終ツタト云フコトデ採決ト云フコトニ取掛リマシタ所ガ、八番ハ三十四番ニ贊成ヲシタノデアルト云フコトデアッタノデ、實ハ本席ニ於テ八番ガ既ニ三十四番ニ贊成ヲシタト云フコトヲ、聞漏レテ居ツタノハ私ノ誤リデアツタコトヲ謝シマスカラ、修正說ガ成立ッテ居ッタトシテ見タナラバ、三十四番ノ說ニ對シテ十分御討議ガアルダケノ餘地ガナケレバナラヌ、此原案バカリデアルト思ヒマシタカラ、採決ノコトヲ御相談シマシタガ、唯今奧田君ノ說ノ如ク三十四番ノ說ガ成立ツトルナラバ、ソレニ對シテ十分討議ノ餘地ヲ與ヘルノガ當然ト思ヒマス、私ハ此際三十四番ノ說ニ對シテ獪ホ贊成諸君ガ御討議ガアルナラバ御討議アリタイト思フ
○三十四番(穗積陳重君)
私ハ文字上ダケノ修正案ヲ出シマシテ、色々議事ガ捗ドラヌヤウニ爲ツタノハ甚ダ不本意ニ思ヒマスガ、文字モ幾分カ大切ナコトデアルト思ヒマスカラ、御考ヘヲ願ヒタイト思ヒマスガ、兎ニ角先刻一木君カラ申サレタヤウニ時價論トソレカラ時價以上ニ超ユルコトヲ得ズト云フ論ガハツキリシタ爭ノモトデアツテ、私ノ修正案ノ如キハ時價論ガ潰レタナラバ、斯ウ云フ形チニシタイト云フノデ、時價論ガ通ツテモ文字ノ修正ハ出來ルノデアリマス、ソレ故ニ是ガ三ッノ形チニナリマスト云フト、私ノ實質ハ主査提出案ヲ贊成シテ居ツテ奇妙ニ議論ガ三ツニ分レルヤウニ爲ツテモ甚ダ不本意デアリマスカラ、ドウカ一木君ノ御提議モ容レラレテ、先ヅドツチニナルカト云フコトヲ御定メ下スツテ、サウシテ私モ實質ノ方ニ手ヲ擧ゲテ置タカラ後トノコトニ致シマス、サウ云フコトニ願ハレマスマイカ、萬一不幸ニシテ主査提出案ガ潰ブレテ仕舞ヘバ、私ノハ議論シタダケガトモ潰レニナリマスカラ、、、、、、、
○會長(子爵岡部長職君)
ソレナラ斯ウ云フコトニ致シマス、此決議ニ限ツテ先ヅ現行法デ宜シイト云フコトヲ決ヲ採ツテ見タイト思ヒマスガ、如何デゴザイマセウ
○二十四番(奧田義人君)
私ハ如何ヤウデモ構ヒマセヌケレドモ、折角三十四番ヨリ御苦心ノ結果修正案ガ出テ居リマス、是ニ付キマシテ贊成ヲ表セラレタ御方モアリマスシ、殊ニ又混雜ン際ニ出マシタ修正案デアリマスノデ、或ハ其趣意ガ十分貫徹シテ居ラヌデハナイカト云フ虞レモアルヤウニ考ヘマスノデアリマスカラ、何モ今晩是非之ヲ決セラレナケレバナラヌト云フ必要ガアル譯デモアリマスヌカラ、願クハ先刻元田君ヨリ動議モ出マシタガ、其動議ニハ穗積君ノ修正案ガ成立ツテ居ルモノデナイト云フ考ヘデ、恐ラクハ多數ノ人ガ手ガ擧ゲラレナカッタノデハナイカト私ハ思フ、若シ今晩何處マデモ議事ヲ御繼續ニナラヌト云フ會長ノ御考ヘデアリマスナラバ出來得ベクンバ次回ニ御延シニナツテ丁重ニ審議ヲ盡スヤウニ願ヒマス
(「贊成」ト呼ブ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
唯今二十四番ヨリ御說ガ出マシタガ、本會ニ於テ十分討議ニナツテ愼重ナル御審議アルコトヲ望ムノデアリマス、先刻三十四番ノ說ニ對シテ八番ノ贊成ノアッタコトヲ聞キ漏シマシタノハ御詫ヲ致シマス、唯今二十四番ノ御說モ御尤モデアルシ、今晩ハ皆樣モ餘程御疲勞デアルト思ヒマスカラ、今晩ハ是マデニシタ方ガ宜カラウト思フ、サウシテ決議ヲ致スト云フコトニナリマシタケレドモ、其後ニ今八番ノ贊成云々ノコトモアリマスカラ、今晩ハ是マデニシテ能ク御考ヘ下スッテ次回ニ於テ此事ニ付イテ御議ジヲ願ヒタイト思ヒマス
(「異議ナシ」ト呼ブ者アリ)
○會長(子爵岡部長職君)
ソレデハ今晩ノ議事ハ是デ終リマシテ、次回ハ八日ト云フコトニ致シマス