6 準委任(民法第656条関係)
(1) 民法第656条の規律を維持した上で,次のように付け加えるものとする。法律行為でない事務の委託であって,[受任者の選択に当たって,知識,経
験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの]については,前記1(自己執行義務),民法第651条, 第653条(委任者が破産手続開始の決定を受けた場合に関する部分を除く。)を準用しないものとする。
(2) 上記(1)の準委任の終了について,次の規定を設けるものとする。
ア当事者が準委任の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,準委任契約は,解約の申入れの日から[2週間]を経過することによって終了する。
イ当事者が準委任の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。
ウ無償の準委任においては,受任者は,いつでも契約の解除をすることができる。
(注)民法第656条の現状を維持するという考え方がある。
(概要)
本文(1)は,法律行為でない事務の委託について委任の規定を準用するという民法第656条を原則として維持することとするものである。しかし,準委任は,役務の提供を内容とする契約のうち他の典型契約に該当しないものの受け皿としての役割を果たしているとの指摘もあるが,このように多様なものが準委任に該当するとすれば,必ずしも委任の規定の全てを準用するのが適当であるとは言えない場合がある。特に,委任は当事者間の信頼関係を基礎とするとされ,そのため,当事者はいつでも任意に契約を解除することができるとする規定(民法第651条)などが設けられているが,これらが役務の提供を内容とする契約に一般的に妥当するとは言えない。そこで,本文(1)では,準委任のうち,委任の規定を全面的に準用するのが適当でないと考えられる類型を抽出し,委任の規定のうちの一部の準用を否定するものである。
委任の規定の一部が準用されない類型をどのような基準によって抽出するかは,引き続き検討する必要があるが,本文(1)では,その受任者の個性に着目し,その受任者であるか らこそ当該委任事務を委託するという関係があるかどうかによって区別することとし,このことを,[受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの]と表現している。これに該当するものとして,比較的単純な事務作業を内容とする契約が考えられる。これらの契約においては委任の規定のうち,信頼関係を背景とする規定を準用することは必ずしも合理的ではない。そこで,前記1(自己執行義務),民法第651条(任意解除権。前記5(1)参照),第653条(委任の終了。ただし,委任者が破産手続開始の決定を受けた場合に関する部分を除く。前記5(2)参照)を準用しないこととしている。これらの規定は,受任者の個性に着目し,当該受任者との信頼関係を基礎とするものであるからこそ妥当するものであり, このような特殊な関係にない,通常の事務処理契約には必ずしも妥当しないと考えられるからである。
本文(2)は,[受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの]について民法第651条が準用されないことから,その終了についての規定を設けるものである。本文(2)のア及びイは, 雇用に関する同法第627条第1項,第628条と同様の規定を設けることとするものである。本文(2)ウは,無償の準委任についての特則を設けるものであり,これは受任者の好意に基づく性格を持つことから,受任者に対する契約の拘束力を緩和し,受任者はいつでも契約を解除することができるものとすることとしている。