3 契約の解除の効果(民法第545条関係)
民法第545条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その契約に基づく債務の履行を請求することができないものとする。
(2) 上記(1)の場合には,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負うものとする。ただし,第三者の権利を害することはできないものとする。
(3) 上記(2)の義務を負う場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならないものとする。
(4) 上記(2)の義務を負う場合において,給付を受けた金銭以外のものを返還するときは,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還しなければならないものとする。この場合において,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還することができないときは,その価額を償還しなければならないものとする。
(5) 上記(4)により償還の義務を負う者が相手方の債務不履行により契約の解除をした者であるときは,給付を受けたものの価額の償還義務は,自己が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額を限度とするものとする。
(6) 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げないものとする。
(注)上記(5)について,「自己が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価値の額又は現に受けている利益の額のいずれか多い額」を限度とするのではなく,「給付を受けた者が当該契約に基づいて給付し若しくは給付すべきであった価値の額」を限度とするという考え方がある。
(概要)
本文(1)は,解除権行使の効果として,両当事者がその契約に基づく債務の履行を請求することができなくなる旨の規定を新たに設けるものである。現行法の解釈として異論のないところを明文化するものであり,いわゆる直接効果説と間接効果説の対立に関して特定の立場を採るものではない。
本文(2)は民法第545条第1項を,本文(3)は同条第2項を,それぞれ維持するものである。
本文(4)は,民法第545条第1項本文の原状回復義務の具体的内容として,受領した給付が金銭以外の場合の返還義務の内容を定める規定を新たに設けるものである。受領した給付のほか,その給付から生じた果実を返還する義務を負うこととしている。それらの返還をすることができないときには,近時の有力な学説を踏まえ,返還できない原因の如何を問わず,その給付等の客観的な価額を償還する義務を負うものとしている(同様の考え方に基づくものとして,前記第5,2(1)参照)。
本文(5)は,償還義務者が相手方の債務不履行により契約の解除をした者である場合に限り,本文(4)による給付それ自体の価額が自己の負担する反対給付の価額又は現に受けてい る利益の額のいずれか多いほうを上回るときは,自己の負担する反対給付の価額又は現に受けている利益の額のいずれか多いほうを上限として償還すれば足りる旨の規律を設けるものである。これは,反対給付の価額を超える償還義務を負うとすると,目的物の価額が反対給付の価額を上回っていた場合に,債務の履行に落ち度のない償還義務者に不測の損害を与えるおそれがあり,ひいては解除をちゅうちょさせることにもなりかねないことを考慮したものである。もっとも,自己が負担する反対給付の価額よりも自己が受けた給付による現存利益の額(例えば,給付の目的物を転売して得た代金の額)のほうが高いときは,自己が受けた給付の客観的な価額を下回る限りで,現存利益の額を上限としても不合理ではない。そこで,給付の価額償還義務は,反対給付の価額か現存利益のいずれか多いほうを限度としている(自己が受けた給付の客観的価額がその負担する反対給付の価額を下回るときは,前者のみを償還すれば足りる)。なお,「現に受けている利益の額」を上限とする考え方は一般的に確立したものではないとして,上限とするのは,自己が負担する反対給付の価額のみとすべきであるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。
本文(6)は,民法第545条第3項を維持するものである。