392条
債権者カ同一ノ債権ノ担保トシテ数個ノ不動産ノ上ニ抵当権ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代価ヲ配当スヘキトキハ其各不動産ノ価額ニ準シテ其債権ノ負担ヲ分ツ
或不動産ノ代価ノミヲ配当スヘキトキハ抵当権者ハ其代価ニ付キ債権ノ全部ノ弁済ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵当権者ハ前項ノ規定ニ従ヒ右ノ抵当権者カ他ノ不動産ニ付キ弁済ヲ受クヘキ金額ニ満ツルマテ之ニ代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得
第三百九十二條 債權者カ同一ノ債權ノ擔保トシテ數個ノ不動產ノ上ニ抵當權ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代價ヲ配當スヘキトキハ其各不動產ノ價額ニ準シテ其債權ノ負擔ヲ分ツ
或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ抵當權者ハ其代價ニ付キ債權ノ全部ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵當權者ハ前項ノ規定ニ從ヒ右ノ抵當權者カ他ノ不動產ニ付キ辨濟ヲ受クヘキ金額ニ滿ツルマテ之ニ代位シテ抵當權ヲ行フコトヲ得（擔二四二）
本條ハ同一ノ債權ノ擔保トシテ數個ノ不動產ノ上ニ抵當權ノ存スル場合ニ付テ規定セリ蓋シ純然タル理論ヨリ之ヲ言ヘハ抵當權者ハ自己ノ選擇ニ從ヒ其抵當不動產ノ一個ノ代價ニ付テ辨濟ヲ受クルコトヲ得ヘシ是レ殊ニ抵當權ノ不可分ナル性質ニ照ラスモ敢テ疑ヲ容レサル所ナリ然リト雖モ是レ他ノ債權者ニ取リテハ頗ル不利益ナルコト尠カラス例ヘハ甲ハ千圓ノ債權ニ付キ子丑兩不動產ノ價各〻千圓ナルモノノ上ニ第一ノ抵當權ヲ有シ乙ハ子ノ不動產ニ付テ同シク千圓ニ付キ第二抵當ヲ有スルトセンニ若シ甲ニシテ子不動產ノミニ付テ其抵當權ヲ行フコトヲ得ルモノトセハ乙ハ一錢ヲモ受クルコト能ハス之ニ反シテ若シ甲ニシテ半額ハ子ヲ以テ他ノ半額ハ丑ヲ以テ辨濟ヲ受クヘキモノトセハ乙モ亦五百圓ヲ受クルコトヲ得ヘシ而シテ甲ニ取リテハ毫モ損失ナク子不動產ノミニ付テ辨濟ヲ受クルト殆ト異ナルコトナキナリ故ニ本條ニ於テハ原則トシテ甲ハ子丑兩不動產ニ付キ平等ニ辨濟ヲ受クヘキモノトセリ
右ハ子丑ノ兩不動產ヲ同時ニ賣却スル場合ニ於テハ極メテ圓滑ニ行ハルヘキ所ナリト雖モ若シ子丑ノ中一不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ之ヲ適用スルコト能ハス何トナレハ若シ此場合ニ於テ尙ホ前ニ述ヘタル原則ヲ適用セント欲スルトキハ甲ハ元來子不動產ノ代價ノミヲ以テ全額ノ辨濟ヲ受クル權利ヲ有スルニ拘ハラス子不動產ニ付テハ先ツ半額ヲ受取リ更ニ丑不動產ノ賣却ヲ待チテ殘餘ノ半額ヲ受取ラサルコトヲ得サルニ至リ普通ノ債權者スラ一部辨濟ヲ强ヒラルルコトナキヲ原則トスルニ不可分ナル抵當權ヲ有スル甲ニシテ却テ一部辨濟ヲ强ヒラレ二不動產ニ付テ抵當權ヲ有シナカラ却テ子不動產ノミニ付テ抵當權ヲ有スル者ニ及ハサルカ如キ結果ヲ生シ極メテ不公平ナリト謂フヘシ丑不動產ノ遠隔ノ地ニ在ルトキ殊ニ然リトス故ニ此場合ニ於テハ甲ハ先ツ子不動產ノミニ付テ全額ノ辨濟ヲ受ケ之ニ因リテ不用ト爲リタル丑不動產ノ抵當權ニ付キ乙ヲ代位セシメ以テ畢竟前ニ述ヘタル原則ヲシテ貫徹セシメンコトヲ圖レリ故ニ前例ニ依レハ甲ハ原則トシテ子不動產ニ付キ五百圓、丑不動產ニ付キ五百圓ヲ受クヘカリシニ今子不動產ノミニ付テ千圓ヲ受取リタルカ故ニ乙ハ其子不動產ニ付テ受取ルヘカリシ五百圓ヲ受クルコト能ハサルヲ以テ更ニ轉シテ丑不動產ニ付キ其五百圓ヲ請求スルコトヲ得ヘシ而シテ其五百圓ニ付テハ甲ニ代位シ第一抵當權者ノ資格ヲ以テ之ヲ請求スルコトヲ得ヘシ
或ハ問ハン他ノ債權者ノ請求ニ因リ先ツ子不動產ヲ賣却スル場合ノ如キニ於テハ本條第二項ヲ適用スヘキハ固ヨリナリト雖モ甲ハ果シテ自ラ子不動產ノミノ賣却ヲ請求スルコトヲ得ルカト曰ク然リ蓋シ本條ノ規定ハ甲ノ權利ヲ害スルコトナクシテ乙ヲ保護セント欲スルモノナリ故ニ以テ公平ナル規定ト爲スヘシ然ルニ甲カ子不動產ノ代價ノミニ因リテ全額ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得ルニ拘ハラス必ス同時ニ丑不動產ヲモ賣却セサルコトヲ得サルモノトセハ甲カ初ニ兩不動產ヲ抵當トシテ受ケタル趣意ニ反スヘク殊ニ兩不動產互ニ遠隔ノ地ニ在ル場合ニ於テハ若シ同時ニ之ヲ賣却セサルコトヲ得サルモノトセハ甲ノ損害ヲ受クルコト尠カラサルヘシ是レ豈ニ本條ノ精神ナランヤ故ニ本條第一項ニ於テハ「同時ニ其代價ヲ配當スヘキトキ」ト云ヘリ是レ蓋シ甲又ハ他ノ債權者ノ請求ニ因リ子丑兩不動產ヲ同時ニ賣却シテ其代價モ亦同時ニ之ヲ配當スヘキ場合ヲ豫想シタルモノナリ若シ夫レ第二項ニ於テ「或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキ」ト云フハ則チ甲又ハ他ノ債權者ノ請求ニ因リ先ツ子不動產ノミヲ賣却シタル場合又ハ賣却ハ同時ニ兩不動產ニ付テ之ヲ爲スモ種種ノ理由ニ因リ子不動產ノ代價ノミ先ツ之ヲ配當スルコトヲ得ルニ至リタル場合ヲ豫想シタルモノナリ即チ甲ハ必スシモ子丑兩不動產ヲ賣却セシムルコトヲ要セス先ツ子ノミヲ賣却セシムルコトヲモ得ヘシ
第三百九十二條 債權者カ同一ノ債權ノ擔保トシテ數個ノ不動產ノ上ニ抵當權ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代價ヲ配當スヘキトキハ其各不動產ノ價額ニ準シテ其債權ノ負擔ヲ分ツ
或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ抵當權者ハ其代價ニ付キ債權ノ全部ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵當權者ハ前項ノ規定ニ從ヒ右ノ抵當權者カ他ノ不動產ニ付キ辨濟ヲ受クヘキ金額ニ滿ツルマテ之ニ代位シテ抵當權ヲ行フコトヲ得（擔二四二）
本條ハ同一ノ債權ノ擔保トシテ數個ノ不動產ノ上ニ抵當權ノ存スル場合ニ付テ規定セリ蓋シ純然タル理論ヨリ之ヲ言ヘハ抵當權者ハ自己ノ選擇ニ從ヒ其抵當不動產ノ一個ノ代價ニ付テ辨濟ヲ受クルコトヲ得サルヘカラス是レ殊ニ抵當權ノ不可分ナル性質ニ照ラスモ敢テ疑ヲ容レサル所ナリ然リト雖モ是レ他ノ債權者ニ取リテハ頗ル不利益ナルコト尠カラス例ヘハ甲ハ千圓ノ債權ニ付キ子丑兩不動產ノ價各〻千圓ナルモノノ上ニ第一ノ抵當權ヲ有シ乙ハ子ノ不動產ノ上ニ同シク千圓ニ付キ第二ノ抵當權ヲ有スルトセンニ若シ甲ニシテ子不動產ノミニ付テ其抵當權ヲ行フコトヲ得ルモノトセハ乙ハ一錢ヲモ受クルコト能ハス之ニ反シテ若シ甲ニシテ半額ハ子ヲ以テ他ノ半額ハ丑ヲ以テ辨濟ヲ受クヘキモノトセハ乙モ亦五百圓ヲ受クルコトヲ得ヘシ而シテ甲ニ取リテハ毫モ損失ナク子不動產ノミニ付テ辨濟ヲ受クルト殆ト異ナルコトナキナリ故ニ本條ニ於テハ原則トシテ甲ハ子丑兩不動產ニ付キ平等ニ辨濟ヲ受クヘキモノトセリ
右ハ子丑ノ兩不動產ヲ同時ニ賣却スル場合ニ於テハ極メテ圓滑ニ行ハルヘキ所ナリト雖モ若シ子丑ノ中一不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ之ヲ適用スルコト能ハス何トナレハ若シ此場合ニ於テ猶ホ前ニ述ヘタル原則ヲ適用セント欲スルトキハ甲ハ元來子不動產ノ代價ノミヲ以テ全額ノ辨濟ヲ受クル權利ヲ有スルニ拘ハラス子不動產ニ付テハ先ツ半額ヲ受取リ更ニ丑不動產ノ賣却ヲ待チテ殘餘ノ半額ヲ受取ラサルコトヲ得サルニ至リ普通ノ債權者スラ一部辨濟ヲ强ヒラルルコトナキヲ原則トスルニ不可分ナル抵當權ヲ有スル甲ニシテ却テ一部辨濟ヲ强ヒラレ二不動產ニ付テ抵當權ヲ有シナカラ其權利却テ子不動產ノミニ付テ抵當權ヲ有スル者ニ及ハサルカ如キ結果ヲ生シ極メテ不公平ナリト謂フヘシ丑不動產ノ遠隔ノ地ニ在ルトキ殊ニ然リトス况ヤ丑不動產カ建物ナル場合ニ於テハ何時其滅失スルコトナキヲ保セサルニ於テヲヤ故ニ此場合ニ於テハ甲ハ先ツ子不動產ノミニ付テ全額ノ辨濟ヲ受ケ之ニ因リテ不用ト爲リタル丑不動產ノ抵當權ニ付キ乙ヲ代位セシメ以テ畢竟前ニ述ヘタル原則ヲシテ貫徹セシメンコトヲ圖レリ故ニ前例ニ依レハ甲ハ原則トシテ子不動產ニ付キ五百圓、丑不動產ニ付キ五百圓ヲ受クヘカリシニ今子不動產ノミニ付テ千圓ヲ受取リタルカ故ニ乙ハ其子不動產ニ付テ受取ルヘカリシ五百圓ヲ受クルコト能ハサルヲ以テ更ニ轉シテ丑不動產ニ付キ其五百圓ヲ請求スルコトヲ得ヘシ而シテ其五百圓ニ付テハ甲ニ代位シ第一抵當權者ノ權利ヲ以テ之ヲ請求スルコトヲ得ヘシ
或ハ問ハン他ノ債權者ノ請求ニ因リ先ツ子不動產ヲ賣却スル場合ニ於テハ本條第二項ヲ適用スヘキハ固ヨリナリト雖モ甲ハ果シテ自ラ子不動產ノミノ賣却ヲ請求スルコトヲ得ルカト曰ク然リ葢シ本條ノ規定ハ甲ノ權利ヲ害スルコトナクシテ乙ヲ保護セント欲シタルモノナリ故ニ以テ公平ナル規定ト爲スヘシ然ルニ甲カ子不動產ノ代價ノミニ由リテ全額ノ辨濟ヲ受クルコトヲ得ルニ拘ハラス必ス同時ニ丑不動產ヲモ賣却セサルコトヲ得サルモノトセハ甲カ初ニ兩不動產ヲ抵當トシテ受ケタル趣意ニ反スヘク殊ニ兩不動產互ニ遠隔ノ地ニ在ル場合ニ於テハ若シ同時ニ之ヲ賣却セサルコトヲ得サルモノトセハ甲ノ損害ヲ受クルコト尠カラサルヘシ是レ豈ニ本條ノ精神ナランヤ故ニ本條第一項ノ於テハ「同時ニ其代價ヲ配當スヘキトキ」ト云ヘリ是レ葢シ甲又ハ他ノ債權者ノ請求ニ因リ子丑兩不動產ヲ同時ニ賣却シテ其代價ヲ亦同時ニ之ヲ配當スヘキ場合ヲ豫想シタルモノナリ若シ夫レ第二項ニ於テ「或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキ」ト云フハ則チ甲又ハ他ノ債權者ノ請求ニ因リ先ツ子不動產ノミヲ賣却シタル場合又ハ賣却ハ同時ニ兩不動產ニ付テ之ヲ爲スモ種種ノ理由ニ因リ子不動產ノ代價ノミ先ツ之ヲ配當スルコトヲ得ルニ至リタル場合ヲ豫想シタルモノナリ之ヲ要スルニ甲ハ必スシモ子丑兩不動產ヲ賣却セシムルコトヲ要セス先ツ子ノミヲ賣却セシムルコトヲ得ヘシ
本條第二項ノ解釋ニ付キ意外ノ判例アリ曰ク次順位ノ抵當權者カ本條第二項ノ規定ニ依リテ先順位ノ抵當權者ニ代位スルコトヲ得ルハ先順位ノ抵當權者カ「全部 ノ辨濟」ヲ受ケタルトキニ限ルト（四十一年二月二十六日大審院判決）是レ實ニ余ヲシテ一驚ヲ吃セシメタリ本條第二項ノ意ハ葢シ「或不動產ノ代價ノミヲ配當スヘキトキハ抵當權者ハ其代價ニ付キ債權ノ全部ノ辨濟ヲ」モ「受クルコトヲ得 」ヘク第一項ノ規定ニ依リ一部辨濟ヲ受ケスモ可ナリ而シテ「此場合」即チ第一項ノ規定ニ依ラサリシ場合「ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵當權者ハ前項ノ規定ニ從ヒ右ノ抵當權者カ他ノ不動產ニ付キ辨濟ヲ受クヘキ金額ニ滿ツルマテ之ニ代位シテ抵當權ヲ行フコトヲ得」ルモノトシタルニ過キサルナリ然ラスンハ前例ニ於テ甲カ子不動產ニ由リ千圓ヲ得タルトキハ乙ハ五百圓ニ付キ丑不動產ノ上ニ甲ニ代位スヘク甲カ九百圓ヲ得タルトキハ乙ハ一錢ニ付テモ甲ニ代位スルコト能ハサルコトト爲リ其不權衡モ亦甚シト謂ハサルコトヲ得サレハナリ