378条
抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ第三百八十二条乃至第三百八十四条ノ規定ニ従ヒ抵当権者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得
第三百七十八條 抵當不動產ニ付キ所有權、地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル第三者ハ第三百八十二條乃至第三百八十四條ノ規定ニ從ヒ抵當權者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ拂渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵當權ヲ滌除スルコトヲ得（擔二五五、二五九、二六八）
本條以下第三百八十六條ニ至ルマテハ所謂抵當ノ滌除 （Purge）ニ關スルモノナリ滌除トハ第三取得者カ或金額ヲ提供シテ抵當權ヲ消滅セシムルノ謂ナリ而シテ之ニ關スル手續ハ第三百八十二條乃至第三百八十四條ニ之ヲ規定セリ蓋シ滌除ナルモノハ純理ヨリ言ヘハ頗ル其當ヲ得サルモノノ如シ何トナレハ抵當權ハ物權ニシテ已ニ其設定アル以上ハ所有權ハ已ニ其效力ノ一部ヲ减殺セラレ所有者ハ其抵當權ノ範圍內ニ於テハ已ニ其權利ノ處分ヲ失ヒタルモノト謂フヘシ然ルニ抵當權設定ノ後ニ抵當權設定者カ讓與シタル權利ノ取得者カ或條件ヲ以テ任意ニ自己ヨリ優先ナル抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得ルモノトスレハナリ然リト雖モ實際ノ便宜上ヨリ之ヲ觀レハ滌除ノ規定ハ眞ニ其當ヲ得タルモノト謂フヘシ蓋シ抵當權ノ性質タル單ニ其目的物ノ代價ヲ以テ辨濟ヲ得セシムルニ在リ故ニ抵當權者ハ不動產其物ニ付テ利害ヲ感スル者ニ非スシテ唯其代價ニ付テ權利ヲ有スル者ナリト謂フモ敢テ失當ノ言ト爲スヘカラス唯其代價ノ不當ニ廉ナラサルコトヲ希フヘキノミ然ルニ滌除ノ場合ニ於テハ第三取得者ハ自己ノ相當ト信スル代價ヲ提供シ以テ抵當權ノ消滅ヲ得ンコトヲ欲スル者ナリ而シテ若シ抵當權者ニシテ其代價ヲ相當ト認メンカ固ヨリ之ヲ承諾セサルヘカラス若シ之ヲ不相當ト認メンカ相當ノ條件ヲ以テ競賣ヲ請求スルコトヲ得ヘシ故ニ抵當權者ハ之ニ由リテ其權利ヲ减殺セラルルモノト視ルヘカラス若シ然ラハ一方ニ於テハ第三取得者ハ其取得セント欲シタル權利ヲ失ハサルコトヲ得テ而モ他ノ一方ニ於テハ抵當權者ノ利益ヲ害スルコトナク而シテ抵當權ノ附著セル不動產ノ取引ヲ容易ニスルノ利益アルヲ以テ公私ノ爲メニ利ノミアリテ害ナキモノト謂フヘシ或ハ曰ハン抵當權ハ常ニ之ヲ登記セルヲ以テ其設定後ニ不動產ニ付テ權利ヲ取得セント欲スル者ハ必ス先ツ登記簿ヲ一覽シテ已ニ抵當權ノ設定アルコトヲ知ルヘキハ固ヨリナリ已ニ抵當權ノ存スルコトヲ知レルカ故ニ其抵當權ノ實行ニ因リテ一旦取得シタル權利ヲ失フコトアルモ是レ豫メ期セシ所ナルヲ以テ法律ハ毫モ之ヲ保護スルノ必要ナシ若シ又其取得者ニシテ自己ノ不注意ニ因リ登記簿ヲ一覽セスシテ其權利ヲ取得シタルトキハ其意外ノ損失ヲ被ムルヘキハ固ヨリナリト雖モ是レ自ラ作セル孽ナルカ故ニ亦法律カ宜シク保護スヘキ所ニ非サルナリ然リ而シテ滌除ノ方法ニ由リ之ヲ保護スルモノハ果シテ如何ト是レ其一ヲ知リテ未タ其二ヲ知ラサル者ナリ蓋シ抵當權ノ性質ハ已ニ前ニ述ヘタルカ如キヲ以テ抵當不動產ニ付キ權利ヲ取得スル者ハ其抵當權ノ行使ニ由リ必スシモ自己カ取得シタル權利ヲ失フヘキモノト認ムルコトヲ要セス或ハ債務者カ期限ニ至リ必ス其債務ヲ辨濟スルナラント信シテ抵當不動產ニ付キ權利ヲ取得スルコトモ亦稀ナリトセス故ニ苟モ抵當權者ノ利益ヲ害セサル以上ハ此第三取得者ヲ保護スルハ固ヨリ至當ナリ殊ニ抵當權ノ存在セルコトヲ知ラスシテ權利ヲ取得シタル者ニ至リテハ或ハ登記簿ヲ一覽セサルノ過失ナキニ非スト雖モ（稀ニハ登記官吏ノ過失等ニ因リ已ニ登記シタル抵當權ノ存在ヲ知ラサルコトモ亦之ナキニ非ス）而モ之ヲシテ一切抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得サラシムルハ豈ニ亦酷ナラスヤ然リト雖モ若シ滌除ニシテ單ニ第三取得者ノ私益ヲ保護スルニ止マルモノトセハ或ハ其當ヲ得サルモノト謂フヘキモ不動產ナルモノハ之ヲ抵當トスルコト極メテ便利ナル物ナルカ故ニ實際已ニ抵當ト爲レル不動產ノ多キコトハ更ニ喋喋ヲ待タス然ルニ此不動產ニシテ皆容易ニ之ヲ讓渡シ又ハ其上ニ權利ヲ設定スルコトヲ得サルモノトセハ不動產ハ著シク其用ヲ减シ抵當ノ制ノ便ハ不動產ノ取引ノ不便ヲ釀シ物ヲシテ最モ多クノ效用ヲ爲サシメント欲スル經濟上ノ進步ニ副ハサルモノト謂フヘシ故ニ苟モ抵當權者ノ利益ヲ害セサル限ハ抵當不動產ノ取引ヲシテ最モ容易ナラシメンコトヲ力メスンハアルヘカラス是レ則チ滌除ノ制ノ因リテ起レル所以ナリ
本條ノ權利ヲ有スル者ハ所有權、地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル第三者ニ限レリ故ニ占有權、地役權、留置權等ヲ取得シタル者ハ此權利ヲ有セス蓋シ是等ノ權利ハ其效力甚タ薄弱ナルカ故ニ之ヲ取得シタル者ニ滌除ノ如キ强力ナル權利ヲ付與スルノ理アラサレハナリ之ニ反シテ所有權ヲ取得シタル者ハ勿論地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル者ハ殆ト所有者ニ均シキ權利ヲ有スル者ナルカ故ニ相當ノ代價ヲ提供シ以テ抵當權ヲ消滅セシメント欲スルハ宜ナリト謂フヘシ
第三百七十八條 抵當不動產ニ付キ所有權、地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル第三者ハ第三百八十二條乃至第三百八十四條ノ規定ニ從ヒ抵當權者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ拂渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵當權ヲ滌除スルコトヲ得（擔二五五、二五九、二六八）
本條以下第三百八十六條ニ至ルマテハ所謂抵當ノ滌除 （purge des hypothèques, Hypohekenreinigungsverfahren）ニ關スルモノナリ滌除トハ抵當財產ニ付キ權利ヲ取得シタル第三者カ抵當權者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ拂渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵當權ヲ消滅セシムルノ謂ナリ而シテ之ニ關スル手續ハ第三百八十二條乃至第三百八十四條ニ之ヲ規定セリ蓋シ滌除ナルモノハ純理ヨリ言ヘハ頗ル其當ヲ得サルモノノ如シ何トナレハ抵當權ハ物權ニシテ一旦其設定アル以上ハ所有權ハ已ニ其效力ノ一部ヲ減殺セラレ所有者ハ其抵當權ノ範圍內ニ於テハ已ニ其權利ノ處分ヲ失ヒタルモノト謂フヘシ然ルニ抵當權設定ノ後ニ抵當權設定者カ讓與シタル權利ノ取得者カ滌除ニ由リ或條件ヲ以テ任意ニ自己ヨリ優先ナル抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得ルモノトスレハナリ然リト雖モ實際ノ便宜上ヨリ之ヲ觀レハ眞ニ其當ヲ得タルモノト謂フヘシ蓋シ抵當權ノ性質タル單ニ其目的物ノ代價ヲ以テ辨濟ヲ得セシムルニ在リ故ニ抵當權者ハ不動產其物ニ付テ利害ヲ感スル者ニ非スシテ唯其代價ニ付テ權利ヲ有スル者ナリト謂フモ敢テ失當ノ言ト爲スヘカラス唯其代價ノ不當ニ廉ナラサルコトヲ希フヘキノミ然ルニ滌除ノ場合ニ於テハ第三取得者ハ自己ノ相當ト信スル代價ヲ提供シ以テ抵當權ノ消滅ヲ得ンコトヲ欲スル者ナリ而シテ若シ抵當權者ニシテ其代價ヲ相當ト認メンカ固ヨリ之ヲ承諾セサルヘカラス若シ之ヲ不相當ト認メンカ相當ノ條件ヲ以テ競賣ヲ請求スルコトヲ得ヘシ故ニ抵當權者ハ之ニ由リテ其權利ヲ減殺セラルルモノト視ルヘカラス若シ然ラハ一方ニ於テハ第三取得者ハ其取得セント欲シタル權利ヲ失ハサルコトヲ得テ而モ他ノ一方ニ於テハ抵當權者ノ利益ヲ害スルコトナク而シテ抵當權ノ附著セル不動產ノ取引ヲ容易ニスルノ利益アルヲ以テ公私ノ爲メニ利ノミアリテ害ナキモノト謂フヘシ或ハ曰ハン抵當權ハ常ニ之ヲ登記セルヲ以テ其設定後ニ不動產ニ付キ權利ヲ取得セント欲スル者ハ必ス先ツ登記簿ヲ一覽シテ已ニ抵當權ノ設定アルコトヲ知ルヘキハ固ヨリナリ若シ然ラハ已ニ抵當權ノ存スルコトヲ知レルカ故ニ其抵當權ノ實行ニ因リテ一旦取得シタル權利ヲ失フコトアルモ是レ豫メ期セシ所ナルヲ以テ法律ハ毫モ之ヲ保護スルノ必要ナシ若シ又其取得者ニシテ自己ノ不注意ニ因リ登記簿ヲ一覽セスシテ其權利ヲ取得シタルトキハ其意外ノ損失ヲ被ムルヘキハ固ヨリナリト雖モ是レ自ラ作セル孽ナルカ故ニ亦法律カ宜シク保護スヘキ所ニ非サルナリ然リ而シテ滌除ノ方法ニ由リ之ヲ保護スルモノハ果シテ如何ト是レ其一ヲ知リテ未タ其二ヲ知ラサル者ナリ蓋シ抵當權ノ性質ハ已ニ前ニ述ヘタルカ如キヲ以テ抵當不動產ニ付キ權利ヲ取得スル者ハ其抵當權ノ行使ニ由リ必スシモ自己カ取得シタル權利ヲ失フヘキモノト認ムルコトヲ要セス或ハ債務者カ期限ニ至リ必ス其債務ヲ辨濟スルナラント信シテ抵當不動產ニ付キ權利ヲ取得スルコトモ亦稀ナリトセス故ニ苟モ抵當權者ノ利益ヲ害セサル以上ハ此第三取得者ヲ保護スルハ固ヨリ至當ナリ殊ニ抵當權ノ存在セルコトヲ知ラスシテ權利ヲ取得シタル者ニ至リテハ或ハ登記簿ヲ一覽セサルノ過失ナキニ非スト雖モ（稀ニハ登記官吏ノ過失等ニ因リ已ニ登記シタル抵當權ノ存在ヲ知ラサルコトモ亦之ナキニ非ス）而モ之ヲシテ一切抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得サラシムルハ豈ニ亦酷ナラスヤ然リト雖モ若シ滌除ニシテ單ニ第三取得者ノ私益ヲ保護スルニ止マルモノトセハ或ハ其當ヲ得サルモノト謂フヘキモ不動產ナルモノハ之ヲ抵當トスルコト極メテ便利ナル物ナルカ故ニ實際已ニ抵當ト爲レル不動產ノ多キコトハ更ニ喋喋ヲ待タス然ルニ此不動產ニシテ皆容易ニ之ヲ讓渡シ又ハ其上ニ權利ヲ設定スルコトヲ得サルモノトセハ不動產ハ著シク其用ヲ減シ抵當ノ制ノ便ハ不動產ノ取引ノ不便ヲ釀シ物ヲシテ最モ多クノ效用ヲ爲サシメント欲スル經濟上ノ進步ニ副ハサルモノト謂フヘシ故ニ苟モ抵當權者ノ利益ヲ害セサル限ハ抵當不動產ノ取引ヲシテ最モ容易ナラシメンコトヲ力メスンハアルヘカラス是レ則チ滌除ノ制ノ因リテ起レル所以ナリ
本條ノ權利ヲ有スル者ハ所有權、地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル第三者ニ限レリ故ニ占有權、地役權、留置權等ヲ取得シタル者ハ此權利ヲ有セス葢シ是等ノ權利ハ其效力甚タ薄弱ナルカ故ニ之ヲ取得シタル者ニ滌除ノ如キ强力ナル權利ヲ付與スルノ理アラサレハナリ之ニ反シテ所有權ヲ取得シタル者ハ勿論地上權又ハ永小作權ヲ取得シタル者ハ殆ト所有者ニ均シキ權利ヲ有スル者ナルカ故ニ相當ノ代價ヲ提供シ以テ抵當權ヲ消滅セシメント欲スルハ實ニ正當ノ希望ト謂ハサルコトヲ得サルナリ