179条
同一物ニ付キ所有権及ヒ他ノ物権カ同一人ニ帰シタルトキハ其物権ハ消滅ス但其物又ハ其物権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス
所有権以外ノ物権及ヒ之ヲ目的トスル他ノ権利カ同一人ニ帰シタルトキハ其権利ハ消滅ス此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ占有権ニハ之ヲ適用セス
第百七十九條 同一物ニ付キ所有權及ヒ他ノ物權カ同一人ニ歸シタルトキハ其物權ハ消滅ス但其物又ハ其物權カ第三者ノ權利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス
所有權以外ノ物權及ヒ之ヲ目的トスル他ノ權利カ同一人ニ歸シタルトキハ其權利ハ消滅ス此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ占有權ニハ之ヲ適用セス（財二八七、一項五號、二八九）
本條ハ混同 ニ關スル規定ナリ蓋シ併存スルコトヲ得サル二資格カ同一人ノ頭上ニ集マルトキハ必ス其一資格ヲ失フヘキモノトスルハ古來法律上殆ト人ノ爭ハサル原則ナリ而シテ之ヲ物權ニ適用セハ所有權ト他ノ物權ト同一人ニ歸スルトキハ所有權ハ素ト最モ完全ナル物權ニシテ他ノ物權ハ皆其中ニ包含セラルルカ故ニ所有者ニシテ他ノ物權ヲ併セ有スルコトハ有リ得ヘカラサル事ナリ故ニ此場合ニ於テハ所有權ノミ存シテ他ノ物權ハ消滅ニ歸セサルコトヲ得ス但學理上ハ所有權中他ノ物權ヲ控除シタルモノト他ノ物權トノ二者竝ヒ存シ若シ之ヲ合スレハ完全ノ所有權ト爲ルヘシト雖モ其者ハ同時ニ二資格ヲ兼ヌルカ故ニ其二種ノ權利ヲ別別ニ有スルモノト看ルヲ以テ妥當トスヘキカ如シ而シテ其者カ右ノ一資格ヲ他人ニ讓リタルトキハ右ノ二種ノ權利ハ二人ニ分屬スルニ至リ毫モ混同ノ跡ヲ留メサルニ至ルヘキナリ然リト雖モ此學說ヲ實際ニ應用スルトキハ不便實ニ尠カラス何トナレハ權利ハ權利者ノ意思ヲ以テ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ルヲ常トス故ニ所有者カ他ノ物權ヲ取得シタルトキハ之ヲ消滅セシメント欲スルコト多カルヘシ然リト雖モ他人ニ對シテ之ヲ消滅セシムルニ非スシテ自己ニ對シテノミ之ヲ消滅セシムルモノナルカ故ニ大抵他人ニ見ハルヘキ行爲ニ因リテ之ヲ消滅セシムルコトアラサルヘシ故ニ何レノ時ニ其權利ヲ消滅セシメタルカ又未タ之ヲ消滅セシメサルカハ他人ハ一切之ヲ知ルコトヲ得ス此ノ如クンハ所有者ハ自己ノ便益ニ從ヒ或ハ之ヲ消滅セシメタリト云ヒ或ハ未タ之ヲ消滅セシメスト云ハンニ何人ト雖モ之ヲ爭フコトヲ得サルコト最モ多カラン故ニ立法者ハ一刀兩斷所有者カ他ノ物權ヲ取得シ又ハ他ノ物權ヲ有スル者カ所有權ヲ取得シタルトキハ直チニ其物權ヲ消滅セシメタルモノト看做スナリ
然リト雖モ此消滅ハ權利者カ隨意ニ其權利ヲ消滅セシムルコトヲ得ルニ因リテ生スルモノナルカ故ニ苟モ權利者ノ意思ノミヲ以テ之ヲ消滅セシムルコトヲ得サル範圍內ニ於テハ其權利混同ニ因リテ消滅スルコトナシ例ヘハ其物權カ第三者ノ抵當ト爲レル場合ニ於テハ所有者ノ意思ノミヲ以テ其物權ヲ消滅セシメ以テ間接ニ其第三者ノ抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得サルハ固ヨリ論ヲ竢タサル所ナリ故ニ混同アルモ其抵當權ハ消滅スルコトナシ又他ノ物權カ一ノ抵當權ナル場合ニ於テ尙ホ第三者ノ爲メニ第二ノ抵當權アルトキハ第三者ノ抵當權ノ消滅セサルハ固ヨリ論ナシ然ルニ第一ノ抵當權ノミ消滅スルトキハ第三者ハ唯リ抵當權ヲ有スルコトト爲リ一人ニテ其物ニ付キ辨濟ヲ受クルコトヲ得ルニ至ルヘシ此ノ如クンハ所有者ニシテ第一抵當權者ナル者ハ混同ノ爲メニ意外ノ損失ヲ受クルニ至ルヘシ而シテ其者ハ此ノ如キ結果ヲ生セシメンコトヲ欲スルコトハ萬之アラサルヘキカ故ニ此場合ニ於テハ第二抵當權者ヲシテ不當ノ利益ヲ壟斷セシメサル爲メ故ラニ其第一抵當權ヲ抛棄セサルモノト看做シ第二抵當權者カ物ヲ公賣ニ付シテ辨濟ヲ受ケント欲スルニ當リテハ己レ先ツ第一抵當權者トシテ辨濟ヲ受ケ若シ殘アレハ初メテ之ヲ第二抵當權者ニ分ツヘキモノトセサルコトヲ得ス是レ本條第一項但書ノ規定アル所以ナリ（本文ノ所有者ハ債務者ナラサルコトヲ前提スヘシ）
以上所有權ト他ノ物權ト混同シタル場合ニ付テ云ヘリト雖モ所有權以外ノ物權例ヘハ地上權、永小作權等ノ如キモノト之ヲ目的トスル他ノ權利例ヘハ質權、抵當權等ノ如キモノト混同シタル場合ニ於テモ亦同樣ナラサルコトヲ得ス即チ原則トシテハ其質權、抵當權等ハ消滅スヘキモ若シ質權者カ轉質ヲ爲シタル場合（三四八）又ハ同一ノ地上權、永小作權等ニ付キ第三者モ亦抵當權ヲ有スル場合ノ如キハ初ノ質權、抵當權等ハ未タ消滅セサルモノト爲ササルコトヲ得ス是レ本條第二項ニ規定スル所ナリ
以上ハ是ヨリ論究スヘキ一切ノ物權ニ適用スヘキモノナリト雖モ唯リ占有權ニハ之ヲ適用スルコトヲ得ス蓋シ占有權ナルモノハ多クハ他ノ物權ト之ヲ併有スルモノニシテ若シ之ヲ併有スルコトヲ得ストセハ正當ナル占有權カ保護ヲ受クル場合全ク之ナクシテ單ニ不當ノ占有權ノミヲ保護スルニ至ルヘシ故ニ占有權ニ付テハ混同ナキモノトセリ
混同ハ種種ノ原因ヨリ生スルト雖モ相續ニ因リテ生スルコト最モ多シトス
第百七十九條 同一物ニ付キ所有權及ヒ他ノ物權カ同一人ニ歸シタルトキハ其物權ハ消滅ス但其物又ハ其物權カ第三者ノ權利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス
所有權以外ノ物權及ヒ之ヲ目的トスル他ノ權利カ同一人ニ歸シタルトキハ其權利ハ消滅ス此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ占有權ニハ之ヲ適用セス（財二八七、一項五號、二八九）
本條ハ混同 （confusio, consolidatio ; confusion, consolidation ; Vereinigung, Konfusion）ニ關スル規定ナリ混同トハ兼ヌヘカラサル二ツノ資格カ同一人ニ集マルヲ謂フ蓋シ併存スルコトヲ得サル二資格カ同一人ノ頭上ニ集マルトキハ必ス其一資格ヲ失フヘキモノトスルハ古來法律上殆ト人ノ爭ハサル原則ナリ而シテ之ヲ物權ニ適用セハ所有權ト他ノ物權ト同一人ニ歸スルトキハ所有權ハ素ト最モ完全ナル物權ニシテ他ノ物權ハ皆其中ニ包含セラルルモノト謂フモ可ナルカ故ニ所有者ニシテ他ノ物權ヲ併セ有スルコトハ有リ得ヘカラサル事ナリ故ニ此場合ニ於テハ所有權ノミ存シテ他ノ物權ハ消滅ニ歸セサルコトヲ得ス但學理上ハ所有權中他ノ物權ヲ控除シタルモノト他ノ物權トノ二者竝ヒ存シ若シ之ヲ合スレハ完全ノ所有權ト爲ルヘシト雖モ其者ハ同時ニ二資挌ヲ兼ヌルカ故ニ其二種ノ權利ヲ別別ニ有スルモノト看ルヲ以テ妥當トスヘキカ如シ而シテ其者カ右ノ一資格ヲ他人ニ讓リタルトキハ右ノ二種ノ權利ハ二人ニ分屬スルニ至リ毫モ混同ノ跡ヲ留メサルニ至ルヘキナリ然リト雖モ此學說ヲ實際ニ應用スルトキハ不便實ニ尠カラス何トナレハ財產權ハ權利者ノ意思ヲ以テ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ルヲ常トス故ニ所有者カ他ノ物權ヲ取得シタルトキハ之ヲ消滅セシメント欲スルコト多カルヘシ然リト雖モ他人ニ對シテ之ヲ消滅セシムルニ非スシテ自己ニ對シテ之ヲ消滅セシムルモノナルカ故ニ大抵他人ニ見ハルヘキ行爲ニ由リテ之ヲ消滅セシムルコトアラサルヘシ故ニ何レノ時ニ其權利ヲ消滅セシメタルカ又未タ之ヲ消滅セシメサルカハ他人ハ一切之ヲ知ルコトヲ得ス此ノ如クンハ所有者ハ自己ノ便益ニ從ヒ或ハ之ヲ消滅セシメタリト云ヒ或ハ未タ之ヲ消滅セシメスト云ハンニ何人ト雖モ之ヲ爭フコトヲ得サルコト最モ多カラン故ニ立法者ハ一刀兩斷所有者カ他ノ物權ヲ取得シ又ハ他ノ物權ヲ有スル者カ所有權ヲ取得シタルトキハ直チニ其物權ヲ消滅セシメタルモノト看做スナリ
然リト雖モ此消滅ハ權利者カ隨意ニ其權利ヲ消滅セシムルコトヲ得ルニ因リテ生スルモノナルカ故ニ苟モ權利者ノ意思ノミヲ以テ之ヲ消滅セシムルコトヲ得サル範圍內ニ於テハ其權利混同ニ因リテ消滅スルコトナシ又第三者カ同一ノ目的物ニ付キ權利ヲ有スルカ爲メ混同ニ因ル權利ノ消滅カ權利者ノ爲メニ不利益ヲ釀スヘキ場合ニ於テハ權利者カ其權利ヲ消滅セシムル意思ヲ有スルコトナキモノト視ルヘキヲ以テ其權利ハ亦混同ニ因リテ消滅セサルモノトセリ例ヘハ其物權カ第三者ノ抵當ト爲レル場合ニ於テハ所有者ノ意思ノミヲ以テ其物權ヲ消滅セシメ以テ間接ニ其第三者ノ抵當權ヲ消滅セシムルコトヲ得サルハ固ヨリ論ヲ竢タサル所ナリ（三九八參觀）故ニ混同アルモ其抵當權及ヒ其目的タル權利共ニ消滅スルコトナシ又他ノ物權カ一ノ抵當權ナル場合ニ於テ尙ホ第三者ノ爲メニ第二ノ抵當權アルトキハ第三者ノ抵當權ノ消滅セサルハ固ヨリ論ナシ然ルニ第一ノ抵當權ノミ消滅スルトキハ第三者ハ唯リ抵當權ヲ有スルコトト爲リ一人ニテ其物ニ付キ辨濟ヲ受クルコトヲ得ルニ至ルヘシ此ノ如クンハ所有者ニシテ第一抵當權者ナル者ハ混同ノ爲メニ意外ノ損失ヲ受クルニ至ルヘシ而シテ其者ハ此ノ如キ結果ヲ生セシメンコトヲ欲スルモノト視ルコトヲ得サルカ故ニ此場合ニ於テハ第二抵當權者ヲシテ不當ノ利益ヲ壟斷セシメサル爲メ故ラニ其第一抵當權ヲ抛棄セサルモノト看做シ第二抵當權者カ物ヲ公賣ニ付シテ辨濟ヲ受ケント欲スルニ當リテハ己レノ先ツ第一抵當權者トシテ辨濟ヲ受ケ若シ殘アレハ初メテ之ヲ第二抵當權者ニ分ツヘキモノトセサルコトヲ得ス（是レ地上權又ハ永小作權ヲ設定シタル後抵當權ヲ設定シタリトスルモ同シ唯此場合ニ於テ所有權ト抵當權トノ間ニ混同アルモ爲メニ地上權、永小作權ニ何等ノ影響ヲ及ホスコトナキカ故ニ抵當權ハ混同ニ因リテ消滅スルモノトセサルコトヲ得ス尙ホ二個ノ抵當權アル場合ニ於テ第二抵當權ト所有權トノ間ニ混同アリタルトキ亦同シ此等ノ點ニ於テハ法文ニ缺遺アルカ如シ）是レ本條第一項但書ノ規定アル所以ナリ（本文ノ所有者ハ債務者ナラサルコトヲ前提スヘシ然ラスハ債權先ツ混同ニ因リテ消滅スヘキカ故ニ〔五二〇〕本文ノ問題ヲ生セサルヘケレハナリ故ニ本文ノ適用アルタメニハ第三者カ債務者ノ爲メニ質權、抵當權ヲ設定シタルカ又ハ第三者カ質權、抵當權ノ目的タル財產ヲ取得シタル場合ヲ想像スヘシ）
以上所有權ト他ノ物權ト混同シタル場合ニ付テ云ヘリト雖モ所有權以外ノ物權例ヘハ地上權、永小作權等ノ如キモノト之ヲ目的トスル他ノ權利例ヘハ質權、抵當權等ノ如キモノト混同シタル場合ニ於テモ亦同樣ナラサルコトヲ得ス即チ原則トシテハ其質權、抵當權等ハ消滅スヘキモ若シ同一ノ地上權、永小作權等ニ付キ第三者モ亦抵當權ヲ有スル場合ノ如キニ於テハ混同アリタル質權、抵當權等未タ消滅セサルモノト爲ササルコトヲ得ス是レ本條第二項ニ規定スル所ナリ
以上ハ是ヨリ論究スヘキ一切ノ物權ニ適用スヘキモノナリト雖モ唯リ占有權ニハ之ヲ適用スルコトヲ得ス蓋シ占有權ナルモノハ多クハ他ノ物權ト之ヲ併有スルモノニシテ若シ之ヲ併有スルコトヲ得ストセハ正當ナル占有權カ保護ヲ受クル場合全ク之ナクシテ單ニ不當ノ占有權ノミヲ保護スルニ至ルヘシ故ニ占有權ニ付テハ混同ナキモノトセリ
混同ハ種種ノ原因ヨリ生スルト雖モ相續ニ因リテ生スルコト最モ多シトス