第五編 海商
第一章 船舶及ヒ船舶所有者
第四百七十四条 本法ニ於テ船舶トハ営利ノ目的ヲ以テ航海ノ用ニ供スルモノヲ謂フ
本編ノ規定ハ端舟其他櫓櫂ノミヲ以テ運転シ又ハ主トシテ櫓櫂ヲ以テ運転スル舟ニハ之ヲ適用セス
第四百七十五条 船舶ノ属具目録ニ記載シタル物ハ其従物ト推定ス
第四百七十六条 船舶所有者ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ登記ヲ為シ且登記証書ヲ請受クルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ積量十五噸未満ノ船舶ニハ之ヲ適用セス
第四百七十七条 船舶所有権ノ譲渡ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為シ且登記証書ニ之ヲ記入スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百七十八条 航海中ニ在ル船舶ノ所有権ヲ譲渡シタル場合ニ於テ特約ナキトキハ其航海ヨリ生スル損益ハ譲受人ニ帰スヘキモノトス
第四百七十九条 差押及ヒ仮差押ハ発航ノ準備ヲ終ハリタル船舶ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得ス但其船舶カ発航ヲ為ス為メニ生シタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス
第四百八十条 船舶所有者ハ船長カ其法定ノ権限内ニ於テ為シタル行為又ハ船長其他ノ船員カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタル損害ニ付テハ航海ノ終ニ於テ船舶、運送賃及ヒ船舶所有者カ其船舶ニ付キ有スル損害賠償又ハ報酬ノ請求権ヲ債権者ニ委付シテ其責任ヲ免ルルコトヲ得但船舶所有者ニ過失アルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ハ雇傭契約ニ因リテ生シタル船員ノ権利ニ付テハ之ヲ適用セス
第四百八十一条 船舶所有者カ債権者ノ同意ヲ得スシテ新ニ発航ヲ為サシメタルトキハ前条ニ定メタル権利ヲ行使スルコトヲ得ス
第四百八十二条 船舶共有者ノ間ニ在リテハ船舶ノ利用ニ関スル事項ハ各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス
第四百八十三条 船舶共有者ハ其持分ノ価格ニ応シ船舶ノ利用ニ関スル費用ヲ支払フコトヲ要ス
第四百八十四条 船舶共有者カ新ニ航海ヲ為シ又ハ船舶ノ大修繕ヲ為スヘキコトヲ決議シタルトキハ其決議ニ対シ異議アル者ハ他ノ共有者ニ対シ相当代価ヲ以テ自己ノ持分ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ヲ為サント欲スル者ハ決議ノ日ヨリ三日内ニ他ノ共有者又ハ船舶管理人ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス但此期間ハ決議ニ加ハラサリシ者ニ付テハ其決議ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ之ヲ起算ス
第四百八十五条 船舶共有者ハ其持分ノ価格ニ応シ船舶ノ利用ニ付テ生シタル債務ヲ弁済スル責ニ任ス
第四百八十六条 損益ノ分配ハ毎航海ノ終ニ於テ船舶共有者ノ持分ノ価格ニ応シテ之ヲ為ス
第四百八十七条 船舶共有者間ニ組合関係アルトキト雖モ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾ヲ得スシテ其持分ノ全部又ハ一部ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得
第四百八十八条 船舶共有者ノ持分ノ移転ニ因リテ船舶カ日本ノ国籍ヲ喪失スヘキトキハ他ノ共有者ハ相当代価ヲ以テ其持分ヲ買取リ又ハ其公売ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得(仮定)
前項ノ規定ハ社員ノ持分又ハ株式ノ移転ニ因リテ船舶カ日本ノ国籍ヲ喪失スヘキ場合ニ之ヲ準用ス
第四百八十九条 船舶共有者ニ非サル者ヲ船舶管理人ト為スニハ共有者ノ一致アルコトヲ要ス
船舶管理人ノ選任及ヒ其代理権ノ消滅ハ船籍港ヲ管轄スル船舶登記所ニ於テ之ヲ登記スルコトヲ要ス
第四百九十条 船舶管理人ハ左ニ掲ケタル行為ヲ除ク外船舶共有者ニ代ハリテ船舶ノ利用ニ関スル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス
一 船舶ノ譲渡、委付若クハ賃貸ヲ為シ又ハ之ヲ抵当ト為スコト
二 船舶ヲ保険ニ付スルコト
三 新ニ航海ヲ為スコト
四 船舶ノ大修繕ヲ為スコト
五 借財ヲ為スコト
船舶管理人ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百九十一条 船舶管理人ハ特ニ帳簿ヲ備ヘ之ニ船舶ノ利用ニ関スル一切ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
船舶管理人ハ毎航海ノ終ニ於テ遅滞ナク其航海ニ関スル計算ノ報告ヲ為シテ各船舶共有者ノ承認ヲ求ムルコトヲ要ス
第四百九十二条 船舶ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其船舶ニ付キ物権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
第四百九十三条 船舶ノ賃借人カ営利ノ目的ヲ以テ其船舶ヲ航海ノ用ニ供シタルトキハ其利用ニ関スル事項ニ付テハ第三者ニ対シ船舶所有者ト同一ノ権利義務ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ船舶ノ利用ニ付キ生シタル先取特権ハ船舶所有者ニ対シテモ其効力ヲ生ス但先取特権者カ其利用ノ契約ニ反スルコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第二章 船員
第一節 船長
第四百九十四条 船長ハ其職務ヲ行フニ付キ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ船舶所有者、荷送人其他ノ利害関係人ニ対シ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
船長ハ船舶所有者ノ指図ニ従ヒタルトキト雖モ船舶所有者以外ノ者ニ対シテハ前項ニ定メタル責任ヲ免ルルコトヲ得ス
第四百九十五条 海員カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ船長ハ監督ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第四百九十六条 船長カ已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコト能ハサルトキハ他人ヲ選任シテ自己ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得此場合ニ於テハ船長ハ其選任ニ付キ船舶所有者ニ対シテ其責ニ任ス
第四百九十七条 船長ハ発航前船舶ノ航海ニ支障ナキヤ否ヤ其他航海ニ必要ナル準備ノ整頓セルヤ否ヤヲ監視スルコトヲ要ス
第四百九十八条 船長ハ左ニ掲ケタル書類ヲ船中ニ備フルコトヲ要ス
一 船舶登記証書
二 属具目録
三 海員名簿
四 旅客名簿
五 運送契約及ヒ積荷ニ関スル書類
六 税関ヨリ交付シタル書類
七 航海日誌
第四百九十九条 船長ハ已ムコトヲ得サル場合ヲ除ク外荷物ノ船積及ヒ旅客ノ乗込ノ時ヨリ荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸ノ時マテ其指揮スル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
第五百条 船長ハ航海ノ準備終リタルトキハ遅滞ナク発航シ且必要アル場合ヲ除ク外予定ノ航路ヲ変更セスシテ到達地マテ航行スルコトヲ要ス
第五百一条 船長ハ航海中最モ利害関係人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ積荷ノ処分ヲ為スコトヲ要ス
利害関係人ハ船長ノ行為ニ因リ其積荷ニ付テ生シタル債権ノ為メ之ヲ債権者ニ委付シテ其責任ヲ免ルルコトヲ得但利害関係人ニ過失アルトキハ此限ニ在ラス
第五百二条 船籍港外ニ於テハ船長ハ航海ノ為メニ必要ナル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス
船籍港ニ於テハ船長ハ特ニ委任ヲ受ケタル場合ヲ除ク外海員ノ雇入及ヒ雇止ノミヲ為ス権限ヲ有ス
第五百三条 船長ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百四条 船長ハ船舶ノ修繕、救援又ハ救助ノ費用其他航海ヲ継続スルニ必要ナル費用ヲ支弁スル為メニ非サレハ左ノ行為ヲ為スコトヲ得ス
一 船舶ヲ抵当ト為スコト
二 借財ヲ為スコト
三 積荷ノ全部又ハ一部ヲ質入又ハ売却スルコト但第五百一条ノ場合ハ此限ニ在ラス
船長カ積荷ヲ質入又ハ売却シタル場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其積荷ノ到達スヘカリシ時ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム但其価格中ヨリ支出スルコトヲ要セサル費用ヲ控除スルコトヲ要ス
第五百五条 船長カ特ニ委任ヲ受ケスシテ航海ノ為メニ費用ヲ出タシ又ハ債務ヲ負担シタルトキハ船舶所有者ハ第四百八十条ニ定メタル権利ヲ行フコトヲ得
第五百六条 船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキハ船長ハ船舶登記所又ハ領事ノ認可ヲ得テ之ヲ競売スルコトヲ得
第五百七条 左ノ場合ニ於テハ船舶ハ修繕スルコト能ハサルニ至リタルモノト看做ス
一 船舶カ其現地ニ於テ修繕ヲ受クルコトヲ得ス且其修繕ヲ為スヘキ地ニ至ルコト能ハサルトキ
二 修繕費カ船舶ノ価額ノ四分ノ三ヲ超ユルトキ
前項第二号ノ価額ハ船舶カ航海中毀損シタル場合ニ於テハ其発航ノ時ニ於ケル価額トシ其他ノ場合ニ於テハ其毀損前ニ有セシ価額トス
第五百八条 船長ハ航海ヲ継続スル単メ必要ナルトキハ積荷ヲ航海ノ用ニ供スルコトヲ得此場合ニ於テ損害賠償ノ額ハ其積荷ノ到達スヘカリシ時ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム
第五百九条 船長ハ遅滞ナク航海ニ関スル重要ナル事項ヲ船舶所有者ニ報告スルコトヲ要ス
船長ハ毎航海ノ終ニ於テ遅滞ナク其航海ニ関スル計算ノ報告ヲ為シテ船舶所有者ノ承認ヲ求メ又船舶所有者ノ請求アルトキハ何時ニテモ計算ノ報告ヲ為スコトヲ要ス
第五百十条 船舶所有者ハ何時ニテモ船長ヲ解任スルコトヲ得但船長ハ船舶所有者ニ対シ解任ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
船長カ船舶共有者ナル場合ニ於テ其意ニ反シテ解任セラレタルトキハ他ノ共有者ニ対シ相当代価ヲ以テ自己ノ持分ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
船長カ前項ノ請求ヲ為サント欲スルトキハ遅滞ナク他ノ共有者又ハ船舶管理人ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス
第五百十一条 船長ノ船舶所有者ニ対スル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第二節 海員
第五百十二条 海員ハ其雇入ノ手続カ終ハリタルトキハ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乗込ムコトヲ要ス
海員ハ船長ノ許可ヲ得ルニ非サレハ其乗込ミタル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
第五百十三条 海員ノ服役中ノ食料ハ船舶所有者ノ負担トス
第五百十四条 海員カ服役中不行跡其他重大ナル過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタルトキハ船舶所有者ハ三个月ヲ超エサル期間内ノ治療及ヒ看護ノ費用ヲ負担ス
前項ノ場合ニ於テ海員ハ其服役シタル期間ニ対スル給料ヲ請求スルコトヲ得但其職務ヲ行フニ因リテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタルトキハ其給料ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
第五百十五条 一航海ニ付キ給料ヲ定メタル場合ニ於テ航海ノ日数ヲ延長シ又ハ不可抗力ニ因ラスシテ其里程ヲ延長シタルトキハ海員ハ其割合ニ応シテ給料ノ増加ヲ請求スルコトヲ得但航海ノ日数又ハ里程ヲ短縮シタルトキト雖モ給料ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
第五百十六条 海員カ服役ノ後死亡シタルトキハ船舶所有者ハ死亡ノ日マテノ給料ヲ支払フコトヲ要ス
海員カ其職務ヲ行フニ因リテ死亡シタルトキハ其葬式ノ費用ハ船舶所有者ノ負担トス
第五百十七条 左ノ場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ雇止ムルコトヲ得
一 発航前海員カ其職務ニ不適任ナルコトヲ認メタルトキ
二 海員カ著シク其職務ヲ怠リタルトキ
三 海員カ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
四 海員カ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキ
五 戦争其他不可抗力ニ因リテ発航ヲ為シ又ハ航海ヲ継続スルコト能ハサルニ至リタルトキ
前項第一号乃至第四号ノ場合ニ於テハ海員ハ其服役シタル期間ニ対スル給料ヲ請求スルコトヲ得
第一項第五号ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ノ日マテノ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得第四号ノ場合ニ於テ海員ニ過失ナキトキ亦同シ
第五百十八条 海員カ前条ニ掲ケタル事由其他正当ノ理由ナクシテ雇止メラレタルトキハ其服役シタル期間ニ対スル給料ノ外一个月分ノ給料ヲ請求スルコトヲ得若シ雇入港外ニ於テ雇止メラレタルトキハ雇入港マテ帰航スルニ必要ナル期間ニ対スル給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
第五百十九条 左ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得
一 船舶カ日本ノ国籍ヲ喪失シタルトキ
二 自己ノ過失ニ因ラスシテ疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケ其職務ニ堪ヘサルニ至リタルトキ
三 船長ヨリ虐待ヲ受ケタルトキ
前項ノ場合ニ於テハ海員ハ其雇止ノ日マテノ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
第五百二十条 航海中船舶ノ所有者カ変更シタルトキハ海員ハ新所有者ニ対シ雇傭契約ニ因リテ生シタル権利義務ヲ有ス
第五百二十一条 海員ノ雇入期間ハ一年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ海員ヲ雇入レタルトキハ其期間ハ之ヲ一年ニ短縮ス
海員ノ雇入ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ一年ヲ超ユルコトヲ得ス
第五百二十二条 雇入期間ノ定ナキトキハ海員ハ特約アル場合ヲ除ク外航海カ終了シ、船舶カ安全ニ碇泊シ且荷物ノ陸揚及ヒ旅客ノ上陸カ終ハリタル後ニ非サレハ其雇止ヲ請求スルコトヲ得ス
第五百二十三条 海員ノ雇入契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ス
一 船舶カ沈没シタルコト
二 船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルコト
三 船舶カ捕獲セラレタルコト
前項ノ場合ニ於テハ海員ハ契約終了ノ日マテノ給料及ヒ雇入港マテノ送還ヲ請求スルコトヲ得
第五百二十四条 海員ハ雇入港マテノ送還ヲ請求スル権利ヲ有スル場合ニ於テ送還ニ代ヘテ其費用ヲ請求スルコトヲ得
第五百二十五条 第五百十一条ノ規定ハ海員ニ之ヲ準用ス
第三章 運送
第一節 物品運送
第一款 総則
第五百二十六条 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ各当事者ハ相手方ニ対シ運送契約書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第五百二十七条 船舶所有者ハ傭船者又ハ荷送人ニ対シ発航ノ当時船舶カ安全ニ航海ヲ為スニ堪フルコトヲ担保ス
第五百二十八条 船舶所有者ハ特約ヲ為シタルトキト雖モ自己ノ過失、船長其他ノ船員ノ重大ナル過失又ハ船舶カ航海ニ堪ヘサルニ因リテ生スル損害ヲ賠償スル責任ヲ免ルルコトヲ得ス
第五百二十九条 法令ニ違反シ又ハ契約ニ依ラスシテ船積シタル運送品ハ船長ニ於テ何時ニテモ之ヲ陸揚シ、若シ船舶又ハ積荷ニ危害ヲ及ホス虞アルトキハ之ヲ放棄スルコトヲ得但船長カ之ヲ運送スルトキハ其船積ノ地及ヒ時ニ於ケル同種ノ運送品ノ最高ノ運送賃ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ船舶所有者其他ノ利害関係人カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
第五百三十条 船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ運送品ヲ船積スヘキ準備カ整頓シタルトキハ船舶所有者ハ遅滞ナク其旨ヲ傭船者ニ通知スルコトヲ要ス
傭船者カ運送品ヲ船積スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間経過ノ後運送品ヲ船積シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相当ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ船積ヲ為スコト能ハサル日ヲ算入セス
第五百三十一条 船長カ第三者ヨリ運送品ヲ受取ルヘキ場合ニ於テ其者ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ其者カ運送品ヲ船積スルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ直チニ其旨ヲ傭船者ニ通知スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ船積期間内ニ限リ傭船者ニ於テ運送品ヲ船積スルコトヲ得
第五百三十二条 傭船者ハ契約ヲ以テ定メタル運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ニ対シ発航ノ請求ヲ為スコトヲ得
傭船者カ前項ノ請求ヲ為シタルトキハ運送賃全額ノ外運送品ノ全部ヲ船積セサルニ因リテ生シタル費用ヲ支払ヒ尚ホ船舶所有者ノ請求アルトキハ相当ノ担保ヲ供スルコトヲ要ス
第五百三十三条 船積期間経過ノ後ハ傭船者カ運送品ノ全部ヲ船積セサルトキト雖モ船長ハ直チニ発航ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ傭船者ハ前条第二項ニ定メタル責任ヲ負フ
第五百三十四条 発航前ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ半額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
往復航海ヲ為スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其帰航ノ発航前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ運送賃ノ三分ノ二ヲ支払フコトヲ要ス他港ヨリ船積港ニ航行スヘキ場合ニ於テ傭船者カ其船積港ヲ発スル前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキ亦同シ
運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタル後前二項ノ規定ニ従ヒテ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ其船積及ヒ陸揚ノ費用ハ傭船者之ヲ負担ス
傭船者カ船積期間内ニ運送品ノ船積ヲ為ササリシトキハ契約ノ解除ヲ為シタルモノト看做ス
第五百三十五条 傭船者カ前条ノ規定ニ従ヒテ契約ノ解除ヲ為シタルトキト雖モ附随ノ費用及ヒ立替金ヲ支払フ責ヲ免ルルコトヲ得ス
前条第二項ノ場合ニ於テハ傭船者ハ前項ニ掲ケタルモノノ外運送品ノ価格ニ応シ海損、救援又ハ救助ノ為メ負担スヘキ金額ヲ支払フコトヲ要ス
第五百三十六条 発航後ニ於テハ傭船者ハ運送賃ノ全額ヲ支払フ外第四百八十六条第一項ニ定メタル債務ヲ弁済シ且陸揚ノ為メニ生スヘキ損害ヲ賠償シ又ハ相当ノ担保ヲ供スルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス
第五百三十七条 船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ傭船者カ他ノ傭船者及ヒ荷送人ト共同セスシテ発航前ニ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス
発航前ト雖モ傭船者カ既ニ運送品ノ全部又ハ一部ヲ船積シタルトキハ他ノ傭船者及ヒ荷送人ノ同意ヲ得ルニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス
前七条ノ規定ハ船舶ノ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第五百三十八条 個個ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ荷送人ハ船長ノ指図ニ従ヒ遅滞ナク運送品ヲ船積スルコトヲ要ス
荷送人カ前項ノ船積ヲ怠リタルトキハ船長ハ直チニ発航ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ荷送人ハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス但船舶所有者カ他ノ運送品ヨリ得タル運送賃ハ之ヲ控除ス
第五百三十九条 第五百三十七条ノ規定ハ荷送人カ契約ノ解除ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第五百四十条 傭船者又ハ荷送人ハ船積期間内ニ運送ニ必要ナル書類ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
第五百四十一条 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ運送品ヲ陸揚スヘキ準備カ整頓シタルトキハ船長ハ遅滞ナク其旨ヲ荷受人ニ通知スルコトヲ要ス
運送品ヲ陸揚スヘキ期間ノ定アル場合ニ於テハ其期間ハ前項ノ通知アリタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス其期間経過ノ後運送品ヲ陸揚シタルトキハ船舶所有者ハ特約ナキトキト雖モ相当ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ期間中ニハ不可抗力ニ因リテ陸揚ヲ為スコト能ハサル日ヲ算入セス
個個ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタルトキハ荷受人ハ船長ノ指図ニ従ヒ遅滞ナク運送品ヲ陸揚スルコトヲ要ス
第五百四十二条 荷受人カ運送品ヲ受取リタルトキハ運送契約又ハ船荷証券ノ趣旨ニ従ヒテ運送賃、附随ノ費用、立替金及ヒ運送品ノ価格ニ応シ海損、救援又ハ救助ノ為メ負担スヘキ金額ヲ支払フ義務ヲ負フ
船長ハ前項ニ定メタル金額ノ支払ト引換ニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ要セス
第五百四十三条 荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ怠リタルトキハ船長ハ之ヲ供託スルコトヲ得此場合ニ於テハ遅滞ナク其旨ヲ荷受人ニ通知スルコトヲ要ス
荷受人ヲ確知スルコト能ハサルトキ又ハ荷受人カ運送品ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ船長ハ運送品ヲ供託スルコトヲ要ス此場合ニ於テハ遅滞ナク其旨ヲ傭船者又ハ荷送人ニ通知スルコトヲ要ス
第五百四十四条 運送品ノ重量又ハ容積ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其額ハ運送品引渡ノ当時ニ於ケル重量又ハ容積ニ依リテ之ヲ定ム
第五百四十五条 期間ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其額ハ運送品ノ船積著手ノ日ヨリ其陸揚終了ノ日マテノ期間ニ依リテ之ヲ定ム但船舶カ不可抗力ニ因リ発航港若クハ航海ノ途中ニ於テ碇泊スヘキトキ又ハ航海ノ途中ニ於テ船舶ヲ修繕スヘキトキハ其期間ハ之ヲ算入セス第五百三十条第二項又ハ第五百四十一条第二項ノ場合ニ於テ船積期間又ハ陸揚期間経過ノ後運送品ノ船積又ハ陸揚ヲ為シタル日数亦同シ
第五百四十六条 船舶所有者ハ第五百四十二条第一項ニ定メタル金額ノ支払ヲ受クル為メ裁判所ノ許可ヲ得テ運送品ヲ競売スルコトヲ得
船長カ荷受人ニ運送品ヲ引渡シタル後ト雖モ船舶所有者ハ其運送品ノ上ニ権利ヲ行使スルコトヲ得但引渡ノ日ヨリ二週間ヲ経過シタルトキ又ハ第三者カ其占有ヲ取得シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百四十七条 船舶所有者カ前条ニ定メタル権利ヲ行ハサルトキハ傭船者又ハ荷送人ニ対スル請求権ヲ失フ但傭船者又ハ荷送人ハ其受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ヲ為スコトヲ要ス
第五百四十八条 船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ傭船者カ更ニ第三者ト運送契約ヲ為シタルトキハ其契約ノ履行カ船長ノ職務ニ属スル範囲内ニ於テハ船舶所有者ノミ其第三者ニ対シ其履行ノ責ニ任ス但第四百八十条ニ定メタル権利ヲ行使スルコトヲ妨ケス
第五百四十九条 船舶ノ全部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ其契約ハ左ノ事由ニ因リテ終了ス
一 第五百二十三条第一項ニ掲ケタル事由
二 運送品カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルコト
第五百二十三条第一項ニ掲ケタル事由カ航海中ニ生シタルトキハ傭船者ハ運送ノ割合ニ応シ運送品ノ価格ヲ超エサル限度ニ於テ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
第五百五十条 航海又ハ運送カ法令ニ反スルニ至リタルトキ其他不可抗力ニ因リテ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルトキハ各当事者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
前項ノ事由カ発航後ニ生シタル場合ニ於テ契約ノ解除ヲ為シタルトキハ傭船者ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
第五百五十一条 第五百四十九条第一項第二号及ヒ前条ニ定メタル事由カ運送品ノ一部ニ付キ生シタルトキハ傭船者ハ船舶所有者ノ負担ヲ重カラシメサル範囲内ニ於テ他ノ運送品ヲ船積スルコトヲ得
傭船者カ前項ノ権利ヲ行ハント欲スルトキハ遅滞ナク運送品ヲ船積又ハ陸揚スルコトヲ要ス若シ其船積又ハ陸揚ヲ為ササルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
第五百五十二条 第五百四十九条及ヒ第五百五十条ノ規定ハ船舶ノ一部又ハ個個ノ運送品ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第五百四十九条第一項第二号及ヒ第五百五十条ニ定メタル事由カ運送品ノ一部ニ付キ生シタルトキハ傭船者又ハ荷送人ハ運送賃ノ全額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第五百五十三条 運送品カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ船舶所有者ハ運送賃ヲ請求スルコトヲ得ス若シ船舶所有者カ既ニ運送賃ノ全部又ハ一部ヲ受取リタルトキハ之ヲ返還スルコトヲ要ス
第五百五十四条 船舶所有者ハ左ノ場合ニ於テハ運送賃ノ全額ヲ請求スルコトヲ得
一 運送品カ其性質若クハ瑕疵又ハ傭船者若クハ荷送人ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキ
二 船長カ第五百四条ノ規定ニ従ヒ積荷ヲ質入又ハ売却シタルトキ
三 船長カ第五百八条ノ規定ニ従ヒ積荷ヲ航海ノ用ニ供シタルトキ
四 船長カ第五百八十一条ノ規定ニ従ヒ積荷ヲ処分シタルトキ
第五百五十五条 船舶所有者ノ傭船者、荷送人又ハ荷受人ニ対スル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第五百五十六条 第二百七十八条、第二百八十四条乃至第二百八十九条及ヒ第二百九十五条ノ規定ハ船舶所有者ニ之ヲ準用ス
第二款 船荷証券
第五百五十七条 船長ハ傭船者又ハ荷送人ノ請求ニ因リ運送品ノ船積後遅滞ナク一通又ハ数通ノ船荷証券ヲ交付スルコトヲ要ス
第五百五十八条 船舶所有者ハ船長以外ノ者ニ船長ニ代ハリテ船荷証券ヲ交付スルコトヲ委任スルコトヲ得
第五百五十九条 船荷証券ニハ左ノ事項ヲ記載シ船長又ハ之ニ代ハル者署名スルコトヲ要ス
一 船舶ノ名称及ヒ国籍
二 船長カ船荷証券ヲ作成セサルトキハ船長ノ氏名
三 運送品ノ種類、重量若クハ容積、荷造ノ種類、個数及ヒ記号
四 傭船者又ハ荷送人ノ氏名又ハ商号
五 荷受人ノ氏名若クハ商号又ハ船荷証券ノ所持人ニ運送品ヲ引渡スヘキコト
六 船積港
七 陸揚港但発航後傭船者又ハ荷送人カ陸揚港ヲ指定スヘキトキハ其之ヲ指定スヘキ港
八 運送賃
九 数通ノ船荷証券ヲ作成シタルトキハ其員数
十 船荷証券ノ作成地及ヒ其作成ノ年月日
第五百六十条 傭船者又ハ荷送人ハ船長又ハ之ニ代ハル者ノ請求ニ因リ船荷証券ノ謄本ニ署名シテ之ヲ交付スルコトヲ要ス
第五百六十一条 船荷証券ハ其記名式ナルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ譲渡スコトヲ得但裏書ヲ禁スル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百六十二条 第二百八十二条甲ノ規定ハ船荷証券ニ之ヲ準用ス
第五百六十三条 船舶所有者ト荷受人トノ間ニ於テハ運送ニ関スル事項ハ船荷証券ノ定ムル所ニ依ル
第五百六十四条 運送品ハ船荷証券ト引換ニ非サレハ之ヲ引渡スコトヲ要セス
船長ハ所持人ヲシテ船荷証券ニ受取ノ旨ヲ記載セシメ且之ニ署名セシムルコトヲ得
第五百六十五条 陸揚港ニ於テハ船長ハ数通ノ船荷証券中ノ一通ノ所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタルトキト雖モ其引渡ヲ為スコトヲ要ス
第五百六十六条 陸揚港外ニ於テハ船長ハ其作成シタル総テノ船荷証券ノ返還ヲ受クルニ非サレハ運送品ヲ引渡スコトヲ得ス
第五百六十七条 二人以上ノ船荷証券所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタルトキハ船長ハ遅滞ナク運送品ヲ供託シ其旨ヲ請求ヲ為シタル各所持人ニ通知スルコトヲ要ス船長カ前条ノ規定ニ依リ運送品ノ一部ヲ引渡シタル後他ノ所持人カ運送品ノ引渡ヲ請求シタル場合ニ於テ其残部ニ付キ亦同シ
第五百六十八条 二人以上ノ船荷証券所持人アル場合ニ於テ其一人カ他ノ所持人ニ先チテ船長ヨリ運送品ノ引渡ヲ受ケタルトキハ他ノ所持人ノ船荷証券ハ其効力ヲ失フ
第五百六十九条 二人以上ノ船荷証券所持人アル場合ニ於テ船長カ未タ運送品ノ引渡ヲ為ササルトキハ原所持人カ最モ先ニ発送シ又ハ引渡シタル証券ヲ所持スル者ハ他ノ所持人ニ先チテ其権利ヲ行フコトヲ得
第二節 旅客運送
第五百七十条 記名ノ乗船切符ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得ス
第五百七十一条 旅客ノ航海中ノ食料ハ船舶所有者ノ負担トス
第五百七十二条 旅客カ契約ニ依リ船中ニ携帯スルコトヲ得ル手荷物ニ付テハ船舶所有者ハ特約アルニ非サレハ運送賃ヲ請求スルコトヲ得ス
第五百七十三条 旅客カ発航前又ハ航海ノ途中ニ於テ乗船期間内ニ船舶ニ乗込マサルトキハ船長ハ発航ヲ為シ又ハ航海ヲ継続スルコトヲ得此場合ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
第五百七十四条 発航前ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ半額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
発航後ニ於テハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払フニ非サレハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス
第五百七十五条 旅客カ死亡、疾病其他一身ニ関スル不可抗力ニ因リテ航海ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ船舶所有者ハ運送賃ノ四分ノ一ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ事由カ発航後ニ生シタルトキハ船舶所有者ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ請求スルコトヲ得
第五百七十六条 航海中船舶ヲ修繕スヘキトキハ旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払ヒテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
船舶所有者ハ船舶ノ修繕中旅客ニ相当ノ住居及ヒ食料ヲ供スルコトヲ要ス但旅客ノ権利ヲ害セサル範囲内ニ於テ他ノ船舶ヲ以テ到達港マテ旅客ヲ運送スルコトヲ提供シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百七十七条 旅客運送契約ハ第五百二十三条第一項ニ掲ケタル事由ニ因リテ終了ス若シ其事由カ航海中ニ生シタルトキハ旅客ハ運送ノ割合ニ応シテ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
第五百七十八条 旅客カ死亡シタルトキハ船長ハ最モ其相続人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其船中ニ在ル手荷物ノ処分ヲ為スコトヲ要ス
第五百七十九条 第二百九十七条、第二百九十八条第一項、第二百九十九条、第五百二十七条、第五百二十八条、第五百五十条及ヒ第五百五十五条ノ規定ハ海上ノ旅客運送ニ之ヲ準用ス
第二百八十四条乃至第二百八十九条、第二百九十五条、第五百二十九条及ヒ第五百五十二条乃至第五百五十四条ノ規定ハ旅客ノ手荷物ニ之ヲ準用ス
第五百八十条 旅客運送ヲ為ス為メ船舶ノ全部又ハ一部ヲ以テ運送契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テハ船舶所有者ト傭船者トノ関係ニ付テハ前節第一款ノ規定ヲ準用ス
第四章 海損
第五百八十一条 船長カ船舶及ヒ積荷ヲシテ共同ノ危険ヲ免レシムル為メ船舶又ハ積荷ニ付キ為シタル処分ニ因リテ生シタル損害及ヒ費用ハ其処分ニ因リテ保存スルコトヲ得タル船舶又ハ積荷ノ価格ト運送賃ノ半額トノ割合ニ応シ各利害関係人之ヲ分担ス但危険カ過失ニ因リテ生シタル場合ニ於テ利害関係人ノ過失者ニ対スル求償ヲ妨ケス
第五百八十二条 前条ニ定メタル海損ノ分担額ニ付テハ船舶ノ価格ハ到達ノ地及ヒ時ニ於ケル価格トシ積荷ノ価格ハ陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル価格トス但積荷ニ付テハ其価格中ヨリ喪失ノ場合ニ於テ支出スルコトヲ要セサル費用及ヒ支払フコトヲ要セサル運送賃ヲ控除スルコトヲ要ス
第五百八十三条 前二条ノ規定ニ依リ海損ヲ分担スヘキ者ハ船舶ノ到達又ハ積荷ノ引渡ノ時ニ於テ現存スル価額ノ限度ニ於テノミ其責ニ任ス
第五百八十四条 第五百八十一条ニ掲ケタル損害ヲ受ケタル者ハ其損害ノ割合ニ応シテ海損ヲ分担ス
第五百八十五条 船舶ニ備附ケタル武器、船員ノ給料、船員及ヒ旅客ノ食料並ニ衣類ハ海損ノ分担ニ付キ其価額ヲ算入セス但此等ノ物ニ加ヘタル損害ハ他ノ利害関係人之ヲ分担ス
第五百八十六条 船荷証券其他積荷ノ価格ヲ評定スルニ足ルヘキ書類ナクシテ船積シタル荷物ニ加ヘタル損害ハ利害関係人ニ於テ之ヲ分担スルコトヲ要セス
甲板ニ積込ミタル荷物ニ加ヘタル損害亦同シ但沿岸ノ小航海ニ在リテハ此限ニ在ラス
前二項ニ掲ケタル積荷ノ利害関係人ト雖モ海損分担ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第五百八十七条 第五百八十一条ニ掲ケタル損害ノ額ハ積荷陸揚ノ地及ヒ時ニ於ケル其価額ニ依リテ之ヲ定ム但積荷ニ付テハ其滅失又ハ毀損ノ為メ支払フコトヲ要セサリシ一切ノ費用ヲ控除スルコトヲ要ス
第二百八十五条ノ規定ハ海損ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百八十八条 船荷証券其他積荷ノ価格ヲ評定スルニ足ルヘキ書類ニ積荷ノ実価ヨリ低キ価額ヲ記載シタルトキハ其積荷ニ加ヘタル損害ノ額ハ其記載シタル価額ニ依リテ之ヲ定ム
積荷ノ実価ヨリ高キ価額ヲ記載シタルトキハ其積荷ノ利害関係人ハ其記載シタル価額ニ応シテ海損ヲ分担ス
前二項ノ規定ハ積荷ノ価格ニ影響ヲ及ホスヘキ事項ニ付キ虚偽ノ記載ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第五百八十九条 第五百八十一条ノ規定ニ依リ利害関係人カ海損ヲ分担シタル後船舶、其属具若クハ積荷ノ全部又ハ一部カ其所有者ニ復シタルトキハ其所有者ハ償金中ヨリ救撈ノ費用及ヒ一部滅失又ハ毀損ニ因リテ生シタル損害ノ額ヲ控除シタルモノヲ返還スル義務ヲ負フ
第五百九十条 船舶カ双方ノ船員ノ過失ニ因リテ衝突シタル場合ニ於テ双方ノ過失ノ軽重ヲ判定スルコト能ハサルトキハ其衝突ニ因リテ生シタル損害ハ各船舶ノ所有者平分シテ之ヲ負担ス
第五百九十一条 共同海損又ハ船舶ノ衝突ニ因リテ生シタル債権ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
前項ノ期間ハ共同海損ニ付テハ其計算終了ノ時ヨリ之ヲ起算ス
第五百九十二条 本章ノ規定ハ船舶カ不可抗力ニ因リ発航港又ハ航海ノ途中ニ於テ碇泊スル為メニ要スル費用ニ之ヲ準用ス
第五章 保険
第五百九十三条 海上保険契約ハ航海ニ関スル事故ニ因リテ生スルコトアルヘキ損害ノ填補ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得
第三編第十章第一節第一款ノ規定ハ本章ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外海上保険契約ニ之ヲ適用ス
第五百九十四条 保険者ハ本章又ハ保険契約ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外保険期間中保険ノ目的ニ付キ航海ニ関スル事故ニ因リテ生シタル一切ノ損害ヲ填補スル責ニ任ス
第五百九十五条 保険者ハ被保険者カ支払フヘキ海損ノ分担額ヲ填補スル責ニ任ス但保険価額ノ一部ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テハ保険者ノ負担ハ保険金額ノ保険価額ニ対スル割合ニ依リテ之ヲ定ム
第五百九十六条 船舶ノ保険ニ付テハ保険者ノ責任カ始マル時ニ於ケル其価額ヲ以テ保険価額トス
第五百九十七条 荷物ノ保険ニ付テハ其船積ノ地及ヒ時ニ於ケル其価額及ヒ船積並ニ保険ニ関スル費用ヲ以テ保険価額トス
第五百九十八条 荷物ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益ノ保険ニ付テハ契約ヲ以テ保険価額ヲ定メサリシトキハ保険金額ヲ以テ保険価額トシタルモノト推定ス
第五百九十九条 一航海ニ付キ船舶ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テハ保険者ノ責任ハ荷物又ハ底荷ノ船積ニ著手シタル時ヲ以テ始マル
荷物又ハ底荷ノ船積ヲ為シタル後船舶ヲ保険ニ付シタルトキハ保険者ノ責任ハ契約成立ノ時ヲ以テ始マル
前二項ノ場合ニ於テ保険者ノ責任ハ到達港ニ於テ荷物又ハ底荷ノ陸揚カ終了シタル時ヲ以テ終ハル但其陸揚カ不可抗力ニ因ラスシテ遅延シタルトキハ其終了スヘカリシ時ヲ以テ終ハル
第六百条 荷物ヲ保険ニ付シ又ハ荷物ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益若クハ報酬ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テハ保険者ノ責任ハ其荷物カ陸地ヲ離レタル時ヲ以テ始マリ陸揚港ニ於テ其陸揚カ終了シタル時ヲ以テ終ハル
前条第三項但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六百一条 海上保険証券ニハ第三百四十七条第二項ニ掲ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 船舶ノ国籍、名称、種類及ヒ積量
二 船長ノ氏名
三 発航港、到達港又ハ寄航港ノ定アルトキハ其港
荷物ヲ保険ニ付シ又ハ荷物ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益若クハ報酬ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テハ船積港及ヒ陸揚港ヲ記載スルコトヲ要ス
第六百二条 保険者ノ責任カ始マル前ニ於テ航海ヲ変更シタルトキハ保険者ハ其義務ヲ免ル
保険者ノ責任カ始マリタル後航海ヲ変更シタルトキハ保険者ハ其変更後ノ事故ニ付キ責任ヲ負フコトナシ但其変更カ被保険者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因レルトキハ此限ニ在ラス
到達地ヲ変更シ其実行ニ著手シタルトキハ保険シタル航路ヲ離レサルトキト雖モ航海ヲ変更シタルモノト看做ス
第六百三条 被保険者カ発航ヲ為シ若クハ航海ヲ継続スルコトヲ怠リ又ハ航路ヲ変更シ其他著シク危険ヲ変更若クハ増加シタルトキハ保険者ハ其変更又ハ増加以後ノ事故ニ付キ責任ヲ負フコトナシ但其変更又ハ増加カ事故ノ発生ニ影響ヲ及ホササリシトキ又ハ保険者ノ負担ニ帰スヘキ不可抗力若クハ正当ノ理由ニ因リテ生シタルトキハ此限ニ在ラス
第六百四条 保険契約中ニ船長ヲ指定シタルトキト雖モ船長ノ変更ハ契約ノ効力ニ影響ヲ及ホサス
第六百五条 荷物ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テ船舶ヲ変更シタルトキハ保険者ハ其変更以後ノ事故ニ付キ責任ヲ負フコトナシ
第六百二条第二項但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六百六条 保険契約ヲ為スニ当タリ荷物ヲ積込ムヘキ船舶ヲ定メサリシ場合ニ於テ保険契約者又ハ被保険者カ其荷物ヲ船積シタルコトヲ知リタルトキハ遅滞ナク船舶ノ名称及ヒ国籍ヲ保険者ニ通知スルコトヲ要ス
保険契約者又ハ被保険者カ前項ノ通知ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ保険者ハ其義務ヲ免ル
第六百七条 保険者ハ左ニ掲ケタル損害又ハ費用ヲ填補スル責ニ任セス
一 保険契約ノ目的ノ性質若クハ瑕疵、其自然ノ消耗又ハ保険契約者、被保険者若クハ保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ故意若クハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル損害
二 船舶又ハ運送賃ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テ発航ノ当時安全ニ航海ヲ為スニ必要ナル準備ヲ為サス又ハ必要ナル書類ヲ備ヘサルニ因リテ生シタル損害
三 荷物ヲ保険ニ付シ又ハ荷物ノ到達ニ因リテ得ヘキ利益ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テ傭船者、荷送人又ハ荷受人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル損害
四 水先案内料、入港料、灯台料、検疫料其他船舶又ハ荷物ニ付キ航海ノ為メニ出タシタル通常ノ費用
第六百八条 第五百八十一条ニ定メタル海損ニ非サル損害又ハ費用ハ其計算ニ関スル費用ヲ算入セスシテ保険価額ノ百分ノ三ヲ超エサルトキハ保険者ハ之ヲ填補スルコトヲ要セス
右ノ損害又ハ費用カ保険価額ノ百分ノ三ヲ超エタルトキハ保険者ハ其全額ヲ支払フコトヲ要ス
前二項ノ規定ハ当事者カ契約ヲ以テ保険者ノ負担セサル損害又ハ費用ノ割合ヲ定メタル場合ニ之ヲ準用ス
前三項ニ定メタル割合ハ各航海ニ付キ之ヲ計算ス
第六百九条 保険ノ目的タル荷物カ毀損シテ陸揚港ニ到達シタルトキハ保険者ハ其荷物カ毀損シタル状況ニ於ケル価額ノ毀損セサル状況ニ於テ有スヘカリシ価額ニ対スル割合ヲ以テ保険価額ノ一部ヲ填補スルコトヲ要ス
前項ノ価額算定ニ関スル費用ハ保険者之ヲ負担ス
第六百十条 航海ノ途中ニ於テ不可抗力ニ因リ保険ノ目的タル荷物ヲ売却シタルトキハ其売却ニ依リテ得タル代価ノ中ヨリ運送賃其他ノ費用ヲ控除シ其残額ト保険価額トノ差ヲ以テ保険者ノ負担トス
前項ノ場合ニ於テ買主カ代価ヲ支払ハサルトキハ保険者ハ其支払ヲ為スコトヲ要ス但其支払ヲ為シタルトキハ被保険者ノ買主ニ対スル権利ヲ取得ス
第六百十一条 被保険者ハ左ノ場合ニ於テハ保険ノ目的ヲ保険者ニ委付シテ保険金額ノ全部ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
一 船舶カ沈没シタルトキ
二 船舶ノ行方カ知レサルトキ
三 船舶カ修繕スルコト能ハサルニ至リタルトキ
四 船舶又ハ荷物カ捕獲セラレタルトキ
五 船舶又ハ荷物カ官ノ処分ニ依リテ押収セラレ六个月間解放セラレサルトキ
第六百十二条 前条第三号ノ場合ニ於テ船長カ遅滞ナク他ノ船舶ヲ以テ荷物ノ運送ヲ継続シタルトキハ被保険者ハ其荷物ヲ委付スルコトヲ得ス
第六百十三条 船舶ノ存否カ六个月間分明ナラサルトキハ其船舶ハ行方ノ知レサルモノトス
保険期間ノ定アル場合ニ於テ前項ノ期間カ経過シタルトキハ船舶ハ保険期間内ニ滅失シタルモノト推定ス
第六百十四条 被保険者カ委付ヲ為サント欲スルトキハ三个月内ニ其通知ヲ保険者ニ発スルコトヲ要ス
前項ノ期間ハ第六百十一条第一号、第三号及ヒ第四号ノ場合ニ於テハ被保険者カ其事由ヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス
再保険ノ場合ニ於テハ第一項ノ期間ハ其被保険者カ自己ノ被保険者ヨリ委付ノ通知ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第六百十五条 委付ハ単純ナルコトヲ要ス
委付ハ保険ノ目的ノ全部ニ付キ之ヲ為スコトヲ要ス但委付ノ原因カ其一部ニ付キ生シタルトキハ其部分ニ付テノミ之ヲ為スコトヲ得
保険価額ノ一部ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テハ委付ハ保険金額ノ保険価額ニ対スル割合ニ応シテ之ヲ為スコトヲ得
第六百十六条 保険者ハ委付ニ因リ被保険者カ保険ノ目的ニ付キ有セル一切ノ権利ヲ取得ス
被保険者カ委付ヲ為シタルトキハ保険ノ目的ニ関スル証書ヲ保険者ニ交付スルコトヲ要ス
第六百十七条 被保険者ニ委付ヲ為スニ当タリ保険ノ目的ニ関スル他ノ保険契約並ニ其負担ニ属スル債務ノ有無及ヒ其種類ヲ保険者ニ通知スルコトヲ要ス
保険者ハ被保険者カ前項ノ通知ヲ為スマテハ保険金額ノ支払ヲ為スコトヲ要セス
保険金額ノ支払ニ付キ期間ノ定アルトキハ其期間ハ被保険者カ第一項ノ通知ヲ為シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第六百十八条 被保険者ハ委付ノ原因ヲ証明シタル後ニ非サレハ保険金額ノ支払ヲ請求スルコトヲ得ス
保険者ハ委付ノ原因ヲ調査スル為メ相当ノ期間保険金額ノ支払ヲ拒ムコトヲ得
第六百十九条 保険者ノ責任カ始マル前ニ於テハ保険契約者ハ契約ノ全部又ハ一部ヲ解除スルコトヲ得
第六百二十条 保険者ノ責任カ始マル前ニ於テ保険契約者又ハ被保険者ノ行為ニ因ラスシテ保険契約ノ目的ノ全部又ハ一部ニ付キ保険者ノ負担ニ帰スヘキ危険カ生セサルニ至リタルトキハ保険者ハ保険料ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ為スコトヲ要ス
第六百二十一条 前二条ノ場合ニ於テハ保険者ハ保険料ノ半額ヲ請求スルコトヲ得
第六章 船舶債権者
第六百二十二条 左ニ掲ケタル債権ヲ有スル者ハ船舶、其属具及ヒ未タ受取ラサル運送賃ノ上ニ先取特権ヲ有ス
一 船舶並ニ其属具ノ競売ニ関スル費用及ヒ競売手続開始後ノ保存費
二 最後ノ港ニ於ケル船舶及ヒ其属具ノ保存費
三 航海ニ関シ船舶ニ課シタル諸税
四 水先案内料及ヒ挽船料
五 救援並ニ救助ノ費用及ヒ船舶ノ負担ニ属スル共同海損
六 航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権
七 雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権
八 船舶カ其売買又ハ製造ノ後未タ航海ヲ為ササル場合ニ於テ其売買又ハ製造並ニ艤装ニ因リテ生シタル債権及ヒ最後ノ航海ノ為メニスル船舶ノ艤装、食料並ニ燃料ニ関スル債権
九 第二号、第四号乃至第六号及ヒ前号ニ掲ケタルモノヲ除ク外第四百八十条ノ規定ニ依リ委付ヲ許シタル債権
第六百二十三条 船舶債権者ノ先取特権ハ運送賃ニ付テハ其先取特権ノ生シタル航海ニ於ケル運送賃ノ上ニノミ存在ス
第六百二十四条 船舶債権者ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位ハ第六百二十二条ニ掲ケタル順序ニ従フ但同条第四号乃至第六号ノ債権間ニ在リテハ後ニ生シタルモノ前ニ生シタルモノニ先ツ
同一順位ノ先取特権者数人アルトキハ各其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク但第六百二十二条第四号乃至第六号ノ債権カ同時ニ生セサリシ場合ニ於テハ後ニ生シタルモノ前ニ生シタルモノニ先ツ
先取特権カ数回ノ航海ニ付キ生シタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ニ拘ハラス後ノ航海ニ付キ生シタルモノ前ノ航海ニ付キ生シタルモノニ先ツ
第六百二十五条 船舶所有者カ其船舶ヲ譲渡シタル場合ニ於テハ譲受人ハ其譲渡ヲ登記シタル後先取特権者ニ対シ一个月ヲ下ラサル期間内ニ其債権ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス
先取特権者カ前項ノ期間内ニ其債権ノ申出ヲ為ササリシトキハ其先取特権ハ消滅ス
第六百二十六条 船舶債権者ノ先取特権ハ其発生後一年ヲ経過シタルトキハ消滅ス
第六百二十二条第八号ノ先取特権ハ船舶ノ発航ニ因リテ消滅ス
第六百二十七条 登記シタル船舶ハ之ヲ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得
船舶ノ抵当権ハ其属具ニ及フ
船舶ノ抵当権ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第六百二十八条 船舶ノ先取特権ハ抵当権ニ先チテ之ヲ行フコトヲ得
第六百二十九条 民法第二編第十章ノ規定ハ船舶ノ抵当権ニ之ヲ準用ス
第六百三十条 船舶ハ之ヲ以テ質権ノ目的ト為スコトヲ得ス
第六百三十一条 本章ノ規定ハ製造中ノ船舶ニ之ヲ準用ス