明治商法(明治32年)

商甲第五十三号 (明治三十年九月二十五日配付)

参考原資料

第五編 第二章 船員 第一節 船長 第四百四十四条 船長ハ其職務ヲ行フニ付キ注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ船舶所有者、荷送人其他ノ利害関係人ニ対シ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス 船長ハ船舶所有者ノ指図ニ従ヒタルトキト雖モ船舶所有者以外ノ者ニ対シテハ前項ニ定メタル責任ヲ免ルルコトヲ得ス 第四百四十五条 海員カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ船長ハ監督ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ損害賠償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス 第四百四十六条 船長カ已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコト能ハサルトキハ他人ヲ選任シテ自己ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得此場合ニ於テハ船長ハ其選任ニ付キ船舶所有者ニ対シテ其責ニ任ス 第四百四十七条 船長ハ発航前船舶ノ航海ニ支障ナキヤ否ヤ其他航海ニ必要ナル準備ノ整頓セルヤ否ヤヲ監視スルコトヲ要ス 第四百四十八条 船長ハ左ニ掲ケタル書類ヲ船中ニ備フルコトヲ要ス 一 船舶登記証書 二 属具目録 三 海員名簿 四 旅客名簿 五 運送契約及ヒ積荷ニ関スル書類 六 税関ヨリ交付シタル書類 七 航海日誌 第四百四十九条 船長ハ已ムコトヲ得サル場合ヲ除ク外荷物ヲ船積スル時ヨリ之ヲ陸揚スル時マテ其指揮スル船舶ヲ去ルコトヲ得ス 第四百五十条 船長ハ航海ノ準備終ハリタルトキハ遅滞ナク発航シ且必要アル場合ヲ除ク外予定ノ航路ヲ変更セスシテ到達地マテ航行スルコトヲ要ス 第四百五十一条 船長ハ航海中最モ利害関係人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ積荷ノ処分ヲ為スコトヲ要ス 積荷ノ利害関係人ハ船長ノ行為ニ因リ其積荷ニ付テ生シタル債権ノ為メ之ヲ債権者ニ委付シテ其責任ヲ免ルルコトヲ得但積荷ノ利害関係人ニ過失アルトキハ此限ニ在ラス 第四百五十二条 船籍港外ニ於テハ船長ハ航海ノ為メニ必要ナル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲ為ス権限ヲ有ス 船籍港ニ於テハ船長ハ特ニ委任ヲ受ケタル場合ヲ除ク外前項ニ定メタル権限ヲ有セス但海員ヲ雇入ルルハ此限ニ在ラス 第四百五十三条 船長ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第四百五十四条 船長ハ船舶修繕ノ費用其他航海ニ必要ナル費用ヲ支弁スル為メニ非サレハ左ノ行為ヲ為スコトヲ得ス 一 船舶ヲ抵当ト為スコト 二 借財ヲ為スコト 三 積荷ノ全部又ハ一部ヲ質入又ハ売却スルコト 船長カ積荷ヲ質入又ハ売却シタル場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其積荷ノ到達スヘカリシ時ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム 第四百五十五条 船長カ特ニ委任ヲ受ケスシテ船舶所有者ノ為メニ費用ヲ出タシ又ハ債務ヲ負担シタルトキハ船舶所有者ハ第四百三十四条ニ定メタル権利ヲ行フコトヲ得 第四百五十六条 船舶カ航海ニ堪ヘサルニ至リタルトキハ船長ハ船舶登記所又ハ領事ノ認可ヲ得タル後之ヲ競売スルコトヲ得 第四百五十七条 船長ハ航海ノ為メ必要ナルトキハ積荷ヲ航海ノ用ニ供スルコトヲ得此場合ニ於テ損害賠償ノ額ハ其積荷ノ到達スヘカリシ時ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム 第四百五十八条 船長ハ遅滞ナク航海ニ関スル重要ナル事項ヲ船舶所有者ニ報告スルコトヲ要ス 船長ハ毎航海ノ終ニ於テ遅滞ナク其航海ニ関スル計算ノ報告ヲ為シテ船舶所有者ノ承認ヲ求メ又船舶所有者ノ請求アルトキハ何時ニテモ計算ノ報告ヲ為スコトヲ要ス 第四百五十九条 船舶所有者ハ何時ニテモ船長ヲ解任スルコトヲ得但船長ハ船舶所有者ニ対シ解任ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 船長カ船舶共有者ナル場合ニ於テ其意ニ反シテ解任セラレタルトキハ他ノ共有者ニ対シ相当代価ヲ以テ自己ノ持分ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得 船長カ前項ノ請求ヲ為サント欲スルトキハ遅滞ナク他ノ共有者又ハ船舶管理人ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス