明治商法(明治32年)

商甲第三十七号 (明治三十年四月二十一日配付)

参考原資料

第三編 第十章 保険 第一節 損害保険 第一款 総則 第三百二条 損害保険契約ハ当事者ノ一方カ偶然ナル一定ノ事故ニ因リテ生スルコトアルヘキ損害ヲ填補スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第三百三条 保険契約ハ金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ利益ニ限リ之ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得 第三百四条 保険金額カ保険契約ノ目的ノ価額ヲ超過シタルトキハ其超過シタル部分ハ無効トス 第三百五条 同一ノ目的ニ付キ同時ニ数個ノ保険契約ヲ為シタル場合ニ於テ其保険金額カ保険価額ヲ超過シタルトキハ各保険者ノ負担部分ハ其各自ノ保険金額ノ割合ニ依リテ之ヲ定ム 数個ノ保険契約ノ日附カ同一ナルトキハ其契約ハ同時ニ為シタルモノト看做ス 第三百六条 相次テ数個ノ保険契約ヲ為シタルトキハ先ニ保険ヲ為シタル者先ツ損害ヲ填補シ若シ不足アルトキハ次ノ保険者之ヲ填補ス 第三百七条 既ニ保険価額ノ全部ヲ保険ニ付シタル後ト雖モ左ノ場合ニ限リ更ニ保険契約ヲ為スコトヲ得 一 前ノ保険者ニ対スル権利ヲ後ノ保険者ニ譲渡スヘキコトヲ約シタルトキ 二 前ノ保険者ニ対スル権利ノ全部若クハ一部ヲ放棄シ其旨ヲ後ノ保険者ニ告ケタルトキ 三 前ノ保険者ヨリ損害ノ填補ヲ得サルコトヲ条件トシタルトキ 第三百八条 同時ニ又ハ相次テ数個ノ保険契約ヲ為シタル場合ニ於テ保険者ノ一人ニ対スル権利ノ放棄ハ他ノ保険者ノ権利義務ニ影響ヲ及ホサス 第三百九条 保険価額ノ一部ヲ保険ニ付シタル場合ニ於テ当事者カ別段ノ意思ヲ表示セサリシトキハ保険者ハ其保険金額ノ保険価額ニ対スル割合ニ応シテ損害ヲ填補ス 第三百十条 保険者カ填補スヘキ損害ノ額ハ其損害カ生シタル地ニ於ケル其時ノ価額ニ依リテ之ヲ定ム 第三百十一条 前条ノ規定ニ拘ハラス当事者カ契約ヲ以テ保険価額ヲ定メタルトキハ保険者ハ其価額ノ著シク過当ナルコトヲ証明スルニ非サレハ其填補額ノ減少ヲ請求スルコトヲ得ス 第三百十二条 戦争其他ノ変乱ニ因リテ生シタル損害ハ特約アルニ非サレハ保険者之ヲ填補スル責ニ任セス 第三百十三条 保険契約ノ目的ノ性質、瑕疵、其自然ノ消耗、保険契約者又ハ被保険者ノ故意若クハ重大ナル過失ニ因リテ生シタル損害ニ付テハ被保険者ハ保険者ニ対シテ其填補ヲ請求スルコトヲ得ス 第三百十四条 保険契約ノ当時当事者ノ一方又ハ被保険者カ事故ノ発生セサルコト又ハ損害ノ既ニ生シタルコトヲ知レルトキハ其契約ハ無効トス 第三百十五条 保険契約者保険契約ヲ為スニ当タリ悪意ニテ重要ナル事実ヲ告ケス又ハ重要ナル事項ニ付キ不実ノ事ヲ告ケタルトキハ其契約ハ無効トス但保険者カ其事実ヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシトキハ此限ニ在ラス 第三百十六条 保険契約ノ全部又ハ一部カ無効ナル場合ニ於テ保険契約者及ヒ被保険者カ善意ナルトキハ保険者ニ対シ保険料ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得 第三百十七条 保険契約ハ他人ノ為メニモ之ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ保険契約者ハ保険者ニ対シ保険料ヲ支払フ義務ヲ負フ 他人ノ為メニ保険契約ヲ為ス意思カ分明ナラサルトキハ保険契約者自己ノ為メニ之ヲ為スモノト看做ス 第三百十八条 保険契約ハ書面ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ証明スルコトヲ得ス但其書面カ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ此限ニ在ラス 第三百十九条 保険契約者ハ保険者ニ対シ保険証券ノ交付ヲ請求スルコトヲ得 保険証券ニハ左ノ事項ヲ記載シ保険者署名スルコトヲ要ス 一 保険契約ノ目的 二 保険者ノ負檐シタル危険 三 保険価額ヲ定メタルトキハ其価額 四 保険金額 五 保険料及ヒ其支払ノ方法 六 保険期間ヲ定メタルトキハ其始期及ヒ終期 七 保険契約者ノ氏名、住所 八 保険金額ノ支払ヲ受クヘキ者カ保険契約者ニ非サルトキハ其者ノ氏名、住所 九 保険契約ノ年月日 十 此他保険契約ノ要領 十一 保険証券発行ノ年月日 第三百二十条 被保険者カ保険契約ノ目的ヲ譲渡シタルトキハ同時ニ保険契約ニ因リテ生シタル権利ヲ譲渡シタルモノト推定ス 前項ノ場合ニ於テ契約ノ目的ノ譲渡カ著シク危険ヲ変更又ハ増加シタルトキハ保険契約ハ其効力ヲ失フ 第三百二十一条 当事者ノ一方カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ其相手方ハ相当ノ担保ヲ供セシメ又ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第三百二十二条 保険期間中危険カ著シク変更又ハ増加シタルトキハ保険契約ハ其効力ヲ失フ但保険者カ其変更又ハ増加ヲ知リタル後契約ヲ承認シタルトキハ此限ニ在ラス 第三百二十三条 保険者ノ負担シタル危険ノ発生ニ因リテ損害カ生シタル場合ニ於テ保険契約者又ハ被保険者カ其損害ノ生シタルコトヲ知リタルトキハ遅滞ナク其旨ヲ保険者ニ通知スルコトヲ要ス 被保険者ハ損害ノ防止ヲ力ムルコトヲ要ス但之カ為メニ必要又ハ有益ナリシ費用ハ保険金額ヲ超過スルトキト雖モ保険者之ヲ負担ス 第三百九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第三百二十四条 損害カ第三者ノ行為ニ因リテ生シタル場合ニ於テ保険者カ被保険者ニ対シ其填補ヲ為シタルトキハ其填補シタル限度ニ於テ保険契約者又ハ被保険者カ第三者ニ対シテ有スル権利ヲ取得ス 第三百二十五条 本節ノ規定ハ相互保険ニ之ヲ準用ス但其性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス