新貨条例ヲ改刻シ貨幣条例ト改ム

参考原資料

新貨条例ノ儀明治四年五月頒布ノ後追々貨幣図面寸法ノ改正規則例目ノ刪補等有之候ニ付本年四月第六十弐号布告但書ノ通今般改刻更ニ貨幣条例ト相改候条此旨布告候事 但明治六年八月第三百八号布告銅貨図面同七年三月第三拾四号布告壱円銀図面本年二月第三拾五号布告貿易銀図面共表裏ノ唱ヘ反対イタシ居候ニ付今般改正侯事 皇国往古より他邦貿易の事少なく貨幣之制度いまた精密ならす其品類各種にして其価位も亦一定せす今其概略を挙むには慶長金あり享保金あり文字金あり大小判金あり一分金あり弐分金あり弐朱金あり一分銀あり一朱銀あり当百銭あり大小数種の銅銭あり其他一時通用の貨幣は枚挙に遑あらす甚しきは一国一郡限の貨幣ありて今に至るまて僅に其一部に通用し他方に流通せさるものありかく其品類区々にして方円大小其価を異にし混合雑駁其質を同うせす抑貨幣の眼目たる量目と性合とに至りては殆んと弁知すへからす新旧互に雑用し品位自ら低下し其間或は贋造の弊ありて竟に今日の甚しきに馴致せり偶々良性の貨幣は徒らに富家庫中の宝物となり或は外国へ輸出せしも亦少なからす遂に諸品換用の能力を失ひ日用便利の道を塞き流通の公益殆んと絶えんとするに至る実にこれ天下一般の窮厄にして万民の痛心更に之より大なるものなし今其縁由を尋繹するに全く一定の価位なくして善悪良否を雑用するの旧弊より生する事なり方今貿易の道弥盛むなる時に当りて旧弊を改め精良の新製を設けすんは何をもつて流通の道を開き富国の基を立んや是政府の責任にして然も燃眉の急務たり故に去る明治元戊辰の年より早くその功を起し莫大の経費を厭はす大阪において新に造幣寮を建置し壮大なる器械を備へ広く宇内各国貨幣の真理を察知し金銀の性質量目より割合の差等鋳造の方法に至るまて詳かに普通の制を比較商量し以て精密の通用貨幣を鋳造し在来の貨幣に加へて一般の流通を資けんとするの都合を謀り既に開寮の儀典を完了せりされとも前に言へることく区々各種の貨幣多けれは現場諸品の価直を錯乱し万民の迷惑なることなれは漸々新旧を交換して在来の通宝は悉く改鋳し都て品類を一定せしめんとの御趣意なり且貨幣は天下万民の通宝たる主旨に基き地金を持参して引換を望むものへは速かに改鋳して通用貨幣を渡すへしされは今人々古来の旧習を襲ひ重代の宝物とせる古金銀の類も数年ならすして全く地金一様のものとなるへけれは早々交換流通して貨幣の真理を失はさる様注意すへき事肝要なり斯く新たに造幣寮を設けしも偏に万民の保護を任するの職分を尽すの外他あるにあらされは万民亦能く此理を会得し各その務を勉励して天賦の職をつくすへし仍て今爰に其次第を掲示し並せて新貨幣の真形を摹し其量目品位表を添へ且地金引換への規則等詳細に附録し普く国内に頒布諭告するもの也 明治四年辛未五月 太政官 貨幣例目 一貨幣の称呼は円を以て起票とし其多寡を論せす都て円の原称に数字を加へて之を計算すへし但し一円以下は銭一円の百分一と厘一銭の十分一とを以て少数の計算に用ふへし 一算則は都て十進一位の法を用ひ一厘十を合して一銭とし一銭十を併せて十銭といひ十銭十即ち百銭を以て一円とす一円より上十百千万に至るといふとも皆■十数を合して一位を進む其他半銭五銭五十銭五円の如きは十数を半割し二十銭二円二十円の如きも亦一十の数を倍するまてにして固より軌範の外に出す 一厘より以下は別に鋳造の貨幣なしと雖若し計算を要すれは毛糸忽微繊を以て微少の数を算すへし又万より以上は十万百万千万に至り千万十即ち万々を以て一億とし大数の計算を為すへし 一製貨中金銀純分の割合及其量目は都て真形摸写の下に表出するといへとも鎔和鋳造の際僅少の差あるを免かれす故に今各種の貨幣に就て其不得巳して生する量目並品位の公差を表出して以て毛糸の微細を弁析す 公差表 公差表 一ガラム」ミリガラム」オンス」ゲレイン」ト日本量目の比較ハ在来の秤量にとりて聊の差ありといへとも爰に其平均を取て之を算し左の略表を以て当分比較の定規とす 表紙 貨幣通用制限 本位金貨幣即二十円十円五円二円一円の中一円金を以て原貨と定め各種とも何れの払方にも之を用ひ其高に制限あることなし 本位とは貨幣の主本にして他の準拠となるものなり故に通用の際に制限を立るを要せす尤も一円金を以て本位中の原貨と定むるとは就中一円金を以て本位の基本を定め他の四種の金貨も都て標準を一円金に取れはなり 補助の銀貨即五十銭二十銭十銭五銭は都て補助の貨品にして其一種又は数種を併せ用ふるとも一口の払方に十円の高を限るヘし 補助の銅貨即二銭一銭半銭一厘は都て一口の払方に一円の高を限り用ゆへし (改正)補助ノ白銅貨即五銭及銅貨即二銭一銭半銭一厘ハ都テ一口ノ払方ニ一円ノ高ヲ限ルヘシ 補助とは本位貨幣の補助にして制度によりて其価位を定めて融通を資くるものなり故に通用の際これか制限を設けて交通の定規とす 貿易銀は各開港場貿易便利の為め内外人民の望に応し鋳造し内外通商の流融を資くへし 此貿易銀は全く海関税其他外国人より納むる諸税及日本人外国人と通商の取引に用ふるのみにして内地の諸税納方等公なる払方に用ふへからさるは勿論其他一般の通用を得さるへしされとも私の取引に付相対の示談を以て受取渡しいたす分は何れの地にても勝手次第たるへし (改正)此貿易銀は海関税其他外国人より納むる諸税及ひ日本人外国人と通商の取引に用ひ又これを内地の諸税納方等其他公私一般の払方にも用ひ其高に制限あることなし 海関税其他外国人より納むる諸税受取方に付貿易銀但新旧トモと本位金貨との価格比較は当分銀貨百枚に付本位金貨百零一円の割合たるへし (改定)海関税其他外国人ヨリ納ムル諸税受取方ニ付貿易銀但新旧トモト本位金貨トノ価格比較ハ銀貨百枚ニ付本位金貨百円ノ割合タルヘシ 通用制限は元来貨幣に原本と補助との別ある所以の理に基きて制定せしものなれは人々取引の節右の制限に照準しもしこれに越れは誰にても請取渡を拒むの道理あるへしされとも私の取引に付便宜のため対談を以て請取渡いたし候儀は全く相互の都合に従ふ筈なれは右制限に不拘勝手次第に交通いたし不苦候事 明治八年四月 大蔵省 造幣規則 第一条 造幣寮は左に掲載する休日を除くの外毎日午前第十時より午後第一時まて内地人民は大阪にある三井組外国人民は神戸にある東洋銀行の手を経て金銀地金を受取るへし 休暇表 第二条 毎年六月十六日より八月十五日まて地金受取らさるへし 第三条 万一非常の変事によりて造幣を休む事あれは勿論地金受取方を断るへし尤此場合に於ては速に其由を布達すへし 第四条 品位詳明なる金銀地金或は外国本位の金銀貨幣は地金局長直に之を受取り造幣規則に従ひ金は本位の金貨銀は貿易銀貨を以て払ひ渡すへし若し造幣寮にて照査の為め試験「チエッキアッセイ」を要する事あれは仮に之を預り置き其試験表を輸入人に示して後之を受取る歟否やを決すへし 但金地金は其高五十オンス凡四百十四匁銀地金は千オンス凡八貫二百八十匁以上たるへし 第五条 都て品位詳明ならさる金銀地金或は内外金銀貨幣外国人所持の一分銀を除くの外は仮に地金局に預り置き試験鎔解の上分析して其品位を詳明にし造幣適当なれは之を受取るへし尤第七条にある造幣寮精製局に於て巳に精製せし地金は試験鎔解を要せさるへし 但其高は第四条と同様たるへし 第六条 右試験鎔解の上分析せし金銀地金或は金銀貨幣若造幣不適当なれは試験鎔解並分析の手数料を納めしめ之を当人に返却すへし 但右試験鎔解並分析の手数料は別に造幣寮において取極めたる定価に従て納めしむへし 第七条 造幣不適当なる金銀並金銀混合の地金は其所持人の都合に依り唯精製の為め造幣寮にある精製局に於て之を受取る事あるへし 但右精製手数料は同局に於て取極めたる定価に従て納むへし 第八条 都て地金を造幣寮に受取る時は地金局長より仮受取書を輸入人に渡し置き造幣寮において其地金の品位を詳明にし地金勘定表並分析表を作り之を造幣頭より輸入人に送り承諾の上地金を受取るへし 第九条 造幣寮に於て金銀地金或は金銀貨幣を受取済の上は貨幣と為すへき高より鋳造の手数料を引去り本日より二十日目にいたり右貨幣を払ふへき令状を渡すへし 但右令状の高は内地人民は三井組外国人は東洋銀行にて本文日限に払ひ渡すへし 第十条 本位金貨鋳造の手数料は当分の内百に付一、たるへし 第十一条 貿易銀貨鋳造の手数料は当分の内百に付一、半たるへし 第十二条 試験鎔解の手数料は金銀とも千に付一、たるへし 第十三条 麿損せし本位の金貨は千に付五、貿易銀貨は千に付十の手数料を差出す上は其量目丈の価を以て再鋳の為め之を受取るへし尤補助の銀貨は再鋳の手数料を納むるに及はさるへし 第十四条 此規則実際試験の上要用と思ふ廉あれは何時にても猶改正追加すへし 但其節は速に其由を布達すへし 右之通相定候事 明治八年四月 大蔵省 附録 毎年製貨試験分析定則 第一条 日本政府の造幣寮より発行する貨幣の品位其法則に適正なるや否を検査する為に毎年一度造幣寮に於て試験分析の集会を催すへし 第二条 此集会の全権は大蔵卿輔の一人にして其他集会を命せられし諸官員並に中外人民の内分析学術を心得たる者を其時に当りて政府より掄択して此会に臨ましむへし 第三条 此集会の為に都て鋳造の貨幣は極印局より之を請取る度毎に地金局中に於て右局長は試験方立会の上各種の貨幣若干箇を取除け直に之れを造幣頭の眼前にて緘包し則地金局長と試験方と共に其封印をなし造幣頭は之れに検印して自ら預り置き右貨幣の員数種類並封印の月日等別に設けたる帳面に書留め置へし 但右貨幣を取除け之れを緘封する等は他人之れに関係することを得す 第四条 右封印せし貨幣には日本語並英語にて其種類員数及ひ其請取りし月日其外巨細を認めたる書付を添へ造幣頭は之れを筐中に蔵め置くへし 第五条 二拾円金拾円金五円金は千枚毎に壱枚宛二円金壱円金は五千枚毎に壱枚宛を取除け置くへし 第六条 貿易銀は五千枚毎に壱枚宛を取除け置くへし 第七条 補助銀貨幣は其品類に不拘貨幣員数二千枚毎に壱枚宛取除け置くへし 第八条 試験の為め集会せし諸士官の目前に於て造幣寮試験方其手続を為すへし其節政府の存意に依り造幣寮試験方と共に其事を取扱ふ為め別に試験方を任することあるへし 右日本政府の命を以て供試貨幣分析の規則を設立する者也 明治八年一月 大蔵省