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○前加成規
第壱条 刑ノ適用ノ為メノ訴権ハ法律ニ依リ之ヲ委託セラレタル官吏ノミニ属スルモノトス
重罪ニ依リ、軽罪ニ依リ又ハ違警罪ニ依リ生セシメタル損害ノ補償ニ於ケル訴権ハ其損害ヲ被ムリタル各人ニ於テ之ヲ執行スルコトヲ得可シ
第弐条 刑ノ適用ノ為メノ公訴権ハ犯罪被告人ノ死去ニ依テ消滅ス
損害ノ補償ノ為メノ民事訴権ハ犯罪被告人ニ対シ及ヒ其代人ニ対シテ之ヲ執行スルコトヲ得可シ
右二箇中何レノ訴権モ期満効ニ関スル第二編第七巻第五章ニ規定シタル如ク期満効ニ依テ消滅ス
第三条 民事ノ訴ハ公訴ト同時ト且ツ公訴ト同一ノ裁判官ノ面前ニ於テ之ヲ為スコトヲ得可シ
民事ノ訴ハ亦公訴ト別ニ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其民事ノ訴ヲ為ス前又ハ其訴ヲ為ス間ニ起シタル公訴ニ付キ確定ノ宣告アラサル間ハ民事ノ訴ノ執行ヲ停止ス可キモノトス
第四条 民事訴権ノ放棄ハ公訴権ノ執行ヲ防止シ又ハ之ヲ停止スルコトヲ得ス
第五条 凡ソ仏蘭西ノ領地外ニ於テ仏蘭西ノ法律ニ依リ罰ス可キ重罪ヲ犯シタル仏蘭西人ハ仏蘭西ニ於テ其罪ヲ訴ヘ及ヒ之ヲ裁判スルコトヲ得可シ
凡ソ仏蘭西ノ領地外ニ於テ仏蘭西ノ法律ニ依リ軽罪ノ名称ヲ附セラルヽ所為ヲ犯シタル仏蘭西人ハ若シ其所為ヲ行ヒタル国ノ法律ニ依リ其所為ヲ罰ス可キ時ハ仏蘭西ニ於テ其罪ヲ訴ヘ及ヒ之ヲ裁判スルコトヲ得可シ
然レトモ重罪又ハ軽罪ニ関スル時ハ其犯罪被告人ノ外国ニ於テ確定ノ裁判ヲ受ケタル旨ヲ証スル時ハ犯罪ノ訴ヲ為ス可カラス
仏蘭西又ハ外国ノ人民ニ対シテ行ヒタル軽罪ノ場合ニ於テハ検察官ノ請求ニ依ルニ非サレハ其訴ヲ起スコトヲ得ス而シテ其訴ヲ起ス前ニ被害者ノ告訴アリ又ハ其軽罪ヲ行ヒタル国ノ官吏ヨリ仏蘭西ノ官吏ニ公務上ノ告発ヲ為シタルコトヲ必要トス
以下第七条ニ表示シタル重罪ノ為メニ非サレハ犯罪被告人ノ仏蘭西ニ帰リ来ル前ニ其犯罪ノ訴ヲ為ス可カラス
第六条 犯罪ノ訴ハ犯罪被告人ノ居住スル地又ハ犯罪被告人所在地ノ検察官ノ請求ニ依リ之ヲ起ス可シ
然レトモ大審院ハ検察官又ハ関係各人ノ求メニ依リ其重罪又ハ軽罪ヲ犯シタル地ニ更ニ近キ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ其訴ノ審理ヲ移送スルコトヲ得可シ
第七条 凡ソ仏蘭西ノ領地外ニ於テ国ノ安寧ヲ害スル重罪又ハ国璽、国ノ通用貨幣、国ノ紙幣、法律ニ依リ許可セラレタル銀行ノ切手ヲ偽造スルノ罪ヲ正犯若クハ従犯トナリテ犯シタル外国人ハ若シ仏蘭西ニ於テ逮捕セラレ又ハ政府ニ於テ其者ノ解回ヲ得タル時ハ仏蘭西ノ法律ノ成規ニ従ヒ其罪ヲ訴ヘ及ヒ之ヲ裁判スルコトヲ得可シ
○第壱編 司法警察及ヒ之ヲ執行スル警察官吏
○第壱章 司法警察
第八条 司法警察ハ重罪、軽罪、違警罪ヲ捜査シテ之レカ証拠ヲ集メ且ツ其犯人ヲ罰ス可キノ任ヲ受ケタル裁判所ニ之ヲ引渡スモノトス
第九条 司法警察ハ以下ニ設定スル所ノ差別ニ従ヒ控訴裁判所ノ威力下ニ於テ左ノ各員之ヲ執行ス可シ
田野監守人及ヒ森林監守人
警部
邑長及ヒ邑長ノ副職
検事及ヒ其代職
治安裁判官
憲兵ノ士官
警部長 予審裁判官
第拾条 各州ノ州長及ヒ巴里府ノ警察総長ハ前第八条ニ従ヒ重罪、軽罪、違警罪ヲ証明シテ其犯人ヲ罰ス可キノ任ヲ受ケタル裁判所ニ之ヲ引渡ス為メニ必要ナル総テノ所為ヲ己レ自カラ行フコトヲ得可ク又ハ各個ノ司法警察官吏ニ関スル事ニ付キ右ノ必要ナル所為ヲ行フコトヲ其司法警察官吏ニ請求スルコトヲ得可シ
○第弐章 邑長、邑長ノ副職及ヒ警部
第拾壱条 警部又警部ノアラサル各邑ニ於テハ邑長又邑長ノアラサルニ於テハ邑長ノ副職各箇ノ違警罪ヲ捜査シ又然ノミナラス森林ノ監守人及ヒ田野ノ監守人ノ特別ナル監視ノ下ニアル所ノ違警罪ト雖モ亦之ヲ捜査ス可シ但シ警部、邑長及ヒ邑長ノ副職ハ森林監守人及ヒ田野監守人ニ対シテハ抗競ノ権利ヲ有シ又然ノミナラス優勝ノ権利ヲ有スルモノトス
警部、邑長及ヒ邑長ノ副職ハ違警罪ニ関スル報告、告発及ヒ告訴ヲ受クルモノトス
警部、邑長及ヒ邑長ノ副職ハ其特ニ作ル所ノ調書中ニ違警罪ノ性質及ヒ景況、其違警罪ヲ行ヒタル時及ヒ場所並ニ其犯罪人ナリト思量セラルヽ者ノ犯罪ノ証拠又ハ証憑ヲ記載ス可シ
第拾弐条 数区ニ分チタル邑ニ於テハ各警部自己ノ持場タル特別ノ区ノ外ニ於テ違警罪ヲ行ヒシ旨ヲ申立ツルコトヲ得スシテ其設置セラレタル邑ノ全部ニ於テ右ノ職務ヲ執行ス可シ
右ノ区分ハ警部ノ各自ノ権力ヲ制限スルモノニ非ス又之ヲ限定スルモノニ非ス唯其各警部ニ於テ特ニ自己ノ職務ヲ通常厳正ニ執行セサルヲ得サル所ノ限界ヲ指示スルノミノモノトス
第拾三条 若シ一邑内ノ警部中一名ニ正当ノ差支アル時ハ其隣邑ノ警部ニ於テ之ヲ補充ス可シ但シ其警部ハ右差支アル警部ノ最近ノモノニ非ス又ハ其差支ノ正当ナラス或ハ其証拠ナキコトヲ口実トシテ自己ノ請求セラレタル公務ヲ遅延スルコトヲ得サルモノトス
第拾四条 警部ノ唯一名ノミナル各邑ニ於テ若シ其警部ニ正当ノ差支アル時ハ邑長其差支ノ継続スル間之ニ代ハル可ク若シ邑長ノアラサル時ハ邑長ノ副職之ニ代ハル可シ
第拾五条 邑長又ハ邑長ノ副職ハ其手続ヲ行ヒタル所為ヲ認知セシ日ヲ合算シテ遅クトモ三日内ニ総テノ証拠物及ヒ参照件ヲ警察裁判所ニ於テ検察官ノ職務ヲ履行スル所ノ官吏ニ交付ス可シ
○第三章 田野監守人及ヒ森林監守人
第拾六条 司法警察官トシテ看做サレタル田野監守人及ヒ森林監守人ハ各々其宣誓シタル区域内ニ於テハ田野及ヒ森林ノ所有財産ニ害ヲ被ムラシムル所ノ軽罪及ヒ違警罪ヲ捜査スルノ任アリ
田野監守人及ヒ森林監守人ハ其軽罪及ヒ違警罪ノ性質、景況、時期、場所並ニ其収取スルコトヲ得タル証拠及ヒ証憑ヲ証明スル為メニ調書ヲ作ル可シ
田野監守人及ヒ森林監守人ハ其移動セラレタル物件ヲ運搬シタル地ニ至リテ之ヲ附託ニ附ス可シ然レトモ田野監守人及ヒ山林監守人ハ治安裁判官若クハ其補役若クハ警部若クハ其地ノ邑長若クハ邑長ノ副職ノ立会ニ非サレハ家屋、工場、建造物、接着シタル中庭及ヒ繞囲地内ニ入ルコトヲ得ス但シ右ニ付キ作ル可キ所ノ調書ハ其立会ヲ為シタル者ニ於テ之ニ署名ス可シ
田野監守人及ヒ森林監守人ハ禁錮ノ刑ニ当リ又ハ更ニ重キ刑ニ当ル可キ犯罪ヲ現ニ行フ所ノ各人又ハ公ケノ叫喚ニ依テ告発セラルヽ所ノ各人ヲ逮捕シテ之ヲ治安裁判官又ハ邑長ノ面前ニ送致ス可シ
田野監守人及ヒ森林監守人ハ右ノ事ノ為メ其地ノ邑長又ハ邑長ノ副職ヨリ己レニ兵力ノ助ヲ附与セシム可ク而シテ邑長又ハ其副職ハ之ヲ否拒スルコトヲ得サルモノトス
第拾七条 田野監守人及ヒ森林監守人ハ司法警察官トシテハ検事ノ監視ヲ受クルモノトス但シ行政上ニ於ケル其長官ニ対スル従属ト相触ルヽコトナカル可シ
第拾八条 行政官庁、各邑及ヒ公同設立場ノ森林監守人ハ第十五条ニ定メタル期限内ニ其調書ヲ森林ノ保存人、監察人又ハ副監察人ニ交付ス可シ
其確言ヲ受ケタル官吏ハ八日内ニ其旨ヲ検事ニ通知ス可シ
第拾九条 保存人、監察人又ハ副監察人ハ犯罪被告人又ハ民事上ニテ責ニ任ス可キ各人ヲ懲治裁判所ニ呼出サシム可シ
第弐拾条 各邑ノ田野監守人並ニ各人民ノ田野監守人及ヒ森林監守人ノ調書ハ単一ナル違警罪ニ関スル時ハ第十五条ニ定メタル期限内ニ右ノ各人ヨリ治安裁判所ノ首地タル邑ノ警部ニ交付シ又警部ノアラサル各邑ニ於テハ邑長ニ之ヲ交付ス可シ若シ又懲治ノ刑ニ当ル可キ性質ノ犯罪ニ関スル時ハ検事ニ其交付ヲ為ス可シ
第弐拾壱条 若シ其調書カ違警罪ヲ以テ目的ト為ス時ハ治安裁判所ノ首地タル邑ノ警部ニ於テ又警部ノアラサル各邑ニテハ邑長ニ於テ若シ又邑長ノアラサル時ハ邑長ノ副職ニ於テ此法典第二編第一巻第一章ニ規定シタル如クニ処分ス可シ
○第四章 検事及ヒ其代職
○第壱節 司法警察ニ関シテ検事ノ管轄
第弐拾弐条 検事ハ懲治警察裁判所又ハ重罪裁判所ニ於テ審理ス可キ総テノ犯罪ノ捜査及ヒ起訴ヲ任セラルヽモノトス
第弐拾三条 重罪又ハ軽罪ノ地ノ検事、犯罪被告人居住地ノ検事及ヒ犯罪被告人所在地ノ検事ハ皆同シク前条ニ依リ委付セラレタル職務ヲ履行スルノ権力アリトス
第弐拾四条 右ノ職務ハ第五条、第六条、第七条ニ表示シタル場合ニ於テ仏蘭西ノ領地外ニテ行ヒタル重罪又ハ軽罪ニ関スル時ハ犯罪被告人居住地ノ検事又ハ犯罪被告人所在地ノ検事又ハ人ノ知ル所ノ犯罪被告人最後ノ居住地ノ検事ニ於テ之ヲ履行スヘシ
第弐拾五条 検事及ヒ総テ其他ノ司法警察官ハ其職務ノ執行ニ於テ直接ニ公力ヲ請求スルノ権利ヲ有スルモノトス
第弐拾六条 検事ノ差支ノ場合ニ於テハ其代職之ニ代ハル可ク若シ代職数名アル時ハ最先任ノ者之ニ代ハル可シ○若シ代職ノアラサル時ハ裁判所長ヨリ特ニ委任シタル裁判官之ニ代ハル可シ
第弐拾七条 検事ハ犯罪ヲ知リタル時直チニ之ヲ控訴裁判所ノ検事長ニ通知シ且ツ司法警察ノ総テノ所為ニ関シテ右検事長ノ命令ヲ執行ス可シ
第弐拾八条 検事ハ以下予審裁判官ノ章ニ定メタル規則ニ従ヒ予審裁判官ノ発シタル命令書ノ送付、通知及ヒ執行ヲ管照ス可シ
○第弐節 検事ノ其職務ノ執行ニ於テ処分スル方法
第弐拾九条 凡ソ設置セラレタル各官憲、各官吏又ハ公ケノ役員其職務ノ執行ニ於テ重罪又ハ軽罪ヲ知リ得タル時ハ其重罪又ハ軽罪ヲ行ヒタル地ヲ管轄スル裁判所ノ検事又ハ犯罪被告人所在ノ地ノ裁判所ノ検事ニ直チニ其旨ヲ通知シ且ツ其検事ニ右ノ重罪又ハ軽罪ニ関スル総テノ参照件、調書及ヒ証書ヲ送付ス可シ
第三拾条 何人ニ限ラス公ケノ安寧ニ対シ若クハ各人民ノ生命又ハ財産ニ対スル乱害ノ証人タリシ者ハ亦其重罪又ハ軽罪ノ地ノ検事若クハ犯罪被告人所在ノ地ノ検事ニ其旨ヲ通知ス可シ
第三拾壱条 告発状ハ告発人又ハ其特別ナル代理人ニ於テ之ヲ作ル可ク又請求ヲ受ケタル時ハ検事ニ於テ之ヲ作ル可シ但シ告発状ハ常ニ必ス各葉毎ニ検事ニ於テ之ニ署名シ並ニ告発人又ハ其代理人之ニ署名ス可キモノトス
若シ告発人又ハ其代理人ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
代理委任状ハ常ニ必ス告発状ニ添ヘ置ク可シ而シテ告発人ハ自己ノ費用ニテ其告発状ノ写ヲ受取ルコトヲ得可キモノトス
第三拾弐条 凡ソ現行犯罪ノ場合ニ於テ若シ其所為カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キ性質ノモノタル時ハ検事ハ犯罪ノ物件、其景状、場所ノ景状ヲ証明スルニ必要ナル調書ヲ作リ且ツ其場ニ在リタル各人又ハ参照件ヲ与フ可キ各人ノ申述ヲ受クル為メ遅延ナク其場所ニ赴ク可シ
検事ハ其場所ニ赴キタル旨ヲ予審裁判官ニ通知ス可シ然レトモ本章ニ記スル如クニ処分スル為メ予審裁判官ヲ待ツニ及ハサルモノトス
第三拾三条 検事ハ亦前条ノ場合ニ於テ其所為ニ付キ解明ヲ与フルコトヲ得可シト思量セラレタル血属親、近隣者又ハ雇人ヲ其調書ニ招喚スルコトヲ得可ク而シテ検事ハ右各人ノ申述書ヲ受ケテ之ニ署名セシム可シ但シ本条及ヒ前条ニ依リ受ケタル申述書ハ関係各人之ニ署名ス可ク若シ否拒スル場合ニ於テハ其旨ヲ記載ス可キモノトス
第三拾四条 検事ハ其調書終成ノ後ニ至ル迄何人タリトモ其家屋ヲ出テ又ハ其場所ヲ離ルヽコトヲ禁止スルヲ得可シ
凡ソ右ノ禁止ヲ犯ス者ハ之ヲ召捕フルコトヲ得タル時ハ収監場ニ入ラシム可シ而シテ其違犯ノ為メニ受クル所ノ刑ハ其違犯者ヲ呼出シテ之レカ申立ヲ聴キタル後検事ノ請求ニ依リ予審裁判官ヨリ之ヲ宣告シ若シ又其違犯者ノ出席セサル時ハ缺席ニテ之ヲ宣告ス可シ但シ其宣告ニ付テハ更ニ他ノ法式ナク又猶予ノ期限ナク並ニ故障申立及ヒ控訴ヲ為スコトヲ得サルモノトス
其刑ハ十日間ノ禁錮ト百「フランク」ノ罰金トニ過クルコトヲ得サルモノトス
第三拾五条 検事ハ重罪又ハ軽罪ヲ行フニ用ヒタリト思ハレ又ハ其用ニ供セントスルモノナリト思ハルヽ所ノ兵器及ヒ諸件並ニ其重罪又ハ軽罪ニ依リ得タルモノナリト思ハルヽ所ノ諸件及ヒ事実ヲ分明ナラシムルニ用立ツコトアル可キ諸件ヲ差押ヘ其差押ヘタル物件ヲ犯罪被告人ニ示シテ其物件ニ関スル説明ノ為メ犯罪被告人ヲ訊問シ而シテ右ノ諸件ヲ記スル調書ヲ作リテ犯罪被告人ヲシテ之ニ署名セシメ又ハ其拒否シタル旨ヲ記載ス可シ
第三拾六条 若シ重罪又ハ軽罪ノ性質ニ依リ犯罪被告人ノ占有スル書類又ハ其他ノ証拠物及ヒ物品ヲ以テ其重罪又ハ軽罪ノ証ヲ獲得スルコトヲ得可シト思ハルヽ時ハ検事ハ事実ヲ分明ナラシムルニ有益ナリト思考スル物件ノ捜索ヲ為ス為メ直チニ犯罪被告人ノ住所ニ赴ク可シ
第三拾七条 若シ犯罪被告人ノ住所ニ其有罪ノ証又ハ無罪ノ証トナル可キ書類又ハ物品ノ存在スル時ハ検事ハ之レカ調書ヲ作リテ右ノ物品又ハ書類ヲ差押ユ可シ
第三拾八条 差押ヘタル物件ハ之ヲ封緘スルコトヲ得可キニ於テハ封緘ス可ク若シ其物件ニ文字ヲ書付クルコトヲ得サル時ハ壺又ハ袋ノ中ニ入レ検事ニ於テ其上ニ紙帯ヲ附シ自己ノ印ヲ以テ之ニ封印ヲ為ス可シ
第三拾九条 前数条ニ定メタル行為ハ犯罪被告人ヲ逮捕シタル時ハ其面前ニ於テ之ヲ為ス可ク若シ犯罪被告人ノ之ニ立会フコトヲ欲セス又ハ立会フコト能ハサル時ハ其撰任スルコトヲ得可キ代理人ノ面前ニ於テ之ヲ為ス可シ○其物件ハ之ヲ認メテ花押ヲ為サシム可キ時ハ此等ノ事ヲ為サシムル為メ犯罪被告人ニ之ヲ示ス可ク若シ犯罪被告人ノ此等ノ事ヲ為スヲ否拒スル場合ニ於テハ其旨ヲ調書ニ記載ス可シ
第四拾条 検事ハ右現行犯罪ノ場合ニ於テ其所為カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キ性質ノモノタル時ハ重劇ナル証憑ノ存在スル所ノ在場ノ犯罪被告人ヲ召捕ヘシム可シ
若シ其犯罪被告人ノ其場ニ在ラサル時ハ検事ニ於テ其犯罪被告人ヲ出席セシムル為メノ命令書ヲ発ス可シ但シ其命令書ヲ名ケテ勾引状ト云フ
告発ノミニテハ住所ヲ有スル各人ニ対シテ右ノ命令書ヲ発スルニ足ル可キ一箇ノ思量ヲ設定セス
検事ハ自己ノ面前ニ引致セラレタル犯罪被告人ヲ即時ニ訊問ス可シ
第四拾壱条 現ニ行フ所ノ犯罪又ハ現ニ行ヒ終リタル犯罪ハ現行犯罪ナリトス
犯罪被告人ノ公ケノ叫喚ニ依テ追ハルヽ場合及ヒ犯罪被告人ノ犯罪ノ時ヨリ間モナク其正犯又ハ従犯タルコトヲ思量セシムル物品、兵器、器具又ハ書類ヲ携帯シテ見出サレタル場合ハ亦現行犯罪ナリト看做ス可シ
第四拾弐条 前数条ニ依レル検事ノ調書ハ其重罪又ハ軽罪ヲ行ヒタル邑ノ警部ノ面前又ハ邑長或ハ邑長ノ副職又ハ右ノ邑内ニ於テ住所ヲ有スル国士二名ノ面前ニ於テ之ヲ作リ而シテ右各員ノ署名ヲ附ス可シ
然レトモ検事ハ即時ニ証人ヲ得ルコト能ハサル時ハ証人ノ立会ナクシテ調書ヲ作ルコトヲ得可シ
其調書ハ各葉毎ニ検事及ヒ之ニ立会ヒタル各人ニ於テ署名ス可ク若シ其各人ノ署名スルコトヲ否拒シ又ハ署名スルコト能ハサル場合ニ於テハ其旨ヲ記載ス可シ
第四拾三条 検事ハ必須ノ事アル時ハ其技芸又ハ職業ニ依リ重罪又ハ軽罪ノ性質及ヒ景況ヲ査定スルコト能フ可シト思量セラレタル者一名又ハ二名ヲ同伴ス可シ
第四拾四条 若シ強死ニ関スル時又ハ其原由ノ知レスシテ疑ハシキ死亡ニ関スル時ハ検事ニ於テ医学得業生一名又ハ二名ヲシテ立会ヲ為サシメ其医学得業生ハ死亡ノ原由ト死骸ノ景状トニ付キ其報告ヲ為ス可キモノトス
本条及ヒ前条ノ場合ニ於テ招喚セラレタル各人ハ検事ノ面前ニ於テ其名誉及ヒ本心ニ従ヒ報告ヲ為シ及ヒ意見ヲ申立ツ可キノ誓ヲ為ス可シ
第四拾五条 検事ハ予審裁判官ノ章ニ記スル如クニ処分セラルヽ為メ前数条ニ依テ作リ又ハ差押ヘタル調書、証書、証拠物及ヒ器具ヲ遅延ナク予審裁判官ニ送付ス可シ然レトモ犯罪被告人ハ勾引状ヲ受ケタル景状ノ侭ニテ裁判権ノ手裏ニ留マル可キモノトス
第四拾六条 仮令現行ノモノニ非スト雖モ家屋ノ内部ニ於テ行ヒタル重罪又ハ軽罪ニ関シテ其家屋ノ首長ヨリ検事ニ其重罪又ハ軽罪ヲ証明スルコトヲ請求シタル時ハ現行犯罪ノ場合ノ為メ前数条ニ依リ検事ニ附与シタル職権ヲ行フ可シ
第四拾七条 第三十二条及ヒ第四十六条ニ表示シタル場合ノ外其区内ニ於テ重罪或ハ軽罪ヲ行ヒタルモノアリ又ハ重罪或ハ軽罪ノ犯罪被告人ノ其区内ニ在ル旨ヲ告発ニ依リ又ハ総テ其他ノ方法ニ依リ通報セラレタル検事ハ予審裁判官ノ章ニ記スル如ク其予審ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ予審裁判官ニ請求シ又然ノミナラス必須ノコトアル場合ニ於テハ其必要ナル総テノ調書ヲ作ル為メ其場所ニ赴ク可キコトヲ予審裁判官ニ請求ス可シ
○第五章 検事ノ輔助タル警察官吏
第四拾八条 治安裁判官、憲兵ノ士官、警部長ハ平常其職務ヲ執行スル所ノ地ニ於テ行ヒタル重罪及ヒ軽罪ノ告発ヲ受ク可シ
第四拾九条 現行犯罪ノ場合又ハ家屋ノ首長ヨリ請求ヲ受ケタル場合ニ於テ右ノ各員ハ此等ノ場合ニ於テ検事ノ管轄タル所ノ調書ヲ作リ、証人ノ申述ヲ受ケ、臨検及ヒ其他ノ所為ヲ行フ可シ但シ右ノ諸件ハ総テ検事ノ章ニ定メタル法式及ヒ規則ニ従フ可キモノトス
第五拾条 邑長、邑長ノ副職及ヒ警部ハ亦右ト同一ノ規則ニ従ヒ犯罪ノ告発ヲ受ケ及ヒ前条ニ表示シタル所為ヲ行フ可シ
第五拾壱条 若シ検事ト前数条ニ表示シタル警察官吏トノ間ニ抗競アル場合ニ於テハ検事ニ於テ司法警察ノ職権ニ帰セラレタル所為ヲ行フ可シ若シ又検事ノ先ンセラレタル時ハ其手続ヲ継続シ而シテ之ヲ為シ始メタル官吏ニ其手続ヲ続行スルコトヲ許可スルヲ得可シ
第五拾弐条 検事ハ第三十二条及ヒ第四十六条ノ場合ニ於テ其職務ヲ執行スルニ当リ若シ其有益及ヒ必要ナリト思考スルニ於テハ輔助ノ警察官吏ニ自己ノ管轄タル所為ノ一部分ヲ委任スルコトヲ得可シ
第五拾三条 輔助ノ警察官吏ハ其管轄ノ場合ニ於テ己レノ作リタル告発状、調書及ヒ其他ノ証書ヲ猶予ナク検事ニ送付シ検事ハ遅延ナク其手続ノ書類ヲ調査シテ自己ノ相当ナリト思考スル請求書ト共ニ之ヲ予審裁判官ニ送達ス可シ
第五拾四条 司法警察官吏ハ其直接ニ証明スルノ任ヲ受ケタル重罪及ヒ軽罪ヨリ更ニ他ノ重罪又ハ軽罪ヲ告発シタル場合ニ於テハ其己レニ受ケタル告発状ヲ亦猶予ナク検事ニ送達ス可シ而シテ検事ハ自己ノ請求書ト共ニ之ヲ予審裁判官ニ交付ス可キモノトス
○第六章 予審裁判官
○第壱節 予審裁判官
第五拾五条 各郡ニ於テ皇帝(共和国大統領)ノ告令ヲ以テ三年間選任シタル予審裁判官一名ヲ置ク可シ而シテ其予審裁判官ハ更ニ長ク其職ヲ継続セシムルコトヲ得可クシテ且ツ其就任ノ順序ニ従ヒ民事訴訟ノ裁判ニ列席スルノ権利ヲ保存ス可シ
事務ノ需要ノ為メニ已ムコトヲ得サル所ノ各郡ニ於テハ予審裁判官数名ヲ設置スルコトヲ得可シ
第五拾六条 予審裁判官ハ本官ノ裁判官中ヨリ之ヲ撰択ス可ク又裁判官ノ補役中ヨリモ之ヲ撰択スルコトヲ得可シ
事務ノ需要ノ為メニ已ムコトヲ得サル所ノ裁判所ニ於テハ皇帝(共和国大統領)ノ告令ヲ以テ裁判官ノ補役ニ本官ノ予審裁判官ト相抗競シテ一時予審ヲ委任スルコトヲ得可シ
第五拾七条 予審裁判官ハ司法警察官タルノ職務ニ付テハ控訴裁判所検事長ノ監視ヲ受ク可キモノトス
第五拾八条 予審裁判官ノ唯一名ノミタル都府ニ於テ若シ其裁判官ノ不在ナル時又ハ病ニ罹リタル時又ハ其他ノ方法ニテ差支アル時ハ始審裁判所ヨリ之ニ代ハラシムル為メ其裁判所ノ裁判官一名ヲ指定ス可シ
○第弐節 予審裁判官ノ職務
○第壱種 現行犯罪ノ場合
第五拾九条 予審裁判官ハ凡ソ現行犯罪ナリト看做サレタル場合ニ於テハ検事及ヒ其代職ノ章ニ定メタル規則ニ従ヒ総テ検事ノ職権ニ帰セラレタル各箇ノ所為ヲ己レ自カラ直接ニ行フコトヲ得可シ○予審裁判官ハ検事ノ立会ヲ請求スルコトヲ得可シ然レトモ之レカ為メ右ノ章中ニ定メタル行為ヲ遅延ス可カラス
第六拾条 若シ現行犯罪ヲ既ニ証明シテ検事ヨリ証書類及ヒ証拠物ヲ予審裁判官ニ送付シタル時ハ予審裁判官ニ於テ猶予ナク其手続書類ノ調査ヲ為ス可シ
予審裁判官ハ完全ナリト思ハレサル所ノ各証書又ハ証書中ノ或者ヲ改メ作ルコトヲ得可シ
○第弐種 予審
○第壱款 総則
第六拾壱条 予審裁判官ハ現行犯罪ノ場合ヲ除クノ外検事ニ手続書類ノ通知伝観ヲ為シタルニ非サレハ如何ナル予審又ハ起訴ノ所為ヲモ行ハサルモノトス又検事ハ右ノ外予審中何時タリトモ其通知伝観ヲ請求スルコトヲ得可クシテ其証拠物ハ二十四時内ニ之ヲ返ス可キノ負任アリトス
然レトモ予審裁判官ハ別段ノ理由アル時ハ予メ検事ノ請求ナクシテ勾引状ヲ交付シ又然ノミナラス勾留状ヲ交付ス可シ
第六拾弐条 予審裁判官ノ其場所ニ赴ク時ハ常ニ必ス検事ト裁判所ノ書記トヲ同伴ス可シ
○第弐款 告訴
第六拾三条 何人ニ限ラス重罪又ハ軽罪ニ依リ損害ヲ被ムリタリト称言スル者ハ右重罪又ハ軽罪ノ地若クハ犯罪被告人居住ノ地若クハ犯罪被告人所在ノ地ノ予審裁判官ニ其告訴ヲ為シテ民事原告人トナルコトヲ得可シ
第六拾四条 検事ニ宛テタル告訴状ハ検事ノ請求書ヲ添ヘテ之ヲ検事ヨリ予審裁判官ニ送付ス可ク又輔助ノ警察官吏ニ差出シタル告訴状ハ其警察官吏ヨリ之ヲ検事ニ送リ検事ヨリ亦自己ノ請求書ヲ添ヘテ更ニ之ヲ予審裁判官ニ送付ス可シ
懲治警察ノ管轄タル事項ニ於テハ其損害ヲ被ムリタル者ハ後ニ規定スル所ノ方法ヲ以テ直接ニ懲治裁判所ニ申立ツルコトヲ得可シ
第六拾五条 告発ニ関スル第三十一条ノ成規ハ告訴ニ共通ノモノトス
第六拾六条 告訴人ハ告訴状ニ依リ若クハ其後ノ証書ニ依テ民事原告人タル旨ヲ明確ニ申述セス又ハ右等ノ書類ニ依テ損害賠償ニ於ケル請求ヲ為サヽル時ハ民事原告人ト看做ス可カラス又告訴人ハ二十四時内ニ廃止スルコトヲ得可シ而シテ其廃止ノ場合ニ於テ告訴人ハ其廃止ノ証書ヲ送付シタル後ノ費用ヲ負担セサルモノトス然レトモ犯罪被告人ニ損害ヲ被ムラシメタル時ハ其損害ノ賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第六拾七条 告訴人ハ弁論ノ終了ニ至ル迄訴訟中何時タリトモ民事原告人トナルコトヲ得可シ然レトモ如何ナル場合ニ於テモ裁判ノ後ニ於ケル其廃止ハ仮令告訴人ノ民事原告人トナル旨ヲ申述セシ時ヨリ二十四時内ニ之ヲ為シタル時ト雖モ有効ナルコトヲ得ス
第六拾八条 凡ソ予審ヲ為ス所ノ郡内ニ居住セサル民事原告人ハ裁判所ノ書記局ニ於テ作リタル証書ニ依リ其郡内ニ住所ヲ撰定ス可キモノトス
若シ民事原告人ノ其住所ヲ撰定セサル時ハ法律ノ文面ニ従ヒ自己ニ送達セラル可キ証書ニ対シテ送達ノアラサル旨ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第六拾九条 若シ予審裁判官カ重罪又ハ軽罪ノ地ノ予審裁判官ニモアラス又犯罪被告人居住ノ地ノ予審裁判官ニモアラス又犯罪被告人所在ノ地ノ予審裁判官ニモアラサル場合ニ於テハ其予審裁判官ハ其告訴ヲ審理スルコトヲ得可キ予審裁判官ニ之ヲ移送ス可シ
第七拾条 告訴ヲ審理ス可キ該管ノ予審裁判官ハ検事ヲシテ其相当ノ請求ヲ為サシムル為メ検事ニ右告訴状ノ通知伝観ヲ為ス可キ旨ヲ命令ス可シ
○第三款 証人ノ審訊
第七拾壱条 予審裁判官ハ告発ニ依リ、告訴ニ依リ、検事ニ依リ又ハ其他ノ方法ニ依リ重罪又ハ軽罪若クハ其景況ヲ知リタリトシテ指示セラレタル各人ヲ自己ノ面前ニ呼出サシム可シ
第七拾弐条 証人ハ検事ノ請求ニ依リ使吏又ハ公力ノ管理者ニ於テ之ヲ呼出ス可シ
第七拾三条 各証人ハ予審裁判官其書記ノ補助ヲ受ケ犯罪被告人ノ在ラサル所ニ於テ別々ニ之ヲ訊問ス可シ
第七拾四条 各証人ハ訊問ヲ受クル前ニ其証ヲ申述スル為メ己レニ附与セラレタル呼出状ヲ出シ示ス可シ但シ調書ニ其旨ヲ記載ス可キモノトス
第七拾五条 各証人ハ遺漏ナク正実ヲ述ヘ正実ノ外述ヘサル可キノ誓ヲ為シ而シテ予審裁判官ハ各証人ニ其姓名、年齢、身分、職業、居住ヲ問ヒ又関係各人ノ雇人、血属親又ハ姻属親タルヤヲ問ヒ又如何ナル級ノ血属親又ハ姻属親タルヤヲ問フ可シ但シ其問及ヒ各証人ノ答ハ之ヲ記載ス可キモノトス
第七拾六条 証人ノ証拠申述書ハ之ヲ証人ニ読聞カセテ証人ノ其通リニ相違ナキ旨ヲ申述シタル後裁判官、書記及ヒ証人ニ於テ之ニ署名ス可シ若シ証人ノ署名スルコトヲ欲セス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
証人訊問書ハ各頁毎ニ裁判官及ヒ書記之ニ署名ス可シ
第七拾七条 前三条ニ定メタル法式ハ必ス之ヲ履行ス可ク若シ之ニ背ク時ハ書記ニ対シテ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可ク又然ノミナラス別段ノ理由アル時ハ予審裁判官ニ対シテ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第七拾八条 行間ノ書入ハ之ヲ為スコトヲ得ス又塗抹及ヒ端書ハ予審裁判官、書記及ヒ証人ニ於テ之ヲ承認シテ署名ス可ク若シ之ニ背ク時ハ前条ニ記シタル罰ヲ受ク可シ○行間ノ書入並ニ承認セラレサル塗抹及ヒ端書ハ無効ナリト看做ス可シ
第七拾九条 男女ヲ論セス年齢十五歳以下ノ幼者ハ誓ヲ為サシムルコトナク申述ノ方法ヲ以テ之ヲ訊問スルコトヲ得可シ
第八拾条 凡ソ証拠ノ訊問ヲ受クル為メニ呼出サレタル各人ハ必ス出席シテ其呼出ニ従フ可ク若シ然ラサレハ予審裁判官ニ於テ強テ其呼出ニ従ハシムルコトヲ得可シ但シ予審裁判官ハ之レカ為メ検事ノ請求ヲ受クルノミニテ更ニ其他ノ法式並ニ猶予ナク又控訴ナク百「フランク」ニ過ク可カラサル罰金ヲ宣告ス可ク且ツ其呼出サレタル者ヲシテ其証拠ヲ申述セシムル為メ之ヲ拘留ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第八拾壱条 右ノ如ク第一回ノ缺席ニ依リ罰金ヲ言渡サレタル証人ノ第二回ノ呼出ニ於テ予審裁判官ニ向ヒ正当ナル弁解ノ理由ヲ申立テタル時ハ検事ノ請求ニ依リ罰金ヲ免除セラルヽコトヲ得可シ
第八拾弐条 償ヲ得ント求ムル各証人ハ予審裁判官ヨリ其償高ノ算定ヲ受ク可シ
第八拾三条 若シ医学得業生ノ保証書ニ依リ証人ノ其己レニ受ケタル呼出状ニ従ヒ出席スルコト能ハサルノ証アル時其証人カ予審裁判官ノ住所ノ治安裁判所ノ県内ニ居住スルニ於テハ予審裁判官其証人ノ居住ニ赴ク可シ
若シ証人カ其県外ニ居住スル時ハ予審裁判官其証人ノ証拠ノ申述ヲ受クル為メ之レカ住居ノ地ノ治安裁判官ヲ委任スルコトヲ得可ク而シテ又予審裁判官ハ証人ノ其証拠ヲ申述セサル可カラサル所為ヲ知ラシムル所ノ覚書及ヒ指令書ヲ右ノ治安裁判官ニ差送ル可シ
第八拾四条 若シ証人カ予審裁判官ノ管轄郡外ニ居住スル時ハ其予審裁判官ヨリ証人ノ居住スル郡ノ予審裁判官ニ其証拠ノ申述ヲ受クル為メ右証人ノ住居ニ赴クコトヲ請求ス可シ
若シ証人カ右ノ如クニ請求セラレタル予審裁判官ノ県内ニ居住セサル時ハ其予審裁判官ハ前条ニ記シタル如ク其証拠ノ申述ヲ受クル為メ証人住居ノ地ノ治安裁判官ヲ委任スルコトヲ得可シ
第八拾五条 前第八十三条及ヒ第八十四条ニ依リ証拠ノ申述ヲ受ケタル裁判官ハ其証拠ノ申述書ヲ封緘シテ之ヲ其訴訟ヲ掌轄シタル裁判所ノ予審裁判官ニ差送ル可シ
第八拾六条 前三条ニ定メタル場合ニ於テ裁判官其証人ノ住居ニ赴キタルニ其証人己レニ附与セラレタル呼出状ニ従ヒ出席スルコト能ハサルニ非サリシ時ハ裁判官其証人ト前ニ記シタル保証書ヲ交付シタル医学得業生トニ対シ勾留状ヲ発ス可シ
右ノ場合ニ於テ定メタル刑ハ其地ノ予審裁判官第八十条ニ定メタル方法ヲ以テ検事ノ請求ニ依リ之ヲ宣告ス可シ
○第四款 書面ニ依レル証及ヒ有罪ノ証拠物
第八拾七条 予審裁判官ハ事実ヲ分明ナラシムルニ有益ナリト思考スル所ノ書類、物品及ヒ総テ諸件ノ捜索ヲ為ス為メ請求ニ依テ犯罪被告人ノ住所ニ赴ク可ク又然ノミナラス職権上ニテ其住所ニ赴クコトヲ得可シ
第八拾八条 予審裁判官ハ更ニ他ノ場所ニ於テ前条ニ記シタル物件ノ隠クシアル可シト思量スル時ハ亦其場所ニ赴クコトヲ得可シ
第八拾九条 現行犯罪ノ場合ニ於テ検事ノ其捜索ヲ為スコトヲ得可キ物件ノ差押ニ関スル第三十五条、第三十六条、第三十七条、第三十八条、第三十九条ノ成規ハ予審裁判官ニ共通ノモノトス
第九拾条 若シ其捜索ヲ為ス可キ書類又ハ物品カ予審裁判官ノ管轄郡外ニアル時ハ其予審裁判官ヨリ右書類又ハ物品所在ノ地ノ予審裁判官ニ前数条ニ定メタル行為ニ取掛ルコトヲ請求ス可シ
○第七章 召喚状、勾留状、勾引状、収監状
第九拾壱条 重罪又ハ懲治罪ノ事項ニ於テ予審裁判官ハ召喚状ノミヲ発スルコトヲ得可シ但シ訊問ノ後其令状ヲ他ノ相当ノ令状ニ換ユルコトヲ得可キモノトス○若シ犯罪被告人ノ缺席ヲ為ス時ハ予審裁判官其犯罪被告人ニ対シテ勾引状ヲ発ス可シ
第九拾弐条 予審裁判官ハ第八十条ニ依リ其送付シタル呼出状ニ従ヒ出席スルコトヲ否拒スル所ノ証人ニ対シテ亦勾引状ヲ附与スルコトヲ得可シ但シ同条ニ記載シタル罰金ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
第九拾三条 召喚状ノ場合ニ於テハ予審裁判官直チニ訊問ヲ為ス可ク又勾引状ノ場合ニ於テハ遅クトモ二十四時内ニ訊問ヲ為ス可シ
第九拾四条 訊問ノ後又ハ犯罪被告人逃亡ノ場合ニ於テ若シ其所為カ禁錮又ハ更ニ重キ他ノ刑ニ当ルモノタル時ハ裁判官勾留状又ハ収監状ヲ発スルコトヲ得可シ○裁判官ハ検事ノ申立ヲ聴キタル後ニ非サレハ収監状ヲ発スルコトヲ得ス○予審ノ進行中ニ裁判官ハ検事ノ相符合シタル請求ニ依リ犯罪被告人ノ申立テラレタル犯罪ノ性質如何ヲ問ハス総テ勾留状又ハ収監状ノ解除ヲ附与スルコトヲ得可シ但シ其犯罪被告人ハ要求ヲ受ケ次第直チニ訴訟手続ノ総テノ所為ニ出席シ且ツ裁判執行ノ為メ出席ス可キノ負任アルモノトス○解除ノ命令ハ故障申立ノ方法ニ依リ之ヲ取消サント訴フルコトヲ得ス
第九拾五条 召喚状、勾引状及ヒ勾留状ハ之ヲ発シタル者ニ於テ署名シ且ツ其印ヲ捺ス可シ
右ノ令状ニハ犯罪被告人ヲ指名シ又ハ成ル可ク丈明白ニ之ヲ指定ス可シ
第九拾六条 収監状ニ付テモ右ニ同シキ法式ヲ遵守ス可シ又其令状ニハ右ノ外之ヲ発スルノ原由タル所為ノ表示ト其所為ハ重罪又ハ軽罪タルコトヲ定ムル法律ノ引抄トヲ記載ス可キモノトス
第九拾七条 召喚状、勾引状、勾留状、収監状ハ使吏又ハ公力ノ管理者之ヲ送付ス可シ但シ使吏又ハ公力ノ管理者ハ之ヲ犯罪被告人ニ示シテ其写ヲ交付ス可キモノトス
収監状ハ犯罪被告人ノ既ニ拘留セラレタル時ト雖モ之ヲ其犯罪被告人ニ示シテ之レカ写ヲ交付ス可シ
第九拾八条 勾引状、召喚状、勾留状、収監状ハ王国(共和国)ノ全部ニ於テ執行ス可キモノトス
若シ犯罪被告人カ勾留状又ハ収監状ヲ交付シタル官吏ノ管轄地外ニ在ル時ハ治安裁判官又ハ其補役ノ面前ニ之ヲ送致ス可ク又其アラサル時ハ其地ノ邑長、邑長ノ副職又ハ警部ノ面前ニ之ヲ送致ス可シ但シ是等ノ官吏ハ右令状ノ執行ヲ防止スルコトヲ得スシテ其令状ニ検署ス可キモノトス
第九拾九条 勾引状ニ順フコトヲ否拒シ又ハ之ニ従ハントスル旨ヲ申述シタル後逃亡セント試ミタル犯罪被告人ハ之ヲ拘引セサル可カラス
勾引状ノ所持人ハ已ムヲ得サルニ於テハ最近ノ地ノ公力ヲ用フ可シ但シ其公力ハ勾引状中ニ記載シタル請求ニ依テ進行ス可キモノトス
第壱百条 然レトモ若シ勾引状ノ日附ヨリ二日以上ノ後ニ至リ犯罪被告人ノ其令状ヲ交付セシ官吏ノ管轄地外ニシテ其官吏ノ住所ヨリ五「ミリアメートル」以上ノ距離ニ在ル時ハ其犯罪被告人必スシモ其令状ニ従ヒ右官吏ノ面前ニ出ツルニ及ハス然レトモ此場合ニ於テハ被告人其所在地ヲ管轄スル検事ノ面前ニ送致セラル可ク而シテ其検事ハ勾留状ヲ発シ其勾留状ニ拠リ右犯罪被告人ヲ収監場ニ入レ置ク可シ
若シ犯罪被告人カ其捜査セラルヽノ原由タル重罪又ハ軽罪ノ正犯或ハ従犯タルヲ思量セシムル所ノ物品、書類又ハ器具ヲ携帯シタル時ハ其犯罪被告人ノ見出サレタル期限ト其距離トノ如何ヲ問ハス勾引状ヲ完全ニ執行セサルヲ得ス
第百壱条 勾留状ノ執行ヨリ二十四時内ニ之ヲ交付シタル検事ハ勾引状ヲ発シタル官吏ニ其旨ヲ通知シ且ツ調書ヲ作リタルニ於テハ其調書ヲ送付ス可シ
第百弐条 勾引状ヲ交付シタル官吏ハ右ノ如クニ証拠物ノ送付ヲ受ケタル上ニテ右ニ同シキ期限内ニ自己ノ職務ヲ執行スル裁判所ノ予審裁判官ニ右ノ諸件ヲ差送ル可シ但シ其裁判官ハ第九十条ノ成規ニ従フ可キモノトス
第百三条 直接ニ訴訟ヲ掌轄シタル予審裁判官又ハ第九十条ノ執行ニ於ケル移送ニ依リ訴訟ヲ掌轄シタル予審裁判官ハ犯罪被告人ニ訊問ヲ受ケシムル為メ其犯罪被告人所在ノ地ノ予審裁判官ニ右犯罪ニ関スル証拠物、覚書及ヒ参照件ヲ封緘シテ送付ス可シ
総テ右ノ証拠物ハ然ル後亦其訊問書ト共ニ訴訟ヲ掌轄シタル裁判官ニ移送ス可シ
第百四条 若シ予審ノ進行中ニ其訴訟ヲ掌轄シタル裁判官ヨリ収監状ヲ発スル時ハ其令状ニ依リ犯罪被告人ヲ其予審ヲ為ス地ノ収監場ニ移ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
若シ其収監状ニ犯罪被告人ヲ右ノ如クニ移ス可キ旨ヲ明記セサル時ハ其犯罪被告人ハ以下第百二十七条、第百二十八条、第百二十九条、第百三十条、第百三十一条、第百三十二条、第百三十三条ニ従ヒ予審裁判官ノ裁定ヲ為スニ至ル迄其所在ノ郡ノ収監場ニ入レ置ク可シ
第百五条 若シ勾引状ヲ発セラレタル犯罪被告人ヲ見出スコト能ハサル時ハ其令状ヲ右犯罪被告人居住地ノ邑ノ邑長或ハ副職又ハ警部ニ示ス可シ
其邑長、副職又ハ警部ハ送達証書ノ正本ニ自己ノ検署ヲ附ス可シ
第百六条 若シ重罪又ハ軽罪カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キモノタル時ハ凡ソ公力ノ受託者又然ノミナラス凡ソ何人ニ限ラス勾引状ヲ要セスシテ犯罪ヲ現ニ行フ所ノ犯罪被告人又ハ公ケノ叫喚ニ依テ追ハレ若クハ現行犯罪ト同視セラレタル場合ニ於テ追ハルヽ所ノ犯罪被告人ヲ召捕ヘテ之ヲ検事ノ面前ニ送致ス可シ
第百七条 勾留状ヲ示シタル上ニテ犯罪被告人ヲ懲治裁判所ニ設置シタル収監場内ニ入ラシメテ之ヲ監守ス可シ而シテ其監守人ハ令状ノ執行ヲ委任セラレタル使吏又ハ公力ノ管理者ニ其犯罪被告人ヲ受取リタル旨ノ証書ヲ交付ス可キモノトス
第百八条 勾留状又ハ収監状ノ執行ヲ委任セラレタル官吏ハ其犯罪被告人ノ法律ヲ免カルヽヲ防クニ足ル可キ公力ヲ同伴ス可シ
右ノ公力ハ収監状又ハ勾留状ヲ執行ス可キ場所ニ最モ接近シタル地ニ於テ之ヲ取リ用フ可ク而シテ其公力ハ令状中ニ記載シタル司令官ヘノ直接ノ請求ニ依リ進行ス可キモノトス
第百九条 若シ犯罪被告人ヲ召捕フルコトヲ得サル時ハ其最後ノ住居ニ収監状ヲ送達シテ捜索ノ調書ヲ作ル可シ
右ノ調書ハ犯罪被告人ノ近隣者中ニテ収監状所持人ノ見出スコトヲ得タル者二名ノ面前ニテ之ヲ作ル可シ但シ其二名ハ之ニ署名ス可ク若シ又署名スルコトヲ知ラス或ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ其旨ト其事ニ付キ為シタル問糾トヲ記載ス可キモノトス
収監状ノ所持人ハ然ル後治安裁判官又ハ其補役ヲシテ自己ノ調書ニ検署セシム可ク若シ其アラサル時ハ其地ノ邑長、其副職又ハ警部ヲシテ右ノ調書ニ検署セシム可ク而シテ此等ノ各員ニ其調書ノ写ヲ渡シ置ク可シ
収監状及ヒ調書ハ然ル後之ヲ裁判所ノ書記局ニ交付ス可シ
第百拾条 収監状又ハ勾留状ニ拠リ召捕ヘタル犯罪被告人ハ猶予ナク其令状ニ指示シタル収監場ニ送致ス可シ
第百拾壱条 収監状又ハ勾留状ノ執行ヲ委任セラレタル官吏ハ犯罪被告人ヲ収監場ノ監守人ニ交付シ其監守人ハ之レカ義務免除ノ証書ヲ附与ス可シ但シ右ノ諸件ハ第百七条ニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス
右ノ官吏ハ然ル後其逮捕ニ関スル証拠物ヲ懲治裁判所ノ書記局ニ送付シテ之レカ受取証書ヲ取リ置ク可シ
右ノ官吏ハ其義務免除ノ証書及ヒ受取証書ヲ二十四時内ニ予審裁判官ニ示シ予審裁判官ハ右二箇ノ証書ニ其検視ノ旨ヲ附記シテ之レカ日附ヲ記シ且ツ之ニ署名ス可シ
第百拾弐条 若シ召喚状、勾留状、勾引状、収監状ノ為メニ定メタル法式ヲ遵守セサル時ハ常ニ必ス書記ニ対シテ少クトモ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可ク又別段ノ理由アル時ハ予審裁判官及ヒ検事ニ対シテ譴責ノ言渡ヲ為シ又然ノミナラス別段ノ場合ニ於テハ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ為ス可シ
○第八章 仮リノ釈放及ヒ保証
第百拾三条 如何ナル事項ニ於テモ予審裁判官ハ犯罪被告人ノ求メト検事ノ請求トニ依リ其犯罪被告人ニ要求ヲ受ケ次第直チニ訴訟手続ノ総テノ所為ニ出席シ且ツ裁判ノ執行ノ為メ出席ス可キノ約務ヲ負ハシメテ仮リニ其犯罪被告人ヲ釈放ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
懲治ノ事項ニ於テハ法律上ニ定メタル刑ノ最上限カ二年間ノ禁錮以下ノモノタル時ハ住所ヲ有スル犯罪被告人ノ為メ其訊問ノ後五日ニ至リ当然釈放ヲ為ス可シ
前ニ記シタル成規ハ既ニ重罪ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル犯罪被告人ニモ又既ニ一年以上ノ禁錮ヲ言渡サレタル犯罪被告人ニモ適用ス可カラサルモノトス
第百拾四条 仮リノ釈放ハ其当然ノモノタラサル総テノ場合ニ於テハ第百二十条ニ記シタル如クニ保証ヲ給付スルノ義務ニ関セシムルコトヲ得可シ
其保証ハ左ノ諸件ヲ担保スルモノトス
第一 訴訟手続ノ総テノ所為ニ付キ及ヒ裁判ノ執行ノ為メ犯罪被告人ノ出席スル事
第二 以下ノ順序ヲ以テ左ノ諸件ヲ弁済スル事
第一 公訴原告人ノ為シタル費用
第二 民事原告人ノ立替タル費用
第三 罰金
釈放ノ命令書ニハ保証ノ二部中ノ各箇ニ供シ用フル所ノ金額ヲ定ムルモノトス
第百拾五条 釈放ヲ為シタリト雖モ若シ新タニシテ且ツ重劇ナル景況ノ為メ更ニ勾引状、収監状、勾留状ヲ発スルノ必要トナリタル時ハ予審裁判官其予審ノ結果ニ於テ更ニ右ノ令状ヲ発スル為メニ保存スル所ノ権利ト相触ルヽコトナカル可シ
然レトモ若シ重罪取調局ニ於テ予審裁判官ノ命令ヲ更改シテ仮リノ釈放ヲ附与シタル時ハ控訴裁判所ニ於テ検察官ノ請求ニ依リ犯罪被告人ニ右裁定ノ利益ヲ取消シタル時ニ非サレハ予審裁判官ヨリ更ニ令状ヲ発スルコトヲ得サルモノトス
第百拾六条 仮リノ釈放ハ訴訟中何時タリトモ之ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ予審裁判官ノ命令ヨリ重罪裁判所ニ移送スルノ裁判ニ至ル迄ハ重罪取調局ニ之ヲ求メ又懲治裁判所ニ訴訟ヲ移送シタル時ハ懲治裁判所ニ之ヲ求メ又本案ノ裁判ニ付キ控訴ヲ為シタル時ハ控訴裁判所(懲治罪裁判控訴局)ニ之ヲ求ムルコトヲ得可キモノトス
若シ刑ヲ言渡サレタル者カ第四百二十一条ニ従ヒ其上告ヲ許容セラルヽ為メ釈放ヲ得ント求ムルコトヲ欲スル時ハ其刑ヲ宣告セシ上等又ハ下等ノ裁判所ニ其求ヲ申告ス可シ
第百拾七条 前条ニ定メタル総テノ場合ニ於テハ単一ナル請願書ニ依リ裁判官会議室ニ於テ検察官ノ意見ヲ聴キタル上裁定ヲ為ス可シ
犯罪被告人ハ其請願書ノ憑拠トシテ意見書ヲ差出スコトヲ得可シ
第百拾八条 仮リノ釈放ヲ得ントスルノ請求書ハ民事原告人ニ宛テ其住所又ハ其撰定シタル住所ニ送達ス可シ○民事原告人ハ其送達ノ日ヨリ二十四時ノ期限内ニ意見書ヲ差出スコトヲ得可シ
第百拾九条 故障申立又ハ控訴ハ二十四時ノ期限内ニ之ヲ為サヽル可カラス但シ其期限ハ検事ニ対シテハ命令又ハ裁判ノ日ヨリ之ヲ起算シ又犯罪被告人或ハ民事原告人ニ対シテハ送達ノ日ヨリ之ヲ起算ス可シ
故障申立又ハ控訴ハ書記局ニ於テ特ニ設ケタル簿冊ニ之ヲ記ス可シ
検事長ハ第百三十五条ノ末ノ三項ニ定メタル方法ト期限トニ於テ故障申立ヲ為スノ権利ヲ有スルモノトス
第百弐拾条 仮リノ釈放カ保証ニ関セシメラレタル場合ニ於テハ第三ノ人若クハ犯罪被告人ヨリ金円ヲ以テ其保証ヲ給付ス可シ而シテ其金額ハ訴訟ノ性質ニ従ヒ予審裁判官、懲治裁判所又ハ控訴裁判所ヨリ之ヲ定ム可キモノトス
凡ソ償還ノ資力アル第三ノ人ハ亦裁判所ノ差図次第犯罪被告人ヲ出席セシメ若シ其出席セサル時ハ国庫ニ特定ノ金額ヲ納ムルノ約務ヲ負フコトヲ許容セラルヽヲ得可シ
第百弐拾壱条 若シ金円ヲ以テ保証ヲ為ス時ハ其保証金ヲ簿冊登記税収受役ノ手裏ニ納ム可ク而シテ検察官ハ其受取証書ヲ検視シタル上ニテ釈放ノ命令ヲ執行セシム可シ
若シ其保証カ第三ノ人ノ約務タル時ハ書記局ニ請取リタル其約務ノ証書ヲ検視シタル上ニテ釈放ヲ命令ス可シ
保証ノ有無ヲ問ハス釈放ヲ受クル前ニ其請求者ハ書記局ニ差出ス所ノ証書ニ依リ住所ヲ撰定セサル可カラス但シ其請求者ノ予審ヲ受クル犯罪被告人タルニ於テハ予審裁判官所在ノ地ニ住所ヲ撰定ス可ク若シ又軽罪被告人或ハ重罪被告人タルニ於テハ其訴ノ本案ヲ掌轄スル裁判所々在ノ地ニ住所ヲ撰定ス可シ
第百弐拾弐条 犯罪被告人カ訴訟手続ノ総テノ所為ニ付キ及ヒ裁判執行ノ為メニ出席シタル時ハ保証ヨリ生スル所ノ義務止息スルモノトス
犯罪被告人カ正当ナル弁解ノ理由ナクシテ訴訟手続中ノ或ル所為ニ付キ出席セス又ハ裁判執行ノ為メニ出席セサル時ハ保証中ノ第一部ヲ国ニ獲得ス可シ
然レトモ免訴、不問又ハ放免ノ場合ニ於テハ下等裁判所又ハ上等裁判所ノ裁判ヲ以テ保証中右ノ一部ノ返還ヲ命令スルコトヲ得可シ
第百弐拾三条 保証中ノ第二部ハ放免、不問又ハ免訴ノ場合ニ於テハ常ニ必ス之ヲ返還ス可シ
刑ヲ言渡シタル場合ニ於テハ其第二部ヲ第百十四条ニ表示シタル順序ヲ以テ費用及ヒ罰金ヲ弁済スルノ用ニ供シ若シ剰余アラハ之ヲ返還ス可シ
第百弐拾四条 検察官ハ其職権ニ依リ若クハ民事原告人ノ求メニ依リ公然タル証拠物ニ従ヒ第百二十二条ノ場合ニ於テ受ケタル責任ヲ証明スル書記官ノ保証書若クハ第百二十三条ノ第二項ニ定メタル場合ニ於ケル裁判書ノ抜書ヲ簿冊登記税ノ管理局ニ差出スコトヲ委任セラルヽモノトス
若シ其負担シタル金額ヲ附託セサル時ハ簿冊登記税ノ管理局ニ於テ強迫ノ方法ヲ以テ其収受ヲ要求スルモノトス
金額受託所ハ猶予ナク各承権人ニ其受託シ又ハ収受シタル金額ノ分配ヲ為スコトヲ委任セラルヽモノトス
凡ソ右各箇ノ点ニ付テノ争訟ハ請願ニ依リ裁判官会議室ニ於テ裁判執行ニ付テノ附帯ノ訴トシテ之ヲ裁決ス可シ
第百弐拾五条 仮リノ釈放ヲ得タル後、若シ其呼出サレ又ハ招喚セラレタル犯罪被告人ノ出席セサル時ハ場合ニ従ヒ予審裁判官、懲治裁判所又ハ控訴裁判所ヨリ其犯罪被告人ニ対シテ収監状、拘留状又ハ拘引ノ命令書ヲ発スルコトヲ得可シ
第百弐拾六条 重罪裁判所ニ移送セラレタル犯罪被告人ハ仮リノ釈放ニ拘ハラス重罪取調局ノ裁判書中ニ記シタル拘引ノ命令ニ拠リ逮捕ノ景状ニ附ス可シ
○第九章 訴訟手続ノ完全トナリタル時ニ於ケル予審裁判官ノ命令
第百弐拾七条 訴訟手続ノ終リタル時ハ予審裁判官ヨリ直チニ其手続ノ書類ヲ検事ニ通知伝観シ検事ハ遅クトモ三日内ニ其請求書ヲ予審裁判官ニ差送ラサルヲ得ス
第百弐拾八条 若シ予審裁判官カ其所為ノ重罪ニモ軽罪ニモ違警罪ニモアラス又ハ犯罪被告人ニ対シテ犯罪ノ徴憑ノ存在セストスル意見ナル時ハ其罪ヲ訴フ可キコトナキ旨ヲ命令書ヲ以テ宣告シ且ツ其犯罪被告人ノ拘留セラレタル時ハ之ヲ釈放ス可シ
第百弐拾九条 若シ予審裁判官カ其所為ノ単一ナル違警罪ニ過キストスル意見ナル時ハ其犯罪被告人ヲ警察裁判所ニ移送シ且ツ其犯罪被告人ノ拘留セラレタル時ハ之ヲ釈放ス可キ旨ヲ命令ス可シ
本条及ヒ前条ノ成規ハ以下ニ説明スル如ク民事原告人又ハ公訴原告人ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス
第百三拾条 若シ其犯罪カ懲治ノ刑ヲ以テ罰ス可キ性質ノモノト認定セラレタル時ハ予審裁判官其犯罪被告人ヲ懲治警察裁判所ニ移送ス可シ
若シ此場合ニ於テ其犯罪カ禁錮ノ刑ニ当ル可キ時ハ其犯罪被告人ノ拘留セラレタルニ於テハ仮リニ之ヲ拘留シ置ク可シ
第百三拾壱条 若シ其犯罪カ禁錮ノ刑ニ当ル可キモノニ非サル時ハ犯罪被告人ヲ釈放ス可シ但其犯罪被告人ハ特定ノ日ニ於テ該管裁判所ニ出席ス可キノ負任アルモノトス
第百三拾弐条 凡ソ邑ノ警察若クハ懲治警察ニ移送シタル場合ニ於テ検事ハ総テノ証拠物ニ番号ヲ附シタル後遅クトモ四十八時内ニ其宣告ヲ為ス可キ裁判所ノ書記局ニ其証拠物ヲ送付ス可シ
懲治警察ニ移送シタル場合ニ於テ検事ハ右同一ノ期限内ニ第百八十四条ニ定メタル期限ヲ遵守シテ最近ノ審問席中ノ一箇ニ犯罪被告人ヲ呼出サシム可キモノトス
第百三拾三条 若シ予審裁判官カ其所為ノ施体又ハ加辱ノ刑ヲ以テ罰ス可キ性質ノモノニシテ且ツ其犯罪被告人ニ対シテ犯罪ノ証憑充分確カナリト思考スル時ハ重罪裁判所ニ移ス事ノ章ニ記スル如クニ処分セラルヽ為メ予審ノ証拠物、犯罪ノ物件ヲ証明スル調書及ヒ犯罪ノ証タル証拠物ノ目録ヲ猶予ナク検事ヨリ控訴裁判所ノ検事長ニ送付ス可キ旨ヲ命令ス可シ
其犯罪ノ証タル証拠物ハ予審裁判所ニ留メ置ク可シ但シ第二百二十八条及ヒ第二百九十一条ニ記スル所ハ格別ナリトス
第百三拾四条 第百三十三条ノ場合ニ於テ犯罪被告人ニ対シテ発シタル収監状又ハ勾留状ハ控訴裁判所ノ裁定アルニ至ル迄其執行ノ力ヲ保存ス可シ
第百二十八条、第百二十九条、第百三十条、第百三十一条、第百三十三条ノ成規ニ拠リ予審裁判官ノ為シタル命令書ハ検事ノ請求書ノ末ニ之ヲ記入ス可シ○其命令書ニハ犯罪被告人ノ姓名、年齢、出産ノ地、住所、職業、其犯罪被告人ニ帰セラレタル所為ノ簡略ナル説明及ヒ其法律上ノ名称並ニ充分ナル犯罪ノ徴憑ノ存在シ又ハ存在セサル旨ノ申述ヲ記ス可シ
第百三拾五条 検事ハ如何ナル場合ニ於テモ予審裁判官ノ命令ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ○民事原告人ハ此法典第百十四条、第百二十八条、第百二十九条、第百三十一条、第五百三十九条ニ定メタル場合ニ於テ為シタル命令及ヒ総テ自己ノ民事上ノ利益ヲ害スル命令ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ
犯罪被告人ハ第百十四条ニ拠リ為シタル命令及ヒ第五百三十九条ニ定メタル場合ニ於テ為シタル命令ノミニ付キ故障ノ申立ヲ為ス事ヲ得可シ
其故障ノ申立ハ二十四時ノ期限内ニ之ヲ為サヽル可カラス而シテ其期限ハ検事ニ対シテハ右命令ノ日ヨリ之ヲ起算シ又民事原告人及ヒ拘留セラレサル犯罪被告人ニ対シテハ此等ノ者ノ裁判所々在ノ地ニ於テ撰定シタル住所ニ右ノ命令書ヲ送達シタル時ヨリ之ヲ起算シ又拘留セラレタル犯罪被告人ニ対シテハ書記ヨリ其命令書ノ通知伝観ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス可シ
前項ニ定メタル送達及ヒ通知伝観ハ右命令書ノ日附ヨリ二十四時内ニ之ヲ為ス可シ
其故障申立ハ控訴裁判所ノ重罪取調局ニ之ヲ申告ス可シ但シ重罪取調局ニ於テハ総テノ事件ヲ止息シテ裁定ス可キモノトス
証拠物ハ第百三十三条ニ記シタル如ク之ヲ送付ス可シ
拘留セラレタル犯罪被告人ハ故障申立ニ付テノ裁定アルニ至ル迄之ヲ獄舎ニ留メ置ク可ク又如何ナル場合ニ於テモ故障申立ノ期限ノ終ニ至ル迄之ヲ獄舎ニ留メ置ク可シ
如何ナル場合ニ於テモ故障申立ノ権利ハ控訴裁判所ノ検事長ニ属スルモノトス
其検事長ハ予審裁判官ノ命令ノ後十日内ニ其故障申立書ヲ送付セサル可カラス
然レトモ犯罪被告人ノ釈放ヲ宣告スル命令書ノ制定ハ仮リニ之ヲ執行ス可シ
第百三拾六条 故障ノ申立ニ於テ敗訴トナリタル民事原告人ハ犯罪被告人ニ対シテ損害賠償ヲ言渡サル可シ
○第弐編 裁判権
○第壱巻 警察裁判所
○第壱章 単一ナル警察裁判所
第百三拾七条 刑法第四編ノ成規ニ従ヒ十五「フランク」以下ノ罰金ニ処シ若クハ五日以下ノ禁錮ニ処セラル可キ所為ハ其差押ヘタル物件ノ没収ヲ為スト否トヲ問ハス又其物件ノ価額ノ如何ヲ問ハス単一ナル違警罪ト看做ス可シ
第百三拾八条 違警罪ノ審理権ハ其違警罪ヲ行ヒタル県ノ治安裁判官ニ専ラ之ヲ帰スルモノトス
○第壱款 警察裁判官タル治安裁判官ノ裁判所
第百三拾九条 治安裁判官ハ左ノ諸件ヲ専ラ審理ス可キモノトス
第一 本県ノ首地タル邑内ニ於テ行ヒタル違警罪
第二 治安裁判官ノ管轄地内ノ其他ノ各邑ニ於ケル違警罪」但シ犯罪人ノ現行犯罪ニ於テ召捕ヘラレタル場合ノ外其本邑内ニ於テ住所ヲ有セス或ハ本邑内ニ在ラサル各人ノ其違警罪ヲ行ヒ又ハ証拠ヲ申述ス可キ証人ノ本邑内ニ在住セス或ハ本邑内ニ在ラサル時ニ限ル
第三 損害ヲ被ムリタル者ノ不定ナル金額ノ損害賠償又ハ十五「フランク」ニ過クル金額ノ損害賠償ヲ得ント求ムルノ原由タル違警罪
第四 各個人ノ請願ニ依リ其罪ヲ訴ヘタル森林ニ関スル違警罪
第五 口上ノ誹毀
第六 風俗ヲ害スル著作物、文書又ハ彫刻物ノ貼附、広告、売渡、分配、売捌
第七 卜筮又ハ占夢ヲ以テ業ト為ス者ニ対スル訴
第百四拾条 治安裁判官ハ右ニ記シタル所ノ外自己ノ管轄地内ニ於テ行ヒタル総テノ違警罪ヲ亦邑長ト抗競シテ審理ス可キモノトス
第百四拾壱条 治安裁判官ノ唯一名ノミナル各邑ニ於テハ其治安裁判官自己ノ裁判所ノ職権ニ帰セラレタル訴訟ヲ己レ一人ニテ審理ス可シ而シテ治安裁判所ノ書記及ヒ使吏ハ警察上ノ訴ニ付キ其公務ヲ行フ可キモノトス
第百四拾弐条 二箇以上ノ治安裁判所ニ分レタル各邑ニ於テハ最先任ノ者ヨリ始メテ各箇ノ治安裁判官逐次ニ警察裁判所ニ於ケル公務ヲ行フ可シ而シテ此場合ニ於テハ警察裁判所ノ為メ別段ノ書記一名ヲ置ク可キモノトス
第百四拾三条 前条ノ場合ニ於テハ亦警察裁判所ヲ分テ二局ト為スコトヲ得可シ而シテ其各局毎ニ治安裁判官一名其職務ヲ行ヒ又書記ノ補員トシテ誓ヲ為シタル手伝役一名ヲ置ク可シ
第百四拾四条 警察ノ所為ノ為メ検察官ノ職務ハ其裁判所々在ノ地ノ警部ニ於テ之ヲ履行ス可シ
若シ裁判所々在ノ地ニ警部数名アル時ハ控訴裁判所ノ検事長ニ於テ其警部数名中ニ就キ右ノ公務ヲ行フ可キ者一人又ハ数人ヲ撰任ス可シ
若シ首地ノ警部ニ差支アル場合又ハ其警部ノアラサル場合ニ於テハ首地ニ非ラサル場所ニ居住スル警部若クハ治安裁判官ノ補役若クハ首地ノ邑長又ハ副職若クハ本県内ノ其他ノ邑ノ邑長又ハ副職中ノ一名ニ於テ検察官ノ職務ヲ履行ス可シ但シ右ノ各員ハ之レカ為メ満一年間検事長ヨリ指定シ而シテ若シ差支アル場合ニ於テハ本県首地ノ邑長、副職又ハ邑会議員之レニ代ハル可キモノトス
第百四拾五条 違警罪ノ為メノ呼出ハ検察官又ハ要求ヲ為ス者ノ請願ニ依リ之ヲ為ス可シ
其呼出状ハ使吏之ヲ送付シ而シテ犯罪被告人又ハ民事上ニテ責ニ任ス可キ者ニ其写ヲ渡シ置ク可シ
第百四拾六条 呼出状ハ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加ヘテ二十四時間ヨリ少ナキ期限ニ於テ之ヲ附与スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ其呼出状並ニ缺席ニテ為シタル裁判ヲ無効ノモノトス○然レトモ其無効ハ総テ抗弁ノ憑拠及ヒ答弁ヲ為ス前ニ最初ノ審問席ニ於テスルニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
至急ナル場合ニ於テハ治安裁判官ヨリ交付シタル命令書ニ拠リ其期限ヲ短縮シ及ヒ関係各人ヲ其日ノ内ニ其指示セラレタル時刻ニ於テモ出席セシムル為メ之ヲ呼出スコトヲ得可シ
第百四拾七条 関係各人ハ呼出ヲ要セス単一ナル通知ニ依リ任意ニ出席スルコトヲ得可シ
第百四拾八条 審問ノ日ニ至ラサル前ニ治安裁判官ハ検察官又ハ民事原告人ノ求メニ依リ損害ヲ見積リ又ハ見積ラシメ、調書ヲ作リ又ハ作ラシメ、迅速ナルヲ要スル各箇ノ所為ヲ行ヒ又ハ命令スルコトヲ得可シ
第百四拾九条 若シ呼出サレタル者ノ其呼出状ニ定メタル日時ニ於テ出席セサル時ハ缺席ニテ裁判セラル可シ
第百五拾条 缺席ニテ裁判ヲ言渡サレタル者ハ次条ニ指示シタル審問席ニ出席セサル時ハ最早其裁判ノ執行ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ許サス但シ控訴及ヒ破毀ノ為メノ上告ニ付キ以下ニ規定スル所ハ格別ナリトス
第百五拾壱条 缺席裁判ニ付テノ故障申立ハ其送達証書ノ末ニ記シタル答弁ノ申述ニ依テ之ヲ為シ又ハ送達ノ時ヨリ三日内ニ送付シタル証書ニ依テ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ其三日ノ期限ハ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス
故障ノ申立ハ期限ノ経過セシ後ノ最初ノ審問席ニ於ケル呼出ヲ当然惹起シ而シテ若シ其故障申立人ノ出席セサル時ハ無効ナリト看做ス可シ
第百五拾弐条 呼出サレタル者ハ自カラ出席シ又ハ特別ナル代理人ヲ差出ス可シ
第百五拾三条 各箇ノ訴訟ノ予審ハ公ケタル可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
其予審ハ左ノ順序ヲ以テ之ヲ為ス可シ
調書アル時ハ書記ニ於テ其証書ヲ読上ク可シ
検察官又ハ民事原告人ニ於テ証人ヲ招喚シ而シテ其証人ノ申述ヲ聴ク可キ時ハ之ヲ聴ク可シ而シテ又民事原告人ハ其請求ヲ為ス可シ
呼出サレタル者ハ其弁護ヲ申立テ且ツ証人ヲ伴行シ又ハ之ヲ呼出サシメ而シテ次条ノ文面ニ従ヒ其者ノ証人ヲ差出スコトヲ許サレタル時ハ其証人ノ申述ヲ聴カシム可シ
検察官ハ其訴ヲ縮約シテ自己ノ請求ヲ為ス可シ而シテ民事原告人ハ自己ノ意見ヲ申立ツルコトヲ得可キモノトス
警察裁判所ハ予審ヲ終了シタル審問席又ハ遅クトモ次キノ審問席ニ於テ裁判ヲ宣告ス可シ
第百五拾四条 違警罪ハ調書又ハ報告書ニ依リ若クハ報告書及ヒ調書ノアラサル時又ハ之レアリト雖モ其憑拠トシテ証人ニ依リ之ヲ証ス可シ
何人ニ限ラス法律上ヨリ偽造ノ訴アルニ至ル迄軽罪又ハ違警罪ヲ証明スルノ権力ヲ受ケタル警察官吏ノ調書又ハ報告書ニ記載シタル所ノ外及ヒ其記載シタル所ニ反シ証人ニ依テ証ヲ立ツルコトヲ許サス若シ之ニ違フ時ハ無効タル可シ○又法律上ヨリ偽造ノ訴アルニ至ル迄信拠セラルヽノ権利ヲ附与セラレサル官吏又ハ吏員ノ作リタル調書及ヒ報告書ニ付テハ若シ裁判所ニ於テ其反対ノ書証若クハ人証ヲ許ルスコトヲ相当ナリト思考スル時ハ其反対ノ書証若クハ人証ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得可シ
第百五拾五条 各証人ハ遺漏ナク正実ヲ述ヘ正実ノ外述ヘサル可キノ誓ヲ審問席ニ於テ為ス可ク若シ然ラサル時ハ無効タル可シ又書記ハ右ノ誓ト各証人ノ姓名、年齢、職業、居住及ヒ其重立チタル申述トヲ覚書ニ書留ム可シ
第百五拾六条 犯罪被告人ノ尊属親又ハ卑属親、其兄弟姉妹又ハ之ト同級ニ於ケル姻属親、離婚ヲ宣告セラレタル後ト雖モ其婦又ハ夫ハ証人トシテ招喚ス可カラス又其証拠ノ申述ヲ受ク可カラス然レトモ検察官若クハ民事原告人若クハ犯罪被告人ニ於テ右ニ指定シタル各人ノ申述ヲ聴クコトニ付キ故障ヲ申立テサル時ハ其各人ノ証拠申述ヲ聴キタルカ為メニ無効ヲ惹起スルコトナカル可シ
第百五拾七条 呼出ニ応セサル証人ハ裁判所ニ於テ強テ呼出ニ応セシムルコトヲ得可シ但シ裁判所ニ於テハ之レカ為メ検察官ノ請求ニ依リ同一ノ審問席ニ於テ第一回ノ缺席ニ付テハ罰金ヲ宣告シ又第二回ノ缺席ニ於テハ拘留ヲ宣告ス可シ
第百五拾八条 右ノ如ク第一回ノ缺席ニ付キ罰金ヲ言渡サレ而シテ第二回ノ呼出ニ於テ裁判所ニ正当ナル弁解ノ理由ヲ申立テタル証人ハ検察官ノ請求ニ依リ罰金ヲ免除セラルヽコトヲ得可シ
若シ其証人ノ更ニ再ヒ呼出サレサル時ハ自己ノ弁解ノ理由ヲ申立テ而シテ罰金ノ免除ヲ得可キノ理由アル時ハ其免除ヲ得ル為メ次キノ審問席ニ於テ任意ニ自カラ出席シ又ハ特別ナル代理人ヲ差出スコトヲ得可シ
第百五拾九条 若シ所為カ軽罪ニモ又違警罪ニモ当ラサル時ハ裁判所ニ於テ其呼出状及ヒ其呼出ノ後ニ為シタル諸件ヲ取消シ且ツ之ト同一ノ裁判ニ依リ損害賠償ノ訟求ヲ裁定ス可シ
第百六拾条 若シ所為カ懲治ノ刑又ハ更ニ重劇ナル刑ニ当ル所ノ軽罪ナル時ハ裁判所ヨリ関係人ヲ検事ノ面前ニ移送ス可シ
第百六拾壱条 若シ犯罪被告人カ違警罪ヲ犯シタルノ証アル時ハ裁判所ヨリ其刑ヲ宣告シ且ツ之ト同一ノ裁判ニ依リ物件返還及ヒ損害賠償ノ訟求ヲ裁定ス可シ
第百六拾弐条 敗訴トナリタル者ハ公訴原告人ニ対スルト雖モ費用ノ償還ヲ言渡サル可シ
其費額ハ裁判書ヲ以テ之ヲ算定ス可キモノトス
第百六拾三条 凡ソ処刑ノ確定ノ裁判書ニハ之レカ理由ヲ附シ且ツ適用シタル法律ノ文面ヲ記入ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効タル可シ
其裁判書ニハ終審ノモノタルヤ又ハ始審ノモノタルヤヲ記載ス可シ
第百六拾四条 裁判書ノ細字ノ正本ハ審問席ヲ開キタル裁判官遅クトモ二十四時内ニ之ニ署名ス可ク若シ之ニ違フ時ハ書記ニ対シテ二十五「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可ク又別段ノ理由アル時ハ書記ト裁判所長トニ対シテ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第百六拾五条 検察官及ヒ民事原告人ハ各々其関係アル所ノ事ニ付キ裁判ノ執行ヲ要求ス可シ
○第弐款 警察裁判官タル邑長ノ裁判権
第百六拾六条 県ノ首地タラサル各邑ノ邑長ハ現行犯罪ニ於テ召捕ヘラレタル各人ノ其邑内ニ於テ行ヒタル違警罪又ハ証人モ亦其邑内ニ居住シ或ハ其邑内ニ在リ且ツ要求ヲ為ス者ノ十五「フランク」ニ過キサル特定ノ金額ヲ損害賠償トシテ得ント求ムル時ニ於テハ其邑内ニ居住シ又ハ其邑内ニ在ル各人ノ行ヒタル違警罪ヲ治安裁判官ト抗競シテ審理ス可キモノトス
右ノ邑長ハ第百三十九条ニ依リ専ラ治安裁判官ノ職権ニ帰セラレタル違警罪ヲモ又民事裁判官ト看做サレタル治安裁判官ニ其審理ヲ帰シタル何等ノ事項ヲモ決シテ審理スルコトヲ得ス
第百六拾七条 検察官ノ職務ハ邑長ノ違警罪ノ事項ニ付キ審理ヲ為ス時ハ邑長ノ副職ニ於テ之ヲ執行ス可ク若シ又其副職ノアラサル時又ハ副職カ警察裁判官ノ職務ニ於テ邑長ニ代ハル時ハ邑会議員中ニテ検事ヨリ満一年間特ニ指定セラレタル者其検察官ノ職務ヲ執行ス可シ
第百六拾八条 違警罪ノ事項ニ於ケル邑長ノ書記ノ職務ハ邑長ヨリ申立テタル国士ニ於テ之ヲ執行ス可シ但シ其国士ハ書記タルノ分限ヲ以テ懲治警察裁判所ニ於テ誓ヲ為ス可キモノトス○其国士ハ書類ノ副本ノ為メ治安裁判官ノ書記ニ附与セラルヽ所ノ利得ヲ収受ス可シ
第百六拾九条 関係人ヲ呼出スニ付テハ使吏ノ参渉ヲ必要トセス但シ其呼出ハ被告人ノ其罪ヲ訴ヘラレタル所為ト其出席セサル可カラサル日時トヲ報告スル所ノ邑長ノ通知書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ
第百七拾条 証人ノ呼出ニ付テモ亦右ニ同シカル可シ但シ其呼出ハ其証拠ノ申述ヲ受ク可キ時期ヲ指示シタル通知書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第百七拾壱条 邑長ハ邑庁ニ於テ審問席ヲ開キ而シテ関係人及ヒ証人ノ申立ヲ公ケニ聴ク可シ
右ノ外治安裁判所ノ予審及ヒ裁判ニ関スル第百四十九条、第百五十条、第百五十一条、第百五十三条、第百五十四条、第百五十五条、第百五十六条、第百五十七条、第百五十八条、第百五十九条、第百六十条ノ成規ハ之ヲ遵守ス可シ
○第三款 警察裁判ノ控訴
第百七拾弐条 警察ノ事項ニ於テ為シタル裁判ヲ以テ禁錮ヲ宣告スル時又ハ罰金、物件返還及ヒ其他ノ民事ノ補償カ費額ノ外五「フランク」ノ金額ニ過クル時ハ控訴ノ方法ヲ以テ其裁判ヲ駁撃スルコトヲ得可シ
第百七拾三条 控訴ハ停止ノ効力アルモノトス
第百七拾四条 警察裁判所ヨリ為シタル裁判ノ控訴ハ懲治裁判所ニ之ヲ申告ス可ク而シテ其控訴ハ本人又ハ住所ニ裁定書ノ送達ヲ受ケタル時ヨリ十日内ニ之ヲ為ス可ク又其控訴ハ治安裁判所ノ裁定書ノ控訴ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ続行シ及ヒ裁判ス可シ
第百七拾五条 若シ控訴ノ上ニテ検事又ハ関係人中ノ一方ヨリ請求ヲ為ス時ハ更ニ再ヒ証人ノ申述ヲ聴キ又然ノミナラス更ニ他ノ証人ノ申述ヲ聴クコトヲ得可シ
第百七拾六条 予審ノ法式、証拠ノ性質、確定裁判ノ方法、其裁判ノ公正ナル事及ヒ其署名、費用弁済ノ言渡ニ関スル前数条ノ成規並ニ其数条ニ於テ定メタル刑ハ控訴ノ上懲治裁判所ヨリ為ス所ノ裁判ニ共通ノモノトス
第百七拾七条 検察官及ヒ関係人ハ別段ノ理由アルニ於テハ警察裁判所ヨリ終審ニテ為シタル裁判ニ対シ又ハ警察上ノ裁判ノ控訴ニ付キ懲治裁判所ニ於テ為シタル裁判ニ対シテ破毀ノ為メニ上告スルコトヲ得可シ
其上告ハ特定ノ方法ト期限トニ於テ之ヲ為ス可シ
第百七拾八条 各三月期ノ初メ毎ニ治安裁判官ハ其以前ノ三月期内ニ為シタル警察上ノ裁判書ニシテ禁錮ノ刑ヲ宣告シタルモノヽ抜書ヲ検事ニ送付ス可シ○其抜書ハ書記ヨリ無費ニテ交付ス可キモノトス
検事ハ其抜書ヲ懲治裁判所ノ書記局ニ差出ス可シ
又検事ハ控訴裁判所ノ検事長ニ其簡略ナル報告ヲ為ス可シ
○第弐章 懲治ノ事項ニ於ケル裁判所
第百七拾九条 民事始審裁判所ハ右ノ外懲治裁判所ノ名義ヲ以テ行政官庁ノ求メニ依リ訴フル所ノ森林ノ各犯罪並ニ五日ノ禁錮及ヒ十五「フランク」ノ罰金ニ過クル所ノ刑ニ処ス可キ総テノ軽罪ヲ審理ス可シ
第百八拾条 其裁判所ハ懲治ノ事項ニ於テハ裁判官三名ニテ宣告スルコトヲ得可シ
第百八拾壱条 若シ審問席ヲ開ク間ニ其搆内ニ於テ懲治軽罪ヲ行フ者アル時ハ裁判所長其所為ノ調書ヲ作リテ犯罪被告人及ヒ証人ノ申立ヲ聴ク可ク而シテ裁判所ハ其場ニテ法律上ニ定ムル所ノ刑ヲ適用ス可シ
右ノ成規ハ控訴裁判所ノ審問席又然ノミナラス民事裁判所ノ審問席ヲ開ク間ニ其搆内ニ於テ行ヒタル懲治軽罪ノ為メニモ亦之ヲ執行ス可シ但シ此場合ニ於テ民事裁判所又ハ懲治裁判所ヨリ為シタル裁判ノ法律ニ拠レル控訴ト相触ルヽコトナカル可シ
第百八拾弐条 其裁判所ハ懲治ノ事項ニ於テハ前第百三十条及ヒ第百六十条ニ従ヒ為サレタル所ノ移送ニ依リ若クハ民事原告人ヨリ犯罪被告人及ヒ民事上ニテ其犯罪ノ責ニ任ス可キ各人ニ直接ニ送付シタル呼出状ニ依リ又森林ノ犯罪ニ関シテハ森林ノ保存人、監察人又ハ副監察人或ハ監守人長ヨリ右ノ各人ニ直接ニ送付シ又如何ナル場合ニ於テモ検事ヨリ右ノ各人ニ直接ニ送付シタル呼出状ニ依リ其管轄ニ係ル軽罪ノ審理ヲ掌轄スルモノトス
第百八拾三条 民事原告人ハ呼出ノ証書ヲ以テ裁判所々在ノ都府ニ於ケル住所ノ撰定ヲ為ス可シ但シ其呼出状ニハ犯罪ノ所為ヲ表示ス可キモノニシテ之レヲ以テ告訴状ニ代用ス可シ
第百八拾四条 呼出ト裁判トノ間ニ三「ミリアメートル」毎ニ一日ノ外少クトモ三日ノ猶予アル可シ若シ之ニ違フ時ハ呼出サレタル者ニ対シ缺席ニテ宣告スル所ノ刑ノ言渡ハ無効ノモノトス
然レトモ其無効ハ総テ抗弁ノ憑拠又ハ答弁ノ前ニ最初ノ審問席ニ於テスルニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第百八拾五条 禁錮ノ刑ニ当ラサル軽罪ニ関スル事件ニ於テハ犯罪被告人自己ノ代理人トシテ代書人ヲ差出スコトヲ得可シ然レトモ裁判所ハ其犯罪被告人ノ自カラ出席ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可キモノトス
第百八拾六条 若シ犯罪被告人ノ出席セサル時ハ缺席ニテ裁判セラル可シ
第百八拾七条 若シ犯罪被告人又ハ其住所ニ缺席裁判言渡書ヲ送達シタルヨリ五日内ニ其犯罪被告人ヨリ其裁判書ノ執行ニ付キ故障ノ申立ヲ為シ而シテ検察官ト民事原告人トニ其故障申立書ヲ送付シタル時ハ其缺席裁判言渡書ヲ無効ノモノトス但シ右五日ノ期限ハ五「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可シ
缺席裁判書ノ写ヲ得テ之ヲ送達スルノ費用及ヒ故障申立ノ費用ハ犯罪被告人ノ負任ト為スコトヲ得可シ
然レトモ若シ本人ニ送達ヲ為サヽル時又ハ裁判書執行ノ証書ニ依リ犯罪被告人ノ其裁判ヲ知リタリト推知スルヲ得サル時ハ其刑ノ期満効ノ期限ノ終ニ至ル迄故障ノ申立ヲ受理ス可キモノトス
第百八拾八条 故障ノ申立ハ当然最初ノ審問席ニ於ケル呼出ヲ惹起スルモノトシ若シ故障申立者ノ其最初ノ審問席ニ於テ出席セサル時ハ其故障申立ヲ無効ノモノトス而シテ又裁判所ヨリ其故障申立ニ付キ為シタル裁判ハ其故障申立ヲ為シタル者ニ於テ以下ニ記スル如ク控訴ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
裁判所ハ別段ノ理由アル時ハ仮定ノ金額ヲ許与スルコトヲ得可シ而シテ其処分ハ控訴ニ拘ハラス執行ス可キモノトス
第百八拾九条 懲治軽罪ノ証拠ハ違警罪ニ関スル前第百五十四条、第百五十五条、第百五十六条ニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ為ス可シ○書記ハ証人ノ申述及ヒ犯罪被告人ノ答詞ヲ覚書ニ書留ム可シ○書記ノ覚書ハ裁判宣告ノ時ヨリ三日内ニ裁判所長之ニ検署ス可シ○第百五十七条、第百五十八条、第百五十九条、第百六十条、第百六十一条ノ成規ハ懲治ノ事項ニ於ケル裁判所ニ共通ノモノトス
第百九拾条 予審ハ公ケタル可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
検事、民事原告人又ハ其代弁人及ヒ森林ノ犯罪ニ関シテハ森林保存人、監察人又ハ副監察人若シ又此等各員ノアラサル時ハ一般ノ監守人長ヨリ其事件ヲ弁明シ、調書又ハ報告書ヲ作リタル時ハ書記之ヲ読上ケ、犯罪被告人ノ為メノ証人及ヒ犯罪被告人ニ対スル証人ノ申述ヲ聴ク可キ時ハ之ヲ聴キ、其排斥ヲ申立テヽ之ヲ裁判シ、有罪ノ証又ハ無罪ノ証トナル可キ証拠物ヲ各証人及ヒ関係人ニ示シ、犯罪被告人ヲ訊問シ、犯罪被告人及ヒ民事上ニテ責ニ任ス可キ各人ヨリ其弁護ヲ申立テ、検事ハ其事件ヲ縮約シテ自己ノ請求ヲ為シ、犯罪被告人及ヒ民事上ニテ犯罪ノ責ニ任ス可キ各人ハ更ニ之ニ答フルコトヲ得可シ
其後直ニ裁判ヲ宣告シ又ハ遅クトモ其予審ヲ終リタル審問席ノ次キノ審問席ニ於テ裁判ヲ宣告ス可シ
第百九拾壱条 若シ其所為カ軽罪トモ又違警罪トモ看做サレサル時ハ裁判所ニ於テ其予審、呼出及ヒ其後ニ為シタル諸件ヲ取消シテ犯罪被告人ヲ免訴シ且ツ損害賠償ニ於ケル訟求ヲ裁定ス可シ
第百九拾弐条 若シ其所為カ違警罪ノミタル時公訴原告人又ハ民事原告人ヨリ其移送ヲ訟求セサルニ於テハ裁判所ニ於テ其刑ヲ適用シ且ツ損害賠償ヲ裁定ス可キ時ハ之ヲ裁定ス可シ
此場合ニ於テ其裁判ハ終審ノモノタル可シ
第百九拾三条 若シ其所為カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キ性質ノモノタル時ハ裁判所ヨリ直チニ拘留状又ハ収監状ヲ発スルコトヲ得可シ而シテ其裁判所ニ於テハ犯罪被告人ヲ該管予審裁判官ノ面前ニ移送ス可キモノトス
第百九拾四条 凡ソ犯罪被告人ニ対シ及ヒ民事上ニテ犯罪ノ責ニ任ス可キ各人ニ対シ又ハ民事原告人ニ対シテ為ス所ノ懲罰ノ裁判ニハ右ノ各人ニ公訴原告人ニ対スルト雖モ費用ヲ償還ス可キ旨ヲ言渡ス可シ
其費用ハ右ト同一ノ裁判ヲ以テ之ヲ算定ス可キモノトス
第百九拾五条 凡ソ懲罰ノ裁判書ノ要旨中ニハ其呼出サレタル各人ノ罪ヲ犯シタリト裁判セラレ又ハ其責ニ任ス可シト裁判セラレタル所為ト其刑ト民事上ノ言渡トヲ表示ス可シ
其適用ヲ為ス所ノ法律ノ正条ハ審問席ニ於テ裁判所長之ヲ読上ケ而シテ其読上ノ旨ヲ裁判書ニ記載シ且ツ法律ノ正条ヲ其裁判書ニ記入ス可ク若シ之ニ違フ時ハ書記ニ対シテ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可シ
第百九拾六条 裁判書ノ細字ノ正本ハ其裁判ヲ為シタル裁判官遅クトモ二十四時内ニ之ニ署名ス可シ
裁判書ニ署名セサル前ニ其裁判書ノ副本ヲ交付スル所ノ書記ハ偽造者ナリトシテ其罪ヲ訴ヘラルヘシ
検事ハ毎月裁判書ノ細字ノ正本ヲ検視シ若シ本条ニ違背シタル場合ニ於テハ相当ノ処分ヲ為ス為メ其調書ヲ作ル可シ
第百九拾七条 裁判ハ検事及ヒ民事原告人ノ請願ニ依リ各々其各員ニ関スル所ノ事ニ付キ之ヲ執行ス可シ
然レトモ罰金及ヒ没収物ヲ収受スル為メノ手続ハ検事ノ名義ヲ以テ簿冊登記税及ヒ国領財産管理局ノ幹理者之ヲ為ス可シ
第百九拾八条 検事ハ裁判宣告ノ後十五日内ニ其裁判書ノ抜書ヲ控訴裁判所ノ検事長ニ送付ス可シ
第百九拾九条 懲治ノ事項ニ於テ為シタル裁判ハ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得可シ
第弐百条 懲治警察ノ事ニ付キ為シタル裁判ノ控訴ハ郡ノ裁判所ヨリ州ノ首地ノ裁判所ニ之ヲ申告ス可シ○州ノ首地ニ於テ懲治警察ノ事ニ付キ為シタル裁判ノ控訴ハ同一ノ控訴裁判所ノ管轄地内ノモノタル時ハ隣州ノ首地ノ裁判所ニ申告ス可シ然レトモ各裁判所ハ如何ナル場合ニ於テモ相互ニ其裁判ノ控訴裁判官タルコトヲ得サルモノトス
其控訴ヲ申告ス可キ首地ノ各裁判所ノ表ヲ作ル可シ
第弐百壱条 控訴ハ控訴裁判所ニ申告ス可シ
第弐百弐条 控訴スルノ権能ハ左ノ各人ニ属スルモノトス
第一 犯罪被告人又ハ責ニ任ス可キ各人
第二 民事原告人但シ其民事上ノ関係ノミニ付キ
第三 森林ノ管理局
第四 始審裁判所ノ検事
第五 控訴裁判所ノ検事長
第弐百三条 以下第二百五条ニ記載シタル例外ヲ除クノ外若シ裁判ヲ宣告シタル日ヨリ後遅クトモ十日内ニ其裁判ヲ為シタル裁判所ノ書記局ニ控訴スル旨ノ申述ヲ為シ又缺席ニテ裁判ヲ為シタル時ハ其言渡ヲ受ケタル者又ハ其住所ニ右裁判書ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ後遅クトモ十日内ニ右ノ控訴スル旨ノ申述ヲ為シタルニ非サレハ控訴ノ権利ヲ失フ可シ但シ右十日ノ期限ハ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス
右ノ期限ノ間及ヒ控訴ノ訴訟ノ間ハ裁判ノ執行ヲ停止ス可シ
第弐百四条 控訴ノ憑拠ヲ記シタル請願書ハ右ト同一ノ期限内ニ右ト同一ノ書記局ニ之ヲ差出スコトヲ得可シ但シ其請願書ハ控訴者又ハ代書人又ハ総テ其他ノ特別ナル代理人之ニ署名ス可キモノトス
右最後ニ記シタル場合ニ於テハ其代理委任状ヲ請願書ニ添ユ可シ
其請願書ハ亦直接ニ控訴裁判所ノ書記局ニ差出スコトヲ得可シ
第弐百五条 控訴裁判所ノ検事長ハ裁判宣告ノ日ヨリ起算シテ二月内ニ犯罪被告人若クハ民事上ニテ犯罪ノ責ニ任ス可キ者ニ其控訴ヲ通知セサル可カラス又関係人中ノ一人ヨリ法ニ適シテ其裁判書ノ送達ヲ受ケタル時ハ其送達ノ日ヨリ一月内ニ右ノ各人ニ其控訴ヲ通知セサル可カラス若シ然ラサル時ハ其控訴ノ権利ヲ失フ可シ
第弐百六条 放免ノ場合ニ於テハ其犯罪被告人ヲ控訴ニ拘ハラス直チニ釈放ス可シ
第弐百七条 請願書ヲ始審裁判所ノ書記局ニ差出シタル時ハ其請願書及ヒ証拠物ヲ控訴ノ申述又ハ控訴ノ通知書交付ノ後二十四時内ニ検事ヨリ控訴裁判所ノ書記局ニ送付ス可シ
若シ其裁判ヲ受ケタル者ノ拘留ノ景状ニアル時ハ其者ヲ検事ノ命令ニ依リ右ト同一ノ期限内ニ控訴裁判所々在地ノ収監場内ニ移ス可シ
第弐百八条 控訴ノ上缺席ニテ為シタル裁判ハ懲治裁判所ニ於テ為シタル缺席裁判ト同一ノ方法及ヒ同一ノ期限ニ於テ故障申立ノ方法ニ依リ之ヲ駁撃スルコトヲ得可シ
其故障申立ハ当然最初ノ審問席ニ於ケル呼出ヲ惹起スルモノトシ若シ故障申立人ノ其最初ノ審問席ニ於テ出席セサル時ハ其故障申立ヲ無効ノモノトス○其故障申立ニ付キ為シタル裁判ハ其故障申立ヲ為シタル者ニ於テ大審院ニ上告スルノ外之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
第弐百九条 控訴ハ一月内ニ控訴裁判所ノ裁判官一名ヨリ報告ノ上、審問席ニ於テ之ヲ裁判ス可シ
第弐百拾条 報告ヲ為シタル後其報告員及ヒ各裁判官ノ其論説ヲ発スル前ニ放免セラレタルト刑ヲ言渡サレタルトヲ問ハス犯罪被告人、犯罪ニ付キ民事上ニテ責ニ任ス可キ各人、民事原告人及ヒ検事長ハ第百九十条ニ定メタル方法及ヒ順序ヲ以テ其申述ヲ聴カル可シ
第弐百拾壱条 予審ノ法式、証拠ノ性質、始審確定裁判書ノ方法、其公正及ヒ手署、費用ノ言渡ニ関スル前数条ノ成規並ニ前数条ニ定ムル所ノ刑ハ控訴ノ上ニテ為ス所ノ裁判ニ共通ノモノトス
第弐百拾弐条 若シ其所為カ如何ナル法律ニ依ルモ軽罪トモ又違警罪トモ看做サレサルノ故ヲ以テ始審裁判ヲ更改シタル時ハ控訴裁判所ニ於テ犯罪被告人ヲ免訴シ且ツ其犯罪被告人ノ損害賠償ヲ裁定ス可キ時ハ之ヲ裁定ス可シ
第弐百拾三条 若シ其所為カ違警罪ノミニ当ルノ故ヲ以テ始審裁判ヲ取消シタル時公訴原告人及ヒ民事原告人ヨリ其移送ヲ訟求セサルニ於テハ控訴裁判所ニ於テ其刑ヲ宣告シ且ツ損害賠償ヲ裁定ス可キ時ハ亦之ヲ裁定ス可シ
第弐百拾四条 若シ其所為カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キ性質ノモノタルノ故ヲ以テ始審裁判ヲ取消シタル時ハ控訴裁判所ニ於テ別段ノ理由アルニ於テハ勾留状又然ノミナラス収監状ヲ発ス可ク且ツ其犯罪被告人ヲ該管官吏ノ面前ニ移送ス可シ然レトモ其始審裁判ヲ為シ又ハ予審ヲ為シタル官吏ノ面前ニ之ヲ移送ス可カラサルモノトス
第弐百拾五条 若シ無効ノ罰款ヲ以テ法律上ニ定メタル法式ノ補正セラレサル違犯又ハ違脱ノ為メニ始審裁判ヲ取消シタル時ハ控訴裁判所ニ於テ其本案ニ付キ裁定ヲ為ス可シ
第弐百拾六条 民事原告人、犯罪被告人、公訴原告人、犯罪ニ付キ民事上ニテ責ニ任ス可キ各人ハ控訴裁判所ノ裁判ニ対シテ破毀ノ為メ上告スルコトヲ得可シ
○第弐巻 陪審ニ附セサル可カラサル事件
○第壱章 重罪裁判所ニ移ス事
第弐百拾七条 控訴裁判所ノ検事長ハ第百三十三条又ハ第百三十五条ニ拠リ己レニ送付セラレタル証拠物ヲ収受セシ時ヨリ五日内ニ其事件ヲ整理シテ遅クトモ次キノ五日内ニ其報告ヲ為ス可シ
右ノ時間ニ於テ民事原告人及ヒ犯罪被告人ハ其相当ナリト思考スル所ノ覚書ヲ差出スコトヲ得可シ但シ之レカ為メ其報告ヲ遅延スルコトヲ得サルモノトス
第弐百拾八条 之レカ為メ特ニ組成シタル控訴裁判所ノ一課ハ其必要ナル度毎ニ検事長ノ報告ヲ聴キ且ツ其請求ニ付キ裁定スル為メ検事長ノ求メニ依リ其課長ノ招集ニ従ヒ集会ヲ為ス可キモノトス
検事長ノ別段ノ求メアラサルニ於テハ右ノ課ハ少クトモ毎週一回集会ヲ為ス可シ
第弐百拾九条 裁判所長ハ検事長ノ報告ノ後直チニ右ノ課ヲシテ宣告ヲ為サシム可シ若シ為シ能ハサル場合ニ於テハ其課ハ遅クトモ三日内ニ宣告セサルヲ得ス
第弐百弐拾条 若シ其事件カ高等法院又ハ大審院ノ為メニ貯存ス可キ性質ノモノタル時ハ検事長ニ於テ其停止及ヒ移送ヲ請求シ而シテ右ノ課ハ之ヲ命令ス可キモノトス
第弐百弐拾壱条 前条ニ定メタル場合ヲ除クノ外裁判官ハ其犯罪被告人ニ対シテ法律上ニ重罪ノ名称ヲ附スル所為ノ証拠又ハ証憑ヲ存在スルヤ否ヲ調査シ又其証拠又ハ証憑ノ頗ル重劇ニシテ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告スルニ足ル可キヤ否ヲ調査ス可シ
第弐百弐拾弐条 書記ハ検事長ノ面前ニ於テ裁判官ニ其訴ノ総テノ証拠物ヲ読聞カセ然ル後其証拠物並ニ民事原告人及ヒ犯罪被告人ヨリ差出シタル覚書ヲ事務局ニ存シ置ク可シ
第弐百弐拾三条 民事原告人、犯罪被告人、各証人ハ出席セサルモノトス
第弐百弐拾四条 検事長ハ其署名シタル請求書ヲ事務局ニ納メタル後書記ト共ニ退席ス可シ
第弐百弐拾五条 各裁判官ハ何人トモ語ヲ参ユルコトナク其場ニテ相互ニ評議ス可シ
第弐百弐拾六条 裁判所ハ相牽連シタル犯罪ノ証拠物ヲ同時ニ差出サレタル時ハ一箇同一ノ裁判ヲ以テ其相牽連シタル数箇ノ犯罪ヲ裁定ス可シ
第弐百弐拾七条 数人相集合シテ同時ニ犯罪ヲ行ヒタル時若クハ時期及ヒ場所ノ相異ナルト雖モ数箇ノ人ノ予メ相互ニ共議シタルニ依リ犯罪ヲ行ヒタル時若クハ犯罪人ノ甲ノ犯罪ヲ行フ可キ方便ヲ己レニ得ル為メ又ハ甲ノ犯罪ヲ容易ナラシムル為メ又ハ甲ノ犯罪ノ執行ヲ成就スル為メ又ハ甲ノ犯罪ニ付テノ罰ヲ免カルヽ為メニ乙ノ犯罪ヲ行ヒタル時ハ其数箇ノ犯罪ヲ相牽連シタルモノトス
第弐百弐拾八条 裁判官ハ別段ノ理由アル時ハ更ニ新タナル予審ヲ命令スルコトヲ得可シ
裁判官ハ亦別段ノ理由アル時ハ始審裁判所ノ書記局ニ納メ置キタル有罪ノ証拠物ノ差出ヲ命令スルコトヲ得可シ
右ノ諸件ハ極メテ短キ期限内ニ之ヲ為ス可キモノトス
第弐百弐拾九条 若シ裁判所ニ於テ法律上ニ定メタル犯罪ノ痕跡ヲ看ス又ハ裁判所ニ於テ有罪ナル事ノ充分ナル証憑ヲ見出サヽル時ハ犯罪被告人ノ釈放ヲ命令ス可シ但シ犯罪被告人ノ更ニ他ノ原由ノ為メニ留置セラレサル時ハ即時ニ右ノ命令ヲ執行ス可キモノトス
右ニ同シキ場合ニ於テ若シ裁判所カ予審裁判官ノ命令ニ依テ宣告セラレタル犯罪被告人ノ釈放ニ付テノ故障申立ヲ裁定ス可キ時ハ裁判所ニ於テ右ノ命令ヲ是認ス可シ但シ其命令ハ前項ニ記シタル如クニ執行ス可キモノトス
第弐百三拾条 若シ裁判所ニ於テ犯罪被告人ヲ単一ナル警察裁判所又ハ懲治警察裁判所ニ移送セサル可カラスト思考スル時ハ該管裁判所ヘノ移送ヲ宣告ス可シ但シ単一ナル警察裁判所ニ移送スル場合ニ於テハ犯罪被告人ヲ釈放ス可キモノトス
第弐百三拾壱条 若シ其所為カ法律上ニ重罪ノ名称ヲ附スルモノニシテ且ツ裁判所ニ於テ重罪裁判所ニ移スノ理由タル可キ充分ナル犯罪ノ徴憑ヲ見出ス時ハ其犯罪被告人ヲ重罪裁判所ニ移送スル旨ヲ命令ス可シ
如何ナル場合ニ於テモ又予審裁判官ノ命令如何ヲ問ハス裁判所ハ検事長ノ請求ニ依リ其審理スル所ノ各個ノ犯罪被告人ニ関シテ其訴ノ手続ニ依リ知ルコトヲ得タル総テノ重罪、軽罪、違警罪ノ箇条ニ付キ裁定ス可キモノトス
第弐百三拾弐条 若シ裁判所ニ於テ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告シタル時ハ其重罪被告人ニ対シテ拘引ノ命令書ヲ発ス可シ
其命令書ニハ重罪被告人ノ姓名、年齢、出産ノ地、住所、職業ヲ記シ且ツ其重罪公訴ノ目的タル所為ノ簡略ナル説明及ヒ其法律上ノ名称ヲ記ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第弐百三拾三条 拘引ノ命令書ハ重罪裁判所ニ移ス旨ノ裁判書中ニ之ヲ記入ス可シ但シ其裁判書ニハ重罪被告人ヲ移送スル所ノ裁判所ニ設ケアル拘留場ニ之ヲ送致ス可キノ命令ヲ記ス可キモノトス
第弐百三拾四条 裁判書ハ其裁判ヲ為シタル裁判官各員之ニ署名ス可シ又其裁判書ニハ検察官ノ請求ト裁判官各員ノ姓名トヲ記載ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第弐百三拾五条 総テノ事件ニ於テ控訴裁判所ハ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告ス可キヤ否ヲ決セサル間ハ初メノ裁判官ニ於テ予審ヲ始メタルト否トヲ問ハス職権上ニテ犯罪ノ起訴ヲ命令シ、証拠書類ヲ差出サシメ、予審ヲ為シ又ハ為サシメ然ル後其相当ノ裁定ヲ為スコトヲ得可シ
第弐百三拾六条 前条ノ場合ニ於テハ第二百十八条ニ記シタル課ノ職員一名其予審裁判官ノ職務ヲ行フ可シ
第弐百三拾七条 其裁判官ハ各証人ノ申述ヲ聴キ又ハ其申述ヲ聴カシムル為メ右各証人居住ノ地ヲ管轄スル始審裁判所ノ裁判官中一名ヲ委任シ、犯罪被告人ヲ訊問シ、収取スルコトヲ得タル総テノ証拠又ハ証憑ヲ書面ヲ以テ証明セシメ且ツ景況ニ従ヒ勾引状、勾留状又ハ収監状ヲ発ス可シ
第弐百三拾八条 検事長ハ予審裁判官ヨリ証拠物ヲ受取リタル後五日内ニ其報告ヲ為ス可シ
第弐百三拾九条 若シ訊問ニ依リ犯罪被告人ヲ重罪裁判所ニ移送ス可キコトノ明白トナリタル時ハ裁判所ニ於テ前第二百三十一条、第二百三十二条、第二百三十三条ニ記シタル如クニ宣告ス可シ
若シ懲治警察ニ移送ス可キ時ハ裁判所ニ於テ第二百三十条ノ成規ニ従フ可キモノトス
若シ右ノ場合ニ於テ犯罪被告人ノ拘留セラレ而シテ其犯罪ノ禁錮ノ刑ニ当ル可キ時ハ裁判アルニ至ル迄其犯罪被告人ヲ獄舎ニ入レ置ク可シ
第弐百四拾条 右ノ外此法典ノ他ノ成規中ニテ前五条ニ牴触セサルモノハ之ヲ遵守ス可シ
第弐百四拾壱条 犯罪被告人ヲ重罪裁判所ニ移送スル総テノ場合ニ於テハ検事長其重罪公訴状ヲ作ル可シ
重罪公訴状ニハ左ノ諸件ヲ説明ス可シ
第一 重罪公訴ノ基本ヲ為ス犯罪ノ性質
第二 犯罪ノ所為及ヒ刑ヲ重劇ナラシメ又ハ之ヲ減軽セシム可キ総テノ景況
重罪公訴状ニハ其犯罪被告人ヲ指名シ且ツ明白ニ之ヲ指定ス可シ
重罪公訴状ノ末ニハ左ノ縮約文ヲ記ス可シ
故ニ某ハ云々ノ景況ヲ以テ云々ノ故殺、云々ノ盗罪又ハ其他ノ云々ノ重罪ヲ犯シタルノ公訴ヲ受クルモノトス
第弐百四拾弐条 移送ノ裁判書及ヒ重罪公訴状ハ之ヲ重罪被告人ニ送達シテ其総テノ書類ノ写ヲ重罪被告人ニ渡シ置ク可シ
第弐百四拾三条 右ノ送達ノ後二十四時内ニ重罪被告人ヲ収監場ヨリ其之ヲ裁判ス可キ裁判所ニ設ケアル拘留場ニ移ス可シ
第弐百四拾四条 若シ重罪被告人ヲ召捕フルコトヲ得ス又ハ其出席セサル時ハ以下本編第四巻第二章ニ規定シタル如ク其重罪被告人ニ対シテ重罪缺席ノ処分ヲ為ス可シ
第弐百四拾五条 検事長ハ重罪裁判所ニ移スノ裁判ヲ其重罪被告人住所ノ地ノ知レタル時ハ其地ノ邑長ト犯罪ヲ行ヒタル地ノ邑長トニ通知ス可シ
第弐百四拾六条 控訴裁判所ニ於テ重罪裁判所ニ移送セサル旨ヲ決セラレタル犯罪被告人ハ最早同一ノ所為ノ為メニ重罪裁判所ニ送致スルコトヲ得ス但シ更ニ新タナル犯罪ノ徴憑ノ出テ来リタル時ハ格別ナリトス
第弐百四拾七条 控訴裁判所ノ調査ニ附スルコトヲ得サリシモノニシテ其裁判所ノ太タ微弱ナリト為シタル証拠ヲ鞏固ナラシメ若クハ事実ヲ顕ハスニ有益ナル新タナル表明ヲ其所為ニ附与ス可キ性質ノモノタル証人ノ申述書、証拠物及ヒ調書ハ新タナル犯罪ノ徴憑ト看做ス可シ
第弐百四拾八条 右ノ場合ニ於テハ司法警察官吏又ハ予審裁判官ヨリ猶予ナク其証拠物及ヒ犯罪徴憑書ノ写ヲ控訴裁判所ノ検事長ニ差送ル可ク而シテ重罪課長ハ検事長ノ請求ニ依リ検察官ノ訴ヲ以テ前ニ定メタル所ニ従ヒ更ニ再ヒ予審ヲ行フ可キ裁判官ヲ指示ス可シ
然レトモ予審裁判官ハ別段ノ理由アルニ於テハ新タナル犯罪ノ徴憑ニ依リ其徴憑書ヲ検事長ニ送ラサル前ニ既ニ第二百二十九条ノ成規ニ従ヒ釈放ヲ得タル犯罪被告人ニ対シテ勾留状ヲ発スルコトヲ得可シ
第弐百四拾九条 検事ハ其起リタル総テノ重罪事件、懲治警察事件又ハ単一ナル警察事件ノ通知書ヲ八日毎ニ検事長ニ送ル可シ
第弐百五拾条 若シ懲治警察ノ訴又ハ単一ナル警察ノ訴ノ通知中ニ付キ検事長ニ於テ更ニ重劇ノ性質アルモノヲ見出シタル時ハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ唯十五日内ニ証拠物ノ差出ヲ命令スルコトヲ得可ク然ル後検事長ハ其証拠物ヲ受取リタル時ヨリ更ニ十五日ノ期限内ニ其相当ナリト思考スル所ノ請求ヲ為シ又裁判所ニ於テハ三日ノ期限内ニ其相当ノ命令ヲ為ス可キモノトス
○第弐章 重罪裁判所ノ組成
第弐百五拾壱条 控訴裁判所ヨリ移送シタル各人ヲ裁判スル為メ各州毎ニ重罪裁判所ヲ設ク可シ
第弐百五拾弐条 控訴裁判所々在ノ各州ニ於テハ其裁判所ノ裁判官三名ニテ重罪裁判所ヲ開設ス可シ但シ其中ノ一名ハ裁判所長タル可キモノトス
検察官ノ職務ハ検事長若クハ代言人長一名若クハ検事長ノ代職一名ニ於テ之ヲ履行ス可シ
控訴裁判所ノ書記ハ重罪裁判所ニ於テ自カラ其職務ヲ執行シ又ハ誓ヲ為シタル手伝役一名ヲシテ其職務ヲ執行セシム可シ
第弐百五拾三条 其他ノ各州ニ於テハ重罪裁判所ヲ左ノ如クニ組成ス可シ
第一 特ニ委任セラレタル控訴裁判所ノ裁判官一名但シ此裁判官ハ重罪裁判所長タル可キモノトス
第二 控訴裁判所ニ於テ特ニ其裁判官ヲ委任スルコトヲ適当ナリト思考シタル時ハ其裁判所ノ裁判官中ヨリ撰ミタル裁判官二名若クハ重罪裁判所ヲ設クル地ノ始審裁判所長又ハ其裁判官中ヨリ撰ミタル裁判官二名
第三 始審裁判所ノ検事又ハ其代職中一名但シ第二百六十五条、第二百七十一条、第二百八十四条ニ記シタル成規ト相触ルヽコトナカル可シ
第四 始審裁判所ノ書記又ハ誓ヲ為シタル其手伝役一名
重罪裁判所ヲ設クル地ノ始審裁判所長又ハ裁判官中ニテ重罪裁判所ヲ組成スル為メニ招喚セラル可キ者ハ控訴裁判所長予メ検事長ノ意見ヲ聴キタル上ニテ之ヲ指定ス可シ
其指定ハ千八百十年七月六日ノ告令書第七十九条及ヒ第八十条ニ定メタル方法ニ従ヒ其期限内ニ之ヲ為シ及ヒ之ヲ公布ス可シ
重罪裁判所ノ会議開始ノ日ヨリ後ハ其裁判所長ニ於テ、正当ニ差支アル補佐官ノ引易ヲ設備ス可ク若シ又別段ノ理由アル時ハ補充ノ補佐官ヲ指定ス可シ
第弐百五拾四条
第弐百五拾五条
第弐百五拾六条
第弐百五拾七条 重罪裁判所ニ移ス事ニ付キ発言ヲ為シタル控訴裁判所ノ裁判官ハ其同一ノ事件ニ於テハ重罪裁判所ノ上席ヲ為スコトヲ得ス又重罪裁判所長ノ補佐ヲ為スコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効タル可シ
予審裁判官ニ付テモ亦之ト同一タル可シ
第弐百五拾八条 重罪裁判所ハ通常各州ノ首地ニ於テ之ヲ設ク可シ○然レトモ控訴裁判所ハ其首地ノ裁判所ヨリ更ニ他ノ裁判所ヲ指定スルコトヲ得可シ
第弐百五拾九条 重罪裁判所ノ開設ハ三月毎ニ之ヲ為ス可シ
若シ事務ノ需要ノ為メニ已ムヲ得サル時ハ更ニ屡々重罪裁判所ヲ開設スルコトヲ得可シ
第弐百六拾条 重罪裁判所ヲ開始ス可キ日ハ重罪裁判所長之ヲ定ム可シ○重罪裁判所ハ其開始ノ時ニ於テ裁判シ得可キ景状ニ至リタル総テ重罪ノ訴ヲ其裁判所ニ申告シタル後ニ非サレハ之ヲ閉ツ可カラス
第弐百六拾壱条 重罪裁判所ノ開始ノ後ニ至リテ拘留場ニ入リタル重罪被告人ハ検事長ノ請求アリテ重罪被告人ノ承諾シ且ツ裁判所長ノ命令アル時ニ非サレハ其重罪裁判所ニ於テ之ヲ裁判スルコトヲ得ス○此場合ニ於テハ検事長及ヒ重罪被告人ハ重罪裁判所ニ移送スルノ裁判ニ対シテ無効ヲ上訴スルノ権能ヲ放棄シタルモノト看做ス可シ
第弐百六拾弐条 重罪裁判所ノ裁判ハ破毀ヲ求ムルノ方法ニ依リ且ツ法律上ニ定メタル法式ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
第弐百六拾三条 若シ此法典第三百八十九条ニ拠リ陪審員ニ為シタル送付ノ後重罪裁判所長ノ其職務ヲ履行スル能ハサル事アル時ハ控訴裁判所ノ他ノ裁判官ニシテ右裁判所長ヲ補佐スル為メニ撰任セラレ又ハ委任セラレタル者ノ中最先任ノ裁判官之ニ代ハル可ク若シ又控訴裁判所ノ裁判官ニシテ補佐官タル者アラサル時ハ始審裁判所長之ニ代ハル可シ
第弐百六拾四条 控訴裁判所ノ裁判官ノ不在又ハ総テ其他ノ差支ノ場合ニ於テハ同裁判所中ノ他ノ裁判官之ニ代ハル可ク若シ其アラサル時ハ始審裁判官之ニ代ハル可シ又始審裁判官ハ其補役之ニ代ハル可キモノトス
見習裁判官ニシテ現ニ出席シ且ツ必要ナル年齢ニ達シタル者ハ右ノ代理ニ付キ其受任ノ順序ニ従ヒ始審裁判官ト抗競ス可シ
第弐百六拾五条 検事長ハ現ニ出席シタル時ト雖モ自己ノ職務ヲ其代職中ノ一名ニ委任スルコトヲ得可シ
右ノ成規ハ控訴裁判所及ヒ重罪裁判所ニ共通ノモノトス
○第壱款 裁判所長ノ職務
第弐百六拾六条 裁判所長ハ左ノ諸件ヲ委任セラルヽモノトス
第一 重罪被告人ノ拘留場ニ到着シタル時ニ於テ其申立ヲ聴ク事
第二 陪審員ヲ招集シテ之ヲ抽籤スル事
裁判所長ハ右ノ職務ヲ裁判官中ノ一名ニ委任スルコトヲ得可シ
第弐百六拾七条 裁判所長ハ右ノ外陪審員ノ其職務ヲ執行スルニ当リテ之ヲ指令シ、陪審員ノ評議ス可キ事件ヲ之ニ説明シ又然ノミナラス陪審員ニ其本分ヲ心附ケ、総テノ予審ニ上席シ、発言セント求ムル各人ノ間ニ於テ其順序ヲ定ムル事ヲ委任セラルヽモノトス
裁判所長ハ審問席ノ警察権ヲ有スルモノトス
第弐百六拾八条 裁判所長ハ事実ヲ発見スルニ有益ナリト思考スル所ノ諸件ヲ己レ自カラ行フコトヲ得可キ無限ノ権力ヲ授与セラレ而シテ其名誉ト本心トニ従ヒ事実ヲ顕ハスコトヲ助クル為メニ尽力励勉ス可キ旨ヲ法律上ヨリ委任セラルヽモノトス
第弐百六拾九条 裁判所長ハ弁論ノ進行中ニ総テノ人ヲ仮令勾引状ヲ以テスルモ招喚シテ其申立ヲ聴キ又ハ重罪被告人若クハ各証人ノ審問席ニ於テ為シタル新タナル表明ニ従ヒ其争ヒアル所為ヲ明瞭ナラシムルヲ得可シト思ハルヽ所ノ総テ新タナル証拠物ヲ差出サシムルコトヲ得可シ
右ノ如クニ招喚セラレタル各証人ハ誓ヲ為スコトナク而シテ其申述ハ参照件ノミト看做ス可シ
第弐百七拾条 裁判所長ハ其成果ヲシテ更ニ正確ナラシムルノ望ナク徒ラニ弁論ヲ長引カシム可キ諸件ヲ棄却セサル可カラス
○第弐款 控訴裁判所ニ於ケル検事長ノ職務
第弐百七拾壱条 控訴裁判所ノ検事長ハ本巻第一章ニ定メタル法式ニ従ヒ重罪裁判所ニ移サレタル各人ノ罪ヲ自カラ訴ヘ若クハ其代職ヲシテ之ヲ訴ヘシム可シ○其検事長ハ其他ノ重罪ノ訴ヲ裁判所ニ申告スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効タル可ク且ツ別段ノ理由アル時ハ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ受ク可シ
第弐百七拾弐条 検事長又ハ其代職ノ証拠物ヲ受取リタル時ハ直チニ重罪裁判所開始ノ時期ニ於テ弁論ヲ始ムルコトヲ得セシムル為メ予備ノ所為ヲ行ヒ且ツ諸事ヲ整理スルニ付キ総テ其注意ヲ為ス可シ
第弐百七拾三条 検事長ハ弁論ニ立会ヒ刑ノ適用ヲ請求ス可ク又裁判宣告ノ席ニ出ツ可シ
第弐百七拾四条 検事長ハ職権上ヨリ若クハ司法卿ノ命令ニ依リ其知ル所ノ犯罪ヲ訴フ可キ旨ヲ検事ニ委任スルモノトス
第弐百七拾五条 検事長ハ控訴裁判所ヨリ若クハ官吏ヨリ若クハ各人民ヨリ直接ニ己レニ差出ス所ノ告発状及ヒ告訴状ヲ受取リテ之ヲ簿冊ニ記ス可シ
検事長ハ右ノ告発状及ヒ告訴状ヲ検事ニ送付スルモノトス
第弐百七拾六条 検事長ハ法律ノ名ヲ以テ其有益ナリト思考スル所ノ総テノ請求ヲ為シ又裁判所ハ其証書ヲ検事長ニ附与シテ之ヲ評議ス可キモノトス
第弐百七拾七条 検事長ノ請求書ハ検事長之ニ署名セサル可カラス又弁論ノ進行中ニ為ス所ノ請求ハ書記之ヲ調書ニ書留メテ検事長亦之ニ署名ス可シ而シテ又右ノ請求ニ付キ為ス所ノ総テノ裁決書ハ上席シタル裁判官ト書記トニ於テ之ニ署名ス可キモノトス
第弐百七拾八条 若シ裁判所ニ於テ検事長ノ請求ヲ聞届ケサル時ハ之レカ為メニ予審ヲモ又裁判ヲモ差止ムルコトヲ得ス又之ヲ停止スルコトヲ得ス但シ裁判ノ後ニ至リ別段ノ理由アル時ハ検事長ヨリ破毀ヲ得ント上告スルコトヲ得可シ
第弐百七拾九条 総テノ司法警察官吏ハ勿論予審裁判官ト雖モ検事長ノ監視ヲ受クルモノトス
此法典第九条ニ従ヒ仮令行政上ノモノタリトモ其職務ノ為メ法律上ニテ司法警察ノ或ル所為ヲ行フコトニ招喚セラレタル各人ハ此関係ノミニ付キ右ニ同シキ監視ヲ受クルモノトス
第弐百八拾条 司法警察官吏及ヒ予審裁判官ノ懈怠ノ場合ニ於テハ検事長ヨリ之ニ告戒ヲ為ス可シ但シ其告戒ハ検事長特設ノ簿冊ニ之ヲ記載ス可キモノトス
第弐百八拾壱条 再犯ノ場合ニ於テハ検事長ヨリ右ノ各員ヲ裁判所ニ告発ス可シ
検事長ハ裁判所ノ許可ヲ以テ右ノ各員ヲ裁判官会議室ニ呼出サシム可シ
裁判所ハ右ノ各員ニ向後更ニ謹慎ナル可キ旨ヲ命令シ且ツ其呼出ノ費用ト裁判書ノ写取及ヒ送達ノ費用トヲ償還ス可キ旨ヲ言渡ス可シ
第弐百八拾弐条 若シ右ノ官吏カ如何ナル事件ノ為メタルヲ問ハス簿冊ニ記載シタル告戒ノ日ヨリ起算シテ一年ヲ経サル前ニ更ニ再ヒ譴責セラルル時ハ再犯ナリトス
第弐百八拾三条 検事及ヒ裁判所長カ司法警察官又ハ予審裁判官ノ職務ヲ履行スルコトヲ許サルヽ総テノ場合ニ於テハ此等ノ各員其各自己レノ職権ニ帰セラレタル職務ヲ其犯罪ノ地ノ郡又ハ然ノミナラス其地ニ接近シタル郡ノ検事、予審裁判官及ヒ治安裁判官ニ委付スルコトヲ得可シ但シ犯罪被告人ニ対シテ勾引状、勾留状、収監状ヲ交付スルノ権力ハ之ヲ委付スルコトヲ得サルモノトス
○第三款 重罪ニ於ケル検事ノ職務
第弐百八拾四条 第二百五十三条ニ記シタル重罪ニ於ケル検事ハ控訴裁判所々在ノ州ヲ除キ其他ノ各州ニ於テハ重罪裁判所ニ於テ検事長ニ代ハル可シ但シ検事長ハ何時ニ限ラス自己ノ職務ヲ執行スル為メ自カラ其重罪裁判所ニ赴クコトヲ得ルノ権能ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
第弐百八拾五条 其代職ハ州ノ首地ニ居住ス可シ
第弐百八拾六条 若シ首地ヨリ更ニ他ノ都府ニ於テ重罪裁判所ヲ設クル時ハ右ノ代職其都府ニ赴ク可シ
第弐百八拾七条 重罪ニ於ケル検事ハ亦懲治警察控訴ノ予審及ヒ裁判ニ於テ検察官ノ職務ヲ履行ス可シ
第弐百八拾八条 若シ重罪ニ於ケル検事ニ一時差支アル場合ニ於テハ首地ノ始審裁判所ニ於ケル検事之ニ代ハル可シ
第弐百八拾九条 重罪ニ於ケル検事ハ其州ノ司法警察官吏ヲ監視ス可シ
第弐百九拾条 重罪ニ於ケル検事ハ重罪ノ事項、懲治警察ノ事項及ヒ単一ナル警察ノ事項ニ於ケル其州ノ裁判上ノ景状書ヲ三月毎ニ一回検事長ニ差出シ又其請求ヲ受クル時ハ更ニ数回之ヲ差出ス可シ
○第三章 重罪裁判所ニ於ケル訴ノ手続
第弐百九拾壱条 重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告シタル時若シ其訴ヲ控訴裁判所々在ノ地ニ於テ裁判ス可カラサル場合ニ於テハ検事長ノ命令ヲ以テ其訴ノ書類ヲ二十四時内ニ其州ノ首地ノ始審裁判所ノ書記局又ハ指定セラルヽコトアリタル始審裁判所ノ書記局ニ送ル可シ
如何ナル場合ニ於テモ予審裁判所ノ書記局ニ納メ置キタル有罪ノ証拠物又ハ控訴裁判所ノ書記局ニ差出シタル有罪ノ証拠物ヲ右ト同一ノ期限内ニ其訴ノ書類ヲ差送ル可キ書記局ニ納メテ相併合ス可シ
第弐百九拾弐条 右ノ二十四時ハ重罪裁判所ニ移送スルノ裁判書ヲ重罪被告人ニ送達シタル時ヨリ之ヲ起算ス可シ
重罪被告人ノ若シ収監セラレタル時ハ右ト同一ノ期限内ニ重罪裁判所ヲ設ク可キ地ノ拘留場ニ送ラル可シ
第弐百九拾三条 証拠物ヲ書記局ニ差出シ且ツ重罪被告人ヲ拘留場ニ送リ届ケタル後遅クトモ二十四時内ニ重罪裁判所長又ハ其代理ヲ委任セラレタル裁判官ニ於テ右重罪被告人ヲ訊問ス可シ
第弐百九拾四条 重罪被告人ハ其弁護ニ於テ己レヲ補助スル為メ代弁人ヲ撰ミタルヤ否ヲ申述ス可キノ催促ヲ受ケ若シ之ヲ撰マサル時ハ裁判官ヨリ其重罪被告人ノ為メ即時ニ代弁人一名ヲ指定ス可シ若シ之ニ違フ時ハ其後ニ為シタル諸件ハ総テ無効ナリトス
若シ重罪被告人ノ代弁人ヲ撰ム時ハ右ノ指定ヲ無効ノモノトシ而シテ其訴ノ手続ノ無効ヲ宣告ス可カラス
第弐百九拾五条 重罪被告人ノ代弁人ハ控訴裁判所又ハ其管轄地内ノ代言人又ハ代書人中ヨリスルニ非サレハ其重罪被告人ニ於テ之ヲ撰ミ又ハ裁判官ヨリ之ヲ指定スルコトヲ得ス但シ其重罪被告人カ重罪裁判所長ヨリ自己ノ血属親又ハ朋友中ノ一名ヲ代弁人ト為スノ許可ヲ得タル時ハ格別ナリトス
第弐百九拾六条 裁判官ハ右ノ外若シ重罪被告人ノ無効ニ於ケル訟求ヲ為ス可キノ道理アリト思考スル場合ニ於テハ次キノ五日内ニ其申述ヲ為ス可ク其期限ノ後ニ至リテハ最早受理セラレサル旨ヲ其重罪被告人ニ告知ス可シ
本条及ヒ前二条ノ執行ハ調書ヲ以テ之ヲ証明シ而シテ其調書ハ重罪被告人、裁判官及ヒ書記ニ於テ之ニ署名ス可シ若シ重罪被告人ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ調書ニ其旨ヲ記載ス可シ
第弐百九拾七条 若シ重罪被告人ノ前条ニ従ヒ告知セラレサル時ハ其緘黙ノ為メニ無効ヲ蓋蔽ス可カラスシテ其重罪被告人ノ権利ヲ保存ス可シ但シ其重罪被告人ハ確定ノ裁判ノ後ニ至リテ其権利ヲ伸暢スルコトヲ得可キモノトス
第弐百九拾八条 検事長ハ訊問ヨリ起算シテ右ニ同シキ期限内ニ其申述ヲ為ス可ク若シ然ラサル時ハ第二百九十六条ニ記載シタル失権ヲ受クヘシ
第弐百九拾九条 無効ニ於ケル訟求ハ左ニ記スル四箇ノ場合ニ於テ移送ノ裁判ニ対スルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第一 管轄違ノ原由ノ為メ
第二 法律上ニテ其所為ニ重罪ノ名称ヲ附セサル時
第三 検察官ノ申述ヲ聴カサリシ時
第四 若シ法律上ニ定メタル員数ノ裁判官ニ於テ其裁判ヲ為サヽリシ時
第三百条 其申述ハ書記局ニ之ヲ為サヽル可カラス
書記ノ其申述ヲ受ケタル後直チニ裁判書ノ副本ヲ控訴裁判所ノ検事長ヨリ大審院ノ検事長ニ送付シ而シテ大審院ニ於テハ総テノ事件ヲ止息シテ宣告ス可キモノトス
第三百壱条 無効ニ於ケル訟求ニ拘ハラス予審ハ弁論ヲ除キテ其前ノ手続ニ至ル迄之ヲ継続ス可シ
然レトモ若シ第二百九十六条ニ定メタル法式ヲ履行シ及ヒ其期限ノ終リシ後ニ右ノ訟求ヲ為シタル時ハ弁論ノ開始及ヒ裁判ニ取掛ル可シ○其無効ニ於ケル訟求及ヒ其訟求ヲ起スノ基本タル憑拠ハ重罪裁判所ノ確定ノ裁判アリシ後ニ非サレハ大審院ニ之ヲ附ス可カラス
原由ノ如何ヲ問ハス法律上ノ期限ノ終リシ後若クハ陪審抽籤ノ後其期限ノ経過中ニ為シタル総テノ上訴ニ付テハ亦右ト同一ナリトス
第三百弐条 代弁人ハ重罪被告人ノ訊問ノ後之ト面談スルコトヲ得可シ
代弁人ハ亦総テノ証拠物ヲ査視スルコトヲ得可シ但シ之ヲ移動スルコトヲ得ス又予審ヲ遅延スルコトヲ得サルモノトス
第三百三条 若シ新タナル証人ノ申述ヲ聴ク可キ時其証人ノ重罪裁判所設置ノ地外ニ居住スルニ於テハ裁判所長又ハ之ニ代ハレル裁判官ヨリ右証人ノ証拠申述ヲ聴カシムル為メ其居住スル郡又ハ然ノミナラス更ニ他ノ郡ノ予審裁判官ヲ委任スルコトヲ得可シ而シテ其予審裁判官ハ証拠ノ申述ヲ聴キタル後其申述書ニ封緘シテ之ヲ重罪裁判所ニ於テ職務ヲ執行ス可キ書記ニ差送ル可シ
第三百四条 裁判所長又ハ裁判所長ヨリ委任セラレタル裁判官ノ呼出ニ従ヒ出席セス而シテ其正当ノ差支アリシ旨ヲ証明セサル証人又ハ其証拠ノ申述ヲ為スコトヲ否拒スル証人ハ重罪裁判所ニ於テ裁判ヲ受ケ第八十条ニ従ヒ罰セラル可シ
第三百五条 重罪被告人ノ代弁人ハ其弁護ノ為メニ有益ナリト思考スル所ノ其訴ノ証拠物ノ写ヲ自己ノ費用ニテ収取シ又ハ収取セシムルコトヲ得可シ
重罪被告人ノ員数ノ如何ヲ問ハス又其場合ノ如何ヲ問ハス其重罪被告人ニハ犯罪ヲ証明スル調書及ヒ証人ノ申述書ノ写一通ノミヲ無費ニテ交付ス可キモノトス
裁判所長、裁判官及ヒ検事長ハ本条ノ執行ヲ監視ス可キモノトス
第三百六条 若シ検事長又ハ重罪被告人ニ於テ其事件ヲ陪審ノ第一回ノ集会ニ申告セサル可キ旨ヲ訟求スル為メノ理由アル時ハ右ノ各員ヨリ延期ノ請願書ヲ重罪裁判所長ニ差出ス可シ
裁判所長ハ右ノ延期ヲ許ルス可キヤ否ヲ決定ス可シ又裁判所長ハ職権上ヨリ延期スルコトヲ得可キモノトス
第三百七条 若シ同一ノ犯罪ノ為メ重罪被告人数名ニ対シテ数箇ノ重罪公訴状ヲ作リタル時ハ検事長ヨリ其併合ヲ請求スルコトヲ得可ク又然ノミナラス裁判所長ハ職権上ヨリ其併合ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百八条 若シ一箇ノ重罪公訴状ニ相牽連セサル数箇ノ犯罪ヲ記載シタル時ハ検事長ヨリ現時其犯罪中ノ一箇又ハ其中ノ或者ノミニ付キ重罪被告人ヲ裁判ニ付ス可キ旨ヲ請求スルコトヲ得可ク又裁判所長ハ職権上ヨリ右ノ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百九条 重罪裁判所開始ノ為メニ定メタル日ニ至リ裁判官列席ノ上、陪審員十二名ハ抽籤ニテ指定セラレタル順序ニ従ヒ重罪被告人ノ為メニ設ケタル席ト相対シテ公衆、関係各人及ヒ各証人ヨリ離レタル席ニ列坐ス可シ
○第四章 訊問、裁判及ヒ執行
○第壱節 訊問
第三百拾条 重罪被告人ハ逃走スルヲ防ク為メ監守人ニ押送セラルヽノミニテ束縛ヲ受クルコトナク裁判所ニ出席ス可シ○裁判所長ハ重罪被告人ニ其姓名、年齢、職業、居所及ヒ出産ノ地ヲ問フ可シ
第三百拾壱条 裁判所長ハ重罪被告人ノ代弁人ニ其本心ニ反キ及ヒ法律ニ対スル尊敬ニ反キテ何事ヲモ言フコトヲ得ス且ツ礼節謙譲ヲ以テ発言セサル可カラサル旨ヲ告ク可シ
第三百拾弐条 裁判所長ハ帽ヲ脱シテ起立シタル陪審員ニ向ヒ左ノ演説ヲ為ス可シ
汝等ハ重罪被告人某ニ対シテ申告セラレタル犯罪ノ徴憑ヲ極メテ懇切ニ注意シテ調査スル事、重罪被告人ノ利益ヲモ又其重罪ヲ訴フル社会ノ利益ヲモ害セサル事、汝等ノ決断ヲ為シタル後ニ至ル迄ハ何人ヲモ接見セサル事、怨恨仇嫌ノ情ヲモ畏惧愛憐ノ情ヲモ挟マサル事、犯罪ノ徴憑ト弁護ノ憑拠トニ拠リ汝等ノ本心及ヒ汝等ノ真誠ナル心証ニ従ヒ正直自由ノ人ニ適スル公平確実ノ意ヲ以テ決定スル事ヲ神ト人トニ対シテ誓約ス可シ
陪審員ハ裁判所長ヨリ各自其姓名ヲ呼ハレタル上、手ヲ挙ケテ余之ヲ誓フト答フ可シ若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第三百拾三条 其後直チニ裁判所長ハ重罪被告人ニ其将サニ聴ク可キ所ノモノニ注意ス可キ旨ヲ告ク可シ
裁判所長ハ重罪裁判所ニ移送スル旨ヲ記シタル控訴裁判所ノ裁判書ト重罪公訴状トヲ朗読ス可キ旨ヲ書記ニ命令ス可シ
書記ハ高声ニテ其朗読ヲ為ス可シ
第三百拾四条 其朗読ノ後裁判所長ハ重罪公訴状中ニ記載シタル所ノモノヲ重罪被告人ニ心附ケ而シテ其重罪被告人ニ向ヒ是レ汝ノ重罪ヲ訴ヘラレタル所ノモノナリ又汝ハ汝ニ対シテ差出サレタル犯罪ノ徴憑ヲ聴ク可シト述フ可シ
第三百拾五条 検事長ハ重罪公訴ノ旨趣ヲ説明シ然ル後自己ノ請求ニ依リ若クハ民事原告人或ハ重罪被告人ノ請求ニ依リ其申述ヲ聴ク可キ各証人ノ姓名表ヲ差出ス可シ
其姓名表ハ書記高声ニテ之ヲ朗読ス可シ
其姓名表ニハ証人訊問ヨリ少クトモ二十四時前ニ検事長又ハ民事原告人ヨリ重罪被告人ニ其姓名、職業、居住ヲ通知シタル証人又ハ重罪被告人ヨリ検事長ニ右ノ諸件ヲ通知シタル証人ノミヲ記ス可シ但シ第二百六十九条ニ依リ裁判所長ニ附与シタル権能ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
故ニ重罪被告人及ヒ検事長ハ通知ノ証書ニ指示セラレス又ハ明白ニ指定セラレサル証人ノ訊問ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ
裁判所ハ其故障ノ申立ニ付キ直チニ裁定ヲ為ス可シ
第三百拾六条 裁判所ハ各証人ニ其特ニ設ケアル房室内ニ退ク可キ旨ヲ命令ス可シ○証人ハ其証拠ヲ申述スル為メノ外其室外ニ出ツ可カラス○裁判所長ハ若シ已ムヲ得サルニ於テハ証人ノ其証拠ヲ申述スル前ニ犯罪ノ事及ヒ重罪被告人ノ事ニ付キ互ニ商議スルコトヲ防止スル為メノ予防ヲ為ス可シ
第三百拾七条 各証人ハ検事長ノ定メタル順序ヲ以テ各自別々ニ其証拠ヲ申述ス可シ○各証人ハ証拠ヲ申述スル前ニ怨恨畏惧ナク発言シ且ツ遺漏ナク正実ヲ述ヘ正実ノ外述ヘサル可キノ誓ヲ為ス可シ若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
裁判所長ハ各証人ニ其姓名、年齢、職業、住所又ハ居住ヲ問ヒ又重罪公訴状ニ記シタル所為ノ前ヨリ其重罪被告人ヲ知ルヤ又重罪被告人若クハ民事原告人ノ血属親又ハ姻属親タルヤ又如何ナル級ノ血属親又ハ姻属親タルヤヲ問ヒ又重罪被告人若クハ民事原告人ノ使用ヲ受クル者タラサルヤ否ヲ問ヒ此等ノ事ヲ為シタル上、各証人口上ニテ其証拠ヲ申述ス可シ
第三百拾八条 裁判所長ハ証人ノ証拠ノ申述ト其以前ノ申述トノ間ニ存在スルコトアル所ノ増加、変更、差異ヲ書記ヲシテ書留メシム可シ
検事長及ヒ重罪被告人ハ右ノ変更、増加、差異ヲ書留メシムルコトヲ裁判所長ニ請求スルコトヲ得可シ
第三百拾九条 各其証人ノ其証拠ヲ申述シタル後裁判所長ヨリ証人ニ其述フル所ノ事ハ現ニ其席ニ在ル重罪被告人ニ関スルヤヲ問ヒ然ル後重罪被告人ニ其己レニ対シテ述ヘラレタル所ノモノニ答弁セント欲スルヤヲ問フ可シ
証人ノ其証拠ヲ申述スル間ハ之ヲ中断スルコトヲ得ス又重罪被告人又ハ其代弁人ハ証人ノ其証拠ヲ申述シタル後裁判所長ヲ経テ之ニ問フコトヲ得可ク且ツ其証人ト其証拠トニ対シテ重罪被告人ノ弁護ノ為メニ有益ナルコトアル可キ諸件ヲ述フルコトヲ得可シ
裁判所長モ亦事実ヲ発見スルニ必要ナリト思考スル総テノ弁明ヲ証人及ヒ重罪被告人ニ問ヒ求ムルコトヲ得可シ
裁判官、検事長及ヒ陪審員ハ裁判所長ニ発言ノ権利ヲ求メタル上ニテ右ニ同シキ権能ヲ有ス可シ○民事原告人ハ裁判所長ヲ経由スルニ非サレハ証人若クハ重罪被告人ニ問ヲ為スコトヲ得ス
第三百弐拾条 各証人ハ其証拠ヲ申述シタル後陪審員ノ其決断ヲ為ス為メ引退クルニ至ル迄聴訟席ニ留マリ居ル可シ但シ裁判所長ヨリ之ニ異ナリタル命令ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第三百弐拾壱条 検事長及ヒ民事原告人ヨリ差出シタル証人ヲ訊問シタル後重罪被告人ハ重罪公訴状ニ記載シタル所為ニ付キ若クハ自己ノ栄誉アリ、正直ニシテ且ツ非難ス可カラサル品行ノ人タル旨ヲ証セシムル為メ其姓名表ヲ送付シ置キタル証人ノ申述ヲ聴カシム可シ
重罪被告人ノ請願ニ依リ為シタル呼出並ニ呼出サレタル証人ノ謝金ヲ得ント請求スル時其謝金ハ重罪被告人ノ費用タル可シ但シ検事長ノ重罪被告人ヨリ指示シタル証人ノ申述ヲ以テ事実ヲ発見スルニ有益ナリト思考スル場合ニ於テハ検事長ニ於テ其請願ニ依リ右ノ証人ヲ呼出サシムルコトヲ得可キモノトス
第三百弐拾弐条 左ノ各人ノ証拠ノ申述ハ之ヲ受クルコトヲ得ス
第一 重罪被告人又ハ現ニ出席シテ同一ノ弁論ヲ受クル重罪被告人中一名ノ父母、祖父母又ハ総テ其他ノ尊属親
第二 子、女、孫男、孫女又ハ総テ其他ノ卑属親
第三 兄弟姉妹
第四 右ト同級ノ姻属親
第五 離婚ヲ宣告セラレタル後ト雖モ夫及ヒ婦
第六 其告発ニ付キ法律上ニテ金円ノ褒賞ヲ受クル告発人
然レトモ若シ検事長若クハ民事原告人若クハ重罪被告人ニ於テ右ニ指示シタル各人ノ証拠申述ヲ聴クコトニ付キ故障ヲ申立テサル時ハ其各人ノ証拠申述ヲ聴キタルカ為メニ無効ヲ作為スルコトヲ得サルモノトス
第三百弐拾三条 法律上ニテ金円ノ褒賞ヲ受クル者ニ非サル告発人ハ其証拠ノ申述ヲ聴クコトヲ得可シ然レトモ其告発人タルノ分限ヲ陪審ニ告ク可キモノトス
第三百弐拾四条 検事長又ハ重罪被告人ヨリ差出シタル証人ハ仮令予メ書面ヲ以テ其証拠ヲ申述シタルコトナキ時又ハ呼出ヲ受ケシコトナキ時ト雖モ弁論ニ於テ其証拠ノ申述ヲ聴カル可シ但シ如何ナル場合ニ於テモ其証人カ第三百十五条ニ記シタル姓名表中ニ載セラレシ者タルコトヲ必要トス
第三百弐拾五条 各証人ハ如何ナル者ヨリ差出サレタルヲ問ハス決シテ相互ニ問糾スコトヲ得ス
第三百弐拾六条 重罪被告人ハ各証人ノ証拠ヲ申述シタル後其指定スル所ノ証人ヲ聴訟席ヨリ引退カシメ而シテ又其証人中ノ一名又ハ数名ヲ各自別々ニ若クハ相互ノ面前ニ於テ更ニ再ヒ出席セシメテ之レカ申述ヲ聴ク可キ旨ヲ求ムルコトヲ得可シ
検事長ハ亦之ト同一ノ権能ヲ有スルモノトス
裁判所長モ亦職権上ヨリ右ノ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百弐拾七条 裁判所長ハ証人ノ訊問前又ハ其訊問中又ハ其訊問後ニ重罪被告人一名又ハ数名ヲ引退カシメテ訴ノ或ル景況ニ付キ別々ニ其重罪被告人ヲ訊問スルコトヲ得可シ然レトモ各重罪被告人ニ其不在ノ席ニ於テ為シタル所ノモノ及ヒ其成果タル所ノモノヲ告知シタル後ニ非サレハ更ニ再ヒ総体ノ弁論ニ取掛ラサル様注意ス可キモノトス
第三百弐拾八条 訊問ノ間ニ陪審員、検事長及ヒ裁判官ハ証人ノ申述若クハ重罪被告人ノ弁護ニ於テ其重要ナリト思考スル所ノモノヲ書留ムルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニ弁論ヲ中断セサルコトヲ必要トス
第三百弐拾九条 証人ノ証拠ヲ申述スル間又ハ其後ニ裁判所長ヨリ犯罪ニ関スル証拠物ニシテ有罪ノ証トナル可キ諸件ヲ重罪被告人ニ示サシメ重罪被告人ノ若シ之ヲ認定スルニ於テハ自カラ之ニ答フ可キ旨ヲ要求ス可シ又裁判所長ハ右ノ証拠物ヲ証人ニ示ス可キ時ハ亦之ヲ証人ニ示サシム可キモノトス
第三百三拾条 若シ弁論ノ後ニ証人ノ証拠申述カ詐偽ノモノナリト思ハルル時ハ裁判所長ハ検事長若クハ民事原告人若クハ重罪被告人ノ請求ニ依リ又然ノミナラス職権上ニテ即時ニ其証人ヲ拘留セシムルコトヲ得可シ○検事長ハ右ノ証人ニ関シテハ司法警察官ノ職務ヲ履行ス可ク又裁判所長或ハ裁判所長ヨリ委任セラレタル裁判官一名ハ右ノ証人ニ関シテハ其他ノ場合ニ於テ予審裁判官ノ職権ニ帰セラレタル職務ヲ履行ス可シ
然ル後予審ノ証拠物ヲ控訴裁判所ニ送付シ其裁判所ニ於テ重罪裁判所ニ移ス事ニ付キ裁定ヲ為ス可キモノトス
第三百三拾壱条 前条ノ場合ニ於テハ検事長、民事原告人又ハ重罪被告人ヨリ最近ノ会議ニ其事件ヲ移サント直チニ請求スルコトヲ得可ク又裁判所ハ職権上ニテモ右ノ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百三拾弐条 若シ重罪被告人、証人又ハ其中ノ一人カ同一ノ国語又ハ同一ノ土音ヲ用ヒサル場合ニ於テハ裁判所長ヨリ其職権上ニテ少クトモ二十一歳ノ年齢ニ達シタル通弁人一名ヲ撰任ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス又裁判所長ハ其通弁人ヲシテ相異ナレル国語ヲ用フル所ノ各人ノ間ニ於テ通ス可キ言詞ヲ正実ニ訳解ス可キノ誓ヲ為サシム可ク若シ之ニ違フ時ハ亦無効ナリトス
重罪被告人及ヒ検事長ハ通弁人ヲ忌避スルノ理由ヲ附シテ之ヲ忌避スルコトヲ得可シ
裁判所ニ於テハ其裁定ヲ宣告ス可シ
通弁人ハ重罪被告人ノ承諾ニ依ルモ又検事長ノ承諾ニ依ルモ証人、裁判官及ヒ陪審員ノ中ヨリ之ヲ撰択スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第三百三拾三条 若シ重罪被告人カ聾唖者ニシテ且ツ文字ヲ書スルコトヲ知ラサル時ハ裁判所長ノ職権上ニテ其重罪被告人ト応接スルコトニ最モ慣熟シタル者ヲ其通弁人トシテ撰任ス可シ
聾唖者タル証人ニ関シテモ亦右ト同一タル可シ
右ノ外前条ノ成規ヲ執行ス可キモノトス
若シ聾唖者カ文字ヲ書スルコトヲ知ル時ハ書記ニ於テ其聾唖者ニ為ス可キ査問及ヒ注意ヲ書取リテ之ヲ其重罪被告人又ハ証人ニ交付シ其重罪被告人又ハ証人ハ其答詞又ハ申述ヲ書面ニ記シテ差出ス可シ○右ノ諸件ハ書記之ヲ朗読ス可シ
第三百三拾四条 裁判所長ハ若シ主タル重罪被告人アル時ハ其重罪被告人ヨリ始メ重罪被告人数名中ニテ最初ニ弁論ヲ受ク可キ者ヲ定ム可シ
然ル後他ノ重罪被告人各員ニ付キ別段ノ弁論ヲ為ス可キモノトス
第三百三拾五条 証人ノ其証拠ヲ申述シ及ヒ其証拠ノ申述ニ付キ各自申立ヲ為シタル後民事原告人又ハ其代弁人及ヒ検事長ヨリ其申述ヲ為シテ重罪公訴ノ憑拠タル諸件ヲ弁明ス可シ
重罪被告人及ヒ其代弁人ハ之ニ答フルコトヲ得可シ○民事原告人及ヒ検事長ハ更ニ之ニ答フルコトヲ許サルヽモノトス然レトモ重罪被告人又ハ其代弁人ハ常ニ必ス最後ニ発言ヲ為スコトヲ得可シ
然ル後裁判所長ハ弁論ノ終リタル旨ヲ宣告ス可シ
第三百三拾六条 裁判所長ハ弁論ノ終リタル後、重罪公訴及ヒ弁護ノ憑拠ヲ縮約スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
裁判所長ハ陪審員ニ其履行ス可キ職務ヲ心附ケ且ツ以下ニ記スル如クニ問ヲ為ス可シ
第三百三拾七条 重罪公訴状ニ因レル問ハ左ノ詞ヲ以テス可シ
重罪被告人ハ重罪公訴状ノ縮約文中ニ載セタル総テノ景況ヲ以テ云々ノ故殺、云々ノ盗罪又ハ其他云々ノ重罪ヲ犯シタルヤ
第三百三拾八条 若シ弁論ニ依リ重罪公訴状ニ記載セサルモノニシテ罪ヲ重劇ナラシムル一箇又ハ数箇ノ景況ヲ知リ得タル時ハ裁判所長ヨリ左ノ問ヲ附加ス可シ
重罪被告人ハ云々ノ景況ヲ以テ其重罪ヲ行ヒタルヤ
第三百三拾九条 若シ重罪被告人ノ法律上ニ宥恕ノ理由トシテ許サレタル一箇ノ所為ヲ其宥恕ノ理由トシテ申立テタル時ハ裁判所長ヨリ左ノ如キ問ヲ為ス可シ若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
右ノ所為ハ確実ナリヤ
第三百四拾条 若シ重罪被告人ノ十六歳以下ナル時ハ裁判所長ヨリ左ノ問ヲ為ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
重罪被告人ハ是非ノ弁別アリテ行ヒタルヤ
第三百四拾壱条 総テ重罪ノ事項ニ於テハ仮令再犯ノ場合ト雖モ裁判所長ヨリ重罪公訴状及ヒ弁論ニ因レル問ヲ為シタル後若シ陪審ノ多数ニ於テ其有罪ナリト認メラレタル重罪被告人一名又ハ数名ノ為メニ減軽ス可キ景況アリト思フ時ハ左ノ詞ヲ以テ其決断ヲ為サヽル可カラサル旨ヲ陪審ニ告ク可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
多数ニ於テ重罪被告人ノ為メニ減軽ス可キ景況アリトス
然ル後裁判所長ヨリ其問ヲ記シタル書面ヲ陪審ニ宛テ陪審長ニ交付シ且ツ重罪公訴状及ヒ犯罪ヲ証明スル調書ト証人ノ申述書ヲ除クノ外総テ其訴ノ証拠物トヲ之ニ添ユ可シ
裁判所長ハ総テ秘密ノ投票ヲ以テ決議ヲ為サヽル可カラサル旨ヲ陪審ニ告ク可シ○裁判所長ハ重罪被告人ヲ聴訟席ヨリ引退カシム可シ
第三百四拾弐条 陪審員ニ問ヲ為シ且ツ其問ヲ記シタル書面ヲ陪審員ニ交付シタル上ニテ陪審員ハ評議ヲ為ス為メ其室内ニ赴ク可シ
第一番ノ籤ヲ抽キタル陪審員ヲ以テ陪審長ト為シ又ハ其陪審員ノ承諾ノ上陪審全員ノ指定シタル者ヲ以テ陪審長ト為ス可シ
陪審長ハ評議ヲ始ムル前ニ左ノ心得書ヲ陪審員ニ読聞カス可シ但シ其心得書ハ右ノ外大字ニ書シテ陪審室内ノ最モ著明ナル場所ニ貼附ス可キモノトス
法律ハ陪審員ノ心証ノ原因ト為ス憑拠ヲ陪審員ニ問フモノニ非ス又法律ハ陪審員ニ於テ一箇ノ証拠ノ完全ニシテ充分ノモノタルヲ特ニ識別ス可キ規則ヲ陪審員ノ為メニ定ムルモノニ非ス唯法律ハ陪審員ノ静黙沈思シテ自カラ己レニ問ヒ其重罪被告人ニ対シテ差出シタル証拠及ヒ其重罪被告人ノ弁護ノ憑拠カ其弁理心ニ如何ナル感ヲ生セシメタルヤヲ其本心ノ誠実ニ於テ査考ス可キ事ヲ陪審員ノ為メニ定ムルモノトス○法律ハ陪審員ニ向ヒ汝等ハ若干ノ証人ノ証スル所為ハ総テ之ヲ真正ナリト為ス可シト言フニ非ス又汝等ハ云々ノ調書、云々ノ証拠物、若干ノ証人又ハ若干ノ証憑ヨリ成ラサル所ノ証拠ハ総テ充分ノ証アルモノト看做ス可カラスト言フニ非ス法律ハ唯陪審員ノ本分ノ主要タル唯一ノ問トシテ汝等ハ真誠ナル心証ヲ有スルヤト云ヘル問ヲ為スノミ
陪審ノ着眼セサルヲ得サル緊要ノモノハ凡ソ陪審ノ評議ハ重罪公訴状ニ関スルニ依リ陪審ハ只管其重罪公訴状ニ載スル所為及ヒ之ニ附属スル所為ノミニ留意ス可ク然ルニ若シ刑法ノ成規ヲ考ヘテ其為ス可キ所ノ決断カ重罪被告人ニ関シテ生セシムルコトアル可キ効果ヲ思フ時ハ其第一ノ本分ニ背クモノタルニアリ○陪審ノ職務ハ犯罪ノ起訴ヲモ又其懲罰ヲモ目的ト為スモノニ非ス陪審ハ唯重罪被告人ノ其帰セラレタル重罪ヲ犯シタルヤ否ヲ決スル為メニ招喚セラルヽモノタリ
第三百四拾三条 陪審員ハ其決断ヲ為シタル後ニ非サレハ其室ヲ出ルコトヲ得ス
其評議中ハ如何ナル原由ノ為メト雖モ裁判所長ヨリ書面ニ依レル許ヲ得タル上ニ非サレハ其室内ニ入ルコトヲ許サス
裁判所長ハ重罪裁判所詰憲兵ノ長ニ陪審室ノ出入口ヲ監守セシムル特別ノ命令書ヲ附与ス可シ但シ其命令書中ニハ右憲兵長ノ姓名及ヒ其官名ヲ記ス可シ
裁判所ハ違犯シタル陪審員ヲ多クトモ五百「フランク」ノ罰金ニ処スルコトヲ得可シ○総テ其他ノ各人ニシテ右ノ命令ニ違背シタル者又ハ其命令ヲ執行セシメサル者ハ二十四時間禁錮ノ刑ニ処スルコトヲ得可シ
第三百四拾四条 陪審員ハ主タル所為ニ付キ評議ヲ為シ然ル後各箇ノ景況ニ付キ評議ヲ為ス可シ
第三百四拾五条 陪審長ハ第三百三十六条ニ記シタル如クニ為シタル各箇ノ問ヲ逐次朗読シ然ル後其主タル所為及ヒ罪ヲ重劇ナラシムル景況ト罪ヲ減軽ス可キ景況ノ存在トニ付キ秘密ノ投票ヲ以テ決議ヲ為ス可シ
第三百四拾六条 第三百三十九条及ヒ第三百四十条ニ定メタル場合ニ於テ為ス所ノ問ニ付テモ亦右ニ同シク且ツ秘密ノ投票ヲ以テ処分ス可シ
第三百四拾七条 重罪被告人ニ対シ並ニ罪ヲ減軽ス可キ景況ニ付テノ陪審ノ決定ハ多数ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス○陪審ノ決断書ニハ其多数ナルコトヲ証明ス可シト雖モ其可トスル者ノ員数ヲ明示スルコトヲ得サルモノトス若シ右ノ諸件ニ違フ時ハ無効タル可シ
第三百四拾八条 然ル後陪審員ハ再ヒ聴訟席ニ帰リテ更ニ其坐席ニ就ク可シ
裁判所長ハ陪審員ノ評議ノ成果如何ヲ陪審員ニ問フ可シ
陪審長ハ起立シテ其心臓ノ上ニ手ヲ置キテ左ノ如ク述フ可シ
我カ栄誉及ヒ我カ本心ニ於テ神ト人トニ対シテ陪審ノ決断ハ然リ重罪被告人ハ云々ナリ又ハ否重罪被告人ハ云々ナリ
第三百四拾九条 陪審ノ決断書ハ陪審員ノ面前ニ於テ陪審長之ニ署名シ而シテ陪審長ヨリ之ヲ裁判所長ニ交付ス可シ
裁判所長ハ之ニ署名シ且ツ書記ヲシテ之ニ署名セシム可シ
第三百五拾条 陪審ノ決断ハ決シテ之ヲ取消サント訟求スルコトヲ得サルモノトス
第三百五拾壱条
第三百五拾弐条 重罪被告人ノ有罪ナリト認メラレタル場合ニ於テ若シ裁判所ニ於テ陪審員ノ法式ヲ遵守スルト雖モ本案ニ付キ思錯シタリト確信スル時ハ其裁判ヲ延期スル旨ヲ宣告シテ次キノ会議ニ於テ更ニ新タナル陪審ニ附スル為メ其事件ヲ次キノ会議ニ移送ス可シ但シ其取消サレタル決断ニ参加シタル陪審員ハ一人タリトモ其新タナル陪審中ニ加ハルコトヲ得サルモノトス
何人タリトモ右ノ処分ヲ訟求スルノ権利ヲ有セス○裁判所ハ陪審ノ決断ヲ公ケニ宣告シタル後直チニ職権上ノミニテ右ノ処分ヲ命令スルコトヲ得可シ
第二ノ陪審ノ決断ノ後ハ仮令其決断カ第一回ノ決断ニ符合シタル時ト雖モ裁判所ヨリ更ニ再ヒ移送ヲ命令スルコトヲ得ス
第三百五拾三条 訊問及ヒ弁論ノ一度始マリタル上ハ陪審ノ決断ノ後ニ至ル迄間断ナク且ツ如何ナル種類ノモノタルヲ問ハス外人ト接見通信ヲ為スコトナク之ヲ継続ス可シ○裁判所長ハ裁判官、陪審員、証人及ヒ重罪被告人ノ休息ノ為メニ必要ナル時間ノ外其訊問及ヒ弁論ヲ停止スルコトヲ得ス
第三百五拾四条 若シ呼出サレタル証人ノ出席セサル時ハ裁判所ニ於テ姓名表ニ記入シタル最初ノ証人ノ証拠申述ヲ以テ弁論ヲ開始スル前ニ検事長ノ請求ニ依リ右ノ事件ヲ最近ノ会議ニ移送スルコトヲ得可シ
第三百五拾五条 若シ証人ノ出席セサル為メ次キノ会議ニ其事件ヲ移送シタル時ハ凡ソ其事件ヲ裁判セシムルヲ以テ目的ト為ス呼出ノ費用、証書ノ費用、証人旅行ノ費用及ヒ其他ノ費用ハ其証人ノ負任タル可シ而シテ其証人ハ検事長ノ請求ニ依リ次キノ会議ニ弁論ヲ移送スル旨ノ裁判ヲ以テ仮令拘留ノ方法ヲ以テスルモ強テ右ノ費用ヲ償還セシム可キモノトス
其裁判書ニハ右ノ外裁判所ニ於テ其証人ヲ訊問スル為メ公力ヲ以テ之ヲ裁判所ニ送致ス可キ旨ヲ命令ス可シ
然レトモ凡ソ如何ナル場合ニ於テモ出席セサル証人又ハ誓ヲ為ス事若クハ証拠ノ申述ヲ為スコトヲ否拒スル所ノ証人ハ第八十条ニ載セタル刑ヲ言渡サル可シ
第三百五拾六条 其言渡ヲ受ケタル証人ハ自身又ハ其住所ニ其言渡書ノ送達ヲ受ケタル時ヨリ十日内ニ其言渡ニ対シテ故障申立ヲ為スコトヲ得可シ但シ五「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス而シテ其証人ニ正当ノ差支アリ又ハ其証人ニ対シテ宣告シタル罰金ヲ更ニ減ス可キ旨ヲ証スル時ハ其故障申立ヲ受理ス可キモノトス
○第弐節 裁判及ヒ執行
第三百五拾七条 裁判所長ハ重罪被告人ヲ出席セシメ書記ハ其面前ニ於テ陪審ノ決断書ヲ朗読ス可シ
第三百五拾八条 重罪被告人ノ無罪ナリト決断セラレタル時ハ裁判所長ヨリ其重罪ノ公訴ヲ免スル旨ヲ宣告シ且ツ其他ノ原由ノ為メニ拘留セラレサル時ハ之ヲ釈放ス可キ旨ヲ命令ス可シ
然ル後関係各人ノ其相手方ヨリ要求スル損害賠償ニ付キ其拒訴ノ憑拠又ハ其弁護ヲ申立テ且ツ検事長ノ申立ヲ聴キタル後裁判所ニ於テ其各自相互ニ要求スル損害賠償ニ付キ裁定ヲ為ス可シ
然レトモ若シ裁判所ニ於テ適当ナリト思考スル時ハ関係各人ノ申立ヲ聴キ、証拠物ヲ査視シテ審問席ニ其報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任スルコトヲ得可シ但シ関係各人ハ其審問席ニ於テ尚ホ其意見ヲ申立ツルコトヲ得可ク且ツ其審問席ニ於テハ更ニ再ヒ検察官ノ申立ヲ聴ク可キモノトス
放免セラレタル重罪被告人ハ誣告ノ所為ノ為メ其告発者ニ対シテ亦損害賠償ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ然レトモ設置セラレタル官憲ノ各員ハ其職務ノ執行ニ於テ知リ得タリト思フ処ノ犯罪ニ関シテ附与ス可キ通知ノ為メ右ノ如クニ訴ヘラルヽコトナカル可シ但シ別段ノ理由アル時ハ其官憲ノ各員ニ対シテ損害賠償ヲ得ント訟求スルコトヲ得可キモノトス
検事長ハ重罪被告人ノ請求ニ依リ其告発者ヲ知ラシム可キモノトス
第三百五拾九条 重罪被告人ヨリ其告発者又ハ民事原告人ニ対シ若クハ民事原告人ヨリ重罪被告人又ハ刑ヲ言渡サレタル者ニ対シテ為ス所ノ損害賠償ノ訟求ハ重罪裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
民事原告人ハ裁判ノ前ニ其損害賠償ノ訟求ヲ為ス可ク其後ニ至リテハ其訟求ヲ受理ス可カラス
重罪被告人ノ若シ其告発者ヲ知リタル時ハ亦右ト同一ナリトス
重罪被告人ノ裁判ノ後ニシテ会議ノ終ラサル前ニ其告発者ヲ知リタル場合ニ於テハ重罪裁判所ニ其訟求ヲ申告ス可ク若シ然ラサル時ハ失権ヲ受ク可シ若シ又重罪被告人ノ会議ノ終リタル後ニ其告発者ヲ知リタル時ハ民事裁判所ニ其訟求ヲ申告ス可シ
訴ノ関係人タラサル第三ノ人ニ付テハ其第三ノ人ハ民事裁判所ニ申告ス可キモノトス
第三百六拾条 法ニ適シテ放免セラレタル各人ハ最早其同一ノ所為ノ為メニ再ヒ逮捕セラルヽコトナカル可ク又重罪ヲ訴ヘラルヽコトナカル可シ
第三百六拾壱条 若シ弁論中ニ重罪被告人カ証拠物ニ依ルト証人ノ証拠申述ニ依ルトヲ問ハス其他ノ所為ニ付キ訴ヲ受ケタル時ハ裁判所長ニ於テ其重罪被告人ノ重罪ノ公訴ヲ免セラレタル旨ヲ宣告シタル後其重罪被告人ノ更ニ新タナル所為ノ為メニ其罪ヲ訴ヘラル可キ旨ヲ命令ス可シ依テ裁判所長ハ第九十一条ニ定メタル差別ニ従ヒ召喚状又ハ勾引状ヲ受ケタル景状ニ於テ又別段ノ理由アル時ハ収監状ヲ受ケタル景状ニ於テ其重罪被告人ヲ重罪裁判所々在ノ郡ノ予審裁判官ノ面前ニ移送シ更ニ再ヒ予審ヲ受ケシム可シ
然レトモ右ノ成規ハ弁論ノ終ラサル前ニ検察官ニ於テ犯罪ノ訴ノ為メ権利ノ貯存ヲ為シタル場合ニ非サレハ之ヲ執行ス可カラサルモノトス
第三百六拾弐条 若シ重罪被告人ノ有罪ナリト決断セラレタル時ハ検事長ヨリ法律適用ノ為メ裁判所ニ其請求ヲ為ス可シ
民事原告人ハ物件返還及ヒ損害賠償ノ為メ自己ノ請求ヲ為ス可シ
第三百六拾三条 裁判所長ハ重罪被告人ニ自己ノ弁護ノ為メ別ニ申立ツ可キコトナキヤヲ問フ可シ
重罪被告人モ又其代弁人モ最早其所為ノ偽タル旨ヲ弁論スルヲ得ス唯其所為ノ法律上ニテ禁止セラレス又ハ法律上ニ犯罪ノ名称ヲ附セラレス又ハ其所為ノ検事長ヨリ適用ヲ請求シタル刑ニ当ラス又ハ其所為ノ民事原告人ノ為メニ損害賠償ヲ惹起スルモノニ非ス又ハ民事原告人ノ其己レニ受ク可キ損害賠償ノ高ヲ過分ニ申立テタルコトノミヲ弁論スルヲ得可シ
第三百六拾四条 裁判所ハ若シ重罪被告人ノ罪ヲ犯シタリト決断セラレタル所為カ刑事ノ法律上ニ禁止セラレタルモノニ非サル時ハ其重罪被告人ノ不問ヲ宣告ス可シ
第三百六拾五条 若シ其所為ノ禁止セラレタルモノナル時ハ仮令弁論ニ拠リ其所為ノ重罪裁判所ノ管轄内ニアラサルモノタルコトノ知レシ場合ト雖モ裁判所ヨリ法律上ニ定メタル刑ヲ宣告ス可シ
数箇ノ重罪又ハ軽罪ヲ犯シタルノ証アル場合ニ於テハ最モ重キ刑ノミヲ宣告ス可シ
第三百六拾六条 不問ノ場合ニ於テモ放免又ハ刑ヲ言渡シタル場合ニ於ケルカ如ク裁判所ニ於テ民事原告人又ハ重罪被告人ヨリ要求シタル損害賠償ニ付キ裁定ヲ為ス可シ又裁判所ハ其同一ノ裁判書ヲ以テ損害賠償ノ額ヲ算定シ又ハ第三百五十八条ニ記シタル如ク関係人ノ申立ヲ聴キ、証拠物ヲ査視シテ其諸件ニ付キ報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任ス可シ
裁判所ニ於テハ亦其奪取セシ物品ヲ所有者ニ返還ス可キ旨ヲ命令ス可シ
然レトモ若シ刑ノ言渡アリタル時ハ所有者ヨリ其刑ヲ言渡サレタル者ノ破毀ノ為メ一ノ上告ヲ為サスシテ定期ヲ経過セシメタル旨ヲ証明シ又其上告ヲ為シタル時ハ右事件ノ確然終了シタル旨ヲ証明スルニ非サレハ右ノ返還ヲ為ス可カラス
第三百六拾七条 若シ重罪被告人ノ宥恕ス可キモノト決断セラレタル時ハ裁判所ニ於テ刑法ニ従ヒ宣告ス可シ
第三百六拾八条 敗訴トナリタル重罪被告人又ハ民事原告人ハ国ト相手方トニ対シテ費用ヲ言渡サル可シ
陪審ニ附セラレタル事件ニ於テハ敗訴トナラサル民事原告人ハ決シテ費用ヲ負担セサルモノトス
千八百十一年六月十八日ノ告令書ニ拠リ民事原告人ヨリ其費用ノ金高ヲ附託シタル場合ニ於テハ之ヲ其民事原告人ニ返還ス可シ
第三百六拾九条 裁判官ハ低声ニテ評議ヲ為シ及ヒ意見ヲ発ス可ク又之レカ為メ会議室ニ退クコトヲ得可シ然レトモ裁判ハ公衆及ヒ重罪被告人ノ面前ニ於テ裁判所長高声ニ之ヲ宣告ス可シ
裁判所長ハ裁判ヲ宣告スル前ニ其裁判ノ基本タル法律ノ正条ヲ朗読ス可シ
書記ハ裁判書ヲ記シテ其適用セラレタル法律ノ正条ヲ之ニ記入ス可シ若シ之ニ違フ時ハ百「フランク」ノ罰金ニ処セラル可キモノトス
第三百七拾条 裁判書ノ細字正本ハ其裁判ヲ為シタル裁判官之ニ署名ス可シ若シ之ニ違フ時ハ書記ニ対シテ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可ク又別段ノ理由アル時ハ書記ト裁判官トニ対シテ損害賠償ヲ訟求スルコトヲ得可シ
其裁判書ノ細字正本ハ裁判ノ宣告ヨリ二十四時内ニ之ニ署名ス可シ
第三百七拾壱条 裁判所長ハ裁判ヲ宣告シタル後景況ニ従ヒ重罪被告人ニ固志、耐忍ス可キ旨ヲ諭シ又ハ其品行ヲ改ム可キ旨ヲ諭スコトヲ得可シ
裁判所長ハ破毀ノ為メ上告ヲ為シ得可キノ権能ト其権能ノ執行ヲ限ラレタル期限トヲ重罪被告人ニ告ク可シ
第三百七拾弐条 書記ハ其定メラレタル法式ヲ遵守セシ旨ヲ証明スル為メ会席ノ調書ヲ作ル可シ
又タ其調書ニハ重罪被告人ノ答詞ヲモ又証拠申述書中ニ記載シタル所ノモノヲモ記ス可カラス然レトモ証人ノ申述ニ於ケル変更、差異及ヒ矛盾ニ関シテ第三百十八条ヲ執行スル事ト相触ルヽコトナカル可シ
其調書ハ裁判所長及ヒ書記ニ於テ之ニ署名ス可シ但シ其調書ハ予メ之ヲ印刷シ置クコトヲ得サルモノトス
本条ノ成規ハ必ス之ヲ執行ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
若シ調書ヲ作ラス及ヒ前第三項ノ成規ヲ執行セサル時ハ書記ニ対シテ五百「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可シ
第三百七拾三条 刑ヲ言渡サレタル者ハ破毀ヲ得ント上告スル旨ヲ書記局ニ申述スル為メ其裁判ヲ宣告セラレタル日ヨリ後満三日ノ猶予ヲ有ス可シ
検事長ハ之ト同一ノ期限内ニ其裁判ノ破毀ヲ訟求スル旨ヲ書記局ニ申述スルコトヲ得可シ
民事原告人ハ亦右ニ同シキ期限ヲ有スルモノトス然レトモ民事原告人ハ自己ノ民事上ノ利益ニ関スル所定ノミニ付キ上告スルコトヲ得可シ
其三日間ハ重罪裁判所ノ裁判ノ執行ヲ延ハス可ク若シ又破毀ヲ得ント上告シタル時ハ大審院ノ裁判書ヲ収受スルニ至ル迄重罪裁判所ノ裁判ノ執行ヲ延ハス可シ
第三百七拾四条 此法典第四百九条及ヒ第四百十二条ニ定メタル場合ニ於テハ検事長又ハ民事原告人其上告ヲ為ス為メ二十四時間ノ猶予ノミヲ有スルモノトス
第三百七拾五条 刑ノ言渡ハ若シ破毀ヲ得ント上告セサル時ハ第三百七十三条ニ記載シタル期限ヨリ後二十四時内ニ之ヲ執行ス可ク若シ又上告シタル場合ニ於テハ其訟求ヲ棄却スル大審院ノ裁判書ヲ収受シタルヨリ二十四時内ニ之ヲ執行ス可シ
第三百七拾六条 刑ノ言渡ハ検事長ノ命令ニ依テ之ヲ執行ス可シ又検事長ハ之レカ為メ直接ニ公力ノ補助ヲ請求スルノ権利アリトス
第三百七拾七条 若シ刑ヲ言渡サレタル者カ一箇ノ申述ヲ為サント欲スル時ハ其執行ノ地ノ裁判官一名書記ノ補助ヲ以テ其申述ヲ受ク可シ
第三百七拾八条 執行ノ調書ハ書記之ヲ作リテ二十四時内ニ裁判書ノ細字正本ノ末ニ之ヲ登記ス可ク若シ之ニ違フ時ハ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ○其登記書ハ書記之ニ署名シ且ツ書記ハ調書ノ端ニ右ノ諸件ヲ記載ス可ク若シ之ニ違フ時ハ右ト同一ノ刑ニ処セラル可シ○其記載ハ亦之ニ署名ス可ク而シテ右ノ登記書ハ調書ニ同シク証拠ヲ為スモノトス
第三百七拾九条 若シ刑ノ言渡ノ裁判ヲ為ス前ノ弁論中ニ重罪被告人カ証拠物ニ依リ若クハ証人ノ証拠申述ニ依リ其是迄訴ヘラレタルモノヨリ更ニ他ノ重罪ヲ訴ヘラレ而シテ若シ其新タニ顕ハレタル重罪カ初メノ重罪ヨリモ更ニ重劇ノ刑ニ当ル可キ時又ハ其重罪被告人ニ拘留ヲ受ケタル従犯アル時ハ裁判所ヨリ此法典ニ定メタル法式ニ従ヒ其新タナル所為ノ為メ右重罪被告人ノ罪ヲ訴フ可キ旨ヲ命令ス可シ
右二箇ノ場合ニ於テハ検事長其第二ノ訴ニ付キ裁定アルニ至ル迄初メノ処刑ヲ宣告シタル裁判ノ執行ヲ延ハス可キモノトス
第三百八拾条 凡ソ重罪裁判所ニ於テ為シタル裁判書ノ細字正本ハ皆之ヲ本州首地ノ始審裁判所ノ書記局ニ集合シテ之ヲ蔵メ置ク可シ
控訴裁判所々在ノ州ノ重罪裁判所ニ於テ為シタル裁判書ノ細字正本ハ右ノ例外ニシテ其細字正本ハ控訴裁判所ノ書記局ニ蔵メ置ク可シ
○第五章 陪審及ヒ之ヲ組成スル方法
○第壱節 陪審
第三百八拾壱条 何人ニ限ラス満三十歳ニシテ政権及ヒ民権ヲ享有スルニ非サレハ陪審員ノ職務ヲ履行スルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
陪審員ハ選挙会員中ト第三百八十二条ノ第三項以下ニ指定セラレタル各人中トヨリ之ヲ撰ム可シ
第三百八拾弐条 各州ノ州長ハ毎年八月一日ニ二箇ノ部分ニ分チタル姓名表ヲ作ル可シ
其第一ノ部分ハ千八百二十年六月二十九日ノ法律第三条ニ従ヒ之ヲ作ル可ク而シテ其州ノ選挙会員中ニ加ハルニ必要ナル条件ヲ具有スル所ノ各人ヲ包含スルモノトス
其第二ノ部分ハ左ノ各人ヲ包含ス
第一 本州内ニ其現実ノ住所ヲ有シ他ノ州ニ於テ其撰挙権ヲ執行スル選挙人
第二 国王(共和国大統領)ヨリ撰任セラレタルモノニシテ無給ノ職務ヲ執行スル官吏
第三 退隠ニ於ケル陸海軍士官
第四 法学部、理学部、文学部中ノ一部又ハ数部ノ学士及ヒ得業生、医学士、学士館員及ヒ通信員、国王(共和国大統領)ヨリ認メラレタル其他ノ学社ノ社員
第五 職務執行ノ三箇年ニ及ヒタル公証人
退隠ニ於ケル海陸軍ノ士官ハ少クトモ千二百「フランク」ノ退隠料ヲ受ケ且ツ五年以来本州内ニ於テ現実ノ住所ヲ有スル旨ヲ証明シタル後ニ非サレハ総姓名表中ニ記載セラル可カラス
法学部、理学部、文学部中一部ノ得業生ニシテ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於ケル代言人及ヒ代書人ノ表中ニ記入セラレサル者又ハ其免状ヲ得タル本部ニ属スル学科中或者ノ教授ヲ委任セラレサル者ハ十年以来本州内ニ於テ現実ノ住所ヲ有スル旨ヲ証明シタル後ニ非サレハ総姓名表中ニ記載セラル可カラス
其姓名表ノ二箇ノ部分ヲ合シテ八百人ノ人員ヲ包含セサル各州ニ於テハ其姓名表ニ記入セラレサル各人中ニテ最モ多額ノ税金ヲ納ムル者ヨリ組成シタル追加ノ姓名表ヲ以テ右ノ人員ヲ補足ス可シ
第三百八拾三条 陪審員ノ職務ハ各省卿、州長、郡長、裁判官、検事長、検事及ヒ其代職ノ職務ト兼子有ス可カラス
陪審員ノ職務ハ亦或ル法教ノ法教師ノ職務ト兼子有ス可カラス
行政ノ一部分ヲ任セラレタル参議員、行政庁又ハ租税局ニ於ケル国王ノ委員及ヒ七十歳ノ齢ニ達シタル者ハ其請求ニ依リ免セラル可シ
第三百八拾四条 第三百八十二条ニ拠リ作リタル姓名表ハ遅クトモ八月十五日ニ各邑ノ首地ニ之ヲ貼附シ而シテ九月三十日ニ之ヲ終了ス可シ
其印本一通ヲ邑庁、郡庁、州庁ノ書記局ニ納メテ之ヲ保存シ何人ニ限ラス請求スル者ヲシテ査視セシム可シ
姓名表ノ作リ方ニ対シテ為ス所ノ異論ハ千八百十七年二月五日ノ法律第五条及ヒ第六条ニ定メタル方法ニ従ヒ之ヲ裁定ス可シ
其異論ハ之ヲ受クル順序ト日附トニ従ヒ州庁ノ書記長局ニ於テ之ヲ記入ス可シ
其異論ハ単一ナル覚書ニ依リ無費ニテ之ヲ為ス可シ
第三百八拾五条 何人ニ限ラス理由ヲ附シタル裁決書又ハ裁判書ニ拠ルニ非サレハ第三百八十二条ニ定メタル姓名表中ニ加ハルコトヲ止息スルヲ得ス但シ其裁決又ハ裁判ニ対シテ取消ヲ得ントスルノ訟求又ハ控訴ヲ為シタル時ハ停止ノ効力ヲ有スルモノトス
第三百八拾六条 選挙会ヲ招集シタル時ハ第三百八十四条ニ拠リ其前ノ九月三十日ニ終了シタル最後ノ姓名表ノ第一ノ部分ヲ以テ千八百十七年九月五日ノ法律第五条及ヒ千八百二十年六月廿九日ノ法律第三条ニ定メタル姓名表ニ代用ス可キモノトス
此場合ニ於テ州庁ハ総姓名表ヲ公布シタル以来選挙権ヲ執行スル為メニ必要ナリト定メラレタル分限ヲ獲得シ又ハ失ヒタル各人ヲ指示スル所ノ改正表ヲ印刷シテ之ヲ貼附セシム可シ○若シ姓名表終了ノ後二ケ月以上経過シタル時ハ州長ニ於テ其第一ノ部分ヲ改正表ト共ニ更ニ公布シ及ヒ貼附セシム可シ
九月三十日ニ終了シタル姓名表ノ第一ノ部分ニ於テ遺脱セラレ而シテ其公布以前ニ選挙権ヲ獲得シタル各人ノ異論ハ十月一日以前ニ之ヲ為シタルニ非サレハ許容ス可カラサルモノトス
第三百八拾七条 九月三十日ノ後ニ至リ州長ハ第三百八十二条ニ拠リ作リタル総姓名表中ニ就キ自己ノ責任ヲ以テ翌年ノ陪審ノ用ニ供スル為メ一箇ノ姓名表ヲ抜萃ス可シ
其姓名表ハ総姓名表中ノ四分一ヲ以テ之ヲ組成ス可ク而シテ其員数ハ三百名ニ過クルコトヲ得ス但シ「セイヌ」州ニ於テハ格別ニシテ千五百名ヲ以テ其姓名表ヲ組成ス可キモノトス
其姓名表ハ直チニ州長ヨリ司法卿、控訴裁判所長及ヒ検事長ニ之ヲ送付ス可シ
何人ニ限ラス二年引続テ本条ニ定メタル姓名表ニ記載セラル可カラス
第三百八拾八条 重罪裁判所ノ開始ヨリ少クトモ十日以前ニ控訴裁判所長ハ州長ヨリ送付セラレタル姓名表中ニ就キ其会議継続時間ノ陪審員ノ姓名表ヲ組成スル所ノ三十六名ノ人員ヲ抽籤ス可シ
右ノ外控訴裁判所長ハ第三百九十三条ノ第三項ニ記載シタル各人中ヨリ撰ミタル附加ノ陪審員四名ヲ抽籤ス可シ
其抽籤ハ控訴裁判所ノ第一局又ハ休暇局ノ公ケノ審問席ニ於テ之ヲ為ス可シ
第三百八拾九条 姓名表ヲ組成スル各人ニ其姓名表ノ全部ヲ送ルコトナシ然レトモ州長ハ其各人ノ姓名ヲ右姓名表ニ記載シアル旨ヲ証明スル所ノ其抜書ヲ右ノ各人ニ送付ス可キモノトス○其送付ハ姓名表ヲ用フ可キ日ヨリ少クトモ八日以前ニ之ヲ右ノ各人ニ為ス可シ
其姓名表ヲ用フ可キ日ハ右ノ送付書中ニ之ヲ記載ス可シ而シテ又其送付書ニハ指示セラレタル日ニ出席ス可キ旨ノ催促ト若シ其日ニ出席セサル時ハ此法典ニ載スル刑ニ処セラル可キ旨トヲ記ス可キモノトス
若シ本人ニ送付セサルニ於テハ其住所並ニ其地ノ邑長又ハ副職ノ住所ニ其送付ヲ為ス可シ但シ邑長又ハ副職ハ本人ニ之レカ通知ヲ為ス可キモノトス
第三百九拾条 若シ抽籤ニ依リ指定セラレタル四十名ノ人員中ニ於テ第三百八十七条ニ拠リ終了シタル姓名表ノ組成以後ニ死去シ又ハ陪審員ノ職務ヲ執行スルニ必要ナリト定メタル能力ヲ法律上ニテ剥奪セラレ又ハ其職務ト兼子有ス可カラサル役務ヲ受諾シタル者一名又ハ数名アル時ハ裁判所ニ於テ検事長ノ意見ヲ聴キタル後其会席ニ於テ之ニ代ハル可キ者ヲ定ム可シ
其代ハル可キ者ヲ定ムルニ付テハ第三百八十八条ニ定メタル法式ニ従フ可キモノトス
第三百九拾壱条 陪審員ノ姓名表ハ之ヲ作リタル用務ノ後ハ無効ノモノタル可シ
臨時重罪裁判所ヲ開ク場合ノ外ハ第三百八十九条ニ定メタル要求ニ応シタル各陪審員ハ同年内ニ一回ヨリ更ニ多ク第三百八十七条ニ拠リ作リタル姓名表ニ記載セラルヽコトナカル可シ
臨時重罪裁判所ヲ開ク場合ニ於テハ右ノ各陪審員ハ同年内ニ二回ヨリ更ニ多ク右ノ姓名表ニ記載セラルヽコトナカル可シ
重罪裁判所ノ会議ヲ開始スル前ニ其裁判所ニ於テ一時ノ原由ナリト裁判シタル宥恕ヲ許容セシメタル各員ハ右ノ要求ニ応シタルモノト看做ス可カラス
右各員ノ姓名及ヒ一回若クハ二回罰金ヲ言渡サレタル陪審員ノ姓名ハ会議ノ後直チニ控訴裁判所長ニ之ヲ通知シ其裁判所長ハ第三百八十七条ニ拠リ作リタル姓名表ニ右ノ姓名ヲ移シ記ス可キモノトス而シテ若シ同年ノ為メニ為ス可キ抽籤ノ存セサル時ハ右ノ姓名ヲ翌年ノ姓名表ニ加フ可シ
第三百九拾弐条 何人ニ限ラス司法警察官、証人、通弁人、鑑定人又ハ関係人タル者ハ其同一ノ事件ニ於テ陪審員タルコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
○第弐節 陪審ヲ組成シ及ヒ之ヲ招集スルノ方法
第三百九拾三条 各箇ノ事件ノ裁判ノ為メニ指示セラレタル日ニ於テ若シ出席シタル陪審員ノ三十名ニ足ラサル時ハ第三百八十八条ニ記載シタル追加ノ陪審員ヲ以テ其員数ヲ補足ス可シ但シ其追加ノ陪審員ハ右ノ条ニ拠リ組成シタル姓名表ニ於ケル其記入ノ順序ヲ以テ之ヲ招喚ス可キモノトス
若シ其不足ナル場合ニ於テハ裁判所長公ケノ審問席ニ於テ抽籤ノ方法ニ依リ三十名ノ員数ヲ補足ス可キ陪審員ヲ指定ス可シ
其陪審員ハ第三百八十七条ニ拠リ作リタル姓名表ニ記入セラレタル各人中ニテ重罪裁判所設置ノ都府内ニ居住スル者ノ中ヨリ之ヲ撰ム可ク又補助ノ方法ヲ以テ右都府ノ其他ノ住者ニシテ第三百八十二条ニ定メタル姓名表中ニ包含セラレタル者ノ中ヨリ之ヲ撰ム可シ
第三百九十一条ノ成規ハ本条ニ拠リ為ス所ノ引易ニ適用ス可カラサルモノトス
第三百九拾四条 陪審ヲ組成スルニハ陪審員十二名ノ員数ヲ必要トス
若シ重罪ノ訴カ長キ弁論ヲ要ス可キ性質ノモノト思ハルヽ時ハ重罪裁判所ニ於テ陪審員ノ姓名表抽籤ノ前ニ十二名ノ陪審員定数ノ外更ニ其弁論ニ立会フ可キ陪審員一名又ハ二名ヲ抽籤ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
若シ陪審員十二名中ノ一名又ハ二名カ陪審ノ確定ノ決断ニ至ル迄弁論ヲ継続スルニ差支アル場合ニ於テハ陪審補員ヲ以テ之ニ代ハラシム可シ
其引易ハ陪審補員ノ抽籤ニ依リ招喚セラレタル順序ニ従テ之レヲ為ス可シ
第三百九拾五条 陪審員ノ姓名表ハ陪審員十二名ノ表ヲ組成スル為メニ定メタル日ノ前日ニ之ヲ各個ノ重罪被告人ニ送付ス可シ若シ更ニ早ク又ハ更ニ遅ク之ヲ送付シタル時ハ其送付並ニ其後ニ為シタル諸件ヲ無効ナリトス
第三百九拾六条 凡ソ己レニ送付セラレタル呼出状ニ応シテ其役場ニ赴カサル陪審員ハ重罪裁判所ヨリ罰金ヲ言渡サル可シ但シ其罰金ハ左ノ如クナリトス
第一回ニ付テハ五百「フランク」
第二回ニ付テハ一千「フランク」
第三回ニ付テハ一千五百「フランク」
其第三回ノ場合ニ於テハ其陪審員ハ右ノ外将来陪審員タルノ職務ヲ執行スルコト能ハサル旨ヲ宣告セラル可シ○其裁判書ハ右陪審員ノ費用ヲ以テ之ヲ印刷シ及ヒ貼附ス可シ
第三百九拾七条 指示セラレタル日ニ於テ出席スルコト能ハサリシ旨ヲ証明シタル陪審員ハ右ノ例外ナリトス
裁判所ハ右弁解ノ理由ノ有効ナルヤ否ニ付キ宣告ヲ為スヘシ
第三百九拾八条 第三百九十六条ニ載セタル刑ハ一旦其役場ニ赴キタリト雖モ有効ナル弁解ノ理由ナクシテ其職務ノ終ラサル前ニ引退キタル各陪審員ニ適用ス可シ但シ其弁解ノ理由ノ有効ナルヤ否ハ亦裁判所ニ於テ之ヲ裁判ス可キモノトス
第三百九拾九条 各箇ノ事件ニ付キ其指示セラレタル日ニ至リ審問席ヲ開始スル前ニ陪審員並ニ重罪被告人及ヒ検事長ノ面前ニ於テ弁解ノ理由ナキ各陪審員及ヒ免セラレサル各陪審員ノ姓名ヲ呼上ク可シ
其呼上ニ答フル各陪審員ノ姓名票ヲ壷中ニ入ル可シ
各陪審員姓名票ノ壷中ヨリ出ツルニ従ヒ最初ニ重罪被告人又ハ其代弁ヨリ其相当ト思考スル所ノ陪審員ヲ忌避シ然ル後検事長ヨリ之ヲ忌避ス可シ但シ以下ニ明示シタル制限ニ従フ可キモノトス
重罪被告人又ハ其代弁人ニ於テモ又検事長ニ於テモ其忌避ノ理由ヲ説明スルコトヲ得ス
忌避セラレサル陪審員十二名ノ姓名票ノ壷中ヨリ出テタル時ニ至リ決断ヲ為ス陪審ヲ組成スルモノトス
第四百条 重罪被告人及ヒ検事長ヨリ為シ得ル所ノ忌避ハ陪審員十二名ノ姓名票ノミノ残ル時ニ至リテ之ヲ止ム可シ
第四百壱条 重罪被告人及ヒ検事長ハ互ニ同数ノ忌避ヲ行フコトヲ得可シ然レトモ若シ陪審員ノ数ノ奇数ナル時ハ重罪被告人ニ於テ検事長ヨリモ更ニ一名多数ノ忌避ヲ行フコトヲ得可キモノトス
第四百弐条 若シ重罪被告人ノ数名アル時ハ其忌避ヲ行フ為メ相協議スルコトヲ得可ク又其忌避ヲ各自別々ニ行フコトヲ得可シ
右ノ中何レノ場合ニ於テモ其数名ノ重罪被告人ハ前数条ニ依リ重罪被告人一名ノ為メニ定メタル忌避ノ数ニ過クルコトヲ得サルモノトス
第四百三条 若シ重罪被告人ノ忌避ヲ為ス為メ相協議セサル時ハ抽籤ヲ以テ各自其忌避ヲ為ス可キ順序ヲ定ム可シ○此場合ニ於テ右ノ順序ニ従ヒ重罪被告人中ノ一名ヨリ忌避セラレタル陪審員ハ其重罪被告人全員ノ為メニ忌避セラレタルモノトシ而シテ其忌避ノ定数ノ尽クルニ至テ之ヲ止ム可シ
第四百四条 重罪被告人ハ忌避ノ一部分ヲ行フ為メ相協議スルコトヲ得可シ但シ其余ノ一部分ニ付テハ抽籤ニ依リ定マリタル順序ニ従ヒ之ヲ行フ可キモノトス
第四百五条 重罪被告人ノ訊問ハ陪審員十二名ノ表ヲ組成シタル後直チニ之ヲ始ム可シ
第四百六条 若シ或ル事故ニ依リ一箇又ハ数箇ノ重罪公訴状中ニ包含シタル犯罪ニ付キ又ハ其犯罪中ノ或者ニ付キ其重罪被告人ノ訊問ヲ次キノ会議ニ移送シタル時ハ更ニ他ノ姓名表ヲ作ル可ク而シテ又前ニ定メタル規則ニ従ヒ更ニ忌避ヲ為シ及ヒ更ニ新タナル陪審員十二名ノ表ヲ組成ス可シ若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
○第三巻 上等又ハ下等裁判所ノ裁判ニ対シテ上訴スルノ方法
○第壱章 予審及ヒ裁判ノ無効
第四百七条 重罪、懲治罪又ハ違警罪ノ事項ニ於テ終審ニテ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判並ニ其以前ノ予審及ヒ訴ノ手続ハ以下ノ場合ニ於テ及ヒ以下ニ定ムル差別ニ従ヒ為ス所ノ訴ニ依リ之ヲ取消スコトヲ得可シ
○第壱款 重罪ノ事項
第四百八条 若シ重罪被告人ノ刑ノ言渡ヲ受ケ而シテ重罪裁判所ニ其移送ヲ命令シタル控訴裁判所ノ裁判ニ於テ若クハ重罪裁判所ニテ為シタル予審及ヒ訴ノ手続ニ於テ若クハ其刑ヲ言渡シタル裁判ニ於テ此法典ニ無効ノ罰款ヲ以テ必要ナリト定ムル所ノ法式中或者ニ違背シ又ハ之ヲ遺脱シタルコトアル時ハ其遺脱又ハ違背ノ為メ其刑ヲ言渡サレタル者又ハ検察官ノ訴ニ依リ其刑ヲ言渡シタル裁判ノ取消ヲ為シ及ヒ最モ先キノ無効ナル所為ヨリ始メテ其裁判以前ノ諸件ノ取消ヲ為ス可シ
管轄違ノ場合又ハ法律ニ依リ附与セラレタル権能又ハ権利ヲ行ハントスル重罪被告人ノ一箇又ハ数箇ノ訟求ニ付キ若クハ検察官ノ一箇又ハ数箇ノ請求ニ付キ宣告スルコトヲ遺脱シ或ハ宣告スルコトヲ否拒シタル場合ニ於テハ仮令其執行ヲ訟求シ又ハ請求シタル法式ノ欠缺ニ法律ノ成文上ニテ無効ノ罰款ヲ附セサル時ト雖モ亦右ト同一タル可シ
第四百九条 重罪被告人ノ放免ノ場合ニ於テハ検察官ヨリ其放免ヲ宣告シタル命令及ヒ其以前ノ諸件ノ取消ヲ法律ノ利益ノ為メノミニ訴フルコトヲ得可ク之レカ為メ其放免セラレタル者ニ害ヲ被ムラシムルコトナカル可シ
第四百拾条 若シ法律上ニテ重罪ノ性質ニ適用スル所ノ刑ヨリ更ニ他ノ刑ヲ裁判ヲ以テ宣告シタルニ由リ無効ヲ申立ツ可キ時ハ検察官並ニ其刑ヲ言渡サレタル者ヨリ右裁判ノ取消ヲ訴フルコトヲ得可シ
若シ刑事法律ノ存在セサルニ基キテ不問ヲ宣告シタルニ其法律ノ存在シタル時ハ検察官ヨリ第三百六十四条ニ記載シタル不問ノ裁判ニ対シテ右ト同一ノ訴権ヲ行フコトヲ得可シ
第四百拾壱条 宣告シタル刑カ重罪ニ適用スル所ノ法律ニ定メタル刑ニ同シキ時ハ何人ニ限ラス法律ノ正条ノ引援ニ於テ錯誤ノアリタル旨ヲ口実トシテ其裁判ノ取消ヲ訟求スルコトヲ得ス
第四百拾弐条 如何ナル場合ニ於テモ民事原告人ハ放免ノ命令又ハ不問ノ裁判ノ取消ヲ訴フルコトヲ得ス然レトモ若シ其裁判カ放免セラレ又ハ不問ヲ言渡サレタル者ノ訟求ニ過キタル民事上ノ言渡ヲ其民事原告人ニ対シテ宣告シタル時ハ民事原告人ノ訟求ニ依リ其裁判中右ノ所定ヲ取消スコトヲ得可シ
○第弐款 懲治罪及ヒ違警罪ノ事項
第四百拾三条 第四百八条ニ明示シタル取消ノ方法ハ懲治罪及ヒ違警罪ノ事項ニ於テハ其軽罪又ハ違警罪ヲ訴ヘラレタル者ノ免訴ヲ宣告シタルモノト其処刑ヲ宣告シタルモノトノ差別ナク総テ上等又ハ下等裁判所ノ終審ノ裁判ニ対シテ其罪ヲ訴ヘラレタル者並ニ検察官及ヒ民事原告人アル時ハ其民事原告人ノ為メ各自ニ開始セラルヽモノトス
然レトモ若シ其軽罪又ハ違警罪ヲ訴ヘラレタル者ノ免訴ヲ宣告シタル時ハ何人タリトモ其者ノ弁護ヲ保スル為メニ定メタル法式ノ違背又ハ遺脱ヲ其者ニ対シテ益用スルコトヲ得ス
第四百拾四条 第四百十一条ノ成規ハ懲治罪及ヒ違警罪ノ事項ニ於テ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ終審ノ裁判ニ適用ス可キモノトス
○第三款 前二款ニ共通ノ成規
第四百拾五条 大審院若クハ控訴裁判所ニ於テ予審ヲ取消シタル場合ニ於テハ其更ニ始ム可キ訴訟手続ノ費用ハ其無効ヲ行ヒタル役員又ハ予審裁判官ノ負任タル可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
然レトモ右ノ成規ハ甚タ重劇ナル過失ノミニ付キ且ツ此法典施行ノ時ヨリ二年ノ後ニ行ヒタル無効ノミニ関スルニ非サレハ之ヲ適用ス可カラス
○第弐章 破毀ノ訟求
第四百拾六条 訴ノ本案ニ影響セサルモノニシテ且ツ予審上ノモノタル上等裁判所ノ裁判又ハ右ノ性質ノモノタル下等裁判所ノ終審ノ裁判ニ対スル破毀ノ訴ハ上等又ハ下等裁判所ノ確定ノ裁判アリシ後ニ非サレハ開始セラレサルモノトス但シ右本案ニ影響セサル上等又ハ下等裁判所ノ裁判ノ任意ノ執行ハ如何ナル場合ニ於テモ拒訴ノ憑拠トシテ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
右ノ成規ハ裁判管轄ノ事ニ付キ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判ニ適用セサルモノトス
第四百拾七条 破毀ノ訴ノ申述ハ刑ヲ言渡サレタル者ヨリ書記ニ之ヲ為シ而シテ其申述書ハ右ノ者ト書記トニ於テ之ニ署名ス可シ若シ申述者ノ署名スルコト能ハス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ書記其旨ヲ記載ス可シ
右ノ申述ハ刑ヲ言渡サレタル者ノ代書人又ハ其特別ナル代理人ヨリ右ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得可シ但シ代理人ヨリ其申述ヲ為シタル場合ニ於テハ委任状ヲ右ノ申述書ニ添ヘ置ク可キモノトス
其申述書ハ特ニ設ケアル簿冊ニ之ヲ記入ス可シ但シ其簿冊ハ公ケノモノニシテ何人ニ限ラス之レカ抜書ヲ交付セシムルノ権利アリトス
第四百拾八条 民事原告人アル時ハ其民事原告人若クハ検察官ヨリ重罪、懲治罪又ハ違警罪ノ事項ニ於テ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ終審ノ裁判ニ対シテ破毀ノ訴ヲ行フ時ハ前条ニ表示シタル記入ノ外更ニ其訴状ヲ三日ノ期限内ニ右ノ訴ヲ受クル者ニ送付ス可シ
若シ其訴ヲ受クル者ノ現ニ収監セラルヽ時ハ右ノ訴ノ申述ヲ記シタル証書ヲ書記ヨリ其者ニ読聞カセ其者ニ於テ之ニ署名ス可ク若シ其者ノ署名スルコト能ハス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ書記其旨ヲ記載ス可シ
若シ其訴ヲ受クル者ノ自由ナル時ハ破毀ノ原告人ヨリ使吏ノ紹介ヲ以テ其者自身若クハ其者ノ撰定シタル住所ニ右ノ訴状ヲ送付ス可シ但シ此場合ニ於テハ三「ミリアメートル」ノ距離毎ニ右ノ定期ニ一日ヲ加フ可キモノトス
第四百拾九条 破毀ヲ得ント上訴スル民事原告人ハ裁判書ノ公正ナル副本ヲ証拠物ニ添ユ可キモノトス
其民事原告人ハ百五十「フランク」ノ罰金ヲ預ク可ク若シ又重罪缺席又ハ其他ノ缺席ニテ裁判ヲ為シタル時ハ右金額ノ一半ヲ預ク可シ若シ之ニ違フ時ハ失権ヲ受ク可キモノトス
第四百弐拾条 左ノ各員ハ罰金ヲ免除セラルヽモノトス
第一 重罪ノ事項ニ於テ刑ヲ言渡サレタル者
第二 直接ニ行政及ヒ国領ニ関スル事件ニ付キ訴ヲ為ス官吏
総テ其他ノ各人ニ関シテハ其上告ニ於テ敗訴トナリタル者罰金ヲ受ク可シ○然レトモ左ノ各人ハ罰金ヲ預クルコトヲ免除セラルヽモノトス
第一 懲治罪及ヒ違警罪ノ事項ニ於テ自由ノ剥奪ヲ惹起スル刑ヲ言渡サレタル者
第二 其破毀ヲ得ントスル訟求書ニ第一ニ六「フランク」以下ノ税金ヲ納ムル旨ヲ証明スル納税人姓名表ノ抜書又ハ租税ヲ課セラレサル旨ヲ証スル其邑ノ収税吏ノ保証書ト第二ニ其貧困ナルカ為メ罰金ヲ預クルコト能ハサル旨ヲ証明スル保証書トヲ添ユル所ノ各人○右ノ保証書ハ其者ノ住所ノ邑ノ邑長又ハ副職ヨリ其者ニ之ヲ交付シテ其郡ノ郡長之ヲ認可シ又州ノ首地タル郡ニ於テハ州長之ヲ認可ス可シ
第四百弐拾壱条 六月以上ノ時間自由ノ剥奪ヲ惹起スル刑ヲ言渡サレタル各人ニシテ収監ノ景状ニアラサル者又ハ保証人ノ有無ヲ問ハス仮リノ釈放ヲ得サル者ハ其破毀ヲ得ント上訴スルノ権利ヲ失ヒタリト宣告セラル可シ
遅クトモ大審院ニ於テ其事件ヲ呼上クル時ニ至リ其者ノ入獄状又ハ其釈放ヲ得タルノ証書ヲ大審院ニ差出ス可シ
原告人ノ其訴ヲ受理セラルヽ為メニハ大審院所在ノ地ノ拘留場内ニ現ニ収監セラルヽ旨ヲ証明スルヲ以テ足レリトス但シ其拘留場ノ監守人ハ大審院ノ検事長ニ宛テ差出シ而シテ其検事長ノ検署シタル訟求書ヲ検視シタル上ニテ右ノ原告人ヲ其拘留場ニ収受スルコトヲ得可シ
第四百弐拾弐条 刑ヲ言渡サレタル者又ハ民事原告人ハ其申述ヲ為ス時又ハ其後十日内ニ其取消サント訴フル所ノ裁判ヲ為セシ上等裁判所又ハ下等裁判所ノ書記局ニ其破毀ノ憑拠ヲ記シタル請願書ヲ差出スコトヲ得可シ○書記ハ其受取証書ヲ附与シテ即時ニ其請願書ヲ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ニ交付ス可シ
第四百弐拾三条 申述ヲ為シタルヨリ十日ノ後ニ右ノ官吏ヨリ訴ノ証拠物ト訴人ヨリ請願書ヲ差出シタル時ハ其請願書トヲ司法卿ニ送呈ス可シ
其取消サント訴ヘラレタル裁判ヲ為セシ上等裁判所又ハ下等裁判所ノ書記ハ証拠物ノ目録ヲ無費ニテ作リタル上之ヲ添ヘ置ク可シ若シ之ニ違フ時ハ大審院ヨリ百「フランク」ノ罰金ヲ宣告セラル可キモノトス
第四百弐拾四条 司法卿ハ右ノ証拠物ヲ受取リタルヨリ二十四時内ニ之ヲ大審院ニ差送リ且ツ之ヲ送呈セシ官吏ニ其旨ヲ通知ス可シ
刑ヲ言渡サレタル者ハ亦其請願書若クハ上等又ハ下等裁判所ノ裁判書並ニ其破毀ヲ得ントスル訟求書ノ送達セラレタル副本或ハ写ヲ直接ニ大審院ノ書記局ニ差出スコトヲ得可シ然レトモ民事原告人ハ大審院附代言人ノ紹介ヲ得ルニ非サレハ右ノ成規ノ利益ヲ受クルコトヲ得サルモノトス
第四百弐拾五条 大審院ハ総テ重罪、懲治罪、違警罪ノ事件ニ於テ本章ニ載セタル期限ノ終リシ後直チニ其破毀ヲ得ントスルノ訴ヲ裁定スル事ヲ得可ク而シテ右ノ期限ノ終リシ日ヨリ起算シテ遅クトモ一月内ニ之ヲ裁定セサルヲ得ス
第四百弐拾六条 大審院ハ予メ許容スルノ裁判ヲ為スヲ要セスシテ訟求ヲ棄却シ又ハ上等或ハ下等裁判所ノ裁判ヲ取消ス可シ
第四百弐拾七条 大審院ニ於テ懲治罪ノ事項ニ付キ若クハ違警罪ノ事項ニ付キ為セシ裁判ヲ取消シタル時ハ其取消サレタル裁判ヲ為セシ裁判所ト同性質ノ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ其訴ト関係人トヲ移送ス可シ
第四百弐拾八条 大審院ニ於テ重罪ノ事項ニ付キ為セシ裁判ヲ取消シタル時ハ次キノ七条ニ記スル如クニ処分ス可シ
第四百弐拾九条 大審院ハ左ノ如クニ訴ノ移送ヲ宣告ス可シ
若シ第二百九十九条ニ明記シタル原由中ノ一箇ノ為メニ裁判ヲ取消シタル時ハ裁判管轄ヲ規定シ且ツ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告シタル控訴裁判所ヨリ更ニ他ノ控訴裁判所ニ移送ス可シ
若シ重罪裁判所ニ於テ行ヒタル無効ノ原由ノ為メニ裁判及ヒ予審ヲ取消シタル時ハ其裁判ヲ為セシ重罪裁判所ヨリ更ニ他ノ重罪裁判所ニ移送ス可シ
若シ民事上ノ利益ニ関スル箇条ノミニ付キ裁判及ヒ予審ヲ取消シタル時ハ予審裁判官ノ属シタル始審裁判所ヨリ更ニ他ノ始審裁判所ニ移送スヘシ但シ此場合ニ於テハ其始審裁判所ハ予メ勧解ニ於ケル呼出ナクシテ其訴ヲ掌轄スルモノトス
若シ管轄違ノ原由ノ為メニ裁判及ヒ訴ノ手続ヲ取消シタル時ハ大審院ヨリ其訴ヲ裁定ス可キモノタル裁判官ニ之ヲ移送シテ其裁判官ヲ指定ス可シ然レトモ若シ初メノ予審ヲ為セシ裁判官所在ノ始審裁判所ニ其管轄権ノ属ス可キモノタル時ハ更ニ他ノ始審裁判所ニ移送ヲ為ス可シ
若シ刑ノ言渡ノ原由タル所為カ法律上ニ犯罪ノ名称ヲ附スルモノタラサルニ依リ裁判ヲ取消シタル時民事原告人ノアルニ於テハ予審裁判官ノ属シタル始審裁判所ヨリ更ニ他ノ始審裁判所ニ移送ヲ為ス可ク又民事原告人ノアラサルニ於テハ移送ヲ宣告ス可カラス
第四百三拾条 大審院ニ於テ移送セラレタル事件ノ裁判ノ為メ一箇ノ上等裁判所又ハ下等裁判所ヲ撰定スル事ヲ得可キ総テノ場合ニ於テハ破毀ノ裁判ヲ宣告シタル後直チニ会議室ニ於テ為シタル特別ノ議定ニ依ルニ非ラサレハ右ノ撰定ヲ為ス事ヲ得ス但シ其特別ノ撰定ハ右ノ裁判書中ニ之ヲ明記ス可キモノトス
第四百三拾壱条 移送セラレタル事件ノ予審ヲ成就スル為メニ委任ヲ受ク可キ新タナル予審裁判官ハ其裁判ヲ取消サレタル控訴裁判所ノ管轄地内ニ設置セラレタル予審裁判官中ヨリ之ヲ撰ム事ヲ得ス
第四百三拾弐条 一箇ノ控訴裁判所ニ移送ヲ為シタル時ハ其控訴裁判所ニ於テ己レニ関スル所ノモノニ付キ予審ヲ補正シタル後其管轄地内ニ於テ右ノ訴ヲ裁判ス可キ重罪裁判所ヲ指定ス可シ
第四百三拾三条 若シ一箇ノ重罪裁判所ニ訴ヲ移送シタル時未タ重罪公訴ノ景状ニアラサル従犯ノアルニ於テハ其重罪裁判所ヨリ予審裁判官一名ヲ委任シ又検事長ヨリ其代職一名ヲ委任シテ各々其関スル所ノモノニ付キ予審ヲ為サシメ然ル後其予審ノ証拠物ヲ控訴裁判所ニ差送ル可ク而シテ其控訴裁判所ニ於テハ重罪裁判所ニ移ス可キヤ否ヤヲ宣告ス可シ
第四百三拾四条 若シ法律上ニテ重罪ノ性質ニ適用スル所ノ刑ヨリ更ニ他ノ刑ヲ宣告シタルカ為メニ裁判ヲ取消シタル時ハ其訴ヲ移送セラレタル重罪裁判所ニ於テ陪審ノ既ニ為シタル決断ニ依リ其裁判ヲ為ス可シ
若シ更ニ他ノ原由ノ為メニ裁判ヲ取消シタル時ハ其訴ヲ移送セラレタル重罪裁判所ニ於テ更ニ再ヒ弁論ヲ為ス可シ
若シ無効カ裁判ノ所定ノ一箇又ハ数箇ノミニ瑕瑾ヲ附スル時ハ大審院ニ於テ其裁判ノ一部分ノミヲ取消ス可キモノトス
第四百三拾五条 重罪被告人ノ刑ノ言渡ヲ取消シテ更ニ再ヒ重罪ニ於ケル裁判ヲ受ケシム可キ時ハ其重罪被告人ヲ拘留ノ景状ノ侭若クハ拘引ノ命令書ヲ執行シテ其訴ヲ移送セラレタル控訴裁判所又ハ重罪裁判所ニ送致ス可シ
第四百三拾六条 重罪ノ事項若クハ懲治罪又ハ違警罪ノ事項ニ関スル其訴ニ於テ敗訴トナリタル民事原告人ハ其放免セラレ、不問ヲ言渡サレ又ハ免訴トナリタル者ニ対シテ百五十「フランク」ノ賠償ト費用トヲ言渡サレ又右ノ外国ニ対シテ百五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可ク若シ又上等又ハ下等裁判所ノ裁判カ重罪缺席又ハ其他ノ缺席ニテ為セシモノタル時ハ七十五「フランク」ノミノ罰金ヲ言渡サル可シ
行政庁又ハ国領財産管理局及ヒ官吏ノ敗訴トナリタル時ハ費用及ヒ賠償ノミヲ言渡サル可シ
第四百三拾七条 若シ上等又ハ下等裁判所ノ裁判ヲ取消シタル時ハ其訴ヲ裁定セシ裁判書ニ用ヒタル文詞ノ如何ヲ問ハス又其裁判書ニ嘗テ預ケ置キタル罰金ノ返還ヲ命令スル事ヲ遺脱シタル時ト雖モ猶予ナク其罰金ヲ返還ス可シ
第四百三拾八条 破毀ヲ得ントスル訟求ノ棄却セラレタル時ハ其訟求ヲ為シタル者ハ如何ナル口実アリトモ又如何ナル憑拠ニ依ルモ最早其同一ノ裁判ニ対シテ破毀ヲ得ント上訴スル事ヲ得ス
第四百三拾九条 破毀ヲ得ントスル訟求ヲ棄却シタル裁判書ハ書記ノ署名シタル単一ナル抜書ヲ以テ三日内ニ大審院ノ検事長ニ之ヲ交付ス可シ而シテ検事長ハ其抜書ヲ司法卿ニ送呈シ司法卿ハ其取消サント訴ヘラレタル裁判ヲ為セシ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ニ之ヲ送付ス可キモノトス
第四百四拾条 若シ第一回ノ破毀ノ後其訴ノ本案ニ付テノ第二回ノ裁判ヲ同一ノ憑拠ヲ以テ駁撃シタル時ハ千八百七年九月十六日ノ法律ニ定メタル方法ニ従ヒ処分ス可キモノトス
第四百四拾壱条 若シ司法卿ヨリ附与セラレタル明確ナル命令書ヲ示シタル上ニテ大審院ニ於ケル検事長ヨリ法律ニ牴触シタル裁判上ノ証書又ハ上等或ハ下等裁判所ノ裁判書ヲ刑事局ニ告発シタル時ハ其証書又ハ上等或ハ下等裁判所ノ裁判ヲ取消シ且ツ別段ノ理由アル時ハ本編第四巻第三章ニ明記シタル方法ヲ以テ警察官又ハ裁判官ノ罪ヲ訴フル事ヲ得可シ
第四百四拾弐条 若シ控訴裁判所又ハ重罪裁判所或ハ懲治裁判所又ハ警察裁判所ヨリ破毀ヲ受ク可キ終審ノ裁判ヲ為シタリト雖モ定期内ニ之ヲ破毀セント訟求スル者アラサル時ハ大審院ニ於ケル検事長其期限ノ終リタルニ拘ハラス亦其職権上ヨリ右ノ旨ヲ大審院ニ通知スル事ヲ得可ク而シテ其裁判ハ破毀セラル可シ但シ関係人ハ其裁判ノ執行ニ付キ故障ヲ申立ツル為メ其破毀ヲ益用スル事ヲ得サルモノトス
○第三章 再審ノ訟求
第四百四拾三条 左ノ各箇ノ場合ニ於テハ裁定シタル裁判権ノ如何ヲ問ハス重罪又ハ懲治罪ノ事項ニ於テ再審ヲ訟求スル事ヲ得可シ
第一 人殺ノ罪ノ為メ刑ノ言渡アリタル後其殺サレタリト称言セラレシ者ノ生存スル事ニ付キ充分ナル証憑ヲ生セシムルニ適当ナル証拠物ノ差出サレタル時
第二 重罪又ハ軽罪ノ為メ刑ノ言渡アリタル後更ニ新タナル裁判ヲ以テ同一ノ所為ノ為メ他ノ重罪被告人又ハ軽罪被告人ニ刑ヲ言渡シ而シテ其二箇ノ刑ノ言渡ヲ相調和セシムル事能ハサルニ依リ其牴触カ右刑ヲ言渡サレタル者ノ中一方ノ無罪ナルノ証タル時
第三 証人中ノ一名カ刑ノ言渡アリタル後ニ其重罪被告人又ハ軽罪被告人ニ対スル偽証ノ罪ヲ訴ヘラレテ其刑ヲ言渡サレタル時
右ノ如クニ刑ヲ言渡サレタル証人ハ更ニ新タナル弁論ニ於テハ其申述ヲ聴カルヽ事ヲ得ス
第四百四拾四条 再審ヲ訟求スルノ権利ハ左ノ各人ニ属スルモノトス
第一 司法卿
第二 刑ヲ言渡サレタル者
第三 刑ヲ言渡サレタル者ノ死去ノ後ニ於テハ其配偶者、其子、其血属親其全括ノ受遺嘱者又ハ全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者及ヒ刑ヲ言渡サレタル者ヨリ再審ヲ訟求スル為メ明カナル嘱託ヲ受ケタル者
懲治罪ノ事項ニ於テハ禁錮ノ刑ノ言渡又ハ国士権、民権、族権ノ執行ノ全部若クハ一部ノ禁止ヲ宣告シ又ハ惹起スル刑ノ言渡ノ為メニ非サレハ再審ヲ為ス事ヲ得ス
大審院ノ刑事局ハ司法卿ヨリ職権上ニテ附与シ若クハ前ニ列記シタル場合中ノ一箇ヲ申立ツル関係人ノ要求ニ依テ附与シタル明カナル命令ニ拠リ本院ノ検事長ヨリ掌轄セラル可キモノトス
前条ノ第二及ヒ第三ニ定メタル場合ニ於テハ相調和ス可カラサル二箇ノ刑ノ言渡中其第二ノモノ又ハ偽証ヲ述ヘシ証人ノ刑ノ言渡ヨリ二年ノ期限内ニ司法省ニ於テ関係人ノ再審ノ訟求書ヲ記入シタルニ非サレハ其訟求ヲ受理ス可カラス
如何ナル場合ニ於テモ再審ヲ訟求セラレタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判ノ執行ハ大審院ノ宣告アルニ至ル迄司法卿ノ命令ニ依リ当然之ヲ停止ス可ク然ル後別段ノ理由アル時ハ訟求ノ受理ス可キ事ヲ裁定スル大審院ノ裁判ニ依リ之ヲ停止ス可シ
第四百四拾五条 受理ス可キ場合ニ於テ若シ其事件カ裁判シ得可キ景状ノモノタラサル時ハ大審院ニ於テ直接ニ又ハ委託ノ証書ニ依リ本案ニ付テノ総テノ証人訊問、対質、人違ニ非サル事ノ認定、審訊及ヒ事実ヲ明瞭ナラシムルニ適当ナル方法ニ取掛ル可シ
若シ其事件カ裁判シ得可キ景状ノモノタル時大審院ニ於テ更ニ再ヒ対審ノ弁論ニ取掛ル事ヲ得可シト認定シタルニ於テハ大審院ニテ上等又ハ下等裁判所ノ裁判及ヒ再審ノ障碍タル総テノ所為ヲ取消シテ其為ス可キ所ノ問ヲ定メ而シテ重罪被告人又ハ軽罪被告人ヲ場合ニ従ヒ原来其事件ヲ裁定セシ裁判所ヨリ更ニ他ノ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ移送ス可シ
陪審ニ附セラル可キ事件ニ於テハ移送セラレタル控訴裁判所ノ検事長ニ於テ更ニ新タナル重罪公訴状ヲ作ル可キモノトス
第四百四拾六条 若シ関係各人ノ間ニ更ニ再ヒ口上ノ弁論ヲ為サシムルコト能ハサル時殊ニ刑ヲ言渡サレタル者一名又ハ数名ノ死去又ハ重罪缺席或ハ其他ノ缺席ノ場合及ヒ訴権ノ期満効又ハ刑ノ期満効ノ場合ニ於テハ大審院ニ於テ其口上ノ弁論ヲ為サシムル事能ハサル旨ヲ明カニ証明シタル後若シ其訴ニ民事原告人ノアルニ於テハ其民事原告人ト死者各員ノ生前ノ名誉ノ為メ大審院ヨリ撰任シタル管財人トノ面前ニテ予メ破毀ヲ為ス事ナク又移送ヲ為ス事ナク其訴ノ本案ヲ裁定ス可シ
右ノ場合ニ於テ大審院ハ刑ノ言渡ノ中ニテ不正ニ為サレタル所ノモノヽミヲ取消シ且ツ別段ノ理由アル時ハ死者ノ生前ノ名誉ヲ申雪ス可シ
第四百四拾七条 第四百四十三条ノ第一ニ明記シタル再審ノ場合ニ於テ若シ生存スル所ノ刑ヲ言渡サレタル者ニ関シテ裁判ヲ取消スニ依リ重罪又ハ軽罪ノ名称ヲ附スル事ヲ得可キモノヽ毫モ存在セサル時ハ移送ヲ宣告ス可カラス
○第四巻 特別ナル或ル訴ノ手続
○第壱章 偽造
第四百四拾八条 凡ソ書類偽造ノ為メノ訴ニ於テハ其偽造ヲ申立テラレタル証拠物ヲ差出シタル時直チニ之ヲ書記局ニ納メ書記其各頁毎ニ之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附シテ其証拠物ノ物料上ノ景状ノ詳細ナル調書ヲ作ル可ク又之ヲ納メタル者ノ署名スル事ヲ知ルニ於テハ亦各頁毎ニ之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附シテ其旨ヲ記載ス可シ若シ之ニ違フ時ハ右ノ法式ヲ履行セスシテ其証拠物ヲ収受シタル書記ニ対シテ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可キモノトス
第四百四拾九条 若シ偽造ヲ申立ラレタル証拠物ヲ公ケノ預リ所ヨリ取出シタル時ハ之ヲ手放ス所ノ官吏モ亦前条ニ記シタル如ク之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附ス可シ若シ之ニ違フ時ハ右ニ同シキ罰金ヲ言渡サル可キモノトス
第四百五拾条 偽造ヲ申立ラレタル証拠物ハ右ノ外司法警察官之ニ署名ス可ク又民事原告人又ハ其代書人ノ出席スル時ハ此等ノ者亦之ニ署名ス可シ
犯罪被告人モ亦其出席ノ時之ニ署名ス可シ
若シ出席人全員又ハ其中或者ノ署名スル事能ハス又ハ署名スル事ヲ欲セサル時ハ其旨ヲ調書ニ記載ス可シ
懈怠又ハ遺脱ノ場合ニ於テハ書記ニ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可シ
第四百五拾壱条 偽造ノ訴ノ目的タル証拠物カ裁判上又ハ民事上ノ証書ノ基本トナリタル時ト雖モ其偽造ニ於ケル告訴及ヒ告発ヲ常ニ継続スル事ヲ得可シ
第四百五拾弐条 凡ソ偽造ヲ申立テラレタル証拠物ノ公ケノ受託者又ハ私ノ受託者ハ検察官又ハ予審裁判官ヨリ附与シタル命令書ニ依リ其証拠物ヲ差出ス可ク若シ之ニ違フ時ハ拘留セラル可キモノトス
右ノ命令書及ヒ証拠物差出シノ証書ハ其証拠物ニ付キ関係ヲ有スル各人ニ対シテ其受託者ノ為メニ義務免除ノ証トナル可キモノトス
第四百五拾三条 照徴ノ用ヲ為ス為メニ差出シタル証拠物ハ偽造ヲ申立テラレタル証拠物ニ付キ本章ノ初メノ三条ニ記シタル如ク之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附ス可シ若シ之ニ違フ時ハ亦右三条ニ記スル所ト同一ノ刑ヲ受ク可キモノトス
第四百五拾四条 凡ソ公ケノ受託者ハ仮令拘留ノ方法ヲ以テスルモ其占有スル所ノ照徴ノ書類ヲ差出サシムルニ強ユル事ヲ得可シ但シ其命令書及ヒ書類差出シノ証書ハ其照徴ノ書類ニ付キ関係ヲ有スル各人ニ対シテ其受託者ノ為メニ義務免除ノ証トナル可キモノトス
第四百五拾五条 若シ公正ノ証書類ヲ移動スルノ必要ナル時ハ其受託者ニ対校シタル写ヲ遺シ置キ其郡ノ始審裁判所長ハ其細字ノ正本又ハ正本ニ拠リ右ノ写ヲ験真シテ其調書ヲ作ル可シ而シテ若シ其受託者ノ公員タル時ハ右証書類ノ還付ニ至ル迄其細字正本ニ代用スル為メ右ノ写ヲ細字正本ノ部類中ニ加ヘテ其大字ノ副本又ハ其他ノ副本ヲ交付スル事ヲ得可シ但シ其旨ヲ調書ニ記載ス可キモノトス
然レトモ若シ其証書類カ簿冊ノ一部分ヲ為シタルニ依リ一時之ヲ引離ス事ヲ得サル時ハ裁判所ヨリ其簿冊ノ持参ヲ命令スルニ付キ本条ニ定メタル法式ヲ免除スル事ヲ得可シ
第四百五拾六条 私ノ書類ト雖モ関係各人ノ之ヲ認定シタル時ハ亦照徴ノ書類トシテ之ヲ差出シ及ヒ其名義ヲ以テ許容スル事ヲ得可シ
然レトモ各箇ノ人民ハ仮令之ヲ占有スル旨ヲ自認シタル時ト雖モ直チニ之ヲ差出サシムルニ強ユル事ヲ得ス然レトモ若シ右ノ人民カ其差出ヲ為サシムル為メ又ハ其否拒ノ理由ヲ陳弁セシムル為メ右ノ訴ヲ掌轄スル裁判所ニ呼出サレタル後ニ敗訴トナリタル時ハ上等又ハ下等裁判所ノ裁判ヲ以テ之ヲ拘留ス可キ旨ヲ命令スル事ヲ得可シ
第四百五拾七条 若シ証人カ訴ノ証拠物ニ付キ説明ヲ為ス時ハ之ニ花押ヲ附シ及ヒ署名ス可ク若シ署名スル事能ハサル時ハ其旨ヲ調書ニ記載ス可シ
第四百五拾八条 若シ予審又ハ訴ノ手続ノ進行中ニ其差出タル証拠物ヲ関係人中ノ一人ヨリ偽造ナリト申立ツル時ハ其一人ヨリ相手方ニ右ノ証拠物ヲ用ヒント欲スルヤ否ヲ申述スル事ヲ催促ス可シ
第四百五拾九条 若シ相手方ニテ其証拠物ヲ用ヒント欲セサル旨ヲ申述スル時又ハ相手方ヨリ八日内ノ期限内ニ何等ノ申述ヲモ為サヽル時ハ其証拠物ヲ訴ヨリ棄却シ而シテ其予審及ヒ裁判ニ取掛ル可シ
若シ相手方ニ於テ其証拠物ヲ用ヒント欲スル旨ヲ申述スル時ハ主タル訴ヲ掌轄スル上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ其偽造ニ付テノ審理ヲ附帯ノ訴トシテ継続ス可シ
第四百六拾条 若シ証拠物ヲ偽造ナリト申立ツル者ニ於テ其証拠物ヲ差出セシ者ノ其偽造ノ正犯又ハ従犯タル旨ヲ主持スル時又ハ其訴ノ手続ニ依リ偽造ノ正犯又ハ従犯ノ生存シ且ツ其重罪ノ起訴ノ期満効ニ依テ消滅セサル旨ヲ知リ得タル時ハ其重罪ノ公訴ヲ前ニ定メタル方法ヲ以テ刑事上ニテ継続ス可シ
若シ民事ノ訴訟アル時ハ偽造ニ付テノ宣告アルニ至ル迄其裁判ヲ延ハス可シ
若シ重罪、軽罪又ハ違警罪ニ関スル時ハ之ヲ掌轄シタル上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ検察官ノ職務ニ任セラレタル官吏ノ申立ヲ聴キタル後予メ其裁判ヲ延ハス可キヤ否ヲ裁決ス可キモノトス
第四百六拾壱条 犯罪被告人又ハ重罪被告人ハ手記ノ文書ヲ差出シ及ヒ之ヲ作ル可キノ求メヲ受クルコトアル可シ而シテ若シ否拒又ハ黙止ノ場合ニ於テハ其旨ヲ調書ニ記載ス可キモノトス
第四百六拾弐条 若シ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ仮令民事ノモノタリトモ一箇ノ訴ノ検査ヲ為スニ当リ偽造ニ付テノ証憑及ヒ偽造ヲ行ヒタル者ニ付テノ証憑ヲ発見シタル時ハ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏又ハ裁判所長ヨリ其犯罪ヲ行ヒタリト思ハルヽ地若クハ犯罪被告人ヲ召捕フル事ヲ得タル地ノ予審裁判官ニ於ケル検事長ノ代職ニ其証拠物ヲ送付ス可ク又然ノミナラス右ノ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏又ハ裁判所長ヨリ勾引状ヲ交付スル事ヲ得可シ
第四百六拾三条 若シ公正ノ証書カ其全部又ハ一部ニ於テ偽造ナリト宣告セラレタル時ハ其偽造ノ訴ヲ裁定シタル上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ其証書ヲ復旧シ又ハ塗抹シ又ハ作リ直ス可キ旨ヲ命令シ而シテ右ノ諸件ヲ調書ニ記ス可シ
照徴ノ書類ハ之ヲ取出セシ預リ所ニ還付シ又ハ之ヲ差出セシ各人ニ送還ス可シ但シ此等ノ諸件ハ上等又ハ下等裁判所ノ裁判ノ日ヨリ起算シテ十五日ノ期限内ニ之ヲ為ス可ク若シ之ニ違フ時ハ書記ニ対シテ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡ス可シ
第四百六拾四条 右ノ外偽造ノ罪ニ付テノ審理ハ其他ノ犯罪ニ於ケルカ如クニ之ヲ為ス可シ但シ以下ノ例外ハ格別ナリトス
重罪裁判所長、検事長又ハ其代職、予審裁判官及ヒ治安裁判官ハ其管轄地外ニ於テモ偽造ノ政府発行証券、仏蘭西銀行又ハ各州銀行ノ偽造ノ手形ヲ製作シ、輸入シ又ハ分配シタルノ疑アル各人ノ家屋ニ於テ必要ナル臨検ヲ継続スル事ヲ得可シ
貨幣偽造又ハ国璽偽造ノ重罪ニ付テモ亦本条ノ成規ヲ適用ス可キモノトス
○第弐章 重罪ノ缺席
第四百六拾五条 若シ重罪裁判所ニ移ス裁判ノ後ニ重罪被告人ヲ召捕フル事ヲ得ス又ハ其住所ニ裁判書ヲ送付シタルヨリ十日内ニ其重罪被告人ノ出席セサル時
又ハ重罪被告人ノ出席シ或ハ召捕ヘラレタル後ニ其逃亡シタル時ハ
重罪裁判所長又其アラサルニ於テハ始審裁判所長又其双方共ニアラサルニ於テハ始審裁判所ノ裁判官中最先任ノ者ヨリ其重罪被告人ノ更ニ新タナル十日ノ期限内ニ出席ス可ク若シ然ラサレハ法律ノ命令ニ抗スルモノナリト宣告セラレテ国士ノ権利ノ執行ヲ停止セラレ其財産ハ重罪缺席ノ審理ノ時間之ヲ第三ノ人ニ附託シ且ツ右ト同一ノ時間其重罪被告人ニ総テ裁判所ニ於ケル訴ヲ禁止シ又其重罪被告人ニ対シテ処分ヲ為ス可クシテ何人ニ限ラス其重罪被告人所在ノ地ヲ指示ス可キ旨ヲ記載スル命令書ヲ発ス可シ
其命令書ニハ右ノ外其重罪及ヒ拘引ノ命令書ヲ記載ス可キモノトス
第四百六拾六条 右ノ命令書ハ次ノ日曜日ニ喇叭ヲ吹キ又ハ太鼓ヲ鳴ラシテ之ヲ公布シ且ツ重罪被告人ノ住所ノ入リ口ト邑庁ノ入リ口ト重罪裁判所ノ訟庭ノ入リ口トニ之ヲ貼附ス可シ
検事長又ハ其代職ハ亦其命令書ヲ重罪缺席者ノ住所ノ国領財産及ヒ簿冊登記税ノ理事者ニ差送ル可シ
第四百六拾七条 十日ノ期限ノ後ニ至リ重罪缺席ノ裁判ニ取掛ル可シ
第四百六拾八条 如何ナル代弁人如何ナル代書人タリトモ重罪缺席者タル被告人ヲ弁護スル為メニ出席スルコトヲ得ス
若シ重罪被告人ノ欧羅巴ニアル仏蘭西ノ領地内ニ在ラス又ハ真ニ出席スルコト能ハサル時ハ其血属親又ハ朋友ヨリ其弁解ノ理由ヲ申立テヽ之レカ正当ナル旨ヲ弁論スルコトヲ得可シ
第四百六拾九条 若シ裁判所ニ於テ其弁解ノ理由ヲ正当ナリト為シタル時ハ其弁解ノ理由ト場所ノ距離トニ准シテ定ム可キ時間中其重罪被告人ノ裁判及ヒ其財産ノ附託ヲ延ハス可キ旨ヲ命令ス可シ
第四百七拾条 右ノ場合ノ外ハ重罪裁判所ニ移送スルノ裁判書重罪缺席者ヲ出席セシムル事ヲ以テ目的ト為ス命令書送付ノ証書並ニ其命令書ノ公布及貼附ヲ証明スル為メニ作リタル調書ノ朗読ニ直チニ取掛ル可シ
其朗読ノ後裁判所ニ於テ検事長又ハ其代職ノ請求ニ依リ重罪缺席ニ付キ宣告ヲ為ス可シ
若シ審理ノ法律ニ適合セサル時ハ裁判所ニ於テ其審理ヲ無効ノモノナリト宣告シテ其法律ニ違フタル最旧ノ所為ヨリ更ニ再ヒ其審理ヲ始ム可キ旨ヲ命令ス可シ
其審理ノ正規ニ適ヒシモノタル時ハ裁判所ニ於テ重罪ノ公訴ニ付キ宣告ヲ為シ且ツ民事上ノ関係ヲ裁定ス可シ但シ此等ノ諸件ハ陪審員ノ補助ナク又其参渉ナクシテ之ヲ為ス可キモノトス
第四百七拾壱条 重罪缺席者ノ刑ヲ言渡サレタル時ハ其裁判執行ノ時ヨリ以来右重罪缺席者ノ財産ヲ失踪者ノ財産ト看做シテ其財産ノ如クニ之ヲ管理ス可シ而シテ其重罪缺席ヲ滌除スル為メニ附与セラレタル期限ノ終リシニ依リ刑ノ言渡ノ廃止ス可カラサルモノトナリタル後ニ至リ其財産受託者ノ計算ヲ当然ノ権利アル各人ニ為ス可キモノトス
第四百七拾弐条 刑ヲ言渡ス裁判書ノ抜書ハ其宣告ヨリ八日内ニ検事長又ハ其代職ノ求メニ依リ刑ヲ言渡サレタル者ノ最後ノ住所ノ州ノ新聞紙中ノ一箇ニ之ヲ記入ス可シ
又其抜書ハ右ノ外第一ニ其最後ノ住所ノ入リ口ト第二ニ重罪ヲ行ヒタル郡ノ首地タル邑ノ邑庁ノ入リ口ト第三ニ重罪裁判所ノ訟庭ノ入リ口トニ之ヲ貼附ス可シ
右ニ同シキ抜書ヲ右ト同一ノ期限内ニ重罪缺席者ノ住所ノ簿冊登記税及ヒ国領財産管理局ノ理事者ニ差送ル可シ
法律上ニテ肖像ニ依レル裁判執行ニ附スル所ノ効力ハ本条ニ定メタル貼附ノ法式ヲ履行シタル旨ヲ証明スル最後ノ調書ノ日附ヨリ以来之ヲ生ス可キモノトス
第四百七拾三条 重罪缺席ノ裁判ニ対シ破毀ヲ得ントスルノ訴ハ検事長及ヒ民事原告人ノミノ為メニ開始セラルヽモノトス但シ民事原告人ハ自己ニ関スル所ノモノヽミニ付キ其訴ヲ為スコトヲ得可シ
第四百七拾四条 如何ナル場合ニ於テモ重罪被告人中一名ノ缺席ハ出席シタル其共同重罪被告人ニ関シテ当然審理ヲ停止ス可カラス又之ヲ延ハス可カラス
裁判所ハ其共同重罪被告人ヲ裁判シタル後嘗テ有罪ノ証拠物トシテ書記局ニ納メタル物品ヲ其所有者又ハ承権人ヨリ得ント求ムル時ハ之ヲ還付ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ○裁判所ハ亦別段ノ理由アルニ於テハ更ニ其物件ヲ差出ス可キノ負任ヲ定メシメテ之レカ還付ヲ命令スルコトヲ得可シ
其還付ヲ為ス前ニ書記ニ於テ其明記ノ調書ヲ作ル可ク若シ之ニ違フ時ハ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第四百七拾五条 若シ重罪被告人ノ妻子、父母ノ窮乏ナル時ハ其財産ヲ第三ノ人ニ附託スル間此等ノ者ニ其扶助料ヲ給与スルコトヲ得可シ
其扶助料ハ行政官ニ於テ之ヲ規定ス可シ
第四百七拾六条 重罪被告人ノ期満効ニ依リ其刑ノ消滅セサル前ニ拘留セラレ又ハ逮捕セラレタル時ハ重罪缺席ニテ為シタル裁判及ヒ拘引又ハ出席ノ命令書ヨリ後ニ其重罪被告人ニ対シテ為シタル訴ノ手続ヲ当然無効ノモノト為シ其重罪被告人ニ関シテ通常ノ法式ヲ以テ処分ス可キモノトス
若シ然レトモ重罪缺席ニ於ケル刑ノ言渡カ准死ヲ惹起ス可キ性質ノモノニシテ其重罪被告人ノ其缺席裁判執行ノ時ヨリ五年ノ後ニ至リテ逮捕セラレ又ハ投首シタル時ハ其裁判ハ民法第三十条ニ従ヒ其五年ノ期限ノ終リシ時期ヨリ其重罪被告人ノ裁判所ニ出タル日ニ至ル迄ノ時間ニ准死ヨリ生シタル効ヲ既往ニ付キ保存ス可キモノトス
第四百七拾七条 若シ前条ニ定メタル場合ニ於テ其原由ノ如何ヲ問ハス弁論ノ席ニ証人ヲ出スコト能ハサル時ハ其証拠ノ申述書及ヒ同罪ヲ犯セシ他ノ重罪被告人ノ返答書ヲ審問席ニ於テ読上ク可シ其他又其犯罪及ヒ犯罪人ヲ明瞭ナラシム可キ性質ノモノナリト裁判所長ノ思考シタル総テノ証拠物ニ付テモ亦右ト同一タル可シ
第四百七拾八条 投首シタル後ニ重罪公訴ノ免訴ヲ得タル重罪缺席者ハ常ニ必ス其重罪缺席ニ依テ生セシメタル費用ノ償還ヲ言渡サル可シ
○第三章 裁判官ノ其職務外ニテ行ヒタル犯罪及ヒ其職務ノ執行ニ於テ行ヒタル犯罪
○第壱節 裁判官ノ其職務外ニテ行ヒタル重罪及ヒ軽罪ノ為メ其裁判官ニ対スル起訴及ヒ審理
第四百七拾九条 若シ治安裁判官、懲治裁判所又ハ始審裁判所ノ裁判官又ハ此等ノ裁判所中ノ一箇ニ於テ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ノ其職務外ニテ懲治ノ刑ニ当ル可キ軽罪ヲ行ヒシ旨ヲ訴ヘラレタル時ハ控訴裁判所ノ検事長之ヲ其裁判所ニ呼出サシメ而シテ其裁判所ヨリ宣告ヲ為ス可シ但シ其宣告ハ之ヲ控訴スルコトヲ得サルモノトス
第四百八拾条 若シ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル可キ重罪ニ関スル時ハ控訴裁判所ノ検事長ハ司法警察官ノ職務ヲ執行ス可キ官吏ヲ指定シ又控訴裁判所長ハ予審裁判官ノ職務ヲ執行ス可キ官吏ヲ指定ス可シ
第四百八拾壱条 若シ控訴裁判所ノ裁判官又ハ控訴裁判所ニ於テ検察官ノ職務ヲ執行スル官吏カ其職務外ニテ軽罪又ハ重罪ヲ行ヒシ旨ヲ訴ヘラレタル時ハ其告発状又ハ告訴状ヲ受ケタル官吏ハ前ニ規定シタル如クニ継続ス可キ審理ヲ遅延セシムルコトナク直チニ其告発状又ハ告訴状ノ写ヲ司法卿ニ送呈シ並ニ又其証拠物ノ写ヲ同卿ニ送呈ス可シ
第四百八拾弐条 司法卿ハ其証拠物ヲ大審院ニ送付シ而シテ大審院ニ於テハ別段ノ理由アル時ハ其犯罪被告人所属ノ控訴裁判所管轄地外ニアル懲治警察裁判所若クハ予審裁判官ニ其訴ヲ移送ス可シ
若シ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告スル事ニ関スル時ハ他ノ控訴裁判所ニ移送ヲ為ス可シ
○第弐節 大審院ノ各裁判官、控訴裁判所全体及ヒ重罪裁判所全体ヲ除クノ外其他ノ裁判官及ヒ裁判所ニ対シ其涜職ノ罪及ヒ其職務ニ関スル其他ノ重罪又ハ軽罪ノ為メ其裁判官及ヒ裁判所ニ対スル起訴及ヒ審理
第四百八拾三条 若シ治安裁判官或ハ警察裁判官又ハ商事裁判所ノ裁判官、司法警察官、懲治裁判所或ハ始審裁判所ノ裁判官又ハ此等ノ裁判官或ハ裁判所中ノ一箇ニ対シテ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ノ其職務ノ執行ニ於テ懲治ノ刑ニ当ル可キ軽罪ヲ行ヒシ旨ヲ訴ヘラレタル時ハ第四百七十九条ニ記シタル如クニ其犯罪ヲ訴ヘ及ヒ之ヲ裁判ス可シ
第四百八拾四条 若シ前条ニ明記シタル性質ノ官吏カ涜職ノ刑又ハ其他ノ更ニ重劇ノ刑ニ当ル可キ重罪ヲ行ヒシ旨ヲ訴ヘラレタル時ハ通常、予審裁判官及ヒ検事ニ任セラレタル職務ハ控訴裁判所長及ヒ控訴裁判所ノ検事長ニ於テ各自其関係アル所ノモノニ付キ直チニ之ヲ履行シ又ハ控訴裁判所長及ヒ控訴裁判所ノ検事長ヨリ各自特ニ指定シタル其他ノ官吏ニ於テ直チニ之ヲ履行ス可シ
犯罪ノ物件ノ存在スル場合ニ於テハ右ノ代任アルニ至ル迄ノ間ハ総テノ司法警察官ニ於テ其犯罪ノ物件ヲ証明スルコトヲ得可シ而シテ又其余ノ訴ノ手続ニ付テハ此法典ノ一般ノ成規ニ従フ可キモノトス
第四百八拾五条 若シ職務ノ執行ニ於テ行ヒシモノニシテ涜職ノ刑又ハ其他ノ更ニ重劇ノ刑ニ当ル可キ重罪カ商事裁判所、懲治裁判所又ハ始審裁判所ノ全員ニ帰セラレ若クハ各個ニ控訴裁判所ノ裁判官一名或ハ数名又ハ控訴裁判所ニ於ケル検事長及ヒ其代職ニ帰セラレタル時ハ以下ニ記スル如クニ処分ス可キモノトス
第四百八拾六条 其重罪ハ之ヲ司法卿ニ告発シ司法卿ハ別段ノ理由アル時ハ其告発ニ依リ之ヲ訴フ可キ旨ヲ大審院ノ検事長ニ命令ス可シ
其重罪ハ亦損害ヲ被ムリタリト称言スル各人ヨリ直接ニ之ヲ大審院ニ告発スルコトヲ得可シ但シ其各人ヨリ裁判所又ハ裁判官ニ対シテ損害賠償ヲ得ント訟求スル時又ハ其告発カ大審院ニ於テ審理中ノモノタル訴ニ附帯シタル時ノミニ限ル可シ
第四百八拾七条 若シ大審院ノ検事長カ司法卿ヨリ己レニ送付シタル証拠物又ハ関係人ヨリ差出シタル証拠物ニ於テ其必要ナリト思考スル所ノ総テノ参照件ヲ見出サヽル時ハ其請求ニ依リ大審院長ヨリ其院ノ裁判官中一名ヲ指定メ同院所在ノ都府ニ於テ為スコトヲ得可キ証人ノ訊問及ヒ其他ノ予審ノ所為ヲ行ハシム可シ
第四百八拾八条 若シ大審院所在ノ都府外ニ於テ証人ヲ訊問シ又ハ予審ノ所為ヲ行フ可キ時ハ大審院長ヨリ之レカ為メ其犯罪ヲ訴ヘラレタル裁判所又ハ裁判官ノ州郡ヨリ更ニ他ノ州郡ノモノタリトモ予審裁判官一名ニ総テ必要ナル代任ヲ為ス可シ
第四百八拾九条 前条ニ記載セラレタル予審裁判官ハ証人ヲ訊問シ及ヒ己レニ委任セラレタル予審ヲ終了シタル後、調書及ヒ其他ノ証書ヲ封緘シテ之ヲ大審院長ニ差送ル可シ
第四百九拾条 大審院長ハ司法卿ヨリ送付セラレタル証拠物又ハ関係人ヨリ差出シタル証拠物若クハ其後ニ得タル参照件ヲ検視シタル上ニテ拘留状ヲ発ス可キコトアル時ハ之ヲ発ス可シ
其令状ニハ犯罪被告人ヲ入レ置ク可キ収監場ヲ指定ス可キモノトス
第四百九拾壱条 大審院長ハ直チニ其訴ノ手続ノ書類ヲ検事長ニ通知伝観セシム可キ旨ヲ命令シ而シテ検事長ハ次キノ五日内ニ犯罪被告人ノ犯罪告発ヲ記シタル自己ノ請求書ヲ願訴局ニ差送ル可シ
第四百九拾弐条 願訴局ニ差出シタル犯罪告発状ヨリ前ニ拘留状ヲ発シタルト否トヲ問ハス其局ニ於テハ総テノ事件ヲ止息シテ之ヲ裁定ス可シ
若シ其局ニ於テ犯罪告発状ヲ棄却スル時ハ犯罪被告人ノ釈放ヲ命令ス可シ
若シ其局ニ於テ犯罪告発状ヲ容受スル時ハ犯罪ヲ訴ヘラレタル裁判所又ハ裁判官ヲ民事局裁判官ノ面前ニ移送シ民事局裁判官ハ重罪裁判所ニ移ス事ニ付キ宣告ヲ為ス可シ
第四百九拾三条 大審院ニ於テ審理中ノモノタル訴ニ附帯シタル犯罪ノ告発ハ其訴ヲ掌轄シタル局ニ之ヲ申告ス可シ而シテ其告発ノ容受セラレタル時ハ刑事局又ハ願訴局ヨリハ之ヲ民事局ニ移送シ又民事局ヨリハ之ヲ願訴局ニ移送ス可シ
第四百九拾四条 若シ裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴又ハ総テ其他ノ訴ヲ審問スルニ当リ直接又ハ附帯ノ犯罪告発ヲ受クル事ナクシテ大審院中ノ一局ニ於テ第四百七十九条ニ明記シタル性質ノ裁判所又ハ裁判官ヲ重罪上ニテ訴ヘシム可キ性質ノ或ル犯罪ヲ発見シタル時ハ其局ヨリ職権上ニテ前条ニ従ヒ移送ヲ命令スル事ヲ得可シ
第四百九拾五条 若シ併合シタル数局ニ申告シタル訴ノ審問ニ依リ前条ニ明記シタル職権上ノ移送ヲ為ス可キ時ハ民事局ニ其移送ヲ為ス可シ
第四百九拾六条 如何ナル場合ニ於テモ犯罪ノ告発ニ依リ又ハ職権ニ依リ移送ヲ為サレタル局ハ重罪裁判所ニ移ス事ニ付キ宣告ヲ為ス可シ
其局長ハ法律上ニテ予審裁判官ニ附与スル所ノ職務ヲ履行ス可シ
第四百九拾七条 其局長ハ証人ノ訊問及ヒ犯罪被告人ノ審訊ヲ其犯罪被告人所在ノ郡及ヒ州ノ外ニテ撰ミタル者ト雖モ他ノ予審裁判官ニ委任スル事ヲ得可シ
第四百九拾八条 其局長ヨリ交付スル所ノ収監状ニハ其犯罪被告人ヲ送致ス可キ収監場ヲ指定ス可シ
第四百九拾九条 大審院中ノ其訴ヲ掌轄シタル局ニ於テハ公ケナラサル会席ニテ重罪裁判所ニ移ス事ヲ議定ス可シ但シ其裁判官ノ員数ハ奇数タラサルヲ得サルモノトス
若シ裁判官中ノ多数ニ於テ重罪裁判所ニ移ス可カラスト思考スル時ハ裁判書ヲ以テ其犯罪ノ告発ヲ棄却シ而シテ検事長ハ犯罪被告人ヲ釈放セシム可シ
第五百条 若シ裁判官中ノ多数ニ於テ重罪裁判所ニ移ス可シト思考スル時ハ裁判書ヲ以テ重罪裁判所ニ移ス旨ヲ宣告ス可シ但シ其裁判書ニハ亦拘引ノ命令ヲ記載ス可キモノトス
右ノ裁判書ニ拠リ重罪被告人ハ大審院ヨリ其裁判書ヲ以テ指定シタル重罪裁判所ノ拘留場内ニ之ヲ移ス可キモノトス
第五百壱条 右ノ如クニ大審院ニ於テ為シタル予審ハ其法式ニ付テハ之ヲ駁撃スル事ヲ得ス
其予審ハ罪ヲ訴ヘラレタル裁判所又ハ裁判官ノ従犯カ司法上ノ職務ヲ執行セサル時ト雖モ其従犯ニ共通ノモノトス
第五百弐条 右ノ外此法典ノ其他ノ成規ニシテ本章ニ定メタル処分ノ法式ニ牴触セサルモノハ之ヲ遵守ス可シ
第五百三条 若シ訴ヲ移送セラレタル重罪裁判所ノ裁判ニ対シテ為シタル破毀ノ訴ヲ掌轄スル所ノ刑事局中ニ嘗テ他ノ局中ノ一箇ニ於テ重罪裁判所ニ移ス事ヲ賛助セシ裁判官ノアル時ハ其裁判官ハ其裁判ニ関スル事ヲ差控ユ可シ
然レトモ数局併合ヲ為ス可キ第二回ノ破毀ノ訴ノ場合ニ於テハ如何ナル裁判官ト雖モ之ヲ裁定スル事ヲ得可シ
○第四章 設置セラレタル官憲ニ対スル尊敬ヲ失フノ罪
第五百四条 若シ審問席ニ於テ又ハ其他総テ裁判上ノ審理ヲ公ケニ為ス所ノ場所ニ於テ来聴者中ノ一名亦ハ数名カ称讃又ハ誹謗ノ形容ヲ為シ又ハ其方法ノ如何ヲ問ハス騒擾ヲ起シタル時ハ裁判所長又ハ裁判官之ヲ逐出サシム可ク而シテ若シ其者ノ右ノ命令ニ抗シ又ハ更ニ再ヒ入リ来ル時ハ裁判所長又ハ裁判官之ヲ逮捕シテ収監場ニ送致ス可キ旨ヲ命令シ其命令ヲ調書ニ記載ス可シ但シ収監場ノ監守人ニ右ノ命令書ヲ示シタル上ニテ其騒擾者ヲ収監場ニ収受シ二十四時間之ヲ留置ク可キモノトス
第五百五条 若シ其騒擾ニ添ヘテ誹毀又ハ強暴ヲ行ヒ之レカ為メ後ニ懲治ノ刑又ハ警察ノ刑ヲ適用ス可キ時ハ其会席ニ於テ右ノ所為ヲ証明シタル後直チニ左ノ如ク其刑ヲ宣告スル事ヲ得可シ
単一ナル警察ノ刑ハ如何ナル裁判所又ハ裁判官ヨリ発スルヲ問ハス控訴ナク之ヲ宣告ス可シ
懲治警察ノ刑ハ控訴ヲ受ク可キ裁判所ヨリ其言渡ヲ為シ又ハ裁判官一名ノミニテ其言渡ヲ為シタル時ハ控訴ノ負任ニテ之ヲ宣告ス可シ
第五百六条 若シ裁判官一名ノミノ審問席又ハ控訴ヲ受ク可キ裁判所ノ審問席ニ於テ行ヒタル重罪ニ関スル時ハ其裁判官又ハ裁判所ニ於テ犯罪人ヲ逮捕セシメ且ツ其所為ノ調書ヲ作リタル後其証拠物ト犯罪被告人トヲ該管裁判官ノ面前ニ送ル可シ
第五百七条 大審院、控訴裁判所、重罪裁判所ノ審問席ニテ行ヒタル所ノ重罪ニ変性セシ強暴又ハ総テ其他ノ現行重罪ニ関シテハ其裁判所ニ於テ即時直チニ裁判ニ取掛ル可シ
其裁判所ニ於テハ証人、犯罪人並ニ其犯罪人ノ自ラ撰ミ又ハ裁判所長ヨリ其犯罪人ノ為メニ指定シタル代弁人ノ申述ヲ聴キ且ツ其所為ヲ証明シテ検事長又ハ其代職ノ申立ヲ聴キタル後其理由ヲ附シタル裁判ヲ以テ刑ヲ適用ス可シ但シ右ノ諸件ハ公ケニ為ス可キモノトス
第五百八条 前条ノ場合ニ於テ若シ審問席ニアル裁判官ノ員数ノ五名又ハ六名タル時ハ其刑ノ言渡ヲ為スニハ四名ノ発言ヲ必要トス
若シ其員数ノ七名タル時ハ刑ノ言渡ヲ為スニハ五名ノ発言ヲ必要トス
若シ其員数ノ八名以上タル時ハ全員四分三ノ発言ヲ以テ刑ヲ言渡ス裁判ヲ宣告ス可シ然レトモ其四分三ノ算計ニ於テ若シ端数アル時ハ其端数ヲ犯罪不問ノ為メニ用フ可キモノトス
第五百九条 州長、郡長、邑長及ヒ副職、行政警察官又ハ司法警察官ハ其職務上ノ所為ヲ公ケニ履行スル時ハ亦第五百四条ニ規定セラレタル警察上ノ職務ヲ執行ス可シ而シテ右ノ各員ハ騒擾者ヲ召捕ヘシメタル後其犯罪ノ調書ヲ作リテ別段ノ理由アル時ハ其調書ト犯罪被告人トヲ該管裁判官ノ面前ニ送ル可シ
○第五章 重罪、懲治罪及ヒ違警罪ノ事項ニ於テ皇族及ヒ政府ノ或ル官員ノ証拠申述ヲ受ク可キ方法
第五百拾条 王家ノ血統タル男女ノ皇族、大臣及ヒ司法卿ハ陪審ノ面前ニ於テ為ス所ノ弁論ニ付テモ決シテ証人トシテ呼出スコトヲ得ス但シ関係入中一方ノ訟求ト司法卿ノ報告トニ依リ国王ヨリ特別ノ命令ニ依リ其出席ヲ允許シタル時ハ格別ナリトス
第五百拾壱条 前条ニ指名シタル各人カ控訴裁判所ノ首地ニ居住シ又ハ其首地ニ在ル時ハ前ニ定メタル例外ヲ除クノ外其分限アル各人ノ証拠申述ハ控訴裁判所長ニ於テ之ヲ書面ニ記シテ収受ス可ク若シ然ラサル時ハ右各人ノ住所ヲ有シ又ハ其偶然在ル所ノ郡ノ始審裁判所長ニ於テ其証拠申述ヲ書面ニ記シテ之ヲ収受ス可シ
之レカ為メ其訴ヲ掌轄シタル裁判所又ハ予審裁判官ヨリ前ニ記シタル裁判所長ニ其証拠ヲ要スル所ノ所為、訟求及ヒ問題ノ目録ヲ差送ル可シ
其裁判所長ハ右各人ノ証拠申述ヲ受クル為メ其居所ニ赴ク可シ
第五百拾弐条 右ノ如クニ収受シタル証拠申述書ハ直チニ之ヲ書記局ニ差出シ又ハ之ヲ封緘シテ其請求ヲ為シタル裁判所或ハ裁判官ニ送リ且ツ猶予ナク之ヲ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ニ通知伝観セシム可シ
陪審ノ面前ニ於ケル訊問ニ於テハ其証拠申述書ヲ公ケニ陪審員ニ読ミ聞カセテ弁論ニ附ス可ク若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第五百拾三条 国王ヨリ前ニ指定シタル各人中或者ノ陪審ノ面前ニ出席スル事ヲ命令シ又ハ允許シタル場合ニ於テハ其命令書ニ右ノ者ニ関シテ遵守ス可キ礼式ヲ指定スヘシ
第五百拾四条 司法卿ヲ除クノ外其他各省ノ卿、宮内ノ高官、公ケノ行政中ノ一部分ヲ委任セラレタル参議員、現役ノ将官、外国ノ朝廷ニ派出シタル大使又ハ其他ノ国王ノ代理員ニ関シテハ左ノ如クニ処分ス可シ
若シ右各人ノ居住ノ地又ハ其偶然在ル所ノ地ノ重罪裁判所又ハ予審裁判官ノ面前ニ於テ右各人ノ証拠申述ヲ要スル時ハ右ノ各人ハ通常ノ法式ヲ以テ其証拠申述ヲ為サヽルヲ得ス
若シ右各人ノ其職務執行ノ為メニ居住スル地及ヒ右各人ノ偶然在ル所ノ地ノ外ニ於テ訴ヘラレタル事件ニ関係アル証拠申述ニ関シ而シテ陪審ノ面前ニ於テ其証拠申述ヲ要セサル時ハ其訴ヲ掌轄スル裁判所長又ハ予審裁判官ヨリ右諸官吏ノ其職務ノ為メニ居住スル地ノ裁判所長又ハ予審裁判官ニ右官吏ノ証拠ヲ要スル所ノ所為、訟求及ヒ問題ノ目録ヲ差送ル可シ
若シ外国政府ニ派出シタル代理員ノ証拠ニ関スル時ハ右ノ目録ヲ司法卿ニ差送ル可ク而シテ司法卿ハ其地ニ之ヲ差送リテ証拠申述ヲ受ク可キ者ヲ指定ス可シ
第五百拾五条 前条ニ記シタル目録ヲ差送ラレタル裁判所長又ハ予審裁判官ハ右ノ諸官吏ヲ自己ノ面前ニ呼出サシメ書面ヲ以テ其証拠申述ヲ受ク可シ
第五百拾六条 右ノ証拠申述書ハ之ヲ封緘シテ其請求ヲ為シタル裁判所又ハ裁判所ノ書記局ニ之ヲ送リ且ツ第五百十二条ニ記シタル如ク之ヲ通知伝観セシメ並ニ之ヲ読聞カス可シ若シ之ニ違フ時ハ同条ニ記スル所ニ同シキ罰款ヲ受ク可キモノトス
第五百拾七条 若シ第五百十四条ニ明記シタル性質ノ官吏カ其職務執行ノ為メニ居住スル地又ハ其偶然在ル所ノ地ノ外ニ於テ集会シタル陪審ノ面前ニ証人トシテ出席スル為メニ呼出サルヽ時ハ国王ノ命令ヲ以テ之ヲ免セラルヽコトヲ得可シ
此場合ニ於テ右ノ官吏ハ書面ヲ以テ其証拠ヲ申述ス可ク而シテ第五百十四条、第五百十五条、第五百十六条ニ定メタル成規ヲ遵守ス可シ
○第六章 刑ヲ言渡サレテ逃亡シ更ニ逮捕セラレタル者ノ人違ヒニ非サル事ノ認定
第五百拾八条 刑ヲ言渡サレテ逃亡シ更ニ逮捕セラレタル者ノ人違ヒニ非サル事ノ認定ハ其刑ノ言渡ヲ宣告シタル裁判所ニ於テ之ヲ為ス可シ
流刑又ハ追放ノ刑ヲ言渡サレタル者ノ其追放ノ命令ヲ犯シテ更ニ逮捕セラレタル時ハ其者ノ人違ヒニ非サル事ノ認定ニ付キ亦右ト同一タル可シ而シテ裁判所ハ其人違ヒニ非サル旨ヲ宣告スルニ当リ更ニ法律上ニテ右ノ違犯ニ附スル所ノ刑ヲ其者ニ適用ス可キモノトス
第五百拾九条 総テ右ノ裁判ハ裁判所ニ於テ検事ノ請求ニ依リ招喚シタル証人ノ申述ヲ聴キ若シ又更ニ逮捕セラレタル者ヨリ証人ヲ呼出サシメタル時ハ其者ノ請求ニ依リ招喚シタル証人ノ申述ヲ聴キタル後陪審ノ補助ナクシテ之ヲ為ス可シ
其審問席ハ公ケノモノタル可ク且ツ其更ニ逮捕セラレタル者ハ必ス其席ニ在ル可シ若シ之ニ違フ時ハ無効ナリトス
第五百弐拾条 検事長及ヒ更ニ逮捕セラレタル者ハ其人違ヒニ非サル事ノ認定ニ於ケル訴ニ依リ為シタル裁判ニ対シ此法典ニ定メタル法式ト期限トニ於テ破毀ヲ得ント上訴スルコトヲ得可シ
○第七章 訴ノ証拠物又ハ裁判書ノ滅尽又ハ取去ノ場合ニ於テ処分スルノ方法
第五百弐拾壱条 若シ火災、洪水又ハ総テ其他ノ非常ナル原由ニ依リ重罪又ハ懲治罪ノ事項ニ於テ為シタル裁判書ノ細字正本ニシテ未タ執行セサルモノ又ハ未決ノ手続書ノ滅尽シ又ハ取去ラレ又ハ之ヲ見失ヒ而シテ更ニ之ヲ取戻スコト能ハサル時ハ以下ニ記スル如クニ処分ス可シ
第五百弐拾弐条 若シ裁判書ノ公正ナル副本又ハ写ノ存在スル時ハ之ヲ細字正本ト看做ス可ク依テ裁判書保存ノ為メニ設ケタル預リ所ニ之ヲ納ム可シ
之レカ為メ裁判書ノ公正ナル副本又ハ写ノ受託者タル各個ノ公ケノ役員又ハ各個ノ人民ハ其裁判ヲ為シタル裁判所ノ長ヨリ附与セラレタル命令書ニ依リ其裁判所ノ書記局ニ其副本又ハ写ヲ納ム可ク若シ之ニ違フ時ハ拘留ヲ受ク可シ
其命令書ハ右ノ受託者ノ為メニハ其証拠物ニ付キ関係ヲ有スル各人ニ対シテ義務免除証書ノ用ヲ為スモノトス
其滅尽シ、取去ラレ又ハ見失ヒタル細字正本ノ公正ナル副本又ハ写ノ受託者ハ公ケノ預リ所ニ之ヲ納メタル上無費ニテ之レカ副本ヲ受取ルコト自由ナリトス
第五百弐拾三条 若シ重罪ノ事項ニ於テ其裁判書ノ公正ナル副本又ハ写ノ最早存在セサル時陪審ノ決断書ノ細字正本又ハ其公正ナル写ノ猶存在スルニ於テハ其決断書ニ従ヒ更ニ再ヒ裁判ニ取掛ル可シ
第五百弐拾四条 若シ陪審ノ決断書ヲ最早差出スコトヲ得サル時又ハ陪審ナクシテ訴ヲ裁判シ之レカ証拠タル書面ノ存在セサル時ハ細字正本並ニ公正ナル副本又ハ写ニ於テ其証拠物ノ欠缺シタル点ヨリ更ニ再ヒ審理ヲ為シ始ム可キモノトス
○第五巻 裁判管轄ヲ定ムルノ訴及ヒ此ノ裁判所ヨリ彼ノ裁判所ニ裁判管轄ヲ移スノ訴
○第壱章 裁判管轄ヲ定ムルノ訴
第五百弐拾五条 凡ソ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ハ簡略ノ式ヲ以テ単一ナル覚書ニ依リ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可シ
第五百弐拾六条 若シ此彼互ニ管轄ヲ受ケサル上等裁判所、下等裁判所又ハ予審裁判官ニ於テ同一ノ犯罪又ハ相牽連シタル犯罪又ハ同一ノ違警罪ノ裁定ヲ掌轄シタル時ハ重罪、懲治罪又ハ違警罪ノ事項ニ付キ大審院ニ於テ其裁判管轄ヲ定ム可キモノトス
第五百弐拾七条 若シ一方ニ付テハ陸海軍ノ裁判所又ハ陸軍警察官又ハ総テ其他ノ特別裁判所ト他ノ一方ニ付テハ控訴裁判所、重罪裁判所、懲治裁判所、警察裁判所又ハ予審裁判官トニ於テ同一ノ犯罪又ハ相牽連シタル犯罪又ハ同一ノ違警罪ノ裁定ヲ掌轄シタル時ハ亦大審院ニ於テ其裁判管轄ヲ定ム可キモノトス
第五百弐拾八条 大審院ノ刑事局ニ於テハ請願書及ヒ証拠物ヲ検視シタル上ニテ其諸件ヲ関係人ニ通知伝観セシム可キ旨ヲ命令シ又ハ確然裁定ス可シ但シ其裁定ニ付テハ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第五百弐拾九条 犯罪被告人、重罪被告人又ハ民事原告人ヨリ為シタル裁判管轄牴触ノ上訴ニ依リ通知伝観ヲ命令スル場合ニ於テハ其裁定書ヲ以テ相抗競シテ掌轄シタル二箇ノ裁判官憲ニ於テ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏双方ニ其訴ノ証拠物ト管轄牴触ニ付テノ其理由ヲ付シタル意見書トヲ差出ス可キ旨ヲ命ス可シ
第五百三拾条 若シ右官吏中ノ一方ヨリ為シタル上訴ニ依リ通知伝観ヲ命令スル時ハ其裁判書ヲ以テ他ノ一方ニ証拠物ト其理由ヲ附シタル意見書トヲ差出ス可キ旨ヲ命令ス可シ
第五百三拾壱条 通知伝観ヲ為サシムルノ裁判書ニハ管轄牴触ヲ生セシメタル所為ノ簡略ナル記載ヲ為シ且ツ場所ノ距離ニ従ヒ証拠物ト理由ヲ附シタル意見書トヲ書記局ニ持来ル可キ期限ヲ定ム可シ
右ノ裁判書ヲ関係人ニ送付シタル時ハ当然訴ノ裁判ノ猶予ヲ惹起ス可ク又重罪ノ事項ニ於テハ重罪裁判所ニ移ス事ノ猶予ヲ惹起ス可ク若シ又既ニ重罪裁判所ニ移ス事ヲ宣告シタル時ハ重罪裁判所ニ於テ陪審ヲ組成スル事ノ猶予ヲ惹起ス可シ然レトモ権利保存又ハ審理ノ所為及ヒ手続ノ猶予ハ之ヲ惹起セサルモノトス
犯罪被告人又ハ重罪被告人及ヒ民事原告人ハ破毀ヲ得ントスルノ訴ニ付キ本編第三巻第二章ニ規定シタル法式ヲ以テ管轄牴触ニ付テノ其憑拠ヲ呈示スルコトヲ得可シ
第五百三拾弐条 若シ単一ナル請願書ニ依リ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ裁定スル所ノ裁判ヲ為シタル時ハ其裁判書ヲ大審院検事長ノ求メニ依リ且ツ司法卿ヲ経由シテ其管轄ヲ釈カレタル上等裁判所、下等裁判所又ハ裁判官ニ対シテ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ニ送付ス可シ
其裁判書ハ犯罪被告人又ハ重罪被告人ト民事原告人アル時ハ其民事原告人トニ亦右ニ同シク之ヲ送付ス可シ
第五百三拾三条 犯罪被告人又ハ重罪被告人及ヒ民事原告人ハ破毀ヲ得ントスルノ訴ニ付キ本編第三巻第二章ニ定メタル法式ヲ以テ三日ノ期限内ニ其裁判書ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ
第五百三拾四条 前条ニ記シタル故障申立ハ第五百三十一条ニ記シタル如ク当然訴ノ裁判ノ猶予ヲ惹起スルモノトス
第五百三拾五条 拘留セラレタル犯罪被告人又ハ拘留場ニ留置カレサル重罪被告人及ヒ民事原告人ハ若シ予メ其管轄ノ牴触スル二箇ノ裁判官憲中一箇ノ所在ノ地ニ於テ住所ヲ撰定セス又ハ第五百三十三条ニ定メタル期限内ニ其住所ヲ撰定セサル時ハ故障申立ノ利益ヲ許容セラレサルモノトス
若シ右各員ノ其住所ノ撰定ヲ為サヽル時ハ己レニ通知伝観ヲ受ケサル旨ヲ以テ亦其抗弁ノ憑拠ト為スコトヲ得ス但シ要求者ハ右ノ各員ニ関シテ其通知伝観ヲ為スコトヲ免セラルヽモノトス
第五百三拾六条 大審院ニ於テハ管轄牴触ヲ裁判スルニ付キ其管轄ヲ釈カレタル上等裁判所、下等裁判所又ハ裁判官ノ行ヒタル総テノ所為ヲ裁定ス可シ
第五百三拾七条 若シ管轄牴触ノ裁判ヨリ前ニ通知伝観ヲ為サシムルノ裁判ヲ為シ而シテ適法ニ其裁判ヲ執行シタル時ハ故障申立ノ方法ヲ以テ其裁判ヲ駁撃スルコトヲ得ス
第五百三拾八条 通知伝観ヲ為サシムルノ裁判ノ後又ハ故障申立ノ上ニテ発シタル裁判書ハ其前ニ発シタル裁判書ト同一ノ法式ヲ以テ同一ノ関係人ニ之ヲ送付ス可シ
第五百三拾九条 若シ犯罪被告人又ハ重罪被告人、検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏又ハ民事原告人ヨリ始審裁判所又ハ予審裁判官ノ管轄違ヲ申立テヽ抗弁ノ憑拠ト為シ又ハ他ノ裁判所ニ訴ヲ移サントスルノ申立ヲ為シタル時ハ其抗弁ノ憑拠ノ許容セラレタルト棄却セラレタルトヲ問ハス何人タリトモ裁判管轄ヲ定メシムル為メ大審院ニ訴フルコトヲ得ス但シ其始審裁判所又ハ予審裁判官ノ為シタル裁決ニ対シテ控訴裁判所ニ上訴スルコトヲ得可ク又別段ノ理由アル時ハ控訴裁判所ヨリ為シタル裁判ニ対シテ破毀ヲ得ント上訴スルコトヲ得可キモノトス
第五百四拾条 若シ同一ノ控訴裁判所ノ管轄地内ニ設置シタル二名ノ予審裁判官又ハ二箇ノ始審裁判所ニ於テ同一ノ犯罪又ハ相牽連シタル犯罪ノ裁定ヲ掌轄シタル時ハ本章ニ定メタル法式ニ従ヒ右ノ控訴裁判所ニ於テ其裁判管轄ヲ定ム可シ但シ別段ノ理由アル時ハ大審院ニ訴フルコトヲ得可キモノトス
若シ二箇ノ単一ナル警察裁判所ニ於テ同一ノ違警罪又ハ相牽連シタル違警罪ノ裁定ヲ掌轄シタル時ハ其二箇ノ警察裁判所ヲ管轄スル始審裁判所ニ於テ其裁判管轄ヲ定ム可シ若シ又其二箇ノ警察裁判所カ相異ナリタル始審裁判所ノ管轄ヲ受クルモノタル時ハ控訴裁判所ニ於テ其裁判管轄ヲ定ム可シ但シ別段ノ理由アル時ハ大審院ニ訴フルコトヲ得可キモノトス
第五百四拾壱条 民事原告人、犯罪被告人又ハ重罪被告人ノ其起シタル裁判管轄ヲ定ムルノ訴ニ於テ敗訴トナリタル時ハ三百「フランク」ノ金額ニ過ク可カラサル罰金ヲ言渡スコトヲ得可シ但シ其罰金ノ半額ハ相手方ニ給与ス可キモノトス
○第弐章 此ノ裁判所ヨリ彼ノ裁判所ニ裁判管轄ヲ移スノ訴
第五百四拾弐条 大審院ハ重罪、懲治罪及ヒ違警罪ノ事項ニ付キ同院ニ於ケル検事長ノ請求ニ依リ公ケノ安寧又ハ正当ナル嫌疑ノ原由ノ為メ一箇ノ訴ノ裁定ヲ此ノ控訴裁判所或ハ此ノ重罪裁判所ヨリ彼ノ控訴裁判所或ハ彼ノ重罪裁判所ニ移送シ又ハ此ノ懲治裁判所或ハ此ノ警察裁判所ヨリ之ト同性質ノ他ノ裁判所ニ移送シ又ハ此ノ予審裁判官ヨリ彼ノ予審裁判官ニ移送スルコトヲ得可シ
其移送ハ亦関係各人ノ請求ニ依リ之ヲ命令スルコトヲ得可シ然レトモ唯正当ナル嫌疑ノ原由ノ為メノミニ限ルモノトス
第五百四拾三条 凡ソ任意ニテ一箇ノ上等裁判所又ハ下等裁判所又ハ予審裁判官ノ面前ニ出テタル各関係人ハ其後ニ至リ正当ナル嫌疑ヲ生セシム可キ性質アル景況ノ起リタルニ非サレハ移送ヲ訟求スルコトヲ許サス
第五百四拾四条 検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ハ正当ナル嫌疑ノ原由ニ付キ移送ヲ訟求スル為メ直チニ大審院ニ上訴スルコトヲ得可シ然レトモ若シ公ケノ安寧ノ原由ニ付キ移送ノ訟求ニ関スル時ハ右ノ官吏ヨリ其要求書、其理由書及ヒ憑拠タル証拠物ヲ司法卿ニ送呈ス可ク而シテ司法卿ハ別段ノ理由アルニ於テハ大審院ニ之ヲ送付ス可シ
第五百四拾五条 大審院ノ刑事局ニ於テハ其請願書及ヒ証拠物ヲ検視シタル上ニテ確然裁定ヲ為シ又ハ諸件ヲ通知伝観セシム可キ旨ヲ命令ス可シ但シ其確然裁定ヲ為シタル場合ニ於テハ故障ヲ申立ツルコトヲ得可キモノトス
第五百四拾六条 若シ犯罪被告人、重罪被告人又ハ民事原告人ヨリ移送ヲ訟求シタル時大審院ニ於テ即時ニ其訟求ヲ容受スルコトヲモ又棄却スルコトヲモ適当ナリト思考セサル時ハ裁判書ヲ以テ右犯罪ノ裁定ヲ掌轄シタル上等裁判所、下等裁判所又ハ予審裁判官ニ対シテ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ニ右ノ訟求ヲ通知ス可キ旨ヲ命令シ且ツ右ノ官吏ニ其移送ノ訟求ニ付テノ理由ヲ附シタル意見書ト共ニ之レカ証拠物ヲ差出ス可キ旨ヲ命ス可シ又其裁判書ニハ右ノ外別段ノ理由アル時ハ相手方ニモ亦其通知ヲ為ス可キ旨ヲ命令ス可シ
第五百四拾七条 若シ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏ヨリ移送ノ訟求ヲ為シタル時大審院ニ於テ確然之ヲ裁定セサルニ於テハ大審院ヨリ別段ノ理由アル時ハ関係各人ニ其通知ヲ為ス可キ旨ヲ命令シ又ハ其必要ナリト思考スル所ノ其他ノ予審ノ処分ヲ宣告ス可シ
第五百四拾八条 凡ソ請願書及ヒ証拠物ヲ検視シタル上ニテ移送ノ訟求ニ付キ確然裁定ヲ為シタル裁判書ハ大審院ニ於ケル検事長ノ求メニ依リ且ツ司法卿ヲ経由シテ其管轄ヲ釈カレタル上等裁判所、下等裁判所又ハ予審裁判官ニ対シテ検察官ノ職務ヲ任セラレタル官吏若クハ民事原告人、犯罪被告人又ハ重罪被告人自身又ハ其撰定シタル住所ニ之ヲ送付ス可シ
第五百四拾九条 故障ノ申立ハ本巻第一章ニ定メタル規則ニ従ヒ且ツ其期限内ニ之ヲ為サヽル時ハ受理ス可カラス
第五百五拾条 故障ノ申立ヲ受理セラレタル時ハ第五百三十一条ニ記スル如ク当然其訴ノ裁判ノ猶予ヲ惹起スルモノトス
第五百五拾壱条 第五百二十五条、第五百三十条、第五百三十一条、第五百三十四条、第五百三十五条、第五百三十六条、第五百三十七条、第五百三十八条、第五百四十一条ハ此ノ裁判所ヨリ彼ノ裁判所ニ移送セントスルノ訟求ニ共通ノモノトス
第五百五拾弐条 移送ノ訟求ヲ棄却シタル裁判ハ其後ニ起リタル所為ニ基ク所ノ新タナル移送ノ訟求ヲ排斥ス可カラサルモノトス
○第六巻 特別裁判所
第五百五拾三条ヨリ第五百九十九条ニ至ル迄ノ各条ハ特別裁判所ヲ廃止シタル千八百三十年ノ憲法第五十四条ヲ以テ削除シタリ
○第七巻 公ケノ資益及ヒ一般ノ安寧ニ関スル或ル事件
○第壱章 裁判書書留ノ一般ノ貯蔵
第六百条 懲治裁判所及ヒ重罪裁判所ノ書記ハ懲治ノ為メノ禁錮ノ刑又ハ更ニ重劇ノ刑ヲ言渡サレタル各人ノ姓名、職業年齢、居住ヲ「アベセ」ノ順序ヲ以テ特別ノ簿冊ニ記載ス可シ但シ其簿冊ニハ各箇ノ訴及ヒ刑ノ言渡ノ簡略ナル書留ヲ記ス可ク若シ之ニ違フ時ハ各箇ノ遺脱毎ニ五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第六百壱条 書記ハ三月毎ニ右簿冊ノ写ヲ司法卿及ヒ警察卿ニ送呈ス可ク若シ之ニ違フ時ハ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第六百弐条 右ノ二卿ハ前ニ記シタル所ト同一ノ法式ヲ以テ其各箇ノ写ヨリ組成シタル総簿冊ヲ設ケシム可シ
○第弐章 獄舎、収監場及ヒ拘留場
第六百三条 処刑ノ為メニ設置シタル獄舎ニ拘ハラス各郡ニ於テ始審裁判所ニ附属シテ犯罪被告人ヲ留置ク為メノ収監場ヲ設ク可ク又各箇ノ重罪裁判所ニ附属シテ拘引ノ命令書ヲ発セラレタル者ヲ留置ク為メノ拘留場ヲ設ク可シ
第六百四条 収監場及ヒ拘留場ハ処刑ノ為メニ設置シタル獄舎ト全ク相異ナリタルモノトス
第六百五条 各州長ハ収監場及ヒ拘留場ノ堅牢ナルノミナラス其清潔ニシテ囚人ノ健康ヲ害セサルモノタル様注意ス可シ
第六百六条 収監場及ヒ拘留場ノ監守人ハ州長ヨリ之ヲ撰任ス可シ
第六百七条 収監場、拘留場及ヒ獄舎ノ監守人ハ一箇ノ簿冊ヲ設ケ置ク可シ
其簿冊ハ収監場ニ付テハ各頁毎ニ予審裁判官之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附ス可ク又拘留場ニ付テハ各頁毎ニ重罪裁判所長又其不在ニ於テハ始審裁判所長之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附ス可ク又処刑ノ為メノ獄舎ニ付テハ州長之ニ署名シ及ヒ花押ヲ附ス可シ
第六百八条 凡ソ収監状、拘引ノ命令書、拘留ノ命令書又ハ処刑言渡ノ裁判書ヲ執行スル者ハ其送致スル各人ヲ監守人ニ交付スル前ニ其所持スル所ノ証書ヲ簿冊ニ記入セシム可ク而シテ交付ノ証書ハ其者ノ面前ニ於テ之ヲ書記ス可シ
右ノ諸件ハ其者ト監守人トニ於テ之ニ署名ス可シ
監守人ハ其者ノ義務免除ノ為メ自己ノ署名シタル其写ヲ其者ニ交付ス可シ
第六百九条 如何ナル監守人タリトモ法律ニ定メタル法式ニ従ヒ発セラレタル拘留状若クハ収監状若クハ重罪裁判所ニ移スノ裁判書、重罪公訴ノ告令書又ハ施体ノ刑或ハ禁錮ノ刑ヲ言渡ス上等又ハ下等裁判所ノ裁判書ニ拠リ且ツ自己ノ簿冊ニ之レカ登記ヲ為シタルニ非サレハ如何ナル人ヲモ収受スルコトヲ得ス又之ヲ留置クコトヲ得ス若シ之ニ違フ時ハ擅枉ナル収監ノ罪アリトシテ訴ヘラレ及ヒ罰ヲ受ク可シ
第六百拾条 前ニ記シタル簿冊ニハ亦交付ノ証書ノ端ニ囚人ノ出場ノ日附並ニ其出場ヲ為サシムル命令書又ハ上等或ハ下等裁判所ノ裁判書ヲ附記ス可シ
第六百拾壱条 予審裁判官ハ本郡ノ収監場内ニ留置セラレタル各人ヲ少クトモ毎月一回巡視ス可シ
重罪裁判所長ハ拘留場内ニ留置セラレタル各人ヲ其重罪裁判所ノ各会席ヲ開ク毎ニ少クトモ一回巡視ス可シ
州長ハ本州内ノ各拘留場及ヒ獄舎並ニ囚人ヲ少クトモ毎年一回巡視ス可シ
第六百拾弐条 前条ニ定メタル巡視ニ拘ハラス収監場若クハ拘留場若クハ獄舎所在ノ各邑ノ邑長又邑長ノ数名アル各邑ニ於テハ警察総長又ハ警部長少クトモ毎月一回右各所ノ巡視ヲ為ス可シ
第六百拾三条 巴里ニ於テハ警察総長又州長ノ警察総長ノ職務ヲ履行スル所ノ各都府ニ於テハ州長又其他ノ各都府又ハ各邑ニ於テハ邑長其囚人ノ飲食物ノ充分ニシテ且ツ衛生上ノ害ナキコトニ注意ス可シ但シ右各所ノ警察権ハ右ノ各員ニ属スルモノトス
然レトモ予審裁判官及ヒ重罪裁判所長ハ収監場及ヒ拘留場内ニ於テ執行ス可キ総テノ命令ニシテ審理ノ為メ若クハ裁判ノ為メニ其必要ナリト思フ所ノモノヲ各自附与スルコトヲ得可シ
若シ予審裁判官カ犯罪被告人ニ関シテ接見ノ禁止ヲ定メサルヲ得スト思フ時ハ獄舎ノ簿冊ニ登記ス可キ命令書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス○其禁止ハ十日以外ニ及ホスコトヲ得スト雖モ之ヲ更新スルコトヲ得可シ○右ノ旨ハ之ヲ検事長ニ報告ス可キモノトス
第六百拾四条 若シ或ル囚人カ監守人又ハ其下役ニ関シ若クハ他ノ囚人ニ関シテ脅迫、罵詈又ハ暴行ヲ為ス時ハ其当然ノ権力アル者ノ命令ヲ以テ更ニ厳密ニ之ヲ禁錮シ又ハ唯一人ニテ之ヲ監禁シ又然ノミナラス暴怒又ハ重劇ナル暴行ノ場合ニ於テハ之ヲ鎖繋ス可キモノトス但シ之レカ為メニ為スコトアル可キ犯罪ノ訴ト相触ルヽコトナカル可シ
○第三章 不法ノ収監又ハ其他ノ擅枉ナル所為ニ対シテ各人ノ自由ヲ確保スルノ方法
第六百拾五条 共和立国第八年「フリメイル」月二十二日ノ憲法第七十七条、第七十八条、第七十九条、第八十条、第八十一条、第八十二条ニ拠リ何人ニ限ラス収監場、拘留場又ハ獄舎ノ用ニ供セサル場所ニ収監セラルヽ者アル事ヲ知リタル各人ハ治安裁判官、検事或ハ其代職又ハ予審裁判官又ハ控訴裁判所ニ於ケル検事長ニ其旨ヲ通知ス可シ
第六百拾六条 各治安裁判官、検察官ノ職務ヲ任セラレタル各官吏、各予審裁判官ハ其職権上ヨリ又ハ其受ケタル通知ニ依リ直チニ其擅枉ノ収監ヲ為シタル場所ニ赴キテ其収監セラレタル者ヲ釈放セシム可ク若シ又其収監ニ付キ或ル適法ノ原由ヲ申立テラレタル時ハ其収監セラレタル者ヲ即時ニ該管裁判官ノ面前ニ送致セシム可キモノトス若シ之ニ違フ時ハ其擅枉ナル収監ノ従犯トシテ其罪ヲ訴ヘラル可シ
其各員ハ右ノ諸件ヲ其調書ニ記ス可キモノトス
第六百拾七条 其各員ハ已ムヲ得サル場合ニ於テハ此法典第九十五条ニ定メタル法式ヲ以テ一箇ノ命令書ヲ発ス可シ
若シ抗拒スル者アル場合ニ於テハ其各員ハ必要ナル力ノ助ケヲ受クルコトヲ得可ク而シテ何人ニ限ラス其請求ヲ受ケタル者ハ助力ヲ為ス可キモノトス
第六百拾八条 凡ソ収監場、拘留場又ハ獄舎ノ警察権ヲ有スル文官ノ命令書ノ所持人ヨリ其収監セラレタル者ヲ見ント欲スルノ請求ヲ受ケテ之ヲ示スコトヲ否ミタル監守人又ハ其収監セラレタル者ヲ接見セシムルヲ禁止スル命令書ヲ示スコトヲ否ミタル監守人又ハ治安裁判官ニ其簿冊ヲ示スコトヲ否ミ或ハ治安裁判官ノ其簿冊ノ一部分ノ必要ナリト思考スル写ヲ取ラシムルコトヲ否ミタル監守人ハ擅枉ナル収監ノ罪アリ又ハ其従犯ナリトシテ其罪ヲ訴ヘラル可シ
○第四章 刑ヲ言渡サレタル者ノ復権
第六百拾九条 凡ソ施体又ハ加辱ノ刑又ハ懲治ノ刑ヲ言渡サレタル者ノ其刑ヲ受ケ終リタル時又ハ特赦状ヲ得タル時ハ復権セラルヽコトヲ得可シ
第六百弐拾条 施体又ハ加辱ノ刑ヲ言渡サレタル者ノ為メノ復権ノ諸願ハ其釈免ノ日ヨリ五年ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
然レトモ其期限ハ公権剥奪ノ刑ヲ言渡サレタル者ノ為メニハ其言渡ノ廃止ス可カラサルモノトナリタル日ヨリ之ヲ起算ス可ク又禁錮ノ刑ヲ宣告シタル時ハ其刑ノ終リタル日ヨリ之ヲ起算ス可シ
其期限ハ主刑トシテ宣告セラレタル高等警察ノ監視ヲ言渡サレタル者ノ為メニハ其言渡ノ廃止ス可カラサルモノトナリタル日ヨリ之ヲ起算ス可シ
其期限ハ懲治ノ刑ヲ言渡サレタル者ノ為メニハ之ヲ減シテ三年トス
第六百弐拾壱条 施体又ハ加辱ノ刑ヲ言渡サレシ者ハ五年以来同一ノ郡内ニ居住シ且ツ其最後ノ二年間ハ同一ノ邑内ニ居住シタルニ非サレハ其復権ヲ請願スルコトヲ許サレサルモノトス
懲治ノ刑ヲ言渡サレシ者ハ三年以来同一ノ郡内ニ居住シ且ツ最後ノ二年間ハ同一ノ邑内ニ居住シタルニ非サレハ其復権ヲ請願スルコトヲ許サレサルモノトス
第六百弐拾弐条 刑ヲ言渡サレシ者ハ其復権ノ請願書ヲ本郡ノ検事ニ差出シテ左ノ諸件ヲ申出ツ可シ
第一 其刑ノ言渡ノ日附
第二 釈免ノ時期ヨリ後ニ第六百二十条ニ定メタル時間ヨリモ更ニ長キ時間ノ経過シタル時ハ其釈免以後ニ居住シタル地
第六百弐拾三条 刑ヲ言渡サレシ者ハ其言渡サレタル裁判ノ費用、罰金及ヒ損害賠償ヲ弁済シタル事又ハ之ヲ釈放セラレタル事ヲ証明セサルヲ得ス
若シ刑ヲ言渡サレシ者ノ其証明ヲ為サヽルニ於テハ法律上ニ定メタル時間拘留ヲ受ケタル事又ハ損害ヲ被ムリタル者ノ其執行ノ方法ヲ放棄シタル事ヲ証セサルヲ得ス
若シ其者ノ詐欺ノ倒産ノ為メニ刑ヲ言渡サレシ時ハ家資分散ノ所働件ヲ元金、利息及ヒ費用共ニ弁済シタル事又ハ之ヲ釈放セラレタル事ヲ証明セサルヲ得ス
第六百弐拾四条 検事ハ其刑ヲ言渡サレシ者ノ居住シタル各邑ノ邑会ヲシテ左ノ諸件ヲ知ラシムル所ノ証明ヲ議定セシムル事ヲ郡長ヲ経由シテ要求ス可シ
第一 其者ノ各邑内ニ於ケル居住ノ時間並ニ其居住ヲ為シ始メタル日及ヒ之ヲ為シ終リタル日ノ指示
第二 其在住中ノ品行
第三 其在住中ノ生計ノ方法
右ノ証明書ニハ復権請願ノ判定ニ用フル為メ之ヲ作リタル旨ヲ明白ニ記載セサル可ラス
検事ハ右ノ外其刑ヲ言渡サレシ者ノ居住シタル各邑ノ邑長及ヒ各県ノ治安裁判官並ニ其郡ノ郡長ノ意見ヲ問フ可シ
第六百弐拾五条 検事ハ左ノ諸件ヲ受取ル可シ
第一 刑ヲ言渡シタル裁判書ノ副本
第二 刑ヲ言渡サレシ者ノ品行如何ヲ証明スル其処刑収監所ノ簿冊ノ抜書
検事ハ右ノ証拠物ニ自己ノ意見書ヲ添ヘテ之ヲ検事長ニ送付ス可シ
第六百弐拾六条 刑ヲ言渡サレシ者ノ居住スル地ヲ管轄スル控訴裁判所ハ其請願ヲ掌轄スルモノトス○其証拠物ハ検事長ノ管照ヲ以テ右裁判所ノ書記局ニ之ヲ納ム可シ
第六百弐拾七条 其証拠物ヲ納メタル時ヨリ二月内ニ其事件ヲ重罪取調局ニ報告シ而シテ検事長ハ書面ヲ以テ其理由ヲ附シタル請求ヲ為ス可シ
検事長ハ取調中何時タリトモ更ニ新タナル審理ヲ請求スルコトヲ得可ク又裁判所ハ仮令其職権上タリトモ之ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ之レカ為メ六月以上ノ遅延ヲ生セシムルコトヲ得ス
第六百弐拾八条 裁判所ニ於テハ検事長ノ申立ヲ聴キタル上ニテ其理由ヲ附シタル意見ヲ発ス可シ
第六百弐拾九条 若シ裁判所ノ意見カ復権ヲ可トセサルモノタル時ハ更ニ二年ノ期限ノ終ラサル前ニ再ヒ請願ヲ為スコトヲ得ス
第六百三拾条 若シ其意見カ復権ヲ可トスルモノタル時ハ其意見書ト差出シタル証拠物トヲ成ル可キ丈速カニ検事長ヨリ司法卿ニ送呈シ司法卿ハ嘗テ其刑ノ言渡ヲ宣告セシ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ諮問スルコトヲ得可シ
第六百三拾壱条 皇帝(共和国大統領)ハ司法卿ヨリ報告ノ上ニテ裁定ス可シ
第六百三拾弐条 請願許容ノ場合ニ於テハ復権状ヲ発ス可シ
第六百三拾三条 復権状ハ意見ヲ議定シタル裁判所ニ之ヲ差送ル可シ
又其公正ナル写ヲ嘗テ其刑ノ言渡ヲ宣告セシ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ差送ル可シ○其復権状ハ刑ヲ言渡セシ裁判書ノ細字正本ノ端ニ之ヲ登記ス可シ
第六百三拾四条 復権ハ刑ヲ言渡サレシ者ノ身ニ於テ将来其刑ノ言渡ヨリ生セシ所ノ総テノ無能力ヲ止息セシム
前記ノ成規ニ拠リ得タル復権ニ拘ハラス商法第六百十二条ニ定メタル禁止ヲ保存ス可シ
何人タリトモ重罪ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル後更ニ重罪ヲ犯シテ再ヒ施体又ハ加辱ノ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ハ復権ヲ許容セラレサルモノトス
刑ヲ言渡サレシ者ノ其復権ヲ得タル後更ニ再ヒ刑ノ言渡ヲ受ケタル時ハ最早前記ノ成規ノ利益ヲ許容セラレサルモノトス
○第五章 期満効
第六百三拾五条 重罪ノ事項ニ於テ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判書ニ載セタル刑ハ其裁判書ノ日附ヨリ起算シ満二十年ヲ以テ期満効ニ依リ消滅スルモノトス
然レトモ刑ヲ言渡サレタル者ハ其重罪ノ為メ身体又ハ財産ニ害ヲ受ケタル者若クハ其者ノ直系ノ相続人ノ居ル所ノ州内ニ居住スルコトヲ得ス
政府ハ刑ヲ言渡サレタル者ニ其住所ノ地ヲ指定ムルコトヲ得可シ
第六百三拾六条 懲治罪ノ事項ニ於テ為シタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判書ニ載セタル刑ハ其終審ニテ為シタル裁判書ノ日附ヨリ起算シ満五年ヲ以テ期満効ニ依リ消滅スルモノトス又始審裁判所ヨリ宣告シタル刑ニ関シテハ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得サルニ至リシ日ヨリ起算シ満五年ヲ以テ期満効ニ依リ消滅スルモノトス
第六百三拾七条 死刑又ハ無期ノ施体ノ刑ヲ惹起ス可キ性質ノモノタル重罪又ハ其他総テ施体或ハ加辱ノ刑ヲ惹起ス可キ重罪ヨリ生スル所ノ公訴権及ヒ民事訴権ハ其重罪ヲ行ヒタル日ヨリ起算シ満十年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス但シ其間ニ如何ナル審理ノ所為ヲモ又起訴ノ所為ヲモ行ハサルコトヲ必要トス
若シ其間ニ審理ノ所為又ハ起訴ノ所為ヲ行ヒタルコトアリテ之ニ引続テ裁判ヲ為サヽリシ時ハ仮令其審理ノ所為又ハ起訴ノ所為中ニ関係セサリシ各人ニ関シテモ其公訴権及ヒ民事訴権ハ最後ノ所為ヨリ起算シ満十年ノ後ニ非サレハ期満効ニ依リ消滅セサルモノトス
第六百三拾八条 若シ懲治上ニテ罰ス可キ性質ノモノタル軽罪ニ関スル時ハ前条ニ明記シタル二箇ノ場合ニ於テ且ツ前条ニ定メタル時期ノ差別ニ従ヒ期満効ノ期限ヲ減シテ満三年トス
第六百三拾九条 違警罪ニ付キ為シタル裁判書ニ載セタル刑ハ終審ニ於ケル上等又ハ下等裁判所ノ裁判ニ依リ宣告シタル刑ニ付テハ其裁判ノ日ヨリ起算シ満二年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトシ又始審裁判所ヨリ宣告シタル刑ニ関シテハ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得サルニ至リシ日ヨリ起算シ満二年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス
第六百四拾条 違警罪ノ為メノ公訴権及ヒ民事訴権ハ仮令調書、差押、審理又ハ起訴ノアリタル時ト雖モ若シ刑ノ言渡アラサルニ於テハ其違警罪ヲ行ヒタル日ヨリ起算シ満一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトシ若シ又控訴ノ方法ヲ以テ駁撃スルコトヲ得可キ性質ノモノタル始審ノ確定裁判アリタル時ハ其公訴権及ヒ民事訴権ハ控訴状ノ送付ヨリ起算シ満一年ノ後ニ期満効ニ依リ消滅スルモノトス
第六百四拾壱条 如何ナル場合ニ於テモ犯罪缺席又ハ重罪缺席ニテ刑ヲ言渡サレシ者ノ其刑ノ期満効ニ依リ消滅シタル時ハ其犯罪缺席又ハ重罪缺席ヲ滌除スル為メニ出席スルコトヲ許サス
第六百四拾弐条 重罪、懲治罪、違警罪ノ事項ニ於テ発シタルモノニシテ廃止ス可カラサルモノトナリタル上等又ハ下等裁判所ノ裁判書ニ載セタル民事上ノ言渡ハ民法ニ定メタル規則ニ従ヒ期満効ニ依リ消滅スルモノトス
第六百四拾三条 本章ノ成規ハ或ル軽罪又ハ或ル違警罪ヨリ生スル訴権ノ期満効ニ関シタル別段ノ法律ニ触ルヽコトナカル可シ