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○第壱部 裁判所ニ於ケル訴訟手続
○第壱編 治安裁判所
○第壱巻 呼出
第壱条 治安裁判官ノ面前ニ於ケル総テノ呼出状ニハ其日、月、年、原告人ノ姓名、職業、住所、使吏ノ姓名、居所、受任記録ノ順序、被告人ノ姓名、居所ヲ記載シ又其訟求ノ目的及ヒ憑拠ヲ簡略ニ表示シ且ツ其訟求ヲ裁定セサル可カラサル治安裁判官及ヒ出席ノ日時ヲ指示ス可シ
第弐条 純粋ニ対人権又ハ動産ノ事項ニ於テハ被告人住所ノ裁判官ノ面前ニ於ケル呼出状ヲ送付ス可ク若シ被告人ノ住所ヲ有セサル時ハ其居住地ノ裁判官ノ面前ニ於ケル呼出状ヲ送付ス可シ
第三条 左ノ諸件ニ関スル時ハ争訟アル物件所在ノ地ノ裁判官ノ面前ニ於ケル呼出状ヲ送附ス可シ
第一 田野、果実及ヒ収穫物ノ損害ノ為メノ訴
第二 一年内ニ行ヒタル界標ノ移動並ニ土地、樹木、籬墻、溝渠及ヒ其他ノ繞囲物ノ侵奪、右ニ同シク一年内ニ行ヒタル水流上ニ於ケル起作及ヒ総テ其他ノ占有ノ訴
第三 賃借人負担ノ修繕
第四 権利ノ争ハレサル時ニ於テ不収益ノ為メニ土地賃借人又ハ家屋賃借人ノ得ント求ムル賠償並ニ所有者ノ申立ツル毀損
第四条 呼出状ハ被告人住所ノ治安裁判所ノ使吏之ヲ送達シ若シ差支ノ場合ニ於テハ其裁判官ヨリ委任セラレタル使吏之ヲ送達シ而シテ其写ヲ本人ニ遺存ス可ク若シ本人ノ住所ニ人アラサル時ハ其写ヲ本邑ノ邑長又ハ副職ニ遺存ス可シ但シ邑長又ハ副職ハ無費ニテ其正本ニ検署ス可キモノトス
治安裁判所ノ使吏ハ直系ニ於ケル自己ノ血属親ノ為メニ職務ヲ行フコトヲ得ス又自己ノ兄弟姉妹及ヒ右同級ノ姻属親ノ為メニ職務ヲ行フコトヲ得ス
第五条 若シ呼出サレタル者カ三「ミリアメートル」ノ距離内ニ住所ヲ有スル時ハ呼出ノ日ト出席ノ為メニ指示サレタル日トノ間ニ少クトモ一日ノ猶予アル可シ
若シ其者カ右ノ距離外ニ住所ヲ有スル時ハ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可シ
右ノ定期ヲ遵守セサル場合ニ於テ若シ被告人ノ出席セサル時ハ裁判官ヨリ被告人ヲ再ヒ呼出ス可キ旨ヲ命令ス可ク而シテ第一次ノ呼出ノ費用ハ原告人ノ負任タル可シ
第六条 至急ノ場合ニ於テハ裁判官右ノ定期ヲ短縮スル為メ一箇ノ命令書ヲ附与ス可ク又指示セラレタル日時ニ於テモ呼出スコトヲ許スヲ得可シ
第七条 双方ノ者ハ何時タリトモ任意ニ治安裁判官ノ面前ニ出席スルコトヲ得可シ此場合ニ於テハ治安裁判官カ被告人ノ住所ノ訳柄ニ依リ又ハ争訟アル物件所在地ノ訳柄ニ依リ双方ノ者ノ当然ノ裁判官タラサル時ト雖トモ若シ法律又ハ双方ノ者カ治安裁判官ニ其争訟ノ終審ノ裁判ヲ為スコトヲ認許スルニ於テハ終審ニテ其争訟ヲ裁判シ若クハ控訴ノ負任ヲ以テ其争訟ヲ裁判ス可シ
裁判ヲ求ムル所ノ双方ノ者ノ申述書ハ双方ノ者ニ於テ之ニ署名ス可ク若シ又双方ノ者ノ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
○第弐巻 治安裁判官ノ審問席及ヒ双方ノ者ノ出席
第八条 治安裁判官ハ毎週少クトモ二回ノ審問席ヲ指示ス可シ又治安裁判官ハ日曜日及ヒ祭日ト雖モ毎日午前及ヒ午後ニ裁判スルコトヲ得可シ
治安裁判官ハ門ヲ開キ置キテ自己ノ家ニ於テ審問ヲ為スコトヲ得可シ
第九条 呼出状ニ定メタル日又ハ双方ノ者ノ間ニ合意シタル日ニ於テ双方ノ者ハ自カラ出席シ又ハ其代理人ヲ出席セシム可シ但シ双方ノ者ハ如何ナル弁論書ヲモ送達セシムルコトヲ得ス
第拾条 双方ノ者ハ裁判官ノ面前ニ於テ謹慎ヲ以テ弁明シ且ツ諸件ニ付キ裁判ニ対シテ為サヽル可カラサル崇敬ヲ保存ス可キモノトス若シ双方ノ者ノ其崇敬ヲ失スル時ハ裁判官先ツ告戒ヲ以テ之ニ心附ク可ク而シテ再犯ノ場合ニ於テハ十「フランク」ノ金額ニ過ク可カラサル罰金ト其裁判書ノ貼附トヲ言渡スコトヲ得可シ但シ其貼附ノ数ハ本県ノ邑ノ数ニ過ク可カラサルモノトス
第拾壱条 裁判官ニ対スル侮辱又ハ至重ナル不敬ノ場合ニ於テハ裁判官其旨ヲ記スル調書ヲ作ル可ク而シテ多クトモ三日ノ禁錮ヲ言渡スコトヲ得可シ
第拾弐条 裁判ハ前数条ニ定メタル場合ニ於テハ仮リニ執行ス可キモノトス
第拾三条 双方ノ者又ハ其代理人ハ相対シテ其申立ヲ聴カル可シ○訴訟ハ即時ニ之ヲ裁判シ又ハ第一次ノ審問席ニ於テ之ヲ裁判ス可シ又裁判官ハ若シ必要ナリト思フ時ハ証拠物ヲ差出サシム可シ
第拾四条 若シ双方ノ者ノ中一方ニ於テ偽造ノ訴ヲ為サント欲スル旨ヲ申述シ又ハ手書ヲ非斥シ又ハ之ヲ認メサル旨ヲ申述スル時ハ裁判官ヨリ其者ニ之レカ証書ヲ附与ス可シ而シテ裁判官ハ其証拠物ニ花押ヲ附シテ右ノ訴訟ヲ裁定ス可キ裁判官ノ面前ニ其訴訟ヲ移ス可シ
第拾五条 訴訟ノ本案ニ影響スル予審ヲ命令シタル場合ニ於テハ其予審ノ裁判ノ日ヨリ遅クトモ四月ノ期限内ニ訴訟ノ確定ノ裁判ヲ為ス可ク其期限ノ後ニ於テハ訴訟ハ当然消滅シ其本案ニ付キ為シタル裁判ハ治安裁判官カ終審ノ裁定ヲ為ス可キ事項ニ於テモ控訴ヲ受ク可ク而シテ関係人ノ請求ニ依リ之ヲ取消ス可シ
若シ訴訟カ裁判官ノ過失ニ依テ消滅シタル時ハ裁判官其損害賠償ヲ担任ス可シ
第拾六条 治安裁判所ノ裁判ノ控訴ハ其治安裁判所ノ使吏又ハ裁判官ノ委任シタル其他ノ者ノ為セシ送達ノ日ヨリ起算シテ三月ノ後ニ於テハ之ヲ受理ス可カラス
第拾七条 三百「フランク」ノ額ニ充ツル迄ノ治安裁判所ノ裁判ハ保証人ヲ立ツルノ要ナク控訴ニ拘ハラス仮リニ執行ス可キモノトス又治安裁判官ハ其他ノ場合ニ於テモ其裁判ノ仮リノ執行ヲ命令スルコトヲ得可シト雖モ保証人ヲ立ツルノ負任アリトス
第拾八条 各裁判書ノ細字ノ正本ハ書記之ヲ審問席ノ日用簿ニ之ヲ記載シ其審問席ヲ開キタル裁判官及ヒ書記之ニ署名ス可シ
○第三巻 缺席裁判及ヒ其裁判ニ付テノ故障申立
第拾九条 若シ呼出ノ為メニ指示シタル日ニ於テ双方中一方ノ者ノ出席セサル時ハ缺席ニテ其訴訟ヲ裁判ス可シ但シ第五条ノ末項ニ定メタル場合ニ於テハ再度ノ呼出ヲ為ス可キモノトス
第弐拾条 缺席ニテ裁判ヲ言渡サレタル一方ノ者ハ治安裁判官ノ使吏又ハ治安裁判官ノ委任シタル其他ノ者ノ為セシ送達ヨリ三日内ニ故障申立ヲ為スコトヲ得可シ
故障ノ申立書ニハ其者ノ憑拠ト最近ノ審問ノ日ニ於ケル呼出トヲ簡略ニ記載ス可シ然レトモ呼出ノ為メニ定メタル期限ヲ遵守ス可キモノトス但シ其故障申立書ニハ出席ノ日時ヲ指示シテ前ニ記シタル如クニ之ヲ送達ス可シ
第弐拾壱条 若シ治安裁判官カ被告人ノ其訴訟ヲ知リ得サリシ旨ヲ己レ自カラ知リタル時又ハ被告人ノ親族、隣人、朋友ノ審問席ニ於テ為シタル申立ニ依リ被告人ノ其訴訟ヲ知リ得サリシ旨ヲ知リタル時ハ缺席ヲ裁定スルニ付キ故障申立ノ期限ノ為メ其相当ナリト思ハルヽ所ノ時間ヲ定ムルコトヲ得可シ而シテ又職権上ヨリ猶予ヲ附与セス又其猶予ヲ請求セサル場合ニ於テモ缺席者其不在又ハ重劇ナル病ノ為メニ訴訟手続ヲ知リ得サリシ旨ヲ証明スルニ於テハ其缺席者定期ノ厳規ヲ免カレテ故障ノ申立ヲ許サルヽコトヲ得可シ
第弐拾弐条 故障ヲ申立テタル者ノ再ヒ缺席ニテ裁判セラレタル時ハ最早更ニ故障ノ申立ヲ為スコトヲ許サス
○第四巻 占有ノ訴ニ付テノ裁判
第弐拾三条 占有ノ訴ハ少クトモ一年以来己レ自カラニ依リ又ハ自己ノ代人ニ依リ所有者タルノ名義ヲ以テ静安ナル占有ヲ為シタル者カ妨害ノ時ヨリ一年内ニ為シタルニ非サレハ之ヲ受理ス可カラス
第弐拾四条 若シ占有又ハ妨害ヲ非斥スル時ハ此事ニ付キ命令スル所ノ証人訊問ハ権利ノ本案ニ関スルコトヲ得ス
第弐拾五条 占有ノ訴ト所有ノ訴トハ決シテ之ヲ併合ス可カラス
第弐拾六条 所有ノ訴ニ於ケル原告人ハ最早占有ノ訴ヲ為スコトヲ許サス
第弐拾七条 占有ノ訴ニ於ケル被告人ハ其占有ニ付テノ訴訟ノ終リタル後ニ非サレハ所有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス若シ其被告人ノ敗訴トナリタル時ハ自己ニ対シテ宣告セラレタル科断ヲ充分ニ履行シタル後ニ非サレハ訴ヲ起スコトヲ得ス
若シ然レトモ其科断ヲ得タル者カ之ヲ算定セシムルコトヲ遅延シタル時ハ所有ノ訴ノ裁判官其算定ノ為メニ一箇ノ期限ヲ定ムルコトヲ得テ其期限ノ後ニ於テハ所有ノ訴ヲ受理ス可キモノトス
○第五巻 確定ナラサル裁判及ヒ其執行
第弐拾八条 確定ナラサル裁判ハ対審ニテ之ヲ為シ且ツ双方ノ面前ニ於テ之ヲ宣告シタル時ハ其裁判書ノ写ヲ交付ス可カラス○若シ其裁判カ双方ノ者ノ立会フ可キ一箇ノ所為ヲ命令スル場合ニ於テハ其場所及ヒ日時ヲ指示ス可ク而シテ其宣告ハ呼出ニ等シキ効力アリトス
第弐拾九条 若シ其裁判カ技術者ニ依レル一箇ノ所為ヲ命令スル時ハ裁判官ヨリ請求者ニ鑑定人ヲ招喚スル為メ呼出ノ命令書ヲ交付ス可シ但シ其命令書ニハ場所及ヒ日時ヲ記載シ且ツ其事柄、理由及ヒ命令セラレタル所為ニ関スル裁判ノ要旨ヲ包含ス可シ
若シ其裁判カ証人訊問ヲ命令スル時ハ呼出ノ命令書ニ其裁判ノ日附及ヒ場所日時ヲ記載ス可シ
第三拾条 治安裁判官カ争アル場所ノ検査ヲ為ス為メ又ハ証人ノ申立ヲ聴ク為メニ其争アル場所ニ赴ク時ハ書記ヲ同伴ス可シ但シ書記ハ本案ニ影響セサル其予審裁判書ノ細字正本ヲ持参ス可キモノトス
第三拾壱条 確定ノ裁判ノ後其裁判ノ控訴ト合同スルニ非サレハ本案ニ影響セサル予審裁判ノ控訴ヲ為スコトヲ得ス然レトモ其予審裁判ノ執行ハ控訴ニ関スル双方ノ者ノ権利ニ如何ナル害ヲモ及ホサヽルモノトス但シ双方ノ者ハ此事ニ付キ如何ナル異論ヲモ又貯存ヲモ為スニ及ハス
本案ニ影響スル予審裁判ノ控訴ハ確定ノ裁判ヲ宣告スル前ニ之ヲ為スコトヲ許サルヽモノトス
此場合ニ於テハ其本案ニ影響スル裁判書ノ副本ヲ附与ス可シ
○第六巻 担保者ヲシテ訴訟ニ参加セシムル事
第三拾弐条 若シ第一次ノ出席ノ日ニ於テ被告人カ担保者ヲシテ訴訟ニ参加セシムル事ヲ求ムル時ハ裁判官其担保者ノ住所ノ距離ニ準シテ充分ナル猶予ヲ附与ス可シ但シ右ノ担保者ニ送附スル呼出状ニハ其訳柄ヲ詳記ス可ク而シテ其担保者ヲシテ訴訟ニ参加セシムルコトヲ命令スル裁判書ヲ送達スルニ及ハサルモノトス
第三拾三条 若シ第一次ノ出席ニ於テ訴訟ニ参加セシムルコトヲ求メス又ハ定マリタル期限内ニ呼出ヲ為サヽリシ時ハ猶予ナク主タル訴ノ裁判ニ取掛ル可シ但シ担保ニ於ケル訟求ニ付テハ別ニ裁定ス可キモノトス
○第七巻 証人訊問
第三拾四条 若シ双方ノ者カ証人ニ依テ証明セラル可キ性質ノ事柄ニ於テ相反対シ而シテ治安裁判官其検査ヲ有益ニシテ且ツ許容ス可シト思フ時ハ立証ヲ命令シテ明確ニ之レカ目的ヲ定ム可シ
第三拾五条 指示セラレタル日ニ於テ証人ハ其姓名、職業、年齢及ヒ居所ヲ述ヘタル後真実ヲ言フ可キノ誓ヲ為シ且ツ原告人及ヒ被告人ノ血属親又ハ姻属親タルヤ及ヒ如何ナル級ニ於ケル血属親又ハ姻属親タルヤ又原告人及ヒ被告人ノ従者又ハ雇人タルヤヲ申述ス可シ
第三拾六条 証人ハ原告人及ヒ被告人ノ出席スル時ハ其面前ニ於テ別々ニ申立ヲ聴カル可ク又原告人及ヒ被告人ハ証人ノ証拠申述ノ前ニ其排斥書ヲ差出シテ之ニ署名ス可シ若シ原告人及ヒ被告人ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ但シ其排斥カ書面ニ依テ証明セラレタル時ニ非サレハ証人ノ証拠申述ノ始マリタル後ニ排斥ヲ為スコトヲ許サス
第三拾七条 原告人及ヒ被告人ハ証人ノ証拠申述中之ヲ中断ス可カラス又証人ノ証拠申述ノ後ニ於テ裁判官ハ原告人及ヒ被告人ノ求メニ依リ又然ノミナラス職権上ニテ証人ニ相当ノ問糾ヲ為スコトヲ得可シ
第三拾八条 証人ノ証拠申述ヲ解シ得可キ為メ場所ノ検視ノ有益ナル可キ総テノ場合ニ於テ殊ニ界標ノ移動、土地、樹木、籬墻、溝渠又ハ其他ノ繞囲物ノ侵奪ノ為メノ訴及ヒ水流上ニ於ケル起作ノ為メノ訴ニ於テハ治安裁判官若シ必要ナリト思考スル時ハ其場所ニ赴キテ証人ノ申立ヲ聴ク可キ旨ヲ命令ス可シ
第三拾九条 控訴ヲ受ク可キ訴訟ニ於テハ書記証人訊問ノ調書ヲ作ル可シ但シ其証書ニハ証人ノ姓名、年齢、職業、居所、其真実ヲ言フ可キノ誓、原告人及ヒ被告人ノ血属親、姻属親、従者又ハ雇人タルヤ否ノ申述及ヒ証人ニ対シテ申立テラレタル排斥ヲ記ス可シ○其調書中ニテ各証人ニ関シタル部分ヲ其証人ニ読聞カセ其証人ハ自己ノ証拠申述ヲ記シタル部分ニ署名ス可ク又ハ署名スルコトヲ知ラス或ハ署名スルコト能ハサル旨ヲ記載ス可シ○其調書ハ右ノ外裁判官及ヒ書記之ニ署名ス可シ○然ル後直チニ裁判ニ取掛リ又ハ遅クトモ第一次ノ審問席ニ於テ裁判ニ取掛ル可シ
第四拾条 終審ニテ裁判セラル可キ性質ノ訴訟ニ於テハ調書ヲ作ル可カラス然レトモ裁判書ニ証人ノ姓名、年齢、職業、居所、其誓、原告人及ヒ被告人ノ血属親、姻属親、従者又ハ雇人タルヤ否ノ申述、証人ニ付テノ排斥及ヒ証拠申述ノ成果ヲ表示ス可シ
○第八巻 場所ノ検査及ヒ見積
第四拾壱条 若シ場所ノ景状ヲ証明シ若クハ訟求シタル賠償及ヒ補償ノ価額ヲ見積ル可キ時ハ治安裁判官原告人及ヒ被告人ノ面前ニ於テ自カラ其争アル場所ヲ検査ス可キ旨ヲ命令ス可シ
第四拾弐条 若シ検査又ハ見積ノ目的カ裁判官ニ具ハラサル学識ヲ必要トスル時ハ裁判官其同一ノ裁判ヲ以テ選任ス可キ技術者ノ自己ト共ニ検査ヲ為シテ其意見ヲ申立ツ可キ旨ヲ命令ス可シ但シ裁判官ハ其地ヲ去ラス其場所ニ於テ裁判スルコトヲ得可シ○控訴ヲ受ク可キ訴訟ニ於テハ書記其検査ノ調書ヲ作ル可シ但シ其調書ニハ鑑定人ノ為シタル誓ヲ証明ス可キモノトス○其調書ハ裁判官、書記及ヒ鑑定人之ニ署名ス可ク若シ鑑定人ノ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
第四拾三条 控訴ヲ受ケサル訴訟ニ於テハ調書ヲ作ル可カラス然レトモ裁判書ニ鑑定人ノ姓名、其誓ヲ為シタル事及ヒ其意見ノ成果ヲ表示ス可シ
○第九巻 治安裁判官ノ忌避
第四拾四条 治安裁判官ハ左ノ場合ニ於テハ之ヲ忌避スルコトヲ得可シ
第一 治安裁判官カ争訟ニ付キ一身上ノ関係ヲ有スル時
第二 治安裁判官カ原告人又ハ被告人中一方ノ従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親タル時
第三 忌避ヨリ前一年内ニ治安裁判官ト原告人又ハ被告人中ノ一方又ハ其配偶者又ハ直系ニ於ケル其血属親及ヒ姻属親トノ間ニ刑事ノ訴訟アリシ時
第四 治安裁判官ト原告人又ハ被告人中ノ一方又ハ其配偶者トノ間ニ現在民事ノ訴訟アル時
第五 治安裁判官カ其訴訟ニ於テ意見書ヲ附与シタル時
第四拾五条 治安裁判官ヲ忌避セント欲スル者ハ其忌避ヲ為シテ一箇ノ証書ニ依リ之レカ理由ヲ弁明ス可シ但シ其証書ハ其者ヨリ其択ム所ノ使吏ヲシテ治安裁判所ノ書記ニ送達セシメ治安裁判所ノ書記ハ其正本ニ検署ス可キモノトス○其送達状ハ正本及ヒ写共ニ右ノ者又ハ其特別ノ代理人ニ於テ之ニ署名ス可シ○其写ハ之ヲ書記局ニ納メテ直チニ書記ヨリ裁判官ニ送附ス可シ
第四拾六条 裁判官ハ二日ノ期限内ニ右証書ノ末ニ忌避ヲ承認スル事又ハ差控ユルヲ否拒スル事ト忌避ノ憑拠ニ付テノ答弁トノ申述ヲ附記ス可シ
第四拾七条 裁判官ノ差控ユルヲ否拒スルノ答ヲ為シタルヨリ三日内ニ又ハ裁判官ノ答ヲ為サヽルニ於テハ忌避ノ証書ノ副本ト裁判官ノ申述書アル時ハ其申述書ノ副本トヲ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ書記ヨリ治安裁判所々在ノ地ヲ管轄スル始審裁判所ノ検事ニ送リ其裁判所ニ於テハ原告人及ヒ被告人ヲ招喚スルニ及ハスシテ検事ノ意見ヲ聴キタル上八日内ニ其忌避ニ付キ終審ノ裁判ヲ為ス可シ
○第弐編 下等裁判所
○第壱巻 勧解
第四拾八条 凡ソ和解スルノ能力アル双方ノ者ノ間ニ於テ和解ノ主料タルコトヲ得可キ事柄ニ付キ訴訟ヲ発起スル主タル訟求ハ予メ被告人ヲ勧解ノ為メ治安裁判官ノ面前ニ招喚シ又ハ双方ノ者カ其任意ニテ治安裁判官ノ面前ニ出席シタルニ非サレハ始審裁判所ニ於テ之ヲ受理ス可カラス
第四拾九条 左ノ訟求ハ勧解ノ予式ヲ免除セラルヽモノトス
第一 国及ヒ国領、邑、公同設立場、幼者、治産禁ヲ受ケタル者、相続人ノ虧缺シタル遺留財産ノ管財人ニ関スル訟求
第二 迅速ナルコトヲ要スル訟求
第三 参渉又ハ担保ニ於ケル訟求
第四 商事ニ於ケル訟求
第五 釈放ノ訟求、差押又ハ差止ノ解除ニ於ケル訟求、家屋ノ貸賃、土地ノ貸賃、年金又ハ養料ノ賦額ノ弁済ニ於ケル訟求及ヒ費用ノ弁済ニ於ケル代書人ノ訟求
第六 二人余ノ者カ同一ノ関係ヲ有スル時ト雖モ二人余ノ者ニ対シテ為ス訟求
第七 書類ノ験真、斥却、裁判管轄ヲ定ムル事、裁判管轄ヲ移ス事、裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムル事ニ於ケル訟求、差押ヘラレタル第三ノ人ニ対スル訟求及ヒ一般ニ差押ニ付キ、現実ノ供陳ニ付キ、証券ノ交付ニ付キ、証券ノ通知伝観ニ付キ、財産ノ離分ニ付キ、後見及ヒ管財ニ付テノ訟求並ニ法律上ニ取除ケタル総テノ訴訟
第五拾条 被告人ハ勧解ノ為メ左ノ如ク呼出サル可シ
第一 対人権及ヒ対物権ノ事項ニ付テハ被告人住所ノ治安裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ若シ被告人二名アル時ハ原告人ノ撰択ニテ其被告人中一名ノ治安裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
第二 商事会社ヲ除クノ外其他ノ会社ノ事項ニ付テハ其会社ノ存在スル間ハ之ヲ設ケタル地ノ治安裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
第三 財産相続ノ事項ニ付キ分派ニ至ル迄相続人ノ間ノ訟求ニ関シ又分派ノ前ニ死者ノ債主ヨリ起ス所ノ訟求ニ関シ及ヒ確定ノ裁判ニ至ル迄死去ノ原由ニ依レル贈与処分ノ執行ニ係ル訟求ニ関シテハ其財産相続ノ開始シタル地ノ治安裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
第五拾壱条 呼出ノ期限ハ少クトモ三日タル可シ
第五拾弐条 呼出状ハ被告人ノ治安裁判所ノ使吏之ヲ送附ス可シ但シ其呼出状ニハ勧解ノ目的ヲ簡略ニ表示ス可キモノトス
第五拾三条 双方ノ者ハ自カラ出席ス可ク若シ差支ノ場合ニ於テハ代理人ヲ差出ス可シ
第五拾四条 出席ノ時ニ於テ原告人ハ其訟求ヲ説明スルコトヲ得可ク又然ノミナラス之ヲ増加スルコトヲ得可シ又被告人ハ其相当ナリト思考スル所ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ但シ此事ニ付キ作ル可キ調書ニハ和解ノアリタル時ハ其和解ノ条件ヲ記ス可ク之ニ反シタル場合ニ於テハ双方ノ者ノ協議スルコト能ハサリシ旨ヲ簡略ニ記載ス可シ
其調書ニ記入シタル双方ノ者ノ合意ハ私シノ義務証書ノ力ヲ有スルモノトス
第五拾五条 若シ双方ノ者ノ中一方ヨリ他ノ一方ニ誓ヲ求ムル時ハ治安裁判官其誓ヲ収受シ又ハ其誓ヲ為スノ否拒ヲ記載ス可シ
第五拾六条 双方ノ中ニテ出席セサル者ハ十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可ク且ツ其受取証書ヲ証明スルニ至ル迄ハ総テノ審問ヲ其者ニ否拒ス可シ
第五拾七条 勧解ニ於ケル呼出ハ期満効ヲ中断シテ利息ヲ生セシム可シ但シ之レカ為メニハ不出席又ハ勧解不調ノ日ヨリ起算シテ一月内ニ訟求ヲ為スコトヲ必要トス
第五拾八条 双方ノ者ノ中一方ノ不出席ノ場合ニ於テハ治安裁判所ノ書記局ノ簿冊ト呼出状ノ正本又ハ写トニ其旨ヲ記載ス可シ但シ調書ヲ作ルニ及ハス
○第弐巻 呼出
第五拾九条 対人権ノ事項ニ付テハ被告人其住所ノ裁判所ニ呼出サル可シ若シ被告人ノ住所ヲ有セサル時ハ其居住地ノ裁判所ニ呼出サル可シ
若シ被告人数名アル時ハ原告人ノ撰択ニテ其被告人中一名ノ住所ノ裁判所ニ呼出サル可シ
対物権ノ事項ニ付テハ争訟アル物件所在地ノ裁判所ニ呼出サル可シ
混合ノ事項ニ付テハ所在地ノ裁判官又ハ被告人住所ノ裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
会社ノ事項ニ付テハ其会社ノ存在スル間ハ之ヲ設ケタル地ノ裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
財産相続ノ事項ニ付キ第一ニ分派ニ至ル迄相続人ノ間ノ訟求ニ関シ第二ニ分派ノ前ニ死者ノ債主ヨリ起ス所ノ訟求ニ関シ第三ニ確定ノ裁判ニ至ル迄死去ノ原由ニ依レル贈与処分ノ執行ニ係ル訟求ニ関シテハ其財産相続ノ開始シタル地ノ裁判所ニ呼出サル可シ
家資分散ノ事項ニ付テハ家資分散人住所ノ裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
担保ノ事項ニ付テハ原来ノ訟求ヲ審理スル所ノ裁判官ノ面前ニ呼出サル可シ
証書ノ執行ノ為メ住所ヲ撰定シタル場合ニ於テハ民法第百十一条ニ従ヒ其撰定シタル住所ノ裁判所又ハ被告人ノ現実ノ住所ノ裁判所ニ呼出サル可シ
第六拾条 裁判所附役員ノ費用ノ為メニ為ス所ノ訟求ハ其費用ヲ為シタル裁判所ニ申告ス可シ
第六拾壱条 呼出状ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 日、月、年、原告人ノ姓名、職業、住所、原告人ノ為メニ職ヲ行フ可キ代書人ノ撰定但シ原告人ノ其同一ノ呼出状ヲ以テ別段住所ヲ撰定シタルニ非サレハ当然其代書人ノ家屋ニ住所ヲ撰定シタルモノトス
第二 使吏ノ姓名、居所、受任記録ノ順序、被告人ノ姓名、居所及ヒ呼出状ノ写ヲ渡シ置ク可キ者ノ記載
第三 訟求ノ目的及ヒ憑拠ノ簡略ナル弁明
第四 其訟求ヲ裁定ス可キ裁判所及ヒ出席スル為メノ期限ノ指示
但シ右ノ諸件ヲ記セサル時ハ無効タル可シ
第六拾弐条 使吏ノ出張ノ場合ニ於テハ其一切ノ旅費トシテ多クトモ一日分ノミヲ之ニ弁済ス可キモノトス
第六拾三条 如何ナル呼出状ト雖トモ裁判所長ノ許ニ拠ルニ非サレハ法律上ノ祭日ニ之ヲ送付ス可カラス
第六拾四条 対物権又ハ混合ノ事項ニ於テハ呼出状ニ不動産ノ性質、其所在ノ邑及ヒ成ル可キ丈ハ其所在ノ邑ノ部分並ニ横隣及ヒ裏隣ノ少クトモ二箇ヲ表示ス可シ若シ又一団ヲ為シタル不動産又ハ家屋アル耕作地ニ関スル時ハ其名ト所在地トヲ指定スルヲ以テ足レリトス但シ右ノ諸件ヲ記セサル時ハ無効タル可シ
第六拾五条 呼出状ト共ニ勧解不調ノ調書ノ写又ハ不出席ヲ記シタル書面ノ写ヲ送付ス可ク若シ然ラサル時ハ無効タル可シ又訟求ノ憑拠タル証拠物ノ写又ハ其証拠物ノ一部分ノ写ヲ送付ス可ク若シ其写ヲ送付セサルニ於テハ原告人ノ訴訟進行中ニ送付ス可キ写ハ訴訟費用ノ算定中ニ入ラサルモノトス
第六拾六条 使吏ハ無限ニ直系ニ於ケル自己ノ血属親及ヒ姻属親ノ為メ及ヒ其婦ノ血属親及ヒ姻属親ノ為メニ職務ヲ行フコトヲ得ス又再従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ自己ノ傍系ノ血属親及ヒ姻属親ノ為メニ職務ヲ行フコトヲ得ス若シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ無効タル可シ
第六拾七条 使吏ハ呼出状ノ正本及ヒ写ノ末ニ之レカ費額ヲ記ス可ク若シ然ラサル時ハ五「フランク」ノ罰金ヲ言渡サレ而シテ其罰金ハ簿冊記録ノ時ニ於テ之ヲ弁済ス可キモノトス
第六拾八条 総テ呼出状ハ本人又ハ住所ニ送ル可シ然レトモ若シ使吏カ住所ニ於テ本人ヲモ又其血属親又ハ従者ヲモ見出サヽル時ハ直チニ其写ヲ隣人ニ渡シ隣人ハ其正本ニ検署ス可シ若シ其隣人ノ署名スルコト能ハス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ使吏其写ヲ本邑ノ邑長又ハ副職ニ渡シ邑長又ハ副職ハ無費ニテ正本ニ検署ス可シ○使吏ハ右ノ諸件ヲ正本ト写トニ記載ス可シ
第六拾九条 左ノ各人ハ下ニ記スル如クニ呼出サル可シ
第一 国ハ国領及ヒ国領ノ権利ニ関スル時ハ始審ニ於ケル訟求ヲ申告ス可キ裁判所々在ノ州ノ州長ノ身ニ於テ又ハ州長ノ住所ニ於テ呼出サル可シ
第二 公ケノ金庫ハ管理者ノ身ニ於テ又ハ其役署ニ於テ呼出サル可シ
第三 行政官庁又ハ公同設立場ハ其官庁所在ノ地ニ於テハ之レカ役署ニ於テ呼出サル可ク其他ノ地ニ於テハ其吏員ノ身及ヒ其役署ニ於テ呼出サル可シ
第四 国王ハ其所領ニ付テハ本郡検事ノ身ニ於テ呼出サル可シ
第五 邑ハ邑長ノ身ニ於テ又ハ其住所ニ於テ呼出サル可ク巴里ニ於テハ州長ノ身ニ於テ又ハ其住所ニ於テ呼出サル可シ
前ニ記シタル各箇ノ場合ニ於テハ呼出状ノ写ヲ受取リタル者其正本ニ検署ス可シ若シ不在又ハ否拒ノ場合ニ於テハ治安裁判官又ハ始審裁判所ノ検事其検署ヲ為ス可シ但シ此場合ニ於テハ治安裁判官又ハ検事ニ其写ヲ渡シ置ク可キモノトス
第六 商事会社ハ其存在スル間ハ其会社ノ家ニ於テ呼出サル可ク若シ会社ノ家ナキ時ハ社員中一名ノ身ニ於テ又ハ其住所ニ於テ呼出サル可シ
第七 債主ノ連結及ヒ連合ハ債主総代人又ハ幹理人中一名ノ身ニ於テ又ハ其住所ニ於テ呼出サル可シ
第八 仏蘭西ニ於テ人ノ知ル所ノ住所ヲ有セサル者ハ其現在ノ居住地ニ於テ呼出サル可シ若シ其地ノ知レサル時ハ訟求ヲ申告スル裁判所ノ聴訟席ノ重立タル入口ニ呼出状ヲ貼附ス可シ而シテ其第二ノ写ヲ検事ニ送付シテ検事其正本ニ検署ス可キモノトス
第九 欧羅巴及ヒ「アルゼリー」外ノ仏蘭西ノ領地ニ住スル者及ヒ外国ニ於テ住居ヲ定メタル者ハ訟求ヲ申告スル裁判所ノ検事局ニ於テ呼出サル可シ但シ検事ハ正本ニ検署シテ其写ヲ直接ニ該管ノ卿又ハ其他総テ外交ノ条約書ニ定メタル官憲ニ送ル可キモノトス
第七拾条 前二条ニ定メタルモノハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ然ラサル時ハ無効タル可シ
第七拾壱条 若シ呼出状カ使吏ノ所為ニ依リ無効ナリト宣告セラレタル時ハ使吏ハ其呼出状ノ費用ト取消サレタル訴訟手続ノ費用トヲ言渡サルヽコトアル可シ但シ景況ニ従ヒ本人ニ為ス可キ損害賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第七拾弐条 呼出ノ通常ノ期限ハ仏蘭西ニ住所アル者ニ付テハ八日間タル可シ
迅速ナルコトヲ要スル所ノ場合ニ於テハ裁判所長請願ニ依リ発シタル命令書ヲ以テ短キ期限ニ於テ呼出スコトヲ許ルスヲ得可シ
第七拾三条 若シ呼出サレタル者カ大陸ノ仏蘭西外ニ居在スル時ハ呼出ノ期限ハ左ノ如クタル可シ
第一 「コルス」島、「アルゼリー」、不列顛諸島、意太利、荷蘭王国及ヒ仏蘭西ニ隣接シタル国又ハ聯邦ニ居在スル者ニ付テハ一月
第二 欧羅巴若クハ地中海ノ沿岸及ヒ黒海ノ沿岸ニアル其他ノ国ニ居在スル者ニ付テハ二月
第三 欧羅巴外ニテ「マラツカ」海峡及ヒ「ソンド」海峡ヨリ近ク又「ホルン」岬ヨリ近キ地ニ居在スル者ニ付テハ五月
第四 「マラツカ」海峡及ヒ「ソンド」海峡ヨリ遠ク又「ホルン」岬ヨリ遠キ地ニ居在スル者ニ付テハ八月
前ノ期限ハ海上戦争ノ場合ニ於テハ海外国ニ在ル者ノ為メニ之ヲ倍ス可シ
第七拾四条 若シ仏蘭西国外ニ住所ヲ有スル者ニ対スル呼出状ヲ仏蘭西ニ於テ其本人ニ送附スル時ハ其呼出ニ付キ通常ノ期限ノミヲ存ス可キモノトス但シ別段ノ理由アル時ハ裁判所ニ於テ其期限ヲ延ハスコトヲ得可シ
○第三巻 代書人ノ撰定及ヒ答弁
第七拾五条 被告人ハ呼出ノ期限内ニ代書人ヲ撰定ス可シ但シ代書人ノ撰定ハ代書人ヨリ代書人ニ送達スル証書ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス○被告人モ原告人モ其代書人ヲ廃止スル時ハ必ス他ノ代書人ヲ撰定ス可シ○既ニ廃止セラレテ未タ其代人ヲ撰定セラレサル代書人ニ対シテ為シタル訴訟手続及ヒ其代書人ニ対シテ得タル裁判ハ有効ノモノトス
第七拾六条 若シ短キ期限ニ於テ訟求ヲ為シタル時ハ被告人ハ満期ノ日ニ於テ代書人ヲ審問席ニ差出スコトヲ得可ク而シテ其代書人ニ其撰定ノ証書ヲ附与ス可シ但シ其裁判書ハ之レカ写ヲ得ント求ム可カラスト雖トモ其代書人ハ其日ノ内ニ証書ヲ以テ其撰定ノ旨ヲ更ニ再ヒ通知ス可ク若シ其代書人ノ此事ヲ為サヽル時ハ其費用ヲ以テ裁判書ノ写ヲ得ント求ム可シ
第七拾七条 撰定ノ日ヨリ十五日内ニ被告人ハ自己ノ代書人ノ署名シタル其答弁書ヲ送達セシム可シ但シ其答弁書ニハ憑拠タル証拠物ヲ代書人ヨリ代書人ニ協議上ニテ通知伝観セシメ又ハ書記局ヲ経由シテ通知伝観セシメント供陳スル旨ヲ記載ス可シ
第七拾八条 次ノ八日内ニ原告人ハ答弁書ニ付テノ再答書ヲ送達セシム可シ
第七拾九条 若シ被告人ノ十五日ノ期限内ニ其答弁書ヲ差出サヽル時ハ原告人代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ請求ス可シ
第八拾条 原告人ノ其再答書ヲ送達セシムル為メニ許与セラレタル期限ノ終リシ後最モ先キニ手続ヲ為ス者ハ代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ請求スルコトヲ得可ク又然ノミナラス原告人ハ答弁書送達ノ後之ニ再答スルコトナクシテ審問ヲ請求スルコトヲ得可シ
第八拾壱条 総テ其他ノ書面及ヒ送達書ハ訴訟費用ノ算定中ニ入ラサルモノトス
第八拾弐条 代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ審問ヲ請求スルコトヲ得可キ総テノ場合ニ於テハ各個ノ方ニ付キ其一通ノミヲ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可キモノトス
○第四巻 検察官ヘノ通報
第八拾三条 左ノ訴訟ハ検事ニ通報ス可シ
第一 公ケノ秩序、国、国領、邑、公同設立場、貧民ノ利益ニ於ケル贈与物及ヒ遺嘱物ニ関スル訴訟
第二 人ノ身分及ヒ後見ニ関スル訴訟
第三 裁判管轄ノ異ナルカ為メ他ノ裁判所ニ訴訟ヲ移サント求ムル訴
第四 裁判管轄ヲ定ムルノ訴、忌避ノ訴、血縁及ヒ姻縁ノ為メ裁判管轄ヲ移スノ訴
第五 裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴
第六 夫ノ許可ヲ受ケサル婦ノ訴訟及ヒ其許可ヲ受ケタルモノト雖モ婦ノ嫁資ノ制ヲ以テ結婚シタル時其嫁資ニ関スル婦ノ訴訟、幼者ノ訴訟及ヒ総テ一般ニ原告人及ヒ被告人中ノ一方カ管財人ノ弁護ヲ受クル所ノ訴訟
第七 失踪ノ思量ヲ受クル者ニ関シ又ハ其者ニ得失ヲ生セシムル訴訟
然レトモ検事ハ右ノ外総テ如何ナル訴訟ニ付テモ其参渉ヲ必要ナリト思考スル時ハ其訴訟ノ通報ヲ受クルコトヲ得可ク又然ノミナラス裁判所ヨリ職権上ニテ之ヲ命令スルコトヲ得可シ
第八拾四条 若シ検事及ヒ其代職ノ不在又ハ差支ノ場合ニ於テハ裁判官又ハ補役中ノ一名之ニ代ハル可シ
○第五巻 審問席、其公ケナル事及ヒ其警察
第八拾五条 原告人及ヒ被告人ハ其代書人ノ補助ヲ受ケテ己レ自カラ弁スルコトヲ得可シ然レトモ若シ裁判所ニ於テ原告人及ヒ被告人ノ神情又ハ不熟錬ノ為メ相当ノ礼義又ハ裁判官ノ審理ノ為メニ必要ナル明亮ヲ以テ其訴訟ヲ弁論スルコト能ハスト認ムル時ハ裁判所ヨリ原告人及ヒ被告人ニ右ノ権利ヲ禁止スルコトヲ得可シ
第八拾六条 原告人及ヒ被告人ハ現ニ職務ヲ行フ裁判官、検事長、代言人長、検事、検事長及ヒ検事ノ代職ヲシテ其職務ヲ行フ裁判所ヨリ更ニ他ノ裁判所ニ於テモ口上若クハ書面ヲ以テ其弁護ヲ為サシムルコトヲ任スルヲ得ス仮令相談ノ名義ヲ以テスルモ亦之ニ同シ然レトモ裁判官、検事長、代言人長、検事、検事長及ヒ検事ノ代職ハ如何ナル裁判所ニ於テモ自己ノ訴訟及ヒ其婦、直系ノ血属親又ハ姻属親及ヒ其後見ヲ為ス幼者ノ訴訟ヲ弁論スルコトヲ得可シ
第八拾七条 弁論ハ法律上ニテ其秘密タル可キ旨ヲ命令スル場合ノ外ハ公ケニ為ス可シ○然レトモ若シ公ケノ討論ノ為メ醜汚又ハ至重ノ不都合ヲ生ス可キ時ハ秘密ニ弁論ヲ為ス可キ旨ヲ裁判所ヨリ命令スルコトヲ得可シ然レトモ此場合ニ於テ裁判所ハ其旨ヲ議定シテ其議定ヲ控訴裁判所ノ検事長ニ上申ス可ク又控訴裁判所ニ於テ其訴訟ヲ為ス時ハ司法卿ニ之ヲ上申ス可キモノトス
第八拾八条 審問席ニ立会フ所ノ各人ハ帽ヲ脱シ敬恭シテ静黙ス可シ又裁判所長ヨリ秩序ノ保存ノ為メニ命令スル所ノ諸件ハ直チニ之ヲ厳密ニ執行ス可シ
裁判官若クハ検事カ其身分上ノ職務ヲ行フ所ノ場所ニ於テハ右ト同一ノ成規ヲ遵守ス可シ
第八拾九条 若シ如何ナル人タルヲ問ハス一人又ハ数人ノ静黙ヲ中止シ又ハ原告人及ヒ被告人ノ弁論若クハ裁判官又ハ検察官ノ演説若クハ裁判所長、委員裁判官又ハ検事ノ問糾、告戒又ハ指令若クハ裁判又ハ命令ニ対シテ称讃又ハ誹謗ノ形容ヲ為シ又ハ如何ナル方法タルヲ問ハス騒擾ヲ生シ或ハ起シタル時若シ使吏ノ告戒ノ後即時ニ其過チヲ改メサルニ於テハ退出ス可キノ命令ヲ受ケ若シ其命ニ抗スル者ハ之ヲ召捕ヘテ直チニ二十四時間収監場ニ入ラシム可シ但シ収監場ニ於テハ審問席ノ調書ニ記シタル裁判所長ノ命令書ヲ視タル上ニテ右ノ者ヲ収受ス可キモノトス
第九拾条 若シ裁判所ニ於テ職務ヲ行フ者ノ其擾乱ヲ生セシメタル時ハ前ニ記シタル罰ノ外其職務ヲ停止セラル可ク而シテ其停止ハ初犯ニ付テハ三月ノ期限ニ過クルコトヲ得サルモノトス○其裁判ハ前条ノ場合ニ於ケル如ク仮リニ執行ス可キモノトス
第九拾壱条 裁判官又ハ裁判所官吏ノ其職務ヲ行フニ当リ之ヲ侮辱シ又ハ脅迫シタル者ハ裁判所長、委員裁判官又ハ検事ノ各其警察ノ権ヲ有スル場所ニ於テ此等各員ノ命令ニ依リ之ヲ召捕ヘ直チニ収監場ニ入ラシメテ二十四時内ニ訊問シ裁判所ニ於テ其犯罪ヲ証明スル調書ヲ視タル上ニテ一月ニ過クルコトヲ得サル禁獄ト二十五「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得ス三百「フランク」ニ過クルコトヲ得サル罰金トヲ言渡サル可シ
若シ其犯人ヲ直チニ召捕フルコトヲ得サル時ハ裁判所ヨリ二十四時内ニ其犯人ニ対シテ前ニ記シタル罰ヲ宣告ス可シ但シ其言渡ヲ受ケタル者ノ自首シテ禁獄トナルニ於テハ裁判ヨリ十日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得可キモノトス
第九拾弐条 若シ其行ヒタル犯罪カ施体又ハ加辱ノ刑ニ当ル時ハ其犯罪被告人ヲ勾留状ヲ受ケタル景状ニテ該管裁判所ニ送リ治罪法ニ定メタル規則ニ従ヒ其罪ヲ訴ヘテ之ヲ罰ス可キモノトス
○第六巻 評議及ヒ書面ニ依レル審理
第九拾三条 裁判所ハ其裁判書ヲ以テ選任シタル裁判官ヨリ報告ノ上評議ヲ為ス為メ証拠物ヲ役署ニ差出スコトヲ命令スルヲ得可シ但シ其報告ヲ為ス可キ日ヲ指示ス可キモノトス
第九拾四条 原告人及ヒ被告人並ニ其弁護人ハ評議ヲ命令スル裁判書ノ写ヲ得ント求ムルニ及ハス又之ヲ送達スルニ及ハス且ツ催促ナクシテ其裁判ヲ執行ス可シ若シ一方ノ者ノ其証拠物ヲ差出サヽル時ハ他ノ一方ノ者ノ証拠物ニ拠テ其訴訟ヲ裁判ス可キモノトス
第九拾五条 若シ一箇ノ訴訟カ双方ノ弁論又ハ裁判官ノ評議ニ依リ裁判スルコトヲ得可シト思ハレサル時ハ裁判所ヨリ其裁判書ヲ以テ選任シタル裁判官一名ヲシテ之レカ報告ヲ為サシムル為メ書面ニ依テ其訴訟ヲ審理ス可キ旨ヲ命令ス可シ
如何ナル訴訟ト雖モ審問席ニ於テ多数ノ説アル時ニ非サレハ報告ニ附スルコトヲ得ス
第九拾六条 原告人ハ其裁判書ノ送達ヨリ十五日内ニ自己ノ憑拠ヲ記シタル請願書ヲ送達セシム可シ但シ其請願書ノ末ニハ維持ノ為メニ差出シタル証拠物ノ目録ヲ記ス可キモノトス
原告人ハ其送達ノ時ヨリ二十四時内ニ証拠物ヲ書記局ニ差出シ且ツ差出ノ証書ヲ送達セシム可シ
第九拾七条 原告人ノ証拠物ヲ書記局ニ差出シタル時ヨリ十五日内ニ被告人之ヲ査視シ且ツ維持ノ為メノ証拠物ノ目録ヲ其末ニ記シタル自己ノ答書ヲ送達セシム可シ而シテ又被告人ハ其送達ノ時ヨリ二十四時内ニ其査視シタル原告人ノ証拠物ヲ書記局ニ返シテ自己ノ証拠物ヲ差出シ且ツ其差出ノ証書ヲ送達ス可シ
若シ被告人数名アル場合ニ於テ其代書人並ニ其利害ノ互ニ相異ナル時ハ証拠物ヲ査視シテ答ヲ為シ及ヒ自己ノ証拠物ヲ差出スニ付キ各自前ニ定メタル猶予ノ期限ヲ受ク可シ但シ其中ノ最モ先キニ手続ヲ為ス者ヨリ始メテ逐次其被告人数名ニ査視ヲ為サシム可キモノトス
第九拾八条 若シ原告人カ前ニ定メタル期限内ニ差出サヽル時ハ被告人前ニ記シタル如ク自己ノ証拠物ヲ書記局ニ差出ス可シ此場合ニ於テハ原告人八日内ニ之ヲ査視シテ抗弁ス可ク若シ其期限ヲ過クル時ハ被告人ノ差出シタル証拠物ニ拠テ裁判ニ取掛ル可シ
第九拾九条 若シ被告人カ其許与セラレタル期限内ニ差出サヽル時ハ原告人ノ差出シタル証拠物ニ拠テ裁判ニ取掛ル可シ
第壱百条 若シ被告人中ニ前ニ定メタル期限中ノ一箇内ニ於テ査視ヲ為ス者一人モアラサル時ハ差出シタル所ノモノニ拠テ裁判ニ取掛ル可シ
第百壱条 若シ原告人ノ差出サヽル時ハ被告人中ニテ最モ先キニ手続ヲ為ス者其証拠物ヲ書記局ニ差出ス可ク而シテ前ニ記シタル如クニ審理ヲ継続ス可シ
第百弐条 若シ双方ノ者ノ中一方ニ於テ新タナル証拠物ヲ差出サント欲スル時ハ其証拠物ノ目録ヲ記シタル差出ノ証書ト共ニ之ヲ書記局ニ差出ス可シ但シ其差出ノ証書ハ新タナル証拠物差出ノ請願書ナク又書類ナク之ヲ代書人ニ送達ス可ク若シ之ニ背キタル時ハ仮令証拠物ノ目録ニ新タナル請求ヲ記シタル時ト雖モ訴訟費用ノ算定中ヨリ棄却セラル可キモノトス
第百三条 他ノ一方ハ八日内ニ査視ヲ為シテ其答書ヲ差出ス可シ但シ其答書ハ六葉ニ過クルコトヲ得ス
第百四条 代書人ハ総テ其請願書及ヒ書類ノ正本及ヒ写ノ末ニ其葉数ヲ記ス可ク又差出ノ証書ニ於テモ其葉数ヲ記ス可シ若シ然ラサル時ハ訴訟費用算定ノ時ニ於テ棄却セラル可キモノトス
第百五条 本巻ニ表示シタル書類及ヒ送達書ニ非サレハ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可カラス
第百六条 証拠物ヲ受取リテ之ヲ査視スルニ付テハ代書人ノ受取証書ヲ書記局ニ差出ス可シ但シ其受取証書ニハ其受取リタル日附ヲ記ス可キモノトス
第百七条 若シ代書人カ其査視ノ為メニ受取リタル証拠物ヲ前ニ定メタル期限内ニ返サヽル時ハ書記ノ保証書ト弁論ヲ促求スル単純ナル証書トニ拠リ其代書人ニ右ノ証拠物ヲ返ス事ト取戻ノ権利ナクシテ裁判ノ費用ヲ弁済スル事ト其遅延シタル一日毎ニ損害賠償トシテ少クトモ十「フランク」ヲ弁済スル事トヲ言渡ス所ノ裁判ヲ審問席ニ於テ為ス可シ但シ其裁判ハ右代書人ノ己レ一身上ニ受クルモノニシテ且ツ之ヲ控訴スルコトヲ得サルモノトス
若シ代書人カ右ノ裁判書送達ノ時ヨリ八日内ニ証拠物ヲ返サヽル時ハ裁判所ヨリ控訴ヲ許サスシテ更ニ多額ノ損害賠償ヲ宣告シ又然ノミナラス其代書人ヲ拘留スル旨ヲ言渡シ及ヒ其相当ト思考スル時間其職ヲ禁止スルコトヲ得可シ
右ノ科断ハ本人ニ於テ代書人ヲ要スルコトナク本人ノ訟求ニ拠リ及ヒ本人ヨリ裁判所長又ハ報告員又ハ検事ニ差出ス所ノ単純ナル覚書ニ拠リ之ヲ宣告スルコトヲ得可シ
第百八条 書記局ニ於テハ総テ差出シタル証拠物ヲ其日附ノ順序ニ従ヒ記載ス可キ一箇ノ簿冊ヲ設ケ置ク可シ此簿冊ハ縦線ヲ画シテ之ヲ区分スルモノニシテ証拠物差出ノ日附、原告人及ヒ被告人並ニ其代書人ノ姓名及ヒ報告員ノ姓名ヲ記載ス可シ但シ其縦線中ノ一箇ニハ空白ヲ存シ置ク可キモノトス
第百九条 原告人及ヒ被告人ノ皆其証拠物ヲ差出シタル時又ハ前ニ定メタル期限ノ終リシ後ニ於テ書記ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ証拠物ヲ報告員ニ交付ス可シ但シ報告員ハ証拠物差出ノ簿冊中ニテ空白ヲ存シ置キタル縦線ニ署名シテ其証拠物受託ノ責ニ任ス可キモノトス
第百拾条 若シ報告員ノ死去シ又ハ其職ヲ退キ又ハ報告ヲ為スコト能ハサル時ハ請願ニ依リ裁判所長ノ命令書ヲ以テ更ニ他ノ報告員ヲ委任ス可シ但シ其命令書ハ報告ヨリ少クトモ三日前ニ本人又ハ其代書人ニ送達ス可キモノトス
第百拾壱条 総テ報告ハ裁判官ノ評議ノ上ニテ為スモノト雖モ審問席ニ於テ之ヲ為ス可ク而シテ報告員ハ自己ノ意見ヲ申述スルコトナクシテ実事ト憑拠トヲ略陳ス可シ但シ弁護人ハ如何ナル口実アリト雖モ報告ノ後ニ辞ヲ発スルコトヲ得ス唯其報告ノ不完全又ハ不正確ナリト称言スル所ノ実事ヲ表示スル単純ナル要略書ヲ即時裁判所長ニ差出スコトヲ得可キノミトス
第百拾弐条 若シ訴訟カ検察官ニ通報ス可キモノタル時ハ検事審問席ニ於テ其意見ヲ申立ツ可シ
第百拾三条 原告人及ヒ被告人中一方ノ証拠物ヲ差出サヽルカ為メ他ノ一方ノ証拠物ニ拠リ為シタル裁判ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
第百拾四条 報告員ハ裁判ノ後証拠物ヲ書記局ニ返ス可シ而シテ報告員ハ差出ノ簿冊上ニ於ケル其署名ヲ塗抹スルコトノミニ依リ証拠物受託ノ責任ヲ免カルヽモノトス
第百拾五条 代書人ハ其証拠物ヲ取戻ス時ニ於テ簿冊ノ端ニ署名ス可シ但シ其署名ハ書記ノ為メニ証拠物受託ノ責任ヲ免カレシムルノ効アルモノトス
○第七巻 裁判
第百拾六条 裁判ハ多数ノ説ニ従テ之ヲ為シ即時ニ之ヲ宣告ス可シ然レトモ裁判官ハ意見ヲ集メ算フル為メ会議室ニ退クコトヲ得可ク又裁判官ハ裁判ヲ宣告スル為メ最近ノ審問席中ノ一箇ニ訴訟ヲ継続スルコトヲモ為シ得可シ
第百拾七条 若シ二箇余ノ論説ヲ生シタル時ハ最寡数ノ裁判官ハ更ニ多数ノ発シタル二箇ノ論説中ノ一箇ニ合併ス可シ然レトモ其最寡数ノ裁判官ハ再ヒ意見ヲ集メ算ヘタル後ニ非サレハ其二箇ノ論説中ノ一箇ニ合併スルニ及ハス
第百拾八条 可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相同シキ時ハ之ヲ決スル為メ裁判官一名ヲ招喚ス可ク若シ裁判官ノアラサルニ於テハ其補役一名ヲ招喚ス可ク若シ其アラサルニ於テハ其裁判所ノ代言局ニ属スル代言人一名ヲ招喚ス可ク若シ其アラサルニ於テハ代書人一名ヲ招喚ス可シ但シ此等ノ各員ハ其受任ノ順序ニ従ヒ之ヲ招喚ス可ク而シテ右ノ各員ヲ招喚シタル上ニテ更ニ再ヒ訴訟ノ弁論ヲ為ス可シ
第百拾九条 若シ裁判書ニ原告人及ヒ被告人ノ出席ヲ命令スル時ハ其出席ノ日ヲ指示ス可シ
第百弐拾条 凡ソ誓ヲ命令スル裁判書ニハ其誓ヲ為ス可キ事柄ヲ表示ス可シ
第百弐拾壱条 誓ハ本人自カラ審問席ニ於テ之ヲ為ス可シ○正当ニシテ且ツ適法ニ証明シタル差支ノ場合ニ於テハ裁判所ヨリ委任ヲ受ケタル裁判官ノ面前ニ於テ誓ヲ為スコトヲ得可シ但シ其裁判官ハ書記ノ補助ヲ受ケテ本人ノ家ニ至ル可キモノトス
若シ誓ヲ求メラレタル本人ノ余リ遠隔ノ地ニ在ル時ハ裁判所ヨリ其本人ハ其居住地ノ裁判所ニ於テ誓ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
如何ナル場合ニ於テモ誓ハ他ノ一方ノ者ノ面前ニ於テ之ヲ為シ又ハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ適法ニ他ノ一方ノ者ヲ招喚シタル上ニテ之ヲ為ス可ク若シ代書人ヲ撰定セサル時ハ宣誓ノ日ヲ指示スル呼出状ヲ以テ適法ニ他ノ一方ノ者ヲ招喚シタル上ニテ之ヲ為ス可シ
第百弐拾弐条 裁判所カ其裁判ノ執行ノ為メ猶予ノ期限ヲ許与スルコトヲ得可キ場合ニ於テハ其争訟ヲ裁定スル所ノ裁判書ヲ以テ其猶予ノ期限ヲ許与ス可シ但シ其裁判書ニハ猶予ノ理由ヲ表示ス可キモノトス
第百弐拾三条 其期限ハ裁判ノ対審タルニ於テハ裁判ノ日ヨリ起算シ又裁判ノ缺席タルニ於テハ送達ノ日ヨリ起算ス可シ
第百弐拾四条 若シ負債者ノ財産ヲ他ノ債主ノ求ニ依テ売払ヒタル時又ハ負債者ノ家資分散ノ景状又ハ重罪缺席ノ景状ニアル時又ハ負債者ノ拘留セラレタル時又ハ負債者ノ契約ニ依リ其債主ニ附与シタル抵保ヲ自己ノ所為ニ依テ減少シタル時ハ負債者猶予ノ期限ヲ得ルコトヲ得ス又己レニ許与セラレタル猶予期限ノ利益ヲ享クルコトヲ得ス
第百弐拾五条 権利保存ノ所為ハ許与セラレタル猶予期限ニ拘ハラス有効ノモノトス
第百弐拾六条 拘留ハ法律ニ定メタル場合ニ非サレハ之ヲ宣告ス可カラス然レトモ左ノ諸件ニ付キ拘留ヲ宣告スルコトハ裁判官ノ智心ニ任カス可シ
第一 民事ニ於テ三百「フランク」ノ金額以上ノ損害賠償ニ付キ
第二 後見、管財、組合及ヒ結社、公同設立場ノ管理又ハ総テ裁判上ニテ委託セラレタル管理ノ計算ノ残額ノ為メ及ヒ其計算ノ為メニ為ス可キ総テノ返還ニ付キ
第百弐拾七条 裁判官ハ前条ニ表示シタル場合ニ於テハ其定ムル所ノ時間拘留ノ執行ヲ猶予ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ其時間ノ後ニ於テハ更ニ新タナル裁判ナクシテ拘留ヲ執行ス可キモノトス○右ノ猶予ハ争訟ヲ裁定スル裁判書ニ依ルニ非サレハ之ヲ許与スルコトヲ得ス但シ其裁判書ニハ猶予ノ理由ヲ表示ス可シ
第百弐拾八条 総テ損害賠償ヲ言渡ス裁判書ニハ之レカ算定ヲ記シ又ハ箇条書ヲ以テ其額ヲ定ム可キ旨ヲ命令ス可シ
第百弐拾九条 果実ノ返還ヲ言渡ス裁判書ニハ最後ノ年ニ付テハ原物ヲ以テ其返還ヲ為ス可ク又其以前ノ数年ニ付テハ各年ノ季節ト通価トニ注意シテ最近ノ市場ノ時価表ニ従ヒ其返還ヲ為ス可ク若シ時価表ノアラサルニ於テハ鑑定人ノ説ニ従ヒ其返還ヲ為ス可キ旨ヲ命令ス可シ○若シ最後ノ年ニ付キ原物ヲ以テ返還ヲ為スコト能ハサル時ハ其以前ノ数年ノ如クニ其返還ヲ為ス可シ
第百三拾条 凡ソ敗訴トナリタル者ハ訴訟費額ノ負担ヲ言渡サル可シ
第百三拾壱条 然レトモ配偶者、尊属親、卑属親、兄弟姉妹又ハ右ト同級ノ姻属親ノ間ニ於テハ訴訟費額ノ全部又ハ一部ヲ相殺スルコトヲ得可ク又双方ノ者カ或ル箇条ニ於テ相互ニ敗訴トナリタル時ハ裁判官訴訟費額ノ全部又ハ一部ヲ相殺スルコトヲ得可シ
第百三拾弐条 職権ノ限界ヲ越ヘタル代書人及ヒ使吏並ニ管理ノ利益ヲ損害シタル後見人、管財人、目録ノ利益ヲ受クル相続人又ハ其他ノ管理人ハ自己ノ名前ヲ以テ取戻ノ権ナク訴訟費額ノ負担ヲ言渡サレ又然ノミナラス別理ノ理由アル時ハ損害賠償ヲ言渡サヽルコトアル可シ但シ景況ノ重劇ナルニ従ヒ代書人及ヒ使吏ニ対シテ職務禁止ヲ言渡シ又後見人及ヒ其他ノ者ニ対シテ罷免ヲ言渡スコトト相触ルヽコトナカル可シ
第百三拾三条 代書人ハ裁判宣告ノ時ニ於テ嘗テ多分ノ立替金ヲ為シタル旨ヲ確言スルニ依リ自己ノ利益ニ於テ訴訟費額ノ離分ヲ得ント求ムルコトヲ得可シ○訴訟費額ノ離分ハ其費額ノ言渡ヲ記スル所ノ裁判書ニ依ルニ非サレハ之ヲ宣告スルコトヲ得ス此場合ニ於テハ代書人ノ名前ヲ以テ訴訟費用ノ算定ヲ求メ且ツ執行命令書ヲ交付ス可シ但シ代書人ヨリ其本人ニ対スル訴ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
第百三拾四条 若シ仮リノ訟求ヲ為シ而シテ其仮リノ訟求ト訴訟ノ本案トヲ裁判シ得可キ景状ニ至リシ時ハ裁判官唯一箇ノ裁判書ヲ以テ其諸件ニ付キ宣告ス可キモノトス
第百三拾五条 若シ公正ノ証券承認セラレタル約務書又ハ控訴ヲ為サヽル裁判ニ依レル以前ノ言渡書アル時ハ保証人ナキ仮リノ執行ヲ命令ス可シ
左ノ諸件ニ関シテハ保証人ヲ立テシメ又ハ保証人ナクシテ仮リノ執行ヲ命令スルコトヲ得可シ
第一 封印ヲ附スル事及ヒ除去スル事又ハ財産目録ヲ終成スル事
第二 至急ナル修繕
第三 賃貸ノ証書アラサル時又ハ賃貸期限ノ終リタル時其賃貸シタル場所ヨリ賃借人ヲ辞却スル事
第四 争訟アル物ノ受託人、差押ヘタル財産ノ受託人及ヒ監守人
第五 保証人及ヒ保証人ノ保証人ヲ容受スル事
第六 後見人、管財人及ヒ其他ノ管理人ヲ選任スル事及ヒ計算書ヲ差出ス事
第七 養料又ハ養資
第百三拾六条 若シ裁判官ノ仮リノ執行ヲ宣告スルコトヲ遺忘シタル時ハ再度ノ裁判ヲ以テ之ヲ命令スルコトヲ得ス但シ本人ハ控訴ノ上ニテ其仮リノ執行ヲ求ムルコトヲ得可シ
第百三拾七条 訴訟ノ費額カ損害賠償ニ代ハル可シト裁定セラレタル時ト雖モ訴訟ノ費額ニ付テハ仮リノ執行ヲ命令スルコトヲ得ス
第百三拾八条 裁判所長及ヒ書記ハ裁判ヲ為シタルヤ否直チニ各裁判書ノ細字ノ正本ニ署名ス可ク又審問席日用簿ノ端ニ其裁判ニ立会ヒタル裁判官及ヒ検事ヲ記載ス可ク而シテ裁判所長及ヒ書記ハ其記載ノ部分ニモ亦署名ス可キモノトス
第百三拾九条 裁判書ニ署名スル前ニ其副本ヲ交付シタル書記ハ偽造者ナリトシテ訴ラル可シ
第百四拾条 検事及ヒ検事長ハ毎月裁判書ノ細字ノ正本ヲ差出サシメテ前ノ成規ヲ履行シタルヤ否ヲ調査ス可ク若シ犯則ノ場合ニ於テハ共相当ノ処分ヲ為ス為メ之レカ調書ヲ作ル可シ
第百四拾壱条 裁判書ノ文面ニハ裁判官ノ姓名及ヒ検事ノ意見ヲ聴キタルニ於テハ検事ノ姓名並ニ代書人ノ姓名ヲ記シ又原告人及ヒ被告人ノ姓名、職業、居所及ヒ其請求、実事上及ヒ法律上ノ点ノ簡略ナル説明、裁判ノ理由及ヒ要旨ヲ記ス可シ
第百四拾弐条 裁判書ノ文面ハ双方ノ間ニ送達シタル分限書ニ拠テ之ヲ為ス可シ故ニ対審ノ裁判書ヲ写取ラント欲スル者ハ双方ノ姓名、職業及ヒ居所ト請求並ニ実事上及ヒ法律上ノ点ヲ記シタル分限書ヲ其相手方ノ代書人ニ送達ス可キモノトス
第百四拾三条 其送達書ノ正本ハ二十四時間審問席掛リ使吏ノ手元ニ預カリ置ク可シ
第百四拾四条 分限書ニ付キ若クハ実事上及ヒ法律上ノ点ノ説明ニ付キ故障ヲ申立テント欲スル代書人ハ其旨ヲ使吏ニ申述シ使吏ハ之ヲ記載ス可キモノトス
第百四拾五条 代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ送リタル上ニテ双方ノ者ハ其故障申立ニ付キ上席ヲ為ス裁判官ノ裁定ヲ受ク可ク若シ其差支アル場合ニ於テハ受任ノ順序ニ従ヒ先任裁判官ノ裁定ヲ受ク可シ
第百四拾六条 裁判書ノ副本ハ憲法第四十八条ニ従ヒ国王ノ名ヲ以テ其首文ト末文トヲ記スヘシ
第百四拾七条 訴訟ニ於テ代書人アル時ハ裁判書ヲ其代書人ニ送達シタル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス若シ然ラサル時ハ無効タル可シ又科断ヲ宣告スル所ノ仮リノ裁判書及ヒ確定ノ裁判書ハ右ノ外本人又ハ其住所ニ送達シ而シテ代書人ニ送達シタル旨ヲ其裁判書ニ記載ス可シ
第百四拾八条 若シ代書人カ死去シ又ハ職務ヲ行フコトヲ止息シタル時ハ本人ヘノ送達ノミヲ以テ足レリトス然レトモ代書人ノ死去又ハ職務止息ノ旨ヲ其送達書ニ記載ス可シ
○第八巻 缺席裁判及ヒ故障申立
第百四拾九条 若シ被告人ノ代書人ヲ撰定セス又ハ撰定シタル代書人カ審問ノ為メニ指示セラレタル日ニ出席セサル時ハ缺席ノ旨ヲ言渡ス可シ
第百五拾条 缺席ハ訴訟ノ呼上ノ上、審問席ニ於テ之ヲ宣告ス可ク而シテ其缺席ノ宣告ヲ求ムル者ノ請求カ正当ニシテ且ツ確証アル時ハ其請求ヲ裁可ス可シ然レトモ裁判官ハ次キノ審問席ニ於テ裁判ヲ宣告スル為メ証拠物ヲ役署ニ差出サシムルコトヲ得可キモノトス
第百五拾壱条 若シ数人カ同一ノ事件ノ為メ互ニ相異ナレル期限ニ於テ呼出サレタル時ハ其中最モ長キ期限ノ終リタル後ニ非サレハ右数人中ノ何人ニ対シテモ缺席裁判ヲ得ント求ム可カラス
第百五拾弐条 招喚セラレテ缺席シタル各人ハ同一ノ缺席中ニ包含セラル可シ若シ其各人ニ対シテ別々ニ缺席ノ裁判ヲ得タル時ハ其缺席裁判ノ費用ハ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可カラスシテ代書人ノ負任タル可シ但シ代書人ハ其本人ニ対シテ右ノ費用ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス
第百五拾三条 若シ呼出サレタル二人又ハ数人ノ中ニテ或者ハ缺席ヲ為シ他ノ者ハ出席シタル時ハ缺席ノ利益ヲ併合シテ其併合ノ裁判書ヲ特ニ委任セラレタル使吏ヨリ缺席者ニ送達ス可シ但シ其送達書ニハ訴訟ヲ呼上ク可キ日ニ呼出ス旨ヲ記シ而シテ唯一箇ノ裁判ヲ以テ裁定ス可キモノトス但シ其裁判ハ故障ヲ申立ツルコトヲ許サス
第百五拾四条 代書人ヲ撰定シタル被告人ハ答弁書ヲ差出スコトナクシテ唯一箇ノ証書ニ依リ審問ヲ求メ而シテ出席セサル原告人ニ対シテ缺席ノ言渡ヲ得ルコトヲ得可シ
第百五拾五条 缺席裁判ハ代書人ヲ撰定シタル時ハ代書人ニ送達シタルヨリ八日ノ期限ノ終ラサル前ニ之ヲ執行ス可カラス又代書人ヲ撰定セサル時ハ本人又ハ其住所ニ送達シタルヨリ八日ノ期限ノ終ラサル前ニ之ヲ執行ス可カラス但シ至急ヲ要スル時第百三十五条ニ定メタル場合ニ於テ右期限ノ終ラサル前ニ其執行ヲ命令シタル時ハ格別ナリトス
又裁判官ハ遅滞ニ於テ危険アル場合ノミニ於テハ保証人ヲ立テシメ又ハ保証人ナクシテ故障ノ申立ニ拘ハラス執行ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ此事ハ同一ノ裁判ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得サルモノトス
第百五拾六条 総テ代書人ヲ撰定セサル本人ニ対スル缺席裁判書ハ裁判所ヨリ委任シ若クハ裁判所ノ指定メタル缺席者住所ノ裁判官ヨリ委任シタル使吏之ヲ送達ス可シ但シ其裁判ハ之ヲ得タルヨリ六月内ニ之ヲ執行ス可ク若シ然ラサレハ無効ナリト看做ス可シ
第百五拾七条 若シ代書人ヲ撰定シタル本人ニ対シテ裁判ヲ為シタル時ハ代書人ニ送達シタル日ヨリ起算シテ八日間ニ非サレハ故障ノ申立ヲ受理ス可カラス
第百五拾八条 若シ代書人ヲ撰定セサル本人ニ対シテ裁判ヲ為シタル時ハ其裁判ノ執行ニ至ル迄故障ノ申立ヲ受理ス可キモノトス
第百五拾九条 若シ差押ヘタル動産ヲ売払ヒタル時又ハ裁判言渡ヲ受ケタル者ヲ禁錮シ或ハ其釈放ニ付キ故障ヲ申立テタル時又ハ其不動産中ノ一箇或ハ数箇ノ差押ヲ其者ニ通知シタル時又ハ訴訟ノ費用ヲ弁済シタル時又ハ缺席者ノ其裁判ノ執行ヲ知リタルニ相違ナシト推知ス可キ或ル所為ノアリタル時ハ裁判ヲ執行シタリト看做ス可シ而シテ前ニ記シタル期限内ニ後ニ定ムル所ノ法式ヲ以テ故障ノ申立ヲ為ス時ハ其執行ヲ停止スルモノトス但シ故障ノ申立ニ拘ハラスシテ執行ヲ命令シタル時ハ格別ナリトス
第百六拾条 若シ代書人ヲ撰定シタル本人ニ対シテ裁判ヲ為シタル時ハ代書人ヨリ代書人ヘノ請願書ヲ以テ故障ノ申立ヲ為シタル時ニ非サレハ其故障ノ申立ヲ受理ス可カラス
第百六拾壱条 其請願書ニハ故障申立ノ憑拠ヲ記ス可シ但シ裁判ノ前ニ弁論ノ憑拠書ヲ送達シタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ其憑拠書ヲ故障申立ノ憑拠トシテ用フル旨ヲ申述スルヲ以テ足レリトス而シテ又右ノ法式ヲ以テ送達セサル故障申立書ハ執行ヲ停止セサルモノニシテ別ニ其他ノ審理ヲ要スルコトナク単純ナル証書ニ拠リ之ヲ棄却ス可シ
第百六拾弐条 若シ代書人ヲ撰定セサル本人ニ対シテ裁判ヲ為シタル時ハ裁判外ノ証書ニ依リ若クハ弁済ノ督促書、差押或ハ拘留ノ調書又ハ其他総テ執行ノ証書上ニ於ケル申述ニ依リ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ但シ其故障申立人ハ八日内ニ請願書ヲ以テ代書人ヲ撰定シテ更ニ再ヒ其故障申立ヲ為ス可ク若シ其時期ヲ過クル時ハ最早故障ノ申立ヲ受理ス可カラス而シテ別段執行ヲ継続ス可キ旨ヲ命令セシムルノ要ナクシテ其執行ヲ継続ス可シ
若シ裁判ヲ得タル本人ノ代書人カ死去シ又ハ最早職務ヲ行フコトヲ得サル時ハ缺席者ニ新タナル代書人ノ撰定ヲ通知セシム可シ而シテ其缺席者ハ其送達ヨリ起算シテ前ニ記シタル期限内ニ代書人ヲ撰定シ請願書ヲ以テ更ニ再ヒ其故障申立ヲ為ス可キモノトス
如何ナル場合ニ於テモ請願書ヨリ後ニ差出ス所ノ故障申立ノ憑拠書ハ訴訟費用ノ算定中ニ入ラサルモノトス
第百六拾三条 書記局ニ於テハ一箇ノ簿冊ヲ設ケ置キ故障申立人ノ代書人ハ其簿冊上ニ双方ノ者及ヒ其代書人ノ姓名、裁判書及ヒ故障申立書ノ日附ヲ表示シテ其故障申立ヲ簡略ニ記載ス可シ但シ之レカ副本ヲ交付スル場合ニ非サレハ簿冊登記税ヲ納ムルニ及ハス
第百六拾四条 如何ナル缺席裁判タリトモ簿冊ニ記載シタル故障申立ノアラサル旨ヲ証明スル書記ノ保証書ニ拠ルニ非サレハ第三ノ人ニ関シテ之ヲ執行ス可カラス
第百六拾五条 第一次ノ故障申立ヲ棄斥シタル裁判ニ対シテハ決シテ故障ノ申立ヲ受理スルコトヲ得ス
○第九巻 抗弁ノ憑拠
○第壱款 外国人ノ立ツ可キ保証人
第百六拾六条 凡ソ外国人ハ主タル原告人タルト参渉者タルトヲ問ハス若シ被告人カ総テ抗弁ノ憑拠ヲ申立ツル前ニ請求スルニ於テハ其言渡サルヽコトアル可キ訴訟費用及ヒ損害賠償ヲ弁済スル為メノ保証人ヲ立ツ可シ
第百六拾七条 保証人ヲ立ツルコトヲ命令スル裁判書ニハ幾許ノ金額ニ充ツル迄其保証人ヲ立ツ可キヤヲ定ム可シ但シ其金額ヲ附託シ又ハ仏蘭西ニアル自己ノ不動産カ其金額ヲ担保スルニ充分ナル旨ヲ証明スル所ノ原告人ハ保証人ヲ立ツルコトヲ免セラル可シ
○第弐款 裁判管轄ヲ移スノ訴
第百六拾八条 争訟ヲ裁定ス可キ裁判所ヨリ更ニ他ノ裁判所ニ招喚セラレタル者ハ該管裁判官ノ面前ニ移送ヲ得ント訟求スルコトヲ得可シ
第百六拾九条 右ノ者ハ総テ其他ノ抗弁ノ憑拠及ヒ答弁ノ前ニ右ノ訟求ヲ為ス可シ
第百七拾条 若シ然レトモ裁判所カ訴訟ノ事柄ノ為メニ管轄違ヒノモノタル時ハ訴訟中何時タリトモ裁判管轄ヲ移サント訟求スルコトヲ得可ク若シ又其裁判管轄ヲ移サント訟求セサル時ハ裁判所ヨリ職権上ニテ該管裁判所ニ移送ス可キモノトス
第百七拾壱条 若シ同一ノ事項ニ付キ既ニ他ノ裁判所ニ於テ訴ヲ為シタル時又ハ争訟カ他ノ裁判所ニ於テ既ニ審理中ノモノタル一箇ノ訴訟ニ牽連シタル時ハ裁判管轄ヲ移スコトヲ訟求シ及ヒ命令スルヲ得可シ
第百七拾弐条 総テ裁判管轄ヲ移スノ訴ハ之ヲ貯存スルコトヲ得ス又之ヲ主タル訴ニ併合スルコトヲ得スシテ簡略ニ裁判ス可シ
○第三款 無効
第百七拾三条 総テ呼出状又ハ訴訟手続ノ証書ノ無効ハ管轄違ヒノ抗弁ノ憑拠ヲ除クノ外総テ其他ノ弁論又ハ抗弁ノ憑拠ノ前ニ之ヲ申立テサル時ハ蓋蔽セラルヽモノトス
○第四款 猶予ヲ求ムル抗弁ノ憑拠
第百七拾四条 相続人、寡婦及ヒ財産ヲ共通シタリトシテ呼出サレタル離婚セラレタル婦又ハ財産ヲ離分シタル婦ハ目録ヲ作ル為メ財産相続ノ開始又ハ財産共通ノ解分ノ日ヨリ三月ノ猶予ト熟考スル為メ四十日ノ猶予トヲ有スルモノトス若シ三月ニ至ラサル前ニ目録ヲ作リタル時ハ之ヲ成就シタル日ヨリ四十日ノ猶予期限ヲ起算ス可シ
若シ右ノ各人カ三月内ニ目録ヲ作ルコトヲ得サリシ旨ヲ証明スル時ハ之ヲ作ル為メニ相当ノ猶予ト熟考スル為メニ四十日ノ猶予トヲ許与ス可シ但シ此事ハ簡略ニ裁定ス可キモノトス
然レトモ相続人ハ前文ニ依リ許与セラレタル期限ノ終リシ後猶目録ヲ作リテ目録ノ利益ヲ受クル相続人トナルノ権能ヲ保存スルモノトス但シ其相続人ノ他ニ相続人タルノ所為ヲ行ヒ又ハ単純ナル相続人タルノ分限ヲ以テ其相続人ニ言渡シタル所ノ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ノ其相続人ニ対シテ存在スル時ハ格別ナリトス
第百七拾五条 担保人ヲ招喚スルノ権利アリト称言スル者ハ原始ノ訴ノ日ヨリ八日内ニ担保人ヲ招喚ス可シ但シ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ増加ス可キモノトス○若シ同一ノ担保ニ関係シタル担保人数名アル時ハ総テ其数名ノ為メ唯一箇ノ猶予期限ノミヲ存スルモノトス但シ其猶予期限ハ最モ遠隔ナル担保人ノ居所ノ距離ニ従ヒ之ヲ規定ス可シ
第百七拾六条 若シ担保人カ再担保ニ於テ更ニ他人ヲ招喚スルノ権利アリト称言スル時ハ己レニ対シテ為サレタル担保ノ訴ノ日ヨリ起算シテ前記ノ期限内ニ其招喚ヲ為ス可キモノトス但シ此成規ハ逐次其後ノ再担保人ニ関シテ之ヲ遵守ス可シ
第百七拾七条 若シ然レトモ原始ノ被告人カ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ猶予期限内ニ呼出サレタル時ハ担保人ヲ招喚スル為メノ期限ハ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ期限ノ終リシ日ノミヨリ起算ス可キモノトス
第百七拾八条 如何ナル事柄ニ付テモ幼年ナル事又ハ其他ノ特権アル原由ヲ口実トシテ担保人ヲ招喚スル為メ更ニ他ノ猶予期限ヲ受クルコトヲ得ス但シ担保人ニ対シテ訴ヲ為スコトヲ得可シト雖モ之レカ為メ主タル訴ノ裁判ヲ遅延スルコトナカル可シ
第百七拾九条 若シ担保ニ於ケル呼出ノ期限カ原始ノ訴ノ期限ト同時ニ終ハラサル時原始ノ被告人カ其期限ノ終ラサル前ニ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ其担保ノ訴ヲ為シタル旨ヲ申述シタルニ於テハ其原始ノ被告人ニ対シテ缺席裁判ヲ得ント求ム可カラス但シ被告人カ若シ担保人ヲ招喚スル為メノ期限ノ終リシ後担保ノ訴ヲ為シタル旨ヲ証明セサルニ於テハ原始ノ訴ニ付キ裁判ヲ為ス可ク又然ノミナラス被告人ノ申立テタル担保ノ訴ヲ現ニ為サヽリシコトノ知レタルニ於テハ其被告人ニ損害賠償ヲ言渡ス可キモノトス
第百八拾条 若シ原始ノ原告人カ担保人ヲ招喚スル為メノ猶予期限ヲ許与ス可カラサル旨ヲ主持スル時ハ其附帯ノ訴訟ヲ簡略ニ裁判ス可シ
第百八拾壱条 担保ノ為メニ呼出サレタル者ハ其担保人タルコトヲ非斥スル時ト雖モ原始ノ訴ヲ審理スル所ノ裁判所ニ出ツ可キモノトス然レトモ若シ書面ニ依リ又ハ実事上ノ証ニ依リ担保人ヲ其自己ノ裁判所外ニ引出サンカ為メニ原始ノ訴ヲ為シタルコトノ知ルヽ時ハ担保人ヲ其裁判所ニ移ス可シ
第百八拾弐条 対物権又ハ書入質ノ事項ノ為メ固確ナル担保ニ於テハ担保人ハ何時タリトモ被担保人ニ代ハルコトヲ得可ク而シテ被担保人ノ第一次ノ裁判ノ前ニ其訴訟ヲ免カレント求ムル時ハ之ヲ免カレシム可キモノトス
然レトモ被担保人ハ其訴訟ヲ免カレタリト雖モ自己ノ権利ノ保存ノ為メ其訴訟ニ参加スルコトヲ得可シ又原始ノ原告人ハ自己ノ権利ノ保存ノ為メ被担保人ヲ其訴訟ニ参シ置カシム可キ旨ヲ求ムルコトヲ得可シ
第百八拾三条 単純ナル担保ニ於テハ担保人ハ被担保人ニ代ハルコトナク唯参渉スルコトノミヲ得可シ
第百八拾四条 若シ原始ノ訴ト担保ノ訴トヲ同時ニ裁判スルコトヲ得可キ景状ニ至リタル時ハ相合シテ之ヲ裁判ス可シ然ラサル時ハ原始ノ原告人ハ自己ノ訴ヲ別ニ裁判セシムルコトヲ得可ク若シ二個ノ訴ヲ併合シタル時ハ右同一ノ裁判ヲ以テ其離分ヲ宣告ス可シ但シ主タル訴ノ裁判ノ後担保ノ訴ヲ裁判ス可キノ要アル時ハ之ヲ裁判ス可キモノトス
第百八拾五条 固確ナル担保人ニ対シテ為シタル裁判ハ被担保人ニ対シテ執行ス可キモノトス
被担保人ノ訴訟ヲ免カレタルト訴訟ニ参加シタルトヲ問ハス其被担保人ニ裁判書ヲ送達スルヲ以テ足レリトシ別ニ其他ノ訴又ハ訴訟ノ手続ヲ要スルコトナシ○訴訟ノ費額及ヒ損害賠償ニ関シテハ担保人ニ対スルニ非サレハ其算定及ヒ執行ヲ為スコトヲ得ス
然レトモ担保人ノ無資力ノ場合ニ於テハ被担保人訴訟ノ費額ヲ負担ス可シ但シ被担保人ノ訴訟ヲ免カレタル時ハ格別ナリトス又裁判所ニ於テ損害賠償ヲ為ス可シト裁判シタル時ハ被担保人其損害賠償ヲモ亦負担ス可シ
第百八拾六条 猶予ヲ求ムル抗弁ノ憑拠ハ相合シテ之ヲ申立ツ可ク且ツ本案ニ付テノ総テノ答弁ノ前ニ之ヲ申立ツ可シ
第百八拾七条 相続人、寡婦及ヒ離婚セラレ又ハ財産ヲ離分シタル婦ハ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ期限ノ終リシ後ニ至リテ其猶予ヲ求ムル抗弁ノ憑拠ヲ申立ツルコトヲ得可シ
○第五款 証拠物ノ通知伝観
第百八拾八条 原告人及ヒ被告人ハ自己ニ対シテ使用セラレタル証拠物ヲ送達シ又ハ使用シタル時ヨリ三日内ニ単純ナル証書ヲ以テ其証拠物ノ通知伝観ヲ得ント相互ニ訟求スルコトヲ得可シ
第百八拾九条 其通知伝観ハ代書人ノ間ニ受取証書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ書記局ヘノ附託ニ依テ之ヲ為ス可シ但シ其証拠物ハ之レカ細字ノ正本ノ存在スル時又ハ本人ノ承諾アル時ニ非サレハ他所ニ携ヘ行クコトヲ得ス
第百九拾条 其通知伝観ノ期限ハ代書人ノ受取証書ヲ以テ之ヲ定メ又ハ通知伝観ヲ命令スル裁判書ヲ以テ之ヲ定ム可シ若シ之ヲ定メサル時ハ其期限ハ三日間トス
第百九拾壱条 若シ期限ノ終リシ後代書人ノ其証拠物ヲ返サヽル時ハ本人ノ単純ナル請願書ニ拠リ又然ノミナラス本人ノ単純ナル覚書ニ拠リ即時ニ拘留ノ方法ヲ以テ強テ其証拠物ヲ返サシム可キノ命令ヲ為シ又然ノミナラス其命令書ノ送達ノ日ヨリ後ニ遅延シタル一日毎ニ相手方本人ニ損害賠償トシテ三「フランク」ヲ弁済シ且ツ其外ニ右ノ請願書及ヒ命令書ノ費用ヲ強テ弁済セシム可キノ命令ヲ為ス可シ但シ其請願書及ヒ命令書ノ費用ハ右ノ代書人其撰定者ニ対シテ之ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス
第百九拾弐条 故障申立ノ場合ニ於テハ其附帯ノ訴訟ヲ簡略ニ裁定ス可シ若シ代書人ノ敗訴トナル時ハ右附帯訴訟ノ費額ヲ己レ一身上ニ言渡サレ又然ノミナラス景況ノ性質ニ従ヒ其他ノ相当ノ損害賠償及ヒ懲罰ヲ言渡サル可キモノトス
○第拾巻 書類ノ験真
第百九拾三条 私シノ書類ノ承認及ヒ験真ニ関スル時ハ原告人其承認ノ証書ヲ得ル為メ又ハ書類ヲ承認シタリト為サシムル為メ裁判官ノ許ナクシテ三日内ニ呼出サシムルコトヲ得可シ
若シ被告人カ署名ヲ非斥セサル時ハ承認又ハ験真ニ関スル総テノ費用又然ノミナラス書類ノ簿冊登記ノ費用モ原告人ノ負任タル可シ
第百九拾四条 若シ被告人ノ出席セサル時ハ缺席ノ旨ヲ言渡ス可ク而シテ其書類ヲ承認シタリト為ス可シ若シ又被告人ノ其書類ヲ承認シタル時ハ裁判ヲ以テ其承認ノ証書ヲ原告人ニ附与ス可シ
第百九拾五条 若シ被告人カ其己レニ帰セラレタル署名ヲ非斥シ又ハ第三ノ人ニ帰セラレタル署名ヲ承認セスト申述スル時ハ証券ニ依リ並ニ鑑定人及ヒ証人ニ依リ其験真ヲ命令スルコトヲ得可シ
第百九拾六条 験真ヲ許可スル裁判ニハ鑑定人三名ノ其験真ヲ為ス可キ旨ヲ命令シ而シテ職権上ニテ其鑑定人ヲ選任ス可シ但シ原告人及ヒ被告人ノ相協議シテ之ヲ選任シタル時ハ格別ナリトス○右ト同一ノ裁判書ヲ以テ其験真ヲ為スニ付テノ裁判官ヲ委任シ又其裁判書ニハ其験真ス可キ証拠物ノ景状ヲ証明シ且ツ原告人又ハ其代書人ト書記トニ於テ其証拠物ニ署名シ及ヒ花押ヲ為シタル後之ヲ書記局ニ差出ス可キ旨ヲ記ス可シ但シ書記ハ右ノ諸件ニ付キ調書ヲ作ル可キモノトス
第百九拾七条 委員裁判官又ハ鑑定人ニ対スル忌避ノ場合ニ於テハ本編第拾四巻及ヒ第弐拾壱巻ニ定メタル如ク処分ス可キモノトス
第百九拾八条 被告人ハ証拠物差出ノ日ヨリ三日内ニ其証拠物ヲ他所ニ携ヘ行クコトナク書記局ニ於テ之ヲ査視スルコトヲ得可シ但シ其証拠物ハ右査視ノ時ニ於テ被告人又ハ其代書人又ハ其特別ノ代理人之ニ花押ヲ附ス可キモノトス而シテ書記ハ之レカ調書ヲ作ル可シ
第百九拾九条 委員裁判官ノ命令書ニ指示シタル日ニ至リ嘗テ代書人ヲ撰定シタルニ於テハ右ノ命令書ヲ以テ委任シタル使吏ヨリ其代書人ニ送達シタル最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ催促状ニ依リ若シ又代書人ヲ撰定セサルニ於テハ本人ノ住所ニ送達シタル其催促状ニ依リ双方ノ者ハ照徴ノ書類ニ付キ協議スル為メ右委員裁判官ノ面前ニ出席ス可シ若シ験真ノ訴ニ於ケル原告人ノ出席セサル時ハ右ノ証拠物ヲ棄却ス可ク又被告人ノ出席セサル時ハ裁判官其証拠物ヲ承認シタリト為スコトヲ得可シ○右二箇ノ場合ニ於テハ弁論ヲ促求スルノ証書ナク委員裁判官ノ報告ノ上最近ノ審問席ニ於テ裁判ヲ為ス可シ但シ其裁判ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
第弐百条 若シ双方ノ者カ照徴ノ書類ニ付キ協議セサル時ハ裁判官左ノ諸件ニ非サレハ照徴ノ書類トシテ容受スルコトヲ得ス
第一 公証人ノ面前ニ於テ記シタル証書ニ為シタル署名又ハ裁判官及ヒ書記ノ面前ニ於テ裁判上ノ証書ニ為シタル署名又ハ其書類ヲ照徴セントスル者ノ裁判官、書記、公証人、代書人、使吏タルノ分限ヲ以テ書記シ及ヒ署名シ又ハ総テ其他ノ名義ヲ以テ公務ヲ行フニ付キ書記シ及ヒ署名シタル証拠物
第二 其験真ス可キ証拠物ヲ記シタリト申述セラレタル者ノ承認シタル私シノ書類及ヒ署名」但シ其者ノ非斥シ又ハ承認セサル書類及ヒ署名ハ以前既ニ之ヲ験真シ及ヒ其者ノ為シタリト認メラレタル時ト雖モ照徴ノ書類ト為スコトヲ得ス
若シ非斥又ハ不承認カ験真ス可キ証拠物ノ一部分ノミニ関スル時ハ裁判官其証拠物ノ他ノ部分ヲ照徴ノ書類ニ用フ可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第弐百壱条 若シ照徴ノ書類カ公ケノ受託者又ハ其他ノ者ノ手裏ニアル時ハ委員裁判官其指示シタル日時ニ右書類ノ保有者カ験真ヲ為ス所ノ場所ニ之ヲ持来ル可キ旨ヲ命令ス可シ若シ之ヲ持来ラサル時ハ公ケノ受託者ハ拘留ヲ受ク可ク又其他ノ者ハ通常ノ方法ヲ以テ強制セラル可ク又然ノミナラス別段ノ理由アルニ於テハ拘留ノ宣告ヲ受クルコトアル可シ
第弐百弐条 照徴ノ書類ヲ他所ニ携ヘ行クコトヲ得サル時又ハ其保有者ノ甚タ遠隔ノ地ニ在ル時ハ裁判所ノ智心ニ任カセ委員裁判官ノ報告ノ上検事ノ意見ヲ聴キタル後其受託者ノ居所ニ於テ験真ヲ為シ又ハ其最近ノ場所ニ於テ験真ヲ為シ又ハ定マリタル期限内ニ裁判所ノ其裁判書ヲ以テ指定スル所ノ方法ニ依リ其照徴ノ書類ヲ書記局ニ送ル可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第弐百三条 右最後ニ記シタル場合ニ於テ若シ受託者カ公務ヲ行フ人タル時ハ予メ照徴書類ノ対校シタル副本又ハ写ヲ作リ其受託者ノ郡ノ裁判所長ハ其細字ノ正本又ハ正本ニ拠リ右ノ副本又ハ写ヲ験真シテ其調書ヲ作ル可シ但シ其副本又ハ写ハ受託者之ヲ其細字正本ノ部類中ニ加ヘテ照徴書類ノ還付ニ至ル迄之レニ代用ス可ク而シテ受託者ハ其作ラレタル調書ノ旨ヲ記載シテ其副本又ハ写ノ大字ノ副本又ハ副本ヲ交付スルコトヲ得可キモノトス
受託者ハ調書ヲ作リシ裁判官ノ為シタル費用ノ算定ニ拠リ験真ノ訴ノ原告人ヨリ其費用ヲ償還セラル可シ但シ其調書ニ従ヒ執行命令書ヲ交付ス可キモノトス
第弐百四条 最モ先キニ手続ヲ為ス者ハ呼出状ヲ鑑定人及ヒ受託者ニ送リテ委員裁判官ノ命令書ニ指示シタル場所ト日時トニ出席ス可キ旨ヲ催促ス可シ但シ鑑定人ニハ誓ヲ為シテ験真ニ取掛ル為メニ出席ス可キ旨ヲ催促シ又受託者ニハ照徴ノ書類ヲ差出ス為メニ出席ス可キ旨ヲ催促ス可ク又相手方ニハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ出席ス可キ旨ヲ催促ス可シ○右ノ諸件ニ付テハ調書ヲ作リ受託者ニハ其調書中ニテ受託者ニ関係アル部分ヲ抄出シタル写ト裁判書ノ写トヲ附与ス可シ
第弐百五条 受託者ノ照徴ノ書類ヲ差出シタル時ハ委員裁判官ノ智心ニ任カセ其受託者ノ右照徴書類ノ監守ノ為メ験真ノ席ニ出テ而シテ各回ノ取調席毎ニ之ヲ取戻シ及ヒ差出ス可キ旨ヲ命令シ又ハ書記ノ手裏ニ其照徴ノ書類ヲ附託ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ書記ハ調書ヲ以テ其受託ノ旨ヲ証ス可キモノトス此最後ニ記シタル場合ニ於テ受託者カ若シ公務ヲ行フ者タルニ於テハ第二百三条ニ記シタル如クニ其書類ノ副本ヲ作ルコトヲ得可ク仮令験真ヲ為ス所ノ場所カ其受託者ノ職務ヲ行フノ権利アル管轄地外ニ在ル時ト雖モ亦同一ナリトス
第弐百六条 若シ照徴書類ノアラス又ハ其不足ナル場合ニ於テハ委員裁判官鑑定人ノ口授スル所ニ従ヒ手記ノ文書ヲ作ラシムルコトヲ命令スルヲ得可シ但シ其席ニハ原告人ノ出席シ又ハ之ヲ招喚シタルコトヲ必要トス
第弐百七条 鑑定人ノ誓ヲ為シテ照徴ノ書類ヲ査視シ又ハ被告人ノ手記ノ文書ヲ作リタル上原告人及ヒ被告人ハ委員裁判官ノ調書上ニ其相当ト思考スル所ノ請求及ヒ意見ヲ記セシメタル後退席ス可シ
第弐百八条 鑑定人ハ書記局ニ於テ書記ノ面前ニテ相共ニ験真ニ取掛リ若シ又委員裁判官ノ別段ノ命令アル時ハ其裁判官ノ面前ニ於テ相共ニ験真ニ取掛ル可シ若シ一日ニ験真ヲ終了スルコトヲ得サル時ハ裁判官又ハ書記ノ指示シタル日時ニ之ヲ延ハス可シ
第弐百九条 鑑定人ノ報告書ハ其正確ナル旨ヲ陳述スルヲ要セスシテ之ヲ委員裁判官ノ調書ノ細字正本ニ添置ク可シ而シテ照徴ノ書類ハ之ヲ其受託者ニ還付シ受託者ハ調書ニ書記ノ其受託ノ責ヲ免カレシ旨ヲ記ス可キモノトス
鑑定人ノ日当及ヒ手数料ノ費用ノ算定ハ調書ニ之ヲ記シ而シテ験真ノ訴ノ原告人ニ対シテ之レカ執行命令書ヲ交付ス可シ
第弐百拾条 鑑定人三名ハ理由ヲ附シタル共通ノ報告書ヲ作リ且ツ多数ノ説ニ従ヒ唯一箇ノ意見ノミヲ申立ツ可シ
若シ互ニ相異ナリタル意見アル時ハ報告書ニ其理由ヲ記ス可シ但シ其鑑定人各個ノ意見ヲ知ラシムルコトヲ許サス
第弐百拾壱条 問題トナリタル書面ヲ書記シ又ハ之ニ署名スルヲ見タル者又ハ事実ヲ発見スルニ用立ツ可キ事柄ヲ知ル所ノ者ハ証人トシテ其申立ヲ聴クコトヲ得可シ
第弐百拾弐条 証人ノ訊問ニ取掛ル時ニ於テ其非斥セラレ又ハ承認セラレサル証拠物ヲ証人ニ示シ証人ハ之ニ花押ヲ為ス可シ但シ其事ハ之ヲ記載ス可ク又花押ヲ為スコトヲ否拒シタル時ハ亦其旨ヲ記載ス可シ而シテ又右ノ外証人訊問ノ為メ後ニ定ムル所ノ規則ヲ遵守ス可キモノトス
第弐百拾三条 若シ証拠物ヲ非斥シタル者ノ之ヲ書記シ又ハ之ニ署名シタルノ証アル時ハ相手方本人ニ対スル訴訟費額及ヒ損害賠償ノ外国領ニ対シテ百五十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可ク又主額ノ為メニモ拘留ヲ言渡サルヽコトアル可シ
○第拾壱巻 民事ノ附帯偽造ノ訴
第弐百拾四条 訴訟手続ノ進行中ニ送達セラレ又ハ通知伝観セシメラレ又ハ差出サレタル証拠物ノ偽造又ハ変造タル旨ヲ称言スル者ハ別段ノ要アル時ハ偽造ノ訴ヲ為スコトヲ得可シ但シ主タル偽造ノ訴又ハ附帯ノ偽造ノ訴ノ主眼ヨリモ更ニ他ノ主眼ヲ以テ偽造ノ訴ノ原告人ト共ニ若クハ其被告人ト共ニ既ニ右ノ証拠物ヲ験真シ依テ其証拠物ヲ真正ノモノトシテ之レカ基本ニ付テノ裁判ヲ為セシ時ト雖モ亦同一ナリトス
第弐百拾五条 偽造ノ訴ヲ為サント欲スル者ハ予メ他ノ一方ノ者ニ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ送リテ他ノ一方ノ者ノ其証拠物ヲ用ヒント欲スルヤ否ヲ申述スルコトヲ催促ス可シ但シ他ノ一方ノ者ノ其証拠物ヲ用ヒントスル場合ニ於テハ偽造ノ訴ヲ為ス可キ旨ノ申述ヲ附記ス可キモノトス
第弐百拾六条 其要求ヲ受ケタル者ハ八日内ニ代書人ノ証書ヲ以テ其偽造ヲ申立テラレタル証拠物ヲ用ヒント欲スルヤ否ノ申述書ヲ送達セシム可シ但シ其申述書ハ其者自カラ之ニ署名シ又ハ其特別ニシテ公正ナル代理委任状ヲ所持スル者之ニ署名ス可キモノニシテ其委任状ハ之レカ写ヲ附与ス可シ
第弐百拾七条 若シ右ノ要求ニ於ケル被告人カ前条ノ申述ヲ為サス又ハ其証拠物ヲ用ヒント欲セサル旨ヲ申述スル時ハ原告人ハ其偽造ナリト申立テタル証拠物ヲ被告人ニ関シテ棄却ス可キ旨ヲ命令セシムル為メ単純ナル証書ヲ以テ審問席ニ訴フルコトヲ得可シ但シ原告人ハ右ノ証拠物ヨリシテ其適当ナリト思考スル所ノ推及又ハ結果ヲ引致シ又ハ自己ノ損害賠償ノ為メ其相当ト思フ所ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第弐百拾八条 若シ被告人カ其証拠物ヲ用ヒント欲スル旨ヲ申述スル時ハ原告人自カラ署名シ又ハ特別ニシテ公正ナル委任状ヲ所持スル其代理人ノ署名シタル証書ヲ書記局ニ差出シテ偽造ノ訴ヲ為サントスル旨ヲ申述ス可シ又其原告人ハ偽造ノ訴ヲ許容セシメ及ヒ其訴ヲ審理スル委員ヲ選任セシムル為メ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ求ム可シ
第弐百拾九条 被告人ハ偽造ノ訴ヲ許容シテ委員ヲ選任シタル裁判書ノ送達ヨリ三日内ニ其偽造ナリト申立テラレタル証拠物ヲ書記局ニ差出シ而シテ次キノ三日内ニ書記局ニ差出シタルノ証書ヲ送達ス可シ
第弐百弐拾条 若シ被告人カ右ノ期限内ニ前条ニ定メタル所ノ事ヲ履行セサル時ハ原告人前第弐百拾七条ニ記シタル所ニ従ヒ其証拠物ノ棄却ヲ裁定セシムル為メ審問席ニ上訴スルコトヲ得可シ但シ原告人ノ右ノ上訴ヲ為スヨリモ寧ロ自己ノ費用ヲ以テ右ノ証拠物ヲ書記局ニ差出サシムルノ許ヲ得ント求ムルコトヲ欲スル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ原告人右ノ費用ニ付キ裁判前ノ費用トシテ被告人ヨリ之レカ償還ヲ受ク可ク而シテ之レカ為メ原告人ニ執行命令書ヲ交付ス可キモノトス
第弐百弐拾壱条 偽造ナリト申立テラレタル証拠物ノ細字ノ正本アル場合ニ於テハ別段ノ理由アル時ハ原告人ノ請願ニ依リ委員裁判官ノ定ム可キ時間ニ被告人ノ其細字ノ正本ヲ書記局ニ持参セシム可ク若シ其受託者ノ之ヲ持来ラサル時ハ公ケノ官吏ハ拘留セラル可ク又公ケノ官吏ニアラサル者ハ財産差押及ヒ罰金ノ方法ヲ以テ之ヲ持来ルコトニ強ラル可ク又別段ノ場合ニ於テハ之ヲ拘留ス可キ旨ヲ委員裁判官ヨリ命令ス可シ
第弐百弐拾弐条 委員裁判官ノ報告ノ上裁判所ノ智心ニ任カセ其細字ノ正本ノ持参ヲ待タスシテ偽造ノ訴ヲ継続ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可ク又右細字ノ正本ヲ差出スコトヲ得サル場合又ハ其細字ノ正本ヲ窃取セラレ或ハ之ヲ失ヒタルノ充分ナル証アル場合ニ於テハ相当ノ裁定ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第弐百弐拾三条 細字ノ正本ヲ持参スル為メノ期限ハ之ヲ占有スル者ノ住所ニ命令書又ハ裁判書ヲ送達シタルノ日ヨリ之ヲ起算ス可シ
第弐百弐拾四条 被告人ノ細字ノ正本ヲ持参セシムル為メニ定メタル期限ハ其代書人ニ命令書又ハ裁判書ヲ送達シタル日ヨリ之ヲ起算ス可シ若シ被告人ノ其期限内ニ右細字ノ正本ヲ持参セシムルニ必要ナル手続ヲ為サヽル時ハ原告人第弐百拾七条ニ定メタル如ク審問席ニ上訴スルコトヲ得可シ
前項ニ於テ被告人ニ付キ定メタル手続ハ被告人其己レニ送達ヲ受ケシ右細字正本持参ノ旨ヲ命令スル命令書又ハ裁判書ノ写ヲ特定ノ期限内ニ其受託者ニ送達スルヲ以テ之ヲ履行シタリト為ス可シ但シ被告人ハ其命令書又ハ裁判書ノ副本ヲ得ント求ムルニ及ハサルモノトス
第弐百弐拾五条 偽造ナリト称言セラレタル右証拠物ヲ書記局ニ差出シタル上ニテ其差出ノ証書ヲ原告人ノ代書人ニ送達シテ調書作為ノ時ニ出席ス可キ旨ヲ要求ス可ク而シテ其送達ノ時ヨリ三日ノ後ニ其証拠物ノ景状ノ調書ヲ作ル可シ
若シ原告人ノ右証拠物ヲ差出サシメタル時ハ調書作為ノ時ニ出席ス可キノ要求ヲ予メ被告人ニ為シタル上其差出ノ時ヨリ三日内ニ右ノ調書ヲ作ル可シ
第弐百弐拾六条 若シ細字ノ正本ヲ持参ス可キ旨ヲ命令シタル時ハ前ニ定メタル期限内ニ其細字ノ正本ト偽造ナリト申立テラレタル副本トノ調書ヲ相合シテ作ル可シ然レトモ裁判所ハ場合ノ必要ニ従ヒ其細字ノ正本ノ持参ヲ待タスシテ右副本ノ景状ノ調書ヲ先ツ作ル可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ別ニ其細字ノ正本ノ景状ノ調書ヲ作ル可キモノトス
第弐百弐拾七条 調書ニハ塗抹、増載、行間ノ書入及ヒ之ト同種類ノ其他ノ景況ヲ記載ス可シ其調書ハ検事、原告人、被告人又ハ公正ニシテ特別ナル代理委任状ヲ所持スル其代理人ノ面前ニ於テ委員裁判官之ヲ作ル可キモノトス而シテ又右証拠物及ヒ細字ノ正本ハ委員裁判官及ヒ検事ニ於テ之ニ花押ヲ為シ又被告人及ヒ原告人ノ之ニ花押ヲ為スコトヲ得又ハ之ヲ欲スル時ハ被告人及ヒ原告人ニ於テ之ニ花押ヲ為ス可ク若シ然ラサレハ其旨ヲ記載ス可シ○原告人又ハ被告人中一方ノ出席セサル場合ニ於テハ缺席ノ旨ヲ言渡シテ調書ニ取掛ル可シ
第弐百弐拾八条 偽造ノ訴ニ於ケル原告人又ハ其代書人ハ訴訟中何時タリトモ書記ノ手ヲ経由シテ其偽造ナリト申立テタル証拠物ヲ査視スルコトヲ得可シ但シ其証拠物ハ他所ニ携ヘ行クコトヲ得ス又其査視ヲ遅延スルコトヲ得サルモノトス
第弐百弐拾九条 右ノ調書ヨリ八日内ニ原告人ハ其偽造又ハ変造ヲ証明セント称言スル実事、景況及ヒ証拠ヲ記シタル其偽造ノ訴ノ憑拠書ヲ被告人ニ送達ス可ク若シ然ラサル時ハ被告人別段ノ理由アルニ於テハ右原告人ノ偽造ノ訴ヲ為スノ権利ヲ失フ可キ旨ヲ命令セシムル為メ審問席ニ上訴スルコトヲ得可シ
第弐百三拾条 被告人ハ偽造ノ憑拠書ノ送達ノ時ヨリ八日内ニ書面ヲ以テ之ニ答フ可キモノトス若シ然ラサル時ハ原告人前第弐百拾七条ニ定メタル所ニ従ヒ証拠物ノ棄却ニ付キ裁定セシムル為メ審問席ニ上訴スルコトヲ得可シ
第弐百三拾壱条 右答ノ時ヨリ三日ノ後ニ最モ先キニ手続ヲ為ス者ヨリ審問ヲ求ムルコトヲ得可ク而シテ偽造ノ訴ノ憑拠ヲ全ク許容シ又ハ棄却シ或ハ一部分之ヲ許容シ又ハ棄却ス可シ又別段ノ理由アル時ハ右ノ憑拠又ハ其中ノ数箇ヲ若シ右憑拠中ノ或者ヲ許容シタルニ於テハ偽造ノ附帯ノ訴ニ併合ス可ク若クハ主タル訴訟或ハ訴ニ併合ス可キ旨ヲ命令ス可シ但シ右ノ諸件ハ其憑拠ノ性質ト場合ノ必要トニ従フ可キモノトス
第弐百三拾弐条 其許容セラレタル憑拠ハ委員裁判官ノ面前ニ於テ証券並ニ証人ヲ以テ之ヲ証ス可ク又被告人ハ反対ノ証ヲ立ツ可キ旨ト書家鑑定人三名ヲシテ其偽造ヲ申立テラレタル証拠物ノ験真ヲ為サシム可キ旨トヲ裁判書ヲ以テ命令ス可シ但シ其鑑定人三名ハ右ノ裁判書ヲ以テ職権上ヨリ之ヲ選任ス可キモノトス
第弐百三拾三条 適切ニシテ許容ス可キモノナリト宣告セラレタル偽造ノ訴ノ憑拠ハ之レカ証ヲ立ツルコトヲ許ルス裁判書ノ要旨中ニ明カニ之ヲ表示ス可ク総テ其他ノ憑拠ハ之レカ証ヲ立ツ可カラス○然レトモ鑑定人ハ偽造ナリト称言セラレタル証拠物ニ付キ自己ノ技芸上ニテ其相当ト思考スル所ノ意見ヲ申立ツルコトヲ得可シ但シ裁判官ハ其申立テタル意見ヲ適宜ニ斟酌シテ聴取ル可キモノトス
第弐百三拾四条 証人ノ訊問ヲ為スニ付テハ証人訊問ノ為メ後ニ定ムル所ノ法式ヲ遵守ス可シ但シ其偽造ナリト称言セラレタル証拠物ヲ其証人ニ示シ証人ノ之ニ花押ヲ為スコトヲ得又ハ花押ヲ為スコトヲ欲シタル時ハ之ニ花押ヲ為ス可ク若シ然ラサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
鑑定人ニ示サヽル可カラサル照徴ノ書類及ヒ其他ノ書類ニ付テハ委員裁判官之ヲ証人ニ示スコトヲ至当ナリト思考スル時ハ其全部又ハ一部ヲ亦証人ニ示スコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ前ニ定メタル如ク証人其書類ニ花押ヲ為ス可キモノトス
第弐百三拾五条 若シ証人ノ其証拠ヲ申述スル時ニ当リ或ル証拠物ヲ差出シタル時ハ委員裁判官之ニ花押ヲ為シ又右証人ノ之ニ花押ヲ為スコトヲ得又ハ之ヲ欲スル時ハ証人ノ花押ヲ為シタル後証人ノ証拠申述書ニ其証拠物ヲ添ヘ置ク可シ若シ証人ノ花押ヲ為スコトヲ得ス又ハ之ヲ欲セサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ而シテ若シ右ノ証拠物カ偽造ナリト申立テラレタル証拠物ノ偽造又ハ真正ナルノ証ヲ為スモノタル時ハ之ヲ知ル所ノ其他ノ証人ニ之ヲ示シ其証人ハ前ニ定メタル所ニ従ヒ之ニ花押ヲ為ス可キモノトス
第弐百三拾六条 鑑定人ニ依レル証ハ左ノ法式ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第一 照徴ノ書類ハ書類ノ験真ノ巻第弐百条ニ記シタル如ク双方ノ者ノ間ニ協議上ニテ之ヲ定メ又ハ裁判官ヨリ之ヲ指示ス可シ
第二 偽造ノ訴ヲ許容シタル裁判書、偽造ナリト称言セラレタル証拠物、其証拠物ノ景状ノ調書、偽造ノ訴ノ憑拠ヲ許容シテ鑑定人ノ報告ヲ命令シタル裁判書、照徴ノ書類ヲ給付シタル時ハ其書類、照徴ノ書類差出ノ調書、照徴ノ書類ヲ受理スル裁判書ハ之ヲ鑑定人ニ渡ス可シ而シテ鑑定人ハ右ノ各書類ヲ受取リタルコト及ヒ其取調ヲ為シタルコトヲ其報告書ニ記載ス可ク其取調ニ付テノ調書ヲ作ルコトヲ得サルモノトス但シ鑑定人ハ偽造ナリト称言セラレタル証拠物ニ花押ヲ為ス可シ
証人カ其証拠申述書ニ証拠物ヲ添ヘタル場合ニ於テハ其証拠物ヲ鑑定人ニ示ス可キ旨ヲ本人ヨリ請願シ而シテ委員裁判官ヨリ命令スルコトヲ得可シ
第三 右ノ外書類ノ験真ノ巻ニ定メタル規則ハ右ノ報告書ニ付キ之ヲ遵守ス可キモノトス
第弐百三拾七条 委員裁判官若クハ鑑定人ニ対スル忌避ノ場合ニ於テハ本編第拾四巻及ヒ第弐拾壱巻ニ定メタル如クニ之ヲ処分ス可シ
第弐百三拾八条 審理ヲ成就シタル時ハ単純ナル証書ヲ以テ裁判ヲ求ム可シ
第弐百三拾九条 若シ訴訟ノ手続ニ依リ偽造又ハ変造ノ証憑ヲ得而シテ其正犯又ハ従犯ノ生存シテ刑法ノ成規ニ従ヒ其犯罪起訴ノ期満免除ニ依テ消滅セサル時ハ裁判所長ヨリ犯罪被告人ニ対シテ勾引状ヲ交付シ且ツ此事ニ関シテ司法警察官ノ職務ヲ履行ス可シ
第弐百四拾条 前条ノ場合ニ於テハ偽造ノ罪ニ付キ裁判アリシ後ニ至ル迄民事ニ付キ裁定スルコトヲ延ハス可シ
第弐百四拾壱条 偽造ノ訴ヲ裁定スルニ付キ裁判所ヨリ其偽造ナリト宣告セラレタル証拠物ノ滅却、牽裂、又ハ全部或ハ一部ノ塗抹又然ノミナラス其改正又ハ改造ヲ命令シタル時ハ其言渡ヲ受ケタル者カ控訴、敬慎ノ請願又ハ上告ヲ以テ上訴スルコトヲ得可キ期限内ニアリ又ハ其者カ明確且ツ有効ニ其裁判ヲ認諾セサル間ハ裁判書中右ノ箇条ノ執行ヲ延ハス可シ
第弐百四拾弐条 偽造ノ訴ニ付キ為ス所ノ裁判ニ依リ証拠物ヲ給付シ又ハ差出シタル本人若クハ証人ニ之ヲ還付スルコトニ付キ相当ノ裁定ヲ為ス可ク又偽造ナリト称言セラレタル証拠物ニ付テモ其証拠物ノ偽造ナリト裁判セラレサル時ハ亦之ニ同シカル可シ又公ケノ受託所ヨリ引出シタル証拠物ニ関シテハ之ヲ其受託者ニ還付シ又ハ裁判所ノ定メタル方法ヲ以テ書記ヨリ之ヲ送還ス可キ旨ヲ命令ス可シ但シ証拠物ノ還付ニ付キ別ニ他ノ裁判ヲ為スコトナカル可シト雖トモ前条ニ定メタル期限ノ後ニ非サレハ其還付ヲ為スコトヲ得サルモノトス
第弐百四拾三条 右ノ期限ノ間ハ照徴ノ書類又ハ其他ノ書類ノ還付ヲ延ハス可シ但シ右書類ノ受託者又ハ其還付ヲ求ムルニ付キ利益ヲ有スル各人ノ請願ニ依リ裁判所ヨリ右ニ異ナリタル命令ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第弐百四拾四条 書記ハ己レニ関スル所ノ事ニ付テハ厳密ニ前数条ニ従フ可シ若シ之ニ背ク時ハ其職ヲ行フコトヲ禁止セラレ且ツ百「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金及ヒ本人ニ対シテ損害賠償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可ク又然ノミナラス別段ノ理由アルニ於テハ異常ノ処分ヲ受クルコトアル可シ
第弐百四拾五条 右証拠物ノ書記局ニ在ル間ハ一箇ノ裁判ニ拠ルニ非サレハ書記ヨリ其偽造ナリト称言セラレタル証拠物ノ写又ハ副本ヲ交付スルコトヲ得ス又其正本又ハ細字ノ正本ヲ書記局ニ差出シタル証書ニ関シ殊ニ偽造ナリト申立テラレタルモノニ非サル証書ヲ記シタル簿冊ニ関シテハ右ノ書記ハ之レカ副本ヲ得ント求ムルノ権利アル者ニ其副本ヲ交付スルコトヲ得可シト雖トモ右ノ正本又ハ細字ノ正本ノ受託者ニ納ム可キ謝金ヨリ更ニ余分ノ謝金ヲ収取スルコトヲ得ス若シ本条ヲ執行セサル時ハ前条ニ記シタル罰ヲ受ク可シ
若シ書類ノ験真ノ巻第弐百三条ニ従ヒ右証拠物ノ細字ノ正本ノ受託者カ其正本ニ代用スル為メノ副本ヲ作リタル時ハ右ノ証書ハ其受託者ニ非サレハ之レカ写ヲ取ルコトヲ得サルモノトス
第弐百四拾六条 偽造ノ訴ニ於ケル原告人ノ敗訴トナリタル時ハ三百「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ト相当ノ損害賠償トヲ言渡サル可シ
第弐百四拾七条 書記局ニ偽造ノ訴ヲ為シテ其訴ヲ為スノ訟求ヲ許容セラレタル後原告人ノ自己ノ任意ニテ其訟求ヲ棄止シ又ハ敗訴トナリタル時又ハ充分ナル証拠或ハ証拠ノアラサルニ依リ若クハ原告人ノ前ニ定メタル手続及ヒ法式ヲ履行セサルニ依リ双方ノ者ノ訴訟外ニ附セラレタル時ハ毎ニ罰金ヲ受ク可キモノトス但シ其宣告ノ文面ノ如何ヲ問ハス又裁判書ニ罰金ノ言渡ヲ記セサル時ト雖モ其罰金ヲ受ク可ク又原告人カ異常ノ方法ヲ以テ偽造ノ訴ヲ為サント供陳スル時ト雖モ亦之ト同一タル可シ
第弐百四拾八条 若シ偽造ナリト申立テラレタル証拠物又ハ其証拠物中ノ一箇カ其全部又ハ一部ニ於テ偽造ナリト宣告セラレタル時又ハ其証拠物カ訴訟或ハ訴ヨリ棄却セラレタル時又ハ偽造ノ訴ヲ為スノ訟求ヲ許容セラレサル時ハ罰金ヲ受クルコトナカル可シ但シ裁判官ノ其訟求ヲ棄却シ又ハ之ヲ打棄テ置ク為メニ如何ナル文詞ヲ用ヒタルヤヲ問ハサルモノトス
第弐百四拾九条 附帯偽造ノ訴ニ付テノ和解ハ検察官ニ通報シタル後裁判上ニテ認可セラレタルニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得サルモノトス但シ検察官ハ此事ニ付キ其相当ナリト思考スル所ノ請求ヲ為スコトヲ得可シ
第弐百五拾条 偽造ノ訴ニ於ケル原告人ハ何時タリトモ刑事ノ方法ヲ以テ主タル偽造ノ訴ヲ為スコトヲ得可ク此場合ニ於テハ訴訟ノ裁判ヲ延ハス可シ但シ裁判官カ其偽造ナリト申立テラレタル証拠物ニ拘ハラスシテ訴ヲ裁判スルコトヲ得可シト思考スル時ハ格別ナリトス
第弐百五拾壱条 凡ソ偽造ノ訴ノ事項ニ於ケル審理ノ裁判又ハ確定ノ裁判ハ検察官ノ意見ヲ聴キタル上ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
○第拾弐巻 証人訊問
第弐百五拾弐条 一方ノ者ノ証ヲ立テント訟求スル所ノ事柄ハ単純ナル請求ノ証書ヲ以テ簡短ニ箇条書ニ為ス可シ但シ書面又ハ請願書ヲ要セサルモノトス
右ノ実事ハ亦同シク純粋ナル証書ヲ以テ三日内ニ之ヲ非斥シ又ハ之ヲ承認ス可ク若シ然ラサル時ハ自認シ又ハ確実ト為シタリトスルコトヲ得可シ
第弐百五拾三条 若シ右ノ事柄カ許容スルヲ得可キモノニシテ非斥セラレ而シテ法律上ニ其立証ヲ禁セサル時ハ之レカ立証ヲ命令スルコトヲ得可シ
第弐百五拾四条 裁判所ハ其訴訟ニ影響ヲ及ホス可シト思ハルヽ所ノ事柄ノ立証ヲ亦職権上ニテ命令スルコトヲ得可シ但シ法律上ニ其立証ヲ命令スルコトヲ禁シタル時ハ格別ナリトス
第弐百五拾五条 立証ヲ命令スル所ノ裁判書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 証ス可キ事柄
第二 証人訊問ヲ為ス可キ裁判官ノ選任
若シ証人ノ甚タ遠隔ノ地ニ在ル時ハ特ニ指定セラレタル裁判所ヨリ委任シタル裁判官ノ面前ニ於テ証人訊問ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第弐百五拾六条 反対ノ立証ハ当然タル可シ但シ原告人ノ立証及ヒ反対ノ立証ハ後ノ数条ニ定ムル所ノ期限内ニ之ヲ始メ及ヒ之ヲ終ル可キモノトス
第弐百五拾七条 証人訊問ヲ其裁判ヲ為シタルト同一ノ場所ニ於テ為シ又ハ三「ミリアメートル」ノ距離内ニ於テ為ス時ハ代書人ニ送達ノ日ヨリ八日内ニ之ヲ始ム可シ若シ代書人ナキ者ニ対シテ裁判ヲ為シタル時ハ本人又ハ住所ニ送達ノ日ヨリ右ノ期限ヲ起算ス可シ而シテ右ノ期限ハ裁判書ヲ送達シタル者ニ対シテモ亦同シク経過スルモノトス但シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ無効タル可シ
若シ裁判ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可キ時ハ其故障申立期限ノ終リシ日ヨリ右ノ期限ヲ起算ス可シ
第弐百五拾八条 若シ証人訊問ヲ更ニ遠キ距離ニ於テ為サヽル可カラサル時ハ裁判書ニ其証人訊問ヲ始ム可キ期限ヲ定ム可シ
第弐百五拾九条 証人訊問ハ双方中ノ各自カ委員裁判官ノ指示シタル日時ニ証人ヲ呼出ス為メ其裁判官ヨリ命令書ヲ得タルヲ以テ双方ノ中各自ノ為メニ証人訊問ノ始マリタルモノト看做ス可シ
故ニ委員裁判官ハ其命令書ノ請求及ヒ交付ノ記載ヲ以テ双方各自ノ調書ヲ開始ス可シ
第弐百六拾条 証人ハ自身又ハ住所ニ於テ呼出サル可シ但シ証人訊問ヲ為ス場所ヨリ三「ミリアメートル」内ニ住所ヲ有スル証人ハ其訊問ヨリ少クトモ一日前ニ呼出サル可ク又更ニ遠キ距離ニ住所ヲ有スル者ニ付テハ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可シ○各個ノ証人ニ其許容セラレタル事柄ニ関スル所ノモノヽミニ付キ裁判書ノ要旨ノ写ト委員裁判官ノ命令書ノ写トヲ附与ス可シ但シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ前記ノ法式ヲ履行セラレサル証人ノ証拠申述ハ無効ノモノトス
第弐百六拾壱条 本人ハ証人訊問ノ席ニ出テシムル為メ嘗テ代書人ヲ撰定シタルニ於テハ其代書人ノ住所ニ呼出サル可ク若シ然ラサル時ハ自己ノ住所ニ呼出サル可シ但シ右ハ証人訊問ヨリ少クトモ三日前ニ為ス可キモノトス○其本人ニ対シテ差出ス可キ証人ノ姓名、職業及ヒ居所ハ其本人ニ通報ス可シ但シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ前ニ記シタル如ク無効タル可シ
第弐百六拾弐条 証人ハ双方ノ者ノ面前ト其在ラサル所トニ於テ別々ニ其申立ヲ聴ク可シ
各個ノ証人ハ其申立ヲ聴カルヽ前ニ自己ノ姓名、職業、年齢、居所、双方ノ者ノ中一方ノ血属親又ハ姻属親タルヤ又如何ナル級ニ於ケル血属親又ハ姻属親タルヤ又其一方ノ者ノ従者又ハ雇人タルヤヲ申述シテ真実ヲ言フ可キノ誓ヲ為ス可シ但シ右ノ諸件ニ背キタル時ハ無効ナリトス
第弐百六拾三条 缺席シタル証人ハ故障ノ申立又ハ控訴ニ拘ハラスシテ執行ス可キ委員裁判官ノ命令書ニ依リ本人ノ利益ニ於テ損害賠償ノ名義ヲ以テ十「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル金額ヲ弁償ス可キノ言渡ヲ受ク可ク又其缺席シタル証人ハ右ノ外其同一ノ命令書ニ依リ百「フランク」ノ金額ニ過クルコトヲ得サル罰金ヲ言渡サルヽコトアル可シ
其缺席シタル証人ハ自己ノ費用ヲ以テ再ヒ呼出サル可キモノトス
第弐百六拾四条 若シ再ヒ呼出サレタル証人ノ更ニ復タ缺席スル時ハ百「フランク」ノ罰金ヲ言渡サレ若シ之ヲ納メサル時ハ拘留ヲ受ク可シ又然ノミナラス委員裁判官ハ其証人ニ対シテ勾引状ヲ発スルコトヲ得可シ
第弐百六拾五条 若シ証人カ其指示セラレタル日ニ出席スルコト能ハサリシ旨ヲ証明スル時ハ委員裁判官其証拠申述ノ後ニ罰金及ヒ再呼出ノ費用ヲ免除ス可シ
第弐百六拾六条 若シ証人カ其指示セラレタル日ニ出席スルコト能ハサル旨ヲ証明スル時ハ委員裁判官証人訊問ノ為メニ定メラレタル期限ニ過クルコトヲ得サル充分ナル猶予ノ期限ヲ其証人ニ許与シ又ハ其証拠ノ申述ヲ受クル為メニ出張ス可シ○若シ其証人ノ遠隔ノ地ニ在ル時ハ委員裁判官其地ノ裁判所長ノ面前ニ移送シ其裁判所長ハ右証人ノ申立ヲ聴キ又ハ裁判官一名ヲ委任ス可シ而シテ又右裁判所ノ書記ハ訴訟ヲ審理スル所ノ裁判所ノ書記局ニ直チニ其調書ノ細字ノ正本ヲ送達セシム可キモノトス但シ右裁判所ノ書記ハ其証人ノ申立ヲ聴クコトヲ請求シタル本人ニ対シテ費用ノ為メノ執行命令書ヲ収取スルコトヲ得可シ
第弐百六拾七条 若シ各証人ノ申立ヲ同日ニ聴クコトヲ得サル時ハ委員裁判官ヨリ特定ノ日時ニ之ヲ延ハス可シ然ル時ハ証人ニ更ニ新タナル呼出状ヲ送附セス又本人ノ出席セサリシ時ト雖モ其本人ニモ呼出状ヲ送附セサルモノトス
第弐百六拾八条 何人ニ限ラス双方中一方ノ者ノ直系ノ血属親又ハ姻属親タル時又ハ離婚セラレタルモノト雖モ其配偶者タル時ハ証人トシテ呼出スコトヲ得ス
第弐百六拾九条 証人訊問ノ調書ニハ其日時、双方本人及ヒ証人ノ出席又ハ缺席、呼出状ノ差出及ヒ他ノ日時ニ延ハスコトヲ命令シタル時ハ其延ハシタル事ヲ記ス可ク若シ之ニ背キタル時ハ無効タル可シ
第弐百七拾条 証人ニ付テノ排斥ハ証人ノ証拠申述ノ前ニ本人又ハ其代書人ヨリ之ヲ申立テ而シテ其証人ハ其排斥ニ付キ説明ヲ為ス可キモノトス但シ其排斥ハ詳明ニシテ適切ナル可ク汎博、広闊ナル語辞ヲ以テス可カラス○其排斥及ヒ証人ノ説明ハ調書中ニ之ヲ記ス可シ
第弐百七拾壱条 証人ノ証拠ノ申述ヲ為スニ付テハ案文ヲ読上クルコトヲ許サス○其証拠ノ申述ハ之ヲ調書ニ記ス可シ而シテ其申述書ハ之ヲ証人ニ読聞カセ其通リニテ相違ナキヤ否ヲ証人ニ問フ可ク若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス○証人ノ費用ノ算定ヲ請求スルヤ否ヲ亦其証人ニ問フ可シ
第弐百七拾弐条 証人ハ其申述書読聞セノ時ニ当リ其相当ナリト思考スル所ノ変更及ヒ追加ヲ為スコトヲ得可シ但シ其変更追加ハ申述書ノ末又ハ其端ニ之ヲ記シ其申述書ノ如ク之ヲ其証人ニ読聞カセテ其旨ヲ記載ス可シ若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス
第弐百七拾三条 委員裁判官ハ証人ノ証拠ノ申述ヲ明亮ナラシムル為メニ適当ナリト思考スル所ノ問糾ヲ職権上ニテ若クハ双方ノ者又ハ一方ノ者ノ請求ニ依リ為スコトヲ得可シ其証人ノ返答書ハ証人ニ読聞カセタル後証人之ニ署名ス可ク若シ署名スルコトヲ欲セス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ又其返答書ハ裁判官及ヒ書記ニ於テモ同シク之ニ署名ス可シ若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス
第弐百七拾四条 証人ノ証拠申述書並ニ其申述書ニ付キ為スコトアル可キ変更及ヒ追加ハ其証人ト裁判官及ヒ書記トニ於テ之ニ署名ス可ク若シ証人ノ署名スルコトヲ欲セス又ハ署名スルコト能ハサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ但シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス○証人ノ費用ノ算定ヲ請求スル時ハ其算定ヲ記載シ又ハ証人ノ之ヲ請求セサル旨ヲ記載ス可シ
第弐百七拾五条 調書ニハ前第弐百六拾壱条、第弐百六拾弐条、第弐百六拾九条、第弐百七拾条、第弐百七拾壱条、第弐百七拾弐条、第弐百七拾三条、第弐百七拾四条ニ定メタル法式ヲ遵守シヌル旨ヲ記載ス可シ而シテ又其調書ノ末ニハ裁判官及ヒ書記之ニ署名ス可ク又双方ノ者ノ署名スルコトヲ欲シ或ハ署名スルコトヲ得ルニ於テハ双方ノ者之ニ署名ス可ク若シ之ヲ肯セサル場合ニ於テハ其旨ヲ記載ス可シ但シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス
第弐百七拾六条 本人ハ証人ノ証拠申述ヲ為スニ当リ之ヲ中断スルコトヲ得ス又証人ニ直接ノ問糾ヲ為スコトヲ得ス必ス委員裁判官ニ問糾ヲ為スコトヲ求ム可シ若シ之ニ背ク時ハ十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サレ又再犯ノ場合ニ於テハ更ニ多額ノ罰金ヲ言渡サレ又然ノミナラス逐斥ヲ言渡サル可シ但シ此等ノ事ハ委員裁判官之ヲ宣告ス可キモノトス○委員裁判官ノ命令ハ控訴又ハ故障申立ニ拘ハラス執行ス可キモノトス
第弐百七拾七条 若シ証人ノ費用ノ算定ヲ請求スル時ハ委員裁判官呼出状ノ写ニ其算定ヲ記ス可ク而シテ其算定ノ記載ハ執行命令書ニ等シキ効力アリトス但シ裁判官ハ自己ノ調書ニ其費用ノ算定ヲ記載ス可シ
第弐百七拾八条 証人訊問ハ双方各自ニ付キ最初ノ証人ヲ訊問シタルヨリ八日内ニ之ヲ終了ス可ク若シ之ニ背ク時ハ無効タル可シ但シ証人訊問ヲ命令シタル裁判書ニ更ニ長キ期限ヲ定メタル時ハ格別ナリトス
第弐百七拾九条 若シ然レトモ双方ノ者ノ中一方ヨリ証人訊問ヲ終了スル為メニ定メタル期限ニ於ケル猶予ヲ訟求スル時ハ裁判所ヨリ之ヲ許与スルコトヲ得可シ
第弐百八拾条 其猶予ノ訟求ハ委員裁判官ノ調書ニ之ヲ記シ其調書ニ指示シタル日ニ於テ其裁判官ヨリ裁判所ノ審問席ニ為ス可キ報告ノ上ニテ其猶予ヲ命令ス可ク而シテ双方本人又ハ其代書人ノ出席シタル時ハ別ニ呼出状ヲモ又招書ヲモ送ルコトナカル可シ但シ唯一回ノ猶予ノミヲ許与ス可ク若シ之ニ背ク時ハ無効ノモノトス
第弐百八拾壱条 同一ノ事柄ニ付キ五人以上ノ証人ノ申立ヲ聴カシメタル者ハ其他ノ証拠申述ノ費用ヲ取戻スコトヲ得ス
第弐百八拾弐条 証人ノ証拠申述ヲ為シタル後ハ其証人ニ付キ排斥ヲ申立ツ可カラス但シ其排斥カ書面ニ依テ証明セラレタル時ハ格別ナリトス
第弐百八拾三条 双方ノ者ノ中一方ノ再従兄弟ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親又配偶者ノ生存スル時又ハ一方ノ者或ハ証人ノ其配偶者トノ間ニ挙ケタル子ノ生存スル時ハ右ノ級ニ至ル迄ノ配偶者ノ血属親及ヒ姻属親ハ之ヲ排斥スルコトヲ得可シ又配偶者ノ死去シ而シテ其配偶者ノ卑属親ヲ遺留セサル場合ニ於テハ其直系ノ血属親及ヒ姻属親、兄弟、姻属ノ兄弟、姉妹、姻属ノ姉妹ハ之ヲ排斥スルコトヲ得可シ
又思量ノ相続人又ハ受贈者タル証人、証人訊問ヲ命令スル裁判ノ宣告ヨリ後ニ一方本人ノ費用ヲ以テ其一方本人ト飲食シタル者、訴訟ニ関シタル事柄ニ付キ保証書ヲ附与シタル者、従者及ヒ雇人、重罪裁判所ニ移スノ言渡ヲ受ケタル証人、施体又ハ加辱ノ刑ヲ言渡サレ又然ノミナラス盗罪ノ為メニ懲治ノ刑ヲ言渡サレタル者ハ亦之ヲ排斥スルコトヲ得可シ
第弐百八拾四条 排斥セラレタル証人ハ其証拠申述ヲ聴カル可キモノトス
第弐百八拾五条 年齢満十五歳以下ノ者ノ申立ハ之ヲ聴クコトヲ得可シ但シ其証拠ノ申述ハ適宜ニ斟酌シテ聴取ル可キモノトス
第弐百八拾六条 証人訊問ヲ為ス為メノ期限ノ経過セシ後最モ先キニ手続ヲ為ス者ハ調書ノ写ヲ代書人ニ送達セシメ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ求ム可シ
第弐百八拾七条 証人ノ排斥ニ付テハ簡略ノ方法ヲ以テ裁定ヲ為ス可シ
第弐百八拾八条 若シ然レトモ訴訟ノ本案カ裁判スルヲ得可キ景状トナリタル時ハ右ノ諸件ニ付キ唯一個ノ裁判ヲ以テ宣告ヲ為スコトヲ得可シ
第弐百八拾九条 若シ証人申述ノ前ニ申立テタル排斥カ書面ニ依テ証明セラレサル時ハ本人ヨリ之レカ立証ヲ為サント供陳シテ証人ヲ指定ム可シ若シ然ラサル時ハ本人最早其排斥ヲ為スコトヲ許サレサルモノトス但シ右ノ諸件ト其排斥セラレタル証人ニ対シテ負担スルコトアル可キ補償及ヒ損害賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第弐百九拾条 其立証ハ別段ノ理由アル時ハ裁判ヨリ之ヲ命令ス可ク而シテ又反対ノ証ヲ立ツルコトヲ得可キモノトス但シ其立証ハ簡略ナル証人訊問ノ為メ後ニ規定スル所ノ法式ヲ以テ之ヲ為ス可シ○其立証ニ付テハ排斥ヲ申立ツルコトヲ得ス但シ其排斥カ書面ニ依テ証明セラレタル時ハ格別ナリトス
第弐百九拾壱条 若シ排斥カ許容セラレタル時ハ其排斥セラレタル証人ノ証拠申述書ヲ読上ク可カラス
第弐百九拾弐条 委員裁判官ノ過失ニ依テ無効ナリト宣告セラレタル証人訊問又ハ証拠申述ハ其裁判官ノ費用ニテ再ヒ之ヲ始ム可ク而シテ其再度ノ証人訊問又ハ再度ノ証人申述聴取ノ期限ハ之ヲ命令シタル裁判書送達ノ日ヨリ起算ス可シ但シ本人ハ以前ト同一ノ証人ノ申立ヲ聴カシムルコトヲ得可ク若シ其証人中ニ其申立ヲ聴クコト能ハサル者アル時ハ裁判官初メノ証人訊問ニ於テ其者ノ為シタル証拠ノ申述ニ適宜ニ斟酌ヲ加フ可キモノトス
第弐百九拾三条 代書人ノ過失ニ依リ又ハ使吏ノ過失ニ依テ無効ナリト宣告セラレタル証人訊問ハ再ヒ之ヲ始ム可カラス然レトモ本人ハ代書人又ハ使吏ニ対シテ其費用ヲ取戻スコトヲ得可ク又明白ナル懈怠ノ場合ニ於テハ損害賠償ヲモ得ント求ムルコトヲ得可シ但シ此等ノ事ハ裁判官ノ裁断ニ任カス可キモノトス
第弐百九拾四条 一個又ハ数個ノ証拠申述ノ無効ハ証人訊問ノ無効ヲ惹起セス
○第拾三巻 土地ノ臨検
第弐百九拾五条 裁判所ハ其必要ナリト思考スル場合ニ於テハ裁判官中一名ノ其争ヒアル地ニ至ル可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ然レトモ鑑定人ノ単純ナル報告ノミヲ要スル事項ニ於テハ右ノ旨ヲ命令スルコトヲ得ス但シ双方中一方ノ者ヨリ請求セラレタル時ハ格別ナリトス
第弐百九拾六条 其裁判ヲ以テ之ニ参加シタル裁判官中ノ一名ヲ委任ス可シ
第弐百九拾七条 委員裁判官ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請願ニ依リ其臨検ノ場所ト日時トヲ定ムル命令ヲ為ス可シ但シ其命令書ノ送達ハ代書人ヨリ代書人ニ之ヲ為シ而シテ呼出状ニ等シキ効力アルモノトス
第弐百九拾八条 委員裁判官ハ其調書ノ細字ノ正本ニ其争ヒアル地ニ至リ其地ニ滞在シ及ヒ其地ヨリ帰ルニ付キ要シタル日数ヲ記載ス可シ
第弐百九拾九条 調書ノ副本ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ヨリ他ノ者ノ代書人ニ送達ス可ク而シテ其時ヨリ三日ノ後ニ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ求ムルコトヲ得可シ
第三百条 検察官ハ己レ自カラ訴訟ノ原告人又ハ被告人タル場合ニ非サレハ立会ヲ為スコトヲ必要トセス
第三百壱条 臨検ノ費用ハ請願者ヨリ之ヲ立替ヘ其者ヨリ書記局ニ附託ス可シ
○第拾四巻 鑑定人ノ報告
第三百弐条 鑑定人ノ報告ヲ為サシム可キコトアル時ハ裁判書ヲ以テ之ヲ命令ス可シ但シ其裁判書ニハ鑑定ノ目的ヲ明カニ表示ス可キモノトス
第三百三条 鑑定ハ鑑定人三名ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ双方ノ者カ一名ヲシテ鑑定ヲ為サシム可キコトヲ承諾シタル時ハ格別ナリトス
第三百四条 若シ鑑定ヲ命令スル裁判ノ時ニ当リテ双方ノ者カ鑑定人ヲ選任スルニ付キ合同シタル時ハ右同一ノ裁判ヲ以テ鑑定人ニ其選任ノ証書ヲ附与ス可シ
第三百五条 若シ双方ノ者カ鑑定人ヲ撰ムコトニ付キ合意セサル時ハ裁判書送達ノ時ヨリ三日内ニ双方ノ者鑑定人ヲ選任ス可ク若シ然ラサル時ハ右ト同一ノ裁判ニ依リ職権上ニテ選任セラル可キ鑑定人ヲシテ鑑定ヲ為サシム可キ旨ヲ其裁判書ヲ以テ命令ス可シ
右ト同一ノ裁判書ヲ以テ双方ノ者ノ合意シ又ハ職権上ニテ選任シタル鑑定人ノ誓ヲ受ク可キ委員裁判官ヲ選任ス可シ然レトモ裁判所ハ鑑定人其鑑定ヲ為ス所ノ県ノ治安裁判官ノ面前ニ於テ其誓ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可キモノトス
第三百六条 前記ノ期限内ニ鑑定人ノ選任ニ付キ合同シタル双方ノ者ヨリ其旨ヲ書記局ニ申述ス可シ
第三百七条 前記ノ期限ノ終リシ後最モ先キニ手続ヲ為ス一方ノ者ハ裁判官ノ命令書ヲ収取シテ双方ノ者ノ選任シ又ハ職権上ニテ選任セラレタル鑑定人ニ其誓ヲ為ス為メノ要求ヲ為ス可シ但シ双方ノ者ハ其宣誓ノ時ニ出席スルコトヲ必要トセス
第三百八条 忌避ハ職権上ニテ選任セラレタル鑑定人ニ対スルニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス但シ忌避ノ原由カ其選任ノ後宣誓ノ前ニ発生シタル時ハ格別ナリトス
第三百九条 申立ツ可キ忌避ノ憑拠ヲ有スル者ハ其忌避ノ原由及ヒ其証拠アルニ於テハ其証拠又ハ証人ヲシテ其原由ヲ証明セシメントスルノ供陳ヲ記シタル単純ナル証書ニ署名シ又ハ其特別ノ代理人ヲシテ之ニ署名セシメテ鑑定人選任ノ時ヨリ三日内ニ其忌避ノ申立ヲ為ス可シ若シ右ノ期限ヲ経過セシメタル時ハ忌避ヲ申立ツルコトヲ得ス而シテ其鑑定人ハ要求書ニ指示シタル日ニ至リ誓ヲ為ス可シ
第三百拾条 鑑定人ハ証人ヲ排斥スルコトヲ得可キ理由ノ為メニ之ヲ忌避スルコトヲ得可シ
第三百拾壱条 忌避ニ付キ争アル時ハ単純ナル証書ニ依リ且ツ検察官ノ意見申立ノ上審問席ニ於テ簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁判ス可ク又裁判官ハ証人ニ依レル立証ヲ命令スルコトヲ得可シ但シ其証人ニ依レル立証ハ簡略ナル証人訊問ノ為メ後ニ定ムル所ノ法式ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス
第三百拾弐条 忌避ニ付テノ裁判ハ控訴ニ拘ハラス執行ス可キモノトス
第三百拾三条 若シ忌避ノ申立ノ許容セラレタル時ハ之ト同一ノ裁判ニ依リ其忌避セラレタル鑑定人一名又ハ数名ニ代ヘテ更ニ新タナル鑑定人一名又ハ数名ヲ職権上ニテ選任ス可シ
第三百拾四条 若シ忌避ノ申立ノ棄却セラレタル時ハ其申立ヲ為シタル者ハ相当ノ損害賠償ヲ言渡サル可ク又鑑定人ノ損害賠償ヲ得ント求ムル時ハ鑑定人ニ対シテモ相当ノ損害賠償ヲ言渡サル可シ然レトモ鑑定人ノ損害賠償ヲ得ント求メタル場合ニ於テハ其鑑定人ハ鑑定人タルコトヲ得サルモノトス
第三百拾五条 宣誓ノ調書ニハ鑑定人ヨリ其鑑定ノ所為ヲ行フ可キ場所及ヒ日時ニ付キ為シタル指示ヲ記ス可シ
双方本人又ハ其代書人ノ出席シタル場合ニ於テハ右ノ指示ヲ以テ呼出状ニ等シキ効力アルモノトス
若シ出席セサル場合ニ於テハ代書人ノ証書ヲ以テ鑑定人ノ指示シタル日時ニ出席ス可キノ呼出ヲ本人ニ為ス可シ
第三百拾六条 若シ鑑定人中或者ノ選任ヲ受諾セス又ハ宣誓ノ為メ若クハ鑑定ノ為メ其指示セラレタル日時ニ出席セサル時ハ双方本人即時合同ノ上ニテ其者ニ代ヘ更ニ他ノ者ヲ選任ス可ク若シ然ラサル時ハ裁判所ヨリ職権上ニテ其選任ヲ為スコトヲ得可シ
誓ヲ為シタル後其職掌ヲ履行セサル鑑定人ハ之ヲ委任シタル裁判所ヨリ総テ無益ノ費用ヲ償還ス可キ旨ヲ言渡サレ又別段ノ理由アル時ハ損害賠償ヲモ為ス可キ旨ヲ言渡サルヽコトアル可シ
第三百拾七条 鑑定人ノ報告ヲ命令シタル裁判書及ヒ必要ナル証拠物ハ之ヲ鑑定人ニ渡ス可シ而シテ双方ノ者ハ其相当ナリト思考スル所ノ陳弁及ヒ請求ヲ為スコトヲ得可クシテ此等ノ諸事ハ報告書ニ記載ス可キモノトス但シ其報告書ハ争ヒアル地ニ於テ之ヲ作ル可ク又ハ鑑定人ノ指示ス可キ場所ト日時トニ於テ之ヲ作ル可シ
其報告書ハ鑑定人中ノ一名之ヲ書記シテ各鑑定人皆之ニ署名ス可シ若シ各鑑定人ノ皆文字ヲ書スルコトヲ知ラサル時ハ其鑑定ノ所為ヲ行ヒタル地ノ治安裁判所ノ書記其報告書ヲ書記シテ之ニ署名ス可シ
第三百拾八条 鑑定人ハ唯一箇ノ報告書ヲ作ル可シ但シ鑑定人ハ多数ノ説ニ従ヒ一箇ノ意見ノミヲ申立ツ可キモノトス
然レトモ互ニ相異ナリタル意見ノ場合ニ於テハ其各個ノ意見ノ理由ヲ指示ス可シ但シ其鑑定人各個ノ意見ノ如何ヲ知ラシム可カラサルモノトス
第三百拾九条 報告書ノ細字ノ正本ハ鑑定人ノ方ニ於テ更ニ再ヒ誓ヲ為スニ及ハスシテ其鑑定ヲ命令シタル裁判所ノ書記局ニ之ヲ納ム可シ但シ鑑定人ノ手数料ハ裁判所長其細字ノ正本ノ末ニ之レカ算定ヲ記ス可ク而シテ鑑定ヲ請求シタル一方ノ者ニ対シ又職権上ニテ鑑定ヲ命令シタル時ハ其鑑定ノ所為ヲ求メタル一方ノ者ニ対シテ其執行ノ命令書ヲ交付ス可キモノトス
第三百弐拾条 若シ鑑定人ノ其報告書ヲ納ムルコトヲ遅延シ又ハ之ヲ否拒シタル場合ニ於テハ其鑑定人ニ報告書ヲ納ム可キノ言渡ヲ受ケシムル為メ又然ノミナラス別段ノ理由アルニ於テハ拘留ノ方法ヲ以テ其報告書ヲ納メシムル為メ勧解ノ予式ナク三日内ニ嘗テ之ヲ委任シタル裁判所ニ呼出スコトヲ得可シ但シ此事ニ付テハ審理ノ手続ナク簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁定ス可キモノトス
第三百弐拾壱条 報告書ハ最モ先キニ手続ヲ為ス一方ノ者ニ於テ之ヲ写取リテ代書人ニ送達ス可ク而シテ単純ナル証書ニ依リ審問ヲ求ム可キモノトス
第三百弐拾弐条 若シ裁判官ノ其報告書中ニ充分ナル明証ヲ見出サヽル時ハ其職権上ニテ選任スル所ノ鑑定人一名又ハ数名ヲシテ更ニ再ヒ鑑定ヲ為サシム可キ旨ヲ亦同シク職権上ニテ命令スルコトヲ得可シ但シ其新タナル鑑定人ハ以前ノ鑑定人ニ其相当ナリト思フ所ノ参照件ヲ問合ハスコトヲ得可キモノトス
第三百弐拾三条 裁判官ハ若シ其心証上ニテ鑑定人ノ意見ヲ否ナリトスル時ハ必スシモ鑑定人ノ意見ニ従フニ及ハス
○第拾五巻 実事ニ付キ本人ノ審訊
第三百弐拾四条 原告人及ヒ被告人ノ双方ハ如何ナル事柄ニ付テモ又訴訟中何時タリトモ其争ヒアル事項ノミニ関スル適切ナル事実及ヒ箇条ニ付キ相互ニ審訊セシム可キ旨ヲ訟求スルコトヲ得可シ但シ之レカ為メニ訴訟ノ審理ヲモ又裁判ヲモ遅延ス可カラサルモノトス
第三百弐拾五条 本人ノ審訊ハ実事ヲ記シタル請願書ニ依リ且ツ審問席ニ於テ為シタル裁判ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ命令スルコトヲ得ス但シ其審訊ハ裁判所長ノ面前ニ於テ若クハ裁判所長ノ委任シタル裁判官ノ面前ニ於テ之ヲ為ス可シ
第三百弐拾六条 若シ遠隔ノ地ニ在ル場合ニ於テハ裁判所長ヨリ其本人ノ居住スル地ヲ管轄スル裁判所ノ長又ハ其居住地ノ県ノ治安裁判官ヲ委任スルコトヲ得可シ
第三百弐拾七条 委任セラレタル裁判官ハ其己レヲ選任シタル命令書ノ末ニ本人審訊ノ日時ヲ指示ス可シ但シ其命令書ノ請求又ハ交付ヲ記スル調書ヲ作ルニ及ハス
第三百弐拾八条 本人ニ正当ノ差支アル場合ニ於テハ裁判官其本人居在ノ場所ニ至ル可シ
第三百弐拾九条 本人審訊ヲ為スヨリ少クトモ二十四時前ニ請願書、裁判所ノ命令書及ヒ其審訊ヲ為ス可キ裁判所長又ハ裁判官ノ命令書ト其裁判所長又ハ裁判官ノ特ニ委任シタル使吏ノ送附スル呼出状トヲ共ニ相合シテ本人又ハ住所ニ送達ス可シ
第三百三拾条 若シ呼出サレタル者ノ出席セス又ハ出席シタル上ニテ答フルコトヲ否拒シタル時ハ其簡略ナル調書ヲ作リテ其実事ヲ確実ノモノト為シタリトスルコトヲ得可シ
第三百三拾壱条 若シ其呼出サレタル者ノ其呼出ニ付テハ缺席ヲ為シ而シテ裁判ノ前ニ出席シタル時ハ初メノ調書及ヒ送達書類ノ費用ヲ弁済シテ審訊ヲ受ク可シ但シ其費用ハ之ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス
第三百三拾弐条 若シ審訊ノ日ニ於テ其呼出サレタル本人カ正当ノ差支ヲ証明スル時ハ裁判官本人審訊ノ為メ更ニ他ノ日ヲ指示ス可シ但シ更ニ新ナル呼出状ヲ送達セサルモノトス
第三百三拾三条 本人ハ請願書ニ記シタル実事又然ノミナラス裁判官ノ職権上ニテ審訊スル所ノ実事ニ付キ自カラ答フ可ク決シテ書面ニ依レル答詞ノ案文ヲ読上クルコトヲ得ス又代弁人ノ補助ヲ受クルコトヲ得ス而シテ其答ハ各箇ノ実事ニ付キ着実ニシテ適切タル可ク決シテ䜛罔又ハ罵詈ノ辞ヲ用フ可カラス但シ本人審訊ヲ請求シタル者ハ其審訊ニ立会フコトヲ得サルモノトス
第三百三拾四条 本人ノ審訊ヲ終了シタル上ニテ其審訊書ヲ本人ニ読聞カセ且ツ其陳弁シタル所ノ真実ニシテ其通リニ相違ナキヤヲ申述ス可キ旨ヲ本人ニ要求ス可シ若シ本人ノ追加ヲ為ス時ハ審訊書ノ端又ハ其末ニ追加ヲ附記シタル上之ヲ本人ニ読聞カセテ右ト同一ノ要求ヲ為ス可シ但シ本人ハ其審訊書及ヒ追加ニ署名ス可ク若シ署名スルコトヲ知ラス又ハ署名スルコトヲ欲セサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
第三百三拾五条 其審訊書ヲ使用セント欲スル者ハ之ヲ送達セシム可シ但シ此ノ一方ニ於テモ又ハ彼ノ一方ニ於テモ其審訊書ニ付キ別ニ書面ヲ作ルコトナカル可シ
第三百三拾六条 公同設立場ノ管理局ハ其通報セラルヽ所ノ実事及ヒ箇条ニ付キ答ヲ為ス為メ管理員又ハ代理員一名ヲ選任ス可シ而シテ其管理局ハ之レカ為メ其答詞ヲ説明シテ真正ナリト確言ス可キ特別ナル権力ヲ附与ス可ク若シ然ラサレハ其実事ヲ確実ト為シタリトスルコトヲ得可シ但シ其管理者及ヒ代理者ノ一身上ノモノタル実事ニ付キ此等ノ者ヲ審訊セシムルコトト相牴触ス可カラスト雖モ裁判所ニ於テハ其審訊ニ適宜ノ斟酌ヲ加フ可キモノトス
○第拾六巻 附帯ノ訴訟
○第壱款 附帯ノ訴
第三百三拾七条 附帯ノ訴ハ其憑拠及ヒ請求ノ旨ヲ記シタル単純ナル証書ヲ以テ之ヲ為シ且ツ受取証書ニ引替ヘテ証明ノ為メノ証拠物ヲ通知伝観セシメ又ハ書記局ニ差出シテ之ヲ通知伝観セシム可キ旨ヲ供陳ス可シ
附帯ノ訴ニ於ケル被告人ハ単純ナル証書ヲ以テ其答詞ヲ与フ可シ
第三百三拾八条 総テ附帯ノ訴ハ同時ニ之ヲ為ス可シ但シ其後ニ申立テタルモノニシテ初メノ附帯訴訟ノ時期ニ於テ其原由ノ既ニ存在シタル附帯ノ訴ノ費用ハ之ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス
附帯ノ訴ハ別段ノ理由アルニ於テハ先キニ之ヲ裁判ス可シ而シテ又書面ニ依レル審理ヲ命令セラレタル訴訟ニ於テハ相当ノ裁定ヲ受ク可キ為メ附帯ノ訴ヲ審問席ニ送付ス可シ
○第弐款 参渉
第三百三拾九条 参渉ハ其憑拠及ヒ請求ノ旨ヲ記シタル請願書ヲ以テ之ヲ為シ而シテ其請願書並ニ証明ノ為メノ証拠物ノ写ヲ附与ス可シ
第三百四拾条 主タル訴訟カ裁判シ得可キ景状ニ至リタル時ハ参渉ノ為メニ其主タル訴訟ノ裁判ヲ遅延セシムルコトヲ得ス
第三百四拾壱条 書面ニ依レル審理ヲ命令セラレタル訴訟ニ於テ若シ双方ノ者ノ中一方ヨリ参渉ヲ争フ時ハ其附帯ノ訴ヲ審問席ニ送付ス可シ
○第拾七巻 訴訟ノ再起及ヒ新タナル代書人ノ撰定
第三百四拾弐条 裁判シ得可キ景状ニ至リタル訴訟ノ裁判ハ双方ノ者ノ身分ノ変更ニ依リテモ又双方ノ者ノ訴訟ヲ為シタル職務ノ止息ニ依リテモ又双方ノ者ノ死去ニ依リテモ又双方ノ者ノ代書人ノ死去、退職、職務禁止又ハ罷免ニ依リテモ之ヲ延ハス可カラス
第三百四拾三条 弁論ノ始マリタル時ハ訴訟ヲ裁判シ得可キ景状ニ至リタルモノトシ又審問席ニ於テ双方対審ノ上請求ノ意見ヲ申述ヘタル時ハ弁論ノ始マリタルモノト看做ス可シ
書面ヲ以テ審理ヲ為ス所ノ訴訟ニ於テハ其審理ノ完成シタル時又ハ書類ヲ差出シ及ヒ答書ヲ出ス為メノ期限ノ経過シタル時ハ訴訟ヲ裁判シ得可キ景状ニ至リタルモノトス
第三百四拾四条 裁判シ得ヘキ景状ニ至ラサル訴訟ニ於テハ双方ノ者ノ中一方ノ死去ヲ通知シタル後ニ為シタル総テノ訴訟手続ハ無効タル可シ又代書人ノ死去、退職、職務禁止又ハ罷免ハ之ヲ通報スルニ及ハス而シテ其後ニ為シタル訴ノ手続及ヒ其後ニ得タル裁判ハ新タナル代書人ノ撰定アルニ非サレハ無効タル可シ
第三百四拾五条 双方ノ者ノ身分ノ変更モ又双方ノ者ノ訴訟ヲ為シタル職務ノ止息モ訴訟手続ノ継続ヲ防止ス可カラス
然レトモ原告人ノ身分変更ノ前又ハ其死去ノ前ニ代書人ヲ撰定セサリシ被告人ハ請求ノ意見ノ裁定ヲ受クル為メ更ニ再ヒ八日ノ期限内ニ呼出サル可シ但シ予メ勧解ヲ為スヲ要セス
第三百四拾六条 再起ニ於ケル呼出状又ハ撰定ニ於ケル呼出状ハ呼出ノ巻ニ定メタル期限内ニ之ヲ送付ス可シ但シ職務ヲ行フ所ノ代書人ノ姓名ト報告員アルニ於テハ其姓名トヲ指示ス可キモノトス
第三百四拾七条 訴訟ハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ之ヲ再起ス可シ
第三百四拾八条 若シ再起ニ於テ呼出サレタル一方ノ者ノ抗争スル時ハ其附帯ノ訴ヲ簡略ノ方法ヲ以テ裁判ス可シ
第三百四拾九条 若シ期限ノ終ニ至リ再起ニ於テ呼出サレ又ハ撰定ニ於テ呼出サレタル一方ノ者ノ出席セサル時ハ其訴訟ヲ再起シタリト為シ且ツ最後ノ訴訟手続ニ従ヒ処分ス可キ旨ヲ命令スル裁判ヲ為ス可シ但シ残ル所ノ期限ヨリ更ニ他ノ猶予ノ期限ヲ得可カラサルモノトス
第三百五拾条 訴訟ノ再起又ハ新タナル代書人ノ撰定ニ於ケル訟求ニ付キ一方本人ニ対シ缺席ニテ為シタル裁判書ハ特ニ委任セラレタル使吏之ヲ送達ス可シ若シ其訴訟ヲ報告ス可キモノタル時ハ右送達書ニ報告員ノ姓名ヲ表示ス可キモノトス
第三百五拾壱条 其裁判ニ付テノ故障申立ハ報告ヲ為ス可キ訴訟ニ於テモ之ヲ審問席ニ申告ス可キモノトス
○第拾八巻 斥却
第三百五拾弐条 如何ナル供陳、自認又ハ承諾ト雖モ特別ナル権力ノアルニ非サレハ之ヲ為シ又ハ之ヲ与ヘ又ハ之ヲ受諾スルコトヲ得ス若シ然ラサル時ハ斥却セラル可シ
第三百五拾三条 斥却ノ訴ハ本人ノ署名シタル証書又ハ特別ニシテ公正ナル代理委任状ヲ所持スル者ノ署名シタル証書ヲ以テ之ヲ裁定ス可キ裁判所ノ書記局ニ為ス可シ但シ其証書ニハ之レカ憑拠、請求ノ意見及ヒ代書人ノ撰定ヲ記ス可キモノトス
第三百五拾四条 若シ猶ホ審理中ノモノタル訴訟ノ継続スル間ニ斥却ノ訴ヲ為ス時ハ其他ノ訟求ナク代書人ノ証書ヲ以テ其斥却ノ訴ヲ受クル所ノ代書人ト訴訟ノ其他ノ代書人トニ其斥却ノ訴ヲ通報ス可シ但シ其通報ハ斥却ノ訴ニ於テ弁護ス可キノ要求ニ等シキ効力アルモノトス
第三百五拾五条 若シ代書人ノ最早其職務ヲ行ハサル時ハ斥却ノ訴ヲ呼出状ヲ以テ其住所ニ通報ス可シ若シ其代書人ノ死去シタル時ハ斥却ノ訴ヲ其相続人ニ通報シ而シテ訴訟審理中ノモノタル裁判所ニ之ヲ呼出ス可ク又訴訟ノ本人ニハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ之ヲ通知ス可キモノトス
第三百五拾六条 斥却ノ訴ハ常ニ必ス其非斥セラレタル訴訟手続ヲ審理シタル裁判所ニ之ヲ申告ス可ク仮令其訴ヲ為スニ当リテ現ニ為ス所ノ主タル訴訟カ其他ノ裁判所ニ於テ審理中ノモノタル時ト雖モ亦之ト同一ナリトス但シ其斥却ノ訴ハ主タル訴訟ノ本人ニ之ヲ通知シ而シテ斥却ノ訴ニ其本人ヲ招喚ス可キモノトス
第三百五拾七条 斥却ノ訴ノ裁判アルニ至ル迄ハ総テ主タル訴訟ノ手続及ヒ裁判ヲ延ハス可ク若シ然ラサル時ハ無効タル可シ然レトモ其斥却ノ訴ヲ為ス者ハ定マリタル期限内ニ斥却ノ訴ヲ裁判セシム可ク若シ然ラサレハ主タル訴訟ノ裁判ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百五拾八条 若シ斥却ノ訴カ訴訟ノアラサル所ノ一箇ノ所為ニ関スル時ハ其訴ヲ被告人ノ裁判所ニ申告ス可シ
第三百五拾九条 総テ斥却ノ訴ハ検察官ニ通報ス可シ
第三百六拾条 若シ斥却ノ訴カ有効ナリト宣告セラレタル時ハ裁判書又ハ裁判書ノ要旨中ニテ斥却ノ訴ヲ起サシメタル箇条ニ関スルモノハ之ヲ取消シテ無効ノモノトス可シ而シテ其斥却セラレタル者ハ原告人及ヒ其他ノ者ニ対シテ総テノ損害賠償ヲ言渡サル可ク又然ノミナラス場合ノ重劇ナルト景況ノ性質トニ従ヒ其職務禁止ノ罰ヲ受ケ又ハ異常ノ方法ヲ以テ訴ヲ受ク可シ
第三百六拾壱条 若シ斥却ノ訴ノ棄却セラレタル時ハ斥却ノ証書ノ端ニ其棄却ノ裁判ヲ記載ス可ク而シテ原告人ハ斥却ノ訴ヲ受ケタル者及ヒ其他ノ者ニ対シテ相当ノ損害賠償及ヒ補償ヲ言渡サルヽコトアル可シ
第三百六拾弐条 若シ裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ニ関シテ斥却ノ訴ヲ為ス時ハ前第百五十九条ノ文面ニ従ヒ其裁判ヲ執行シタリト看做ス可キ日ヨリ起算シテ八日ノ後ニ於テハ其斥却ノ訴ヲ受理スルコトヲ得ス
○第拾九巻 裁判管轄ヲ定ムルノ訴
第三百六拾三条 若シ一箇ノ争訟ヲ同一ノ始審裁判所ノ管轄ヲ受クル二箇又ハ数箇ノ治安裁判所ニ申告シタル時ハ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ其始審裁判所ニ申告ス可シ
若シ二箇以上ノ治安裁判所カ相異ナリタル始審裁判所ノ管轄ヲ受クルモノタル時ハ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ控訴裁判所ニ申告ス可シ
若シ其二箇以上ノ治安裁判所カ同一ノ控訴裁判所ノ管轄ヲ受ケサル時ハ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ大審院ニ申告ス可シ
若シ一箇ノ争訟ヲ同一ノ控訴裁判所ノ管轄ヲ受クル二箇又ハ数箇ノ始審裁判所ニ申告シタル時ハ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ其控訴裁判所ニ申告ス可シ若シ又其二箇以上ノ始審裁判所カ皆同一ノ控訴裁判所ノ管轄ヲ受クルモノニ非サル時又ハ一箇或ハ数箇ノ控訴裁判所ノ間ニ管轄牴触ノ存在スル時ハ裁判管轄ヲ定ムルノ訴ヲ大審院ニ申告ス可シ
第三百六拾四条 数箇ノ裁判所ニ於テ為シタル訟求書ヲ視タル上ニテ請願書ニ拠リ相手方ヲ裁判管轄規定ノ訴ニ付キ呼出スコトヲ許ルス裁判ヲ為ス可ク而シテ裁判官ハ右数箇ノ裁判所ニ於テ総テノ訴訟手続ヲ延ハス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百六拾五条 原告人ハ其裁判書ヲ送達シテ相手方ヲ其代書人ノ住所ニ於テ呼出ス可シ
其裁判書ヲ送達シ及ヒ呼出ス為メノ期限ハ其裁判ノ日ヨリ起算シテ十五日間トス
出席スル為メノ期限ハ通常ノ呼出ノ期限ナリトス但シ代書人各自ノ住所ニ従ヒ其距離ヲ計算ス可シ
第三百六拾六条 若シ原告人カ前記ノ期限内ニ被告人ヲ呼出サヽル時ハ別段ノ命令ヲ要セスシテ原告人裁判管轄ヲ定ムル訴ノ効ヲ失フ可ク而シテ其訴ノ被告人ヨリ申告シタル裁判所ニ於テ訴ノ手続ヲ継続スルコトヲ得可シ
第三百六拾七条 敗訴トナリタル原告人ハ他ノ者ニ対シテ損害賠償ヲ言渡サルヽコトアル可シ
○第弐拾巻 血縁又ハ姻縁ノ為メ他ノ裁判所ニ裁判管轄ヲ移スノ訴
第三百六拾八条 若シ始審裁判所ノ裁判官中ニ一方本人ノ再従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親二名アリ或ハ控訴裁判所中ニ右ト同級ノ血属親又ハ姻属親三名アル時又ハ始審裁判所ノ裁判官中ニ本人ノ右級ノ血属親一名アリ或ハ控訴裁判所中ニ血属親二名アリテ且ツ一方本人カ其始審裁判所又ハ控訴裁判所ノ職員タル時ハ他ノ一方ノ者ヨリ裁判管轄ヲ移サント訟求スルコトヲ得可シ
第三百六拾九条 裁判管轄ヲ移サントスル事ハ弁論ノ始マル前ニ之ヲ訟求ス可ク若シ其訴訟カ報告ヲ為ス可キモノタル時ハ審理ヲ成就シ又ハ期限ノ終ル前ニ之ヲ訟求ス可シ若シ然ラサル時ハ其訟求ヲ受理ス可カラス
第三百七拾条 裁判管轄ヲ移スノ訴ハ書記局ニ差出ス所ノ証書ヲ以テ之ヲ申立ツ可シ但シ其証書ニハ之レカ憑拠ヲ記シ而シテ本人又ハ其特別ニシテ公正ナル代理委任状ヲ所持スル者之ニ署名ス可シ
第三百七拾壱条 右証書ノ副本ヲ証明ノ為メノ証拠物ト共ニ差出シタル上ニテ左ノ諸件ヲ命令スル所ノ裁判ヲ為ス可シ
第一 其裁判管轄ヲ移スノ訴ヲ起ス原由タル裁判官ヲシテ定マリタル期限内ニ右裁判書ノ副本ノ末ニ其申述ヲ記セシムル為メ其裁判官ニ通知伝観セシムル事
第二 検察官ニ通知伝観セシムル事
第三 右裁判書ヲ以テ選任セラレタル裁判官一名ヨリ其指示セラレタル日ニ於テ報告ヲ為ス事
第三百七拾弐条 裁判管轄ヲ移ス訴ノ証書ノ副本及ヒ之ニ添ユル所ノ証拠物並ニ前条ニ記載シタル裁判書ハ他ノ者ニ之ヲ送達ス可シ
第三百七拾三条 裁判管轄ヲ移ス訴ノ原由カ始審裁判所ニ於テ自認セラレ又ハ証明セラレタル時ハ同一ノ控訴裁判所ノ管轄ヲ受クル他ノ始審裁判所中ノ一ニ裁判管轄ヲ移ス可ク又控訴裁判所ニ於テ自認セラレ又ハ証明セラレタル時ハ最近ノ三箇ノ控訴裁判所中ノ一ニ裁判管轄ヲ移ス可シ
第三百七拾四条 裁判管轄ヲ移スノ訴ニ於テ敗訴トナリタル者ハ五十「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ヲ言渡サル可シ但シ相手方本人ニ損害ヲ被ラシメタル時ハ其損害ノ賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第三百七拾五条 若シ裁判管轄ヲ移ス可キ旨ヲ宣告シタル時之ヲ控訴セス又ハ控訴者ノ敗訴トナリタルニ於テハ単純ナル呼出状ヲ以テ争訟ヲ裁定ス可キ裁判所ニ其争訟ヲ申告ス可シ而シテ其裁判所ニ於テハ最後ノ手続ニ従ヒ其訴訟手続ヲ継続ス可キモノトス
第三百七拾六条 如何ナル場合ニ於テモ裁判管轄ヲ移ス裁判ノ控訴ハ執行ヲ停止ス可キモノトス
第三百七拾七条 後文忌避ノ訴ノ巻第三百九十二条、第三百九十三条、第三百九十四条、第三百九十五条ノ成規ハ右ノ控訴ニ適用ス可キモノトス
○第弐拾壱巻 忌避ノ訴
第三百七拾八条 総テノ裁判官ハ下ニ記スル所ノ原由ノ為メニ之ヲ忌避スルコトヲ得可シ
第一 裁判官カ双方本人又ハ一方本人ノ再従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親タル時
第二 裁判官ノ婦カ双方中一方ノ者ノ前記ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親タル場合、或ハ裁判官カ双方中一方ノ者ノ婦ノ前記ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親タル場合ニ於テ其婦ノ生存シ又ハ既ニ死去セシト雖モ其子ノ生存セル時」若シ其婦ノ既ニ死去シ而シテ其子ノアラサル時ハ舅、婿及ヒ姻属ノ兄弟ハ裁判官タルコトヲ得サルモノトス
既ニ解分セシ婚姻ヨリ挙ケタル子ノ生存スルニ於テハ死去セシ婦ニ関スル成規ハ離婚シタル婦ニ適用ス可キモノトス
第三 裁判官、其婦又ハ此等ノ者ノ尊属親及ヒ卑属親又ハ之ト同系ニ於ケル姻属親カ双方本人ノ間ニ起リタルモノニ等シキ問題ニ付キ争訟ヲ為ス時
第四 右ノ各人カ双方ノ者ノ中一方ノ裁判官タル裁判所ニ於テ自己ノ名前ヲ以テ訴ヲ為ス時及ヒ右ノ各人カ双方ノ者ノ中一方ノ債主又ハ負債者タル時
第五 其忌避ノ訴ヲ起ス時ヨリ前五年内ニ右ノ各人ト双方ノ者ノ中一方又ハ其配偶者又ハ直系ニ於ケル其血属親又ハ姻属親トノ間ニ刑事ノ訴ノアリタル時
第六 若シ裁判官、其婦又ハ此等ノ者ノ尊属親及ヒ卑属親又ハ之ト同系ニ於ケル姻属親ト双方ノ者ノ中一方トノ間ニ民事ノ訴訟アリテ其一方ノ者カ其訴訟ヲ起シタル時ハ忌避ノ申立ヲ為ス所ノ主タル訴訟ヨリ前ニ右ノ訴訟ヲ起シタル時又ハ其民事ノ訴訟ノ既ニ終リシト雖モ忌避ノ訴ヨリ前六月内ニ終リタル時
第七 裁判官カ双方ノ者ノ中一方ノ後見人、代後見人、管財人思量ノ相続人又ハ受贈者若クハ主長又ハ常ニ飲食ヲ共ニスル者タル時又ハ裁判官カ訴訟ヲ為ス一方ノ者タル或ル設立場、会社又ハ債主ノ連合ノ管理者タル時又ハ双方ノ者ノ中一方カ裁判官ノ思量ノ相続人タル時
第八 裁判官カ其争訟ニ付キ意見ヲ附与シ弁論ヲ為シ或ハ書面ヲ与ヘタル時又ハ裁判官カ以前既ニ裁判官タリ又ハ裁断人トナリテ其争訟ヲ裁定シタル時又ハ裁判官カ訴訟ヲ誘起シ又ハ之ヲ唆起シ或ハ訴訟ノ費用ヲ給与シタル時又ハ裁判官カ証人トナリテ証拠ヲ申述シタル時又ハ其訴訟ノ始マリタル後裁判官カ双方ノ者ノ中一方ノ家屋ニ於テ其者ト共ニ飲食シ若クハ其中一方ノ者ヨリ贈物ヲ受タル時
第九 裁判官ト双方ノ者ノ中一方トノ間ニ重劇ナル嫌隙アル時又ハ訴訟ノ始マリタル後若クハ忌避ノ申立ヨリ前六月内ニ裁判官ノ方ヨリ口上又ハ書面ヲ以テ攻撃、罵詈又ハ脅迫ヲ為シタル時
第三百七拾九条 裁判官カ双方ノ中一方ノ者ノ後見人又ハ管財人ノ血属親タリ又ハ訴訟ヲ為ス一方ノ者タル設立場、会社、債主ノ連合或ハ連結ノ社員又ハ管理者ノ血属親タル場合ニ於テハ忌避ヲ訴フ可カラス但シ右ノ後見人、管理者又ハ関係人カ殊別ナル関係又ハ一身上ノ関係ヲ有スル時ハ格別ナリトス
第三百八拾条 凡ソ己レノ身ニ忌避ノ原由アルヲ知ル所ノ各裁判官ハ其旨ヲ裁判官会議室ニ申述ス可シ而シテ其会議室ニ於テハ其裁判官ノ差控ユ可キヤ否ヲ決ス可キモノトス
第三百八拾壱条 若シ検察官カ附従ノ訴訟人タル時ハ裁判官ニ関スル忌避ノ原由ヲ検察官ニ適用ス可シ然レトモ若シ検察官カ主タル訴訟人タル時ハ其検察官ヲ忌避ス可カラス
第三百八拾弐条 忌避ノ訴ヲ為サント欲スル者ハ弁論ノ始マラサル前ニ其訴ヲ為サヽルヲ得ス若シ又訴訟ヲ報告ス可キモノタル時ハ審理ヲ成就シ又ハ期限ノ終ル前ニ其訴ヲ為サヽルヲ得ス但シ忌避ノ原由ノ其後ニ発生シタル時ハ格別ナリトス
第三百八拾三条 土地ノ臨検、証人訊問及ヒ其他ノ所為ニ付キ委任セラレタル裁判官ニ対スル忌避ハ三日内ニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス但シ其三日ノ期限ハ左ノ期日ヨリ起算ス可キモノトス
第一 其裁判ノ対審ノモノタル時ハ裁判ノ日ヨリ起算スヘシ
第二 其裁判ノ缺席ノモノニシテ故障申立ノアラサル時ハ故障申立ヲ為ス可キ八日ノ期限ノ終リシ日ヨリ起算ス可シ
第三 其裁判ノ缺席ノモノニシテ故障申立ノアリタル時ハ仮令缺席ニ依レルモ其故障申立ノ棄斥セラレタル日ヨリ起算ス可シ
第三百八拾四条 忌避ノ訴ハ書記局ニ差出ス所ノ証書ヲ以テ之ヲ申立ツ可ク而シテ其証書ニハ之レカ憑拠ヲ記シテ本人又ハ公正ニシテ特別ナル其代理委任状ヲ所持スル者之レニ署名ス可シ但シ其代理委任状ハ右ノ証書ニ添ヘ置ク可キモノトス
第三百八拾五条 忌避ノ訴ノ証書ノ副本ヲ二十四時内ニ書記ヨリ裁判所長ニ差出シタル上ニテ裁判所長ノ報告及ヒ検察官ノ意見申立ニ依リ其裁判ヲ為ス可シ但シ其裁判ハ忌避ノ訴ヲ許容ス可カラサル時ハ之ヲ棄却ス可ク又其訴ヲ許容ス可キ時ハ左ノ諸件ヲ命令ス可キモノトス
第一 裁判書ヲ以テ定ムル所ノ期限内ニ其事柄ニ付キ着実ナル言詞ヲ以テ説明セシムル為メ其忌避セラレタル裁判官ニ通報スル事
第二 検察官ニ通報スル事
又其忌避ノ訴ヲ許容スル所ノ裁判ニハ其裁判ヲ以テ選任スル所ノ裁判官中ノ一名ヨリ報告ヲ為ス可キ日ヲ指示ス可キモノトス
第三百八拾六条 忌避セラレタル裁判官ハ書記局ニ其申述ヲ為ス可シ但シ其申述ハ忌避ノ訴ノ証書ノ細字正本ノ末ニ附記ス可キモノトス
第三百八拾七条 通報ヲ命令スル裁判ノ日ヨリ後ハ総テノ裁判及ヒ行為ヲ停止ス可シ若シ然レトモ双方ノ者ノ中一方カ其行為ノ至急ヲ要スルモノニシテ之ヲ遅延スルニ於テハ危害アリト称言スル時ハ其附帯ノ訴訟ヲ単純ナル証書ヲ以テ審問席ニ申告ス可ク而シテ裁判所ハ他ノ裁判官ヲシテ処分セシム可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百八拾八条 若シ忌避セラレタル裁判官ノ其忌避ノ理由タル事柄ヲ認諾シ又ハ其事柄ノ証セラレタル時ハ其裁判官ノ差控ユ可キ旨ヲ命令ス可シ
第三百八拾九条 若シ忌避ノ訴ヲ為ス者カ忌避ノ原由ノ書面ニ依レル証拠又ハ其証拠ノ端緒ヲ差出サヽル時ハ裁判所ノ智心ニ任カセ其裁判官ノ単純ナル申述ニ拠リ忌避ノ訴ヲ棄却シ又ハ証人ノ立証ヲ命令スルコトヲ得可キモノトス
第三百九拾条 忌避ノ訴ヲ為シタル者カ其訴ヲ許容ス可カラス又ハ受理ス可カラサルノ宣告ヲ受ケタル時ハ裁判所ノ相当ナリトスル所ノ罰金ヲ言渡サル可シ而シテ其罰金ハ百「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サルモノトス但シ別段ノ理由アル時ハ裁判官ノ補償及ヒ損害賠償ヲ得ント求ムルノ訴ト相触ルヽコトナカル可シト雖モ此場合ニ於テハ右ノ裁判官其訴訟ニ付キ裁判官タルコトヲ得サルモノトス
第三百九拾壱条 凡ソ忌避ノ訴ニ付テノ裁判ハ仮令始審裁判所カ終審ニ於テ裁判スル所ノ事項ニ於テ為シタルモノト雖モ控訴ヲ受ク可キモノトス若シ然レトモ一方ノ者カ至急ヲ要スル為メ其控訴ノ裁判セラルヽヲ待タスシテ一箇ノ行為ニ取掛ルコトノ必要ナル旨ヲ主持スル時ハ其附帯ノ訴訟ヲ単純ナル証書ヲ以テ審問席ニ申告ス可ク而シテ忌避ノ訴ヲ棄却シタル裁判所ハ他ノ裁判官ヲシテ其行為ニ取掛ラシム可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第三百九拾弐条 控訴セント欲スル者ハ裁判ノ時ヨリ五日内ニ書記局ニ差出ス所ノ証書ヲ以テ控訴ヲ為ス可シ但シ其証書ニハ之レカ理由ヲ記シ且ツ主持ノ為メノ証拠物ヲ書記局ニ納メタル旨ヲ表示ス可キモノトス
第三百九拾三条 忌避ノ訴ノ証書、其裁判官ノ申述書、裁判書及ヒ控訴状ノ副本並ニ之ニ添ユル所ノ証拠物ハ控訴者ノ請願ニ依リ其費用ヲ以テ三日内ニ書記ヨリ之ヲ控訴裁判所ノ書記ニ送ル可シ
第三百九拾四条 控訴裁判所ノ書記ハ此等ノ書類ヲ受取リタル時ヨリ三日内ニ其書類ヲ裁判所ニ差出シ其裁判所ニ於テハ裁判ノ日ヲ指示シテ裁判官中ノ一名ヲ委任ス可ク然ル後其一名ヨリ報告ヲ為シ及ヒ検察官ヨリ其意見ヲ申立テタル上ニテ審問席ニ於テ裁判ヲ為ス可シ但シ双方本人ヲ招喚スルコトヲ必要トセス
第三百九拾五条 裁判書ヲ写取リタル時ヨリ二十四時内ニ控訴裁判所ノ書記ハ其己レニ受取リタル書類ヲ始審裁判所ノ書記ニ送還ス可シ
第三百九拾六条 控訴者ハ其忌避ノ訴ヲ棄却シタル始審裁判ノ日ヨリ一月内ニ控訴ニ於ケル裁判書ヲ相手方ニ送達シ又ハ控訴ノ未タ裁判セラレサル旨ト其裁判所ニ於テ定メタル日ノ指示トヲ記スル控訴裁判所書記ノ保証書ヲ相手方ニ送達ス可ク若シ然ラサル時ハ忌避ノ訴ヲ棄却シタル裁判ヲ仮リニ執行ス可シ但シ之レニ依テ為シタル諸件ハ仮令控訴ノ上ニテ忌避ノ訴ヲ許容シタル時ト雖モ有効ノモノトス
○第弐拾弐巻 訴訟ノ消滅
第三百九拾七条 凡ソ訴訟ハ代書人ヲ撰定セサル時ト雖モ三年間訴ノ手続ヲ息絶シタルニ依リ消滅ス可シ
訴訟再起ノ訟求ヲ為シ又ハ新タナル代書人ヲ撰定ス可キ総テノ場合ニ於テハ右ノ期限ニ六月ノ猶予ヲ加フ可シ
第三百九拾八条 訴訟消滅ノ期限ハ国又ハ公同設立場及ヒ各人民ニ対シ又然ノミナラス幼者ニ対シテモ経過スルモノトス但シ此等ノ者ハ管財人及後見人ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可シ
第三百九拾九条 訴訟ノ消滅ハ当然生スルモノニ非ス其消滅ノ訟求ノ前ニ双方ノ者ノ中此ノ一方又ハ彼ノ一方ノ為シタル有効ノ所為ニ依テ蓋蔽セラルヽモノトス
第四百条 訴訟ノ消滅ハ代書人ヨリ代書人ヘノ請願書ヲ以テ之ヲ訟求ス可シ但シ其消滅ノ獲得セラレタル時ヨリ後ニ代書人ノ死去シ又ハ職務ヲ禁止セラレ或ハ停止セラレタル時ハ格別ナリトス
第四百壱条 訴訟ノ消滅ハ訴権ヲ消滅セシムルモノニ非ス唯訴訟手続ノ消滅ノミヲ惹起ス但シ如何ナル場合ニ於テモ既ニ消滅セシ訴訟手続中ノ一箇ノ所為ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス又之ヲ益用スルコトヲ得サルモノトス
訴訟消滅ノ場合ニ於テハ主タル原告人ハ其消滅セシ訴訟手続ノ総テノ費用ヲ言渡サル可シ
○第弐拾三巻 訴訟ノ棄止
第四百弐条 訴訟ノ棄止ハ本人又ハ其代理人ノ署名シ而シテ代書人ヨリ代書人ニ送達スル所ノ単純ナル証書ヲ以テ之ヲ為シ及ヒ之ヲ受諾スルコトヲ得可シ
第四百三条 訴訟ノ棄止ノ受諾セラレタル時ハ此ノ一方ニ於テモ又彼ノ一方ニ於テモ総テ事物ヲ其訟求ヲ為ス前ト同一ノ景状ニ復ス可キ旨ノ承諾ヲ当然惹起スルモノトス
訴訟ノ棄止ハ亦費用ヲ弁済ス可キノ約務ヲ惹起ス但シ訴訟ヲ棄止シタル者ハ双方出席ノ上又ハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ招喚シタル上訴訟費用算定書ノ末ニ附記シタル裁判所長ノ単純ナル命令ニ依リ其費用ノ弁済ニ強ラル可キモノトス
右ノ命令ハ始審裁判所ヨリ発シタルニ於テハ故障ノ申立又ハ控訴ニ拘ハラス之ヲ執行ス可ク又控訴裁判所ヨリ発シタルニ於テハ故障ノ申立ニ拘ハラス之ヲ執行ス可キモノトス
○第弐拾四巻 簡略事件
第四百四条 左ノ諸件ハ簡略事件ト看做シ此クノ如キモノトシテ之ヲ審理ス可シ
治安裁判官ヨリノ控訴
証券ノアル時ハ如何ナル金額ニ登ル可キヲ問ハス純粋ニ対人権上ノモノタル訟求但シ其証券ニ付キ争ノアラサルコトヲ必要トス
証券ナクシテ為シタル訟求但シ其訟求ノ一千「フランク」ニ過キサル時ニ限ル
仮リノ訟求又ハ急速ナルヲ要スル訟求
家屋ノ貸賃、土地ノ貸賃並ニ年金賦額ノ弁済ニ於ケル訟求
第四百五条 簡略事件ハ呼出ノ期限ノ終リタル後単純ナル証書ニ依リ別ニ其他ノ訴訟手続及ヒ法式ナク審問席ニ於テ之ヲ裁判ス可シ
第四百六条 附帯ノ訴及ヒ参渉ハ代書人ノ請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其請願書ニハ理由ヲ附シタル意見ノミヲ記ス可キモノトス
第四百七条 若シ証人訊問ヲ為ス可キ時ハ予メ其事柄ヲ箇条書ニ為スヲ要セスシテ其訊問ヲ命令スル裁判書ニ其事柄ヲ記シ且ツ審問席ニ於テ証人ノ申立ヲ聴ク可キ日時ヲ定ム可シ
第四百八条 証人ハ其訊問ノ日ヨリ少クトモ一日前ニ之ヲ呼出ス可シ
第四百九条 若シ双方ノ者ノ中一方ヨリ猶予ヲ訟求スル時ハ其附帯ノ訴ヲ即時ニ裁判ス可シ
第四百拾条 若シ裁判カ控訴ヲ為ス可カラサルモノタル時ハ証人訊問ノ調書ヲ作ル可カラス唯其裁判書ニ証人ノ姓名ト其証拠申述ノ成果トヲ記載ス可シ
第四百拾壱条 若シ裁判カ控訴ヲ為スコトヲ得可キモノタル時ハ証人ノ誓、証人ノ訴訟ヲ為ス本人ノ血属親、姻属親、従者又ハ雇人タルヤ否ノ申述、証人ニ対シテ為シタル排斥及ヒ証人ノ証拠申述ノ成果ヲ記スル所ノ調書ヲ作ル可シ
第四百拾弐条 若シ証人ノ遠隔ノ地ニ在リ又ハ証人ニ差支アル時ハ裁判所ヨリ其居住地ノ裁判所又ハ治安裁判官ヲ委任スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其証人訊問ヲ書面ニ記シ且ツ之レカ調書ヲ作ル可キモノトス
第四百拾三条 簡略ナル証人訊問ヲ為スニ付テハ左ノ法式ニ関スル証人訊問第十二巻ノ成規ヲ遵守ス可シ
証人ニ之ヲ招喚スル裁判書要旨ノ写ヲ送付スル事
本人ニ証人ノ姓名書ノ写ヲ送付スル事
缺席シタル証人ニ対スル罰金及ヒ懲罰
双方本人ノ配偶者並ニ直系ニ於ケル血属親及ヒ姻属親ノ申立ヲ聴クノ禁止
出席シタル一方本人ヨリ申立ツル所ノ排斥、其排斥ヲ裁判スル方法、証人ヘノ問糾及ヒ訴訟費用ノ算定
旅費ヲ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可キ証人ノ員数
満十五歳ニ至ラサル各人ノ申立ヲ聴ク可キノ権能
○第弐拾五巻 商事裁判所ニ於ケル訴訟手続
第四百拾四条 商事裁判所ニ於ケル訴訟手続ハ代書人ノ紹介ナクシテ之ヲ為スモノトス
第四百拾五条 総テノ訟求ハ商事裁判所ニ於テハ前文呼出ノ巻ニ定メタル法式ニ従ヒ呼出状ヲ以テ之ヲ為サヽル可カラス
第四百拾六条 其期限ハ少クトモ一日タル可シ
第四百拾七条 急速ナルヲ要スル場合ニ於テハ裁判所長ハ此日ヨリ彼ノ日ニ又此ノ時ヨリ彼ノ時ニ於テモ呼出シ且ツ動産ヲ差押ユルヲ許ルスコトヲ得可ク又場合ノ必要ナルニ従ヒ原告人ニ保証人ヲ立ツルノ義務ヲ負ハシメ又ハ充分ナル償還ノ資力アル旨ヲ証明スルノ義務ヲ負ハシムルコトヲ得可シ○其裁判所長ノ命令ハ故障ノ申立又ハ控訴ニ拘ハラス之ヲ執行ス可キモノトス
第四百拾八条 訴訟ヲ為ス各人中ニ住所ヲ有セサル者アル所ノ海上事件ニ関スル訴訟及ヒ出帆セントスル船ノ船具、飲食料、艤送物、修理ニ関スル訴訟並ニ其他ノ至急ニシテ仮リニ処分ス可キ事項ニ於テハ命令書ナクシテ此ノ日ヨリ彼ノ日ニ又此ノ時ヨリ彼ノ時ヘノ呼出状ヲ送付スルコトヲ得可キモノトス而シテ其缺席ハ即時ニ之ヲ裁判スルコトヲ得可シ
第四百拾九条 凡ソ呼出サレタル本人ニ船中ニテ送付シタル呼出状ハ有効ノモノトス
第四百弐拾条 原告人ハ自己ノ撰択ニ任カセテ左ノ如クニ呼出スコトヲ得可シ
被告人住所ノ裁判所ニ被告人ヲ呼出スコトヲ得可シ
約務ヲ為シ且ツ商品ヲ引渡シタル地ヲ管轄スル裁判所ニ被告人ヲ呼出スコトヲ得可シ
弁済ヲ為サヽル可カラサル地ヲ管轄スル裁判所ニ被告人ヲ呼出スコトヲ得可シ
第四百弐拾壱条 双方本人ハ自カラ出席シ又ハ特別ナル代理委任状ヲ所持スル者ヲ差出ス可シ
第四百弐拾弐条 若シ双方ノ者ノ出席シ而シテ第一次ノ審問席ニ於テ確定ノ裁判アラサル時ハ其裁判所々在ノ地ニ住所ヲ有セサル者ハ其地ニ住所ノ撰定ヲ為ス可キモノトス
其住所ノ撰定ハ審問席ノ帳簿ニ之ヲ記載ス可シ若シ其撰定ヲ為サヽル時ハ各書類ノ送達ハ有効ニ裁判所ノ書記局ニ之ヲ為スコトヲ得可ク仮令確定裁判書ノ送達ト雖モ亦之ト同一タル可シ
第四百弐拾三条 原告人タル外国人ハ商事ニ於テハ其言渡サルヽコトアル可キ訴訟費用及ヒ損害賠償ヲ弁済スル為メノ保証人ヲ立ツルニ及ハス但シ商事裁判所ノアラサル地ニ於テ民事裁判所ニ其訟求ヲ申告シタル時ト雖モ亦之ト同一ナリトス
第四百弐拾四条 若シ裁判所カ其訴訟ノ事柄ノ為メニ管轄違ヒノモノタル時ハ仮令他ノ裁判所ニ訴訟ヲ移サントスルノ申立ヲ為サヽル時ト雖モ其裁判所ヨリ双方ノ者ヲ移送ス可シ
総テ其他ノ原由ノ為メニ他ノ裁判所ニ訴訟ヲ移サントスルノ求ハ総テ其他ノ弁護ノ前ニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第四百弐拾五条 同一ノ裁判ヲ以テ他ノ裁判所ニ訴訟ヲ移サントスルノ求ヲ棄却スルト共ニ訴訟ノ本案ニ付キ裁定ヲ為スコトヲ得可シ但シ其一箇ハ裁判管轄ニ関シ他ノ一箇ハ訴訟ノ本案ニ関シ互ニ別々ノモノタル二箇ノ要旨ヲ以テ裁定ヲ為ス可キモノトス而シテ其裁判管轄ニ関スル要旨ハ何時タリトモ控訴ノ法方ヲ以テ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得可シ
第四百弐拾六条 商事裁判所ノ裁判ヲ受ク可キ者ノ寡婦及ヒ相続人ハ訴訟ノ再起ニ於テ其裁判所ニ呼出サレ又ハ新タナル訴ニ依テ其裁判所ニ呼出サル可シ但シ其分限ニ付キ争アル時ハ通常ノ裁判所ニ於テ其裁定ヲ受クル為メ之ヲ通常ノ裁判所ニ移送シ然ル後商事裁判所ニ於テ其訴訟ノ本案ニ付キ裁判ヲ為ス可キモノトス
第四百弐拾七条 若シ差出シタル証拠物ヲ知ラスト述ヘラレ又ハ之ヲ非斥セラレ若クハ其偽造ノ旨ヲ申立テラレ而シテ之ヲ差出シタル者ノ固執シテ之ヲ用ヒント欲スル時ハ商事裁判所ヨリ其争ヲ裁定ス可キ裁判所ニ之ヲ移送シ而シテ主タル訴訟ノ裁判ヲ延ハス可シ
然レトモ若シ其証拠物カ訴訟ノ箇条中ノ一箇ノミニ関スル時ハ其他ノ箇条ノ裁判ニ取掛ルコトヲ得可シ
第四百弐拾八条 裁判所ハ如何ナル場合ニ於テモ一方ノ者ノ求ニ依リ又然ノミナラス職権上ニテ審問席又ハ裁判官会議室ニ於テ本人自身ノ申立ヲ聴ク可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可ク若シ又正当ノ差支アル時ハ本人自身ノ申立ヲ聴カシムル為メ裁判官中ノ一名又然ノミナラス治安裁判官ヲ委任スルコトヲ得可シ但シ此等ノ裁判官ハ本人申述ノ調書ヲ作ル可キモノトス
第四百弐拾九条 若シ算計書、証拠物及ヒ簿冊ヲ調査スル為メ双方ノ者ヲ裁断人ノ面前ニ移送ス可キ時ハ双方ノ者ノ申立ヲ聴カシメ且ツ成ル可クハ之ヲ勧解シ若シ勧解不調ノ時ハ其意見ヲ申立テシムル為メ一名又ハ三名ノ裁断人ヲ選任ス可シ
若シ工事又ハ商品ヲ臨検シ又ハ評価ス可キ時ハ一名又ハ三名ノ鑑定人ヲ選任ス可シ
其裁断人及ヒ鑑定人ハ裁判所ヨリ職権ヲ以テ之ヲ選任ス可シ但シ双方ノ者カ審問席ニ於テ合意ノ上之ヲ選任シタル時ハ格別ナリトス
第四百三拾条 忌避ハ選任ノ時ヨリ三日内ニ非サレハ之ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
第四百三拾壱条 裁断人及ヒ鑑定人ノ報告書ハ裁判所ノ書記局ニ之ヲ納ム可シ
第四百三拾弐条 若シ裁判所ヨリ証人ニ依レル立証ヲ命令スル時ハ簡略ナル証人訊問ノ為メ前ニ定メタル法式ヲ以テ其立証ヲ為ス可シ○然レトモ控訴ヲ受ク可キ訴訟ニ於テハ書記其証人ノ証拠申述書ヲ作リテ証人之ニ署名ス可ク若シ署名スルコトヲ否拒スル時ハ其旨ヲ記載ス可シ
第四百三拾三条 裁判書ヲ作リ及ヒ其写ヲ作ルニ付テハ始審裁判所ノ為メ第百四十一条及ヒ第百四十六条ニ定メタル法式ヲ遵守ス可シ
第四百三拾四条 若シ原告人ノ出席セサル時ハ裁判所ヨリ缺席ノ旨ヲ言渡シ被告人ヲシテ其訟求ヲ免脱セシムヘシ
若シ被告人ノ出席セサル時ハ缺席ノ旨ヲ言渡シ而シテ原告人ノ請求カ正当ニシテ且ツ確証アル時ハ其請求ヲ裁可ス可シ
第四百三拾五条 凡ソ缺席裁判書ハ裁判所ヨリ特ニ委任セラレタル使吏ニ非サレハ之ヲ送達スルコトヲ得ス但シ其送達書ニハ若シ原告人其送達ヲ為ス所ノ邑内ニ住所ヲ有セサルニ於テハ其邑内ニ住所ヲ撰定シタル旨ヲ記ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
其裁判ハ送達ノ一日後ニ於テ且ツ故障ノ申立アルニ至ル迄之ヲ執行ス可キモノトス
第四百三拾六条 故障ノ申立ハ裁判書送達ノ日ヨリ八日ノ後ニ至リテハ最早之ヲ受理ス可カラス
第四百三拾七条 故障申立書ニハ其故障申立人ノ憑拠ト法律ノ期限内ニ於ケル呼出トヲ記ス可シ但シ其故障申立書ハ撰定シタル住所ニ送達ス可キモノトス
第四百三拾八条 故障ノ申述ヲ使吏ノ調書ニ記セシメ裁判執行ノ時ニ当リテ其故障ノ申立ヲ為ス時ハ執行ヲ止ム可シ但シ故障申立人ハ呼出ヲ記シタル送達状ヲ以テ三日内ニ更ニ再ヒ其故障ノ申立ヲ為ス可ク若シ其期限ヲ過クル時ハ故障ノ申立ヲ無効ナリト看做ス可シ
第四百三拾九条 商事裁判所ハ駁撃セラレサル証券アリ又ハ控訴ヲ為サヽル所ノ以前ノ言渡書アル時ハ控訴ニ拘ハラス保証人ナクシテ其裁判ノ仮リノ執行ヲ命令スルコトヲ得可シ又其他ノ場合ニ於テハ保証人ヲ立テシメ又ハ充分ナル償還ノ資力アル旨ヲ証明セシムルニ非サレハ仮リノ執行ヲ為ス可カラス
第四百四拾条 保証人ハ若シ控訴者カ裁判所々在ノ地ニ居住スルニ於テハ其住所ニ送達シタル証書ヲ以テ之ヲ立テ若シ然ラサル時ハ第四百二十二条ニ従ヒ其撰定シタル住所ニ送達シタル証書ヲ以テ之ヲ立ツ可ク且ツ保証人ノ其証券ヲ差出ス可キ旨ヲ命令セラレタル時ハ他所ニ携ヘ行クコトナクシテ其証券ヲ査視スル為メ定マリタル日時ニ書記局ニ出席シ又争ヒアル場合ニ於テハ許容ノ宣告ヲ受クル為メ審問席ニ出席ス可キノ呼出ヲ為ス可シ
第四百四拾壱条 若シ控訴者ノ出席セス又ハ保証人ニ付キ論争セサル時ハ保証人書記局ニ其約務ノ申述ヲ為ス可ク若シ控訴者ノ論争スル時ハ呼出状ニ指示シタル日ニ之ヲ裁定ス可シ但シ如何ナル場合ニ於テモ其裁判ハ故障ノ申立又ハ控訴ニ拘ハラス執行ス可キモノトス
第四百四拾弐条 商事裁判所ハ其裁判ノ執行ニ関スル争訟ヲ裁定セス
○第三編 控訴裁判所
○第壱巻 控訴及ヒ控訴ニ於ケル審理
第四百四拾三条 控訴ヲ為ス為メノ期限ハ二月トス○其期限ハ対審ノ裁判ニ付テハ本人又ハ住所ニ送達ノ日ヨリ起算ス可シ
缺席裁判ニ付テハ故障ノ申立ヲ最早受理ス可カラサルニ至リシ日ヨリ起算ス可シ
然レトモ被控訴者ハ異論ナクシテ裁判書ヲ送達シタル時ト雖モ訴訟中何時ヲ問ハス附帯シテ控訴ヲ為スコトヲ得可シ
第四百四拾四条 右ノ期限ハ失権ヲ惹起スルモノトス而シテ其期限ハ何人ニ対シテモ経過スルモノニシテ唯其当然責任アル者ニ対シテ償還ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キノミトス然レトモ其期限ハ後見ヲ免脱セラレサル幼者ニ対シテハ仮令其代後見人カ訴訟ニ参加セサリシ時ト雖モ其後見人ト代後見人トニ裁判書ヲ送達シタル日ヨリ後ニ非サレハ経過セサルモノトス
第四百四拾五条 大陸ノ仏蘭西外ニ居ル所ノ者ハ控訴ヲ為ス為メ裁判書ノ送達ヨリ二月ノ期限ノ外更ニ前第七十三条ニ規定シタル呼出ノ猶予期限ヲ有スルモノトス
第四百四拾六条 公務ノ為メニ帝国(共和国)ノ欧羅巴ノ領地外又ハ「アルゼリー」ノ領地外ニ在ル者ハ控訴ヲ為ス為メ裁判書ノ送達ヨリ二月ノ期限ノ外更ニ八月ノ猶予期限ヲ有スルモノトス○航海ノ為メ右ノ領地外ニ在ル海員ノ為メニモ亦之ト同シカル可シ
第四百四拾七条 控訴ノ期限ハ裁判言渡ヲ受ケタル者ノ死去ニ依リ之ヲ停止ス可シ
其期限ハ第六十一条ニ定メタル法式ヲ以テ死者ノ住所ニ為シタル裁判書ノ送達ノ後且ツ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ期限ノ終ラサル前ニ裁判書ヲ送達シタル時ハ其期限ノ終リタル時ヨリ起算スルニ非サレハ更ニ再ヒ其経過ヲ始メサルモノトス
其送達ハ姓名及ヒ分限ノ指定ナク相合シテ相続人数名ニ之ヲ為スコトヲ得可シ
第四百四拾八条 偽造ノ証拠物ニ拠テ裁判ヲ為シタル時又ハ一方ノ者カ其相手方ノ為メニ引留メラレタル断訟ノ証拠物ヲ差出サヽリシカ為メニ裁判言渡ヲ受ケタル時ハ控訴ノ期限ハ其偽造ヲ認定シ又ハ裁判上ニテ其偽造ヲ証明シタル日又ハ右ノ証拠物ヲ取戻シタル日ヨリ経過ス可シ但シ其証拠物ヲ取戻シタル場合ニ於テハ之レヲ取戻シタル日ヲ証明スル書面アルコトヲ必要トシ其他ノ方法ヲ以テ其日ヲ証明スルコトヲ得サルモノトス
第四百四拾九条 仮リニ執行ス可キモノニ非サル裁判ノ控訴ハ其裁判ノ日ヨリ起算シテ八日内ニ之ヲ為スコトヲ得ス其期限内ニ為シタル控訴ハ受理ス可カラサルノ宣告ヲ受ク可シ但シ控訴者猶控訴期限内ニアルニ於テハ更ニ再ヒ控訴ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第四百五拾条 仮リニ執行ス可キモノニ非サル裁判ノ執行ハ右八日ノ間ハ之ヲ停止ス可シ
第四百五拾壱条 本案ニ影響セサル予審裁判ノ控訴ハ確定裁判ノ後其裁判ノ控訴ト共ニスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス而シテ其控訴ノ期限ハ確定裁判書送達ノ日ヨリ経過ス可シ但シ其控訴ハ本案ニ影響セサル予審裁判ヲ貯存ナクシテ執行シタル時ト雖モ之ヲ受理ス可キモノトス
本案ニ影響スル予審裁判ノ控訴ハ確定裁判ノ前ニ之ヲ為スコトヲ得可シ又仮リノ処分ヲ許ルシタル裁判ニ付テモ之ト同一タル可シ
第四百五拾弐条 訴訟ノ審理ノ為メニ為シタルモノニシテ其訴ヲシテ確定裁判ヲ受ク可キ景状ニ至ラシムル所ノ裁判ハ本案ニ影響セサル予審ナリト看做ス可シ
裁判所カ裁定ヲ為ス前ニ立証、験真又ハ本案ニ影響スル審理ヲ命令スル時ニ為シタル裁判ハ本案ニ影響スル予審ナリト看做ス可シ
第四百五拾三条 始審ノミニ於テ宣告スルコトヲ得可キ裁判官ノ裁判ヲ為シタル時ハ其裁判ニ終審ノ名称ヲ附シタリト雖モ其裁判ハ控訴ヲ受ク可キモノトス
初メノ裁判官ニ終審ノ裁定ヲ為ス可キノ権力アル事項ニ付キ為シタル裁判ハ仮令其裁判官ノ之ニ名称ヲ附スルコトヲ遺忘シ又ハ之ニ始審ノ名称ヲ附シタリト雖モ其控訴ヲ受理ス可カラス
第四百五拾四条 若シ裁判管轄違ヒノ事ニ関スル時ハ裁判ニ終審ノ名称ヲ附シタリト雖モ其控訴ヲ受理ス可キモノトス
第四百五拾五条 故障ノ申立ヲ受ク可キ裁判ノ控訴ハ故障申立ノ為メノ期限ノ継続スル間ハ之ヲ受理ス可カラス
第四百五拾六条 控訴状ハ法律上ノ期限内ニ呼出ス旨ヲ記シ而シテ之ヲ本人又ハ住所ニ送達ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
第四百五拾七条 確定裁判又ハ本案ニ影響スル裁判ノ控訴ヲ為シタル時ハ執行ヲ停止ス可シ但シ仮リノ執行ヲ許サレタル場合ニ於テ其裁判ヲ以テ仮リノ執行ヲ宣告シタル時ハ格別ナリトス
不当ニ終審ノ名称ヲ附セラレタル裁判ノ執行ハ控訴者ノ短キ期限ニ於ケル呼出ノ上控訴裁判所ノ審問席ニ於テ得タル制止ニ拠ルニ非サレハ之ヲ停止スルコトヲ得ス
裁判官カ終審ノ宣告ヲ為スコトヲ許サレタル事項ニ付キ為シタル裁判ニ其名称ヲ附セス又ハ始審ノ名称ヲ附シタル時ハ単純ナル証書ニ拠リ控訴裁判所ノ審問席ニ於テ其仮リノ執行ヲ命令スルコトヲ得可シ
第四百五拾八条 若シ仮リノ執行ヲ許サレタル場合ニ於テ其仮リノ執行ヲ宣告セサル時ハ被控訴者ハ控訴ノ裁判ノ前ニ単純ナル証書ニ依リ審問席ニ於テ仮リノ執行ヲ命令セシムルコトヲ得可シ
第四百五拾九条 若シ法律ニ定メタル場合ノ外ニ於テ仮リノ執行ヲ命令シタル時ハ控訴者短キ期限ニ於ケル呼出ノ上審問席ニ於テ制止ヲ得ルコトヲ得可シ但シ通知伝観セシメサル請願書ニ拠リテハ其制止ヲ附与スルコトヲ得サルモノトス
第四百六拾条 右ノ外如何ナル場合ニ於テモ執行ノ制止ヲ附与スルコトヲ得ス又直接或ハ間接ニ裁判ノ執行ヲ止ムル為メノ裁判ヲ為スコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
第四百六拾壱条 凡ソ控訴ハ書面ニ依レル審理ノ上ニテ為シタル裁判ノ控訴ト雖モ審問席ニ申告ス可シ但シ別段ノ理由アル時ハ裁判所ヨリ書面ニ依レル審理ヲ命令ス可キモノトス
第四百六拾弐条 控訴者ハ被控訴者ノ代書人ヲ撰定シタル時ヨリ八日内ニ裁判書ニ対スル自己ノ不服申立書ヲ送達ス可シ○被控訴者ハ次キノ八日内ニ之ニ答フ可シ○然ル後其他ノ訴訟手続ナクシテ審問ヲ求ム可キモノトス
第四百六拾三条 簡略事件ニ於テ為シタル裁判ノ控訴ハ単純ナル証書ニ拠リ別ニ其他ノ訴訟手続ナクシテ之ヲ審問席ニ申告ス可シ○其他ノ裁判ノ控訴ニ付テモ若シ被控訴者ノ出席セサル時ハ亦右ト同シカル可シ
第四百六拾四条 控訴ニ於テハ如何ナルモノタリトモ新タナル訟求ヲ為ス可カラス但シ相殺ニ関スル時又ハ新タナル訟求カ主タル訴ニ対スル弁護タル時ハ格別ナリトス
又訴訟人ハ始審裁判ノ後ニ弁済期限ニ至リタル利息、賦額、家屋ノ貸賃及ヒ其他ノ附加物ヲ訟求スルコトヲ得可ク又其裁判ノ後ニ受ケタル損害ノ為メニ損害賠償ヲ訟求スルコトヲ得可シ
第四百六拾五条 前条ニ定メタル場合ニ於テ被告人ノ新タナル訟求及ヒ抗弁ハ理由ヲ附シタル単純ナル請求ノ証書ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
訴訟人ノ其請求ヲ変更シ又ハ改様セント欲スル場合ニ於テモ亦右ト同シカル可シ
始審ニ於ケルト控訴ニ於ケルトヲ問ハス以前既ニ書面ニ依テ用ヒラレタル憑拠又ハ抗弁ノ憑拠ノ繰返タルニ過キサル総テノ書面ハ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可カラス
若シ一箇ノ書面ニ新タナル憑拠又ハ抗弁ノ憑拠ト旧キ憑拠又ハ抗弁ノ憑拠ノ繰返トヲ共ニ記スル時ハ新タナル憑拠又ハ抗弁ノ憑拠ニ関スル部分ノミヲ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可キモノトス
第四百六拾六条 如何ナル参渉ト雖モ第三ノ人ノ故障申立ヲ為ス可キ権利アル者ノ方ヨリ之ヲ為シタルニ非サレハ受理ス可カラス
第四百六拾七条 若シ二箇余ノ論説ヲ生シタル時ハ最寡数ノ裁判官ハ更ニ多数ノ発シタル二箇ノ論説中ノ一箇ニ合併ス可シ
第四百六拾八条 控訴裁判所ニ於テ可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相同シキ時ハ之ヲ決スル為メ其訴訟ヲ審理セサリシ裁判官少クトモ一名又ハ常ニ必ス奇数ヲ以テ其数名ヲ招喚ス可ク而シテ受任ノ順序ニ従ヒ之ヲ招喚ス可シ然ル上ニテ更ニ再ヒ訴訟ノ弁論ヲ為ス可ク若シ又書面ニ依レル審理ニ関スル時ハ更ニ再ヒ訴訟ノ報告ヲ為ス可シ
若シ裁判官全員ノ其訴訟ヲ審理シタル場合ニ於テハ裁判ノ為メ旧キ法律家三名ヲ招喚ス可シ
第四百六拾九条 控訴ノ消滅ハ其控訴ヲ為サレタル裁判ニ裁定事件ノ力ヲ附与スルノ効アリトス
第四百七拾条 右ノ外下等裁判所ノ為メニ設定シタル規則ハ控訴裁判所ニ於テモ之ヲ遵守ス可シ
第四百七拾壱条 敗訴トナリタル控訴者ハ治安裁判官ノ裁判ノ控訴ニ関スル時ハ五「フランク」ノ罰金ヲ言渡サレ又始審裁判所又ハ商事裁判所ノ裁判ノ控訴ニ関スル時ハ十「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第四百七拾弐条 若シ裁判カ控訴ノ上ニテ是認セラレタル時ハ其執行ハ右ノ裁判ヲ為シタル裁判所ニ属ス可ク若シ又裁判カ控訴ノ上ニテ否認セラレタル時ハ同一ノ訴訟人ノ間ニ於ケル執行ハ其宣告ヲ為シタル控訴裁判所ニ属シ又ハ其裁判所ヨリ右同一ノ裁判書ヲ以テ指示シタル他ノ裁判所ニ属ス可シ但シ拘留ヲ無効ト為サントスルノ訟求、強逼ノ所有権収奪ニ於ケル訟求及ヒ其他法律上ニテ特ニ管轄権ヲ附与シタル訟求ノ場合ハ格別ナリトス
第四百七拾三条 若シ本案ニ影響スル予審ノ裁判ヲ控訴シタル時其裁判ノ否認セラレ而シテ其事件ノ確定ノ裁決ヲ受ク可キ景状ニ至リタルニ於テハ控訴裁判所又ハ控訴ヲ審理スル其他ノ裁判所ニ於テ一箇同一ノ裁判ヲ以テ同時ニ訴訟ノ本案ニ付キ確定ノ裁判ヲ為スコトヲ得可シ
又控訴裁判所又ハ控訴ヲ審理スル其他ノ裁判所カ法式ノ瑕瑾ノ為メ若クハ総テ其他ノ原由ノ為メニ確定ノ裁判ヲ否認シタル場合ニ於テモ右ト同一タル可シ
○第四編 裁判ヲ駁撃スル為メノ異常ノ方法
○第壱巻 第三ノ人ノ故障申立
第四百七拾四条 人ハ一箇ノ裁判ノ為メニ自己ノ権利ヲ害セラレ而シテ其裁判ノ時ニ自己モ又自己ノ代理スル者モ招喚セラレサルニ於テハ其裁判ニ付キ第三ノ人ノ故障申立ヲ為スコトヲ得可シ
第四百七拾五条 主タル訴ヲ以テ為ス所ノ第三ノ人ノ故障申立ハ其駁撃スル所ノ裁判ヲ為セシ裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
一箇ノ裁判所ニ於テ掌轄スル所ノ争訟ニ附帯ノモノタル第三ノ人ノ故障申立ハ若シ其裁判所カ裁判ヲ為セシ裁判所ト同等又ハ更ニ上等ナルニ於テハ其争訟ヲ掌轄スル裁判所ヘノ請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第四百七拾六条 若シ其裁判所カ裁判ヲ為セシ裁判所ト同等又ハ更ニ上等ノモノタラサル時ハ附帯ノモノタル第三ノ人ノ故障申立ヲ主タル訴ヲ以テ其裁判ヲ為セシ裁判所ニ申告ス可シ
第四百七拾七条 其駁撃ヲ受ケシ裁判書ヲ差出サレタル裁判所ハ景況ニ従ヒ審理ヲ継続シ又ハ之ヲ停止スルコトヲ得可シ
第四百七拾八条 不動産ノ占有ヲ放棄ス可キ旨ヲ言渡ス裁定事件ノ力ヲ得タル裁判ハ第三ノ人ノ故障申立ニ拘ハラス且ツ之ヲ害スルコトナク其言渡ヲ受ケタル者ニ対シテ之ヲ執行ス可シ
其他ノ場合ニ於テハ裁判官景況ニ従ヒ裁判ノ執行ヲ停止スルコトヲ得可シ
第四百七拾九条 第三ノ人ノ故障ヲ為シ之ヲ棄却セラレタル者ハ五十「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ヲ言渡サル可シ但シ本人ニ損害ヲ被ラシメタル時ハ其損害ノ賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
○第弐巻 敬慎ノ請願
第四百八拾条 始審裁判所及ヒ控訴裁判所ニ於テ終審ニテ為シタル対審裁判並ニ亦終審ニテ為シタルモノニシテ最早故障ヲ申立ツルコトヲ得サルニ至リシ缺席裁判ハ其裁判ニ参シタル者又ハ適法ニ招喚セラレタル者ノ請願ニ依リ左ノ原由ノ為メニ之ヲ廃棄スルコトヲ得可シ
第一 一身上ノ詐欺アル時
第二 裁判ノ前若クハ裁判ノ時ニ当リ無効ノ罰款ヲ以テ必要ナリト定メタル法式ニ違犯シタル時但シ訴訟人ノ其無効ヲ蓋蔽シタル時ハ格別ナリトス
第三 訟求セサル事物ニ付キ宣告ヲ為シタル時
第四 訟求シタル所ヨリ更ニ余分ノ事ヲ裁可シタル時
第五 訟求ノ箇条中ノ一箇ニ付キ宣告ヲ為スコトヲ遺脱シタル時
第六 同一ノ上等裁判所又ハ下等裁判所ニ於テ同一ノ訴訟人ノ間ニ同一ノ憑拠ニ付キ終審裁判ノ相牴触シタル時
第七 同一ノ裁判書中ニ相牴触スル要旨アル時
第八 法律上ニ検察官ヘノ通報ヲ必要ナリト定メタル場合ニ於テ其通報ヲ為サス而シテ其通報ノ為メニ保護ヲ受ク可キ者ニ対シテ裁判ヲ為シタル時
第九 裁判ノ後ニ偽造ナリト承認セラレ又ハ宣告セラレタル証拠物ニ拠テ裁判ヲ為シタル時
第十 裁判ノ後ニ嘗テ相手方ノ所為ニ依リ引留メラレタル断訟ノ証拠物ヲ取戻シタル時
第四百八拾壱条 国、邑、公同設立場及ヒ幼者ハ其弁護セラレサル時又ハ有効ニ弁護セラレサル時ハ亦上訴スルコトヲ許サルヽモノトス
第四百八拾弐条 裁判書中ノ一箇条ノミニ対シテ敬慎ノ請願ヲ為ス可キノ原由アル時ハ其一箇条ノミヲ廃棄ス可シ但シ其他ノ箇条ノ其一箇条ニ附属シタル時ハ格別ナリトス
第四百八拾三条 敬慎ノ請願書ハ成年者ニ関シテハ其駁撃スル所ノ裁判書ヲ本人又ハ住所ニ送達シタル日ヨリ起算シテ二月ノ期限内ニ呼出状ト共ニ之ヲ送達ス可シ
第四百八拾四条 其二月ノ期限ハ幼者ニ対シテハ其成年ニ至リシ後本人又ハ住所ニ裁判書ヲ送達シタル日ヨリ起算ス可シ
第四百八拾五条 若シ原告人カ公務ノ為メニ帝国(共和国)ノ欧羅巴ノ領地外又ハ「アルゼリー」ノ領地外ニ在ル時ハ裁判書ノ送達ヨリ二月ノ通常ノ期限ノ外更ニ八月ノ猶予期限ヲ有スルモノトス
航海ノ為メ右ノ領地外ニ在ル海員ノ為メニモ亦之ト同シカル可シ
第四百八拾六条 大陸ノ仏蘭西外ニ居ル所ノ者ハ裁判書ノ送達ヨリ二月ノ期限ノ外更ニ前第七十三条ニ規定シタル呼出ノ猶予期限ヲ有スルモノトス
第四百八拾七条 若シ裁判言渡ヲ受ケタル者カ上訴ヲ為ス為メ前ニ定メタル期限内ニ死去セシ時ハ其残期ハ前第四百四十七条ニ定メタル期限ト方法トニ於ケルニ非サレハ其遺留財産ニ対シテ経過スルコトヲ始メサルモノトス
第四百八拾八条 敬慎ノ請願ヲ為スノ原由カ偽造、詐欺又ハ新タナル証拠物ヲ発見シタル時ハ其期限ハ偽造若クハ詐欺ヲ認定シ又ハ証拠物ヲ発見シタル日ヨリ起算ス可シ但シ此最後ニ記シタル二箇ノ場合ニ於テハ其日ヲ証明スル書面アルコトヲ必要トシ其他ノ方法ヲ以テ其日ヲ証明スルコトヲ得サルモノトス
第四百八拾九条 若シ裁判ノ相牴触シタル時ハ其期限ハ最後ノ裁判書ヲ送達シタル日ヨリ起算ス可シ
第四百九拾条 敬慎ノ請願ハ駁撃スル所ノ裁判ヲ為シタル其裁判所ニ之ヲ申告ス可シ而シテ其裁判所ニ於テ以前ト同一ノ裁判官之ヲ裁定スルコトヲ得可キモノトス
第四百九拾壱条 若シ一方ノ者カ一箇ノ裁判ヲ為セシモノヨリ更ニ他ノ裁判所ニ於テ審理中ノモノタル訴訟ノ間ニ差出サレタル其裁判書ヲ敬慎ノ請願ヲ以テ駁撃セント欲スル時ハ其裁判ヲ為シタル裁判所ニ上訴ス可シ而シテ其裁判書ヲ差出シタル所ノ訴訟ヲ掌轄スル裁判所ハ景況ニ従ヒ審理ヲ継続シ又ハ之ヲ停止スルコトヲ得可シ
第四百九拾弐条 裁判書ノ日附ヨリ六月内ニ敬慎ノ請願ヲ為ス時ハ其駁撃スル所ノ裁判ヲ得タル一方本人ノ代書人ノ住所ニ送達シタル呼出状ヲ以テ之ヲ為ス可ク若シ右ノ期限ヲ過キタル時ハ本人ノ住所ニ呼出状ヲ送附ス可シ
第四百九拾三条 若シ敬慎ノ請願ヲ裁定ス可キ該管裁判所ニ於テ附帯シテ敬慎ノ請願ヲ為ス時ハ代書人ヨリ代書人ヘノ請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ然レトモ若シ其裁判ヲ為セシ裁判所ヨリ更ニ他ノ裁判所ニ申告シタル争訟ニ附帯シテ敬慎ノ請願ヲ為ス時ハ其裁判ヲ為セシ裁判官ノ面前ニ於ケル呼出状ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第四百九拾四条 国ノ利益ヲ約スル者ノ外総テ其他ノ者ノ敬慎ノ請願ハ其請願書ヲ差出ス前ニ罰金トシテ三百「フランク」ノ金額又相手方ヘノ損害賠償トシテ百五十「フランク」ノ金額ヲ附託シタルニ非サレハ之ヲ受理ス可カラス但シ更ニ多額ノ損害賠償ヲ為ス可キ時ハ其多額ノ損害賠償ト相触ルヽコトナカル可シ而シテ若シ其裁判カ缺席又ハ漫期失権ニ係ルモノタル時ハ右附託ノ金額ハ前記ノ一半タル可ク又始審裁判所ノ為シタル裁判ニ関スル時ハ其金額ハ前記ノ四分一タル可シ
第四百九拾五条 収受役ノ受取証書並ニ裁判ヲ為シタル地ヲ管轄スル控訴裁判所管轄内ノ始審裁判所中ノ一箇ニ於テ少クトモ十年以来職務ヲ行フ代言人三名ヘノ相談書ヲ其訟求書ノ初メニ記シテ之ヲ送達ス可シ
其相談書ニハ右代言人三名ノ敬慎ノ請願ヲ為ス可キ意見タル旨ノ申述ヲ記シ且ツ其敬慎ノ請願ヲ為スノ原由ヲ表示ス可ク若シ然ラサル時ハ其請願書ヲ受理ス可カラス
第四百九拾六条 若シ裁判書ノ日附ヨリ六月内ニ敬慎ノ請願書ヲ送達シタル時ハ其裁判書ヲ得タル一方ノ者ノ代書人ハ更ニ新タナル委任ノ権力ナクシテ当然撰定セラル可キモノトス
第四百九拾七条 敬慎ノ請願ハ駁撃セラレタル裁判ノ執行ヲ防止ス可カラスシテ如何ナル制止ヲモ附与スルコトヲ得サルモノトス但シ不動産ヲ放棄ス可キ旨ヲ言渡サレタル者ハ主タル裁判ノ執行ノ証ヲ立ツルニ非サレハ敬慎ノ請願ニ付キ弁論スルコトヲ許ス可カラス
第四百九拾八条 凡ソ敬慎ノ請願ハ検察官ニ通報ス可シ
第四百九拾九条 相談書ニ表示シタル敬慎ノ請願ノ原由ヲ除クノ外凡ソ如何ナル憑拠ト雖モ審問席ニ於テ之ヲ討論ス可カラス又書面ヲ以テ之ヲ討論ス可カラス
第五百条 敬慎ノ請願ヲ棄却スル裁判ハ原告人ニ前ニ定メタル罰金ト損害賠償トヲ言渡ス可シ但シ更ニ多額ノ損害賠償ヲ為ス可キ時ハ其多額ノ損害賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第五百壱条 敬慎ノ請願ノ許容セラレタル時ハ其裁判ヲ廃棄シテ双方ノ者ヲ其裁判ノ前ニアリシ所ト同一ノ景状ニ復セシメ而シテ其附託シタル金額ヲ還付シ且ツ其廃棄セラレタル裁判ニ拠リ収取シタル裁判言渡ノ物件ヲ還ス可シ
若シ裁判ノ相牴触シタルカ為メニ敬慎ノ請願ヲ許容シタル時ハ其敬慎ノ請願ヲ許容スル所ノ裁判ヲ以テ第一次ノ裁判ヲ其法式及ヒ要旨ニ従ヒ執行ス可キ旨ヲ命令ス可シ
第五百弐条 廃棄セラレタル裁判ヲ為セシ争訟ノ本案ハ敬慎ノ請願ヲ裁定シタル其裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
第五百三条 如何ナル者ト雖モ既ニ敬慎請願ノ方法ヲ以テ駁撃セラレタル裁判ニ対シ若シクハ敬慎ノ請願ヲ棄却シタル裁判ニ対シ若シクハ訴訟ノ本案ニ付キ為シタル裁判ニ対シ敬慎ノ請願ヲ以テ上訴スルコトヲ得ス若シ此規則ニ背キタル時ハ無効ニシテ且ツ損害賠償ノ言渡ヲ受ク可ク又然ノミナラス第一次ノ訟求ニ付キ職務ヲ行ヒシ上ニテ更ニ第二次ノ訟求ニ付キ職務ヲ行ヒタル代書人ニ対シテモ亦損害賠償ヲ言渡ス可キモノトス
第五百四条 相異ナリタル裁判所ニ於テ同一ノ訴訟人ノ間ニ同一ノ憑拠ニ依リ終審ニテ為シタル裁判ノ相牴触シタル時ハ上告ヲ為ス可キノ原由アリトス而シテ其訴ハ大審院ニ特別ノモノタル法律ニ従テ之ヲ為シ及ヒ之ヲ裁判ス可シ
○第三巻 裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴
第五百五条 左ノ場合ニ於テハ裁判官ニ対シテ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得可シ
第一 審理中若クハ裁判ノ時ニ当リテ行ヒタリト称言スル所ノ詐欺、詐害又ハ貪利ノアリタル時
第二 法律上ニ裁判官ニ対シテ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得可キ旨ヲ特ニ定メタル時
第三 法律上ニ損害賠償ノ罰款ヲ以テ裁判官ニ責任アリト定メタル時
第四 裁判ヲ為スノ否拒アリタル時
第五百六条 裁判官訴訟人ノ請願ニ答フルコトヲ否ミ又ハ裁判ヲ為シ得可キ景状ニ至リテ且ツ裁判ヲ為ス可キ順序ノモノタル訴訟ヲ裁判スルコトヲ怠リタル時ハ裁判ヲ為スヲ否拒シタルモノトス
第五百七条 裁判ヲ為スノ否拒ハ治安裁判官及ヒ商事裁判官ニ付テハ少クトモ三日ヲ隔テ又其他ノ裁判官ニ付テハ少クトモ八日ヲ隔テ書記ニ宛テ裁判官ニ送達シタル二回ノ請求書ヲ以テ之ヲ証明ス可シ但シ請求ヲ受ケタル各個ノ使吏ハ右ノ請求書ヲ送達ス可ク若シ然ラサル時ハ其職ヲ禁止セラル可シ
第五百八条 二回ノ請求ノ後ニ裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ為スコトヲ得可シ
第五百九条 治安裁判官ニ対シ、商事裁判所、始審裁判所ニ対シ又ハ此等ノ裁判所ノ職員中或者ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴及ヒ控訴裁判所又ハ重罪裁判所ノ裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴ハ其管轄ノ控訴裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
重罪裁判所、控訴裁判所又ハ此等ノ裁判所中ノ一局ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴ハ千八百四年五月十八日ノ法令第百一条ニ従ヒ高等法院ニ之ヲ申告ス可シ
第五百拾条 然レトモ凡ソ如何ナル裁判官ト雖モ其損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ申告スル裁判所ノ許可ヲ予メ得タルニ非サレハ之ニ対シテ損害賠償ヲ求ムルノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第五百拾壱条 之レカ為メニハ本人ノ署名シ又ハ公正ニシテ特別ナル代理委任状ヲ所持スル者ノ署名シタル請願書ヲ差出ス可シ但シ其代理委任状並ニ証明ノ為メノ証拠物ノアルニ於テハ其証拠物ヲ右ノ請願書ニ添ヘ置ク可ク若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
第五百拾弐条 裁判官ニ対シテ罵詈ノ語辞ヲ用フルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ本人ニ対シテ相当ノ罰金ヲ言渡シ又其代書人ニ対シテ相当ノ譴責又ハ停職ヲ言渡ス可シ
第五百拾三条 若シ請願ノ棄却セラレタル時ハ之ヲ為シタル本人ハ三百「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ヲ言渡サル可シ但シ相手方ニ損害ヲ被ムラシメタル時ハ其相手方ニ対スル損害ノ賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
第五百拾四条 其請願ノ許容セラレタル時ハ損害賠償ヲ為スノ求ヲ受ケタル裁判官ニ三日内ニ其請願書ヲ送達ス可シ而シテ其裁判官ハ八日内ニ其答弁書ヲ差出ス可キモノトス
其裁判官ハ該争訟ノ審理ヲ差控ユ可ク又然ノミナラス其損害賠償ヲ求ムル訴ノ確定裁判アルニ至ル迄ハ其訴ヲ為ス者又ハ直系ニ於ケル其血属親又ハ其配偶者ノ其裁判所ニ於テ為スコトアル可キ総テノ訴訟ノ審理ヲ差控ユ可シ若シ之ニ背ク時ハ裁判ノ効ナキモノトス
第五百拾五条 裁判官ニ対シ損害賠償ヲ求ムルノ訴ハ単純ナル証書ヲ以テ之ヲ審問席ニ申告シ而シテ其訴ヲ許容シタル局ヨリ更ニ他ノ局ニ於テ之ヲ裁判ス可ク若シ控訴裁判所ノ唯一局ノミナル時ハ其訴ノ裁判ヲ大審院ヨリ其最近ノ控訴裁判所ニ移送ス可シ
第五百拾六条 若シ原告人ノ其訴ヲ棄斥セラレタル時ハ三百「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ヲ言渡サル可シ但シ相手方ニ損害ヲ被ムラシメタル時ハ其相手方ニ対スル損害ノ賠償ト相触ルヽコトナカル可シ
○第五編 裁判ノ執行
○第壱巻 保証人ノ容受
第五百拾七条 保証人ヲ立ツ可キ旨ヲ命令スル裁判所ニハ其保証人ヲ呈出ス可キ期限ト之ヲ受諾シ又ハ抗争ス可キ期限トヲ定ム可シ
第五百拾八条 保証人ハ相手方ノ代書人アラサル時ハ其本人ニ送達シタル書面ヲ以テ之ヲ呈出ス可ク又相手方ノ代書人アル時ハ其代書人ニ送達シタル証書ヲ以テ之ヲ呈出ス可ク而シテ又其保証人ノ負債弁償ノ資力アル旨ヲ証明スル証券ヲ書記局ニ差出シタルコトヲ証スル証書ノ写ヲ亦共ニ送達ス可シ但シ法律上ニ保証人ノ負債弁償ノ資力アルコトヲ証券ヲ以テ証明スルニ及ハサル旨ヲ定メタル場合ハ格別ナリトス
第五百拾九条 相手方本人ハ書記局ニ至リテ其証券ヲ査視スルコトヲ得可ク若シ相手方本人ノ其保証人ヲ受諾スル時ハ単純ナル証書ヲ以テ其旨ヲ申述ス可シ但シ此場合若クハ相手方本人ノ定期内ニ抗争セサル場合ニ於テハ保証人書記局ニ其約務ヲ為ス可ク而シテ其約務ハ裁判ナクシテ之ヲ執行ス可キモノトシ又拘留ヲ為ス可キ場合ニ於テハ拘留ノ為メト雖モ之ヲ執行ス可キモノトス
第五百弐拾条 若シ相手方本人カ裁判書ニ定メタル期限内ニ保証人ニ付キ抗争シタル時ハ単純ナル証書ヲ以テ審問ヲ求ム可シ
第五百弐拾壱条 保証人容受ノ訴ハ請願書モナク又書面モナク簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁判ス可シ但シ其裁判ハ控訴ニ拘ハラス之ヲ執行ス可キモノトス
第五百弐拾弐条 保証人ノ許容セラレタル時ハ其保証人前第五百十九条ニ従ヒ其約務ヲ為ス可シ
○第弐巻 損害賠償ノ算定
第五百弐拾三条 若シ上等裁判所ノ裁判又ハ下等裁判所ノ裁判ニ損害賠償ノ額ヲ定メサル時ハ被告人ノ代書人ヲ撰定シタルニ於テハ其代書人ニ損害賠償高ノ申述書ヲ送達シ而シテ其証拠物ヲ代書人ノ受取証書ト引換ヘニテ通知伝観セシメ又ハ書記局ヲ経由シテ通知伝観セシム可シ
第五百弐拾四条 被告人ハ第九十七条及ヒ第九十八条ニ定メタル期限内ニ右ノ証拠物ヲ還付ス可ク若シ還付セサル時ハ右二条ニ記シタル罰ヲ受ク可シ而シテ又被告人ハ右期限ノ終リシ後八日内ニ損害賠償ノ為メニ相当ナリト思考スル所ノ金額ヲ原告人ニ渡サント供陳ス可ク若シ然ラサル時ハ其訴訟ヲ単純ナル証書ヲ以テ審問席ニ申告シ而シテ原告人ノ申述カ正当ニシテ且ツ確証アル時ハ被告人其申述ノ金額ヲ弁済スルノ言渡ヲ受ク可シ
第五百弐拾五条 若シ原告人ノ抗争セシ被告人ノ供陳高カ充分ナリト裁判セラレタル時ハ原告人其供陳ノ日ヨリ訴訟費額ヲ負担ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
○第三巻 果実ノ算定
第五百弐拾六条 果実ヲ返還ス可キノ言渡ヲ受クル者ハ後ニ記スル所ノ方法ヲ以テ其計算書ヲ差出ス可ク而シテ裁判上ニテ差出シタル其他ノ計算書ニ於ケルカ如ク之ヲ処分ス可シ
○第四巻 計算書ノ差出
第五百弐拾七条 裁判上ニテ委任セラレタル会計者ハ之ヲ委任シタル裁判官ノ面前ニ訴ヘラレ、後見人ハ其後見ヲ任セラレタル地ノ裁判官ノ面前ニ訴ヘラレ、総テ其他ノ会計者ハ其住所ノ裁判官ノ面前ニ訴ヘラル可シ
第五百弐拾八条 計算書差出ノ訟求ヲ棄却シタル裁判ヲ控訴シタル場合ニ於テハ否認ノ裁判ヲ以テ計算書ノ差出及ヒ裁判ノ為メ嘗テ右ノ訟求ヲ為セシ裁判所ニ移送ス可ク又ハ某否認ノ裁判ニ指示スル所ノ総テ其他ノ始審裁判所ニ移送ス可シ
若シ又始審ニ於テ計算書ヲ差出シテ之ヲ裁判シタル時ハ否認裁判ノ執行ハ其裁判ヲ為シタル控訴裁判所ニ属シ又ハ其控訴裁判所ヨリ右ノ裁判ヲ以テ指示シタル他ノ裁判所ニ属ス可シ
第五百弐拾九条 同一ノ利益ヲ有スル計算書収受人ハ代書人一名ノミヲ撰任ス可ク若シ其撰任ニ付キ合同セサル時ハ最先任ノ者ニ於テ職務ヲ行フ可シ然レトモ計算書収受人数名ハ各々代書人一名ヲ撰定スルコトヲ得可シト雖モ其己レ一個ノ撰定ニ依リ生シタル費用並ニ能働上ト所働上トニテ為シタル費用ハ其計算書収受人之ヲ負担ス可キモノトス
第五百三拾条 計算書ヲ差出ス可キ旨ヲ言渡ス総テノ裁判書ニハ其計算書ヲ差出ス可キ期限ヲ定メテ裁判官一名ヲ委任ス可シ
第五百三拾壱条 若シ計算書ノ前書ニ其計算書差出人ヲ委任シタル証書又ハ裁判書ト其計算ヲ命令シタル裁判書トノ記載ヲ包含シテ六葉ニ過クル時ハ其六葉ニ過キタル部分ハ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可カラサルモノトス
第五百三拾弐条 計算書差出人ハ旅費ノアリタルニ於テハ其旅費、計算ノ証拠物ヲ整備シタル代書人ノ手数料、計算書ノ大字ノ副本及ヒ写ノ費用並ニ計算書ヲ呈出シテ之ヲ確言スルノ費用ノミヲ共通ノ費額トシテ用フ可キモノトス
第五百三拾三条 計算書ニハ現実ノ収受及ヒ費用ヲ記シ其末ニ右収受及ヒ費用ノ差引高ノ要略ヲ記ス可シ但シ他ヨリ取戻ス可キ諸件ハ別章ヲ設ケテ記ス可キモノトス
第五百三拾四条 計算書差出人ハ定マリタル期限内ニ委員裁判官ノ指示シタル日ニ至リ計算書収受人立会ノ上又其計算書収受人ノ代書人ナキ時ハ本人又ハ住所ニ之ヲ招喚シ又代書人ヲ撰定シタル時ハ代書人ノ証書ヲ以テ之ヲ招喚シタル上己レ自カラ其計算書ヲ呈出シテ之ヲ確言シ又ハ特別ナル代理人ヲシテ其計算書ヲ呈出シテ之ヲ確言セシム可シ
其期限ヲ過クル時ハ計算書差出人ハ裁判所ノ裁断スル金額ニ充ツル迄其財産ノ差押及ヒ売払ニ依テ其計算書ヲ呈出スルコトニ強制セラル可ク又然ノミナラス裁判所ニ於テ相当ナリト思フ時ハ拘留ヲ以テ其計算書ヲ呈出スルコトニ強制スルヲ得可シ
第五百三拾五条 計算書ヲ呈出シ及ヒ確言シタル上ニテ若シ収受ノ高カ費用ノ高ニ過クル時ハ計算書収受人其計算書ヲ認諾スルコトナクシテ右超過額ノ執行命令書ヲ得ント委員裁判官ニ請求スルコトヲ得可シ
第五百三拾六条 計算書ノ呈出及ヒ確言ノ後其計算書ヲ計算書収受人ノ代書人ニ送達シ又証明ノ為メノ証拠物ハ計算書差出人ノ代書人之ニ記号ヲ附シ且ツ花押ヲ為ス可シ若シ又受取証書ニ引換ヘテ右ノ証拠物ヲ通報伝観セシメタル時ハ委員裁判官ノ定メタル期限内ニ之ヲ返ス可ク若シ之ヲ返サヽル時ハ第百七条ニ記シタル罰ヲ受ク可シ
若シ計算書収受人数名ノ互ニ相異リタル代書人ヲ撰定シ而シテ其各収受人ノ皆同一ノ利害ヲ有スル時ハ右ノ写及ヒ通知伝観セシム可キ証拠物ヲ最先任ノ代書人ノミニ送付ス可ク若シ其各収受人ノ互ニ相異ナリタル利害ヲ有スル時ハ各個ノ代書人ニ之ヲ送付ス可シ
若シ参渉スル所ノ債主数名アル時ハ其数名ハ其撰定シタル代書人中最先任ノ者ヲ経由シテ計算書並ニ証明ノ為メノ証拠物ノ通知伝観ヲ相合同シテ唯一回受ク可キノミトス
第五百三拾七条 計算書証明ノ為メノ証拠物トシテ差出シタル品物供給者、職工、学塾ノ主長及ヒ其他之ト同性質ノモノタル各人ノ受取証書ハ簿冊登記税ヲ免除セラルヽモノトス
第五百三拾八条 委員裁判官ノ指示シタル日時ニ至リ双方ノ者ハ弁論、維持及ヒ答弁ヲ為ス為メ委員裁判官ノ面前ニ出席シ而シテ委員裁判官ハ之ヲ其調書ニ記ス可シ若シ双方ノ者ノ出席セサル時ハ単純ナル証書ヲ以テ其訴ヲ審問席ニ申告ス可キモノトス
第五百三拾九条 若シ双方ノ者カ合同セサル時ハ委員裁判官ヨリ其指示スル所ノ日ニ於テ審問席ニ報告ヲ為ス可キ旨ヲ命令ス可シ但シ双方ノ者ハ別ニ呼出ナクシテ其審問席ニ出ツ可キモノトス
第五百四拾条 計算書ノ訴訟ニ付キ為ス所ノ裁判書ニハ収受高及ヒ費用高ノ算計ヲ記シ且ツ計算ノ残額アルニ於テハ其明確ナル残額ヲ定ム可シ
第五百四拾壱条 如何ナル計算書タリトモ之レカ改正ヲ為ス可カラス但シ双方ノ者ハ若シ錯誤、遺脱、偽造又ハ重複ノアリタルニ於テハ同一ノ裁判官ノ面前ニ其改正ノ訟求ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第五百四拾弐条 若シ計算書収受人ノ缺席シタル時ハ委員裁判官其指示シタル日ニ至リテ報告ヲ為ス可シ而シテ其箇条ノ証明セラレタル時ハ之ヲ認可ス可ク若シ計算書差出人ノ残額負債者タルニ於テハ利息ナクシテ其元資ヲ保ツ可シ而シテ又後見ノ計算ニ関セサル時ハ会計者ヨリ保証人ヲ立ツ可シ但シ会計者ノ附託スルコトヲ欲シタル時ハ格別ナリトス
○第五巻 費額及ヒ費用ノ算定
第五百四拾三条 費額及ヒ費用ノ算定ハ簡略事件ニ於テハ其費額及ヒ費用ヲ裁可スル所ノ裁判書ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第五百四拾四条 其他ノ事件ニ於テ費額及ヒ費用ノ算定ヲ為スノ方法ハ一箇又ハ数箇ノ公ケノ行政規則ヲ以テ之ヲ定ム可シ但シ其行政規則ハ此法典ト同日ニ施行ス可キモノニシテ且ツ遅クトモ三年ノ後ニ其為ス可シト思ハルヽ更改ヲ加ヘ法律ノ体裁ニ為シテ之ヲ立法議院ニ呈出ス可キモノトス
○第六巻 裁判書及ヒ証書ノ強逼ノ執行ニ付テノ総則
第五百四拾五条 如何ナル裁判書又ハ証書ト雖モ第百四十六条ニ記シタル如ク法律ニ同シキ首文ヲ記シ且ツ其末文ニ司法官吏ヘノ命令ヲ記シタルニ非サレハ之ヲ執行ニ附スルコトヲ得ス
第五百四拾六条 外国ノ裁判所ニ於テ為シタル裁判書及ヒ外国役員ノ作リタル証書ハ民法第二千百二十三条及ヒ第二千百二十八条ニ定メタル方法ト場合トニ非サレハ仏蘭西ニ於テ執行ヲ受クルコトヲ得サルモノトス
第五百四拾七条 仏蘭西ニ於テ為シタル裁判書及ヒ仏蘭西ニ於テ作リタル証書ハ其裁判書ヲ為シタル裁判所ノ管轄地外又ハ其証書ヲ作リタル地ヲ管轄スル裁判所ノ管轄地外ニ於テ其執行ヲ為ス時ト雖モ検署ナク又遵行ノ命令ナクシテ王国(共和国)ノ全部ニ於テ之ヲ執行ス可キモノトス
第五百四拾八条 第三ノ人ノ為シ又ハ第三ノ人ノ負任ニ於テ為ス可キ故障ノ解除、書入質記入ノ塗抹、弁済、又ハ或ル其他ノ事ヲ宣告スル裁判ハ其裁判言渡ヲ受ケタル者ノ住所ニ為セシ裁判書送達ノ日附ヲ記シタル訟求者ノ代書人ノ保証書ト其裁判ニ対シテ故障ノ申立モ又控訴モ存在セサル旨ヲ証明スル書記ノ立証書トニ拠ルニ非サレハ仮令故障申立ノ期限又ハ控訴期限ノ後ト雖モ第三ノ人ニ於テ之ヲ執行ス可カラス又第三ノ人ニ対シテ之ヲ執行ス可カラサルモノトス
第五百四拾九条 之レカ為メ控訴者ノ代書人ハ第百六十三条ニ定メタル法式ヲ以テ同条ニ記シタル簿冊ニ其控訴ノ旨ヲ記載ス可シ
第五百五拾条 右ノ簿冊上ニ故障ノ申立モ又控訴モ存在セサル旨ノ保証書ニ拠リ争訟アル物ノ受託者、書入質保存人及ヒ総テ其他ノ者ハ裁判ヲ履行ス可キモノトス
第五百五拾壱条 一箇ノ執行ス可キ証券ニ拠リ且ツ確実ニシテ特定ナル事物ノ為メニ非サレハ如何ナル動産又ハ不動産ノ差押タリトモ之ヲ為ス可カラス若シ又償還ヲ要求スルヲ得可キ負債カ金額ニ非サル時ハ差押ノ後其見積ヲ為スニ至ル迄ハ総テ其後ノ要求ノ手続ヲ停止ス可シ
第五百五拾弐条 算定ヲ為シ得可キ諸件ニ付テノ拘留ハ金額ヲ以テ其算定ヲ為シタル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
第五百五拾三条 商事裁判所ノ裁判執行ニ付キ起リタル争訟ハ其執行ヲ求ムル地ノ始審裁判所ニ申告ス可シ
第五百五拾四条 若シ裁判又ハ証書ノ執行ニ付キ起リタル紛争カ急速ナルヲ要スル時ハ其地ノ裁判所ニ於テ仮リニ之ヲ裁定シ而シテ其本案ノ裁定ヲ執行ノ裁判所ニ移送ス可シ
第五百五拾五条 職務ノ執行ニ於テ侮辱セラレタル役員ハ抗命ノ調書ヲ作リテ治罪法ニ定メタル規則ニ従ヒ之ヲ処分ス可シ
第五百五拾六条 証書又ハ裁判書ヲ使吏ニ交付シタル時ハ不動産差押及ヒ拘留ヲ除クノ外総テ其他ノ執行ノ為メノ権力ヲ附与シタルニ等シキ効力アリトス但シ不動産差押及ヒ拘留ニ付テハ特別ノ権力アルコトヲ必要トス
第七巻 払渡差押即チ払渡差止
第五百五拾七条 各債主ハ公正又ハ私シノ証券ニ拠リ其負債者ニ属スル金額及ヒ品物ノ払渡ヲ第三ノ人ノ手裏ニ差押ヘ又ハ其交付ヲ差止ムルコトヲ得可シ
第五百五拾八条 若シ証券ノアラサル時ハ負債者ノ住所ノ裁判官又然ノミナラス差押ヘラレタル第三ノ人ノ住所ノ裁判官ハ請願書ニ依リ払渡差押即チ払渡差止ヲ許ルスコトヲ得可シ
第五百五拾九条 凡ソ一箇ノ証券ニ拠リ作リタル払渡差押即チ払渡差止ノ送達状ニハ其証券ト其払渡差押即チ払渡差止ヲ為スノ原由タル金額トヲ表示ス可シ若シ又裁判官ノ許ニ拠リ右ノ送達状ヲ作リタル時ハ其命令書ニ払渡差押即チ払渡差止ヲ為スノ原由タル金額ヲ表示シ而シテ其送達状ノ初メニ右命令書ノ写ヲ附記ス可キモノトス
若シ払渡差押ノ許ヲ得ント求ムルノ原由タル債権カ確実ナラサル時ハ裁判官其仮リノ見積ヲ為ス可シ
其送達状ニハ若シ差押人カ差押ヘラレタル第三ノ人ノ居在スル地ニ居ラサル時ハ其地ニ住所ヲ撰定シタル旨ヲモ亦記載ス可シ但シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス
第五百六拾条 大陸ノ仏蘭西ニ居在セサル各人ノ手裏ニ於ケル払渡差押即チ払渡差止ハ検事ノ住所ニ之ヲ為スコトヲ得ス必ス之ヲ本人又ハ住所ニ送達ス可シ
第五百六拾壱条 公ケノ金庫又ハ公金ノ収受役、受託者又ハ管理人ノ手裏ニ此等ノ分限ヲ以テ為シタル払渡差押即チ払渡差止ハ其送達状ヲ収受スル為メニ委任セラレタル人ニ其送達状ヲ送付シ且ツ其人ノ右送達状ノ正本ニ検署シ若シ又否拒ノ場合ニ於テハ検事ノ之ニ検署シタルニ非サレハ有効ノモノトセス
第五百六拾弐条 払渡差押書即チ払渡差止書ニ署名シタル使吏ハ若シ其求ヲ受ケタルニ於テハ其差押ヲ為スノ権力ヲ附与セラレシ時期ニ当リテ差押人ノ生存シタル旨ヲ証明ス可シ若シ之ヲ証明セサル時ハ其職ヲ禁止セラレ且ツ相手方ニ損害賠償ヲ為ス可キモノトス
第五百六拾三条 払渡差押即チ払渡差止ヨリ八日ノ定期ニ差押ヘラレタル第三ノ人ノ住所ト差押人ノ住所トノ間ニ三「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日及ヒ差押人ノ住所ト差押ヘラレタル負債者ノ住所トノ間ニ三「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加ヘタル期限内ニ差押人ハ其払渡差押即チ払渡差止ヲ其差押ヘラレタル負債者ニ通報シ且ツ其払渡差押即チ払渡差止ノ有効ナル旨ヲ求ムル訴ノ席ニ之ヲ呼出ス可シ
第五百六拾四条 有効ナル旨ヲ求ムル訴ノ日ヨリ起算シテ右ニ同シキ定期ニ住所ノ距離ニ依レル日数ヲ加ヘタル期限内ニ其訴ヲ差押人ノ請願ニ依リ差押ヘラレタル第三ノ人ニ通報スヘシ但シ其差押ヘラレタル第三ノ人ハ己レニ其通報ヲ受ケサル前ハ如何ナル申述ヲモ為スニ及ハス
第五百六拾五条 若シ其有効ナル旨ヲ求ムルノ訴ヲ為サヽル時ハ差押即チ差止ハ無効タル可ク若シ又其訴ヲ差押ヘラレタル第三ノ人ニ通報セサル時ハ其通報ニ至ル迄差押ヘラレタル第三ノ人ノ為セシ弁済ハ有効ノモノトス
第五百六拾六条 如何ナル場合ニ於テモ有効ナル旨ヲ求ムルノ訴ヲ為ス前ニ勧解ノ為メノ呼出ヲ為スコトヲ必要トセス
第五百六拾七条 有効ナル旨ヲ求ムルノ訴及ヒ差押ヘラレタル者ヨリ為ス所ノ差押解除ノ訴ハ其差押ヘラレタル者ノ住所ノ裁判所ニ申告ス可シ
第五百六拾八条 差押ヘラレタル第三ノ人ハ公正ノ証券又ハ其払渡差押即チ払渡差止ヲ有効ナリト宣告スル裁判書ノアラサル時ハ申述ノ為メ之ヲ呼出スコトヲ得ス
第五百六拾九条 第五百六十一条ニ記シタル官吏ハ申述ノ為メニ之ヲ呼出ス可カラス然レトモ其官吏ハ差押ヘラレタル者ニ対シテ負担シタルモノアル旨ヲ証明シ且ツ其金額ノ確実ナルニ於テハ之ヲ表示スル保証書ヲ交付ス可シ
第五百七拾条 差押ヘラレタル第三ノ人ハ予メ勧解ノ為メニ呼出サルヽコトナク其差押ヲ裁定ス可キ裁判所ニ呼出サル可シ但シ其差押ヘラレタル第三ノ人ハ若シ自己ノ申述ヲ抗争セラルヽ時ハ自己ノ裁判官ノ面前ニ移送セラルヽコトヲ求ムルヲ得可キモノトス
第五百七拾壱条 差押ヘラレタル第三ノ人ノ呼出ヲ受ケタル時若シ其地ニ在ルニ於テハ書記局ニ至リテ申述ヲ為シ且ツ之ヲ確言ス可ク若シ然ラサル時ハ自己ノ住所ノ治安裁判官ノ面前ニ於テ申述ヲ為シ且ツ之ヲ確言ス可シ但シ其治安裁判官ノ面前ニ於テ確言ヲ為シタル場合ニ於テハ更ニ再ヒ書記局ニ至リテ其確言ヲ為スヲ要セス
第五百七拾弐条 其申述及ヒ確言ハ特別ノ代理人ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得可シ
第五百七拾三条 其申述書ニハ負債ノ原由及ヒ其額ト若シ内金ノ弁済ヲ為シタル時ハ其弁済ヲ表示シ若シ又差押ヘラレタル第三ノ人カ最早負債者タラサル時ハ其釈免ノ証書又ハ原由ヲ表示シ且ツ如何ナル場合ニ於テモ自己ノ手裏ニ受ケタル払渡差押即チ払渡差止ヲ表示ス可シ
第五百七拾四条 其申述ヲ証明スル為メノ証拠物ハ其申述書ニ添ヘ置ク可シ而シテ其諸件ヲ書記局ニ附託シ代書人撰定ノ旨ヲ記スル唯一箇ノ証書ヲ以テ其附託ノ証書ヲ送達ス可キモノトス
第五百七拾五条 若シ更ニ新タナル払渡差押即チ払渡差止ノアリタル時ハ其差押ヘラレタル第三ノ人ハ其差押人ノ姓名及ヒ住所ノ撰定ト其払渡差押即チ払渡差止ノ原由トヲ記シタル抜書ヲ以テ其新タナル払渡差押即チ払渡差止ヲ初メノ差押人ノ代書人ニ通報ス可シ
第五百七拾六条 若シ其申述ヲ抗争セラレサル時ハ差押ヘラレタル第三ノ人ノ方ニ於テモ又其第三ノ人ニ対シテモ別ニ其他ノ訴訟手続ヲ為スコトナカル可シ
第五百七拾七条 差押ヘラレタル第三ノ人ノ其申述ヲ為サス又ハ前数条ニ定メタル証明ヲ為サヽル時ハ差押ノ原由ノ単純ナル負債者ナリト宣告セラル可シ
第五百七拾八条 若シ動産ニ付キ払渡差押即チ払渡差止ヲ為シタル時ハ差押ヘラレタル第三ノ人ハ其申述書ニ右動産ノ詳細ナル目録ヲ添ユ可シ
第五百七拾九条 払渡差押即チ払渡差止ノ有効ナリト宣告セラルヽ時ハ割合ヲ以テスル分配ノ巻ニ記シタル如ク売払及ヒ代金ノ分配ニ取掛ル可シ
第五百八拾条 国ニ於テ負担スル所ノ俸給及ヒ定期払渡金ハ法律又ハ国王ノ命令書ニ定メタル部分ノミニ非サレハ之ヲ差押ユルコトヲ得ス
第五百八拾壱条 左ノ諸件ハ差押ユ可カラサルモノトス
第一 法律上ニ差押ユ可カラスト定メタル物件
第二 裁判上ニテ裁可セラレタル養資
第三 遺嘱者又ハ贈与者ノ差押ユ可カラサル旨ヲ定メタル其処分スルコトヲ得可キ金額及ヒ物件
第四 遺嘱書又ハ贈与ノ証書ニ差押ユ可カラサル旨ヲ定メサル時ト雖トモ養料ノ為メノ金額及ヒ定期払渡金
第五百八拾弐条 養資ハ養料ノ原由ノ為メニ非サレハ之ヲ差押ユルコトヲ得ス又前条ノ第三及ヒ第四ニ記シタル諸件ハ贈与ノ証書又ハ遺嘱ノ開始ノ後ノ債主ニ於テ之ヲ差押ユルコトヲ得可シ但シ其差押ヲ為スハ裁判官ノ許ニ拠リ且ツ裁判官ノ定メタル部分ノミニ限ルモノトス
○第八巻 動産差押
第五百八拾三条 凡ソ動産差押ヲ為スニハ其差押ヨリ少クトモ一日前ニ負債者自身又ハ其住所ニ予メ弁済ノ督促書ヲ送達ス可シ但シ其以前既ニ証券ヲ通知セサル時ハ右弁済ノ督促書ニ証券ノ通知ヲ記ス可キモノトス
第五百八拾四条 其弁済ノ督促書ニハ若シ債主ノ其執行ヲ為ス可キ邑内ニ居住セサル時ハ要求手続ノ終ニ至ル迄其邑内ニ住所ヲ撰定シタル旨ヲ記ス可シ而シテ負債者ハ其撰定シタル住所ニ総テノ書類送達ヲ為スコトヲ得可ク仮令現実ノ供陳ヲ為スノ書面及ヒ控訴状ト雖トモ其撰定シタル住所ニ送達スルコトヲ得可キモノトス
第五百八拾五条 使吏ハ双方本人又ハ自己ノ再従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ血属親又ハ姻属親ニアラス又其雇人ニアラサル成年ノ仏蘭西人タル証人二名ノ立会ヲ受ク可シ但シ使吏ハ調書ニ其証人ノ姓名、職業及ヒ居所ヲ表示シテ其証人ハ之レカ正本及ヒ写ニ署名ス可シ○要求ノ手続ヲ為ス者ハ差押ノ場所ニ在ルコトヲ得ス
第五百八拾六条 動産差押ノ調書ニ於テハ呼出状ノ法式ヲ遵守ス可シ但シ差押ヘラレタル者ノ居所ニ於テ差押ヲ為ス時ハ其調書ニ再度ノ弁済ノ督促ヲ記ス可キモノトス
第五百八拾七条 若シ入口ヲ閉チタル時又ハ入リ口ヲ開クコトヲ否拒シタル時ハ使吏其動産ヲ窃カニ運出スコトヲ防止スル為メ入リ口ニ監守人ヲ置クコトヲ得可シ而シテ使吏ハ呼出ナクシテ即時ニ治安裁判官ノ面前ニ至リ又其アラサル時ハ警部ノ面前ニ至リ又其アラサル各邑ニ於テハ邑長ノ面前ニ至リ又其アラサル時ハ副職ノ面前ニ至リ此等各員ノ面前ニ於テ入リ口ヲ開キ又然ノミナラス差押ヲ為スニ准シテ鎖閉シタル動産ヲ開ク可シ○其場所ニ出張スル所ノ役員ハ調書ヲ作ル可カラス唯使吏ノ調書ニ署名ス可シ但シ使吏ハ右ノ諸件ニ付キ唯一箇同一ノ調書ノミヲ作ルコトヲ得可キモノトス
第五百八拾八条 調書ニハ差押ヘタル物件ノ詳細ナル指定ヲ記ス可シ若シ商品ノアル時ハ其性質ニ従ヒ之ヲ秤権シ、度量シ又ハ測定ス可シ
第五百八拾九条 銀器ハ其員数ト性合ノ記号トヲ詳記シ且ツ之ヲ秤権ス可シ
第五百九拾条 若シ貨幣ノアル時ハ其各種貨幣ノ員数ト品質トヲ記載ス可ク而シテ使吏ハ附託ノ為メニ設定セラレタル場所ニ之ヲ附託ス可シ但シ差押人及ヒ差押ヘラレタル者並ニ払渡差止ヲ為ス者アル時ハ其者ニ於テ更ニ其他ノ受託者ヲ合意シテ定メタル時ハ格別ナリトス
第五百九拾壱条 若シ差押ヘラレタル者ノ不在ニシテ凡ソ如何ナルモノタリトモ一箇ノ房室又ハ動産ヲ開クコトヲ否拒スル者アル時ハ使吏ヨリ之レヲ開カント求ム可シ而シテ若シ書類ノアル時ハ使吏ヨリ開啓ノ為メニ招喚セラレタル役員ノ之ニ封印ヲ附ス可キ旨ヲ求ム可シ
第五百九拾弐条 左ノ諸件ハ差押ユルコトヲ得サルモノトス
第一 法律上ニ用方ニ依レル不動産ナリト定メタル物件
第二 差押ヘラレタル者ニ必要ナル臥床及ヒ其同居ノ子ノ臥床並ニ差押ヘラレタル者ノ着用スル衣服
第三 差押ヘラレタル者ノ撰択ニ任カセ三百「フランク」ノ金額ニ充ツル迄其者ノ職業ニ関スル書籍
第四 差押ヘラレタル者ノ撰択ニ任カセ右ニ同シキ金額ニ充ツル迄学芸ノ教授実施又ハ執行ニ用フル器械及ヒ器具
第五 軍規及ヒ等級ニ従ヒ軍人ノ軍装
第六 工作者ノ一身ノ業務ニ必要ナル器具
第七 差押ヘラレタル者及ヒ其家族ノ一月間ノ消費ニ必要ナル穀粉類及ヒ飲食雑品
第八 差押ヘラレタル者ノ撰択ニ任カセ牝牛一頭、牝羊三頭又ハ山羊二頭並ニ其獣類ノ一月間ノ寝藁及ヒ食料ノ為メニ必要ナル藁及ヒ穀類
第五百九拾三条 右ノ物件ハ如何ナル債権ノ為メト雖トモ之ヲ差押ユルコトヲ得スシテ仮令国ノ債権ノ為メト雖トモ之ヲ差押ユルコトヲ得サルモノトス然レトモ差押ヘラレタル者ニ供給シタル養料ノ為メ又ハ右諸物件ノ製造者或ハ売主ニ対シテ負担シタル金額又ハ右諸物件ヲ買入レ、製造シ、或ハ修繕スル為メニ金ヲ貸シタル者ニ対シテ負担シタル金額ノ為メ又ハ右ノ諸物件ヲ用ヒテ耕作シタル土地ノ借賃及ヒ収穫費ノ為メ又ハ右諸物件ノ附属シタル製造所、水車、風車、圧搾場、工作場ノ借賃及ヒ負債者自身ノ住居ニ用立ツ場所ノ借賃ノ為メニハ右ノ諸物件ヲ差押ユルコトヲ得可シ
前条ノ第二ニ明記シタル物件ハ如何ナル債権ノ為メニモ之ヲ差押ユルコトヲ得サルモノトス
第五百九拾四条 土地ノ収益ニ用フル獣類及ヒ器具ヲ差押ヘタル場合ニ於テハ治安裁判官差押人ノ求メニ依リ所有者及ヒ差押ヘラレタル者ノ申立ヲ聴キ又ハ之ヲ招喚シタル上ニテ其収益ニ付テノ管理者ヲ設置スルコトヲ得可シ
第五百九拾五条 調書ニハ売払ノ日ノ指示ヲ記ス可シ
第五百九拾六条 若シ差押ヘラレタル者ヨリ負債弁償ノ資力アル監守人ヲ申立テ而シテ其監守人ノ任意ニテ即時ニ其任ヲ承引スル時ハ使吏其監守人ヲ設置ス可シ
第五百九拾七条 若シ差押ヘラレタル者ヨリ負債弁償ノ資力アリテ且ツ必要ナル性質ヲ具フル監守人ヲ呈出セサル時ハ使吏ニ於テ監守人ヲ設置ス可シ
第五百九拾八条 差押人、其配偶者、再従兄弟ノ級ニ至ル迄ノ其血属親及ヒ姻属親並ニ差押人ノ雇人ハ監守人ニ設置スルコトヲ得ス然レトモ差押ヘラレタル者、其配偶者、其血属親、姻属親及ヒ雇人ハ自カラ承諾シ且ツ差押人モ亦承諾スルニ於テハ監守人ニ設置スルコトヲ得可シ
第五百九拾九条 調書ハ他所ニ至ルコトナクシテ之ヲ作リ而シテ監守人ハ其正本ト写トニ署名ス可ク若シ署名スルコトヲ知ラサル時ハ其旨ヲ記載ス可シ但シ其調書ノ写ヲ監守人ニ渡シ置ク可キモノトス
第六百条 強暴ニ依テ監守人ノ設置ヲ妨ケ又ハ差押ヘラレタル物品ヲ持去リ及ヒ詐取シタル者ハ治罪法ニ従ヒ其罪ヲ訴ヘラル可シ
第六百壱条 若シ本人ノ住所ニ於テ差押ヲ為シタル時ハ調書ノ正本ニ署名シタル各人其写ニ亦署名シテ即時ニ之ヲ本人ニ渡シ置ク可シ若シ本人不在ノ時ハ入リ口ヲ開クコトヲ否拒シタル場合ニ於テ之ヲ開カシム可キ邑長又ハ副職又ハ役員ニ調書ノ写ヲ交付ス可シ而シテ此等ノ各員ハ其正本ニ検署ス可キモノトス
第六百弐条 若シ差押ヘラレ者ノ住所外ニ於テ其不在ノ場所ニテ差押ヲ為シタル時ハ右ノ写ヲ其日ノ中ニ差押ヘラレタル者ニ送付ス可ク而シテ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可シ若シ然ラサル時ハ監守ノ費用及ヒ売払ノ為メノ期限ヲ其送付ノ日ヨリ起算ス可キモノトス
第六百三条 監守人ハ差押ヘラレタル物品ヲ使用スルコトヲ得ス又之ヲ賃貸シ或ハ貸渡スコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ監守ノ費用ヲ得可キノ権利ヲ失ヒ且ツ損害賠償ヲ為ス可キノ言渡ヲ受ク可シ但シ監守人ハ拘留ノ方法ヲ以テ損害賠償ヲ弁済スルニ強制セラル可キモノトス
第六百四条 若シ差押ヘラレタル物品ノ或ル利益又ハ入額ヲ生シタル時ハ監守人ヲシテ仮令拘留ノ方法ニ依ルモ之ヲ計算セシム可キモノトス
第六百五条 若シ或ル障碍ノ為メニ売払ヲ防止セラルヽニ非スシテ調書ニ指示シタル日ニ其売捌ヲ為サヽル時ハ監守人其義務ノ免除ヲ得ント求ムルコトヲ得可ク若シ又売払ヲ防止セラレタル場合ニ於テハ差押ノ時ヨリ二月ノ後ニ至リテ義務ノ免除ヲ求ムルコトヲ得可シ但シ差押人ハ更ニ他ノ監守人ヲ撰定セシム可キモノトス
第六百六条 其義務ノ免除ハ差押ノ地ノ裁判官ノ面前ニ至急審理ニ於ケル呼出ニ依リ差押人及ヒ差押ヘラレタル者ニ対シテ之ヲ求ム可ク若シ其義務免除ノ許サレタル時ハ各関係人ヲ招喚シタル上ニテ予メ其差押ヘラレタル物品ノ照査ヲ為ス可シ
第六百七条 差押ヘラレタル者ノ方ヨリ如何ナル異論ヲ為スニ拘ハラス手続ヲ継続スヘシ但シ其異論ニ付テハ至急審理ヲ以テ裁定ス可キモノトス
第六百八条 差押ヘラレタル物件又ハ其一部分ノ所有者ナリト称言スル者ハ其訳柄ヲ詳記シタル呼出ノ旨ト所有権ノ証拠ノ表示トヲ記シタル送達状ヲ監守人ニ送達シ且ツ差押人ト差押ヘラレタル者トニ之ヲ通報シテ其売払ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可ク若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス但シ其故障ノ申立ハ差押ノ地ノ裁判所ニ於テ簡略事件ニ於ケルカ如ク之ヲ裁定ス可シ
異論者ノ敗訴トナリタル時差押人ニ損害ヲ被ラシメタルニ於テハ其損害賠償ヲ言渡サル可シ
第六百九条 差押ヘラレタル者ノ債主ハ如何ナル原由ノ為メタリトモ仮令又家屋ノ貸賃ノ為メタリトモ其売払ノ代金ノミニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可ク其故障申立書ニハ之レカ原由ヲ記シ而シテ又故障申立人ノ其差押ヲ為シタル地ニ住所ヲ有セサル時ハ其地ニ住所ヲ撰定シタル旨ヲ記シテ之ヲ差押人ト使吏又ハ売払ヲ任セラレタル其他ノ役員トニ送達ス可シ若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ故障申立ノ効ナク且ツ別段ノ理由アル時ハ使吏ニ対シテ損害賠償ヲ言渡ス可キモノトス
第六百拾条 故障ヲ申立ツル債主ハ差押ヘラレタル者ニ対シテ裁判言渡ヲ得ル為メノ外如何ナル要求手続ヲモ為スコトヲ得ス又金額分配ノ時ニ於テ其債主ノ故障申立ノ原由ヲ討論スルコトノ外其債主ニ対シテ如何ナル要求手続ヲモ為ス可カラス
第六百拾壱条 若シ使吏ノ差押ヲ為ス為メニ出張シタル時既ニ差押ヲ為シタル者アリテ監守人ノ設置セラレタルヲ見出スニ於テハ更ニ再ヒ差押ヲ為スコトヲ得ス然レトモ其使吏ハ監守人ヨリ差出サシム可キノ権利アル調書ニ拠リ動産及ヒ物品ノ照査ヲ為スコトヲ得可ク而シテ其遺脱セラレタル物品ヲ差押ヘテ初メノ差押人ニ総テノ物件ヲ八日内ニ売払フ可キノ催促ヲ為ス可シ但シ其照査ノ調書ハ売払ノ代金ニ付テノ故障申立ニ等シキ効力アリトス
第六百拾弐条 若シ差押人ノ後ニ定メアル期限内ニ売払ハシメサル時ハ凡ソ執行ス可キ証券ヲ有スル各個ノ故障申立人ハ予メ差押人ニ催促ヲ為シタル上ニテ別ニ代替ニ於ケル訟求ヲ為スコトナク差押ノ調書ノ写ニ拠リ其差押ヘラレタル物品ノ照査ヲ為シ然ル後直チニ売払ニ取掛ラシムルコトヲ得可シ但シ其調書ノ写ハ監守人ヨリ之ヲ差出ス可キモノトス
第六百拾三条 負債者ニ差押ヲ通知スルト売払トノ間ニ少クトモ八日ノ猶予ヲ存ス可シ
第六百拾四条 若シ通知書ニ指示シタル日ヨリ更ニ他ノ日ニ於テ売払ヲ為ス時ハ差押ヘラレタル者ヲ一日ヲ隔テ招喚ス可シ但シ差胛ヘラレタル者ノ住所及ヒ物品ヲ売ル場所ノ距離ニ准シテ三「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス
第六百拾五条 故障申立人ハ招喚セラレサルモノトス
第六百拾六条 売払ノ前ニ為ス所ノ照査ノ調書ニハ差押ヘタル物品ノ表示ヲ記ス可カラス若シ遺脱シタル物品アル時ハ其物品ノミノ表示ヲ記ス可シ
第六百拾七条 売払ハ市場ノ通常ノ日時又ハ日曜日ニ最近ノ公ケノ市場ニ於テ之ヲ為ス可シ然レトモ裁判所ハ更ニ利益アル其他ノ場所ニ於テ物品ヲ売払フコトヲ許ルスヲ得可シ○如何ナル場合ニ於テモ売払ハ一日前ニ少クトモ四箇ノ貼附ヲ以テ之ヲ広告ス可シ但シ其一箇ハ物品所在ノ場所ニ之ヲ貼附シ他ノ一箇ハ邑庁ノ入リ口ニ之ヲ貼附シ第三ノモノハ其地ノ市場ニ貼附シ又其地ニ市場ノアラサルニ於テハ最近ノ市場ニ之ヲ貼附シ第四ノモノハ治安裁判所ノ聴訟席ノ入リ口ニ之ヲ貼附シ若シ又其売払ヲ市場或ハ物品所在ノ地ヨリ更ニ他ノ地ニ於テ為ス時ハ其売払ヲ為ス地ニ於テ第五ノ貼附書ヲ為ス可シ○右ノ外新聞紙アル都府ニ於テハ新聞紙ヲ以テ其売払ヲ広告ス可シ
第六百拾八条 貼附書ニハ売払ノ場所、日時及ヒ物件ノ性質ヲ指示ス可シ但シ別段ノ細目ヲ示サヽルモノトス
第六百拾九条 貼附ヲ為シタルコトハ送達状ヲ以テ之ヲ証明ス可シ但シ其送達状ニハ貼附書ノ印本一通ヲ添ユ可キモノトス
第六百弐拾条 十噸以下ノ容積ノモノタル海用ノ小船、艀船及ヒ其他ノ船並ニ河川用ノ渡船、小艇、小船及ヒ其他ノ船又ハ船ニ装置シ又ハ其他ノ方法ニテ装置シタル水車、風車及ヒ其他ノ動ク可キ建築物ニ関スル時ハ其所在ノ港、碇泊場又ハ波戸場ニ於テ其糶売入札ヲ為ス可ク而シテ前条ニ従ヒ少クトモ四箇ノ貼附書ヲ貼附シ且ツ三日間引続キ其物件所在ノ地ニ於テ三次ノ公告ヲ為ス可シ但シ其第一次ノ公告ハ差押ノ通知ヨリ少クトモ八日ノ後ニ非サレハ之ヲ為ス可カラサルモノトス○新聞紙ヲ印行スル都府ニ於テハ新聞紙ニ売払ノ広告ヲ記入スルコトヲ以テ右三次ノ公告ニ代ユ可シ但シ其広告ハ売払ノ前ノ一月間ニ三次繰返シテ為ス可キモノトス
第六百弐拾壱条 少クトモ三百「フランク」ノ価額アル銀器、指環及ヒ粧飾物ハ前ニ記シタル方法ヲ以テ貼附シタル貼附書及ヒ市場若クハ右物品所在ノ場所ニ於ケル三次ノ展示ノ後ニ非サレハ之ヲ売払フコトヲ得ス然レトモ凡ソ如何ナル場合ニ於テモ右ノ物件ハ銀器ニ関スル時ハ其現実ノ価額以下ニテ之ヲ売払フコトヲ得ス又指環及ヒ粧飾物ニ関スル時ハ技芸家ノ為シタル評価ノ価額以下ニテ之ヲ売払フコトヲ得サルモノトス
新聞紙ヲ印行スル都府ニ於テハ前条ニ記シタル如キ方法ヲ以テ三次ノ公告ニ代ユ可シ
第六百弐拾弐条 若シ差押ヘラレタル物品ノ価額カ差押及ヒ故障申立ノ原由ノ額ニ超過スル時ハ債権及ヒ費用ノ弁済ノ為メニ必要ナル金額ヲ供備スルニ足レル物件ノ売払ノミヲ為ス可シ
第六百弐拾三条 調書ニハ差押ヘラレタル者ノ立会ヒタル事又ハ出席セサル事ヲ証明ス可シ
第六百弐拾四条 糶売落札ハ最モ高価ニ買受ケントスル者ノ為メ現金払ニテ之ヲ為ス可シ若シ弁済ヲ為サヽルニ於テハ其物品ヲ右糶売落札人ノ過当ノ糶買ニテ即時ニ再ヒ売払フ可キモノトス
第六百弐拾五条 動産評価人及ヒ使吏ハ糶売落札ノ代金ヲ己レ自カラ担任ス可ク且ツ其調書ニ糶売落札人ノ姓名及ヒ住所ヲ記載ス可シ但シ右ノ各員ハ糶売落札人ヨリ其糶買代価以上ノ金額ヲ収受スルコトヲ得ス若シ之ヲ収受シタル時ハ貪利ノ刑ヲ受ク可シ
○第九巻 根ニ依テ地上ニ附着スル果実ノ差押
第六百弐拾六条 根ニ依テ地上ニ附着スル果実ノ差押ハ果実ノ成熟スル通常ノ時期ヨリ前六週内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ其差押ヲ為ス前一日ヲ隔テ弁済ノ督促書ヲ送達ス可キモノトス
第六百弐拾七条 差押ノ調書ニハ各箇ノ地所ノ指示、其面積、位置並ニ其横隣及ヒ裏隣少クトモ二箇及ヒ果実ノ性質ヲ記ス可シ
第六百弐拾八条 田野監守人ハ第五百九十八条ニ記シタル除斥中ニアラサルモノタルニ於テハ差押ノ監守人ニ設置セラル可ク若シ田野監守人ノ其地ニ在ラサルニ於テハ差押ノ書面ヲ之ニ送達ス可キモノトス而シテ又所在地ノ邑長ニモ差押ノ書面ノ写ヲ渡シ置キ其邑長ハ之レカ正本ニ検署ス可シ
若シ財産所在ノ邑カ相接シ又ハ相隣レル時ハ田野監守人ニ非サル監守人唯一名ヲ設置ス可シ然ル時ハ其収益地中首地ノ邑ノ邑長ニ於テ検署ヲ為ス可ク若シ其首地ノアラサル時ハ財産中多分ノ所在地タル邑ノ邑長ニ於テ検署ヲ為ス可シ
第六百弐拾九条 売払ハ之ヲ為スヨリ少クトモ八日前ニ差押ヘラレタル者ノ家屋ノ入リ口ト邑庁ノ入リ口若シ又邑庁ノアラサル時ハ官署ノ文書ヲ貼附スル場所ト其地ノ重立チタル市場若シ又其地ニ市場ノアラサルニ於テハ最近ノ市場ト治安裁判所ノ聴訟席ノ入リ口ニ貼附シタル貼附書ヲ以テ之ヲ広告ス可シ
第六百三拾条 其貼附書ニハ売払ノ日時、場所、差押ヘラレタル者及ヒ差押人ノ姓名及ヒ居所、地所面積ノ分量及ヒ各種ノ果実ノ性質、並ニ其果実所在ノ邑ヲ指定ス可シ但シ其他ノ事ハ之ヲ指定セサルモノトス
第六百三拾壱条 貼附書ヲ貼附シタルコトハ動産差押ノ巻ニ記シタル如クニ之ヲ証明ス可シ
第六百三拾弐条 売払ハ日曜日又ハ市場ノ日ニ之ヲ為ス可シ
第六百三拾三条 売払ハ差押ヘラレタル物件所在ノ地ニ於テ之ヲ為シ又ハ其物件中多分ノ所在地タル邑ノ公場ニ於テ之ヲ為スコトヲ得可シ
其売払ハ亦其地ノ市場ニ於テ之ヲ為シ又其地ニ市場ノアラサルニ於テハ最近ノ市場ニ於テ之ヲ為スコトヲ得可シ
第六百三拾四条 右ノ外動産差押ノ巻ニ定メタル法式ヲ遵守ス可キモノトス
第六百三拾五条 売払代金ノ分配ハ割合ヲ以テスル分配ノ巻ニ記スル如クニ之ヲ為ス可シ
○第拾巻 各個人民ノ為メニ設定シタル年金収受権ノ差押
第六百三拾六条 定マリタル元資ニ拠リ又ハ不動産ノ売払代金ノ為メ又ハ不動産譲渡ノ代金ノ為メ其他総テ有償又ハ無償ノ名義ニテ無期又ハ畢生間ニ設定シタル年金収受権ノ差押ハ執行ス可キ証券ニ拠ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス○其差押ヲ為スヨリ少クトモ一日前ニ其義務ヲ負ヒタル本人又ハ裁判言渡ヲ受ケタル本人自身又ハ其住所ニ予メ弁済ノ督促書ヲ送達ス可シ但シ其以前既ニ証券ヲ通知セサル時ハ右弁済ノ督促書ニ証券ノ通知ヲ記ス可キモノトス
第六百三拾七条 年金収受権ハ通常ノ法式ノ外ニ其年金収受権ヲ設定スル証券、年金ノ量額又元資アルニ於テハ其元資及ヒ差押人ノ債権ノ証券ト差押ヘラレタル者ノ姓名、職業、居所、売払ヲ訟求スル裁判所ニ附属スル代書人ノ家ニ於ケル住所ノ撰定並ニ右ノ裁判所ニ於テ申述ヲ為サシムル為メ差押ヘラレタル第三ノ人ノ呼出トヲ記スル送達状ヲ以テ其年金負債者ノ手裏ニ之ヲ差押ユ可シ
第六百三拾八条 差押ヘラレタル第三ノ人ノ履行セサル可カラサル法式ニ関スル第五百七十条、第五百七十一条、第五百七十二条、第五百七十三条、第五百七十四条、第五百七十五条、第五百七十六条ニ記シタル成規ハ年金ノ負債者ニ於テ之ヲ遵守ス可シ
若シ其負債者ノ申述ヲ為サヽル時又ハ遅延シテ之ヲ為シタル時又ハ命令セラレタル弁明ヲ為サヽル時ハ場合ニ従ヒ其釈免ヲ証明セサルカ為メニ年金ヲ用立ツ可キ旨ヲ言渡サレ又ハ其黙止ノ為メ若シクハ其申述ヲ為スコトヲ遅延シタルカ為メ若シクハ其遅延ニ依レル訴訟手続ノ為メニ生シタル損害ノ賠償ヲ言渡サル可シ
第六百三拾九条 大陸ノ仏蘭西ニ居在セサル各人ノ手裏ニ於ケル差押ハ本人又ハ住所ニ送達ス可ク而シテ其呼出ニ付テハ第七十三条ニ定メタル期限ヲ遵守ス可シ
第六百四拾条 差押ノ送達状ハ常ニ必ス分配ニ至ル迄ノ間ニ弁済期限ニ至リ又ハ其期限ニ至ル可キ賦金ノ払渡差押ニ等シキ効力アルモノトス
第六百四拾壱条 差押ヨリ三日ノ定期ニ年金負債者ノ住所ト差押人ノ住所トノ間ニ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日及ヒ差押人ノ住所ト差押ヘラレタル者ノ住所トノ間ニ於ケル距離ノ為メ右ト同一ノ猶予ヲ加ヘタル期限内ニ差押人ハ差押ヘラレタル者ニ其差押ヲ通報シ且ツ糶売箇条書公告ノ日ヲ其差押ヘラレタル者ニ通知ス可シ
若シ年金ノ負債者カ仏蘭西大陸以外ニ住所ヲ有スル時ハ通報ノ為メノ期限ハ差押ヘラレタル第三ノ人ノ呼出期限ノ満期トナリタル日ヨリ起算ス可キモノトス
第六百四拾弐条 第六百四十一条ニ規定シタル如キ距離ノ猶予ノ外、差押ヘラレタル者ニ通報ノ後早クトモ十日遅クトモ十五日内ニ差押人ハ売払ヲ訟求スル裁判所ノ書記局ニ糶売箇条書ヲ差出ス可シ但シ其箇条書ニハ差押人、差押ヘラレタル者及ヒ年金負債者ノ姓名、職業、居所、其年金ノ性質、其量額、元資アルニ於テハ其元資ノ量額、其年金収受権ヲ設定シタル証券ノ日附及ヒ表示若シ其証券ニ書入質ヲ記シ而シテ年金収受権ノ抵保ノ為メニ其書入質ヲ記入シタル時ハ其記入ノ表示並ニ訟求者ノ代書人ノ姓名及ヒ居所、糶売入札ノ要件、其見積リ代価及ヒ糶売箇条書公告ノ日ヲ記載ス可キモノトス
第六百四拾三条 糶売箇条書ヲ書記局ニ差出シタル後早クトモ十日遅クトモ二十日ノ後ニ其指示セラレタル日ニ至リ審問席ニ於テ其糶売箇条書ノ読上及ヒ公告ヲ為ス可シ但シ裁判所ハ訟求者ニ之レカ証書ヲ附与ス可キモノトス
第六百四拾四条 裁判所ハ糶売箇条書ニ記入シタル申立及ヒ意見ヲ直チニ裁定シテ糶売入札ヲ為ス可キ日時ヲ定ム可シ但シ其公告ト糶売入札トノ間ノ猶予ハ少クトモ十日多クトモ二十日ナリトス○其裁判ハ見積リ代価又ハ関係各人ノ申立ヲ記シタル末ニ記載ス可シ
第六百四拾五条 糶売箇条書公布ノ後糶売入札ヨリ少クトモ八日前ニ第六百四十二条ニ表示シタル参照件ノ外更ニ其糶売入札ノ日ヲ指示スル其糶売箇条書ノ抜書ヲ左ノ場所ニ貼附ス可シ
第一 差押ヘラレタル者ノ住所ノ入リ口
第二 年金負債者ノ住所ノ入リ口
第三 裁判所ノ表門
第四 売払ヲ訟求スル地ノ重ナル場所
第六百四拾六条 右ニ同シキ抜書ヲ同一ノ期限内ニ第六百九十六条ニ従ヒ裁判上ノ広告ヲ記スル為メニ指示セラレタル新聞紙ニ記入ス可シ
第六百四拾七条 貼附及ヒ新聞紙ノ記入ハ第六百九十八条及ヒ第六百九十九条ニ従テ之ヲ証明ス可ク又第六百九十七条及ヒ第七百条ニ定メタル場合ニ於テハ更ニ多数ノ貼附及ヒ新聞紙ノ記入ヲ訴訟費用ノ算定中ニ加フルコトヲ得可シ
第六百四拾八条 不動産差押ノ巻中第七百一条、第七百二条、第七百三条、第七百四条、第七百五条、第七百六条、第七百七条、第七百十一条、第七百十二条、第七百十三条、第七百十四条、第七百四十一条ニ定メタル規則及ヒ法式ハ年金収受権ノ糶売入札ニ付テモ之ヲ遵守ス可シ
第六百四拾九条 若シ糶売落札人ノ其糶売落札ノ約款ヲ執行セサル時ハ年金収受権ヲ其落札人ノ過当ノ糶買ニテ更ニ売払フ可ク而シテ第七百三十四条、第七百三十五条、第七百三十六条、第七百三十八条、第七百三十九条、第七百四十条ニ記シタル如クニ処分ス可シ○然レトモ更ニ為ス所ノ貼附ト再度ノ糶売入札トノ間ノ期限ハ少クトモ五日多クトモ十日タル可ク又第七百三十六条ニ定メタル通報ハ再度ノ糶売ノ日ヨリ少クトモ五日前ニ之ヲ為ス可シ
第六百五拾条 差押ヘラレタル者ハ糶売箇条書公告以前ノ訴訟手続ニ対シ無効ト為スノ憑拠ハ其公告ノ為メニ定メタル日ヨリ少クトモ一日前ニ之ヲ申立ツ可ク又公告以後ノ訴訟手続ニ対シ無効ト為スノ憑拠ハ糶売入札ヨリ少クトモ一日前ニ之ヲ申立ツ可ク若シ右ノ期限ヲ過クル時ハ失権ヲ受ク可シ○裁判所ニ於テハ代書人ノ単純ナル証書ニ拠テ之ヲ裁定ス可ク而シテ若シ其憑拠ノ棄却セラルヽ時ハ直チニ糶売箇条書ノ公告若クハ糶売入札ニ取掛ル可シ
第六百五拾壱条 各個人民ノ為メニ設定シタル年金収受権差押ノ事項ニ於ケル缺席裁判ハ上等裁判所ノ裁判タルト下等裁判所ノ裁判タルトヲ問ハス故障ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス○本案ニ於ケルト法式ニ於ケルトヲ問ハス無効ト為スノ憑拠ニ付キ又ハ其他ノ附帯ノ訴訟ニ付キ裁定ヲ為ス裁判ニシテ糶売箇条書公告以前ノ訴訟手続ニ関スルモノヽ控訴ハ代書人ニ送達シタル日又代書人ノアラサルニ於テハ現実ノモノタルト撰定ノモノタルトヲ問ハス本人又ハ住所ニ送達シタル日ヨリ起算シ八日ノ後ニ至リテ之ヲ為シタルニ於テハ無効ノモノト看做ス可シ而シテ又差押ヘラレタル者ハ始審ニ於テ呈出シタルモノヨリ更ニ他ノ憑拠ヲ控訴ニ於テ申立ツルコトヲ得ス
控訴状ハ代書人ノ住所ニ送達ス可ク若シ代書人ノアラサル時ハ被控訴者ノ現実又ハ撰定ノ住所ニ送達ス可シ○又其控訴状ハ右ト同時ニ裁判所ノ書記ニ送付シ書記ハ之ニ検署ス可シ○控訴状ニハ不服ノ申立ヲ表示ス可キモノトス
第六百五拾弐条 左ノ裁判ハ控訴ノ方法ヲ以テ駁撃スルコトヲ得ス
第一 附帯ノ訴訟ニ付キ裁定スルコトナクシテ糶売箇条書公告ノ証書ヲ附与シ又ハ糶売落札ヲ宣告スル所ノ裁判
第二 糶売箇条書公告以後ノ無効ニ付キ裁定スル所ノ裁判
第六百五拾三条 若シ債主二名ノ年金収受権ヲ差押ヘタル時ハ先キニ通報シタル者ニ於テ訟求ノ手続ヲ為ス可ク若シ同時ニ通報シタル時ハ最モ古キ証券ノ所持人ニ於テ訟求ノ手続ヲ為ス可ク若シ又其証券ノ日附ノ相同シキ時ハ最先任ノ代書人ニ於テ訟求ノ手続ヲ為ス可シ
第六百五拾四条 代金ノ分配ハ割合ヲ以テスル分配ノ巻ニ定メタル如クニ之ヲ為ス可シ然レトモ第七年「ブリユメイル」月十一日(千七百九十八年十一月一日)ノ法律以前ニ設ケタル書入質ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
第六百五拾五条 第六百三十六条、第六百三十七条、第六百三十九条、第六百四十一条、第六百四十二条、第六百四十三条、第六百四十四条、第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十一条ニ定メタル法式ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
○第拾壱巻 割合ヲ以テスル分配
第六百五拾六条 若シ差押ヘラレタル金額又ハ売払代金ヲ以テ債主数名ニ弁済スルニ足ラサル時ハ差押ヘラレタル者及ヒ債主数名ハ一月内ニ割合ヲ以テスル分配ヲ合意ス可キモノトス
第六百五拾七条 若シ差押ヘラレタル者及ヒ債主数名ノ右ノ期限内ニ合同セサル時ハ売払ヲ為シタル役員ハ調書ノ細字ノ正本ニ裁判官ノ記シタル訴訟費用ノ算定ニ従ヒ自己ノ費用高ヲ引去リタル上ニテ売払ノ代金ヲ総テ故障申立ノ負任ヲ受ケタル侭ニテ次キノ八日内ニ附託ス可キモノトス但シ副本ニハ其訴訟費用ノ算定ヲ記載ス可シ
第六百五拾八条 書記局ニ於テハ其割合ノ簿冊ヲ設ケ置キ差押人ノ請求ニ依リ又其アラサルニ於テハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請求ニ依リ裁判所長ヨリ裁判官一名ヲ委任シタル旨ヲ記ス可シ但シ右ノ請求ハ其簿冊ニ記シタル単純ナル要略書ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス
第六百五拾九条 第六百五十六条及ヒ第六百五十七条ニ記シタル期限ノ終リシ後委員裁判官ノ命令ニ拠リ債主数名ハ証拠物ヲ差出ス可キノ催促ヲ受ケ又差押ヘラレタル者ハ其差出シタル証拠物ヲ査視シテ別段ノ理由アル時ハ抗弁ス可キノ催促ヲ受ク可シ
第六百六拾条 其催促ノ時ヨリ一月内ニ差押人ノ手裏若クハ売払ヲ為シタル役員ノ手裏ニ故障ヲ申立ツル各債主ハ其証券ト分配中ニ加ハラント求メ及ヒ代書人ヲ撰定シタル旨ノ証書トヲ委員裁判官ノ手裏ニ差出ス可ク若シ之ニ背ク時ハ漫期失権トナル可シ
第六百六拾壱条 右ノ証書ニハ先取特権ノ為メノ訟求ヲ記ス可シ然レトモ所有者ハ己レニ弁済ヲ受ク可キ貸賃ノ為メノ自己ノ先取特権ニ付キ予メ裁定セシムル為メ差押ヘラレタル者及ヒ最先任ノ代書人ヲ至急審理ニ於テ委員裁判官ノ面前ニ招喚スルコトヲ得可シ
第六百六拾弐条 訟求手続ノ費用ハ所有者ニ弁済ス可キ貸賃ノ為メノ債権ヲ除クノ外総テ其他ノ債権ヨリ前ニ先取特権ヲ以テ之ヲ先収ス可シ
第六百六拾三条 前ニ定メタル期限ノ終リシ後若シ又各債主ノ其証拠物ヲ差出セシ時ハ其以前ト雖モ委員裁判官ハ其調書ノ末ニ右差出シタル証拠物ニ拠レル分配ノ目録ヲ記載シ而シテ訟求ノ手続ヲ為ス者ハ調書ノ終成シタル旨ヲ嘗テ証拠物ヲ差出シタル各債主ト差押ヘラレタル者トニ代書人ノ証書ヲ以テ通報シ且ツ其調書ヲ査視シテ十五日内ニ委員裁判官ノ調書ニ其抗弁ノ旨ヲ記ス可キノ催促ヲ為ス可シ
第六百六拾四条 若シ各債主及ヒ差押ヘラレタル者ノ右ノ期限内ニ委員裁判官ノ手裏ニ於テ査視ヲ為サヽル時ハ此等ノ各人ハ更ニ新タナル催促ナク又裁判ナクシテ漫期失権トナル可シ但シ争論ス可キ時ニ非サレハ如何ナル申立ヲモ為ス可カラサルモノトス
第六百六拾五条 若シ争論ノアラサル時ハ委員裁判官其調書ヲ終成シテ金額ノ分配ヲ決定シ而シテ各債主ヲシテ其債権ノ真実ナル旨ヲ確言セシメタル上ニテ書記ヨリ其各債主ニ分配ヲ受ク可キノ命令書ヲ交付ス可キ旨ヲ命令ス可シ
第六百六拾六条 若シ紛争ノ生スル時ハ委員裁判官審問席ニ移送ス可シ但シ最モ先キニ手続ヲ為ス者ハ代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ニ拠リ別ニ其他ノ訴訟手続ナクシテ審問ヲ求ム可キモノトス
第六百六拾七条 争論スル債主、争論セラレタル債主、差押ヘラレタル者及ヒ故障申立人ノ最先任ノ代書人ノミヲ訴訟ニ参加セシム可ク訟求ノ手続ヲ為ス者ハ其手続ヲ為ス者タルノ分限ヲ以テ之ヲ招喚スルコトヲ得ス
第六百六拾八条 裁判ハ委員裁判官ノ報告ト検察官ノ意見申立トノ上ニテ之ヲ為ス可シ
第六百六拾九条 其裁判ノ控訴ハ代書人ヘノ送達ノ時ヨリ十日内ニ之ヲ為ス可ク其控訴状ハ代書人ノ住所ニ送達ス可シ但シ其控訴状ニハ呼出ノ旨ト不服申立ノ表示トヲ記シ而シテ簡略事件ニ於ケルカ如ク之ヲ裁定ス可キモノトス
右ノ控訴ニ於テハ第六百六十七条ニ指示シタル各人ニ非サレハ之ヲ招喚スルコトヲ得ス
第六百七拾条 控訴ノ為メニ定メタル期限ノ終リシ後又控訴ノ場合ニ於テハ代書人ノ住所ニ其控訴裁判所ノ裁判書ヲ送達シタル後委員裁判官ハ第六百六十五条ニ定メタル如ク其調書ヲ終成ス可シ
第六百七拾壱条 調書終成ノ時ヨリ八日ノ後ニ至リ書記ハ各債主ヲシテ自己ノ面前ニ於テ其債権ノ真実ナル旨ヲ確言セシメタル上ニテ分配ヲ受ク可キノ命令書ヲ其各債主ニ交付ス可シ
第六百七拾弐条 分配ニ於テ許容セラレタル金額ノ利息ハ若シ争論ノ生セサルニ於テハ分配ノ調書ヲ終成シタル日ヨリ止息シ若シ争論アル場合ニ於テハ其裁定ヲ為シタル裁判書送達ノ日ヨリ止息シ又控訴ノ場合ニ於テハ控訴ニ付テノ裁判書送達ノ時ヨリ十五日ノ後ニ至リテ止息ス可キモノトス
○第拾弐巻 不動産差押
第六百七拾三条 不動産差押ヲ為スニハ其以前本人又ハ住所ニ弁済ノ督促書ヲ送達ス可ク而シテ其証書ノ初メニ其不動産差押ヲ為スノ憑拠タル証券ノ全部ヲ写ス可キモノトス○其弁済ノ督促書ニハ若シ債主ノ其差押ヲ裁定ス可キ裁判所々在ノ地ニ居住セサルニ於テハ其地ニ住所ヲ撰定シタル旨ヲ記シ又其弁済ヲ為サヽルニ於テハ負債者ノ不動産差押ニ取掛ル可キ旨ヲ表示ス可シ但シ使吏ハ証人ノ立会ヲ受ク可カラスシテ其日ノ内ニ弁済ノ督促書ヲ送達シタル地ノ邑長ヲシテ之レカ正本ニ検署セシム可キモノトス
第六百七拾四条 不動産ノ差押ハ弁済督促ノ時ヨリ三十日ノ後ニアラサレハ之ヲ為スコトヲ得ス若シ又債主カ弁済ノ督促ト差押トノ間ニ九十日以上ヲ経過セシメタル時ハ前ニ定メタル法式ヲ以テ其期限内ニ更ニ再ヒ弁済ノ督促ヲ為ス可シ
第六百七拾五条 差押ノ調書ニハ総テノ送達状ニ共通ノモノタル総テノ法式ノ外更ニ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 差押ヲ為スノ憑拠タル執行ス可キ証券ノ表示
第二 差押ヘタル財産ニ使吏ノ出張シタル事ノ記載
第三 差押ヘタル財産ノ指示即チ其財産ノ家屋タル時ハ其所在ノ郡、邑、街、番号アルニ於テハ其番号又之ニ反シタル場合ニ於テハ横隣及ヒ裏隣ノ少クトモ二箇
若シ其財産ノ田野財産タル時ハ建造物ノアルニ於テハ其建造物ノ指定、各個ノ地所ノ性質及ヒ見積リ面積、賃借人又ハ分果耕作人ノアルニ於テハ其姓名並ニ右財産所在ノ郡及ヒ邑
第四 差押ヘタル諸件ニ付キ地税ノ納税人姓名表元帳ノ正本ニ違ハサル写
第五 差押ノ訟求ヲ申告スルノ裁判所ノ指示
第六 代書人ノ撰定」但シ差押人ノ住所ハ当然其代書人ノ家屋ニ撰定セラルヽモノトス
第六百七拾六条 差押ノ調書ハ簿冊登記ノ前ニ其差押ヘラレタル不動産所在ノ邑ノ邑長之ニ検署ス可ク若シ又差押カ数個ノ邑ニ在ル財産ヲ包含シタル時ハ各個ノ邑長右調書中ニテ自己ノ邑内ニ在ル財産ニ関スル部分ノ末ニ逐次検署ヲ為ス可シ
第六百七拾七条 不動産差押ハ調書終成ノ日ヨリ十五日内ニ其差押ヘラレタル者ニ之ヲ通報ス可シ但シ其差押ヘラレタル者ノ住所ト差押ノ訟求ヲ裁定ス可キ裁判所々在ノ地トノ間ニ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス○其正本ハ右通報ノ証書ヲ送達シタル地ノ邑長其日ノ内ニ之ニ検署ス可シ
第六百七拾八条 不動産差押及ヒ通報ノ送達状ハ其通報ノ日ヨリ遅クトモ十五日内ニ差押ヘラレタル物件中ニテ其郡内ニ在ル処ノ部分ニ付テハ其財産所在地ノ書入質役署ニ於テ特ニ設ケアル簿冊ニ之ヲ登記ス可シ
第六百七拾九条 若シ書入質保存人ノ差押ノ調書ヲ差出サレタル時直チニ之レカ登記ヲ為スコトヲ得サル時ハ其己レニ収受シタル正本ニ之ヲ受取リタル時、日、月ヲ記載ス可ク而シテ若シ同時ニ差出シタルモノアル時ハ先キニ差出シタル者ヲ登記ス可シ
第六百八拾条 若シ既ニ以前ノ差押アル時ハ保存人第二ノ差押ノ調書ノ端ニ其否拒ヲ証明ス可ク又保存人ハ以前ノ差押ノ日附、差押人及ヒ差押ヘラレタル者ノ姓名、居所、職業、其差押ノ訟求ヲ申告シタル裁判所ノ指示、差押人ノ代書人ノ姓名並ニ其登記ノ日附ヲ表示ス可シ
第六百八拾壱条 若シ差押ヘラレタル不動産カ賃貸セラレタルモノニ非サル時ハ差押ヘラレタル者其売払ニ至ル迄争訟アル物ノ裁判上ノ受託者トナリテ占有ヲ保存ス可シ但シ債主一名又ハ数名ノ求メニ依リ至急審理ニ於ケル命令書ノ法式ヲ以テ裁判所長ヨリ之ニ異ナリタル命令ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
然レトモ債主ハ右ニ同シキ法式ヲ以テ為シタル裁判所長ノ命令書ニ依リ許可セラレタル後、根ニ依テ地上ニ附着スル果実ノ全部又ハ一部ノ刈取及ヒ売払ヲ為サシムルコトヲ得可シ
其果実ハ裁判所長ノ定メタル期限内ニ糶売又ハ裁判所長ノ許可シタル総テ其他ノ方法ヲ以テ之ヲ売払フ可シ而シテ其代金ハ金額受託所ニ之ヲ附託ス可キモノトス
第六百八拾弐条 登記ノ後ニ収取シタル天然上及ヒ人工上ノ果実又ハ其果実ヨリ得タル代金ハ書入質ノ順序ヲ以テ不動産ノ代金ト共ニ分配スル為メ之ヲ不動産ト為ス可シ
第六百八拾三条 差押ヘラレタル者ハ樹木ノ採伐ヲモ又毀害ヲモ為スコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ拘留ノ方法ヲ以テ損害賠償ヲ為スニ強制セラル可シ但シ別段ノ理由アル時ハ刑法第四百条及ヒ第四百三十四条ニ記スル所ノ刑ト相触ルヽコトナカル可シ
第六百八拾四条 弁済ノ督促書ヨリ前ニ正確ナル日附ヲ得サリシ賃貸契約書ハ債主又ハ糶売落札人ノ求メニ依テ之ヲ取消スコトヲ得ヘシ
第六百八拾五条 家屋及ヒ土地ノ貸賃ハ書入質ノ順序ヲ以テ不動産ノ代金ト共ニ分配スル為メ差押ノ登記ノ時ヨリ之ヲ不動産ト為ス可シ○訟求ノ手続ヲ為ス者又ハ総テ其他ノ債主ノ求メニ依レル払渡差止ノ単純ナル証書ハ其土地賃借人及ヒ家屋賃借人ノ手裏ニ払渡差押ヲ為シタルニ等シキ効力アルモノトシ而シテ其土地賃借人及ヒ家屋賃借人ハ分配ヲ受ク可キ命令書ノ執行ニ依リ又ハ其家屋ノ借賃或ハ土地ノ借賃ヲ金額受託所ニ払納ムルニ依ルニ非サレハ釈免ヲ受クルコトヲ得ス但シ其借賃ノ払納ハ土地賃借人及ヒ家屋賃借人ノ請求ニ依リ又ハ債主ノ単純ナル催促ニ依リ之ヲ為ス可シ○若シ払渡差止ノアラサル時ハ負債者ニ為シタル弁済ハ有効ノモノタル可ク而シテ負債者ハ争ヒアル物ノ裁判上ノ受託者トシテ其収受セシ金額ヲ計算ス可キモノトス
第六百八拾六条 差押ヘラレタル者ハ差押ノ登記ノ日ヨリ後ハ其差押ヘラレタル不動産ノ所有権ヲ移転スルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ無効タル可ク而シテ其無効ヲ宣告セシムルヲ要セサルモノトス
第六百八拾七条 然レトモ若シ糶売入札ノ為メニ定メタル日ヨリ前ニ獲得者カ記入セラレタル各個ノ債主ト差押人トニ弁償ス可キモノヲ元金、利息及ヒ費用ニ於テ弁償スル為メニ充分ナル金額ヲ附託シ且ツ其附託ノ証書ヲ右各個ノ債主及ヒ差押人ニ送達スル時ハ前条ノ如クニ為シタル所有権移転ノ執行ヲ為ス可シ
第六百八拾八条 若シ右ノ如クニ附託シタル金額カ他ヨリ借受ケシモノタル時ハ其貸主ハ所有権移転ノ時ニ記入セラレタル債主ノ後ニ非サレハ書入質権ヲ有セサルモノトス
第六百八拾九条 糶売入札ノ前ニ附託ヲ為サヽル時ハ如何ナル口実アリトモ其附託ヲ為ス為メノ猶予ヲ許与スルコトヲ得ス
第六百九拾条 登記ノ後遅クトモ二十日内ニ訟求ノ手続ヲ為ス者ハ左ノ諸件ヲ記シタル糶売箇条書ヲ裁判所ノ書記局ニ差出ス可シ
第一 差押ヲ為スノ憑拠タル執行ス可キ証券、弁済ノ督促書、差押ノ調書並ニ其後ニ作リタル其他ノ証書及ヒ裁判書ノ表示
第二 調書ニ記入シタル如キ不動産ノ指定
第三 売払ノ要件
第四 訟求ノ手続ヲ為ス者ノ方ニ於ケル見積リ代価
第六百九拾壱条 書記局ニ差出セシ後遅クトモ八日ノ定期ニ差押ヘラレタル者ノ住所ト裁判所々在ノ地トノ間ニ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加ヘタル期限内ニ糶売箇条書ヲ査視シテ其申立及ヒ意見申述ヲ為ス可ク且ツ糶売箇条書ノ読上及ヒ公告並ニ糶売入札ノ日ノ決定ニ立会フ可キ旨ヲ差押ヘラレタル者自身又ハ住所ニ催促ス可シ○其催促状ニハ公告ノ日、場所及ヒ時ヲ指示ス可シ
第六百九拾弐条 右ニ同シキ八日ノ定期ニ五「ミリアメートル」毎ニ一日ヲ加ヘタル期限内ニ左ノ各人ニ右ニ同シキ催促ヲ為スヘシ
第一 差押ヘラレタル財産ニ付キ記入セラレタル各債主ヘハ其記入ニ於テ撰定シタル住所ニ右ノ催促ヲ為ス可シ○若シ其記入セラレタル債主中ニ差押ヘラレタル不動産売主ノアル時ハ其債主ヘノ催促ハ其撰定シタル住所ノアラアルニ於テハ其現実ノ住所ニ之ヲ為ス可シ但シ之レカ為メニハ其現実ノ住所ノ仏蘭西ニ定メアルコトヲ必要トス○其催促状ニハ若シ糶売入札ノ前ニ売買解除ノ訟求ヲ為シテ之ヲ書記局ニ通知セサルニ於テハ右ノ債主ハ糶売落札人ニ対シテ其解除ヲ宣告セシムルノ権利ヲ到底失フ可キ旨ヲ記ス可シ
第二 差押ヘラレタル者ノ婦、以前ノ所有者ノ婦、幼者又ハ治産禁ヲ受ケタル者ノ代後見人又ハ成年トナリタル幼者ニ右ノ催促ヲ為ス可シ但シ右ノ中何レノ場合ニ於テモ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ証券ニ従ヒ其訟求ノ手続ヲ為ス者ニ於テ婚姻及ヒ後見ノ事ヲ知リタル時ニ限ル○其催促状ニハ右ノ外其所有権ヲ収奪セラレタル不動産ニ付キ法律上ノ書入質ヲ保存スル為メニハ糶売落札ノ裁判書ヲ登記スル前ニ其書入質ヲ記入セシムルノ必要ナル旨ノ通知ヲ記スヘシ
右催促状ノ写ハ財産所在地ノ郡ノ検事ニ送付シ而シテ其検事ハ差押中ニ包含シタル財産ノミニ付キ差押ヘラレタル者ノ方ニ於テ存在スル法律上ノ書入質ノ記入ヲ求ム可キモノトス
第六百九拾三条 前二条ニ定メタル通知ノ記載ハ其最後ノ通知ノ送達状ノ日附ヨリ八日内ニ書入質役署ニ於ケル差押登記ノ端ニ之ヲ為ス可シ
右記載ノ日ヨリ後ハ記入セラレタル各債主ノ承諾ニ依リ又ハ其各債主ニ対シテ為シタル裁判ニ拠ルニ非サレハ最早差押ヲ塗抹スルコトヲ得ス
然レトモ若シ登記ノ時ヨリ十年内ニ訴訟法第七百十六条ニ従ヒ其登記ノ端ニ記載シタル糶売落札ノアラサル時ハ登記シタル不動産差押ハ其効ヲ生スルコトヲ当然止息スルモノトス
右最後ニ記シタル成規ハ宣令ノ時ヨリ六日ノ後ニ非サレハ執行ス可カラサルモノトス
第六百九拾四条 糶売箇条書ヲ差出シタル後早クトモ三十日遅クトモ四十日ニ其指示セラレタル日ニ至リ審問席ニ於テ其糶売箇条書ノ公告及ヒ読上ヲ為ス可シ
公告ノ時ヨリ遅クトモ三日前ニ訟求ノ手続ヲ為ス者、差押ヘラレタル者及ヒ記入セラレタル各債主ハ右箇条書中ニ更改ヲ加フルヲ以テ目的ト為ス申立及ヒ意見ヲ其見積リ代価ノ末ニ記入セシム可シ○右ノ期限ヲ過クル時ハ其各人ハ最早変更ヲ申立テ又ハ申立或ハ意見申述ヲ為スコトヲ許サス
第六百九拾五条 差押ヘラレタル者及ヒ各債主ニ送付シタル催促状ニ指示スル所ノ日ニ至リ裁判所ハ糶売箇条書ノ読上及ヒ公告ノ証書ヲ訟求ノ手続ヲ為ス者ニ附与シテ其糶売箇条書ニ記入シタル申立及ヒ意見申述ニ付キ裁定ヲ為シ且ツ糶売入札ニ取掛ル可キ日時ヲ定ム可シ○公告ト糶売入札トノ間ノ猶予期限ハ少クトモ三十日多クトモ六十日トス
其裁判ハ糶売箇条書中見積リ代価又ハ関係各人ノ申立ヲ記シタル末ニ之ヲ記載ス可シ
第六百九拾六条 糶売入札ノ前早クトモ四十日遅クトモ二十日ニ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ代書人ハ財産所在ノ州ニ於テ発行スル新聞紙ニ左ノ諸件ヲ記シタル抜書ヲ記入セシム可シ但シ其抜書ハ右代書人ノ署名ス可キモノトス
第一 其差押及ヒ其登記ノ日附
第二 差押ヘラレタル者、差押人及ヒ其差押人ノ代書人ノ姓名、職業、居所
第三 調書ニ記入シタル如キ不動産ノ指定
第四 見積リ代価
第五 差押ヲ訟求シタル裁判所及ヒ糶売入札ノ日、場所、時ノ指示
右ノ外其抜書ニハ法律上ノ書入質ノ為メ其名義ヲ以テ記入ヲ為スコトヲ得可キ各人ハ糶売落札ノ裁判ヲ登記スル前ニ其記入ヲ求ム可キ旨ヲ記載ス可シ
同一ノ差押ニ関スル総テ裁判上ノ広告ハ同一ノ新聞紙ニ記入ス可シ
第六百九拾七条 若シ前条ニ定メタル記入ニ拘ハラス訟求ノ手続ヲ為ス者、差押ヘラレタル者又ハ記入セラレタル債主中ノ一名カ右ノ外新聞紙ノ方法ヲ以テ糶売入札ノ広告ヲ為ス可シト思考スル時ハ其売払ヲ訟求シタル裁判所ノ長ニ於テ財産ノ重要ナルカ為メ其異常ノ記入ヲ許可セサル可カラスト思フニ於テハ其異常ノ記入ヲ許可スルコトヲ得可シ○其費用ハ右許可ノ附与セラレタル場合ニ非サレハ訴訟費用ノ算定中ニ加フ可カラス○裁判所長ノ命令ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得サルモノトス
第六百九拾八条 新聞紙ヘノ記入ハ前条ニ表示シタル抜書ヲ記スル所ノ新聞紙ノ印本ヲ以テ之ヲ証明ス可シ但シ其印本ニハ邑長ノ確的ナリト認メタル印刷人ノ署名ヲ載ス可キモノトス
第六百九拾九条 第六百九拾六条ニ定メタル所ノモノニ同シキ抜書ヲ同一ノ期限内ニ貼附書ノ体裁ニ印刷シテ之ヲ左ノ場所ニ貼附ス可シ
第一 差押ヘラレタル者ノ住所ノ入リ口
第二 差押ヘラレタル建築物ノ重ナル入リ口
第三 差押ヘラレタル者ノ住所アル邑ノ重ナル場所並ニ財産所在ノ邑ノ重ナル場所及ヒ売払ヲ訟求シタル裁判所々在ノ邑ノ重ナル場所
第四 差押ヘラレタル者ノ住所ノ邑庁ノ表門及ヒ財産所在ノ各邑邑庁ノ表門
第五 右各邑ノ重ナル市場ヲ開ク場所若シ又其アラサルニ於テハ本郡内ニテ最近ノ二箇ノ邑ノ重ナル市場ヲ開ク場所
第六 建造物所在地ノ治安裁判官ノ聴訟席ノ入リ口若シ建造物ノアラサル時ハ差押ヘラレタル財産中多分ノ所在地ノ治安裁判官ノ聴訟席ノ入リ口
第七 差押ヘラレタル者ノ住所ノ裁判所、財産所在地ノ裁判所及ヒ売払ヲ為ス裁判所ノ表門
使吏ハ貼附書ノ印本ニ記シタル調書ニ依リ法律上ニ定メタル各箇ノ場所ニ於テ貼附ヲ為シタル旨ヲ証ス可シ但シ其各箇ノ場所ヲ詳記セサルモノトス
其調書ハ貼附ヲ為シタル各邑ノ邑長之ニ検署ス可シ
第七百条 財産ノ性質ト其重要トニ従ヒ第六百九十九条ニ定メタル貼附書ノ数ヲ包含セスシテ貼附書ノ印本五百通ニ至ル迄ヲ訴訟費用ノ算定中ニ加フルコトヲ得可シ
第七百壱条 訟求手続ノ費用ハ裁判官之ヲ算定ス可ク而シテ其算定シタル金額ノ外ニ何程タリトモ要求スルコトヲ得サルモノトス○之ニ反シタル総テノ約権ハ其法式ノ如何ヲ問ハス当然無効タル可シ
其算定ノ金額ハ糶売開始ノ前ニ公ケニ之ヲ広告ス可ク而シテ糶売落札ノ裁判書ニ之ヲ記載ス可シ
第七百弐条 糶売入札ノ為メニ指示シタル日ニ至リ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ又其アラサル時ハ記入セラレタル債主中一名ノ求メニ依リ其糶売入札ニ取掛ル可シ
第七百三条 然レトモ糶売入札ハ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ又ハ記入セラレタル債主中ノ一名或ハ差押ヘラレタル者ノ求メニ依リ之ヲ延ハスコトヲ得可シト雖モ重要ニシテ且ツ適法ニ証明セラレタル原由ノ為メニ非サレハ之ヲ延ハスコトヲ得ス
其延期ヲ宣告スル裁判書ニハ更ニ再ヒ糶売入札ノ日ヲ定ム可シ但シ其日ハ十五日ヨリ少ナク隔タルコトヲ得ス又六十日ヨリ多ク隔タルコトヲ得サルモノトス
右ノ裁判ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ之ヲ取消サント求ムルコトヲ得サルモノトス
第七百四条 右ノ場合ニ於テハ第六百九十六条及ヒ第六百九十九条ニ従ヒ糶売入札ヨリ少クトモ八日前ニ記入及ヒ貼附ヲ以テ其糶売入札ヲ広告ス可シ
第七百五条 糶売ハ審問席ニ於テ代書人ノ紹介ヲ以テ之ヲ為ス可シ○糶売ヲ開始スルト同時ニ各々大概一分時間燃ヘ続ク可キ様ニ製シタル小蝋燭数箇ニ相継テ火ヲ点ス可シ
糶買人ハ若シ自己ノ糶買カ更ニ他ノ糶買ノ為メニ蓋蔽セラレタル時ハ其義務ヲ負フコトヲ止息スルモノトス但シ他ノ糶買カ無効ナリト宣告セラレタル時ト雖モ亦之ニ同シ
第七百六条 糶売落札ハ相継テ火ヲ点シタル三箇ノ蝋燭ノ燃ヘ尽キタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
若シ其三箇ノ蝋燭ノ燃ユル間ニ糶買ヲ為ス者ノアラサル時ハ訟求ノ手続ヲ為シタル者ハ其見積リ代価ニ於ケル糶売落札人ナリト宣告セラル可シ
若シ初メノ三箇ノ蝋燭中一箇ノ燃ユル間ニ糶買ヲ為ス者アル時ハ糶売落札ハ二箇ノ蝋燭ノ燃ユル間ニ更ニ新タナル糶買ヲ為ス者ナクシテ其二箇ノ蝋燭ノ燃ヘ尽キタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第七百七条 最モ後ニ糶買ヲ為ス代書人ハ其糶売入札ノ時ヨリ三日内ニ其糶売入札人ヲ申述シテ其受諾ノ証ヲ供ス可ク然ラサレハ自己ノ代理委任状ヲ呈示シテ之ヲ其申述書ニ添ヘ置ク可シ若シ此事ヲ為サヽル時ハ其代書人ハ自己ノ名前ニ於テ糶売落札人ナリト看做サル可キモノトス但シ第七百十一条ノ成規ト相触ルヽコトナカル可シ
第七百八条 何人ニ限ラス糶売落札ノ後八日内ニ代書人ノ紹介ヲ以テ増糶買ヲ為スコトヲ得可シ但シ其増糶買ハ売払ノ主タル代価ノ少クトモ六分一タルコトヲ必要トス
第七百九条 増糶買ハ糶売落札ヲ宣告シタル裁判所ノ書記局ニ之ヲ為ス可ク其増糶買ノ証書ニハ代書人ヲ撰定シタル旨ヲ記シ而シテ其増糶買ハ之ヲ廃棄スルコトヲ得サルモノトス但シ其増糶買ハ増糶買人ヨリ三日内ニ之ヲ糶売落札人ノ代書人ト訟求ノ手続ヲ為ス者ノ代書人ト差押ヘラレタル者ノ代書人ヲ撰定シタル時ハ其代書人トニ通報ス可シ然レトモ代書人ヲ撰定セサリシ差押ヘラレタル者自身又ハ其住所ニ右ノ通報ヲ為スコトヲ必要トセス
其通報ハ十五日ノ期限ノ終リシ後ノ審問席ニ出ツ可キノ招喚ヲ記シタル単純ナル証書ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其他ノ訴訟手続ヲ為サヽルモノトス
其糶売入札ノ日ノ指示ハ第六百九十六条及ヒ第六百九十九条ニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ為ス可シ
若シ増糶買人カ前ニ定メタル期限内ニ其増糶買ヲ通報セサル時ハ訟求ノ手続ヲ為ス者又ハ記入セラレタル各債主又ハ差押ヘラレタル者ハ右期限ノ終リシ後三日内ニ通報ヲ為スコトヲ得可シ若シ其通報ヲ為サヽル時ハ増糶買ハ当然無効タル可クシテ別ニ其無効タル旨ヲ宣告セシムルヲ要セサルモノトス
第七百拾条 指示セラレタル日ニ至リ更ニ新タナル糶売ヲ開始シ其新タナル糶売ニハ如何ナル人タリトモ参加スルコトヲ得可キモノトス而シテ若シ糶買人ノ出テ来ラサル時ハ増糶買人ヲ糶売落札人ナリト宣告ス可シ但シ過当ノ糶買ノ場合ニ於テハ右増糶買人ハ其供陳シタル代価ト売払ノ代価トノ間ノ差額ノ弁済ヲ拘留ノ方法ヲ以テ負担ス可キモノトス
前ニ記シタル増糶買ノ後ニ再度ノ糶売落札ノアリタル時ハ右同一ノ財産ニ付キ更ニ其他ノ増糶買ヲ為スコトヲ許サス
第七百拾壱条 代書人ハ売払ヲ訟求シタル裁判所ノ職員ノ為メニ糶買ヲ為スコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其糶売落札又ハ増糶買ノ効ナク且ツ損害賠償ヲ為ス可キモノトス
又代書人ハ差押ヘラレタル者ノ為メニモ又顕然無資力ナル各人ノ為メニモ糶買ヲ為スコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ右ト同一ノ罰ヲ受ク可シ○訟求ノ手続ヲ為ス代書人ハ己レ自カラ糶売落札人トナルコトヲ得ス又増糶買人トナルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其糶売落札又ハ増糶買ノ効ナク且ツ関係各人ニ対シテ損害賠償ヲ為ス可シ
第七百拾弐条 糶売落札ノ裁判書ハ第六百九十条ニ記シタル如クニ作リタル糶売箇条書ノ写ヨリ更ニ他ノモノニ非スシテ其裁判書ニハ各裁判書ノ首文ト其終末ノ命令文トヲ記シ且ツ其裁判書送達ノ後直チニ占有ヲ放棄ス可キコトヲ差押ヘラレタル者ニ命令スル旨ヲ記ス可シ但シ其占有ヲ放棄セサル時ハ仮令拘留ノ方法ヲ以テスルモ之ヲ放棄スルニ強コ可キモノトス
第七百拾三条 糶売落札ノ裁判書ハ糶売落札人ヨリ訟求手続ノ通常ノ費用ノ受取証書ト其裁判書交付ノ前ニ執行セサル可カラサル糶売箇条書ノ要件ヲ履行シタルノ証トヲ書記ニ差出スノ負任ヲ尽クスニ非サレハ其糶売落札人ニ之ヲ交付ス可カラス○受取証書及ヒ証明ノ為メノ証拠物ハ裁判書ノ細字ノ正本ニ添ヘ置キ且ツ糶売落札ノ末ニ之ヲ写ス可シ○若シ糶売落札人ノ其糶売落札ノ時ヨリ二十日内ニ右ノ証明ヲ為サヽル時ハ後ニ記スル如ク過当ノ糶買ノ方法ヲ以テ其証明ヲ為スニ強ラル可シ但シ法律上ノ其他ノ方法ト相触ルヽコトナカル可キモノトス
第七百拾四条 訟求手続ノ異常ノ費用ハ裁判書ヲ以テ代金ニ付キ先取特権ヲ以テ弁済セラル可キ旨ヲ命令シタル時ハ其先取特権ヲ以テ弁済セラル可キモノトス
第七百拾五条 第六百七十三条、第六百七十四条、第六百七十五条、第六百七十六条、第六百七十七条、第六百七十八条、第六百九十条、第六百九十一条、第六百九十二条、第六百九十三条、第六百九十四条、第六百九十六条、第六百九十八条、第六百九十九条、第七百四条、第七百五条、第七百六条、第七百九条ノ第一項及ヒ第三項ニ定メタル法式及ヒ定期ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
差押中ニ包含シタル不動産ノ一箇又ハ数箇ヲ指定セサルカ為メニ宣告シタル無効ハ其他ノ不動産ニ関スル事ニ付キ訟求手続ノ無効ヲ必スシモ惹起セサルモノトス
本条ニ依リ宣告シタル無効ハ之ニ付キ利益ヲ有スル各人ヨリ申立ツルコトヲ得可シ
第七百拾六条 糶売落札ノ裁判書ハ差押ヘラレタル者自身又ハ其住所ノ外ニ之ヲ送達ス可カラス
糶売落札人ノ求メニ依リ差押ノ登記ノ端ニ糶売落札裁判ノ簡略ナル記載ヲ為ス可シ
第七百拾七条 糶売落札ハ差押ヘラレタル者ニ属セシ権利ノ外更ニ其他ノ所有ニ於ケル権利ヲ糶売落札人ニ移転セサルモノトス
然レトモ糶売落札人ハ以前ノ所有権移転ノ代金ヲ弁済セサルコトニ基キタル解除ノ訟求ノ為メニ自己ノ所有権ヲ妨害セラルヽコトナカル可シ但シ其糶売落札ノ前ニ売払ヲ訟求スル裁判所ノ書記局ニ右ノ訟求ヲ通知シタル時ハ格別ナリトス
若シ有益ナル時間ニ其訟求ヲ通知シタル時ハ糶売落札ヲ延ハス可シ而シテ裁判所ハ訟求ノ手続ヲ為ス者又ハ総テ記入セラレタル各債主ノ求メニ依リ売主ノ其解除ノ訴ヲ終了セシム可キ期限ヲ定ム可キモノトス
訟求ノ手続ヲ為ス者ハ其訴ニ参渉スルコトヲ得可シ
若シ其期限ノ終リニ至リ解除ノ訟求ノ確定ノ裁判アラサル時ハ糶売落札ニ取掛ル可シ但シ重要ニシテ且ツ適法ニ証明セラレタル原由ノ為メ裁判所ヨリ解除ノ訴ノ裁判ノ為メ更ニ新タナル猶予ノ期限ヲ許与シタル時ハ格別ナリトス
若シ売主ノ裁判所ノ所定ニ従ハサルカ為メ解除ノ訟求ノ裁判アル前ニ糶売落札ヲ為シタル時ハ其糶売落札人ハ以前ノ売主ノ権利ノ為メニ訟求セラルヽコトナカル可シ但シ以前ノ売主ハ別段ノ理由アルニ於テハ順序ノ規定及ヒ糶売落札代金ノ分配ニ於テ其債権ノ証券ヲ益用スルコトヲ得可キモノトス
適法ニ登記セラレタル糶売落札ノ裁判書ハ総テノ書入質ヲ滌除シ而シテ各債主ハ最早代金ノミニ関スルノ外訴権ヲ有セサルモノトス○糶売落札ノ裁判書ヲ登記スル前ニ其書入質ヲ記入セシメサル法律上書入質ノ権利アル各債主ハ裁判上ニテ順序ヲ規定スル場合ニ於テハ第七百五十四条ニ定メタル期限ノ終ラサル前ニ証拠物ヲ差出シ又第七百五十一条及ヒ第七百五十二条ニ従ヒ協議上ニテ順序ヲ規定スル時ハ其順序規定ノ終成ノ前ニ其権利ヲ伸張スルニ非サレハ代金ニ付キ先取ノ権利ヲ保存セサルモノトス
○第拾三巻 不動産差押ニ付テノ附帯ノ訴訟
第七百拾八条 凡ソ不動産差押ノ訟求手続ニ付テノ附帯ノ訴ハ憑拠ト請求トヲ記シタル代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ以テ之ヲ為ス可シ○其訴ハ訴訟ニ於テ代書人ヲ撰定セサル各人ニ対シテハ第七百二十六条ノ場合ヲ除クノ外距離ニ依レル期限ノ増加ナク又勧解ノ予式ナク八日ノ期限ニ於ケル呼出状ヲ以テ之ヲ為ス可シ○右ノ訴ハ簡略事件トシテ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可キモノトス○凡ソ其訴ニ付キ為ス所ノ裁判ハ検察官ノ意見ヲ聴キタル上ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第七百拾九条 若シ差押人二名カ同一ノ裁判所ニ訟求シタル相異ナレル財産ノ二箇ノ差押ヲ登記セシメタル時ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ其二箇ノ差押ヲ併合シ而シテ先キニ差押ヘタル者其二箇ノ差押ヲ継続ス可シ○其併合ハ仮令差押中ノ一箇カ他ノ一箇ヨリモ更ニ重大ノモノタル時ト雖モ之ヲ命令ス可シ然レトモ其併合ハ如何ナル場合ニ於テモ糶売箇条書差出ノ後ニ之ヲ訟求スルコトヲ得ス而シテ又抗競ノ場合ニ於テハ最モ古キ証券ヲ所持スル代書人其訟求ノ手続ヲ為ス可ク若シ又其証券ノ日附ノ相同シキ時ハ最先任ノ代書人其訟求ノ手続ヲ為ス可シ
第七百弐拾条 若シ登記ノ為メニ呈出シタル第二次ノ差押カ第一次ノモノヨリ更ニ重大ナル時ハ其第二次ノ差押ヲ第一次ノ差押中ニ包含セサル物件ニ付キ登記ス可シ而シテ第二次ノ差押人ハ其差押ヲ第一次ノ差押人ニ通報シ其第一次ノ差押人ハ右二箇ノ差押カ相同シキ景状ニ至リタルニ於テハ二箇ノ差押ニ付キ訟求ノ手続ヲ為ス可ク若シ然ラサル時ハ第一次ノ差押ノ手続ヲ暫ク延ハシテ第二次ノ差押ノ之ト同一ノ度ニ至ル迄其第二次ノ差押ヲ継続ス可シ但シ其二箇ノ差押ハ然ル時ニ至リ之ヲ併合シテ唯一箇ノ訟求ノ手続ト為シ第一次ノ差押ノ裁判所ニ其訟求ノ手続ヲ申告ス可キモノトス
第七百弐拾壱条 若シ第一次ノ差押人カ前条ニ従ヒ己レニ通報セラレタル第二次ノ差押ニ付キ訟求ノ手続ヲ為サヽル時ハ第二次ノ差押人ハ単純ナル証書ニ依リ代替ヲ訟求スルコトヲ得ヘシ
第七百弐拾弐条 若シ通謀、詐欺、又ハ懈怠ノアリタル時ハ亦代替ヲ訟求スルコトヲ得可シ但シ通謀又ハ詐欺ノ場合ニ於テハ其損害ヲ受ケタル者ニ対シテ損害賠償ヲ為ス可キモノトス
若シ訟求ノ手続ヲ為ス者カ定マリタル期限内ニ一箇ノ法式ヲ履行セス又ハ一箇ノ訴訟手続ノ所為ヲ行ハサル時ハ懈怠アリトス
第七百弐拾三条 代替ノ訟求ニ於テ敗訴トナリタル者ハ其費額ノ弁済ヲ一身上ニ負担ス可キノ言渡ヲ受ク可シ
訟求ノ手続ヲ為ス者ノ其代替ヲ宣告セラレタル時ハ代替者ノ受取証書ニ引替ヘテ其訟求手続ノ証拠物ヲ代替者ニ引渡ス可シ但シ其訟求ノ手続ヲ為ス者ハ代金ニ於ケルト糶売落札人ニ依ルトヲ問ハス糶売落札ノ後ニ非サレハ自己ノ訟求手続ノ費用ノ弁済ヲ受ク可カラサルモノトス
第七百弐拾四条 若シ一箇ノ不動産差押カ塗抹セラレタル時ハ其後ノ各差押人中ニテ最モ先キニ手続ヲ為ス者ハ仮令第一ニ登記ノ為メニ出席セサリシ時ト雖トモ自己ノ差押ニ付キ訟求ノ手続ヲ為スコトヲ得可シ
第七百弐拾五条 差押ヘラレタル物件ノ全部又ハ一部ノ離分ニ於ケル訟求ハ差押ヘラレタル者ト差押人トニ対シテ之ヲ為ス可ク又第一ニ記入セラレタル債主ニ対シテモ其記入ニ於テ撰定シタル住所ニ之ヲ為ス可シ
若シ差押ヘラレタル者カ訟求ノ手続ノ間ニ代書人ヲ撰定セサリシ時ハ出席ノ為メニ定メタル期限ハ其者ノ住所ト裁判所々在ノ地トノ間ニ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加フ可シ但シ其期限ハ王国(共和国)ノ大陸ノ領地外ニ住所ヲ有スル者ニ関シテ之ヲ増加スルコトヲ得サルモノトス
第七百弐拾六条 離分ニ於ケル訟求書ニハ書記局ニ差出ス所ノ証明ノ為メノ証券ノ表示ト其差出シノ証書ノ写トヲ記ス可シ
第七百弐拾七条 若シ差押ヘラレタル物件ノ一部分ノミノ離分ヲ訟求シタル時ハ其訟求ニ拘ハラス其余ノ差押ヘタル物件ノ糶売入札ニ取掛ル可シ○然レトモ裁判官ハ関係各人ノ求メニ依リ全部ニ付テノ猶予ヲ命令スルコトヲ得可シ
若シ一部分ノ離分カ命令セラレタル時ハ訟求ノ手続ヲ為ス者糶売箇条書ニ載セタル見積リ代価ヲ変更スルコトヲ許サルヽモノトス
第七百弐拾八条 糶売箇条書ノ公告以前ノ訟求手続ニ対シ本案ニ関スルト法式ニ関スルトヲ問ハス無効ト為スノ憑拠ハ遅クトモ其公告ヨリ三日前ニ之ヲ申立ツ可ク若シ然ラサル時ハ其憑拠ヲ申立ツルノ権利ヲ失フ可シ
若シ其無効ト為スノ憑拠カ許容セラルヽ時ハ其訟求ノ手続ヲ最後ノ有効ナル所為ヨリ再起スルコトヲ得可シ而シテ其後ノ所為ヲ履行スル為メノ期限ハ其無効ニ付キ確定ノ宣告ヲ為シタル上等裁判所又ハ下等裁判所ノ裁判ヨリ起算スヘキモノトス
若シ其無効ト為スノ憑拠カ棄却セラレタル時ハ之ト同一ノ裁判ヲ以テ第六百九十五条ニ従ヒ糶売箇条書ノ読上及ヒ公告ノ証書ヲ附与ス可シ
第七百弐拾九条 糶売箇条書ノ公告以後ノ訟求手続ニ対シ無効ト為スノ憑拠ハ遅クトモ糶売落札ヨリ三日前ニ之ヲ申立ツ可ク若シ然ラサル時ハ右ニ同シク其憑拠ヲ申立ツルノ権利ヲ失フ可シ
糶売落札ノ為メニ定メタル日ニ至リ糶売開始ノ直チニ前ニ無効ト為スノ憑拠ニ付キ裁定ヲ為スヘシ
若シ其無効ト為スノ憑拠カ許容セラルヽ時ハ裁判所ハ公告ノ裁判ヨリ後ノ訟求ノ手続ヲ取消シテ其裁判ヨリ更ニ訟求手続ノ再起ヲ許可シ且ツ糶売落札ノ日ヲ更ニ再ヒ定ム可キモノトス
若シ其無効ト為スノ憑拠カ棄却セラレタル時ハ糶売及ヒ糶売落札ニ取掛ル可シ
第七百三拾条 左ノ裁判ハ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
第一 訟求ノ手続ヲ為ス者ニ対スル代替ノ訟求ニ付キ裁定スル所ノ裁判但シ通謀又ハ詐欺ノ為メニ其訟求ヲ起シタル時ハ格別ナリトス
第二 附帯ノ訴訟ニ付キ裁定スルコトナクシテ糶売箇条書公告ノ証書ヲ附与シ又ハ増糶買ノ前後ヲ問ハス糶売落札ヲ宣告スル所ノ裁判
第三 糶売箇条書公告以後ノ無効ニ付キ裁定スル所ノ裁判
第七百三拾壱条 総テ其他ノ裁判ノ控訴ハ代書人ヘ送達ノ時ヨリ起算シテ十日ノ後若シ又代書人ノアラサル時ハ本人又ハ現実ノ住所若クハ撰定ノ住所ニ送達シタル時ヨリ起算シテ十日ノ後ニ之ヲ為シタルニ於テハ無効ナリト看做ス可シ
右ノ期限ハ離分ニ於ケル訟求ニ付キ裁判ヲ為シタル場合ニ於テハ第七百廿五条ニ従ヒ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ増ス可シ
控訴ヲ為シタル場合ニ於テハ控訴裁判所ニ於テ十五日内ニ裁定ス可シ○缺席ニテ為シタル控訴裁判所ノ裁判ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
第七百三拾弐条 控訴状ハ代書人ノ住所ニ送達ス可ク若シ代書人ノアラサルニ於テハ被控訴者ノ現実又ハ撰定ノ住所ニ送達ス可シ而シテ又其控訴状ハ右ト同時ニ裁判所ノ書記ニ通知シテ書記之ニ検署ス可シ○差押ヘラレタル者ハ控訴ノ上ニテ嘗テ始審ニ於テ呈出セシ所ノモノヨリ更ニ他ノ憑拠ヲ申立ツルコトヲ得ス○控訴状ニハ不服ノ申立ヲ表示ス可シ若シ右ノ諸件ニ背ク時ハ無効ナリトス
第七百三拾三条 若シ糶売落札人ノ其糶売落札ノ約款ヲ執行セサル時ハ其糶売落札人ノ過当ノ糶買ニテ不動産ヲ売払フ可シ
第七百三拾四条 若シ糶売落札ノ裁判書ヲ交付スル前ニ過当ノ糶買ヲ訟求シタル時ハ其過当ノ糶買ヲ訟求シタル者ハ糶売落札人ノ其糶売落札ノ要求ス可キ要件ノ履行ヲ証明セサル旨ヲ証スル所ノ保証書ヲ書記ヨリ受取ル可シ
若シ其保証書ノ交付ニ付キ故障ノ申立アル時ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ至急審理ノ景状ニ於テ裁判所長之ヲ裁定ス可キモノトス
第七百三拾五条 右ノ保証書ニ依リ更ニ其他ノ訴訟手続ヲモ又裁判ヲモ為スコトナク前ニ定メタル方法ヲ以テ新タナル貼附書ヲ貼附シ及ヒ新タナル広告ヲ記入ス可ク若シ又糶売落札ノ裁判書交付ノ後ニ過当ノ糶買ヲ訟求シタル時ハ弁済ノ督促書ト共ニ班位整定ノ明細書ヲ送達シタルヨリ三日ノ後ニ其新タナル貼附書ヲ貼附シ及ヒ新タナル広告ヲ記入ス可シ
其貼附書及ヒ広告書ニハ右ノ外過当ノ糶買人ノ姓名及ヒ居所、糶売落札ノ金額、訟求ノ手続ヲ為ス者ノ見積リ代価及ヒ以前ノ糶売箇条書ニ拠リ更ニ新タナル糶売入札ヲ為ス可キ日ヲ指示ス可シ
新タナル貼附及ヒ広告ト糶売入札トノ間ノ期限ハ少クトモ十五日多クトモ三十日タル可シ
第七百三拾六条 糶売入札ヨリ少クトモ十五日前ニ其糶売入札ノ日時ヲ糶売落札人ノ代書人ニ通報シ且ツ差押ヘラレタル者ノ代書人ノ住所ニ之ヲ通報ス可ク若シ代書人ノアラサル時ハ其者ノ住所ニ之ヲ通報ス可シ
第七百三拾七条 糶売入札ハ第七百三条ニ従ヒ之ヲ延ハスコトヲ得可シ然レトモ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ求メニ依ルニ非サレハ之ヲ延ハスコトヲ得サルモノトス
第七百三拾八条 若シ過当ノ糶買人カ糶売落札ノ要件ヲ履行シタル旨ト過当ノ糶買ノ費用ノ為メ裁判所長ヨリ規定シタル金額ヲ附託シタル旨トヲ証明スル時ハ糶売入札ニ取掛ル可カラス
第七百三拾九条 第七百三十四条、第七百三十五条、第七百三十六条、第七百三十七条ニ定メタル法式及ヒ定期ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
無効ト為スノ憑拠ハ第七百二十九条ニ記シタル如クニ之ヲ申立テ及ヒ裁判ス可シ
過当ノ糶買ノ事項ニ於ケル缺席裁判ニ対シテハ如何ナル故障ノ申立ヲモ受理ス可カラス而シテ無効ニ付キ裁定スル所ノ裁判ノミハ第七百三十一条及ヒ第七百三十二条ニ定メタル期限内ニ其二条ニ定メタル法式ニ従ヒ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得可シ
過当ノ糶買ニ於ケル糶売入札ノ時ニ於テハ第七百五条、第七百六条、第七百七条、第七百十一条ヲ遵守ス可キモノトス
第七百四拾条 過当ノ糶買人ハ其供陳シタル代価ト過当ノ糶買ニ於ケル再売ノ代価トノ間ノ差額ノ弁済ヲ拘留ノ方法ヲ以テ負担ス可ク而シテ仮令剰余ノ額アリト雖トモ之ヲ得ント求ムルコトヲ得サルモノトス但シ其剰余ノ額ハ之ヲ各債主ニ弁済ス可ク若シ各債主ノ既ニ其償還ヲ受ケタル時ハ差押ヘラレタル者ニ之ヲ弁済ス可シ
第七百四拾壱条 若シ附帯訴訟ノ為メ又ハ総テ其他ノ適法ノ理由ノ為メニ糶売入札ヲ遅延シタル時ハ第七百四条ニ定メタル期限内ニ更ニ新タナル貼附書ヲ貼附シ及ヒ更ニ新タナル広告ヲ為ス可シ
第七百四拾弐条 凡ソ債主ハ負債者ノ己レニ対シテ負担シタル約務ヲ執行セサルニ於テハ不動産差押ノ為メニ定メタル法式ヲ履行セスシテ其負債者ノ不動産ヲ売払ハシム可キノ権利アリト為ス合意ハ無効ノモノトス
第七百四拾三条 自己ノ権利ヲ処分スルヲ得可キ成年者ニ属スル所ノ不動産ハ任意ノ売払ノミニ関スル時ハ裁判上ニテ糶売ニ附スルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
然レトモ若シ一箇ノ不動産ヲ差押ヘ而シテ其差押ヲ登記シタル時ハ其関係各人ノ皆成年者ニシテ且ツ自己ノ権利ヲ処分スルヲ得可キモノタルニ於テハ其関係各人ヨリ幼者ニ属スル不動産売払ノ為メ第九百五十八条、第九百五十九条、第九百六十条、第九百六十一条、第九百六十二条、第九百六十四条、第九百六十五条ニ定メタル所ノモノヽ外更ニ其他ノ法式及ヒ要件ナクシテ公証人ノ面前又ハ裁判上ニテ糶売ヲ為ス可キ旨ヲ訟求スルコト自由ナリトス
第六百九十二条ニ定メタル各債主ヘノ催促ノ前ハ訟求ノ手続ヲ為ス者及ヒ差押ヘラレタル者ノミヲ以テ関係人ト看做ス可ク又其催促ノ後ハ訟求ノ手続ヲ為ス者及ヒ差押ヘラレタル者並ニ記入セラレタル各債主ノミヲ以テ関係人ト看做ス可シ
若シ同一ノ収益地ニ附属スル財産ノ一部分ノミヲ差押ヘタル時ハ負債者ヨリ其余ノ部分ヲ同一ノ糶売入札中ニ包含ス可キ旨ヲ訟求スルコトヲ得可シ
第七百四拾四条 左ノ各人ハ右ト同一ノ訟求ヲ為シ又ハ之ニ附合スルコトヲ得可シ
親族ノ意見ニ依リ特ニ許可セラレタル幼者又ハ治産禁ヲ受クル者ノ後見人
管財人ノ補助ヲ受クル後見ヲ免脱セラレタル幼者
及ヒ一般ニ他人ノ財産ノ法律上ノ各管理人
第七百四拾五条 第七百四十三条ノ第二項及ヒ第七百四十四条ニ依リ許可セラレタル訟求ハ訴訟ノ手続ヲ掌轄スル裁判所ニ呈出シタル単純ナル請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其請願書ハ関係各人ノ代書人之ニ署名ス可キモノトス
其請願書ニハ見積リ代価ヲ記ス可シ但シ其見積リ代価ハ評価ノ用ヲ為ス可キモノトス
第七百四拾六条 其裁判ハ裁判官一名ヨリ報告ノ上及ヒ検察官ノ意見申立ノ上ニテ之ヲ為ス可シ
其訟求ノ許容セラルヽ時ハ裁判所ヨリ売払ノ日ヲ定メ且ツ糶売入札ニ取掛ラシムル為メ公証人ノ面前若シクハ所在地ノ裁判官ノ面前若クハ総テ其他ノ裁判所ノ裁判官ノ面前ニ移送ス可シ
其裁判書ハ送達ス可カラス且ツ故障ノ申立ヲモ又控訴ヲモ為ス可カラサルモノトス
第七百四拾七条 若シ裁判ノ後ニ死去又ハ家資分散ニ依リ若シクハ其他ノ方法ニテ関係各人ノ自分ノ変更シ又ハ関係各人カ幼者、目録ノ利益ヲ受クル相続人又ハ其他ノ無能力者ニ依リ代理セラルヽコトアリトモ裁判ハ猶充分ニシテ完全ナル執行ヲ受ク可キモノトス
第七百四拾八条 変更ノ裁判ヨリ八日内ニ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ求メニ依リ差押登記ノ端ニ其裁判ノ簡略ナル記載ヲ為ス可シ
第六百八十二条ノ成規ニ従ヒ不動産ト為サレタル果実ハ其性質ヲ保存ス可シ但シ訟求ノ手続ヲ為ス者ノ家屋ノ貸賃及ヒ土地ノ貸賃ニ付キ第六百八十五条ニ従フコトヲ得可キノ権利ト相触ルヽコトナカル可シ
第六百八十六条ニ為シタル所有権移転ノ禁止ハ亦之ヲ保存ス可シ
○第拾四巻 順序ノ規定
第七百四拾九条 事務ノ需要ノ為メニ已ムコトヲ得サル所ノ裁判所ニ於テハ皇帝(共和国大統領)ノ告令書ヲ以テ特ニ順序規定ノコトヲ委任セラレタル裁判官一名又ハ数名ヲ指定ム可シ○其裁判官ハ裁判官補役中ヨリ之ヲ撰ムコトヲ得可ク而シテ少クトモ一年多クトモ三年間之ヲ指定ス可キモノトス
若シ不在又ハ差支ノ場合ニ於テハ裁判所長書記局ニ設ケアル所ノ特別ノ簿冊ニ記入シタル命令書ヲ以テ之ニ代ハル可キ他ノ裁判官ヲ指定ス可シ
皇帝(共和国大統領)ノ告令書ニ依リ指定セラレ又ハ裁判所長ヨリ撰任セラレタル裁判官ハ其求ヲ受クル度毎ニ其各自ノ裁判所ト裁判所長ト検事長トニ其規定スルコトヲ委任セラレタル順序ノ目録ヲ差出サヽルヲ得ス
第七百五拾条 糶売落札人ハ糶売落札ノ裁判書ヲ其日附ヨリ四十五日内ニ登記セシメ又控訴ノ場合ニ於テハ是認スル控訴裁判所ノ裁判ヨリ四十五日内ニ之ヲ登記セシム可シ若シ之ニ背ク時ハ過当ノ糶買ニテ再売ヲ為ス可キモノトス
差押人ハ登記ノ後八日内ニ記入ノ目録ヲ書記局ニ差出シテ順序規定ノ調書ヲ開始セント求メ又別段ノ理由アル時ハ委員裁判官ノ撰任ヲ求ム可ク若シ又差押人ノアラサル時ハ債主中ニテ最モ先キニ手続ヲ為ス者、差押ヘラレタル者又ハ糶売落札人ハ右ノ期限ノ後ニ此等ノ諸件ヲ為ス可シ
右ノ撰任ハ裁判所長之ヲ為シ而シテ特ニ裁判所ノ書記局ニ設ケアル糶売落札ノ簿冊ニ其訟求ノ手続ヲ為ス者ノ記入シタル請求ノ末ニ其撰任ノ旨ヲ記ス可シ
第七百五拾壱条 委員裁判官ハ其撰任ノ時ヨリ八日内又特任ノ裁判官ハ請求ノ時ヨリ三日内ニ代金ノ分配ニ付キ協議上ニテ規定セシムル為メ記入セラレタル各債主ヲ招集ス可シ
其招集ハ書記ノ発遣シ而シテ各債主ノ其記入ニ於テ撰定シタル住所ト仏蘭西ニ在ル其現実ノ住所トニ宛テ送リタル書留郵便書状ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其費用ハ請求者ニ於テ之ヲ立替ユ可キモノトス
差押ヘラレタル者及ヒ糶売落札人ハ亦同シク招集セラルヘシ
出席スル為メノ期限ハ招集ノ日附ト集合ノ日トノ間ニ少クトモ十日ヲ隔ツ可シ
裁判官ハ協議上ノ規定ニ依レル代金分配ノ調書ヲ作ル可ク又裁判官ハ有益ニ班位ヲ整定セラレタル各債主ニ明細書ヲ交付ス可キ旨ト有益ナル順序ニ於テ許容セラレサル各債主ノ記入ヲ塗抹ス可キ旨トヲ命令ス可シ
其記入ハ書記ヨリ交付シタル裁判官ノ命令書ノ抜書ヲ呈出シタル上ニテ之ヲ塗抹ス可シ
出席セサル債主ハ二十五「フランク」ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第七百五拾弐条 若シ一月ノ期限内ニ協議上ノ規定ヲ為サヽル時ハ裁判官其各債主ノ相互ニ規定スルコトヲ得サル旨ヲ調書上ニ証明シ且ツ出席セサル者ニ対シテ罰金ヲ宣告ス可シ○其裁判官ハ順序規定ノ開始シタル旨ヲ宣告シ且ツ各債主ニ証拠物ヲ差出ス可キ旨ヲ催促スル為メ使吏一名又ハ数名ヲ委任ス可シ○調書中ニテ右ニ関スル部分ハ之ヲ写取ルコトヲ得ス又之ヲ送達スルコトヲ得ス
第七百五拾三条 順序規定ノ開始ヨリ八日内ニ各債主ノ其記入ニ於テ撰定シタル住所ニ送達シタル証書ニ依リ又代書人ヲ撰定シタルニ於テハ其代書人ノ住所ニ送達シタル証書ニ依リ並ニ売主ノ其住所ヲ撰定セス又ハ代書人ヲ撰定セサル時ハ仏蘭西ニ在ル其現実ノ住所ニ送達シタル証書ニ依リ各債主ニ其証拠物ヲ差出ス可キノ催促ヲ為ス可シ
其催促状ニハ若シ四十日内ニ差出サヽル時ハ其債主ノ権利ヲ失フ可キ旨ノ通知ヲ記ス可シ
順序規定ノ開始ハ右ト同時ニ糶売落札人ノ代書人ニ通報ス可シ○糶売落札人数名ヲ代理スル代書人ニハ唯一箇ノ通報ノミヲ為ス可キモノトス
訟求ノ手続ヲ為ス者ハ自己ヨリ記入セラレタル各債主ニ為シタル催促ノ時ヨリ八日内ニ其催促状ノ正本ヲ裁判官ニ差出シ裁判官ハ調書ニ之ヲ記載ス可キモノトス
第七百五拾四条 其催促ノ時ヨリ四十日内ニ各債主ハ自己ノ証券ヲ差出シ且ツ其代書人ノ署名シタルモノニシテ分配中ニ加ハラント求ムル旨ヲ記シタル証拠物差出ノ証書ヲ其証券ト共ニ差出ス可シ○裁判官ハ此等ノ諸件ヲ受取リタル旨ヲ調書ニ記載ス可シ
第七百五拾五条 前ニ定メタル四十日ノ期限ノ経過ハ証拠物ヲ差出サヽル各債主ニ対シテ当然失権ヲ惹起スルモノトス○裁判官ハ直チニ職権上ヨリ其失権ヲ証明シテ之ヲ調書ニ記シ且ツ差出シタル証拠物ニ拠リ班位整定ノ目録ヲ作ル可シ○其目録ハ遅クトモ前ニ定メタル期限ノ終リシ時ヨリ二十日内ニ之ヲ作ル可シ
班位整定ノ目録ヲ成就シタル時ヨリ十日内ニ訟求ノ手続ヲ為ス者ハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ証拠物ヲ差出シタル各債主ト差押ヘラレタル者トニ其目録成就ノ旨ヲ通報シ且ツ其目録ヲ査視シテ若シ抗弁ス可キコトアル時ハ三十日ノ期限内ニ調書ニ其抗弁ノ旨ヲ記ス可キノ催促ヲ為ス可シ
第七百五拾六条 若シ証拠物ヲ差出シタル各債主及ヒ差押ヘラレタル者ノ右ノ期限内ニ班位整定ノ目録ヲ査視シテ之ニ抗弁セサル時ハ此等ノ各人ハ更ニ新タナル催促ナク又裁判ナクシテ漫期失権トナル可シ但シ争論アル時ニ非サレハ如何ナル申立ヲモ為ス可ラサルモノトス
第七百五拾七条 若シ相合シテ売払ヒタル数箇ノ不動産ノ代金ヲ別チテ其各箇ノ不動産ノ代価ヲ見積ル可キ時ハ裁判官関係各人ノ求メニ依リ又ハ職権上ヨリ調書ニ記入シタル命令書ヲ以テ鑑定人一名又ハ三名ヲ撰任シ且ツ其誓ヲ受ク可キ日ト其鑑定人ノ報告書ヲ差出ス可キ期限トヲ定ム可シ
其命令書ハ訟求ノ手続ヲ為ス者ヨリ鑑定人ニ通報シ而シテ順序規定ノ調書ニ誓ヲ為シタル旨ヲ記シテ鑑定人ノ報告書ヲ其調書ニ添ヘ置ク可シ但シ其報告書ハ之レカ写ヲ得ント求ムルコトヲ得ス又之ヲ送達スルコトヲ得サルモノトス
仮リノ班位整定ノ目録ヲ設定スルニ付キ裁判官ハ代金ノ全部ヲ別チテ各箇ノ不動産ノ代価ヲ見積ルコトニ付キ宣告ヲ為ス可シ
第七百五拾八条 各箇ノ争論者ハ其申立ノ理由ヲ附シ且ツ憑拠タル総テノ証拠物ヲ差出サヽルヲ得ス而シテ裁判官ハ其指定スル所ノ審問席ニ争論者ヲ移送シ且ツ之ト同時ニ審問ヲ求ムルコトヲ任セラレタル代書人ヲ委任ス可シ
然レトモ裁判官ハ争論ヲ受ケタルモノヨリ前ノ債権ニ付テハ順序ヲ決定シテ班位整定ノ明細書ノ交付ヲ命令シ又然ノミナラス其争論ヲ受ケタル債主ニ弁償スル為メニ充分ナル金額ヲ貯存スルニ於テハ其後ノ債権ニ付テモ順序ヲ決定スルコトヲ得可シ
第七百五拾九条 若シ如何ナル争論ヲモ生セサル時ハ裁判官査視ヲ為シテ抗弁スル為メノ期限ノ終リシ時ヨリ十五日内ニ順序規定ノ終成ヲ為シ且ツ総テ其他ノ債権ヨリモ先キニ班位ヲ整定セラル可キ塗抹ノ費用ノ額及ヒ順序ノ規定ヲ訟求スル費用ノ額ヲ算定シ又其外ニ有益ナル順序於テ班位ヲ整定セラレタル各個ノ債主ノ費用ノ額ヲ算定シテ有益ニ班位ヲ整定セラレタル各債主ニ班位整定ノ明細書ヲ交付ス可キ旨ト有益ニ班位ヲ整定セラレサル各債主ノ記入ヲ塗抹ス可キ旨トヲ命令ス可シ○各個ノ明細書ノ金額中ニ就キ糶売落札人ノ為メ記入塗抹ノ費用ノ離分ヲ為ス可キモノトス
第七百六拾条 書入質ノ順序ニ於テ争論ヲ受ケタル班位整定ヨリ後ノ各債主ハ抗弁スル為メニ許与セラレタル三十日ノ期限後八日内ニ代書人ノ撰択ニ付キ相互ニ協議ス可ク若シ然ラサル時ハ班位ヲ整定セラレタル最後ノ債主ノ代書人ヲ以テ右各債主ノ代理人ト為ス可シ○訟求ノ手続ヲ為ス代書人ハ其手続ヲ為ス者タルノ分限ヲ以テ争論ニ招喚スルコトヲ得ス
第七百六拾壱条 審問ハ委任セラレタル代書人ノ求メニ依リ第七百五十八条ニ従ヒ定メタル審問席ヘノ招喚ヲ記スル単純ナル証書ヲ以テ之ヲ訟求ス可シ○其事件ハ争論ヲ受ケタル者ノ方ニ於ケル理由ヲ附シタル請求書ヲ除クノ外更ニ其他ノ訴訟手続ナク簡略事件トシテ之ヲ裁判ス可シ而シテ其裁判書ニハ費用ノ算定ヲ記ス可キモノトス○若シ更ニ新タナル証拠物ヲ差出ス時ハ凡ソ争論ヲ為シ又ハ争論ヲ受ケタル各人ハ其審問ノ時ヨリ少クトモ三日前ニ其新タナル証拠物ヲ書記局ニ納ム可シ但シ調書ニ其旨ヲ記載ス可キモノトス○裁判所ハ差出シタル証拠物ニ拠テ裁定ス可シ然レトモ重要ニシテ且ツ適法ニ証明セラレタル原由アル時ノミニ限リ更ニ他ノ証拠物ヲ差出ス為メノ猶予期限ヲ許与スルコトヲ得可シ但シ其猶予ヲ宣告スル所ノ裁判書ニハ審問席ノ日ヲ定ム可ク而シテ其裁判書ハ之レカ写ヲ得ント求ム可カラス又之ヲ送達ス可カラサルモノトス○其猶予期限ヲ許与シ又ハ之ヲ否拒スル裁判書ノ所定ハ如何ナル方法ヲ問ハス之ヲ取消サント訟求スルコトヲ得サルモノトス
第七百六拾弐条 附帯ノ訴訟ニ付キ及ヒ本案ニ付テノ裁判ハ裁判官ノ報告ト検察官ノ意見申立トノ上ニテ之ヲ為ス可シ
本案ニ付テノ裁判書ハ其日附ヨリ三十日内ニ代書人ノミニ送達ス可ク而シテ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得サルモノトス○代書人ニ送達シタル時ヨリ関係各人相互ニ関シ其各人ニ対スル控訴ノ期限ヲ起算ス可シ
控訴ハ代書人ニ裁判書ヲ送達シタル時ヨリ十日内ニ之ヲ為ス可ク而シテ裁判所々在ノ地ト控訴者ノ現実ノ住所トノ間ニ五「ミリヤメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス但シ其控訴状ハ代書人ノ住所ト若シ差押ヘラレタル者ノ代書人アラサル時ハ其差押ヘラレタル者ノ現実ノ住所トニ送達ス可シ○其控訴状ニハ呼出ノ旨ト不服申立ノ表示トヲ記ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
争論ヲ為ス者ノ債権ノ額及ヒ分配ス可キ金額ノ如何ヲ問ハス其争論セラレタル金額カ千五百「フランク」ニ過クル時ニ非サレハ控訴ヲ受理ス可カラサルモノトス
第七百六拾三条 最モ後ニ班位ヲ整定セラレタル債主ノ代書人ハ別段ノ理由アルニ於テハ之ヲ被控訴者ト為スコトヲ得可シ
此場合ニ於テハ第七百六十一条ニ従ヒ審問ヲ求メ及ヒ訴訟ヲ審理ス可ク而シテ被控訴者ノ方ニ於ケル理由ヲ附シタル請求書ノ外更ニ其他ノ訴訟手続ヲ為サヽルモノトス
第七百六拾四条 控訴裁判所ハ検察官ノ意見申立ノ上ニテ裁定ヲ為ス可シ○其裁判書ニハ費用ノ算定ヲ記シ而シテ其日付ヨリ十五日内ニ代書人ノミニ之ヲ送達ス可ク又其裁判書ニ付テハ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得サルモノトス○代書人ニ送達シタル時ヨリ大審院ニ上告スルノ期限ヲ起算ス可シ
第七百六拾五条 控訴期限ノ終リシ時ヨリ八日内又控訴ノ場合ニ於テハ控訴裁判所ノ裁判書ヲ送達シタル時ヨリ八日内ニ裁判官第七百五十九条ニ従ヒ争論ヲ受ケタル債権及ヒ其後ノ債権ノ順序ヲ確定ス可シ
有益ニ班位ヲ整定セラレタル各債主ノ利息及ヒ賦額ハ差押ヘラレタル者ニ関シテ止息スルモノトス
第七百六拾六条 争論ノ費額ハ糶売落札ニ依リ得ル所ノ金額中ヨリ之ヲ取リ用フルコトヲ得ス
然レトモ一個ノ債主充分ナル証拠物ヲ差出シタルニ拘ハラス委員裁判官ノ職権上ヨリ其班位ノ整定ヲ棄却セラレ而シテ後ニ他ノ債主ヨリ争論ヲ受クルコトナクシテ裁判所ヨリ許容セラレタル時ハ自己ノ債権ノ班位ニ於テ其費額ヲ代金中ヨリ取リ用フルコトヲ得可シ
書入質ノ順序ニ於テ争論ヲ受ケタル班位整定ヨリ後ノ各債主ニ代理シタル代書人ノ費用ハ其前ノ各債主ニ弁済スル為メニ用ヒラレタル金額ヲ引去リテ猶分配スル為メニ残ル所ノ金額ノ中ヨリ之ヲ先収スルコトヲ得可シ○其費用ノ使用ヲ許可スル所ノ裁判書ニハ元資ノ不足スル債主又ハ差押ヘラレタル者ノ利益ニ於ケル代替ヲ宣告ス可シ○執行命令書ニハ右ノ所定ヲ表示シ且ツ之レカ為メニ利益ヲ受ク可キ者ヲ指示ス可シ
争論ヲ為ス者又ハ争論ヲ受クル者ノ其証拠物ヲ差出スニ付キ懈怠アル時ハ仮令訴訟ニ勝ヲ得ル時ト雖モ之ニ費額ノ弁償ヲ言渡スコトヲ得可シ
若シ争論ノ費額ヲ弁償ス可キ旨ヲ言渡サレタル債主カ有益ナル順序ニ於テ班位ヲ整定セラレタル時ハ其債主ノ負任ニ附セラレタル費用ハ順序規定ノ特別ナル所定ニ依リ其言渡ヲ得タル者ノ利益ニ於テ右債主ノ班位整定ノ金額中ヨリ之ヲ先収ス可シ
第七百六拾七条 終成ノ命令ヨリ三日内ニ訟求ノ手続ヲ為ス代書人ハ代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ以テ其終成ノ旨ヲ通報ス可シ
債主又ハ糶売落札人又ハ差押ヘラレタル者ヨリ其命令ニ付キ故障ヲ申立ツル場合ニ於テハ其故障ノ申立ハ無効ノ罰款ニテ其通報ノ時ヨリ八日内ニ之ヲ為ス可ク而シテ次キノ八日内ニ憑拠ト請求ノ旨トヲ記シタル代書人ノ単純ナル証書ニ依リ又訴訟ニ於テ代書人ヲ撰定セサル差押ヘラレタル者ニ関シテハ八日ニ於ケル呼出状ニ依リ仮令休暇中タリトモ裁判所ノ審問席ニ之ヲ申告ス可シ○其訴訟ハ裁判ノ控訴ニ関スル諸件ニ付テモ第七百六十一条、第七百六十二条、第七百六十四条ニ従ヒ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可シ
第七百六拾八条 元資ノ不足スル所ノ債主及ヒ差押ヘラレタル者ハ争論ノ間ニ生シタル利息及ヒ賦額ニ付テハ其敗訴トナリタル者ニ対シテ償還ヲ訟求スルコトヲ得可シ
第七百六拾九条 終成ノ命令書ヲ最早駁撃スルコトヲ得サルニ至リシ日ヨリ起算シテ十日内ニ書記ハ訟求ノ手続ヲ為ス代書人ヨリ書入質役署ニ差出サシムル為メ裁判官ノ命令書ノ抜書ヲ交付ス可シ○保存人ハ其抜書呈出ノ上ニテ班位ヲ整定セラレサル各債主ノ記入ノ塗抹ヲ為ス可キモノトス
第七百七拾条 右ト同一ノ期限内ニ書記ハ糶売落札人又ハ金額受託所ニ対シテ執行ス可キ班位整定ノ明細書ヲ其班位ヲ整定セラレタル各債主ニ交付ス可シ
訟求ノ手続ヲ為ス代書人ノ費用ノ明細書ハ班位ヲ整定セラレサル各債主ノ記入ヲ塗抹シタルノ保証書ヲ差出シタル上ニ非サレハ之ヲ交付スルコトヲ得ス○其保証書ハ調書ニ添ヘ置ク可シ
第七百七拾壱条 班位ヲ整定セラレタル債主ハ其班位整定ノ金額ノ受取証書ヲ附与シテ自己ノ記入ノ塗抹ヲ承諾ス可シ○班位整定ノ金額ヲ弁済スルニ随ヒ書入質保存人ハ明細書及ヒ債主ノ受取証書差出ノ上ニテ其弁償シタル金額ニ充ツル迄職権上ニテ記入ヲ免除スルモノトス
職権上ノ記入ハ糶売落札人ヨリ班位ヲ整定セラレタル各債主若クハ差押ヘラレタル者ニ其代金ノ全部ヲ弁済セシ旨ヲ証明シタル上ニテ確然之ヲ塗抹ス可シ
第七百七拾弐条 強迫ノ所有権収奪ニ依リ所有権移転ヲ為シタルニ非サル時ハ最モ先キニ手続ヲ為ス債主又ハ獲得者ヨリ順序ノ規定ヲ求ム可シ
又代金ノ償還ヲ要求スルコトヲ得可キ時ノミニ限リ売主ヨリモ順序ノ規定ヲ求ムルコトヲ得可シ
如何ナル場合ニ於テモ順序ノ規定ハ書入質滌除ノ為メニ定メタル法式ヲ履行シタル後ニ非サレハ之ヲ開始ス可カラス
其順序ノ規定ハ本巻ニ定メタル法式ヲ以テ之ヲ起シ及ヒ之ヲ定ム可シ
法律上書入質ノ権利アル債主ニシテ民法第二千百九十五条ニ定メタル期限内ニ其書入質ヲ記入セシメサル者ハ第七百十七条末項ノ成規ニ定メタル要件ヲ以テ右期限ノ終リシ時ヨリ三月内ニ順序ノ規定ヲ開始シタル時ニ非サレハ代金ニ付キ先取リノ権利ヲ執行スルコトヲ得ス
第七百七拾三条 所有権移転ノ方法如何ヲ問ハス記入セラレタル債主ノ員数ノ四名ニ足ラサル時ハ順序ノ規定ヲ求ムルコトヲ得ス
第七百五十条及ヒ第七百七十二条ニ定メタル期限ノ終リシ後順序ノ規定ヲ得ント欲スル者ハ第七百五十一条ニ定メタル法式ト期限トニ於テ協議上規定ノ予式ニ取掛ラシムル為メ特任裁判官ニ請願書ヲ差出シ又其アラサル時ハ裁判所長ニ請願書ヲ差出ス可シ
協議上ノ規定ヲ為サヽル時ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ノ請願ニ依リ本人又ハ住所ニ呼出状ヲ送達シタル上、理由ヲ附シタル請求書ノ外更ニ其他ノ訴訟手続ナク裁判所ニ於テハ簡略事件ニ於ケルカ如ク裁判ヲ為シテ代金ノ分配ヲ規定ス可シ○其裁判書ハ代書人ヲ撰定シタル時ハ其代書人ノミニ送達ス可シ
控訴ノ場合ニ於テハ第七百六十三条及ヒ第七百六十四条ニ記シタル如クニ処分ス可シ
第七百七拾四条 獲得者ハ記入ノ抜書ノ費用及記入セラレタル各債主ニ通報ノ費用ニ付テハ先取ヲ以テ之ヲ取戻スコトヲ得可キモノトス
第七百七拾五条 各債主ハ自己ノ負債者ノ権利ヲ保存スル為メニ記入ヲ為スコトヲ得可シ然レトモ其負債者ノ班位整定ノ金額ハ順序規定ノ終成ノ前ニ記入セラレタル各債主又ハ故障ヲ申立テタル各債主ノ間ニ動産ノ如ク之ヲ分配ス可シ
第七百七拾六条 若シ第七百五十三条、第七百五十五条ノ第二項及ヒ第七百六十九条ニ定メタル法式及ヒ期限ヲ遵守セサル場合ニ於テハ其訟求ノ手続ヲ為ス代書人ハ催促モナク又裁判モナクシテ訟求ヲ為スノ権利ヲ失フ可シ○裁判官ハ調書ニ記入シタル命令書ニ依リ職権上ニテ其代書人ノ引易ヲ為シ又ハ関係人ノ求メニ従ヒ其引易ヲ為ス可シ但シ其命令書ハ之ヲ取消サント訟求スルコトヲ得ス
又委任セラレタル代書人ノ第七百五十八条及ヒ第七百六十一条ニ依リ己レニ負ハシメラレタル義務ヲ履行セサル時ハ其代書人ニ関シテモ亦右ト同シカル可シ
訟求ヲ為スノ権利ヲ失ヒシ代書人ハ己レニ代リタル代書人ノ受取証書ト引換ニテ直チニ証拠物ヲ交付ス可ク而シテ順序規定ノ終成セシ後ニ非サレハ自己ノ費用ノ弁済ヲ受ク可カラサルモノトス
第七百七拾七条 強逼ノ所有権収奪ニ依レル糶売落札人ニシテ順序規定ノ終成前ニ記入ノ塗抹ヲ宣告セシメント欲スル者ハ予メ現実ノ供陳ヲ為スコトナク自己ノ代金ト弁済期限ニ至リタル利息トヲ附託セサルヲ得ス
若シ順序規定ノ未タ開始セラレサル時ハ其糶売落札人ハ第七百五十条ニ定メタル期限ノ終ル前ニ順序規定ノ開始ヲ求メサルヲ得ス○其糶売落札人ハ其請求ノ憑拠トシテ金額受託所ノ受取証書ヲ差出シ而シテ其附託ノ有効ナル事ト記入ノ塗抹トヲ宣告セシメント欲スル旨ヲ申述ス可シ
糶売落札人ハ第七百五十四条ニ定メタル証拠物差出シノ為メノ期限ノ終リシ時ヨリ八日内ニ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ニ依リ又差押ヘラレタル者カ代書人ヲ撰定セサル時ハ其差押ヘラレタル者ニ送達シタル呼出状ニ依リ其申述書ヲ査視シテ別段ノ理由アル時ハ十五日内ニ其申述書ヲ争論ス可キ旨ヲ催促ス可シ○右ノ期限内ニ争論セサル時ハ裁判官調書ニ記シタル命令書ヲ以テ其附託ノ有効ナル旨ヲ宣告シ且ツ代金上ニ於ケル其記入ノ効力ヲ保存シテ現ニ存在スル総テノ記入ノ塗抹ヲ宣告ス可シ○争論アル場合ニ於テハ順序規定ノ所為ヲ遅延スルコトナク裁判所ヨリ之ヲ裁定ス可シ
若シ又順序規定ノ既ニ開始セラレタル時ハ糶売落札人ハ附託ヲ為シタル後金額受託所ノ受取証書ヲ添ヘタル自己ノ代書人ノ署名セシ申立書ヲ以テ調書上ニ其申述ヲ為ス可シ○証拠物差出期限ノ終リシ後前ニ記シタル如クニ処分ス可キモノトス
強逼ノ所有権収奪ニ依レル所有権移転ヲ除クノ外其他ノ所有権移転ノ場合ニ於テ滌除ノ法式ヲ履行シタル後ニ金額附託ノ方法ニ依リ総テノ先取特権及ヒ書入質ノ確然タル釈免ヲ得ント欲スル所ノ獲得者ハ予メ現実ノ供陳ヲ為スコトナクシテ其金額ノ附託ヲ為ス可シ○之レカ為メ其獲得者ハ十五日内ニ現ニ存在スル記入ノ解除ノ証ヲ差出ス可キ旨ヲ売主ニ催促シ且ツ自己ノ附託セントスル金額ノ元金及ヒ利息ノ額ヲ売主ニ通知ス可シ○右期限ノ終リシ後其金額ノ附託ヲ為シ而シテ次キノ三日内ニ獲得者又ハ糶売落札人ハ金額受託所ノ受取証書ヲ差出シテ順序規定ノ開始ヲ求ム可シ○其獲得者又ハ糶売落札人ノ求メニ付テハ前ニ記シタル成規ニ従ヒ処分ス可キモノトス
第七百七拾八条 代金ノ附託ニ関スル総テノ争論ハ無効ノ罰款ニテ理由ヲ附シタル申立書ニ依リ調書上ニ之ヲ為ス可シ但シ裁判官ハ其争論者ヲ裁判所ニ移送ス可キモノトス
審問ハ理由ヲ附シタル請求書ノ外更ニ其他ノ訴訟手続ナク代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ以テ之ヲ訟求ス可シ然ル時ハ第七百六十一条、第七百六十二条、第七百六十四条ニ記シタル如クニ処分ス可キモノトス
代金中ニ於ケル費用ノ先収ハ糶売落札人又ハ獲得者ノ為メニ之ヲ宣告スルコトヲ得可シ
第七百七拾九条 順序規定ノ進行中ニ為ス所ノ過当ノ糶買ニ於ケル糶売落札又然ノミナラス確然ノ規定及ヒ明細書ノ交付ノ後ニ為ス所ノ過当ノ糶買ニ於ケル糶売落札ニ付テハ更ニ新タナル訴訟手続ヲ為サヽルモノトス○裁判官ハ糶売落札ノ成果ニ従ヒ班位整定ノ目録ヲ更改シ而シテ其明細書ヲ新タナル糶売落札人ニ対シテ執行ス可キモノト為ス可シ
○第拾五巻 禁錮
第七百八拾条 凡ソ拘留ハ之ヲ宣告シタル裁判書ヲ弁済ノ督促書ト共ニ送達シタル時ヨリ一日ノ後ニ非サレハ之ヲ執行ニ附スルコトヲ得ス
其送達ハ右ノ裁判書ニ依リ委任セラレタル使吏又ハ負債者所在ノ地ノ始審裁判所長ヨリ委任セラレタル使吏之ヲ為ス可シ
其送達状ニハ若シ債主ノ其裁判ヲ為セシ裁判所々在ノ邑内ニ居住セサル時ハ其邑内ニ於ケル住所撰定ノ旨ヲモ亦記載ス可シ
第七百八拾壱条 負債者ハ左ノ場合ニ於テハ逮捕スルコトヲ得サルモノトス
第一 日出前及ヒ日没後
第二 法律上ノ祭日
第三 礼拝ノ用ニ供シタル建築物ノ内ニ於テ礼拝ヲ行フノ際
第四 設置セラレタル官憲ノ集会場ニ於テ其集会ヲ為スノ際
第五 如何ナルモノタルヲ問ハス一箇ノ家屋内又然ノミナラス負債者ノ住所内」但シ其地ノ治安裁判官ヨリ一箇ノ家屋内ニ於テ負債者ヲ逮捕ス可キ旨ヲ命令シタル時ハ格別ニシテ此場合ニ於テハ治安裁判官裁判所附役員ト共ニ其家屋内ニ至リ又ハ警部一名ヲ代理トシテ委任セサルヲ得ス
第七百八拾弐条 負債者カ予審裁判官ノ面前又ハ始審裁判所又ハ控訴裁判所或ハ重罪裁判所ニ証人トシテ招喚セラレ而シテ護身ノ証票ノ所持人タル時ニ於テハ亦之ヲ逮捕スルコトヲ得ス
其護身ノ証票ハ予審裁判官又ハ証人ノ申立ヲ聴ク可キ始審裁判所ノ長又ハ控訴裁判所或ハ重罪裁判所ノ長ヨリ之ヲ附与スルコトヲ得可シ○検察官ノ意見申立ヲ聴クコトヲ必要トス
其護身ノ証票ニハ其効力ノ継続ス可キ期限ヲ規定ス可ク若シ然ラサル時ハ無効ナリトス
其護身ノ証票ニ拠リ負債者ハ其出席ノ為メニ定メラレタル日ニ於テモ又往返スルニ必要ナル時間ニ於テモ之ヲ逮捕スルコトヲ得ス
第七百八拾三条 禁錮ノ調書ニハ送達状ノ通常ノ法式ノ外第一ニ再度ノ弁済ノ督促書第二ニ債主ノ負債者ヲ拘留ス可キ邑内ニ居住セサル時ハ其邑内ニ於ケル住所ノ撰定ヲ記ス可シ但シ使吏ハ立会役二名ノ補助ヲ受ク可キモノトス
第七百八拾四条 弁済ノ督促ヨリ満一年ヲ経過シタル時ハ特ニ委任セラレタル使吏ヨリ更ニ再ヒ弁済ノ督促ヲ為ス可シ
第七百八拾五条 抗命ノ場合ニ於テハ使吏ハ逃走ヲ防キ及ヒ兵力ヲ請求スル為メ入リ口ニ番人ヲ置クコトヲ得可ク而シテ負債者ハ治罪法ノ成規ニ従ヒ其罪ヲ訴ヘラル可シ
第七百八拾六条 若シ負債者ノ至急審理ヲ為サント請求スル時ハ其逮捕ヲ為シタル地ノ始審裁判所長ノ面前ニ即時ニ之ヲ送致ス可ク而シテ其裁判所長ハ至急審理ヲ以テ裁定ス可キモノトス若シ又審問席ヲ開ク時刻外ニ於テ逮捕ヲ為シタル時ハ負債者ヲ裁判所長ノ家ニ送致ス可シ
第七百八拾七条 至急審理ニ於ケル命令書ハ使吏ノ調書ニ之ヲ記載シ而シテ即時ニ之ヲ執行ス可キモノトス
第七百八拾八条 若シ負債者ノ至急審理ヲ為サント請求セサル時又ハ至急審理ノ場合ニ於テ裁判所長ヨリ手続ヲ継続ス可キ旨ヲ命令シタル時ハ負債者ヲ其地ノ獄舎ニ送致ス可ク又其地ニ獄舎ノアラサル時ハ最近ノ地ノ獄舎ニ送致ス可シ若シ使吏及ヒ其他ノ各人ノ法律上ニテ拘留場ナリトシテ指定メタルモノニ非サル一箇ノ拘留場内ニ負債者ヲ送致シ又ハ収受シ又ハ引留メタル時ハ擅枉ノ収監ノ重罪ヲ犯シタリトシテ訴ヘラル可シ
第七百八拾九条 負債者ノ入獄状ニハ左ノ諸件ヲ表示ス可シ
第一 裁判書
第二 債主ノ姓名及ヒ住所
第三 若シ債主ノ其邑内ニ居住セサル時ハ其住所ノ撰定
第四 負債者ノ姓名、居所、職業
第五 少クトモ一月間ノ養料ノ附託
第六 負債者ニ宛テ送ル所ノ禁錮ノ調書及ヒ入獄状ノ写ノ記載○但シ其入獄状ハ使吏ノ署名ス可キモノトス
第七百九拾条 監守人又ハ獄監ハ逮捕ヲ許可スル裁判書ヲ自己ノ簿冊ニ登記ス可シ若シ使吏ノ其裁判書ヲ差出サヽル時ハ獄監其負債者ヲ収受シ及ヒ之ヲ入獄セシムルコトヲ否拒ス可キモノトス
第七百九拾壱条 債主ハ予メ養料ヲ附託ス可キモノトス○若シ負債者ノ釈放ニ付キ故障ヲ申立ツル者アル時ハ其故障申立人ノ承諾アルニ非サレハ養料ヲ取戻スコトヲ得ス
第七百九拾弐条 負債者ニ対シテ拘留ヲ執行スルノ権利ヲ有スル者ヨリ其負債者ノ釈放ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ○一箇ノ犯罪ノ被告人ナリトシテ逮捕セラレタル者ハ亦其釈放ニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得可シ而シテ其者ノ釈放ヲ宣告シテ其犯罪ニ付キ放免セラレタル時ト雖モ釈放ニ付テノ故障申立ノ効力ニ依リ之ヲ引留ム可キモノトス
第七百九拾三条 釈放ニ付テノ故障申立ノ為メニハ禁錮ノ為メ前ニ定メタル法式ヲ遵守ス可キモノトス然レトモ使吏ハ立会役ノ補助ヲ受クルコトナク又養料ノ附託シアルニ於テハ其釈放ニ付テノ故障申立人ハ養料ヲ附託スルコトヲ免セラル可シ
負債者ヲ禁錮セシメタル債主ハ釈放ニ付テノ故障申立人ニ対シ平等ノ部分ニ付キ養料ノ弁済ヲ分担セシムル為メ其負債者ノ拘留セラルヽ地ノ裁判所ニ上訴スルコトヲ得可シ
第七百九拾四条 前ニ定メタル法式ヲ遵守セサル時ハ負債者其禁錮ノ無効タル可キ旨ヲ訟求スルコトヲ得可ク而シテ其訟求ハ其拘留セラルヽ地ノ裁判所ニ之ヲ申告ス可シ若シ又其無効ト為スノ訟求カ本案ノ憑拠ニ基キタル時ハ裁判執行ノ裁判所ニ之ヲ申告ス可キモノトス
第七百九拾五条 如何ナル場合ニ於テモ其訟求ハ裁判官ノ許ニ依リ短キ期限ニ於テ之ヲ為シ且ツ呼出状ハ特ニ委任セラレタル使吏ヨリ入獄状ニ於テ撰定シタル住所ニ之ヲ送付スルコトヲ得可シ但シ其訴訟ハ検察官ノ意見申立ノ上簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁判ス可キモノトス
第七百九拾六条 如何ナル原由ノ為メニ禁錮ノ無効ヲ宣告シタルヲ問ハス其無効ハ釈放ニ付テノ故障申立ノ無効ヲ惹起セス
第七百九拾七条 禁錮ノ無効ナリト宣告セラレタル負債者ハ其出獄ノ時ヨリ少クトモ一日ノ後ニ非サレハ同一ノ負債ノ為メニ之ヲ逮捕スルコトヲ得ス
第七百九拾八条 負債者ハ獄監ノ手裏ニ其禁錮ノ原由タル金額ト逮捕ノ費用高トヲ附託スルニ依リ釈放ヲ受ク可シ
第七百九拾九条 若シ禁錮カ無効ナリト宣告セラレタル時ハ債主ハ負債者ニ対シテ損害賠償ヲ言渡サルヽコトアル可シ
第八百条 法律ニ従ヒ拘留セラレタル負債者ハ左ノ諸件ニ依リ其釈放ヲ受ク可シ
第一 其負債者ヲ拘留セシメタル債主ノ承諾及ヒ其釈放ニ付テノ故障申立人アル時ハ其故障申立人ノ承諾
第二 禁錮セシメタル債主並ニ釈放ニ付テノ故障申立人ニ対シテ負担シタル金額、弁済期限ニ至リタル利息、算定セラレタル費用高、禁錮ノ費用高ノ弁済又ハ附託及ヒ債主ノ附託シタル養料返還高ノ弁済又ハ附託
第三 財産譲給ノ利益
第四 債主ヨリ予メ養料ヲ附託セサル事
第五 負債者ノ其七十歳ニ掛リテ且ツ此最後ノ場合ニ於テ其負債者ノ仮冒售売者タラサル時
第八百壱条 負債者ノ出獄ニ付テノ承諾ハ公証人ノ面前ニ於テ之ヲ附与スルコトヲ得又ハ入獄状ノ簿冊上ニ於テ之ヲ附与スルコトヲ得可シ
第八百弐条 負債全額ノ附託ハ之ヲ命令セシムルヲ要セスシテ獄監ノ手裏ニ之ヲ為ス可シ若シ獄監ノ否拒スル時ハ許可ニ依リ其地ノ裁判所ニ短キ期限ニテ呼出ス可キモノトス但シ其呼出状ハ特ニ委任セラレタル使吏ヨリ之ヲ送付ス可シ
第八百三条 養料ヲ附託セサルカ為メノ釈放ハ獄監ヨリ交付シタル養料ヲ附託セサルノ保証書ニ拠リ之ヲ命令ス可シ但シ其保証書ハ予メ催促ヲ為スコトナクシテ裁判所長ニ呈出シタル請願書ニ添ヘ置ク可キモノトス
若シ然レトモ養料ヲ附託スルコトヲ遅延シタル債主カ負債者ノ其釈放ノ訟求ヲ為ス前ニ附託ヲ為シタル時ハ最早其訟求ヲ受理ス可カラサルモノトス
第八百四条 若シ養料ヲ附託セサルカ為メニ釈放ヲ命令シタル時ハ債主ハ負債者ニ其釈放ヲ得ル為メニ為シタル費用ヲ償還シ又負債者ノ否拒ニ於テハ書記ノ手裏ニ之ヲ附託シ且ツ予メ六月間ノ養料ヲモ亦附託スルニ非サレハ更ニ再ヒ其負債者ヲ禁錮セシムルコトヲ得ス但シ弁済ノ督促ヨリ一年内ニ禁錮ヲ為ス時ハ其禁錮以前ノ法式ヲ再ヒ始ムルニ及ハサルモノトス
第八百五条 釈放ノ訟求ハ負債者ノ拘留セラルヽ地ヲ管轄スル裁判所ニ之ヲ申告ス可シ○其訟求ハ特ニ差出シタル請願書ヲ以テ裁判官ノ許ニ拠リ短キ期限ニテ其入獄状ニ撰定シタル住所ニ之ヲ為ス可シ但シ其訟求ハ検察官ニ通報シ猶予ナク又訴訟審理順番帳ノ順序ナク総テ其他ノ訴訟ヨリ先キニ審理ノ手続ナクシテ第一次ノ審問席ニ於テ之ヲ裁判ス可シ
○第拾六巻 至急審理
第八百六条 凡ソ至急ナルヲ要スル場合ニ於テ又ハ執行ス可キ証券或ハ裁判ノ執行ニ関スル紛争ニ付キ仮リニ裁定ス可キ時ハ後ニ規定スル如クニ処分ス可キモノトス
第八百七条 其訟求ハ始審裁判所ヨリ指示シタル日時ニ於テ其裁判所長又ハ之ニ代ハル所ノ裁判官ノ開キタル審問席ニ之ヲ申告ス可シ
第八百八条 若シ然レトモ其場合カ迅速ナルヲ要スル時ハ裁判所長又ハ之ニ代理スル者ハ審問席ニ於ケルト其居宅ニ於ケルトヲ問ハス指示セラレタル時刻ニ於テ呼出スコトヲ許ルシ又然ノミナラス祭日ニ於テモ呼出スコトヲ許ルスヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ裁判官ノ命令書ニ拠ルニ非サレハ呼出状ヲ附与スルコトヲ得スシテ裁判官ハ之レカ為メ特ニ使吏ヲ委任ス可キモノトス
第八百九条 至急審理ニ於ケル命令書ハ主タル訴訟ニ如何ナル害ヲモ及ホサヽルモノトス但シ裁判官ヨリ保証人ヲ立ツ可キ旨ヲ命令シタル時ノ外ハ保証人ナクシテ仮リニ其命令書ヲ執行ス可シ
其命令書ニ付テハ故障ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
法律上ニテ控訴ヲ允許スル所ノ場合ニ於テハ裁判ノ日ヨリ八日ノ期限ニ至ラサル前ト雖モ其控訴ヲ為スコトヲ得可シ而シテ其控訴ハ裁判書ノ送達ノ日ヨリ十五日ノ後ニ至リ之ヲ為シタル時ハ受理ス可カラサルモノトス
其控訴ハ簡略ノ方法ヲ用ヒ訴訟手続ナク之ヲ裁判ス可シ
第八百拾条 至急審理ニ於ケル命令書ノ細字ノ正本ハ之ヲ書記局ニ納ム可シ
第八百拾壱条 極メテ必要ナル場合ニ於テハ裁判官細字ノ正本ニ拠リ其命令書ノ執行ヲ命令スルコトヲ得可シ
○第弐部 種々ノ訴訟手続
○第壱編
○第壱巻 弁済ノ供陳及ヒ附託
第八百拾弐条 凡ソ供陳ノ調書ニハ其供陳スル所ノ物品ヲ指定シ更ニ他ノ物品ヲ以テ之ニ代ユルコトヲ得サラシム可ク若シ又種品ヲ供陳シタル時ハ調書ニ其算数ト品質トヲ記載ス可シ
第八百拾三条 其調書ニハ債主ノ其供陳ヲ否拒スルヤ又ハ受諾スルヤノ答詞ヲ記載シ及ヒ其之ニ署名シタルヤ又ハ署名スルコトヲ否拒シタルヤ或ハ署名スルコト能ハサル旨ヲ申述シタルヤヲ記載ス可シ
第八百拾四条 若シ債主ノ其供陳ヲ否拒スル時ハ負債者其釈免ヲ得ル為メ民法第千二百五十九条ニ定メタル法式ヲ遵守シテ其渡サント供陳シタル金額又ハ物件ヲ附託スルコトヲ得可シ
第八百拾五条 供陳又ハ附託ヲ有効ノモノト為スコト若クハ無効ノモノト為スコトノ為メニ起スヲ得可キ訟求ハ主タル訟求ノ為メニ設定シタル規則ニ従ヒ之ヲ為ス可シ若シ其訟求カ附帯ノモノタル時ハ請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第八百拾六条 供陳ヲ有効ナリト宣告スル裁判ニハ未タ附託ヲ為サヽル場合ニ於テ若シ債主ノ其供陳セラレタル金額又ハ物件ヲ収受セサル時ハ之ヲ附託ス可キ旨ヲ命令ス可シ又其裁判ニハ実行ノ日ヨリ以来利息ヲ止息ス可キ旨ヲ宣告ス可シ
第八百拾七条 任意ノ附託又ハ命令セラレタル附託ハ払渡差止ノ存在スルニ於テハ常ニ必ス其差止ヲ受ケタル侭ニテ之ヲ為スモノトス但シ其払渡差止ハ之ヲ債主ニ通報ス可シ
第八百拾八条 右ニ記シタル以外ノ諸件ハ弁済ノ供陳及ヒ附託ニ関スル民法ノ成規ニ依テ之ヲ規定ス可シ
○第弐巻 家屋賃借人及ヒ土地賃借人ノ動産、品物及ヒ果実ニ付テノ所有者ノ権利即チ抵保物差押及ヒ地外ノ負債者ノ財産差押
第八百拾九条 家屋又ハ田野財産ノ所有者及ヒ主タル賃借人ハ賃貸証書ノ有無ヲ問ハス弁済ノ督促ヨリ一日ノ後ニ裁判官ノ許ナクシテ既ニ弁済期限ニ至リタル家屋ノ貸賃及ヒ土地ノ貸賃ノ為メ右ノ家屋又ハ田野ノ建造物及ヒ土地ニ在ル所ノ品物及ヒ果実ヲ抵保トシテ差押ヘシムルコトヲ得可シ
又然ノミナラス家屋又ハ田野財産ノ所有者及ヒ主タル賃借人ハ請願ノ上始審裁判所長ヨリ得タル許可ニ拠リ即時ニ右ノ抵保物差押ヲ為サシムルコトヲ得可シ
又家屋又ハ田野財産ノ所有者及ヒ主タル賃借人ハ其家屋又ハ土地ニ具備シタル動産ヲ自己ノ承諾ナクシテ移動シタル時ハ亦其動産ヲ差押ユルコトヲ得可シ而シテ其各人ハ民法第二千百二条ニ従ヒ其動産取戻ノ訴ヲ為シタルニ於テハ其動産ニ付キ自己ノ先取特権ヲ保存スルモノトス
第八百弐拾条 土地転借人及ヒ家屋転借人ノ占居スル場所ニ具備シタル其転借人ノ品物及ヒ其転借シタル土地ノ果実ハ其転借人ニ貸シタル家屋賃借人又ハ土地賃借人ノ負担シタル家屋ノ貸賃及ヒ土地ノ貸賃ノ為メ抵保トシテ差押ユルコトヲ得可シ然レトモ土地転借人及ヒ家屋転借人ハ詐欺ナクシテ弁済シタル旨ヲ証明スルニ依リ差押ノ解除ヲ得可キモノトス但シ右ノ転借人ハ時期ニ先ンシテ為シタル弁済ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第八百弐拾壱条 抵保物差押ハ動産差押ト同一ノ法式ヲ以テ之ヲ為ス可クシテ其差押ヘラレタル者ヲ監守人ト為スコトヲ得可シ而シテ若シ果実ノアル時ハ其抵保物差押ハ前篇第九巻ニ定メタル法式ヲ以テ之ヲ為ス可キモノトス
第八百弐拾弐条 各債主ハ仮令証券ナキモノト雖トモ予メ弁済ノ督促ヲ為スコトナク唯始審裁判所長又然ノミナラス治安裁判官ノ許可ヲ得テ其地外ノ負債者ニ属スル品物ニシテ自己ノ住スル邑内ニ在ルモノヲ差押ヘシムルコトヲ得可シ
第八百弐拾三条 差押人ハ右品物ノ自己ノ手裏ニアルニ於テハ其監守人タル可ク若シ然ラサル時ハ監守人ヲ設置ス可シ
第八百弐拾四条 本巻ニ表示シタル差押ノ有効ナリト宣告セラレタル後ニ非サレハ其差押ノ上ニテ売払ニ取掛ルコトヲ得ス而シテ第八百二十一条ノ場合ニ於テハ差押ヘラレタル者、第八百二十三条ノ場合ニ於テハ差押人又監守人ヲ設置シタル時ハ其監守人ハ拘留ノ方法ヲ以テ品物ヲ差出ス可キ旨ヲ言渡サル可シ
第八百弐拾五条 右ノ外動産差押、売払及ヒ金額分配ノ為メ前ニ定メタル規則ヲ遵守ス可シ
○第三巻 取戻差押
第八百弐拾六条 凡ソ請願ノ上ニテ為シタル始審裁判所長ノ命令ニ拠ルニ非サレハ如何ナル取戻差押ニモ取掛ルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其本人ト差押ニ取掛リタル使吏トニ対シテ損害賠償ヲ言渡ス可キモノトス
第八百弐拾七条 凡ソ取戻差押ノ為メノ請願書ニハ簡略ニ其品物ヲ指定ス可シ
第八百弐拾八条 裁判官ハ仮令法律上ノ祭日タリトモ取戻差押ヲ許ルスコトヲ得可シ
第八百弐拾九条 若シ取戻サント欲スル品物所在ノ家屋ノ者カ入リ口ヲ開クコトヲ否拒シ又ハ差押ニ付キ故障ヲ申立ツル時ハ裁判官ニ至急審理ヲ求ム可シ然レトモ此場合ニ於テハ差押ヲ延ハス可キモノトス但シ請求者ハ入リ口ニ番人ヲ置クコトヲ得可シ
第八百三拾条 取戻差押ハ動産差押ト同一ノ法式ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其取戻差押ヲ為サルヽ家屋ノ者ヲ監守人ト為スコトヲ得ルハ此限ニアラス
第八百三拾壱条 其差押ヲ有効ノモノト為スノ訟求ハ其差押ヲ受クル者ノ住所ノ裁判所ニ之ヲ申告ス可ク若シ其訟求カ既ニ審理中ノモノタル一箇ノ訴訟ニ牽連シタル時ハ其訴訟ヲ掌轄スル裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
○第四巻 任意ノ所有権移転ノ上ノ増糶買
第八百三拾弐条 民法第二千百八十三条及ヒ第二千百八十五条ニ定メタル送達及ヒ請求ハ単純ナル請願書ヲ差出シタル上其送達及ヒ請求ヲ為ス郡ノ始審裁判所長ヨリ特ニ委任シタル使吏之ヲ為ス可シ但シ其送達書及ヒ請求書ニハ増糶買及ヒ順序規定ノ訟求ヲ申告ス可キ裁判所ニ於ケル代書人ノ撰定ヲ記ス可キモノトス
糶売ニ附スルコトヲ請求スル証書ニハ保証人ヲ立ツルノ供陳及ヒ其保証人ノ指示ト共ニ其保証人ノ容受ノ為メ三日ノ期限ニ於ケル裁判所ヘノ呼出ヲ記ス可シ但シ其保証人ノ容受ニ付テハ簡略事件ニ於ケルカ如クニ処分ス可キモノトス○其呼出状ハ撰定セラレタル代書人ノ住所ニ送達シ且ツ之ト同時ニ保証人ノ約務ノ証書及ヒ其負債弁償ノ資力アル旨ヲ証明スル証券ヲ書記局ニ差出シタルノ証書ノ写ヲ送付ス可シ
若シ増糶買人ノ民法第二千四十一条ニ従ヒ保証人ノアラサルニ依リ金円又ハ国債証券ヲ質入トシテ附与スル場合ニ於テハ其呼出状ト共ニ右質入ノ実行ヲ証明スル証書ノ写ヲ送達セシム可シ
若シ保証人ノ棄却セラレタル時ハ其増糶買ハ無効ナリト宣告セラレ而シテ獲得者ハ保存セラル可シ但シ他ノ債主ヨリ更ニ他ノ増糶買ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第八百三拾三条 前第八百三十二条ノ文面ニ従ヒ呼出ト共ニ増糶買ヲ通知シタル時ハ記入セラレタル各債主ハ若シ其増糶買人又ハ新タナル所有者ノ其増糶買ノ時ヨリ一月内ニ訴訟ヲ継続セサルニ於テハ其訟求ノ手続ニ付キ代替スルノ権利ヲ有スルモノトス
其代替ハ参渉ニ於ケル単純ナル請願書ヲ以テ之ヲ訟求シ而シテ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ之ヲ通報ス可シ
若シ訟求手続ノ進行中ニ其訟求ノ手続ヲ為ス者ノ方ニ於テ通謀、詐欺又ハ懈怠ノアリタル時ハ右ニ同シキ代替ノ権利ハ記入セラレタル各債主ノ利益ニ於テ開始セラルヽモノトス
前ニ記シタル何レノ場合ニ於テモ其代替ハ増糶買人ノ危険ニ於テ之ヲ為ス可シ但シ其増糶買人ノ保証人ハ従前ノ侭義務ヲ負フ可キモノトス
第八百三拾四条 民法第二千百二十三条、第二千百二十七条及ヒ第二千百二十八条ノ文面ニ依リ書入質ノ権利ヲ有スル各債主カ其書入質ト為サレタル不動産ノ其後ニ為シタル所有権移転ノ前ニ自己ノ証券ヲ記入セシメサル時ハ其所有権移転ノ証書以後ニ於テ其証書ノ登記ヨリ遅クトモ十五日内ニ為シタル記入ヲ証明スルニ非サレハ民法第三篇第十八巻第八章ノ成規ニ従ヒ糶売ニ附スルコトヲ請求スルヲ許サス
不動産ニ付キ先取特権ヲ有スル各債主ニ関シテモ亦右ト同一ナリトス但シ民法第二千百八条及ヒ第二千百九条ニ依リ売主及ヒ相続人ノ為メニ生スル所ノ其他ノ権利ト相触ルヽコトナカル可シ
第八百三拾五条 前条ノ場合ニ於テ新タナル所有者ハ証書ノ登記以前ニ記入ヲ為サヽル各債主ニ民法第二千百八十三条及ヒ第二千百八十四条ニ定メタル送達ヲ為スニ及ハス又如何ナル場合ニ於テモ各債主ノ其定メラレタル期限及ヒ法式ニ於テ糶売ニ附スルコトヲ請求セサル時ハ其新タナル所有者ハ民法第二千百八十六条ニ従ヒ代金ノ弁済ノミヲ負担ス可キモノトス
第八百三拾六条 民法第二千百八十七条ニ定メタル糶売ニ於ケル再売ヲ為ス為メニハ訟求ノ手続ヲ為ス者左ノ諸件ヲ記スル所ノ貼附書ヲ印刷セシム可シ
第一 増糶買ヲ為スノ基本タル所有権移転ノ証書ノ日附及ヒ性質、其証書ヲ作リタル公証人ノ姓名又ハ其証書ノ作為ニ召喚セラレタル各役員ノ姓名
第二 売払ニ関スル時ハ証書ニ表示シタル代金又交換或ハ贈与ニ関スル時ハ記入セラレタル各債主ヘノ通知書中ニ於テ不動産ニ附与シタル見債リ代価
第三 増糶買ノ金額
第四 以前ノ所有者、獲得者又ハ受贈者並ニ増糶買人及ヒ第八百三十三条ノ場合ニ於テハ其増糶買人ニ代替シタル債主ノ姓名、職業、住所
第五 所有権ヲ移転シタル財産ノ性質及ヒ所在地ノ簡略ナル指示
第六 訟求ノ手続ヲ為ス者ノ撰定シタル代書人ノ姓名及ヒ居所
第七 増糶買ヲ訟求スル裁判所並ニ糶売入札ノ日、場所及ヒ時ノ指示
右ノ貼附書ハ糶売入札ノ時ヨリ少クトモ十五日多クトモ三十日前ニ以前ノ所有者ノ住所ノ入リ口ト此法典第六百九十九条ニ指定シタル場所トニ之ヲ貼附ス可シ
右ニ同シキ期限内ニ前ニ列記シタル表示ヲ第六百九十六条ニ拠リ指定シタル新聞紙ニ記入シ且ツ其諸件ヲ第六百九十八条及ヒ第六百九十九条ニ記シタル如クニ証明ス可シ
第八百三拾七条 糶売入札ノ時ヨリモ少クトモ十五日多クトモ三十日前ニ以前ノ所有者ト新タナル所有者トニ其指示セラレタル場所ト日時トニ於テ其糶売入札ニ立会フ可キノ催促ヲ為ス可シ○若シ新タナル所有者又ハ代替シタル他ノ債主カ訟求ノ手続ヲ為ス時ハ増糶買ヲ為ス債主ニモ右ニ同シキ催促ヲ為ス可シ
右ニ同シキ期限内ニ所有権移転ノ証書ヲ書記局ニ差出シ而シテ其証書ハ糶売証書ノ細字ノ正本ニ代用ス可キモノトス
其証書ニ記載シタル代金又ハ申述セラレタル代価及ヒ増糶買ノ金額ハ糶売ノ見積リ代価ニ代用ス可キモノトス
第八百三拾八条 増糶買人ハ訟求ノ手続ニ付キ代替ノ場合ニ於テモ若シ其糶売入札ノ為メニ定メタル日ニ於テ更ニ他ノ糶買人ノ出テ来ラサル時ハ之ヲ糶売落札人ナリト宣告ス可シ○増糶買ノ場合ニ於テハ此法典第七百一条、第七百二条、第七百五条、第七百六条、第七百七条、第七百十一条、第七百十二条、第七百十三条、第七百十七条、第七百三十一条、第七百三十二条、第七百三十三条並ニ過当ノ糶買ニ関スル第七百三十四条以下ヲ適用ス可キモノトス
第七百五条及ヒ第七百六条、第八百三十二条、第八百三十六条、第八百三十七条ニ定メタル法式ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ然ラサレハ無効タル可シ
其無効ハ増糶買ノ申述及ヒ呼出ニ関スル所ノモノハ保証人ノ容受ニ付キ裁定ス可キ裁判ノ前ニ之ヲ申立ツ可ク又売払ニ附スル事ノ法式ニ関スル所ノモノハ糶売入札ヨリ少クトモ三日前ニ之ヲ申立ツ可ク若シ然ラサル時ハ其申立ヲ為スノ権利ヲ失フモノトス○右ノ中初メニ記シタル無効ノ申立ニ付テハ保証人容受ノ裁判ヲ以テ之ヲ裁定ス可ク又其他ノ無効ノ申立ニ付テハ糶売落札ノ前又成ル可キ丈ハ其糶売落札ノ裁判ヲ以テ之ヲ裁定ス可シ
任意ノ所有権移転ノ上ノ増糶買ノ事項ニ於ケル上等又ハ下等裁判所ノ缺席裁判ハ如何ナルモノタリトモ故障ヲ申立ツルコトヲ得サルモノトス
保証人ノ容受以前ノ無効ニ付キ又ハ其保証人ノ容受ニ付キ裁定スル所ノ裁判及ヒ通謀或ハ詐欺ノ為メニ起シタル代替ニ於ケル訟求ニ付キ宣告スル所ノ裁判ノミハ控訴ノ方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得可キモノトス
任意ノ所有権移転ノ上ノ増糶買ニ依レル糶売落札ニ付テハ更ニ他ノ増糶買ヲ為スコトヲ得サルモノトス
任意ノ所有権移転ノ上ノ増糶買ニ依レル糶売落札ノ効力ハ売主及ヒ糶売落札人ニ関シテハ前第七百十七条ノ成規ニ依テ之ヲ規定ス可シ然レトモ増糶買ニ依レル糶売落札ノ裁判ノ後ニ於テハ若シ法律上ノ書入質ノ滌除ヲ為サヽリシ時ハ任意ノ所有権移転ノ場合ニ於ケルカ如クニ其滌除ヲ為シ而シテ法律上ノ書入質ノ権利ヲ有スル各債主ノ権利ハ第七百七十二条ノ末項ニ依テ之ヲ管理ス可キモノトス
○第五巻 一箇ノ証書ノ副本又ハ写ヲ得ル為メ又ハ之ヲ造リ直サシムル為メニ行フ可キ方法
第八百三拾九条 直接ノ名前ニ於ケル関係各人又ハ相続人或ハ承権人ニ一箇ノ証書ノ副本又ハ写ヲ交付スルコトヲ否拒スル所ノ公証人又ハ其他ノ受託者ハ勧解ノ予式ナク始審裁判所長ノ許ニ拠リ附与シタル短キ期限ニ於ケル呼出ノ上拘留ノ方法ヲ以テ其副本又ハ写ヲ交付ス可キ旨ヲ言渡サル可シ
第八百四拾条 其訴訟ハ簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁判シ而シテ其裁判ハ故障ノ申立又ハ控訴ニ拘ハラス之ヲ執行ス可シ
第八百四拾壱条 簿冊ニ登記セサル一箇ノ証書又ハ然ノミナラス不完全ノモノタル一箇ノ証書ノ写ヲ得ント欲スル者ハ始審裁判所長ニ其請願書ヲ呈出ス可シ但シ此場合ニ於テハ簿冊登記ニ関スル法律及ヒ規則ヲ執行ス可キモノトス
第八百四拾弐条 其交付ハ別段ノ理由アルニ於テハ請願書ノ末ニ記シタル命令書ニ拠リ之ヲ為ス可ク而シテ其交付シタル写ノ末ニ其旨ヲ附記ス可シ
第八百四拾三条 公証人又ハ受託者ノ方ニ於ケル否拒ノ場合ニ於テハ始審裁判所長ニ其至急審理ヲ求ム可シ
第八百四拾四条 一箇ノ証書ノ細字正本ノ第二次ノ大字副本ヲ交付セシメ若クハ差出シタル大字副本ニ拠リ写ノ体裁ニテ第二次ノ大字副本ヲ交付セシメント欲スル者ハ之レカ為メ始審裁判所長ニ請願書ヲ差出ス可ク而シテ此事ニ付キ為ス所ノ命令ニ拠リ右ノ者ヨリ公証人エ其指示セラレタル日時ニ於テ交付ヲ為ス可キ旨ヲ催促シ又関係各人ニ其交付ノ席ニ立会フ可キ旨ヲ催促ス可シ但シ第二次ノ大字副本ノ末ニ右ノ命令ヲ記載ス可ク若シ又一部分債権ヲ弁償シ又ハ一部分之ヲ譲渡シタル時ハ其執行スルコトヲ得可キ金額ヲモ亦記載ス可キモノトス
第八百四拾五条 争論ノ場合ニ於テハ双方ノ者ハ至急審理ヲ受クル為メニ上訴ス可キモノトス
第八百四拾六条 一箇ノ訴訟ノ進行中ニ其己レノ関係セサリシ証書ノ副本又ハ抜書ヲ交付セシメント欲スル者ハ後ノ数条ニ規定スルカ如クニ上訴ス可シ
第八百四拾七条 己レノ関係セサリシ証書ノ副本又ハ抜書ヲ得ル為メノ訟求ハ代書人ヨリ代書人ヘノ請願書ヲ以テ之ヲ為ス可シ但シ其訟求ハ単純ナル証書ニ拠リ之ヲ審問席ニ申告シ而シテ如何ナル訴訟手続ヲモ為スコトナク簡略ノ方法ヲ以テ裁判ス可キモノトス
第八百四拾八条 其裁判ハ控訴又ハ故障ノ申立ニ拘ハラス執行ス可キモノトス
第八百四拾九条 訴訟ヲ為ス者ノ関係セサリシ証書ノ副本又ハ抜書ヲ交付スルノ調書又ハ対校ノ調書ハ其公証人又ハ受託者ニ於テ之ヲ作リ而シテ其副本又ハ写ヲ交付ス可シ但シ之ヲ命令シタル裁判所ヨリ其職員中ノ一名ヲ委任シ又ハ総テ其他ノ始審裁判所裁判官一名ヲ委任シ又ハ他ノ公証人一名ヲ委任シタル時ハ格別ナリトス
第八百五拾条 如何ナル場合ニ於テモ関係各人ハ其調書ニ立会ヒ且ツ其適当ナリト思考スル所ノ申立ヲ其調書ニ記入スルコトヲ得可シ
第八百五拾壱条 若シ証書ノ細字正本ノ費用及ヒ立替金ヲ其受託者ニ対シテ負担シタル時ハ其受託者ハ副本ノ費用ノ外ニ右ノ費用ノ弁済ヲ受ケサル間ハ副本ヲ交付スルコトヲ否拒スルヲ得可シ
第八百五拾弐条 関係各人ハ其副本又ハ写ヲ細字正本ト対校スルコトヲ得可クシテ受託者ハ其細字正本ヲ読上ク可キモノトス若シ関係各人ニ於テ細字正本ト其副本又ハ写ト相符合セサル旨ヲ称言スル時ハ調書ニ指示シタル日ニ於テ裁判所長ニ至急審理ヲ求メ而シテ裁判所長ハ其対校ヲ為ス可シ但シ之レカ為メ受託者ハ其細字正本ヲ持参ス可キモノトス
調書ノ費用並ニ受託者ノ出張ノ費用ハ請求者ヨリ之ヲ立替ユ可シ
第八百五拾三条 裁判所ノ書記及ヒ公ケノ簿冊ノ受託者ハ裁判所ノ命令ナクシテ其公ケノ簿冊ノ副本、写又ハ抜書ヲ各個ノ請求者ニ交付ス可ク而シテ其書記及ヒ受託者ハ之レカ謝金ヲ受ク可キモノトス若シ右各人ノ此規則ニ背ク時ハ費額ノ弁償及ヒ損害ノ賠償ヲ言渡サル可シ
第八百五拾四条 裁判書ノ第二次ノ執行ス可キ副本ハ其裁判ヲ為シタル裁判所ノ長ノ命令ニ拠ルニ非サレハ同一ノ者ニ之ヲ交付ス可カラス
此事ニ付テハ公証人ノ面前ニ於テ作リタル証書ノ第二次ノ大字ノ副本ノ交付ニ付キ定メタル法式ヲ遵守ス可キモノトス
第八百五拾五条 身分証書ノ改正ヲ命令セシメント欲スル者ハ其請願書ヲ始審裁判所長ニ差出ス可シ
第八百五拾六条 其請願ニ付テハ報告ノ上且ツ検察官ノ意見申立ノ上ニテ之ヲ裁定ス可シ○裁判官ハ若シ其相当ナリト思考スル時ハ関係各人ヲ招喚ス可ク又親族会議ヲ予メ招集ス可キ旨ヲ命令ス可シ
若シ関係各人ヲ招喚ス可キ時ハ勧解ノ予式ナク送達状ヲ以テ其訟求ヲ為ス可シ
若シ其関係各人ノ既ニ訴訟ヲ為スニ於テハ代書人ノ証書ヲ以テ其訟求ヲ為ス可シ
第八百五拾七条 如何ナル改正又ハ如何ナル変更タリトモ証書上ニ之ヲ為スコトヲ得ス身分取扱役ハ其改正ノ裁判書ヲ受取リタル時直チニ之ヲ簿冊ニ記入シ且ツ改正シタル証書ノ端ニ其裁判書ヲ記載ス可シ而シテ其証書ハ命令セラレタル改正ヲ附スルニ非サレハ最早之ヲ交付ス可カラス若シ之ニ背ク時ハ其証書ヲ交付シタル身分取扱役ニ対シテ総テノ損害賠償ヲ言渡ス可キモノトス
第八百五拾八条 改正ニ於ケル原告人ヨリ更ニ他ノ訴訟人アラサル場合ニ於テ其原告人ノ裁判ニ付キ不服ヲ申立ツ可キノ道理アリト思考スル時ハ其原告人ハ右裁判ノ日附ヨリ三月内ニ控訴裁判所長ニ請願書ヲ差出シテ控訴裁判所ニ上訴スルコトヲ得可シ但シ検察官ノ意見申立ノ上審問席ニ於テ裁定ヲ為ス可キ日ヲ其請願書ニ指示ス可キモノトス
○第六巻 失踪者ノ財産ノ占有ヲ得ルコトニ関スル或ル成規
第八百五拾九条 民法第百十二条ニ定メタル場合ニ於テハ其裁定ヲ為サシムル為メ裁判所長ニ請願書ヲ呈出ス可シ○其請願書ニ証拠物及ヒ証書ヲ添ヘテ之ヲ呈出シタル上ニテ裁判所長ハ其指示セラレタル日ニ報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任ス可シ而シテ其裁判ハ検事ノ意見ヲ聴キタル後之ヲ宣告ス可キモノトス
第八百六拾条 民法第百二十条ニ依リ許可セラレタル仮リノ占有ヲ得ル事ニ関スル場合ニ於テモ亦右ニ同シク処分ス可シ
○第七巻 婚姻シタル婦ノ許可
第八百六拾壱条 婦ノ其夫ニ催促ヲ為シタル後夫ノ否拒ノ上ニテ自己ノ権利ノ訟求ニ付キ許可ヲ得ント欲スル時ハ裁判所長ニ請願書ヲ差出ス可シ而シテ裁判所長ハ夫ヲシテ其否拒ノ原由ヲ弁明セシムル為メ指示セラレタル日ニ於テ裁判官会議室ニ其夫ヲ呼出ス旨ヲ許ルス命令書ヲ発ス可キモノトス
第八百六拾弐条 夫ノ申立ヲ聴キタル上又ハ夫ノ出席ヲ為サヽル上ニテ検察官ノ意見申立ニ拠リ婦ノ訟求ニ付キ裁定スル所ノ裁判ヲ為ス可シ
第八百六拾三条 夫ノ思量セラレタル失踪ノ場合又ハ其失踪ヲ公告シタル場合ニ於テハ自己ノ権利ノ訟求ニ付キ許可ヲ得ント欲スル婦ハ亦右ニ同シク裁判所長ニ請願書ヲ差出ス可シ而シテ裁判所長ハ検察官ヘノ通報ヲ命令シ且ツ其指示シタル日ニ於テ報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任ス可キモノトス
第八百六拾四条 治産禁ヲ受ケタル者ノ婦ハ前条ニ定メタル法式ヲ以テ許可ヲ受クルコトヲ得可ク而シテ其婦ハ自己ノ請願書ニ治産禁ノ裁判書ヲ添ユ可シ
○第八巻 財産ノ離分
第八百六拾五条 如何ナル財産離分ノ訟求ト雖モ予メ許可ヲ受ケタル上ニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ス但シ其許可ハ之レカ為メ特ニ裁判所長ニ呈出シタル請願書ニ拠リ裁判所長ヨリ之ヲ附与ス可キモノトス○然レトモ裁判所長ハ其許可ヲ附与スル前ニ自己ノ相当ナリト思考スル所ノ注意ヲ為スコトヲ得可シ
第八百六拾六条 裁判所ノ書記ハ聴訟席ニ特ニ備ヘ置キタル帖上ニ遅延ナク分離ニ於ケル訟求書ノ抜書ヲ記入ス可シ但シ其抜書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可キモノトス
第一 訟求ノ日附
第二 夫婦ノ姓名、職業、居所
第三 撰定セラレタル代書人ノ姓名及ヒ居所但シ其代書人ハ之レカ為メ訟求ノ時ヨリ三日内ニ右ノ抜書ヲ書記ニ渡ス可キモノトス
第八百六拾七条 商事裁判所々在ノ地ニ於テハ其裁判所ノ聴訟席又始審裁判所代書人局及ヒ公証人局所在ノ地ニ於テハ此等ノ局ニ特ニ備ヘ置キタル帖上ニ右ニ同シキ抜書ヲ記入ス可シ但シ其記入ハ裁判所ノ書記及ヒ右各局ノ書役ニ於テ之ヲ保証ス可キモノトス
第八百六拾八条 右ト同一ノ抜書ヲ婦ノ訟求ニ依リ裁判所々在ノ地ニ於テ印刷スル所ノ新聞紙中ノ一箇ニ記入ス可ク又其地ニ於テ印刷スル新聞紙アラスシテ其州内ニ於テ印刷スル新聞紙アル時ハ其州内ノ新聞紙中ノ一箇ニ之ヲ記入ス可シ
右ノ記入ハ不動産差押ノ巻第六百九十六条ニ記シタル如クニ之ヲ証明ス可シ
第八百六拾九条 離分ニ於ケル訟求ニ付テハ権利保存ノ為メノ所為ヲ除クノ外前ニ定メタル法式ヲ遵守シタル時ヨリ一月ノ後ニ非サレハ如何ナル裁判ヲモ宣告スルコトヲ得ス但シ其法式ハ必ス之ヲ遵守ス可ク若シ然ラサル時ハ無効タル可シ而シテ夫又ハ其債主ヨリ其無効ヲ以テ対抗スルコトヲ得可キモノトス
第八百七拾条 夫ノ自認ハ仮令債主ノアラサル時ト雖トモ証拠ヲ為サヽルモノトス
第八百七拾壱条 夫ノ債主ハ確定ノ裁判アルニ至ル迄ハ代書人ヨリ代書人ヘノ証書ヲ以テ婦ノ代書人ニ其離分ニ於ケル訟求書及ヒ証明ノ為メノ証拠物ヲ通知伝観セシム可キ旨ヲ催促シ又然ノミナラス勧解ノ予式ナクシテ自己ノ権利ノ保存ノ為メニ参渉スルコトヲ得可シ
第八百七拾弐条 離分ノ裁判書ハ其地ニ商事裁判所ノアルニ於テハ其商事裁判所ノ審問席ヲ開キタル際公ケニ之ヲ読上ク可シ而シテ其裁判書ノ日附、之ヲ為シタル裁判所ノ指定、夫婦ノ姓名、職業、居所ヲ記シタル右裁判書ノ抜書ヲ其夫ノ仮令商人タラサル時ト雖モ夫ノ住所ノ始審裁判所及ヒ商事裁判所ノ聴訟席ニ於テ特ニ設ケアル帖上ニ記入シテ一年間展示シ置ク可ク若シ商事裁判所ノアラサル時ハ夫ノ住所ノ邑庁ノ重立チタル庁堂ニ於テ特ニ設ケアル帖上ニ記入シテ一年間展示シ置ク可シ○之ニ同シキ抜書ヲ代書人局及ヒ公証人局所在ノ地ニ於テハ此等ノ局ニ於テ展示シタル帖上ニ記入ス可シ○婦ハ右ニ記シタル法式ヲ履行シタル日ヨリ後ニ非サレハ裁判ノ執行ヲ始ムルコトヲ得ス然レトモ右一年ノ期限ノ経過ヲ待ツコトヲ必要トセサルモノトス
右ノ諸件ハ民法第千四百四十五条ニ記シタル成規ト相触ルヽコトナカル可シ
第八百七拾三条 本巻ニ定メタル法式ヲ遵守シタル時ハ夫ノ債主ハ前条ニ定メタル期限ノ終リシ後最早離分ノ裁判ニ対シテ第三ノ人ノ故障申立ニ依リ上訴スルコトヲ許サス
第八百七拾四条 婦ノ共通財産ノ放棄ハ離分ノ訟求ヲ掌轄スル裁判所ノ書記局ニ之ヲ為ス可シ
○第九巻 分居及ヒ離婚
第八百七拾五条 分居ヲ上訴セント欲スル夫又ハ婦ハ其事柄ヲ簡略ニ記シタル請願書ヲ自己ノ住所ノ裁判所ノ長ニ呈出ス可シ但シ其憑拠タル証拠物ノアルニ於テハ之ヲ添ユ可キモノトス
第八百七拾六条 其請願書ハ双方ノ者ノ其指示セラレタル日ニ裁判所長ノ面前ニ出席ス可キ旨ヲ記シタル命令書ヲ以テ之ニ答フ可シ
第八百七拾七条 双方ノ者ハ自カラ出席ス可ク代書人及ヒ代弁人ノ補助ヲ受クルコトヲ得ス
第八百七拾八条 裁判所長ハ和解ヲ為サシムルニ適当ナリト思考スル所ノ説諭ヲ夫婦双方ニ為ス可ク若シ和解ヲ為サシムルコトヲ得サル時ハ双方ノ者ヲ和解セシムルコト能ハサルニ依リ予メ呼出ヲ為スコトナクシテ勧解役署ニ上訴スル為メ其双方ノ者ヲ移送スル旨ヲ記シタル第二次ノ命令書ヲ第一次ノ命令書ニ続テ発ス可ク又之ト同一ノ命令書ニ依リ婦ニ其訟求ヲ継続スル事及ヒ双方ノ合意シタル家屋又ハ裁判所長ノ職権上ヨリ指示シタル家屋ニ仮リニ退ク事ヲ許可シ且ツ婦ノ日用ノ品物ヲ其婦ニ交付ス可キ旨ヲ命令ス可シ○養資ノ訟求ハ審問席ニ申告ス可キモノトス
第八百七拾九条 其訴訟ハ他ノ訟求ノ為メニ設定シタル法式ヲ以テ之ヲ審理シ而シテ検察官ノ意見申立ノ上ニテ之ヲ裁判ス可シ
第八百八拾条 離分ヲ宣告スル裁判書ノ抜書ハ第八百七十二条ニ記シタル如ク裁判所ノ聴訟席ト代書人局及ヒ公証人局トニ展示シタル帖上ニ之ヲ記入ス可キモノトス
第八百八拾壱条 離婚ニ関シテハ民法ニ定メタル如ク之ヲ処分ス可シ
○第拾巻 親族ノ意見
第八百八拾弐条 若シ後見人ノ面前ニ於テ其撰任ヲ為サヽル時ハ親族会議ヨリ指定シタル其会議員ノ求メニ依リ其撰任ノ旨ヲ後見人ニ通知ス可シ但シ其通知ハ決議ノ時ヨリ三日内ニ之ヲ為シ而シテ其会議ヲ設置シタル地ト後見人ノ住所トノ間ニ三「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加フ可キモノトス
第八百八拾三条 親族会議ノ決議カ総員一致ノモノニ非サル時ハ其会議ヲ組成スル各員ノ意見ヲ調書ニ記載ス可シ
後見人、代後見人又ハ管財人又然ノミナラス親族会議員ハ其決議ニ対シテ上訴スルコトヲ得可シ但シ右ノ各人ハ其決議ノ意見ノモノタル各会議員ヲ勧解ノ為メ招喚スルヲ要セスシテ其各会議員ニ対シテ訟求ヲ為ス可キモノトス
第八百八拾四条 其訴訟ハ簡略ノ方法ヲ以テ之ヲ裁判ス可シ
第八百八拾五条 認可ヲ受ク可キ決議ニ関スル総テノ場合ニ於テハ其決議書ノ副本ヲ裁判所長ニ呈出ス可シ而シテ裁判所長ハ其決議書ノ末ニ記シタル命令書ニ依リ検察官ヘノ通報ヲ命令シ且ツ指示セラレタル日ニ於テ其報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任ス可シ
第八百八拾六条 検事ハ右命令書ノ末ニ其意見ヲ記シ而シテ認可ノ裁判書ノ細字正本ハ右ノ書面上ニ於テ其意見ヲ記シタル末ニ之ヲ記載ス可キモノトス
第八百八拾七条 若シ後見人又ハ認可ヲ訟求スルコトヲ任セラレタル其他ノ者カ決議ニ依リ定メラレタル期限内ニ其訟求ヲ為サス又其期限ヲ定メサルニ於テハ十五日ノ期限内ニ其訟求ヲ為サヽル時ハ会議員中ノ一名ハ後見人ニ対シテ其認可ヲ訟求スルコトヲ得可シ但シ其訟求ノ費用ハ後見人自カラ之ヲ負担ス可クシテ後ニ之ヲ取戻スコトヲ得サルモノトス
第八百八拾八条 会議員中ニテ認可ニ付キ故障ヲ申立テサル可カラスト思考スル者ハ其認可ヲ訟求スルコトヲ任セラレタル者ニ裁判外ノ証書ヲ以テ其故障ノ旨ヲ申述ス可シ而シテ若シ其者ノ招喚セラレサル時ハ裁判ニ付キ故障ノ申立ヲ為スコトヲ得可シ
第八百八拾九条 親族会議ノ決議ニ付キ為シタル裁判ハ控訴ヲ受ク可キモノトス
○第拾壱巻 治産禁
第八百九拾条 凡ソ治産禁ノ訟求ニ於テハ白痴、癲病、狂病ノ事柄ヲ裁判所長ニ呈出シタル請願書ニ表示ス可シ但シ其請願書ニハ証明ノ為メノ証拠物ヲ添ヘ且ツ証人ヲ指示ス可キモノトス
第八百九拾壱条 裁判所長ハ其請願書ヲ検察官ニ通報ス可キ旨ヲ命令シ且ツ指示セラレタル日ニ於テ報告ヲ為サシムル為メ裁判官一名ヲ委任ス可シ
第八百九拾弐条 裁判官ノ報告及ヒ検事ノ意見申立ノ上裁判所ニ於テハ民法幼年、後見及ヒ後見ノ免脱ノ巻第二章第四節ニ定メタル仕方ニ従ヒ組成シタル親族会議ヨリ治産禁ノ訟求ヲ受ケタル者ノ景状ニ付キ其意見ヲ申述ス可キ旨ヲ命ス可シ
第八百九拾三条 請願書及ヒ親族会議ノ意見書ハ被告人ノ審訊ニ取掛ル前ニ之ヲ被告人ニ送達ス可シ
若シ審訊及ヒ差出シタル証拠物ノ不充分ニシテ而シテ其事柄ヲ証人ヲ以テ証明スルコトヲ得可キ時ハ裁判所ニ於テ証人訊問ヲ為ス可シトスルニ於テハ其訊問ヲ命令ス可シ但シ其証人訊問ハ通常ノ方法ヲ以テ之レヲ為ス可キモノトス
若シ景況ニ依リテ必要ナルコトアル時ハ裁判所ニ於テ被告人ノ面前外ニテ証人訊問ヲ為ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ然レトモ此場合ニ於テハ被告人ノ代弁人之ニ代理スルコトヲ得可キモノトス
第八百九拾四条 治産禁ヲ宣告セラレタル者ノ為ス所ノ控訴ハ治産禁ノ要求者ニ対シテ之ヲ為ス可シ
治産禁ノ要求者又ハ会議員中ノ一名ヨリ為ス所ノ控訴ハ其治産禁ヲ要求セラレタル者ニ対シテ之ヲ為ス可シ
裁判上ノ輔佐人ヲ撰任シタル場合ニ於テハ其輔佐人ヲ附与セラレタル者ノ控訴ハ其要求者ニ対シテ之ヲ為ス可シ
第八百九拾五条 治産禁ノ裁判ヲ控訴セサル時又ハ控訴ノ上ニテ其裁判ノ是認セラレタル時ハ親族ノ意見ノ巻ニ定メタル規則ニ従ヒ其治産禁ヲ受ケタル者ノ為メニ後見人及ヒ代後見人ヲ撰任スルノ設備ヲ為ス可シ
民法第四百九十七条ニ拠リ撰任セラレタル仮リノ管理人ハ其職務ヲ止ム可ク而シテ己レ自カラ後見人ニ撰任セラレサル時ハ後見人ニ計算ヲ為ス可キモノトス
第八百九拾六条 治産禁解除ノ訟求ハ治産禁ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ審理シ及ヒ裁判ス可シ
第八百九拾七条 輔佐人ノ補助ナクシテ訴訟ヲ為シ、和解ヲ為シ、金額ヲ借受ケ、動産ノ元金ヲ受取リテ其義務免除ノ証書ヲ与ヘ財産ノ所有権ヲ移転シ又ハ之ヲ書入質ト為スコトノ禁止ヲ宣告スル裁判書ハ民法第五百一条ニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ貼附ス可シ
○第拾弐巻 譲給ノ利益
第八百九拾八条 民法第千二百六十八条ニ依リ許与セラレタル裁判上ノ譲給ヲ求ム可キ場合ニアル所ノ負債者ハ之レカ為メ其訟求ヲ申告スル所ノ裁判所ノ書記局ニ其権利義務ノ目録及ヒ帳簿ノアルニ於テハ其帳簿並ニ其能働上ノ証券ヲ差出ス可シ
第八百九拾九条 其負債者ハ自己ノ住所ノ裁判所ニ上訴ス可シ
第九百条 其訟求ハ検察官ニ通報ス可シ而シテ其訟求ハ如何ナル起訴タリトモ之レカ効力ヲ停止セス但シ裁判官ハ関係各人ヲ招喚シタル上ニテ仮リニ其効力ヲ猶予ス可キ旨ヲ命令スルコトヲ得可シ
第九百壱条 譲給ノ利益ヲ允許セラレタル負債者ハ其住所ノ商事裁判所ノ審問席ニ其各債主ヲ招喚シ若シ商事裁判所ノアラサル時ハ公務ヲ行フ日ニ於テ邑庁ニ其各債主ヲ招喚シタル上代理人ヲ用ヒス己レ自カラ其譲給ヲ繰返シテ申述ス可シ但シ邑庁ニ於テ其譲給ヲ繰返シテ申述シタル場合ニ於テハ其負債者ノ申述ヲ使吏ノ調書ヲ以テ証明シ而シテ其調書ハ邑長之ニ署名ス可キモノトス
第九百弐条 若シ負債者ノ拘留セラレタル時ハ其負債者ニ譲給ノ利益ヲ許容スル所ノ裁判ハ前条ニ従ヒ其申述ヲ為サシムル為メ之ヲ拘留場ヨリ出タサシム可キ旨ヲ命令ス可シ但シ此クノ如キ場合ニ於テ必要ト為ス慣例ノ予防ヲ用フ可キモノトス
第九百三条 負債者ノ姓名、職業、居所ハ其住所ノ商事裁判所又ハ之レカ職務ヲ為ス始審裁判所ノ聴訟席ト邑庁ノ公務ヲ行フ場所トニ備ヘ置キタル特設ノ公ケナル帖上ニ之ヲ記入ス可シ
第九百四条 譲給ノ利益ヲ許容スル裁判ハ各債主ニ負債者ノ動産及ヒ不動産ヲ売払ハシムルノ権力ヲ附与シタルニ等シキ効アリトス而シテ其売払ハ目録ノ利益アル相続人ノ為メニ定メタル方法ヲ以テ之ヲ為ス可シ
第九百五条 外国人、仮冒售売者、詐欺ノ倒産者、盗罪又ハ詐欺取財ノ為メニ刑ヲ言渡サレタル者及ヒ計算ヲ為ス可キ者、後見人、管理人、受託者ハ譲給ノ利益ヲ許容セラルヽコトヲ得ス
第九百六条 右ノ外本巻ノ成規ハ商業ニ関シテハ毫モ影響ヲ及ホスコトナシ但シ商業上ノ習慣ハ方今ニ於テハ毫モ之ヲ更改セサルモノトス
○第弐編 財産相続ノ開始ニ関スル訴訟手続
○第壱巻 死去ノ後ニ於テ封印ヲ附スル事
第九百七条 死去ノ後ニ於テ封印ヲ附ス可キコトアル時ハ治安裁判官之ヲ為ス可ク若シ治安裁判官ノアラサル時ハ其補役之ヲ為ス可シ
第九百八条 治安裁判官及ヒ其補役ハ特別ナル璽印ヲ用フ可シ但シ其璽印ハ治安裁判官及ヒ其補役ノ手裏ニ存在ス可キモノニシテ且ツ其印形ヲ始審裁判所ノ書記局ニ蔵メ置ク可キモノトス
第九百九条 左ノ各人ハ封印ヲ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ
第一 遺留財産又ハ共通財産ニ於ケル権利ヲ称言スル各人
第二 執行ス可キ証券ヲ以テ憑拠ト為シ又ハ始審裁判所長若クハ封印ヲ附ス可キ県ノ治安裁判官ノ許ニ依リ許可セラレタル各債主
第三 配偶者若クハ相続人数名又ハ其中一名ノ不在ノ場合ニ於テ死者ト同居シタル各人並ニ死者ノ従者及ヒ雇人
第九百拾条 後見ヲ免脱セラレタル幼年ノ権利称言者及ヒ債主ハ其管財人ノ補助ナクシテ封印ヲ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ
若シ右ノ者カ後見ヲ免脱セラレサル幼者ニシテ其者ノ後見人ナキ時又ハ後見人ノ不在ノ時ハ其者ノ血属親中ノ一名ヨリ封印ヲ附スルコトヲ請求スルヲ得可シ
第九百拾壱条 左ノ場合ニ於テハ検察官ノ求メニ依リ若クハ本邑ノ邑長又ハ其副職ノ申述ニ依リ又然ノミナラス治安裁判官ノ職権ヲ以テ封印ヲ附ス可シ
第一 幼者ニ後見人ナク而シテ血属親ヨリ封印ヲ請求セサル時
第二 配偶者又ハ相続人数名又ハ其中一名ノ不在ノ時
第三 死者カ公ケノ受託者タル時但シ此場合ニ於テハ其受託ノ為メニシテ且ツ受託品ヲ組成スル物件ノミニ付キ封印ヲ附ス可キモノトス
第九百拾弐条 封印ハ其地ノ治安裁判官又ハ其補役ニ非サレハ之ヲ附スルコトヲ得ス
第九百拾三条 若シ埋葬前ニ封印ヲ附セサリシ時ハ裁判官封印ヲ附スルコトヲ請求セラレタル時期ト其請求若クハ封印ヲ附スル事ヲ遅延シタル原由トヲ其調書ヲ以テ証明ス可シ
第九百拾四条 封印ヲ附スルノ調書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 年、月、日、時
第二 封印ヲ附スルノ原由
第三 請求者アル時ハ其請求者ノ姓名、職業及ヒ居所又請求者ノ其封印ヲ附スル邑内ニ居住セサル時ハ其邑内ニ於ケル住所ノ撰定
第四 若シ請求者アラサル時ハ職権上ニテ封印ヲ附シタル事又ハ第九百十一条ニ記シタル官吏中一員ノ請求或ハ申述ニ依リ封印ヲ附シタル事ヲ其調書ニ表示ス可シ
第五 封印ヲ許可スル命令ヲ為シタル時ハ其命令
第六 関係各人ノ出席及ヒ申立
第七 其孔口ニ封印ヲ附シタル場所、卓子、箱筐、戸棚ノ指定
第八 封印ヲ附セサル品物ノ簡略ナル明記
第九 封印ヲ附スルコトヲ終成スル時ニ当リテ其場所ニ居住スル者ノ何等ノ物ヲモ詐取セス又直接或ハ間接ニ何等ノ物ヲモ詐取スルヲ見ス又之ヲ知ラサル旨ノ誓
第十 立テントスル監守人ノ必要ナル性質ヲ有スル時ハ其監守人ノ設置但シ其立テントスル監守人ノ必要ナル性質ヲ有セサル時又ハ監守人ヲ立テント申述セサル時ハ治安裁判官ノ職権ヲ以テ監守人ヲ設置ス可キモノトス
第九百拾五条 封印ヲ附シタル鎖ノ鑰ハ其封印ノ除去ニ至ル迄治安裁判所書記ノ手裏ニ預リ置キ其書記ハ右ノ鑰ヲ受取リタル旨ヲ調書ニ記載ス可シ而シテ裁判官モ又書記モ封印除去ニ至ル迄ハ其封印ノアル家屋内ニ行クコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ其職務ヲ禁止セラル可シ但シ裁判官又ハ書記ノ其家屋内ニ行クコトヲ請求セラレ又ハ其家屋ニ至ル前ニ理由ヲ附シタル命令書ヲ受ケシ時ハ格別ナリトス
第九百拾六条 封印ヲ附スル時ニ当リテ封シタル遺嘱書又ハ其他ノ書類アル時ハ治安裁判官其外部ノ体裁及ヒ押印ト上ハ書ノアルニ於テハ其上ハ書トヲ証明シ若シ出席シタル各人ノ花押ヲ為スコトヲ知リ又ハ之ヲ為シ得ルニ於テハ其各人ト共ニ封袋ニ花押ヲ為シ且ツ其包ヲ自己ヨリ始審裁判所長ニ呈出ス可キ時日ヲ指示ス可シ但シ治安裁判官ハ右ノ諸件ヲ其調書ニ記載シテ出席シタル各人之ニ署名ス可ク若シ然ラサレハ其各人否拒ノ旨ヲ記載ス可キモノトス
第九百拾七条 治安裁判官ハ関係各人ノ請求ニ依リ封印ヲ附スル前ニ其存在ノ通知セラレタル遺嘱書ノ捜査ヲ為ス可ク而シテ之ヲ見出シタル時ハ前ニ記シタル如クニ処分ス可シ
第九百拾八条 別ニ呼出ヲ為スニ及ハスシテ其指示セラレヌル日時ニ至リ封シタル侭ニテ見出サレタル包ハ治安裁判官ヨリ始審裁判所長ニ之ヲ呈出シ而シテ始審裁判所長ハ之ヲ開封シテ其景状ヲ証明シ且ツ其書ニ記シタル所ノモノカ財産相続ニ関スル時ハ其附託ヲ命令ス可シ
第九百拾九条 若シ封シタル包カ其上ハ書ニ依リ又ハ総テ其他ノ書証ニ依リ第三ノ人ニ属スルモノナリト思ハルヽ時ハ裁判所長ヨリ其第三ノ人ヲシテ開封ノ時ニ立会フコトヲ得セシムル為メ其定ムル所ノ期限内ニ之ヲ招喚ス可キ旨ヲ命令ス可シ但シ裁判所長ハ其指示シタル日ニ至リ右第三ノ人ノ面前ニ於テ開封ヲ為シ又ハ其出席セサル侭ニテ開封ヲ為ス可ク而シテ若シ其包カ財産相続ニ関係ナキモノタル時ハ其中ニ記シタル所ノモノヲ知ラシムルコトナクシテ之ヲ其第三ノ人ニ交付シ又ハ其第三ノ人ノ請求次第之ヲ交付スル為メ更ニ再ヒ之ヲ封ス可シ
第九百弐拾条 若シ遺嘱書カ封セスシテ見出サレタル時ハ治安裁判官其景状ヲ証明シ且ツ第九百十六条ニ定メタル所ノモノヲ遵守ス可シ
第九百弐拾壱条 若シ入リ口ヲ閉タル時又ハ封印ヲ附スルニ付キ障碍ニ遭遇シタル時又ハ封印ヲ為ス前若クハ其間ニ紛争ノ生スル時ハ裁判所長至急審理ヲ以テ之ヲ裁定ス可シ○之カ為メ其封印ヲ為スコトヲ猶予シ而シテ治安裁判官ハ外部ノ番人ヲ設置シ又場合ニ依リテハ内部ノ番人ヲモ設置ス可シ但シ治安裁判官ハ即時ニ裁判所長ニ其旨ヲ報告ス可キモノトス
然レトモ治安裁判官ハ若シ遅延ニ於テ危険アル時ハ仮リニ裁定スルコトヲ得可シ但シ其後ニ至リ裁判所長ニ其旨ヲ報告ス可キモノトス
第九百弐拾弐条 封印ノ事項ニ付キ若クハ其他ノ事項ニ付キ治安裁判官ヨリ裁判所長ニ報告ヲ為ス可キ総テノ場合ニ於テハ其為シタル所ノモノ及ヒ命令シタル所ノモノハ治安裁判官ノ作リタル調書上ニ之ヲ証明ス可シ但シ裁判所長ハ右調書上ニ於ケル其命令書ニ署名ス可キモノトス
第九百弐拾三条 若シ財産目録ヲ成就シタル時ハ封印ヲ附スルコトヲ得ス但シ其目録ノ駁撃セラレ而シテ裁判所長ヨリ其封印ヲ附ス可キ旨ヲ命令シタル時ハ格別ナリトス
若シ財産目録ヲ作ル間ニ封印ヲ附フルコトヲ請求シタル時ハ其目録ニ記セサル物品ノミニ封印ヲ附ス可シ
第九百弐拾四条 若シ如何ナルモノタリトモ動産ノアラサル時ハ治安裁判官財産虧缺ノ調書ヲ作ル可シ
若シ家屋内ニ居住スル各人ノ使用ニ必要ナル動産又ハ封印ヲ附スルコト能ハサル動産アル時ハ治安裁判官其動産ノ簡略ナル記載ヲ包含スル所ノ調書ヲ作ル可シ
第九百弐拾五条 人口二万以上ノ各邑ニ於テハ始審裁判所ノ書記局ニ封印ノ為メノ順序ノ簿冊ヲ設ケ置キ而シテ本部ノ各治安裁判官カ封印ヲ附シタル時ヨリ二十四時間ニ送達セシム可キ申述書ニ従ヒ左ノ諸件ヲ其簿冊ニ記入ス可シ
第一 其封印ヲ附シタル動産ヲ所有セシ各人ノ姓名及ヒ居所
第二 封印ヲ附シタル裁判官ノ姓名及ヒ居所
第三 封印ヲ附シタル日
○第弐巻 封印ノ除去ニ付テノ故障申立
第九百弐拾六条 封印ノ除去ニ付テノ故障申立ハ封印ノ調書上ニ於ケル申述ニ依リ若クハ治安裁判官ノ書記ニ送付シタル送達状ニ依リ之ヲ為スコトヲ得可シ
第九百弐拾七条 凡ソ封印ノ除去ニ付テノ故障申立書ニハ総テノ送達状ニ共通ノモノタル法式ノ外更ニ左ノ諸件ヲ記ス可ク若シ然ラサレハ無効タル可シ
第一 若シ故障申立人ノ其封印ヲ附シタル邑内又ハ治安裁判所ノ管轄地内ニ居住セサル時ハ其邑内又ハ管轄地内ニ於ケル住所ノ撰定
第二 故障申立ノ原由ノ着実ナル表示
○第三巻 封印ノ除去
第九百弐拾八条 若シ埋葬以前ニ封印ヲ附シタル時ハ其埋葬ノ時ヨリ三日ノ後又埋葬ノ後ニ封印ヲ附シタル時ハ其封印ヲ附シタル時ヨリ三日ノ後ニ非サレハ封印ヲ除去シ及ヒ財産目録ヲ作ルコトヲ得ス若シ之ニ背ク時ハ封印除去及ヒ目録ノ調書ノ効ナカル可ク且ツ其調書ヲ作リ及ヒ請求シタル各人ニ対シテ損害賠償ヲ言渡ス可シ但シ始審裁判所長ノ命令書ニ記載シタル至急ヲ要スル原由ノ為メ右裁判所長ヨリ別段ノ命令ヲ為シタル時ハ格別ナリトス○此場合ニ於テ若シ封印ノ除去ニ立会フ可キノ権利ヲ有スル各人ノ出席セサル時ハ封印ノ除去ト財産目録トニ付キ其各人ノ為メ裁判所長ノ職権上ヨリ撰任シタル公証人一名ヲ招喚ス可シ
第九百弐拾九条 若シ相続人数名又ハ其中或者ノ後見ヲ免脱セラレサル幼者ナル時ハ予メ其後見人ヲ撰任シ又ハ其後見ヲ免脱シタルニ非サレハ封印ノ除去ニ取掛ル可カラス
第九百三拾条 凡ソ封印ヲ附セシムルノ権利ヲ有スル各人ハ封印ノ除去ヲ請求スルコトヲ得可シ但シ前第九百九条ノ第三ノミニ拠リ封印ヲ附セシメタル者ハ格別ナリトス
第九百三拾壱条 封印ノ除去ヲ得ル為メノ法式ハ左ノ諸件ナリトス
第一 之レカ為メ治安裁判官ノ調書上ニ記スル所ノ請求
第二 除去ヲ為ス可キ日時ヲ指示スル裁判官ノ命令
第三 生残ル配偶者、思量ノ相続人、遺嘱執行者、全括ノ受遺嘱者及ヒ全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ノ知レタル時ハ此等ノ受遺嘱者及ヒ故障申立人ニ為シタル其除去ニ立会フ可キノ催促
関係各人ノ五「ミリアメートル」ノ距離外ニ居住スル時ハ其関係各人ヲ招喚スルヲ要セス然レトモ其除去ト財産目録トニ於テ其各人ノ為メ始審裁判所長ノ職権上ヨリ撰任シタル公証人一名ヲ招喚ス可シ
故障申立人ハ其撰定シタル住所ニ招喚セラル可シ
第九百三拾弐条 配偶者、遺嘱執行者、相続人、全括ノ受遺嘱者及ヒ全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ封印ノ除去及ヒ財産目録ノ取調席毎ニ自カラ立会ヒ又ハ代理者ヲシテ立会ハシムルコトヲ得可シ
故障申立人ハ第一次ノ取調席ニ於ケルノ外自カラ立会ヒ又ハ代理者ヲシテ立会ハシムルコトヲ得ス其故障申立人数名ハ次キノ取調席ニ於テハ其全員ノ為メニ代理者一名ヲ合意シテ撰定シ之ヲシテ代理セシム可ク若シ協議セサル時ハ裁判官ノ職権上ヨリ其代理者一名ヲ撰定ス可シ
若シ其代理者中ニ其地ヲ管轄スル始審裁判所ニ於ケル代書人アル時ハ其本人ノ証券ヲ呈示スルニ依リ其権力ヲ証明ス可ク而シテ公正ノ証券ヲ以テ憑拠ト為ス各債主ノ代書人中ニ就キ其受任ノ順序ニ於テ最先任ノ者ハ故障申立人全員ノ為メニ当然立会フ可ク若シ債主中ニ公正ノ証券ヲ以テ憑拠ト為ス者アラサル時ハ私シノ証券ヲ以テ憑拠ト為ス故障申立人ノ代書人中最先任者其立会ヲ為ス可シ○其先後ノ順序ハ第一次ノ取調席ニ於テ確然之ヲ規定ス可シ
第九百三拾三条 若シ故障申立人中ノ一人カ他ノ者ノ利益ト異ナリタル利益ヲ有シ又ハ相反シタル利益ヲ有スル時ハ自己ノ費用ニテ自カラ立会ヒ又ハ己レ一個ノ代理者ヲシテ立会ハシムルコトヲ得可シ
第九百三拾四条 自己ノ負債者ノ権利ヲ保存スル為メノ故障申立人ハ第一次ノ取調席ニ立会フコトヲ得ス又其他ノ取調席ノ為メ共通ノ代理者ヲ撰任スルニ付キ参加スルコトヲ得ス
第九百三拾五条 財産ヲ共通スル配偶者、相続人、遺嘱執行者及ヒ全括ノ受遺嘱者又ハ全括ノ名義ニ於ケル受遺嘱者ハ公証人一名又ハ二名及ヒ動産評価人一名又ハ二名或ハ鑑定人一名又ハ二名ノ撰任ニ付キ合意スルコトヲ得可シ若シ之ヲ合意セサル時ハ物品ノ性質ニ従ヒ始審裁判所長ノ職権上ヨリ撰任シタル公証人、動産評価人又ハ鑑定人一名又ハ二名ヲシテ取扱ハシム可シ○鑑定人ハ治安裁判官ノ面前ニ於テ誓ヲ為ス可キモノトス
第九百三拾六条 封印除去ノ調書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 日附
第二 請求者ノ姓名、職業、居所及ヒ住所ノ撰定
第三 其除去ノ為メニ交付シタル命令書ノ表示
第四 前第九百三十一条ニ定メタル催促ノ表示
第五 関係各人ノ出席及ヒ申立
第六 取扱ヲ為ス可キ公証人、動産評価人及ヒ鑑定人ノ撰任
第七 封印ノ損破スルコトナキ時ハ其封印ノ認定若シ又損破シタル時ハ変更ノ景状」但シ其変更ノ為メ相当ノ上訴ヲ為スコトヲ得可キモノトス
第八 捜査ノ為メノ請求、其捜査ノ成果及ヒ裁定ヲ為ス可キ総テ其他ノ訟求
第九百三拾七条 封印ハ財産目録ヲ作ルニ准シテ逐次之ヲ除去ス可ク而シテ各次ノ取調席ノ終ニ於テ更ニ封印ヲ附ス可シ
第九百三拾八条 同一ノ性質ノ物品ハ其順序ニ従ヒ逐次之ヲ財産目録ニ記スル為メニ併合スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テハ其物品ニ更ニ封印ヲ為ス可キモノトス
第九百三拾九条 若シ財産相続ニ関係ナクシテ而シテ第三ノ人ノ得ント求ムル所ノ物品及ヒ書類ノアル時ハ其属スル所ノ者ニ之ヲ交付ス可シ若シ直チニ之ヲ交付スルコトヲ得スシテ且ツ之レカ明細書ヲ為スノ必要ナル時ハ封印ノ調書ニ其明細書ヲ為ス可ク財産目録ニ其明細書ヲ為ス可カラス
第九百四拾条 若シ封印ヲ除去スル前又ハ之ヲ除去スル間ニ封印ヲ附スル原由ノ止ミタル時ハ明細書ナクシテ其封印ヲ除去ス可シ
○第四巻 財産目録
第九百四拾壱条 財産目録ハ封印ノ除去ヲ請求スルノ権利アル各人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得可シ
第九百四拾弐条 財産目録ハ左ノ各人ノ面前ニ於テ之ヲ作ラサル可カラス
第一 生残ル配偶者
第二 思量ノ相続人
第三 遺嘱ノ知レタル時ハ遺嘱執行者
第四 所有権ニ於ケルト使用収益権ニ於ケルトヲ問ハス全括又ハ全括ノ名義ニ於ケル受贈者及ヒ受遺嘱者ノ五「ミリアメートル」ノ距離内ニ居住スル時ハ此等各人ノ面前又ハ此等ノ各人ヲ適法ニ招喚シタル上ニテ財産目録ヲ作ル可ク若シ此等各人ノ五「ミリアメートル」ノ距離外ニ居住スル時ハ招喚セラレテ缺席スル各人ニ代理セシムル為メ始審裁判所長ヨリ撰任シタル公証人一名ヲ其不在者全員ノ為メニ招喚ス可シ
第九百四拾三条 其目録ニハ公証人ノ面前ニテ作ル所ノ各証書ニ共通ノモノタル法式ノ外更ニ左ノ諸件ヲ記スヘシ
第一 請求者、出席者、缺席者及ヒ不在者ノ姓名、職業、居所ノ知レタル時ハ其姓名、職業、居所、此等ノ各人ニ代理スル為メニ招喚セラレタル公証人ノ姓名、職業、居所、動産評価人及ヒ鑑定人ノ姓名、職業、居所並ニ不在者及ヒ缺席者ノ為メニ公証人ヲ委任スル命令ノ記載
第二 目録ヲ作ル地ノ指示
第三 品物ノ明記及ヒ評価但シ其評価ハ正当ノ価額ニテ増額ヲ要スルコトナク之ヲ為ス可キモノトス
第四 銀器ノ品質、重量及ヒ性合ノ指定
第五 貨幣ノ指定
第六 書類ハ其初ト終トニ番号ヲ附シ且ツ公証人ノ手ニテ之ニ花押ヲ附ス可ク又商業上ノ帳簿及ヒ簿冊ノアル時ハ之レカ景状ヲ証明シ若シ其各葉ニ番号ヲ附シ及ヒ花押ヲ附セサル時ハ右ニ同シク之ニ記号ト花押トヲ附ス可ク若シ又文字ヲ書シタル頁中ニ空白アル時ハ其空白ニ線ヲ引ク可シ
第七 能働及ヒ所働ノ証券ノ申述
第八 財産目録ノ前ニ物品ヲ占有シタル者又ハ其物品所在ノ家屋ニ住居シタル者ノ其目録終成ノ時ニ当リテ其物品ヲ詐取セス又何等ノ物ヲモ詐取スルヲ見ス又之ヲ知ラサル旨ノ誓ノ記載
第九 別段ノ理由アル時ハ合意シテ撰定シタル者若シ又合意セサル時ハ裁判所長ノ撰任シタル者ノ手裏ニ於ケル品物及ヒ書類ノ交付
第九百四拾四条 若シ財産目録ノ時ニ当リテ紛争ノ生スル時又ハ共通財産或ハ遺留財産ノ管理ノ為メ又ハ其他ノ目的ノ為メニ請求ヲ為シ而シテ他ノ各人ニ於テ之ヲ承引セサル時ハ公証人其関係各人ヲシテ始審裁判所長ノ面前ニ於テ至急審理ヲ受クル為メニ上訴セシム可ク又公証人ハ其裁判所々在ノ県内ニ居住スル時ハ己レ自カラ至急審理ヲ受クル為メニ上訴スルコトヲ得可シ但シ此場合ニ於テ裁判所長ハ調書ノ細字正本上ニ其命令ヲ記ス可キモノトス
○第五巻 動産ノ売払
第九百四拾五条 遺留財産ニ属スル動産ノ売払ヲ民法第八百二十六条ニ拠リ為ス可キ時ハ動産差押ノ巻ニ定メタル法式ヲ以テ其売払ヲ為ス可シ
第九百四拾六条 関係各人中一名ヨリ請求ノ上始審裁判所長ノ命令ニ拠リ公ケノ役員其売払ヲ為ス可シ
第九百四拾七条 財産目録ニ立会フ可キノ権利アリテ五「ミリアメートル」ノ距離内ニ居住シ又ハ住所ヲ撰定シタル各人ハ之ヲ招喚ス可シ但シ其証書ハ撰定シタル住所ニ送達ス可キモノトス
第九百四拾八条 若シ紛争ノ生スル時ハ始審裁判所長至急審理ヲ以テ仮リニ裁定スルコトヲ得可シ
第九百四拾九条 其売払ハ品物所在ノ地ニ於テ之ヲ為ス可シ但シ別段ノ命令アル時ハ此限ニアラス
第九百五拾条 其売払ハ出席セサル者ノ為メニ何人ヲモ招喚スルコトナク出席ト不在トヲ問ハス之ヲ為ス可シ
第九百五拾壱条 調書ニハ請求者ノ出席又ハ不在ヲ記載ス可シ
第九百五拾弐条 若シ各人ノ皆成年ニシテ出席シ且ツ相合同シ而シテ第三ノ関係人アラサル時ハ其各人ハ前ニ記シタル法式中何レノモノヲモ遵守スルニ及ハス
○第六巻 幼者ニ属スル不動産ノ売払
第九百五拾三条 幼者ニ属スル不動産ノ売払ハ其財産ノ性質ト其見積リ価額トヲ表示スル親族ノ意見ニ拠ルニ非サレハ之ヲ命令スルコトヲ得ス
若シ其財産カ之レト同時ニ成年者ニ属シ而シテ成年者ヨリ其売払ヲ訟求スル時ハ右ノ意見ヲ必要トセス○然ル時ハ分派及ヒ不分物ノ糶売ノ巻ニ従ヒ之ヲ処分ス可シ
第九百五拾四条 裁判所ニ於テ右ノ意見ヲ認可シタル時ハ之ト同一ノ裁判ニ依リ裁判所ノ売払審問席ニ於テ其裁判所ノ裁判官中一名ノ面前ニテ其売払ヲ為シ若クハ特ニ委任セラレタル公証人ノ面前ニテ其売払ヲ為ス可キ旨ヲ宣告ス可シ
若シ其不動産ノ数郡ニ在ル時ハ裁判所ヨリ其各郡ニ於テ公証人ヲ委任シ又然ノミナラス其財産所在地ノ各裁判所ニ委託ノ証書ヲ附与スルコトヲ得可シ
第九百五拾五条 其売払ヲ命令スル裁判書ニハ売払フ可キ各箇ノ不動産ノ見積リ代価ト其売払ノ要件トヲ定ム可シ○其見積リ代価ハ親族ノ意見ニ従ヒ若クハ所有権ノ証券ニ従ヒ若クハ公正ノ賃貸証書又ハ正確ナル日附ヲ得タル私署ノ賃貸証書ニ従ヒ若シ又賃貸証書ノアラサル時ハ地税ノ納税人姓名表ニ従ヒ之ヲ規定ス可シ
然レトモ裁判所ハ景況ニ従ヒ不動産ノ全部又ハ一部ノ評価ニ取掛ラシムルコトヲ得可シ
其評価ハ財産ノ軽重及ヒ性質ニ従ヒ裁判所ヨリ特ニ委任シタル鑑定人一名又ハ三名ニテ之ヲ為ス可シ
第九百五拾六条 評価ヲ命令シタル時ハ鑑定人一名又ハ三名ハ裁判所長ノ面前若クハ裁判所長ノ委任シタル治安裁判官ノ面前ニ於テ誓ヲ為シタル後其報告書ヲ作ル可シ但シ其報告書ニハ売払フ可キ財産ヲ詳細ニ記載スルコトナク簡略ニ其評価ノ基本ヲ指示ス可キモノトス
其報告書ノ細字ノ正本ハ裁判所ノ書記局ニ之ヲ納ム可シ○其細字ノ正本ハ之レカ副本ヲ交付ス可カラス
第九百五拾七条 糶売ハ代書人ヨリ裁判所ノ書記局ニ納メタル糶売箇条書ニ依リ若シ又委任セラレタル公証人ノ面前ニ於テ売払ヲ為ス可キ時ハ其公証人ノ作リテ自己ノ役場ニ納メタル糶売箇条書ニ拠リ之ヲ開始ス可シ其糶売箇条書ニハ左ノ諸件ヲ記ス可シ
第一 売払ヲ許可シタル裁判書ノ表示
第二 所有権ヲ証スル証券ノ表示
第三 売払フ可キ財産ノ性質及ヒ所在地ノ指示、不動産ノ指示、其見積リ面積ノ指示及ヒ横隣及ヒ裏隣中二箇ノ指示
第四 糶売ヲ開始ス可キ代金ノ表示及ヒ売払ノ要件
第九百五拾八条 糶売箇条書ヲ納メタル後左ノ諸件ヲ記スル所ノ貼附書ヲ作リテ之ヲ印刷ス可シ
第一 売払ヲ許可シタル裁判書ノ表示
第二 幼者、其後見人及ヒ其代後見人ノ姓名、職業、住所
第三 糶売箇条書ニ記入シタル如キ財産ノ指定
第四 売払フ可キ各箇ノ財産ニ付キ糶売ヲ開始ス可キ代金
第五 糶売入札ノ日、場所、時並ニ公証人及ヒ其居所ノ指示若クハ其糶売入札ヲ為ス可キ裁判所ノ指示及ヒ如何ナル場合ニ於テモ売主ノ代書人ノ指示
第九百五拾九条 貼附書ハ糶売入札ノ時ヨリ少クトモ十五日多クトモ三十日前ニ第六百九十九条ニ指定シタル各箇ノ場所ニ之ヲ貼附シ且ツ右ノ外其売払ヲ為ス公証人ノ役場ノ入リ口ニ之ヲ貼附ス可シ但シ其貼附ヲ為シタル事ハ同条ニ従ヒ之ヲ証明ス可キモノトス
第九百六拾条 其貼附書ノ写ヲ右ト同一ノ期限内ニ第六百九十六条ニ指示シタル新聞紙ニ記入ス可ク若シ又財産所在ノ郡ニ於テ売払ノ手続ヲ為サヽル時ハ其売払ノ手続ヲ為ス郡ノ為メニ指定シタル新聞紙ニ亦之ヲ記入ス可シ
其新聞紙ニ記入ヲ為シタル事ハ第六百九十八条ニ従ヒ之ヲ証明ス可シ
第九百六拾壱条 財産ノ性質及ヒ軽重ニ依リ第六百九十七条及ヒ第七百条ニ従ヒ其売払ヲ更ニ一層公示スルコトヲ得可シ
第九百六拾弐条 幼者ノ代後見人ハ民法第四百五十九条ニ定メタル如ク売払ニ之ヲ招喚ス可ク之カ為メ其糶売入札ノ日、場所、時ヲ一月以前ニ代後見人ニ通知シ且ツ其代後見人ノ出席ト不在トヲ問ハス其糶売入札ヲ為ス可キ旨ヲ通知ス可シ
第九百六拾三条 若シ糶売入札ノ為メニ指示シタル日ニ於テ其糶買カ見積リ代価ニ登ラサル時ハ裁判所ハ裁判官会議室ニ於ケル単純ナル請求書ニ依リ財産ヲ其評価以下ニテ落札ス可キ旨ヲ命令スルヲ得可シ但シ其糶売入札ハ裁判ニ依リ定メタル期限ニ之ヲ延ス可ク而シテ其期限ハ十五日ヨリ少ナキコトヲ得サルモノトス
其糶売入札ハ少クトモ八日前ニ前ニ記シタル如ク更ニ貼附及ヒ新聞紙ニ於ケル記入ヲ以テ之ヲ指示ス可シ
第九百六拾四条 第七百一条、第七百五条、第七百六条、第七百七条、第七百十一条、第七百十二条、第七百十三条、第七百三十三条、第七百三十四条、第七百三十五条、第七百三十六条、第七百三十七条、第七百三十八条、第七百三十九条、第七百四十条、第七百四十一条、第七百四十二条ハ本巻ニ共通ノモノト定ム
然レトモ若シ公証人ノ糶売ヲ為ス時ハ何人ニ限ラス代書人ノ紹介ナクシテ其糶買ヲ為スコトヲ得可シ
公証人ノ面前ニ於ケル売払ノ場合ニ於テ若シ過当ノ糶売ヲ為ス時ハ其訟求ヲ裁判所ニ申告ス可シ○糶売落札人ノ其糶売落札条件ノ履行ヲ証明セサリシ旨ヲ証スル保証書ハ公証人ヨリ之ヲ交付ス可シ○糶売落札ノ調書ハ糶買ニ用立ツ為メ之ヲ書記局ニ納ム可シ
第九百六拾五条 糶売落札ノ時ヨリ八日内ニ何人ニ限ラス前第七百八条、第七百九条、第七百十条ニ規定シタル法式ト期限トニ従ヒ六分一ノ増糶買ヲ為スコトヲ得可シ
右ニ記シタル増糶買ノ後ニ再度ノ糶売落札ヲ為シタル時ハ其同一ノ財産ニ付キ更ニ其他ノ増糶買ヲ為スコトヲ得ス
○第七巻 分派及ヒ不分物ノ糶売
第九百六拾六条 民法第八百二十三条及ヒ第八百三十八条ノ場合ニ於テ裁判上ニテ分派ヲ為サヽルヲ得サル時ハ最モ先キニ手続ヲ為ス者ヨリ上訴ス可シ
第九百六拾七条 原告人二名ノ間ニ於テハ裁判所ノ書記ヲシテ先キニ其呼出状ノ正本ニ検署セシメタル者ニ訟求手続ノ権利アリトス但シ其検署ニハ之レカ日時ヲ記ス可シ
第九百六拾八条 互ニ反対ノ利益アル各個ノ幼者ニ附ス可キ特別格段ナル後見人ハ親族ノ意見ノ巻ニ記シタル規則ニ従ヒ之ヲ撰任ス可シ
第九百六拾九条 分派ニ於ケル訟求ニ付キ宣告スル所ノ裁判ハ別段ノ理由アルニ於テハ民法第八百二十三条ニ従ヒ裁判官一名ヲ委任シ且ツ之ト同時ニ公証人一名ヲ委任ス可シ
若シ所為ノ進行中ニ裁判官又ハ公証人ニ差支アル時ハ裁判所長請願書ニ依リ一箇ノ命令ヲ以テ其引易ノ設備ヲ為ス可シ但シ其命令ハ故障申立ヲモ又控訴ヲモ為ス可カラサルモノトス
第九百七拾条 裁判所ハ右ノ訟求ニ関シテ宣告スルニ付キ之ト同一ノ裁判ヲ以テ分派ヲ為シ得可キ時ハ分派ヲ命令シ又ハ不分物ノ糶売ニ依レル売払ヲ命令ス可シ但シ其売払ハ第九百五十四条ニ従ヒ裁判所ノ職員ノ面前又ハ公証人ノ面前ニ於テ之ヲ為ス可キモノトス
裁判所ハ分派ヲ命令スルト不分物ノ糶売ヲ命令スルトヲ問ハス仮令訴訟中ニ幼者アル時ト雖モ予メ鑑定ヲ為サスシテ直チニ其分派又ハ不分物ノ糶売ニ取リ掛ル可キ旨ヲ宣告スルコトヲ得可シ但シ不分物糶売ノ場合ニ於テハ裁判所ニ於テ第九百五十五条ニ従ヒ見積リ代価ヲ定ム可キモノトス
第九百七拾壱条 若シ裁判所ヨリ鑑定ヲ命令スル時ハ鑑定人一名又ハ三名ヲ委任スルコトヲ得可ク而シテ其鑑定人ハ第九百五十六条ニ記シタル如ク誓ヲ為ス可キモノトス
鑑定人ノ撰任及ヒ報告ハ鑑定人ノ報告ノ巻ニ定メタル法式ニ従ヒ之ヲ為ス可シ
鑑定人ノ報告書ニハ其分派シ又ハ不分物糶売ヲ為ス可キ財産ヲ詳細ニ記載スルコトナク簡略ニ其評価ノ基本ヲ示ス可キモノトス
其訟求ノ手続ヲ為ス者ハ代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル請求ノ証書ニ依リ報告書ノ認可ヲ訟求ス可シ
第九百七拾弐条 売払ニ付テハ幼者ニ属スル不動産ノ売払ノ巻ニ定メタル法式ニ従フ可シ但シ糶売箇条書ニ左ノ諸件ヲ加フ可キモノトス
訟求ノ手続ヲ為ス者ノ姓名、居所及ヒ職業並ニ其代書人ノ姓名及ヒ居所
不分物共同糶売者ノ姓名、居所及ヒ職業並ニ其代書人ノ姓名、居所及ヒ職業、
第九百七拾三条 書記局又ハ公証人ノ役場ニ糶売箇条書ヲ納メタル時ヨリ八日内ニ不分物共同糶売者ノ代書人ノ役場ニ送付シタル単純ナル証書ニ依リ其糶売箇条ヲ査視ス可キノ催促ヲ其共同糶売者ニ為ス可シ
若シ糶売箇条書ニ付キ紛争ノ起リタル時ハ別ニ請願書ヲ差出スコトナク代書人ヨリ代書人ヘノ単純ナル証書ヲ送付シタル上、審問席ニ於テ之ヲ裁定ス可シ
右ニ付キ為ス所ノ裁判ハ此法典第七百三十一条及ヒ第七百三十二条ニ定メタル法式ト期限トニ於テ控訴ヲ為スノ外之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
糶売箇条書ヲ査視ス可キ旨ノ催促以後ノ法式ニ関スル紛争ニ付テノ総テ其他ノ裁判ハ故障申立ニ依テモ又控訴ニ依テモ之ヲ駁撃スルコトヲ得ス
若シ糶売入札ノ為メニ指示セラレタル日ニ於テ其糶買カ見積リ代価ニ達セサル時ハ第九百六十三条ニ記シタル如クニ処分ス可シ
糶売落札ノ時ヨリ八日内ニ何人ニ限ラス第七百八条、第七百九条、第七百十条ニ定メタル条件ト法式トニ従フニ於テハ主タル代金ノ六分一ノ増糶買ヲ為スコトヲ得可シ○其増糶買ハ幼者ノ財産ノ売払ニ於ケルト同一ノ効ヲ生ス可キモノトス
第九百七拾四条 若シ不動産ノ所在地ノ為メ相異ナレル数箇ノ鑑定ヲ必要トシ而シテ其各箇ノ不動産カ分派ス可カラスト申述セラレタル時ト雖モ若シ其数箇ノ報告書ヲ照ラシ合ハスニ依リ其数箇ノ不動産ノ全部ヲ都合ヨク分派シ得可キ旨ヲ推知シタル時ハ不分物ノ糶売ヲ為ス可カラサルモノトス
第九百七拾五条 若シ分派ニ於ケル訟求カ関係各人ノ権利ノ既ニ算定セラレタル一箇又ハ数箇ノ不動産ノ分割ノミヲ以テ目的ト為ス時ハ鑑定人ハ評価ヲ為スニ付キ民法第四百六拾六条ニ定メタル如ク区分財産ヲ組立ツ可シ而シテ鑑定人ノ報告書ノ認可セラレタル後ニ至リ其区分財産ヲ第九百六十九条ノ文面ニ拠リ裁判所ヨリ既ニ委任シタル委員裁判官ノ面前若クハ公証人ノ面前ニ於テ抽籤ス可キモノトス
第九百七拾六条 其他ノ場合ニ於テ就中裁判所ヨリ鑑定人ノ報告ヲ為サシメスシテ分派ヲ命令シタル場合ニ於テハ訟求ノ手続ヲ為ス者ハ民法第八百二十八条ニ定メタル如ク計算、返還、財産合部ノ組成、先収、区分財産ノ組立及ヒ供給ニ取掛ル為メ共同分派人ノ其指示セラレタル日ニ於テ委任セラレタル公証人ノ面前ニ出席ス可キ旨ヲ催促ス可シ
不分物ノ糶売ヲ為シタル後ト雖モ若シ数箇ノ区分財産ノ間ニ平均ヲ得セシムル為メ其糶売落札ノ代金ヲ分派ノ共同財産合部中ノ他ノ物件ト混同セサル可カラサル時ハ亦右ト同一タル可シ
第九百七拾七条 委任セラレタル公証人ハ第二ノ公証人又ハ証人ノ補助ナク唯一人ニテ処分ス可シ而シテ関係各人ノ代弁人ノ補助ヲ受ケタル時ハ其代弁人ノ謝金ハ分派ノ費用中ニ入ル可カラスシテ本人ノ負任タル可シ
民法第八百三十七条ノ場合ニ於テハ公証人別段ノ調書ニ争論及ヒ関係各人ノ申立ヲ記ス可シ但シ其調書ハ公証人ヨリ之ヲ書記局ニ差出シテ書記局ニ留メ置ク可キモノトス
委員裁判官ヨリ関係各人ヲ審問席ニ移送シタル時ハ其関係各人ノ出席ス可キ日ヲ指示シタルヲ以テ其関係各人ノ為メニハ呼出ニ代用ス可キモノトス
其裁判官ノ面前若クハ審問席ニ出席セシムル為メニハ別ニ催促ヲ為ス可カラス
第九百七拾八条 民法第八百二十九条、第八百三十条、第八百三十一条ニ従ヒ分派ノ財産合部並ニ関係各人ノ為ス可キ返還及ヒ先収ヲ公証人ノ設定シタル時ハ共同相続人ノ皆成年者ニシテ撰定ニ付キ合同シ且ツ其撰定シタル所ノ者ノ其委任ヲ受諾シタル時ハ共同相続人中ノ一人ニ於テ区分財産ヲ作ル可ク之ニ反シタル場合ニ於テハ公証人総テ其他ノ訴訟手続ヲ要スルコトナクシテ関係各人ヲ委員裁判官ノ面前ニ移送シ而シテ委員裁判官ハ鑑定人一名ヲ撰任ス可シ
第九百七拾九条 関係各人ノ撰定シタル共同相続人又ハ区分財産ノ組成ノ為メニ撰任セラレタル鑑定人ハ報告書ヲ以テ其組立ヲ証明ス可シ但シ其報告書ハ公証人以前ノ所為ノ後ニ之ヲ作ル可キモノトス
第九百八拾条 区分財産ヲ定メ而シテ若シ其組成ニ付キ争論ノアル時ハ之ヲ裁判シタル上ニテ訟求ノ手続ヲ為ス者ハ共同分派人ノ其公証人ノ調書終成ノ時ニ於テ立会ヲ為シ其読上ヲ聞キテ若シ署名スルコトヲ得又ハ署名セント欲スル時ハ己レト共ニ其調書ニ署名セシムル為メ其指示セラレタル日ニ於テ公証人ノ役場ニ出席セシムル為メ其共同分派人ニ催促セシム可シ
第九百八拾壱条 公証人ハ裁判所ヨリ分派ノ認可ヲ得ント求メシムル為メ最モ先キニ手続ヲ為ス者ニ其分派ノ調書ノ副本ヲ交付ス可シ而シテ裁判所ハ委員裁判官ノ報告ニ拠リ関係各人出席ノ上若シ又其各人中ニ調書終成ノ時ニ出席セサリシ者アルニ於テハ其各人ヲ招喚シタル上且ツ関係各人ノ分限カ検事ノ参渉ヲ要スル場合ニ於テハ検事ノ意見申立ノ上其分派ヲ認可ス可キ時ハ之ヲ認可ス可シ
第九百八拾弐条 認可ノ裁判書ニハ委員裁判官ノ面前若クハ公証人ノ面前ニ於ケル区分財産ノ抽籤ヲ命令ス可シ但シ委員裁判官又ハ公証人ハ抽籤ノ後直チニ其区分財産ノ引渡ヲ為ス可キモノトス
第九百八拾三条 書記若クハ公証人ハ関係各人ノ請求ニ従ヒ分派ノ調書ノ全部又ハ一部ノ抜書ヲ交付ス可キモノトス
第九百八拾四条 若シ幼者又ハ民権ヲ享有セサル其他ノ各人ノ関係アル時ハ不分ヲ止メシメントスル不分物糶売及ヒ分派ニ付キ前ニ記シタル法式ニ従フ可キモノトス
第九百八拾五条 右ノ外若シ共同所有者又ハ共同相続人ノ皆其民権ヲ享有スル成年者ニシテ且ツ皆出席シ又ハ適法ニ代理セラレタル時ハ裁判上ノ方法ヲ用ヒサルコトヲ得可ク又ハ訴訟中何時タリトモ裁判上ノ方法ヲ放棄シ而シテ其相当ト思考スル所ノ方法ヲ以テ処分スル為メ相合同スルコトヲ得可シ
○第八巻 目録ノ利益
第九百八拾六条 若シ相続人ノ其分限ヲ取ル前ニ民法ニ従ヒ遺留財産ニ属スル動産ノ売払ニ取掛ルノ許可ヲ得ント欲スル時ハ之レカ為メ其財産相続ノ開始シタル地ヲ管轄スル始審裁判所ノ長ニ請願書ヲ呈出ス可シ
其売払ハ動産売払ノ為メ前ニ定メタル貼附及ヒ公告ノ後公ケノ役員ニ於テ之ヲ為ス可シ
第九百八拾七条 若シ遺留財産ニ属スル不動産ヲ売払フ可キ時ハ目録ノ利益ヲ受クル相続人ハ財産相続開始ノ地ノ始審裁判所長ニ請願書ヲ差出ス可シ但シ其請願書ニハ右ノ不動産ヲ簡略ニ指定ス可キモノトス○其請願書ハ検察官ニ之ヲ通報シ而シテ検察官ノ意見申立及ヒ特ニ委任セラレタル裁判官ヨリ報告ノ上ニテ其売払ヲ許可シテ見積リ代価ヲ定ムル所ノ裁判ヲ為シ又ハ職権上ヨリ撰任シタル鑑定人ヲシテ其不動産ヲ査視シテ之ヲ評価セシム可キ旨ヲ予メ命令スル所ノ裁判ヲ為ス可シ
右最後ニ記シタル場合ニ於テハ裁判所ニ於テ請願ニ依リ鑑定人ノ報告書ヲ認可シ而シテ検察官ノ意見申立ノ上裁判所ヨリ其売払ヲ命令ス可シ
第九百八拾八条 前ニ記シタル各箇ノ場合ニ於テハ幼者ニ属スル不動産ノ売払ノ巻ニ定メタル法式ニ従ヒ其売払ヲ為ス可シ
此法典第七百一条、第七百二条、第七百五条、第七百六条、第七百七条、第七百十一条、第七百十二条、第七百十三条、第七百三十三条、第七百三十四条、第七百三十五条、第七百三十六条、第七百三十七条、第七百三十八条、第七百三十九条、第七百四十条、第七百四十一条、第七百四十二条、第九百六十四条ノ末ノ二項及ヒ第九百六十五条ハ本巻ニ共通ノモノト定ム
目録ノ利益ヲ受クル相続人ノ若シ本巻ニ定メタル規則ニ従ハスシテ不動産ヲ売払ヒタル時ハ単純ナル相続人ト看做サル可シ
第九百八拾九条 若シ遺留財産ニ属スル動産及ヒ年金収受権ノ売払ヲ為サシム可キ時ハ此類ノ財産ノ売払ノ為メニ定メタル方法ニ従ヒ其売払ヲ為ス可ク若シ之ニ背ク時ハ目録ノ利益ヲ受クル相続人、単純ナル相続人ト看做サル可シ
第九百九拾条 動産売払ノ代金ハ割合ヲ以テスル分配ノ巻ニ指示シタル法式ニ従ヒ故障ヲ申立ツル各債主ノ間ニ割合ヲ以テ分配ス可シ
第九百九拾壱条 不動産売払ノ代金ハ先取特権及ヒ書入質ノ順序ニ従ヒ之ヲ分配ス可シ
第九百九拾弐条 目録ノ利益ヲ受クル相続人ヲシテ強テ保証人ヲ立テシメント欲スル債主又ハ其他ノ関係人ハ本人又ハ住所ニ送達シタル裁判外ノ証書ヲ以テ特ニ之レカ為メ其相続人ニ催促ヲ為サシム可シ
第九百九拾三条 其催促ノ日ヨリ三日ノ定期ニ其相続人ノ住所ト裁判所々在ノ邑トノ間ニ三「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ加ヘタル期限内ニ其相続人ハ保証人ノ容受ノ為メニ定タル方法ヲ以テ其財産相続開始ノ地ノ裁判所ノ書記局ニ保証人ヲ呈出ス可シ
第九百九拾四条 若シ保証人ノ容受ニ関シテ紛争ノ起リタル時ハ要求ヲ為ス各債主ハ最先任ノ代書人ニ依リ代理セラル可キモノトス
第九百九拾五条 目録ノ利益ノ計算書差出ニ付テハ計算書ノ差出ノ巻ニ定メタル方法ヲ遵守ス可シ
第九百九拾六条 目録ノ利益ヲ受クル相続人ヨリ遺留財産ニ対シテ起ス可キ訴ハ他ノ相続人ニ対シテ之ヲ起ス可シ若シ又他ノ相続人アラサル時又ハ相続人全員ヨリ訴ヲ起ス時ハ相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人ト同一ノ方法ヲ以テ撰任シタル目録ノ利益ニ於ケル管財人ニ対シテ其訴ヲ起ス可シ
○第九巻 共通財産ノ放棄、嫁資不動産ノ売払及ヒ財産相続ノ放棄
第九百九拾七条 共通財産又ハ財産相続ノ放棄ハ財産共通ノ解分シ又ハ財産相続ノ開始シタル地ヲ管轄スル裁判所ノ書記局ニ之ヲ為シ而シテ民法第七百八十四条ニ定メタル簿冊上ニ之ヲ記載ス可ク且ツ同法典第千四百五十七条ニ従フ可キモノトス但シ其他ノ法式ヲ要スルコトナシ
民法第千五百五十八条ニ定メタル場合ニ於テ嫁資ノ不動産ヲ売払フ可キ時ハ請願書ヲ差出シタル上公ケノ審問席ニ於テ為シタル裁判ニ依リ予メ其売払ヲ許可ス可シ
右ノ外幼者ニ属スル不動産売払ノ巻第九百五十五条及ヒ第九百五十六条以下ノ各条ヲ適用ス可キモノトス
○第拾巻 相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人
第九百九拾八条 若シ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ猶予期限ノ終リシ後財産相続ヲ要求スル者ノ出テ来ラス又ハ人ノ知ル所ノ相続人アラス又ハ人ノ知ル所ノ相続人ノ其財産相続ヲ放棄シタル時ハ其財産相続ハ相続人ノ虧缺シタルモノト看做サレ而シテ民法第八百十二条ニ従ヒ其財産相続ニ管財人ヲ設備ス可シ
第九百九拾九条 管財人二名又ハ数名ノ間ニ於ケル抗競ノ場合ニ於テハ別ニ裁判ヲ要セスシテ先ニ撰任セラレタル者ヲ撰取ス可シ
第壱千条 管財人ハ目録ニ依リ遺留財産ノ景状ノ証明セラレサルニ於テハ先ツ第一ニ目録ヲ以テ其遺留財産ノ景状ヲ証朋セシム可ク且ツ財産目録ノ巻及ヒ動産ノ売払ノ巻ニ定メタル法式ニ従ヒ動産ヲ売払ハシム可シ
第千壱条 目録ノ利益ノ巻ニ定メタル方法ニ従フニ非サレハ不動産及ヒ年金収受権ノ売払ヲ為スコトヲ得ス
第千弐条 目録ノ利益ヲ受クル相続人ノ為メニ定メタル法式ハ相続人ノ虧缺シタル財産相続ノ管財人ノ為ス可キ管理ノ仕方及ヒ其差出ス可キ計算書ニモ亦適用ス可キモノトス
○第三編
○第壱巻 裁断人ノ裁断
第千三条 何人ニ限ラス自己ノ自由ナル処分ヲ有スル所ノ権利ニ付キ裁断人ノ裁断ニ任カスコトヲ得可シ
第千四条 人ハ飲食物、住居及ヒ衣服ノ生存中ノ贈与及ヒ遺嘱ノ贈与ニ付テモ又ハ夫婦ノ間ノ離分、離婚、身分上ノ論争ニ付テモ又ハ検察官ヘノ通報ヲ受ク可キ如何ナル争論ニ付テモ裁断人ノ裁断ニ任カスコトヲ得ス
第千五条 裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ハ撰定セラレタル裁断人ノ面前ニ於ケル調書ニ依リ又ハ公証人ノ面前ニ於ケル証書或ハ私シノ署名ノ証書ニ依リ之ヲ為スコトヲ得可シ
第千六条 裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ニハ争ヒアル物件及ヒ裁断人ノ姓名ヲ指定ス可シ若シ之ニ背ク時ハ無効ナリトス
第千七条 裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ハ仮令ヒ其期限ヲ定メスト雖モ有効ノモノタル可シ而シテ此場合ニ於テハ裁断人ノ職務ハ其裁断ニ任カス契約ノ日ヨリ三月間ノミ継続ス可キモノトス
第千八条 裁断ヲ為ス期限間ハ関係各人ノ総員一致ノ承諾アルニ非サレハ裁断人ヲ廃止スルコトヲ得ス
第千九条 関係各人及ヒ裁断人ハ其審理ノ手続ニ於テ裁判所ノ為メニ設定シタル期限及ヒ方法ニ従フ可シ但シ関係各人ノ之ニ異ナリタル合意ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第千拾条 関係各人ハ裁断人ノ裁断ニ任カス契約ノ時及ヒ其後ニ控訴ヲ放棄スルコトヲ得可シ
若シ控訴ノ上又ハ敬慎ノ請願ノ上ニテ裁断人ノ裁断ヲ受クル時ハ裁断人ノ裁決ハ確定ノモノニシテ更ニ之ヲ控訴ス可カラサルモノトス
第千拾壱条 審理ノ所為及ヒ裁断人参渉ノ調書ハ裁断人全員ニ於テ之ヲ作為ス可シ但シ裁断人ノ裁断ニ任カス契約ニ其中ノ一名ヲ委任スルコトヲ其各裁断人ニ許シタル時ハ格別ナリトス
第千拾弐条 裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ハ左ノ諸件ニ依テ終ルモノトス
第一 裁断人中一名ノ死去、否拒、辞退又ハ差支」但シ其審理ヲ継続シ又ハ関係各人ノ撰択或ハ後ニ残リタル裁断人一名又ハ数名ノ撰択ニ於テ後職ノ者ヲ撰任ス可キノ約款アル時ハ格別ナリトス
第二 約定セラレタル期限ノ終ル事若シ又其期限ヲ規定セサル時ハ三月ノ期限ノ終ル事
第三 若シ裁断人カ第三ノ裁断人ヲ撰任ス可キノ権力ヲ有セサル時ハ可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相同シキ事
第千拾三条 相続人全員ノ皆成年者タルニ於テハ死去ノ為メニ裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ヲ廃止セサルモノトス但シ審理シ及ヒ裁決スル為メノ期限ハ目録ヲ作リ及ヒ熟考スル為メノ期限間ハ之ヲ停止ス可シ
第千拾四条 裁断人ハ其所為ヲ始メタル時ハ辞退スルコトヲ得ス又裁断人ハ其裁断ニ任カスノ契約ヨリ後ニ起リタル原由ノ為メニ非ラサレハ之ヲ忌避スルコトヲ得ス
第千拾五条 仮令純粋ニ民事上ノモノタリト雖モ偽造ノ訴ヲ為シタル時又ハ或ル刑事ノ附帯ノ訴ノ起リタル時ハ裁断人関係各人ヲシテ上訴セシム可ク而シテ裁断ヲ為スノ期限ハ其附帯ノ訴ノ裁判アリシ日ヨリ継続シテ経過ス可キモノトス
第千拾六条 関係各人ハ裁断人ノ裁断ニ任カス契約ノ期限ノ終ル時ヨリ少クトモ十五日前ニ其弁論書及ヒ証拠物ヲ差出ス可ク而シテ裁断人ハ其差出シタル所ノモノニ拠テ裁決ス可シ
其裁決書ハ裁断人各員之ニ署名ス可ク若シ二名以上ノ裁断人アル場合ニ於テ其中少数ノ署名スルコトヲ否拒スル時ハ其他ノ裁断人其旨ヲ記載ス可ク而シテ其裁決書ハ裁断人各員ノ署名シタル時ト同一ノ効ヲ有ス可キモノトス
裁断人ノ裁決ハ如何ナル場合ニ於テモ故障ノ申立ヲ為ス可カラサルモノトス
第千拾七条 可トスル者ノ数ト否トスル者ノ数ト相同シキ場合ニ於テハ第三ノ人ヲ撰任スルコトヲ許サレタル裁断人ハ其可否同数ノモノタル旨ヲ宣告スル所ノ裁決ニ依リ其第三ノ人ヲ撰任ス可シ若シ裁断人ノ其第三ノ人ヲ合意スルコト能ハサル時ハ調書上ニ其旨ヲ告示ス可ク而シテ裁断人ノ裁決ノ執行ヲ命令ス可キ裁判所長ヨリ其第三ノ人ヲ撰任ス可シ
之レカ為メ最モ先キニ手続ヲ為ス者ヨリ請願書ヲ差出ス可シ
右二箇ノ場合ニ於テ其意見ノ分レタル裁断人ハ同一ノ調書若クハ別々ノ調書ニ其理由ヲ附シタル各箇ノ意見ヲ記載ス可シ
第千拾八条 第三ノ裁断人ハ其受諾ノ日ヨリ一月内ニ裁定ス可シ但シ撰任ノ証書ヲ以テ其期限ヲ延シタル時ハ格別ナリトス又其第三ノ裁断人ハ意見ノ分レタル他ノ各裁断人ニ特ニ集会ス可キノ催促ヲ為シタル上ニテ其裁判人ト商議シタル後ニ非サレハ宣告スルコトヲ得サルモノトス
若シ裁断人全員ノ集会セサル時ハ第三ノ裁断人ハ一人ニテ宣告ス可シ然レトモ其第三ノ裁断人ハ他ノ裁断人ノ意見中ノ一箇ニ従ハサルヲ得サルモノトス
第千拾九条 裁断人及ヒ第三ノ裁断人ハ法律上ノ規則ニ従ヒ裁決ス可シ但シ裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ニ仲裁人トナリテ宣告スルノ権力ヲ其裁断人ニ附与シタル時ハ格別ナリトス
第千弐拾条 裁断人ノ裁決ハ之ヲ為シタル地ヲ管轄スル始審裁判所長ノ命令ヲ以テ執行ス可キモノト為ス可シ但シ之レカ為メ裁断人中ノ一名ヨリ三日内ニ其裁判所ノ書記局ニ裁決書ノ細字正本ヲ納ム可キモノトス
若シ裁判ノ控訴ニ付キ裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ヲ為シタル時ハ其裁断人裁決書ヲ控訴裁判所ノ書記局ニ納メ而シテ其裁判所ノ長ヨリ命令ヲ為ス可シ
其書記局ニ納ムルノ費用及ヒ簿冊登記税ノ為メノ訟求ハ関係人ニ対スルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第千弐拾壱条 裁断人ノ裁決書ハ仮令本按ニ影響セサル予審ノモノト雖モ裁判所長ノ特ニ其細字正本ノ末又ハ其端ニ附記シタル命令ノ後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス但シ其裁決書ハ之ヲ検査官ニ通報スルヲ要セサルモノトス而シテ又右ノ命令書ハ裁決書ノ副本ノ末ニ之ヲ写取ル可シ
其裁決ノ執行ノ審理ハ右ノ命令ヲ為シタル裁判所ニ属スルモノトス
第千弐拾弐条 裁断人ノ裁決ハ如何ナル場合ニ於テモ第三ノ人ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第千弐拾三条 裁断人ノ裁決ノ控訴ハ若シ其裁断アラサリシナラハ始審ト終審トヲ問ハス治安裁判官ノ管轄内ノモノタル可キ事項ニ付テハ始審裁判所ニ之ヲ申告ス可ク又始審ト終審トヲ問ハス始審裁判所ノ管轄内ノモノタル可キ事項ニ付テハ控訴裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
第千弐拾四条 裁判所ノ裁判ノ仮リノ執行ニ付テノ規則ハ裁断人ノ裁決ニ適用ス可キモノトス
第千弐拾五条 若シ控訴ノ棄却セラルヽ時ハ其控訴者ハ通常ノ裁判所ノ裁判ニ関スル時ト同一ノ罰金ヲ言渡サル可シ
第千弐拾六条 通常ノ裁判所ノ裁判ニ付キ前ニ指定シタル期限、方法及ヒ場合ニ於テ裁断人ノ裁決ニ対シ敬慎ノ請願ヲ為スコトヲ得可シ
其敬慎ノ請願ハ控訴ヲ裁定スルノ権力アル裁判所ニ之ヲ申告ス可シ
第千弐拾七条 然レトモ左ノ諸件ハ敬慎請願ノ原由トシテ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第一 通常ノ法式ヲ遵守セサル事」但シ第千九条ニ記シタル如ク関係各人ノ之レニ異ナレル合意ヲ為シタル時ハ格別ナリトス
第二 訟求セサル事物ニ付キ宣告ヲ為シタルヨリ生スル憑拠」但シ後条ニ従ヒ無効ト為ス為メニ上訴スルハ格別ナリトス
第千弐拾八条 左ノ場合ニ於テハ控訴ニ依テモ又敬慎ノ請願ニ依テモ上訴スルコトヲ要セサルモノトス
第一 若シ裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ナク又ハ其契約ノ文詞ノ外ニ於テ裁決ヲ為シタル時
第二 無効ナル又ハ期限ノ終リタル裁断人ノ裁断ニ任カスノ契約ニ拠リ裁決ヲ為シタル時
第三 他ノ裁断人ノ不在ニ於テ裁決スルコトヲ許サレサル裁断人若干名ノ其裁決ヲ為シタル時
第四 可否ノ意見ノ分レタル裁断人ト商議セスシテ第三ノ人ノ其裁決ヲ為シタル時
第五 訟求セサル事物ニ付キ裁決ヲ宣告シタル時
総テ此等ノ場合ニ於テハ関係各人ハ執行ノ命令ニ対スル故障申立ニ依リ其命令ヲ為シタル裁判所ニ上訴シテ裁断人ノ裁決書ト称スル証書ノ無効ヲ訟求ス可シ
裁断人ノ裁決ノ敬慎請願若クハ控訴ノ上ニテ為シタル裁判所ノ裁判ニ対スルニ非サレハ破毀ヲ求ムルノ上告ヲ為スコトヲ得ス
○総則
第千弐拾九条 此法典ニ定メタル無効、罰金及ヒ失権ハ何レモ皆威嚇ノモノニ非ス
第千三拾条 如何ナル送達状又ハ訴訟手続ノ証書ト雖モ法律上ニ明確ニ其無効ノ旨ヲ定メタルニ非サレハ無効ナリト宣告スルコトヲ得ス
法律上ニ無効ノ旨ヲ定メサル場合ニ於テハ裁判所附役員ハ遺脱ノ為メ若クハ違背ノ為メニ五「フランク」ヨリ少ナカル可カラス又百「フランク」ニ過ク可カラサル罰金ヲ言渡サヽルコトアル可シ
第千三拾壱条 無効ナル又ハ無益ナル訴訟手続及ヒ証書並ニ罰金言渡ノ原由タル証書ハ之ヲ作為シタル裁判所附役員ノ負任タル可シ但シ其裁判所附役員ハ場合ノ需要ニ従ヒ右ノ外本人ニ損害賠償ヲ為ス可ク又然ノミナラス其職ヲ停止セラルヽコトアル可キモトス
第千三拾弐条 邑及ヒ公同設立場ハ裁判上ノ訟求ヲ為スニ付テハ行政法律ニ従フ可キモノトス
第千三拾三条 送達ノ日及ヒ満期ノ日ハ本人又ハ住所ニ送リタル呼出状、催促状及ヒ其他ノ証書ノ為メニ定メタル一般ノ期限中ニ計算セサルモノトス○其期限ハ五「ミリアメートル」ノ距離毎ニ一日ヲ増加ス可シ○若シ法律、告令又ハ命令ニ拠リ距離ノ為メニ期限ヲ増加ス可キ時ハ民事及ヒ商事ニ於テ定メタル総テノ場合ニ於テモ亦右ト同シカルヘシ○四「ミリアメートル」以下ノ端数ハ之ヲ計算ス可カラス又四「ミリアメートル」以上ノ端数ハ其期限ニ満一日ヲ増加スルモノトス○若シ期限ノ最後ノ日カ祭日タル時ハ其期限ヲ翌日ニ延ハス可シ
第千三拾四条 鑑定人ノ報告ニ出席セシムル為メノ催促状並ニ併合ノ裁判ニ拠リ附与シタル呼出状ニハ第一次ノ取調席又ハ第一次ノ審問席ノ場所及ヒ日時ノミヲ指示ス可シ而シテ仮令其取調席又ハ審問席ヲ他日ニ継続シタル時ト雖モ更ニ再ヒ其催促状及ヒ呼出状ヲ繰返スコトヲ要セス
第千三拾五条 若シ誓ヲ受ケ又ハ保証人ヲ容受シ又ハ証人訊問ヲ為シ又ハ実事ニ付キ本人ノ審訊ヲ為シ又ハ鑑定人ヲ撰任シ及ヒ一般ニ一箇ノ裁判ニ拠リ或ル所為ヲ行フコトニ関シ而シテ本人所在ノ地又ハ争ヒアル場所カ太タ遠隔ノモノタル時ハ裁判官ヨリ場合ノ需要ニ従ヒ近傍ノ一箇ノ裁判所又ハ裁判官一名又ハ然ノミナラス治安裁判官一名ニ委任スルコトヲ得可ク又然ノミナラス一箇ノ裁判所ニ其命令セラレタル所為ヲ行ハシムル為メ其職員中ノ一名若クハ治安裁判官一名ヲ撰任スルヲ許スコトヲ得可シ
第千三拾六条 裁判所ハ景況ノ軽重ニ従ヒ其掌轄シタル訴訟ニ於テ職権上タリトモ譴責ヲ宣告シ、書類ヲ滅却シ、其書類ヲ誣告ノモノナリト宣告シ而シテ其裁判書ノ印刷及ヒ貼附ヲ命令スルコトヲ得可シ
第千三拾七条 如何ナル送達又ハ執行ト雖モ十月一日ヨリ三月三十一日迄ハ朝ノ六時前夕ノ六時後ニ之ヲ為スコトヲ得ス又四月一日ヨリ九月三十日迄ハ朝ノ四時前夕ノ九時後ニ之ヲ為スコトヲ得ス又遅延ニ於テ危険アル場合ニ於テ裁判官ノ許ニ拠ルニ非サレハ法律上ノ祭日ニモ亦之ヲ為スコトヲ得ス
第千三拾八条 確定ノ裁判アリシ訴訟ニ於テ職ヲ行ヒタル代書人ハ其裁判ノ宣告ヨリ一年内ニ之レカ執行ヲ為スニ於テハ更ニ新タナル権力ナクシテ其裁判ノ執行ニ付キ職ヲ行フ可キモノトス
第千三拾九条 送達書類ヲ収受スルノ任ヲ受ケタル公員ニ為シタル総テノ書類送達ハ其公員ニ於テ無費ニテ之レカ正本ニ検署ス可シ
否拒ノ場合ニ於テハ其公員ノ住所ノ始審裁判所ニ於ケル検事之ニ検署ス可シ○其否拒者ハ検察官ノ意見申立ニ依リ五「フランク」ヨリ少ナキコトヲ得サル罰金ヲ言渡サルヽコトアル可シ
第千四拾条 裁判官ノ参渉ヲ以テスル総テノ証書及ヒ調書ハ裁判所々在ノ地ニ於テ之ヲ作為ス可シ但シ裁判官ハ常ニ必ス書記ノ補助ヲ受ク可ク而シテ書記ハ其細字ノ正本ヲ保存シテ之レカ副本ヲ交付ス可キモノトス若シ又至急ヲ要スル場合ニ於テハ裁判官其己レニ呈出セラレタル請願書ニ付キ自己ノ居所ニ於テ答ヲ為スコトヲ得可シ但シ至急審理ノ巻ニ記載シタル成規ノ執行ハ格別ナリトス
第千四拾壱条 此法典ハ千八百七年一月一日ヨリ之ヲ執行ス可シ故ニ右ノ時期ヨリ後ニ起ス所ノ総テノ訴訟ハ此法典ノ成規ニ従ヒ之ヲ審理ス可キモノトス○民事訴訟ニ関スル総テノ法律、慣習及ヒ規則ハ之ヲ廃止ス
第千四拾弐条 右ノ時期ヨリ前ニ訴訟費用ノ算定並ニ裁判所ノ警察及ヒ取締ノ為メ公ケノ行政規則ヲ作ル可シ○遅クトモ三年内ニ右規則ノ成規中ニテ立法上ノ処分ヲ包含スルモノハ法律ノ体裁ヲ以テ立法議院ニ之ヲ呈出ス可シ