独逸六法 商法

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総則 第一条 商事ニ関シテハ此法ニ別段ノ規定ヲ掲ケサルトキニ限リ商ヒノ習慣ニ従ヒ習慣ナキトキハ一般ノ民法ヲ適用スルモノトス 第二条 独逸為替条例ノ規定ハ此法ノ為メニ変更セラルヽコトナキモノトス 第三条 此法ニ商事裁判所ト謂ヘル場合ニ於テ特別ノ商事裁判所ナキトキハ通常ノ裁判所之ニ代ハルモノトス 第一編 商人タル身分 第一章 商人 第四条 何人タリトモ常業トシテ商ヒ取引ヲナス者ハ此法ニ謂ヘル商人ト看做スヘキモノトス 第五条 商人ニ関シ設ケタル規定ハ商社特ニ株式差金会社及株式会社ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 商人ニ関シ設ケタル規定ハ公然ノ銀行ニモ亦其商ヒ営行ノ範囲内ニ於テ之ヲ適用スルモノトス但銀行ノ為メ存スル規則ハ格別ナリトス 第六条 常業トシテ商ヒ取引ヲナス婦(商婦)ハ商ヒ営行ニ於テ商人ノ総テノ権利及義務ヲ有スルモノトス 商婦ハ其商ヒ取引ニ関シテハ各邦ニ於テ現行スル法律上特遇ヲ受ルコトヲ得ス 前二項ノ場合ニ於テハ商婦商ヒ営業ヲ一人ニテナスト又ハ他人ト共同シテナスト又ハ自己ニナスト又ハ番頭ヲシテナサシムルトヲ区別セサルモノトス 第七条 有夫ノ婦ハ其夫ノ承諾ナクシテ商婦トナルコトヲ得ス 婦其夫ノ知了スルモ故障ヲ受ルコトナクシテ商ヒヲナストキハ夫ノ承諾アリタルモノト看做ス 商人ノ婦ニシテ其夫ノ商ヒ営業ニ付キ手伝ノミヲナス者ハ商婦ニアラス 第八条 商婦タル有夫ノ婦ハ各個ノ取引ニ付キ其夫ノ特別ノ承諾ヲ受ルコトナクシテ其商ヒ取引ニ依リ有効ニ義務ヲ負担スルコトヲ得 商婦タル有夫ノ婦ハ其夫ノ管財権及入額所得権其他婦ノ財産ニ付キ結婚ニ依テ生シタル権利ニ拘ラス自己ノ全財産ヲ以テ商ヒノ負債ニ付キ責ヲ負担スルモノトス共通財産ノ存スル限ハ共通ノ財産モ亦其責ヲ負担スルモノトス同時ニ夫自己ノ財産ヲ以テ其責ヲ負担スルト否トハ各邦法律ニ従テ判定スヘシ 第九条 商婦ハ商事ニ於テハ独立シテ裁判所ニ出ルコトヲ得此場合ニ於テハ結婚セサルト又ハ結婚シタルトヲ区別セサルモノトス 第十条 此法ニ於テ店号、商ヒ帳及番頭ニ付キ掲ケタル規定ハ食物小商人、古物小商人、触売人其他之ニ類スル賎少ノ営業ヲナス商人其他安泊宿、居酒屋、尋常車夫、尋常船乗人及手細工業ノ範囲ヲ出テサル営業ヲナス者ニハ之ヲ適用セサルモノトス此等級ヲ詳定スルコトヲ必要ト認ルトキハ之ヲ各邦法律ニ任カス 店号、商ヒ帳及番頭ニ付キ掲ケタル規定ヲ適用セサル組合ハ之ヲ商社ト看做サヽルモノトス 各邦法律ハ各邦領地内ニ於テ其他ノ商人ノ等級ニモ亦店号、商ヒ帳及番頭ニ掲ケタル規定ヲ適用スヘカラサルコトヲ定ルモ妨ケナキモノトス亦各邦法律ハ此規定ヲ第一項ニ掲ケタル等級ノ二三ニ適用シ又ハ各邦領地内総テノ商人ニ適用スヘキコトヲ定ルヲ得 第十一条 此法ノ規定ノ適用ハ営業警察及営業税ニ関シ商人ノ資格及等級ヲ定ル為メノ要件ヲ掲ル各邦法律ニ依テ其効力ヲ失フコトナキモノトス亦其各邦法律ハ此法ノ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第二章 商事登記簿 第十二条 各商事裁判所ニ於テハ商事登記簿ヲ備ヘ置キ此法ニ定メタル登記ヲナスヘキモノトス 商事登記簿ハ公然ノモノニシテ其展覧ハ通常ノ執務時間中何人ニ対シテモ之ヲ許スヘキモノトス亦費用ヲ納メテ其登記ノ謄本ヲ求ルコトヲ得其謄本ハ求メニ依リ之ニ公証スヘシ 第十三条 商事登記簿ヘノ登記ハ此法ニ於テ別段ノ定メヲ明記セサルトキニ限リ商事裁判所ヨリ其全旨ヲ一個又ハ数個ノ公告紙ニ載セテ速ニ公告スヘキモノトス 第十四条 各商事裁判所ハ其管轄内ノ為メ毎年十二月ニ翌年中第十三条ニ規定シタル公告ヲナスヘキ公告紙ヲ定ムヘキモノトス其決議ハ一個又ハ数個ノ公告紙ヲ以テ公告スヘシ 其定メタル公告紙ノ其年内ニ発行ヲ止ルトキ裁判所ハ之ニ代ハル他ノ公告紙ヲ定メテ公告スヘキモノトス 裁判所ニ於テ其定ムヘキ公告紙ヲ撰定スルニ方リ上班ノ官署ノ差図ニ従フヘキ程度ハ各邦法律ニ従テ之ヲ判定スヘキモノトス 第三章 店号 第十五条 商人ノ店号ハ商ヒニ於テ其取引ヲナシ及署名ヲナスノ名称ナリトス 第十六条 社員ナク又ハ単ニ匿名社員ト共ニ取引ヲナス商人ハ単ニ自己ノ氏ニ名ヲ加ヘ又ハ名ヲ加ヘスシテ店号トナスコトヲ許スモノトス 商人ハ会社ノ関係ヲ表スル附号ヲ其店号ニ加ルコトヲ許サス但其人又ハ其取引ヲ詳明スル他ノ附号ヲ加ルハ此限ニアラス 第十七条 合名会社ノ店号ハ之ニ総社員ノ氏名ヲ用井サルトキ少クトモ社員一名ノ氏名ト会社ノ現存ヲ表スル附号トヲ包含スヘキモノトス 差金会社ノ店号ハ少クトモ無限責任社員一名ノ氏名ト会社ノ現存ヲ表スル附号トヲ包含スヘキモノトス 無限責任社員ニアラサル人ノ氏名ハ之ヲ会社ノ店号ニ用ルコトヲ許サス又合名会社又ハ差金会社ハ差金者ノ資本ヲ株式ニ分チタルトキト雖之ヲ株式会社ト称スルコトヲ許サス 第十八条 株式会社ノ店号ハ通例其起業ノ事件ヲ以テ之ニ宛ツヘキモノトス 社員又ハ其他ノ人ノ氏名ハ之ヲ其店号ニ用ルコトヲ許サス 第十九条 各商人ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ其商店所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ自己ノ店号ヲ届出ルノ義務アルモノトス商人ハ商事裁判所ニ於テ其店号及其名ヲ手署シ又ハ店号及其名ヲ手署シタル書面ヲ公証ヲ得テ差出スヘシ 第二十条 新ナル各個ノ店号ハ同地又ハ同町村ニ於テ既ニ現存シ及商事登記簿ニ登記セラレタル総テノ店号ト明ニ之ヲ区別スヘキモノトス 既ニ商事登記簿ニ登記セラレタル商人ト同一ノ氏名ヲ有スル商人ニシテ其氏名ヲ自己ノ店号トナサント欲スル者ハ既ニ登記セラレタル店号ト明ニ区別スル附号ヲ自己ノ氏名ニ加フヘキモノトス 第二十一条 店号ハ他ノ地又ハ他ノ町村ニ於テ設ケタル支店ニ付テモ亦其支店ヲ管轄スル商事裁判所ニ之ヲ届出ツヘキモノトス 支店ヲ設ル地又ハ町村ニ於テ既ニ同一ノ店号アルトキハ既ニ現存スル店号ト明ニ区別スル附号ヲ加フヘキモノトス 支店ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テスル登記ハ本店ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ登記ヲナシタルコトヲ証明シタル後ニアラサレハ之ヲナスコトヲ許サス 第二十二条 何人タリトモ現存スル商ヒ取引ヲ契約又ハ相続ニ依テ得ル者ハ従前ノ所有者又ハ其相続人又ハ共同ノ相続人アルトキハ其相続人従前ノ店号ヲ継続スルコトヲ明許スルトキ受継ノ関係ヲ表スル附号ヲ加ヘ又ハ加ヘスシテ従前ノ店号ヲ用井其取引ヲ継続スルコトヲ得 第二十三条 店号ヲ店号トシテナス売譲ハ其店号ヲ以テ従来ナセシ商ヒ取引ト分離シテ之ヲナスコトヲ許サス 第二十四条 現存スル商ヒ取引ニ社員トナリテ加入スルトキ又ハ社員新ニ商社ニ加入シ又ハ退社スルトキハ其変更ニ拘ラス従前ノ店号ヲ継続スルコトヲ得 但退社スル社員ノ氏名店号ニ包含セラレタルトキハ其退社ノ際従前ノ店号ヲ継続スルコトニ付キ其社員ノ明諾アルヲ要ス 第二十五条 店号ノ変更シ又ハ消滅スルトキ又ハ店号ノ所有者変更スルトキハ第十九条ノ規定ニ従ヒ之ヲ商事裁判所ニ届出ツヘキモノトス 其変更又ハ消滅ヲ商事登記簿ニ登記セス及公告セサリシトキ其事実ニ罹リタル本人ハ他人ニ対シ之ヲ有効ナラシムルコトヲ得ス但本人他人ニ於テ其事実ヲ知了シタリシコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 其登記及公告ヲナシタルトキ他人ハ其変更又ハ消滅ヲ自己ニ対シ有効ナラシムヘキモノトス但事情ニ依リ他人其事実ヲ知了セス及知了スルノ義務ナシト認ルノ理由アルトキハ此限ニアラス 第二十六条 商事裁判所ハ第十九条第二十一条第二十五条ノ規定ヲ遵守セシムル為メ職権ヲ以テ関係者ニ過料ヲ科スヘキモノトス 此章ノ規定ニ従ヒ自己ニ属セサル店号ヲ用ル者ニ対シテモ亦前項同一ナリトス 第二十七条 何人タリトモ権利ナク店号ヲ使用セラレタルカ為メ自己ノ権利ヲ害セラレタル者ハ其権利ナキ者ニ対シ将来其店号ノ使用ヲ廃止セシメ及損害ヲ賠償セシムルコトヲ請求スルヲ得 其損害ノ有無及多寡ニ付テハ商事裁判所其見込ヲ以テ裁決スルモノトス 商事裁判所ハ敗訴者ノ費用ヲ以テ其判決ノ公告ヲ命スルコトヲ得 第四章 商ヒ帳 第二十八条 各商人ハ其商ヒ取引及財産ノ現状ヲ明知スルコトヲ得ヘキ帳簿ヲ備置クノ義務アルモノトス各商人ハ受取リタル商ヒ上ノ書状ヲ貯置キ又ハ差出シタル商ヒ上ノ書状ノ写ヲ留置キ月日ノ順序ニ従ヒ之ヲ謄写簿ニ記入スルノ義務アルモノトス 第二十九条 各商人ハ営業ヲ始ルノ際其所有ノ地所、貸方、借方、及現金額其他ノ財産ヲ詳記シ金額外ノ財産ニ付テハ其価額ヲ附シ及資産ト負債トノ関係ヲ表スル決算ヲナスヘキモノトス其後毎年右財産目録及財産比較表ヲ調製スヘシ 商人取引ノ性質ニ依リ毎年正当ニ財産目録ヲ作ルコト能ハサル商品ノ貯蔵ヲ有スルトキハ其貯蔵ノ目録ヲ二年毎ニ調製スルヲ以テ足レリトス 本条ノ規定ハ商社ニ対シ其財産ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 第三十条 財産目録及財産比較表ハ商人之ニ署名スヘキモノトス無限責任ヲ有スル数名ノ社員アルトキハ其総員署名スヘシ 財産目録及財産比較表ハ之カ為メ備ヘタル帳ニ記入シ又ハ其都度格別ニ調製スルコトヲ得其格別ニ調製スル場合ニ於テハ之ヲ集メ順序ヲ追ヒ編綴シテ保存スヘキモノトス 第三十一条 財産目録及財産比較表ヲ調製スルトキハ全財産及貸方ヲ其時ノ付スヘキ価額ヲ以テ記入スヘキモノトス 不慥ナル貸方ハ其概算ノ価額ヲ以テ記入シ取立テ難キ貸方ハ之ヲ記入スヘカラス 第三十二条 商ヒ帳ノ記載及其他ノ必要ナル記載ニ方リ商人ハ通用ノ言語及文字ヲ用ユヘキモノトス 商ヒ帳ハ製本シテ毎紙ニ順次番号ヲ附スヘキモノトス 通常記入スヘキ部分ニハ空白ヲ存スルコトヲ許サス又記入ノ原字ハ画線又ハ其他ノ方法ヲ以テ読ミ得ヘカラサル様ナスコトヲ許サス又一モ塗抹スルコトヲ許サス又最初記入ノ際ニナシタルヤ又ハ後ニ至リ始メテナシタルヤヲ仕方ニ依テ不明ナラシムル変更ヲナスコトヲ許サス 第三十三条 商人ハ商ヒ帳ヲ最後ニ記入シタル日ヨリ起算シ十年間保存スルノ義務アルモノトス 受取リタル商ヒ上ノ書状並ニ財産目録及財産比較表ニ付テモ亦前項同一ナリトス 第三十四条 正当ニ記載シタル商ヒ帳ハ商人間商事ニ付テノ訴訟ニ方リ通例不完全ナル証拠トナルモノトス其証拠ハ宣誓又ハ其他ノ証拠物ヲ以テ之ヲ補フコトヲ得 但裁判官ハ商ヒ帳ノ旨趣ニ軽キ証拠力又ハ重キ証拠力ヲ付スヘキヤ又原被告双方ノ商ヒ帳牴触スル場合ニ於テ其証拠物ヲ全ク捨ツヘキヤ又一方ノ帳ニ重キ証拠力ヲ付スヘキヤヲ総テ状況ヲ熟考シ其見込ヲ以テ裁決スヘキモノトス 商ヒ帳商人ニアラサル者ニ対シ証拠力ヲ有スルヤ否及其程度ハ各邦法律ニ従テ判定スヘキモノトス 第三十五条 記載ノ不正当ナル商ヒ帳ハ其不正当ノ仕方及軽重並ニ事状ニ依リ至当ト認ル部分ニ限リ証拠物トシテ之ヲ採用スルコトヲ得 第三十六条 商ヒ帳ヘノ記入ハ之ヲ商業手伝人ニ委託スルコトヲ得但之カ為メ其証拠力ヲ害スルコトナシ 第三十七条 訴訟中裁判官ハ原被告一方ノ申立ニ依リ対手ニ商ヒ帳ノ呈出ヲ命スルコトヲ得其呈出ヲナサヽルトキ商ヒ帳ニ於テ主張セラレタル旨趣ハ証明セラレタルモノト看做シ其呈出ヲ拒ミタル者ノ不利トナルモノトス 第三十八条 訴訟中商ヒ帳ヲ呈出スルトキハ其旨趣ノ争ヒニ関スル部分ニ限リ原被告立会ノ上ニテ展覧ヲナシ及相当ナル場合ニ於テハ抜書ヲ調製スヘキモノトス商ヒ帳ノ其他ノ旨趣ハ其記載ノ当否ヲ検査スル為メ必要ナル部分ニ限リ裁判官ニ示スヘキモノトス 第三十九条 呈出スヘキ商ヒ帳訴訟裁判所ノ管轄ニ属セサル地ニ存スルトキ訴訟裁判所ハ其商ヒ帳ノ存スル地ノ裁判所ニ嘱託シテ其商ヒ帳ノ呈出ヲナサシムヘキモノトス此場合ニ於テハ前条ノ規定ニ従ヒ裁判手続ヲナシ及公証シタル抜書ヲ審問ニ付キ調製シタシル筆記ト共ニ之ヲ送致セシムヘシ 第四十条 遺物相続事件又ハ財産共通事件並ニ会社ノ分配事件及倒産ニ於テハ倒産人ノ商ヒ帳ニ限リ其全旨趣ヲ尽ク知了スル為メ裁判所ヨリ其商ヒ帳ノ呈出ヲ命スルコトヲ得 第五章 番頭及手代 第四十一条 何人タリトモ商店所有主(商業主人)ヨリ其名及計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナシ及番頭トシテ店号ヲ手署スルノ委任ヲ受ケタル者ハ之ヲ番頭ナリトス 番頭ヲ任スルニハ番頭タルコトヲ明記シタル委任状ヲ交付シ又ハ受任者ヲ番頭トシテ明記シ又ハ番頭トシテ商業主人ノ店号ヲ手署スルコトヲ委任シテナスコトヲ得ルモノトス 番頭ニハ数多ノ人共同シテ任セラルヽコトヲ得(共同番頭) 第四十二条 番頭ハ商ヒ営業ヲナスニ缺クヘカラサル裁判上及裁判外ノ取引及権利上行為ノ総テノ種類ニ付キ委任セラレタルモノトス又各邦法律ニ従ヒ必要ナル各特別委任ヲ包含シ又商業手伝人及手代ヲ任免スルノ権アルモノトス 番頭ハ特別委任ヲ受ケタルトキニアラサレハ地所ヲ売譲シ及地所ニ義務ヲ負ハシムルノ権ナキモノトス 第四十三条 番頭ノ権限(第四十二条)ノ制限ハ他人ニ対シテ法律上其効ナキモノトス 特ニ番頭ノ権限或ル取引又ハ取引ノ或ル種類ニ付テノミ効力アリトスルノ制限又ハ或ル状況ニ於テ又ハ或ル時ニ関シ又ハ二三ノ地ニ於テノミ執行スヘシトスルノ制限ニ付テモ亦前項同一ナリトス 第四十四条 番頭ハ店号ニ其番頭タルコトヲ表スル附号及自己ノ名ヲ加ヘテ手署スヘキモノトス 共同番頭ノ場合ニアリテハ各番頭ハ其共同番頭タルコトヲ表スル附号ヲ備ヘタル店号ノ手署ニ其名ヲ加フヘキモノトス 第四十五条 番頭ノ授任ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ商業主人自ラ又ハ公証ヲ得タル書面ヲ以テ之ヲ商事裁判所ニ届出ツヘキモノトス 番頭ハ商事裁判所ニ於テ其店号及名ヲ手署(第四十四条)シ又ハ其店号及名ヲ手署シタル書面ヲ公証ヲ得テ差出スヘキモノトス 番頭ノ解任ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ商業主人前項同一ノ方法ヲ以テ之ヲ届出ツヘキモノトス 関係者ハ本条ノ規定ヲ遵守セン為メ職権ヲ以テ過料ヲ科セラルヘキモノトス 第四十六条 番頭ノ解任ヲ商事登記簿ニ登記セス及公告セサリシトキハ商業主人ハ他人ニ対シ之ヲ有効ナラシムルコトヲ得ス但商業主人他人ニ於テ取引結約ノ際其解任ヲ知了シタリシコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 其登記及公告ヲナシタルトキ他人ハ番頭ノ解任ヲ自己ニ対シ有効ナラシムヘキモノトス但事情ニ依リ他人取引ヲ結約スルノ際其解任ヲ知了セス及知了スルノ義務ナシト認ルノ理由アルトキハ此限ニアラス 第四十七条 商業主人商ヒ営業ニ於テ番頭ヲ授任スルコトナクシテ其商ヒ営業ノ全部ヲナサシメ又ハ一定ノ種類ノ取引ヲナサシメ又ハ各個ノ取引ヲナサシムル為メ委任ヲナス(手代)トキ其委任ハ通例此商ヒ営業ヲナシ又ハ此取引ヲ実行スルニ通例缺クヘカラサル総テノ取引及権利上行為ニ及フモノトス 但手代ハ為替義務ヲ負ヒ金銭ノ借入ヲナシ及訴訟ヲナスニハ特ニ委任セラレタルトキニ限リ其権アルモノトス 其他手代ハ其委任ノ及フ取引ヲナスニハ各邦法律ニ於テ規定シタル特別委任ヲ要スルコトナキモノトス 第四十八条 手代ハ其手署ヲナストキ番頭タルコトヲ表スル各個ノ附号ヲ用ユヘカラス其委任ノ関係ヲ明示スル附号ヲ以テ手署スヘキモノトス 第四十九条 前二条ノ規定ハ商業主人旅商人トシテ他ノ地ニ於テナス取引ニ使用スル手代ニモ亦之ヲ適用スルモノトス特ニ其手代ハ自己ノ結約シタル売渡代価ヲ受取リ又ハ其代価支払期限ヲ承諾スルノ権アルモノト看做ス 第五十条 何人タリトモ店舗又ハ出入ヲ許シタル倉庫又ハ商品貯蓄所ニ使用セラルヽ者ハ其場所ニ於テ通例ナス売捌及領収ヲナスノ権アルモノト看做ス 第五十一条 何人タリトモ商品及領収証ナキ勘定書ヲ持参スル者ハ未タ之ヲ以テ支払ヲ領収スルノ権アリト看做サヽルモノトス 第五十二条 番頭又ハ手代ノ其番頭又ハ手代タルノ委任ニ従ヒ商業主人ノ名ヲ以テ取結フ権利上取引ニ付テハ商業主人他人ニ対シ其権利及義務ヲ有スルモノトス 其取引ヲ商業主人ノ名ヲ以テ明ニ取結ヒタルト又ハ契約者双方ノ意ニ依ルニ商業主人ノ為メニ取結ヒタルヘキ事情判然スルトニ依テ区別アルコトナシ 其取引ハ番頭又ハ手代ト他人トノ間ニ権利及義務ヲ生セサルモノトス 第五十三条 番頭又ハ手代ハ商業主人ノ承諾アルニアラサレハ其番頭又ハ手代タルノ委任ヲ他人ニ譲ルコトヲ得ス 第五十四条 番頭又ハ手代タルノ委任ハ何時タリトモ之ヲ取戻スコトヲ得但現存スル勤務上関係ヨリ生スル権利ハ之カ為メ害セラルヽコトナキモノトス 商業主人ノ死亡ハ番頭又ハ手代タル委任ヲ解除スルノ結果ヲ生セサルモノトス 第五十五条 何人タリトモ番頭又ハ手代タルノ委任ヲ受ルコトナクシテ番頭又ハ手代トシテ商ヒ取引ヲナス者並ニ取引結約ノ際委任ヲ超ル手代ハ商法ニ従ヒ他人ニ対シ自ラ其責任ヲ負担スルモノトス他人ハ其意ニ随ヒ此者等ニ対シ損害賠償又ハ義務履行ヲ請求スルコトヲ得 其責任ハ他人番頭又ハ手代タルノ委任ナキコト又ハ手代ノ委任ニ超ルコトヲ知了シテ契約シタルトキハ生セサルモノトス 第五十六条 番頭又ハ商ヒ営業ノ全部ヲナス為メ任セラレタル手代ハ商業主人ノ承諾アルニアラサレハ自己及他人ノ計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナスコトヲ許サス商業主人ノ承諾ハ商業主人ニ於テ番頭又ハ手代ヲ授任スルニ方リ其番頭又ハ手代自己又ハ他人ノ計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナスコトヲ知了シテ之ヲ廃止セシムルコトヲ契約セサリシトキハ既ニ之ヲナシタリト看做スヘキモノトス 番頭又ハ手代本条ノ規定ニ違フトキ商業主人ハ其生シタル損害ノ貼償ヲ要求スルコトヲ得亦番頭又ハ手代自己ノ計算ヲ以テナシタル取引ヲ商業主人ノ計算ヲ以テナシタルモノト看做スヘキコトヲ商業主人ノ求メニ依リ認諾スヘキモノトス 第六章 商業手伝人 第五十七条 商業手伝人商業傭人商業徒弟ノ勤務ノ性質及給料及給与ニ関スル請求ハ契約ナキ場合ニ於テハ其地ノ習慣又ハ裁判所ノ見込ニ依リ之ヲ定メ已ムヲ得サル場合ニ於テハ鑑定人ノ鑑定ニ従ヒ之ヲ定ルモノトス 第五十八条 商業手伝人ハ商業主人ノ名及計算ヲ以テ権利上取引ヲナスノ権ナキモノトス 但商業手伝人商業主人ヨリ其商ヒ営業ニ於テ権利上取引ヲナスコトヲ委任セラレタルトキハ手代ニ付テノ規定ヲ適用スルモノトス 第五十九条 商業手伝人ハ商業主人ノ承諾アルニアラサレハ自己及他人ノ計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナスコトヲ許サス 其取引ニ関シテハ番頭及手代ニ付テ現行スル規定(第五十六条)ヲ適用スルモノトス 第六十条 自己ノ過失アルニアラサル罹災ニ依テ其勤務ヲナスコトヲ一時妨ケラルヽ商業手伝人ハ之カ為メ其給料及給与ニ関スル請求権ヲ失ハサルモノトス但六週間ニ限リ此請求権ヲ有ス 第六十一条 商業主人ト商業傭人トノ間ニ於ケル勤務上関係ハ六週ノ予告ヲ以テ暦上一年ノ四分一ヲ経過スル毎ニ其各方ヨリ之ヲ解クコトヲ得但契約ヲ以テ其解約期限又ハ其予告期限ヲ伸縮シタルトキハ其契約ニ従フ 商業徒弟ニ関シテハ其習業時間ハ其習業契約ニ従ヒ其契約上ノ定メナキトキハ其地ノ令達又ハ習慣ニ従テ判定スヘキモノトス 第六十二条 一定ノ期限(第六十一条)前ニナス勤務上関係ノ解除ハ至重ノ理由ニ依リ各方ヨリ之ヲ求ルコトヲ得 其理由ノ至重ナルト否トノ判定ハ之ヲ裁判官ノ見込ニ任ス 第六十三条 勤務上関係ノ解除ハ特ニ商業主人給料又ハ其受クヘキ給与ヲ与ヘサルトキ又ハ商業手伝人ニ対シ暴行ヲ加ヘ又ハ重キ栄誉毀損ヲナストキ商業主人ニ対シ之ヲ言渡スコトヲ得 第六十四条 勤務上関係ノ解除ハ特ニ左ノ場合ニ於テハ商業手伝人ニ対シ之ヲ言渡スコトヲ得 第一 商業手伝人勤務ニ関シ信義ヲ破リ又ハ信用ヲ濫用スルトキ 第二 商業手伝人商業主人ノ承諾ナクシテ自己又ハ他人ノ計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナストキ 第三 商業手伝人其勤務ヲナスコトヲ拒絶シ又ハ正当ナル差支ノ理由ナクシテ状況ニ依ルニ長キ時間其勤務ヲ怠ルトキ 第四 商業手伝人長病又ハ多病又ハ長キ羈絆刑又ハ久キ不在ニ依リ其勤務ヲナスコトヲ妨ケラルヽトキ 第五 商業手伝人商業主人ニ対シ暴行ヲ加ヘ又ハ重キ栄誉毀損ヲナストキ 第六 商業手伝人不品行ナルトキ 第六十五条 商ヒ営業ヲナスニ方リ傭役者ノ役務ヲナス者ニ付テハ傭役者ノ役務上関係ニ付キ現行スル規定ヲ適用スルモノトス 第七章 商業仲立人 第六十六条 商業仲立人ハ商ヒ取引ニ付キ官ヨリ任セラレタル媒介人ナリトス 商業仲立人其就職前其負担スル義務ヲ誠実ニ尽サント欲スルノ宣誓ヲナスモノトス 第六十七条 商業仲立人ハ委託人ノ為メ商品、船舶、為換内国及外国ノ国債券、株券其他商業上証券ニ付テノ売買並ニ保険、船舶書入、船舶ノ運送賃借及船舶賃借、陸海運送其他商ヒニ関スル事件ニ付テノ契約ヲ媒介スルモノトス 商業仲立人ハ取引ノ媒介ヲ委託セラレタルニ依リ未タ支払又ハ其他契約ニ定メタル供給ヲ受取ルノ権アリト看做スヘカラサルモノトス 第六十八条 商業仲立人ノ任命ハ一般ニ仲立人業務ノ種類ニ付キ之ヲナシ又ハ単ニ其業務ノ各個種類ニ付キ之ヲナスモノトス 第六十九条 商業仲立人ハ特ニ左ノ義務ヲ有スルモノトス 第一 商業仲立人ハ直接ト間接トヲ問ハス自己ノ計算ヲ以テ商ヒ取引ヲナスコトヲ許サス亦仲買人トナリテ商ヒ取引ヲナスコトヲ許サス又其媒介スル取引ヲ完結スル為メト己ニ義務ヲ負ヒ又ハ保証ヲナスコトヲ許サス但総テ之ニ違フモ其取引ノ効力ヲ害スルコトナシ 第二 商業仲立人ハ商人ト番頭手代又ハ商業手伝人タルノ関係ヲ有スルコトヲ許サス 第三 商業仲立人ハ仲立人ノ業務ノ全部又ハ一部ヲ共同シテナサンカ為メ他ノ商業仲立人ト結合スルコトヲ許サス但委託人ノ承諾ナルトキハ各個ノ取引ヲ共同シテ媒介スルノ権アリトス 第四 商業仲立人ハ仲立ノ業務ヲ自ラナスヘキモノトス又取引ヲ結約スル為メ手伝人ヲ用ルコトヲ許サス 第五 商業仲立人ハ委託、協議及契約ニ付キ黙秘スルノ義務アルモノトス但其反対ヲ委託人双方ニ於テ承諾シ又ハ取引ノ性質ニ於テ反対セサルヲ得サルトキハ此限ニアラス 第六 商業仲立人ハ孰レノ取引ヲ問ハス本人ノ明言ニ依ルニアラサレハ委託人双方又ハ其代人ノ承諾ヲ受ルコトヲ許サス又不在者ヨリ委託ヲ受ルコト及ヒ媒介ノ為メ下仲立人ヲ用ルコトヲ許サス 第七十条 船舶仲立ヲナス商業仲立人ハ運賃及費用ノ領収及前貸ニ関シ計算人トナリ又ハ其他其地ノ習慣ニ依リ船長ノ為メニ助役ヲナスヲ許サルヽコトアルモノトス 第七十一条 商業仲立人ハ其手帳ノ外日記ヲ備ヘ其日記ニ総テ結約シタル取引ヲ日々記入スヘキモノトス其記入シタルモノニハ日々署名スヘシ 日記ハ其使用前毎紙ニ順次番号ヲ附シ紙数ノ公証ヲ受ル為メ其管轄官署ニ之ヲ差出スヘキモノトス 第七十二条 日記ヘノ記入ハ契約者双方ノ名、結約ノ時日、事件ノ詳細及取引ノ約束特ニ商品売渡ニアリテハ其種類及数量並ニ代価及引渡ノ時日ヲ包含スヘキモノトス 其記入ハ独逸語ヲ以テナシ又ハ其地ノ取引ノ通語他国語ナルトキハ此語ヲ以テナスヘキモノトス又其記入ハ日付ノ順序ニ従ヒ及空白ヲ存スルコトナクシテ之ヲナスヘシ 商ヒ帳ヘノ記入ニ付テノ規定(第三十二条)ハ商業仲立人ノ日記ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 第七十三条 商業仲立人ハ取引結約ノ後遅延ナク前条ニ於テ記入ノ事件トシテ掲ケタル事実ヲ載スル結約票ニ署名シテ之ヲ委託人双方ニ送達スヘキモノトス 直ニ完結スヘカラサル取引ニアリテハ其結約票ヲ署名ノ為メ委託人双方ニ送達シ其署名セシメタルモノヲ交換シテ各方ニ送達スヘシ 委託人ノ一方結約票ノ領収又ハ署名ヲ拒ムトキ商業仲立人ハ遅延ナク之ヲ他ノ一方ニ通知スヘキモノトス 第七十四条 商業仲立人ハ委託人双方ニ関スル取引ニ付キ仲立人ノ記入シタル総テノモノヲ載スヘキ日記ノ公証ヲ得タル抜書ヲ求メニ依リ何時タリトモ委託人双方ニ与フルノ義務アルモノトス 第七十五条 商業仲立人死去シタルトキ又ハ解任セラレタルトキ其日記ハ之ヲ官署ニ納ムヘキモノトス 第七十六条 商業仲立人ノ媒介シタル結約ハ之ヲ日記ニ記入スルト又ハ結約票ヲ交付スルト否トニ依テ変更スルコトナキモノトス 其記入及交付ハ単ニ結約ノ証拠トナルモノトス 第七十七条 商業仲立人ノ正当ニ記載シタル日記及結約票ハ通例其取引結約及事項ノ証拠トナルモノトス但裁判官ハ総テノ状況ヲ熟考スルニ依テ得タル見込ヲ以テ日記及結約票ノ事項ニ僅少ノ証拠力ヲ与フヘキヤ又ハ仲立人ノナス宣誓上保証又ハ其他ノ証拠ヲ要スヘキヤ又ハ特ニ契約者一方ニ於テ結約票ヲ領収スルコト又ハ之ニ署名スルヲ拒絶スルコトノ事件ヲ判定スル為メニ重要ナルヘキヤヲ裁決スヘキモノトス 第七十八条 記載ノ不正当ナル商業仲立人ノ日記ハ其不正当ノ仕方及軽重及事状ニ依リ至当ト認ル部分ニ限リ証拠物トシテ之ヲ採用スルコトヲ得 第七十九条 訴訟中裁判官ハ原被告一方ノ申立ナキモ日記ヲ展覧シ及結約票、抜書及其他ノ証拠物ト対照スル為メ日記ノ呈出ヲ命スルコトヲ得 第三十九条ノ規定ハ日記ノ呈出ニ関シテモ亦之ヲ適用スルモノトス 第八十条 商業仲立人ハ其媒介ニ依リ見本ヲ以テ売リタル各商品ノ見本ニ見分ケノ為メ記号ヲ付シタル後品質ニ対シ故障ナクシテ商品ヲ領収シ又ハ他ノ方法ヲ以テ其取引ヲ完結スルニ至ルマテ其見本ヲ貯置クヘキモノトス但契約者双方其貯置クコトヲ免除スルトキ又ハ其地ノ習慣ニ依リ其商品ノ種類ヨリシテ其貯置クコトヲ要セサルトキハ此限ニアラス 第八十一条 商業仲立人ノ過失ニ依リ損害ヲ被リタル契約者一方ハ商業仲立人ニ対シ損害賠償ヲ要求スルノ権アルモノトス 第八十二条 商業仲立人ハ取引ヲ結約シテ結約票送達ノ義務ヲ履行シタルトキ又ハ取引設若アルモノナルトキハ其設若ナキモノトナリテ結約票送達ノ義務ヲ履行シタルトキ直ニ仲立手数料ヲ要求スヘキモノトス但其地ノ規則又ハ習慣ニ於テ別段ノ規定アルトキハ此限ニアラス 取引結約ニ至ラサルトキ又ハ取引設若ナキモノトナラサルトキ其周旋ニ付テハ仲立手数料ヲ要求スルコトヲ得ス 仲立手数料ノ額ハ其地ノ規則ニ従テ之ヲ定メ其規則ナキトキハ其地ノ習慣ニ依ルモノトス 第八十三条 契約者双方ノ間ニ其仲立手数料ヲ孰レニ於テ払フヘキヤヲ契約セサリシトキ其手数料ハ其地ノ規則又ハ習慣ナキ場合ニ於テハ折半シテ各方ヨリ之ヲ支払フヘキモノトス 第八十四条 商業仲立人ノ任命及其職務上ノ義務背反ノ罰ニ付キ要件ヲ定ルハ之ヲ各邦法律ニ任ス 其地ノ需求ニ応シ此章ノ規定ヲ補充スルハ之ヲ各邦法律ニ任ス特ニ商ヒ取引ヲ媒介スルノ専有権ヲ商業仲立人ニ与フルコトヲ得 各邦法律又ハ其地ノ規則ヲ以テハ亦此章ニ於テ商業仲立人ニ与ヘタル職掌及権限(第六十七条及第七十条)又ハ其義務ノ範囲(第六十九条)ヲ拡張シ又ハ減縮スルコトヲ得 第二編 商社 第一章 合名会社 第一節 会社ノ設立 第八十五条 合名会社ハ二名又ハ数名共同ノ店号ヲ以テ商ヒ営業ヲナシ総社員其損益ヲ差入財産ニ限ラサルトキ存立スルモノトス 会社契約ノ効力ヲ有セシムルニハ書面又ハ其他ノ法式ヲ要セサルモノトス 第八十六条 合名会社ノ設立ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所及支社ノ所在地ヲ管轄スル各商事裁判所ニ全社員ヨリ之ヲ届出ツヘキモノトス 其届出書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘキモノトス 第一 各社員ノ氏名、身分及住地 第二 会社ノ店号及其所在地 第三 会社開業シタル期日 第四 社員ノ一名又ハ数名ニ限リ会社ヲ代理スヘキコトヲ契約シタル場合ニ於テハ其代理ヲナスヘキ者ノ氏名並其代理権ヲ共同シテノミ執行スヘキトキハ其旨 第八十七条 存立スル会社ノ店号ヲ変更シ又ハ会社ノ所在ヲ他ノ地ニ移転スルトキ又ハ新社員ノ入社スルトキ又ハ後日会社ヲ代理スルノ権(第八十六条第四)ヲ社員一名ニ与フルトキ又ハ此権ヲ解クトキハ商事登記簿ニ登記ノ為メ其事実ヲ商事裁判所ニ届出ツヘキモノトス 会社ノ店号ヲ変更シ又ハ所在ヲ移転シ及代理権ヲ解除スルトキ登記及公告ヲナシタルト否トノ場合ニ於テ他人ニ対スル効力ハ第二十五条ノ規定ニ従フモノトス 第八十八条 届書(第八十六条及第八十七条)ハ総社員商事裁判所ニ於テ自ラ之ニ署名シ又ハ公証ヲ得テ之ヲ差出スヘキモノトス届書ノ全事項ハ之ヲ商事登記簿ニ登記セラルヘキモノトス 会社ヲ代理スヘキ社員ハ店号及名ヲ裁判所ニ於テ自ラ手署シ又ハ其店号及名ヲ手署シタル書面ヲ公証ヲ得テ差出スヘキモノトス 第八十九条 商事裁判所ハ前数条(第八十六条ヨリ第八十八条マテ)ノ規定ヲ遵守セシムル為メ関係者ニ対シ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘキモノトス 第二節 社員相互ノ権利上関係 第九十条 社員相互ノ権利上関係ハ主トシテ会社ノ契約ニ従フモノトス 此節ノ以下数条ニ掲ケタル事項ニ付キ契約ナキトキニ限リ以下数条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第九十一条 金銭又ハ其他ノ消費物又ハ換用物ヲ会社ニ差入ルヽトキ又ハ単ニ利益配当ノ為メ評価スル場合ヲ除キ不消費物又ハ不換用物ヲ評価シテ会社ニ差入ルヽトキ其物件ハ会社ノ所有トナルモノトス 疑シキ場合ニ於テハ登記前一社員ニ属セシ動物件又ハ不動物件ニシテ会社ノ財産目録ニ総社員署名シテ登記シタルモノハ会社ノ所有トナリタリト看做スモノトス 第九十二条 社員ハ契約上ノ額ヲ超ヘテ差入資本ヲ増加シ又ハ損失ニ依テ減少シタル差入資本ヲ補充スルノ義務ナキモノトス 第九十三条 社員会社ノ事件ニ関シナス立替金又ハ会社ノ為メニ引受ル義務及其事務執行又ハ其事務執行ニ避クヘカラサル危難ニ依リ直接ニ被ル損失ニ付キ会社ハ其社員ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス 社員ハ其前貸シタル金銭ニ付テハ其前貸ヲナシタル日ヨリ起算シ其利子ヲ要求スルコトヲ得 社員ハ会社ノ事務ヲナスニ方テノ勤労ニ付キ報酬ヲ請求スルノ権ナキモノトス 第九十四条 各社員ハ会社ノ事件ニ関シテハ自己ノ事件ニ関シテ通例ナス勉励及注意ヲナスノ義務アルモノトス 各社員ハ自己ノ過失ニ依リ会社ニ生セシメタル損害ニ付キ会社ニ対シ其責任ヲ負担スルモノトス他ノ場合ニ於テ自己ノ勉励ニ依テ会社ニ得セシメタル利益ト其損害ト差引ヲナスコトヲ得ス 第九十五条 差入金ヲ正当ノ期日ニ払入レス又ハ受取リタル会社ノ金銭ヲ正当ノ期日ニ会社ノ金庫ニ引渡サス又ハ権利ナクシテ会社ノ金庫ヨリ金銭ヲ自己ノ為メニ引出ス社員ハ払入又ハ引渡ヲナスヘカリシ日又ハ金銭ヲ引出シタル日ヨリ法律上ニ於テ利子ヲ払入ルヽノ義務アルモノトス 前項ヨリ大ナル損害ヲ生セシメタルトキ之ヲ賠償スルノ義務及其他ノ行為ノ法律上結果ハ前項ノ為メ免ルヽコトナキモノトス 第九十六条 社員ハ他ノ社員ノ承諾アルニアラサレハ会社ノ商業部分ニ於テ自己又ハ他人ノ計算ヲ以テ取引ヲナシ及他ノ同種類ノ商社ニ合名社員トナリテ加入スルコトヲ許サス 他ノ同種類ノ商社ニ合名社員トナリテ加入シタルコトヲ会社設立ノ際他ノ総社員ニ於テ知了シタルモ其加入ノ廃止ヲ明約セサリシトキハ其加入ヲ承諾シタルモノト看做スヘキモノトス 第九十七条 前条ノ規定ニ背反スル社員ハ自己ノ計算ヲ以テナシタル取引ヲ会社ノ計算ヲ以テナシタル取引ト看做スコトヲ会社ノ求メニ依リ認諾スヘキモノトス亦会社ハ之ニ代ヘテ其生シタル損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得但総テ此等ノ事ハ至当ノ場合ニ於テ会社ノ契約ヲ解除スルノ権利ヲ害スルコトナシ 社員自己ノ計算ヲ以テナシタル取引ヲ自己ノモノトナシ又ハ損害賠償ヲ要求スル会社ノ権ハ会社其取引ノ結約ヲ知了シタル時ヨリ起算シ三月ノ後消滅スルモノトス 第九十八条 社員ハ其他ノ社員ノ承諾アルニアラサレハ会社ニ他人ヲ入社セシムルコトヲ得ス 社員独断ヲ以テ他人ヲ自己ノ持部高ニ関与セシメ又ハ其持部高ヲ他人ニ譲渡ストキ他人ハ会社ニ対シ直接ニ権利ヲ得サルモノトス特ニ会社ノ商ヒ帳及書類ヲ展覧スルノ権ナシ 第九十九条 会社契約ヲ以テ事務執行ヲ社員ノ一名又ハ数名ニ委任シタルトキ其社員ハ他ノ社員ノ其事務執行ニ関与スルコトヲ禁止スルモノトス又他ノ社員ノ異議アルニ拘ハラス通例会社ノ営業ヲナスニ缺クヘカラサル総テノ行為ヲナスノ権ヲ有ス 第百条 事務執行ヲ社員ノ数名ニ他ノ社員関与スルニアラサレハナスコトヲ得ヘカラサルコトノ明カナル制限ヲ以テ委任シタルトキハ一人ニテ取引ヲナスコトヲ許サス但遅延ノ恐レアルトキハ此限ニアラス 社員ノ数名之ニ反シ事務執行ヲ此明カナル制限ナクシテ委任セラレタルトキ其各社員ニハ事務執行ニ属スル総テノ行為ヲ一人ニテナスコトヲ許スモノトス但其一名行為ヲナスコトニ対シ異議ヲ述ルトキハ其行為ヲ止ムヘシ 第百一条 会社契約ヲ以テ社員ノ一名又ハ数名ニ事務執行ノ委任ヲナシタルトキハ会社ノ継続スル間正当ノ理由アルニアラサレハ其委任ヲ取戻スコトヲ得ス正当ノ理由アリヤノ判定ハ裁判官ノ見込ニ任ス 其取戻ハ特ニ第百二十五条第二ヨリ第五マテニ記載シタル場合ニ於テ理由アリトスルコトヲ得 第百二条 会社契約ヲ以テ事務執行ヲ社員ノ一名又ハ数名ニ委任セサリシトキ総社員ハ会社ノ事務ヲナスニ付キ同一ノ権利及義務ヲ有スルモノトス 一社員行為ヲナスコトニ対シ異議ヲ述ルトキハ其行為ヲ止ムヘキモノトス 第百三条 総社員ノ決議ハ会社ノ通例ナス商ヒ営業外ナル取引又ハ会社ノ目的外ナル取引ヲナス前ニ之ヲナスヘキモノトス 前項ノ規定ハ事務執行ヲ社員ノ一名又ハ数名ニ委任シタルトキニモ亦必要ナリトス 此決議ヲナスニハ総社員ノ同意ヲ要ス同意ヲ得サルトキハ其決議ヲナスヘキ行為ヲ止ムヘキモノトス 第百四条 番頭ヲ任スルニハ遅延ノ恐レナキトキニ限リ総執務社員ノ承諾ヲ要シ執務社員ヲ任セサルトキハ総社員ノ承諾ヲ要スルモノトス 其番頭委任ノ取戻ハ其委任権ヲ有スル各社員之ヲナスコトヲ得 第百五条 各社員ハ会社ノ事務ヲナスコトニ参加セサルトキト雖会社事件ノ成行ヲ自ラ質問シ何時タリトモ事務所ニ立入リ会社ノ商ヒ帳及書類ヲ展覧シ之ニ依テ自己ノ通閲ノ為メ比較表ヲ調製スルコトヲ得 会社ノ契約ニ別段ノ定メアル場合ニ於テ事務執行ニ関シ不正実ナルコトヲ証明スルトキハ其定メハ効力ヲ失フモノトス 第百六条 各社員ニ対シ各行務年度ノ終リニ差入資本ニ付キ百分四ノ利子ヲ入ノ部ニ記シ又前年度ノ終リニ方リ利益配当額ヲ加算シタルニ依リ其差入資本ヲ増加シ又ハ損失配当額ヲ除算シタルニ依リ差入資本ヲ減殺シタルトキハ其会社財産ノ持部高ニ付キ百分四ノ利子ヲ入ノ部ニ記シ及行務年度中持部高ヨリ受取リタル金銭ニ付キ同額ノ利子ヲ出ノ部ニ記スルモノトス 前項ニ依リ各社員ニ属スル利子ハ会社財産ニ付テノ各社員ノ持部高ヲ増加スルモノトス 此利子ニ充タサル間ハ全ク利益ナクシテ会社ノ損失ハ利子ニ依テ増加シ又ハ生スルモノトス 第百七条 各行務年度ノ終リニハ財産目録及財産比較表ニ依テ其年度ノ利益又ハ損失ヲ索知シテ各社員ノ為メ其配当額ヲ算定スルモノトス 各社員ノ利益ハ会社財産ニ付テノ各社員ノ持部高ノ貸ノ部ニ入レ損失ハ其借ノ部ニ入ルヽモノトス 第百八条 社員ハ他ノ社員ノ承諾アルニアラサレハ会社財産ニ付テノ自己ノ持部高ヲ減スルコトヲ許サス 但社員ハ其承諾ナキモ会社財産ニ付テノ自己ノ持部高ヨリ前年度ノ利子ヲ受取リ及会社ノ判然タル害トナラサル場合ニ限リ前年度ノ利益配当額ヲ超過セサル額ニ至ルマテ金銭ヲ受取ルコトヲ許スモノトス 第百九条 利益又ハ損失ハ別段ノ契約ナキ場合ニ於テ社員ニ平等ニ配当スルモノトス 第三節 会社ト他人トノ権利上関係 第百十条 合名会社ノ法律上効力ハ他人トノ関係ニ付テハ会社ノ設立ヲ商事登記簿ニ登記シタル時又ハ会社単ニ其業ヲ始メタル時ヲ以テ始マルモノトス 会社登記後ノ時ヲ以テ始テ其開始トナスヘキノ制限ハ他人ニ対シ法律上ノ効力ナキモノトス 第百十一条 商社ハ其店号ヲ以テ権利ヲ得有シ義務ヲ負担シ又地所ニ付テノ所有権及其他ノ物権ヲ得有シ並ニ裁判所ニ出訴シ又ハ出訴セラルヽコトヲ得 商社ノ通常裁判管轄ハ其所在地ヲ管轄スル裁判所ニ属スルモノトス 第百十二条 社員ハ会社ノ総テノ義務ニ付キ各自独立シテ其全財産ヲ以テ責ヲ負担スルモノトス 前項ニ反スル契約ハ他人ニ対シ法律上効力ナキモノトス 第百十三条 何人タリトモ存立スル商社ニ加入スル者ハ其加入前会社ノ負担シタル総テノ義務ニ付キ他ノ社員ト均ク責ヲ負担スルモノトス但店号ヲ変更シタルト否トニ拘ハラス 前項ニ反スル契約ハ他人ニ対シ法律上効力ナキモノトス 第百十四条 会社ヲ代理スルノ権アル各社員ハ総テノ種類ノ取引及権利上行為ヲ会社ノ名ヲ以テナシ特ニ会社ニ属スル地所ヲ売譲シ及之ニ義務ヲ負担セシムルノ権アルモノトス 会社ハ会社ヲ代理スルノ権アル社員会社ノ名ヲ以テ取結フ権利上取引ニ依テ権利ヲ有シ及義務ヲ負フモノトス此場合ニ於テハ其取引ヲ明カニ会社ノ名ヲ以テ取結ヒタルト又ハ契約者双方ノ意ニ依リ会社ノ為メニ取引ヲ取結ヒタルヘキコトノ事情判然スルト否トニ依テ区別アルコトナシ 第百十五条 会社ハ社員会社ヲ代理スルノ権ヲ省除セラレタルトキ(第八十六条第四)又ハ会社ヲ代理スルノ権ヲ解止セラレタルトキ(第八十七条)ハ其社員ノ権利上取引ニ依テ義務ヲ負担スルコトナキモノトス但其省除又ハ解止ニ付キ第四十六条ニ依リ番頭ノ解任ニ付キ他人ニ対シ効力ノ始マルト同一ノ要件アルトキニ限ル 第百十六条 会社ヲ代理スル社員ノ権限ノ制限ハ他人ニ対シ法律上効力ナキモノトス特ニ或ル取引又ハ取引ノ或ル種類ニノミ代理ヲ及ホスヘキ制限又ハ或ル状況又ハ或ル時又ハ各箇ノ地ニ於テノミ代理ヲナスヘキノ制限ヲ立ルコトヲ許サス 第百十七条 会社ハ会社ヲ代理スルノ権ヲ省除セラレサル各社員ニ依リ裁判所ニ於テ有効ニ代理セラルヽモノトス 会社ニ呼出状及其他ノ送達書ヲ交付スルニハ会社ヲ代理スルノ権アル社員一名ニナスヲ以テ足レリトス 第百十八条 番頭ノ授任並ニ解任ハ会社ヲ代理スルノ権アル社員一名之ヲナスニ依リ他人ニ対シ法律上ノ効力アルモノトス 第百十九条 社員ノ私債主ハ自己ニ弁償又ハ保証セシムル為メ会社財産ニ属スル物件、貸附又ハ権利又ハ此等ノモノニ付テノ持部高ヲ請求スルノ権ナキモノトス私債主ノ為メ権制執行、押置又ハ差押ノ物件トナスコトヲ得ルモノハ社員ノ利子及利益配当ヲ要求スルノ権ヲ有シ決算ノ際之ニ属スルモノニ限ル 第百二十条 前条ノ規定ハ法律又ハ其他ノ権利理由ニ依リ社員ノ財産ニ付キ書入又ハ質入ノ権利ヲ有スル私債主ニモ亦之ヲ適用ス其書入又ハ質入ノ権利ハ会社財産ニ属スル物件、貸附及権利又ハ此等ノモノニ付テノ持部高ニ及ホスコトナク前条末段ニ掲ケタルモノニ限リ及フモノトス 但社員会社ノ財産ニ差入レタル物件ニ付キ其差入ノ時既ニ生シタル権利ハ前項ノ規定ノ為メニ変更ヲ受ルコトナシ 第百二十一条 会社ノ負債主ニ対スル要求ト其負債主ノ社員ニ対スル私ノ要求トハ会社ノ存続中其全部又ハ一部ヲ問ハス差引ヲナスコトヲ許サス会社解散ノ後ハ決算ヲナスノ際会社ノ要求ヲ社員ニ与ヘタルトキ及其与ヘタル部分ニ限リ差引ヲナスコトヲ許スモノトス 第百二十二条 会社倒産ノ場合ニ於テ其債主ハ会社ノ財産ヨリ別取リノ弁償ヲ受ルモノトス其不足額ニ限リ社員ノ私財産ヨリ弁償ヲ求ルコトヲ得社員ノ私債主其社員ノ私財産ニ付キ別取権ヲ有スルヤ否及其程度ヲ定ルハ之ヲ各邦法律ニ任ス 第四節 会社ノ解散及各個社員ノ退社 第百二十三条 会社ハ左ノ場合ニ於テ解散スルモノトス 第一 会社ニ対シ倒産ヲ開始シタルトキ 第二 会社死亡者ノ相続人ヲ以テ継続スヘキ契約ヲ立テサル場合ニ於テ社員ノ一名死亡シタルトキ 第三 社員一名ノ財産ニ対シ倒産ヲ開始シタルトキ又ハ社員ノ一名独立シテ財産ヲ管理スルノ能力ヲ法律上失ヒタルトキ 第四 社員解散ニ付キ同意シタルトキ 第五 会社契約期限ノ経過シタルトキ但社員黙諾シテ之ヲ継続スルトキハ此限ニアラス此継続ノ場合ニ於テハ爾後無定ノ期限ヲ以テ設立シタルモノト看做ス 第六 無定期限ヲ以テ会社ヲ設立シタル場合ニ於テ社員一名解散ヲ申出ルトキ 終身ノ期限ヲ以テ設立シタル会社ハ無定期限ノ会社ト看做スヘキモノトス 第百二十四条 社員一名ニ於テ無定期限ノ会社ヲ解散スルノ予告ハ少クトモ其会社ノ行務年度ノ経過前六月ニ之ヲナスヘキモノトス但別段ノ契約アルトキハ此限ニアラス 第百二十五条 社員ハ重要ナル理由アルトキニ限リ会社継続ノ為メ定メタル期限ノ経過前又ハ無定期限ノ会社ニアリテハ予告ナクシテ会社ノ解散ヲ求ルコトヲ得 其理由アルヤ否ヤノ判定ハ異議アル場合ニ於テ之ヲ裁判官ノ見込ニ任ス 会社ノ解散ハ特ニ左ノ場合ニ於テ之ヲ言渡スコトヲ得 第一 状況ニ依ルニ会社ノ目的ヲ達スルコト能ハサルトキ 第二 社員事務執行又ハ計算ノ際不正ノ処置アルトキ 第三 社員自己ノ担当シタル重要ナル義務ノ履行ヲ怠ルトキ 第四 社員会社ノ店号又ハ財産ヲ自己ノ私用ノ為メ濫用スルトキ 第五 社員長病又ハ其他ノ事由ニ依リ自己ノ担当シタル会社ノ事務ヲ行フコト能ハサルトキ 第百二十六条 社員ノ私債主其社員ノ私財産ニ対シナシタル権制執行ノ無効ナリシ後会社解散ノ際其社員ニ帰スル持部高ニ対シ権制執行ヲナスニ至リタルトキ債主ハ其会社ノ定期限又ハ無定期ナルト否トヲ問ハス弁償ヲ自己ニ受ル為メ予告ヲナシタル後会社ノ解散ヲ求ルノ権アルモノトス 其予告ハ少クトモ会社ノ行務年度経過前六月ニ之ヲナスヘキモノトス 第百二十七条 社員会社ノ解散前社員ノ一名又ハ数名退社スルモ其他ノ者ニ於テ会社ヲ継続スヘキコトヲ約束シタルトキ其会社ハ退社シタル者ニ関シテノミ解散シタルモノトス其他会社ハ総テ従来ノ権利及義務ヲ継続ス 第百二十八条 社員ノ身上ニ関スル理由(第百二十五条)ニ依リ社員ノ解散ヲ求ルコトヲ許ス場合ニ於テ他ノ全社員申立ヲナストキニ限リ会社解散ニ代ヘテ其社員ノ除社ヲ言渡スコトヲ得 第百二十九条 会社ノ解散ハ会社ニ対シ倒産ヲ開始シタルカ為メ之ヲナス場合ヲ除キ商事登記簿ニ登記スヘキモノトス 其登記ハ契約シタル期限ノ経過シタルニ依リ会社ノ解散ヲナストキト雖之ヲナスヘキモノトス 社員ノ退社又ハ除社モ亦会社ノ解散ト均ク商事登記簿ニ登記スヘキモノトス 商事裁判所ハ此事実ノ届出ヲ遵守セシムル為メ職権ヲ以テ関係者ニ対シ過料ヲ科スヘキモノトス 会社ノ解散又ハ社員ノ退社又ハ除社ハ其事実ニ付キ第二十五条ニ従ヒ店号ノ消滅又ハ其所有者ノ変更ニ付キ他人ニ対シ効力ノ始マルト同一ノ要件アリタルトキニ限リ他人ニ対シ効アリトスルコトヲ得 第百三十条 社員退社シ又ハ除社セラルヽトキ会社ト其社員トノ決算ハ其退社ノ時又ハ除社ニ付テノ訴状交付ノ時ノ会社財産ノ現状ニ準拠シテ之ヲナスモノトス 退社シタル者又ハ除社セラレタル者ハ其後ノ取引権利及義務ニ付テハ其退社又ハ除社ノ前既ニナシタル取引ヨリ直ニ生シタルモノニ限リ配当ヲ受ルモノトス 退社シタル者又ハ除社セラレタル者ハ残社員ノ見込ニ於テ最モ有益ナリトスル方法ヲ以テスル継続取引ノ完結ヲ承結スヘキモノトス 但退社シタル者又ハ除社セラレタル者ハ以前ニ完全ナル決算ヲナスコト能ハサルトキ各行務年度ノ終リニ其年度間完結シタル取引ノ決算書並ニ決算ニ依リ自己ニ帰スル金額ノ支払ヲ請求スルノ権アルモノトス亦各行務年度ノ終リニ猶ホ継続スル取引ノ現状ニ付テノ証明ヲ要求スルコトヲ得 第百三十一条 退社シタル社員又ハ除社セラレタル社員ハ会社財産ニ付テノ自己ノ持部高ノ価額ニ当ル金額ヲ以テスル引渡ヲ承諾スヘキモノトス会社ノ各個ノ要求商品又ハ其他ノ各財産ニ付テノ相当ノ持部高ヲ要求スルノ権ナキモノトス 第百三十二条 社員ノ私債主第百二十六条ニ従ヒ自己ニ属スル権利ヲ施用スルトキ其他ノ社員ハ全員一致ノ決議ヲ以テ会社ノ解散ニ代ヘ決算及負債者ノ持部高ノ引渡ヲ前条ノ規定ニ従ヒナスコトヲ得其負債者ハ此場合ニ於テハ退社シタルモノト看做スヘキモノトス 第五節 会社ノ決算 第百三十三条 倒産ノ場合ヲ除クノ外会社ノ解散後決算ハ全社員一致ノ決議ヲ以テ又ハ会社ノ契約ヲ以テ各社員又ハ其他ノ人ニ委任セサルトキニ限リ従来ノ全社員又ハ其代理人ヲ以テ決算人トシテ之ヲナスモノトス社員ノ一名死去シタルトキ其権利相続人ハ共同代理人ヲ任スヘシ 社員一名ノ申立ニ依リ重要ナル理由アルトキ裁判官ハ決算人ヲ任命スルコトヲ得裁判官ハ此場合ニ於テハ会社ニ属セサル人ヲ決算人ニ任命シ又ハ決算人トシテ附添ハシムルコトヲ得 第百三十四条 決算人ノ解任ハ全社員一致ノ決議ヲ以テ之ヲナスモノトス亦其解任ハ社員一名ノ申立ニ依リ重要ナル理由アルトキ裁判官之ヲナスコトヲ得 第百三十五条 決算人ハ之ヲ商事登記簿ニ登記スル為メ社員ヨリ商事裁判所ニ届出ツヘキモノトス決算人ハ裁判所ニ於テ其名ヲ自ラ手署シ又ハ其名ヲ手署シタル書面ヲ公証ヲ得テ差出スヘシ 決算人ノ退任又ハ決算人ノ委任ノ解除ハ商事登記簿ニ登記スル為メ前項同一ノ方法ヲ以テ之ヲ届出ツヘキモノトス 社員ハ此規定ヲ遵守セン為メ職権ヲ以テ過料ヲ科セラルヘキモノトス 決算人ノ任命並ニ決算人ノ退任又ハ決算人ノ委任ノ解除ハ其事実ニ付キ第二十五条及第四十六条ニ従ヒ店号所有者ノ変更又ハ番頭ノ解任ニ付キ他人ニ対シ効力ノ始マルト同一ノ要件アリタルトキニ限リ他人ニ対シ効アリトスルコトヲ得 第百三十六条 決算人数名アルトキ決算人ハ各自別個ニ処置スルコトヲ得ルノ明定ナキトキニ限リ決算ニ属スル行為ヲ法律上効力ヲ以テ共同シテナスコトヲ得 第百三十七条 決算人ハ解散シタル会社ノ継続スル取引ヲ完結シ義務ヲ履行シ貸付ヲ取立テ及財産ヲ売却シ又裁判所内及裁判所外ニ於テ会社ヲ代理スヘキモノトス又会社ノ為メニ和解ヲナシ及契約ヲ取結フコトヲ得又決算人ハ未タ完結セサル取引ヲ完結スル為メ新ナル取引ヲモ亦ナスコトヲ得 決算人ハ公売ヲ以テスル場合ヲ除クノ外ハ全社員ノ承諾アルニアラサレハ不動物件ノ売譲ヲナスコトヲ得ス 第百三十八条 決算人ノ行務権限(第百三十七条)ノ制限ハ他人ニ対シ法律上効力ナキモノトス 第百三十九条 決算人ハ決算中ノ店号ヲ表スヘキ従来ノ店号ニ其名ヲ附記シテ手署スヘキモノトス 第百四十条 決算人ハ裁判官ノ任命シタルトキト雖事務執行ノ際社員ニ対シ其全員一致ノ決議ヲ以テ発シタル差図ニ従フヘキモノトス 第百四十一条 決算中不用ナル金銭ハ仮ニ之ヲ社員ニ配当スルモノトス 後ニ至リ始メテ支払期限ノ来ル会社ノ負債ニ引当並ニ決算ノ際各社員ニ属スル請求ニ引当ル為メ必用ナル金銭ハ之ヲ貯ヘ置クヘキモノトス 第百四十二条 決算人ハ社員間ニ終尾ノ決算ヲナスヘキモノトス 其決算ニ付キ生スル争ヒハ之ヲ裁判官ノ裁決ニ任スモノトス 第百四十三条 社員ノ会社ニ差入レタル物品会社ノ所有トナリタルトキ其物件ハ決算ノ際之ヲ其社員ニ還付セス契約ニ従ヒ会社ノ引受ケタル価額ヲ以テ会社財産ノ内ヨリ弁償スルモノトス 此価額ノ定メナキトキハ其弁償ハ差入レタルトキ有セシ価額ニ従テ之ヲナスモノトス 第百四十四条 会社ノ解散ニ拘ハラス決算ノ終ルマテハ従来ノ社員相互間ノ権利義務並ニ会社ト他人トノ権利義務ニ付テハ第二節及第三節ノ規定ヲ適用スルモノトス但本節ノ規定及決算ノ性質ニ依リ反対ノ判然スルトキハ此限ニアラス 会社其解散ノ時有セシ裁判管轄ハ決算ヲ終ルマテ其解散シタル会社ニ対シ存スルモノトス 会社ニナス送達ハ決算人ノ一名ニナスモ法律上効力アルモノトス 第百四十五条 決算ヲ終リタル後ハ解散シタル会社ノ帳簿及書類ヲ社員タリシ者ノ一名又ハ他人ノ一名ニ保存セシムルモノトス商事裁判所ハ協議調ハサル場合ニ於テ其社員又ハ他人ヲ定ム 社員及其権利相続人ハ帳簿及書類ヲ展覧シ及使用スルノ権アルモノトス 第六節 社員ニ対スル期満得免 第百四十六条 会社ニ対スル要求ヨリ生スル社員ニ対スル訴訟ハ会社ノ解散後又ハ社員ノ退社又ハ除社後五年ヲ経テ期満得免トナルモノトス但要求ノ性質ニ依リ法律上之ヨリ短キ期満得免ノ期限ヲ定ルトキハ此限ニアラス 期満得免ハ会社ノ解散又ハ社員ノ退社又ハ除社ヲ商事登記簿ニ登記シタル日ヲ以テ始マルモノトス 其要求登記ノ後始メテ支払満期トナルトキ期満得免ハ其満期ノ日ヲ以テ始マルモノトス 第百四十七条 未タ配当セサル会社ノ財産現存スルトキ債主単ニ会社財産ノ内ヨリ弁償ヲ求ルトキニ限リ債主ニ対シ五年ノ期満得免ヲ有効ナラシムルコトヲ得ス 第百四十八条 退社シタル社員又ハ除社セラレタル社員ノ利トナル期満得免ハ存続セル会社又ハ他ノ社員ニ対シナス権利上行為ニ依リ中止セサルモノトス 会社解散ノ際其会社ニ属スル社員ノ利トナル期満得免ハ他ノ社員ニ対スル権利上行為ニ依リ中止セサルモ決算人ニ対スル権利上行為ニ依リ中止スルモノトス 第百四十九条 期満得免ハ未丁年者及被後見者並ニ法律上未丁年者ノ権利ヲ有スル法人ニ対シテモ亦故態恢復ヲ許スコトナクシテ経過スルモノトス但後見人又ハ管財人ニ対シ償還要求ヲナスハ格別ナリトス 第二章 差金会社 第一節 差金会社 第百五十条 差金会社ハ共同ノ店号ヲ以テナス商ヒ営業ニ一名又ハ数名ノ社員ハ差入財産ノミヲ以テ加入シ(差金社員)他ノ一名又ハ数名ノ社員ハ其加入ヲ差入財産ニ限ラサル(無限責任社員)トキ存立スルモノトス 無限責任社員数名アルトキ会社ハ同時ニ合名会社ナリトス 会社契約ノ効力ヲ有セシムルニハ書面ヲ要セサルモノトス 第百五十一条 差金会社ノ設立ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ全社員ヨリ之ヲ届出ツヘキモノトス 其届出書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘキモノトス 第一 各無限責任社員ノ氏名、身分及住地 第二 各差金社員ノ氏名、身分及住地並ニ差金社員タルコト 第三 会社ノ店号及其所在地 第四 各差金社員ノ差入財産額 其届書ハ全社員商事裁判所ニ於テ自ラ之ニ署名シ又ハ公証ヲ得テ之ヲ差出スヘキモノトス其届書ノ全事項ハ之ヲ商事登記簿ニ登記セラルヘキモノトス差金会社ヲ公告紙ヲ以テ公告(第十三条)スルニ方リテハ差金社員ノ氏名、身分、住地並ニ其差入財産額ハ之ヲ記載セス 第百五十二条 差金会社ノ支社ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ其所在地ヲ管轄スル各商事裁判所ニ之ヲ届出ツヘキモノトス 此届書ハ第百五十一条第一ヨリ第四マテニ掲ケタル事項ヲ之ニ記載シ全無限責任社員商事裁判所ニ於テ之ニ署名シ又ハ公証ヲ得テ之ヲ差出スヘキモノトス 第百五十三条 会社ヲ代理スヘキ無限責任社員ハ其会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所及支店ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ其名ヲ自ラ手署シ又ハ店号及其名ヲ手署シタル書面ヲ公証ヲ得テ差出スヘキモノトス 第百五十四条 商事裁判所ハ無限責任社員ニ対シ第百五十一条第百五十二条第百五十三条ニ掲ケタル規定ヲ遵守セシムル為メ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘキモノトス 第百五十五条 存立スル差金会社ノ店号ヲ変更シ又ハ会社ノ所在地ヲ他ノ地ニ移転スルトキ此事実ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ第百五十一条ニ定メタル方法ニ依リ全社員之ヲ届出ツヘキモノトス商事裁判所ハ此規定ヲ遵守セシムル為メ無限責任社員ニ対シ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘキモノトス 公告ノ際差金社員ニ付テハ第百五十一条ノ規定ヲ適用スルモノトス 他人ニ対スル効力ハ第二十五条ノ規定ニ従フモノトス 第百五十六条 存立スル差金会社ニ新差金社員ノ加入スルトキハ商事登記簿ニ登記及公告ノ為メ第百五十一条ノ規定ニ従ヒ全社員ヨリ之ヲ届出ツヘキモノトス 第百五十七条 社員相互ノ権利上関係ハ主トシテ会社ノ契約ニ従フモノトス契約ナキ場合ニ於テハ合名社員相互ノ権利上関係ニ付テノ法律上規定ヲ此場合ニ於テモ亦適用スルモノトス但以下諸条(第百五十八条ヨリ第百六十二条マテ)之ト異ナル規定ヲ掲ルモノハ此限ニアラス 第百五十八条 会社ノ事務執行ハ無限責任社員一名又ハ数名之ヲ担当スルモノトス 差金社員ハ会社ノ事務ヲ執行スルノ権利及義務ナキモノトス 差金社員ハ無限責任社員ノナス事務執行ニ付テノ行為ニ対シ(第九十九条ヨリ第百二条マテ)異議ヲナスコトヲ得ス 第百五十九条 差金社員ハ他ノ社員ノ承諾アルニアラサレハ会社ノ商業部分ニ於テ自己又ハ他人ノ計算ヲ以テ取引ヲナシ及他ノ同種類ノ商社ニ合名社員トナリテ加入スルコトヲ許サス 第百六十条 各差金社員ハ毎年調製スル財産比較表ノ謄本ヲ以テスル交付ヲ求メ及帳簿及書類ヲ展覧シテ其比較表ノ正否ヲ審査スルノ権アルモノトス 第百五条ニ掲ケタル合名社員ノ其他ノ権利ハ差金社員ニ属セサルモノトス 但商事裁判所ハ差金社員ノ申立ニ依リ重要ナル理由アルトキ財産比較表又ハ其他ノ弁明書ノ交付並ニ帳簿及書類ノ呈出ヲ何時タリトモ命スルコトヲ得 第百六十一条 差入財産ニ利子ヲ附スルコト毎年損益ヲ計算スルコト及利子及利益ヲ受取ルノ権利ニ付テノ第百六条ヨリ第百八条マテノ規定ハ差金社員ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 但差金社員ハ其差入資本又ハ未納ノ差入資本ノ額マテニ限リ損失ノ配当ヲ受ルモノトス 差金社員ハ其受取リタル利子及利益ヲ後ノ損失ノ為メ払戻スノ義務ナキモノトス但損失ニ依テ原差入資本ヲ減少シタル間ハ其損失ニ充ル為メ毎年ノ利益ヲ支用スルモノトス 第百六十二条 利益及損失ノ配当額ニ付キ全ク契約ナキトキ其額ハ裁判官ノ見込ヲ以テ之ヲ定メ已ムヲ得サル場合ニ於テハ鑑定人ヲ立会ハシメテ之ヲ定ルモノトス 第百六十三条 他人トノ関係ニ於テ差金会社ノ法律上効力ハ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ其設立ヲ商事登記簿ニ登記シタル日又ハ会社単ニ其取引ヲ始メタル日ヲ以テ始マルモノトス 会社登記後ノ時ヲ以テ始メテ開始トナスヘキノ制限ハ他人ニ対シ法律上ノ効力ナキモノトス 会社登記前ニ其取引ヲ始メタルトキ各差金社員ハ登記マテニ生シタル会社ノ義務ニ付キ無限責任社員ト均ク他人ニ対シ其責ヲ負担スルモノトス但差金社員其有限責任ヲ他人ニ於テ知了セシコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 第百六十四条 差金会社ハ其店号ヲ以テ権利ヲ得有シ義務ヲ負担シ又地所ニ付テノ所有権及其他ノ物権ヲ得有シ並ニ裁判所ニ出訴シ又ハ出訴セラルヽコトヲ得 其会社ノ通常裁判管轄ハ其所在地ヲ管轄スル裁判所ニ属スルモノトス 第百六十五条 会社ノ義務ニ付キ差金社員ハ差入資本ノミヲ以テ其責ヲ負担シ其資本ヲ払入レサルトキハ約束額ノミヲ以テ其責ヲ負担スルモノトス 差金社員ノ差入資本ハ会社存立中其全部及一部ヲ払戻シ又ハ免除スルコトヲ得ス 利子ハ原差入資本ヲ減少セサル部分ニ限リ会社ヨリ差金社員ニ之ヲ支払フコトヲ得 差金社員ハ損失ニ依テ減少シタル差入資本ヲ補充スルニ至ルマテ利子及利益ヲ受取ルコトヲ得ス 差金社員ハ前三項ノ規定ニ反シ会社ヨリ支払ヲ受取リタルトキハ其額マテニ限リ会社ノ義務ニ付キ其責ヲ負担スルモノトス 但差金社員ハ良心ヲ以テ調製シタル財産比較表ニ依リ良心ヲ以テ受取リタル利子及利益ヲ払戻スノ義務ナキモノトス 第百六十六条 何人タリトモ存立スル商社ニ差金社員トナリテ加入スル者ハ其加入前会社ノ負担シタル義務ニ付キ前条ノ規定ニ従テ其責ヲ負担スルモノトス但店号ヲ変更シタルト否トニ拘ハラス 前項ニ反スル契約ハ他人ニ対シ法律上ノ効力ナキモノトス 第百六十七条 差金会社ハ無限責任社員ニ依テ権利ヲ得及義務ヲ負担スルモノトス又其社員ニ依リ裁判所ニ於テ代理セラルヽモノトス 会社ニ呼出状及其他ノ送達書ヲ交付スルニハ会社ヲ代理スルノ権アル社員一名ニナスヲ以テ足レリトス番頭又ハ手代トナリテ処置スルコトヲ明言セスシテ会社ノ為メニ取引ヲナス差金社員ハ其取引ニ依リ無限責任社員ト均ク其義務ヲ負担スルモノトス 第百六十八条 差金社員ノ名ハ之ヲ会社ノ店号ニ包含セシムルコトヲ許サス之ニ反スル場合ニ於テハ差金社員ハ会社ノ債主ニ対シ合名社員ト均ク其責ヲ負担スルモノトス 第百六十九条 第百十九条第百二十条第百二十一条及第百二十二条ノ規定ハ差金会社ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第百七十条 差金社員死去シ又ハ法律上其財産ヲ管理スルノ能力ヲ失フモ之カ為メ会社ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルモノトス 其他第百二十三条ヨリ第百二十八条マテニ於テ合名会社ニ付キ設ケタル規定ハ差金会社ニモ亦効力アルモノトス 第百七十一条 差金会社解散スルトキ又ハ差金社員差入資本ノ全部又ハ一部ヲ以テ退社スルトキハ其事実ヲ商事登記簿ニ登記スヘキモノトス 其公告ヲナスニ方テハ差金社員及差入資本額ヲ掲ケサルモノトス 第百二十九条ノ規定ハ本条ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第百七十二条 決算ノ方法(第百三十条第百三十一条及第百三十二条)決算及社員ニ対スル期満得免ニ付キ合名会社ノ為メ定メタルモノハ総社員ニ付キ差金会社ノ為メニモ亦効力ヲ有スルモノトス 第二節 株式差金会社 第百七十三条 差金社員ノ資本ハ之ヲ株券又ハ小割株券ニ分ツコトヲ得 株券又ハ小割株券ハ記名タルヘキモノトス其株券ハ各邦法律ニ於テ其地方ノ特別ナル需求ニ従ヒ少額ヲ許サヽルトキ五十「ターレル」以上ノ額ニ作ラサルヘカラス無記名又ハ法律上定メタルヨリ少額ニ作ル株券又ハ小割株券ハ之ヲ無効トス此株券又ハ小割株券ノ発行者ハ持主ニ対シ其発行ニ依テ生シタル総テノ損害ニ付キ各自独立シテ其責ヲ負担スルモノトス 本条ノ規定ハ株券約定証書及仮株券ニ付テモ亦効力ヲ有スルモノトス 第百七十四条 株式差金会社ハ起業ノ事件商ヒ取引ニアラサルモ之ヲ商社ト看做スモノトス 会社契約ノ調製及旨趣ニ付テハ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ作ルヘキモノトス株式ノ申込ヲナスニハ書面上ノ陳述ヲ以テ足レリトス 第百七十五条 会社契約ニハ左ノ事項ヲ記載スヘキモノトス 第一 各無限責任社員ノ氏名、身分及住地 第二 会社ノ店号及其所在地 第三 起業ノ事件 第四 起業年限但期限ノ定メアルヘキトキニ限ル 第五 株券又ハ小割株券ノ数及額 第六 差金社員其内ヨリ三名以上ノ監督ヲ撰任スヘキコトノ定メ 第七 差金社員ノ総会ヲ召集スルノ手続 第八 会社ヨリナス公告ノ手続並ニ公告ヲ載スヘキ公告紙 第百七十六条 会社契約ハ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ之ヲ商事登記簿ニ登記シ及抜書ヲ以テ公告スヘキモノトス 抜書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘキモノトス 第一 会社契約ノ日附 第二 各無限責任社員ノ氏名、身分及住地 第三 会社ノ店号及其所在地 第四 株券及小割株券ノ数及額 第五 会社ヨリナス公告ノ手続並ニ公告ヲ載スヘキ公告紙 会社契約ニ於テ無限責任社員ノ一名又数名ノ退社スルニ依リ会社ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルコトヲ定ル(第百九十九条)トキハ此定メモ亦公告スヘキモノトス 第百七十七条 商事登記簿ニ登記ノ為メニナス届書ニハ左ノ証書ヲ添フヘキモノトス 第一 差金社員ノ資本ノ全額署名ヲ以テ満数トナリタルコトノ証明書 第二 各差金社員其申込ミタル額ノ四分一以上ヲ払入レタルコトノ証明書 第三 契約ノ旨趣(第百七十五条第六)ニ依リ差金社員総会ニ於テ監督ヲ撰任シタルコトノ証明書 其届書ハ全無限責任社員商事裁判所ニ於テ之ニ署名シ又ハ公証ヲ得テ之ヲ差出スヘキモノトス届書ニ添ヘタル書類ハ商事裁判所ニ於テ原本又ハ公証ヲ得タル謄本ヲ以テ之ヲ保存スルモノトス 第百七十八条 株式差金会社ハ商事登記簿ニ登記ヲナス前ニハ差金会社トシテ存立セサルモノトス其登記前ニ発行シタル株券及小割株券ハ之ヲ無効トス発行者ハ持主ニ対シ発行ニ依テ生シタル総テノ損害ニ付キ各自独立シテ其責ヲ負担スルモノトス 登記ヲナス前会社ノ名ヲ以テ処置シタルトキ其処置者ハ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第百七十九条 第百五十二条及第百五十三条ノ規定ハ株式差金会社ニ於テモ亦之ヲ遵守セシムヘキモノトス届書ハ第百七十六条第一ヨリ第五マテニ掲ケタル事項ヲ記載スヘシ商事裁判所ハ此規定ヲ遵守セシムル為メ無限責任社員ニ対シ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘキモノトス 第百八十条 社員現金ニアラサル差入ヲナストキ又ハ自己ヲ利スル為メ特別ノ利益ヲ約束スルトキハ差金社員ノ総会ニ於テ価額評定及許否ノ審査ヲ命シ其次ノ総会ニ於テ議決ヲ以テ承諾ヲナスヘキモノトス 此決議ハ会議ニ出席シタル差金社員又ハ代人ヲ以テ代理セラレタル差金社員ノ多数ヲ以テ之ヲナスモノトス但其多数ハ全差金社員四分一以上ニシテ其持部ノ総額差金社員ノ総資本ノ四分一以上タルヘキモノトス差入ヲナシ又ハ特別ノ利益ヲ約束スル社員ハ決議ノ際議権ヲ有セサルモノトス 此規定ノ旨趣ニ反シテ取結ヒタル契約ハ法律上効力ナキモノトス 第百八十一条 無限責任社員ノ差入資本ニ充ル会社ノ資本持部又ハ無限責任社員ニ対シ特別ノ利益トシテ約束シタル会社ノ資本持部ニ付テハ各株券ヲ発行スルコトヲ許サス此資本持部ハ無限責任社員会社ト此権利上関係ヲ有スル間ハ之ヲ売譲スルコトヲ許サス 第百八十二条 株券又ハ小割株券ハ之ヲ分割スルコトヲ得ス 株券及小割株券ハ其持主ノ名住地及身分ト共ニ之ヲ会社ノ株券帳ニ登記スヘキモノトス 株券及小割株券ハ会社ノ契約ニ別段ノ定メナキトキニ限リ他ノ社員ノ承諾アルニアラサレハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得ス 其譲渡ハ裏書ヲ以テ之ヲナスコトヲ得 其裏書ノ手続ニ付テハ独逸為替条例第十一条ヨリ第十三条マテノ規定ヲ適用スルモノトス 第百八十三条 株券ノ所有権他人ニ移転スルトキハ其株券及移転証明書ヲ呈示シテ之ヲ会社ニ届出及株券帳ニ記載スヘキモノトス 会社トノ関係ニ於テハ所有主トシテ株券帳ニ記載セラレタル者ニ限リ株券ノ所有主ト看做スモノトス 会社ハ株券所有主ノ正否ヲ審査スルノ権利アルモ義務ナキモノトス 第百八十四条 株券額ノ払込ヲ終ラサル間ハ原申込人ハ其払残ヲ会社ニ払込ノ義務アルモノトス会社ハ其原申込人ニ対シ此義務ヲ免除スルコトヲ得ス 第百八十五条 無限責任社員ハ監督及差入社員ニ遅クトモ毎行務年度ノ前六月内ニ前行務年度ノ財産比較表ヲ呈示スルノ義務アルモノトス 第百八十六条 事務ノ執行財産比較表ノ展覧及審査利益配当ノ定メ会社ノ解散又ハ其予告及無限責任社員ノ退社ヲ求ル権利ニ付キ会社契約又ハ前節ノ規定ニ従ヒ無限責任社員ニ対シ差金社員ニ帰スル権利ハ差金社員ノ全員総会ニ於テ之ヲ執行スルモノトス 総会ノ決議ハ会社契約ニ別段ノ定メナキトキ監督之ヲ執行スルモノトス 第百八十七条 差金社員ノ総会ハ無限責任社員又ハ監督之ヲ召集スルモノトス但会社契約ニ依リ他人其権利ヲ有スルトキハ此限ニアラス 第百八十八条 差金社員ノ総会ハ会社契約ニ明定シタル場合ノ外ト雖会社ノ利害ニ於テ必要ナリト認ルトキハ之ヲ召集スヘキモノトス 其総会ハ差金社員ノ総資本ノ十分一ニ当ル株券ヲ有スル差金社員ノ一名又ハ数名ヨリ其旨趣及理由ヲ掲ケテ署名シタル申立書ヲ以テ之ヲ求ルトキニモ亦召集スヘキモノトス但会社契約ニ於テ総会ノ召集ヲ求ルノ権ヲ総資本ニ対シ其十分一ヨリ多額又ハ少額ノ持部ノ所有ニ付シタルトキハ之ニ従フモノトス 第百八十九条 総会ノ召集ハ会社契約ヲ以テ定メタル方法ニ従ヒ之ヲナスヘキモノトス 総会ノ旨趣ハ召集ノ際毎時之ヲ通知スヘキモノトス此方法ニ於テ通知セサル会議ノ事件ニ付テハ決議ヲナスコトヲ得ス但総会ニ於テ臨時総会ノ召集ヲ求ル申立ニ付テノ決議ハ此限ニアラス 議決スルコトナクシテ申立ヲナシ及会議ヲナスニハ通知スルヲ要セス 第百九十条 会社契約ニ別段ノ定メナキトキニ限リ差金社員ノ総会ノ決議ハ過半数ヲ以テ之ヲナスモノトス又各株券ハ其持主ニ一議権ヲ与フルモノトス 第百九十一条 監督ハ初度ハ一年ヲ超ル任期其後ハ五年ヲ超ル任期ヲ以テ之ヲ撰挙スルコトヲ得ス 其撰定ハ此任期ヲ超ル時間ニ限リ法律上効力ナキモノトス 第百九十二条 初任監督ノ職員ニハ最初ノ行務年度ノ終リタル後差金社員総会ノ決議ヲ以テスルニアラサレハ其職務執行ニ付テノ報酬ヲ与フルコトヲ得ス 其報酬ヲ之ヨリ前又ハ前項ヨリ他ノ方法ヲ以テ与ヘタルトキ其定メハ法律上効力ナキモノトス 第百九十三条 監督ハ総テ会社ノ管理ニ関スル事務執行ヲ監督スルモノトス又監督ハ会社事務ノ成行ヲ質問シ会社ノ帳簿及書類ヲ何時タリトモ展覧シ及会社金庫ノ現在高ヲ検査スルコトヲ得 監督ハ毎年ノ計算書財産比較表及利益配当案ヲ審査シ及之ニ付キ毎年総会ニ報告スヘキモノトス 第百九十四条 監督ハ無限責任社員ニ対シ総会ニ於テ議決スル訴訟ヲナスノ権アルモノトス 各差金社員ハ自己ノ費用ヲ以テ立入人トナリテ訴訟ニ加ハルノ権アルモノトス 監督ハ自己ノ責任ニ関シテハ総会ノ決議ヲ待タス及其決議ニ反シ無限責任社員ニ対シ出訴スルコトヲ得 第百九十五条 差金社員ノ全員共通ノ利益ニ関シ自ラ無限責任社員ニ対シ訴訟ヲ提起セント欲スルトキ又ハ監督ノ職員ニ対シ訴訟ヲ提起スヘキトキハ総会ニ於テ撰挙スル代理ヲ以テ代理セシムヘキモノトス 或ル理由ニ依リ総会ニ於テ代人ヲ撰任スルニ差支アル場合ニ於テ商事裁判所ハ申立ニ依リ代人ヲ任スルコトヲ得 各差金社員ハ自己ノ費用ヲ以テ立入人トナリテ訴訟ニ加ハルノ権アルモノトス 第百九十六条 会社ハ無限責任社員ニ依テ権利ヲ得及義務ヲ負担スルモノトス又会社ハ其社員ニ依リ裁判所ニ於テ代理セラルヽモノトス 会社ニナス呼出状及其他送達書ノ交付ハ会社ヲ代理スルノ権アル社員ノ一名ニナスヲ以テ足レリトス 会社ノ為メニ取引ヲナス差金社員ニ付テノ第百六十七条ノ規定ハ株式差金会社ニハ之ヲ適用セサルモノトス 第百九十七条 差入資本ハ会社ノ存立スル間ハ之ヲ差金社員ニ払戻スコトヲ得ス 定額ノ利子ハ差金社員ノ為メニ約束スルコトヲ得ス及払渡スコトヲ得ス但毎年ノ財産比較表ニ照ラシ純粋ノ剰余タル額及会社契約ニ於テ準備資本ノ積立ヲ定メタルトキハ之ヲ引去リタル後純粋ノ剰余タル額ニ限リ差金社員間ニ之ヲ配当スルコトヲ許ス 差金社員ハ前項ノ規定ニ反シ会社ヨリ支払ヲ受取リタルトキハ其額マテニ限リ会社ノ義務ニ付キ其責ヲ負担スルモノトス但其良心ヲ以テ受取リタル純益ヲ払戻スノ義務ナキモノトス 第百九十八条 会社契約ノ名変更其効力ヲ得ルニハ公証人及裁判所ノ作リタル書面ヲ要ス 其変更シタル契約ハ原契約ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ商事登記簿ニ登記シ其抜書ヲ以テ公告スヘキモノトス(第百七十六条第百七十九条) 其変更シタル契約ハ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ之ヲ商事登記簿ニ登記シタル後ニアラサレハ法律上効力ナキモノトス 第百九十九条 無限責任社員一名又ハ数名ノ退社ヲ定ル協議ハ会社ノ解散ト同一ナリトス但其協議ニ付テハ差金社員総会ノ決議ヲ要ス 会社ノ契約又ハ之ヲ変更スル契約第百九十八条)ヲ以テハ無限責任社員ノ一名又ハ数名退社スルモ猶ホ無限責任社員一名以上存留スルトキハ会社ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルコトヲ定ルヲ得商事登記簿ニ登記スルニ付テハ第百二十九条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第二百条 差金社員ノ一名死去シ又ハ倒産シ又ハ法律上自己ノ財産ヲ管理スルノ能力ヲ失フモ会社ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルモノトス第百二十六条ノ規定ハ差金社員ノ私債主ニ付テハ之ヲ適用セサルモノトス其他第百二十三条ヨリ第百二十八条マテハ株式差金会社ニモ亦効力ヲ有スルモノトス 第二百一条 会社ノ解散ハ会社ニ対シ倒産開始ニ依テナスニアラサルトキハ之ヲ商事登記簿ニ登記スヘキモノトス 其登記ハ会社其契約年限ノ経過シタルニ依テ解散シタルトキト雖之ヲナスヘキモノトス 第二百二条 倒産ノ場合ヲ除キ株式差金会社ヲ解散スルニ方テハ会社ノ解散ヲ商事登記簿ニ登記シタル日ヨリ起算シ一年ヲ経過シタル後ニアラサレハ其財産ヲ社員間ニ分配スルコトヲ許サス 会社ノ商ヒ帳ニ依テ認知スルヲ得ヘキ債主又ハ其他ノ方法ニ依テ明白ナル債主ハ届出ツヘキコトヲ特別ノ通知ヲ以テ督促セラルヘキモノトス債主其届出ヲ怠ルトキハ其要求額ヲ裁判所ニ蔵寄スヘシ 其蔵寄ハ未定ノ義務及争ヒトナリタル要求ニ付テモ亦之ヲナスヘキモノトス但会社財産ノ分配ヲ其義務及要求ノ完結スルマテ延引セサルトキ又ハ債主ニ対シ相当ノ保証ヲナサヽルトキニ限ル 第二百三条 差金社員ノ資本ノ一部ノ払戻ハ会社契約ヲ変更スルトキニ限リ之ヲナスコトヲ得 其払戻ハ会社解散ノ場合ニ於テ会社財産ヲ分配スルニ付キ準拠スヘキト同一ノ規定、第二百一条及第二百二条)ヲ遵守スルニアラサレハ之ヲナスコトヲ得ス 第二百四条 監督ノ職員左ノ場合ニ於テ知リツヽ差止メサリシトキハ無限責任社員ニ均ク各自独立シテ其義務ヲ負担スルモノトス 第一 差金社員ニ差入資本ヲ払戻シタルトキ 第二 株券ニ相当スル利益ニ出テサリシ利子又ハ純益ヲ払渡シタルトキ 第三 法律上ノ規定(第二百二条及第二百三条)ヲ遵守セスシテ会社財産ノ分配ヲナシ又ハ差金社員ノ資本ノ一部ノ払戻ヲナシタルトキ 第二百五条 結算ハ会社契約ニ別段ノ定メナキトキニ限リ無限責任全社員及差金社員ノ総会ニ於テ撰ヒタル人ノ一名又ハ数名ト之ヲナスモノトス 第二百六条 無限責任社員及監督ノ職員ハ左ノ場合ニ於テ三月以下ノ禁錮ニ処セラルヽモノトス 第一 無限責任社員及監督ノ職員故意ヲ以テ会社契約ヲ商事登記簿ニ登記ノ為メ差金社員ノ資本ノ申込又ハ払入ニ付キ詐偽ノ申立ヲナストキ 第二 無限責任社員及監督ノ職員ノ過失ニ依リ三月以上会社ニ監督ナカリシトキ又ハ決議ヲナス為メ必要ナル監督職員ノ員数缺ケタルトキ 第三 無限責任社員及監督ノ職員会社財産ノ現状ニ付テノ明細及概覧ニ関シ又ハ総会ニ於テナシタル陳述ニ関シ知リツヽ会社関係ノ現状ヲ不真実ニ供述シ又ハ掩蔽スルトキ 第二及第三ノ場合ニ於テ軽減スヘキ情状アリタルト確定スルトキハ千「ターレル」以下ノ罰金ヲ言渡サルヘキモノトス 第三章 株式会社 第一節 普通ノ原則 第二百七条 会社ハ全社員会社ノ義務ニ付キ無限責任ヲ負担スルコトナクシテ差入資本ノミヲ以テ加入スルトキハ之ヲ株式会社ナリトス 会社ノ資本ハ之ヲ株券又ハ小割株券ニ分ツモノトス 株券又ハ小割株券ハ之ヲ分割スルコトヲ得ス 株券又ハ小割株券ハ之ヲ記名又ハ無記名トナスコトヲ得 甲第二百七条 株券又ハ小割株券ハ記名ナルトキハ五十「ターレル」以上ノ額トナシ無記名ナルトキハ百「ターレル」以上ノ額トナスヘキモノトス保険会社ニアリテハ記名ノ株券又ハ小割株券モ亦百「ターレル」以上ノ額トナスヘキモノトス 前項ヨリ少額ニ作ル株券又ハ小割株券ハ之ヲ無効トス此株券又ハ小割株券ノ発行者ハ持主ニ対シ其発行ニ依テ生シタル総テノ損害ニ付キ各自独立シテ其責ヲ負担スルモノトス 株券又ハ小割株券ノ券面額ハ会社ノ存立スル間ハ之ヲ増減スルコトヲ得ス 本条ノ規定ハ之ヲ株券約定証書及仮株券ニ付テモ亦効力ヲ有スルモノトス 第二百八条 株式会社ハ起業ノ事件商ヒ取引ニアラサルモ之ヲ商社ト看做スモノトス 会社契約(申合規則)ノ調製及旨趣ニ付テハ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ作ルヘキモノトス 株式ノ申込ヲナスニハ書面上ノ陳述ヲ以テ足レリトス 第二百九条 会社契約ニハ特ニ左ノ事項ヲ定ムヘキモノトス 第一 会社ノ店号及其所在 第二 起業ノ事件 第三 起業年限但期限ノ定メアルトキニ、限ル 第四 原資本及各株券又ハ小割株券ノ額 第五 無記名又ハ記名ニ作ルヘキヤニ付テノ株券ノ性質並ニ無記名又ハ記名株券ノ定数アルトキハ其員数並ニ其二種ノ交換ヲ許サレタルトキハ其交換 第六 株主ノ内ヨリ三名以上ノ監督ヲ選任スヘキコトノ定メ 第七 財産比較表ヲ調製シ及利益ヲ計算シ及払渡スヘキノ原則並ニ財産比較表ヲ審査スルノ方法 第八 頭取ヲ任定シ及編成スルノ方法及頭取ノ職員及会社役員ノ正否ヲ取調ルノ方法 第九 株主ヲ召集スルノ方法 第十 株主議権ノ規約及議権ヲ執行スルノ方法 第十一 召集ニ応シ出頭シタル株主ノ過半数ヲ以テセスシテ之ヨリ大ナル多数又ハ其他要件ニ依ルニアラサレハ議決スルコトヲ得サル事件 第十二 会社ヨリナス公告ノ手続並ニ公告ヲ載スヘキ公告紙 甲第二百九条 原資本ノ申込後株主総会ハ之ニ呈示スヘキ証書ニ依リ決議ヲ以テ原資本申込ヲ終リタルヤ及各株券ニ付キ百分十以上ヲ払込ミタルヤ亦保険会社ニアリテハ百分二十以上ヲ払込ミタルヤヲ定ムヘキモノトス但全株主ノ間ニ於テ会社契約ヲ取結ヒ之ニ依テ前段ノ要件ノ履行ヲ認諾シタルトキハ此限ニアラス 此決議ニ付テハ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ作ルヘキモノトス 乙第二百九条 株主原資本ニ算入スヘキ現金ニアラサル差入ヲナストキ又ハ建造物又ハ其他ノ財産ヲ設立スヘキ会社ニ於テ受取ルヘキトキハ会社契約ニ其差入資本又ハ財産ノ価額ヲ確定シ及差入資本又ハ財産ニ付キ与フル株券ノ員数又ハ代価ヲ定ムヘキモノトス株主ヲ利スル為メ約束シタル各利益ハ亦会社契約ヲ以テ之ヲ確定スヘキモノトス 原資本ノ申込後前項記載シタル場合ニ於テハ全株主ノ間ニ於テ会社契約ヲ取結ハサリシトキニ限リ株主ノ総会ニ於テ決議ヲ以テ其契約ノ承諾ヲナスヘキモノトス 其契約ヲ承諾スル多数ハ全株主ノ四分一以上及其持部ノ額ハ原資本全部ノ四分一以上タルヘキモノトス第一項ノ差入ヲナシ又ハ特別ノ利益ヲ約束スル社員ハ議決ノ際議権ヲ有セス 其決議ニ付テハ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ作ルヘキモノトス 丙第二百九条 総会ノ召集ハ甲第二百九条及乙第二百九条ノ場合ニ於テハ総会ノ召集ニ付キ会社契約ニ掲ル規定ニ従テ之ヲナスモノトス 第二百十条 会社契約ハ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ商事登記簿ニ之ヲ登記シ及其抜書ヲ以テ公告スヘキモノトス 其抜書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘキモノトス 第一 会社契約ノ日付 第二 会社ノ店号及所在 第三 起業ノ事件及年限 第四 原資本及各株券又ハ小割株券ノ額 第五 無記名又ハ無記名ニ作リタルヤニ付キ株券又ハ小割株券ノ性質 第六 会社ヨリナスヘキ公告ノ手続並ニ其公告ヲ載スヘキ公告紙 会社契約ニ於テ頭取其意ヲ発露シ及会社ノ為メニ署名スルノ方法ヲ定ルトキハ亦其定メヲ公告スヘキモノトス 甲第二百十条 商事登記簿ニ登記ノ為メニナス届出書ニハ左ノ書類ヲ添フヘキモノトス 第一 原資本ノ全額署名ニ依テ満数ニ至リタルコトノ証明書 第二 各株主ノ申込ミタル額ノ百分十以上ヲ払込ミ亦保険会社ニアリテハ百分二十以上ヲ払込ミタルコトノ証明書 第三 契納ノ旨趣ニ従ヒ株主総会ニ於テ監督ヲ撰ヒタルコトノ証明書 第四 甲第二百九条及乙第二百九条ニ記載シタル総会ノ決議ニ付キ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ作リタルトキハ其証明書 其届書ハ頭取ノ全員商事裁判所ニ於テ之ニ署名シ又ハ之ニ公証ヲ得テ差出スヘキモノトス 届書ニ添ヘタル書類ハ原本又ハ公証ヲ附シタル謄本ヲ以テ之ヲ商事裁判所ニ保存スルモノトス 第二百十一条 株式会社ハ商事登記簿ニ登記ヲナス前ニハ株式会社トシテ存立セサルモノトス其登記前ニ発行シタル株券又ハ小割株券ハ之ヲ無効トス発行者ハ持主ニ対シ其発行ニ依テ生シタル総テノ損害ニ付テハ各自独立シテ其責ヲ負担スルモノトス 商事登記簿ニ登記ヲナス前会社ノ名ヲ以テ処置シタルトキ其処置者ハ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第二百十二条 株式会社ノ支社ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ其所在地ヲ管轄スル各商事裁判所ニ之ヲ届出ツヘキモノトス 其届出書ハ頭取ノ全員商事裁判所ニ於テ之ニ署名シ又ハ公証ヲ得テ之ヲ差出シ及第二百十条第二項第三項ニ掲ケタル事項ヲ記載スヘキモノトス商事裁判所ハ此規定ヲ遵守セシムル為メ頭取ノ職員ニ対シ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘシ 第二百十三条 株式会社ハ株式会社トシテ独立シテ権利及義務ヲ有スルモノトス又地所ニ付テノ所有権及其他ノ物権ヲ得有シ並ニ裁判所ニ出訴シ又ハ出訴セラルヽコトヲ得 会社ノ通常裁判管轄ハ其所在地ヲ管轄スル裁判所ニ属スルモノトス 第二百十四条 会社ノ継続又ハ会社契約ノ規定ノ変更ニ関スル総会ノ各決議ハ其効力ヲ得ルニハ公証人又ハ裁判所ノ証書ヲ要ス 此決議ハ原契約ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ商事登記簿ニ登記シ及公告スヘキモノトス(第二百十条第二百十二条) 其決議ハ会社ノ所在地ヲ管轄スル商事裁判所ニ於テ商事登記簿ニ登記シタル後ニアラサレハ法律上ノ効力ナキモノトス 第二百十五条 会社ノ起業事件ノ変更ハ多数ヲ以テ議決スルコトヲ得ス但会社契約ニ於テ之ヲ明許シタルトキハ此限ニアラス 会社他ノ株式会社ノ株券ヲ受ケ之ニ其資産及負債ヲ譲渡シテ解散スヘキ場合ニ於テモ亦前項同一ナリトス 株式会社ハ自己ノ株券ヲ得有スルコトヲ許サス又自己ノ株券ヲ消却スルコトヲ許サス但会社ノ原契約又ハ株券発行前之ヲ変更スル為メナシタル決議ヲ以テ之ヲ許シタルトキハ此限ニアラス 第二節 株主ノ権利上関係 第二百十六条 各株主ハ会社ノ財産中ニ付キ相当ノ持部ヲ有スルモノトス 株主ハ払入レタル額ヲ取戻スコトヲ得ス及会社ノ存立スル間ハ会社ノ契約ニ於テ株主間ニ配当スルコトヲ定メタル部分ニ限リ純益ヲ要求スルノ権アルモノトス 第二百十七条 一定額ノ利子ハ株主ノ為メニ之ヲ約定シ及払渡スコトヲ許サス毎年ノ財産比較表ニ依リ全差入資本ヲ超ル剰余額及会社契約ニ於テ準備資本ノ積立ヲ定メタルトキハ之ヲ扣除シタル後全差入資本ヲ超ル剰余額ニ限リ株主間ニ配当スルコトヲ許ス株主ハ損失ニ依リ減少シタル差入資本ノ総額ヲ補充スルマテ純益ヲ受ルコトヲ得ス 但充分ニ営業ヲ始ルマテ起業ノ準備ニ必要ナル会社契約中ノ期限間ハ株主ニ一定額ノ利子ヲ約定スルコトヲ得 第二百十八条 株主ハ如何ナル場合ニ於テモ良心ヲ以テ受取リタル利子及純益ヲ払戻スノ義務ナキモノトス 第二百十九条 株主ハ会社ノ目的ノ為メ及其義務履行ノ為メ株券ニ付キ申合規則上ニ於テ負担スヘキ出金額以上ヲ納ルノ義務ナキモノトス 第二百二十条 株券ノ額ヲ遅延ナク払入レサル株主ハ法律上淹滞利子ヲ払フノ義務アルモノトス 会社契約ニ於テハ申込ミタル株券額又ハ其一部ノ払入ヲ淹滞シタル場合ノ為メ其他法律上ノ制限アルニ拘ラス違約罰ヲ定ルコトヲ得亦払入レヲ怠リタル株主ハ株券ノ申込ヨリ生スル権利及払入レタル一部ノ金額ヲ失ヒ会社ノ利益ニ帰スルコトヲ定ルヲ得 第二百二十一条 会社契約ニ於テ払入ノ督促ヲナスヘキ特別ノ手続ヲ定メサルトキハ会社契約ニ従ヒ一般ニ会社ノ公告ヲナスヘキ手続ニ於テ之ヲナスモノトス(第二百九条第十一) 但如何ナル場合ニ於テモ株主ハ払入督促ヲ之カ為メ定メタル公告紙ヲ以テ三回以上(第二百九条第十一)公告セス其最後ノ督促ヲ少クモ払入レノ為メ定メタル最終ノ期日四週前ニナサヽルトキハ其持部権ヲ失フコトヲ言渡サルヽコトナキモノトス株券記名ニシテ他ノ株主ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ譲渡スコトヲ得サルトキ其督促ノ公告ハ之ヲ公告紙ニ載セスシテ各株主ニ特別ノ通知書ヲ以テナスコトヲ得 第二百二十二条 株券又ハ小割株券ヲ無記名ニ作ルトキハ左ノ原則ヲ適用スルモノトス 第一 株券ノ発行ハ其全券面額ヲ払入レタル後ニアラサレハ之ヲナスコトヲ許サス又其一部ノ払入額ニ付キ無記名ノ株券約定証書又ハ仮株券ヲ発行スルコトヲ許サス 第二 株券ノ申込人ハ必ス株券ノ券面額百分四十ノ払入ニ付キ其責ヲ負担スルモノトス其申込人ハ自己ノ持部権ヲ他人ニ譲渡シテ其責ヲ免レ及会社ヨリ其責ヲ免除セラルヽコトヲ得ス又株券ノ申込人ハ払入レヲ淹滞シタルカ為メ申込ヨリ生スル持部権ヲ失フコトヲ言渡サルヽトキ(第二百二十条)ハ之ニ拘ラス株券ノ券面額百分四十ヲ払入ルヽノ義務アルモノトス 第三 会社契約ニ於テハ百分四十ヲ払入レタル後申込人ニ対シ其他ノ払入ニ付テノ責ヲ免除スルヲ得ルコト及其程度ヲ定メ及其免除ヲナシタル場合ニ於テ払入レタル額ニ付キ無記名ノ株券約定証書又ハ仮株券ヲ発行スルヲ許スコトヲ定ルヲ得 払入レノ額(第二百二十二条第二及第三)ヲ株券ノ券面額百分二十五ニ減少シタル各邦法律ハ本条ノ規定ニ依テ変更セラルヽコトナシ 第二百二十三条 株券記名ナルトキハ会社ノ株券帳ニ株券ヲ登記スルコト及他人ニ株券ヲ譲渡スコトニ付キ株式差金会社ノ為メニ設ケタル規定(第百八十二条及第百八十三条)ハ株式会社ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 株券ノ全額ヲ払入レサル間ハ株主ハ其持部権ヲ他人ニ譲渡シテ未納額ヲ払入ルヽノ義務ヲ免レサルモノトス但会社其新所得者ヲ引受人ト認メ株主ニ義務ヲ免レシムルトキハ此限ニアラス 此場合ニ於テモ亦退社シタル株主ハ其退社マテ会社ノ負担シタル総テノ義務ニ付キ其退社ノ日ヨリ起算シ一年間未納額ニ至ルマテ補助ノ責任ヲ負担スルモノトス 第二百二十四条 会社ノ事務特ニ事務ノ執行財産比較表ノ展覧及審査及利益配当ノ定メニ付キ株主ニ属スル権利ハ総会ニ於テ株主ノ全員之ヲ執行スルモノトス 各株券ハ会社契約ニ別段ノ定メナキトキハ其持主ニ一議権ヲ与フルモノトス 第二百二十五条 第百九十一条及第百九十二条ニ於テ株式差金会社ノ監督ニ付キ設ケタル規定ハ株式会社ノ監督ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 甲第二百二十五条 監督ハ総テ会社ノ管理ニ関スル事務執行ヲ監督スルモノトス又監督ハ会社事務ノ成行ヲ質問シ会社ノ帳簿及書類ヲ何時タリトモ展覧シ及会社金庫ノ現在高ヲ検査スルコトヲ得 監督ハ毎年ノ計算書財産比較表及利益配当案ヲ検査シ及之ニ付キ毎年株主ノ総会ニ報告スヘキモノトス 監督ハ会社ノ利益ニ関シ必要ナルトキハ総会ヲ召集スヘキモノトス 乙第二百二十五条 監督ノ職員左ノ場合ニ於テ知リツヽ差止メサリシトキハ各自独立シテ損害賠償ノ為メ無限責任ヲ負担スルモノトス 第一 株主ニ差入資本ヲ払戻シ又ハ第二百十五条第三ノ規定ニ反シ会社自己ノ株券ヲ得有シ又ハ消却シタルトキ 第二 第二百十七条ノ規定ニ従ヒ払フコトヲ許サヽル利子又ハ純益ヲ払渡シタルトキ 第三 法律上ノ規定第二百四十五条及第二百四十八条)ヲ遵守スルコトナクシテ会社ノ財産ヲ分配シ又ハ原資本ノ一部ヲ払戻シ又ハ減少シタルトキ 第二百二十六条 頭取又ハ監督ノ職員ニ対シ訴訟ヲナスコトニ関シテハ株式差金会社ニ付キ設ケタル規定(第百九十四条及第百九十五条)ハ株式会社ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 第三節 頭取ノ権利及義務 第二百二十七条 各株式会社ハ頭取ヲ有スヘキモノトス(第二百九条第八)又株式会社ハ頭取ニ依テ裁判所内及裁判所外ニ於テ代理セラルヽモノトス 頭取ハ一名又ハ数名ノ職員ヨリ成ルコトヲ得又頭取ハ有給又ハ無給ナルコトアリ株主又ハ其他ノ者ナルコトアリトス 其任命ハ何時ニテモ之ヲ解クコトヲ得但現在ノ契約ヨリ生スル損害賠償ヲ求ルノ権ハ格別ナリトス 第二百二十八条 頭取ノ職員ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ其任命後直ニ之ヲ届出ツヘキモノトス其届出書ニハ頭取職員ノ正否調書ヲ添フヘシ 頭取ハ商事裁判所ニ於テ其氏名ヲ手署シ又ハ其手署シタル書面ニ公証ヲ得テ之ヲ差出スヘキモノトス 商事裁判所ハ頭取ノ職員ニ対シ本条ノ規定ヲ遵守セシムル為メ職権ヲ以テ過料ヲ科スヘキモノトス 第二百二十九条 頭取ハ会社契約ニ定メタル方法ヲ以テ其意ヲ発露シ及会社ニ代リ手署スヘキモノトス之ニ付キ全ク定メナキトキハ頭取全員ノ手署ヲ要ス 其手署ハ手署者会社ノ店号及頭取タル職名ニ其署名ヲ附記シテ之ヲナスモノトス 第二百三十条 会社ハ其名ヲ以テ頭取ノ取結ヒタル権利上取引ニ依テ権利及義務ヲ有スルモノトス其取引ヲ明カニ会社ノ名ヲ以テ取結ヒタルト又ハ契約者ノ意ニ依ルニ会社ノ為メニ取結ヒタルコトノ状況判然スルト否トニ依テ区別アルコトナシ 第二百三十一条 頭取会社ニ対シテハ会社契約又ハ総会ノ決議ヲ以テ其会社ヲ代理スル権限ニ付キ確定シタル制限ヲ守ルノ義務アルモノトス 但頭取会社ヲ代理スル権限ノ制限ハ他人ニ対シ法律上効力ナキモノトス此規定ハ其代理ヲ特ニ或ル取引又ハ取引ノ或ル種類又ハ或ル状況又ハ或ル時又ハ或ル地ニ於テノミナスヘキ場合又ハ各個ノ取引ニ付キ総会支配人監督其他ノ役員ノ承諾ヲ要スル場合ニ効力アルモノトス 第二百三十二条 会社ノ名ヲ以テスル宣誓ハ頭取之ヲナスモノトス 第二百三十三条 頭取職員ノ各変更ハ商事登記簿ニ登記ノ為メ之ヲ商事裁判所ニ届出ツヘキモノトス之ニ違フトキハ過料ヲ科ス 其変更ハ之ニ関シ番頭ノ解任ニ付キ第四十六条ニ掲ケタル要件ノ存シタルトキニ限リ他人ニ対シ効力アラシムルコトヲ得 第二百三十四条 会社事務ノ執行並ニ此執行ニ関スル会社ノ代理ハ会社ノ其他ノ代人又ハ役員ニモ亦之ヲ任スルコトヲ得此場合ニ於テ此等ノ者ノ権限ハ之ニ与ヘタル委任ニ依テ定マルモノトス又其権限ハ疑シキ場合ニ於テハ通例其取引執行離ルヘカラサル総テノ権利上行為ニ及フモノトス 第二百三十五条 会社ニナス喚出状及其他ノ送達書ノ交付ヲナスニハ署名シ又ハ連署スルノ権アル頭取職員ノ一名又ハ裁判所ニ於テ会社ヲ代理スルノ権アル会社役員ノ一名ニナスヲ以テ足レリトス 第二百三十六条 株主ノ総会ハ頭取之ヲ召集スルモノトス但会社契約ニ依リ他人其権ヲ有スルトキハ此限ニアラス 第二百三十七条 株主ノ総会ハ会社契約ニ明定シタル場合ノ外ト雖会社ノ利害ニ於テ必要ナリト認ルトキハ之ヲ召集スヘキモノトス 其総会ハ総株券原資本ノ十分一ニ当ル株主一名又ハ数名其旨趣及理由ヲ掲ケテ署名シタル申立書ヲ以テ之ヲ求ルトキニモ亦召集スヘキモノトス但会社契約ニ於テ総会ノ召集ヲ求ル権ヲ原資本ニ対シ其十分一ヨリ多額又ハ少額ノ持部ノ所有ニ付シタルトキハ之ニ従フモノトス 第二百三十八条 総会ノ召集ハ会社契約ヲ以テ定メタル方法ニ従ヒ之ヲナスヘキモノトス 総会ノ旨趣ハ召集ノ際毎時之ヲ通知スヘキモノトス此方法ニ於テ通知セサル会議ノ事件ニ付テハ決議ヲナスコトヲ得ス但総会ニ於テ臨時総会ノ召集ヲ求ル申立ニ付テノ決議ハ此限ニアラス 決議スルコトナクシテ申立ヲナシ及会議ヲナスニハ通知スルヲ要セス 第二百三十九条 頭取ハ会社ノ必要ナル帳簿ヲ備ヘ置クコトヲ注意スルノ義務アルモノトス又頭取ハ遅クトモ各行務年度ノ前六月ニ於テ前行務年度ノ財産比較表ヲ株主ニ呈示シ及会社契約ニ於テ会社ノ公告ノ為メ定メタル手続及公告紙ヲ以テ之ヲ公告スヘキモノトス 如何ナル方法ヲ問ハス事務執行ニ関与スル者ハ計算書ヲ差出ノ際頭取ノ義務ヲ免カレシムル為メ之ヲ任スルコトヲ得ス 此禁令ハ事務執行ニ付テノ監督権ヲ有スル者ニ及ハサルモノトス 甲第二百三十九条 財産比較表ヲ調製スルニハ左ノ規定ニ従フモノトス 第一 相場ヲ有スル証券ハ財産比較表ヲ調製スルノ際有スル相場額以内ヲ以テ記載スルコトヲ許ス 第二 会社ノ組織費及管理費ハ貸方ニ記載スルコトヲ許サス年度計算中其全額ヲ支出ニ立ツヘキモノトス 第三 原資本額及会社契約ニ準備資本又ハ再興資本ヲ定メタルトキハ其額ヲ借方ニ記載スヘキモノトス 第四 貸方借方ノ全部ヲ比較シテ生シタル利益又ハ損失ハ特ニ財産比較表ノ末尾ニ記載スヘキモノトス 第二百四十条 最後ノ財産比較表ニ依リ原資本半額ニ減少シタルコトノ判然スルトキ頭取ハ遅延ナク総会ヲ召集シ及之ニ其旨ヲ報告スヘキモノトス 会社ノ財産負債ヲ償フニ足ラサルコトノ判然スルトキ頭取ハ倒産ヲ開始スル為メ之ヲ裁判所ニ届出ツヘキモノトス 第二百四十一条 頭取ノ職員ハ会社ノ名ヲ以テナシタル権利上行為ニ依リ他人ニ対シ会社ノ義務ニ付キ自己ニ責任ヲ負担セサルモノトス 委任ノ範囲外又ハ本章ノ規定又ハ会社契約ノ定メニ反シテ処置スル頭取ノ職員ハ之ニ依テ生シタル損害ニ付キ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス此規定ハ特ニ頭取ノ職員第二百十七条ノ規定ニ反シ株主ニ純益又ハ利子ヲ払渡ストキ又ハ会社ノ支払不能力ヲ知了スルノ義務アリシトキニ尚ホ支払ヲナストキ効力アルモノトス 第四節 会社ノ解散 第二百四十二条 株式会社ハ左ノ場合ニ於テ解散スルモノトス 第一 会社契約ヲ以テ定メタル年限ノ経過シタルトキ 第二 公証人又ハ裁判所ノ証書ニ作リタル株主ノ決議アルトキ 第三 倒産ヲ開始シタルトキ 他ノ理由ニ依リ株式会社ノ解散ヲナストキニモ亦本節ノ規定ヲ適用スルモノトス 第二百四十三条 会社ノ解散ハ倒産開始ノ結果ニアラサルトキハ商事登記簿ニ登記ノ為メ頭取之ヲ届出ツヘキモノトス之ニ違フトキハ過料ヲ科ス又其解散ハ公告ノ為メ定メタル公告紙(第二百九条第十二)ヲ以テ三回之ヲ公告スヘシ 此公告ヲ以テ同時ニ債主ニ対シ会社ニ申出ツヘキコトヲ督促スヘキモノトス 第二百四十四条 決算ハ会社契約又ハ株主ノ決議ヲ以テ他人ニ委任セサルトキハ頭取之ヲナスモノトス 合名会社ニアリテ決算人ノ届出及権利上関係ニ付テ設ケタル規定ハ株式会社ニモ亦之ヲ適用スルモノトス但商事登記簿ヘ登記ノ為メニスル届出ハ頭取ヲナスヘシ 決算人ノ任命ハ何時タリトモ之ヲ解任スルコトヲ得 第二百四十五条 解散シタル株式会社ノ財産ハ其負債ヲ消却シタル後株券ノ割合ニ応シ株主ニ之ヲ配当スルモノトス 其配当ハ公告ノ為メ定メタル公告紙(第二百四十三条)ヲ以テ第三回ノ公告ヲナシタル日ヨリ起算シ一年ヲ経過シタル後ニアラサレハ之ヲナスコトヲ許サス 商ヒ帳ニ依テ認知スルヲ得ヘキ債主又ハ其他ノ方法ニ依テ明白ナル債主ノ為メ及未定ノ義務及争ヒトナリタル要求ニ付テハ株式差金会社ニ付テ設ケタル規定(第二百二条第二項及第三項)ヲ適用スルモノトス 本条ノ規定ニ反シテ処置スル頭取ノ職員及決算人ハ其ナシタル支払ヲ弁償スル為メ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第二百四十六条 解散シタル会社ノ商ヒ帳ハ商事裁判所ノ定ムヘキ安全ナル場所ニ十年間保存スル為メ之ヲ納付スヘキモノトス 第二百四十七条 株式会社他ノ株式会社(第二百十五条)ト合併スル為メニ解散ヲナストキハ左ノ規定ヲ適用スルモノトス 第一 解散スヘキ会社ノ財産ハ其債主ニ弁償ヲナシ又ハ保証ヲナスニ至ルマテ各別ニ之ヲ管理スヘキモノトス 第二 其会社ノ従来ノ裁判管轄ハ各別ニ財産ノ管理ヲナス間継続スルモノトス其管理ハ他ノ会社之ヲナス 第三 他ノ会社ノ頭取ハ各別ニ財産ヲ管理スルコトニ付キ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第四 会社ノ解散ハ商事登記簿ヘ登記ノ為メ之ヲ届出ツヘシ之ニ違フトキハ過料ヲ科ス 第五 解散シタル会社ノ債主ニナス公告ヲ以テスル督促(第二百四十三条)ハ之ヲナサヽルコトヲ得又ハ後日ニ延期スルコトヲ得ルモノトス但両会社ノ財産ノ合併ハ解散シタル会社ノ財産ヲ株主ニ分配スルコトヲ許ストキ(第二百四十五条)ニ始メテ之ヲナスコトヲ得 第二百四十八条 原資本ノ一部ヲ株主ニ払戻シ又ハ原資本ヲ減少スルハ総会ノ決議アルニアラサレハ之ヲナスコトヲ得サルモノトス 其払戻又ハ減少ハ解散ノ場合ニ於テ会社財産ヲ分配スルニ付キ準拠スヘキト同一ノ規定(第二百四十三条)第二百四十五条)ヲ遵守スルニアラサレハ之ヲナスコトヲ得サルモノトス 此規定ニ反シテ処置スル頭取ノ職員ハ会社ノ債主ニ対シ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第五節 罰則 第二百四十九条 監督及頭取ノ職員ハ左ノ場合ニ於テ三月以下ノ禁錮ニ処セラルヽモノトス 第一 監督及頭取ノ職員会社契約ヲ商事登記簿ヘ登記スル為メ故意ヲ以テ原資本ノ申込又ハ払入ニ付キ詐偽ノ申立ヲナストキ 第二 監督及頭取職員ノ過失ニ依リ会社ニ三月以上監督ナカリシトキ又ハ決議ヲナスニ必要ナル監督ノ員数缺ケタルトキ 第三 監督及頭取ノ職員ノ現状ニ付テノ明細及概覧ニ関シ又ハ総会ニ於テナシタル陳述ニ関シ知リツヽ会社ノ関係ノ現状ヲ不真実ニ供述シ又ハ掩蔽スルトキ 第二及第三ノ場合ニ於テ減軽スヘキ情状アリタリト確定スルトキハ千「ターレル」以下ノ罰金ヲ言渡サルヘキモノトス 甲第二百四十九条 頭取ノ職員第二百四十条ノ規定ニ反シ会社ノ財産負債ヲ償フニ不足スルコトノ届出ヲ裁判所ニナサヽルトキハ三月以下ノ禁錮ニ処セラルヽモノトス 其刑ハ頭取ニ於テ届出ヲナサヽルコトノ自己ノ過失ニ出テサリシコトヲ証明スルトキハ之ヲ科セサルモノトス 第三編 匿名会社、共同計算ヲ以テ各個ノ商ヒ取引ノ為メニスル組合 第一章 匿名会社 第二百五十条 匿名会社ハ何人タリトモ利益及損失ノ配当ヲ受ケ差入資本ヲ以テ他人ノ営ム商ヒ営業ニ加入スルトキ存立スルモノトス 其契約ノ効力ヲ有スルニハ書面又ハ其他ノ法式ヲ要セサルモノトス 第二百五十一条 商ヒ営業ノ持主ハ自己ノ店号ヲ以テ取引ヲナスモノトス 其持主ハ匿名社員ノ加入スルカ為メ会社ノ関係ヲ表スル店号ヲ用ルコトヲ許サス之ニ違フトキハ過料ヲ科ス 第二百五十二条 商ヒ営業ノ持主ハ匿名社員ノ差入資本ノ所有主トナルモノトス 匿名社員ハ契約上ノ額ヲ超テ差入資本ヲ増加シ又ハ損失ニ依テ減少シタル差入資本ヲ補充スルノ義務ナキモノトス 第二百五十三条 匿名社員ハ毎年財産比較表ノ謄本ヲ以テスル交付ヲ求メ及帳簿及書類ヲ展覧シ其比較表ノ正否ヲ審査スルノ権アルモノトス 商事裁判所ハ匿名社員ノ申立ニ依リ重要ナル理由アルトキ財産比較表又ハ其他ノ弁明書ノ交付並ニ帳簿及書類ノ呈示ヲ何時タリトモ命スルコトヲ得 第二百五十四条 匿名社員ノ利益及損失配当ノ額ニ付キ全ク契約ナキトキ其額ハ裁判官ノ見込ヲ以テ之ヲ定メ已ムヲ得サル場合ニ於テハ鑑定人ヲ立会ハシメテ之ヲ定ルモノトス 第二百五十五条 各行務年度ノ終ハリニ利益及損失ヲ計算シ匿名社員ニ帰スヘキ利益ヲ之ニ払渡スモノトス 匿名社員ハ其払入レタル資本額又ハ未納ノ差入資本額マテニ損失ノ配当ヲ受ルモノトス又匿名社員ハ其受取リタル利益ヲ其後ノ損失ノ為メ払戻スノ義務ナキモノトス但損失ニ依テ原差入資本ヲ減少シタル間ハ損失ニ充ル為メ毎年ノ利益ヲ支用スルモノトス 匿名社員ノ受取ラサル利益ノ別段ノ契約ナキトキニ限リ其差入資本ヲ増加セサルモノトス 第二百五十六条 商ヒ営業ノ取引ニ依リ其営業持主ハ他人ニ対シ独リ権利及義務ヲ有スルモノトス 第二百五十七条 匿名社員ノ名ハ商ヒ営業持主ノ店号ニ包含セラルヽコトヲ許サス之ニ反スル場合ニ於テハ匿名社員ハ会社ノ債主ニ対シ各自独立シテ無限責任ヲ負担スルモノトス 第二百五十八条 商ヒ営業持主倒産スルトキ匿名社員ハ之ニ帰スル損失配当ノ額ヲ超過スル其差入資本ノ部分ニ限リ倒産債主トナリテ其要求ヲ申立ルノ権アルモノトス 差入資本ニ未納アルトキ匿名社員ハ其損失配当額ニ充ル為メ必要ナル額ニ至ルマテ之ヲ倒産額ニ払入ルヘキモノトス 第二百五十九条 商ヒ営業持主ノ財産ニ付キ倒産ヲ開始スルノ前一年内ニ其持主ト匿名社員ノ間ニ契約ヲ以テ会社関係ヲ解除シタルトキ倒産債主ハ匿名社員ニ対シ其払戻ヲ受ケタル差入資本ヲ倒産額内ニ払入ルヘキコトヲ求ルヲ得ルモノトス但匿名社員解除ノ際会社ノ関係ニ依リ自己ニ属スル要求ヲ倒産債主トナリテ申立ルノ権ヲ害セラルヽコトナシ 前記ノ期限内ニ会社関係ヲ解除スルコトナクシテ匿名社員ニ差入資本ヲ払戻シタルトキ亦前項同一ナリトス 商ヒ営業ノ持主前記ノ期限内ニ匿名社員ニ対シ其生シタル損失配当ノ全部又ハ一部ヲ免除シタルトキ其免除ハ倒産債主ヲ利スル為メ亦無効ナリトス 本条ノ規定ハ匿名社員解除払戻シ又ハ免除ノ後始テ生シタル状況ニ倒産ノ理由アルコトヲ証明スルトキハ之ヲ適用セサルモノトス 第二百六十条 匿名社員又ハ其承諾ヲ以テ匿名会社ノ存立ヲ公告スルトキ他人ヲ利スル為メニ法律上ノ効力アルヤ否及其程度ハ法律上一般ノ原則ニ従ヒ之ヲ判定スヘキモノトス 第二百六十一条 匿名会社ハ左ノ場合ニ於テ解散スルモノトス 第一 会社死亡者ノ相続人ヲ以テ継続スヘキ契約ヲ立テサル場合ニ於テ商ヒ営業持主ノ死亡シタルトキ 第二 商ヒ営業ノ持主独立シテ財産ヲ管理スルノ能力ヲ法律上失ヒタルトキ 第三 商ヒ営業持主又ハ匿名社員ノ財産ニ付キ倒産ヲ開始シタルトキ 第四 互ニ同意シタルトキ 第五 匿名会社契約期限ノ経過シタルトキ但黙諾シテ之ヲ継続スルトキハ此限ニアラス此継続ノ場合ニ於テ其契約ハ爾後無定期限ヲ以テ取結ヒタルモノト看做ス 第六 無定期限ヲ以テ契約ヲ取結ヒタルトキハ契約者ノ一方解散ヲ申出ルトキ 終身ノ期限ヲ以テ取結ヒタル契約ハ無定期限ヲ以テ取結ヒタルモノト看做ス 無定期限ヲ以テ取結ヒタル契約ヲ解除スル申出ハ少クトモ行務年度ノ経過前六月ニ之ヲナスヘキモノトス但別段ノ契約アルトキハ此限ニアラス 第二百六十二条 匿名会社ノ解散ハ重要ナル理由アルトキニ限リ会社継続ノ為メ定メタル期限ノ経過前又ハ無定期限ノ契約ニアリテハ予メ会社ノ申出ナクシテ之ヲ求ルコトヲ得其理由アルヤ否ノ判定ハ異議アルニ於テハ之ヲ裁判官ノ見込ニ任ス 第二百六十三条 第百二十六条ノ規定ハ匿名社員ノ私債主ヲ利スル為メニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第二百六十四条 匿名社員死去シ又ハ法律上其財産ヲ管理スルノ能力ヲ失フモ之カ為メ匿名会社ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルモノトス 第二百六十五条 匿名会社解散ノ後商ヒ営業持主ハ匿名社員ト決算ヲナシ及社員ノ要求ヲ金銭ニテ支払フヘキモノトス 商ヒ営業ノ持主ハ会社解散ノ際未タ完結セサル取引ノ決算ヲ担当スルモノトス 第二章 共同計算ヲ以テ各個ノ商ヒ取引ノ為メニスル組合 第二百六十六条 共同計算ヲ以テ一個又ハ数個ノ商ヒ取引ノ為メニスル組合ハ書面ヲ要セス又其他ノ法式ニ従ハサルモノトス 第二百六十七条 別段ノ契約ナキトキ総テノ関係者ハ共同起業ノ為メ平等ニ出金スルノ義務アルモノトス 第二百六十八条 関係者ノ利益及損失ノ配当ニ付キ別段ノ契約ナキトキ其差入資本ニ利子ヲ付スルモ利益又ハ損失ハ平等ニ之ヲ配当スルモノトス 第二百六十九条 関係者ノ一名他人ト取結ヒタル取引ニ依リ其関係者ハ他人ニ対シテ独リ権利及義務ヲ有スルモノトス 関係者ノ一名其余ノ関係者ノ委任ヲ受ケ及其名ヲ以テ取引ヲナシ又ハ総テノ関係者共同シテ取引ヲナシ又ハ共同ノ代人ヲ以テ取引ヲナシタルトキハ各関係者ハ他人ニ対シ各自独立シテ権利及義務ヲ有スルモノトス 第二百七十条 共同ノ取引完結ノ後其取引ヲナセシ関係者ハ其余ノ関係者ニ附属証書ヲ交付シテ計算書ヲ差出スヘキモノトス 其取引ヲナセシ関係者ハ決算ヲ担当スルモノトス 第四編 商ヒ取引 第一章 商ヒ取引ノ全体 第一節 商ヒ取引ノ意義 第二百七十一条 商ヒ取引トハ左ニ掲ル件々ナリトス 第一 商品又ハ其他ノ動物件、国債券、株券又ハ商ヒ交通ニ用ル其他ノ有価証券ヲ他人ニ売譲スル為メニ買入ルヽコト又ハ他ノ方法ヲ以テ仕入ルヽコト但商品又ハ其他ノ動物件ヲ其侭又ハ加エ又ハ変作シテ他人ニ売譲スルト否トニ依テ区別アルコトナシ 第二 第一ニ掲ケタル種類ノ物品ノ供給ヲ受負フコト但其受負人其物品ヲ供給ノ為メニ仕入ルヽトキニ限ル 第三 保険料ヲ受ケテ保険ヲ受負フコト 第四 貨物又旅客ノ海上運送ヲ受負フコト及船舶書入ニ対スル貸附 第二百七十二条 其他左ニ掲ル取引ハ之ヲ常業トシテナストキハ商ヒ取引ナリトス 第一 他人ノ為メニ動物件ノ加エ又ハ変作ヲ受負フコト但受負人ノ営業手細工人ノ範囲ヲ超ヘサルトキニ限ル 第二 銀行又ハ両換店ノ取引 第三 仲買人(第三百六十条)運送受負人及運送人ノ取引並ニ人ノ運送ニ供スル設置上ノ取引 第四 他人ノ為メニ商ヒ取引ヲ媒介シ又ハ取結フコト但商業仲立人ノ官務ハ之ヲ限外トス 第五 出版取引並ニ其他書籍又ハ美術品ノ商ヒ取引其他印刷取引但其印刷営業手細工ノ業体ニ属セサルトキニ限ル 前記ノ取引ハ一時之ヲナスモ商人平常他ノ商ヒ取引ニ関シ平常ナス商ヒ営業内ニ於テナストキ亦商ヒ取引ナリトス 第二百七十三条 商人ノ商ヒ営業ニ属スル各個ノ取引ハ総テ之ヲ商ヒ取引ト看做スヘキモノトス 此規定ハ特ニ他人ニ売捌ク為メ仕入タル商品、動物件、有価証券ノ営業上売捌並ニ営業ノ際直ニ使用シ又ハ消費スヘキ器具材料其他動物件ノ仕入ニ付キ効力ヲ有スルモノトス 手細工人ノナス売捌ハ其手細工営業ノ執行ニ於テノミナストキニ限リ之ヲ商ヒ取引ト看做スヘカラサルモノトス 第二百七十四条 商人ノ取結ヒタル契約ハ疑シキ場合ニ於テハ之ヲ商ヒ営業ニ属スルモノト看做ス 商人ノ署名シタル負債証書ハ商ヒ営業ニ於テ署名シタルモノト看做ス但証書面ニ依リ反対ノ判然スルトキハ此限ニアラス 第二百七十五条 不動物件ニ付テノ契約ハ総テ商ヒ取引ニアラサルモノトス 第二百七十六条 商ヒ取引ノ性質及効力ハ官職又ハ身分ノ為メ又ハ営業警察又ハ其他之ニ類スル理由ニ依リ商ヒヲナシ又ハ商ヒ取引ヲ取結フコトヲ禁止シタルモ之カ為メ失ハシメラルヽコトナキモノトス 第二百七十七条 契約者ノ一方ニ於テ商ヒ取引ナル各権利上取引ニアリテハ契約者双方ニ此編ノ規定ヲ均ク適用スヘキモノトス但此編ノ規定ニ依リ其別段ノ定メ契約者双方中権利上取引商ヒ取引ナル一方ニノミ関スルコトノ判然スルトキハ此限ニアラス 第二節 商ヒ取引ノ通則 第二百七十八条 商ヒ取引ノ判定及解釈ヲナスニ方リ裁判官ハ契約者双方ノ意ヲ探糾スヘキモノトス其文辞ノ意義ニ拘泥スヘカラス 第二百七十九条 行為及不為ノ功用及結果ニ付テハ商ヒ交通ニ現行スル習慣及慣例ニ注意スヘキモノトス 第二百八十条 二名又ハ数名他人ニ対シ自己ニ於テ商ヒ取引ナル取引ニ関シ共同シテ義務ヲ負担シタルトキ其者等ハ各自独立ノ負債者ト看做サルヘキモノトス但債主トノ契約ニ依リ反対ノ判然スルトキハ此限ニアラス 第二百八十一条 此法ニ於テ各自独立ノ義務ヲ負担スル商ヒ取引並ニ総テノ場合ニ於テ各自独立ノ負債者ハ分担又ハ先訴ノ弁駁ヲナスコトヲ得ス 此規定ハ其負債本負債者ニ於テ商ヒ取引ヨリ生スルトキ又ハ保証自己ノ商ヒ取引ナルトキ保証人ニ付キ効力アルモノトス 第二百八十二条 何人タリトモ自己ニ於テ商ヒ取引ナル取引ニ依リ他人ニ対シ注意ノ義務ヲ有スル者ハ通常商人ノ注意ヲナスヘキモノトス 第二百八十三条 何人タリトモ損害賠償ヲ要求スヘキ者ハ現実ノ損害及其失ヒタル利益ノ償ヒヲ求ルコトヲ得 第二百八十四条 違約罰ハ其額ニ付キ全ク制限ヲ受ケサルモノトス又其罰ハ損失ノ二倍ヲ超過スルコトヲ得 負債者ハ其疑シキ場合ニ於テハ違約罰ヲ支払ヒテ義務履行ヲ免ルヽノ権ナキモノトス 違約罰ノ契約ハ其疑シキ場合ニ於テハ其額ヲ超過スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケサルモノトス 第二百八十五条 手付金ハ契約又ハ其地ノ慣例アルトキニ限リ之ヲ退約金ト看做スモノトス 手付金ハ別段ノ契約又ハ其地ノ慣例ナキトキハ之ヲ還付シ又ハ計算ニ加フヘキモノトス 第二百八十六条 過当ノ義務背反特ニ過半ノ義務背反ノ為メニ商ヒ取引ニ付キ不服ヲ唱ルコトヲ得ス 第二百八十七条 法律上利子特ニ延滞利子ノ額ハ商ヒ取引ニアリテハ年百分六ナリトス 此法ニ於テ額ヲ定ルコトナクシテ利子支払ノ義務ヲ掲ル総テノ場合ニ於テハ其利子ハ年百分六ナリト解スヘキモノトス 第二百八十八条 何人タリトモ自己ニ於テ商ヒ取引ナル取引ニ依リ支払満期トナリタル要求ヲ有スル者ハ督促ノ日ヨリ起算シ其要求ニ付キ利子ヲ要求スルコトヲ得但民法ニ依リ之ヨリ以前ニ利子ヲ要求スルノ権アルトキハ此限ニアラス 計算書ノ送致ノミニテハ之ヲ督促ト看做サヽルモノトス 第二百八十九条 商人相互ノ間ニ於テハ双方ノ商ヒ取引ニ関シ契約又ハ督促ナキモ支払満期トナリシ日ヨリ各要求ニ付キ利子ヲ請求スルノ権アルモノトス 第二百九十条 商ヒ営業執行中商人又ハ非商人ノ為メニ取引ヲ担当シ又ハ其役務ヲナス商人ハ予メ契約ナキモ之カ為メ其地ノ習慣額ニ従ヒ報酬ヲ要求シ及貯蔵ニ関スルトキハ亦其地習慣額ニ従ヒ蔵敷料ヲ要求スルコトヲ得 其商人ハ自己ノ貸附前払立替及其他ノ費用ニ付キ其支出シ又用達テタル日ヨリ起算シ利子ヲ計算スルコトヲ得 此規定ハ特ニ仲買人及運送受負人ニモ亦効力ヲ有スルモノトス 第二百九十一条 商人他ノ商人ト継続計算ヲナストキ其決算ノ際剰余ヲ受クヘキ者ハ之ニ利子ヲ包含スルト否トヲ問ハス決算ノ日ヨリ剰余ノ全額ニ付キ利子ヲ要求スルノ権アルモノトス 其決算ハ毎年一度之ヲナスモノトス但双方ニ於テ別段ノ契約アルトキハ此限ニアラス 第二百九十二条 商ヒ取引ニアリテ利子ハ年百分六ヲ契約スルコトヲ得ルモノトス但各邦法律ニ於テ許ストキニ限リ之ヨリ高キ利子ヲ契約スルコトヲ得 商人ノ借入ルヽ貸附及商人ノ商ヒ取引ヨリ生スル負債ニアリテハ亦年百分六以上ヲ契約スルコトヲ得 第二百九十三条 利子ハ商ヒ取引ニアリテハ其全額元金ヲ超過スルコトヲ得 第二百九十四条 計算ノ承認ハ計算ニ於テ誤謬又ハ詐偽ヲ証明スルコトノ妨ケトナラサルモノトス 第二百九十五条 負債証書又ハ受取証書ノ証拠力ハ期限ノ経過ニ関係ナキモノトス 第二百九十六条 受取証書ヲ持参スル者ハ其支払ヲ受取ノ権アルモノト看做ス但支払人ニ於テ此権ヲ承諾スヘカラサル状況ヲ知了スルトキハ此限ニアラス 第二百九十七条 商人商ヒ営業ニ於テ発シタル申込、依託又ハ委任ハ其死去ニ依テ消滅セサルモノトス但其陳述又ハ状況ニ依リ反対ノ旨意判然スルトキハ此限ニアラス 第二百九十八条 商ヒ取引ノ為メニスル委任ニアリテハ授任者ト受任者受任者授任者ノ名ヲ以テ取引スル他人トノ間ノ関係ニ付テ第五十二条ニ於テ番頭及手代ニ付キ設ケタルト同一ノ規定ヲ適用スルモノトス 又第五十五条ノ規定ハ委任ヲ受ルコトナク受任者トシテ商ヒ取引ヲナス者又ハ商ヒ取引結約ノ際委任ヲ超ル者ニ付キ効力アルモノトス 第二百九十九条 商ヒ取引ヨリ生シタル要求ヲ譲渡ス場合ニ於テ其全額ノ支払ハ其額、譲渡ニ付キ契約シタル代価額ヲ超過スルトキニモ亦之ヲ求ルコトヲ得 第三百条 振込マレタル差図切手ヲ其振込マレタル人ノ為メ承諾シタル商人ハ其人ニ対シ支払ヲナスノ義務アルモノトス其差図切手ニ記載シ及署名シタル承諾ハ之ヲ振込マレ人ニ対シテナシタル支払ノ契約ト看做ス 第三百一条 商人金銭又ハ換用物ノ数量又ハ有価証券ノ弁済ニ付キ発行シタル差図切手及義務証券ニシテ報償ノ有無ニ拘ラス其弁済ノ義務ヲ尽スヘキモノハ指名ノモノナルトキ裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得 其証書及裏書ノ効力ヲ有スルニハ義務ノ理由又ハ引当ノ受取証ヲ記載スルコトヲ要セサルモノトス 何人タリトモ此差図切手ヲ承諾シタル者ハ其振込マレ人又ハ裏書譲受人ニ対シ支払ヲナスノ義務アルモノトス 第三百二条 船長ノ運送状、運送人ノ積荷証書、商品又ハ其他動物件貯蔵ノ為メ官許ヲ得タル設置上ニ於テ発行シタル商人又ハ其他動物件ニ付テノ引渡証書(蔵敷証書其他船舶書入証書及海上保険証書ハ指名ノモノナルトキ裏書ヲ以テ之ヲ譲渡スコトヲ得 第三百三条 前二条ニ掲ケタル証書ノ裏書ニ依リ其裏書セラレタル証書ヨリ生スル総テノ権利ハ裏書譲受人ニ移転スルモノトス 其義務者ハ其証書自己ニ依リ又ハ直接ニ当時ノ原告人ニ対シナスコトヲ得ル弁駁ニ限リ之ヲ用ルコトヲ得 負債者ハ受取証ヲ記入シタル証書ト引換ルニアラサレハ支払ヲナスノ義務ナキモノトス 第三百四条 此法ニ記載シタルモノヲ除クノ外尚他ノ指名アル差図切手義務証書又ハ其他ノ証書ヲ第三百三条ニ掲ケタル効力ヲ以テ裏書譲渡ヲナスコトヲ得ルト否トハ各邦法律ニ従ヒ之ヲ判定スヘキモノトス 第三百五条 指名アリテ裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得ル証書(第三百一条ヨリ第三百四条マテ)ニ付テハ裏書ノ法式所持人ノ正否及其正否ノ審査並ニ所持人ノ呈出義務ニ付テハ為替ニ関スル独逸為替条例第十一条ヨリ第十三条マテ第三十六条及第七十四条ニ掲ルト同一ノ規定ヲ適用スルモノトス 第三百一条ニ記載シタル証券紛失シタルトキ無効公告ニ付テハ独逸為替条例第七十三条ニ掲ケタル規定ヲ適用スルモノトス第三百二条ニ記載シタル証券ノ無効公告ハ各邦法律ニ従フモノトス 第三百六条 商品又ハ其他ノ動物件ヲ商人其商ヒ営業ニ於テ売却シテ交付シタルトキ其誠実ナル所得者ハ其売却者所有者ニアラサリシトキト雖所有権ヲ得ルモノトス其以前生シタル所有権ハ消滅シ其以前生シタル質主権又ハ其他物権ハ売却ノ際所得者ニ於テ之ヲ知了セサリシトキ総テ消滅ス 商品又ハ其他ノ動物件ヲ商人商ヒ営業ニ於テ質入シテ交付シタルトキ其物権ニ付キ以前生シタル所有権質主権又ハ其他ノ物権ハ誠実ナル質取主又ハ其権利相続人ヲ不利スル為メ之ヲ申立ルコトヲ得ス 仲買人運送受負人及運送人ノ法律上質主権ハ契約ニ依テ得タル質主権ト同シキモノトス 本条ハ物品ヲ盗取セラレ又ハ紛失シタルトキニハ之ヲ適用セサルモノトス 第三百七条 前条ノ規定ハ無記名証券ニアリテハ其売却又ハ質入ヲ商人其商ヒ営業外ニ於テナシタルトキ及其証券ヲ盗取セラレ又ハ紛失シタルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第三百八条 所持人ノ為メ尚ホ一層利トナル規定ヲ掲ル各邦法律ハ前二条ノ為メニ変更ヲ受ルコトナシ 第三百九条 現物質ヲ置ク為メ民法ニ規定シタル法式ハ商人間ニ於テ双方ノ商ヒ取引ヨリ生スル要求ニ付キ動物件、無記名証券又ハ裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得ル証券ヲ現物質ニ置クトキ之ヲ要セサルモノトス 此場合ニ於テハ質入ニ付キ単一ナル契約ノ外左ノ手続ヲナスヲ以テ足レリトス 第一 動物件及無記名証券ニアリテハ債主ニ其現有ヲ移転スルコト其移転ハ民法ノ規定ニ従ヒ現物質ニ付キ要スルモノト同一ナリトス 第二 裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得ル証券ニアリテハ裏書シタル証券ヲ債主ニ交付スルコト 第三百十条 商人間ニ於テ双方ノ商ヒ取引ヨリ生スル要求ニ付キ書面ヲ以テ現物質ヲ置キタル場合ニ於テ債主ハ負債者延滞スルトキ之ニ対シ訴訟ヲナスコトヲ要セス直ニ其質物ヲ以テ弁償ヲ受ルコトヲ得 債主ハ其管轄商事裁判所ニ必要ナル証書類ヲ呈示シテ其許可ヲ請フヘキモノトス商事裁判所ハ負債主ヲ尋問スルコトナク及債主ノ危険ヲ以テ質入物件ノ全部又ハ一部ノ売却ヲ命スルモノトス 債主ハ其許可並ニ売却執行ヲ成ルヘク速ニ負債主ニ通知スヘキモノトス債主其通知ヲナサヽルトキハ損害賠償ノ義務アルモノトス売却ヲナス為メニハ通知ノ証明ヲ要セス 第三百十一条 商人間ニ於テ双方ノ商ヒ取引ヨリ生スル要求ニ付キ現物質ヲ置キ書面ヲ以テ債主裁判手続ヲ用井スシテ質物ヨリ弁償ヲ受ルヲ得ルコトヲ契約シタル場合ニ於テ負債者延滞スルトキ債主ハ其質物ヲ公売ニ付セシムルコトヲ許スモノトス此場合ニ於テ其質入物件、相場会所又ハ市場ノ時価ヲ有スルトキハ商業仲立人、仲立人ナキトキハ公売ニ付スルノ権アル官吏ニ依頼シ公売ニ付セス其時価ヲ以テ亦売却スルコトヲ許スモノトス債主ハ売却執行ヲ成ルヘク速ニ負債者ニ通知スヘキモノトス債主此通知ヲナサヽルトキハ損害賠償ノ義務アルモノトス 第三百十二条 質物ヲ置カシメ又ハ売譲スルコトニ付キ法律、規則及申合規則ヲ以テ公然ノ質取所貸附所及銀行ニ与ヘタル特別ノ権利ハ前条ノ規定ニ依テ変更セラルヽコトナキモノトス 商人間ニ於テ商ヒ取引ヨリ生スル要求ニ付キ現物質ヲ置キ又ハ売譲スルコトニ付テハ之カ為メ各邦ニ現行スル規定ヲ遵守スルトキハ前条ノ規定アルモ法律上有効ニ之ヲナスコトヲ得ルノ妨ケトナラサルモノトス 第三百十三条 商人他ノ商人ニ対シ其間ニ於テ取結ヒタル双方ノ商ヒ取引ニ依リ有スル支払満期ノ要求ニ付テハ負債者ノ承諾ヲ得テ商ヒ取引ニ依リ現有セル負債者ノ総テノ動物件及有価証券ヲ留置スルノ権ヲ有スルモノトス但商人其動物件及有価証券ヲ手中ニ存セス又ハ其他特ニ運送状、積荷証書又ハ蔵敷証書ヲ以テ之ヲ処分スルコト能ハサルトキハ此限ニアラス但物件ノ留置一定ノ方法ヲ以テ物件ヲ処分スル為メ負債者ヨリ其交付前又ハ其際与ヘタル差図又ハ債主ノ負担シタル義務ニ抵触スヘキトキハ前項ノ留置権ハ生セサルモノトス 第三百十四条 前条ニ掲ケタル留置権ハ左ノ場合ニアリテハ支払満期ニ至ラサル要求ニ付テモ亦前条ノ要件ヲ以テ存立スルモノトス 第一 負債者ノ財産ニ付キ倒産ヲ開始シタルトキ又ハ負債者単ニ支払ヲ停止シタルトキ 第二 負債者ノ財産ニ付キ権制執行ヲナシタルモ其効ナキトキ又ハ負債者ニ対シ支払義務ヲ履行セサルカ為メニ身体押置ヲ執行シタルトキ 此場合ニ於テハ一定ノ方法ヲ以テ物件ヲ処分スル為メニスル負債者ノ差図又ハ義務ノ負担モ亦留置権ノ妨ケトナラサルモノトス但第一及第二ニ掲ケタル状況物件ノ交付後又ハ義務ノ負担後始メテ生シ又ハ債主ノ知了シタルトキニ限ル 第三百十五条 第三百十三条又ハ第三百十四条ノ規定ニ従ヒ留置権ノ属スル債主ハ其権ノ執行ヲ遅延ナク負債者ニ通知スルノ義務アルモノトス負債者遅延ナク他ノ方法ヲ以テ保証セサルトキ債主ハ其負債者ニ対シ自己ノ管轄裁判所ニ訴訟ヲ提起シ物件ノ売却ヲ求ルノ申立ヲナスノ権アルモノトス又其債主ハ売得金ヲ以テ負債者ノ他ノ債主ニ先キ立チ弁償ヲ受ルコトヲ得又倒産額ニ対シテモ亦此権利ヲ有ス 第三百十六条 第三百十三条ヨリ第三百十五条マテニ於テ債主ニ与ヘタル権利ハ双方ニ於テ特ニ契約シタルトキハ生セサルモノトス 第三節 商ヒ取引ノ取結 第三百十七条 商ヒ取引ニアリテハ契約ノ効力ハ書面又ハ其他ノ法式ニ依テ定マルモノニアラス 此規定ノ例外ハ此法ニ之ヲ掲ケタル場合ニ限リ効力アルモノトス 第三百十八条 現在ノ双方間ニ於テ商ヒ取引ヲ取結フ為メニナス申込ニ付テハ直ニ陳述ヲナスヘキモノトス之ニ違フトキハ申込人ハ其申込ヲ長ク守ルノ義務ナキモノトス 第三百十九条 不在ノ双方間ニ於テナシタル申込ニアリテハ申込人ハ遅延ナク正当ニ返答ヲ発送シタル場合ニ於テ其到着ヲ期スルコトヲ得ル時限マテ其申込ヲ守ルノ義務アルモノトス其時限ヲ計算スルニ方リ申込人ハ其申込ノ遅延ナク到達シタルヘシトノ予定ヲ以テスルコトヲ得 遅延ナク発送シタル承諾前項ノ時限後始テ到着シタル場合ニ於テ契約ハ申込人其到着前又ハ其到着後遅延ナク退約ノ通知ヲナシタルトキハ存立セサルモノトス 第三百二十条 申込ノ取消其申込前又ハ申込ト同時ニ他ノ一方ニ到着スルトキハ其申込ハ之ヲナサヽルモノト看做スヘキモノトス 又承諾ノ取消其承諾ノ陳述前又ハ其陳述ト同時ニ申込人ニ到着シタルトキ其承諾ハ之ヲナサヽルモノト看做スヘキモノトス 第三百二十一条 不在ノ双方間ニ於テ協議シタル契約成就シタルトキハ承諾ノ陳述ヲ発送シタル時限ヲ契約取結ヒノ時限ト看做スモノトス 第三百二十二条 設若又ハ制限ヲ以テスル承諾ハ申込ヲ拒絶シテ更ニ申込ヲナシタルモノト看做ス 第三百二十三条 委任ヲ受ル商人ト授任者トノ間ニ取引ノ関係アルトキ又ハ其受任者授任者ニ対シ其委任ヲ執行センコトヲ自ラ申込ミタルトキ其受任者ハ遅延ナク返答ヲナスノ義務アルモノトス之ニ違フトキハ其黙過ヲ委任ノ承諾ト看做ス 受任者ノ其委任ヲ拒絶スルトキト雖委任ト共ニ商品又ハ其他ノ物件ヲ送達シタルトキハ授任者ノ費用ヲ以テ一時其損害ヲ予防スルノ義務アルモノトス但受任者其費用ノ引当ヲ有シ及自己ノ損害ナクシテナスコトヲ得ルトキニ限ル 商事裁判所ハ受任者ノ申立ニ依リ所有者他ノ方法ヲ以テ処分ヲナスマテ其貨物ヲ公然ノ倉庫又ハ他人ニ蔵寄スルコトヲ命スルヲ得 第四節 商ヒ取引ノ履行 第三百二十四条 商ヒ取引ノ履行ハ契約ニ定メタル地所又ハ取引ノ性質又ハ契約者双方ノ意ニ従ヒ履行地ト看做スヘキ地ニ於テ之ヲナスヘキモノトス 此要件ナキトキハ義務者ハ契約取結ヒノ際商店ヲ有セシ地其商店ナキトキハ住所ヲ有セシ地ニテ履行スヘキモノトス但契約取結ヒノ際他ノ地ニ存在セシコトヲ契約者双方知了シタル一定ノ物件ヲ交付スヘキトキ其交付ハ其地ニテ之ヲナスモノトス 第三百二十五条 裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得ル証券又ハ無記名証券ノ支払ヲ除クノ外金銭支払ヒニアリテハ負債者ハ其危険及費用ヲ以テ要求ノ生シタルトキ債主商店ヲ有セシ地其商店ナキトキハ其住所ヲ有セシ地ニテ之ニ支払ヒヲ渡スヘキモノトス但契約ニ依リ又ハ取引ノ性質又ハ契約者双方ノ意ニ従ヒ之ニ異ナルコトノ判然スルトキハ此限ニアラス 但裁判管轄又ハ其他ノ事項ニ関スル負債者ノ法律上履行地(第三百二十四条)ハ本条ノ規定ニ依テ変更セラルヽコトナキモノトス 第三百二十六条 契約ニ義務履行ノ時限ヲ定メサルトキ其履行ハ何時タリトモ之ヲ要求シ及ナスコトヲ得ルモノトス但状況又ハ商ヒ習慣ニ依リ之ニ異ナルコトヲ認ムヘキトキハ此限ニアラス 第三百二十七条 義務履行ノ時限春季又ハ秋季又ハ之ニ類スル季節ナルトキハ履行地ノ商ヒ習慣ニ依テ定マルモノトス 義務履行ヲ月ノ央ト定メタルトキハ其月ノ十五日ヲ以テ履行ノ日ト看做スモノトス 第三百二十八条 義務ノ履行ヲ契約取結ヒノ後一定期限ノ経過ヲ以テナスヘキトキハ其履行ノ時限ハ左ノ時ナリトス 第一 日ヲ以テ期限ヲ定メタルトキハ其期限ノ最終日ナリトス其期限ヲ計算スルニ方リテハ契約ヲ取結ヒタル日ハ之ヲ算入セス期限ヲ八日又ハ十四日ト定メタルトキハ満八日又ハ満十四日ヲ謂フ 第二 週、月又ハ数月ヲ包含スル時間(年、半年又ハ一季)ヲ以テ期限ヲ定メタルトキハ名称又ハ数ニ於テ契約取結ノ日ニ応スル末週又ハ末月ノ日ナリトス此日末月中ニ存セサルトキ其履行ハ此月ノ最終日ニ之ヲナス 半月ナル語ハ十五日ノ時間ト同視スルモノトス履行ノ期限ヲ満一月又ハ満数月及半月ト定メタルトキハ十五日ヲ最後ニ加フヘシ 期限ノ始リヲ契約取結ヒノ日ニ依ラスシテ他ノ時限又ハ事故ニ依テ定メタルトキト雖亦其期限ハ前項ノ原則ニ従ヒ之ヲ計算スヘキモノトス 第三百二十九条 履行ノ時限日曜日又ハ一般ノ祭日ニ当ルトキハ其次ノ常日ヲ以テ履行ノ日ト看做スモノトス 第三百三十条 一定ノ時間内ニ履行ヲナスヘキトキ其履行ハ其時間ノ経過前ニ之ヲナスヘキモノトス 其時間ノ最終日、日曜日又ハ一般ノ祭日ニ当ルトキハ遅クトモ其前ノ常日ニ履行スヘキモノトス 第三百三十一条 此期限計算(第三百二十八条ヨリ第三百三十条マテ)ノ変更ハ相場会所取引ノ決算期日ニ関スル場合ニ限リ相場会所ノ規則ニ任カスモノトス 第三百三十二条 義務履行ハ其履行期日ニ於テ通常ノ取引時間ニ之ヲナシ及受クヘキモノトス 第三百三十三条 義務履行ノ契約上期限ヲ延長シタルトキハ其期限ハ疑シキ場合ニ於テハ旧期限ノ経過後初日ニ始マルモノトス 第三百三十四条 支払日ヲ定メタル総テノ場合ニ於テハ其支払日ヲ単ニ契約者双方ノ一方ヲ利スル為メ加ヘタルヤ否ヤハ取引ノ性質及契約者双方ノ意ニ従ヒ之ヲ判定スヘキモノトス 前項ノ場合ニ於テ負債者支払日前ニ支払ヲナスノ権アルモ債主ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ割引ヲナスノ権ナキモノトス但契約又ハ商ヒ習慣ニ依リ債主ニ其権アルトキハ此限ニアラス 第三百三十五条 契約ニ於テ商品ノ性質及品位ニ付キ詳細ノ定メナキトキハ義務者ハ商品ヲ中等ノ種類及品位ニテ引渡スヘキモノトス 第三百三十六条 契約ヲ履行スヘキ地ニ行ハルヽ度、量、衡、貨幣本位及ヒ貨幣種類、期限計算及距離ハ其疑シキ場合ニ於テハ之ヲ契約ニ定メタルモノト看做スヘキモノトス 契約ニ定メタル貨幣種類支払地ニ於テ通用セス又単ニ計算上本位ナルトキハ其額ハ支払日ノ価額ニ従ヒ其邦ノ通用貨幣ヲ以テ支払フコトヲ得ルモノトス但「其物」ト謂ヘル語又ハ類似ノ附記ヲ用テ契約ニ定メタル貨幣種類ヲ以テ支払フコトヲ明約シタルトキハ此限ニアラス 第二章 売買 第三百三十七条 衆人ニ知レ易キ方法特ニ代価表、倉庫品目録、見本又ハ雛形ヲ交付シテナス売却ノ申込又ハ商品、代価又ハ数量ヲ確定セサル売却ノ申込ハ買受ノ義務ヲ生セシムルノ申込ニアラサルモノトス 第三百三十八条 一定ノ代価ヲ受ケテ換用物ノ数量ヲ供給スル商ヒ取引モ亦売買ニ付テノ規定ニ従テ判定スヘキモノトス 第三百三十九条 検視売買又ハ試験売買ハ買主商品ヲ検視シ又ハ試験シテ承諾スルコトヲ其意ニ任カスル設若ヲ以テ取結ヒタルモノトス此設若ハ疑シキ場合ニ於テ之ヲ延期設若ナリトス 買主ハ其承諾前ニハ買受ルノ義務ナキモノトス売主ハ買主ニ於テ契約又ハ其地慣例ノ期限ヲ経過スルマテ承諾ヲナサヽルトキハ其義務ヲ免カルヽモノトス契約又ハ其地慣例ノ期限ナキトキ売主ハ其状況ニ相当シタル期限ノ経過シタル後買主ニ陳述ヲナスヘキコトヲ督促スルヲ得買主ニ於テ督促ヲ受ケタル後直ニ陳述セサルトキハ其義務ヲ免カルヽモノトス 検視売買又ハ試験売買ヲ以テ売却シタル商品ヲ検視又ハ試験ノ為メ既ニ交付シタル場合ニ於テ買主期限ノ経過後マテ又ハ督促ヲ受ケテ黙過スルトキハ之ヲ承諾シタルモノト看做ス 第三百四十条 見本売買又ハ雛形売買ハ設若ノモノニアラサルモ商品見本又ハ雛形ニ適当スヘキ義務ヲ売主ニ負ハシメテ取結ヒタルモノトス 第三百四十一条 試用売買ハ旨趣アル無設若売買ナリトス 第三百四十二条 売主及買主ノ義務履行ノ地ニ付テハ第三百二十四条第一項ノ規定ヲ適用スルモノトス 商品ノ交付ハ第三百二十四条第一項ノ規定ニ依リ別段ノ定メ判然セサルトキハ売主契約取結ヒノ際商店ヲ有セシ地其商店ナキトキハ住所ヲ有セシ地ニテ之ヲナスモノトス但契約取結ヒノ際、他ノ地ニ存セシコトヲ契約者双方知了シタル一定ノ物件ヲ売却シタルトキハ其交付ハ其地ニ於テ之ヲナスモノトス 代価ハ取引ノ性質又ハ契約又ハ商ヒ習慣ニ於テ別段ノ定メナキトキニ限リ商品交付ノ際之ヲ支払フヘキモノトス其他ハ此支払ニ付テモ亦第三百二十五条ノ規定ヲ適用ス 第三百四十三条 売主ハ買主ニ於テ商品ノ受取ヲ淹滞セサル間ハ通常商人ノ注意ヲ以テ之ヲ保存スルノ義務アルモノトス 買主商品ノ受取ヲ淹滞スルトキ売主ハ買主ノ危険及費用ヲ以テ之ヲ公然ノ倉庫又ハ他人ニ蔵寄スルコトヲ得ルモノトス又売主ハ予メ厳告ヲナシタル後商品ヲ公売ニ付セシムルノ権ヲ有シ又其商品相場会所又ハ市場ノ時価ヲ有スルトキハ予メ厳告ヲナシタル後公売ニ付セスシテ商業仲立人其仲立人ナキトキハ公売ニ付スルノ権アル官吏ニ依頼シ時価ヲ以テモ亦売却セシムルコトヲ得商品損敗シ易クシテ淹滞ノ危険アルトキハ予メ厳告ヲナスコトヲ要セス 売主ハ売却ノ執行ヲ成ルヘク速ニ買主ニ通知スヘキモノトス其通知ヲナサヽルトキ売主ハ損害賠償ノ義務ヲ有ス 第三百四十四条 商品ヲ他ノ地ヨリ買主ニ送致スヘキ場合ニ於テ買主其送致ノ方法ニ付キ別ニ定メサルトキ売主ハ通常商人ノ注意ヲ以テ買主ニ代リ其定メヲナシ特ニ商品ノ運送ヲ担当シ又ハ執行スヘキ人ヲ定ルコトヲ委任セラレタルモノト看做ス 第三百四十五条 商品ヲ運送受負人又ハ運送人又ハ其他商品ノ運送ニ従事スル人ニ交付シタル後買主ハ商品ノ被ル危険ヲ担当スルモノトス但買主送致ノ方法ニ付キ別段ノ差図ヲ与ヘタル場合ニ於テ売主已ムヲ得サル事由ナクシテ其差図ニ違フタルトキ売主ハ之ニ依テ生シタル損害ニ付キ責任ヲ有ス 売主ハ契約ニ従ヒ運送ノ終ル地ヲ自己ニ対シ義務履行ノ地ト看做シ此地ニテ商品ヲ引渡スヘキ場合ニ於テハ運送中商品ノ被ル危険ヲ担当スヘキモノトス売主運送ノ費用又ハ立替ノ支払ヲ担当シタルモ未タ之レノミヲ以テハ運送ノ終ル地ヲ以テ売主ニ対シ履行地ト看做スコトヲ得ス 是ヨリ以前既ニ買主危険ヲ担当スルコトヲ民法ニ定メタルトキニ限リ本条ノ規定ニ依テ妨ケラルヽコトナキモノトス 第三百四十六条 買主ハ商品契約上ノ性質ヲ有スルトキ又ハ別段ノ契約ナキ場合ニ於テハ法律上ノ要件ニ適フ(第三百三十五条)トキニ限リ之ヲ受取ルノ義務アルモノトス 其受取ハ契約又ハ其地ノ習慣又ハ状況ニ依リ別段ノ定マリナキトキハ直ニ之ヲナスヘキモノトス 第三百四十七条 商品ヲ他ノ地ヨリ送致シタル場合ニ於テ通常ノ取引手続ヲ以テナスコトヲ得ルトキニ限リ買主ハ引渡ヲ受ケタル後遅延ナク其商品ヲ検査シ商品契約又ハ法律(第三百三十五条)ニ適セサルコトノ判然スルトキハ直ニ之ヲ売主ニ通知スヘキモノトス 買主通知ヲ怠ルトキハ商品ヲ承諾シタルモノト看做ス但通常ノ引取手続ヲ以テ直ニ検査ヲナスノ際知了スルコト能ハサリシ瑕缺ニ付テハ此限ニアラス 其検査後ニ瑕缺アルコトノ判然スルトキハ其発見後遅延ナク通知ヲナスヘキモノトス之ニ違フトキ商品ハ瑕缺ニ付テモ亦承諾セラレタルモノト看做ス 前項ノ規定ハ検視売買又ハ試験売買又ハ見本売買ニモ亦適用スルモノトス但送致セラレタル商品ノ瑕缺通常ノ検視又ハ検査ヲナスノ際知了スルコト能ハサリシモノナルトキニ限ル 第三百四十八条 買主ハ他ノ地ヨリ送致セラレタル商品ニ付キ異議スルトキハ一時其保存ヲ担当スルノ義務アルモノトス 買主ハ引渡ヲ受ルノ際又ハ其後瑕缺アルコトノ判然スルトキハ鑑定人ニ商品ノ現状ヲ確定セシムルコトヲ得売主ハ買主ニ於テ瑕缺アルカ為メ商品ニ付キ異議スルコトノ通知ヲナシタルトキ同一ノ方法ヲ以テ其確定ヲ求ルノ権アルモノトス 鑑定人ハ関係者ノ申立ニ依リ商事裁判所之ヲ任スルモノトス其裁判所ナキトキハ其地ノ裁判官之ヲ任ス 鑑定人ハ書面ヲ以テ又ハ筆記セシメテ其鑑定ヲナスヘキモノトス 商品損敗シ易クシテ淹滞ノ危険アルトキ買主ハ第三百四十三条ノ規定ヲ遵守シテ商品ヲ売却セシムルコトヲ得 第三百四十九条 商品ノ契約上又ハ法律上性質ノ瑕缺ハ買主引渡ヲ受ケタルヨリ六月ヲ経過シタル後始メテ発見シタルトキハ之ヲ申立ルコトヲ得ス 瑕缺ノ為メ売主ニ対スル訴訟ハ買主ニ引渡シタル後六月ヲ経テ期満得免トナルモノトス 弁駁ハ買主ニ引渡シタル後六月内ニ第三百四十七条ニ規定シタル瑕缺ノ通知ヲ直ニナサヽリシトキハ消滅スルモノトス其通知ヲナシタルトキハ弁駁ハ存スルモノトス 物件ノ各種類ニ付キ之ヨリ短キ期限ヲ定メタル特別法又ハ商ヒ習慣ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 売主ノ責任ヲ契約ヲ以テ之ヨリ短期限又ハ長期限ニ確定シタルトキハ之ニ従フモノトス 第三百五十条 第三百四十七条及第三百四十九条ノ規定ハ詐偽ノ場合ニ於テ売主ニ対シ其効ナキモノトス 第三百五十一条 其地ノ習慣又ハ特別ノ契約ニ依リ別段ノ定メナキトキニ限リ売主ハ交付特ニ秤量ノ費用ヲ担当シ買主ハ受取ノ費用ヲ担当スルモノトス 第三百五十二条 商品ノ目方ニ従テ代価ヲ計算スヘキ場合ニ於テ特別ノ契約又ハ交付ノ地ノ商ヒ習慣ニ依リ別段ノ定マリナキトキハ外包ノ目方(風袋)ヲ引去ルモノトス精密ナル秤定ヲナサスシテ一定ノ目方又ハ割合ニ従ヒ風袋ヲ引去ルヘキヤ及其額並ニ買主ヲ利スル為メ増目方トシテ計算スヘキヤ及其額又ハ損傷ノ部分又ハ使用ニ堪ヘサル部分(不足部分)ノ補償トシテ要求スルコトヲ得ルヤ及其額ハ契約又ハ交付ノ地ノ商ヒ習慣ニ従テ之ヲ判定スヘキモノトス 第三百五十三条 契約ニ於テ市場又ハ相場会所ノ時価ヲ以テ代価ト定メタルトキ疑シキ場合ニ於テハ其代価ハ履行ノ時及地又ハ履行地ノ標準トナル商ヒ地ニ於テ之カ為メ存スル其地ノ制規ニ従ヒ確定シタル代価ナリトシ其確定ナキトキ又ハ其不当ヲ証明シタルトキハ履行ノ時及地ニ於テ取結ヒタル売買契約ヲ比較シテ得ル平均価ナリトス 第三百五十四条 買主代価ノ支払ヲ淹滞シタル場合ニ於テ未タ商品ヲ交付セサリシトキハ売主ハ契約ノ履行及履行ノ遅延シタルニ付テノ損害賠償ヲ求ルヤ又ハ履行ニ代ヘ第三百四十三条ノ規定ヲ遵守シ買主ノ計算ヲ以テ其商品ヲ売却シ及其損害賠償ヲ要求スルヤ又ハ契約ヲ取結ハサリシトキト均シク解約セント欲スルヤヲ撰定スルコトヲ得 第三百五十五条 売主商品ノ交付ヲ淹滞スルトキ買主ハ履行及履行ヲ遅廷シタルニ付テノ損害賠償ヲ求ルヤ又ハ履行ニ代ヘ履行セサルニ付テノ損害賠償ヲ要求スルヤ又ハ契約ヲ取結ハサリシトキト均シク解約セント欲スルヤヲ撰定スルコトヲ得 第三百五十六条 契約者ノ一方前条ノ規定ニ依リ履行ニ代ヘ履行セサルニ付テノ損害賠償ヲ要求シ又ハ解約セント欲スルトキハ之ヲ他ノ一方ニ通知シ及取引ノ性質ニ於テナスコトヲ得ルトキ尚ホ懈怠ヲ補フ為メニ状況ニ適当スル期限ヲ与フヘキモノトス 第三百五十七条 確定ノ時又ハ確定ノ期限内ニ商品ヲ確カニ渡スヘキコトヲ約束シタルトキハ第三百五十六条ハ之ヲ適用セサルモノトス買主並ニ売主ハ第三百五十四条又ハ第三百五十五条ニ従ヒ之ニ属スル権利ヲ自己ノ撰定ヲ以テ執行スルコトヲ得但履行ヲ求メント欲スル者ハ其時又ハ期限ノ経過シタル後遅延ナク之ヲ他ノ一方ニ通知スヘキモノトス之ヲ怠ルトキハ其後ニ至リ履行ヲ求ルコトヲ得ス 売主履行ニ代ヘ懈怠シタル買主ノ計算ヲ以テ売却セント欲スルトキハ商品市場又ハ相場会所ノ時価ヲ有スル場合ニ於テハ其時又ハ期限ノ経過シタル後遅延ナク売却ヲナスヘキモノトス之ヨリ以後ニナス売却ハ買主ノ計算ヲ以テナシタルモノト看做サス予メナス厳告ハ之ヲ要セス之ニ反シテ売主ハ此場合ニ於テモ亦其ナシタル売却ヲ買主ニ遅延ナク通知スヘキモノトス 買主履行ニ代ヘ履行セサルニ付テノ損害賠償ヲ要求スルトキ商品市場又ハ相場会所ノ時価ヲ有スル場合ニ於テ売主ノナスヘキ損害賠償ノ額ハ代価ト引渡ヲナスヘキ時及地ノ市場及相場会所ノ時価トノ差額ナリトス但之ヨリ高額ノ損害ヲ証明スルコトヲ得ルトキ之ヲ申立ル買主ノ権利ハ格別ナリトス 第三百五十八条 第三百五十七条ノ場合ニ於テ契約者ノ各方ハ他ノ一方ノ淹滞ヲ其費用ヲ以テ公製証書ニ依リ確定セシムルノ権アルモノトス 第三百五十九条 第三百五十四条第三百五十五条及第三百五十七条ノ場合ニ於テ状況特ニ契約ノ性質、契約者双方ノ意又ハ弁済スヘキ物件ノ性質ニ依リ契約ノ履行ヲ双方ニ於テ分割スルヲ得ルコトノ判然スルトキ契約者一方ノ解約ハ他ノ一方ノ履行セサル契約ノ部分ニ限リ之ヲナスコトヲ得ルモノトス 第三章 仲買取引 第三百六十条 仲買人ハ常業トシテ依託人ノ計算ヲ以テ自己ノ名ニテ商ヒ取引ヲ取結フ者ナリトス 仲買人ハ他人ト取結フ取引ニ依リ独リ権利及義務ヲ有スルモノトス依託人ト他人トノ間ニハ之ニ依テ一モ権利及義務ヲ生セサルモノトス 依託人自己ノ名ヲ以テ取結フヘキコトヲ明定シタルトキハ商人ノ仲買ニアラス商ヒ取引ノ為メニスル通常ノ依託ナリトス 第三百六十一条 仲買人ハ通常商人ノ注意ヲ以テ依託人ノ為メ依託ニ従ヒ取引ヲナスヘキモノトス仲買人ハ依託人ニ必要ナル通知ヲナシ特ニ依託ヲ執行シタル後直ニ之ヲ通知スヘシ又取引ニ付キ計算書ヲ依託人ニ差出シ及仲買人取引ニ依リ要求スヘキモノヲ依託人ニ弁済スヘキモノトス 第三百六十二条 仲買人担当シタル依託ニ背キ処置スルトキハ依託人ニ損害賠償ヲナスノ義務アルモノトス依託人ハ自己ノ計算ヲ以テ取引ヲナシタルモノト看做サヽルモ妨ケナシ 第三百六十三条 仲買人差図ヲ受ケタルヨリ以下ノ代価ヲ以テ売却シタルトキハ依託人ニ其代価ノ差額ヲ償フヘキモノトス但仲買人差図ヲ受ケタル価ニテ売却ヲナスコト能ハサリシコト及売却ヲナシタルニ依リ依託人ノ損害ヲ防キタルコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 第三百六十四条 仲買人買入ノ為メ差図ヲ受ケタル代価ヲ超ヘタルトキ依託人ハ其買入ヲ自己ノ計算ヲ以テナシタルモノニアラストシテ退ルコトヲ得但仲買人買入ノ通知ト共ニ差額償フコトヲ申入ルヽトキハ此限ニアラス 其買入ヲ自己ノ計算ヲ以テシタルモノニアラストシテ退ケント欲スル依託人ハ買入通知ノ後遅延ナク之ヲ陳述スヘキモノトス之ニ違フトキハ依託ノ超過ヲ承諾シタルモノト看做ス 第三百六十五条 仲買人ニ送致スル貨物其引渡ノ際外面ニ於テ知了スルコトヲ得ヘキ損傷又ハ瑕缺ノ状況アルトキ仲買人ハ運送人又ハ船長ニ対スル権利ヲ維持シ其状況ノ証明ヲナシ及依託人ニ遅廷ナク通知スヘキモノトス 之ヲ怠ル場合ニ於テ仲買人ハ之ニ依テ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 仲買人ハ其状況ヲ鑑定人ニ確定セシメ及其貨物損敗シ易クシテ淹滞ノ危険アルトキハ第三百四十三条ノ規定ヲ遵守シテ貨物ノ売却ヲナスコトヲ得 第三百六十六条 貨物ニ価ヲ失フノ恐レアル変更ヲ生シ依託人ノ差図ヲ得ヘキ時日ナキトキ又ハ依託人差図ヲナスコトヲ怠リタルトキハ仲買人ハ第三百四十三条ノ規定ヲ遵守シテ其貨物ノ売却ヲナスコトヲ得 依託人事情ニ依リ貨物ニ付キ差図ヲナスノ義務アルモ之ヲ怠ル総テノ場合ニアリテハ仲買人ハ前項同一ノ権ヲ有スルモノトス 第三百六十七条 仲買人ハ貨物ノ保管人タル間ハ其喪失又ハ損傷ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス但仲買人通常商人ノ注意ヲ以テ防クコトヲ得サリシ状況ニ依リ其喪失又ハ損傷ノ生シタルコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 仲買人ハ依託人ヨリ保険ノ依託ヲ受ケタルトキニアラサレハ貨物ノ保険ヲ怠リタルニ付キ責任ヲ負担スルコトナキモノトス 第三百六十八条 依託人ハ仲買人ノ取結ヒタル取引ヨリ生スル要求ヲ譲受ケタル後負債者ニ対シ始メテ執行スルコトヲ得 但其要求ハ之ヲ譲受ケサルトキト雖依託人ト仲買人又ハ其債主トノ間ノ関係ニ於テハ依託人ノ要求ト看做ス 第三百六十九条 依託人ノ承諾ナクシテ他人ニ前払又ハ掛売ヲナス仲買人ハ自己ノ危険ヲ以テ之ヲナスモノトス 但取引ヲナス地ニ於テ代価ノ貸付ヲナスノ商ヒ習慣アル場合ニ限リ依託人ヨリ別段ノ差図ナキトキハ仲買人モ亦其掛売ヲナスノ権アルモノトス 仲買人権利ナクシテ掛売ヲナシタルトキハ之ヲ承諾セサル依託人ニ対シ代価ノ負債者トナリテ直ニ支払ヲナスヘキモノトス仲買人売却ノ際現金ニテハ代価一層低価ナリシコトヲ証明スルトキハ其低価ノミヲ依託人ニ償ヒ其低価依託セラレタル代価ヨリモ低価ナルトキハ第三百六十三条ノ規定ニ従ヒ其差額ヲモ亦償フヘキモノトス 第三百七十条 仲買人ハ契約者ノ支払又ハ其他ノ方法ヲ以テスル義務履行ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス但其責任ノ負担ハ仲買人之ヲ引受ケタルトキ又ハ其肆店ノ地ノ商ヒ習慣ナルトキニ限ル 契約者ニ代ハリ責任ヲ負担スル仲買人ハ支払満期トナリタルトキ相当ノ履行ヲナスコトニ付キ依託人ニ対シ直接及無限ノ義務ヲ負担スルモノトス但其履行契約ノ関係ニ依リ一般ニ法律上要求スルコトヲ得ルトキニ限ル 契約者ニ代ハリ責任ヲ負担スル仲買人ハ之カ為メ報酬ヲ請求スルノ権アルモノトス 第三百七十一条 依託人ハ仲買人ノ立替又ハ一般ニ取引ヲ完結スル為メ必要又ハ有益ナル支出ヲ之ニ償フノ義務アルモノトス仲買人ノ倉庫及運送具ノ使用並ニ其使用人ノ労力ノ使用ニ付テノ償モ亦其費用ニ属ス 仲買人ハ取引ヲ執行シタルトキハ其手数料ヲ要求スヘキモノトス執行セサル取引ニ付テハ手数料ヲ要求スルコトヲ得ス但其地ノ習慣アルトキニ限リ返品手数料ヲ要求スルノ権ヲ有ス 第三百七十二条 仲買人依託人ノ指定シタルヨリ余分ノ利益アル契約ヲ取結ヒタルトキハ其利益ハ依託人ノミニ帰スルモノトス 此規定ハ特ニ仲買人売却シタル代価依託人ノ指定シタル最低代価ヲ超ルトキ又ハ仲買人ノ買入レタル代価依託人ノ指定シタル最高代価ニ達セサルトキ之ヲ適用スルモノトス 第三百七十三条 為替ノ買入ヲ引受ケタル仲買人ハ其為替ヲ裏書ヲ以テ譲渡ストキハ正当ニ制限ヲ加ルコトナクシテ裏書譲渡ヲナスヘキモノトス 第三百七十四条 仲買人ハ仲買貨物ヲ尚ホ其手中ニ存シ又ハ其他特ニ運送状、積荷証書又ハ蔵敷証書ヲ以テ其貨物ヲ処分スルコトヲ得ルトキニ限リ其貨物ニ付キ支払ヒタル費用、手数料其貨物ニ付キナシタル前払及貸附其貨物ニ付キ署名シタル為替又ハ其他ノ方法ニ於テ負担シタル義務並ニ仲買取引ニ関スル継続計算ニ依リ生スル総テノ要求ニ付キ貨物ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス 仲買人ハ前項ニ掲ケタル請求ニ付テハ仲買取引ニ依テ生シ未タ取立テサル要求ヨリ依託人及其債主ニ先立チ弁償ヲ受ルコトヲ得 第三百七十五条 依託人仲買人ニ対シ前条ニ掲ケタル義務ノ履行ヲ淹滞スルトキ仲買人ハ第三百十条ノ規定ヲ遵守シ仲買貨物ヨリ弁償ヲ受ルノ権アルモノトス又仲買人ハ依託人ノ其他ノ債主及倒産額ニ対シテモ亦其権ヲ有ス 第三百七十六条 相場会所又ハ市場ノ時価ヲ有スル商品、為替及有価証券ノ買入又ハ売却ノ為メニスル仲買ニアリテハ仲買人ハ依託人別段ノ差図ヲナサヽリシトキ其買入ルヘキ貨物ヲ自ラ売主トナリテ引渡シ又ハ売却ノ依託ヲ受ケタル貨物ヲ買主トナリテ自己ニ取置クノ権アルモノトス 此場合ニ於テ買入又ハ売却ニ付テノ計算書ヲ差出スヘキ仲買人ノ義務ハ其計算シタル代価ニ於テ依託執行ノ時ノ相場会所又ハ市場ノ時価ヲ守リタルコトヲ証明スルニ止マルモノトス又仲買人ハ通常ノ手数料ヲ請求スルノ権ヲ有シ及仲買取引ニアリテ其他通例生スル費用ヲ計算スルコトヲ得 仲買人依託ヲ執行シタルコトニ付テノ通知ト同時ニ他人ヲ其買主又ハ売主トシテ指名セサルトキ依託人ハ仲買人ヲ買主又ハ売主トシテ之ニ請求スルノ権アルモノトス 第三百七十七条 依託人其依託ヲ取戻ス場合ニ於テ其依託ヲ執行シタルコトニ付テノ通知ヲ発送スル為メニ差出ス前其取戻ノ仲買人ニ達スルトキハ仲買人自ラ買主又ハ売主トナルノ権ヲ施行スルコトヲ得ス 第三百七十八条 此章ノ規定ハ仲買取引ヲ通常ノ商ヒ営業トナサヽル商人各個ノ商ヒ取引ヲ他人ノ計算ヲ以テ自己ノ名ニテ取結フトキニモ亦之ヲ適用スヘキモノトス 第四章 運送受負取引 第三百七十九条 運送受負人ハ他人ノ計算ヲ以テ自己ノ名ニテ運送人又ハ船長ニ荷物運送ヲナサシムルコトヲ常業トシテ受負フ者ナリトス 第三百八十条 運送受負人荷物ヲ受取リ又ハ保管スルノ際又ハ運送人船長又ハ間接運送受負人ヲ撰定スルノ際及一般ニ其受負ヒタル荷物運送ヲ執行スルノ際通常商人ノ注意ヲ怠リタルニ依リ生スル損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 運送受負人ハ此注意ヲナシタルコトヲ証明スヘキモノトス 第三百八十一条 運送受負人ハ手数料及立替及費用又ハ一般ニ運送ノ為メ必要又ハ有益ナル支出(第三百七十一条)ノ弁償ヲ要求スヘキモノトス 運送受負人ハ運送人又ハ船長ト契約シタルヨリ高額ノ運賃ヲ計算スルノ権ナキモノトス 第三百八十二条 運送受負人ハ尚ホ其手中ニ存シ又ハ処分スルコトヲ得ルトキニ限リ運賃、手数料、立替、費用及支出及荷物並ニ荷物依頼人ノ為メニナシタル前払ニ付キ荷物ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス 運送受負人ハ所有者ノ其他ノ債主及倒産額ニ対シテモ亦其権ヲ執行スルコトヲ得 運送受負人間接運送受負人ヲ使用スルトキ間接運送受負人ハ同時ニ其前運送受負人ニ属スル権利特ニ其質主権ヲ執行スヘキモノトス 前運送受負人自己ノ要求ニ付キ後運送受負人ヨリ弁償ヲ受ケタルトキニ限リ前運送受負人ノ要求及質主権ハ法律上後運送受負人ニ移転スルモノトス又運送人間接運送受負人ヨリ弁償ヲ受ケタルトキ及其額ニ限リ運送人ノ要求及質主権ニ付テモ亦同一ナリトス 第三百八十三条 運送人又ハ船長ニ運送ヲナサシムルモ自己ノ計算ニテ借入レタル運送器ヲ以テスル運送受負人ハ通常ノ運賃及手数料及其他ノ費用ヲ計算スルコトヲ得 第三百八十四条 運送受負人荷物差立人又ハ荷物受取人ト運送費ノ一定額ニ付キ契約シタルトキ運送受負人ハ反対ノ契約ナキトキ自己ノ依託シタル間接受負人及運送人ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス運送受負人ハ此場合ニ於テ運送費ノ一定額ノ外手数料ヲ要求スルコトヲ得ルノ契約ヲナシタルトキニ限リ之ヲ要求スルノ権ヲ有ス 第三百八十五条 運送受負人ハ別段ノ定メナキトキハ自ラ荷物ノ運送ヲ執行スルノ権アルモノトス 運送受負人ハ此権ヲ施行スルトキ同時ニ運送人ノ権利及義務ヲ有ス及通常ノ運賃、手数料及運送受負取引ニ於テ其他通常生スル費用ヲ計算スルコトヲ得 第三百八十六条 荷物ノ全喪失、減少又ハ損傷又ハ引渡淹滞ニ付キ運送受負人ニ対スル訴訟ハ一年ノ後期満得免トナルモノトス 其期限ハ全喪失ニ付テノ訴訟ニ関シテハ引渡ヲナサヽルヘカリシ日ノ経過ヲ以テ始マリ減少又ハ損傷又ハ引渡淹滞ニ付テノ訴訟ニ関シテハ引渡ヲナシタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 荷物ノ喪失又ハ減少又ハ損傷又ハ引渡淹滞ニ付テノ弁駁ハ其事実ノ通知ヲ一年ノ期限内ニ運送受負人ニ発送セサルトキハ前項同一ノ方法ニ依リ消滅スルモノトス 本条ノ規定ハ運送受負人ノ詐偽又ハ破信ノ場合ニハ之ヲ適用セサルモノトス 第三百八十七条 運送受負人ノ権利及義務ハ本章ニ於テ之ニ付キ規定ヲ掲ケサル場合ニ限リ前章ノ原則ニ従ヒ判定スヘキモノトス特ニ第三百六十五条ヨリ第三百六十七条マテニ於テ仲買人ノ為メニ設ケタル規定ハ運送受負人ニ付テモ亦之ヲ適用ス 第三百八十八条 運送受負ヲ通常ノ商ヒ営業トナサヽル商人他人ノ計算ヲ以テ自己ノ名ニテ運送人又ハ船長ニ荷物運送ヲナサシムルコトヲ受負フトキハ其取引ニ付キ本章ノ規定ヲ適用スルモノトス 第三百八十九条 本章ノ規定ハ荷物差立人ト運送人又ハ船長トノ間ニ於ケル運送契約ノ媒介ノミヲナス者(運送仲立人荷物鑑別人船舶周旋人)ニハ之ヲ適用セサモルノトス 第五章 運送取引 第一節 一般ノ運送取引 第三百九十条 運送人ハ陸地又ハ河川内海ニ於テ荷物ノ運送ヲ常業トシテナス者ナリトス 第三百九十一条 運送状ハ運送人ト荷物差立人トノ間ニ於ケル契約ニ付テノ証拠トナルモノトス 運送人ハ運送状ノ交付ヲ求ルコトヲ得 第三百九十二条 運送状ニハ左ノ件々ヲ記載スルモノトス 第一 荷物ノ性質数量及記号 第二 運送人ノ氏名及住地 第三 荷物差立人ノ氏名 第四 荷物ヲ受取ルヘキ者ノ氏名 第五 引渡ノ地 第六 運賃ニ付テノ定メ 第七 運送状交付ノ地及日 第八 双方ニ於テ他ノ点即チ運送ヲナスヘキ期限及引渡淹滞ニ付テノ損害賠償ニ関シ特別ノ契約ヲナシタルトキハ其契約 第三百九十三条 荷物差立人ハ荷物受取人ニ引渡ス前関税又ハ租税官ノ処置ヲ受ル荷物ニアリテハ之カ為メニ必要ナル添状ヲ運送人ニ渡スノ義務アルモノトス又荷物差立人ハ運送人ニ対シ添状ノ不正又ハ不完全ナルカ為メ被ル総テノ罰及損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス但運送人ノ過失ニ出ルトキハ此限ニアラス 第三百九十四条 運送人運送ヲナスヘキ期限ニ付キ運送契約ニ全ク定メナキトキ旅行ヲ始ムヘキ期限ハ其地ノ習慣ニ依テ定マルモノトス其習慣ナキトキ其旅行ハ場合ノ状況ニ適当スル期限内ニ始ムヘキモノトス 旅行ノ初発又ハ継続、天災又ハ其他ノ時変ニ依リ一時障碍セラルヽトキ荷物差立人ハ其障碍ノ消滅ヲ俟ツコトヲ要セスシテ契約ヲ解クコトヲ得ルモ其障碍運送人ノ過失ニ出テサルトキニ限リ旅行ノ準備費、荷卸ノ費用及既ニ経過シタル旅行ニ関スル請求ニ付キ運送人ニ賠償スヘキモノトス賠償額ニ付テハ其地ノ習慣ニ依テ之ヲ定メ其習慣ナキトキハ裁判官ノ見込ヲ以テ之ヲ定ム 第三百九十五条 運送人ハ荷物ヲ受取リタルヨリ引渡スマテニ於テ運送荷物ノ喪失又ハ損傷ニ依リ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス但運送人天災又ハ物品ノ本質即チ内部ノ損敗、消散又ハ通常ノ漏失等ニ依リ又ハ外面ヨリ知了スルコト能ハサル外包ノ瑕缺ニ依リ喪失又ハ損傷ヲ生シタルコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 高価物、金銭及有価証券ニ付キ運送人ハ荷物ノ其性質又ハ価額ヲ示サレタルトキニ限リ其責任ヲ負担スルモノトス 第三百九十六条 前条ニ依リ運送人ニ於テ荷物ノ喪失又ハ損傷ニ付キ賠償ヲナスヘキトキ損害ノ計算ハ荷物普通ノ売買価ノミヲ標準トシテ之ヲナスヘキモノトス 喪失ノ場合ニアリテハ同一ノ種類及性質ノ荷物引渡ノ地ニ於テ引渡スヘキ時ニ有セシ普通ノ売買価ヲ以テ償フヘキモノトス但喪失ノ為メニ関税及費用ヲ免レタルモノハ其売買価ヨリ扣除ス 損傷ノ場合ニアリテハ毀損ノ状況ニ於ケル荷物ノ売却価ト引渡ノ地及時ニ於テ其損傷ナクシテ荷物ノ有シタルヘキ普通ノ売買価トノ差額ヲ償フヘキモノトス但関税及費用ヲ損傷ノ為メ免レタルトキニ限リ関税及費用ハ之ヲ扣除ス 荷物全ク売買価ヲ有セサルトキ損害ノ計算ハ其荷物ノ普通原価ヲ標準トシテ之ヲナスヘキモノトス 運送人ハ悪意ノ措置ヲ証明セラルヽトキハ損害ノ全額テ償フヘキモノトス 第三百九十七条 運送人ハ契約又ハ習慣上ノ引渡期限ヲ懈怠シタルニ依リ生シタル損害ニ付テハ通常運送人ノ注意ヲ以テ其淹滞ヲ防クコト能ハサルコトヲ証明セサルトキニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第三百九十八条 引渡ヲ淹滞シタル場合ノ為メ運賃ノ扣除又ハ運賃ノ喪失又ハ其他違約罰ヲ契約シタルトキ其疑シキ場合ニ於テハ其他此額ヲ超過スル損害ニシテ引渡ヲ淹滞ニ依リ生シタルモノヽ償ヲモ亦要求スルコトヲ得 第三百九十九条 運送人通常運送人ノ注意ヲ以テ淹滞ヲ防クコト能ハサルコトヲ証明スルトキハ引渡ヲ淹滞シタルカ為メニ運賃ノ全部又ハ一部ノ契約上収置又ハ違約罰ヲ請求セラルヽコトナキモノトス但契約ニ依リ反対ノ意判然スルトキハ此限ニアラス 第四百条 運送人ハ其受負ヒタル運送ヲ執行スルノ際使役スル使用人及其他ノ人ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第四百一条 運送人其受負ヒタル運送ノ全部又ハ一部ヲ執行スル為メ荷物ヲ他ノ運送人ニ交付スルトキハ此運送人及其後ノ運送人ニ付キ引渡ニ至ルマテ責任ヲ負担スルモノトス 他ノ運送人ニ継ク各運送人ハ荷物ト最初ノ運送状トヲ受取リ其運送状ニ基キ運送契約ニ加リ運送状ノ旨趣ニ従ヒ運送ヲ執行スヘキ独立ノ義務ヲ負担シ及前運送人ノ既ニナシタル運送ニ関シテモ亦其義務ニ付キ責任ヲ負担スヘキモノトス 第四百二条 運送人ハ引渡ノ地ニ荷物ノ到着シタル後荷物受取人ニ運送状ヲ交付セサル間ハ荷物ヲ返付シ又ハ運送状ニ記載シタルヨリ他ノ受取人ニ荷物ヲ引渡ス為メ後ニ至リ荷物差立人ノナス差図ヲ遵守スヘキモノトス 既ニ運送状ヲ受取人ニ交付シタルトキ運送人ハ運送状ニ記載シタル荷物受取人ノ差図ニ限リ遵守スヘキモノトス之ニ違フトキハ其受取人ニ対シ荷物ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第四百三条 運送人ハ引渡地ニ於テ運送状ニ記載シタル荷物受取人ニ運送荷物ヲ交付スルノ義務アルモノトス 第四百四条 運送状ニ記載シタル荷物受取人ハ引渡地ニ荷物ノ到着スル前運送人ニ対シ荷物ヲ保全スル為メニ必要ナル総テノ処分ヲナシ之カ為メ必要ナル差図ヲナスノ権アルモノトス荷物受取人ハ引渡地ニ荷物ノ到着スル前ニアリテハ荷物差立人運送人ニ引渡ノ委任ヲナシタルトキニ限リ其引渡ヲ要求スルコトヲ得 第四百五条 引渡地ニ運送人ノ到着シタル後運送状ニ記載シタル荷物受取人ハ運送契約ニ依テ生シタル権利ヲ運送状ニ依テ生スル義務履行ニ代ヘ自己又ハ他人ノ為メニスルト否トニ拘ハラス運送人ニ対シ自己ノ名ヲ以テ執行スルノ権アルモノトス特ニ運送人ニ対シ運送状ノ交付及荷物ノ引渡ヲ求ルノ権ヲ有ス但荷物差立人訴訟ヲナス前第四百二条ニ従ヒ尚ホ許サレタル反対ノ差図ヲ運送人ニ対シナシタルトキハ此限ニアラス 第四百六条 荷物及運送状ヲ受取ルニ依リ荷物受取人ハ運送状ニ従ヒ運送人ニ支払ヲナスノ義務ヲ負担スルモノトス 第四百七条 運送状ニ記載シタル荷物受取人ヲ索知スルコトヲ得ス又ハ其受取人荷物ノ受取ヲ拒ムトキ又ハ荷物ノ受取又ハ現状ニ付キ争ヒノ生スルトキ関係者ハ鑑定人ヲシテ其現状ヲ確定セシムルコトヲ得ルモノトス 鑑定人ハ関係者ノ申立ニ依リ商事裁判所之ヲ任スルモノトス商事裁判所ナキトキハ其地ノ裁判官之ヲ任ス 鑑定人ハ其鑑定ヲ書面ヲ以テ又ハ筆記セシメテナスヘキモノトス 裁判所ハ関係者ノ申立ニ依リ荷物ヲ公然ノ倉庫又ハ他人ニ蔵寄スルコト及運送人ノ運賃及其他ノ要求ヲ支払フ為メ荷物ノ全部又ハ相当ノ部分ヲ公売スルコトヲ命スルヲ得 鑑定人ノ任命ヲ求ル申立及荷物ヲ蔵寄スルコト及売却スルコトニ付テノ裁判所ノ命令ヲ求ル申立ニ関シテハ対手其地ニ現在スルトキハ之ヲ尋問スルモノトス 第四百八条 荷物ヲ受取リ及運賃ヲ支払フニ依リ運送人ニ対スル各請求ハ消滅スルモノトス 引渡ノ際外面ヨリ知了スルコト能ハサリシ喪失又ハ損傷ニ限リ運送人ニ対シ荷物ヲ受取リ及運賃ヲ支払フタル後ト雖之ヲ請求スルコトヲ得ルモノトス但其喪失又ハ損傷ノ確定ヲ其発見後遅延ナク申立テ及其喪失損傷ノ荷物ヲ受取リタルヨリ引渡スマテノ間ニ生シタルコトヲ証明スルトキニ限ル 荷物ノ喪失又ハ損傷又ハ引渡淹滞ノ為メ運送受負人ニ対スル訴訟及弁駁ノ期満得免ニ付テノ規定(第三百八十六条)ハ運送人ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第四百九条 運送人ハ運送契約ニ依テ生シタル総テノ要求特ニ運賃及猶予金ニ付キ並ニ関税及其他ノ立替ニ付キ運送荷物ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス此質主権ハ荷物ヲ留置シ又ハ蔵寄シタル間存シ引渡後ト雖尚ホ継続ス但運送人引渡後三日内ニ質主権ヲ裁判所ニ申立テ及荷物尚ホ荷物受取人又ハ其受取人ニ代リ現有スル他人ノ手ニ存スルトキニ限ル 運送人ハ自己ニ弁償ヲ受ル為メ荷物ノ全部又ハ一部ヲ売却セシムルコトヲ得(第四百七条) 運送人ハ所有者ノ其他ノ債主及倒産額ニ対シテモ亦此権ヲ有スルモノトス 第四百十条 荷物数名ノ運送人ノ手ヲ経ルトキ最終ノ運送人ハ運送状ニ反対ノ定メナキトキニ限リ引渡ノ際運送状ニ依リ生スル前運送人ノ要求ヲモ亦取立テ及其運送人ノ権利特ニ質主権ヲモ亦執行スヘキモノトス 後運送人ヨリ弁償ヲ受ケタル前運送人ハ其要求及質主権ヲ法律上後運送人ニ譲渡スモノトス 運送受負人ノ要求及質主権ハ前項同一ノ方法ニ於テ後運送受負人及運送人ニ移転スルモノトス 前権利者ノ質主権ハ最終ノ運送人ノ質主権ノ存スル間ハ存スルモノトス 第四百十一条 同一ノ荷物ニ付キ第三百七十四条第三百八十二条及第四百九条ニ従ヒ生シタル二個又ハ数個ノ質主権ノ存スル場合ニ於テ荷物ノ依頼又ハ運送ニ依リ生シタル質主権ニアリテハ後ニ生シタル質主権ハ前ニ生シタル質主権ニ先行スルモノトス此質主権ハ総テ前払ニ付テノ仲買人ノ質主権及運送受負人ノ質主権ニ先立チ運送受負人ノ質主権ニアリテハ前ニ生シタル質主権後ニ生シタル質主権ニ先行スルモノトス 第四百十二条 運送人支払ヲ受取ラスシテ荷物ヲ引渡シ及其引渡後三日内ニ質主権ヲ裁判所ニ申立テサルトキハ其運送人並ニ前運送人及運送受負人ハ先人ニ対シ償還要求ヲナスノ権ヲ失ヒ荷物受取人ニ対スル請求権ハ其効力ヲ失フコトナキモノトス 第四百十三条 荷物差立人及運送人ハ運送人ニ於テ荷物差立人ニ積荷証書ヲ交付スルコトヲ契約スルヲ得積荷証書ハ運送人之ニ依テ荷物ヲ交付スルノ義務ヲ負担スル証書ナリトス 第四百十四条 積荷証書ニハ左ノ件々ヲ記載スルモノトス 第一 積荷ノ性質数量及記号 第二 運送人ノ氏名及住地 第三 荷物差立人ノ氏名 第四 荷物ヲ受取ルヘキ人又ハ其指名ニテ荷物ヲ受取ルヘキ人ノ氏名其積荷証書単ニ指名ニテ作リタルトキハ荷物差立人ヲ指名人ナリトス 第五 引渡ノ地 第六 運賃ニ付テノ定メ 第七 積荷証書交付ノ地及日 積荷証書ニハ運送人署名スヘキモノトス 荷物差立人ハ運送人ノ求メニ依リ自己ノ署名シタル同文ノ積荷証書ノ謄本ヲ之ニ交付スヘキモノトス 第四百十五条 積荷証書ハ運送人及荷物受取人ノ間ニ於ケル権利上関係ニ付テノ標準トナルモノトス積荷証書ニ記載セサル運送契約ノ定メハ荷物受取人ニ対シ法律上効力ナキモノトス但其定メヲ明ニ引用シタルトキハ此限ニアラス 運送人及荷物差立人ノ間ニ於ケル権利上関係ニ付テハ運送契約ノ規定ヲ標準トナスモノトス 第四百十六条 運送人積荷証書ヲ交付シタルトキ運送人ハ積荷証書ノ返付ヲ受ルトキニアラサレハ荷物ヲ返付シ又ハ積荷証書ニ依リ正当ナル受取人ヨリ他ノ者ニ荷物ヲ引渡ス為メ後ニ至リ荷物差立人ノナス差図ヲ遵守スルヲ要セス運送人此規定ニ違ヒ処置スルトキハ積荷証書ノ正当ナル持主ニ対シ荷物ニ付キ義務ヲ負担スルモノトス 第四百十七条 積荷証書ニ依リ荷物ヲ引渡サルヘキ者又ハ積荷証書指名ノモノナルトキハ裏書ヲ以テ其証書ヲ譲渡サレタルモノヲ正当ナル荷物受取人ナリトス 第四百十八条 運送人ハ荷物ヲ引渡シタルコトヲ証記スヘキ積荷証書ノ返付ヲ受ルニアラサレハ荷物ノ引渡ヲナスノ義務ナキモノトス 第四百十九条 其他運送人ノ権利及義務ニ付テノ規定ハ積荷証書ヲ交付シタル場合ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第四百二十条 運送取引ノ執行ヲ通常ノ商ヒ営業トナサヽル商人各個ノ場合ニ於テ陸地又ハ河川及内海ニテ荷物ノ運送ヲナスコトヲ受負フトキ本章ノ規定ハ此取引ニ付テモ亦之ヲ適用スルモノトス 第四百二十一条 此節ノ規定ハ鉄道及其他公然ノ運送上ノ運送取引ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 但此節ノ規定ハ郵便所ニ付テハ特別ノ法律又ハ規則ニ依リ之カ為メ別段ノ定メナキトキニ限リ之ヲ適用スルモノトス 鉄道ニ付テハ其他後節ノ規定ヲ適用スルモノトス 第二節 特ニ鉄道ノ運送取引 第四百二十二条 公衆ニ対シ荷物ノ運送ニ付キ使用セシムル為メ設ケタル鉄道ハ其線路ニ於テ運送取引ヲナスコトヲ求メラレタルトキ左ノ場合ニ於テ之ヲ拒ムコトヲ得サルモノトス 第一 荷物其性質又ハ其外包ニ依リ鉄道規則ニ従ヒ運送ニ適当スルトキ及其規則又ハ全ク標準ナキ場合ニ於テ鉄道ノ設置及使用方ニ従ヒ運送ニ適スルトキ 第二 荷物差立人運賃荷物ノ引渡及其他鉄道ニ任カセタル運送規約ニ関シ一般ニ現行スル鉄道管理ノ命令ニ従フトキ 第三 鉄道ノ通常運送具運送執行ノ為メ充分ナルトキ 鉄道ハ荷物ノ運送ヲナスコトヲ得ル時ヨリ以前ニ運送ノ為メ荷物ヲ受取ルノ義務ナキモノトス 運送ノ時ニ付テハ荷物差立人ハ鉄道ノ設置又ハ運送上ノ関係又ハ公供ノ利害ニ関スル理由ナクシテ他人ニ先立チ特遇ヲ受ルコトヲ許サヽルモノトス 本条ノ規定ノ背反ハ之ニ依テ生シタル損害賠償ノ請求ヲ生スルモノトス 第四百二十三条 第四百二十二条ニ記載シタル鉄道ハ義務ノ起生範囲又ハ時間又ハ証拠義務ニ関スルト否トヲ問ハス自己ノ利益ノ為メニ鉄道規則又ハ特別ノ契約ヲ以テ第三百九十五条第三百九十六条第三百九十七条第四百条第四百一条及第四百八条ニ掲ケタル運送人ノ損害賠償ノ義務ニ付テノ規定ノ適用ヲ予メ排除シ又ハ制限スルノ権ナキモノトス但以下数条ニ於テ之ヲ許シタルトキハ此限ニアラス 此規定ニ違フ契約ノ定メハ法律上効力ヲ有セサルモノトス 第四百二十四条 左ノ契約ハ之ヲ取結フコトヲ得 第一 荷物差立人トノ契約ニ従ヒ上覆ヒナキ車ヲ以テ運送スル荷物ニ付テハ 此運送ト離レサル危険ヨリ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担セサルコトノ契約 第二 性質ニ依リ運送中ノ喪失又ハ損傷ヲ防カン為メニ外包ヲ要スルモ運送状ニ於ケル荷物差立人ノ陳述ニ従ヒ外包ナク又ハ不完全ナル外包ヲ以テ引渡サレタル荷物ニ付テハ 外包ノ不完全又ハ不完全ナル性質ト離レサル危険ヨリ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担セサルコトノ契約 第三 荷物差立人トノ契約ニ従ヒ荷積及荷卸ヲ差立人ノ担当スル荷物ニ付テハ 荷積荷卸又ハ不完全ナル積方ト離レサル危険ヨリ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担セサルコトノ契約 第四 一種特別ノ性質ニ依リ全部又ハ一部ノ喪失又ハ損傷即チ破砕、錆腐、内部ノ損敗非常ノ漏失等ヲ受クヘキ特別ノ危険ヲ被リ易キ荷物ニ付テハ此危険ヨリ生シタル損害ニ付キ責任ヲ負担セサルコトノ契約 第五 活動スル動物ニ付テハ 其動物ノ運送ト離レサル危険ヨリ生シタル損害ニ付テハ責任ヲ負担セサルコトノ契約 第六 附添人アル荷物ニ付テハ 附添人ヲ以テ防止セントスル危険ヨリ生シタル損害ニ付テハ責任ヲ負担セサルコトノ契約 本条ニ於テ許サレタル規定ノ一ヲ契約シタルトキハ反対ノ証明アルマテ其生シタル損害ヲ担当セサル危険ニ依テ生スルコトアルヘキ場合ニ於テ其危険ニ依テ真ニ生シタリト推測スヘキコトヲ同時ニ契約シタルモノト看做ス 本条ニ従ヒ契約シタル責任ノ免除ハ鉄道管理又ハ其使用人ノ過失ニ依テ損害ヲ生シタルコトヲ証明スルトキハ之ヲ申立ルコトヲ得サルモノトス 第四百二十五条 旅ヒ荷物ニ付テハ左ノ契約ヲナスコトヲ得ルモノトス 第一 運送ノ為メ委託セラレサル旅ヒ荷物ノ喪失又ハ損傷ニ付テハ鉄道管理又ハ其使用人ノ過失ヲ証明セラルヽトキニアラサレハ責任ヲ負担セサルコトノ契約旅客馬車ニアル物件ニ付テモ亦同一ノ契約ヲナスコトヲ得 第二 運送ノ為メ委託セラレタル旅ヒ荷物ノ喪失ニ付テハ其引渡期日後一定ノ期限内ニ荷物ヲ受取ルトキニアラサレハ責任ヲ負担セサルコトノ契約 此期限ハ三日ヨリ短キコトヲ許サス 第四百二十六条 自然ノ性質ニ依リ運送ノ際通常重量又ハ度量ノ喪失ヲ受ル荷物ニ付テハ予メ定メタル重量又ハ度量ノ喪失額ニ至ルマテハ責任ヲ負担セサルコトヲ契約スルヲ得其定額ハ数箇ヲ合シテ運送シタル場合ニ於テ各箇ノ重量又ハ度量ヲ運送状ニ記載シ又ハ其他証明スルコトヲ得ルトキ特ニ其各個ニ付キ計算スヘキモノトス 本条ノ規定ハ場合ノ状況ニ従ヒ荷物ノ自然ノ性質ニ依リ喪失ヲ生セサリシコト又ハ此定額荷物ノ性質又ハ其他場合ノ状況ニ適セサルコトヲ証明スルトキハ之ヲ適用スルコトヲ得サルモノトス 第四百二十七条 左ノ件々ハ之ヲ契約スルコトヲ得 第一 第三百九十六条ニ従ヒ損害計算ノ標準トナルヘキ価額ハ運送状又ハ積荷証書又ハ旅ヒ荷物証書ニ荷物ノ価額トシテ記載シタル額ヲ超過スヘカラサルコト及其額ノ記載ナキ場合ニ於テ予メ定メタル額面ヲ超過スヘカラサルコトノ契約 第二 第三百九十七条ニ従ヒ引渡淹滞ノ為メナスヘキ損害賠償ノ額ハ運送状又ハ積荷証書又ハ旅荷物証書ニ定期内ノ引渡ニ付テノ利益ノ額トシテ記載シタル額ヲ超過スヘカラサルコト及其額ノ記載ナキ場合ニ於テハ運賃ノ全部又ハ一部ヲ以テモ亦成ルコトアル予定額ヲ超過スヘカラサルコトノ契約 鉄道管理又ハ其使用人ノ悪意ノ措置ニ出ル場合ニ於テハ責任ヲ荷物ノ定額又ハ記載ノ価額ニ制限スルコトヲ申立ルヲ得ス 第四百二十八条 荷物ヲ受取リ及運賃ヲ支払ヒタル後荷物ノ喪失又ハ其損傷ニ付テノ各請求ハ之ヲ引渡ノ際知了シ得ヘカラスシテ後チニ至リ始テ発見シタルトキ(第四百八条第二項)ト雖引渡後一定ノ期限内ニ鉄道管理ニ其請求ヲ届出テサリシトキ消滅スルコトヲ契約スルヲ得 此期限ハ四周ヨリ短キコトヲ許サス 第四百二十九条 鉄道連接シタル数個ノ鉄道ヲ以テ運送ヲナスヘキ運送状ヲ以テ荷物ヲ受負フトキハ其運送状ヲ以テ荷物ヲ受負ヒタル総テノ鉄道ハ第四百一条ニ従ヒ運送人トナリテ全運送ニ付キ責任ヲ負担スルコトナクシテ最初ノ鉄道及運送状ヲ以テ最終ニ受負ヒタル鉄道ニ限リ全運送ニ付キ此責任ヲ負担スルモ其他ノ中間ニアル鉄道ハ其鉄道ニ於テ損害ノ生シタルコトヲ証明セラルヽトキニアラサレハ運送人トシテ請求セラルヽコトナキコトヲ契約スルヲ得但鉄道相互間ノ償還要求ハ各別ナリトス 第四百三十条 鉄道其鉄道又ハ連接スル鉄道ヨリ離レタル地ヲ引渡ノ地トシテ記載シタル運送状ヲ以テ運送ノ為メ荷物ヲ引受ルトキ其鉄道又ハ連接シタル鉄道ハ運送人トナリテ引渡地ニ至ルマテノ全運送ニ付キ責任ヲ負担スルコトナクシテ鉄道ヲ以テ運送ヲ終ルヘキ地ニ至ルニマテノ運送ニ付テノミ責任ヲ負担スルコトヲ契約スルヲ得此契約ヲナシタルトキハ其他ノ運送ニ関シテハ単ニ運送受負人ノ義務ヲ生スルモノトス 第四百三十一条 荷物差立人荷物ヲ鉄道ニ接近シタル場所ニ於テ引渡シ又ハ其場所ニ卸置クヘキコトヲ運送状ニ定メタルトキハ運送状ニ其他ノ到達地ヲ記載シタルモ運送ハ鉄道ニ接近シタル地マテニ限リ之ヲ引受ケタルモノト看做シ及其鉄道ハ此場所ニ於テ引渡スマテニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第五編 海商 第一章 総則 第四百三十二条 航海シテ利益ヲ得ル為メニ備ヘタル船舶ニシテ国旗ヲ掲ル権利ヲ有スルモノハ船舶登記簿ニ記載スヘキモノトス 船舶登記簿ハ公衆ノ展覧ニ供スルモノトス其展覧ハ通常ノ執務時間中何人ニ対シテモ之ヲ許ス 第四百三十三条 船舶登記簿ニナス登記ハ国旗ヲ掲ルノ権利ヲ証明シタル後始メテ之ヲ許スモノトス 船舶登記簿ニ登記スル前国旗ヲ掲ルノ権利ハ之ヲ執行スルコトヲ許サヽルモノトス 第四百三十四条 各邦法律ハ船舶ノ国旗ヲ掲ル権利ノ定マル要件ヲ定ルモノトス 各邦法律ハ船舶登記簿ノ登記ヲ備ヘ置クヘキ官署ヲ定ルモノトス 各邦法律ハ外国ヨリ買入レタル船舶ニ付キ仮ニ領事庁ノ証書ヲ以テ船舶登記簿ニ代用スルコトヲ得ルヤ及其代用スルコトヲ得ルニ付テノ要件ヲ定ルモノトス 第四百三十五条 船舶登記簿ニナス登記ニハ左ノ件々ヲ記載スヘキモノトス 第一 船舶ノ国旗ヲ掲ル権利ヲ生スル事実 第二 船舶ノ性質及其所有権ノ関係ヲ確定スル為メ必要ナル事実 第三 船舶ノ航海ヲ始ムヘキ港(船籍港、登記簿港)登記ニ付テハ其旨趣ト同一ノ要件ヲ有スル証書(登記証書)ヲ公製スルモノトス 第四百三十六条 前条ニ記載シタル事実ニ登記後変更アルトキハ之ヲ船舶登記簿ニ登記シ及登記証書ニ記入スヘキモノトス 船舶沈没シ又ハ国旗ヲ掲ルノ権利ヲ失フ場合ニ於テ其船舶ハ船舶登記簿中ニ之ヲ塗抹シ交付シタル登記証書ハ之ヲ還付スヘキモノトス但還付スル能ハサルコトヲ証書ヲ以テ証明スルトキハ此限ニアラス 第四百三十七条 各邦法律ハ登記又ハ塗抹ヲ要スル事実ヲ届出及証明スヘキ期限並ニ其期限ヲ怠リ又ハ前数条ノ規定ヲ遵守セサル場合ニ科スル罰ヲ定ルモノトス 第四百三十八条 各邦法律ハ第四百三十二条ヨリ第四百三十七条マテノ規定ヲ小舟(沿岸通船)ニ適用セサルコトヲ定ルコトヲ得 第四百三十九条 船舶又ハ船舶ニ付テノ持部ヲ売譲スルニ方リ所有権ヲ得有スル為メ民法ノ原則ニ従ヒ必要ナル引渡ハ契約者双方ノ間ニ於テ其所有権ノ直ニ得有者ニ移転スヘキコトニ付キナシタル契約ヲ以テ之ヲ代用スルヲ得 第四百四十条 船舶又ハ船舶持部ヲ売譲スル総テノ場合ニ於テ契約者各方ハ自己ノ費用ヲ以テ其売譲ニ付キ公証ヲ得タル証書ヲ交付セラルヘキコトヲ求ルヲ得 第四百四十一条 船舶又ハ船舶持部ヲ其航海中ニ売譲スルトキ売譲者及得有者間ノ関係ニ於テ別段ノ契約ナキトキハ其航海ノ利益ハ得有者ニ帰シ又其損失ハ得有者ノ負担ナリト看做スヘキモノトス 第四百四十二条 船舶又ハ船舶持部ノ売譲ニ依リ売譲者ノ他人ニ対スル身上ノ義務ニハ一モ変更ヲ生セサルモノトス 第四百四十三条 船舶ノ附属品ニハ航海中船舶ノ常用ニ供シタル総テノ物件ヲ包含スルモノトス 特ニ端舟モ亦之ニ属スルモノトス 疑シキ場合ニ於テハ船舶目録ニ登記シタル物件ハ之ヲ船舶ノ附属品ト看做スモノトス 第四百四十四条 此編ニ謂ヘル航海不能トナリタル船舶ハ之ヲ左ノ如ク看做スモノトス 第一 船舶修復ヲ到底ナス能ハサルトキ又ハ船舶ノ所在スル地ニ於テ修復ヲナスヘカラスシテ修復ヲナスヘキ港ニ其船舶ヲ送ルコト能ハサルトキ修復不能ト看做ス 第二 修復ノ費用新古ノ区別ナク原価額四分ノ三ヲ超ルトキハ修復無益ト看做ス 航海中航海不能トナリタルトキ原価額ト看做スヘキハ船舶始航ノ際有シタル価額ナリトス其他ノ場合ニ於テハ航海不能トナリタル前船舶ノ有シタル価額又ハ相当ノ艤装ヲナシタル際船舶ノ有シタル価額ナリトス 第四百四十五条 乗組員ニ属スル者ハ船長船員並ニ総テ其他船舶ニ任用セラレタル人ナリトス 第四百四十六条 出発ノ準備整ヒタル(帆支度シタル船舶ハ負債ノ為メ差押ヲ受ルコトナキモノトス但此規定ハ其航海ノ為メ負債ヲナシタルトキハ之ヲ適用セサルモノトス 既ニ船中ニアル荷物ヲ負債ノ為メ差押ルモ其荷卸ハ荷物引渡人其荷卸ヲ尚ホ要求スルノ権ヲ有スル場合ニシテ其際尽スヘキノ義務ヲ尽シタルトキニ限リ之ヲナスコトヲ得 総テ乗組員ニ属スル人ハ船舶帆支度ヲナシタル時ヨリ負債ノ為メ拘留セラルヽコトナキモノトス 第四百四十七条 此編ニ於テ欧州内ノ港ヲ欧州外ノ港ニ対シテ記載スル場合ニ於テ欧州内ノ港ニハ地中海黒海及「アツオウ」海ニ接スル欧州外ノ港ヲモ共ニ包含スルモノトス 第四百四十八条 船籍港内船舶ノ碇泊ニ関スル此編ノ規定ハ各邦法律ヲ以テ其船籍港ノ管内ニ属スル総テノ港又ハ二三ノ港ニモ亦之ヲ及ホスコトヲ得 第四百四十九条 此編ノ規定ハ郵便所ニモ亦之ヲ適用スルモノトス但特別ノ法律又ハ規則ヲ以テ之カ為メ他ノ規定ヲ設ケタルトキハ此限ニアラス 第二章 船主並ニ船主組合 第四百五十条 船主ハ航海シテ利益ヲ得ル為メ自己ニ使用スル船舶ノ所有者ナリトス 第四百五十一条 船主ハ乗組員自己ノ過失ニ依リ其職務執行中他人ニ加ル損害ニ付キ其責任ヲ負担スルモノトス 第四百五十二条 船主ハ左ノ場合ニ於テ他人ノ請求権ニ付キ無限責任ヲ負担スルコトナク船舶及運賃ヲ以テノミ其責任ヲ負担スルモノトス 第一 船長其資格ヲ以テ法律上権限内ニ於テ特別ノ委任ニ関セス取結ヒタル契約ヨリ請求ノ生スルトキ 第二 船主ノ取結ヒタル契約ノ不履行又ハ其履行ノ不充分又ハ瑕缺ヨリ請求ノ生スルトキ但其不履行又ハ其履行ノ不充分又ハ瑕缺乗組員ノ過失ニ出ルト否トヲ分タス其契約ノ執行船長ノ職務上義務ニ属スルトキニ限ル 第三 乗組員ノ過失ヨリ請求ノ生スルトキ 但第一第二ニ記載シタル場合ニ於テ本条ハ船主自己ニ契約履行ニ関シ過失アルトキ又ハ船主契約履行ヲ特ニ保証シタルトキ之ヲ適用セサルモノトス 第四百五十三条 (本条ハ千八百七十二年十二月二十七日ノ船員規則第六十八条ヲ以テ之ヲ廃止シタリ) 第四百五十四条 船主無限責任ヲ負担セス船舶及運賃ヲ以テノミ責任ヲ負担スル他ノ場合ハ後章ニ於テ之ヲ定ルモノトス 第四百五十五条 船主ハ其資格ヲ以テ各個ノ請求ニ付キ無限責任ヲ負担スルト又ハ船舶及運賃ヲ以テノミ責任ヲ負担スルトヲ分タス船籍港第四百三十五条)ノ裁判所ニ出訴セラルヽコトヲ得 第四百五十六条 船主組合ハ数人ニ於テ其共有ニ属スル船舶ヲ航海シテ利益ヲ得ル為メ共同ノ計算ヲ以テ使用スルトキ成立スルモノトス 船舶商社ニ属スル場合ハ船主組合ニ付テ定メタル規定ニ依リ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第四百五十七条 共同船主相互ノ権利上関係ハ主トシテ其間ニ於テ取結ヒタル契約ニ従テ定マルモノトス其契約ナキトキニ限リ以下数条ノ規定ヲ適用ス 第四百五十八条 共同船主ノ決議ハ船主組合ノ事件ニ付テノ標準トナルモノトス其決議ハ多数ニ依テ決ス其議権ハ船舶持部ノ多寡ニ従テ算ヘ決議ニ付テノ多数ハ決議ニ付キ発言シタル一人又ハ数人ニ属スル部分合算シテ船舶全部ノ二分一以上ナルトキ存スルモノトス 船主組合契約ノ変更ヲ目的トシ又ハ船主組合契約ノ定メニ反シ又ハ船主組合ノ目的ニ異ル決議ヲナスニハ共同船主組合総員ノ一致ヲ要スルモノトス 第四百五十九条 通信船主ハ(船舶頭取、船舶、理事)船主組合行務ニ付キ多数ノ決議ヲ以テ之ヲ任スルコトヲ得共同船主ニ属セサル通信船主ヲ任スルニハ総員一致ノ決議ヲ要スルモノトス 通信船主ノ任用ハ現任ノ契約ヨリ生スル損害要償ノ権ヲ害スルコトナクシテ何時タリトモ多数決ヲ以テ之ヲ解クコトヲ得 第四百六十条 通信船主ハ他人トノ関係ニ於テ其任用ニ依リ船主組合ノ事務執行ト通常離レサル総テノ事務及権利上行為ヲナスノ権アルモノトス 此権ハ特ニ船舶ノ艤装、保存及賃貸付ニ及ヒ運賃、艤装費及海難損失金ノ保険並ニ通常行務ニ属スル金銭ノ領収ニ及フモノトス 通信船主ハ前二項ノ権限内ニ於テ裁判所ニ出テ船主組合ヲ代理スルノ権アルモノトス 通信船主ハ船長ヲ雇入レ及解雇スルノ権アルモノトス船長ハ其差図ニ限リ遵守スルノ義務ヲ有シ各個共同船主ノ差図アルモ之ニ従フノ義務ナキモノトス 通信船主ハ船主組合又ハ各個ノ共同船主ノ名義ヲ以テ為替義務ヲ負担シ又ハ借入ヲナシ又ハ船舶又ハ船舶持部ヲ売却シ又ハ質入シ又ハ之ニ付テ保険ヲナサシムルノ権ナキモノトス但之カ為メ特ニ委任ヲ与ヘタルトキハ此限ニアラス 其他通信船主ハ其任用ニ依リ執行スルノ権アル事務及権利上行為ニ付テハ各邦法律ニ特別委任ヲ要スルノ規定アルモ之ヲ要セサルモノトス 第四百六十一条 通信船主其資格ヲ以テ其権限内ニ於テ取結ヒタル契約ニ依リ船主組合ハ各個共同船主ヲ指名セスシテ其契約ヲ取結ヒタルトキト雖他人ニ対シ其権利義務ヲ有スルモノトス 船主組合通信船主ノ取結ヒタル契約ニ依リ義務ヲ負担シタルトキ共同船主ハ自己ニ其契約ヲ取結ヒタルトキニ於ルト同一ノ範囲内(第四百五十二条)ニ於テ責任ヲ負担スルモノトス 第四百六十二条 船主組合ハ第四百六十条ニ掲ケタル通信船主ノ権限ノ制限ヲ契約ヲ取結フノ際他人ニ於テ知了シタリシコトヲ証明スルトキニ限リ他人ニ対シ有効ナラシムルコトヲ得 第四百六十三条 船主組合ニ対シ通信船主ハ其権限ニ付キ組合ノ定メタル制限ヲ遵守スルノ義務アルモノトス其他其ナシタル決議ニ従ヒ及其決議ヲ執行スヘキモノトス 其他通信船主ノ権限ハ船主組合ニ対シテモ亦第四百六十条ノ規定ニ従ヒ之ヲ判定スヘキモノトス但新ナル航海及起業並ニ非常ノ修復、船長雇入又ハ解雇ニ付キ予メ船主組合ノ決議ヲ取ルヘシ 第四百六十四条 通信船主ハ船主組合ノ事件ニ関シテハ通常船主ノナス注意ヲナスノ義務アルモノトス 第四百六十五条 通信船主ハ船主組合ニ関スル自己ノ行務ニ付キ別段ニ帳簿ヲ備ヘ置キ及之ニ属スル証書ヲ保存スヘキモノトス各共同船主ニ対シテモ其求メニ依リ船主組合ニ関シ特ニ船舶航海及艤装ニ関スル総テノ関係ヲ知ラシメ何時タリトモ船主組合ニ関スル帳簿信書及書類ヲ展覧セシムヘシ 第四百六十六条 通信船主ハ何時タリトモ船主組合ノ決議ニ依リ其計算書ヲ示スノ義務アルモノトス但多数ヲ以テスル通信船主ノ計算書ノ承諾及管理ノ認可ハ少数ニ対シ其権利ヲ申立ルコトヲ妨ケサルモノトス 第四百六十七条 各共同船主ハ其船舶持部ノ割合ニ応シ船主組合ノ費用特ニ船舶ノ艤装及修復ノ費用ヲ出スヘキモノトス 共同船主自己ノ出金ヲ払入ルヽコトヲ怠リ他ノ共同船主之カ為メ其出金ヲ立替ヘタルトキハ他ノ共同船主ニ対シ法律上其立替ノ時ヨリ利子ヲ払フノ義務アルモノトス此立替ニ依リ怠納シタル共同船主ノ船舶持部ニ付キ質主権ヲ得ルヤ否ハ各邦法律ニ従テ之ヲ判定スヘシ質主権ヲ得サルトキト雖其立替ニ依リ船舶持部ニ付キ其共同船主ニ対シ保険セラルヘキ利益ヲ生スルモノトス此利益ヲ保険シタル場合ニ於テ怠納シタル共同船主ハ其費用ヲ弁償スヘシ 第四百六十八条 新ナル航海ヲ議決シ又ハ一航海ヲ終ハリタル後船舶ノ修復ヲ議決シ又ハ船主組合ニ於テ船舶及運賃ヲ以テノミ責任ヲ負担スル債主ニ弁償スルコトヲ議決シタルトキ其決議ヲ承諾セサル各共同船主ハ其船舶持部ヲ代価ヲ請求スルコトナクシテ放棄シ其決議執行ノ為メ必要ナル払入ヲナスコトヲ免カルヽヲ得 此権利ヲ使用セントスル共同船主ハ決議ノ日後三日内ニ又ハ其決議ヲナスノ際在席セス及代理セラレサリシトキハ其決議ノ通知後三日内ニ裁判所又ハ公証人ノ証書ヲ以テ他ノ共同船主又ハ通信船主ニ之ヲ通知スヘキモノトス 其放棄シタル船舶持部ハ其他ノ共同船主ニ其船舶持部ノ多寡ニ応シテ帰スルモノトス 第四百六十九条 利益及損失ノ配当ハ船舶持部ノ多寡ニ応シテ之ヲナスモノトス 利益及損失ノ計算及利益アルトキ其払出ハ船舶船籍港ニ帰着シタル後又ハ船舶他ノ港ニ於テ其航海ヲ終ハリ船員ヲ解雇シタル後其都度之ヲナスモノトス 其他前項ニ記載シタル時限前ト雖収入スル金銭ハ各共同船主ニ其船舶持部ノ多寡ニ応シテ仮リニ分配シ及払出スヘキモノトス但其金銭ハ後日ノ支出又ハ各個共同船主ノ請求ニ充ル為メ船主組合ニ要セサルモノニ限ル 第四百七十条 各共同船主ハ其船舶持部ノ全部又ハ一部ヲ何時タリトモ他ノ共同船主ノ承諾ナクシテ売譲スルコトヲ得 法律上先買権ハ共同船主ニ属セサルモノトス但船舶持部ノ売譲ニ依リ船舶国旗ヲ掲ルノ権利ヲ失フヘキトキハ船主組合総員ノ承諾ヲ以テスルニアラサレハ法律上有効ニ其売譲ヲナスコトヲ許サス此売譲ヲ一般ニ許サヽルノ明文ヲ掲ル各邦法律ハ此規定ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第四百七十一条 共同船主ニシテ其船舶持部ヲ売譲シタル者ハ其売譲ヲ自己及得有者ヨリ共同船主又ハ通信船主ニ届出テサル間ハ共同船主トノ関係ニ於テハ尚ホ之ヲ共同船主ト看做シ及此届出前ニ生シタル総テノ義務ニ付キ共同船主トナリテ他ノ共同船主ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス 但船舶持部ノ得有者ハ其他ノ共同船主トノ関係ニ於テハ已ニ其得有ノ時ヨリ共同船主トナリテ義務ヲ負担スルモノトス 得有者ハ船主組合契約ノ定メ其ナシタル決議及取結ヒタル取引ヲ売譲者ニ均ク自己ニ対シ有効ナラシムヘキモノトス其他ノ共同船主ハ其他売譲者ニ対シ共同船主トシテ其船舶持部ニ関シ生シタル総テノ義務ヲ得有者ニ対シ差引計算ヲナスコトヲ得但買受人ノ之カ為メ得有者ノ売譲者ニ対シ保証ヲナサシムルノ権利ヲ害スルコトナシ 第四百七十二条 共同船主ノ変更ハ船主組合ノ存続ニ関係ナキモノトス 共同船主死去シ又ハ倒産シ又ハ法律上財産ヲ管理スルノ能力ヲ失ヒタルモ之カ為メ船主組合ヲ解散スルノ結果ヲ生セサルモノトス 共同船主ノ退去又ハ除名ハ之ヲ許サヽルモノトス 第四百七十三条 船主組合ノ解散ハ多数ヲ以テ之ヲ決スルコトヲ得船舶ヲ売譲スルノ決議ハ解散ノ決議ト同一ナリトス 船主組合ノ解散又ハ船舶売譲ノ決議ヲナシタルトキハ其船舶ハ公売ニ付スヘキモノトス其公売ハ船舶航海ノ為メニ賃貸セラレスシテ船籍港又ハ内国港ニ碇泊スルトキニ限リ之ヲナスコトヲ得但船舶修復不能又ハ修復無益(第四百四十四条)ナリトシテ言渡サレタルトキ其公売ハ賃貸セラレタルトキト雖尚ホ外国ニ於テ之ヲナスコトヲ得此規定ニ違フヘキハ共同船主総員ノ承諾ヲ要スルモノトス 第四百七十四条 共同船主其資格ヲ以テ無限責任ヲ負担スル場合ニ於テハ其船舶持部ノ多寡ニ応シテノミ他人ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス 船舶持部ヲ売譲スル場合ニ於テ其売譲ト第四百七十一条ニ掲ケタル届出トノ間ニ於テ其船舶持部ニ付キ生シタル無限責任ニ付テハ売譲者並ニ得有者其責任ヲ負担スルモノトス 第四百七十五条 共同船主ハ其資格ヲ以テ各個ノ請求ニ付キ共同船主ヨリ申立ルト又ハ他人ヨリ申立ルトヲ分タス船籍港(第四百三十五条)ノ裁判所ニ出訴セラルヽコトヲ得此規定ハ其訴訟ヲ共同船主ノ一名又ハ数名ニ対シテナシタルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第四百七十六条 船舶ヲ共同ノ計算ヲ以テ製造シ航海ニ供スル二名又数名ノ組合ニモ亦第四百五十七条第四百五十八条及第四百六十七条第四百七十二条及第四百七十四条ヲ適用シ及船舶ノ製造竣功シ製造人ヨリ之ヲ引渡シタルトキハ直ニ其他第四百七十条第四百七十一条及第四百七十三条ヲ適用スルモノトス但第四百六十七条ハ同時ニ製造費ニ適用ス 通信船主(第四百五十九条)ハ船舶ノ製造竣功セサル前ト雖既ニ之ヲ任用スルコトヲ得此場合ニ於テハ其任用後将来ノ船主組合ノ行務ニ関シ通信船主ノ権利及義務ヲ有スルモノトス 第四百七十七条 何人タリトモ自己ニ属セサル船舶ヲ航海シテ利益ヲ得ル為メ自己ノ計算ヲ以テ使用シ及自己ニ運用シ又ハ其運用ヲ船長ニ委託スル者ハ他人トノ関係ニ於テ之ヲ船主ト看做スモノトス 船舶所有者ハ船舶ノ使用ヨリ船舶債主タルノ請求権ヲ有スル者ニ対シ其請求権ノ執行ヲ妨ルコトヲ得ス但所有者ニ於テ其使用自己ニ対シ法律ニ背キ及債主良心ニ出テサリシコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 第三章 船長 第四百七十八条 船舶ノ運用者(船将、船長)ハ総テノ職掌特ニ其執行スヘキ契約ノ履行ニ方リ通常船長ノ注意ヲナスノ義務アルモノトス運用者ハ自己ノ過失ヨリ生シタル各個ノ損害特ニ本章及後数章ニ於テ之ニ負担セシメタル義務背反ヨリ生スル損害ニ付キ其責任ヲ負担ス 第四百七十九条 船長ノ此責任ハ船主ニ対シテノミナラス尚ホ又船舶賃貸人荷物引渡人及荷物受取人、船客船舶乗組員及信用取引(第四百九十七条)ヨリ生シタル要求ヲ有スル船舶債主特ニ船舶書入債主ニ対シ生スルモノトス 船長ハ船主ノ差図ニ従テ処置シタルニ依リ船主其他前項ニ記載シタル人ニ対シ責任ヲ免ルヽコトナキモノトス 船主モ亦其差図ヲナスノ際事情ヲ知了シタリシトキハ其差図ニ依リ無限責任ヲ負担スルモノトス 第四百八十条 船長ハ始航前其船舶航海ニ堪ルヤ相当ニ整頓シ及艤装シタルヤ相当ニ乗組員ヲ備ヘ及食料ヲ準備シタルヤ並ニ船舶乗組員及積荷ニ付キ証明スル為メ必要ナル書類ヲ船中ニ備ヘタルヤニ注意スヘキモノトス 第四百八十一条 船長ハ荷積及荷卸ノ為メ備ヘタル器具ノ堅牢ナルヤ並ニ特別ノ荷積人ヲ以テ積込ヲナストキト雖海員ノ慣例ニ従ヒ相当ニ積込ヲナシタルヤニ注意スヘキモノトス 船舶過量ノ積込ヲナサヽルヤ及船舶必要ナル底積及必要ナル測積ヲ備ルヤニ注意スヘキモノトス 第四百八十二条 船長外国ニ於テ其現行法特ニ警察法税法及関税法ヲ遵奉セサルトキハ之ニ依テ生シタル損害ヲ賠償スヘキモノトス 並ニ船長ハ戦時禁制品タルコトヲ知リ又ハ知ラサルヘカリシ荷物ヲ積込ムニ依リ生スル損害ヲ賠償スヘキモノトス 第四百八十三条 船長ハ船舶出発ノ準備整ヒタルトキハ直ニ好機ヲ失ハス航海ヲ始ムヘキモノトス 船長ハ疾病其他ノ事由ニ依リ船舶ヲ運用スルコトヲ妨ケラレタルトキト雖出発又ハ進航ヲ不当ニ淹滞スルコトヲ許サス又時及状況ノ許ス限リハ船主ノ差図ヲ請ヒ之ニ遅延ナク其故障ヲ通知シ及其間適切ナル処分ヲナスヘキモノトス之ニ違フトキハ他ノ船長ヲ代理ニ立ツヘキモノトス船長ハ其代理人ニ付キ其撰定ノ際自己ノ過失ニ帰スルモノニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第四百八十四条 船長ハ荷積ノ始メヨリ荷卸ノ終ハリニ至ルマテハ切迫ノ場合ニアラサレハ舵取ト同時ニ船舶ヲ離ルヽコトヲ許サス船長ハ之ヲ離ルヽ場合ニ於テハ先ツ仕官又ハ其他ノ船員ノ中ヨリ相当ナル代理ヲ定ムヘキモノトス 荷積ヲ始ルノ前及荷卸ヲ終ハリタル後ト雖船舶安全ナラサル港内又ハ安全ナラサル碇泊所ニ碇泊スルトキハ亦前項同一ナリトス 危難ニ罹ラントスルノ際又ハ船舶航海中ナルトキ船長ハ船中ニ在居スヘキモノトス但已ムヲ得サルカ為メ不在セサルヲ得サル正当ノ事由アルトキハ此限ニアラス 第四百八十五条 船長ハ危難ノ場合ニ於テ士官ト船舶会議ヲナスヲ至当ト認ルトキト雖其ナシタル決議ニ拘束セラレサルモノトス船長ハ毎ニ自己ノナシタル処分ニ付キ責任ヲ負担ス 第四百八十六条 各船舶ニハ日記ヲ備ヘ置クヘキモノトス其日記ニハ各航海ニ付キ積荷又ハ底積ノ領収ヲ始メシ以来総テノ重要ナル事故ヲ記入スヘキモノトス 其日記ハ船長ノ監督ヲ受ケテ舵取之ヲ記載シ舵取差支アル場合ニ於テハ船長又ハ船長ノ定ムヘキ相当ノ船員船長ノ監督ヲ受ケテ之ヲ記載スルモノトス 第四百八十七条 日記ニハ日々左ノ件々ヲ記載スヘキモノトス 風及天気ノ摸様 船舶ノ通過シタル針路及行程 測量シタル経緯度 喞筒ノ水量 其他日記ニハ左ノ件々ヲ記載スヘキモノトス 測鉛ヲ以テ測量シタル海水ノ深浅 水先案内ノ各雇入及其来船及退船ノ時 乗組員ノ変更 船舶会議ニ於テナシタル決議 船舶又ハ積荷ノ遭遇シタル総テノ災難及其明細 船舶ニ於テナシタル罰セラルヘキ行為及処決シタル懲罰並ニ出産死亡モ亦之ヲ日記ニ記入スヘキモノトス 其記入ハ差支ノ状況ナキ限リハ日々之ヲナスヘキモノトス 其日記ニハ船長及舵取之ニ署名スヘキモノトス 第四百八十八条 (本条ハ千八百七十七年一月三十日ノ訴訟法施行規則第十三条第二ヲ以テ之ヲ廃止シタリ) 第四百八十九条 各邦法律ハ小舟(沿岸通船等)ニ日記ヲ備ルヲ要セサルコトヲ規定スルヲ得 第四百九十条 船長ハ航海中ニ生スル総テノ災難ニ付テハ其船舶又ハ積荷ノ喪失又ハ損傷避難港ニ入港又ハ其他ノ損害ヲ生スルト否トヲ問ハス乗組員ノ総員又ハ充分ナル員数ノ立会ヲ以テ具状ヲナスヘキモノトス 其具状ハ遅延ナク左ノ場所ニ於テ之ヲナスヘキモノトス 到着港又ハ数個ノ到着港アル場合ニ於テハ遭難後船舶最初ニ到着シタル港 避難港但其港ニ於テ修復シ又ハ荷卸スルトキニ限ル 到着港ニ到着スルコトナクシテ航海ヲ終ルトキハ最初ニ到着シタル相当ノ地 船長死去シ又ハ具状ヲナスコト能ハサルトキハ其次席ノ士官之ヲナスノ権利及義務ヲ有スルモノトス 第四百九十一条 具状ハ航海ノ重要ナル事故ニ付テノ報告特ニ完全ニシテ明瞭ナル遭難ノ陳述及損害ヲ防止シ又ハ減少スル為メニ用ヒタル方法ヲ包含スヘキモノトス 第四百九十二条 此法ノ範囲内ニ於テハ具状ハ日記及乗組員総員ノ名簿ヲ呈出シテ之ヲ管轄裁判所ニ届出ツヘキモノトス 裁判所ハ届出ヲ受ケタル後成ルヘク速ニ具状ヲ聴クヘキモノトス之カ為メ定メタル期日ハ相当ノ方法ヲ以テ之ヲ公告スヘキモノトス但淹滞スルヲ得ヘカラサル事情アルトキハ此限ニアラス 船舶及積荷ノ関係者並ニ其他災難ニ関係シタル者ハ自己又ハ代人ヲ以テ具状ニ陪席スルノ権アルモノトス 具状ハ日記ニ依テ之ヲナスモノトス備ヘタル日記ヲ差出スコト能ハサルトキ又ハ日記ヲ記載セサル(第四百八十九条)トキハ其理由ヲ述フヘキモノトス 第四百九十三条 裁判官ハ出頭シタル者ノ外尚ホ他ノ乗組員ニシテ尋問スルヲ至当ト認ル者ヲ尋問スルノ権アルモノトス又一層明瞭ナラシムル為メ適切ナル問ヲ付スルコトヲ得 船長及立会ヒタル其他ノ乗組員ハ其陳述ニ付キ宣誓ヲナスヘキモノトス 具状ニ付テノ筆記ハ原本ニテ之ヲ保存シ及各関係人ニ其求メニ依リ公証シタル謄本ヲ交付スヘキモノトス 第四百九十四条 (本条モ亦第四百八十八条ト均シク訴訟法施行規則第十三条第二ヲ以テ廃止シタリ) 第四百九十五条 船舶船籍港ニ碇泊中船長ノ取結フ契約ハ船長委任ニ依リナシタルトキ又ハ其他特別ノ義務理由アルトキニ限リ船主ニ対シ其効アルモノトス 船長ハ船籍港ニ於テモ亦船員ヲ雇入ルヽノ権アルモノトス 第四百九十六条 船舶船籍港外ニ碇泊スルトキ船長ハ他人ニ対シ其雇入ニ依リ船主ニ代リテ艤装、乗組、飲食物及船舶ノ保存並ニ一般ニ航海ト離レサル総テノ事務及権利上行為ヲナスノ権アルモノトス 此権ハ運送契約ノ取結ヒニモ亦及フモノトス又其権ハ其他船長ノ職掌ニ関スル出訴ニ及フモノトス 第四百九十七条 但船長ハ船舶ノ保存又ハ航海執行ノ為メ必要ナルトキニシテ其需求ヲ充タス為メ欠クヘカラサル部分ニ限リ借入、掛買ヲナシ並ニ之ニ類スル信用取引ヲ取結フノ権アルモノトス又船長ハ航海執行ノ為メ必要ナル部分ニ限リ船舶書入ヲナスノ権アルモノトス 此契約ノ効力ハ実際ニ使用シタルト数個信用取引中撰ヒタルモノヽ便宜ナルト及必要ナル金銭ヲ船長ノ処分ニ任カセタルヤノ状況トニ関セサルモノトス但他人ニ悪意アルコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 第四百九十八条 船長ハ船主ノ信用ヲ以テ契約ヲ取結ヒ特ニ船主ノ為メ為替義務ヲ負担スルニハ之カ為メ与ヘラレタル委任(第四百五十二条第一)ニ依ルニアラサレハ之ヲナスノ権ナキモノトス船長船主ヨリ受ケタル処分方及職務上差図ハ他人ニ対シ船主ノ無限責任ヲ生スルニ不充分ナリトス 第四百九十九条 船長ハ已ムヲ得サル場合ニシテ其地裁判所ニ於テ鑑定人ノ意見ヲ聞キ及本国ノ領事ノ在留スルトキハ其立会ヲ以テ其必要ヲ確定シタル後ニアラサレハ船舶ノ売却ヲナスノ権ナキモノトス 裁判所及審査ヲ担当スル官署一モナキトキ船長ハ其処分ヲ弁明スル為メ鑑定人ノ意見ヲ得及之ヲ得ル能ハサルトキハ其他ノ証拠ヲ備フヘキモノトス 其売却ハ之ヲ公行スヘキモノトス 第五百条 船長ノ法律上権限ヲ制限シタル船主ハ他人ニ於テ之ヲ知了シタルコトヲ証明スルニアラサレハ他人ニ対シ其制限ヲ守ラサルコトヲ有効ナラシムルヲ得ス 第五百一条 船長別段ノ委任ナクシテ船主ノ為メ前払ヲナシ又ハ無限責任ヲ負担シタルトキ船主ニ対シ其弁償ニ付キ他人ト同一ノ権ヲ有スルモノトス 第五百二条 船長船主ノ指名ヲ以テスルト否トヲ問ハス船舶運用者タルノ資格ヲ以テ其法律上権限内ニ於テ取結ヒタル契約ニ依リ船主ハ他人ニ対シ権利ヲ得及船舶及運賃ヲ以テスル責任ヲ負担スルモノトス 船長ハ履行ニ付キ保証ヲ担当シ又ハ其権限ヲ超ヘタル場合ヲ除クノ外他人ニ対シ契約ニ依テ義務ヲ負担スルコトナキモノトス但第四百七十八条及第四百七十九条ノ規定ニ従フ船長ノ責任ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第五百三条 前数条ハ船主ニ対シテモ亦船長ノ権限ニ付キ標準トナルモノトス但船主此権ヲ制限シタルトキハ此限ニアラス 其他船長ハ船舶ノ状況、航海中ノ事故、取結ヒタル契約及裁判関係トナリタル訴訟ヲ毎次船主ニ報知シ及重要ナル総テノ場合特ニ第四百九十七条及第四百九十九条ノ場合ニ於テ又ハ船長航海ヲ変更シ又ハ停止セサルヲ得サルトキ又ハ非常ノ修復及買入ヲナストキ状況ノ許ス限リハ処分方ノ差図ヲ求ルノ義務アルモノトス 船長ハ非常ノ修復及買入ヲ自己ノ処分ニ任セラレタル船主ノ金銭ヲ以テ支払フコトヲ得ルトキト雖已ムヲ得サル場合ニアラサレハ之ヲナスコトヲ許サス 船長ハ需求ヲ充タス為メ必要ノ金銭ヲ船舶書入又ハ不用ナル船舶附属品又ハ不用ナル貯蓄品ノ売却ヲ以テスルノ外得ルコト能ハサルトキハ船主ノ為メ損害ノ最モ少ナキ処分ヲナスヘキモノトス 船長ハ船籍港ニ帰着シタル後ニシテ其他請求ヲ受ルトキ其都度計算書ヲ船主ニ差出スヘキモノトス 第五百四条 船長ハ航海中積荷関係者ノ利益ノ為メ同時ニ積荷安全ノ為メ成ルヘキ丈ケ注意スヘキモノトス 船長ハ喪失ヲ防止シ又ハ減少スル為メ特別ノ処分ヲ要スルトキ積荷関係者ノ代理者トナリテ其利益ヲ保護シ成ルヘク其差図ヲ受ケ及事情ニ適スル限リハ之ヲ遵守シ否ラサレハ自己ノ見込ヲ以テ処分シ及一般ニ成ルヘキ丈ケ積荷関係者ニ其事故及之ニ依テナスニ至リタル処分ヲ速ニ報知スルコトニ注意スルノ義務アルモノトス 船長ハ此場合ニ於テ特ニ亦積荷ノ全部又ハ一部ヲ荷卸シ非常ノ場合ニ於テハ損敗セントスルノ恐レアルカ為メ又ハ其他ノ事由ニ依リ生スル著シキ喪失ヲ別ニ防止スルノ方法ナキトキハ売却シ又ハ其保存及運送ヲナスニ必要ナル金銭ヲ得ル為メ書入スルノ権ヲ有シ並ニ積荷ノ留置及掠奪ノ場合ニ於テハ其取戻ノ要求ヲナシ又ハ其他ノ方法ヲ以テ積荷ニ付キ自己ノ処分ヲ妨ケラレタルトキハ裁判所外及裁判所内ノ手続ヲ以テ其取引ヲナスノ権ヲ有スルモノトス 第五百五条 最初ノ方向ニ於ケル航海ノ継続ヲ事変ニ依リ妨ケラルヽ場合ニ於テ船長ハ事情ニ応シ差図ヲ斟酌シテ航海ヲ他ノ方向ニ於テ継続シ又ハ暫ラク又ハ久シク航海ヲ停止シ又ハ出発港ニ帰着スルノ権アルモノトス 船長ハ運送契約ヲ解除シタル場合ニ於テハ第六百三十四条ノ規定ニ従テ処分スヘキモノトス 第五百六条 船長ハ積荷関係者ノ信用ヲ以テ契約ヲ取結フニハ第五百四条ノ場合ニ於テモ亦之カ為メ与ヘラレタル委任ニ依ルニアラサレハ之ヲナスノ権ナキモノトス 第五百七条 船長ハ第五百四条ノ場合ヲ除クノ外航海ヲ継続スルニ必要ナルトキ及必要ナル部分ニ限リ積荷ヲ書入シ又ハ売却シ又ハ支用シテ積荷ノ一部ヲ処分スルノ権アルモノトス 第五百八条 海難大損失ニ関シ需求ノ生スル場合ニシテ船長種々ノ方法ヲ以テ其需求ニ応スルコトヲ得ルトキハ関係者ノ為メ損害ノ最モ少ナキ処分ヲナスヘキモノトス 第五百九条 海難大損失ノ場合ニアラサルトキ船長ハ他ノ方法ヲ以テ需求ニ応スルコト能ハサルトキ又ハ他ノ方法ヲ撰フニ依リ船主ノ為メ不相当ノ損害ヲ生スヘキトキニ限リ積荷ヲ書入シ又ハ積荷ノ一部ヲ売却シ又ハ支用シテ処分スルノ権アルモノトス 船長ハ此場合ニ於テモ亦船舶及運賃ト合一スルニアラサレハ積荷ヲ書入スルコトヲ得ス(第六百八十一条第二項) 船長ハ船舶書入ニ依リ船主ノ為メ不相当ノ損害ヲ生スヘキ場合ヲ除キ売却ニ先チ船舶書入ヲ撰フヘキモノトス 第五百十条 積荷ノ書入又ハ積荷ノ一部ヲ売却又ハ支用シテナス処分ハ前条ノ場合ニ於テハ之ヲ船主ノ計算ノ為メ取結ヒタル信用契約(第四百九十七条及第七百五十七条第七)ト看做スモノトス 第五百十一条 第五百四条及第五百七条ヨリ第五百九条マテノ場合ニ於テ船長ノ取結ヒタル契約ノ効力ニ関シテハ亦第四百九十七条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第五百十二条 船長第四百九十五条第四百九十六条第四百九十七条第四百九十九条第五百四条第五百七条ヨリ第五百九条マテニ従ヒナスノ権アル事務及権利上行為ニ関シテハ各邦法律ニ特別委任ノ規定アルモ之ヲ要セサルモノトス 第五百十三条 船長ハ運賃ノ外衣服料、慰労金其他名義ノ何タルヲ問ハス賞与又ハ賠償トシテ船舶賃借人積荷引渡人又ハ積荷受取人ヨリ受取リタルモノヲ総テ入方トシテ船主ノ計算ニ立ツヘキモノトス 第五百十四条 船長ハ船主ノ承諾ナクシテ自己ノ計算ヲ以テ荷物ヲ積込ムコトヲ許サス船長此規定ニ背反スルトキハ船主ニ対シ荷物引渡地ニ於テ其際同一ノ航海及荷物ニ付キ約定シタル最高運賃額ヲ償フヘキモノトス但之ヨリ大ナル損害ヲ証明シテ申立ル船主ノ権ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第五百十五条 船長ハ反対ヲ契約シタルトキト雖何時タリトモ船主ヨリ解雇セラルヽコトアルモノトス但船長ノ損害賠償請求権ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第五百十六条 船長職務ニ適セスト認メラレ又ハ其義務ヲ尽クサヽルカ為メ解雇セラルヽトキ船長ハ給料及総テ其他約定シタル利益ニシテ解雇マテ得ヘキモノニ限リ之ヲ受ルモノトス 第五百十七条 一定ノ航海ノ為メ雇入レラレタル船長戦争、鎖港又ハ封港ノ為メ又ハ輸出入禁令ノ為メ又ハ他ノ船舶又ハ積荷ニ関スル事変ノ為メ航海ヲ始メ又ハ継続スルコト能ハサルニ依リ解雇セラルヽトキ船長ハ亦給料総テ其他約定シタル利益ニシテ其解雇マテ得ヘキモノニ限リ之ヲ受ルモノトス無定時間ヲ以テ雇入レラレタル船長一定ノ航海ヲ執行スルコトヲ引受ケタル後解雇セラルヽトキ亦同一ナリトス 此場合ニ於テ航海中解雇セラルヽトキ船長ハ其他雇入レラレタル港ヘノ無賃送戻ノ請求又ハ相当ノ報酬ノ請求ヲナスハ其適意ニ任カスモノトス 此法ノ規定ニ従ヒ無賃送戻ノ請求ノ生シタルトキ其請求ハ航海中ノ賄モ亦包含スルモノトス 第五百十八条 無定時間ヲ以テ雇入レラレタル船長一定ノ航海ヲ執行スルコトヲ引受ケタル後第五百十六条及第五百十七条ニ掲ケタルヨリ他ノ理由ニ依リ解雇セラルヽトキ船長ハ其解雇欧州内ノ港ニ於テナスト又ハ欧州外ノ港ニ於テナストニ応シ前条ノ規定ニ従ヒ之ニ属スルモノヽ外損害賠償トシテ尚ホ二月分又ハ四月分ノ給料ヲ受ルモノトス但何レノ場合ト雖航海ヲ終ハリタルトキ受取ルヘキ額ヲ超過スルコトヲ得ス 第五百十九条 給料ヲ期限ヲ定メスシテ全航海ニ付キ総額ヲ以テ約定セシトキ第五百十六条ヨリ第五百十八条マテノ場合ニ於テ得ヘキ給料ハ総額ト服務並ニ経過シタル航海ノ割合トニ応シ之ヲ定ルモノトス第五百十八条ニ掲ケタル二月分又ハ四月分ノ給料ヲ算定スルニハ船舶ノ性質ヲ斟酌シ荷積及荷卸ノ時間ヲ併セ航海ノ平均時間ヲ準率トシ之ニ従テ二月分又ハ四月分ノ給料ヲ定ルモノトス 第五百二十条 船舶ノ帰航船籍港ニテ終ハラサル場合ニシテ船長発航及帰航ノ間又ハ無定期限ヲ以テ雇入レラレタルトキ船長ハ其雇入レラレタル港ヘノ無賃送戻及航海中給料継続ノ請求又ハ相当ノ報酬ノ請求ヲナスハ其適意ニ任カスモノトス 第五百二十一条 無定期限ヲ以テ雇入レラレタル船長ハ其航海ヲ始メタルトキヨリ船舶船籍港又ハ内国港ニ帰着シ及荷卸ヲナシタルマテ其職ニ留ルヘキモノトス 但船長ハ船舶解雇告知ノトキ欧州内ノ港ニアルト又ハ欧州外ノ港ニアルトニ応シ出航以来二年又ハ三年ヲ経過シタルトキハ解任ヲ求ルコトヲ得船長ハ此場合ニ於テ船主ニ於テ後任ヲ定ル為メ必要ナル時間ヲ与ヘ及其間職務ヲ継続シ各個ノ場合ニ於テ其航海ヲ終ハルヘキモノトス 解雇告知ノ後直ニ帰航ヲ命シタルトキ船長ハ船舶ヲ送戻スヘキモノトス 第五百二十二条 船長他ノ船主ト契約ヲナシタルニ依リ共同船主トナリテ船舶ニ関係シタル船舶持部ハ其意ニ反スル解雇ノ場合ニ於テ其求メニ依リ共同船主ニ於テ鑑定人ノ鑑定スヘキ価額ヲ支払ヒ之ヲ引受クヘキモノトス船長ノ此権ハ船長之ヲ使用スルノ陳述ヲ理由ナクシテ延滞スルトキハ消滅スルモノトス 第五百二十三条 船長航海ヲ始メタル後疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ル場合ニ於テ船主ハ給養及療養ノ費用ヲ負担スルモノトス 第一 船長船舶ト共ニ帰着シ及船籍港又ハ其雇入レラレタル港ニ於テ帰港ヲ終ハルトキハ其帰港ノ終ハルマテ 第二 船長船舶ト共ニ帰着シ及航海ヲ第一ニ掲ケタル港ノ一ニ於テ終ハラサルトキハ其帰港ヲ終ハリタル以来六月ノ経過スルマテ 第三 船長航海中ニ陸ニ残シ置カルヘキトキ船舶ノ其後ノ航海以来六月ノ経過スルマテ 第二第三ノ場合ニ於テ無賃送戻第五百十七条)又ハ相当ノ報酬ヲ請求スルハ亦船長ノ適意ニ任カスモノトス 航海ヲ始メタル後疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ受ケタル船長ハ船舶ト共ニ帰着シタルトキハ帰航ノ終ハルマテ陸ニ残シ置カルヘキトキハ船長船舶ヲ離ルヽ日マテ給料及総テ其他約定シタル利益ヲ受ルモノトス 船長船舶ヲ防禦スルノ際傷痍ヲ受ケタルトキハ其他相当ノ賞与ヲ請求スルノ権アルモノトス其賞与ハ必要ナル場合ニ於テハ裁判官之ヲ定ムヘキモノトス 第五百二十四条 船長其職務ニ就キタル後死去スルトキ船主ハ其死去ノ日マテ得ヘキ給料及総テ其他約定シタル利益ヲ払フヘキモノトス其死去航海ヲ始メタル後ナリシトキ船主ハ埋葬費ヲモ亦負担スヘキモノトス 船長船舶ヲ防禦スルノ際死去シタルトキ船主ハ其他相当ノ賞与ヲ支払フヘキモノトス其賞与ハ必要ナル場合ニ於テ裁判官之ヲ定ムヘキモノトス 第五百二十五条 (本条ハ船員規則第六十八条ヲ以テ廃止シタリ) 第五百二十六条 船舶喪失ノ後ト雖船長ハ具状ヲナシ及一般ニ必要ナル間船主ノ利益ヲ保護スルノ義務アルモノトス船長ハ此時間ニ付テモ亦給料ノ継続及賄費弁償ノ請求権ヲ有スルモノトス此給料及賄費ニ付キ船主ハ無限責任ヲ負担スルモノトス其他船長ハ無賃送戻ノ請求(第五百十七条)又ハ相当ノ報酬ノ請求ヲナスハ其適意ニ任カスモノトス但第四百五十三条ニ依ルトキニ限ル 第五百二十七条 船長ニ於テ証明スヘキ資格ニ関スル各邦法律ノ規定ハ此法ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第四章 船員(本章ノ規定ハ之ヲ廃止シ千八百七十二年十二月廿七日ニ発シタル左ノ船員規則ヲ以テ之ニ代ヘタリ) 第五章 荷物ノ運送取引 第五百五十七条 荷物運送契約ハ左ニ掲ルモノニ付キ之ヲ取結フモノトス 第一 船舶ノ全部又ハ一部又ハ一定ノ場所 第二 各個ノ荷物 第五百五十八条 船舶ノ全部又ハ一部又ハ一定ノ場所ヲ賃貸スルトキ其各方ハ契約ニ付キ証書(船舶貸借契約書)ヲ作ルコトヲ求ルヲ得 第五百五十九条 船舶全部ノ賃貸ニハ船室ハ之ヲ包含セサルモノトス但船舶賃借人ノ承諾ナクシテ荷物ヲ船室ニ積込ムコトヲ許サス 第五百六十条 運送契約ノ各種類(第五百五十七条)ニ関シ船舶賃貸人ハ船舶ヲ航海ニ堪ル状況ニ於テ引渡スヘキモノトス 船舶賃貸人ハ船舶賃借人ニ対シ船舶ノ瑕缺アル状況ヨリ生スル各個ノ損害ニ付キ其責ヲ負担スルモノトス但其瑕缺総テノ注意ヲナシタルモ之ヲ発見スルコト能ハサリシトキハ此限ニアラス 第五百六十一条 船長ハ積荷ヲ受取ル為メ船舶ヲ船舶賃借人ヨリ指定シタル場所ニ廻シ又ハ船舶ヲ数人ニ賃貸シタルトキハ船舶賃借人総員ヨリ之ニ指定シタル場所ニ廻ハスヘキモノトス 其指定ヲ速ニナサヽルトキ又ハ船舶賃借人総員同一ノ場所ヲ指定セサルトキ又ハ水ノ深浅、船舶ノ安否又ハ其地ノ規則又ハ制度ニ於テ其指定ニ従フコトヲ許サヽルトキ船長ハ其地慣例上ノ荷積場ニ碇繋スヘキモノトス 第五百六十二条 契約又ハ荷物引渡港ノ規則ニ依リ及其契約規則ナキトキハ荷物引渡港ニ現行スル慣例ニ依リ別段ノ定メナキトキニ限リ荷物ハ船舶賃借人ニ於テ船舶マテノ費用ヲ負担シテ之ヲ引渡シ船舶内ニ荷物積込ノ費用ハ船舶賃貸人ニ於テ之ヲ負担スヘキモノトス 第五百六十三条 船舶賃貸人ハ契約上荷物ニ代ヘ船舶賃借人ニ於テ同一ノ到達港ヘ運送ノ為メ依頼シタル他ノ荷物ヲ受取ルヘキモノトス但之カ為メ困難ナル状況ヲ生スルトキハ此限ニアラス 此定メハ契約ニ於テ荷物ヲ其種類ニ於テノミナラス各個ニ記載シタルトキハ之ヲ適用セサルモノトス 第五百六十四条 積込ミタル荷物ヲ不正ニ記載シ又ハ戦時禁制品又ハ到達港ニ於テ輸出入ヲ禁シタル荷物ヲ積込ミ又ハ荷物引渡ノ際法律上規定特ニ警察規則、租税規則及関税規則ニ違反スル船舶賃借人又ハ荷物引渡人ハ過失其責ニ帰スルトキニ限リ船舶賃貸人ニ対シテノミナラス其他第四百七十九条第一項ニ記載シタル総テノ者ニ対シ自己ノ処置ニ依リ生シタル滞在及其他各個ノ損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 其賃借人又ハ荷物引渡人ハ船長ノ承諾ヲ以テ処置シタルモ其責任ヲ其他ノ者ニ対シ免ルヽコトナキモノトス 其賃借人又ハ荷物引渡人ハ荷物ノ没収ヲ以テ運賃ノ支払ヲ拒ムノ理由トスルコトヲ得ス 荷物船舶又ハ其他ノ積荷ヲ危険ナラシムルトキ船長ハ其荷物ヲ荷卸シ又ハ已ムヲ得サル場合ニ於テハ之ヲ投棄スルノ権アルモノトス 第五百六十五条 船長ノ承諾ナクシテ荷物ヲ船舶ニ持込ム者モ亦前条ノ規定ニ従ヒ之カ為メ生スル損害ヲ賠償スルノ義務アルモノトス船長ハ其荷物ヲ荷却シ又ハ荷物船舶又ハ其他ノ荷物ヲ危険ナラシムルトキ已ムヲ得サル場合ニ於テハ之ヲ投棄スルノ権アルモノトス船長荷物ヲ船舶ニ存シタルトキハ之カ為メ荷物引渡地ニ於テ其際同一ノ航海及荷物ニ付キ約定シタル最高運賃額ヲ支払フヘキモノトス 第五百六十六条 船舶賃貸人ハ船舶賃借人ノ承諾ナクシテ荷物ヲ他ノ船舶ニ積替ルノ権ナキモノトス船舶賃貸人此規定ニ背反スルトキハ各個ノ損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス但船舶賃貸人ニ於テ其損害荷物ヲ他ノ船舶ニ積替ヘサリシトキト雖生スヘキコト及船舶賃借人ノ責ニ帰スヘキコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 航海ヲ始メタル後已ムヲ得サル場合ニ於テナス他ノ船舶ヘノ積替ニハ本条ヲ適用セサルモノトス 第五百六十七条 荷物引渡人ノ承諾ナクシテ荷物ヲ甲板上ニ積置キ及船舶ノ側方ニ掛ケ置クコトヲ許サス 沿岸通行ニ付キ其甲板上積荷ニ関スルトキニ限リ前項ノ規定ヲ適用セサルコトヲ定ルハ之ヲ各邦法律ニ任カス 第五百六十八条 船舶全部ノ賃貸ノ場合ニアリテハ船長ハ積荷ヲ受取ル為メ用意シタルトキ直ニ之ヲ船舶賃借人ニ通知スヘキモノトス 荷積期限ハ其通知ノ翌日ヲ以テ始マルモノトス 船舶賃貸人ハ荷積期限ヲ超ヘテ尚ホ荷物引渡ヲ待ツヘキモノトス(猶予期限)但契約アルトキニ限ル 荷積期限ニ付テハ反対ノ契約ナキトキニ限リ特別ノ報酬ヲ求ルコトヲ得ス船舶賃借人ハ船舶賃貸人ニ猶予期限ニ付キ報酬(猶予金)ヲ与フヘキモノトス 第五百六十九条 荷積期限ヲ契約ヲ以テ確定シタルトキ其期限ハ荷物引渡港ノ規則ニ依リ其規則ナキトキハ其港ニ現行スル慣例ニ依テ定マルモノトス此慣例モ亦ナキトキハ其場合ノ状況ニ適当スル期限ヲ以テ荷積期限ト看做ス 契約ヲ以テ猶予ヲ定メタルモ其期限ニ付キ定メナキトキハ猶予期限ハ十四日ナリトス 契約ニ単ニ猶予金ノ定メヲ掲ルトキハ猶予ハ期限ヲ定ルコトナクシテ契約シタルモノト看做ス 第五百七十条 荷積期限又ハ期限ノ終ルヘキ日ヲ契約ヲ以テ定メタルトキ猶予期限ハ荷積期限ノ経過ヲ以テ直ニ始マルモノトス 此契約上定メナキトキ猶予期限ハ船舶賃貸人船舶賃借人ニ対シ荷積期限ノ経過シタルコトヲ陳述シタル後初テ始マルモノトス船舶賃貸人ハ荷積期限内ト雖船舶賃借人ニ対シ其期限何レノ日ニ経過シタリトスルヤヲ陳述スルコトヲ得此場合ニ於テハ荷積期限ノ終リ及猶予期限ノ始マル為メ更ニ船舶賃貸人ノ陳述ヲ要セサルモノトス 第五百七十一条 荷積期限ノ終リタル後又ハ猶予期限ヲ契約シタルトキハ其期限ノ終リタル後ハ船舶賃貸人ハ其後荷物引渡ヲ待ツノ義務ナキモノトス但船舶賃貸人ハ其後待タサルコトノ意ヲ荷積期限又ハ猶予期限ノ終ル三日前ニ船舶賃借人ニ陳述スヘキモノトス 此陳述ヲナサヽルトキ荷積期限又ハ猶予期限ハ其陳述ヲ補ヒ及其陳述ヲナシタル日ヨリ三日ヲ経過シタル後ニアラサレハ終ハラサルモノトス 本条ニ記載シタル三日ハ総テノ場合ニ於テ暦ニ従ヒ間断ナク経過スル日トシテ之ヲ算フルモノトス 第五百七十二条 第五百七十条及第五百七十一条ニ記載シタル船舶賃貸人ノ陳述ハ別段ノ式ヲ用ルコトヲ要セス船舶賃借人其陳述書ノ受取証ヲ充分ナル方法ヲ以テ記載スルコトヲ拒ムトキ船舶賃貸人ハ之ニ付キ船舶賃借人ノ費用ヲ以テ公製証書ヲ作ラシムルノ権アルモノトス 第五百七十三条 猶予金ハ契約ヲ以テ定メサルトキ裁判官ノ衡平ノ見込ヲ以テ之ヲ確定シ已ムヲ得サル場合ニ於テハ鑑定人ヲ尋問シタル後之ヲ確定スルモノトス 裁判官ハ此場合ニ於テ場合ノ詳細ナル状況特ニ船舶乗組員ノ給料額及賄料並ニ船舶賃貸人ノ損失トナルヘキ運賃ヲ斟酌スヘキモノトス 第五百七十四条 荷積期限及猶予期限ノ計算ニ方リテハ其日ハ間断ナク経過スル順序ニ於テ算フルモノトス特ニ日曜日及祭日並ニ船舶賃借人事変ニ依リ荷積ヲ引渡スコトヲ妨ケラレタル日ハ之ヲ算入スルモノトス 但風及天気ニ依リ又ハ其他或ル事変ニ依リ左ノ妨ケヲ受ケタル日ハ之ヲ算入セサルモノトス 第一 契約シタル積荷ノミナラス各種ノ積荷ヲ船舶ニ引渡スコトヲ妨ケラレタルトキ 第二 積荷ノ受取ヲ妨ケラレタルトキ 第五百七十五条 船舶賃貸人ハ各種ノ積荷引渡ヲ妨ケラレタルカ為メ長ク待ツヘキ日ニ付テハ其妨ケ荷積期限ニ生シタルトキト雖猶予金ヲ受ルコトヲ得船舶賃貸人積荷受取ヲ妨ケラレタル為メ長ク待ツヘキ日ニ付テハ其妨ケ猶予期限内ニ生シタルトキト雖猶予金ヲ受取ルノ権ナキモノトス 第五百七十六条 第五百六十九条ノ規定ニ従ヒ荷積期限ニ付キ其地ノ規則又ハ慣例ニ準拠スヘキトキ荷積期限ノ計算ニ方リ前二条ノ規定ハ其地ノ規則又ハ慣例ニ於テ之ニ違フ定メナキトキニ限リ之ヲ適用スルモノトス 第五百七十七条 船舶賃貸人荷物引渡ヲ一定ノ日マテニ終ルヘキコトヲ約定シタルトキハ各種ノ積荷引渡ヲ妨ケラレタル(第五百七十四条第一)モ之カ為メ長ク待ツノ義務ヲ負担スルコトナキモノトス 第五百七十八条 船舶賃貸人他人ヨリ積荷ヲ受取ルヘキ場合ニシテ船舶賃貸人ニ於テ他人ニ其地ノ慣例ニ依リ積荷ノ準備整ヒタルコトヲ通知スルモ之ヲ索知スルコト能ハサルトキ又ハ他人積荷ノ引渡ヲ拒ムトキ船舶賃貸人ハ船舶賃借人ニ速ニ其旨ヲ通知シ及猶予期限ヲ契約シタルモ積荷期限ノ経過スルマテニ限リ荷物引渡ヲ待ツヘキモノトス但船舶賃貸人船舶賃借人又ハ其代人ヨリ尚ホ荷積期限ニ於テ反対ノ差図ヲ受ケタルトキハ此限ニアラス 荷積期限及荷卸期限ヲ合シテ一期限ヲ定メタルトキ前項ノ場合ニアリテハ其期限ノ二分一ヲ荷積期限ト看做スモノトス 第五百七十九条 船舶賃貸人ハ船舶賃借人ノ求メニ依リ約束シタル積荷ノ全部ヲ積込マサルモ航海ヲ始ムヘキモノトス此場合ニ於テ船舶賃貸人ハ運賃ノ全額及猶予金ノ約束アルトキハ其猶予金ヲ要求スルノ権アルノミナラス積荷ノ不充分ナルニ依リ運賃全額ニ付テノ保証ヲ缺クトキニ限リ他ノ方法ヲ以テ保証ヲナスヘキコトヲ要求スルノ権アルモノトス其他積荷ノ不充分ナルカ為メ船舶賃貸人ニ於テ多分ノ費用ヲ生スルトキ其費用ハ船舶賃借人ヨリ之ニ弁償スヘキモノトス 第五百八十条 船舶賃借人船舶賃貸人ニ於テ荷物引渡ヲ待ツノ義務ヲ負担シタル期限(待留期限)ノ経過スルマテニ其引渡ヲ全ク終ヘサルトキ船舶賃貸人ハ船舶賃借人ニ於テ解約セサルトキニ限リ航海ヲ始メ及前条ニ記載シタル要求ヲ申立ルノ権アルモノトス 第五百八十一条 船舶賃借人ハ単航海ト復航海トヲ問ハス其航海ヲ始ル前約定シタル運賃ノ半額ヲ補償運賃トシテ支払フノ義務ヲ負担シテ解約スルコトヲ得 此規定ヲ適用スルニ方リ航海ハ左ノ場合ニ於テ既ニ始マリタリト看做スモノトス 第一 船舶賃借人船長ニ対シ既ニ荷物引渡ノ終ハリタルコトヲ認メタルトキ 第二 荷物ノ全部又ハ一部ヲ引渡シ及待留期限ノ経過シタルトキ 第五百八十二条 般舶賃借人荷物ヲ引渡シタル後前条ニ掲ケタル権利ヲ使用スルトキハ其荷積及荷卸ノ費用ヲモ担当シ及成ルヘク速ニナスヘキ荷卸ノ時間ニ付キ猶予金(第五百七十三条)ヲ支払フヘキモノトス但其荷卸ノ時間荷積期限内ニアルトキハ此限ニアラス船舶賃貸人ハ荷卸ノ為メ生スル滞在ニ依リ待留期限ヲ超ルトキト雖其滞在ヲ承諾スルノ義務アルモノトス此場合ニ於テ船舶賃貸人ハ待留期限経過後ノ時間ニ付キ猶予金及待留期限ヲ超ルニ依リ生シタル損害賠償ヲ要求スルノ権アルモノトス但其損害ハ猶予金額ヲ超過シタルコトヲ証明スルトキニ限ル 第五百八十三条 第五百八十一条ノ意義ニ於テ航海ノ始マリタル後ハ船舶賃借人ハ運賃ノ全額並ニ其他船舶賃貸人ノ総テノ要求(第六百十五条)ヲ支払ヒ及第六百十六条ニ記載シタル要求ヲ支払ヒ又ハ保証スルニアラサレハ解約ヲナシ及荷物ノ荷卸ヲ要求スルコトヲ得ス 荷卸ノ場合ニ於テハ船舶賃借人ハ之ニ依テ生シタル多分ノ費用ノミナラス亦荷卸ノ為メ生シタル滞在ニ依リ船舶賃貸人ニ生スル損害ヲモ賠償スヘキモノトス 船舶賃貸人ハ荷物荷卸ノ為メ航海ヲ変更シ又ハ寄港スルノ義務ナキモノトス 第五百八十四条 船舶賃借人船舶ヲ同時ニ帰航ノ積荷ノ為メ賃借スル場合又ハ其契約ヲ実行スルニ方リ積荷ヲ受取ル為メ他ノ港ヨリ航海ヲナスヘキ場合ニシテ帰航ヲ始ル前又ハ第五百八十一条ノ意義ニ於テ航海ヲ荷物引渡港ヨリ始ル前解約スルトキハ運賃全額ニ代ヘ其三分二ニ限リ補償運賃トシテ支払フノ義務アルモノトス 第五百八十五条 他ノ復航海ニ方リ船舶賃借人最終ノ航海部ニ関シ第五百八十一条ノ意義ニ於テ航海ヲ始ル前解約ヲナストキ船舶賃貸人ハ補償運賃トシテ運賃全額ヲ受ルモノトス但状況ニ於テ船舶賃貸人解約ノ為メ費用ヲ省キ及他ニ運賃ヲ得ルノ機会ヲ有シタリト認ルノ理由アルトキニ限リ運賃全額ヨリ相当ノ部分ヲ引去ルモノトス 契約者双方ニ於テ引去ル部分ノ諾否又ハ其多寡ニ付キ協議調ハサルトキハ裁判官之ニ付キ衡平ノ見込ヲ以テ裁決スルモノトス 引去部分ハ何レノ場合ニ於テモ運賃ノ半額ヲ超ルコトヲ許サス 第五百八十六条 船舶賃借人待留期限ノ経過スルマテニ一モ積荷ヲ引渡サヽルトキ船舶賃貸人ハ其後ハ契約ニ依リ負担シタル義務ニ拘束セラレサルモノトス及船舶賃借人契約ヲ解除シタルトキ(第五百八十一条第五百八十四条第五百八十五条)有スヘキ請求ヲ其賃借人ニ対シ申立ルノ権アルモノトス 第五百八十七条 船舶賃貸人他ノ積荷ノ為メ受取ル運賃ハ之ヲ補償運賃ニ算入セサルモノトス 但第五百八十五条第一項ノ規定ハ前項ノ規定ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 補償運賃ニ関スル船舶賃貸人ノ請求ハ船舶賃貸人ニ於テ契約ニ記載シタル航海ヲナスト否トニ関係ナキモノトス 猶予金ニ関スル船舶賃貸人ノ請求及其他之ニ属スル要求アルトキ其要求(第六百十五条)ハ補償運賃ノ為メ無効トナルコトナキモノトス 第五百八十八条 船舶ノ一部又ハ一定ノ場所ヲ賃貸シタルトキハ第五百六十八条ヨリ第五百八十七条マテノ規定ヲ適用スルモノトス但左ノ場合ハ格別ナリトス 第一 船舶賃貸人ハ此諸条ニ従ヒ運賃ノ一部ヲ以テ満足スヘキ場合ニ於テハ補償運賃トシテ全運賃額ヲ受取ルモノトス但船舶賃借人総員解約シ又ハ一モ積荷ヲ引渡サヽルトキハ此限ニアラス 但船舶賃貸人引渡サヽル積荷ニ代ヘテ受取リタル荷物ニ付テノ運賃ハ運賃全額ヨリ之ヲ引去ルモノトス 第二 第五百八十二条及第五百八十三条ノ場合ニ於テ船舶賃借人ハ荷卸ニ依リ航海ノ淹滞ヲ生セシメ又ハ積替ヲナサヽルヘカラサリシトキハ其他総テノ船舶賃借人ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ荷卸ヲ求ルコトヲ得ス其他船舶賃借人ハ荷卸ニ依リ生スル費用並ニ損害ヲ償フノ義務アルモノトス 船舶賃借人総員解約ノ権ヲ使用スルトキハ第五百八十二条及第五百八十三条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第五百八十九条 運送契約各個荷物ニ関スルトキ船舶賃借人ハ船長ノ督促ニ依リ遅延ナク荷物引渡ヲナスヘキモノトス 船舶賃借人之ヲナサヽルトキ船舶賃貸人ハ荷物ノ引渡ヲ待ツノ義務ナキモノトス船舶賃借人ハ其荷物ナクシテ航海ヲ始ルトキト雖運賃全額ヲ支払フヘキモノトス但船舶賃貸人其引渡サヽル荷物ニ代ヘ受取リタル荷物ニ付テノ運賃ハ之ヲ運賃全額ヨリ引キ去ルモノトス 引渡ヲ怠リタル船舶賃借人ニ対シ運賃ニ付テノ請求ヲ申立ル船舶賃貸人ハ出航前其旨ヲ船舶賃借人ニ陳述スヘキノ義務アルモノトス之ヲ怠ルトキハ其請求権ヲ失フモノトス此陳述ニ付テハ第五百七十二条ノ規定ヲ適用ス 第五百九十条 荷物引渡ノ後船舶賃借人ハ運賃全額其他船舶賃貸人ノ要求(第六百十五条)ノ支払ヲナシ及第六百十六条ニ掲ケタル要求ノ支払又ハ保証ヲナストキト雖第五百八十八条第二ノ前段ニ依ルニアラサレハ解約ヲナシ及荷物ノ荷卸ヲ要求スルコトヲ得ス 其他此場合ニモ亦第五百八十三条末項ノ規定ヲ適用スルモノトス 第五百九十一条 船舶各個荷物ノ為メ碇繋シ出航ノ時ヲ定メサルトキハ船舶賃借人ノ申立ニ依リ裁判官ハ場合ノ状況ニ従ヒ始航ヲ遷延スルコトヲ得ヘカラサル時限ヲ定ムヘキモノトス 第五百九十二条 各種ノ運送契約ニアリテハ船舶賃借人ハ荷物ヲ引渡スヘキ期限内同時ニ船長ニ荷物ヲ船積スル為メ必要ナル書類ヲ交付スヘキモノトス 第五百九十三条 船長ハ荷卸スル為メ積荷ノ引渡ヲ受クヘキ者(荷物受取人)又ハ数名ノ荷物受取人ニ積荷ヲ引渡スヘキトキハ其受取総員ヨリ指定スル場所ニ船舶ヲ廻スヘキモノトス 其指定ヲ速ニナサヽルトキ又ハ受取人総員ヨリ同一ノ場所ヲ指定セサルトキ又ハ水ノ深浅船舶ノ安否又ハ其地ノ規則又ハ制度ニ於テ其指定ニ従フコトヲ許サヽルトキ船長ハ其地慣例上ノ荷卸場ニ碇繋スヘキモノトス 第五百九十四条 契約ニ依リ又ハ荷卸港ノ規則ニ依リ及契約規則ナキ場合ニ於テハ其港ニ現行スル慣例ニ依リ他ノ定メナキトキニ限リ船舶ヨリ荷卸スル費用ハ船舶賃貸人ニ於テ之ヲ担当シ其他総テ荷卸ノ費用ハ荷物受取人之ヲ担当スルモノトス 第五百九十五条 船舶全部ノ賃貸ニアリテハ船長ハ荷卸ノ用意整ヒタルトキ直ニ其旨ヲ荷物受取人ニ通知スヘキモノトス 其通知ハ荷物受取人船長ニ知レサルトキハ其地ノ慣例ニ依リ公告ヲ以テ之ヲナスヘキモノトス 荷卸期限ハ其公告ノ翌日ヲ以テ始マルモノトス 船舶賃貸人ハ契約ヲナシタルトキニ限リ荷卸期限ヲ超ヘテ尚ホ荷物受取ヲ待ツヘキモノトス(猶予期限)荷卸期限ニ付テハ反対ヲ契約セサルトキニ限リ別段ノ報酬ヲ求ルコトヲ得ス但猶予期限ニ付テハ報酬(猶予金)ヲ船舶賃貸人ニ与フヘキモノトス 猶予金ハ契約ヲ以テ定メサルトキニ限リ裁判官ニ於テ第五百七十三条ニ依リ之ヲ確定スルモノトス 第五百九十六条 荷卸期限ヲ契約ヲ以テ確定セサルトキ其期限ハ荷卸港ノ規則ニ依リ其規則ナキトキハ其港ニ現行スル慣例ニ依リ之ヲ定ルモノトス此慣例モ亦ナキトキハ其場合ノ状況ニ適切ナル期限ヲ荷卸期限ト看做スモノトス 契約ヲ以テ猶予ヲ定メタルモ其期限ヲ定メサルトキハ猶予期限ハ十四日ナリトス 契約ニ猶予金ノ定メノミヲ掲ルトキ猶予ハ其期限ヲ定ルコトナクシテ契約シタルモノト看做スヘキモノトス 第五百九十七条 荷卸期限又ハ其期限ノ終ルヘキ日ヲ契約ヲ以テ定メタルトキ猶予期限ハ荷卸期限ノ経過ヲ以テ直ニ始マルモノトス 此契約ノ定メナキトキ猶予期限ハ船舶賃貸人ニ於テ荷物受取人ニ対シ荷卸期限ノ経過シタルコトヲ陳述シタル後初テ始マルモノトス船舶賃貸人ハ荷卸期限内ト雖其期限ヲ経過シタリトスル日ヲ荷物受取人ニ陳述スルコトヲ得此場合ニ於テハ荷卸期限ノ終リ及猶予期限ノ始マル為メ更ニ船舶賃貸人ノ陳述ヲ要セサルモノトス 本条ニ掲ケタル船舶賃貸人ノ陳述ニハ第五百七十二条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第五百九十八条 荷卸期限及猶予期限ノ計算ニ方リテハ間断ナク経過スル順序ニ於テ日ヲ算フルモノトス特ニ日曜日及祭日並ニ荷物受取人ノ事変ニ依リ積荷ヲ受取ルコトヲ妨ケラレタル日ヲ算入スルモノトス 但風及天気ニ依リ又ハ其他或ル事変ニ依リ左ノ妨ケヲ受ケタル日ハ之ヲ算入セサルモノトス 第一 船舶ニ存スル積荷ノミナラス各種ノ積荷ヲ船舶ヨリ陸ニ運搬スルコトヲ妨ケラレタルトキ 第二 船舶ヨリ荷卸スルコトヲ妨ケラレタルトキ 第五百九十九条 船舶賃貸人ハ各種ノ積荷ヲ船舶ヨリ陸ニ運搬スルコトヲ妨ケラレタルカ為メ長ク待タサルヘカラサリシ日数ニ付テハ其妨ケノ荷卸期限内ニ生シタルトキト雖猶予金ヲ請求スルノ権アルモノトス船舶賃借人ハ船舶ヨリ荷卸スルコトヲ妨ケラレタルカ為メ長ク待タサルヘカラサリシ日数ニ付テハ其妨ケ猶予期限内ニ生シタルトキト雖猶予金ノ支払ヲナスノ義務ナキモノトス 第六百条 第五百九十六条ニ従ヒ荷卸期限ニ付キ其地ノ規則又ハ慣例標準トナルトキ其期限計算ニ方リテハ前二条ヲ適用スルモノトス但其規則又ハ慣例ニ於テ之ニ違フ定メナキトキニ限ル 第六百一条 船舶賃貸人一定ノ期日マテニ荷卸ヲ終ルヘキコトヲ契約シタルトキハ各種ノ積荷ヲ船舶ヨリ陸ニ運搬スルコトヲ妨ケラレタルモ(第五百九十八条第一)長ク待ツノ義務ヲ負担スルコトナキモノトス 第六百二条 荷物受取人荷物ヲ受取ル為メ準備整ヒタルコトヲ陳述スルモ自己ノ守ルヘキ期限ヲ超ヘテ其受取ヲ淹滞スルトキハ船長ハ受取人ニ通知シテ其荷物ヲ裁判所又ハ其他確カナル方法ヲ以テ蔵寄スルノ権アルモノトス 船長ハ受取人ニ於テ其荷物ノ受取ヲ拒ムトキ又ハ第五百九十五条ニ規定シタル通知ヲ受ルモ其受取ニ付キ陳述セサルトキ又ハ受取人ヲ索知スルコト能ハサルトキハ前項ノ方法ヲ以テ処分シ同時ニ船舶賃借人ニ其旨ヲ通知スルノ義務アルモノトス 第六百三条 荷物受取人ノ懈怠ニ依リ又ハ蔵寄処分ニ依リ船長ノ過失ナクシテ荷卸期限ヲ超ヘタル日数ニ限リ船舶賃貸人ハ猶予金ヲ請求スルノ権アルモノトス(第五百九十五条)但其荷卸期限契約上ノ猶予期限ニアラサルトキニ限リ之ヨリ高額ノ損害ヲ証明シテ申立ルノ権ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第六百四条 第五百九十五条ヨリ第六百三条マテハ船舶ノ一部又ハ一定ノ場所ヲ賃貸シタルトキト雖之ヲ適用スルモノトス 第六百五条 各個荷物ノ受取人ハ船長ノ督促アリタルトキ遅延ナク其荷物ヲ受取ルヘキモノトス受取人船長ニ知レサルトキハ其督促ハ其地慣例ニ依リ公告ヲ以テ之ヲナスヘキモノトス 船長荷物ヲ蔵寄スルノ権利及義務ニ付テハ第六百二条ノ規定ヲ適用スルモノトス第六百二条ニ規定シタル船舶賃借人ヘノ通知ハ其地ノ慣例ニ依リ公告ヲ以テ之ヲナスコトヲ得 荷物受取人ノ懈怠ニ依リ又ハ蔵寄処分ニ依リ船舶荷卸ヲナシタルヘキ期限ヲ超ヘタル日数ニ付キ船舶賃貸人ハ猶予金ヲ受ルノ権アルモノトス(第五百九十五条)但之ヨリ高額ノ損害ヲ証明シテ申立ルノ権ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第六百六条 船舶ノ全部又ハ一部又ハ一定ノ場所ヲ賃貸スルニ方リ船舶賃借人各個荷物ニ付キ運送復契約ヲナシタルトキ船舶原賃貸人ノ権利及義務ニ付テハ第五百九十五条ヨリ第六百三条マテニ従フモノトス 第六百七条 船舶賃貸人ハ荷物ヲ受取リタルヨリ引渡スマテニ於テ荷物ノ喪失又ハ損傷ニ依リ生シタル損害ニ付キ責ヲ負担スルモノトス但船舶賃貸人ニ於テ其喪失又ハ損傷天災ニ依リ又ハ荷物ノ性質ニ依リ特ニ損敗、揮散、通常ノ漏失等ニ依リ又ハ外部ヨリ検知スヘカラサル外包ノ瑕缺ニ依リ生シタルコトヲ証明シタルトキハ此限ニアラス 総テノ注意ヲナシタルモ発見スルコト能ハサリシ船舶ノ瑕缺アル状況ニ依リ生スル喪失及損傷(第五百六十条第二項)ハ天災ニ依リ生スル喪失又ハ損傷ト同視スルモノトス 第六百八条 高価物、金銭及有価証券ニ付テハ船舶賃貸人ハ其性質又ハ荷物ノ価額ヲ荷物引渡ノ際船長ニ明示シタル場合ニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第六百九条 荷物受取人荷物ヲ引受ル前其受取人並ニ船長ハ荷物ノ現状又ハ数量ヲ確定スル為メ其検視ヲ管轄官署又ハ之カ為メ官ヨリ任セラレタル鑑定人ニナサシムルコトヲ得 此手続ヲナスニ方リ状況ノ許ス限リハ其地ニ現在スル対手ヲ立会ハシムヘキモノトス 第六百十条 其引受前検視ヲナサヽルトキハ荷物受取人ハ引受ノ翌日ヨリ四十八時内ニ第六百九条ノ規定ニ従ヒ荷物ノ追補検視ヲナスヘキモノトス之ニ違フトキハ損傷又ハ一部ノ喪失ニ付テノ総テノ請求権消滅スルモノトス此場合ニ於テハ其喪失及損傷ヲ外部ヨリ検知スルコトヲ得シト否トヲ区別セサルモノトス 此定メハ船舶乗組員ノ悪意ノ処置ニ依リ生シタル喪失及損傷ニハ之ヲ適用セサルモノトス 第六百十一条 検視ノ費用ハ之ヲ申立テタル者担当スヘキモノトス 但其検視ヲ荷物受取人ヨリ申立テ及船舶賃貸人ニ於テ賠償ヲナスヘキ喪失又ハ損傷ヲ発見シタルトキ其費用ハ船舶賃貸人ノ責ニ帰スルモノトス 第六百十二条 第六百七条ニ依リ荷物ノ喪失ニ付キ賠償ヲナスヘキトキハ単ニ喪失シタル荷物ノ価額ヲ償フヘキモノトス其価額ハ同一ノ種類及性質ノ荷物喪失シタル荷物ノ到達地ニ於テ船舶荷卸ヲ始ルノ際有スル市価又ハ船舶此地ニ於テ荷卸ヲナサヽルトキハ其到達ノ際到達地ニ於テ有スル市価ニ依テ之ヲ定ルモノトス 市価ナキトキ又ハ市価ニ付キ又ハ其適用ニ付キ特ニ荷物ノ性質ニ関シ疑ノ存スル場合ニアリテハ其代価ハ鑑定人ヲシテ検定セシムルモノトス 荷物ノ喪失ノ為メ運賃、関税及雑費ニ付キ余シタルモノハ之ヲ代価ノ内ヨリ引去ルモノトス 荷物ノ到達地ニ達セサルトキ其到達地ニ代ハルモノハ航海ノ終ル地又ハ船舶ノ喪失ニ依リ航海ヲ終ルトキハ積荷ヲ安全ニナシタル地ナリトス 第六百十三条 第六百十二条ノ規定ハ船主第五百十条ニ依リ賠償ヲナスヘキ荷物ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 売却ヲ以テ荷物ノ処分ヲナス場合ニ於テ其売却純金第六百十二条ニ記載シタル代価ヲ超ルトキハ其売却純金ハ其代価ニ代ハルモノトス 第六百十四条 第六百七条ニ依リ荷物ノ損傷ニ付キ賠償ヲナスヘキトキハ単ニ損傷ニ依テ生シタル荷物ノ減少価格ヲ償フヘキモノトス此減少価額ハ鑑定人ニ於テ検定スヘキ売却価額ニシテ荷物ノ損傷シタル現状ニ於テ有スルモノト損傷ノ為メ余シタル関税及雑費ヲ引去リタル後ノ代価ニシテ第六百十二条ニ記載シタルモノトノ差額ニ依テ定マルモノトス 第六百十五条 荷物ノ受取ニ依リ其受取人ハ受取ヲナスノ憑拠トナル運送契約又ハ運送状ニ依リ運賃及総テノ手数料並ニ猶予金アルトキハ其猶予金ヲ支払ヒ立替ヘラレタル関税及其他ノ立替金ヲ弁償シ及其他自己ニ負担スル義務ヲ履行スルノ義務アルモノトス 船舶賃貸人ハ荷物受取人ヨリ運賃ヲ支払ヒ及其他ノ義務ヲ履行スルトキ荷物ヲ引渡スヘキモノトス 第六百十六条 船舶賃貸人ハ海難大損失ノ為メ荷物ノ負担スル出金救護費及救助費及船舶書入金ヲ支払ヒ又ハ保証シタル後ニアラサレハ荷物ヲ引渡スノ義務ナキモノトス 船舶書入ヲ船主ノ計算ヲ以テナシタルトキ前項ノ規定ヲ適用スルモノトス但尚ホ荷物ヲ引渡サヽル前ニ荷物ヲ船舶書入負債ヨリ免カレシムル為メ注意スル船舶賃貸人ノ義務ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第六百十七条 船舶賃貸人ハ荷物ノ損敗シ又ハ損傷シタルト否トヲ問ハス其荷物ヲ運賃支払ニ代ヘ受取ノ義務ナキモノトス 但流動物ヲ充タシタル容物ヨリ其流動ノ全部又ハ過半航海中ニ流出シタルトキ其容物ハ運賃及其他ノ要求(第六百十五条)ノ支払ニ代ヘ船舶賃貸人ニ之ヲ放任スルコトヲ得 前項ノ権ハ船舶賃貸人漏失ニ付キ責任ヲ負担セサルコトノ契約又ハ「漏失不保」ノ附約ニ依リ妨ケラルヽコトナキモノトス其権ハ容物受取人ノ保管ニ帰シタルトキ直ニ消滅スルモノトス 運送賃ヲ総額ヲ以テ約定シタル場合ニシテ単ニ二三ノ容物ヨリ流動物ノ全部又ハ過半流出シタルトキ其容物ハ運賃ノ一部及其他船舶賃貸人ノ要求ニ代ヘ之ヲ放任スルコトヲ得 第六百十八条 或ル災難ニ依リ喪失シタル荷物ニ付テハ一モ運賃ヲ支払ヒ及前払金アルトキハ其前払ヲ弁償スルノ義務ナキモノトス但反対ヲ約定シタルトキヘ此限ニアラス 此定メハ船舶ノ全部又ハ一部又ハ一定ノ場所ヲ賃貸シタルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス此場合ニ於テハ運賃ヲ総額ヲ以テ約定シタルトキハ荷物ノ喪失部分ノ割合ニ応シ運賃ヲ引去ルコトヲ得 第六百十九条 引渡ヲナサヽルモ其性質ニ依リ(第六百七条)喪失ヲ生シタル荷物並ニ途中ニテ斃レタル禽獣ニ付テハ運賃ヲ支払フヘキモノトス海難大損失ノ為メ投棄シタル荷物ニ付キ運賃ヲ弁償スヘキ額ハ海難大損失ノ規定ニ依テ之ヲ定ルモノトス 第六百二十条 運賃額ニ付キ契約ナクシテ運送ノ為メ引受ケタル荷物ニ付テハ引渡地ニ於テ其際慣例上ノ運賃ヲ支払フヘキモノトス 船舶賃借人ト約定シタル数量ヲ超ヘテ運送ノ為メ引受ケタル荷物ニ付テハ約定シタル運賃ノ割合ニ応シテ其運賃ヲ支払フヘキモノトス 第六百二十一条 運賃ヲ荷物ノ度、量、衡又ハ数量ニ従テ約定シタルトキ疑シキ場合ニ於テハ引渡シタル荷物ノ度、量、衡又ハ数量ヲ以テ運賃額ノ標準トナスヘシ受取リタル荷物ノ度、量、衡又ハ数量ヲ用ユヘカラスト認ムヘキモノトス 第六百二十二条 運賃ノ外衣服料及賞金等ハ之ヲ要求スルコトヲ得ス但之ヲ約定シタルトキハ此限ニアラス 水先案内料、入港料、灯台料、引船料、検疫料、解氷料等ノ如キ通常及非常ノ費用ハ船舶賃貸人ニ於テ立替金ヲ生セシメタル処分ヲ運送契約ニ依リナスノ義務ナカリシトキト雖反対ノ約定ナキトキハ其賃貸人一人ノ責ニ帰スルモノトス 海難大損失ノ場合並ニ積荷ノ維持、救護及救助ノ為メ費用ヲ支出シタル場合ハ本条ノ為メ変更セサルモノトス 第六百二十三条 運賃ヲ期限ヲ以テ約定シタルトキ其期限ハ他ノ約定ナキ場合ニ於テハ船長積荷ヲ受取ル為メ準備シタルコト又ハ底積ヲ以テナス航海ニ方リテハ航海ヲ始ル為メ準備シタルコトヲ通知シタル翌日ヲ以テ経過ヲ始ルモノトス但底積ヲ以テナス航海ニアリテハ未タ此通知ヲ航海ヲ始ル前日ニナサヽルトキニ限リ航海ヲ始ル日ヲ以テ経過ヲ始ルモノトス 猶予金又ハ猶予期限ヲ約定シタルトキ総テノ場合ニ於テ時極運賃ハ航海ヲ始ル日ヲ以テ初メテ経過ヲ始ルモノトス 時極運賃ハ荷卸ヲ終リタル日ヲ以テ終ルモノトス 航海ヲ船舶賃貸人ノ過失ナクシテ淹滞シ又ハ中止スルトキ其中間日時ニ付テハ時極運賃ヲ支払フヘキモノトス但第六百三十九条及第六百四十条ノ規定ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナシ 第六百二十四条 船舶賃貸人ハ第六百十五条ニ記載シタル要求ニ付キ荷物ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス其質主権ハ荷物ヲ留置シ又ハ蔵寄シタル間存立スルモノトス又引渡ヲ終リタル後三十日内ニ質主権ヲ裁判所ニ申立ルトキニ限リ其引渡後ト雖尚ホ継続スルモノトス但其質主権ハ裁判所ニ申立ヲナスノ前荷物受取人ノ為メニ現有スルニアラサル他人ノ保管ニ帰シタルトキ直ニ消滅スルモノトス 第六百二十五条 船舶賃貸人ノ要求ニ付キ争ノ生スル場合ニ於テ船舶賃貸人ハ其争トナリタル額ヲ裁判所又ハ其他ノ蔵寄ヲ受ルノ権アル官署又ハ設置場ニ蔵寄シタルトキ直ニ荷物ヲ引渡スノ義務アルモノトス 其荷物ヲ引渡シタル後船舶賃貸人ハ相当ノ補償ヲナシテ蔵寄シタル額ヲ引出スノ義務アルモノトス 第六百二十六条 船舶賃貸人ノ質主権ノ存立スル間裁判所ハ其求メニ依リ荷物ノ全部又ハ相当部分ヲ船舶賃借人ヘノ弁償ノ為メ公売スヘキコトヲ命スルヲ得 此権ハ所有者ノ其他ノ債主及倒産額ニ対シテモ亦船舶賃貸人之ヲ有スルモノトス 裁判所ハ関係者其他ニ現在スルトキハ公売ヲナス前申立ニ付キ関係者ヲ尋問スヘキモノトス 第六百二十七条 船舶賃貸人ハ荷物ヲ引渡シタルトキ其荷物受取人ニ対シ自己ニ属スル要求(第六百十五条)ニ付キ之ヲ船舶賃借人ニ支払ハシムルコトヲ得ス但船舶賃借人船舶賃貸人ニ損害ヲ加テ自己ニ利益ヲ得タルヘキトキニ限リ償還要求ヲ許スモノトス 第六百二十八条 船舶賃貸人荷物ヲ引渡サスシテ第六百二十六条ノ第一項ニ掲ケタル権利ヲ使用シタルモ荷物ノ売却ヲ以テ完全ナル弁償ヲ得サリシトキ其賃貸人ハ船舶賃借人ニ支沸ハシムルコトヲ得但船舶賃貸人船舶賃借人ト取結ヒタル運送契約ニ依リ生スル要求ニ付キ弁償ヲ受ケサルトキニ限ル 第六百二十九条 荷物受取人荷物ヲ受取ラサルトキ船舶賃借人ハ運賃及其他ノ要求ニ付キ運送契約ニ依リ船舶賃貸人ニ弁償ヲナスノ義務アルモノトス 船舶賃借人荷物ヲ受取ノ場合ニ於テハ第五百九十三条ヨリ第六百二十六条マテノ規定ヲ適用シ船舶賃借人ハ此諸条ニ掲ケタル荷物受取人ニ代ハルモノトス特ニ此場合ニ於テハ船舶賃貸人ハ自己ノ要求ニ付キ第六百二十四条第六百二十五条第六百二十六条ニ従ヒ荷物ニ付テノ留置権及質主権並ニ第六百十六条ニ掲ケタル権利ヲ有スルモノトス 第六百三十条 運送契約ハ航海ヲ始ル前事変ニ依リ左ノ場合アルトキハ一方ヨリ他ノ一方ニ損害賠償ノ義務ヲ負担セシムルコトナクシテ其効力ヲ失フモノトス 第一 船舶喪失スルトキ特ニ 船舶難破スルトキ 船舶修復不能又ハ修復無益ノ言渡サレ(第四百四十四条)及其修復無益ノ場合ニ於テハ遅延ナク公売スルトキ 船舶掠奪セラルヽトキ 船舶押取セラレ又ハ留置セラレ及分取物トシテ言渡サルヽトキ 第二 運送契約ニ於テ種類ニ従テノミナラス各個ニ記載シタル荷物ヲ喪失スルトキ 第三 運送契約ニ於テ各個ニ記載セサルモ荷物ヲ已ニ船舶ニ持込ミ又ハ船舶ニ積込ム為メ荷積場ニ於テ船長ノ受取リタル後喪失スルトキ 但第三ニ記載シタル場合ニ於テ荷物ノ喪失尚ホ滞留期限(第五百八十条)内ニ生シタルトキ契約ハ船舶賃借人遅延ナク喪失シタル荷物ニ代ヘ他ノ荷物(第五百六十三条)ヲ引渡スコトヲ用意シタリト陳述シ及尚ホ滞留期限内ニ其引渡ヲ始ルトキニ限リ其効力ヲ失ハサルモノトス船舶賃借人ハ成ルヘク短期限内ニ他ノ荷物ノ引渡ヲ終リ此引渡ノ為メ多額ノ費用ヲ生スルトキハ之ヲ担当シ及引渡ノ為メ滞留期限ヲ超ルトキニ限リ之カ為メ船舶賃貸人ニ生スル損害ヲ賠償スヘキモノトス 第六百三十一条 各方ハ左ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ義務ヲ負担スルコトナクシテ契約ヲ解クノ権アルモノトス 第一 航海ヲ始ル前 船舶留置セラレ又ハ国君又ハ他国ノ役務ノ為メ差押ヘラレタルトキ 到達地トノ通商ヲ禁止スルトキ 荷物引渡港又ハ到達港鎖サルヽトキ 運送契約ニ従ヒ船積ミスヘキ荷物ヲ荷物引渡港ヨリ輸出シ又ハ其荷物ヲ到達港ニ輸入スルコトヲ禁止スルトキ 其他政府ノ処分ニ依リ船舶ノ出港又ハ航海又ハ運送契約ニ依リ引渡スヘキ荷物ノ運送ヲ妨ルトキ 但前ニ掲ル総テノ場合ニ於テ政府ノ処分ハ其生シタル妨碍一時ニアラスト予期スヘキトキニ限リ解約ノ権ヲ与ルモノトス 第二 航海ヲ始ル前戦端ヲ開キ之カ為メ船舶又ハ運送契約ニ従ヒ船積ミスヘキ荷物又ハ船舶及荷物自由ノモノト看做サルヽヲ得ス及押取セラルヽノ危険ニ遭フノ恐レアルトキ 第五百六十三条ニ於テ船舶賃借人ニ与ヘタル権利ノ執行ハ本条ノ規定ノ場合ニ於テ妨ケラルヽコトナキモノトス 第六百三十二条 航海ヲ始ルノ後船舶事変ニ依リ喪失スルトキ(第六百三十条第一)ハ運送契約ハ終ハルモノトス但船舶賃借人ハ荷物救護セラレ又ハ救助セラルヽトキニ限リ運賃ヲ既ニ経過シタル航路ト全航海トノ割合ニ応シテ支払フヘキモノトス(里程運賃) 里程運賃ハ救助セラレタル荷物ノ価額ニ達スル部分ニ限リ之ヲ支払フヘキモノトス 第六百三十三条 里程運賃ノ計算ニ方リテハ既ニ経過シタル距離ト向後経過スヘキ距離トノ割合ノミナラス又概算上終ハリタル航海ノ部分ト附帯スル費用及時間及危険及勤労ノ支出ト終ハラサル航海ノ部分ノ費用及時間及危険及勤労トノ関係ヲ準率トスルモノトス 双方ニ於テ里程運賃ノ額ニ付キ協議整ハサルトキ之ニ付キ裁判官ハ衡平ノ見込ヲ以テ裁決スルモノトス 第六百三十四条 運送契約ノ解除ハ関係者ノ不在ノ場合ニ於テハ船舶ノ喪失シタル後ト雖積荷ノ保護ニ注意スヘキ船長ノ義務ニ一モ変更ヲ生セサルモノトス(第五百四条ヨリ第五百六条マテ)此時船長ハ特ニ已ムヲ得サルノ場合ニ於テ予メ照会ヲナサヽルモ状況ニ応シ積荷ヲ関係者ノ計算ニテ他ノ船舶ヲ以テ到達港ニ送致セシメ又ハ其積荷ヲ蔵入シ又ハ売却シ及運送又ハ蔵入ノ場合ニ於テハ之ニ付キ並ニ積荷ノ維持ニ付キ必要ナル金銭ヲ得ル為メ積荷ノ一部ヲ売却シ又ハ運送ノ場合ニ於テハ積荷ノ全部又ハ一部ヲ書入スルノ権利及義務ヲ有スルモノトス 但船長ハ里程運賃及其他船舶賃貸人ノ要求(第六百十五条)及積荷ノ負担スル海難大損失ノ出金、救護費及救助費及船舶書入金ヲ支払ヒ又ハ保証シタル後ニアラサンハ積荷ヲ引渡シ又ハ運送ノ為メ他ノ船舶ニ交付スルノ義務ナキモノトス 本条第一項ニ従ヒ船長ノ負担スル義務ノ履行ニ付テモ亦船主ハ船舶救助セラレタル部分アルトキハ其部分及運賃ヲ以テ其責任ヲ負担スルモノトス 第六百三十五条 航海ヲ始メタル後事変ニ依リ荷物ヲ喪失スルトキ運送契約ハ一方ニ於テ他方ニ損害賠償ノ義務ヲ負担セシムルコトナクシテ消滅スルモノトス特ニ法律ニ於テ反対ノ定メ(第六百十九条)ナキトキニ限リ運賃ノ全額又ハ一部ヲ払フコトヲ要セス 第六百三十六条 航海ヲ始メタル後第六百三十一条ニ掲ケタル事変ノ一生スルトキ各方ハ損害賠償ノ義務ヲ負担スルコトナクシテ契約ヲ解クノ権アルモノトス 但第六百三十一条第一ニ記載シタル事変ノ一生シタルトキハ解約ヲナスノ前妨碍ヲ除ク為メ船舶欧洲内ノ港ニ碇泊スルト又ハ欧州外ノ港ニ碇泊スルトニ応シ三月間又ハ五月間待ツヘキモノトス 其期限ハ船長港内ニ滞在中ニ其妨碍ヲ聞知スルトキハ其聞知シタル日ヨリ起算シ其他ノ場合ニアリテハ船長妨碍ヲ知了シタル後船舶ト共ニ初テ港ニ達スル日ヨリ起算スルモノトス 船舶ノ荷卸ハ他ニ契約ナキ場合ニ於テハ解約ヲ陳述スルトキ碇泊スル港ニ於テ之ヲナスモノトス 航海ノ経過シタル部分ニ付テハ船舶賃借人ハ里程運賃(第六百三十二条第六百三十三条)ヲ支払フノ義務アルモノトス 船舶妨碍ノ為メ出発港又ハ他ノ港ニ帰着シタルトキ里程運賃ノ計算ニ方リテハ到達港ニ最モ近クシテ船舶ノ達シタル所ヲ以テ経過シタル距離ヲ確定スルノ標準トナスヘキモノトス 船長ハ本条ノ場合ニ於テモ亦運送契約ヲ解除スルノ前後ニ於テ第五百四条ヨリ第五百六条マテ及第六百三十四条ニ従ヒ荷物ノ保護ニ住意スヘキノ義務アルモノトス 第六百三十七条 船舶積荷ヲ受取リタル後航海ヲ始ル前荷物引渡港ニ於テ又ハ航海ヲ始メタル後中間港又ハ避難港ニ於テ第六百三十一条ニ掲ケタル事変ノ一ノ生シタル為メ滞在スヘキトキ後日契約ヲ解除スルト又ハ全ク履行スルトニ拘ハラス其滞在費用ハ海難大損失ノ要件ナキトキト雖海難大損失ノ原則ニ従ヒ船舶、運賃及積荷ニ之ヲ分配スルモノトス滞在費用ニハ第七百八条第四ノ第二項ニ掲ケタル総テノ費用ヲ算入スルモノトス但入港及出港ノ費用ハ妨碍ノ為メ避難港ニ入港シタルトキニ限リ之ヲ算入スルモノトス 第六百三十八条 単ニ積荷ノ一部航海ヲ始ル前事変ニ罹ル場合ニシテ其事変積荷ノ全部ニ及ヒタルニ於テハ第六百三十条及第六百三十一条ニ従ヒ契約ヲ解除シタルヘキモノナルトキ又ハ双方解約スルノ権ヲ有シタルヘキモノナルトキ船舶賃借人ハ他ノ積荷ヲ運送スルニ依リ船舶賃貸人ノ位地ヲ困難ナラシメサルトキ(第五百六十三条)ニ限リ契約上ノ荷物ニ代ヘ他ノ荷物ヲ引渡スノ権又ハ約定シタル運賃ノ半額及其他船舶賃貸人ノ要求ヲ支払(第五百八十一条及第五百八十二条)フノ義務ヲ負担シテ契約ヲ解除スルノ権ノミヲ有スルモノトス但船舶賃借人ハ此権利ヲ執行スルニ方リ其他ノ場合ニ於テ守ルヘキ期限ニ拘束セラルヽコトナシト雖此両権ノ孰レヲ使用セント欲スルヤヲ遅延ナク陳述シ及他ノ荷物ノ引渡ヲナストキハ其引渡ヲ最短期限内ニナシ又其引渡ノ為メ多額ノ費用ヲ生スルトキハ之ヲ負担シ及其引渡ニ依リ待留期限ヲ超過スルトキニ限リ之ニ依テ船舶賃貸人ニ生スル費用ヲ弁償スヘキモノトス 船舶賃借人ハ両権利ヲ全ク使用セサルトキハ積荷ノ事変ニ罹リタル部分ニ付テモ亦運賃全額ヲ支払フヘキモノトス又船舶賃借人ハ何レノ場合ニ於テモ戦争、輸入禁令又ハ其他政府ノ処分ニ依リ不自由物トナリタル積荷ノ一部ヲ船舶ヨリ持出スノ義務アルモノトス 事変航海ヲ始メタル後生スルトキ船舶賃借人ハ其事変ニ罹リタル積荷ノ部分ニ付テハ船長到達港ヨリ他ノ港ニ於テ其部分ヲ荷卸セサルヘカラサルニ至リト認メ其後滞在シ又ハ滞在セスシテ航海ヲ継続シタルトキト雖運賃ノ全額ヲ支払フヘキモノトス 第六百十八条及第六百十九条ノ規定ハ本条ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第六百三十九条 第六百三十一条ヨリ第六百三十八条マテノ場合ヲ除クノ外航海ヲ始ルノ前後ニ於テ天災又ハ其他ノ事変ニ依リ生スル滞在ハ之カ為メ認知スルヲ得ヘキ契約ノ旨趣ヲ無効ナラシムルニアラサレハ双方ノ権利及義務ニ関係ヲ有セサルモノトス但船舶賃借人ハ事変ニ依リ生シタル各滞在長キ時間ヲ要スルト見込ムトキハ其滞在中遅延ナク荷積ヲナスコトニ付キ保証ヲナシテ自己ノ危険及費用ヲ以テ既ニ船舶ニ積込ミタル荷物ヲ卸スノ権アルモノトス船舶賃借人荷積ヲナサヽルトキハ全運賃額ヲ支払フヘキモノトス船舶賃借人ハ如何ナル場合ニ於テモ自己ノナシタル荷卸ニ依リ生スル損害ヲ賠償スヘキモノトス 政府ノ処分ニ依リ滞在ヲ生スルトキ其時間ニ付テハ運賃ヲ支払フノ義務ナキモノトス但其運賃時極ナリシトキ(第六百二十三条)ニ限ル 第六百四十条 船舶航海中ニ修復スヘキトキ船舶賃借人ハ船舶ノ碇泊スル地ニ於テ運賃ノ全額及其他船舶賃貸人ノ要求(第六百十五条)ヲ支払ヒ及第六百十六条ニ掲ケタル要求ヲ支払ヒ又ハ保証シテ積荷ノ全部ヲ取戻シ又ハ修復ヲ待ツノ権アルモノトス其修復ヲ待ツ場合ニ於テハ修復ノ時間ニ付キ運賃ヲ支払フノ義務ナキモノトス但其運賃時極ナリシトキニ限ル 第六百四十一条 第六百三十条ヨリ第六百三十六条マテニ従ヒ運送契約ヲ解除スルトキ船舶ヨリ荷卸スルノ費用ハ船舶賃貸人之ヲ担当シ其他ノ荷卸費用ハ船舶賃借人之ヲ担当スルモノトス但積荷ノミ事変ニ罹リタルトキ荷卸費用ノ全額ハ船舶賃借人ノ責ニ帰スルモノトス第六百三十八条ノ場合ニ於テ積荷ノ一部ヲ荷卸スルトキ亦同一ナリトス此場合ニ於テ荷卸ノ為メ港ニ立寄ルヘキトキ船舶賃借人ハ入港費ヲモ亦担当スヘキモノトス 第六百四十二条 第六百三十条ヨリ第六百四十一条マテハ船舶積荷ヲ受取ル為メ底積ミシテ荷物引渡港ヘ向航スヘキトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス但航海ハ此場合ニ於テハ荷物引渡港ヨリ之ヲ始メタルトキ初テ始メタルモノト看做ス契約ハ船舶荷物引渡港ニ到着シタル後ト雖其港ヨリ航海ヲ始ルノ前ニ於テ之ヲ解除スルトキ船舶賃貸人ハ向航ニ付キ里程運賃ノ原則(第六百三十三条)ニ従ヒ定ムヘキ損害賠償ヲ受ルモノトス 其他復航海ノ場合ニ於テ前項ノ規定ハ契約ノ性質及旨趣ニ違ハサル部分ニ限リ之ヲ適用スルコトヲ得 第六百四十三条 契約船舶ノ全部ニ関セスシテ単ニ其一部又ハ一定ノ場所又ハ各個荷物ニ関スルトキ左ノ場合ヲ除キ第六百三十条ヨリ第六百四十二条マテヲ適用スルモノトス 第一 第六百三十一条及第六百三十六条ノ場合ニ於テハ各方ハ妨碍ノ生シタル後直ニ及妨碍ノ時間ニ拘ハラス契約ヲ解除スルノ権アルモノトス 第二 第六百三十八条ノ場合ニ於テハ船舶賃借人ハ契約ヲ解除スルノ権ヲ執行スルコトヲ得ス 第三 第六百三十九条ノ場合ニ於テハ船舶賃借人ハ他ノ賃借人ニ於テ其承諾ヲナストキニ限リ一時荷卸スルノ権ヲ有スルモノトス 第四 第六百四十条ノ場合ニ於テハ船舶賃借人ハ運賃全額及其他ノ要求ヲ支払テ荷物ヲ取戻スコトヲ得但修復中其支払ヲナサスシテ其荷物ノ荷卸ヲナシタルトキニ限ル 第五百八十八条及第五百九十条ノ規定ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第六百四十四条 各個ノ荷物引渡ヲ終リタル後船長ハ荷物受取ノ際交付シタル仮受取証ヲ返付セシメテ遅延ナク荷物引渡人ノ求ル員数ニ応シテ運送状ヲ之ニ交付スヘキモノトス 運送状ノ各通ハ総テ同一ノ旨趣ニシテ同一ノ日付ヲ有シ及幾通交付シタルヤヲ明記スヘキモノトス 荷物引渡人ハ自己ノ署名ヲ備ヘタル運送状ノ謄本ヲ船長ノ求メニ依リ之ニ交付スヘキモノトス 第六百四十五条 運送状ニハ左ノ件々ヲ記載スヘキモノトス 第一 船長ノ氏名 第二 船舶ノ称号及本籍 第三 荷物引渡人ノ氏名 第四 荷物受取人ノ氏名 第五 荷物引渡港 第六 荷卸港又ハ荷卸港ニ付テノ差図ヲ受クヘキ地 第七 引渡シタル荷物、其数量及記号 第八 運賃ノ定メ 第九 運送状交付ノ地及日 第十 交付シタル運送状ノ員数 第六百四十六条 荷物引渡人ノ求メニ依リ反対ノ契約ナキトキニ限リ荷物受取人ノ指名ニテ交付シ又ハ単ニ指名ニテ交付スヘキモノトス終リノ場合ニ於テ指名トハ荷物引渡人ノ指名ト解スヘキモノトス 運送状ハ亦荷物受取人タル船長ノ記名ナルコトヲ得 第六百四十七条 船長ハ荷卸港ニ於テ単ニ運送状ノ一通ニテモ正当ナル持主ニハ荷物ヲ引渡スノ義務アルモノトス 運送状ニ依リ荷物ヲ受取ルヘキ者又ハ運送状指名ナルトキハ裏書ヲ以テ譲渡サレタル者ハ荷物受取ノ為メ之ヲ正当ノ者ナリトス 第六百四十八条 正当ナル運送状ノ持主数名申出ルトキ船長ハ其持主総員ヲ退斥シテ荷物ヲ裁判所ニ蔵寄シ又ハ其他確カナル方法ヲ以テ蔵寄シ及其申出テタル運送状持主ニ処分ノ理由ヲ付シテ其旨ヲ通知スルノ義務アルモノトス 裁判所ニ其蔵寄ヲナサヽルトキ船長ハ其処分及処分ノ理由ニ付キ公製証書ヲ調製セシメ及之ニ依テ生スル費用ヲ運賃ニ於ケルト同一ニ荷物ニ負担セシムルノ権アルモノトス(第六百二十六条) 第六百四十九条 指名運送状ニ依リ荷物受取人ノ為メ正当ナル資格ヲ有スル者ニナス其運送状ノ交付ハ荷物ヲ現ニ引渡シタルトキ直ニ荷物ノ交付ニ依テ定マル権利ノ得有ニ付キ荷物ノ交付ニ於ケルト同一ノ法律上効力ヲ有スルモノトス 第六百五十条 指名運送状ノ数通ヲ交付シタル場合ニアリテ其一通ノ持主ハ第一通ノ持主ニ於テ引渡ノ請求ヲナスノ前第六百四十七条ニ従ヒ他ノ一通ニ依リ船長ヨリ荷物ノ引渡ヲ得タル者ヲ害スル為メ前条ニ掲ケタル運送状交付ノ法律上効力ヲ申立ルコトヲ得ス 第六百五十一条 船長未タ荷物ヲ引渡サヽリシ場合ニ於テ申出ル数名ノ運送状持主ヨリ運送状交付ニ依テ荷物ニ付キ申立テタル権利ニ関シ争ヲ生スルトキ及其部分ニ限リ其持主間ニ於テハ数通ノ運送状ヲ各異ノ人ニ譲渡シタル共通譲渡人ヨリ其一人ニ荷物ヲ受取ル正当ノ資格ヲ与ヘテ最初ニ譲渡シタル者先行スルモノトス 他ノ地ニ送リタル運送状ニアリテ其交付ノ時ハ発送ノ時ニ依テ定マルモノトス 第六百五十二条 船長ハ荷物ノ引渡ヲ証記スヘキ運送状一通ノ返付ヲ受ケタルトキニ限リ荷物ヲ引渡スノ義務アルモノトス 第六百五十三条 運送状ハ船舶賃貸人及荷物受取人間ノ権利上関係ニ付テノ標準トナルモノトス特ニ受取人ヘノ荷物ノ引渡ハ運送状ノ旨趣ニ従テ之ヲナスヘキモノトス 運送状ニ記載セサル運送契約ノ定メハ明ニ之ヲ引用スルニアラサレハ荷物受取人ニ対シ法律上効力ナキモノトス運賃ニ付キ運送契約ヲ引用スルトキ(例ヘハ運賃ハ船舶貸借契約書ニ依ルノ語ヲ以テス)ハ其契約ニハ荷卸期限、猶予期限及猶予金ニ付テノ定メヲ包含セサルモノト看做スヘキモノトス 船舶賃貸人及船舶賃借人間ノ権利上関係ニ付テハ運送契約ノ定メ標準トナルモノトス 第六百五十四条 船舶賃貸人ハ引渡サレタル荷物ノ運送状ニ於ケル記載ノ正否ニ付キ荷物受取人ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス但其責任ハ荷物ト運送状ニ於ケル記載ト相違スルニ依リ生スル減少価額ノ賠償ニ限ルモノトス 第六百五十五条 前条ニ掲ケタル船舶賃貸人ノ責任ハ荷物ヲ外包ノ侭又ハ密閉シタル桶ヲ以テ船長ニ交付シタルトキト雖生スルモノトス 其交付方運送状ニ依リ判然スルトキ船舶賃貸人ハ荷物ノ記載ノ正否ニ付キ荷物受取人ニ対シ責任ヲ負担スルコトナキモノトス但船舶賃貸人通常船長ノ注意ヲナシタルモ運送状ニ於ケル記載ノ不正ナルコトヲ実検スル能ハサリシコトヲ証明セサルトキハ此限ニアラス 船舶賃貸人ノ責任ハ引渡サレタル荷物ト引受ケタル荷物ト同一ナルコトニ付キ争ヲ生セサルモ又ハ船舶賃貸人其同物ナルコトヲ証明シタルモ之カ為メ免カルヽコトナキモノトス 第六百五十六条 荷物ヲ外包ノ侭又ハ密閉シタル桶ヲ以テ船長ニ交付シタルトキ船長ハ運送状ニ「内容不明」ノ語ヲ附記スルコトヲ得運送状ニ此附記又ハ之ト同旨ノ附記ヲ掲ルトキ船舶賃貸人ハ引渡サレタル内容ト運送状ニ掲ケタル内容ト相違スル場合ニ於テハ船舶賃貸人ニ於テ引渡サレタルヨリ他ノ内容ヲ受取リタルコトヲ証明セラルヽトキニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第六百五十七条 運送状ニ員数、度量又ハ衡ヲ記載シタル荷物ヲ船長ニ対シ計ヘス度量セス又ハ衡ラサルトキ船長ハ運送状ニ「員数度量衡不明」ノ語ヲ附記スルコトヲ得運送状ニ此附記又ハ之ト同旨ノ附記ヲ掲ルトキ船舶賃貸人ハ引受ケタル荷物員数、度量又ハ衡ニ関スル運送状ノ記載ノ正否ニ付キ責任ヲ負担スルコトナキモノトス 第六百五十八条 運賃ヲ荷物ノ員数、度量又ハ衡ニ応シテ約束シ及運送状ニ員数、度量又ハ衡ヲ記載シタルトキ其記載ハ運送状ニ於テ他ノ定メヲ掲ケサルトキニ限リ運賃計算ノ標準トナルモノトス員数、度量、衡不明ノ附記又ハ之ト同旨ノ附記ハ之ヲ他ノ定メト看做スヘカラサルモノトス 第六百五十九条 運送状ニ「破砕不保」又ハ「漏失不保」又ハ「損傷不保」ノ附記又ハ之ト同旨ノ附記ヲ掲ケタルトキ船舶賃貸人ハ船長又ハ自己ニ責任ヲ負担スル人ノ過失ヲ証明セラルヽニ至ルマテハ破砕又ハ漏失又ハ損傷ニ付キ責任ヲ負担スルコトナキモノトス 第六百六十条 損傷粗悪ノ品質又ハ損傷又ハ粗悪ノ外包ノ判然スル荷物ヲ船長ニ交付シタルトキ船長ハ其瑕缺ヲ運送状ニ記載スヘキモノトス之ニ違フトキ船長ハ前条ニ掲ケタル附記ノ一ヲ運送状ニ記載シタルトキト雖荷物受取人ニ対シ其瑕缺ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第六百六十一条 船長ハ指名運送状ヲ交付シタル後ハ運送状ノ総通ヲ返付セラレタルトキニ限リ荷物ノ返付又ハ引渡ニ関スル荷物引渡人ノ差図ニ従フコトヲ許スモノトス 船長到達港ニ到着セサル間ハ運送状持主ノ荷物引渡ニ付テノ要求ニ関シテモ亦前項同一ナリトス 船長前二項ノ規定ニ背反スルトキハ運送状ノ正当ナル持主ニ対シ義務ヲ負担スルモノトス 運送状指名ナラサルトキ船長ハ荷物引渡人及運送状ニ記載シタル荷物受取人ニ於テ荷物ノ返付又ハ引渡ヲ承諾スルトキニ限リ運送状ノ一通ヲ持参セサルトキト雖荷物ノ返付又ハ引渡ヲナスヘキモノトス但運送状ノ総通ヲ返付セサルトキ船長ハ之カ為メ生スルノ恐レアル損害ニ付キ予メ保証ヲ要求スルコトヲ得 第六百六十二条 第六百六十一条ノ規定ハ運送契約ヲ到達港ニ達スルノ前事変ニ依リ第六百三十条ヨリ第六百四十三条マテニ従ヒ解除スルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第六百六十三条 船長ハ自己ニ取結ヒタル運送契約及交付シタル運送状ヨリ生スル義務ニ関シテハ第四百七十八条第四百七十九条及第五百二条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第六百六十四条 復運送契約ノ場合ニアリテ復契約ノ履行ニ付テハ其執行船長ノ職務上ノ義務ニ属シ及船長ニ於テ特ニ荷物ヲ受取リ及運送状ノ交付ヲ引受ケタルトキニ限リ復船舶賃貸人ノ責ニ帰スルコトナクシテ船主船舶及運賃ヲ以テ責任ヲ負担スルモノトス(第四百五十二条) 其他復船舶賃借人船主又ハ復船舶賃貸人ニ対シ請求ヲナスコトヲ得ルヤ及其程度及其請求ヲナス場合ニ於テ復船舶賃貸人履行ニ付キ無限責任ヲ負担スルヤ又ハ単ニ船舶及運賃ニ限リタル船主ノ責任ヲ引受クヘキヤハ前項ノ規定ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第六章 旅客ノ運送契約 第六百六十五条 旅客ノ氏名ヲ渡航契約ニ掲ケタルトキ其旅客ハ渡航ノ権ヲ他人ニ譲与スルノ権ナキモノトス 第六百六十六条 旅客ハ船舶ノ秩序ニ関スル船長ノ総テノ差図ニ従フノ義務アルモノトス 第六百六十七条 航海ヲ始ルノ前又ハ始メタル後遅延ナク船舶ニ乗込マサル旅客ハ船長ニ於テ其旅客ヲ待ツコトナクシテ航海ヲ始メ又ハ継続スルトキ渡航賃全額ヲ支払フヘキモノトス 第六百六十八条 旅客航海ヲ始ルノ前ニ渡航契約ノ解除ヲ申込ミ又ハ死去スルトキ又ハ疾病又ハ其他其身体上ニ関シ生スル事変ニ依リ滞在セサルヘカラサルトキハ単ニ渡航賃ノ半額ヲ支払フヘキモノトス 航海ヲ始メタル後解約ヲ申込ミ又ハ前項ニ掲ケタル事変ノ一生スルトキハ渡航賃全額ヲ支払フヘキモノトス 第六百六十九条 渡航契約ハ事変ニ依リ船舶ヲ喪失スルトキハ効力ヲ失フモノトス(第六百三十条第一) 第六百七十条 旅客ハ船舶ヲ自由ナラスト看做スコトヲ得タル上押取ノ恐レアル戦端ヲ開クトキ又ハ船舶ニ関スル政府ノ処分ニ依リ航海ヲ停止スルトキハ契約ヲ解除スルノ権アルモノトス 此解約ノ権ハ船舶賃貸人前項ノ一場合ニ於テ航海ヲ止ルトキ又ハ船舶ヲ主トシテ荷物ノ運送ニ供シタルトキニシテ自己ノ過失ナクシテ荷物ヲ運送スルコト能ハサル為メ航海ヲ止ムヘキトキハ船舶賃貸人ニモ亦属スルモノトス 第六百七十一条 第六百六十九条及第六百七十条ニ依リ渡航契約ヲ解除シタル総テノ場合ニ於テ其一方ハ他方ニ損害賠償ヲナスノ義務ナキモノトス 但航海テ始メタル後初テ其解除ヲナシタルトキ旅客ハ経過シタル航海ト全航海トノ割合ニ応シテ渡航賃ヲ支払フヘキモノトス 其支払フヘキ額ノ計算ニ方リテハ第六百三十三条ノ規定標準トナルモノトス 第六百七十二条 船舶航海中修復ヲナスヘキトキ旅客ハ其修復ヲ待タサルトキト雖渡航賃全額ヲ支払フヘキモノトス旅客修復ヲ待ツトキ船舶賃貸人ハ航海ヲ再ヒ始ルマテ別段ノ報酬ヲ得ルコトナクシテ之ニ住所ヲ与ヘ渡航契約ニ依リ賄ニ関シ旅客ニ対シ負担スル義務ヲモ亦続テ履行スヘキモノトス 但船舶賃貸人旅客ニ対シ他ノ契約上権利ヲ害スルコトナクシテ同一ナル他ノ好便ニ託シテ到達港ニ運送スヘキコトヲ申入レ旅客其申入ヲ用ルコトヲ拒ムトキ旅客ハ航海ヲ再ヒ始ルマテ住所及賄ノ給与ヲ請求スルコトヲ得ス 第六百七十三条 旅客渡航契約ニ従ヒ船舶ニ持込ムノ権アル旅ヒ荷物ノ運送ニ付キ旅客ハ別段ノ契約ナキトキハ渡航賃ノ外別段ノ報酬ヲ支払フノ義務ナキモノトス 第六百七十四条 第五百六十二条第五百九十四条第六百十八条ノ規定ハ船舶ニ持込ミタル旅ヒ荷物ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 旅ヒ荷物ヲ船長又ハ其荷物ヲ担当スル他人ニ於テ引受ケタルトキ其喪失又ハ毀損ノ場合ニアリテハ第六百七条第六百八条第六百九条第六百十条第六百十一条ノ規定ヲ適用スルモノトス 旅客ノ船舶ニ持込ミタル総テノ物件ニハ其他第五百六十四条第六百六十五条第五百六十六条及第六百二十条ヲ適用スルモノトス 第六百七十五条 船舶賃貸人ハ渡航賃ニ関シ旅客ノ船舶ニ持込ミタル物件ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス 但此質主権ハ其物件ヲ留置シ又ハ蔵寄シタル間ニ限リ存立スルモノトス 第六百七十六条 旅客死去スルトキ船長ハ其船舶ニ存スル荷物ニ付キ場合ノ状況ニ応シ適切ナル方法ヲ以テ相続人ノ利益ヲ保護スヘキモノトス 第六百七十七条 船舶ヲ旅客運送ノ為メ他人ニ賃貸スルトキハ船舶ノ全部ヲ以テスルト又ハ一部ヲ以テスルト又ハ一定数ノ旅客ヲ運送スヘキトヲ問ハス船舶賃貸人ト他人トノ間ノ権利上関係ニ付テハ第五章ノ規定ヲ適用スルモノトス但事ノ性質ニ於テ其適用ヲ許ストキニ限ル 第六百七十八条 此編ノ以下数章ニ於テ運賃ト記載スル場合ニアリテハ反対ノ定メナキトキニ限リ其運賃ニハ渡航賃ヲモ包含スルモノトス 第六百七十九条 移住事件ニ関スル各邦法律ハ民法上規定ヲ掲ル部分ト雖此章ノ規定ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第七章 船舶書入 第六百八十条 此法ニ謂ヘル船舶書入ハ船長其資格ヲ以テ此法ニ於テ之ニ与ヘタル権限ニ依リ保険料ヲ与ヘ及船舶、運賃及積荷又ハ此物件ノ一個又ハ数個ヲ抵当トナシ取結フ貸付契約ニシテ其契約ヲ取結ヒタル航海(船舶書入航海)ヲ終ルヘキ地ニ船舶ノ到着シタル後其抵当(書入)トナリタル物件ニ付テノミ債主其請求ヲナスコトヲ得ルノ方法ヲ以テ取結フモノナリトス 第六百八十一条 船舶書入ハ左ノ場合ニ限リ船長之ヲ取結フコトヲ得 第一 船舶本籍港外ニ碇泊中ハ第四百九十七条第五百七条ヨリ第五百九条マテ及第五百十一条ニ従ヒ航海ヲナス為メニスルトキ 第二 航海ハ積荷関係者ノミノ利益ニ於テ第五百四条第五百十一条及第六百三十四条ニ従ヒ積荷ヲ維持シ及運送スル為メニスルトキ 第二ノ場合ニ於テハ船長ハ積荷ノミヲ書入スルコトヲ得総テ其他ノ場合ニ於テハ船長ハ船舶又ハ運賃ノミヲ書入スルコトヲ得但積荷ハ船舶及運賃ト合スルニアラサレハ之ヲ書入スルコトヲ得ス 運賃ヲ記載スルコトナクシテナス船舶ノ書入ニハ運賃ノ書入ヲ包含セサルモノトス但船舶及積荷ヲ書入スルトキハ運賃ハ之ヲ共ニ書入シタルモノト看做ス 運賃ノ書入ハ運賃未タ海難ヲ免カレサル間ハ之ヲ許スモノトス 未タ始メサル航海部分ノ運賃モ亦之ヲ書入スルコトヲ得 第六百八十二条 船舶書入保険料ノ額ハ制限ナクシテ之ヲ双方ノ協議ニ任カスモノトス 其保険料ハ反対ノ契約ナキトキハ利子ヲモ包含スルモノトス 第六百八十三条 船舶書入ニ付テハ船長ヨリ船舶書入状ヲ交付スヘキモノトス之ヲ交付セサルトキ債主ハ船長ニ於テ需求ヲ充ス為メ単純ノ信用契約ヲ取結ヒタルヘキトキ自己ニ属スヘキ権利ヲ有スルモノトス 第六百八十四条 書入債主ハ船舶書入状ニ左ノ件々ヲ記載スヘキコトヲ求ルヲ得 第一 船舶書入債主ノ氏名 第二 船舶書入負債ノ元金額 第三 船舶書入保険料ノ額又ハ債主ニ支払フヘキ全額 第四 船舶書入トナリタル物件 第五 船舶及船長 第六 船舶書入航海 第七 船舶書入負債ヲ支払フヘキ時 第八 支払ヲナスヘキ地 第九 証書ノ本文ニ書入状タルコトノ明文又ハ負債ヲ船舶書入負債トシテ取結ヒタル旨又ハ船舶書入タルコトヲ充分ニ表スル陳述 第十 船舶書入ノ契約ヲナサヽルヘカラサル状況 第十一 交付ノ日及地 第十二 船長ノ署名 船長ノ署名ハ求メニ依リ公証シテ之ヲナスヘキモノトス 第六百八十五条 船舶書入債主ノ求メニ依リ船舶書入状ハ反対ノ契約ナキトキニ限リ債主ノ指名ニテ交付シ又ハ単ニ指名ニテ之ヲ交付スヘキモノトス単ニ指名ノ場合ニ於テ指名トハ船舶書入債主ノ指名ナリト解スヘキモノトス 第六百八十六条 船舶書入状ヲ交付スル前其契約ヲ取結フコトノ必要ヲ本国ノ領事又ハ其事務ヲ担当スヘキ領事其領事ナキトキハ交付ノ地ノ裁判所又ハ其他ノ権限ヲ有スル官署又ハ其官署ナキトキニ限リ船舶士官ニ於テ証書ヲ以テ証明シタルトキハ船長其範囲内ニ於テ契約ヲ取結フノ権ヲ有シタリト看做スモノトス 但反対証ハ之ヲ挙ルコトヲ許スモノトス 第六百八十七条 船舶書入債主ハ船舶書入状数通ノ交付ヲ求ルコトヲ得 数通ヲ交付シタルトキハ其各通ニ幾通交付シタルヤヲ記スヘキモノトス 船舶書入状ハ指名ノモノナルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ譲渡スコトヲ得 船長契約ヲ取結フ権ヲ一般ニ有セサルコト又ハ其場合ノ範囲内ニ於テ其権ヲ有セサリシコトノ異議ハ裏書譲受人ニ対シテモ亦之ヲナスヲ許スモノトス 第六百八十八条 船舶書入負債ハ船舶書入状ニ他ノ定メナキトキニ限リ船舶書入航海ノ到達港ニ於テ船舶此港ニ到着シタル後八日目ニ之ヲ支払フヘキモノトス 其支払日ヨリ保険料ヲ合ハセ船舶書入全額ニ付キ商人間ノ利子ヲ付スルモノトス 前項ノ規定ハ保険料時極ナルトキハ之ヲ適用セサルモノトス但時極保険料ハ船舶書入元金ヲ支払フマテ之ヲ付スルモノトス 第六百八十九条 支払期日ニ方リテハ船舶書入負債ノ支払ハ単ニ船舶書入状ノ一通ニテモ正当ナル持主ニ対シ之ヲ拒ムコトヲ得ス 其支払ハ之ニ付テノ受取証ヲ記スヘキ船舶書入状ヲ返付スルニアラサレハ之ヲ求ルコトヲ得ス 第六百九十条 正当ナル船舶書入状ノ持主数名申出ルトキ其数名ハ之ヲ退斥シ書入セラレタル物件ノ責ヲ免カレシムヘキトキハ金銭ヲ裁判所ニ蔵寄シ又ハ其他確カナル方法ヲ以テ蔵寄シ及申出テタル船舶書入状持主ニ其処分ノ理由ヲ付シテ之ヲ通知スヘキモノトス 裁判所ニ其蔵寄ヲナサヽルトキ蔵寄者ハ其処分及処分ノ理由ニ付キ公製証書ヲ調製セシメ及之ニ依テ生スル費用ヲ船舶書入負債ヨリ引去ルノ権アルモノトス 第六百九十一条 海難大損失及海難各部損失ハ船舶書入債主ノ責ニ帰セサルモノトス 但書入トナリタル物件海難大損失又ハ海難各部損失ニ依リ船舶書入債主ヘノ弁償ノ為メ不足スル部分ニ限リ其債主ハ之ニ依テ生スル損害ヲ担当スヘキモノトス 第六百九十二条 書入シタル総テノ物件ハ船舶書入債主ニ対シ各自独立シテ責任ヲ負担スルモノトス 支払満期前ト雖債主ハ船舶書入航海ノ到達港ニ船舶ノ到着シタル後書入シタル総テノ物件ノ差押ヲ求ルコトヲ得 第六百九十三条 船長ハ書入シタル物件ノ保管及維持ニ付キ注意スヘキモノトス船長ハ船舶書入債主ノ危険ヲシテ契約ヲ取結フノ際予期スヘキヨリ大ナラシメ又ハ異ナラシムル行為ヲ已ムヲ得サルノ理由ナクシテナスコトヲ許サヽルモノトス 船長ハ此規定ニ背反スルトキハ船舶書入債主ニ対シテ之ニ依テ生スル損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス(第四百七十九条) 第六百九十四条 船長船舶書入航海ヲ恣ニ変更シタルトキ又ハ其航海ニ応スル航路ニ恣ニ違戻スルトキ又ハ其航海ノ終リタル後書入シタル物件ヲ債主ノ利益ノ為メノ必要ナクシテ更ニ海難ニ任カシタルトキハ債主ニ於テ書入セラレタル物件ヨリ其弁償ヲ受取ラサル部分ニ限リ之ニ対シ書入負債ニ付キ無限責任ヲ負担スルモノトス但船長ニ於テ其弁償不足額航海ノ変更又ハ航路ノ違戻又ハ新タナル海難ニ依テ生セサリシコトヲ証明スルトキハ此限ニアラス 第六百九十五条 船長ハ書入シタル積荷ノ全部又ハ一部ヲ債主ヘノ弁償又ハ保証ヲナスノ前引渡スヲ許サス之ニ違フトキハ債主ニ於テ引渡ノ際引渡サレタル荷物ヨリ弁償ヲ受ルコトヲ得タルヘキ部分ニ限リ之ニ対シ書入負債ニ付キ無限責任ヲ負担スルモノトス 反対証ノ挙ルマテハ債主ニ於テ其完全ナル弁償ヲ求ルコトヲ得タリト認ルモノトス 第六百九十六条 船主ハ第六百九十三条第六百九十四条第六百九十五条ノ場合ニ於テ船長ノ処分ヲ命シタルトキハ第四百七十九条第二項及第三項ノ規定ヲ適用スルモノトス 第六百九十七条 支払期日ニ船舶書入負債ヲ支払ハサルトキ債主ハ書入セラレタル船舶及積荷ノ公売並ニ書入セラレタル運賃ノ交付ヲ管轄裁判所ニ申立ルコトヲ得 訴訟ハ船舶及運賃ニ関シテハ船長又ハ船主ニ対シ積荷ニ関シテハ其引渡前ニハ船長ニ対シ其引渡後ニハ荷物受取人ニ対シ之ヲナスヘキモノトス但其積荷受取人ニ存シ又ハ之カ為メ現有スル他人ニ存スルトキニ限ル 書入セラレタル積荷ノ現有ヲ良心ヲ以テナシタル他ノ得有者ヲ害スル為メ債主ハ自己ノ権利ヲ使用スルコトヲ得ス 第六百九十八条 書入セラレタル荷物ヲ受取ルノ際其荷物船舶書入負債ノ責ヲ負担スルコトヲ知了シタル荷物受取人ハ債主ニ対シ引渡ノ際荷物ノ有セシ価額ニ至ルマテ負債ニ付キ無限責任ヲ負担スルモノトス但引渡ヲナサヽリシ場合ニ於テ債主荷物ヨリ弁償ヲ受ルコトヲ得タルヘキ部分ニ限ル 第六百九十九条 船舶書入航海ヲ始ルノ前航海ヲ止ルトキ債主ハ船舶書入契約ヲ取結ヒタル地ニ於テ船舶書入航海ノ即時支払ヲ求ルノ権アルモノトス但債主ハ保険料ノ割引ヲ承諾スヘキモノトス其割引ニ付テハ特ニ受ケタル危険ト引受ケタル危険トノ割合標準トナルモノトス 船舶書入航海其到達港ヨリ他ノ港ニ於テ終ルトキ船舶書入負債ハ保険料ヲ引去ルコトナクシテ此他港ニ於テ契約上支払期限ノ経過後及其期限ナキトキハ八日(第六百八十八条)ノ支払期限ノ経過後之ヲ支払フヘキモノトス其支払期限ハ航海停止ノ確定シタル日ヨリ之ヲ起算スルモノトス 本条ニ於テ他ノ定メナキトキニ限リ第六百八十九条ヨリ第六百九十八条マテハ前諸項ノ場合ニ於テモ亦適用スルモノトス 第七百条 本章ノ規定ノ適用ハ船長同時ニ船舶又ハ積荷又ハ船舶及積荷ノ共同所有者又ハ独立所有者タルモ又ハ船長関係者ノ特別差図ニ依リ船舶書入契約ヲ取結ヒタルモ之カ為メ妨ケラルヽコトナキモノトス 第七百一条 第六百八十一条ニ掲ケタル場合ニ於テ船長其資格ヲ以テ取結ヒタルモノニアラサル類似船舶書入契約ニ付テノ規定ハ之ヲ各邦法律ニ任カス 第八章 海難損失 第一節 海難大(共通)損失及海難各部損失 第七百二条 共通ノ危険ヨリ船舶及積荷ヲ救フノ目的ヲ以テ船長ニ於テ又ハ船長ノ命令ニ依リ故意ヲ以テ船舶又ハ積荷又ハ船舶及積荷ニ加フル総テノ損害並ニ此処分ニ依リ其他生シタル損害並ニ同一ノ目的ノ為メ支出スル費用ハ之ヲ海難大損失ナリトス 海難大損失ハ船舶運賃及積荷ニ於テ共同シテ之ヲ負担スルモノトス 第七百三条 海難大損失ニ属セスシテ災難ニ依リ生シタル総テノ損害及費用ハ之ヲ海難各部損失ナリトス但其費用ハ第六百二十二条ニ属セサルモノニ限ル 海難各部損失ハ船舶及積荷ノ所有者ニ於テ各自独立シテ之ヲ負担スルモノトス 第七百四条 海難大損失ノ規定ノ適用ハ危険ヲ他人又ハ関係者ノ過失ニ依リ生シタルモ之カ為メ妨ケラルヽコトナキモノトス 其過失ノ責ヲ負担スル関係者ハ自己ニ生シタル損害ニ付キ補償ヲ求ルコトヲ得サルノミナラス出金義務者損害ヲ海難大損失トシテ分配セラルヽカ為メ受ル損失ニ付キ之ニ対シテモ亦責任ヲ負担スルモノトス 危険乗組員ノ過失ニ出テタルトキ船主モ亦第四百五十一条第四百五十二条ニ従ヒ其過失ノ結果ヲ担当スルモノトス 第七百五条 海難損失ノ分配ハ船舶並ニ積荷特ニ其各物件ノ全部又ハ一部現ニ救助セランタルトキニ限リ之ヲナスモノトス 第七百六条 救助セラレタル物件ニ付キ出金スルノ義務ハ其物件其後海難各部損失ヲ被ルモ其物件ノ全部ヲ喪失スルトキニアラサレハ全ク消滅セサルモノトス 第七百七条 海難大損失ニ属スル損傷ノ補償ニ付テノ請求権ハ其損傷シタル物件ノ更ニ損傷スルト又ハ全ク喪失スルトヲ問ハス其後被ル海難各部損失ニ依テ消滅スルモノトス但其後ノ災難其前ノ災難ト全ク関係セサルノミナラス其前ノ損害既ニ生セサリシニ於テハ其後ノ災難ニ依リ其損害ヲモ亦生セシメタルヘキコトヲ証明スル部分ニ限ル 但其後ノ災難ノ生スル前損傷シタル物件ヲ修復スル為メ既ニ費用ヲ支出シタルトキハ其支出ニ付キ補償ヲ請求スルノ権アルモノトス 第七百八条 海難大損失ハ左ノ場合ニ於テ生スルモノトス但損失中同時ニ本条ニ別段ノ定メナキトキニ限リ第七百二条第七百四条及第七百五条ノ要件ナキトキハ此限ニアラス 第一 商品船舶ノ部分又ハ船舶器具ノ投棄セラルルトキ檣綱又ハ帆ヲ截断セラルヽトキ錨、錨綱又ハ錨鎖ヲ曳行カレ又ハ截断セラルヽトキ 其損害並ニ其処分ニ依リ船舶又ハ積荷ニ其他生シタル損害ハ海難大損失ニ属スルモノトス 第二 船舶ヲ軽易ニナス為メ積荷ノ全部又ハ一部ヲ艀船ニ積替ヘタルトキ 艀船賃、艀船ニ積替ヘノ際又ハ船舶ニ積戻ノ際積荷又ハ船舶ニ加ヘタル損害並ニ艀船ニ於テ積荷ノ被リタル損害ハ海難大損失ニ属スルモノトス 航海ノ通常経過中船舶ヲ軽易ニナスヘキトキハ海難大損失ハ生セサルモノトス 第三 船舶ヲ故意ヲ以テ海浜ニ乗上ルトキ但之ヲ以テ沈没又掠奪ヲ防クヲ目的トセシトキニ限ル 海浜乗上ケ及乗下シニ依テ生シタル損害並ニ乗下シノ費用ハ海難大損失ニ属スルモノトス 沈没ヲ防ク為メ海浜ニ乗上ケタル船舶ヲ乗下サス又ハ乗下シ後修復不能(第四百四十四条)ト認ルトキ海難損失ノ分配ハ之ヲナサヽルモノトス 船舶及積荷ヲ救助スルヲ目的トスルコトナクシテ船舶ヲ海浜ニ乗上ケタルトキハ其乗上ケニ依テ生シタル損害ハ海難大損失ニ属セサルモ其乗下シノ為メ支出シタル費用及之カ為メ船舶及積荷ニ故意ヲ以テ加ヘタル損害ハ海難大損失ニ属スルモノトス 第四 航海ヲ継続スル場合ニ於テ船舶及積荷ノ罹ントスル共通ノ危険ヲ避ル為メ船舶避難港ニ立寄ルトキ特ニ航海中船舶ノ被リタル破損ヲ修復セサルヘカラサル為メ立寄リタルトキハ海難大損失ニ属スルモノトス 此場合ニ於テ海難大損失ニ属スルモノハ入港及山港ノ費用船舶ニ関スル碇泊費用、碇泊中船舶乗組員ニ属スル給料及賄並ニ船舶乗組員船舶ニ止ルコト能ハサルトキ及其間乗組員ヲ上陸セシムルニ付テノ費用、其他避難港ニ立寄ルニ至ラシメタル理由ニ依リ積荷ヲ荷卸スヘキ場合ニ於テ荷卸及荷積ノ費用及積荷ヲ再ヒ船舶ニ積込ムコトヲ得ル時ニ至ルマテ積荷ヲ陸ニ保管スル費用ナリトス 総テノ碇泊費用ハ避難港ニ立寄ルニ至ラシメサル理由ノ継続スル時間ニ限リ計算スルモノトス船舶ヲ修復セサルヘカラサルノ理由アルトキハ其他碇泊費用ハ其修復ヲ終ルコトヲ得タルヘキ時マテニ限リ計算スルモノトス 船舶修復ノ費用ハ修復スル破損海難大損失ナル部分ニ限リ海難大損失ニ属スルモノトス 第五 船舶ヲ敵又ハ海賊ニ対シ防禦シタルトキ 其防禦ノ際船舶又ハ積荷ニ加ヘタル損傷、其防禦ノ際消費シタル弾薬及其防禦ノ際船舶乗組員傷痍ヲ被リ又ハ死去シタル場合ニ於テ其治療費及埋葬費並ニ支払フヘキ賞与(第五百二十三条第五百二十四条第五百四十九条第五百五十一条)ハ海難大損失ナリトス 第六 敵又ハ海賊船舶ヲ留置シタル場合ニ於テ船舶及積荷ヲ買戻シタルトキ 其買戻ノ為メ与ヘタルモノハ人質ノ給与及解除ノ為メ生シタル費用ト共ニ之ヲ海難大損失トス 第七 航海中海難大損失ニ引当ル為メ必要ナル金銭ヲ準備スルニ依リ損失及費用ヲ生シタルトキ又ハ関係者ニナス決算ニ依リ費用ヲ生シタルトキ 此損失及費用ハ同シク海難大損失ニ属スルモノトス 特ニ海難大損失ニ属スルモノハ航海中売却シタル荷物ノ損失、必要ナル金銭ヲ船舶書入ヲ以テ得タルトキハ船舶書入保険料、之ヲナサヽルトキハ支出シタル金銭ノ保険料、損害ノ検出費用及海難大損失ニ付テノ計算(海大難損失計算)費用ナリトス 第七百九条 左ニ掲ルモノハ海難大損失ト看做サス海難各部損失ト看做スモノトス 第一 航海中ト雖海難各部損失ノ為メ必要トナリタル金銭ヲ準備スルニ依リ生スル損失及費用 第二 船舶及積荷ヲ共ニ有効ニ取戻シタルトキト雖其取戻費用 第三 海浜乗上ケ又ハ掠奪ヲ防ク為メ速力ヲ過度ニナシタルトキト雖其過度ナルニ依リ生シタル船舶其附属品及積荷ノ損傷 第七百十条 海難大損失ノ場合ニ於テハ左ニ掲ル物件ニ関スル損傷及喪失ハ之ヲ損害ノ計算ニ入レサルモノトス 第一 甲板ノ上ニ積ミタル荷物但此規定ハ沿岸通行ニアリテハ之ニ関シ甲板上積込ミヲ各邦法律ヲ以テ許シタルトキニ限リ之ヲ適用セサルモノトス(第五百六十七条) 第二 運送状ヲ交付セス及証明証書又ハ荷積簿ニ載セサル荷物 第三 船長ニ相当ニ明記セサル高価物、金銭及有価証券(第六百八条) 第七百十一条 船舶及其附属品ニ生シタル損害ニシテ海難大損失ニ属スルモノハ修復ヲ航海中ニナストキ其修復ノ地ニ於テ其修復前ニ其他ノ場合ニアリテハ航海ヲ終ル地ニ於テ鑑定人ニ之ヲ検出シ及評価セシムヘキモノトス其評価書ニハ必要ナル修復費用ノ予算ヲ記載スヘキモノトス其評価書ハ航海中修復スルトキハ実費ニシテ予算額ヲ超ヘサル部分ニ限リ損害計算ノ標準トナルモノトス但其評価書ヲ記載スルコト能ハサリシトキハ必要ナル修復ニ現ニ支出シタル費用ノ額標準トナルモノトス 修復ヲ航海中ニナサヽルトキハ其評価特ニ損害計算ノ標準トナルモノトス 第七百十二条 前条ニ従ヒ検出シタル修復費用ノ全額ハ船舶損傷ノ時未タ満一年航海セサリシトキ其ナスヘキ補償ノ標準トナルモノトス 船舶ノ各部特ニ鉱板並ニ附属品ノ各部ヲ未タ満一年使用セサリシトキ其各部ノ補償ニ付テモ亦前項同一ナリトス 其他ノ場合ニアリテハ新旧ノ差ニ依リ全額ヨリ三分一ヲ引去リ錨鎖ニアリテハ六分一ヲ引去ルモノトス但錨ニアリテハ一モ引去ルコトナシ 其他新物ヲ以テ代ヘ又ハ代フヘキ旧物尚ホ存スルトキハ其売却金又ハ価額ヲ全額ヨリ引去ルモノトス 此引去ト同時ニ新旧ノ差ニ依ル引去ヲナストキハ先ツ新旧ノ差ニ依ル引去ヲナシ次ニ其残額ヨリ始メテ他ノ引去ヲナスヘキモノトス 第七百十三条 投棄シタル荷物ニ付テノ補償ハ同種類及同品質ノ荷物到達港ニ於テ船舶荷卸ヲ始ルノ際有スル市価ニ依リ定マルモノトス 市価ナキトキ又ハ其適用ニ付キ特ニ荷物ノ性質ニ関シ疑ノ生スルトキ其価ハ鑑定人ヲシテ之ヲ検出セシムルモノトス 荷物ノ喪失ニ依リ運賃、関税及費用ノ余リタルモノハ其代価ヨリ之ヲ引去ルモノトス 投棄シタル荷物ニハ海難大損失ニ引当ル為メ売却シタルモノ(第七百八条第七)モ亦属スルモノトス 第七百十四条 海難大損失ニ属スル損傷ヲ被リタル荷物ノ補償ハ荷物損傷シタル状況ノ侭到達港ニ於テ船舶荷卸ヲ始ルノ際有スル売却代価ニシテ鑑定人ノ検出スヘキモノト損傷ノ為メ余シタル関税及費用トニ限リ之ヲ引去リタル後前条ニ記載シタル代価トノ差ニ依テ定マルモノトス 第七百十五条 海難ノ前又ハ其際又ハ其後生シタル価額減少及喪失ニシテ海難大損失ニ属セサルモノハ補償計算ノ際(第七百十三条第七百十四条)之ヲ引去ルヘキモノトス 第七百十六条 航海ヲ船舶及積荷ニ関シ到達港ニ於テ終ヘス他ノ地ニ於テ終ルトキハ此他ノ地ハ補償ヲ検出スル為メ到着地ニ代ハルモノトス航海ヲ船舶ノ喪失ニ依リ終ルトキハ積荷ヲ安全ニシタル地補償検出ノ為メ到達地ニ代ルモノトス 第七百十七条 失ヒタル運賃ニ付テノ補償ハ投棄シタル荷物船舶ト共ニ到着地ニ達シタルヘキトキ又ハ船舶其地ニ達セサル場合ニ於テハ航海ヲ終ル地ニ達シタルヘキトキ其荷物ニ付キ支払フタルヘキ運賃額ニ依テ定マルモノトス 第七百十八条 海難大損失トナル全損害ハ価額及金額ノ割合ニ応シ船舶積荷及運賃ニ分配スルモノトス 第七百十九条 船舶及附属品ハ左ニ掲ルモノヲ以テ出金スルモノトス 第一 船舶及附属品現状ノ侭航海ノ終リニ於テ荷卸ヲ始ルノ際有スル価額 第二 海難大損失トシテ計算スル船舶及附属品ノ損害 海難ノ後始メテナシタル修復及準備品ノ価額ニシテ尚ホ存スルモノハ第一項ニ掲ケタル価額ヨリ之ヲ引去ルヘキモノトス 第七百二十条 積荷ハ左ニ掲ルモノヲ以テ出金スルモノトス 第一 航海ノ終リニシテ荷卸ヲ始ルノ際尚ホ存スル荷物又ハ航海ヲ船舶ノ喪失ニ依リ終ルトキ(第七百十六条)ハ保全シタル荷物但此両場合ニ於テ其荷物海難ノ際船舶又ハ艀船(第七百八条第二)ニ存スルモノトス 第二 投棄シタル荷物(第七百十三条) 第七百二十一条 出金ヲ検出スルニ方リテハ左ノ価額ニ依テ計算スルモノトス 第一 損傷セサル荷物ニ付テハ其荷物航海ノ終リニシテ船舶荷卸ヲ始ルノ際及其地ニ於テ有シ又ハ航海ヲ船舶ノ喪失ニ依リ終ルトキ(第七百十六条)ハ救護ノ際及其地ニ於テ有スル市価又ハ鑑定人ノ検出スヘキ代価(第七百十三条)但運賃関税及其他ノ雑費ヲ引去ルモノトス 第二 航海中損敗シ又ハ海難大損失ニ属セサル損傷ヲ受ケタル荷物ニ付テハ鑑定人ノ検出スヘキ売買価(第七百十四条)ニシテ第一ニ記載シタル時及地ニ於テ有スルモノ但運賃関税及其他ノ雑費ヲ引去ルモノトス 第三 投棄シタル荷物ニ付テハ第七百十三条ニ従ヒ其荷物ニ付キ海難大損失トシテ計算スル額 第四 海難大損失ニ属スル損傷ヲ受ケタル荷物ニ付テハ第二ノ規定ニ従ヒ検出スヘキ価額ニシテ其荷物ノ損傷シタル現状ニ於テ有スルモノ及第七百十四条ニ従ヒ其損傷ニ付キ海難大損失トシテ計算スル価額ノ差 第七百二十二条 荷物ヲ投棄シタルトキ其荷物ハ其救護ノ場合ニ於テ所有者補償ヲ求ルトキニ限リ同時ノ海難大損失又ハ其後ノ海難大損失ニ付キ出金スヘキモノトス 第七百二十三条 運賃ハ左ニ掲ル三分二ヲ以テ出金スヘキモノトス 第一 其得ヘキ総額 第二 第七百十七条ニ従ヒ海難大損失トシテ計算スル額 三分ノ二ニ定メタル部分ヲ二分ノ一マテニ減スルハ之ヲ各邦法律ニ任カス 渡航賃ハ船舶ノ喪失スル場合ニ於テ失ヒタルヘキ額(第六百七十一条)ヲ以テ出金スルモノトス但其際余シタルヘキ雑費ヲ引去ルモノトス 第七百二十四条 出金義務ヲ有スル物件其後ノ海難ニ於テ生スル要求ニ付キ責ヲ負担スルトキ其物件ハ其要求ヲ引去リタル後ノ価額ノミヲ以テ出金スルモノトス 第七百二十五条 左ニ掲ルモノハ海難大損失ニ付キ出金セサルモノトス 第一 船舶ノ軍需品及食糧ノ蓄蔵 第二 船舶乗組員ノ給料及所持品 第三 旅客ノ旅ヒ荷物 此種類ノ蓄蔵又ハ所持品又ハ旅ヒ荷物投棄シ又ハ海難大損失ニ属スル損傷ヲ受ケタルトキ此等ノモノニ付テハ第七百十三条ヨリ第七百十七条マテニ従ヒ補償ヲ与ルモノトス但高価物、金銭及有価証券ヲ以テ成ル所持品及旅ヒ荷物ニ付テハ之ヲ船長ニ相当ニ明示シタルトキニ限リ(第六百八条)補償ヲ与ルモノトス補償ヲ与ル蓄蔵、所持品及旅ヒ荷物ハ海難大損失トシテ計算スル額又ハ価額ノ差ヲ以テ出金スルモノトス 第七百十条ニ掲ケタル物件ハ救護セラレタル部分ニ限リ出金義務ヲ有スルモノトス 船舶書入金ハ出金ノ義務ナキモノトス 第七百二十六条 海難損失ノ後及航海ヲ終リ荷卸ヲ始ルマテニ於テ出金義務ヲ有スル物件ノ全部(第七百六条)又ハ一部ヲ喪失シ又ハ其物件特ニ第七百二十四条ノ場合ニ於ケル価額減少ヲ生スルトキハ其他ノ物件ニ於テ支払フヘキ額ヲ割合ニ応シテ増加スルモノトス 荷卸ヲ始メタル後初テ喪失又ハ価額減少ヲナシタルトキ物件ノ負担スル額ハ此物件其額ヲ払フ為メ不足シタル部分ニ限リ補償権利者之ヲ失フモノトス 第七百二十七条 補償権利者ハ船舶及運賃ニ於テ支払フヘキ額ニ付キ船舶債主ノ権利ヲ有スルモノトス(第十章)其権利者ハ出金義務ヲ有スル荷物ニ付テモ亦各個荷物ニ於テ負担スヘキ額ニ付キ其各個荷物ニ対シ質主権ヲ有スルモノトス但此質主権ハ荷物引渡ノ後良心ヲ以テ現有シタル他ノ得有者ヲ害スル為メ之ヲ申立ルコトヲ得ス 第七百二十八条 出金ヲ支払フ為メ負担スル無限ノ義務ハ海難損失ニ依リ自ラ生スルコトナキモノトス 但出金義務ヲ有スル荷物ノ受取人ハ荷物ヲ受取ルノ際其荷物ニ於テ出金ヲ支払フヘキコトヲ知了シタルトキハ其出金ニ付キ引渡ノ際荷物ノ有セシ価額マテ無限ノ義務ヲ負担スルモノトス但其額引渡ヲナサヽリシ場合ニ於テ荷物ヨリ弁償スルコトヲ得タルヘキ部分ニ限ル 第七百二十九条 損害ノ確定及分配ハ到達地ニ於テ之ヲナシ到達地ニ達セサルトキハ航海ヲ終ル港ニ於テ之ヲナスモノトス 第七百三十条 船長ハ遅延ナク海難損失ノ計算ヲナサシムルノ義務アルモノトス此義務ニ背反スルトキ船長ハ各関係者ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス 海難損失ノ計算ヲ遅延ナクナサシメサルトキ各関係者ハ其計算ヲ申立テ及之ヲナスコトヲ得 第七百三十一条 此法ノ行ハルヽ地ニ於テ海難損失ノ計算ハ常任シタル者又ハ常任者ナキトキハ裁判所ヨリ特ニ任シタル者(海難損失計算者)之ヲナスモノトス 各関係者ハ海難損失計算ヲナス為メ必要ナル証書ニシテ其処分ニ属スルモノニ限リ特ニ船舶貸借契約書、運送状及商品代価書ヲ海難損失計算者ニ交付スルノ義務アルモノトス 海難損失計算ノ手続及其計算ノ実行ニ付テノ細則ヲ発スルハ之ヲ各邦法律ニ任カス 第七百三十二条 船舶ニ於テ弁済スヘキ額ニ付テハ第七百二十九条ニ従ヒ損傷ノ確定及分配ヲナスヘキ港ヲ船舶ノ発スルコトヲ得ル前各関係者ニ対シ保証ヲナスヘキモノトス 第七百三十三条 船長ハ海難損失出金義務ヲ負担スル荷物其出金ヲ支払ヒ又ハ保証スル前(第六百十六条)引渡スコトヲ許サス之ニ違フトキ船長ハ其荷物ノ義務ヲ変更スルコトナクシテ出金ニ付キ無限責任ヲ負担スルモノトス 船主船長ノ処分ヲ命シタルトキハ第四百七十九条第二項及第三項ノ規定ヲ適用スルモノトス 出金義務ヲ有スル荷物ニ対シ補償権利者ニ属スル質主権ハ其権利者ニ代ハリ船舶賃貸人之ヲ執行スルモノトス 第七百三十四条 船長ハ航海ヲ継続スル為メニスルモ海難大損失ニ属セサル支出ノ為メ積荷ヲ書入シ又ハ其一部ヲ売却シ又ハ支用シテ処分スルトキ積荷関係者其賠償請求ニ付キ船舶及運賃ヨリ全ク弁償ヲ受ルコト能ハサル喪失(第五百九条第五百十条第六百十三条)ハ海難大損失ノ原則ニ従ヒ積荷関係者ノ総員之ヲ担当スヘキモノトス 其喪失ヲ検出スルニ方リ積荷関係者トノ関係ニ付テハ総テノ場合特ニ第六百十三条第二項ノ場合ニ於テモ亦第七百十三条ニ記載シタル補償標準トナルモノトス売却シタル荷物ハ海難大損失ノ生スルトキ其損失ニ付テモ亦此補償ヲ定ル価額ヲ以テ出金スルモノトス(第七百二十条) 第七百三十五条 其他海難大損失ノ原則ニ従ヒ分配スヘキ損害及費用ニ付テハ第六百三十七条標準トナルモノトス 第六百三十七条及第七百三十四条ノ場合ニ於テ支払フヘキ出金及生スル補償ハ法律上総テノ関係ニ於テ海難大損失ノ場合ニ於ケル出金及補償ト同一ナリトス 第二節 船舶ノ衝突ニ依リ生スル損害 第七百三十六条 二個ノ船舶衝突シ及一方又ハ双方ニ於テ其衝突ニ依リ単ニ船舶又ハ積荷又ハ船舶及積荷ヲ損傷シ又ハ全ク喪失スルトキ一方ノ船舶乗組員其過失ニ依リ其衝突ヲ生セシメタル場合ニアリテハ其船主第四百五十一条及第四百五十二条ニ従ヒ衝突ニ依リ他ノ船舶及其積荷ニ加ヘタル損害ヲ賠償スルノ義務アルモノトス 其両船舶ノ積荷ノ所有者ハ損害ヲ償フ為メ出金スルノ義務ナキモノトス 船舶乗組員自己ノ過失ノ結果ヲ負担スル無限責任ハ本条ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第七百三十七条 此両船舶又ハ他ノ船舶ノ乗組員ノ孰レニモ過失ノ帰セサルトキ又ハ双方ノ過失ニ依リ衝突ヲ生シタルトキハ此船舶又ハ他ノ船舶又ハ両船舶ニ加ヘタル損害ノ賠償ニ付キ請求スルコトヲ得ス 第七百三十八条 前二条ハ両船舶又ハ此船舶又ハ他ノ船舶航行又ハ漂流又ハ碇泊又ハ繋留中ナルト否トヲ分タス之ヲ適用スルモノトス 第七百三十九条 衝突ニ依リ損傷シタル船舶港ニ達スルコトヲ得ル前沈没スルトキ船舶ノ沈没ハ衝突ノ結果ナリシト推測スルモノトス 第七百四十条 船舶権制水先案内者ノ運用中ニアリタル場合ニシテ船舶乗組員自己ニ負担スル義務ヲ尽シタルトキ其船主ハ其水先案内者ノ過失ニ出テタル衝突ニ依リ生シタル損害ニ付キ責任ヲ免ルヽモノトス 第七百四十一条 此節ノ規定ハ船舶三個以上衝突スルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 此場合ニ於テ衝突一方ノ船舶乗組員ノ過失ニ出テタルトキ其船主ハ其船舶ト他ノ船舶トノ衝突ニ依リ他ノ船舶ト第三船舶トノ衝突ヲ惹起シタルカ為メ生スル損害ニ付テモ亦責任ヲ負担スルモノトス 第九章 海難ニ於ケル救護及救助 第七百四十二条 海難ニ於テ船舶又ハ其積荷ノ全部又ハ一部船舶乗組員ノ処分ヲ離レ又ハ乗組員ヨリ放棄セラレシ後他人之ヲ収得シテ保全ニナストキ其他人ハ救護報酬ノ請求権ヲ有スルモノトス 前項ノ場合ノ外船舶又ハ其積荷他人ノ救助ニ依リ海難ヨリ救ハルヽトキ其他人ハ単ニ救助報酬ノ請求権ヲ有スルモノトス 難破シ又ハ危険ニ罹リタル船舶乗組員ニハ救護報酬又ハ救助報酬ノ請求権属セサルモノトス 第七百四十三条 尚ホ海難中救護報酬又ハ救助報酬ノ額ニ付キ契約ヲ取結ヒタルトキハ約束シタル報酬ノ著シク過度ナルカ為メ其契約ニ対シ不服ヲ唱ヘ及其報酬ヲ状況ニ応スル度ニ減スルコトヲ得 第七百四十四条 契約ナキ場合ニ於テ救護報酬又ハ救助報酬ノ額ハ裁判官場合ノ総テノ状況ヲ斟酌シ衡平ノ見込ヲ以テ之ヲ金銭ニ確定スルモノトス 第七百四十五条 救護報酬又ハ救助報酬ハ同時ニ救護及救助ノ為メナシタル支出ノ補償ヲ包含スルモノトス 官署ノ費用及手数料救護又ハ救助セラレタル物件ヨリ支払フヘキ関税及其他ノ諸税及其物件ノ保管、維持、価額評定及売却ノ費用ハ救護報酬又ハ救助報酬ニ包含セラレサルモノトス 第七百四十六条 救護報酬又ハ救助報酬ノ額ヲ定ルニ方リテハ特ニ証明セラレタル尽力、費シタル時間、ナシタル労役、ナシタル支出、労働シタル人ノ員数、其人ノ身体及其船舶ノ被リタル危険並ニ救護又ハ救助セラレタル物件ノ被ラントシタル危険及費用(第七百四十五条第二項)ヲ引去リタル後残リタル物件ノ価額ヲ計算ニ立ルモノトス 第七百四十七条 救護報酬又ハ救助報酬ハ双方同意ノ申立テナクシテ救護又ハ救助セラレタル物件ノ価額ノ割合部分ニ応シ之ヲ確定スルコトヲ許サス 第七百四十八条 救護報酬ノ額ハ救護セラレタル物件(第七百四十六条)ノ価額ノ三分一ヲ超ユヘカラス 非常ノ尽力及危険ヲ以テスルニアラサレハ救護スルコト能ハサル場合ニシテ同時ニ其救護セラレタル物件ノ価額一層低価ナルトキハ之ヲ例外トシ其額ハ価額ノ二分一マテ増加スルコトヲ得 第七百四十九条 救助報酬ハ同一ノ状況ニシテ救護報酬ニ達シタルヘキ額以内ニ毎ニ之ヲ確定スヘキモノトス救助報酬ヲ定ルニ方リ救助セラレタル物件ノ価額ハ単ニ参考ニ取ルヘキモノトス 第七百五十条 数人救護又ハ救助ニ関係シタルトキ救護報酬又ハ救助報酬ハ其各人ノ身体上及物件上供給ニ応シテ其数人ニ之ヲ分配シ其疑シキ場合ニ於テハ平均ニ之ヲ分配スルモノトス 同一ノ危険ニ於テ人ノ救助ニ従事シタル者モ亦同一ノ分配ヲ受ルノ権アルモノトス 第七百五十一条 船舶又ハ其積荷ノ全部又ハ一部他ノ船舶ヨリ救護又ハ救助セラルヽトキ其救護報酬又ハ救助報酬ハ契約ニ別段ノ定メナキトキニ限リ他ノ船舶ノ船主船長及其他ノ乗組員ノ間ニ於テ分配シ船主ハ二分一船長ハ四分一及其他ノ乗組員モ亦合シテ四分一ヲ受ルモノトス其乗組員間ノ分配ハ各人ニ属スル給料又ハ其等級ニ応シ属スヘキ給料ノ割合ヲ以テ之ヲナスモノトス 第七百五十二条 左ニ掲ル者ハ一モ救護報酬及救助報酬ノ請求権ヲ有セサルモノトス 第一 何人タリトモ其労役ヲ強テナシタル者特ニ現在スル船長ノ許可ヲ受ルコトナクシテ船舶ニ乗込ミタル者 第二 何人タリトモ救護シタル物件ヲ船長所有者又ハ管轄官署ニ速ニ届出テサリシ者 第七百五十三条 救護報酬及救助報酬ヲモ亦算入スル救護費用及救助費用ニ付キ債主ハ救護又ハ救助セラレタル物件ノ質主権ヲ有シ同時ニ保証ヲナスマテ救護シタル物件ノ留置権ヲ有スルモノトス 質主権ノ申立ニ付テハ第六百九十七条第二項及第三項ノ規定ヲ適用スルモノトス 第七百五十四条 船長ハ債主ニ弁償又ハ保証ヲナスノ前荷物ノ全部及一部ヲ引渡スコトヲ許サス之ニ反スルトキ船長ハ債主ニ対シ無限ノ義務ヲ有スルモノトス但債主引渡ノ時引渡サレタル荷物ヨリ弁償ヲ得タルヘキ部分ニ限ル 船主船長ノ処分ヲ差図シタルトキハ第四百七十九条第二項及第三項ノ規定ヲ適用スルモノトス 第七百五十五条 救護費用及救助費用ヲ支払フ為メノ無限ノ義務ハ救護又ハ救助ニ依リ自ラ生スルコトナキモノトス 但荷物ノ受取人ハ荷物受取ノ際救護費用又ハ救助費用ヲ其荷物ヨリ支払フヘキコトヲ知了シタルトキハ其費用ニ付キ無限ノ義務ヲ有スルモノトス其費用ハ引渡ヲナサヽリシ場合ニ於テ其荷物ヨリ支払フコトヲ得タルヘキ部分ニ限ル 尚ホ他ノ物件引渡サレタル荷物ト共ニ救護セラレ又ハ救助セラレタルトキ荷物受取人ノ無限ノ義務ハ総テノ物件ニ付テノ費用ヲ分配スルノ際引渡サレタル荷物ニ帰スル額ヲ超過セサルモノトス 第七百五十六条 此章ノ規定ヲ補充スルハ之ヲ各邦法律ニ任カス 各邦法律ハ救護報酬又ハ救助報酬ノ支払義務又ハ其額ニ付キ司法裁判(第七百四十四条)ヲ求ルノ権利ヲ害スルコトナクシテ裁判所外ノ官署ニ於テ裁決スヘキコトヲ定ルヲ得 敵ニ掠奪セラレタル船舶ノ取戻シニ関スル各邦法律ノ規定ハ此章ノ規定ノ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第十章 船舶債主 第七百五十七条 左ニ掲ル要求ハ船舶債主ノ権ヲ与ルモノトス 第一 船舶ノ権制売却ノ費用但此費用ニハ代価分配費用並ニ権制売却ノ着手又ハ其着手ニ先立チタル差押以来船舶及其附属品ノ監護、保管及維持ノ費用アルトキハ其費用モ亦属スルモノトス 第二 船舶ヲ権制執行ヲ以テ売却シタル場合ニ於テ船舶最終ノ港ニ乗廻シタル以来船舶及其附属品ノ監護及保管ノ費用ニシテ第一ニ包含セサルモノ 第三 船税、航海税及港税特ニ浮僄料灯台料、検疫料及入港料 第四 職務契約及給料契約ヨリ生スル船舶乗組員ノ要求 第五 水先案内料並ニ救護費用、救助費用買戻費用及取戻費用 第六 海難大損失ニ於ケル船舶ノ出金 第七 船舶書入セラレタル書入債主ノ要求並ニ船舶ノ共同所有者又ハ単独所有者ナルト否トヲ問ハス船長其資格ヲ以テ船籍港外ニ船舶ノ滞在中海難ノ場合ニ於テ取結ヒタル信用取引(第四百九十七条第五百十条)ヨリ生スル要求又ハ信用ヲ与ヘサルモ船長ニ其資格ヲ以テ船籍港外ニ船舶ノ滞在中海難ノ場合ニ於テ船舶ノ維持又ハ航海執行ノ為メナシタル供給又ハ弁済ニ付テノ要求ハ其信用取引ヨリ生スル要求ト同一ナリトス但此供給又ハ弁済ハ需求ヲ充タス為メ必要ナリシモノニ限ル 第八 積荷及第六百七十四条第二項ニ掲ケタル旅ヒ荷物ヲ引渡サス又ハ損傷シタル為メノ要求 第九 船長其資格ヲ以テ其法律上権限ニ依リ特別委任ニ依ラスシテ取結ヒタル契約(第四百五十二条第一)ヨリ生スル要求ニシテ前諸項ニ属セサルモノ並ニ船主ノ取結ヒタル契約ノ不履行又ハ其履行ノ不充分又ハ瑕缺ヨリ生スル要求ニシテ前諸項ノ一ニ属セサルモノ但其契約ノ執行船長ノ職務上義務ニ属シタルトキニ限ル(第四百五十二条第二) 第十 船舶乗組員同時ニ船舶ノ共同所有者又ハ単独所有者ナルト否トヲ問ハス其乗組員ノ過失ヨリ生スル要求(第四百五十一条第四百五十二条第三) 第七百五十八条 船舶未タ書入ヲ以テ抵当トナサヽル船舶債主ハ船舶及其附属品ニ付キ法律上質主権ヲ有スルモノトス 其質主権ハ船舶ノ他ノ現有者ニ対シ之ヲ実行スルコトヲ得ルモノトス 第七百五十九条 各船舶債主ノ法律上質主権ハ其他其要求ノ生シタル航海ノ総運賃ニ及フモノトス 第七百六十条 此章ニ謂ヘル航海ト看做スモノハ船舶ヲ新ニ艤装スル航海又ハ新ナル運送契約ニ依リ又ハ積荷全部ノ荷卸後ニ始ル航海ナリトス 第七百六十一条 第七百五十七条第四ニ掲ケタル船舶債主ハ以後ノ航海ニ依リ生シタル要求ニ付キ同時ニ前航海ノ運賃ニ付テ法律上質主権ヲ有スルモノトス但各種ノ航海ヲ同一ノ職務契約及給料契約ヲ以テナストキニ限ル(第五百二十一条第五百三十六条第五百三十八条第五百五十四条) 第七百六十二条 第六百八十条ニ依リ船舶書入債主ニ属スル質主権ニモ亦其他ノ船舶債主ノ法律上質主権ニ付キ現行スル同一ノ規定ヲ適用スルモノトス 但船舶書入債主ノ質主権ノ範囲ハ船舶書入契約ノ旨趣ニ依テ定マルモノトス(第六百八十一条) 第七百六十三条 一船舶債主ニ属スル質主権ハ元金、利子、船舶書入保険料及費用ニ付テモ亦同一ノ効力ヲ有スルモノトス 第七百六十四条 自己ノ質主権ヲ申立ル船舶債主ハ船主又ハ船長ニ対シ出訴スルコトヲ得船長ニ対シテハ船舶本籍港ニ碇泊スルトキ(第四百九十五条)ニモ亦出訴スルコトヲ得 船長ニ対シテ言渡シタル判決ハ質主権ニ関シテハ船主ニ対シテ効力ヲ有スルモノトス 第七百六十五条 船舶債主ノ権利ハ船主其要求ノ其起生ノ際又ハ其後併セテ無限ノ義務ヲ負担シタルモ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 此規定ハ特ニ職務契約及給料契約ヨリ生スル船舶乗組員ノ要求ニ適用スルモノトス(第四百五十三条) 第七百六十六条 船舶船主組合ニ属スルトキ船舶及運賃ハ船舶船主一名ノミニ属セシトキト同一ニ船舶債主ニ対シ責任ヲ負担スルモノトス 第七百六十七条 船舶債主ノ船舶ニ付テノ質主権ハ左ノ場合ニ於テ消滅スルモノトス 第一 内国ニ於テ権制執行ニ依リ船舶ヲ売却シタルトキ但其代価ハ船舶債主ノ為メ船舶ニ代ルモノトス 船舶債主ハ其権利ヲ保護スル為メ公告ヲ以テ督促セラルヘキモノトス其他売却ノ手続ニ関スル規定ハ之ヲ各邦法律ニ任カスモノトス 第二 船長已ムヲ得サル場合ニ於テ其法律上ノ権限ニ依リ船舶ヲ売却シタルトキ(第四百九十九条)但其代価買主之ヲ支払ハス又ハ未タ船長ノ手ニ存スル間ハ船舶債主ノ為メ船舶ニ代ルモノトス 第七百六十八条 其他ノ売却ノ場合ニ於テモ亦船舶債主其質主権ヲ届出ル為メ公告ヲ以テ督促セラルヽモ其効ナカリシトキ又ハ船舶債主本籍港又ハ内国ノ港ニ船舶ノ碇泊シタル後一定ノ期限内ニ管轄官署ニ届出サリシトキ質主権ノ消滅スルコトヲ定ルハ之ヲ各邦法律ニ任カスモノトス 第七百六十九条 第七百六十七条ハ船舶ノ全部ニアラスシテ一個又ハ数個ノ船舶持部ノミヲ売却シタルトキハ之ヲ適用セサルモノトス 第七百七十条 権制売却ノ費用(第七百五十七条第一及最終ノ港ニ乗廻シタル以来船舶ノ監護及保管ノ費用(第七百五十七条第二)ハ船舶ニ付キ船舶債主ノ総テ其他ノ需求ニ対シ先取権ヲ有スルモノトス 権制売却ノ費用ハ最終ノ港ニ乗廻シタル以来ノ監護及保管ノ費用ニ先行スルモノトス 第七百七十一条 其他ノ要求中最後ノ航海(第七百六十条)ニ関スル要求ハ其航海ヲ終リタル後生シタル要求ヲモ併セ以前ノ航海ニ関スル要求ニ先行スルモノトス 最後ノ航海ニ関セサル要求中以後ノ航海ニ関スル要求ハ以前ノ航海ニ関スル要求ニ先行スルモノトス 但第七百五十七条第四ニ掲ケタル船舶債主ハ以前ノ航海ニ関スル要求ニ付キ各種ノ航海ヲ同一ノ職務契約及給料契約ヲ以テナストキニ限リ以後ノ航海ニ関スル要求ニ付キ有スルト同一ノ先取権ヲ有スルモノトス 船舶書入航海第七百六十条ニ謂ヘル数個ノ航海ヲ包含スルトキ船舶書入債主ハ其航海中最初ノ航海ヲ終リタル後始メタル以後ノ航海ニ関スル要求ヲ有スル船舶債主ニ後行スルモノトス 第七百七十二条 同一ノ航海ニ関スル要求並ニ同一ノ航海ニ関スルモノト看做スヘキ要求(第七百七十一条)ハ左ノ順序ニ於テ支払ヲ受ルモノトス 第一 船税、航海税及港税(第七百五十七条第三) 第二 職務契約及給料契約ヨリ生スル船舶乗組員ノ要求(第七百五十七条第四) 第三 水先案内料並ニ救護費用、救助費用買戻費用及取戻費用(第七百五十七条第五)海難大損失ニ付テノ船舶ノ出金(第七百五十七条第六)避難港ニ於テ船長ノ取結ヒタル船舶書入契約其他ノ信用取引ヨリ生スル要求並ニ此要求ト同視スヘキ要求(第七百五十七条第七) 第四 荷物及旅ヒ荷物ヲ引渡サス又ハ損傷シタル為メノ要求(第七百五十七条第八) 第五 第七百五十七条ノ第九及第十ニ掲ケタル要求 第七百七十三条 第七百七十二条ノ第一第二第四及第五ニ掲ケタル要求中其同項ニ掲ケタルモノハ同等ナリトス 第七百七十二条第三ニ掲ケタル要求ハ之ニ反シテ以後ニ生シタルモノハ以前ニ生シタルモノニ先行スルモノトス同時ニ生シタルモノハ同等ナリトス 船長同一ノ危難ニ依リ各種ノ契約ヲ取結ヒタルトキ(第七百五十七条第七)之ヨリ生シタル要求ハ同時ニ生シタルモノト看做ス 信用取引特ニ第七百七十二条ノ第三ニ掲ケタル以前ノ要求ヲ支払フ為メ船長ノ取結ヒタル船舶書入契約ヨリ生スル要求並ニ此以前ノ要求ノ支払期限ヲ延期スル為メ又ハ其要求ヲ承認シ又ハ新更スル為メ船長ノ取結ヒタル契約ヨリ生スル要求ハ其信用取引又ハ契約ニシテ航海ヲ継続スル為メ必要ナリシトキト雖亦以前ノ要求ニ属セシト同一ノ先取権ノミヲ有スルモノトス 第七百七十四条 運賃ニ付テノ船舶債主ノ質主権ハ(第七百五十九条)未タ運賃ヲ支払ハス又ハ其運賃船長ノ手ニ存スル間ニ限リ効力ヲ有スルモノトス 此質主権ニ付テモ亦前数条ニ於テ順序ニ付キ定メタル規定ヲ適用スルモノトス 運賃ヲ譲渡シタル場合ニ於テ船舶債主ノ質主権ハ未タ其運賃ヲ支払ハス又ハ其運賃未タ船長ノ手ニ存スル間ハ其譲受人ニ対シテモ亦之ヲ申立ルコトヲ得ルモノトス 船主運賃ヲ取立テタルトキ之カ為メ質主権ノ全部又ハ一部ヲ失フ船舶債主ニ対シテハ無限責任ヲ負担スルモノトス但各船舶債主ニ対シテハ取立テタル額ヲ分配スルノ際法律上ノ順序ニ従ヒ之ニ与ル額ヲ以テ責任ヲ負担スルモノトス 船主ノ此無限責任ハ自己ノ計算ヲ以テ引渡シタル荷物ニ付キ其引渡ノ際其地慣例ノ運賃ニ付キ生スルモノトス 第七百七十五条 船主運賃ニ付キ質主権ヲ有セシ一名又ハ数名ノ債主ニ弁償スル為メ運賃ヲ支出シタルトキハ先取権ヲ有セシ債主ニ対シ知リツヽ不足ヲ生セシメタルコトヲ証明セラルヽ部分ニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第七百七十六条 船主第七百六十七条第一及第二ニ掲ケタル場合ニ於テ其代価ヲ取立テタルトキハ取立テタル額ヲ以テ運賃ヲ取立テタル場合ニ於ケル航海ノ債主ニ対スル(第七百七十四条第七百七十五条)ト同一ニ総船舶債主ニ対シ無限責任ヲ負担スルモノトス 第七百七十七条 船主船舶及運賃ノミヲ以テ責任ヲ負担スル船舶債主ノ要求ヲ知了シタル後船舶債主ノ為メ必要ナルコトナクシテ新ナル航海(第七百六十条)ノ為メ船舶ヲ出航セシムルトキハ其要求ニ付キ航海ヲ始ルノ際船舶ノ有セシ価額ヲ法律ノ順序ニ従ヒ船舶債主ニ分配シタルニ於テハ其債主ノ得ヘカリシ額ヲ以テ同時ニ無限責任ヲ負担スルモノトス 反対ノ証拠アルマテハ債主此分配ノ際充分ノ弁償ヲ得タリシモノト看做スモノトス 債主ニ対シ責任ヲ負担スル運賃ヲ取立テタルヨリ生スル船主ノ無限ノ義務(第七百七十四条)ハ本条ニ依テ変更セサルモノトス 第七百七十八条 海難大損失ノ場合ニ於ケル投棄又ハ損傷ニ付テノ補償ハ船舶債主ノ為メ補償ヲ受ル物ニ代ルモノトス 船舶喪失又ハ損傷シタル場合ニ於テ又ハ荷物ヲ喪失又ハ損傷シタル為メ失フタル運賃ニ付キ不法ノ行為ニ依リ損害ヲ生セシメタル者ヨリ船主ニ支払フヘキ損害賠償ニ付テモ亦前項同一ナリトス 船主補償又ハ償金ヲ取立テタルトキハ其取立テタル額ヲ以テ運賃ヲ取立テタル場合ニ於ケル航海ノ債主ニ対スル(第七百七十四条第七百七十五条)ト同一ニ船舶債主ニ対シ無限責任ヲ負担スルモノトス 第七百七十九条 質主権ヲ実行スル船舶債主他ノ質取債主又ハ其他ノ債主ト競争スル場合ニ於テハ船舶債主先取権ヲ有スルモノトス 第七百八十条 船舶債主ノ質主権ニ関スル第七百六十七条及第七百六十九条ノ規定ハ各邦法律ニ従ヒ契約又ハ法律ニ依リ船舶又ハ船舶持部ニ付テ得有シ及他ノ現有者ニ対シテ実行スルコトヲ得ル其他ノ質主権ニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第七百六十七条第一ノ規定ハ船舶持部ノ権制売却ノ場合ニ於テ其持部ノ責ニ属スル質主権ニ付テモ亦適用スルモノトス 其他本条第一項ニ掲ケタル質取債主ノ権利ハ本章ノ規定ニ依ラス各邦法律ニ依テ判定スルモノトス 第七百八十一条 運賃、船舶書入金海難大損失ノ出金及救護費用及救助費用(第六百二十四条第六百二十六条第六百八十条第七百二十七条第七百五十三条)ニ付キ荷物ノ責ニ属スル質主権中運賃ニ関スルモノハ総テ其他ノモノニ後行ス此他ノモノ間ニ於テハ以後ニ生シタルモノハ以前ニ生シタルモノニ対シ先取権ヲ有シ同時ニ生シタルモノハ同等ナリトス同一ノ危難ニ依リ船長ノ取結ヒタル契約ヨリ生スル要求ハ同時ニ生シタルモノト看做ス 海難大損失及不法ノ行為ヨリ生スル喪失又ハ損傷ノ場合ニ於テハ第七百七十八条ノ規定ヲ適用シ喪失ヲ防止又ハ減少スル為メ第五百四条第三項ニ依リ船長ノナシタル売却ノ場合ニ於テハ第七百六十七条第二ノ規定ヲ適用シ及自己ノ計算ヲ以テ売却ヲナシタル者其代価ヲ取立テタルトキハ第七百七十六条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第十一章 航海ノ保険 第一節 普通ノ原則 第七百八十二条 船舶又ハ積荷航海ノ危険ヲ凌クコトニ付テ有スル各個ノ利益ニシテ金銭ニ評価スルヲ得ルモノハ海上保険ノ物件トナルコトヲ得 第七百八十三条 特ニ保険セラルヽコトヲ得ルモノハ左ノ物件ナリトス 船舶 運賃 渡航賃 荷物 船舶書入金 海難損失金 其他ノ要求ニシテ船舶運賃、渡航賃又ハ荷物ヲ以テ其引当トナスモノ 荷物ノ到着地ニ達スル後予期スヘキ利益(想像利益) 得ヘキ手数料 保険者ノ引受ケタル危険(復保険) 此保険中ノ一ニハ他ノ保険ヲ包含セサルモノトス 第七百八十四条 船長及船舶乗組員ノ給料要求ハ之ヲ保険スルコトヲ得ス 第七百八十五条 保険依頼人ハ自己ノ利益(自己ノ為メニスル保険)又ハ他人ノ利益(他人ノ計算ノ為メニスル保険)ヲ保険セシムルコトヲ得及他人ノ利益ノ為メニスル場合ニ於テハ被保険者本人ヲ指名シ又ハ指名スルコトナクシテ保険セシムルコトヲ得 自己ノ計算ノ為メ又ハ他人ノ計算ノ為メ保険ヲナサシムルヤ(不定人ノ計算ノ為メニスルヤ)ヲ契約ニ定メサルコトヲモ得不定人ノ計算ノ為メニスルヤヲ定メサル保険ニアリテ他人ノ計算ノ為メ保険セシメタルコトノ判然スルトキハ他人ノ計算ノ為メニスル保険ニ付テノ規定ヲ適用スルモノトス 他人ノ計算ノ為メ又ハ不定人ノ計算ノ為メ保険セシメタルヤ契約ニ於テ判然セサルトキ保険ハ保険依頼人自己ノ計算ノ為メ契約シタルモノト看做ス 第七百八十六条 他人ノ計算ノ為メニスル保険ハ保険依頼人保険契約取結ノ為メ被保険者ヨリ嘱託セラレシトキ又ハ此嘱託ノ瑕缺ヲ保険依頼人ヨリ契約取結ノ際保険者ニ告知スルトキニ限リ保険者ノ責ニ帰スルモノトス 此告知ヲナサヽルトキ嘱託ノ瑕缺ハ被保険者保険ヲ後日承諾スルモ之ヲ以テ補フコトヲ得ス 此告知ヲナシタルトキ保険者ニ帰スル保険ノ責ハ被保険者ノ後日ノ承諾ニ依リ変更スルコトナキモノトス 本条ノ規定ニ従ヒ保険契約ニ依リ責ヲ負担セサル保険者ハ其契約ノ責ナキコトヲ申立ルトキト雖保険料全額ヲ請求スルノ権アルモノトス 第七百八十七条 受託人又ハ事務担当人ニ於テ嘱託ナクシテ被保険者ノ名ヲ以テ又ハ被保険者ノ其他ノ代人ニ於テ其名ヲ以テ保険契約ヲ取結ヒタルトキ此法ノ意義ニ於テハ代人ハ保険依頼人ニアラス又保険ハ他人ノ計算ノ為メニスル保険ニアラサルモノトス 疑シキ場合ニ於テハ指名セラレタル他人ノ利益ニ関スル保険ト雖他人ノ計算ノ為メニスル保険ナリト看做スモノトス 第七百八十八条 保険者ハ保険契約ニ付キ自己ノ署名シタル証書(保険証書)ヲ保険依頼人ニ其求メニ依リ交付スルノ義務アルモノトス 第七百八十九条 保険契約取結ノ際賠償スヘキ損害ノ生スヘキコトヲ既ニ免レ又ハ賠償スヘキ損害ノ既ニ生シタルモ保険契約ノ効力ニハ関係ナキモノトス 但結約者双方事情ヲ知了スルトキ其契約ハ保険契約タルノ効力ナキモノトス 保険者ノミ賠償スヘキ損害ノ生スヘキコトヲ既ニ免レタルコトヲ知了セシトキ又ハ保険依頼人ノミ賠償スヘキ損害ノ既ニ生シタルコトヲ知了セシトキ其契約ハ事情ヲ知了セサリシ一方ニ対シ其効ナキモノトス第二ノ場合ニ於テ保険者ハ契約ノ責ナキコトヲ申立ルトキト雖保険料全額ヲ請求スルノ権アルモノトス 契約ヲ保険依頼人ノ為メ代人ノ取結フ場合ニアリテハ第八百十条第二項ノ規定ヲ適用シ他人ノ計算ノ為メ保険スル場合ニアリテハ第八百十一条ノ規定ヲ適用シ及数個ノ物件又ハ総テノ物件ヲ保険スル場合ニアリテハ第八百十四条ノ規定ヲ適用スルモノトス 第七百九十条 保険セラレタル物件ノ全価額ハ保険ノ価額ナリトス 保険額ハ保険ノ価額ヲ超過スルコトヲ得ス 保険額保険価額ヲ超過スル(超額保険)部分ニ限リ其保険ハ法律上効ナキモノトス 第七百九十一条 各異ノ保険契約ヲ同時ニ取結フ場合ニ於テ保険ノ総額保険価額ヲ超過スルトキ総テノ保険者ハ共同シテ保険価額ノ高ニ於テノミ責任ヲ負担シ特ニ各個保険者ハ其保険額保険総額ノ百分ノ幾分ニ相当スル保険価額ノ割合ヲ以テ責任ヲ負担スルモノトス此場合ニ於テ疑アルトキハ契約ヲ同時ニ取結ヒタリト認定スルモノトス 数個ノ保険契約ニシテ之ニ付キ共同ノ契約証書ヲ交付シタルモノ並ニ数個ノ保険契約ニシテ同日ニ取結ハレタルモノハ之ヲ同時ニ取結ヒタルモノト看做ス 第七百九十二条 既ニ全価額ニ至ルマテ保険セラレタル物件ヲ再ヒ保険スルトキ以後ノ保険ハ其物件同時ニシテ同一ノ危険ニ対シ既ニ保険セラレタル部分ニ限リ法律上効ナキモノトス(重保険) 以前ノ保険ヲ以テ全価額ヲ保険セサリシトキ以後ノ保険ハ同時ニシテ同一ノ危険ニ対シナシタルトキニ限リ未タ保険セラレサル価額ノ部分ニ付テノミ効力アルモノトス 第七百九十三条 但以後ノ保険ハ以前ノ保険契約ニ拘ハラス左ノ場合ニ於テ法律上効力ヲ有スルモノトス 第一 以後ノ契約ヲ取結フノ際其保険者ニ以前ノ保険ヨリ生スル権利ヲ譲渡スヘキコトヲ契約スルトキ 第二 被保険者ニ於テ以前ノ保険者支払不納トナリタルカ為メ之ニ対シ保険額ヲ受ルコトヲ得ヘカラサル部分又ハ以前ノ保険法律上成リ立タサル部分ニ限リ以後ノ保険者責任ヲ負担スルノ制限ヲ以テ以後ノ保険契約ヲ取結フトキ 第三 以前ノ保険者棄権ノ通知ヲ以テ重保険ヲ避ルニ必要ナル部分ニ限リ其義務ヲ免除セラレ及以後ノ保険者以後ノ保険契約ヲ取結フノ際其旨ヲ通知セラルヽトキ此場合ニ於テハ以前ノ保険者ハ其義務ヲ免カルヽト雖保険料全額ヲ請求スルノ権アルモノトス 第七百九十四条 重保険ノ場合ニ於テ以前ノ保険ヲ他人ノ計算ノ為メ嘱託ナクシテナシ之ニ反シテ以後ノ保険ヲ被保険者本人ノナストキハ最初ニナシタル保険法律上効力ヲ有セスシテ以後ニナシタル保険法律上効力ヲ有スルモノトス但此場合ニ於テ被保険者以後ノ保険契約ヲ取結フノ際以前ノ保険契約ヲ未タ知了セサリシトキ又ハ以後ノ保険契約ヲ取結フノ際以前ノ保険ヲ棄却スルコトヲ以後ノ保険者ニ通知スルトキニ限ル 以前ノ保険者ノ保険料ニ関スル権利ハ此場合ニアリテハ第九百条及第九百一条ノ規定ニ依テ定マルモノトス 第七百九十五条 数個ノ保険契約ヲ同時ニ又ハ漸次ニ取結ヒタルトキ一保険者ニ対シ生シタル権利ヲ以後ニ放棄スルモ其他ノ保険者ノ権利及義務ニハ関係ナキモノトス 第七百九十六条 保険額保険価額ニ達セサルトキ保険者ハ一部損害ノ場合ニ於テ保険額ト保険価額トノ割合ニ応シテノミ其損害額ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第七百九十七条 双方ノ契約ヲ以テ保険価額ヲ一定額(評定額)ニ定ル(評定保険証書)トキ其評定額ハ双方間ニ於テ保険価額ノ標準トナルモノトス 但保険者ハ評定額全ク過当ナルコトヲ証明スルトキハ其評定額ノ減少ヲ求ルノ権アルモノトス想像利益ヲ評定シタルトキ保険者ハ其評定額ヲ異議スル場合ニ於テハ其定額契約ヲ取結フノ際商人間ノ計算ニ依リ予期スルヲ得ヘキ利益ヲ超過シタルコトヲ証明スヘキモノトス 「仮評定」ノ定メヲ掲ケタル保険証書ハ其評定額ヲ確定ノ評定額ニ変換セサル間ハ評定セサル保険証書(無評定保険証書)ト同視セラルヽモノトス 運賃ヲ保険スルニ方リ保険者ノ賠償スヘキ損害ニ関スル評定額ハ特ニ契約シタルトキニ限リ標準トナルモノトス 第七百九十八条 一契約ニ於テ数個ノ物件又ハ其総テノ物件ヲ一保険額ニ包含セラルヽモ其各個ニ付キ特別ノ評定額ヲ契約シタルトキ特ニ評定セラレタル物件ハ之ヲ各別ニ保険セラレタルモノト看做スモノトス 第七百九十九条 双方ニ於テ価額評定ニ付キ別段ノ標準ヲ契約セサルトキニ於テ船舶ノ価額ト看做スモノハ保険者ニ対シ危険ノ生スル時船舶ノ有スル価額ナリトス 此定メハ船舶ノ保険価額ヲ評定シタルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第八百条 艤装費用、給料及保険費用ハ既ニ総運賃額ノ保険ヲ以テ之ヲ保険セサリシ部分ニ限リ船舶ト同時ニ又ハ特ニ保険スルコトヲ得又艤装費用、給料及保険費用ハ契約シタルトキニ限リ船舶ト共ニ保険セラレタルモノト看做ス 第八百一条 運賃ハ既ニ艤装費用、給料及保険費用ノ保険ヲ以テ之ヲ保険セサリシ部分ニ限リ其総額ニ至ルマテ保険セラルヽコトヲ得 運賃ノ保険価額ト看做スモノハ運送契約ニ定メタル運賃ノ額及一定ノ運賃ヲ契約セサリシトキ又ハ荷物ヲ船主ノ計算ノ為メ船積ミシタルモノニ限リ慣例上運賃ノ額(第六百二十条)ナリトス 第八百二条 運賃保険ノ場合ニ於テ運賃ノ全額又ハ単ニ其一部ヲ保険シタルヤヲ定メサルトキハ運賃全額ヲ保険シタルモノト看做スモノトス 総運賃又ハ純運賃ヲ保険シタルヤヲ定メサルトキハ総運賃ヲ保険シタルモノト看做スモノトス 往航ノ運賃及復航ノ運賃ヲ一保険額ヲ以テ保険シタル場合ニシテ其保険額ノ幾部ヲ往航ノ運賃ニ帰スヘキヤ及其幾部ヲ復航ノ運賃ニ帰スヘキヤヲ定メサルトキハ其二分一ヲ往航運賃ニ計算シ其二分一ヲ復航運賃ニ計算スルモノトス 第八百三条 双方ニ於テ価額評定ノ為メ別段ノ標準ヲ契約セサリシ場合ニ於テ荷物ノ保険価額ト看做スモノハ荷物引渡ノ地ニ於テ其時荷物ノ有スル価額ニ船舶マテノ諸費用及保険費用ヲ加算シタルモノナリトス 運賃並ニ航海中及到達地ニ於テノ費用ハ契約シタルモノニ限リ之ヲ加算スルモノトス 本条ノ規定ハ荷物ノ保険価額ヲ評定シタルトキニモ亦之ヲ適用スルモノトス 第八百四条 艤装費用又ハ給料ハ独立ナルト又ハ総運賃ノ保険ヲ以テスルトヲ問ハス之ヲ保険シタルトキ又ハ荷物ヲ保険スルノ際運賃又ハ航海中及到達地ノ費用ヲ保険シタルトキ保険者ハ災難ノ為メ余シタル部分ニ付キ一モ賠償ヲナサヽルモノトス 第八百五条 荷物ヲ保険スルノ際想像利益又ハ手数料ハ荷物ノ保険価額ヲ評定シタルトキト雖契約ニ定メタルモノニ限リ之ヲ共ニ保険セラレタルモノト看做スヘキモノトス 想像利益ノ共同保険ノ場合ニ於テ保険価額ヲ評定シタルモ其評定額ノ幾部想像利益ニ帰スヘキヤヲ定メサルトキハ其評定価額ノ百分十想像利益ニ帰スルト看做スモノトス想像利益ノ共同保険ノ場合ニ於テ保険価額ヲ評定セサリシトキハ荷物ノ保険価額(第八百三条)ノ百分十ヲ想像利益トシテ保険シタルモノト看做スモノトス 第二項ノ規定ハ手数料ノ共同保険ノ場合ニ於テモ亦之ヲ適用スルモノトス但百分二、百分十ニ代ハルモノトス 第八百六条 想像利益又ハ手数料ヲ独立シテ保険シタルモ保険価額ヲ評定セサリシトキ疑シキ場合ニ於テハ保険額ヲ同時ニ保険価額ノ評定額ト看做スヘキモノト認ルモノトス 第八百七条 船舶書入金ハ船舶書入保険料ヲ併ハセ船舶書入債主ノ為メ之ヲ保険スルコトヲ得 船舶書入金ヲ保険スルノ際何レノ物件ヲ書入シタルヤヲ明記セサリシトキハ船舶、運賃及積荷ニ関スル船舶書入金ヲ保険シタルモノト看做スモノトス実際此総テノ物件ヲ書入レセサリシトキハ保険者ニ限リ此規定ヲ引用スルコトヲ得 第八百八条 保険者ハ其義務ヲ尽シタルトキ被保険者他人ニ対シ賠償ヲ要求スルノ権アル損害ヲ償フタル部分ニ限リ他人ニ対スル被保険者ノ権利ヲ得ルモノトス但第七百七十八条第二項及第七百八十一条第二項ノ規定ハ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 被保険者ハ保険者ノ求メアルトキ之ニ自己ノ費用ヲ以テ他人ニ対スル権利ヲ得タルコトニ付キ公証ヲ得タル承認証書ヲ交付スルノ義務アルモノトス 被保険者ハ此権利ヲ妨害スル各個ノ行為ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第八百九条 海難ニ罹リ易キ物件引当トナル要求ヲ保険シタルトキ被保険者ハ損害ノ場合ニ於テ保険者其義務ヲ尽シタル後之ニ負債者ニ対スル自己ノ権利ヲ譲与スルノ義務アルモノトス但保険者賠償ヲナシタル部分ニ限ル 被保険者ハ保険者ニ対シ請求スルノ前負債者ニ対シ自己ニ属スル権利ヲ実行スルノ義務ナキモノトス 第二節 契約ヲ取結フ際ノ告知 第八百十条 保険依頼人ハ自己ノ計算ノ為メニスル保険ノ場合並ニ他人ノ計算ノ為メニスル保険ノ場合ニ於テハ契約ヲ取結フ際自己ニ知了シタル総テノ状況ニシテ保険者ニ於テ担当スヘキ危険ヲ判定スル為メ重要ナルニ付キ一般ニ契約ヲ取結ヒ又ハ同一ノ条款ヲ以テ取結フコトニ付キ保険者ノ決定上ニ影響ヲ及スニ適切ナルモノヲ保険者ニ告知スルノ義務アルモノトス 保険依頼人ニ代リ其代人契約ヲ取結フトキハ代人ノ知了シタル状況ヲモ亦告知スヘキモノトス 第八百十一条 他人ノ計算ノ為メニスル保険ノ場合ニ於テハ契約ヲ取結フノ際被保険者自己又ハ中間受託人ノ知了シタル状況ヲモ亦保険者ニ告知スヘキモノトス 但其状況ヲ被保険者又ハ中間受託人ノ知了スルコト遅クシテ非常ノ処分ヲ用ルニアラサレハ契約ヲ取結フノ際保険依頼人ニ其旨ヲ告知スルコト能ハサルトキハ其知了ハ之ヲ度外視スルモノトス 保険ヲ被保険者ノ嘱託ナク及承諾ナクシテナシタルトキニモ亦被保険者ノ知了ハ之ヲ度外視スルモノトス 第八百十二条 前二条ニ掲ケタル義務ヲ尽サヽルトキ契約ハ保険者ニ対シ其効ナキモノトス 但此規定ハ告知セサル状況ヲ保険者ノ知了セシトキ又ハ保険者ノ知了シタリト認メ得ルトキハ之ヲ適用セサルモノトス 第八百十三条 保険依頼人契約ヲ取結フノ際重要ナル状況(第八百十条)ニ関シ不正ノ告知ヲナシタルトキ契約ハ保険者ニ対シ其効ナキモノトス但保険者ニ於テ其告知ノ不正ナルコトヲ知了セシトキハ此限ニアラス 此規定ハ其告知ヲ知リツヽ又ハ誤謬ニ出テ不正ニナシタルトキ又ハ告知ヲ過失ヲ以テ又ハ過失ナクシテ不正ニナシタルトヲ問ハス之ヲ適用スルモノトス 第八百十四条 数個ノ物件又ハ其総物件ヲ保険スルノ際保険セラレタル物件ノ一部ノミニ関スル状況ニ付キ第八百十条ヨリ第八百十三条マテノ規定ニ背反スルトキ契約ハ保険者ニ対シ其他ノ部分ニ付キ効力ヲ有スルモノトス但契約ハ保険者ニ於テ同一ノ条款ヲ以テハ其他ノ部分ヲ保険セサリシコトノ判然スルトキハ保険者ニ対シ其部分ニ付テモ亦効力ナキモノトス 第八百十五条 保険者ハ第八百十条ヨリ第八百十四条マテノ場合ニ於テハ保険者契約ノ全部又ハ一部ノ無効ヲ申立ルトキト雖保険料全額ヲ請求スルノ権アルモノトス 第三節 保険契約ヨリ生スル被保険者ノ義務 第八百十六条 保険料ハ別段ノ契約ナキトキニ限リ契約ヲ取結ヒタル後直ニ之ヲ支払ヒ契約証書ヲ求ルトキハ其交付ト引替ニテ之ヲ支払フヘキモノトス 保険依頼人ハ保険料ヲ支払フノ義務アルモノトス 他人計算ノ為メニスル保険ノ際保険依頼人支払不納トナリタル場合ニシテ保険料ヲ被保険者ヨリ未タ受取ラサリシトキ保険者ハ被保険者ニ対シテモ亦保険料支払ヲ請求スルコトヲ得 第八百十七条 危険保険者ニ対シ始マラサリシ前ニ保険セラレタル航海ニ代ヘ他ノ航海ヲ始ルトキ保険者ハ船舶及運賃ノ保険ニアリテハ各個ノ責任ヲ免カルヽモノトス其他ノ保険ニアリテハ保険者ハ航海ノ変更ヲ被保険者ニ於テナサス及被保険者ノ嘱託又ハ承諾ヲ以テナサヽリシトキニ限リ他ノ航海ニ付テノ危険ヲ負担スルモノトス 危険保険者ニ対シ始マリタル後保険セラレタル航海ヲ変更スルトキ保険者ハ航海ヲ変更シタル後始マリタル災難ニ付キ責任ヲ負担セサルモノトス但保険者ハ其変更ヲ被保険者ニ於テナサス及被保険者ノ嘱託又ハ承諾ヲ以テナサヽルトキ又ハ保険者ニ於テ担当スヘカラサル危険ニ依リ危難ヲ生スルノ場合ヲ除クノ外危難ニ依リ変更ヲ生シタルトキニ限リ其災難ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 航海ヲ他ノ到達港ニナサントスル決意ヲ実行スルトキハ両到達港ニ至ルノ海路未タ分レサルトキト雖直ニ航海ハ変更シタルモノトス此規定ハ本条ノ第一項並ニ第二項ノ場合ニ之ヲ適用スルモノトス 第八百十八条 被保険者ニ於テ又ハ被保険者ノ嘱託又ハ承諾ヲ以テ航海ノ起始又ハ完結ヲ不当ニ淹滞シ保険セラレタル航海ニ応スル海路ニ違ヒ又ハ保険セラレタル航海ニ含マレタリト看做スコト能ハサル港ニ立寄ルトキ又ハ被保険者他ノ方法ヲ以テ危険ノ増大又ハ変更ヲ生セシムル場合ニ於テ特ニ之ニ関シテナシタル特別ノ約束ヲ履行セサルトキ保険者ハ以後ニ生スル災難ニ付キ責任ヲ負担セサルモノトス 但此効力ハ左ノ場合ニ於テハ生セサルモノトス 第一 危険ノ増大又ハ変更以後ノ災難ニ影響ヲ及スコト能ハサリシコトノ判然スルトキ 第二 危険ノ増大又ハ変更ニシテ危険保険者ニ対シ既ニ始マリタル後危難ニ依リ生シタルトキ但其危難保険者ニ於テ担当スヘカラサル危険ニ依リ生スルトキハ此限ニアラス 第三 船長、人タルノ道ニ於テ海路ニ違ハサルヲ得サルトキ 第八百十九条 契約ヲ取結フノ際船長ヲ指名スルトキ之ノミニテハ未タ其指名セラレタル船長船舶ノ運用ヲモナスヘキコトノ約束ヲ包含セサルモノトス 第八百二十条 荷物ノ保険ニアリテハ保険者ハ其運送ヲ運送ニ供シタル船舶ヲ以テナサヽルトキ及其部分ニ限リ一モ災難ニ付キ責任ヲ負担セサルモノトス但船長ハ危険之ニ対シ始マリタル後被保険者ノ嘱託及承諾ナクシテ運送ニ供シタル船舶ヲ以テスルヨリ他ノ方法ニテ荷物ヲ運送スルトキ又ハ保険者ニ於テ担当スヘカラサル危険ニ依リ災難ノ生スル場合ヲ除クノ外災難ノ為メ其運送ヲナストキハ契約ニ依リ責任ヲ負担スルモノトス 第八百二十一条 一船舶又ハ数船舶ヲ指名スルコトナクシテ(不定又ハ不指名ノ船舶ヲ以テ)ナス荷物ノ保険ニアリテハ被保険者ハ保険セラレタル荷物ヲ何レノ船舶ニ引渡シタルヤノ通知ヲ受ケタルトキ直ニ此通知ヲ保険者ニナスヘキモノトス 此義務ヲ履行セサル場合ニ於テハ保険者ハ其引渡シタル荷物ノ被ル災難ニ付キ一モ責任ヲ負担スルコトナキモノトス 第八百二十二条 各災難ハ保険依頼人又ハ保険ヲ知了シタル被保険者ニ於テ災難ノ通知ヲ得ルトキ直ニ之ヲ保険者ニ告知スヘキモノトス之ニ違フトキ保険者ハ遅延ナク告知ヲ受ケタルニ於テハ減スルヲ得ヘカリシ額ヲ損害賠償ノ額ヨリ引去ルノ権アルモノトス 第八百二十三条 被保険者ハ災難ノ生スルトキ保険セラレタル物件ヲ救助シ並ニ大損害ヲ避ル為メ成ルヘク尽力スルノ義務アルモノトス 但被保険者ハ成ルヘク必要ナル処分ニ付キ予メ保険者ト談合スヘキモノトス 第四節 危険ノ範囲 第八百二十四条 保険者ハ保険ノ継続スル間ハ船舶又ハ積荷ノ被リ易キ総テノ危険ヲ担当スルモノトス但以下数条ノ規定又ハ契約ニ於テ別段ノ定メアルトキハ此限ニアラス 保険者ハ特ニ左ノ危険ヲ担当スルモノトス 第一 海水浸入、海浜乗上、破船、沈没、火難、爆発、電火、地震、氷塊ニ依テノ損傷等ノ如キ天災及其他海難ノ危険但海難ノ危険ハ他人ノ過失ニ出ルトキ亦同シ 第二 戦争及政府ノ命令ニ於ケル危険 第三 他人ノ申立ニ依リ被保険者ノ過失ニアラスシテ受ケタル差押 第四 窃盗並ニ海賊、掠奪及其他暴行ノ危険 第五 保険セラレタル荷物ヲ航海ヲ継続スル為メ書入スルノ危険又ハ同一ノ目的ノ為メ売却又ハ支出シテ其荷物ニ付キ処分スルノ危険(第五百七条ヨリ第五百十条マテ及第七百三十四条) 第六 船舶乗組員ノ不良心又ハ過失ノ危険但之カ為メ保険セラレタル物件ニ損害ヲ生スルトキニ限ル 第七 船舶衝突ノ危険但被保険者衝突ニ依リ直接ニ損害ヲ被ルト又ハ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スヘキニ依リ間接ニ損害ヲ被ルトヲ区別セサルモノトス 第八百二十五条 左ニ掲ル損害ハ保険者ノ責ニ帰セサルモノトス 第一 船舶又ハ運賃ノ保険ニアリテハ 船舶航海ニ堪ヘサル状況ニ於テ出航シ又ハ船舶ニ相当ノ艤装ヲナサス又ハ乗組員ヲ備ヘス又ハ必要ナル証書ナク(第四百八十条)シテ出航シタルニ依リ生スル損害 船舶衝突ノ場合ヲ除クノ外船主ニ於テ船舶乗組員ノ他人ニ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負担スヘキ(第四百五十一条及第四百五十二条)ニ依リ生スル損害 第二 船舶ニ関スル保険ニアリテハ 単ニ通常ノ使用ニ於テ船舶ヲ損耗シタルニ依テ生スル船舶及附属品ノ損害 古敗、腐朽又ハ蠹蝕ニ依テ生スル船舶及附属品ノ損害 第三 荷物又ハ運賃ニ関スル保険ニアリテハ荷物ノ性質特ニ内部ノ損敗揮散通常ノ漏出等ニ依リ又ハ荷物ノ不充分ナル外包又ハ鼷鼠ニ依リ生スル損害但保険者ノ責ニ帰スル災難ニ依リ非常ニ航海ヲ淹滞スルトキ保険者ハ本項ニ掲ケタル損害ニシテ淹滞ノ為メ生スルモノヲ賠償スヘキモノトス 第四 被保険者ノ過失ニ依テ生スル損害及荷物又ハ想像利益ノ保険ニアリテハ荷物引渡人荷物受取人又ハ荷物宰領其資格ニ於テ負担スヘキ過失ヨリ生スル損害 第八百二十六条 損害ヲ賠償スヘキ保険者ノ義務ハ被保険者ニ於テ船長又ハ其他人ニ対シ其補償ヲ請求スルノ権アルトキト雖生スルモノトス被保険者ハ損害ノ賠償ニ付キ先ツ保険者ニ請求スルコトヲ得但被保険者ハ其請求ノ実行ニ効験アラシムル為メ保険者ニ必要ノ補助ヲナシ亦運賃ヲ留置シ船舶ヲ差押テ請求ヲ安全ナラシメ又ハ其他ノ方法ヲ以テ保険者ノ費用ニテ状況ニ応スル注意ヲナスヘキモノトス(第八百二十三条) 第八百二十七条 航海ノ為メ船舶ヲ保険シタルトキ保険者ノ危険ハ積荷又ハ底積ノ領収ヲ始ル時限ヲ以テ始マリ又ハ積荷及底積ノ領収ヲナサヽルトキハ船舶出航ノ時限ヲ以テ始マルモノトス航海ハ到達港ニ於テ積荷又ハ底積ノ荷卸ヲ終リタル時限ヲ以テ終ルモノトス 被保険者ニ於テ非常ニ荷卸ヲ淹滞スルトキハ危険ハ其淹滞ナカリシ場合ニ於テ荷卸ノ終ルヘキ時限ヲ以テ終ルモノトス 荷卸ヲ終ル前ニ於テ新航海ノ為メ積荷又ハ底積ヲ領収スルトキ危険ハ其積荷又ハ底積ノ領収ヲ始ル時限ヲ以テ終ルモノトス 第八百二十八条 荷物、想像利益又ハ船積シタル荷物ヨリ得ヘキ手数料ヲ保険シタルトキ危険ハ船舶又ハ艀船ニ荷積ノ為メ荷物ヲ陸ヨリ離シタル時限ヲ以テ始マリ到達港ニ於テ荷物ヲ再ヒ陸ニ上ケタル時限ヲ以テ終ルモノトス 荷卸ヲ被保険者ニ於テ非常ニ淹滞シ又ハ荷物又ハ想像利益ノ保険ニアリテハ荷卸ヲ被保険者又ハ第八百二十五条ノ第四項ニ掲ケタル人ニ於テ非常ニ淹滞スルトキ危険ハ其淹滞ナキ場合ニ於テ荷卸ノ終ルヘキ時限ヲ以テ終ルモノトス 荷積及荷卸ノ際保険者ハ艀船ノ其地慣例上使用ノ危険ヲ担当スルモノトス 第八百二十九条 運賃ノ保険ニアリテハ危険船舶及之カ為メ運賃ノ被リ易キ災難ニ付キ同一ノ航海ニ於ケル保険ニアリテ危険ノ始マリ及終ルヘキ同一ノ時限ヲ以テ始マリ及終リ又荷物及之カ為メ運賃ノ被リ易キ災難ニ付テハ同一ノ航海ニ於ケル荷物ノ保険ニアリテ危険ノ始マリ及終ルヘキト同一ノ時限ヲ以テ始マリ及終ルモノトス 渡航賃ノ保険ニアリテ危険ハ船舶ノ保険ニアリテ危険ノ始マリ及終ルヘキト同一ノ時限ヲ以テ始マリ及終ルモノトス 運賃及渡航賃ノ保険者ハ船舶ニ罹ル危難ニ付テハ運送契約又ハ渡航契約ヲ取結ヒタルトキニ限リ責任ヲ負担シ及船主自己ノ計算ヲ以テ荷物ヲ船積スルトキハ船舶又ハ艀船ニ積込ム為メ荷物ヲ既ニ陸ヨリ離シタルトキニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第八百三十条 船舶書入金及海難損失金ノ保険ニアリテ危険ハ其金額ヲ交付シタル時限ヲ以テ始マリ又被保険者自ラ海離損失金ヲ交付シタルトキハ其金額ヲ支出シタル時限ヲ以テ始マリ書入シタル物件又ハ海難損失金ヲ支出シタル物件ノ保険ニアリテ終ルヘキ時限ヲ以テ終ルモノトス 第八百三十一条 既ニ始マリタル危険ハ保険者ニ対シ契約時間又ハ保険シタル航海中間断ナク継続スルモノトス保険者ハ特ニ避難港又ハ中間港ニ於ケル碇泊中ノ危険ヲモ負担シ及往航及復航ニ付テノ保険ノ場合ニ於テハ往航ノ到達港ニ於ケル船舶碇泊中ノ危険ヲモ負担スルモノトス 荷物ヲ一時荷卸スヘキトキ又ハ修復ノ為メ船舶ヲ陸ニ上ルトキ保険者ハ荷物又ハ船舶ノ陸ニ存スル間ノ危険ヲモ負担スルモノトス 第八百三十二条 危険ノ始マリタル後保険シタル航海ヲ任意ヲ以テ又ハ已ムヲ得ス航海ヲ止ルトキ危険ノ終リニ関シテハ航海ヲ終ル港到達港ニ代ハルモノトス 船舶ノ航海ヲ止メタル後運送ニ供シタル船舶ヲ以テスルヨリ他ノ方法ニテ荷物ヲ到達港ニ運送スルトキ其荷物ニ関シ始マリタル危険ハ運送ノ全部又ハ一部ヲ陸ニテナストキト雖継続スルモノトス此場合ニ於テ保険者ハ同時ニ期ヲ早メタル荷卸ノ費用一時蔵入ノ費用及陸ニテナストキト雖運送ノ増費ヲ負担スルモノトス 第八百三十三条 第八百三十一条及第八百三十二条ハ第八百十八条及第八百二十条ニ掲ケタル規定ニ牴触セサル限リハ之ヲ適用スルモノトス 第八百三十四条 保険ノ期限ヲ日、週、月又ハ年ニ依テ定メタルトキ其時間ハ暦ニ従ヒ及其日ハ夜半ヨリ夜半マテニ計算スルモノトス保険者ハ初日及終日ノ危険ヲ負担スルモノトス 時間ヲ計算スルノ際ニハ船舶ノ碇泊スル地標準トナルモノトス 第八百三十五条 船舶ノ定期保険ノ場合ニ於テ契約ニ定メタル保険期限ノ終ル際船舶途中ニアルトキ保険ハ反対ノ契約ナキトキニ限リ最近ノ到達港ニ船舶ノ到着スルマテ之ヲ延期シタルモノト看做シ及此到達港ニ於テ荷物ヲ荷卸スル場合ニ於テハ其荷卸ヲ終ルマテ(第八百二十七条)之ヲ延期シタルモノト看做スモノトス但被保険者ハ船舶途中ニアラサル間ハ保険者ニ通知スヘキ陳述ヲ以テ其延期ヲ禁スルノ権アルモノトス 延期ノ場合ニ於テ被保険者ハ其期限ニ付キ契約上ノ定期保険料ヲ継続シテ支払ヒ及船舶ノ失踪シタルトキハ其失踪期限ノ経過ヲ終ルマテ契約上ノ定期保険料ヲ継続シテ支払フヘキモノトス 延期ヲ禁シタル場合ニ於テ保険者ハ失踪期限保険期限ヲ超ルトキ其失踪ニ依リ請求ヲ受ルコトナキモノトス 第八百三十六条 数港中此港又ハ他港ニ達スル航海ノ保険ニアリテハ其港ノ一ヲ撰定スルノ権ヲ被保険者ニ与ルモノトス此港及他港又ハ一港及他ノ数港ニ達スル航海ノ保険ニアリテ被保険者ハ其各港ニ達スルマテ其権ヲ有スルモノトス 第八百三十七条 数港ニ達スル航海ノ保険契約ヲ取結ヒ又ハ数港ニ立寄ルノ権ヲ被保険者ニ与ヘタルトキハ被保険者ハ単ニ契約上ノ順序又ハ其契約ナキ場合ニ於テハ航海ノ状況ニ相当スル順序ニ従ヒ其港ニ達スルノ権ヲ有スルモノトス但其各港ニ達スルノ義務ヲ有セス 保険証書ニ掲ケタル順序ハ別段ノ定メ判然セサルトキニ限リ之ヲ契約シタルモノト看做スモノトス 第八百三十八条 左ニ掲ルモノハ保険者ノ負担ニ帰スルモノトス 第一 海難大損失ノ出金及被保険者自ラ被リタル損害ニ付キ負担スヘキ出金第六百三十七条及第七百三十四条ニ従ヒ海難大損失ノ原則ニ依テ判定スヘキ出金ハ海難大損失ノ出金ト同視ス 第二 荷物特ニ船主ノ荷物ヨリ他ノ荷物ヲ船舶ニ存シタルトキハ海難大損失ニ属スヘキ投棄 第三 其他大損害ヲ救助シ又ハ防止スル為メ已ムヲ得ス又ハ便宜上支出シタル費用(第八百二十三条)但其ナシタル処分効ナキトキ亦同シ 第四 保険者ノ負担ニ帰スル損害ヲ検出及確定スル為メ必要ナル費用特ニ検視、評定、売却及海難損失計算書調製ノ費用 第八百三十九条 海難大損失ノ出金及海難大損失ノ原則ニ依テ判定スヘキ出金ニ関シテハ保険者ノ義務ハ内国又ハ外国ニ於ケル相当ノ地ニ於テ計算スル地ニ行ハルヽ法律ニ準拠シテ作リタル計算書ニ依テ定マルモノトス特ニ海難大損失ニ属スル損害ヲ被リタル被保険者ハ保険者ニ対シ海難損失計算書ニ計算シタル損害ヨリ多額ヲ要求スルノ権ナキモノトス又保険者ハ特ニ保険価額ヲ標準トスルコトナクシテ其損害ノ全額ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 亦被保険者ハ計算スル地ニ行ハルヽ法律ニ従ヒ其損害ヲ海難大損失ト看做スヘカラサルトキハ保険者ニ対シ他ノ法律特ニ保険地ノ法律ニ従ヒ其損害ノ海難大損失ナルノ理由ヲ以テ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス 第八百四十条 但保険者ハ前条ニ掲ケタル出金ニ付キ保険契約ニ従ヒ自己ノ責ニ帰セサル災難ニ依リ生スルモノニ限リ責任ヲ負担セサルモノトス 第八百四十一条 法律又ハ慣例ニ依リ其任アル人、海難損失計算書ヲ調製シタルトキ保険者ハ計算スル地ニ行ナハルヽ法律及之ニ依テ被保険者ノ被リタル損害ト相当スルカ為メ其計算書ニ対スル不服ヲ唱フルコトヲ得ス但被保険者ニ於テ自己ノ権利ヲ保護セサルニ依リ損害ヲ被リタルノ過失アルトキハ此限ニアラス 但被保険者ハ自己ノ損害ニ依リ利益ヲ受ケタル者ニ対スル請求ヲ保険者ニ譲渡スノ義務アルモノトス 之ニ反シテ保険者ハ何レノ場合ニ於テモ被保険者ニ対シ被保険者自己ニ被リタル損害ニシテ海難損失計算書ヲ作ル地ニ行ハルヽ法律ニ従ヒ弁償ヲ受クヘカラサリシモ海難大損失トシテ論セラレタルモノニ限リ其計算書ニ付キ不服ヲ唱フルノ権アルモノトス 第八百四十二条 被保険者ノ被リタル海難大損失ニ属スル損害又ハ海難大損失ノ原則ニ従テ判定スヘキ損害ニ付キ保険者ハ損害ノ確定及分配ヲ目的トスル正当ノ手続ヲ開始シタルトキハ被保険者自己ニ受クヘキ補償ヲ正当ニナスコトヲ得シ訴訟ヲ以テモ亦得ルコト能ハサリシ部分ニ限リ之ニ対シ支払フヘキ出金ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 第八百四十三条 被保険者ノ過失ナクシテ手続ヲナサヽリシトキ被保険者ハ全損失ニ付キ保険契約ニ従ヒ直接ニ保険者ニ対シ請求スルコトヲ得 第八百四十四条 保険者ハ保険額ニ至ルマテニ限リ損害ニ付キ責任ヲ負担スルモノトス 但保険者ハ支払フヘキ補償ノ全額保険額ヲ超過スルトキト雖第八百三十八条第三項及第四項ニ掲ケタル費用ヲ全ク弁償スヘキモノトス 災難ノ為メ前項ノ費用ヲ既ニ支出シ例ヘハ買戻費用又ハ取戻費用ヲ交付シタルトキ又ハ災難ニ依テ損傷シタル物件ヲ回復又ハ修繕スル為メ既ニ支出ヲナシ例ヘハ之カ為メ海難損失金ヲ交付シタルトキ又ハ被保険者ヨリ海難大損失ノ出金ヲ既ニ支払フタルトキ又ハ其出金ヲ支払フヘキ被保険者一身上ノ義務ヲ生シタルトキニシテ後日更ニ災難ノ生スルトキ保険者ハ後日ノ災難ニ依テ生スル損害ニ付テハ自己ノ責ニ帰スル以前ノ支出及出金ニ拘ハラス保険全額ニ至ルマテ責任ヲ負担スルモノトス 第八百四十五条 保険者ハ災難ノ始マリタル後保険全額ヲ支払ヒ保険契約ヨリ生スル総テノ其他ノ義務特ニ保険セラレタル物件ヲ救助、維持及回復スル為メ必要ナル費用ヲ弁償スヘキ義務ヲ免カルヽノ権アルモノトス 災難ノ始マルトキ保険セラレタル物件ノ一部保険者ノ負担スヘキ危険ヲ既ニ免カレタルトキ本条ノ権利ヲ施用スル保険者ハ保険額ノ此一部ニ帰スル部分ヲ支払フコトヲ要セス 保険者ハ保険額ヲ支払フニ依リ保険セラレタル物件ニ付キ請求権ヲ得サルモノトス 保険額ヲ支払フタルモ保険者ハ其権利ヲ施用スルノ陳述被保険者ニ達スル前ニ於テ保険セラレタル物件ノ救助維持又ハ回復ノ為メ支出シタル費用ヲ弁償スルノ義務ヲ有スルモノトス 第八百四十六条 保険者ハ被保険者ニ於テ災難ノ性質及直接ノ結果ノミナラス総テ其他災難ニ関スル状況ニシテ其知了シタルモノヲ保険者ニ告知シタル日ノ経過後遅クトモ第三日ニ第八百四十五条ノ権利ヲ施用セント欲スル決意ヲ被保険者ニ陳述スヘキモノトス其陳述ヲナサヽルトキハ其権利ヲ失フモノトス 第八百四十七条 全価額ヲ保険セサル場合ニ於テ保険者ハ第八百三十八条第一項ヨリ第四項マテニ掲ケタル出金、投棄及費用ニ付キ保険価額ニ対スル保険額ノ割合ニ依テノミ責任ヲ負担スルモノトス 第八百四十八条 損害ヲ賠償スヘキ保険者ノ義務ハ後日保険者ノ負担ニ帰セサル危険ニ依リ新ナル損害ノミナラス全部喪失ヲ生スルモ之カ為メ更ニ廃止又変更セラレサルモノトス 第八百四十九条 海難各部損失ニシテ其損害ノ検出及確定ノ費用(第八百三十八条第四)ヲ除キ保険価額百分三ヲ超ヘサルトキ保険者ハ之ヲ賠償スルヲ要セス百分三ヲ超ルトキハ其百分三ヲ引去ルコトナクシテ之ヲ補償スヘキモノトス 船舶ヲ定期ヲ以テ又ハ数航海ノ為メ保険シタルトキ其百分三ハ各個ノ航海ニ付キ計算スヘキモノトス航海ノ意義ハ第七百六十条ノ規定ニ依テ定マルモノトス 第八百五十条 第八百三十八条第一ヨリ第三マテニ掲ケタル出金、投棄及費用ハ保険価額百分三ニ達セサルトキト雖亦保険者之ヲ賠償スヘキモノトス但第八百四十九条ニ掲ケタル百分三ヲ検出スルノ際之ヲ算入セサルモノトス 第八百五十一条 保険者ニ於テ一定ノ百分ノ幾部ニ付キ義務ヲ免カルヘキコトヲ契約シタルトキハ第八百四十九条及第八百五十条ノ規定ヲ適用スルモノトス但此両条ニ掲ケタル百分ノ三ニ代ルモノハ契約ニ掲ケタル百分ノ幾部ナリトス 第八百五十二条 保険者ニ於テ戦争ノ危険ヲ担当セサルコト亦其他ノ危険ニ関スル保険ハ戦争ノ妨碍ヲ生スルマテニ限リ継続スヘキコトヲ契約シタルトキ(其契約ハ特ニ「不保戦争妨碍」ノ制限ヲ以テ取結ヒタルトキ存スルモノト看做ス)危険ハ保険者ニ対シ戦争ノ危険始メテ航海ニ影響ヲ及ホス時限特ニ航海ノ起始又ハ継続、軍艦奪掠船又ハ鎖港ノ為メ妨碍セラレ又ハ戦争ノ危険ヲ避ル為メ淹滞セラルヽトキ又ハ此事由ニ依リ船舶其海路ニ違フトキ又ハ戦争ノ妨碍ニ依リ船長船舶ノ自由ナル運用ヲ失フトキ終ルモノトス 第八百五十三条 保険者ニ於テ戦争ノ危険ヲ担当セサルモ総テ其他ノ危険ヲ戦争妨害ノ始マリタル後ニモ尚ホ担当スヘキコトヲ契約シタルトキ(其契約ハ特ニ「海難ニ限ル」ノ制限ヲ以テ取結ヒタルトキ存スルモノト看做ス危険ハ保険者ニ対シ保険セラレタル物件ヲ奪掠スルノ裁判言渡ヲ以テ始メテ終ハリ又戦争ノ危険ヲ取除カサリシ場合ニ於テ其危険ノ終リタルトキ直ニ終ルモノトス但保険者ハ戦争ノ危険ニ依テ直接ニ生シタル損害特ニ左ニ掲ルモノニ付キ責任ヲ負担セサルモノトス 交戦国ノナス没収 軍艦及掠奪船ノナス押取損傷、破毀及掠奪 留置及取戻ヨリ生スル費用、碇泊港ノ閉鎖又ハ閉鎖セラレタル港ヨリ退斥セラルヽニ依テ生スル費用又ハ戦争ノ危険ノ為メ任意碇泊スルニ依テ生スル費用 前項ノ碇泊ニ依テ生スル結果即チ荷物ノ損敗及減少、荷物ノ荷卸及蔵入ノ費用及危険並ニ荷物運送ノ費用 疑シキ場合ニ於テハ其生シタル損害ハ戦争ノ危険ニ依テ生シタルモノニアラスト看做スモノトス 第八百五十四条 契約ヲ「到着マテ担保」ノ制限ヲ以テ取結ヒタルトキ危険ハ保険者ニ対シ船舶到達港ニ於テ慣例上又ハ相当ノ場所ニ投錨シ又ハ碇繋シタル時限ヲ以テ終ルモノトス 亦保険者ハ左ノ場合ニ限リ其責任ヲ担当スルモノトス 第一 船舶ニ関スル保険ニアリテハ其全部喪失ノ生スルトキ又ハ船舶ヲ放譲スルトキ(第八百六十五条)又ハ災難ニ依リ到達港ニ達スル前ニ於テ修復不能又ハ修復無益ノ為メ売却スルトキ(第八百七十七条) 第二 荷物ニ関スル保険ニアリテハ荷物ノ全部又ハ一部災難ニ依リ到着港ニ達セサルトキ特ニ到達港ニ達スル前ニ於テ災難ノ為メ其荷物ヲ売却スルトキ但荷物到達港ニ達スルトキ保険者ハ損傷及之カ為メ生スル喪失ニ付キ責任ヲ負担セサルモノトス 其他保険者ハ如何ナル場合ニ於テモ亦第八百三十八条第一ヨリ第四マテニ掲ケタル出金、投棄及費用ヲ担当セサルモノトス 第八百五十五条 契約ヲ「海浜乗上ヲ除クノ外損傷不保」ノ制限ヲ以テ取結ヒタルトキ保険者ハ損傷ニ依テ生シタル損害ニ付テハ其損害価額減少ニアルト又ハ全部又ハ一部ノ喪失ニアルトヲ問ハス及特ニ保険セラレタル荷物ノ全部損敗シ原品質毀傷セラレテ到達港ニ達スルニアルト又ハ航海中損傷及切迫ナル損敗ノ為メ売却セラレタルニアルトヲ問ハス保険セラレタル荷物ノ存スル船舶又ハ艀船海浜ニ乗上タル場合ヲ除クノ外責任ヲ負担スルモノトス転動、沈没、船体ノ破砕、潰裂及船舶又ハ艀船ヲ修復不能ニ至ラシメタル各海難ハ之ヲ海浜乗上ト同視スルモノトス 海浜乗上又ハ之ト同視スヘキ他ノ海難ノ生シタルトキ保険者ハ百分三ヲ超ル(第八百四十九条)各損傷ニシテ其海難ニ依テ生シタルモノニ付キ責任ヲ負担スルモ其他ノ損傷ニ付テハ責任ヲ負担セサルモノトス反対ノ証拠アルニアルマテハ其海難ニ依テ生スルコトアル損傷ハ之ニ依テ生シタルモノト推測スルモノトス 損傷ニ依テ生シタルニアラサル各損害ニ付キ保険者ハ海浜乗上又ハ其他本条ニ記載シタル海難ノ生シタルト否トヲ問ハス制限ナキ契約ヲ取結ヒタリシトキト同一ニ責任ヲ負担スルモノトス保険者ハ必ス第八百三十八条第一第二及第四ニ掲ケタル出金、投棄及費用ニ付テハ必ス責任ヲ負担スルモ同条第三ニ掲ケタル費用ニ付テハ自己ノ責ニ帰スル喪失ヲ避ル為メ支出シタルトキニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 自然火ヲ発シタルニアラサルコトノ判然スル場合ニ於テ失火又ハ其消防ニ依リ又ハ炮発ニ依リ生シタル損傷ハ保険者ニ於テ契約制限ヲ以テ其義務ヲ免カルヽ損傷ト看做サヽルモノトス 第八百五十六条 契約ヲ「海浜乗上ヲ除クノ外破砕不保」ノ制限ヲ以テ取結ヒタルトキハ前条ノ規定ヲ適用スルモノトス但保険者ハ破砕ニ付テハ前条ニ従ヒ損傷ニ付キ責任ヲ負担スル部分ニ限リ責任ヲ負担スルモノトス 第八百五十七条 第八百五十五条及第八百五十六条ニ謂ヘル海浜乗上トハ航海ノ非常ノ状況ニ依リ海底ニ固着シタル場合ナリトス即チ 再ヒ動カサルトキ又ハ再ヒ動クモ左ノ場合ナルトキ 第一 檣ノ截断、積荷ノ一部ノ投棄又ハ荷卸等ノ如キ非常ノ処分ヲ施シ又ハ非常ノ満潮アルトキニ限リ動クモ錨ニテ巻寄セ又ハ帆ヲ逆ニ挙ル等ノ如キ通常ノ処分ノミニテハ動カサルトキ 第二 船舶海底ニ固着シタルニ依リ船体ニ大ナル損害ヲ被リタル後始メテ動クトキ 第五節 損害ノ範囲 第八百五十八条 船舶又ハ荷物ノ全部喪失ハ船舶又ハ荷物沈没スルトキ又ハ被保険者ニ於テ之ヲ失ヒ再ヒ得ルノ望絶ヘタルトキ特ニ沈没シテ救助ノ見込ナキトキ又ハ原品質ヲ毀傷セラレタルトキ又ハ分取物トシテ言渡サレタルトキ存スルモノトス船舶ノ全部喪失ハ破船又ハ財産ノ一部ヲ救助シタルモ之カ為メ変更ヲ受ルコトナキモノトス 第八百五十九条 運賃ノ全部喪失ハ運賃全額ヲ喪失シタルトキ存スルモノトス 第八百六十条 荷物ノ到達港ニ達スルニ依リ予期スル想像利益又ハ手数料ノ全部喪失ハ荷物ノ到達港ニ達セサルトキ存スルモノトス 第八百六十一条 船舶書入金及海難損失金ノ全部喪失ハ書入セラレ又ハ損失金ヲ交付セラレタル物件全部喪失又ハ其他ノ災難ニ罹リタルニ依リ生シタル損傷船舶書入又ハ其他ノ負担ノ為メ其金額ニ充ルモ残在セサルトキ存スルモノトス 第八百六十二条 全部喪失ノ場合ニ於テ保険者ハ保険全額ヲ支払フヘキモノトス但第八百四条ノ規定ニ従ヒ引去ルヘキモノアルトキハ之ヲ引去ルノ妨ケトナラサルモノトス 第八百六十三条 全部喪失ノ場合ニ於テ保険額ヲ支払フ前ニ救助シタルモノアルトキ其救助物ノ売得金ハ之ヲ保険額ヨリ引去ルモノトス全価額ヲ保険セサリシトキハ救助物ノ割合部分ノミヲ保険額ヨリ引去ルモノトス 保険額ノ支払ト共ニ保険セラレタル物件ニ付テノ被保険者ノ権利ハ保険者ニ移転スルモノトス 保険額ヲ支払フタル後始メテ全部又ハ一部ノ救助ヲナストキ保険者ニ限リ其支払後ニ救助シタルモノヲ請求スルノ権ヲ有スルモノトス全価額ヲ保険セサリシトキ保険者ハ救助物ノ割合部分ノミヲ得ルモノトス 第八百六十四条 想像利益ノ全部喪失(第八百六十条)ニアリテ荷物ヲ航海中ニ売却シ其売得純金荷物ノ保険価額ヲ超ルトキ又ハ海難大損失ノ場合ニ於テ荷物ヲ投棄シ又ハ第六百十二条及第六百十三条ノ規定ニ従テ喪失ノ為メ賠償ヲ支払フヘキ場合ニ於テ荷物ノ為メ保険価額ヲ超ル補償ヲ得ルトキハ想像利益ノ保険額ヨリ其剰余額ヲ引去ルモノトス 第八百六十五条 被保険者ハ左ノ場合ニ於テ保険セラレタル物件ニ関シ自己ニ帰スル権利ヲ譲渡シテ(放譲)保険全額ノ支払ヲ求ルノ権アルモノトス 第一 船舶失踪シタルトキ 第二 船舶又ハ荷物留置セラレ、交戦国ヨリ押取セラレ又ハ他ノ方法ニ依リ政府ノ処分ヲ以テ留置セラレ又ハ海賊ニ掠奪セラレ及左ノ地ニ於テ押取、留置又ハ掠奪セラレタルノ区別ニ従ヒ六月九月又ハ十二月間ニ放免セラレサルニ依リ保険ノ物件ニ危険ヲ生スルトキ 一 欧州内ノ港又ハ欧州内ノ海又ハ欧州外ナル地中海、黒海又ハ「アツオウ」海ノ地 二 其他ノ海但喜望峰及「カップホールン」以西ニ限ル 三 喜望峰又ハ「カップホールン」以東ノ海 此期限ハ保険者ニ於テ被保険者ヨリ災難ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ之ヲ起算スルモノトス(第八百二十二条) 第八百六十六条 航海ヲ始メタル船舶失踪期限内ニ到達港ニ達セス及其期限内関係者ニ其船舶ニ付キ一モ通知ノ達セサリシトキ失踪シタリト看做スヘキモノトス 失踪期限ハ左ノ期限ナリトス 第一 出発港及到達港欧州内ノ港ナルトキハ帆走船ニアリテハ六月滊船ニアリテハ四月 第二 出発港又ハ到達港ノ一欧州外ノ港ナル場合ニ於テハ其港喜望峰及「カップホールン」以西ニアルトキハ帆走船及滊船ヲ問ハス九月其一港喜望峰又ハ「カップホールン」以東ニアルトキハ帆走船及滊船ヲ問ハス十二月 第三 出発港及到達港欧州外ノ港ナルトキハ航海ノ平均日数二月又ハ三月ヲ超ヘス又ハ三月ヲ超ルノ区別ニ従ヒ帆走船及滊船ヲ問ハス六月九月又ハ十二月 疑シキ場合ニ於テハ平均日数ヨリ長キ期限間待ツヘキモノトス 第八百六十七条 失踪期限ハ船舶航海ヲ始メタル日ヨリ起算スルモノトス但其出発以来船舶ニ付キ通知ノ達シタルトキハ確カナル通知ニ従ヒ最後ニ存在シタル地ヨリ船舶ノ出発シタルヘカリシ場合ニ於テ標準トナルヘキ期限ハ最後ノ通知ヲ発シタル日ヨリ起算スルモノトス 第八百六十八条 放譲供述ハ放譲期限内ニ保険者ヘ達スヘキモノトス 放譲期限ハ失踪ノ場合(第八百六十五条第一)ニ於テ到達港欧州内ノ港ナルトキ及押取、留置又ハ掠奪ノ場合(第八百六十五条第二)ニ於テ欧州内ノ港又ハ欧州内ノ海又ハ欧州外ノ地中海、黒海又ハ「アツオウ」海ノ地ニテ災難ノ生シタルトキハ六月其他ノ場合ニ於テハ九月ナリトス此期限ハ第八百六十五条及第八百六十六条ニ掲ケタル期限ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 複保険ニアリテ放譲期限ハ被保険者ヨリ複被保険者ニ放譲ヲ供述シタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 第八百六十九条 放譲期限ノ経過シタル後ハ放譲ヲナスコトヲ許サス但他ノ原則ニ従ヒ損害ノ補償ヲ請求スル被保険者ノ権利ハ之カ為メ害セラルヽコトナキモノトス 船舶失踪ノ場合ニ於テ放譲期限ヲ懈怠シタルトキ被保険者ハ全部損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得ルモノトス但保険セラレタル物件再ヒ現出シ及全部喪失ヲ生セサルコトノ判然スルトキ被保険者ハ保険者ノ求メニ依リテハ保険者ニ於テ保険額ノ支払ノ為メ第八百六十三条ニ従ヒ自己ニ帰スル権利ヲ放棄シタルニ於テハ保険額ヲ弁償シ及一部損害ヲ受ケタルトキハ其一部損害ノ賠償ヲ以テ満足スヘキモノトス 第八百七十条 放譲供述ハ制限又ハ設若ナクシテ之ヲナスニアラサレハ其効力ナク及保険セラレタル全物件ニ及ホスヘキモノトス但其物件災難ノ時航海ノ危険ヲ被リ易カリシトキニ限ル 但全価額ヲ保険セサリシトキ被保険者ハ保険セラレタル物件ノ割合部分ニ限リ放譲スルノ義務アルモノトス 放譲供述ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第八百七十一条 放譲供述ハ其憑拠トナル事実ノ確定セサルトキ又ハ其供述ヲ通知スルトキ既ニ存立セサルトキハ法律上効力ナキモノトス但放譲供述ハ以前ニ生シタルニ於テハ放譲権ヲ与ヘサリシ状況後日生スルトキト雖双方ニ対シ効力アルモノトス 第八百七十二条 放譲供述ニ依テハ放譲シタル物件ニ関シ被保険者ノ有セシ総テノ権利保険者ニ移転スルモノトス 被保険者ハ保険者ニ対シ放譲供述ノトキ放譲シタル物件ニ附着スル物権ニ付テノ保証ヲナスヘキモノトス但物権保険契約ニ従ヒ保険者ニ於テ責任ヲ有セシ危険ニ憑拠スルトキハ此限ニアラス 船舶ヲ放譲スルトキハ災難ノ生シタル航海ノ純運賃ニシテ放譲供述ノ後始メテ運賃ヲ得ヘキ部分ニ限リ船舶ノ保険者ニ帰スルモノトス運賃ノ此部分ハ里程運賃ヲ検出スルニ付キ現行スル原則ニ従ヒ之ヲ計算スルモノトス 前項ニ依リ被保険者ニ対シ生シタル喪失ハ運賃ヲ独立シテ保険シタルトキハ其運賃ノ保険者之ヲ担当スヘキモノトス 第八百七十三条 保険額ノ支払ハ放譲ヲ弁明スル為メノ証書ヲ保険者ニ交付シ及之ヲ審査スルニ付テノ相当ノ期限経過シタル後初メテ之ヲ求ルコトヲ得ルモノトス船舶失踪シタルカ為メ放譲スルトキハ船舶出発港ヲ離レタル時ニ付テノ信認スヘキ証書及失踪期限間到達港ニ船舶ノ到着セサルコトニ付テノ信認スヘキ証書モ亦其交付スヘキ証書ニ属スルモノトス 被保険者ハ放譲供述ノ際其ナスコトヲ得ル限リハ保険者ニ対シ放譲シタル物件ニ付キ他ノ保険ヲ受ケタルヤ及其種類ヲ通知シ及船舶書入負債又ハ其他ノ義務其物件ニ附着スルヤ及其種類ヲ通知スルノ義務アルモノトス其通知ヲナサヽルトキ保険者ハ後日之ヲナスマテ保険額ノ支払ヲ拒ムコトヲ得支払期限ヲ契約シタルトキハ其期限ハ後日其通知ヲナシタル時限ヲ以テ始マルモノトス 第八百七十四条 被保険者ハ放譲供述後ト雖保険セラレタル物件ヲ救助シ及大損失ヲ防止スル為メ第八百二十三条ノ規定ニ従ヒ注意スルノ義務ヲ有シ特ニ保険者自己ニ其処分ヲナスヲ得ルマテハ注意スルノ義務アルモノトス 被保険者喪失シタリト看做サレタル物件再度現出シタルコトヲ知了スルトキハ其旨ヲ直ニ保険者ニ通知シ及保険者ノ求メニ依リテハ之ニ対シ其物件ヲ得有シ又ハ売却スル為メ必要ナル救助ヲナスヘキモノトス 其費用ハ保険者之ヲ弁償スヘキモノトス又保険者ハ被保険者ノ求メニ依リ之ニ相当ノ前払ヲナスヘキモノトス 第八百七十五条 被保険者ハ保険者ニ於テ放譲ノ正当ナルコトヲ承認スルトキハ其求メニ依リ其費用ヲ以テ第八百七十二条ニ従ヒ放譲供述ニ依テ生シタル権利ノ移転ニ付テノ公証ヲ得タル承認証書(放譲証書)ヲ之ニ交付シ及放譲シタル物件ニ関スル証書ヲ引渡スヘキモノトス 第八百七十六条 船舶ノ一部損害ニアリテ其損害ハ第七百十一条及第七百十二条ニ従ヒ検出スヘキ修復費用ノ額ナリトス但其費用ハ被保険者ノ負担ニ帰スル損傷ニ関スル部分ニ限ル 第八百七十七条 第四百九十九条ニ規定シタル方法ヲ以テ船舶ノ修復不能又ハ修復無益(第四百四十四条)ヲ確定シタルトキハ被保険者ハ保険者ニ対シ船舶又ハ破船ヲ公売スルノ権アルモノトス公売ノ場合ニ於テ其損害ハ純売得金ト保険価額トノ差額ナリトス 其担当シタル危険ハ保険者ニ対シテハ船舶又ハ破船ノ公売ヲ以テ始メテ終ルモノトス又保険者ハ代価ノ収入ニ付キ責任ヲ有ス 船舶ノ修復無益ヲ検出スル為メ必要ナル損傷ヲ受ケサル状況ノ価額ヲ確定スルニ方リテハ其保険価額ハ評定シタルト否トヲ問ハス之ヲ度外視スルモノトス 第八百七十八条 修復ノ着手ハ被保険者ニ於テ其過失ナクシテ知了セサリシ重大ノ損害ヲ後日ニ至リ発見スルトキハ前条ニ於テ被保険者ニ与ヘタル権利ノ執行ヲ妨ケサルモノトス 被保険者後日ニ至リ其権利ヲ使用スルトキハ保険者ハ船舶ヲ売却スルニ方リ修復ノ為メ多額ノ売得金ヲ得タル部分ニ限リ既ニ支出シタル修復費用ヲ特ニ補償スヘキモノトス 第八百七十九条 損傷ヲ受ケテ到達港ニ到着シタル荷物ニアリテハ其荷物此港ニ於テ損傷シタル状況ニテ現ニ有スル総価額ト損傷ヲ受ケサル状況ニ於テ有スヘカリシ総価額トヲ比較シテ其荷物ノ価額ノ百分ノ幾部ヲ喪失シタルヤヲ検出スヘキモノトス其保険価額ノ百分ノ幾部ヲ以テ損害額ト看做スヘシ 其荷物損傷ヲ受ケタル状況ニ於テ有スル価額ノ検出ハ公売ヲ以テ之ヲナシ又保険者ノ承諾アルトキハ評定ヲ以テ之ヲナスモノトス其荷物損傷ヲ受ケサル状況ニ於テ有スヘカリシ価額ノ検出ハ第六百十二条第一項及第二項ノ規定ニ従ヒ之ヲナスモノトス 其他保険者ハ検視費用、評定費用及売却費用ヲ担当スヘキモノトス 第八百八十条 航海中荷物ノ一部ヲ喪失シタルトキ其損害ハ荷物ノ価額ノ百分ノ幾部ヲ喪失シタル額ニ当ル保険価額ノ百分ノ幾部ナリトス 第八百八十一条 航海中災難ノ為メ荷物ヲ売却シタルトキ其損害ハ運賃、関税及売却費用ヲ引去リタル荷物ノ純売得金ト其荷物ノ保険価額トノ差額ナリトス 其担当シタル危険ハ保険者ニ対シテハ荷物ノ売却ヲ以テ始メテ終ルモノトス又保険者ハ代価ノ収入ニ付キ責任ヲ有ス 第八百三十八条ヨリ第八百四十二条マテノ規定ハ本条ノ規定ニ依テ変更ヲ受ルコトナシ 第八百八十二条 運賃ノ一部喪失ニアリテ其損害ハ契約シタル運賃ノ喪失部分ナリトシ其契約ナキトキハ慣例上運賃ノ喪失シタル部分ナリトス 運賃ヲ評定シ及其評定額第七百九十七条第四項ノ規定ニ従ヒ保険者ノ賠償スヘキ損害ニ付キ標準トナルトキ其損害ハ契約又ハ慣例上運賃ノ百分ノ幾部ヲ喪失シタル額ニ当ル評定額ノ百分ノ幾部ナリトス 第八百八十三条 荷物到着シタル後予期スル想像利益又ハ手数料ニアリテ其損害ハ其荷物損傷ヲ受ケタル状況ニ於テ到着スルトキハ第八百七十九条ニ従ヒ検出スヘキ損害ニシテ其荷物ノ保険価額ノ百分ノ幾部ニ当ル想像利益又ハ手数料トシテ保険セラレタル額ノ百分ノ幾部ナリトス 荷物ノ一部到達港ニ到着セサルトキ其損害ハ到達港ニ到着セサリシ荷物ノ一部ノ価額ニシテ総荷物ノ価額ノ百分ノ幾部ニ当ル想像利益又ハ手数料トシテ保険セラレタル額ノ百分ノ幾部ナリトス 想像利益ノ保険ニアリテ其荷物ノ到着セサリシ部分ニ関シテ第八百六十四条ノ要件存在スルトキハ其損害ヨリ同条ニ掲ケタル剰余ヲ引去ルモノトス 第八百八十四条 船舶書入金及海難損失金ニアリテ其損害ハ一部喪失ノ場合ニ於テハ其書入セラレ又ハ海難損失金ヲ交付セラレタル物件後日ノ災難アルニ依リ船舶書入金又ハ海難損失金ニ引当ルニ足ラサルカ為メ生スル不足額ナリトス 第八百八十五条 保険者ハ全価額ノ保険ナリシトキハ第八百七十六条ヨリ第八百八十四条マテニ従ヒ計算スヘキ損害ヲ全ク補償スヘキモ第八百四条ノ規定ニ抵触セサルモノトス全価額ノ保険ニアラサリシトキハ第七百九十六条ニ従ヒ其損害ノ割合部分ノミヲ補償スヘキモノトス 第六節 損害ノ支払 第八百八十六条 被保険者ハ損害ノ賠償ヲ要求スル為メ損害計算書ヲ保険者ニ交付スヘキモノトス 被保険者ハ同時ニ充分ナル証書ヲ以テ保険者ニ対シ左ノ件々ヲ詳明スヘキモノトス 第一 自己ノ利益 第二 保険セラレタル物件海上ノ危険ニ罹リタルコト 第三 請求権ノ憑拠トナル災難 第四 損害及其範囲 第八百八十七条 他人ノ計算ノ為メニスル保険ニアリテハ其他被保険者ハ契約ヲ取結フ為メ保険依頼人ニ嘱託ヲ与ヘタルコトニ付キ詳明スヘキモノトス嘱託ナクシテ保険ヲ取結ヒタルトキ(第七百八十六条)被保険者ハ自己ノ利益ノ為メ保険ヲ受ケタルコトノ判然スル状況ヲ詳明スヘキモノトス 第八百八十八条 充分ナル証書ト看做スヘキモノハ総テ商ヒ交通ニ於テ特ニ他ノ証拠ヲ得ルニ困難ナルカ為メ通常不服ヲ唱ヘサル証書ニシテ特ニ左ニ掲ルモノナリトス 第一 利益ヲ証明スルニハ 船舶ノ保険ニアリテハ通常ノ所有権証書 荷物ノ保険ニアリテハ代価表又ハ運送状但其旨趣ニ従ヒ被保険者荷物ニ付キ処分ヲナスノ権アリト認ルモノニ限ル 運賃ノ保険ニアリテハ船舶貸借証書及運送状 第二 荷物ノ積込ヲ証明スルニハ運送状 第三 災難ヲ証明スルニハ海難具状書及船舶日記(第四百八十八条及第四百九十四条)分取ノ場合ニ於テハ分取裁判所ノ判決書失踪ノ場合ニ於テハ船舶出発港ヲ離レタル時ニ付テノ信認スヘキ証書及失踪期限間到達港ニ船舶ノ到着セサルコトニ付テノ信認スヘキ証書 第四 損害及其範囲ヲ証明スルニハ損害ヲ検出スル地ノ法律又ハ慣例ニ適スル検視、評定及公売ノ証書並ニ鑑定人ノ費用ニ付テノ鑑定書其他其ナシタル修復ニ付テノ受取証アル計算書及其他其ナシタル支払ニ付テノ受取証書但船舶ノ一部損害ニアリテハ(第八百七十六条第八百七十七条)検視及評定ノ証書並ニ費用ニ付テノ鑑定書ハ損耗、古旧、腐朽又ハ蠹蝕ニ依テ生シタル損害アルトキハ其損害ヲ充分ニ省キ及同時ニナスコトヲ得ル限リハ平常官任セラレタル鑑定人又ハ其地ノ裁判所又ハ本国領事ノ特任シタル鑑定人其裁判所又ハ領事ナキトキ又ハ其助力ヲ受ルコト能ハサルトキハ他ノ官署ノ特任シタル鑑定人ヲ立会ハシメタルトキニ限リ充分ナルモノトス 第八百八十九条 訴訟ノ場合ニ於テモ亦第八百八十八条ニ掲ケタル証書ニハ通例特別ノ状況ニ依リ嫌疑ヲ生セサルトキニ限リ証拠力ヲ与フヘキモノトス 第八百九十条 被保険者ニ於テ第八百八十六条ニ掲ケタル状況ノ全部又ハ一部ノ証明ヲ免ルヽ契約ハ其効力アルモノトス但反対ヲ証明スヘキ保険者ノ権理ヲ妨ルコトナシ 荷物ノ保険ニアリテ運送状ヲ調製スヘカラサルコトニ付キナシタル契約ハ積込ノ証明ノミヲ免レシムルモノトス 第八百九十一条 他人ノ計算ノ為メニスル保険ニアリテ保険依頼人ハ被保険者ノ委任状ヲ差出スコトナキモ保険契約ニ於テ被保険者ノ為メ契約シタル権利ニ付キ処分ヲナシ並ニ保険金ヲ取立テ及出訴スルノ権アルモノトス但此規定ハ保険証書ヲ交付シタル場合ニ於テハ保険依頼人其証書ヲ差出ストキニアラサレハ之ヲ適用セス 嘱託ナクシテ保険ヲ受ケタルトキ保険依頼人ハ保険金ヲ取立又ハ出訴スルニ付キ被保険者ノ承諾アルコトヲ要ス 第八百九十二条 保険証書ヲ交付シタル場合ニ於テ保険者ハ被保険者ヨリ其証書ヲ差出ストキハ之ニ保険金ヲ支払フヘキモノトス 第八百九十三条 保険依頼人ハ保険セラレタル物件ニ付キ被保険者ニ対シ自己ニ有スル請求ヲ弁償セラレタル前ニ保険証書ヲ被保険者又ハ其債主又ハ倒産額ニ引渡スノ義務ナキモノトス 損害ノ場合ニ於テ保険依頼人ハ此請求ニ付テハ保険者ニ対シ生シタル要求ヨリ弁償ヲ受ルコトヲ得及保険金ヲ取立テタル後ハ特ニ被保険者及其債主ニ先タチ其保険金ヨリ弁償ヲ受ルコトヲ得ルモノトス 第八百九十四条 保険者ハ保険依頼人尚ホ保険証書ヲ現有スル間ニ於テ被保険者又ハ其債主又ハ倒産額ニ支払ヲナスニ依リ又ハ是等ノ者ト契約ヲ取結フニ依リ第八百九十三条ニ掲ケタル保険依頼人ノ権利ヲ妨ルトキハ之ニ対シ責任ヲ有スルモノトス 保険者保険証書ニ依リ他人ニ与ヘタル権利ニ付キ契約ヲ取結ヒ又ハ保険証書ヲ返付セシムルコトナク又ハ之ニ必要ノ附記ヲナスコトナクシテ保険金ヲ支払ニ依リ其他人ニ対シ責任ヲ有スルノ程度ハ民法ノ規定ニ従ヒ之ヲ定ルモノトス 第八百九十五条 保険者保険金ノ支払ヲ請求セラルヽトキハ他人ノ計算ノ為メニスル保険ニアリテハ保険依頼人ニ対シ自己ニ有スル要求ト差引ヲナスコトヲ得サルモノトス 第八百九十六条 被保険者ハ既ニ生シタル災難ニ依リ自己ニ有スル損害賠償ノ請求ノミナラス亦後来ノ損害賠償ノ請求ヲ他人ニ譲渡スノ権アルモノトス指名ナル保険証書ヲ交付シタルトキ其証書ハ裏書ヲ以テ之ヲ譲渡スコトヲ得此裏書ニ関シテハ第三百一条第三百三条第三百五条ノ規定ヲ適用ス他人ノ計算ノ為メニスル保険ニアリテ第一譲渡ノ効力ヲ有セシムルニハ保険依頼人ノ裏書ヲ以テ足レリトス 第八百九十七条 災難ノ通知以来二月ヲ経過シタル後損害計算書(第八百八十六条)ヲ被保険者ノ過失ナクシテ未タ差出サヽルモ概略ノ検出ニ依リ少ナクモ保険者ノ負担ニ帰スル額ヲ確定シタルトキ保険者ハ其額ヲ自己ノ負債ニ算入シテ仮ニ支払フヘキモ保険金ノ支払ニ付キ契約シタル期限アルトキハ其期限ノ経過前ニ其支払ヲナスコトヲ要セサルモノトス其支払期限損害計算書ヲ保険者ニ交付シタル時限ト共ニ始マルヘキトキハ本条ノ場合ニ於テハ保険者ニ仮検出書ヲ交付シタル時ヨリ起算ス 第八百九十八条 保険者ハ左ノ前払ヲナスヘキモノトス 第一 海難損失ノ場合ニ於テハ保険セラレタル物件ノ救助、維持又ハ回復ノ為メ必要ナル支出ニ付キ後日確定スヘキ自己ノ負債ニ算入シテ自己ノ負担ニ帰スヘキ額ノ三分二 第二 船舶又ハ荷物ノ押取ニアリテハ自己ノ負担スヘキ取戻訴訟ノ費用ノ全額但其費用ヲ要スルトキニ限ル 第七節 保険ノ解止及保険料ノ払戻 第八百九十九条 保険ノ関スル航海ノ全部又ハ一部ヲ被保険者ニ於テ止ムルトキ又ハ被保険者ノ行為ニアラスシテ保険セラレタル物件ノ全部又ハ一部保険者ノ担当シタル危険ニ罹ラサルモノナルトキハ保険料ノ全額又ハ保険者ニ帰スル補償ニ達スルマテ保険料ノ割合部分ヲ返付セシメ又ハ収置スルコトヲ得ルモノトス(保険解約) 其補償(保険解約料)ハ他ノ契約又ハ保険ノ地ニ於テ慣例ナキトキニ限リ保険額ノ全部又ハ割合部分ノ百分一ノ半分トシ保険料保険額ノ百分一ニ達セサルトキハ保険料ノ全額又ハ割合部分ノ半額ナリトス 第九百条 保険保険セラレタル利益ナキカ為メ(第七百八十二条)又ハ超過保険(第七百九十条)又ハ重保険(第七百九十二条)ノ為メ無効ニシテ保険依頼人契約取結ノ際及他人ノ計算ノ為メニスル保険ノ場合ニ於テ被保険者モ亦嘱託ヲナス際良心ナルトキハ保険料ハ前条ト均ク其記載シタル保険解約料ニ達スルマテ之ヲ返付セシメ又ハ収置スルコトヲ得ルモノトス 第九百一条 第八百九十九条及第九百条ノ適用ハ保険契約通知義務ノ背反ニ依リ又ハ他ノ理由ニ依リ無効トナルカ為メ妨ケラレサルノミナラス保険者其無効ナルニ拘ハラス保険料全額ノ請求ヲ有シタリシトキ亦妨ケラレサルモノトス 第九百二条 保険解約ハ保険者ニ対シ既ニ危険ノ始マリタルトキ亦之ヲ許スモノトス 第九百三条 保険者支払不能トナリタルトキ被保険者ハ任意ニ契約ヲ解除シ及保険料全額ヲ返付セシメ又ハ収置スルノ権ヲ有シ又ハ保険者ノ費用ヲ以テ第七百九十三条ニ従ヒ更ニ保険ヲ受ルノ権ヲ有スルモノトス但此権ハ被保険者契約ヲ解除シ又ハ更ニ保険ヲ受ケタル前ニ保険者ノ義務ヲ尽サシムルニ付キ充分ナル保証ヲナサシメタルトキハ之ヲ有セス 第九百四条 保険セラレタル物件ヲ売譲スルトキ保険契約ニ従ヒ後来ノ災難ニ関シテモ亦被保険者ノ有スヘキ権利ハ之ヲ其得有者ニ譲渡スコトヲ得其得有者ハ保険者ニ対シ其売譲ヲナサヽリシ場合ニ於テ被保険者自己ニ請求ヲナシタリシト同一ノ請求ヲナスノ権アルモノトス 保険者ハ其売譲ヲナサヽリシニ於テハ生セサリシ危険ニ付テノ責任ヲ免ルヽモノトス 保険者ハ直接ニ得有者ニ対スル弁駁及反対要求ヲナスコトヲ得ルノミナラス被保険者ニ対シ申立ルコトヲ得タリシ弁駁及反対要求ヲモ亦ナスコトヲ得ルモノトス但保険契約ヨリ生スル弁駮及反対要求ヲナスヲ得ルハ譲渡ノ通知前既ニ生シタルモノニ限ル 裏書ヲ以テナシタル指名ノ保険証書ノ譲渡ノ法律上効力ハ前項ノ規定ニ依テ変更ヲ受ルコトナシ 第九百五条 第九百四条ノ規定ハ船舶持部ノ保険ノ場合ニ於テモ亦之ヲ適用スルモノトス 船舶自己ヲ保険シタルトキ同条ノ規定ハ航海中ニ船舶ヲ売譲シタルトキニ限リ之ヲ適用シ其航海ノ始終ハ第八百二十七条ニ従ヒ定マルモノトス船舶ヲ定期ヲ以テ又ハ数航海ノ為メ(第七百六十条)保険シタルトキ其保険ハ航海中ニ売譲シタル場合ニ於テハ最近ノ到達港ニ於テ船舶ノ荷卸ヲナスマテニ限リ継続スルモノトス(第八百二十七条) 第十二章 期満得免 第九百六条 第七百五十七条ニ掲ケタル要求ハ一年ヲ以テ期満得免トナルモノトス但左ニ掲ル要求ニアリテ其期満得免期限ハ二年ナリトス 第一 職務及給料契約ヨリ生スル船舶乗組員ノ要求但喜望峰又ハ「カップホールン」以東ニ於テ解雇シタルトキニ限ル 第二 船舶ノ衝突ヨリ生シタル損害賠償ノ要求 第九百七条 前条ニ従ヒ生スヘキ期満得免ハ船主又ハ船舶乗組員ニ対シ債主ニ属スル身上請求ニモ亦及フモノトス 第九百八条 期満得免ハ左ノ如ク始マルモノトス 第一 船舶乗組員ノ要求(第七百五十七条第四)ニ付テハ職務関係又ハ給料関係ノ終ル日ノ経過ヲ以テ始マリ及之ヨリ以前ニ訴訟ヲ提起スルコトヲ得及之ヲ許シタル場合ニ於テハ其要件ノ生スル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス但先払及一部支払ヲ求ルノ権ハ期満得免ノ起始ニ関係スルコトナシ 第二 荷物及旅ヒ荷物ノ損傷又ハ引渡淹滞ヨリ生スル要求(第七百五十七条第八及第十)及海難大損失ノ出金ヨリ生スル要求(第七百五十七条第六)ニ付テハ其荷物ノ引渡ヲナシタル日ノ経過ヲ以テ始マリ荷物ヲ引渡サヽルニ依リ生スル要求ニ付テハ其荷物ノ引渡ヲナスヘキ港ニ船舶ノ達スル日ノ経過及其港ニ達セサル場合ニ於テハ関係者其旨及損害ヲ最初ニ知了シタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 第三 船舶乗組員ノ過失ニ依リ生スル本条第二ニ属セサル要求(第七百五十七条第十)ニ付テハ関係者其損害ヲ知了シタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス但船舶ノ衝突ヨリ生スル損害賠償ノ要求ニ付テハ其衝突ヲ生シタル日ノ経過ヲ以テ始マル 第四 総テ其他ノ要求ニ付テハ要求ノ支払満期トナリタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 第九百九条 其他運賃及総テノ附属手数料、猶予金、立替ヘタル関税及其他ノ立替、船舶書入金、海難大損失ノ出金及保護費用、救助費用ニ付キ荷物ニ附着スル要求並ニ積荷関係者ニ対スル総テノ身上ノ請求及渡航賃ニ付テノ要求ハ一年ヲ以テ期満得免トナルモノトス 其期満得免ハ海難大損失ノ出金ニ付テハ出金ノ義務アル荷物ヲ引渡シタル日ノ経過ヲ以テ始マリ其他ノ要求ニ付テハ其要求ノ支払満期トナリタル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 第九百十条 保険契約ヨリ生スル保険者及被保険者ノ要求ハ五年ヲ以テ期満得免トナルモノトス 其期満得免ハ保険セラレタル航海ヲ終リタル年ノ最終日ノ経過ヲ以テ始マリ及定期ノ保険ニアリテハ保険期限ノ終ル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス船舶失踪シタルトキ其期満得免ハ失踪期限ノ終ル日ノ経過ヲ以テ始マルモノトス 第九百十一条 第九百六条ヨリ第九百十条ニ従ヒ期満得免トナリタル要求ハ他ノ要求ノ生スル時既ニ期満得免トナリシトキハ差引ヲ以テ之ヲ申立テ又ハ其他反対要求トシテ申立ルコトヲ得サルモノトス