是ヨリ曾ヲ開キマス、昨日ノ続キ、第四章第一節、之ヲ曾議二掛ケマス

ドウデス、宜シウゴザイマスカ、當リ前ノコトダカラ宜力リサウナモノデス、ソレナラバ第一節ハ可決致シタモノト認メマス、是ヨリ第二節ヲ會議ニ掛ケマス

一寸御尋シマスデゴザイマスガ、此二節ニハ此九十五條デゴザイマス、是ハ法律行爲ノ要素ニ錯誤アリタルトキト云フコトハ、事實上ノ錯誤モ、法律上ノ錯誤モ區別ナク之ニ籠ルト云フノ大方針デアラウト思ヒマスガ、サウシテ見マスルト、随分本員ナドノ考ヘデハ、法律上ノ錯誤ト云フコトガ之二籠ルトシマシタナラバ、随分大変法律上可笑ナ結果ニナツテ、法律ニ背クモノヲ保護スルト云フヤウナ形ニナツテ、其結果大変面白クナイ結果ガ生ジハシナイカト思ヒマスガ、是ハドウ云フヤウナ御調査ノ方法ニナッテ居リマスカ、ソコヲ一ツ伺ヒマス、ソレカラ此九十六條ノ、此強迫二依ルト云フコトデアリマスガ、是ハ抵抗ス可ラザル場合ト否トヲ區別セヌヤウナコトニナルデゴザイマスカ、或ハ叉名誉ト云フヤウナモノニ大変關係スルト云フヤウナモノデモ之ニ籠ルト云フ趣意デアリマスカ、此ニツヲ承リタイ

御質問ノ第一点ハ、御見解ノ通リ、第九十五條二云フ所ノ錯誤ハ、事実上ノ錯誤ト法律上ノ錯誤トヲ併セテ称スルモノデアツテ、其点ハ既成民法ト同ジコトデアリマス、唯既成民法ニ於テハ、法律上ノ錯誤ハ宥恕スベキ情状ガナケレバ、法律行爲ノ効力ヲ妨ゲナイコトニ定メテアリマスガ、ソレハ唯一ノ制限デアッテ、原則トシテハ矢張區別シナイ方ノ主義ヲ採ツテ居リマス、叉外國ノ立法例モ多クハサウナツテ居ルヤウニ心得マシタニ依ッテ、斯ノ如ク廣ク規定シタノデアリマス、併ナガラ法律上ノ錯誤ノ中ニハ、重大ナル過失ト見ルベキモノガ比較上多カラウト思ヒマス、即チ既成民法ニ云フ所ノ宥恕ス可キ情状ノナイ場合ガ、事実上ノ錯誤ニ比シテ多カラウト思ヒマス、夫故二此法律上ノ錯誤ニシテ重大ナル過失ト見ルベキモノハ、本條ノ但書二依ツテ表意者ノ不利益二帰スルノデアリマス、ソレダケノ制限デ十分デアツテ、原則トシテハ何處マデモ區別ヲシナイ方ガ正當デアラウト考ヘマス、叉第九十六條ノ強迫ハ、抵抗ス可ラサルモノヲ云フノデアリマスガ、併シ抵抗ス可ガラズト云フコトニ付テハ、意義ヲ確メテ置カナケレバナリマセヌ、即チ事實二於テハ抵抗ハ出來テモ、其意思表示ヲ爲ササルトキハ生命、身躰、財産叉ハ名誉二重大ナル損害ヲ蒙ルニ依ツテ、共好マザル意思表示ヲ爲ス害ト、爲サネバ受クベキ危害トヲ較べテ、何レモ苦シイガ、先ヅ意思表示ヲ爲サザルトキニ受クベキ害ノ方ガ大ト見テ其意思表示ヲ爲シタトキニハ、強追ヲ受ケタト云フコトニナルノデアリマス、即チ意思表示ハ自由デナイ、其意思表示ヲ為サザルトキニハ、一層重大ナル害ヲ受クルニ依ツテ、巳ムヲ得ズシテ爲シタノデアリマスカラ無効ニハナラナイケレドモ、取消スコトヲ得ルノデアリマス、何ニ害ヲ受クルト云フコト就イテハ區別ハナイ、身體デモ、財産デモ、名誉デモ宜イ、併シ其意思表示ヲ爲サナカツタナラバ、一層重大ナル害ヲ受クルト思ヒ、而シテ其脅嚇ハ切迫シテ防グコトノ出來ナイモノデナクテハナラヌ、力士ガ幼者カラ、脅カサレタ所ガ、張迫ニハナラヌ、叉一年二年向フデ害ヲ加ヘルゾト言ハレタ所ガ強追ニナラヌ、サウ云フ意義二於テ抵抗スベカラザルモノヲ云フノデアリマス、併シ適用ハ全ク事實論デアリマシテ、各種ノ場合ニ就イテ、果シテ強追トナルカ否ヤハ決セネバナラヌコトデアリマス

第九十七條ニ就キマシテ一寸御説明ヲ請フテ置キタイコトガゴザイマス、是ハ大変實際二於テ重大ナル關係ヲ有スル箇條ト信ジマス、参考書トシテ持ツテ居リマス書類ノ、第九十六條ガ即チ第九十七條二ナッテ居リマスガ、此参考書ノ方ハ「遠隔地ニ在ル人ニ対スル意思表示ハ其通知ヲ発シタル時ヨリ其効力ヲ生ス」ト云フコトニナツテ居リマシテ、正シク原案ノ制ト正反対ノヤウニナツテ居リマス、其説明ノ理由ニ依ツテ見マシテモ、重二参考書ノ九十條トヲ維持セントスル方ニナツテ居ル、即チ参考書ノ法條ヲ維持セントシテ、御書加へニナッタヤウニ見エマスルガ故ニ此参考書ニ依レバ却テ原案ヨリモ、参考書ノ方ノ九十六條ノ方ノ趣意ハ、實際ノ上二適當シテ居ルデハナイカト云フ疑ガナイデモゴザイマセヌ、依ッテ此参考書ノ九十六條ノ主義ヲ変ジテ、サウシテ原案ノ九十七條ノ主義ニ変ヘラレマシタ其御説明ヲ承リタイト思ヒマス

御手許二廻ツテ居リマス参考書ハ、起草委員ノ多数ノ説ヨリ成ッタ原案ノ説明デアリマス、然ルニ此箇條二就イテハ、起草委員中ノ一名ヨり反対ノ修正案ヲ提出致シマシタ、法典調査會ニ於テハ十分二議ヲ盡シタ末二、遂ニ此修正案ヲ採用スルコトニ極マッタノデアリマス、其理由ヲ申上グルニ就イテ、先ヅ御注意ヲ乞ハネバナラヌコトハ、本條ノ規定ト、契約ノ総則ノ規定ト、御対照アランコトヲ希望致シマス、ソレハ第五百二十五條ノ規定デアリマス、意思表示ノ種類ノ中二於テ、契約ノ承諾ガ何レノ時ヨリ効力ヲ生ズベキモノトスベキヤニ就イテハ、諸國ノ立法例ガ分レテ居リ、又学説モ大イニ分レテ居リマス、此点ニ就イテハ大二考ヘネバナラヌコトデアリマシテ、先ヅ理論ハ兎モ角、契約ノ成立二就イテハ、實際ノ便不便ヲ見ルコトガ甚ダ必要デアルト思ヒマシテ、法典調査會ヨリ各地ノ商業會議所、並二有名ナル實業家二照曾シテ其意見ヲ聞キマシタ所ガ、其多数ハ発信主義ガ便利ト云フ返答デアリマシタニ依ツテ、契約ノ所ハ左様二極マツタノデアリマス、本條ヲ議スルトキニハ、未ダ其商業曾議所並二實業家ノ返答ガ揃ツテ居リマセナンダ、ガ其意向ハ発信主義ノ方デアリマシタ、ソコデ契約ノ承諾ナルモノハ、意思表示中二於テ最モ大切ナモノデアルカラ、契約ノ成立二就イテ果シテ発信主義ヲ採ルガ便利ト云フコトナラバ、一層此二意思表示ノ通則トシテ、発信圭義ニシタ方ガ宜カラウト云フ論デアリマシタ、併シ反対ノ方ノ意見デハ、契約ノ承諾ハ兎モ角、此處二置クベキ通則ハ種種ノ単独ナル意思表示ヲモ見テ規定シナケレバナラヌ、即チ各種ノ催告其他解約、取消又ハ追認ノ通知ノ如キ、単独行為ニ就イテ考ヘテ見レバ、発信主議二依ツテモ、或ハ宜シイモノモアリマスケレドモ、叉今申シタ催告トカ、解約ノ通知トカ云フモノハ、唯發シタ丈デ致力ヲ生ズルトシテハ不都合ナルモノモ多クアル、此等ノ意思表示ハ其通知ガ先方ニ達シタ時ヨリ効力ヲ生ズルコトニシタ方ガ宜イト云フ理由デ、十分議ヲ盡シタ末、此處ハ確定案ノ通リニ極マツタノデアリマシタ、併シ契約ノ處二於テハ、實際家ノ意見ヲ参酌シテ発信説二從ッタノデアリマス、即チ意思表示中ノ契約ノ申込二対スル承諾ナルモノニ就テハ、發シタトキカラ効力ヲ生ズルト云フコトニ定マツタノデアリマス、ソレデ此二箇條ヲ御対照下サルルコトガ甚ダ肝要デアラウト思ヒマス

委細了知致シマシタガ、サウスレバ九十七條ト、五百二十五條トヲ、ドチラニカ同一ノ主義ニシタ方ガ、却テ便利デハナイカト思ヒマス、斯ウ致シマスルニ就イテハ、何力他ニ差響キデモゴザイマセウカ、今一応承ッテ置キタイ

唯今申シタ通リ、意思表示ノ中ニハ種々ノモノガアリマス、契約ノ承諾ハ其中ノ最モ大切ナルモノデアルケレドモ、矢張意思表示ノ一デアル、外二種々ノ意思表示ガアリマス、而シテ其種々ノモノニ就イテ、一々考ヘテ見マストキハ發シタ丈デ効力ヲ生ズトシテハ、不都合ナモノガ随分アルト云フ理由デ、法典調査曾二於テハ、議ヲ盡シタ末、此度提出セラレタル案ノ如クニナッタノデアリマス、ソレガ詰リ総則ノ規定ト、契約ノ規定ト違ツテモ差支ナイト認メタ理由デアリマス、ソレカラ尚一ツ御参考マデニ申シテ置キマスコトハ、一旦其主義二極マツテ、此法典全体ノ規定ヲ定メタモノデアリマスニ依ッテ、即チ原則ハ受信圭義ニナッテ居リマスニ依ッテ、發シタ時ヨリ効力ヲ生ズルトシタ方ガ宜イト認メタ場合ニハ、皆ナ特二發スルト書イテアリマス、サウシテ着イタ時カラ効力ヲ生ズルトシタ方ガ宜イ場合ハ、明言ヲ要シマセヌカラ、何トモ書イテナイ、例ヘバ催告ノ如キ、叉解約ノ通知ノ如キハ、何レモ其文体ニナッテ居リマス、故二若シ本條ノ原則カ変ハルコトニナレバ所々ノ條文ヲ書替ヘネバナラヌコトニナリマス

サウシマスレバ、五百二十五條ノ方ハ、詰リ九十七條ノ方ノ取除法ト見テ宜シイコトト思ヒマスガ、尚ホ続イテ一言伺ッテ置キマスノハ、現行ノ民事訴訟法等二依リマスレバ、裁判所二住所ヲ定メナイ所ノ當事者二対シテ書類ヲ送達シマス場合、其場合ニハ郵便二托シテ居ル、郵便二托シテ居ルカラ、期限ヲ起算スルトキニハ郵便函ニ投ジタ時ヲ以テ期限起算ノ時トシタ、然ルニ此九十七條ガ法律ニナリマシタ以上ハ、其方ハ解ケテ仕舞ツテ、サウシテ裁判所ノ住所ノ地二住居ヲ定メナイモノニ対シテモ、其者ガ訴状ナリ、判決書ヲ請取リマシタト云フ証拠ヲ得ナイマデハ、期限ノ起算ヲナスコトハ出來ナイコトニナリハセヌカト、斯様二存ジマスガ、矢張サウ云フコトハサウ云フ御考デアリマスカ、ソコヲ一応承リマス

今日ハ御説ノ通リニナツテ居ルコトデアリマセウ、併シ民事訴訟法二於テ、別段ノ規定ヲ設クルコトハ少シモ民法二妨ゲナイノミナラズ、本員一己ノ説トシテハ、唯今御示シニナッタ如キ官廳ノ行爲ハ本條二言フ所ノ意思表示デナイト考ヘマスル、本條二言フ所ノ意思表示ハ、法律行爲ノ當事者タル一私人ノ意思表示ノミヲ言フモノト解シマス、官廳ノコトニ就イテハ本節ニ於テ特二一條ヲ設クル考ヘモアリマシタケレドモ、ソレハ民法ノ規定トシテハ甚ダ危険デアル、公法二渉ルコトモアルニ依ツテ、民法デハ官廳ノコトニ就イテハ、規定ヲ置カナイ方ガ宜イト云フ理由デ置カナンダノデアリマス

一寸此二節デゴザイマスガ、此二節ヲ議シマスルニ就イテハ、二節ニハモウ異議ハアリマセヌガ、一節ノ順序ノ工合デ、一節ノ総則ト云フコトニ就イテ御尋ヲシテ置キタイ、一節ノ―　全体此本編ノ順序カラ見マシタナヲバ、此一編ガ総則デアル、ソレカラニ編ガ物権デアルト、斯ウ云フ様ナ工合ニナツテ居ル、サウスルト此一節ト云フモノニ総則ト云フコトヲ書クト、順序上面白クナイ、本員ガ考ヘルニ、是ハ通則ト云フコトニシテ、全編ニ渉ルモノハ総則トシ、一部ノ法律ノ行爲二關シタモノハ通則ト直シタラドウデアラウカト思フデス、是ハ通則ト直スコトハ出來ナイト云フ御考ガアルノデスカ、一応承リタイ

ソレハ只言葉ノコトデアリマスカラ、爰デ強イテサウナツテハ困ルト云フ程ノコトハアリマセヌガ、必要ナキ限リハ用語ヲ色色ニセナイガ宜カラウト云フ考ヘデアツタノデス、総則ニモ民法全体ノ総則モアリ、叉物権ノ総則モアリ、又一物権ノ中デ、其規定ノ総則モアリ、何レモ事二大小ノ差ハアリマスケレドモ、総則ハ総則デアルニ依ツテ、言葉ヲ換ヘナイ方ガ宜カラウト云フ位ノ考ヘデアリマシタ

一節二戻ツテハ少シク悪ウゴザイマスカ

ドウスルノデスカ

之ヲ通則トスルト云フ考ヘナノデ…

ソレハ後トデ直シタラドウデスカ、後トニ総則ト云フ同ジヤウナコトガ來マスカラ、其場ニ直セバ宜カラウ

此九十六條ノ一項ニアル「強迫」ト云フノハ、当事者間ノミノ強迫デゴザイマセウカ

ソレニハ限リマセヌ、誰トモ書イテナイ以上ハ、即チ相手方ノ強迫モ、第三者ノ強迫モ含ム積リデアリマス、是ハ大抵何國ノ法律二於テモ区別ヲシナイコトニナッテ居リマス、既成法典二於テモ其主義ヲ採ツテ居ルノデアリマス

サウスルト、此九十五條ノ末段二於テ、無効ヲ主張スルコトヲ禁ジテアルノハ、無効ヲ主張スルコトノ出来ル場合モアルノデアリマセウカ

凡ソ法律行爲ガ無効デアルト云ヘバ、総テノ關係人ヨリ其無効ヲ主張スルコトガ出來ルノデアリマス、殊二本條ノ場合二於テハ表意者ガ其無効ヲ主張スルニ就イテ、通常最モ正當ノ理由ヲ有スルノデアリマス、サリナガラ表意者ニ重大ナル過失ガアッタ時、即チ先刻谷澤君カラ御話ノアリマシタ、法律ヲ知ラナンダト云フコトガ重大ノ渦失ト見ルベキヤウナ場合ニハ、表意者自ラ無効ヲ圭張スルコトガ出來テハ、取引ノ安全ヲ害スルコトニナルデアラウト思ヒマシタカラ、此但書ヲ置イタノデアリマス、則チ一ノ法律行爲ガ無効デアレバ、誰デモ其無効ヲ主張スルコトガ出來ルト云フガ、一般ノ原則デアリマス

サウスレバ、表意者以外、即チ關係シテ居ル第三者ハ、佃書ノ場合デモ無効ヲ主張スルコトガ出来ルト云フ精神ナノデゴザイマスカ

左様デアリマス

ドウデス、決ヲ採リマセウ

私ハ原案二先ヅ以テ賛成シテ置キマス、併シ一言申シテ置キタイト思ヒマスノハ、九十七條ノコトデアリマスガ、既成民法ノ第三百八條ガ即チ此九十七條二當ルト思ヒマス、然ルニ既成民法ノ三百八條二依ツテ見マスレバ、原案ノ趣意ハ…

修正デスカ

意見ヲ一寸述ベルノデ、原案ノ趣意ト参考書ノ趣意ト、中間ヲ取ッタヤウニナツテ居リマス、此点ハ余程熟考ヲ要スベキモノト信ジマスルガ、故二確定議ニ相成リマスルマデニ熟考ヲ要スルト云フ考ヘデ、先ヅ以テ賛成ハ致シテ置キマス、併シ滿場ノ諸君ガ宜シク是ハ御熟考ヲ願ヒタイト云フコトニシタイ

一寸御注意ヲシマスガ、財産編第三百八條ハ、本條ヨリモ寧ロ先刻示シマシタ第五百二十五條二當ルモノト思ヒマス、即チ財産編第三百八條ハ、契約ノ成立ニ關スル規定デアリマス、発信主義ヲ採ッタカ、受信主義ヲ採ッタカト云フコトニ就イテハ明カニ極メテハアリマセヌケレドモ、兎二角契約ノ成立二關スル規定デアル、叉外國ノ法律二於テモ、多クハ契約ノ承諾二就イテノミ極メテアル、一般ノ意思表示二就イテ規定シテアル例ハ實二少ナイ、獨逸法位ノコトデ、他ハ皆契約ノ成立二就イテ此問題ガ決セラレテアリマス、本案二於テハ総則編ヲ設ケテ、一般ノ法律行爲二關スル意思表示ノ規則ヲ定メタ以上ハ、契約ノ成立ハ、契約ノ處二於テ極メルトシテ、此ニハ一般ノ規定ヲ置クコトガ、体裁上二於テモ其宜キヲ得タルモノト考ヘマシタニ依ツテ、此規定ヲ置クコトニ致シタノデアリマス

決ヲ採リマス、第二節

原案通リ可決致シマシタ、第三節ヲ会議ニ掛ケマス

此第百十七條ノ末項二「共能力ヲ有セザリシ時ハ適用セズ」トアツテ、此無能力者ハ本條ノ取除ニナツテ居ル、然ルニ此第百二條二於テハ、代理人ハ能力者タルコトヲ要セズト規定シテアル、ソコデ第百二條ト、第百十七條ノ末項トハ、抵触シテ居ルヤウニ考ヘマスガ、其理由ヲ

ソレハ抵触シテ居ラヌ積リデアリマス、第百ニ條ニ代理人ハ能力者タルコトヲ要セズトハ、能力者デナクテモ正当ニ代理人トナルコトヲ得ル、即チ例ヘバ委任二依ツテ代理人トナツタトキハ、其権限内二於テ爲シタル行爲ハ、総テ本人二対シテ効力ヲ有スルト云フ意味デアリマス、第百十七條ノ場合二於テハ委任ハナイ、即チ代理ノ権限ガナクシテ自分ガ何某ノ代理人デアルト云ツテ契約ヲナシタ、場合デアル、此場合二於テ其代理人ト称スルモノノ責任ヲ定メタノデ、第百二條トハ少シ意味ガ違ウノデアリマス

一寸百條二就イテ御尋シマスガ「代理人ガ本人ノ爲ニスルコトヲ示サズシテ爲シタル意思表示ハ自己ノ爲メニ之ヲナシタルモノト見做ス」トアル、ソコデ代理人デアレバ代理人ノ仕事デアル、代理人デナクシテヤレバ自己ノ仕事デアルカラ、代理人ガ本人ノタメデナイト云フコトハ、ドウ云フ場合デ、ドゥ云フコトデアルカ、即チ代理人ガシタ仕事ハ己ノ仕事デアル、斯ウ云フ書キ方ハドウ云フ解釈ヲシテ宜シイカ

代理人ノ行爲ガ、本人二対シテ其効力ヲ生ズルニハ、第九十九條ノ規定二依ッテ明示、叉ハ黙示ニテ本人ノ爲メニスルコトヲ示サナケレバナラヌ、併シ本人ノ爲メニスルコトヲ示サズシテ爲シタノデアツテモ、代理人デアツテ自己ノ爲メニスル意思ナキ以上ハ、其爲シタ行爲ハ本人二対シテハ勿論、自分二対シテモ効ヲ生ジナイト云フ解釈ガ起ル恐レガアリマス、嚴格二論ズレバ、其解釈ガ正シイカト思ヒマス、併シ斯クテハ實際取引ノ安全ヲ保ツコトガ出來マセヌニ依ツテ、此規定ヲ置イタノデアリマス

今ノ質問ト同ジヤウナ意味デアリマスガ、九十九條ニモ矢張同様ナ文旨ガ見ヘル「本人ノ爲ニスルコトヲ示シテ爲シタル意思表示云々」トアル、是ハ特二本人ノタメニスルト云フコトヲ示サナケレバナラヌトシマスレバ、自ラ別ナ意味ニナリマスガ、若シ代理人ガ其権限内二於テ、代理人トシテナシタル意思表示ハト云フ単純ノ意昧デアルナラバ、本人ノタメニスルコトヲ示シテスルト云フコトヲ置ク必要ハナイヤウニ見ヘマスガ…

示スト云フ言葉ハ少シ弊ガアルカ知レマセヌガ、本案ニ於テハ示スト云フコトハ明示ト、黙示トヲ含ム意義二使ツテ居リマス、ソレ故ニ口デ述ブルニモ及バズ、又書クニモ及バズ、即チ何某ノ代理人タルコトヲ明示スルニハ及バズ、事実カラ黙示ト見エタラ宜イノデアリマス、併シ本人ノタメニスルコトヲドンナ仕方ニテモ、全ク現ハサザルトキハ、代理人ノ本義二背クコトニナルカト思ヒマス、是ハ理論上ノコトデ、実際ハ黙示デモ宜イニ依ツテ、殆ド同一ノ結果ニナルト思フ、唯理論上、何某ノ代理人デアルト云フコトヲ表セズシテ行爲ヲ爲シタ場合二代理ノ効力ガアルト云フコトハ、ドウモ従来ノ學理二幷二立法例二於テ認メテ居ラヌヤウニ考ヘマシタカラ、斯クノ如ク定メタノデス〇（高橋安爾君）尚斯ウ云フ質問ノ要旨デアル、相手方二代理人ノアルコトガ知レサヘスレバ宜シイト云フ今ノ説明デアルガ、サスレバ九十九條ノ「本人ノ爲ニスルコトヲ示シテ」ト云フコトハ代理人ガ其権限内二於テ、代理人トシテナシタル意思表示ト云フ意味ト、同一ノ代理人トシテ明カニ相手方二分ッテ居ル

代埋人トシテト書クノミデハ明カデアリマスマイ、本條ト同ジ意味ニナルカ、或ハ全ク其示スト云フコトハ必要デナイト云フ主義ヲ採ッタノデアルカ、共点ガ不明瞭デアラウト思ヒマス、本條二於テハ明示デモ黙示デモ宜イガ、兎二角示サネバナラヌト云フ主義ヲ明カニシテ、ソレガ古來一般二認メラレテ居ル所ノ學理二適フモノト思ヒマシテ、原則ヲサウ極メタノデアリマス、併ナガラ縦令示サズトモ、相手方ガ本人ノタメニスルコトヲ知ツテ居ツタ場合ハ、次ノ第百條ノ但書ニ定メテアリマシテ、矢張示シタト」同ジ結果ニナリマス、―　ソレデ実際ハ少シモ不便ハナカラウト云フ考ヘデアリマス

百十四條二「相手方ハ相當ノ期間ヲ定メ」ト云フコトガアツテ、此無能者ノ場合ニハ、一箇月以上ト規定シテアルノデゴザイマスガ、此相當ノ場合ト云フノハ、一方ノ擇ム所二依ルノデアリマスカ、随分危険ダラウト思ヒマスガ、是ハ期間ヲ定ムルト云フ必要ハナイト云フ理由ガアリマスノデスカ

是ハ種々ノ状況二依ツテ、期問ヲ一定シ難イト思ヒマス、即チ取引ノ性質二依ッテ永ク考ヘズトモ判断ノ出來ル場合モアリ、又余程込入ツテ、判断ノ難イ場合ニハ、期間ガ長クナッテハ困マル、叉距離其他ノ事情ニ依ッテモ違フコトガアリマセウ、サウ云フ譯デ此期間ヲ一定スルコトガ困難デアリマス、故二相當トシタノデアリマス、サウシテ弊害ノ無イ譯ハ、第十九條ノ無能力者ノ場合ト違ッテ、行爲ヲ追認シタモノト看做ス反対ニ追認ヲ拒絶シタモノト看做ス結果デアリマス、即チ元ト委任ハナカツタモノト見ル、故二少シ勢本人ニ害ヲ及ボスコトハアリマセヌ

先刻御尋ニナツテ居リマシタ、九十九條ノ「示ス」ト云フ字ノ意味ハ、知ラシメルト云フコトト同ジ意味二取リマシテ宜ウゴザイマスカ

左様

或ハ示スト云フ字カラ大変疑惑ガ起リ、或ハ示スト云フコトニ―　明示スルト云フ意味ガ含ミハセヌカト云フコトハ、今日ハ分ッテ居リマスガ、實際行フ場合二知ラシメテト書イテハ、何力差支ガ起リマセウカ、唯御相談トシテ伺ヒマス

ソレハ却テドウデアラウカト、思ヒマス、其譯ハ、示ストカ、表示スルトカ云フ言葉ハ、皆ナ明示黙示ヲ含ム意味デ方々二使ッテアルニ、何處ダケソレヲ避ケルコトニシテハ、却テ体裁ガ面白クナイデハアリマスマイカ

其他一体二斯ウ云フヤウナ場合ニハ、「示ス」ト云フコトニナツテ居リマスカ

左様

ソレナラバ宜イ

向フニ知レルヤウナ方法ヲ取リサヘスレバ宜イカラ…〇政府委員（富井政章君）「表シテ」ト書カウカトモ考ヘマシタケレドモ、見方二依ツテハ或ハ尚強クナラウカト思ヒマシテ避ケタノデアリマス

百三條ノ「権限ノ定ナキ代理人」ト云フコトハ、今日ノ所謂総理人ト云フヤウナモノデアリマスカ、叉ハ総埋代人ト云フコトデ、権限ガ定マツテ居ルト云フノデゴザイマスカ、其他ノ代人ヲ指シマシタノデゴザイマスカ

御見解ノ通り、漠然ト謂フ所ノ総理代人―　主トシテ適用スベキ規定デアリマス

サウスルト、今日ノ総理代人ト丸デ違ツタ意味ニナリマスカ

今日ノ総理代人ハ一切ノ事即チ、身分上ノコトマデ出來ルト云フコトニナツテ居ルヤウニ思ヒマス、併シソレハ甚ダ不都合デアラウト思ヒマス、此点ハ現行ノ慣習ヲ変ヘタコトニナリマセウ

サウナラ最モ御賛成デス―　サウナクテハナラヌト思フテ居リマシタ

本員ハ百條ハ必要ガナイモノト思ハレマスカラ、削除スベキモノト信ジマス、ソレデ政府委員ノ説明ヲ聴キマスルト、本人ノ爲メニスルコトヲ示サナイデシタ場合ニハ、其契約ガ無効ニナルト云フ恐レガアルカラ之ヲ置イタト云フノガ重モナル理由ト聴取ツテ居リマスガ、九十九條デ代理ノコトハ能ク定メテ居リマスカラ、若シ代理人ガ本人ノタメニスルト云フコトヲ示サナイデ爲シタ場合ハ、即チ當事者ノ爲シタ契約デアルカラ、百條ノヤウナ煩ハシイ明文ヲ置ク必要ハナイト思ハレマスカラ、是ハ必要ノナイモノデアルト考ヘマス、依ッテ是ハ削除スベキモノト云フ説ヲ提出シマス

但書ハ構ハヌノデスカ

但書モ要ラナイ、九十九條デ能ク綱羅シテアル

一寸木村サンニ御問申シマスガ、代理人ガ本人ノタメニ示サズシテ契約シタ契約ハ、全然無効トナルト斯ウ云フノデスカ

ソレハ本人ト本人ノ契約ニナル、代理デナイノダ、其契約…

其人ハ代理ト云フ人ニナルノデスネ

ケレドモ代理ト云フコトヲスレバ、則チ代理者ノ契約ダカラ、其契約ハ本人ガ履行シナケレバナラナイ

私ハ一寸意味ガ能ク分ラナイ、サウスルト示サズニシタトキニ、第三者ハ何デスナ、蔭二陰レテ居ル本人ト云フコトヲ知ラズニ契約シテアラウト云フノデスナ

左様

第三者ノ眼カラ見レバ隠レテ居ル人デスナ、ソレトノ契約ト、法律ガ見做シテ仕舞フノデスカ

サウジヤナイ、代理人ガ本人トナル、斯ウ云フノデスナ

サウデス、代理人ト名ハ書シテ居ッテモ、代理人デナク本人トナルノデス

ソレガ代理人ト此第百條ノ極メ方デスナ、即チ本條ノ極メ方デスナ、ソレ故ニ此法テ宜イジヤナイデスカ

是ハ贅文ニナリマス、代理人ト云フ者ハ九十九條デ極メテアルカラ、代理人ト云フモノヲ示サナカツタナレバ、本人ノ契約ト見ルト云フ條文デアル、ソレハサウ云フコトガナクトモ無効ニハナラヌ

成程ソレデハ代理人ヲ本人ニシテ仕舞フノデスナ、此條文ガナクテモ、九十條ノ解釈デ出テ來ルト云フノデスナ、兎二角百條ガナクテモ、百條ノ意味ハサウ云フコトハ、此九十九條ノ解釈上カラ出テ来ルト云フノデアルカ、ソレカラ叉斯云フ様ナ規定ヲ設ケテ、斯云フコトヲ成立セシメヌト云フノデアルカ

尚更メテ言ヒマス、百條ノ契約ハ、代理人ガ本人ノタメニスルト云フコトヲ言ハズシテ契約ヲシタ場合ガ、即チ代理人ガ此責ニ任ズルト云フ規定ニナッテ居ル、サウスルト、此注意ハ即チ代理人ヲ本人ト見ル契約デアルカラ、本人ト見ル契約ナラバ、他二規定ガアルカラ、是ハ要ラヌト云フノデス

ハハア、外二規定ガアル、外ノ處デ分ルト云フノデスナ

サウデス

第百八條二就イテ御尋致シマスガ、百八條ノ但書―　此但書ニ「但債務ノ履行二付テハ此限二在ラス」ト云フコトガゴザリマス、然ルニ其本文ハ何人ト雖モ同一ノ法律行爲二付キ其相手方ノ代理人ト爲ルコトガ出來ナケレバ、叉當事者双方ノ代理人トナルコトモ出來ナイト云フコトニナツテ居リマス、是ハ勿論ノコトト思ヒマス、然ルニ此但書ガゴザイマス以上ハ、債務二付テハ双方ノ代理人トナルコトガ出來ル、例ヲ挙ゲテ見レバ、債務ノ相殺ノ場合ノ如キ、或ハ土地買戻事件二就イテハ、買戻人ト売戻人トノ場合ノ如キ、共ニ其代理人ト爲ルコトガ出來ヤウト思ヒマス、サウシテ見タナラバ、此等ノ例ガ澤山ゴザイマスル故ニ、既二但書二依ツテ本條ノ精神ヲ害スルト云フヤウナコトニナラヌデハナイカ、即チ御問申シマスル要領ハ唯今ノ疑ヒノコトト、此但書ヲ削除シマスレバ、如何ナル害ガアルカト云フコトニ就イテ御意見ヲ承リタイ

但書ヲ取レバ害ト云フ程ノモノハアリマスマイケレドモ、許シテモ差支ナイコトガ出來ナイコトニナリマス、此但書ハ唯債務ノ履行丈ヲ定メテアルノデ、今御説ノ買戻ノ約款杯ニハ關係アリマセヌ、即チ買戻ノ約款アルト否ト二拘ハラズ、売買契約デアレバ物ヲ引渡ストカ、代金ヲ受取ルトカ、サウ云フドウセ義務トシテシナケレバナラヌコト丈ヲ云フノデアリマスカラ、許シテ少シモ差支ナイコトデアラウト思ヒマス

百八條ノ但書ヲ削除致シタク存ジマス、是ハ諸君二於カレマシテモ大ナル御反対ガナカラウト思ヒマス、若シ之ヲ存シテ置キマス場合ニハ、實二非常ナル弊害ガアル、勿論多少ノ利益ハアルニ相違ナイ、即チ今日ノ場合ノ如キニ於キマシテハ、独リ代理人ト云フ者ハ、辯護士ノミニ限ツテ居リマセヌデ、此後見人、其他種々ナル代理人ガアリマスカラ、サウ云フ者ノ債務ノ履行ニ就イテハ、双方ノ代理人ヲ兼併スルト云フコトニナリマスレバ、随分奸者ガ共問ニ這入ツテ、非常ナル弊害ヲ生ズルコトガアラウト思ヒマス、勿論土地買戻條件付ノ契約履行ノ如キニ就キマシテハ、直チニ債務ト云フコトニ相成ラヌデゴザイマセウガ、売戻買戻ト云フ條件ガ確定シテ居レバ、則チ債務ト云フモノガ確定シテ、唯其数額二就イテ争ノアル場合ノ如キモ、此條項ガゴザイマシタナレバ、所謂双方ノ代理人ヲ兼子テ之ヲ履行スルコトガ出來ルト云フコトニナル、況ンヤ債務ノ相殺ノ如キ、即チ相殺スルト云フガ如キ場合ニハ、澤山弊害ガアラウト私ハ思フ、勿論政府委員モ削除ニナツテモ大ナル弊害ハナイト云フヤウナ御考ノヤウニ、唯今拝聴致シマシタガ、サウシマスレバ、益々是等ノ明文ハ削除致シ、普通世間デ言フガ如ク、相方ノ代理人ト云フ者ニハ、何人ト雖モナラレナイト云フコトガはツきり致シテ居ツタナラバ、此社會百般ノ紛擾ヲ解クト云フコト等二就イテハ、大変利益デハナイカ、併シ非常ナル害ガアルト云フ反対ガゴザイマスレバ、私ハ飽マデモ之ヲ維持シヤウト云フノデハアリマセヌ、唯無クトモ宜イト云フナラバ、今日ノ三百代言社會ノ現状ヲ見テ、今日ノ総テノ有様ヲ見マスレバ、削除シマシタ方ガ却テ宜イデハナイカト思フノデアリマス

分リ切タ御尋ノヤウデアリマスガ、第百十一條ノ一第二項二、代理人ガ禁治産、叉ハ破産ノ場合ニハ消滅スルトアリマスガ、無論斯ウ云フコトト思ヒマスガ、サウスルト百二條ノ「代理人ハ能力者タルコトヲ要セス」トアリマスガ、是ハ何カ制限ガナク、幼年者デモ、破産者デモ、誰デモ代理ガ出來ルト云フコトニ考ヘラレルデスガ、チツトモ制限ナシニ、モウ第百十一條ノ第二項ノ反対デ、制限ハ要ラナイト云フコトニ詰リナルヤウデスガ、ソレデチツトモ差支ハ實際ナイモノデスカ

第百十一條ハ、初メ能力者デアッタ者ガ禁治産者ニナッタヤウナ場合ヲ見タノデ、第百二條ハ、初メカラ無能力者デアル者ニデモ、委任シテ構ハヌ、例ヘバ比者ハ未ダ十五歳デアル、ケレドモ、余程智能ガ発達シテ居ルニ依ツテ、代理人トシテ心配ハナイト云フ考ヘデアレバ、代理人トスルコトガ出來テ、少シモ差支ハナイ、又此者ハ禁治産者デアル、併ナカラ精神ノ錯乱スルコトハ、屡々ナクシテ、多クノ時間ニハ精神ガ確カデアルカラ、代理人トシテ差支ナイ、縦シヤ全ク精神ガ錯乱シテ居ル時二行爲ヲ爲シテモ、其行爲ハ第百一條二俵ツテ無効デアリマスニ依ッテ、尚更心配ハナイ、委任者ノ意思ガ果シテサウデアレバ、代理人ト云フモノハ全ク委任者ノ手足器械デハナイトシテモ、無能カデアッテ少シモ害ガナイコトデ、必ズシモ能力者デナケレバナラヌト云フコトニナッテハ、却テ不便デアラウト思ツテ、第百二條ノ規定ヲ置イタノデアリマス、併シ百十一條ノ場合ハ、初メ能力者デアッタ者ガ、禁治産者ニナッタ場合デ、ソレデモ矢張代理人トシテ法律行爲ガ出來ルトシテ置イテハ、ソレコソ甚ダ危険デアル、本人ノ意思二悖ルコトガ多カラウト思フ、夫故二一般ノ規定トシテハ代理権ガ解ケルトシタ方ガ宜カラウ、ト思ヒマシタ

唯今百十一條ノコトニ就イテ御尋ニナリマシタカラ、一寸本員モ尋ネテ置キタイト思ヒマス、此百十一條ノ代理権消滅ノ場合デゴザイマス、此禁治産ト云フコトヲ掲ゲラレテ、準禁治産者ト云フコトハ掲ゲテゴザイマセヌガ、是ハ此禁治産ト云フタナラバ、準禁治産モ此中二這入ルト云ラ御考カラ、サウナツテ居ルノデアリマスカ、若シ這入ッテ居ラヌト云フコトデアレバ、本員ハ矢張準禁治産モ入レタ方ガ宜カラウト云フ考へデアリマス、別二入レタ所ガ御差支ガナカラウト思ヒマス、ソレカラ叉百十四條デゴザイマス、此百十四條ニ「相當ノ期間ヲ定メ共期間内二追認ヲ爲スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ本人二催告スルコトヲ得」トアリマスガ、此相當ノ期間ト云フヤウナコトハ、本員ハ成ルベク避ケタイ、巳ムヲ得ヌトカ、相當ノ期間ト云フコトハ避ケテ、成ルベク何箇月間トシタイト思ヒマス、前ニ本員ガ取消サウト云ツタ十九條モ、一箇月ト云フ期間ニナッテ居ル、斯ウ云フヤウナ工合二一定シテ、ズツト方針ヲ同ジヤウニシタイト思フ、此相當ノ期間ト云フコトヲ定メラレタ趣意ハ、何力深イ仔細ガアルノデアリマスカ、若シ深イ仔細ガナイコトデアレバ、一箇月ノ期間内二追認ヲナスヤ否ヤヲ確答セヨト云フ十九條ノ…

谷澤君ハアノ時居ナカツタカネ、期間ノコトハ既二説明ニナッテ居ル、相當ノ理由ガアル、種々ノ期間二就イテハ、短イモノモアリ、長イモノモアルカラ、定メラレナイト云フコトデアツタ

準禁治産ノコトニ就イテ御答致シマスガ、禁治産ト云ヘバ準禁治産ハ含マナイノデアリマス、是ハ本案中何レノ處モ皆サウナツテ居リマス、而シテ代理人ガ準禁治産ノ宣告ヲ受ケタ場合二、代理権ガ解ケナイト致シマシタ譯ハ、準禁治産者ナルモノハ、精神ガ錯乱シタト云フ程ノモノデナクシテ、盲者トカ、聾者トカ、浪費者トカ、云フモノデアル、ソレ位ノモノハ代理人トシテ置イタ方ガ宜シカラウ、當然代理権ガ解ケルトシテハ、實際代理ヲ爲スコトノ出來ルモノガ、突然其資格ヲ失ッテ仕舞フコトニナツテ、却テ不便デアラウト考ヘマス、若シ委任者ノ考ヘガ、今申シタ様ナ者ニ委任シ置イテハ危険ト云フコトデアレバ、委任ノ取消ト云フコトハ何時デモ出來ル、先キノ委任契約ノ處二規定シテアリマスカラ、却テ一般ノ規定トシテハ、代理権ノ消滅セナイコトニシタ方ガ宜カラウト云フ考ヘデアリマス

分ッテ居ルコトデゴザイマスガ、私ノ調ベノ粗漏ナノカ知レマセヌガ、百十一條ニ就イテ御尋致シマス、此委任消滅ノ處二「此他委任二因ル代理権ハ委任ノ終了二因リテ消滅ス」トゴザイマスガ、法定ノ代理人ト云フモノガ、代理人ヲ置ク必要ガナクナル場合ガ段々出來テキハセヌカト思フ、其場合ニハ法定代理人ハ、其法定代理人ヲ置ク必要ノ消滅シタトキハ、代理権ノ消滅スルト云フコトハ、此二書カヌデモ宜イト云フ御考デアリマスカ

本節ハ一般ノ規則ヲ掲ゲタノデアリマス、法定代理人モ種々アリマシテ、其各種ノ法定代理人二就イテ、叉ソレソレ代理権消滅ノ場合ヲ定メネバナルマイト思ヒマス、即チ父ノ代理権デアルトカ、後見人ノ代理権デアルトカ、皆ソレソレ特別ナル消滅ノ理由ガアリマセウト思ヒマス、併シソレハ各種ノ法定代理人二依ツテ違ヒマスカラ、親族編中、各其場所二於テ規定スル積リデゴザイマス

私ハ修正説ヲ出シマス、第百二條ヲ「代理人ハ成年者タルコトヲ要セス」ト云フコトニ修正致シマス、此修正致シタイト云フモノハ、唯今櫻井君カラ政府委員二御尋シマシタ時分ニ、百十一條ノ本人ノ承諾ナラバ、死亡、禁治産ノモノデモ、破産ノ宣告ヲ受ケタモノデモ、宜シイカト云フ御尋デアリマシタガ、斯ノ如キハ縦令此本人ガ承諾シタ所ガ、頗ル危瞼ナモノデアリマスカラ、此禁治産者、若クハ破産者モ、矢張能力者タルコトヲ要セズト云フコトハ、唯今政府委員ノ御答二依ツテ明カナル次第デアリマス、斯ノ如キコトヲ置キマスルト甚ダ危瞼デアリマスカラ、此代理人ト云フモノハ、成年者タルコトヲ要セズ、未成年者デモ此事ヲ辨ズレバ宜イ、其外破産ノ宣告ヲ受ケタモノ、禁治産者ニハ許サナイト云フコトニシタイ

モウ一ツ私ハ政府委員二問イタウゴザイマスガ、此矢張百十一條デゴザイマスガ、此法定ノ代理人ノ代理権ガ消滅スル場合ハ、方々デ原因ガ異ナルカラ、定メナケレバナラヌカラ、サウスル積リダト云フ御説明デゴザイマシタガ、アレハ御仕舞ヒニ「委任二因ル代理権ハ委任ノ修了二因リテ消滅ス」ト書イテゴザイマスガ、矢張アア云フヤウナ意味デ、法定ニ因ル代理権ハ、法定代理ヲ定メタ原因ガ消滅シタニ就イテ、矢張代理権モ消滅スルト云フコトヲ、此二一括シテ定メテ置イタナラバ、方々デ定メル必要ガナイト思ヒマスカラ、此二一括シテ定レバ、如何ナル害ガ出テ來マスカ、ソレヲ一寸御尋致シマス

害ト云フコトハアリマスマイガ、余程規定ガ煩雑ニナラウト思ヒマス

一寸御尋シマス、マダ詰リ分ラヌノデスガ、此継続行爲ナドヲナス代理権ノ委任ヲ取消スヤウナ場合ハ、ドウ云フ處デ規定シテアリマスカ

委任ノ取消ノコトハ、第六百五十條二規定シテアリマス

此百十一條ノ唯今言ヒマシタノハ、ドウモ本員ハ修正シテ置ク方ガ宜イト思ヒマスカラ動議ヲ起シマス、此禁治産ト云フコトハ、叉解クコトガ出來ルカラ、之二入レナイデモ宜イト云フコトデアリマスケレドモ、殆ド保佐入ヲ付ケニヤナラヌヤウナモノデアル、是ハ當然此准禁治産ト云フコトマデモ言渡ス場合ニナッテ居ル者二対シテ、サウシテ矢張解クト解カヌトノコトモ自由デアリマスケレドモ、之二入レヌ、代理権ノ消滅シナイト云フコトハ穏カデナイ、故二矢張前ニ云ヒマシタ通リ、准禁治産ノ場合デモ、矢張禁治産ト同ジク代理権消滅ト云フコトガ相當ト思ヒマス

サウスルト、禁治産、準禁治産叉ハトナルンデスナ

サウデス、ソレカラ百十四條ハ色々ノコトガアルト云フコトデ、相當ノ期間ト云フコトニナツタト云フコトデアリマスケレドモ、本員ハ一箇月以上ノ期間二追認ヲ爲スヤ否ヤ、一箇月以上ト云フ字ヲ入レテ、サウシテ相當ノ期間ヲ定メ「其」ト云フ字ヲ取リタイ、デ、成程種々色々ナコトガアリマセウケレドモ、獨乙ノ確力民法ニモニ週間ト云フコトニナッテ居ル、ソレデ少シモ差支ガナイ、ソレカラ叉前ニ本員ガ、此消サウト云フ十九條、是等モ種々色々ノコトガアリマス、是モ一箇月以上ノ期間内二云々ト云フコトガアル、サウシテ見レバ何モ差支アルマイト思フ、全体法文二相当ノ期間トカ何トカ云フコトヲ書イテ置イタナラバ、大変錯雑ナ争ヒヲ生ジヤウト思フ、一箇月以上ト云フコトハ何モ差支ナイト云フコトハ、獨逸ノ民法二、二週間ト云フコトガ實際施行シテ少シモ差支ナイヤウニ思フテ居リマス、故二少シモ差支ナカラウト思フ、故二此ニツノ動議ヲ起シマス

第百二條ハチットモ制隈ガ要ラナイノデアリマスガ、政府委員ノ御辯明ニナッタル、共御辯明中二、假令狂人デモ或ル期間ハ狂人デナイコトモアルカラ、其場合ヲ見込ンデ代理者ニスルト云フコトダガ、果シテサウ云フコトデアルナラバ、随分悪事上カブ、或場合ニハ訳ノ分ラナイモノヲ代理者ニ選ンデ、向フノ或一方ノ者ニハ途方モナイ妨害ヲ與ヘルヤウナ弊害モ生ジハセヌカト思フノデスガ、ドウシテモソンナコトガアツテモ構ハヌ、制限ガ要ラナイト云フ御解釈デスカ

禁治産者ガ屡々発狂シテ、其発狂シタ時二取引ヲ爲シテ、相手方二害ヲ加ヘタト云フ場合ニハ、其相手方ハ法律行爲ノ有効無効ノ如何二拘ラズ、其者二対シテ別二権利ヲ回復スル方法ヲ持ツデアリマセウ、民法上ノ關係トシテハ、其者ガ発狂シテ居ラナイ時ニ爲シタ行爲デアレバ、無論有効トシテ差支ナカラウト思ヒマス、本案二於テハ禁治産者ト雖モ、其精神ノ錯乱シテ居ル時ハ僅カデ、實際精神ノ確カナ時ガ多イト云フコトモアリ得ルヤウニナツテ居リマス、偶々其精神ガ全ク錯乱シテ居ル場合二取引ヲ爲シタナラバ、ソレハ全然無効デアル、如何トナレバ意思ノ有無トハ、本人二付テ見ル主義ヲ取ラズシテ、第百一條ニ於テ代理人ニ付テ見ルト云フ主義ヲ採ツテアリマスルニ依ツテ、行爲ヲ爲シタル時二代理人ノ精神ガ錯乱シテ居ッタト云フコトデアレバ、法律上何ノ結果モ生ジナイ、サウ云フ譯デアリマスカラ本人ノ爲メニハ危険ハナイ、從ツテ代理ヲ委任スルコトヲ許シテ置イテモ差支ナカラウト考ヘマス

此百十八條ノ代理人ガ、代理権ナクシテ契約ヲ結ブノデアルト云フコトヲ、第三者ガ知ッテ居ル場合ノコトヲ規定シテアッテ、其場合ニ前五條ノ規定ヲ準用スト書イテアリマスガ、其前五條ノ規定ヲ見マスト、百十七條ノ如キハ、代理人ガ代理権ナクシテシタ時ハ、相手方ノ選擇二從ヒ、之二対シテ履行叉ハ損害賠償ノ責二任ゼシムルト云フコトニナツテ居リマスガ、然ル處ガ始メヨリ相手方ノ代理人何デモナイト云フ事柄ヲバ、第三者ガ知ッテ居リナガラ結ンデ置イテ、其代理人二損害賠償ノ訴訟ヲ起シテ來ルト云フコトハ、余リ残酷ノヤウニ思ヒマスガ、是ハドンナモノデアリマスカ

唯今御述ニナツタヤウナ結果ニハナリマセヌ、第百十七條第一項ノ規定バカリガアレバ其通リニナリマセウケレドモ、第百十七條第二項二、相手方ガ代理権ナキコトヲ知リタルトキハ、前項ノ規定ヲ適用セズト云フコトガアリマスカラ、契約ノ場合二モ単独行爲ノ場合ニモ、サウ云フ事實ガアレバ、代理人二責ハナイコトニナリマス

サウスルト、前五條ノ規定ヲ準用スルト云フコトガアルニモ拘ラズ、十七條丈ハ全然使ハヌコトニナルノデスカ

矢張適用スルノデス、前五條ノ中ニハ、百十七條ノニ項ガ這入ツテ居ル、御述ニナツタヤウナ場合ニハ、其規定二依ッテ責任ガナイコトニナリマス

十七條ノニ項ノ如キ場合ハ、十八條ヲ見テ居ルノデスカラ、私ノ考へ二依ッテ、十八條デハ此十六條、十五條、十四條、十三條、是丈ヲ適用スルト云フノハ宜ウゴザイマスガ、兎ニ角十七條ヲ適用スルト云フ事柄ハ私ニハサツパリ分リマセヌカラ―

第百十八條ハ、守屋サンノ仰ツシヤッタ場合ノ如キコトヲ規定シタノデハアリマセヌ、叉ハ代理権ヲ争ハザル時トアツテ、代理権ナキコトヲ知リツツヤツタト云フノハ上二這入リマセウガ、サウデナクシテ、争ノナイト云フ時ニモ十八條ノ適用ヲ受ケル、サウ云フ場合ニハ、第百十七條ノ第一項ガ全然當嵌マル

決ヲ採リマセウ

先刻カラ御論ノアル百二條デゴザイマス、百二條ニ代理人ハ能力者タルヲ要セナイト云フ、此百二條トソレカラ第百條ト、第百十七條ノ第二項ト、斯ウ三ッ合セル、サウスルト能力ヲ有セザリシトキニハ、第百十七條ノ場合デハ、能力ヲ有セナイ時ニハ詰リ其契約ガ役ニ立タナイコトニナルト、斯ウナル、百二條ノ方デハ能カヲ選マヌト云フコトニナツテ居ル、ソレカラ第百條ノ方二依ルト意思ノ―　本人ノタメニスル意思ノ表示ノナイ場合ニハ、其者ガ契約ヲシタモノト爲スト云フコトニナツテ居リマスガ、斯ウ云フ場合ニハドウナリマスカ、若シ丁稚ヲ以テ金ヲ取リニヤツタ所ガ、向フデハ別ニソコノ家ノ丁稚デアルカラ金ヲ渡シタ、所ガ、其丁稚ハ金ヲ取ツテ主人二渡サズシテ逃ゲテ仕舞ツタト云フ場合ハドウ云フ風二、ドコニ適用スルノデスカ、丁稚デモ構ハヌコトニナルノデアリマスカ、所ガ、百十七條ノ場合二依ッテ見マスルト、代理人トシテ契約ヲ爲シタ者ハ、代理権ヲ証明スルコトガ出來ヌ、唯行ツテ取ツテ來タ丈ダカラ証明シタノデモアルマイ、サウスレバ第二項二依ツテ、金ヲ渡シタト云フコトガ無効ニナルト云フ場合ガ生ジハシマセヌカ、色々危険ノ恐レガアリマスカラ、一応御尋致シマス

第百十七條ハ代理人ノ責任ヲ定メタノデアリマス、代理人ト取引ヲ爲シタ相手方二対シテ、其實際代理人デハナイガ、何某ノ代理人デアルト称シタ者ノ責任ヲ定メタモノデアル、唯今御述ニナツタ丁稚云々ノ場合ハ、第百十七條ノ翅用ヲ受ケナイノデアリマス、丁稚ハ通常代理人デアラウト思ヒマス、ソレハ第百二條二依ッテ、丁稚ガ未成年者デアツテモ、矢張代理人トナリマスニ依ッテ、先ヅ百二條ノ適用ヲ受ケル、ソレカラ其丁稚ガ主人ノタメニスルコトヲ示シテ爲シタナラバ、無論第九十九條二依ツテ、其法律行爲ハ主人二対シテ直接二効力ヲ生ジマス、叉其丁稚ガ主人ノ爲メニスルコトヲ示サズシテ爲シタトキハ、第百條ノ但書二依ツテ、矢張本人ガ責任ヲ持ツコトニナリマス

サウスルト、其丁稚カラ言ッテ見マスルト、百十七條ノニ項ノ制裁ヲ受ケマセヌカ

今申シタ如ク第百十七條ハ、代理人二非ザルニ、代理人デアルト名乗ッタ者ノ責任ヲ極メタノデアリマス、唯今ノ丁稚ノ場合ハ、代理人デアルノデス

ナイ場合ハドウデスカ、アルカナイカ不明瞭ナトキ

ナイト假定致シマシテモ、第二項ノ規定二依ツテ責任ハナイト云フコトニナル

丁稚ガ委託ヲ受ケタノデナイト云フコトニナレバ、金ヲ出シタモノハ、渡シタ者ノ損ニナルト云フ訳デスナ

サウデス

決ヲ採リマセウカ、色々修正説ガ出テ居リマスケレドモ、賛成者ガナイヤウデスナ、因ツテ原案通リ可決ヲ致シマス、第四節ヲ會議二掛ケマス

僅カナ文字ノコトデアリマスガ、一言修正書ノ意見ヲ申述べマス、百二十五條ノ第二項デアル、二項二請求ト云フコトガアル、此請求ト云フ友字ハ一言スルト、恰モ権利者ガ義務者二向ッテ、其義務ヲ履行セヨト云フ請求ノ如クニ見ユルノデアリマス、然レドモ法意ハ決シテサウデナクシテ、却テ其反対デ、義務者ガ権利者二向ツテ其義務ノ履行ヲ致シタイト云フ申出二他ナラヌコトト思フノデアル、然ルニ斯ノ如キ交字デゴザリマシテハ、今ノ如キドウモ迷ヒヲ避ケルコトガ出來ナイモノト思フノデゴザリマス

御中言デスガ、唯今誤解ガアルヤウデアリマスカラ、一寸ソレヲ述べタ上デ―　履行ノ請求ト云フノハ、アナタガ間違ヘテ解スル恐ガアルト云フ方ガ、私共ノ正シイトスル所デアリマシテ、履行ヲ債権者ノ方カラ請求スル方ノ場合ヲ申スノデ、ドウ云フコトカト言ヘバ、雙務契約二於テハ御承知ノ通リ、雙方相互二債権者ニナッテ居リマスニ依ッテ、一方ガ自分ノ債権ノ履行ヲ相手方二請求スルト、今度ハ矢張自分ノ方ノ債務モ履行ヲシナケレバナラヌヤウニナツテ、取消スコトガ出來ナクナルト云フコトヲ申スノデアリマスカラ、御解釈ノ通リ…

義務ノ履行ト申スコトガアツテ、其次ニ強制執行ト云フコトガアリマスカラ、第ニノ履行ノ請求ト云フコトガアレバ、モウ六ノ強制執行ハナクモ宜クハゴザリマセヌカ

執行ト云フモノハ必ズシモ請求ト云フモノニハナラヌト思フ、公正証書ナドガアリマスレバ直グニ強制執行ガ出來マスガ、サウデナク、請求ト云フモノハ、倒ヘバ或物ヲ渡セト言ツテ当人二催促ヲスル二止マリマスカラ…

此百十九條ノ無効ノ行爲ハ、追認ニ因リテ其効力ヲ生ゼズトゴザリマス、取消シ得可キ行爲ハ固ヨリ追認ニ依ツテ効力ヲ生ズルコトガ当然デアリマスガ、無効ノ行爲ハ始メヨリ無効デアルカラ、追認二依ツテ効力ヲ生ズマイト思ヒマス、分リ切ッタコトデアルガ、茲ニ掲ゲタ趣意ハドウ云フノデゴザリマスカ

誠二御尤ナコトデアリマシテ、法律ヲ心得テ居ル人ハ無効ト取消ノ区別ハ知ッテ居ルベキ筈デ、ソレヲ苟モ知ッテ居ルナラバ、唯今仰ツシヤッタコトハ知ツテ居ル筈デアル、併ナガラ余程分リ悪イコトト見エテ、随分歐羅巴ノ著書抔ヲ見マシテモ、立派ナ學者ガ、原則トシテハサウデアルト云フコトヲ認メテ居リナガラ、適用ニ至ツテ往々解釈ヲ間違ッテ居ルモノガアリマス、知レ切ツタモノデアルガ、茲二書イタ方ガ宜カラウト云フノガ一ツノ理由、今一ッハ、但書ヲ加ヘルタメニ、先ヅ本則ヲ上ニ出スノガ必要ニナッタ、但書ノ意味合ハ大抵御分リト思ヒマスガ、是ハ詰リ、此規定ガアルガタメニ、今ノ法典ニアル自然義務ト云フ規定ガ要ラナイ、今ノ法典デハ、無効ナル法律行爲ニ因ツテモ自然義務ト云フモノガ生ズルノ場合ガアル、其自然義務ハ追認スルコトガ出来ルト云フコトヲバ申シテ居リマス、本案デハ自然義務ト云フモノハ認メマセヌケレドモ、矢張其場合二追認ヲ爲セバ、爲シタ行爲ハ固ヨリ有効デアル、追認トシテハ無効デアルガ、併シ新タナ行爲トシテ有効デアルト云フコトヲ茲二申ス必要ガアッタノデ、旁々本條ヲ置キマシタノデアリマス

一寸、百十九條ノコトニ就イテ少シ御尋ヲシテ置キタイ、此百十九條二就キマシテハ「無効ナルコトヲ知リテ追認ヲ爲シタルトキハ新ナル行爲ヲ爲シタルモノト看做ス」是ハ先ヅドウシテ追認ノ原則デゴザリマスカ、此條ト―　此條ハ十分是デ正當ナコトト思ヒマス、此條ト前同二於テ尋ネマシタ十九條―　十九條トヲ比較シマスルト、ドウモ一貫シナイ、十九條ハ大変嚴デアル、サウシテ十九條ハ先ヅ相當ナコトデアル、此寛嚴ガアツテ、一貫ヲシナイヤウニ本員ハ思フデス、デ、此但書二依レバ、無効ナルコトヲ知ツテ追認ヲセヌケレバナラヌ、然ルニ十九條ト云フモノニナルト、詰リ唯催告ヲサヘスレバ、無効ナル契約デアルカ、ナイカト云フコトヲ知ラズトモ、必ズ追認シタモノト云フコトニナラヌケレバナラヌ結果ニナル、ソレデモ大変其寛嚴ガアルヤウニ思ヒマスデ、益々本員ハ此百十九條ノアルノヲ見テ、十九條ヲ廃サヌケレバナラヌジヤラウカト云フ考ヘデアリマスガ、起草委員ハ少シモ此十九條―　百十九條トハ寛嚴ハナイモノデアル、矢張百十九條ハ唯便利ノミデアッテ、少シモ寛嚴ヲ來サヌモノデアルト云フノ御主意デアリマスカ、共邊ヲ詳細ニ一ッ伺ツテ置キタイ

十九條ノ場合ハ、無効ノ場合デハナイノデ、アレハ取消シ得ベキ場合デアツテ、成程今ノ法典ニハ無効ト云フ文字ガ、極ク曖昧二使フテアリマス、時トシテハ全ク無効不成立ノ場合ニモ當嵌メ、時トシテハ取消シ得ベキ場合ニモ當嵌マルヤウニナッテ居ッテ、疑ヒガ起ッテ來マスカラ、今度無効ト云フモノハ、本當二讀ンデ字ノ如ク、効ノナイ、不成立ノモノヲ言ヒ、サウシテ今ハ成立シテ居ルガ、後トカラ取消スコトガ出來ルト云フモノハ、単二取消シ得ベシト云フコトニ改メマシタ、第十九條ノ方ハ取消シ得ベキ場合デアルト云フコトハ、第一章第二節ノ全文ヲ御覽ニナルト、取消ト云フコトデアツテ、決シテ無効ト云フコトハ書イテナイ、ソレデ自ラ御了解ニナルコトト思ヒマス

チヨイト御尋ヲ致シマスガ、此百二十四條ノ第二項ニ就イテデゴザリマス「禁治産者力能力ヲ回復シタル後其行爲ヲ了知シタルトキハ其了知シタル後ニ非サレハ追認ヲ爲スコトヲ得ス」トゴザリマス、是ハ一般民法ニ於テ、多クアルコトデゴザリマスルカ、ドウカ我々素人ハさッばり存シマセヌガ、兎二角、茲ニ疑ヒガゴザリマスモノハ、其了知シタル後デナケレバ追認ヲナスコトガ出來ナイト云フ、此了知シタル後デナケレバト云フコトハ、或ハ無用ノ文字デハアルマイカ、何トナレハ追認ト云フモノヲ爲スナラバ、此行爲ト云フモノハ業ニ既ニ了知ヲシタレバコソ追認ヲナスノデアル、故ニ茲ニ追認アレバ、茲ニ其行為ノ了知卜云フコトハ伴ツテ居ルモノト見ナケレバナラヌノデアル、然ルニ追認ト云フコトヲ書イテアリナガラ、尚了知シタル後デナケレバ云々ト云フコトハ、少シク蛇足ト云フヤウナモノデハゴザリマスマイカ、本員ニハ分リマセヌノデ、願クハ御説明ヲ煩ハシタウゴザリマス

御尤ナ御問ヒデアリマス、此箇條丈ヲ見マスルト、如何ニモ是ハ贅文デアリマセウ、吾々モドウカモウ少シ贅文ラシクナイヤウニ書キタイト思ヒマシタケレドモ、叉外ノ書キヤウニシテハ、意味ガ違ツテ参ッタリ、ドウモ困リマスノデ、斯ウ云フコトニ書キマシタ、是ハ實ハ茲デハ贅文デアリマスケレドモ、百二十五條、並ニ百二十六條ノ「追認ヲ爲スコトヲ得ル時ヨリ」ト云フ言葉ガアリマス、是ガ即チ此百二十四條ト響イテ参リマシテ、百二十四條ノ禁治産ノ場合二就イテ申シマスルト、印チ其禁治産者ガ能カヲ回復シタル後、其行爲ヲ知了シタル時カラ、百二十五條、叉ハ百二十六條ノ規定ガ嵌マルノデ、其事ヲ能ク分カルヤウニシタイト思ヒマスルガタメニ、百二十四條ニハ信トニ譯ノ分ラヌ、必要デモナイヤウナコトヲ書クノガ、却テ必要トナツテ参ツタノデゴザリマス

別ニ此節ニハ異議ハアリマセヌ

一寸御俟チ下サイ、百二十六條デ、此五年トニ十年ト云フ期間ハ、頗ル長キニ失スルヤウニ思ハレマスルガ、他ノ例モアリマセウデ、五年トニ十箇年ト二致シタ、是レデ丁度宜カラウト云フ理由ガゴザリマスカ、ソレヲ伺ヒタイ

例ノ數ノコトデゴザイマスカラ、是非五年デナケレバナラヌ、二十年デナケレバナラヌト云フコトハ申上ゲ兼ネマスルガ、成程時トシテハ少シ長過ギルヤウナ嫌モアリマセウケレドモ、叉余リ短クテハ未成年者、其他ノ無能力者ノ保護ガ充分デナイト云フコトデ、斯ウ云フコトニナツテ居リマス、此五年ノ例ハ、外國ノ例ヲ申シ上ゲマスルト、先ヅ最モ短イ方デアリマス、十年ト云フノガ寧ロ多イノデアリマス、ソレカラ叉此二十年ト云フ方モ、是ハ外國デハ三十年ノ方ガ多イノデ、本案デハ十年倹約ヲ致シマシタ、ソレデ先ヅ随分是レデせつかちニナツテ居ル積リナンデゴザリマスガ、別シテ此終リノニ十年ノ方ハ、唯二十年ト言ヒ放シニスルト長イヤウデアリマスケレドモ、是ハ行爲ノ時ヨリデアリマスルカラ、無能力者ガ知ラナイデモニ十年立テバ、モウイカヌト云フノデアリマス、ソレデドウモ其位ヒニナツテ居リマセヌト云フト、不都合デアラウト考ヘマスノデアリマス

一寸伺ヒマスガ、唯今ノ何ハ、無論斯ウ解釈シテ宜カラウト思ヒマスガ、一寸此解釈ハ例ヘバ、未丁年者ガ三歳ノ時分二契約ヲ結ブ、サウスルト丁度丁年二達シタ時ハ十七年デアリマス、サウスルト其行爲ノ起ツタ時分ニハ、三歳ノ時二出來タノデアルカラ、是ハ丁年二達シテカラ、三年間コソ此行爲ヲ行フコトガ出來ヌ、取消…追認ヲヤルコトガ出來ヌト云フコトニ看做シテ宜シウゴザリマスカ

先ヅ今ノ御例ノ三歳ノ小兒杯ガ致シマシタ、ソレハ取消デナグシテ、無効ノ場合デゴザリマス、ソレハ幾ラ立ッテモ無効デアリマス

ソレハ例ガ悪イカ知リマセヌガ、瘋癲デモ同ジゴトデス、夫アル者ニシテモ

左様デス、瘋癲モ矢張意思ガナカッタト云フコトデアリマスレバ、同ジコトデアリマスガ、法律行爲ヲ爲ストキニ、意思ガアツタト云フ証明ガアツタトキノコトデゴザイマセウ、ソレカラ就中妻ナドガ爲シタ場合ハ、無論御解釈ノ通デアリマス

詰リドッチデモ、短イ方二從フト云フコトデゴザイマスカ

左様デゴザイマス

異議ゴザイマセヌ

原案ノ通リ可決致シマシタ、第五節ヲ會議二掛ケマス

此期限ノコトデゴザイマスガ、此本法ニハ恩恵期限ト云フモノヲ少シモ置カレヌヤウニ思フ、此コトハ全体相互ノ間二成立シタモノデアルカラ、裁判所ガ是二關係シナイ方ガ宜カラウト云フ主義カラシテ、恩恵期限ト云フモノハ置カレヌヤウニ思ヒマスガ、全躰此今回ノ法案ノ修正案ハ、成ル丈裁判官ノ判定二任スト云フヤウナ趣意デ、原則ヲ掲ゲラレタヤウニ思フ、ソレデ日本デハ近來随分恩恵期限ト云フモノヲ興ヘヌケレバ、契約ノ主意二依ッテ、或ハ家ノ立退キトカ、其他ノコトニ就イテ、随分必要ナコトガ今日ハ澤山アルヤウニ思ヒマス、ソレハ民法ノ他ノ特別法ナリニ、其コトヲ極ケラレレバ、最早決シテ是デ差支ナイト云フ考ヘデアリマスレバ宜カラウケレドモ、本員ナドノ考ヘル所デハ、随分裁判官二恩恵期限ヲ興ヘルコトヲ設ケネバナラヌ適度デアラウト思フデ、然ルニ殊更二此本修正案二就イテハ、外ニハ裁判官ノ判定二任セルコトトシテ、ほんノ原則ヲ挙ゲテ置イテ、此恩恵期限二於テハ、殊更二與ヘナイト云フコトニヤラレタト云フノハ、或ハ實際上差支ヲ生ジハセヌカト憂フルデゴザイマスガ、其コトハ断ジテ左様ナ縣念ニハ及バナイ、ト云フコトデゴザイマスカ

既成法典ニハ、成程御質問ノ如ク、恩恵期限ト云フモノハ定メテゴザイマス、然ルニ本案二於テ恩恵期限卜申シマスルモノハ、通則トシテハ認メナイト云フ主義ヲ採リマシタ所以ハ、恩悪期限ト云フモノハ、一度認メマシタトキニ於テハ、人民各自ノ取引ト云フモノハ、誠二不確實ナモノニナリマシテ、或ル定ツタ期限二必ズ履行致サウト申シテ約束ヲ致シタコトガ、當テニナラヌト云フコトニナツテ参リマス、言葉ヲ換エテ之ヲ申セバ、信用モ確實デナイ、叉自由契約ノ範囲モ、人民ノ間ニハ存ジナイト云フコトガ第一ノ理由ト致シマシテ、恩恵期限ト云フモノハ通則ト致シマシテ認メヌト云フコトニナツテ居リマス、併シ一ニノ巳ムヲ得ザル場合二於テハ、本案二於テモ此恩恵期限ト云フコトヲ認メル場合ガナイデモゴザイマセヌガ、ソレハ誠二例外デゴザイマス、加之一度ビ恩恵期限ト云フモノヲ認メマシタトキニハ、債権者、叉債務者二、余程幸不幸ガ同ジ事柄二付テモ出來ルト云フコトヲ憂ヘマシタ、其譯ハ固ヨリ恩恵期限ト申シマスモノハ、裁判官ノ見込二就イテ、此位ハ待ツテモ宜カラウト云フヤウナ風二、事情二依ツテ長短ヲ極メルノデゴザリマスルカラ、同ジ事柄二付テモ、其裁判官ノ考へ二因ツテ、余程期限ノ長短ト云フモノガ、場合場合二因ツテ違フト云フ憂へモゴザイマスル、ソレ故二本案二於キマシテハ、先刻御述べニナリマシタ如ク、原則ヲ設ケテ、其原則ノ範囲内ニ於テハ、固ヨリ人事ハ種々様々ノ有様二於テ表ハレテ参リマスカラ、裁判官二余程斟酌ト云フコトヲ許シテアルノデゴザリマスルガ、此場合二於キマシテハ、其原則ノ範囲内二裁判官二許シテ置クト云フヤウナ風ナコトハ出來マセヌ、恩恵期限ト云ヘハ、裁判官ガ相當ト見込ンダト云フコトデアリマシテ、先刻カラ谷澤君ガ成ルベク確實ナ範囲ヲ置カウト、他ノ期限二付テ御論ジニナツタ如ク、サウ云フコトノ確實ナル範囲内ヲ設ケルト云フコトハ、ドウモ、出來マセヌ、ソレデ、是ハ裁判官二人民ガ各自二爲スベキコトヲ任スト云フノハ、如何ニモ不穏當ナコトト考ヘマス、相互ノ取引二於キマシテハ、何月何日二斯ウ云フコトヲ致サウト云フコトヲ極メマスノハ、人民ノ勝手デアツテ、而シテサウ一度極メタ以上ハ、其定マッタ期限二之ヲ履行スルト云フコトハ、勿論相當ナコトデアツテ、其人民各自ガ互二爲スベキコトヲ裁判所ノ役所へ持ッテ、往ツテ初メカラ極メタコトヲ変ヘルト云フヤウナ風ノコトハ、ドウモ不都合デアラウト思ヒマスガ一ッノ理由、又一方ニアツテハ、本案二於テ、人民各自ノ取引ハ、及ブベキ丈ノ自由ノ範囲ヲ與へ、叉各自ガ己レノ権利ヲ保護スルコトハ、成ルベク自分デヤル方二範囲ヲ廣ク致シタイト云フ精神デアリマシテ、契約其他ノ法律行爲二、期限ヲ附スル抔ト云フコトハ、銘々自分ガ取締ツテヤルト云フコトガ宜カラウ、斯ウ云フ考ヘデ、恩恵期限ト云フモノハ、通則トシテハ置カヌコトニ致シタノデアリマス

唯今通則二置カレヌコトハ分ツテ居リマスガ、随分此事ハ必要ナコトデアラウト思ヒマスデ、熟考シタト思ヒマスガ、尚唯今例外トシテ―　例外二置イタモノガアルト云フコトデアリマシタガ、ソレハドウ云フヤウナ分ガ凡ソ例外ニ置カレマシタカ、其事ガ御分リニナツタラ一応伺ヒタイ

是ハ一ツハ留置権ノ處ニアリマス、左様是モ一ツノ例デ、二百九十九條デゴザリマス、二百九十九條ヲ御覽下サイマシ、例ヘバ留置権ヲ行フテ居リマスルモノガ、共留置物ヲ改頁シヤウト思ヒ、ソレニ費用ヲ出シマシテ、其留置致シテ居リマスルモノガ善クナツテ居ッタノヲ、ソレヲ相手方ガ善クナツタ儘デ直二取還シテ、ソレガマルデ自分ノ利益二ナツテ仕舞フト云フコトハ、如何ニモ不當ナコトデアリマスカラ、ソレ故ニ同條二於テハ、塘加額丈ハ償ハセルコトニナッテ居リマスル、占有其他ノ部ニモアリマス、ソレ故二斯ウ云フ場合二於キマシテ、留置物ハ還ス、還スケレドモ、之ハ改艮シテアルカラ、増加額丈直チニ償へ、斯ウ云フコトヲ云ヘルヤウニナルト、無闇ニ金ヲ掛ケテ置イテ、實際取戻セヌ様ニナツテハ困ル、之ハ還スコトハ還スケレドモ、自分ノ考ヘデ金ヲ費シタノデアルカラ、直グ金ヲ返セト云フコトハ少シ無理デアリマス、此場合二於テ、相當ノ期限ヲ與ヘルト云フコトモ致シマシタ、占有ノ處ニモ、買戻シノ處ニモアリマス、使用貸借賃貸借ノ處ニモ同様ノ規定ガアリマス、斯ノ如ク特別ノ場合丈二、猶予期限ヲ殊更二置クト云フコトニ致シテアリマス

一寸百二十九條デ御尋申シマスガ、詰リ意味ハ分ツタ積リデアルノデスガ、間違ツタカ知レヌト云フコトト、ソレカラ少シク紛ラハシクハナイカト云フ点二就イテ御尋致シマス、ソレハ例ヲ申スト、條件ノ成否、未定ノ間二於ケル一例ヲ挙ゲテ申シマスレバ、子供ガアツテ、其子供ガニ十歳ノ年齢マデ生キテ居ッタナラバ、自分ノ持ツテ居ル土地ヲ遣ラウト云フヤウナ場合デアッテ、停止條件ノ方デアリマスカ、ソレデニ十歳二達スルマデノ間ハ、則チ未定ノ間二於ケルト云フコトデアリマス、其未定ノ間二於テハ、當事者ノ権利義務ト云フモノハ、一般ノ規定ニ從ッテ處分スルコトガ出來ルト云フト、動モスレバ、期ウ云フ間違ヒガ起リハセヌカ知ラヌ、其遣ラウト云フタ土地ト云フモノヲ、處分スルコトガ出來ルト云フカラ、二十歳二達シヤウトシタ時二、其前二自分ノ遣ラウト云フ土地ヲ、勝手次第二處分シテモ宜イト云フヤウナ考ヘガ起リハシナイカ、恐ラクハ此旨意ト云フモノハ、当事者間ニアツテ處分スルコトガ出來ル、当事者間デハ遣ツテモ宜シイト云フ御旨意デアラウト思ヒマスガ、此法文ニ依ツテ見ルト、マダ其條件二達セザル間ハ、自分ノモノデアルカラ、處分シテモ勝手次第デアルト云フヤウナ意味二加釈シハシナイカト云フヤウナ疑ヒガアリマスカラ、此精神ハ唯今伺ヒマシタヤウナ精神デアリマセウカ、此期限ハドウ云フモノデゴザイマセウカ

是ハ唯今一寸御解釈ニナリマシタ方デナクシテ、條件附ノ権利ハ條件附トシテ他人二譲渡スコトガ出來ルト云フ意味デアリマスカラ、少シモ危瞼ハナイコトト考ヘマス、唯今ノ場合、例ヘバ弐拾歳迄活キテ居ツタラト云フ條件ヲ附シタ場合二於テ、尚弐拾歳二達セザル間二、之ヲ處分シテハ大愛二不都合ト仰セラレルノハ、マダ弐拾歳二達セザル前二、純然タル所有権ヲ他入二遣ツテ仕舞ツテハ、是ハ成程不都合デアリマスガ、二拾歳二達シタナラバ、得ラルルト云フ條件ノ附イタ権利ヲ與ヘルノデアリマスカラ、少シモ危険ハナイ積リデアリマス

唯今ノ御説明二、ドウモ誠二讀ミ悪イヤウニ思フノデスガ、其條件ハ此儘ニシテ置イテ、其通リニ保存シテ處分ヲシテ往クト云フ方ニハ、ドコノ点カラサウ讀メマセウカ、大ニ此條二就イテ、唯今誤ッタ解釈ヲ致シタヤウナ恐レガアリハスマイカト思フノデアリマスガ、是レデ判然直グ讀メマセウカ、唯今御説明ニナツタ通リニ…

是ハ判然、讀メルカ讀メナイカハ、却テ書イタ者ヨリハ、書カヌ者ニ能ク御判断ヲ願ハヌト分リマセヌ、私抔ハ初メカラ分ツテ居ルノデアリマスカヲ、斯ウ云フ考ヘデ實ハ書キマシタノデゴザイマス、條件未定ノ間二於ケル當事者ノ権利、例ヘバ今ノニ十歳未滿ノ者ノ権利、其権利ハニ十歳ニ達スレバ所有権ヲ得ラルルト云フ権利ハ、一般ノ規定二從ヒ譲渡セルモノデアルナラバ處分シ、共権利ヲ他人二売ルナリ、叉ハ他人ニ遣ルナリスルコトガ出來叉二十歳ニ達セザル中ニ死ニマスレバ、其相続人ガ條件附権利丈ヲ相続致シ―、純然タル権利ハ相続シマセヌガ、―　叉ハ或場合二於テ登記スルトカ出來ルト云フヤウナ意味デ書イタノデアリマス

私ハ此百三十二條ト、百三十三條二就イテ御問ヲ致シタウゴザリマスガ、不法ノ條件ヲ附ケルトカ、不能ノ條件ヲ附ケルトカ云フヤウナコトハ、一体條件ノミナラズ、一般ノ契約トシテ不法ノ事柄ヤ、若クハ不能ノ事柄ト云フモノハ、根本ヨリ成立シナイモノデゴザリマスカラ、私ノ考へニハ、第一茲二書ク必要ガナイダラウト思ヒマス、ソレカラ若シ書ク必要ガアルナラバ、不法ノ事ヲ條件トシテ居ルトカ、不能ノ事柄ヲ條件トシテ居ルト云フヤウナコトハ、一体サウ云フモノハ根本カラ往ケヌト云フコトハ、初メノ方ノ総則トカ、何トカニ書ク必要ガアレバ書クベシ、私ハ一体百三十二條、百三十三條トモ無クシテ、極ク分明ノコトト思ヒマスガ、此二條ヲ置ク必要ハ、ドウ云フモノデアリマスカ○政府委員（穗積陳重君）一般ノ法律行爲ノ通則二、斯ノ如キ規定ヲ置カウカト云フ考ヘモゴザリマシタガ、ソレハアナタノ御述ニナリマシタヤウナ理由デ、之ヲ書キマスルノハ如何ニモ野暮ナ話デアリマスルカラ、其所へ之ヲ置クコトハ必要デナイト考ヘマシタガ、條件ノ場合二於キマシテハ、之ヲ置ク必要ヲ見マシタノデゴザリマス、ソレハ其條件丈ガ不法ナノデゴザリマス、例ヘバ或物ヲ他人二遣ラウト云フコトハ、ソレハ少シモ不法デハナイガ、人ヲ殺シタナラバ金ヲ遣ラウト云フコトニナリマスルト、法律行爲ノ根本ハ不法デアリマセヌガ、條件丈ガ不法デアル、夫故二金ヲ遣ラウト云フ根本ノ取引ガ成立チ得ルヤ否ヤト云フ問題ガ起ル、併シナガラ條件ガ不法デアルナラバ、根本マデ無効ニナルヤ否ヤト云フコトハ、双方共二考ヘベキ点デアリマシテ、現二御承知ノ通リ、色々ノ學説ガアルヤウデアリマス、殊二不法行爲ヲナサザルヲ以テ條件トスルコトニ就イテハ、立法上モ余程議論ガアリマシテ、法典調査會二於キマシテモ随分議論ノアツタコトデアリマス、汝ガ人ヲ殺サザレバ金ヲヤラウ、―　盜ミヲシナケレバ金ヲヤラウト云フコトハ、或点カラ見マスルト云フト大変二犯罪ヲ豫防スルニ宜イ、是ハ成立ツ方ガ宜イト云ヒ、他ノ人ハ、いやサウスルト、適法行爲ヲ金デ買フヤウニナルカラ、そんな卑劣ナコトハイケナイト云フヤウナ双方共二立派二議論ガ立チ得ルコトデアリマスカラ、此條件ガ不法ダト云フコトニ就キマシテハ、ドウモ明文ガナケラネバ何トモ決スルコトガ出來ナイコトニナラウト存ジマス、不能二於キマシテモ略同ジ理由デゴザイマス、條件丈ガ不能デアル、天二昇ッタラ金ヲヤラウト云フ、斯ウ云フコトハ、勿論天ニ昇ルト云フ條件ガ馬鹿ナ事デアルカラ、其條件ハ無イモノト見ル方ガ宜イト思フ人モアル、叉ソレヲ條件トシタノデアルカラ、根本ノ金ヲヤラウト云フコトマデモ無イト云フ解釈ヲスル人モアル、故二之二關スル規定ハ諸國ノ法典ニモアリマスルシ、若シ明文ガ無イト云フト、非常ナ議論ノ基トナルノデアラウト思ヒマシテ之ヲ置クコトニ致シマシタ

此三十三條ノ如キハ宜イト致シテ、三十二條ノ如キハ、唯今不法ノ行爲ヲナサザルモノハ或ハ條件トシテ有効ニスルヤ否ヤト云フ論ガアツタト云フ、唯今ノ御説明デアリマシタガ、ドウモ吾々ハ三十二條二定メテアル所ノ事二就テハ、少シモ必要ヲ感ゼズ、少シモ斯ウ云フモノハ要ラヌト思ヒマスガ、然シソレハ政府委員ノ御説トシテ承ツテ置キマス

三十七條ノニ項ハ何ンデスカ、故意ノ場合バカリヲ指シタノデアツテ、天災其他ノ事ハ指サナイノデスカ

是ハ、勿論意アツテ爲シマシタ場合ノコトデ…

天災ナドノ場合ニハ、債務者ガ此利益ヲ失ハナイノデスカ、例ヘバ澤山ナ土地ヲ抵當トシテ、天災デナクナツタト云フ場含デモ、此期限ノ利益ハ得テ往カレルノデスカ

左様、其積リデス

少シ待ッテ下サイ、ドウテシモ百二十九條ハ此儘デハイケナイ、モウ少シ待ツテ貰ヒタイ、今ドウモ宜イ思ヒ付キガアリマセヌガ…

ソレハ確定ノ時ニシタラドウデス

サウ致シマセウ

然ラバ第五節ハ原案通リ確定致シマシタ、是ヨリ第五章結末マデ、全体ヲ會議二掛ケマス

一寸御尋ヲ致シマスガ、第百四十二條デゴザイマス、此第百四十二條二依リマスルト云フト、期間ノ末日ガ休日ニ当ツタ時ハ、其日二取引ヲナサナイ慣習ガアル場合二限ツテ、其翌日ヲ以テ期間ノ滿了トセラレテアルノデゴザイマスガ、即チココデハ取引ヲナサナイ慣習ヲ採用致シテ居ルノデゴザイマス、既ニ此慣習ヲ採用スル位デゴザイマスレバ、此慣習ヨリカモ尚効力ノ強イ法定ト一ノ―　法定上ト云フト少シク語弊ガアリマセウガ、兎二角法令ヲ以テ定メテ居ル、其取引日ノコトハ採用セナケレバナラナイニ、之ヲ茲ニ取除イテアルト云フコトハドウ云フ譯デアルカ、現ニ銀行條例ナドニ依ルト云フト、即チ取引二及バナイ日ノ如キハ省イテアルノデアル、然ルニ茲二慣習ヲ採リナガラ、法令ヲ以テ定マツテ居ル、其取引ヲセナイ日ヲ取除ケテアルト云フノハドウ云フ理由ノ存スルモノデアルカ、一応此事ヲ御質ヲ致シマス

此慣習ト申シマスルノハ、唯今仰セニナルヤウナ場合ヲ除ク積リデハナカツタノデアリマス、サウ云フ場合ハ法令二依ッテ規定サレテアルカラ無論取引ハ出來ナイカラ、取引ヲ爲サザル慣習ガ茲二確力二極ッテ居ル場合ト考ヘマス、ソレデ百四十二條二含ンデ居ル積リデアリマス

御説明二承ッタラ直グニ分ルコトデアラウト思ヒマスガ、私ニハ分リマセヌカラ一寸御聴キ申シマス、百四十條デゴザイマスガ、百四十條ノ但書ハドウ云フ意味デゴザイマスカ、御説明ヲ請ヒマス必要ヲモ併セテ承ツテ置キタイ

是ハ其必要ノ方カラ申上ゲタ方ガ容易デコザイマスカラ、サウ致シマス、最モ頻繁ナル場合ガニツアラウト思ヒマス、一ッハ人ノ年齢ヲ起算スル時二於テハ、丁度零時二生レナイトハ限ラレナイカラ、其場合ニハ初日カラ計算ヲスルノデ、モウ一ッ頻繁ノ場合ヲ申シマスト、初メノ期限ガアツテ、其期限ヲ終ッテ後チ幾日、或ハ幾月トカ、前ノ期限ガ終ツテカラ三箇年トカ、二箇月トカ、十日トカ云フコトガアル、此場合ニハ共初ノ期限ヲ計算スルニハ、爰二規定シテアル、即チ其百四十條二依リマシテモ、ソレカラ次ノ百四十一條二依リマシテモ、端シタノ日ハ出來ナイ、初日ハ計算シナイ、正シク言ヘバ翌日ノ零時カラ計算スル、百四十一條二依ッテ、末日ノ終了ヲ以テ期間ノ滿了トシマスル、末日ノ午後十二時二終リマスカラ、ソレニ直グくつついテ、共後尚ネ何年トカ、何十年トカ申スト、初日ダカラ計算シナイト云ヘバ、間二一日空ノ日ガ出來マス

此百四十一條ノ第二項デアリマスガ、第二項ハ期間ノ―　「末日ノ取引時間ノ終了ヲ以テ期間ノ滿了トス」トアッテ、時間ノ限ラレタト云フコトハ余程危険ノ場台ガアラウト思ヒマスガ、斯ウ云フ條ヲ是非必要トシテ存ジナケレバナラヌト云フノハドウ云フコトデゴザイマセウカ、ドウシテモ存シテ置カナケレバナラヌデスカ

左様二心得マシタノデ、先刻小西サンノ例ニモ出マシタ銀行ノ如キ場合二於キマシテ、銀行ガモウ締メテ仕舞ツテアッテ、役人ガ皆外二往ツテ居ルトカ、帰ツテ仕舞ッタトカ云フ場合、或ハ店ガ締マッテカラ金ナラ金ヲ持ッテ往ツテ、今日持ツテ往ッタノダカラマダ遅クハナイ、向フデ居ナイノハ向フガ悪ルイノデアルト云ッテ、留守居ノ者二受取ラセルト云フヤウナノハ困ルデアラウ、此處二特二法定ト云フコトヲ入レタノハ、サウ云フ場合ヲ主トシテ認メタカラ―　慣習ヨリ法定ノ方ヲ主トシテ先キニ認メテ書イタノデアリマシテ、サウ云フ場合ニモ午後十二時マデハ宜イト云フコトニナリマスト大変困ルデアラウト考ヘテ、斯様二致シマシタ、商法ニハもつと廣クナツテ居リマスノデ、是ハ狡メマシタ位デアリマス

唯今ノ御設明デ見マスレバ、此箇條ガアルガタメニ却ッテ迷惑ヲ來タスコトガ多クハナイカト思フ、ソレデ詰リ期限ノ滿了ヨリ云フコトハ、其終リ―　末日ノ終了ヲ以テ滿了ト云フコトニナツテ居レバ余程便利ガアル、今ノヤウニ銀行ノ四時マデナラバ四時マデニ金ヲ返サナケレバナラナイ云フト、四時十分ニ往ツテモ期限ガ過ギテ仕舞ツタト云フノデ、罰金ヲ取ルト云フヤウナコトガアレバ大変二迷惑ヲスル、元來法律ト云フモノハ、義務者ヲ保護スルト云フコトモアラウト思ヒマスカラ、期間ノコトナドハ成ルベクハ裕ニシテ置イテ、若シ時間外二持ツテ往ツテ都合ノ好イモノハ宜イガ、僅力時間ガ切レタト云フノデ以テ、則チ此契約ガ或ハ破レタトカ、或ハ罰金ヲ附スルトカ言フト、非常二迷戚ナコトデアルト思ヒマスカラ、唯今ノ御説明位ノコトナラバ、第二項ハ無クトモ出來ルモノナラバ早ク持ツテ往ク、若シ時間ガ小々遅レタ所ガ、其日二持ツテ往ッタト云フコトヲ証明セラレタナラ別二差支ハナイト思ヒマスカラ、私ハ第二項ヲ削除シテ宜イト存ジマス

サウスルト、夜ノ十二時二叩キ起シテ持ツテ往クト云フノデスカ

翌日持ツテ往ク、証明スレバ宜シイ

私ハ先キニ百四十二條二就イテ御尋シマシタガ、之二就イテ御説明ガゴザイマシテ、御説明ハ了承ヲ致シタノデアル、乃チ御説明二依レバ、慣習卜云フ中ニハ彼ノ銀行條例二定メテアルガ如キ、法定ノ取引ヲ爲サナイ日モ亦籠ツテ居ルト云フコトデゴザイマス、併ナガラ熟考ヲ致シマスルニ、ドウモ慣習ノ中へ、法定ノ中二籠ッテ居ルト云フコトハ、ドウモ一般二通ジナイコトデアルト思フ、法定上ノ云々ト云フコトト、慣習上ノ云々ト云フコトハ別ニナツテ居ツテ、一般ノ法理上カラモ用エラレテ居ルコトデゴザイマスカラ、ドウシテモ御説明ノ如クニ包含シテ居ルモノナラバ、明カニ示シテ置クガ宜カラウト思フ、殊二百四十一條ノ第二項二於テモ、法定叉ハ慣習ノ取引如何ト云フコトガアツテ、慣習ト云フモノト、法定ト云フモノトハ別ニナッテ居ルノデアル、故二其隣リタル百四十條ニ於テ、其慣習ノ中へ法定ト云フコトハ這入ツテ居ラナイト云フコトハドウモ一般ニ向ツテ言ヒ悪イモノト思ヒマス、故二私ハ御説明ノ如キ趣意デゴザリマスナラバ、明力二文字ヲ現ハシテ置キタイト云フ趣意カラシテ、第百四十二條中ニ「其日二取引ヲ爲サザル」ト云フ下へ「法定叉ハ」ト云フ四字ヲ挿入致シテ以テ、此意味ヲ明力二致シテ置カウト思フノデゴザイマス

小西君二一寸伺ヒタイノデアリマスガ「其日二取引ヲ爲サザル法定叉ハ習慣アル場合二限リ」ト斯ウ云フコトニ御修正ニナル御意見ノヤウデアッテ、サウ云フ場合二法定ト云フコトハドウ云フ場合二嵌リマスカ

唯今ノ御答ヲシテ置キマス、唯今法定叉ハ慣習ト云フコトノ御問ノヤウニ考ヘマスガ、サウデスカ

私ノハ法定叉ハト云フ三字ヲ加ヘルト云フガ、併シ大祭日ニモ、日曜日ニモ遣レト云フヤウナコトハ、他日法律二於テ定メラルベキコトモナシ、現在サウ云フモノガドコラニアルカ…是ハ小西君ニ問フタノデス

ソレハ現在銀行條例ナドノ如キ、是レ是レノ休日ノ時二ハ取引ヲナサナイト云フコトガ書イテアルト思フノデアリマス、是ガ則チ法定ト云フモノニ当ルコトト信ジマス、叉將來二於テサウ云フゴトガ出來ナイトモ限ラヌト思ヒマスカラ、其場合ハ屹度アラウト思フノデゴザイマス

サウスルト前ノ百四十一條ノ法定、慣習ト云フノハ、慣習丈デハ往カヌノデスカ

實ハ初メハ慣習トノミ書イテ置キマシテ、是モ包含サセル積リデアリマシタガ、此場合日本デハ、慣習上ノ取引時間ト云フモノモ、極ッタモノハ大分アリハシマセウガ、法定デ取引時間ノ極ツテ居ル場合ガアルデアラウ、サウ云フ場合二此適用ガ最モ必要デアルカラ、ソレヲ表ハシテ置キタイト云フコトデ書イタ、併シ慣習トアツテモ、百四十二條ニ於ケルガ如ク、法定ノ場合モ含ンデ居ルト思ヒマスカラシテ…

唯小西君ノハ、一ハ法定、叉ハ慣習トナツテ居り、一ハ慣習トノミナツテ居ルカラ、ドツチカラスルガ宜イト云フノデス、他ニモ影響スルノデアルカラ、法定ト云フ字ハ可笑イガ、法令ト書ケバ分ル

私ハ小西君ヲ賛成シマス、第百四十二條ノ場合ハ、第百四十條ノ第二項ヲ以テ律スルコトハ出來ナイ、既二百四十一條二於テ時間ノ点二就イテハ、其第二項二於テ「法定叉ハ慣習ノ取引時間アルトキハ云々」ト規定シテアル、其次ノ百四十二條ト云フモノハ、時間ノコトデハナク、日ノ方ノ規定デアル、日ノ方ノコトニ就キマシテハ、此大祭日トカ、或ハ日曜トカ、其他ノ休日二当ツタトキハドウスルト云フコトヲ、法律二定メタ場合ヲ此二掲ゲテアリマセヌ、サウスルト立法上甚ダ其躰ヲ得ヌノミナラズ、法定ノ取引―　法定ノ或ハ休日トカ、法令ヲ以テ定メテアル場合二於テハ、頗ル時日二間違ヒヲ起スベキ恐レガアリマスカラ、ソレ故二小西君ノ御説ノ如ク「法定叉ハ」ト云フ字ヲ入レテ、其法文ヲ分明ニシテ置ク必要ガアラウト思ヒマス

唯今ノ御説ハ御尤ノヤウデアリマスカラ、サウ云フ文字ノ這入ルコトニ反対ハ致シマセヌガ、法定又ハ慣習ト云フト、慣習ヲ取ルト、法定アル場合トナル、少シ可笑シイ

法令トナレバ宜シイジヤナイカ

可笑シイケレバ、善良ノ文字ヲ採択シテ宜シイカ「取引ヲ爲サザル法定叉ハ」トナルノデスヨ

法定ノ慣習ト云フ字ハ可笑シト名詞デナイ、慣習ト云フ字ハ名詞ニナルガ

私ハ原案デ宜イト思ヒマスガ、ト云フモノハ、此百四十二條ハ詰リ日ノコトヲ云フタコトデ、其日ガ休暇日デアレバト云フコトニナリマスガ、若シ休暇日デアルカラ、其翌日ノ時間ガ銀行デアレバ三時限ト云フ時間ガアルカラ、其場合ノ時間ヲ指ストキハ、百四十一條ノ時間ヲ用井テ宜イ場合デアリマスカラ、法定デ以テ時間ヲ定メテ置クコトハアルケレドモ、日ヲ定メテ置クコトハナイカラ法定ト云フ文字ヲ入レルト、尚可笑クナリハシナイカト思ヒマス

一寸政府委員二御尋シマスガ、唯今百四十二條二法定ト云フ字ヲ入レテモ差支ナイト云フヤウナコトデアリマスガ、全躰法定ト云フコトデ、法定デ日ヲ定メタコトガアレバ、或ハ其日ガ休日デアレバ翌日ヲ以テスル、起算スルト云フコトハ法令デ定ツテ居ル、其上二持ッテ往ツテ、翌日ニ起算スルト云フノハニ重ニナルト思ヒマスガ、法定ト云フコトハ慣習ト違フカラ、ソンナ不完全ナコトハナイト思ヒマスカラ、ソレ故是等ヲ入レルノハ蛇足デアラウト思ヒマス、本案ハ二重ニシナクテモ宜シイト思ヒマス

私共ハ賛成シタノデハアリマセヌ

先キニ述べタ修正ハ、熟考ノ上修正文ヲ改メマシタ、即チ「期間ノ末日力大祭日、日曜日其他ノ休日二當タルトキハ」トアル、其下ヲ「法令叉ハ慣習ニ依リ其日二取引ヲ爲サザル場合ニ限リ期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス」ト致シマス、更ニ讀メバ「第四十二條期間ノ末日ガ大祭日、日曜日其他ノ休日ニ當タルトキハ法令叉ハ慣習ニ依リ其日ニ取引ヲ爲サザル場合二限り期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス」斯ノ如キ修正デアリマス

私ハ法定ノ休日ト云フコトガ分リマセヌガ、大祭日、日曜日ヲ除ク外其他法定ノ休日ハ何ノ…

イヤ、サウデナイ、休日二當タルトキデモ其日ニスル、サウ云フ慣習ガアルトキハト云フ…

法定ノ休日ハ、何ンデアルカト云フコトデス

前二法定ト云フ字ガ百四十一條ニアツテ、後トニ法定ガナイカラ、可笑シイト云フ論ガ起ツテ居ル

ソレナラ何ニモ入ラヌ、原案賛成

是ハ原案デ宜シカラウト思フデス、成程慣習ノ外二、或法律二於テ休日ハ取引ヲ爲サナイト云フコトガ規定シテアルコトハ、或ハアルカモ知レナイケレドモ、ソレハ取引ヲ爲サナイト云フコトハ、法律ノ規定ガ習慣ニナツテ、取引ヲ爲サナイト云フコトニナリマスカラ、何モ差支ナイ

サウナラバ、百四十一條ノ法定ト云フコトモ、要ラヌジヤナイカ―　斯ウ云フコトモ起ル

斯ウヤッテハドウデスカ、慣習ト云フ字ハ抜キニシテ、法定トカ慣習トカ云フコトハ言ハズニ、百四十二條ハ「期間ノ末日力大祭日、日曜日其他ノ休日二當リ其日二取引ヲ爲サザル場合二限リ期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス」斯ウ書イタラドウデス、サウスルト双方含ンデ仕舞フ、一々書カナクテモ宜シイ、左モナケレバ、此通リデハ可笑シイ

其他ノ休日ハ、法律ノ定メタモノニナリハシマセヌカ

讀ンデ見給へ、サウ云フ意味ジヤナイ、休日二當ツテ出來ナイト云フノハ、皆ナ休日ヲ云フノデス、休日ニハ取引ヲシナイト云フ慣習ガアルナラバ、翌日ニスルノデアッテ、慣習ガナケレバ、縦令日曜日デアラウガ何デアラウガ、取引ヲスルノデアル、サウ云フヤウニ見エル―　読ンデ見給へ

サウデアルカラ、此所ハ此儘デハ可笑シイ

銀行條例ニハ、日曜日ハ休ミト書イテアルケレドモ、慣習トハ見ナイ、サウスルト矢張其日二取引ヲスルモノダト斯ウナル

ソコデ銀行へ行クト、銀行ハ休ミデアルカラ、期間ヲ滿了シテ権利ヲ失フテ仕舞フコトガ出來ルデスカラ、ドウシテモ此儘デハ私ハ措ケヌト思フ「當リ其日二取引ヲ爲サザル場合二限リ期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス」ト書クト一切含ムト思フ

慣習ノ方ハ宜イガ、前ノ四十一條ニハ法定ト慣習ト区別シテアル、後トノ方ニハ、慣習ト書イテアルガ法律デヤッテアルト云フヤツガ、遣入ッテ居ラナイヤウニ見ユルト云フ疑ヒガ生ズル、斯ウ云フトキニハ、法律デ定メタノト、慣習デ定メタノトハ斯ウデアル、併ナカラ日ノ方ハ慣習丈デ定メテアツテ、法律ノ方ハドウスルノデアルカト云フ疑ヒガ起ル、故二是ハ何力入レルトカ、取ッテ仕舞フトカスル方ガ能ク分カル

原文通リデハ、僕ハ絶体二反対デス

政府委員ノ方デハ、小西君ノヤウニシテ害ハナイヤウデスガ…

小西君ノヤウニナリマシテモ、害ハナイト思ヒマス

政府委員二問ヒマスケレドモ、法律デ今日新タニ定メタ法定ノ休日ノアルモノハ…

小西君―　言ツテ御覽ナサイ、モウ一遍、小西君ノガ宜カリサウニ思フ

修正案ノ通リニナリマシテモ異議ハアリマセヌガ、交章ノコトデアリマス、是ハ政府委員ヲ代表シテ申スノデハアリマセヌガ、私ノ希望スル所ハ強テ変ヘルト云フコトデアレバ、唯今ノ文章ヨリモ「法冷ノ規定叉ハ慣習アル場合二限リ」ト云フ如クニ改ツタ方ガ宜カラウト思ヒマス、「慣習二依リ」ト云フ如キ書方ハ、本案ノ中ニハ一モ例ガアリマセヌ

今ノ政府委員ノ説ハ一個ノ説デアリマスガ、ソレデハ取引ヲ爲サザル法令ノ規定ト云フコトハ、可笑クナリハシマセヌカト存ジマス、私ハ矢張小西君ノガ、一番穏カト思ヒマス

斯ウ云フノデスナ「期間ノ末日力大祭日、日曜日其他ノ休日二當リタルトキハ法令叉ハ慣習二因リ其日二取引ヲ爲サザル場合ニ限リ期間ハ其翌日ヲ以テ滿了ス」ト斯ウナル

私ハドウモ原案デ宜イト思ヒマスルケレドモ、種々サウ云フ御説モアル以上ハ、寧ロ今ノヤウナ六ケ敷イ修正ヨリモ、百四十一條ノ方デ法定叉ハト云フ字ヲ削除シテ仕舞ッタラドウデセウ、ソレガ一番簡便デ宜イト思ヒマス

ドウデセウ、ドツチニシマスカ、或ハ法令ノ規定トシタラドウデスカ、法令ノ規定叉ハ慣習ニ依リト云フ富井君ノ言フヤウニシタラドウデスカ、サウスルト丁度、法令ノ規定ガ法定ト略サレタト云フコトニナル

私ハ只慣習二依リト云フコトガ、ドウデアフウト思ツテ先刻意見ヲ出シタノデス

スルト、慣習アル場合ト云フ、慣習ト云フノガ違フト云フノデスナ

唯文字ノコトデス

小西君ノ通リ、法令ト云フコトニシマスガ、法令ノ規定ト云フコトニシナイデ

委員長ノ先程讀ダ位ガ丁度宜ササウデス

法令叉ハ慣習二依リ、其日二取引ヲナサザル場合二限リ、期限ハ其翌日ヲ以テ滿了ス―　小西君ノ説二賛成ノ方ハ手ヲ挙ゲテ下サイ

私ハソレデ差支ナカラウト思フ、多数ノ諸君ガ原案デ宜カラウト仰ツシヤルニハ理由ガアルト思ヒマスカラ、一寸其事ヲ、アトカラデスガ、皆サンノ御安心ノタメニ申シテ置キマス

一寸御待チナサイ、マダ宣告シナイ―　手ヲ挙ゲテ下サイ、小西君ノ説二賛成ノ方ハ手ヲ挙ゲテ下サイ挙手者　少数

少数デ消滅致シマシタ

少数デ消エマシタケレドモ、諸君ガ大変御心配ナサルヤウナコトハ無ナイト信ジマスカラ、御安心ノタメニ申シテ置キマス、取引時間ノ方ハ、成程法律トカ、命令トカデ以テ今マデ極ッテ居ラヌ、飛突ナ取引時問ヲ極メルコトガアルカモ知レマセヌガ、日ナドハソンナニ飛突ナ日ナドヲ法律デ極メテ出シテ、或突飛ナ取引二就イテ、突飛ナコトヲ極メルト云フコトハ萬無カラウト思ヒマス、私共能ク取調べテ居リマセヌケレドモ、例ヘバ銀行條例ナドニアルト云フコトデ―　ソレハ、ナンダカアッタヤウニ記臆シマスガ、成程維新ノ初メ位二銀行ナド云フモノガ無カッタ、其時ハマタ慣習等ハ無カツタカモ知レマセヌガ、今日ハ銀行トカ、會社トカ云フモノニハ、一般ノ慣習ガアッテ、若シヤ法令ニサウ云フコトガ書イテアレバ、慣習ヲ認メテ書ク位ノコトデアリマスカラ、大抵百四十二條ノ、慣習ノト云フ箇條デ差支ナイト見マシタノデ、今ノ取引時間ト区別ガアツテモ宜イト云フ考ヘデアリマス

一寸政府委員二御尋シマスガ、此百四十二條ハ、自然自分等ノ意見ガ消滅二帰シタノデスガ「當タル」ナド云フ文字ハ他ノ法令デモ斯云フ書キ方デスカ

「タル」ト云フ字デスカ、是ハ取ラレテモ差支アリマセヌ、假名遣ノ方デハ、當ツ、當テ、當タ、ド云フヤウニ皆ナ動キマスカラ、附ケル方ガ正シイト思ヒマシタケレドモ、併シ普通ノ遣ヒ方ト違フカラ削ツタ方ガ宜イト云フコトナレバ、異議ハアリマセヌ

外ノ法律ニモ斯ウ云フ風二書テアレバ、宜イノデスガ、新規二書ク字デゴザリマスナレバ、余リ斯ウ云フ假名ヲ附ケル場合ハナカラウト思フ「ル」カラ先キデ足リル「タ」ノ字ハ余計ナ字デアル、余リ残念ダカラ斯ウ云フ説ヲ出ス

是ハ「アタ」ト云フ字デハ無イ「アタル」ト云フ字ダ

他二御意見ハ無イデスカ

「タ」ノ字ヲ削ッタラドヴデス、私ハ質成シマス

是ハ他ノ何ヲ見ルノデスカラ、外ニナカツタカラ其時ニ削ツテドウデス―　然ラバモウ第五章ハ原案通リニ極マリマシタ、第六章ヲ会議ニ付シマス

此第一節ノ総則トアリマスルノヲ、通則ト直シタイ、是ハ全体此民法ノ編制方ガ、第一編ガ総則トアツテ、ソレカラ第ニ編ガ物権トナツテ、物権ノ中ノ総則トナツテ居リマスガ、従来治罪法デモ、何デモ総体ニ就イテノ総則ハ総則、其他ハ通則ト云フコトニナツテ居ル、此一編二就イテノ総則ハ通則トスルヤウナ慣例デアルノデス、其方ガドウモ体裁ガ大変本員ハ宜カラウト思ヒマス故二、此節目ノ分ハ、是カラ先キ通則ト致シタイ、大体二就イテノ、法案ノ一般ニ通ズルモノヲ総則トシテ、其一章二通ズルモノヲ通則トスルヤウナ体裁ニヤリタイト考ヘマスカラ、之ヲ提出致シマス

文字ノコトデアリマスカラ、深ク議論ハ致シマセヌガ、是ハ通則ニシヤウデハナイカト云フ話ハ、法典調査会二出マシタコトデアリマスガ、ドウシテモソレデハ往カヌカラ、総ノ字ニシタノデアリマス、時効ノ時ノ如キ、成程取得時効、消滅時効ト云フ種類二通ズル意味デ通則ト書ケマセウガ、法律行爲ノ場合ノ如キハドウシテモ書ケマセヌ、何故カト云フト、此九十條カラ九十ニ條マデバカリガ、一切ノ法律行為ニ通ズル規則デナクソレヲ云フト第四章全文ガ法律行爲二通ズル規則デアル、第二節二何ガアル、意思表示、其意思表示ノナイ法律行爲ト云フモノハナイ、其次二代理ト云フコトガアル、代理ト云フコトハ矢張、一切ノ法律行爲ヲナス代理デアル、其次ノ四節ニハ何ガアルカト云フト、無効及取消デアル、是ハモウ法律上一切ノ無効及取消デアル、其次二條件及期限ト云フコトガアル、是モ一切ノ法律行爲二付クモノデアル、ソレデアルカラ通則トハ言ハナイ、故二若シ通則ト云フ字ガ宜イト云フコトナラバ、通則ト云ヘルダケ通則トスルト云フコトニシナイト往ケマセヌ、サウスルト殆ド同ジヤウナ處デ通則ト書イタリ、総則ト書イタリ、大変体裁ガ宜シクナイカラ、ソレデ寧口総則ト皆書イタ方ガ宜ラウ、斯フ云フ譯デ皆総則ト書イタノデアリマス

谷澤君ニ申シマスガ、サウスルト、章ト云フ中ニモ総則ガアリ、節ニモ総則ガアリ、款ノ中ニモ総則ガアルヤウニナツテ居リマス編、章、節、款、斯ウ云フヤウニナツテ居ル、皆之ヲ編ノ外ハ皆通則トスルノデスカ

皆スルノデス

章、節、款ニモアル、売買ノ中ニモアリ、貸借ノ中ニモ総則ガアル、サウスルト、編ノ外ハ皆通則トスルノデスネ

章ニモアリマシテ、不都合ナヤウデアリマスガ、大体総則ハ一般二用ユルカラ総則ト云フ、章ナラ章ト通ジテ用ユルノハ通則ト云フ、叉ソレハ成程節ニモアリマスケレドモ、矢張通則トシタ方ガ宜カラウト思ヒマス

百四十八條ノ承継人ト云フコトニ就イテ一寸伺ッテ置キマシタイコトガアル、是ハ保証人ト云フヤウナモノハ這入ツテ居ラヌト云フ考デゴザリマスガ、果シテ左様デゴザリマスカ

這入ッテ居リマス、保証人モ矢張、特定承継人デアリマス

百五十六條デスガ、是二「事項中断ノ効力ヲ生スヘキ承認ヲ爲スニハ相手方ノ権利二付キ處分ノ能力又ハ権限アルコトヲ要セス」サウスルト、中断ノ効力ヲ生スベキ承認ヲ爲スモノガ、處分ノ能力、叉ハ権能ナイノデモ宜シイ、ナイモノデ宜イ、斯ウ云フコトニナリマスカ、是ハドウ云フノデスカ、試二之ヲ参考書ニ依ッテ見マスト、要ストアツテ、正反対ノ文ニ書イテアリマスガ

是ハ能ク御覽下サリマスト、其方ニハ管理ト書イテアル、處分ノ裏ガ書イテアル、裏ダカラ要スル、普通申ス管理行爲丈ガ出來ルモノナラバ宜イ、處分行爲マデ出來ルモノデナクテモ宜イ、何故カト申シマスト、時致中断ノ効カヲ生ズベキ承認、是ハ本統ノ権利ガナイノナラ、承認シタ處ガ、何力事實ノ錯誤ガアレバ、後カラ取消サルルノデアリマスカラ、何モ権利ヲ處分スル丈ノ能力ヲ持ツテ居ラヌデモ宜イ、権限ヲ持ツテ居ラヌデモ宜イ、斯ウ云フコトデアリマス、初メカラ其通リデアッタノデアリマス

百五十五條ノ意味ガ能ク分リマセヌガ、是ハドウ云フノデスカ「差押假差押及ビ假處分ハ時効ノ利益ヲ受クル者ニ対シテ之ヲ爲サルルトキハ之ヲ其者二通知シタル後二非サレバ時効中断ノ効力ヲ生セス」是ハドウ云フノデスカ

是ハ例ヘバ先刻ノ保証人ノ例デモ宜シウゴザリマス、主タル債務者二就イテ差押ヲ致シマスレバ百四十八條ノ保証人二就イテ此ハ先キニ明文ガアツテ、ソレデ自ラ承継人デアルコトガ分ルノデゴザリマス、ソレハ四百五十六條デゴザリマス、其主タル債務者二対シテ差押ヲシタ、ソレデハ保証人ハ知ラナイデ居ルノデスカラ、サウ云フ場合二於テハ、之ヲ保証人ニ通知シナケレバ、其保証人ニ対シテハ時効中断ノ効ヲ生ジナイ、或ハ叉差押ノ中デ債権ノ差押ナドニナッテ参リマスト、直グニ第三債務者二命令ガ下リマスカラ、本人ハ知ラナイデ居ル、ソレデアルノニ、時効中断ニナッテハ、往ケマセヌカラ、ソレデ斯ウ云フ規定ガアルノデス

時効ノ利益ヲ受ケルノデナク、時効ヲ中断サレタリ何カスルト、期限ガ長クナルカラ、利益ヲ受ケルノガ實際アリマセヌナ

時効ノ利益ヲ受ケル人ガ、時致ガ中断セラルルト、却テ害ヲ受ケル

一寸政府委員ニ御尋シマスガ、此百四十九條ノ裁判上ノ請求ハ却下トアツテ、先ヅ時効ノ効力ヲ生ゼヌト云フコトニナッテ居リマスガ、是ハ如何ナル性質ノ却下デモ廣ク、ドウ云フ風ナ却下ヲシテモ、或ハ管轄違ヒトカ、何トカ云フコトデナクシテ、一般二却下シタモノハ、中断ノ効ヲ生ゼヌト云フコトデアラウト思ヒマスケレドモ、サウスルト、随分時効ノ起ルコトガアラウト思ヒマスカラ、ソレヲ一応御尋ネシテ置キタイ、ソレカラ催告ノ六箇月、是ハドウ云フ處カラ六箇月ニナツテ居リマスガ、此和解ナドノ事柄ノヤウニ、一箇月位デ差支ガアルマイカ、六箇月ト云フコトニナルト、随分長クナルヤウニ思ヒマスカ、是ハドウ云フヤウナ御取調カラ斯ウ云フコトニナッテ居リマスカ、此ニツヲ御尋シマス

第一ノ御問ハ、解釈上ハ勿論、谷澤サンノ御解釈ノ通リデアリマス、サウ致シマシタ理由ハ、法律上デ以テ裁判上ノ請求ト云フナラバ、法律二適ッタ裁判上ノ請求デナクテハナラヌ、却下ヲセラルル場合ハ、則チ法律上何カ不都合ナコトガアッタカラ却下セラレタノデアリマス、ソレデ矢張時効中断ノ効力ヲ生ズルト云フコトニ致シテハ、一方二於テ法律デ効ノナイモノト云ツテ置キナガラ、叉他ノ方デ効ガアルト云フコトヲ極メテハ、一般二甚ダ不都合デアリマス、ソレトモニ、実際サウシテ置カヌト、當事者ガ困ルダラウト云フコトデ、ソレハ或ル外國ノ例ノ如ク、時効中断ト云フモノヲ非常二六ケ敷クシテ居ルナラバ、何カサウ云フ便法ヲ設ケテ置ク必要モ起リマセウケレドモ、本案ニ於テハ、請求ト云フモノハ最モ廣クナツテ居ッテ、手紙一本遣ツテ置イテモ宜シイ、サウ云フ簡便ナ方法ガアルニ、手紙モ遣ラナイデ、催促モシナイデ、イキナリ裁判所二訴ヘヌデモ宜イ話、裁判所ニ訴ヘル前ニ先ヅ請求サヘスレバ、ソレデ以テ時効中断ハ出來ルノデアリマス、法律上効ノ無イニ極ツテ居ル所ノ裁判上ノ請求マデヲ、時効中断ノ効ガアルト云フコトニスル必要ハナカラウト云フ考デ、外國ノ法典二於テモ區々ニナツテ居リマス、其効ノナイト云フ方ヲ採ツタノデアリマス、ソレカラ第ニノ御尋二就イテハ、一応尤モナヤウニ考ヘラレマスガ、御説ノヤウニ此期間ヲ短ク致シマスト、詰リ訴訟ヲ奨励スルト云フコトニナル、催告ヲ致シテ向デ暫ラク何カ談判ヲシテ居ルト云フヤウナ間二、グズグズシテ居ルト云フト時効中断ノ効ガナクナル、一箇月ノ中二裁判所二訴ヘルトカシナケレバナラヌト云フト、其権利ヲ失フテハイカヌカラ仕方ガナイ、實ハ裁判所二出シタクナクテモ、百五十三條ノ規定ニモシ一箇月トアルト、其タメニ裁判所二出ルカ、サナクトモ破産ノ請求ヲスルトカ、叉ハ差押ヲ請求スルトカ、云フコトニナツテ、詰リ此期間ヲ余リ短クシテ置キマスト、健訟ノ風ヲ奨励スルコトニナル、其弊ヲ防グタメニ、少シ緩二致シテ置キマシタ

私ハ百五十五條ノ時効ノ利益ヲ受クル法律上ノ、今梅サンノ仰シヤッタヤウナ意味ノアア云フ交勢ガアルノデスガ、時効ノ利益ヲ受クルモノハ、時効中断ノ結果ヲ受クル人二対シテ、斯ウ云フ意味ニナリマスカ時効ヲ中断セラルルタメニ、例ヘバ今ノ保証人トカ、債務者トカ云フ者ハ、時効ノ中断ヲセラレタ其結果ヲ受クル人ト云フコトニナルノデスカ

左様デゴザイマス、サマデ六カシイコトトハ思ハズ遣ツテ置キマシタガ、成程時効中断二依ツテ影響ヲ受ケル人デアルケレドモ、其元々時効二依テ利益ヲ受ク可キ人間デナケレバ、ソレガ中断セラレタ所ガ、痛痒相關セヌ筈デアル、時効二依ッテ利益ヲ受クベキ人間デアルカラ、若シ中断セラルルト大変迷惑ヲスル、ソレデスカラ、ソレハ時効ノ中断二依ツテ害ヲ受ケルモノト致シマシテモ意味ハ変リマセヌケレドモ、サウ明瞭二掲ゲナイデモ、時効ノ利益ヲ受クルモノト書イテ宜カラウト思フタノデス、併ナガラ守屋サンナドガ分リ悪イヤウナラバ、矢張書キ様ガ悪イカモ知レマセヌ

其儘ニシテ置ケバ時効ノ利益ヲ受クルコトニナルノデスナ

守屋君ノ度々質問ノゴザイマシタ百五十五條ノ規定ト、ソレカラ百四十八條ノ規定ノ關係ニ就イテ御尋ヲシタイ、百四十八條二「前條ノ時効中断ハ当事者及ヒ其承継人ノ間二於テノミ其効力ヲ有ス」トアツテ、尚此四百五十六條ノ規定ヲ見マシテモ、確力二保証人二及ブト云フコトガ明瞭シテ居リマスガ、ソレヲバ百五十五條ニ於テ、特二此手続二属スルコトヲ書ク必要ヲ認メタト云フノハドウ云フ理由ガアルノデゴザイマスカ、其点ヲ承リタイ

其百五十五條ト云フモノハ、差押ト申スモノノ主義ヨリ致シマシテ、極ク嚴密二申シマスルト、其ハ財産二対スル處分ニナルデスカラ、ソレハ人モソレヲ知ルコトノ出來ル場合ガ多イデアリマスガ、併シ知ラナイノモアリ得ル、サウ云フコトガ人二対シテ當然効ヲ持ッモノニシテ置イテハ、知ラナイ間二時効ガ中断スルト云フ恐レガアリマス、是丈ノ規定ヲ設ケテ置ク方ガ親切ナモノデアラウト思ヒマス、尤モ此本案バカリデ用ヒタノデハアリマセヌ、既成法典ニモアリマス

尚伺ヒマスガ、成程差押、假差押、及假處分ノ如キモノハ目立ツテ見エルモノデアル、誰ニモ分リサウナモノデアッテ、ソレサヘモ尚通知スルト云フコトニナツテ居ル、サウ目立ツテ見エマセヌ請求ノ如キモノハドウカト云フト、百五十五條ノ規定二見エテ居ラヌ、是コソ分リ悪イノデアル、手紙ヲヤッテモ請求スルト云フコトニ詰リナルノデアルカラシテ、百四十八條ノ、前條ノ時効中断ハ當事者及ヒ共承継人ノ間二有致デアル、期ウ云フコトニナツテ居ルカラ、差押、假差押、假處分ノ此三ツノモノニ限ツテ通知ヲセヌケレバナラヌト云フコトハ、ドウモ道理ガ一貫シテ居ラヌヤウニ考ヘラレル、目二見工得ベキ事柄ヲ通知スル必要ガアツテ、此通知ヲセヌケレバ中断ノ効ヲ生ズルト云フ位二大事ナコトデアルナラバ、其他ノ承認ニセヨ、請求ニセヨ、矢張規定セネバナラヌヤウニ思ハルルノデゴザイマスガ、若シモ此百四十七條ノ請求ナリ、承認ナリト云フモノガ、保証者ニマデ均シク請求若クハ承認ノアル場合ヲ認メタモノデアル、斯ウ云フコトナラバ格別デアリマスガ、其様ニモ一概二解釈ガ出來マセヌカラ、重ネテ此点二就イテ御尋ヲ致シマス

成程唯今ノ御説ハ御尤ノヤウデゴザイマスガ、先刻申上ゲマシタ通リ、差押、假差押、假處分ト云フモノハ、多クハ財産二対スル處分デアル、人二対シテト云フコトハ、極ク嚴重ニ申スト言ヒ悪イ場合モイクラモアル、之二反シマシテ、此承認ト云フモノ、或ハ其請求ト申スモノハ、一ツノ法律行爲デアツテ、其法律行爲ト云フモノガ、或人二対シテ爲サルル、或ハ保証人ノ如キハ、主タル債務者ノ地位二立ツモノガ自カラ承認ヲ爲ス所ガ、主タル債務者ハ是等ノコトニ於テハ保証人ヲ代表シテ、主タル債務者二向ツテ請求ヲ爲シタルトキハ、同時ニ保証人ニ対シテモ請求ヲ爲シタモノト見ラレル、其譯ハ後ノ保証ノ方ノ規定カラ致シテ、主タル債務者ト保証人トノ關係ガ極メテアリマス、其規定カラサウアツテモ宜カラウト思フノデアリマス、殊二況ヤ承認ノ如キニ至リマシテハ、モトモト主タル債務者ガ義務ヲ負フテ、其義務ヲ保証人ガ保証スルニ至ッタノデアリマスカラ、後日二至ツテ自己ノ資格ト、保証人ノ資格ヲ兼ネテ、サウシテ承認ヲスルト云フコトガ出來テモ宜カラウ、ソレガ出來ヌケレバ、其債権者ハ大イニ迷惑ヲ致スコトガアルデアラウト、斯ウ云フ考ヘデ其方ハ保証人ニモ影響ヲ及ボスコトニナツテ居リマス、少シク其差押、假差押ト云フコトトハ性質ガ違フヤウニ思ヒマスガ、尚此百五十五條ノ規定ハ其場合バカリデナイ、第三債務者ニ対シテ爲ス差押手続ナドモ含ンデ居リマスルカラ、共邊モ合セテ御考ヲ願ヒタウゴザイマス

此百四十八條ノ承継人ト云フコトハ、從來用エ來ッタ承継人ト云フ言葉二當ラヌヤウニ思ヒマスガ、大変言葉ガ新シクナツテ迷ヒヲ生ジヤスイヤウデアリマスガ、是ハ外ノ處ノ關係ハドウナツテ居リマスルカ、凡テ皆此方針二依ツテ出來テ居リマスカ、此法文デハ、承継人ハ保証人ヲ含ンデ居ルト云フ書キ方ニナツテ居ルノデスカ

イツデモ承継人ト云フ中ニハ、保証人ト云フコトハ含ンデ居リマストハ申シマセヌ、原則トシテハ、保証人ハ第三者デアルケレドモ、其保証人二就イテハ承継人デアルト云フコトハ、ドコニ極ッテ居ルカト云フト、先刻一寸申上ゲマシタ後ノ四百五十六條デアツタカト思ヒマス、ソレニ「主タル債務者二対スル履行ノ請求其他時効ノ中断ハ保証人ニ対シテモ其効力ヲ生ス」ト云フコトガアリマスノデ、此規定カラシテ時効中断二付テハ、保証人ハ主タル債務者ノ承継人デアルト云フコトハ分カル、且ツ斯様ナル意味合ヲ以テ此承継人ト云フ言葉ヲ付ケマシタノハ、決シテ本案ニ於テ始マッタノデナクシテ、既成法典二モ皆ナ這入ツテ居リマス、本案ニハ既成法典ニアルヨリ狭イノデアリマス、本案二於テ第三者ト云ッテ居ル場合モ、既成法典ニハ多クハ承継人ト云フ詞ガ遣ツテアリマス、詰リ保証人モ主タル債務者ノ承継人ト見做サルルト云フコトガアルノデゴザイマス

是ハホンノ言葉ノ上ノゴトデアリマスガ、既成法典ト雖モ、未ダ實際二行ハレタモノデハナイ、唯斯ウ云フ文字ノタメニ煩ヲ生ズルト云フコトハ甚ダ面白クナイヤウニ思フ、ソレ故二此承継人ト云フ中ニハ、恐ラクハ相続人ナドモ含ンデ居ルカト思ハレマスガ、相続人抔モ含ンデ居ルト思ヒマスガ、一寸其点ヲ伺ツテ尚…

即チ相続人抔ガ重モニ這入ル、相続人抔ハ、アレハ包括ノ承継人ト云ツテ、一切ノ権利義務二就イテ承継スルノデアリマス、今ノ保証人ノ如キハ、或ル狭ヒ範囲ニ於テ承継スルト云フ積デアリマスガ、其中二保証人ガ這入ラナクトモ宜シイヤウナ規定ガアリマスカラ、鈴木サンガ其間二這入ラヌトシテ、御解釈ニナツテモ宜カラウト思ヒマス

法律ノ解釈二依ツテ此中二這入ラヌト解釈シテモ宣シイ、這入ルト解釈シテモ宜シイト云フコトハ、立法ノ上二於テ甚ダ迷惑ヲ醸ス原トデアリマスカラ…是ハ這入ルト云フコトニ就イテハ論ハナイ、這入ルト云フコトハ特定保証人、ソレカラ一般ノ保証人ト云フ区別ヲ書イテナケレバ、ドコマデヲ含ムト云フコトガ見エヌト云フコトガ、今日ノ立法論トシテハ困難ナルコトデアリマスカラ、之ヲ書キ分ケタイト云フ動議ヲ起シマス、即チ「中断ハ當事者承継入及保証人ノ間二於テノミ」ト云フ字ヲ、書キ入レタラ宜カラウト思フ

鈴木サンニ御問申シマスガ、承継人ト云フ言葉ノ中ニハ、保証人ハ総テ含蓄シナイモノトナリマスカ

特定ト云フ形容詞デモアレバイザ知ラズ、一般二唯承継人ト書キ出ストキハ、這入ラヌモノトナルノガ是ハ從來ノ用井付ケデアリマスカラ、サウナル方ガ能ク明瞭ニナルト思ヒマス

梅サンノ先刻ノ御申ニナツタ、既成法典ニハ承継人ト云フノハ、此法案二使ツタ言葉ヨリハ尚廣イ意味二使ツテアルガ、サウ廣イ意味ニハ使ハヌト云フ、其区別ヲ尚明瞭ニナルヤウニ

既成法典デ特定承継人ト云フ字ハ即チ第三者ニシテ、若シヤ或一ッノ法律行爲ガ第三者ニモ効力ガ及ブトナッタナラバ、則チ其人抔二対シテモ効ガ及ブダラウト云フモノデアル、例ヘテ申シマスルト、甲ト乙卜売買契約ヲ致シマス、所ガ、其甲カラ乙二売ッタト云フ物其物ヲ、甲ガ不居ニモ丙二二度売ヲシタ、斯様ナ場合二於テハ、普通ノ語デ言ヘバ、丙ナル者ハ第三者デアル、然ルニ既成法典ハ之ヲ特定承継人ト言ッテ居ル、何ゼサウ云フカト云フト、初メノ甲ト乙トノ売買契約ハ有効ノモノデアツテ、サウシテソレガ第三者ニモ効ガ及ブト云フコトナラバ、今ノ丙ト云フ第三者ハ、其契約ノ利害ヲ受クベキモノデアルト云フノデ、特定承継人ト名ッケテ居ルノデアル、併ナガラ左様ナ言葉ノ使ヒ方ハ、鈴木サンノ仰ツシヤツタ如ク、既成法典ハサウ極メテアツテモ、一般二廣ガッタ使方デナイカラ、本案ハサウ云フモノハ第三者ト書イテアリマス、無効、及取消ノ百二十二條ノ規定ノ如キ、是ハ大抵ドコノ國ニモアル規定デ、既成法典ニモアル規定デアルガ、此抔デハ「但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス」ト書イテアリマスガ、既成法典ニハ特定承継人ト書イテアルガ、ソンナ廣イ意味ニハ使ハヌト言ッタノデス、併ナガラ、保証人ハ特定承継人ノ中二這入ルト云フコトガアル、ソレハ保証ノ所ノ規定ヲ能ク研究スレバ、疑ノ起ルコトハ萬無イ積リデアリマス

サウスルト、特定承継人ノ中ニハ、保証人ガ這入ルコトガアルト云フ御説ナラバ、承継人ト書イテアルトキハ這入ラヌト云フコトニナルカラ、鈴木サンノ今日使ハレテ居ルト云フ所ト抵触セヌデハアリマセヌカ

単二承継人ト書ケバ、何時デモ包括承継人ト、特定承継人トニッヲ含ミマス、ソレデ包括承継人丈ノトキハ、包括承継人ト書キ、特定承継人丈ノトキハ特定承継人ト書キマス

決ヲ採リマセウ、鈴木君ノ三字ヲ入レルト云フコトニ…

併シ三字デハゴザリマセヌ、當事者承継人、及保証人ヲ入レナケレバ…「及ヒ其」ト云フ字ノ場所ヲ変ヘルノデス

唯今ノ如キ、鈴木君ノ修正二賛成ノ御方ハ手ヲ御挙ゲ下サイ挙手者　少数

少数ト認メマス、依ツテ動議卜成立チマセヌ、後トハドウデス

能ク確メテ置キタイデアリマス、ドナタカ御問ニナリマシタガ、結局「裁判所ノ請求ハ却下」ト云フノハ、訴訟ノ不成立ノ場合ヲ指シタモノト見テ宜カラウト思ヒマス、即チ却下ト申シマスレバ「原告ノ請求ハ之ヲ却下ス」或ハ「原告力何程ノ金ヲ請求セントスル訴ハ之ヲ却下ス」ト云フ所マデ這入ツテ、矢張リ裁判所ノ却下ハ却下デアルガ、此理由書抔ヲ見マスレバ、百四十八條ノ方ハ訴ノ却下ト云フコトニナッテ居リマスガ、左様二見テ宜シイト思ヒマスガ、尚確メテ置キタイ

御見解ノ通リデアリマス

サウ致シマスレバ、請求ト云フコトガ、百四十七條第一項ニゴザイマスカラ、請求ト云フコトヲ削除スル譯ニハ参ラヌデゴザイマセウ何トカ、茲二訴ノ却下ト云フ意味ヲ明カニスルヤウニ致シタイ、即チ「裁判所ノ請求ハ訴ノ却下叉ハ取下ノ場合ニ於テ云々」ト云フコトニ致シタク存ジマス、請求ノ却下ト云フコトハ…

請求モ、却下モ、同ジテアル、裁判所ノ請求ハ即チ訴ナリト書イテアル

ソレハ裁判所デハ違ッタコトニシテアル

サウ讀メルジヤナイカ

却下ト云フコトノ区別ヲ付ケテ置キタイ

裁判所ノ請求ト云フ字ハ、訴ト云フ字ト同ジテハナイカト云フノデス

委員長ハ同ジニ見ルガ…

裁判所ノ請求ト云フ字ハ、訴ト云フ字ト同ジニナルト、ニツノ字ヲ書クノデナイカ

イヤ、違ヒマス、請求ト云フノト、請求ヲ却下スルト云フノトハ違フ…

意見ヲ述べサセヌデ、委員長ガ説ヲ述ベラレテハ困ル

委員長モ説ヲ述ベル権利ガアル、ソレデ注意ヲスルノハ、裁判所ノ請求ト云フ字ト、却下ト云フ字ハ、違フノハ分ツテ居ルケレドモ、同ジコトニナリハセヌカト云フノデス

第百四十七條ノ請求ト云フノハ、原告ノ請求デゴザリマス、サウシテ、百七十九條ノ「裁判所ノ請求ハ」ト云フハ原告ノ請求ト云フ意味二解釈スベキデアル、原告ノ請求ハ、裁判所ノ判決ニ依ッテ却下セラレタルトキト云フコトニナル、然ルニ裁判所ノ判決二依ツテ却下スルニハ、現ニ三ツアル、即チ一ツハ「原告ノ請求ハ之ヲ却下スル」ト云フノデ、一ツハ「原告ノ訴ハ之ヲ却下ス」ト云フデアル「訴ハ之ヲ却下ス」ト云フコトハ、此條項二於テ政府委員ノ説明サルル通リ、重モニ訴訟ノ不成立、例ヘバ無効ノ訴管轄違ノ場合デアル、管轄違ト云フヤウナ場合ノヤウデアリマス、サウシテ請求ノ却下ト云フモノハ、原告人ガ百圓ノ金ヲ請求スルケレドモ、其請求ハ立タヌト云フコトニナル、斯ノ如キ区別合ニナツテ居リマスル以上ハ、文章ヲ明確ニスルタメニ、裁判上ノ請求ハ、訴ヲ却下スト云フコトニ致シマシタナラバ、世間ノ疑ヒモナイ、甚ダ宜シクナイカト思ヒマス、故二斯ノ如キ意見ヲ提出シマス、請求ト訴ト同ジト云フ説ガアリマセウケレドモ…

其次二訴ノ却下、訴ノ取下、トスルノデスカラ、訴ハ要ラヌノデスカ、今度ハ訴ノ却下叉ハ訴ノ取下ト云フコトハ要ラヌノデスカ

訴ハ要リマセヌ

ソレハ要ラヌコトニナル、斯ウ云フコトニナル、排斥シタトキハ時効ノ問題ハ出テ來ナイト思フ、訴ト請求トニ通リニナルト仰ツシヤルガ、學理上請求ヲ排斥スルト云フコト、訴ノ却下トニッニナル、今日ノ日本ノ法例ハ不完備ダカラ、裁判所ハごっちゃニヤッテ―　日本ノ法例ニ於テハ訴ノ却下ハ、請求ノ却下トごちやごちゃニシテ居ルガ、學理上デハ訴ノ却下ト請求ノ却下トハ、二通リニ書イタモノヲ本員ハ曾テ見タコトガアル、ソコデ草刈君ノ今言ハレタコトハ、請求即チ本案ヲ却下シタトキニハ、何ニ出テ来ナイ、時効を中断スルト云フ問題ハ出テ来ナイ、ドウシテモ訴ノ却下ノ時ニ其問題ガ出テ来ル

一寸ナンデス私ハ先刻草刈サンノ御問ヲ少々誤解シテ居ツテヤウデアリマス、私ガ御見解ノ通リト申シマシタノハ、此中ニニタ色ノモノヲ含ムカト云フ含ムカト云フ御問ト思ツテ、御見解ノ通リト申シマシタ、則チニ通リノモノヲ含ムノデアル、ナゼ含ムカト申セバ、訴ノ却下ト今草刈サンノ仰ツシヤルモノハ、其場合ハ最モ此規定ノ主眼デアリマスルケレドモ、モウ一ツ其請求ソレ自身ガ却下セラレタ場合モ、、矢張時効中断ノ効ハナイノデス、ソレデスカラ、態々茲二訴ト書クト、却ツテ裏ガ出テ、ソレデ請求ヲ却下シタ時ハ、時効中断ノ効ガアルト云フ風二見エテイカヌト思ヒマスリ

ソレナラ私ノ意見ハ立派ナ意見デ、サウシテもう申ス必要ガナイ、必要ガゴザリマセヌコトナラ直チニサウスレバ宜シイ、ソレデ委員長ノ御意見ハさつぱり立タナイコトニナル

私ハ草刈君ノ動議ニ賛成シマスガ、今ノ御説明ノヤウニ、裁判所ニこつちカラ請求シタ本案ヲ却下セラレタ場合ニハ、同ジク時効ヲ中断セラレルト云フコトニナツテ…其時効ノ中断ノ効力ヲ失ハナイ、消滅シテハ大変ナコトガ起ル、若シ原告ガ敗ケタ時分ニハ、皆効力ヲ生ゼヌト云フコトニナル、ソレハ大変ナコトデ、本案ノ精神カラ改メナケレバナラヌト思ヒマシテ、ソレデ此点ハ草刈君ノ意見ニ賛成シマス、即チ本案ノ精神二就イテ反対ニナツテ來ル、原案トハ…

ドウナルデス

今ノ御趣意二依ルト…

サウスルト、ドウ書ケバ宜イノデス

訴ノ却下ト叉取下ノ場合二於テハ、裁判上ト云フ字ガアツテモ、裁判上訴ノ却下…（此時鈴木充美君二向ツテ私語スルモノアリ）…ソレハソレデ宜シウゴザリマス、即チ修正案ノ通リ…

ドウデセウ、却下ト云フ字ヲ、特別ナル今ノ解釈ノ如キモノニ使ツタト云フコトガどこ力二解釈ガナクテモ宜イデスカ、今裁判所ガヤツテ居ル如ク、却下ト云フ字ハ、當り前デハどつちニシテモ却下スルト云フコトニナルノデス

是ハ確定スレバ言フマデモナイガ、確定シテ仕舞ツタ後ナレバ、ソンナコトヲ言フニ及バヌ、時効ノ中断モ何モアリヤシナイ、原告ノ請求ガ立タナクナッテ仕舞フカラ時効ノ中断ハ起ラナイ、確定セヌ場合ニハ―　固ヨリ確定セネバ問題ニナラヌカラ、丸ツ切リ精紳ガ違ツテ居ル

サウスルト根本カラ違ヘルト云フト、唯訴ノ却下丈デ分リマスカ

意味ハ「裁判上ノ請求ハ訴ノ却下叉ハ取下ノ場合二於テハ」ト云フ今修正説ガ出シマシタガ、ソレデ分カル積リデス

分リマスカ、趣意ハ是トハ丸デ違ツタコトヲ書クノデスカ

違ツテ居ルノデス、違ツテ居ル筈ナノガ、此原案ノ趣旨二依レバ、裁判所ニ於テ原告ガ敗ケタトキハ時効ノ問題ハ起ラナイ、サウ云フコトハ必要ガナイ、唯訴ヲ裁判所へ持ツテ往ッタケレドモ却下セラレタト云フ時ニコソ、時効ノ問題ガ起ル

サウスルト此賛否二就イテ、尚政府委員二聴イテ置カナケレバ分ラヌ、此裁判上ノ請求却下ト云フコトハ、ソレハ如何ナル理由デモ、如何ナル場合デモ却下シタモノヲ指シタモノデアルカト云フコトト、叉若シ却下シタモノガ第二審へ往ッテ、叉其却下ガ間違ツテ居ルト云フ裁判ニナツタ時ニハ、元へ立戻ルコトガ出來ルカ、利益ヲ中断スルコトガ出来ルカト云フコトヲ伺ヒタイ

御見解ノ通リ、即チ此却下ノ中ニハ、如何ナル理由デ却下シタモノモ這入ツテ居ル積リデアリマス、而シテ其却下ト云フモノハ、如何ナル場合ニ於テモ確定致シマセヌケレバ、此第百四十九條ノ適用ハナイ積リデアリマス

決ヲ採リマス、草刈君ノ修正ハ訴ト云フ字ヲ入レルダサウデゴザイマス、是二賛成ガゴザリマスカラシテ決ヲ採リマス、草刈君ノ説二賛成ノ御方ハ手ヲ御挙ゲ下サイ挙手者　少数

少數ト認メマス、因ッテ草刈君ノ説ハ成立チマセヌ、モウ御異論ガナケレバ…

私ハ時効中断ノ効力ヲ生ズベキ承認ヲ爲スコトハ、相手方ノ権利二就イテ十分ノ能力ヲ有シナイト、サウスルト是ハ、無能力者デモ承認ヲスルコトガ出來ルト云フコトハ如何ナル理由デアルカト云フコトト、モウ一ツハ、権限ノナイモノデモ此承認ヲスルコトガ出來ルト云フコトハドウ云フ理由デアルカ、ドウモシツカリ分リマセヌカラ…

此百五十六條ノ意味ハ、無能力者デモ承認ガ出來ルト云フ積リデハナイノデス、明カニ承認ヲ致ス能力アルモノ、叉其権限ノアルモノニ就イテハ、此規定ハ要ラナイノデス、外ノ規定叉ハ契約等ニ依ッテ、出テ來ル積リデゴザイマス、茲デ申シマスル所ハ、詰リ或人ガ能カニ就イテ言ヘバ其管理丈ノ能力ヲ持ッテ居ルトカ、處分ノ能力マデモ持ツテ居ルトカ云フコトガ極ツテ居ツテ、承認ノコトニ就イテハ何トモ極ツテ居ラヌトキハドウナルカト云フコトニ就イテ此規定ヲ置キマシタ、然ルニ無能力者ハ大概管理ノ能力モ持タナイ、處分ノ能力ハ勿論ナイ…唯管理ノ能力ヲ持ッテ居ルノハ妻子、或ハ准禁治産者ト云フモノガ持ツテ居ル、サウ云フモノハ矢張承認致スコトガ出来ルノデス、ソレカラ又此権限デス、丸デ無権限ナモノハ、何事モ為スコトハ出来マセヌケレドモ、先刻モ御質問ガ出マシタヨウニ、総理代理トカ申ス譯デ、権限ガはっきり極メテナイトキハ、其者ガ廣ク管理丈ノ権限ヲ持ツテ居ルト云ヘバ、共管理丈ノ権限ヲ持ッテ居ルモノハ、百五十六條二依ツテ承認ガ出來ルルデ、處分ノ権限マデモ與ヘテナイ人デ宜シイト、斯ウ云フコトヲ意味スル積リデアリマス

サウスルト、詰リ能力権限ノ不完全デモ宜イト、斯ウ云フコトデスカ

サウデス

私ハ余程前出タ説デアリマスガ、賛成スルコトガアル、百五十五條ヲ削除スルト云フ説ガ、余程前二出タヤウデアリマスガ、之ヲ賛成スルト云フモノハ

マダ、高橋君ハ出サヌヤウデス

ソレデハ私カラ出シマス、其譯合ハ政府委員ノ御説ニモ、百四十七條ノ請求ト力、承認ト力云フコトハ、ソレハ其人ガスルノデアツテ、主タル義務者ガシタトキニ、從タル義務者ノ保証人ニハ通知シナクテモ、こつそり出來ルモノデモ効力ガアルト思フ、私ハソレデ宜シイト思フ、然ル所ガ其中デ差押、假差押、假處分ト云フコト丈ノトキニハ、例ヘバ主タル義務者ニ於テヤツタトキニハ、從タル義務者ノ保証人二通知シナケレバ、時効中断ト云フコトハ、保証人ニ対シテハナイ、或ハ叉総テサウ云フ場合ニナルノデス、一々例ハ挙ゲマセヌデモ宜イ、ソコノ所ガ余程可笑シイ、裁判上デ公ノ手続ヲスルコトハ、其當時一々通知シテ置カナカッタト云フモ、不正ノ仕事ガ出来ルト云フ譯デハサラサラナイ、是ヲ詰リ一々其差押ヲ受ケザルモノニ向ツテ通知スル必要ハ見ヌト思ヒマス、ソレ故ニ、此百五十五條ハ無用ノ條文デアル、是ヲヤルガ相當デアルト云フナラバ、承認ト云フ場合モ、請求ト云フ場合モ、請求承認、ソレヲシナイ人ノトキニハ、皆権利關係ノ―　義務者ニ關係ガアツタ人二、一々通知セート云フコトニセヌト、不権衡デアラウト、思ヒマス、ソレ故ニ此百五十五條ヲ削ルト云フコトハ、頗ル宜イト思ヒマス

賛成

決ヲ採リマス、百五十五條ヲ削ルト云フ説ガ出テ居リマス、是二賛成ノ方ハ手ヲ挙ゲテ下サイ挙手者　少数

少数ト認メマス、依ツテ削ル説ハ成立チマセヌ

他ハ異議ナシ

ドウデス、モウ後トハ原案二可決シマスガ

然ラバ原案二可決致シマシタ、ソレカラ第二節ヲ會議二掛ケマス

此百六十二條二就イテ御尋シマスガ「二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然二他人ノ物ヲ占有シタル者ハ」云々、ソレカラ「十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然二他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ」云々ト斯ウゴザイマスルガ、是ハ本案ノ第三章ノ、物ト云フ處ニハ「本法二於テ物トハ有体物ヲ謂フ」八十六條二於テハ「土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動産トス此他ノ物ハ総テ之ヲ動産トス」ト云フコトガアルニモ拘ラズ、前ニハニ十年間ハ物ト云フ、此物ト云フモノハ、動産モ不動産モ含蓄シテ居ルモノト考ヘル、然ルニ六十二條ノ一項二於テハ物ト云フ、二項ニ於テハ不動産ト云ツテ、一項ニハ動産ト不動産トヲ分ケズニアルハ、ドウ云フ譯デアル

一項ノ中ニハ両方這入ツテ居リマス、一項トニ項トハ、御覽ノ通リ條件ガ少シ違ツテ居ル、ソレデ不動産ニ就イテ、占有者ガ所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ占有シテ居ツテ、其上二占有ノ初メニ、占有者ガ善意デアツテ、且過失ガナケレバ十年デ宜シイ、若シ不動産デモ、所有ノ意思ヲ以テ平穏且ツ公然ノミデ、善意且ツ過失ガナイト云フ條件ガ充タサレナカツタナラバ、則チ悪意デアルカ、悪意デナクトモ、善意デモ、過失ガアレバ、其トキニハ矢張二十年デアリマス

此動産ノ如キハ、二十年ト云フヤウナ取得時効ガ大変長イ、悪意ニシテモ、此コトニ就イテ少シク考ヘテ居リマスガ、叉或ハ買戻一般ニ關係ガアリマスカラ、全体本日ハ是ニ賛成シテ置キマシテモ、次ノ會ニハ少シ之ヲ考ヘタイト思ヒマス、故二政府委員二望ミマス、此質物、或ハ買戻、永小作、取得時効ナドノ期限ヲ定メテ、各國ノ比例、或ハ日本二於テ取調べラレマシタ慣例、其コトハ一応詳細ニ述ベラレマスカ、叉ハ其コトニ就イテノ書面ガアリマシタナラバ、参考トシテ御廻シヲ願ヒタイ、本日ハ迚モ時間カアリマセヌシ、此會デハ賛成シテ置キマスガ、動産物ヲニ十年トスルトカ、何トカ云フコトニシタナラバ、非常二厄介ナコトガ出來テ來ルト思ヒマス、叉サウシナクテモ、時効ノ處ニ於テ買戻、質物、永小作ト云フ編ニハ、将來ノコトヲ定メルモノデアリマスカラ、既往ノコトニハ關係致シマセヌケレドモ、大変経濟上ニ關係ヲ來スコトデアラウト思フ、故二詳細ナ墾考書力、或ハ説明ヲ請ヒタイト思ヒマス、本日ハ今此處デ述ベタ所ガ一向盡キマセヌカラ、次ノ会二考ヘタイト思ヒマス

唯今谷澤サンノ御希望デゴザイマスガ、御尤ナ御希望デアリマスケレドモ、此期間ハ場合々々二依ッテ各理由ガ違ヒマス、ソレヲ一纒二致シテ参考書ヲ差上ルト力、説明書ヲ差上ルコトハ到底出來マセヌカラ、場合々々二就イテ必要ガアリマスレバ、説明致シマス、時効ニ付キマシテハ、外國ノ例モ余程精シク取調べマシタ積リデアリマスカラ、一々例ヲ申上テモ宜シイ、唯今デモ申シマスガ、書面ニ致スコトハ時モ迫ツテ、吾吾モ忙敷イノデゴザイマスカラ、若シ茲デ申上テ宜シイナラバ、申上タイト思ヒマス

ソンナラ願ヒマス

非常二区々ニナツテ居リマスノデ、甚ダ御聴ニナリマシテモ御分リ悪イカモ知レマセヌガ、先ヅ外國ノ最モ多イ例ハ皆三十年ニナツテ、動産デモ、不動産デモ、大抵同ジコトデアリマス、ソレデスカラ動産ノ三十年ト云フハ長イヤウニ見ヘマスケレドモ、此個條二動産ノ適用アル場合ハ極メテ稀レナ場合デアル、多クノ場合ハ悪意デ占有ヲ始メテモ、善意ノ人二売ツテ仕舞ヘバ、モウ取還スコトガ出來ナイ、悪意ノモノガニ十年トシテアルガ、外國ノ多數ノ例ハ三十年トナツテ居リマス、其三十年間黙ツテ持ツテ居レバ、其持ツテ居ルト云フコトガ後日分レバ、、ソレヲ取還スコトガ出來ヌトイケマイカラ、斯ウ云フコトデ三十年叉ハニ十年ト云フコトニナツテ居ル、三十年ト云フノハ佛蘭西、填太利、和蘭、伊太利、瑞西聯邦ノ内デうをー、ぐらうぶゆんでん、つゆーりひ、もんてねぐろ、西班牙、獨逸民法草案、索遜民法、是ハ皆三十年、ソレデ稍々異リマシタ例ハ、或ハ突飛二四十年トナツテ居ルモノモアリマス、是ハ或場合二限ツテデス、ソレカラニ十年ト申スノガ白耳義民法草案ノ例、ソレカラ悪意ノ場合ダト大抵皆其ンナコトノヤウデゴザリマス、善意ノ場合二就イテハ色々アリマスケレドモ、悪意ノ場合ハ唯今申上ゲタヤウニナツテ居ルヤウデアリマス

能ク見マシタラ分ルカモ知レヌデスガ、マダ見ナイカラシテ分リマセヌガ、昨日八十五條及八十六條等ヲ辯明サレマシタ場合二、記名債権ハ物デナイ、斯ウ御答ニナツテ居リマシタ、サウスレバ、無記名財産ト云フモノハ、百六十二條等ニナイモノデアルト斯ウ見ナケレバナラヌト思ヒマスガ、サウシマスレバ例ヘバ記名公債証書ノ如キモノハ、何十年ノ間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然二所有シテ居ッタ所ノ事實、及確証ガゴザリマシテモ、如何トモ致スコトガ出來ナイヤウニナルト思ヒマスガ、斯ウ云フ時ハドウナルノデゴザイマスカ、無記名ハ即チ動産トナッテ居リマスケレドモ、記名ハ権利デアルト云フコトニ御説明デゴザリマシタカラ、之ヲ一応伺ヒマス

ソレハ次ノ百六十三條二「所有権以外ノ財産権ヲ自己ノ爲メニスル意思ヲ以テ平穏且公然二行使スル者ハ前條ノ区別二從ヒ」―　善意ニシテ過失ナキモノハ十年、ソレカラサウデナイ外ノ場合ハ、二十年デアリマス

一寸今一度百六十二條デ伺ヒマスガ、此百六十二條ノニ項ト、一項ノ区別ハ能ク先刻ノ御答デ分リマシタガ、此二項ニハ不動産バカリデアツテ、動産ハニ項ト同一ノ事實デモ、十年二於テハ取得スルコトハ出來ナイノデスカ

サウデハナイノデス、其方ハ叉別二規定ガアリマリス、ソレハ第百九十二條デ、第百九十二條二「平穏且ツ公然二動産ノ占有ヲ始メタル者力善意ニシテ且過失ナキトキハ即時二其動産ノ上二行使スル権利ヲ取得ス」トアリマス

ソレカラ一寸、百六十四條ト、百六十五條ト、私ハ一緒二約メテ仕舞フコトガ出來ルト思ヒマスガ、是ハ深キ理由ガアツテ御分ケニナツタ訳デハナイノデゴザリマセウ

ソレハ誠二御察シノ通リデアリマシテ、一緒ニナツテモ差支ハアリマセヌガ、唯書方二就イテ別ニシタ方ガ、書キ宜カツタモノデアリマスカラ

ソレヂヤア、斯ウシタラドウデスカ、御相談デアリマスガ前二條ノ百六十四條ノ下ノ第百六十二條ト云フ、是丈ノ字ヲ削ッテ「前二條ノ」四字ヲ削ル「第百六十」ト云フ四字削ッテ「前」ト云フ一字デ「第二條ノ事項ハ」斯ウ書イタノハ宜カラウ

ソレハ少々困リマス、権利ノ純然タル占有者ト云フモノハ認メマセヌ、占有権ハ物権トシテ居リマスカラ、ソレデスカラ、前二條ト云フコトハ出來マセヌ、若シ合セルロ云フコトニナレバ、矢張前項ノ規定ハ前條ノ場合二之ヲ準用スルト書カナケレバナラヌデ、甚ダ文章ガ面白クナイカラ、斯ウ致シタノデス

宜ウゴザリマスカ

然ラバ原案通リニ極マリマシタ、第三節

一寸百七十條ノ一項二就イテ、解シ方二就イテ一ツ確メテ置キタイト思ヒマス、斯ウ云フ文例ハ多クアルコトデアリマスガ、本項ニハ醫師、産婆、及藥剤師ノ治術、勤労、及調剤二關スル債権トアリマス、則チ斯ウ讃ンデ見マスト云フト、治術ト云フモノハ医師二対セシメタコトデ、勤労ハ産婆、調剤ハ藥剤師之二対セラレタコトデアル、サリナガラ、若シ例ベバ医師ニシテ、治術以外二於テ或勤労ヲ取ッタ時分二於テハ、此勤労ト云フモノハ、独リ産婆等二対スルノミナラバ、叉医師ニモ対スルモノトナルト心得テ宜シイカ、或ハ叉調剤ノ如キ、独リ薬剤師ノタメニ書イタモノデナクテ、醤師ガ調剤スル場合二於テ、固ヨリ此調剤ト云フモノハ、医師ニモ掛ケタモノデアルガ、斯様ナコトニ解シマスルノガ宜シイモノト心得テ居リマスガ、ドンナモノデゴザリマスルカ、是レ抔ノ文例ハ多クアルコトデゴザリマスカラ、甚ダ立入ッタコトデゴザイマスガ一寸…

御尤ノ御尋デゴザリマス、成程主トシテ治術ハ医師二關シ、勤労ハ産婆二關シ、調剤ハ藥剤師二關シマスケレドモ、後ノ御解釈ノ如クデアッテ、矢張医師ト錐モ、日本デハ調剤シマスル医師ガ澤山アリマスル、ソレハ矢張此中ニ這入ル積リデ、即チ三ッノモノト三ッノモノトガ皆關聯シテ居ルノデ、別々二見テハ往カヌト云フ積リデアリマス

百六十七條ノ中ニハ無論貸金モ這入テ居ルノデアリマスカ

左様デゴザリマス

一年以上ノ債権ハ―　一年以上ノ期限ノ債権ハ、二十年ト云フ期限ヲ定メテ、一年以下ノハ百六十九條ノ通リ、五箇年トシタノハ非常二差ガアリマスガ、是ハドウ云フ理由二依ツタノデアリマスカ

是ハ外國デモ多ク斯ウ云フコトニナッテ居リマス、此百六十九條ノ場合ハ、重二利息、家賃ノヤウナモノデ、斯ウ云フモノハ長クうつちやつて置ク性質ノモノデナイ、利息ヲ何十年ト溜メテ置クノハ、債権者ノ不注意デアルカラ、サウ云フモノハ五年モうつちやつて置イタラ取レヌモノデアル、之ニ反シテ其元金ノ方ガ、五年デハドウモ短カカラウト思フ、先刻申シタ通リ、此点二就イテモ最モ多クノ例ハ、外國ジヤア三十年トナツテ居リマスガ、ソレハ少シ今日ノ時勢デ長過ギルデアラウト思ツテ、二十年ト致シマシタ位デアリマス、是ヨリ短クテハ、元金二付テハ困ルデアラウカト思ヒマス

サウスルト、此百六十九條ノ中ニ八年叉ハ是ヨリ短ク時期ヲ定メタル、金銭其他ノモノノ給付ヲ目的トスル中ニハ、元資ハ這入ツテ居ルノデスカ

元資デモ若シヤ年賦金トカ月賦金トカデアレバ這入ル積リデス、サウ云フモノハ年賦、月賦トナツテ居ルモノハ、其都度々々二拂ハナケレバナラヌ、從ッテ拂ハナケレバ、其都度々々二請求スベキモノデアルカラ、ソレヲ五年モ六年うつちやつて置クノハ不注意ノモノト見テ宜カラウ、サウ云フ場合ハ縦令元金デモ、利息ト同ジヤウニ見テ宜カラウト思ヒマス

サウスルト、一定ノ期限ヲ定メタ貸金ハ這入リマセヌカ

ソレハ前ノ百六十七條ノ方へ這入リマス

日本ノハ是マデ五箇年デ濟ムガ、一足飛二飛ンデ往クノデスカ

左様、アア云フ例ハ殆ドゴザイマセヌ

此貸金ノ利子ハ、百六十九條二依ツテ、元金ハ百六十七條二依ルト云フノデスカ

先ヅ多クノ場合ガサウナリマス

サウスルト、貸金ノ利子ヲ五箇年間過ギタラ、既二其債権ガナクナルト云フコトニナルノデスカ

サウデハアリマセヌ、過去ツタ利息ダケガ取レナクナリマス、將來ノ利息所デハナイ、四年ノ利息モ元金モ取レル、唯五年過ギタ利息丈ガ取レヌ○（守屋此助君〉百六十八條ノ定メ方デスガ、此但書以上ノコトニ就イテ一寸伺ヒマス、例ヘバニ十年ノ年賦金ノヤウナモノガ定メテアルガ、第一回ノ辨濟期ヨリ起算スルト云フコトニナルト、是ハドウ云フコトニナリマスカ、第一回ノ辨濟ノトキカラ、其辨濟ス可キ分ダケガ消滅シマスカ

是ハ斯ウ云フコトニナリマス、百六十八條ノハ則チ其債権ト云フモノガ消滅スルヤ否ヤト云フ問題デス、ソレデ此定期金ノ債権ト申スノハ、多クハ年賦金ノヤウナモノデアリマス、サウスルト假リニ倒ヲ取ツテ申シマスルト、百圓ヅツノ年賦金ガ十箇年デ濟ムト云フ約束ノモノガアル、サウスルト、ソレハ契約ガ出來マシテカラ一年ノ後二第一回ノ拂込期間ガアルト致シマスト、其一年後カラ起算シテニ十年経チマセヌト云フト、一体其年賦金ヲ請求スル権利其モノハ消滅シマセヌケレドモ、次ノ第百六十九條ノ適用二依リマシテ、此一年ノ終リニ拂込ムベキ百圓丈ノモノハ、五年間請求シナイデ置クト取レナクナリマス

ドウモ大変錯雑致シマスガ、此「前條ノ期間力定期金ノ債権二就イテハ第一回ノ辨濟期ヨリ之ヲ起算ス」ト云フ、此定期金ノ債権二就イテハ、第一回ノ辨濟期カラ百圓ヅツ掛ツテ往クト云フコトニナリマスカ、辨濟期ヨリ起算スルト云フコトニナルト、第一回ノ辨濟期後二残ッテ居ル債権ガ消滅スルヤウニ、友字バカリデハ見エルガ、サウ云フ意味デハナイデセウ、第一回ノ辨濟期丈ヅツズンズン消滅シテ往クト云フノデスカ

サウデハアリマセヌ、第一回ト云フコトニ能ク御注意ヲ願ヒタイ、是ハ債権其モノガ消滅スル場合ヲ言フノデアリマス、債権其モノガ、第一回ノ辨濟期カラ起算シテ、二十年間債権者ガうつちやつて置ケバ一文モ取レナクナルケレドモ、若シ五年間請求シナイデ置クト、第一回ノ辨濟期カラ五年間請求シナイデ置クト、其一年分ハ百六十九條二依ツテ取レナクナル、サウ云フ風二、此條二依ツテ五年カラ後ハ一年一年取レナクナツテ往クガ、ソレデニ十年往クト一文モ取レナクナル

二十箇年ノ年賦金ガアルト云フコトニナルト、ソレデ契約ガ成立シテ、其年ノ暮カラ拂フト云フコトガづっとアツテ來テ、是ガ契約成立シタ日カラニ十一年振ニナルト云フト、丸デ百六十八條デ消滅シテ仕舞ヒマスナ―

サウナリマス

第一期ノ百圓ト云フ金ハ初メカラ五年目ニハ取レナイ、第ニハ十年目ニハ取レナイト云フコトニナル

今茲二十箇年ノ年賦ガアツタトキニ、一箇年ノ―　是マデノ例二依ルト、五箇年カラ起算シテ居ツタモノヲ、本條二依レバ、第一回カラニ十箇年ヲ起算スルト云フコトニナルノデスカ

左様デゴザイマス

私ハ此第百六十九條ノ五箇年間トアルノヲ、十年間ト修正ヲ致シタイ、則チ此第百六十七條ノニ十箇年ト云フノト、ソレカラ釣合ヲ取ツテ見ルト、百六十九條ノ五箇年間ヲ十年間トスル方ガ極ク適當デアラウト思ヒマス、斯ウ云フコトハ成ルベク寛ニシテ請求ノ期限ヲ切ラナイ方ガ實地二却テ宜カラウト思ヒマスカラ、五年ヲ十年ト修正致シマス○（谷澤龍藏君）本員ハ百六十七條ノ「所有権以外ノ財産権ハニ十年間」ト云フ、之ヲ十年間ト云フコトニ修正ヲ致シタイト思ヒマス、ナゼト言フニ、是ハ貸金ノ如キモ既二十年間ト云フコトデアリマスカラ、全体此証拠ト云フモノガニ十年間保持スルコトガ中々六ツカシイ、日本ノ如キ此土地デ、或ハ失火ナドガ多イ土地デアル、ソレニ持ツテ來テ、二十年間証拠ヲ保持シテ往クト云フコトハ頗ル難イ、前ノ占有ノ方ハ既二占有シテ居ルカラニ十年ト見テモ、此債権ノ如キハニ十年ノ期限ヲ以テマダ消滅シナイト云フコトハ、實ニ安心スルコトガ出來ナイ、証拠ヲ保持スルコトガ出來ナイト思フ、或ハ五年ト云フヤウナモノモアリマスルシ、又外二種々アリマスルシ、叉立法者ノ意思ヲ幾分カ考ヘマシテ、之ヲ十年トシヤウト云フノデ、二十年ト云フコトハ証拠ヲ保持スルト云フコトニ困ルダラウト思ヒマス、ドウモ日本ノ如キ失火ノ多イ處デハ困ルダラウト思ヒマスカラ、十年ト云フコトニ修正ノ動議ヲ出シマス

實ハ斯ウ云フコトハ委員曾ノ特色トシテモ、斯ウ云フ期限ノコトナドニ就イテハ、特二委員會ノ長所引デアラウト思ヒマス、サウデアリマスカラ法理ナドハ學者二任シテ置イテモ宜シウゴザイマスガ、斯ウ云フ期限ナドノコトハ特二私等ノ長所デアラウト思ヒマスカラ、篤ト是等ハ能ク調べテヤリタイト思イマス今日ハモウ時間ガモウ五時半デアリマスカラ、ドウデセウ今日ハモウ散会シテ

守屋君ハ大事大事ト言ハレルガ、タッタ一ッノ説ガ出テ居ル丈デ、五年ヲ十年ニスルトカ、二十年ヲ五年ニスルトカ云フ丈デハアリマセヌ

マダ外二本員等モ澤山アルノデス、ココラハ余程旨クヤラヌト、余所ノ國トノ権衡ハドウカ知ラヌケレドモ、日本デハ五年デアッタノガ、急二二十年二延ビルト云フダカラ、大変革ノコトニナルノデス

私ハ遣ツテ仕舞ヒタイト思フノデス、期限ノコトデアリマスガ、五年ヲ十年トスルトカ、二十年ヲ五年トスルトカ云フ位ノコトハ、今日極メテ仕舞ヒタイト思フ

一寸、百六十八條ノコトニ就イテ政府委員二聞キマスガ、一体本案ニ就イテハ、手続上ノコトハ省クト云フ方針ヲ採ラレタト云フコトデゴザイマスガ、此百六十八條ノ但書二至ッテハ「債権者ハ時効中断ノ証ヲ得ル爲メ何時ニテモ債務者ノ承認書ヲ求ムルコトヲ得」ト云フ、手続上ノコトヲ規定セラレテ居ルノハ如何ナル理由デアルカ、全ク是等ハ當然ノコトデアルカラ、殊更二之ヲ規定スルニ及バヌヤウニ考ヘマスガ、ドウデスカ

是ハ成程此二書イテアルノハ手続ノヤウデアリマスガ、詰リ権利上大関係ノアルコトト思ヒマシテ書イタノデアリマス、此定期金ノコトニ就イテハ、債権者ガ権利ヲ行ヒマシテモ、其証拠ガ後トニ残ラヌノガ多イノデ、側ヘバ年賦金ノ如キモノヲ債務者ガ年々債権者ノ方二持ツテ参リマスト、普通ノ慣例デ、何處デモ請取ヲヤリマス、其請取ト云フモノハ、債務者ノ手二残ツテ居ッテ、債権者ノ方ニハ残ラナイ、然ルニ随分此年賦金ナドニハニ十年間モ毎年拂ッテ來テ居ルニ拘ラズ、二十年ノ後ニナツテ、俄二定期金ヲ拂フコトヲ罷メル、何故拂ハヌカト云フト、事項二罹ツテ居ルト云フ、スルト去年ノ暮ニモ持ツテ來テ居ルト云フ、ソレデハ証拠ガアルナラ出セト斯ウ云ハレタ時ニ甚ダ困ル、故二是ハ百六十八條ノ本文ト離ルベカラサル規定デアルト思ヒマスカラ、成程手続二渉ル嫌ヒハアリマスガ、是ハ定メテナイト、斯ウ云フ請求ガ出來ルヤ否ヤト云フコトニ就イテ、疑ヒガ起ラウト思フ

政府委員二聞キマスガ、英吉利アタリデハ、時効ヲ段々短クシテ來テ居ルノデアリマスガ、ソレデ矢張短クスル方ノ方針ヲ今外國デハ採ツテ居ル、例ヘバ英吉利デハニ十年ヲ十年ニスルトカ、十年ト云フノヲ七年ニスルトカ、其外デハドコモサウ云フコトハナイノデスカ、趨勢ハドウナツテ居ルノデス、羅馬法アタリカラヤツテ居ルノデセウ

英國ハ大陸トハ異ナッタ点ガアリマスガ、大陸デハ矢張今日トテモ三十年ニナッテ居ル、成程長過ギルト云フ説ガ無イデハアリマセヌガ、白耳義民法草案ニハニ十年トシテアリマスガ、白耳義ト云フ國ハ小サナ國デ、日本ノヤウナ大キナ國デハアリマセヌガ、段々短クシテ往クコトハ認メマスガ、本案デハ大概ノ外國ノヨリハ大抵短クナッテ居ル、其趨勢ニハ從ツテ居ル積リデアリマス

是ハ大事ナコトデアツテ、私ハ之ヲ罷メテ明日ニシタイト云フノデ、是ニハ賛成ガアルノデ、委員長ニハ氣二入ラヌカ、知レヌガ、決ヲ採ッテ下サイ

氣二入ラヌト云フコトハナイガ…

之ヲ遣ツテ仕舞フトシテモ、余程何デスヨ、脱漏シタリ、疑ヒガアツタリ、質問ヲシヤウト思ッテモ、條文ハ少シデモ、ナカナカ時間ガ掛リマスヨ

谷澤君ノ十年ト云フ説ニ賛成シマス

十年トシテハドウデセウ、政府委員ノ御考ハ―　御差支ハ起リマセヌカ

ドウモ十年デハ、如何ニモ短カカラウト思ヒマス

ソレデハ、ドウデセウ、今日ハ余程遅クモナツタシ、色色考ヘルコトモアルシ、是丈ハ総テ遣ラナケレバナラヌト云フコトモナイカラ、今日ハ是デ閉會ヲ致シマス、明日カラ遣リマスガ、明日ハ能ク十分ニ御考下サルヤウ願ヒマス